JP2011182574A - 電力回生機能付き渦電流式減速装置 - Google Patents

電力回生機能付き渦電流式減速装置 Download PDF

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Abstract

【課題】制動切替え時の衝撃を防止し、小型化を実現でき、しかも、制動時に電力を回生して不用意な放熱を抑制する電力回生機能付き渦電流式減速装置を提供する。
【解決手段】減速装置は、車両の回転軸11に固定される制動ディスク1と、制動ディスク1の主面に対向して円周方向にわたり磁極が交互に異なって配置される永久磁石5と、永久磁石5を保持する磁石保持ディスク4およびスイッチブレーキディスク6を有し、回転軸11に回転可能に支持される回転部材3と、ブレーキディスク6を間に挟むブレーキパッド8a、8bを有し、車両の非回転部に固定されるスイッチブレーキキャリパ7と、パッド8a、8bを直線駆動させるアクチュエータ9と、を備え、制動ディスク1の主面に円周方向にわたり複数の巻線コイル21を埋設し、巻線コイル21の電導線22を引き出し、露出させた電導線22に摺動可能に接触する固定の電気接点25を設ける。
【選択図】図1

Description

本発明は、永久磁石を用いる渦電流式減速装置に関し、特に、車両の回転軸の運動エネルギーを制動力により熱エネルギーに変換するのに加え、電力として回収することを図った電力回生機能付き渦電流式減速装置に関する。
トラックやバスなどの大型車両においては、主ブレーキであるフットブレーキ(摩擦ブレーキ)の他に、補助ブレーキとしてエンジンブレーキや排気ブレーキが用いられる。近年では、車両エンジンの小排気量化が進展し、これに伴いエンジンブレーキや排気ブレーキの能力が低下することから、渦電流式減速装置(以下、単に「減速装置」ともいう)を導入して補助ブレーキを強化する場合が多い。
減速装置は、制動力をもたらす磁界を発生させるために、電磁石を用いる方式と、永久磁石を用いる方式に大別されるが、昨今、制動時に通電を必要としない永久磁石方式のものが主流となっている。また、永久磁石方式の減速装置は、制動力がもたらされる制動部材の形状に応じ、ドラム型とディスク型の二種類に区分される。
例えば、特許文献1、2には、大型車両に導入される永久磁石方式の減速装置の一般的な構成が開示されている。特許文献1に開示される減速装置はドラム型であり、プロペラシャフトなどの回転軸に制動部材として円筒状の制動ドラムを固定し、この制動ドラムの内側に、複数の永久磁石を周設したリング状の磁石保持部材を配置し、その磁石保持部材を所定の位置に移動させることにより、制動と非制動の切替えを行うものである。特許文献2に開示される減速装置はディスク型であり、制動部材として円板状の制動ディスクを回転軸に固定し、この制動ディスクの主面に対向して複数の永久磁石を周方向にわたり設けた環状の磁石保持部材を配置し、その磁石保持部材を制動ディスクに対して接近した位置と離間した位置に移動させることにより、制動と非制動の切替えを行うものである。
制動時には、ドラム型およびディスク型のいずれの減速装置でも、永久磁石からの磁界の作用で、永久磁石と対向する制動部材の表面(ドラム型の場合は制動ドラムの内周面、ディスク型の場合は制動ディスクの主面)に渦電流が発生し、これにより、回転軸とともに回転する制動部材に回転方向と逆向きの制動力が生じ、回転軸を減速する。
しかし、前記特許文献1、2に開示される従来の減速装置では、次の問題がある。制動に切替えた瞬間に、永久磁石の強大な磁力による磁気吸引力が作用することに伴って、著しい衝撃が発生する。この衝撃は、大型車両に乗車する者に不快感を与えるだけでなく、減速装置の耐久性を悪化させる要因となる。
非制動への切替え時に、磁石保持部材を磁気吸引力に抗しつつ広範囲に移動させるため、磁石保持部材を移動させるアクチュエータのストロークが大きく、強大な力を要する。このため、アクチュエータのサイズおよび能力が大きくならざるを得ず、減速装置が大型化する。
制動に際し、制動部材を流れる渦電流により、回転軸の運動エネルギーは熱エネルギーに変換され、この熱エネルギーにより制動部材が発熱し、その熱は大気に放出される。近年、地球温暖化が問題視されており、減速装置には、大気への不用意な放熱を抑制することが強く要求される。
