JP2011184732A - 溶接隙間酸化皮膜の耐食性に優れる高強度フェライト系ステンレス鋼製温水器缶体 - Google Patents

溶接隙間酸化皮膜の耐食性に優れる高強度フェライト系ステンレス鋼製温水器缶体 Download PDF

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Abstract

【課題】隙間構造であっても溶接ままの状態で上水を使用した温水環境において優れた耐食性を呈し、かつ高強度を有するフェライト系ステンレス鋼を提供する。
【解決手段】TIG突合せ溶接部の引張強さが550N/mm2以上を特徴とし、また、冷延焼鈍酸洗鋼板とした後、その鋼板を7mmの隙間深さと最大隙間間隔20μm以下でアルゴンバックガスシールなしでTIG溶接隙間構造を形成した試験片に対し、ボンド部から1mm以内の溶接隙間部の酸化スケールの平均Cr比率が全金属元素の割合で20質量%以上とする。
【選択図】なし

Description

本発明は、TIG溶接により施工され溶接隙間構造を有する溶接部耐食性に優れる高強度フェライト系ステンレス鋼製の温水器缶体に関する。
電気温水器や貯湯槽などの温水容器の材料としてフェライト系ステンレス鋼のSUS444(低C、低N、18〜19Cr−2Mo−Nb、Ti系鋼)が広く用いられている。SUS444は温水環境での耐食性向上を主目的に開発された鋼種である。
温水容器は、構成部材(例えば鏡と胴)をTIG溶接により接合した「溶接隙間構造」を有するものが主流である。溶接隙間構造の温水容器を上水の温水環境で使用すると、溶接隙間部で腐食が生じやすい。SUS444の場合、腐食形態が孔食であるときには再不動態化しやすく、孔食が成長するケースは稀である。しかし、隙間腐食であるときには再不動態化しにくいので腐食が成長し、板厚を貫通して漏水に至ることもある。このため、温水容器では腐食しやすい隙間構造の形成をできるだけ避ける構造とすることが望ましい。しかし、鏡と胴の溶接接合部など、施工上、隙間の形成を回避することが難しい部位もある。
温水容器をTIG溶接により製造する際には、溶接部の耐食性低下を小さくするため、一般にArバックガスシールを行って裏ビード側の酸化を抑制する対策が採られている。ところが、電気温水器では追い焚き機能のニーズが高まり、蛇管を内部に装入した構造の缶体が増えてきた。この場合、溶接時にArバックガスシールを行うためのノズルを缶体内部に挿入することが難しくなり、バックガスシールなしのTIG溶接を採用せざるを得ないケースが増え、耐食性低下に対する不安要因となっている。
また、地球環境問題から、電気温水器に比べ消費電力の少ないCO冷媒ヒートポンプ給湯器(エコキュート(登録商標))の需要が高まってきた。この方式ではヒーター加熱を行わないので、ヒーター挿入のためのフランジは本来不要であるが、TIG溶接時のバックガスシール用ノズルを挿入するためにはフランジが省略できないなど、コストアップに繋がる問題が生じる。
特許文献1には鏡への胴の挿入深さを20mmまでとし、隙間腐食の発生を避けた構造の温水器用ステンレス鋼製缶体が記載されている。鋼種としてはSUS444相当鋼が採用されている。しかし、発明者らの調査によれば溶接で耐食性が低下する熱影響部は溶接ビードから概ね10mm程度の範囲であり、上記構造では安定した耐食性向上効果が十分に得られない場合がある。また、このSUS444相当鋼をArバックガスシールを行わないTIG溶接に供すると、裏ビード部での酸化スケールの生成部分では著しい耐食性低下が生じることが予想される。
特許文献2にはTiとAlを複合添加することにより溶接時のCr酸化ロスを抑制し、溶接部での耐食性低下を改善したフェライト系ステンレス鋼が記載されている。この鋼を使用することにより温水容器の耐食性レベルを大きく向上させることが可能になった。しかし、この鋼の場合も、Arバックガスシールを行わないTIG溶接ではCrの酸化ロスを十分に抑制することはできず、溶接隙間部の耐食性の大幅な低下は避けられない。
特開昭54−72711号公報 特開平5−70899号公報
