JP5786825B2 - 渦電流式減速装置 - Google Patents

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Description

本発明は、トラックやバスなどの車両に補助ブレーキとして搭載される渦電流式減速装置に関し、特に、制動力を発生させるために永久磁石を用いた渦電流式減速装置に関する。
一般に、永久磁石(以下、単に「磁石」ともいう)を用いた渦電流式減速装置(以下、単に「減速装置」ともいう)は、プロペラシャフトやドライブシャフトなどの回転軸に固定した制動部材を有し、制動時に、磁石からの磁界の作用で、磁石と対向する制動部材の表面に渦電流を発生させ、これにより、回転軸と一体で回転する制動部材に回転方向と逆向きの制動力(制動トルク)が生じ、回転軸を減速させるものである。
このような減速装置に要求される基本性能は、高い制動力を発生することである。減速装置の制動力は、その特性上、回転軸の回転中心から渦電流が発生する領域までの半径(以下、「軸半径」という)、制動部材の回転速度、回転する制動部材の表面抵抗、磁石の保有する磁力などの諸条件に大きく依存する。それらの条件のうちで、軸半径は、減速装置の取り付け位置によって制約がかかり、制動部材の回転速度は、回転軸の回転速度と同じであることからおのずと制約がかかる。このため、従来、制動力の向上は、磁力の増加や、磁石の増量や、制動部材に渦電流を有効にもたらす良導体の採用などによって図られている。
もっとも、制動力の向上に伴い、制動部材の表面に生じる渦電流が増大し、制動部材の発熱量が大きくなるため、制動部材に近接する磁石には、耐熱性の高いものを採用する必要がある。耐熱性が高く磁力の強い磁石には、Dy(ディスプロシウム)などの希少で高価な元素が含まれている。したがって、減速装置には、それらの希少元素の使用量を削減したり、磁石そのものの使用量を削減することが求められる。
このような要求に対し、例えば特許文献1〜3には、軸半径を変えることなく、遊星歯車機構を利用して制動部材の回転速度を回転軸の回転速度よりも増速させることにより、制動力を向上させる減速装置が開示されている。
しかし、特許文献1〜3に開示される減速装置では、制動時/非制動時を問わず、常時、制動部材の回転速度が増速されるため、制動部材の風損そのものが増大する。そればかりか、特に非制動時には、風損の影響や漏れ磁束の影響も増幅されてしまうため、それらの影響が遊星歯車機構を介して回転軸に作用し、回転軸のロストルクが大きくなる。また、遊星歯車機構に起因してギア鳴りによる騒音や振動が常に発生するため、周辺環境やドライバーに悪影響を及ぼしかねない。さらに、遊星歯車機構が常時作動することにより、ギアの発熱によるグリスの劣化、およびそれに伴うギアの焼き付きが早期に発生したり、ギアの磨耗や歯欠けによって耐久性が損なわれる。
この問題に対し、特許文献4には、前記特許文献1〜3に開示される減速装置と同様に、遊星歯車機構を利用して制動部材の回転速度を増速させる減速装置が開示されている。特許文献4に開示される減速装置では、制動部材が回転軸に回転可能に支持されるとともに、この制動部材にリング歯車が装着され、その一方で、磁石を保持する磁石保持部材が固定部材(車両の非回転部)に固定されるとともに、この固定部材に回転可能に太陽歯車が装着され、太陽歯車とリング歯車に噛合う遊星歯車が回転軸に固定のキャリアに装着されている。その上で、固定部材に取り付けられたクラッチによって、太陽歯車の回転/静止が切り替えられる構成となっている。
このような構成によれば、非制動時には、クラッチを開放することで太陽歯車の自由な回転が許容され、これにより、回転軸の回転に伴って遊星歯車と太陽歯車が空転することから、リング歯車、すなわち制動部材がほぼ静止するようになる。このため、非制動時に、風損や漏れ磁束による回転軸のロストルクを抑制することができる。
一方、制動時には、クラッチによって太陽歯車が静止させられ、これにより、静止の太陽歯車と遊星歯車(回転軸)を介して噛合うリング歯車(制動部材)は、回転軸の回転速度よりも増速された回転速度で回転するようになる。このため、制動力を向上させることができる。