この要求に対しては、熱エネルギーに変換されていた回転軸の運動エネルギーを熱エネルギーとは異なる他のエネルギーに変換するのが有効であると考えられるが、その技術は現在のところ確立されていない。例えば、減速装置に電力回生機能を付加し、回転軸の運動エネルギーを電気エネルギーに変換して回収することが考えられる。これは、制動部材に発生する熱を低減できることに伴って、不用意な放熱の抑制を期待できるのみならず、通常、減速装置を搭載する大型車両には、電力を必要とする数々の電装機器が装備され、電力を回生した場合の用途が多いからである。
さらに、近年では、地球温暖化の防止とともに、生活環境の改善や石油依存度の低減を図るため、トラックやバスなどの大型車両に、推進用の動力の一部や全部を電動モータで賄うハイブリッド電気車両(Hybrid electric vehicle:HEV)や電気車両(Electric vehicle:EV)が採用される傾向にある。このようなHEVやEVの大型車両では、電力を一層消費することから、減速装置に電力回生機能を付加する有用性が極めて高い。
特開平4−12659号公報 特開2007−14067号公報
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、制動切替え時の衝撃の発生を防止するとともに、小型化を実現することができ、しかも、地球環境問題に対応して、制動時に、熱エネルギーに変換されていた回転軸の運動エネルギーを電力として回収し、大気への不用意な放熱を抑制することが可能な電力回生機能付き渦電流式減速装置を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、下記の知見を得た。制動切替え時の衝撃の発生を防止することと、小型化を実現することの両立を図るには、制動力を発生させるために互いに連関する制動部材と磁石保持部材について、その一方を回転軸に固定し、他方を回転軸に回転可能に支持し、さらに、回転可能に支持した制動部材または磁石保持部材にスイッチブレーキディスクを取り付けた構成とし、磁石保持部材を移動させることなく、ディスクブレーキを用いて制動と非制動の切替えを行うのが有効である。制動時に、回転軸の運動エネルギーを電力として回収し、不用意な放熱を抑制するには、永久磁石と対向する制動部材の表面に巻線コイルを埋設した構成とし、永久磁石からの磁界に基づく電磁誘導により、巻線コイルに誘導起電力を発生させ、その電力を回収するのが有効である。
本発明は、上記の知見に基づいて完成させたものであり、その要旨は、下記の(1)〜(4)に示す電力回生機能付き渦電流式減速装置にある。
(1)車両の回転軸に固定される制動ディスクと、
前記制動ディスクの主面に対向して円周方向にわたり磁極が交互に異なって配置される永久磁石と、
前記永久磁石を保持するととともにスイッチブレーキディスクを有し、前記回転軸に回転可能に支持される磁石保持部材と、
前記スイッチブレーキディスクを間に挟むブレーキパッドを有し、車両の非回転部に固定されるスイッチブレーキキャリパと、
前記ブレーキパッドを直線駆動させるアクチュエータと、を備え、
前記制動ディスクの主面に円周方向にわたり複数の巻線コイルを埋設したことを特徴とする電力回生機能付き渦電流式減速装置である。
(2)制動ディスクおよびスイッチブレーキディスクを有し、車両の回転軸に回転可能に支持される制動部材と、
前記制動ディスクの主面に対向して円周方向にわたり磁極が交互に異なって配置される永久磁石と、
前記永久磁石を保持し、前記回転軸に固定される磁石保持部材と、
前記スイッチブレーキディスクを間に挟むブレーキパッドを有し、車両の非回転部に固定されるスイッチブレーキキャリパと、
前記ブレーキパッドを直線駆動させるアクチュエータと、を備え、
前記制動ディスクの主面に円周方向にわたり複数の巻線コイルを埋設したことを特徴とする電力回生機能付き渦電流式減速装置である。
(3)車両の回転軸に固定される制動ドラムと、
前記制動ドラムの内周面に対向して円周方向にわたり磁極が交互に異なって配置される永久磁石と、
前記永久磁石を保持するととともにスイッチブレーキディスクを有し、前記回転軸に回転可能に支持される磁石保持部材と、
前記スイッチブレーキディスクを間に挟むブレーキパッドを有し、車両の非回転部に固定されるスイッチブレーキキャリパと、
前記ブレーキパッドを直線駆動させるアクチュエータと、を備え、
前記制動ドラムの内周面に円周方向にわたり複数の巻線コイルを埋設したことを特徴とする電力回生機能付き渦電流式減速装置である。
(4)制動ドラムおよびスイッチブレーキディスクを有し、車両の回転軸に回転可能に支持される制動部材と、
前記制動ドラムの外周面に対向して円周方向にわたり磁極が交互に異なって配置される永久磁石と、
前記永久磁石を保持し、前記回転軸に固定される磁石保持部材と、