本発明鋼の用途のひとつにエコキュート、電気温水器ならびに燃料電池の温水器缶体容器があり、配水水圧上昇や設置場所によっては缶体に大きな内圧をかける必要がある、このためには缶体材料母材の高強度化が重要である。これまで述べてきた 溶接部隙間構造での耐食性に加え、母材ならびに溶接部の高強度化が要求される。この高強度化により、缶体自体を薄肉化できる缶体軽量化につながるメリットもある。
上述のように、昨今の温水容器においては、TIG溶接で製造する際にArバックガスシールを実施しにくい構造のものが増えている。一方で、製造コスト低減等の要請から溶接部に隙間を形成しないような構造の温水容器を設計することも難しい状況にある。本発明は、このような現状に鑑み、Arバックガスシールを行わないTIG溶接により隙間構造をもった温水容器を構築したときに、どのような隙間構造であっても溶接ままの状態で上水を使用した温水環境において優れた耐食性を呈し、かつ高強度を有するフェライト系ステンレス鋼を開発し提供することを目的とする。
発明者らは上記目的を達成すべく詳細な研究を行った結果、以下のようなことを見出した。
(i)溶接隙間部の耐食性は、溶接スケールのほか、隙間のクリアランスと隙間深さなどの隙間構造に依存する。とくに隙間開口部から溶着部(溶接ボンド)までの隙間深さは重要である。隙間腐食は一定の範囲の隙間深さの構造で成長する。すなわち、隙間深さが浅いと腐食は成長せず、隙間深さが深すぎても同様である。
(ii)22質量%を超えるCr含有量を確保して基本的耐食性レベルを向上させることが、バックガスシールを行わないTIG溶接により形成された裏ビード側溶接隙間部の耐食性向上に極めて有効である。
(iii)溶接部の耐食性向上に有効であるとされてきたSiは、一定量以上添加するとバックガスシールを行わないTIG溶接においては耐食性を低下させる。
(iv)Siは溶接部の高強度化には必須の元素であるが、(iii)で述べたように溶接部耐食性には悪影響を及ぼす。これを回避する手段として、一定以上のNi量を添加して、溶接スケール中のCr濃度を向上させることを見出した。
本発明は、これら知見の中で特に(iv)に基づいて成分設計された新たな高強度フェライト系ステンレス鋼を提供するものである。
本発明においては、以下の構成よりなるステンレス鋼製高強度温水器缶体を提供するものである。
請求項1に記載の構成は、
質量%で、
C:0.02%以下、
Si:1〜3%、
Mn:1%以下、
P:0.04%以下、
S:0.03%以下、
Ni:1〜3%、
Cr:22〜26%、
Mo:1.0%以下、
Nb:0.05〜0.6%、
Ti:0.05〜0.4%、
N:0.025%以下、
Al:0.02〜0.3%であり、
残部Feおよび他の不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼を用い、溶接隙間部の耐食性に優れかつTIG突合せ溶接部の引張強さが550N/mm2以上であることを特徴とする、高強度フェライト系ステンレス鋼製温水器缶体である。
請求項2に記載の構成は、
質量%においてCu:2.0%以下、B:100ppm以下の1種以上を含有し、溶接隙間部の耐食性に優れかつTIG突合せ溶接部の引張強さが550N/mm2以上であることを特徴とする、請求項1記載の高強度フェライト系ステンレス鋼製温水器缶体である。
請求項3に記載の構成は、
さらに、Co、VおよびWの1種以上を合計4質量%以下の範囲で含有し、TIG突合せ溶接部の引張強さが550N/mm2以上を特徴とする、請求項1または2に記載の高強度フェライト系ステンレス鋼製温水器缶体である。
請求項4に記載の構成は、
請求項1乃至3に記載のステンレス鋼を冷延焼鈍酸洗鋼板とした後、その鋼板を7mmの隙間深さと最大隙間間隔20μm以下でアルゴンバックガスシールなしでTIG溶接隙間構造を形成した試験片に対し、ボンド端部から1mm以内の溶接隙間部の酸化スケールの平均Cr比率が全金属元素の割合で20質量%以上を有し、TIG突合せ溶接部の引張強さが550N/mm2以上となることを特徴とする、高強度フェライト系ステンレス鋼である。
上記の温水器缶体はTIG突合せ溶接部の引張強さが550N/mm2以上を特徴とし、また、冷延焼鈍酸洗鋼板とした後、その鋼板を7mmの隙間深さと最大隙間間隔20μm以下でアルゴンバックガスシールなしでTIG溶接隙間構造を形成した試験片に対し、ボンド部から1mm以内の溶接隙間部の酸化スケールの平均Cr比率が全金属元素の割合で20質量%以上を有することを特徴とする。