特開平11−285233号公報 特開2000−324792号公報 特開2000−324794号公報 特開2000−324791号公報
しかし、特許文献4に開示される減速装置では、非制動時にリング歯車がほぼ静止するものの太陽歯車と遊星歯車が高速で回転し、制動時には太陽歯車が静止するもののリング歯車と遊星歯車が高速で回転しており、遊星歯車機構が常に作動状態にあることに変わりはない。そうすると、遊星歯車機構における上記の問題、すなわち、ギア鳴りが常に発生し、グリスの劣化およびギアの焼き付きが早期に発生し、ギアの磨耗や歯欠けによって耐久性が損なわれるという問題は、依然として解消することができない。
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、制動力を向上させるために遊星歯車機構を利用し、その上で、遊星歯車機構において、ギア鳴りの常時の発生を防止するとともに、グリスの早期の劣化およびギアの早期の焼き付きを防止し、これと同時に、ギアの磨耗や歯欠けによる耐久性の低下を防止することができる渦電流式減速装置を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するため、減速装置に遊星歯車機構を利用することを前提として鋭意検討を重ねた。その結果、上記の問題は、制動力を発生させなければならない制動時にはやむを得ないとして、非制動時にも遊星歯車機構が作動していることに起因することから、この点に着目し、上記の問題を解消するには、非制動時に遊星歯車機構が作動しない構成にするのが有効であることを知見した。本発明は上記の知見に基づいて完成させたものであり、その要旨は下記の渦電流式減速装置にある。
本発明の渦電流式減速装置は、
車両の回転軸に回転可能に支持された制動部材と、
前記制動部材に円周方向にわたり交互に向きの異なる磁界を作用させる複数の永久磁石と、
前記永久磁石を保持し、前記回転軸に回転可能に支持された磁石保持部材と、
前記制動部材および前記磁石保持部材のうちのいずか一方に保持された太陽歯車と、
前記制動部材および前記磁石保持部材のうちのいずか他方に保持されたリング歯車と、
前記太陽歯車および前記リング歯車に噛合う遊星歯車と、
前記遊星歯車を軸支し、前記回転軸に固定されたキャリアと、
制動時に前記制動部材または前記磁石保持部材を静止させる摩擦ブレーキと、を備えたことを特徴とする。
上記の減速装置において、前記制動部材は、前記永久磁石、前記磁石保持部材、前記太陽歯車、前記リング歯車、前記遊星歯車および前記キャリアを包囲するように一対の円板部およびこれらの円板部同士の外周部を連結する円筒部からなり、前記摩擦ブレーキは、制動時に前記制動部材を静止させる構成にすることができる。
この減速装置の場合、前記永久磁石は、前記円筒部の内周面に対向し、磁極の向きが径方向であって、円周方向に隣接するもの同士で磁極が交互に異なって配置されていることが好ましい。
また、上記の減速装置において、前記制動部材は、前記永久磁石からの磁界が作用する円板状の制動ディスク部を有し、前記永久磁石は、前記制動ディスク部の主面に対向し、磁極の向きが軸方向であって、円周方向に隣接するもの同士で磁極が交互に異なって配置されている構成にすることもできる。
また、上記の減速装置において、前記制動部材は、前記永久磁石からの磁界が作用する円筒状の制動ドラム部を有し、前記永久磁石は、前記制動ドラム部の内周面に対向し、磁極の向きが径方向であって、円周方向に隣接するもの同士で磁極が交互に異なって配置されている構成にすることも可能である。
本発明の渦電流式減速装置によれば、遊星歯車機構を具備しているので制動力を向上させることができる。しかも、非制動時に遊星歯車機構が作動しないため、遊星歯車機構におけるギアへの負担が制動時に限定されて、軽減される結果、遊星歯車機構において、ギア鳴りの常時の発生を防止するとともに、グリスの早期の劣化およびギアの早期の焼き付きを防止し、これと同時に、ギアの磨耗や歯欠けによる耐久性の低下を防止することができる。