前記スイッチブレーキディスクを間に挟むブレーキパッドを有し、車両の非回転部に固定されるスイッチブレーキキャリパと、
前記ブレーキパッドを直線駆動させるアクチュエータと、を備え、
前記制動ドラムの外周面に円周方向にわたり複数の巻線コイルを埋設したことを特徴とする電力回生機能付き渦電流式減速装置である。
上記(1)、(2)の渦電流式減速装置において、前記制動ディスクは、前記巻線コイルを埋設する面の表層部が低合金鋼で構成されることが好ましい。この場合、前記制動ディスクは、前記巻線コイルを埋設する面の表層部を除き電磁鋼で構成されることが好ましい。
上記(3)、(4)の渦電流式減速装置において、前記制動ドラムは、前記巻線コイルを埋設する面の表層部が低合金鋼で構成されることが好ましい。この場合、前記制動ドラムは、前記巻線コイルを埋設する面の表層部を除き電磁鋼で構成されることが好ましい。
上記(1)〜(4)の渦電流式減速装置において、制動ディスク又は制動ドラムに埋設された複数の巻線コイルからの電流の回収は、例えば、前記巻線コイルの電導線を引き出して露出させ、露出した電導線に摺動可能に接触する固定の電気接点を設けるなどの方法によればよい。
本発明の電力回生機能付き渦電流式減速装置によれば、制動切替え時に、磁石保持部材および制動部材のいずれも移動させないため、衝撃が発生しない。また、制動と非制動を切替えるのにディスクブレーキを採用するため、そのディスクブレーキを駆動させるのに用いるアクチュエータのストロークを小さくすることができ、装置の小型化を実現することが可能になる。
さらに、永久磁石と対向する制動部材の表面に巻線コイルを埋設することにより、制動時に、巻線コイルに誘導起電力を発生させ、その電力を電気接点を通じて回収することができる。このとき、熱エネルギーに変換されていた回転軸の運動エネルギーを電気エネルギーに変換し電力として回収することから、制動部材の発熱を低減することができ、大気への不用意な放熱を抑制することが可能になる。
本発明の第1実施形態である電力回生機能付き渦電流式減速装置の構成例を示す縦断面図である。 制動部材と磁石保持部材を円周方向に展開した断面図であり、同図(a)は渦電流が発生する状態を示し、同図(b)は誘導起電力が発生する状態を示す。 本発明の第2実施形態である電力回生機能付き渦電流式減速装置の構成例を示す縦断面図である。 本発明の第3実施形態である電力回生機能付き渦電流式減速装置の構成例を示す縦断面図である。 本発明の第4実施形態である電力回生機能付き渦電流式減速装置の構成例を示す縦断面図である。
以下に、本発明の電力回生機能付き渦電流式減速装置について、その実施形態を詳述する。
1.第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態である電力回生機能付き渦電流式減速装置の構成例を示す縦断面図である。第1実施形態の渦電流式減速装置は、永久磁石方式のディスク型であり、同図に示すように、制動ディスク1と、永久磁石5を保持するとともにスイッチブレーキディスク6を有する回転部材3と、スイッチブレーキディスク6を間に挟むブレーキパッド8a、8bを有するスイッチブレーキキャリパ7と、スイッチブレーキキャリパ7を駆動させる電動式直動アクチュエータ9とを備える。
制動ディスク1は、制動部材に相当し、プロペラシャフトなどの回転軸11と一体で回転するように構成される。具体的には、回転軸11と同軸上に連結軸12がボルトなどによって固定され、フランジ付きのスリーブ13がその連結軸12にスプラインで噛み合いながら挿入されてナット14で固定されている。制動ディスク1は、回転軸11と一体化されたスリーブ13のフランジにボルトなどで固定され、これにより、回転軸11と一体で回転するようになる。
制動ディスク1の外周には、放熱フィン2が設けられる。この放熱フィン2は、制動ディスク1と一体成形され、制動ディスク1そのものを冷却する役割を担う。
回転部材3は、回転軸11に対し回転可能に構成される。具体的には、回転部材3は、連結軸12と同心状の環状部材であり、回転軸11と一体化されたスリーブ13に軸受15a、15bを介して支持され、これにより、回転軸11に対し自由に回転が可能になる。軸受15a、15bには潤滑グリスが充填され、この潤滑グリスは、回転部材3の前後両端に装着されたリング状のシール部材16a、16bにより漏出を防止される。