ここで、「無手入れのまま」とは、溶接部に生じた酸化スケールを除去する手段(研磨等の機械的除去手段および酸洗等の化学的除去手段)が施されておらず、溶接されたままの状態であることを意味する。「溶接部」は溶接ビード部と熱影響部からなる領域である。
上記浸漬試験に供するための溶接隙間を形成するには、2枚の鋼板を重ね、一方の鋼鈑を水平から10°開き、TIG溶接のアークを一定速度で移動させながら裏ビード(アークを当てる面の裏面に現れる溶接金属部)が形成される条件で溶接ビードを形成していく手法が採用される。その際、溶接隙間となる部位と裏ビード側には一切バックガスシールを行わない。また、溶加材も使用しない。試験片には溶接隙間部とその両側の母材部が含まれるようにする。
ステンレス鋼にとって隙間構造と溶接熱影響部の酸化皮膜の存在が耐食性の劣化をもたらす主要因であるが、鋭意予備検討した結果、本組成の範囲で酸化スケール中のCr比率が全金属元素の割合で20質量%以上を有することで、溶接隙間構造部の耐食性を向上させるのに有効であることを見出した。
本発明の高強度フェライト系ステンレス鋼を使用すると、温水環境における溶接部の耐食性が顕著に改善される。特に、バックガスシールなしのTIG溶接によって形成された溶接隙間部を無手入れのまま高温の上水に曝して使用した場合でも、長期間優れた耐食性が維持される。すなわち温水容器をTIG溶接により製造する際に、Arバックガスシールを省略しても高い信頼性が得られる。したがって本発明によれば、高耐食性が要求される上水環境での温水容器において設計自由度の拡大が可能になる。また、今後需要増が見込まれるCO2冷媒ヒートポンプ給湯器、燃料電池の温水缶体ではバックガスシールのためのフランジが不要になり、コスト低減が可能になる。さらに、高強度化により缶体の軽量化にもつながる。
また、同様に接隙間構造を有する給油管や燃料タンクの給油系部材や燃料噴射レールならびに熱交換機部材にも適用できる。
試験片を側面から観察した模式図である。 試験片の外観と寸法を示した図である。 試験片の浸漬試験の模式図である。
本発明のフェライト系ステンレス鋼を構成する成分元素について説明する。
C:0.02質量%以下、N:0.025質量%以下
C、Nは、鋼中に不可避的に含まれる元素である。C、Nの含有量を低減すると鋼は軟質になり加工性が向上するとともに炭化物、窒化物の生成が少なくなり、溶接性および溶接部の耐食性が向上する。このため本発明ではC、Nとも含有量は少ない方が良く、Cは0.02質量%まで、Nは0.025質量%まで含有が許容される。
Si:1質量%以上3質量%以下
Siは、Arガスシールを行ってTIG溶接する場合、溶接部の耐食性改善に有効に作用する。しかしながら発明者らの詳細な検討によれば、ガスシールなしでTIG溶接する場合、Siは逆に溶接部の耐食性を阻害する要因になることがわかった。また、Siは母材および溶接部の靭性を損なう要因となる。このため、耐食性および靭性の点ではSi含有量は低い方が好ましいが、本発明の特徴である高強度化のためには必須である。Si添加による溶接部耐食性と母材および溶接部の靭性低下は、Niの添加で補うことができる。Si範囲の規制はNiと並び、本発明で特に大事な元素であり、Si含有量を1以上3質量%以下の範囲にコントロールする。
Mn:1質量%以下
Mnは、ステンレス鋼の脱酸剤として使用される。しかしMnは不動態皮膜中のCr濃度を低下させ、耐食性低下を招く要因となるので、本発明ではMn含有量は低い方が好ましく、1質量%以下の含有量に規定される。スクラップを原料とするステンレス鋼ではある程度のMn混入は避けられないので、過剰に含有されないよう管理が必要である。
P:0.04質量%以下
Pは、鋼中に不可避的に混入するが、母材および溶接部の靭性を損なうので低い方が望ましい。ただし、含Cr鋼の溶製において精錬による脱りんは困難であることから、P含有量を極低化するには原料の厳選などに過剰なコスト増を伴う。したがって本発明では一般的なフェライト系ステンレス鋼と同様に、0.04質量%までのP含有を許容する。
S:0.03質量%以下