本発明の第1実施形態である減速装置の全体構成を模式的に示す縦断面図である。 本発明の第1実施形態である減速装置の制動動作を説明するために遊星歯車機構の作動状態を示す模式図であり、同図(a)は非制動時の状態を、同図(b)は制動時の状態をそれぞれ示す。 本発明の第2実施形態である減速装置の全体構成を模式的に示す縦断面図である。 本発明の第2実施形態である減速装置の制動動作を説明するために遊星歯車機構の作動状態を示す模式図であり、同図(a)は非制動時の状態を、同図(b)は制動時の状態をそれぞれ示す。 本発明の第3実施形態である減速装置の全体構成を示す模式図である。 本発明の第3実施形態である減速装置の制動動作を説明するために遊星歯車機構の作動状態を示す模式図であり、同図(a)は非制動時の状態を、同図(b)は制動時の状態をそれぞれ示す。 本発明の第4実施形態である減速装置の全体構成を示す模式図である。 本発明の第4実施形態である減速装置の制動動作を説明するために遊星歯車機構の作動状態を示す模式図であり、同図(a)は非制動時の状態を、同図(b)は制動時の状態をそれぞれ示す。
以下に、本発明の渦電流式減速装置の実施形態について詳述する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態である減速装置の全体構成を模式的に示す縦断面図である。同図に示す第1実施形態の減速装置は、ドーナツ形円板状の制動ディスク部11を有する制動部材1と、その制動ディスク部11に対向するドーナツ形円板状の磁石保持ディスク部21を有する磁石保持部材2とを備える。磁石保持ディスク部21は永久磁石3を保持する。また、第1実施形態の減速装置は、後述する遊星歯車機構を具備するために、キャリア5を備える。このキャリア5は管状であって、その軸方向の中ほどに全周にわたって外側に突出する鍔部5aを有する。
ここで、キャリア5は、プロペラシャフトなどの回転軸30と一体で回転するように構成される。具体的には、回転軸30と同軸上に連結軸31がボルトなどによって固定され、その連結軸31にキャリア5がスプラインで噛み合いながら挿入されてナット32で固定されている。これにより、キャリア5は、回転軸30と一体化され、回転軸30と一体で回転するようになる。
制動部材1は、回転軸30に対し回転可能に構成される。制動部材1は、制動ディスク部11を含めて一体成形されたり、個別に成形されてボルトなどで一体化されたりしたものである。制動部材1は、回転軸30と一体化されたキャリア5に軸受33を介して支持され、これにより回転軸30に対し自由に回転が可能になる。
制動部材1の制動ディスク部11には、例えばその外周に放熱フィン12が設けられる。この放熱フィン12は、制動ディスク部11と一体成形され、制動ディスク部11そのものを冷却する役割を担う。制動部材1の材質、特に制動ディスク部11の材質は、導電性材料(良導体)であって、その中でも鉄などの強磁性材料や、フェライト系ステンレス鋼などの弱磁性材料のほか、アルミニウム合金や銅合金のような非磁性材料でも良い。
磁石保持部材2も、回転軸30に対し回転可能に構成される。磁石保持部材2は、磁石保持ディスク部21を含めて、連結軸31と同心状の環状部材22と一体成形されたり、個別に成形されてボルトなどで環状部材22に固定されたりしたものである。環状部材22は回転軸30と一体化されたキャリア5に軸受34を介して支持され、これにより磁石保持部材2も回転軸30に対し自由に回転が可能になる。
磁石保持ディスク部21には、制動ディスク部11の主面と対向する面に、円周方向にわたり複数の永久磁石3が固着される。永久磁石3は、磁極(N極、S極)の向きが磁石保持ディスク部21の軸方向であり、円周方向に隣接するもの同士で磁極が交互に異なるように配置される。これにより、永久磁石3から制動ディスク部11の主面に作用する磁界の向きは、円周方向にわたり交互に異なるようになる。
図1では、磁石保持ディスク部21には、永久磁石3の全体を覆うように、薄板からなる磁石カバー4が取り付けられる。この磁石カバー4は、鉄粉や粉塵から永久磁石3を保護するのみならず、永久磁石3の保有する磁力が熱影響で低下するのを防止するために、制動ディスク部11からの輻射熱を遮る役割を担う。磁石カバー4の材質は、永久磁石3からの磁界に影響を及ぼさないように、非磁性材料である。