回転部材3は、制動ディスク1の主面に対向し永久磁石5を保持する磁石保持ディスク4を有する。この磁石保持ディスク4は、制動ディスク1に制動力を発生させるために制動ディスク1と対を成す磁石保持部材に相当し、回転部材3と一体成形してもよいし、個別に成形しボルトなどで回転部材3に固定してもよい。磁石保持ディスク4には、制動ディスク1の主面と対向する面に、円周方向にわたり複数の永久磁石5が固着される。永久磁石5は、隣接するもの同士の磁極(N極、S極)が交互に異なるように配置される。
磁石保持ディスク4には、永久磁石5を覆う薄板カバー20が取り付けられる。この薄板カバー20は、鉄粉や粉塵から永久磁石5を保護するのみならず、永久磁石5の保有する磁力が熱影響で低下するのを防止するために、外部から永久磁石5への輻射熱を遮断する役割を担う。薄板カバー20としては、永久磁石5からの磁界に影響を及ぼさないように、非磁性材料を用いることが好ましい。
さらに、回転部材3は、磁石保持ディスク4の後方にスイッチブレーキディスク6を有する。スイッチブレーキディスク6は、ボルトなどで回転部材3に取り付けられ、回転部材3と一体化される。
スイッチブレーキキャリパ7は、前後で一対のブレーキパッド8a、8bを有しており、ブレーキパッド8a、8bの間にスイッチブレーキディスク6を配置し所定の隙間を設けて挟んだ状態で、バネを搭載したボルトなどによりブラケット17に付勢支持される。このブラケット17は、車両のシャーシやクロスメンバーなどの非回転部に取り付けられる。
また、図1に示すブラケット17は、スイッチブレーキディスク6の後方で回転部材3を包囲し、回転部材3に軸受18を介して回転可能に支持される。この軸受18にも潤滑グリスが充填され、この潤滑グリスは、ブラケット17の前後両端に装着されたリング状のシール部材19a、19bにより漏出を防止される。
スイッチブレーキキャリパ7には、アクチュエータ9がボルトなどで固定される。アクチュエータ9は、電動モータ10に与える電力を動力源として駆動し、電動モータ10の回転運動を直線運動に変換して後側のブレーキパッド8bをスイッチブレーキディスク6に向け直線駆動させる。これにより、後側のブレーキパッド8bがスイッチブレーキディスク6を押圧し、これに伴う反力の作用で、前側のブレーキパッド8aがスイッチブレーキディスク6に向け移動し、その結果、スイッチブレーキディスク6を前後のブレーキパッド8a、8bで強力に挟み込むことができる。
アクチュエータ9としては、例えば、ボールねじ機構やボールランプ機構のものを採用することができる。ボールねじ機構やボールランプ機構のアクチュエータは、リードを有するねじ筋や傾斜カム面にボールを沿わせる運動変換機構により、電動モータ10の回転運動を直線運動に変換するものである。
このような構成の減速装置は、電力回生機能を発揮するために以下の構成を備える。制動ディスク1は、永久磁石5と対向する主面に、円周方向にわたり複数の巻線コイル21が埋設される。具体的には、制動ディスク1の主面は、永久磁石5と対向する領域を円周方向に沿って複数の領域に分割され、各分割領域の輪郭を形成する溝に沿って巻線コイル21が収納される。巻線コイル21は、銅線などの導電率の高い電導線を幾重にも巻いて成る。
巻線コイル21の電導線22は、制動ディスク1の表面に引き出されて露出し、制動ディスク1の表面に設置した端子23に接続される。図1では、制動ディスク1において巻線コイル21を埋設する主面と反対側の面に、回転軸11と同心状に環状凸部24が形成されており、この環状凸部24の外周に端子23が設置された例を示している。
これらの巻線コイル21および端子23は、回転軸11とともに制動ディスク1と一体で回転する。端子23にはブラシなどの電気接点25が摺動可能に接触し、この電気接点25は、車両の非回転部に固定され、車両に搭載される蓄電池に対し制御回路を通じて接続される。
図1に示す制動ディスク1の場合、巻線コイル21を埋設する主面の表層部1aには、導電性に優れた低合金鋼を用い、その表層部1aを除く部分には電磁鋼を用いる。低合金鋼としては、例えばCr−Mo鋼や特許第3036372号公報に記載されているロータ材などを用いることができる。制動ディスク1の主面の表層部1aを低合金鋼とすることにより、制動力を生む渦電流をその表層部1aに有効に発生させることができ、その表層部1aを除く部分を電磁鋼とすることにより、発熱を低減することができるからである。ただし、制動ディスク1は、表層部1aを除く部分を含めた全体を低合金鋼としても構わない。
また、制動ディスク1の主面の表層部1aには、さらに銅などのメッキ層を積層することができる。メッキ層を設けることにより、渦電流を一層有効に発生させることができるからである。