Sは、孔食の起点となりやすいMnSを形成して耐食性を阻害することが知られているが、本発明では適量のTiを必須添加するので、Sを特に厳しく規制する必要はない。すなわち、TiはSとの親和力が強く、化学的に安定な硫化物を形成するので、耐食性低下の原因になるMnSの生成が十分に抑止される。一方、あまり多量にSが含まれると溶接部の高温割れが生じやすくなるので、S含有量は0.03質量%以下に規定される。
Cr:22〜26質量%
Crは、不動態皮膜の主要構成元素であり、耐孔食性や耐隙間腐食性などの局部腐食性の向上をもたらす。バックガスシールなしでTIG溶接した溶接部の耐食性はCr含有量に大きく依存することから、Crは本発明において特に重要な元素である。発明者らの検討の結果、バックガスシールなしで溶接した溶接部に温水環境で要求される耐食性を付与するには21質量%を超えるCr含有量を確保すべきであることがわかった。耐食性向上効果はCr含有量が多くなるに伴って向上する。しかし、Cr含有量が多くなるとC、Nの低減が難しくなり、機械的性質や靭性を損ねかつコストを増大させる要因となる。
本発明では、Cr含有量が22質量%以上の鋼ではNiの溶接隙間部の耐食性改善効果が大きくなること、Cuは不純物レベルの混入であっても板厚方向に腐食が進行するため、Cuの上限を規制することで、厳しい環境への適用においてもCr含有量のさらなる増加に頼ることなく、上述の問題を最小限に抑え、十分な耐食性を得ることができる。したがって本発明ではCr含有量を22〜26質量%とする。
Mo:0.2〜1.0質量%
Moは、Crとともに耐食性レベルを向上させるための有効な元素であり、その耐食性向上作用は高Crになるほど大きくなることが知られている。ところが、発明者らの詳細な検討によれば、バックガスシールなしでTIG溶接した溶接隙間部や裏ビード側の溶接部については、Moによってもたらされる耐食性向上作用はあまり大きくないことがわかった。本発明の主な用途である上水の温水環境に対しては0.2質量%以上のMoを含有させることが効果的であるが、1.0質量%を超えて増量しても耐隙間腐食性の改善効果は小さく、徒にコスト上昇を招くのみで得策ではない。したがってMo含有量は1.0質量%以下とする。
Nb:0.05〜0.6質量%
Nbは、Tiと同様にC、Nとの親和力が強く、フェライト系ステンレス鋼で問題となる粒界腐食を防止するのに有効な元素である。その効果を十分発揮させるには0.05質量%以上のNb含有量を確保することが望ましい。しかし、過剰に添加すると溶接高温割れが生じるようになり、溶接部靭性も低下するので、Nb含有量の上限は0.6質量%とする。
Ti:0.05〜0.4質量%
Tiは、Arバックガスシールを行う従来のTIG溶接において溶接部の耐食性向上に寄与する元素であるが、バックガスシールなしのTIG溶接においても隙間部やその裏ビード側溶接部の耐食性を顕著に改善する作用を有することがわかった。そのメカニズムについては必ずしも明確ではないが、Arバックガスシールを行うTIG溶接の場合は、Alとの複合添加により溶接時に鋼表面にAl主体の酸化皮膜が優先的に形成され、結果的にCrの酸化ロスが抑制されるものと考えられる。他方、バックガスシールなしのTIG溶接の場合は、その溶接部においてTiは腐食発生後の再不動態化を促進する作用を発揮し、それによって耐食性が向上するものと推察される。このようなTiの作用を十分に享受するには0.05質量%以上のTi含有量を確保することが望ましい。しかし、Ti含有量が多くなると素材の表面品質が低下したり、溶接ビードに酸化物が生成して溶接性が低下したりしやすいので、Ti含有量の上限は0.4質量%とする。
Al:0.02〜0.3質量%
Alは、Tiとの複合添加によって溶接による耐食性低下を抑制する。その作用を十分に得るためには0.02質量%以上のAl含有量を確保することが望ましい。一方、過剰のAl含有は素材の表面品質の低下や、溶接性の低下を招くので、Al含有量は0.3質量%以下とする。
Ni:1〜3質量%