図1に示す減速装置は、制動時に磁石保持部材2を静止させる摩擦ブレーキとしてディスクブレーキを備える。この摩擦ブレーキは、磁石保持ディスク部21の後方で環状部材22と一体のブレーキディスク40と、このブレーキディスク40を間に挟む摩擦部材としてブレーキパッド42、43を有するブレーキキャリパ41と、このブレーキキャリパ41を駆動させる電動式直動アクチュエータ44とから構成される。ブレーキディスク40は、ボルトなどで環状部材22に取り付けられ、磁石保持部材2と一体化される。
ブレーキキャリパ41は、前後で一対のブレーキパッド42、43を有しており、ブレーキパッド42、43の間にブレーキディスク40を配置し所定の隙間を設けて挟んだ状態で、バネを搭載したボルトなどによりブラケット46に付勢支持される。このブラケット46は、車両のシャーシやクロスメンバーなどの非回転部に取り付けられる。また、ブラケット46は、ブレーキディスク40の後方で環状部材22を包囲し、環状部材22に軸受35を介して回転可能に支持される。
ブレーキキャリパ41には、アクチュエータ44がボルトなどで固定される。アクチュエータ44は、電動モータ45によって駆動し、電動モータ45の回転運動を直線運動に変換して後側のブレーキパッド43をブレーキディスク40に向け直線移動させる。これにより、後側のブレーキパッド43がブレーキディスク40を押圧し、これに伴う反力の作用で、前側のブレーキパッド42がブレーキディスク40に向け移動し、その結果、ブレーキディスク40を前後のブレーキパッド42、43で強力に挟み込む。
また、第1実施形態の減速装置は、太陽歯車6、リング歯車7および遊星歯車8から構成される遊星歯車機構を具備する。第1実施形態では、太陽歯車6は制動部材1に保持され、制動部材1と一体化されている。例えば、制動部材1は、キャリア5の鍔部5aとの間にキャリア5と同心状の環状部13を有し、この環状部13の外周に太陽歯車6が嵌め込まれている。一方、リング歯車7は磁石保持部材2に保持され、磁石保持部材2と一体化されている。例えば、磁石保持部材2は、制動部材1の環状部13と同心状の環状部23を有し、この環状部23の内周にリング歯車7が嵌め込まれている。遊星歯車8は、太陽歯車6とリング歯車7に噛合っており、キャリア5に設けられた支軸9によって回転可能に軸支されている。
なお、遊星歯車機構を構成する太陽歯車6、リング歯車7および遊星歯車8には、潤滑性を確保するために、グリスが充填され、さらには制動部材1、磁石保持部材2(環状部材22)、および摩擦ブレーキのブラケット46をそれぞれ支持する軸受33、34、35にもグリスが充填されている。このグリスは、適所に設けられたシール部材により、外部への漏出を防止されている。
このような構成の第1実施形態の減速装置の制動動作について、図1に加えて下記の図2も参照し、説明を続ける。
図2は、本発明の第1実施形態である減速装置の制動動作を説明するために遊星歯車機構の作動状態を示す模式図であり、同図(a)は非制動時の状態を、同図(b)は制動時の状態をそれぞれ示す。
非制動時は、前記図1に示すように、摩擦ブレーキを作動させない状態にある。このとき、磁石保持部材2および制動部材1のいずれにも摩擦ブレーキによる拘束がないので、磁石保持部材2と制動部材1とは、磁石保持ディスク部21で保持する永久磁石3と制動ディスク部11との磁気吸引作用(制動ディスク部11が磁性材料の場合)または磁界の作用(制動ディスク部11が非磁性材料の場合)により、一体的に同期して回転する状態におかれる。すなわち、図2(a)に示すように、磁石保持部材2と一体のリング歯車7と、制動部材1と一体の太陽歯車6とは、一体的に同期して回転する状態におかれる。
そうすると、回転軸30が回転し、これに伴って回転軸30と一体のキャリア5が回転している際、リング歯車7と太陽歯車6との間に相対的な回転速度差は生じないことから、キャリア5に軸支された遊星歯車8は、支軸9を中心に回転することなく、支軸9に対して相対的に止まった状態に維持される。このため、回転軸30と一体でキャリア5が回転するのに伴い、太陽歯車6、リング歯車7および遊星歯車8は、回転軸30を中心に、互いに同じ回転速度で一体的に同期して回転する。