続いて、このような構成の電力回生機能付き減速装置の動作を説明する。非制動時は、電動モータ10に通電を行うことなくアクチュエータ9を作動させない状態にある。このとき、回転軸11と一体で制動ディスク1が回転するのに伴い、回転部材3が、これと一体の磁石保持ディスク4で保持する永久磁石5と、制動ディスク1との磁気吸引作用により、制動ディスク1と同期して一体的に回転する。
この場合、制動ディスク1と、磁石保持ディスク4における永久磁石5との間に相対的な回転速度差が生じないため、制動ディスク1の主面および巻線コイル21に作用する永久磁石5からの磁界は変動しない。従って、非制動時は、制動ディスク1の主面に渦電流が生じることなく、また、巻線コイル21に誘導起電力も生じないため、制動力および電力のいずれも発生しない。
一方、制動時は、電動モータ10に通電を行ってアクチュエータ9を作動させる。これにより、回転部材3と一体で回転しているスイッチブレーキディスク6がブレーキパッド8a、8bによって挟み込まれ、回転部材3の回転を速やかに停止させることができる。
制動ディスク1が回転している際に回転部材3のみが停止すると、制動ディスク1と、磁石保持ディスク4における永久磁石5との間に相対的な回転速度差が生じるため、制動ディスク1の主面および巻線コイル21に作用する永久磁石5からの磁界が変動する。永久磁石5からの磁界の変動により、制動ディスク1の主面に渦電流が発生するとともに、巻線コイル21に電磁誘導による誘導起電力が発生する。その際、下記の図2を用いて説明するように、制動ディスク1の回転に伴って、永久磁石5からの磁界(磁束)が巻線コイル21を貫通する状態と貫通しない状態とが交互に出現するため、渦電流と誘導起電力は交互に繰り返し発生する。
制動ディスク1の主面に生じた渦電流により、回転する制動ディスク1に回転方向と逆向きの制動力が発生し、回転軸11の回転を減速させることができる。また、巻線コイル21に生じた誘導起電力は、巻線コイル21からの電導線22、端子23、および端子23に接触する電気接点25を通じて回収され、電力として蓄電池に蓄えることができる。
蓄電池に回収した電力は、減速装置を構成する電動モータ10の動力源として用いられる。従って、本発明の減速装置では、自身で消費する電力を、自身で回生した電力で補うことができる。もっとも、蓄電池に回収した電力は、大型車両に装備された数々の電装機器の動力源としても用いられ、また、HEVやEVの大型車両の場合は、推進用の電動モータの動力源としても用いられる。
図2は、制動部材と磁石保持部材を円周方向に展開した断面図であり、同図(a)は渦電流が発生する状態を示し、同図(b)は誘導起電力が発生する状態を示す。図2(a)に示すように、制動ディスク1が回転するのに伴って、永久磁石5が巻線コイル21同士の間に位置するときには、永久磁石5からの磁束(磁界)は巻線コイル21の中に入るものの、貫通することなく、隣接する異極の永久磁石5に達する(同図中の実線矢印参照)。これにより、巻線コイル21に誘導起電力は発生することなく、その代わりに、制動ディスク1の表層部1aに渦電流が生じ、制動ディスク1に回転方向とは逆向きの制動力が発生する(同図中の白抜き矢印参照)。
一方、図2(b)に示すように、制動ディスク1が回転するのに伴って、永久磁石5が巻線コイル21と対向する位置にあるときには、永久磁石5からの磁束(磁界)は巻線コイル21を貫通し、さらに隣接する巻線コイル21を逆向きに貫通し、隣接する異極の永久磁石5に達する(同図中の実線矢印参照)。これにより、制動ディスク1の表層部1aに渦電流が発生することはなく、その代わりに、巻線コイル21に電磁誘導による誘導起電力が発生する。
永久磁石5と巻線コイル21との位置関係は、制動ディスク1が回転するのに伴って、永久磁石5が巻線コイル21同士の間に位置するときと、永久磁石5が巻線コイル21と対向する位置にあるときとを交互に繰り返すため、渦電流と誘導起電力が交互に繰り返し発生する理由を説明することができる。
本発明の電力回生機能付き減速装置によれば、制動切替え時に、磁石保持部材および制動部材のいずれも移動させないため、衝撃が発生しない。また、本発明の減速装置は、制動と非制動を切替えるのにディスクブレーキを採用するため、そのディスクブレーキを駆動させるのに用いるアクチュエータのストロークを小さくすることができ、減速装置の小型化を実現することが可能になる。