Niは、Siと並び本発明を構成する重要な元素である。ArバックガスシールなしのTIG溶接において溶接スケール中のCr濃度を高め、化学的に安定なCrの生成量を増加しスケールの耐食性を向上させる。さらに、溶接金属部(ビード部)および熱影響部ともに腐食の進行を抑えることでバックガスシールなしのTIG溶接部の耐食性を向上させる。この作用はSi添加により溶接部酸化皮膜中のCr濃度が低くなるところを、抑えてくれる。また酸化皮膜中の金属元素比率でCr比率を向上させる手段としてはFe系の酸化物を出させないようにすることが有効であり、母相中のFeの酸化反応を抑制し結果的に酸化皮膜中のCr比率を上昇させるのにNiは有効である。一方で、Niは靭性を改善する効果がある。特にフェライト系ステンレス鋼で問題となる溶接部の人生には有効である。Si添加鋼の中でその効果を出すためには予備検討の結果、Niが1.0質量%以上必要であることがわかった。ただし多量のNi含有は素材費を向上させ、さらには加工性を阻害するので、上限を3質量%とした。
Cu:2質量%以下
Cuは、ArバックガスシールなしのTIG突合せ溶接部の耐食性において、溶接裏面熱影響部での孔食発生を抑制し、TIG溶接隙間では隙間腐食面積を小さくするため、選択的に添加する。製造性の面から上限を2質量%とする。
B:100ppm以下
Bはフェライト系ステンレス鋼の加工部分の低温靭性を改善する効果があるため、選択的に添加する。しかし過度の添加は熱間加工性を低下させるため、上限を100ppmとした。
Co,V,W:1種以上を合計で4質量%以下
Coはフェライト系ステンレス鋼の靭性改善、VおよびWはフェライト系ステンレス鋼の高強度化に寄与するため、選択的に添加する。しかし、過剰に添加した場合には靭性や製造性の問題が発生するため、合計を4質量%以下に規制する。
ステンレス鋼に不可避的に混入しやすい不純物としては、酸素、Ca、Co、REM、V等が挙げられる。これらは、副原料、電気炉を構成する耐火煉瓦や炉壁の付着物、スラグ等からの混入が考えられる。Ca、B及びREMは耐食性を阻害したり、表面性状を悪化したりすることのない許容量である、0.010質量%を上限とする。
溶接部高強度化の指標としてTIG突合せ溶接部の引張強さを用い、高強度化による缶体軽量化には、TIG突合せ溶接部の引張強さが550N/mm2以上必要である。
耐食性および靭性を犠牲にせずに高強度化するためには、上述の通りSi,Niのいずれも1質量%以上を添加することが必要である。すなわち、Siの添加により強度を確保するとともに、それに伴って低下する耐食性および靭性をNiにより補うものであり、添加のバランスも重要となる。
また、鋼板を7mmの隙間深さと最大隙間間隔20μm以下でアルゴンバックガスシールなしでTIG溶接隙間構造を形成した試験片に対し、ボンド端部から1mm以内の溶接隙間部の酸化スケールの平均Cr比率が全金属元素の割合で20質量%以上となるのは、鋼中のCrが優先酸化されるためであり、それには鋼中に22質量%以上のCrを含有させることが必要である。
表1の化学組成をもつフェライト系ステンレス鋼を30kg真空溶解炉で溶製した後、熱間圧延にて板厚4mmの熱延板を得た。その後、冷間圧延、仕上げ焼鈍、酸洗を施し、板厚0.9mmの冷延焼鈍板を製造した。
Figure 2011184732
製造された冷延焼鈍板について、図1に示す方法でTIG溶接隙間を形成した。溶接はArバックガスシールを施さずに行った。すなわち、2枚の鋼板を重ねてTIG溶接する際、隙間開口部を作るため、一方の鋼板に10°の角度で曲げ加工を施した後、隙間となる面を大気に曝した状態で溶接を行った。溶接条件は、溶け込み(溶接金属部)が裏面まで到達し、裏面に約3mm幅の「裏ビード」が形成される条件とした。この条件の場合、溶接熱影響部(HAZ)は板厚中央部でビード中心からの距離が約10mmの範囲となる。
このTIG突合せ溶接材を用い、溶接部の引張試験を行い、溶接部の引張強さを調査した。なお、引張試験片には、JIS Z 2201に規定される5号試験片を用いた。
また、溶接隙間部の耐食性も調査した。図2に溶接隙間試験片の外観を示す。溶接で生じた酸化スケールを除去せず、溶接ビードが試験片長手方向中央位置を横切るように試験片を採取した。この試験片には溶接ビード部、熱影響部および母材部が含まれる。母材部の端にリード線をスポット溶接にて接続し、リード線およびその接続部分のみを樹脂被覆した。
浸漬試験は80℃の2,000ppmCl水溶液で30日間行った。図3に浸漬試験方法を模擬的に示す。「浸漬試験片2」には「Pt補助カソード1」を接続した。「Pt補助カソード1」は40×60mmのTi板の表面にPtめっきを施したものである。この補助カソードは、ここでの試験片に対し容量300Lの温水器缶体に相当するカソード能力を有している。「浸漬試験片2」と「Pt補助カソード1」を「試験液3」に浸漬し、試験中、「エアレーションノズル4」からエアーを「試験液3」中に送り込んだ。試験はn=3で行った。