したがって、非制動時には、遊星歯車8は回転することなく単に太陽歯車6とリング歯車7に噛合った状態であり、遊星歯車機構は全く作動しないこととなる。もっとも、このときは、磁石保持部材2と制動部材1との間に相対的な回転速度差が生じないので、永久磁石3と制動ディスク部11との間にも相対的な回転速度差が生じず、制動力は発生しない。
一方、制動時は、前記図1に示すように、摩擦ブレーキを作動させ、ブレーキディスク40がブレーキパッド42、43によって挟み込まれ、これにより環状部材22と一体の磁石保持部材2の回転が停止し、磁石保持ディスク部21が静止する。これに伴い、図2(b)に示すように、互いに同じ回転速度で一体的に回転している太陽歯車6、リング歯車7および遊星歯車8のうち、磁石保持部材2と一体のリング歯車7のみが静止する。
すると、回転軸30と一体で回転しているキャリア5に軸支された遊星歯車8は、静止したリング歯車7と噛合っていることから、支軸9を中心に回転する。このため、太陽歯車6は、遊星歯車8から回転力が付加されて回転速度が増速され、これに伴って、太陽歯車6と一体の制動部材1の回転速度は、回転軸30の回転速度よりも増速される。
これにより、磁石保持部材2と制動部材1との間に相対的な回転速度差が生じるため、永久磁石3からの磁界の作用で、制動ディスク部11の主面に渦電流が発生し、制動ディスク部11に制動力が生じる。制動ディスク部11に生じた制動力は、制動部材1と一体の太陽歯車6、これと噛合う遊星歯車8、およびこれを軸支するキャリア5に作用し、最終的には回転軸30への制動力となる。この制動力は、回転速度が増速されたことによるため、著しく高いものである。
このように、第1実施形態の減速装置によれば、遊星歯車機構を具備しているので制動力を向上させることができる。しかも、非制動時に遊星歯車機構が作動しないため、遊星歯車機構におけるギアへの負担が制動時に限定されて、軽減される。その結果、遊星歯車機構において、ギア鳴りの常時の発生を防止するとともに、グリスの早期の劣化およびギアの早期の焼き付きを防止し、これと同時に、ギアの磨耗や歯欠けによる耐久性の低下を防止することができる。
<第2実施形態>
図3は、本発明の第2実施形態である減速装置の全体構成を模式的に示す縦断面図である。同図に示す第2実施形態の減速装置は、前記図1に示す第1実施形態の減速装置と基本構成は同じであり、前記第1実施形態と同様に遊星歯車機構を具備するが、太陽歯車6とリング歯車7の取付け対象が前記第1実施形態とは相違する。
すなわち、第2実施形態では、太陽歯車6は磁石保持部材2に保持され、磁石保持部材2と一体化されている。例えば、磁石保持部材2は、キャリア5の鍔部5aとの間にキャリア5と同心状の環状部24を有し、この環状部24の外周に太陽歯車6が嵌め込まれている。一方、リング歯車7は制動部材1に保持され、制動部材1と一体化されている。例えば、制動部材1は、磁石保持部材2の環状部24と同心状の環状部14を有し、この環状部14の内周にリング歯車7が嵌め込まれている。遊星歯車8は、太陽歯車6とリング歯車7に噛合っており、キャリア5の鍔部5aに設けられた支軸9によって回転可能に軸支されている。
このような構成の第2実施形態の減速装置の制動動作について、図3に加えて下記の図4も参照し、説明を続ける。
図4は、本発明の第2実施形態である減速装置の制動動作を説明するために遊星歯車機構の作動状態を示す模式図であり、同図(a)は非制動時の状態を、同図(b)は制動時の状態をそれぞれ示す。
非制動時は、前記第1実施形態と同様に、摩擦ブレーキを作動させない状態にあり、磁石保持部材2と制動部材1とは、永久磁石3による磁気吸引作用または磁界の作用により、一体的に同期して回転する状態におかれる。すなわち、図4(a)に示すように、磁石保持部材2と一体の太陽歯車6と、制動部材1と一体のリング歯車7とは、一体的に同期して回転する状態におかれる。
そうすると、回転軸30が回転し、これに伴って回転軸30と一体のキャリア5が回転している際、リング歯車7と太陽歯車6との間に相対的な回転速度差は生じないことから、前記第1実施形態と同様に、キャリア5に軸支された遊星歯車8は、支軸9に対して相対的に止まった状態に維持されるため、太陽歯車6、リング歯車7および遊星歯車8は、互いに同じ回転速度で、回転軸30を中心に一体的に同期して回転する。