さらに、本実施形態の減速装置では、永久磁石と対向する制動部材の表面に巻線コイルを埋設した構成とすることにより、制動時に、永久磁石からの磁界に基づく電磁誘導に伴って、巻線コイルに誘導起電力を発生させ、その電力を電気接点を通じて回収することができる。このとき、従来の減速装置で熱エネルギーに変換されていた回転軸の運動エネルギーを電気エネルギーに変換し電力として回収することから、制動部材の発熱を低減することができ、大気への不用意な放熱を抑制することが可能になる。
2.第2実施形態
図3は、本発明の第2実施形態である電力回生機能付き渦電流式減速装置の構成例を示す縦断面図である。第2実施形態の渦電流式減速装置は、前記図1に示す第1実施形態の減速装置と基本構成は同じであり、永久磁石方式のディスク型であるが、前記第1実施形態とは以下の点で相違する。
第2実施形態の減速装置は、前記第1実施形態における制動部材に相当する制動ディスク1と、磁石保持部材に相当する磁石保持ディスク4とを互いに入れ替えた構成である。すなわち、第2実施形態では、磁石保持ディスク4は、回転軸11に対して固定され、回転軸11と一体で回転する。制動ディスク1は、回転軸11に対し回転部材3と一体で回転可能に支持される。
制動ディスク1に埋設された巻線コイル21の電導線22は、回転部材3の表面に引き出されて露出し、回転部材3の表面に設置した端子23に接続される。図3では、回転部材3の後端から環状凸部24が突出しており、この環状凸部24の外周に端子23が設置された例を示している。
このような構成の電力回生機能付き減速装置において、非制動時は、回転軸11と一体で磁石保持ディスク4が回転するのに伴い、回転部材3が、これと一体の制動ディスク1と、磁石保持ディスク4で保持する永久磁石5との磁気吸引作用により、磁石保持ディスク4と同期して一体的に回転する。
この場合、制動ディスク1と、磁石保持ディスク4における永久磁石5との間に相対的な回転速度差が生じないため、制動ディスク1の主面および巻線コイル21に作用する永久磁石5からの磁界は変動しない。従って、非制動時は、制動ディスク1の主面に渦電流が生じることなく、また、巻線コイル21に誘導起電力も生じないため、制動力および電力のいずれも発生しない。
一方、制動時は、磁石保持ディスク4が回転しつつ、アクチュエータ9の作動に伴って回転部材3のみが停止すると、制動ディスク1と、磁石保持ディスク4における永久磁石5との間に相対的な回転速度差が生じるため、制動ディスク1の主面および巻線コイル21に作用する永久磁石5からの磁界が変動する。永久磁石5からの磁界の変動により、制動ディスク1の主面に渦電流が発生するとともに、巻線コイル21に電磁誘導による誘導起電力が発生し、これらの渦電流と誘導起電力は交互に繰り返し発生する。
制動ディスク1の主面に生じた渦電流と永久磁石5からの磁束密度との相互作用によりフレミングの左手の法則に従い、回転する磁石保持ディスク4に回転方向と逆向きの制動力が発生し、回転軸11の回転を減速させることができる。また、巻線コイル21に生じた誘導起電力は、巻線コイル21からの電導線22、端子23、および端子23に接触する電気接点25を通じて回収され、電力として蓄電池に蓄えることができる。
従って、第2実施形態の減速装置でも、前記第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
3.第3実施形態
図4は、本発明の第3実施形態である電力回生機能付き渦電流式減速装置の構成例を示す縦断面図である。第3実施形態の渦電流式減速装置は、前記図1に示す第1実施形態の減速装置と基本構成は同じであり、永久磁石方式であるが、前記第1実施形態とは以下の点で相違する。
第3実施形態の減速装置は、前記第1実施形態における制動部材に相当する制動ディスク1を円筒状の制動ドラム31に変更し、これに伴い、磁石保持部材に相当する磁石保持ディスク4を円筒状の磁石保持ドラム32に変更した構成のドラム型である。すなわち、第3実施形態では、制動ドラム31は、回転軸11に対して固定され、回転軸11と一体で回転する。磁石保持ドラム32は、制動ドラム31の内側に配置され、回転軸11に対し回転部材3と一体で回転可能に支持される。
永久磁石5は、制動ドラム31の内周面と対向する磁石保持ドラム32の外周面に、円周方向にわたり磁極が交互に異なって固着される。巻線コイル21は、磁石保持ドラム32の外周面と対向する制動ドラム31の内周面に、円周方向にわたり複数埋設される。
このような構成の電力回生機能付き減速装置において、非制動時は、回転軸11と一体で制動ドラム31が回転するのに伴い、回転部材3が、これと一体の磁石保持ドラム32で保持する永久磁石5と、制動ドラム31との磁気吸引作用により、制動ドラム31と同期して一体的に回転する。