浸漬試験後の溶接隙間試験片の溶接ビードを切断して隙間面を開き、隙間面表面を顕微鏡で観察し、最大侵食深さを測定した。なお、いずれの試験片においても隙間腐食による最大侵食深さは、図1に示す溶接隙間の酸化スケールが生じている箇所で溶接ボンド端部から1mm以内で観測された。
さらに、溶接隙間部の酸化スケールの平均Cr比率についても調査した。分析はPt補助カソード試験で最大侵食位置であったボンド端部から1mm位置を微小部X線発光電子分析法(μ−XPS)で行った。ビーム径は50μmで酸化スケールの深さ方向5nmおきに各金属元素量を求め、Cr比率をCr量/Σ(全金属元素量)で評価した。そのときの各深さでのCr比率の平均を平均Cr比率とした。
これらの調査結果を表2に示す。SUS444は溶接部引張強さが約470N/mm2、最大侵食深さが約0.4mmであることから、その値をベースとして評価した。
Figure 2011184732
No.1〜7では、溶接部引張強さが550N/mm以上、最大侵食深さが0.4mm以下と良好な溶接部の引張特性と耐食性を示した。また、平均Cr比率は20質量%以上であった。
これに対し、No.8〜11では、溶接部引張強さが550N/mm以下と強度不足であった。一方、No.10と12では最大侵食深さが0.4mm以上と良好な耐食性が得られなかった。これらの平均Cr比率はいずれも20質量%以下であった。このことから、平均Cr比率が20質量%以上でないと良好な耐食性は得られないことになる。
本発明は、温水器缶体のみでなく、溶接隙間構造を有する給油管や燃料タンクの給油系部材や燃料噴射レールならびに熱交換機部材にも適用できる。
1 Pt補助カソード
2 試験片
3 試験液
4 エアレーションノズル
5 参照電極

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C:0.02%以下、
    Si:1〜3%、
    Mn:1%以下、
    P:0.04%以下、
    S:0.03%以下、
    Ni:1〜3%、
    Cr:22〜26%、
    Mo:1.0%以下、
    Nb:0.05〜0.6%、
    Ti:0.05〜0.4%、
    N:0.025%以下、
    Al:0.02〜0.3%であり、
    残部Feおよび他の不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼を用い、溶接隙間部の耐食性に優れかつTIG突合せ溶接部の引張強さが550N/mm2以上であることを特徴とする、高強度フェライト系ステンレス鋼製温水器缶体。
  2. 質量%においてCu:2.0%以下、B:100ppm以下の1種以上を含有し、溶接隙間部の耐食性に優れかつTIG突合せ溶接部の引張強さが550N/mm2以上であることを特徴とする、請求項1記載の高強度フェライト系ステンレス鋼製温水器缶体。
  3. さらに、Co、VおよびWの1種以上を合計4質量%以下の範囲で含有し、TIG突合せ溶接部の引張強さが550N/mm2以上を特徴とする、請求項1または2に記載の高強度フェライト系ステンレス鋼製温水器缶体。
  4. 請求項1乃至3に記載のステンレス鋼を冷延焼鈍酸洗鋼板とした後、その鋼板を7mmの隙間深さと最大隙間間隔20μm以下でアルゴンバックガスシールなしでTIG溶接隙間構造を形成した試験片に対し、ボンド端部から1mm以内の溶接隙間部の酸化スケールの平均Cr比率が全金属元素の割合で20質量%以上を有し、TIG突合せ溶接部の引張強さが550N/mm2以上となることを特徴とする、高強度フェライト系ステンレス鋼。
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WO2021193479A1 (ja) 2020-03-25 2021-09-30 日鉄ステンレス株式会社 溶接構造、ステンレス鋼製溶接構造物、ステンレス鋼製溶接容器ならびにステンレス鋼

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