したがって、非制動時には、第1実施形態と同様に、遊星歯車機構は全く作動しないこととなり、制動力は発生しない。
一方、制動時は、前記第1実施形態と同様に、摩擦ブレーキを作動させ、これにより磁石保持部材2の回転が停止し、磁石保持ディスク部21が静止する。これに伴い、図4(b)に示すように、互いに同じ回転速度で一体的に回転している太陽歯車6、リング歯車7および遊星歯車8のうち、磁石保持部材2と一体の太陽歯車6のみが静止する。
すると、回転軸30と一体で回転しているキャリア5に軸支された遊星歯車8は、静止した太陽歯車6と噛合っていることから、支軸9を中心に回転する。このため、リング歯車7は、遊星歯車8から回転力が付加されて回転速度が増速され、これに伴って、リング歯車7と一体の制動部材1の回転速度は、回転軸30の回転速度よりも増速される。
これにより、前記第1実施形態と同様に、磁石保持部材2と制動部材1との間に相対的な回転速度差が生じるため、制動ディスク部11に制動力が生じる。制動ディスク部11に生じた制動力は、制動部材1と一体のリング歯車7、これと噛合う遊星歯車8、およびこれを軸支するキャリア5に作用し、最終的には回転軸30への制動力となる。
このような第2実施形態の減速装置でも、遊星歯車機構を具備し、その上で、非制動時にその遊星歯車機構が作動しないため、前記第1実施形態と同様の効果を奏する。
とりわけ、前記第1実施形態の減速装置は、第2実施形態と比較し、制動力の向上度合いが大きい点で有利である。これは以下の理由による。制動力は、磁石保持部材と制動部材との間の相対的な回転速度差に依存するため、その回転速度差が大きいほど、すなわち遊星歯車機構による増速量が大きいほど、制動力が高くなる。そして、遊星歯車機構による増速量は静止しているギアの歯数に依存し、その歯数は太陽歯車よりもリング歯車の方が多い。この点、第2実施形態では太陽歯車によって増速を行う一方、前記第1実施形態ではリング歯車によって増速を行うことから、前記第1実施形態の方が、遊星歯車機構による増速量が大きくなり、制動力が高くなるわけである。
<第3実施形態>
図5は、本発明の第3実施形態である減速装置の全体構成を示す模式図である。なお、同図では一部を断面で表した側面図を示している。
同図に示す第3実施形態の減速装置は、外周に永久磁石3を保持する円筒状の磁石保持ドラム部25を有する磁石保持部材2と、この磁石保持部材2(永久磁石3を含む)の全体を包囲する制動部材1とを備える。また、第3実施形態の減速装置は、前記第1実施形態と同様に遊星歯車機構を具備するために、キャリア5を備える。このキャリア5は管状であって、その軸方向の両端に、全周にわたって外側に突出する前後に一対の鍔部5bを有する。制動部材1は、その遊星歯車機構の全体も包囲する。
ここで、キャリア5は、回転軸30と一体で回転するように構成される。具体的には、管状の連結軸31が回転軸30と同軸上にボルトなどによって固定され、キャリア5は、その連結軸31に圧入されたスリーブ36を介して連結軸31に固定されている。これにより、キャリア5は、回転軸30と一体化され、回転軸30と一体で回転するようになる。
磁石保持部材2は、回転軸30に対し回転可能に構成される。磁石保持部材2は、磁石保持ドラム部25を含めて一体成形されたり、個別に成形されてボルトなどで一体化されたりしたものである。磁石保持部材2は、回転軸30と一体化されたキャリア5に軸受34を介して支持され、これにより回転軸30に対し自由に回転が可能になる。
磁石保持ドラム部25の外周面には、円周方向にわたり複数の永久磁石3が固着される。永久磁石3は、磁極(N極、S極)の向きが回転軸30と直交する方向、すなわち磁石保持ドラム部25の径方向であり、円周方向に隣接するもの同士で磁極が交互に異なるように配置される。
磁石保持部材2の材質、特に磁石保持ドラム部25の材質は、強磁性材料や弱磁性材料である。
制動部材1は、磁石保持部材2を包囲しつつ、回転軸30に対し回転可能に構成される。具体的には、制動部材1は、前後に一対からなるドーナツ形の円板部15、16と、磁石保持ドラム部25の外周面と対向するように円板部15、16同士の外周部を連結する円筒部17とから構成される。各円板部15、16は、回転軸30と一体化されたスリーブ36に軸受33を介して支持され、これにより制動部材1は、一対の円板部15、16および円筒部17が一体で、回転軸30に対し自由に回転が可能になる。図5では、前側の円板部15と円筒部17が一体成形され、これが後側の円板部16とボルトなどによって一体化された態様を示している。