この場合、制動ドラム31と、磁石保持ドラム32における永久磁石5との間に相対的な回転速度差が生じないため、制動ドラム31の内周面および巻線コイル21に作用する永久磁石5からの磁界は変動しない。従って、非制動時は、制動ドラム31の内周面に渦電流が生じることなく、また、巻線コイル21に誘導起電力も生じないため、制動力および電力のいずれも発生しない。
一方、制動時は、制動ドラム31が回転しつつ、アクチュエータ9の作動に伴って回転部材3のみが停止すると、制動ドラム31と、磁石保持ドラム32における永久磁石5との間に相対的な回転速度差が生じるため、制動ドラム31の内周面および巻線コイル21に作用する永久磁石5からの磁界が変動する。永久磁石5からの磁界の変動により、制動ドラム31の内周面に渦電流が発生するとともに、巻線コイル21に電磁誘導による誘導起電力が発生し、これらの渦電流と誘導起電力は交互に繰り返し発生する。
制動ドラム31の内周面に生じた渦電流により、回転する制動ドラム31に回転方向と逆向きの制動力が発生し、回転軸11の回転を減速させることができる。また、巻線コイル21に生じた誘導起電力は、巻線コイル21からの電導線22、端子23、および端子23に接触する電気接点25を通じて回収され、電力として蓄電池に蓄えることができる。
従って、第3実施形態の減速装置でも、前記第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
4.第4実施形態
図5は、本発明の第4実施形態である電力回生機能付き渦電流式減速装置の構成例を示す縦断面図である。第4実施形態の渦電流式減速装置は、前記図4に示す第3実施形態の減速装置と基本構成は同じであり、永久磁石方式のドラム型であるが、前記第3実施形態とは以下の点で相違する。
第4実施形態の減速装置は、前記第3実施形態における制動部材に相当する制動ドラム31と、磁石保持部材に相当する磁石保持ドラム32とを互いに入れ替えた構成である。すなわち、第4実施形態では、磁石保持ドラム32は、回転軸11に対して固定され、回転軸11と一体で回転する。制動ドラム31は、磁石保持ドラム32の内側に配置され、回転軸11に対し回転部材3と一体で回転可能に支持される。
永久磁石5は、制動ドラム31の外周面と対向する磁石保持ドラム32の内周面に、円周方向にわたり磁極が交互に異なって固着される。巻線コイル21は、磁石保持ドラム32の内周面と対向する制動ドラム31の外周面に、円周方向にわたり複数埋設される。
このような構成の電力回生機能付き減速装置において、非制動時は、回転軸11と一体で磁石保持ドラム32が回転するのに伴い、回転部材3が、これと一体の制動ドラム31と、磁石保持ドラム32で保持する永久磁石5との磁気吸引作用により、磁石保持ドラム32と同期して一体的に回転する。
この場合、制動ドラム31と、磁石保持ドラム32における永久磁石5との間に相対的な回転速度差が生じないため、制動ドラム31の外周面および巻線コイル21に作用する永久磁石5からの磁界は変動しない。従って、非制動時は、制動ドラム31の外周面に渦電流が生じることなく、また、巻線コイル21に誘導起電力も生じないため、制動力および電力のいずれも発生しない。
一方、制動時は、磁石保持ドラム32が回転しつつ、アクチュエータ9の作動に伴って回転部材3のみが停止すると、制動ドラム31と、磁石保持ドラム32における永久磁石5との間に相対的な回転速度差が生じるため、制動ドラム31の外周面および巻線コイル21に作用する永久磁石5からの磁界が変動する。永久磁石5からの磁界の変動により、制動ドラム1の外周面に渦電流が発生するとともに、巻線コイル21に電磁誘導による誘導起電力が発生し、これらの渦電流と誘導起電力は交互に繰り返し発生する。
制動ドラム31の外周面に生じた渦電流と永久磁石5からの磁束密度との相互作用によりフレミングの左手の法則に従い、回転する磁石保持ドラム32に回転方向と逆向きの制動力が発生し、回転軸11の回転を減速させることができる。また、巻線コイル21に生じた誘導起電力は、巻線コイル21からの電導線22、端子23、および端子23に接触する電気接点25を通じて回収され、電力として蓄電池に蓄えることができる。
従って、第4実施形態の減速装置でも、前記第3実施形態と同じく、前記第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
本発明の電力回生機能付き渦電流式減速装置によれば、制動切替え時の衝撃の発生を防止するとともに、装置の小型化を実現することが可能であり、しかも、制動時に、熱エネルギーに変換されていた回転軸の運動エネルギーを電力として回収し、大気への不用意な放熱を抑制することができる。従って、本発明の渦電流式減速装置は、地球環境問題に対応し、HEVやEVを含めたあらゆる車両の補助ブレーキとして極めて有用である。
1:制動ディスク、 1a:表層部、 2:放熱フィン、 3:回転部材、
4:磁石保持ディスク、 5:永久磁石、 6:スイッチブレーキディスク、
7:スイッチブレーキキャリパ、 8a、8b:ブレーキパッド、
9:電動式直動アクチュエータ、 10:電動モータ、 11:回転軸、
12:連結軸、 13:スリーブ、 14:ナット、
15a、15b:軸受、 16a、16b:シール部材、
17:ブラケット、 18:軸受、 19a、19b:シール部材、
20:薄板カバー、 21:巻線コイル、 22:電導線、
23:端子、 24:環状凸部、 25:電気接点、
31:制動ドラム、 32:磁石保持ドラム

Claims (8)

  1. 車両の回転軸に固定される制動ディスクと、
    前記制動ディスクの主面に対向して円周方向にわたり磁極が交互に異なって配置される永久磁石と、
    前記永久磁石を保持するととともにスイッチブレーキディスクを有し、前記回転軸に回転可能に支持される磁石保持部材と、
    前記スイッチブレーキディスクを間に挟むブレーキパッドを有し、車両の非回転部に固定されるスイッチブレーキキャリパと、
    前記ブレーキパッドを直線駆動させるアクチュエータと、を備え、
    前記制動ディスクの主面に円周方向にわたり複数の巻線コイルを埋設したことを特徴とする電力回生機能付き渦電流式減速装置。
  2. 制動ディスクおよびスイッチブレーキディスクを有し、車両の回転軸に回転可能に支持される制動部材と、
    前記制動ディスクの主面に対向して円周方向にわたり磁極が交互に異なって配置される永久磁石と、
    前記永久磁石を保持し、前記回転軸に固定される磁石保持部材と、
    前記スイッチブレーキディスクを間に挟むブレーキパッドを有し、車両の非回転部に固定されるスイッチブレーキキャリパと、
    前記ブレーキパッドを直線駆動させるアクチュエータと、を備え、
    前記制動ディスクの主面に円周方向にわたり複数の巻線コイルを埋設したことを特徴とする電力回生機能付き渦電流式減速装置。
  3. 車両の回転軸に固定される制動ドラムと、
    前記制動ドラムの内周面に対向して円周方向にわたり磁極が交互に異なって配置される永久磁石と、
    前記永久磁石を保持するととともにスイッチブレーキディスクを有し、前記回転軸に回転可能に支持される磁石保持部材と、
    前記スイッチブレーキディスクを間に挟むブレーキパッドを有し、車両の非回転部に固定されるスイッチブレーキキャリパと、
    前記ブレーキパッドを直線駆動させるアクチュエータと、を備え、
    前記制動ドラムの内周面に円周方向にわたり複数の巻線コイルを埋設したことを特徴とする電力回生機能付き渦電流式減速装置。
  4. 制動ドラムおよびスイッチブレーキディスクを有し、車両の回転軸に回転可能に支持される制動部材と、
    前記制動ドラムの外周面に対向して円周方向にわたり磁極が交互に異なって配置される永久磁石と、
    前記永久磁石を保持し、前記回転軸に固定される磁石保持部材と、
    前記スイッチブレーキディスクを間に挟むブレーキパッドを有し、車両の非回転部に固定されるスイッチブレーキキャリパと、
    前記ブレーキパッドを直線駆動させるアクチュエータと、を備え、
    前記制動ドラムの外周面に円周方向にわたり複数の巻線コイルを埋設したことを特徴とする電力回生機能付き渦電流式減速装置。
  5. 前記制動ディスクは、前記巻線コイルを埋設する面の表層部が低合金鋼で構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の電力回生機能付き渦電流式減速装置。
  6. 前記制動ドラムは、前記巻線コイルを埋設する面の表層部が低合金鋼で構成されることを特徴とする請求項3または4に記載の電力回生機能付き渦電流式減速装置。
  7. 前記制動ディスクは、前記巻線コイルを埋設する面の表層部を除き電磁鋼で構成されることを特徴とする請求項5に記載の電力回生機能付き渦電流式減速装置。
  8. 前記制動ドラムは、前記巻線コイルを埋設する面の表層部を除き電磁鋼で構成されることを特徴とする請求項6に記載の電力回生機能付き渦電流式減速装置。
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