制動部材1の材質、特に円筒部17の材質は、導電性材料(良導体)であって、その中でも炭素鋼や鋳鉄などの強磁性材料や、フェライト系ステンレス鋼などの弱磁性材料、またはアルミニウム合金や銅合金などの非磁性材料である。もっとも、それらの材料を制動部材1の母材としてさらに制動効率を向上させるため、円筒部17において、磁石3と対向する内周面の表層部は、銅や銅合金などの良導電性材料であるのがより好ましい。
制動部材1には、その外周に円筒部17と一体成形された放熱フィン12が設けられる。なお、制動部材1の円板部15、16において、放熱フィン12は、後述する摩擦ブレーキの摩擦部材の配設に支障が無い領域、例えば、外面の内周部の領域に設けてもよい。この放熱フィン12は、制動部材1そのものを冷却する役割を担う。
図5に示す減速装置は、制動時に制動部材1を静止させる摩擦ブレーキとしてディスクブレーキを備える。この摩擦ブレーキは、制動部材1の外周部、すなわち円板部15、16それぞれの外面の外周部を間に挟む摩擦部材としてブレーキパッド42、43を有するブレーキキャリパ41と、このブレーキキャリパ41を駆動させる電動式直動アクチュエータ44とから構成される。
ブレーキキャリパ41は、前後で一対のブレーキパッド42、43を有しており、ブレーキパッド42、43の間に制動部材1を配置し所定の隙間を設けて挟んだ状態で、バネを搭載したボルトなどによりブラケット46に付勢支持される。このブラケット46は、車両の非回転部に取り付けられる。
また、ブラケット46は、回転軸30と一体化されたスリーブ36に軸受35を介して回転可能に支持される。もっとも、車両のトランスミッションの出力側に搭載される減速装置の場合、ブラケット46は、トランスミッションカバー(非回転部)に固定すれば、軸受35を介して支持する必要はない。トランスミッションカバーが軸受を介して支持されているからである。
ブレーキキャリパ41には、アクチュエータ44がボルトなどで固定される。アクチュエータ44は、電動モータ45によって駆動し、電動モータ45の回転運動を直線運動に変換して後側のブレーキパッド43を後側の円板部16に向け直線移動させる。これにより、後側のブレーキパッド43が後側の円板部16を押圧し、これに伴う反力の作用で、前側のブレーキパッド42が前側の円板部15に向け移動し、その結果、制動部材1を前後のブレーキパッド42、43で強力に挟み込む。
また、第3実施形態の減速装置は、太陽歯車6、リング歯車7および遊星歯車8から構成される遊星歯車機構を具備する。第3実施形態では、太陽歯車6は磁石保持部材2に保持され、磁石保持部材2と一体化されている。例えば、磁石保持部材2は、キャリア5の各鍔部5bとの間にキャリア5と同心状で前後に一対の環状部26を有し、各環状部26の外周に太陽歯車6が嵌め込まれている。一方、リング歯車7は制動部材1に保持され、制動部材1と一体化されている。例えば、制動部材1を構成する円板部15、16は、それぞれ、磁石保持部材2の環状部26と同心状の環状部18を有し、各環状部18の内周にリング歯車7が嵌め込まれている。遊星歯車8は、太陽歯車6とリング歯車7に噛合っており、キャリア5の各鍔部5bに設けられた支軸9によって回転可能に軸支されている。
なお、遊星歯車機構を構成する太陽歯車6、リング歯車7および遊星歯車8には、潤滑性を確保するために、グリスが充填され、さらに制動部材1(円板部15、16)、磁石保持部材2、および摩擦ブレーキのブラケット46をそれぞれ支持する軸受33、34、35にもグリスが充填されている。このグリスは、適所に設けられた図示しないシール部材により、外部への漏出を防止されている。もっとも、第3実施形態の減速装置の場合、遊星歯車機構が制動部材1によって包囲されていることから、遊星歯車機構用グリスの漏出を防止するためのシール部材は格別に設ける必要がない。
このような構成の第3実施形態の減速装置の制動動作について、図5に加えて下記の図6も参照し、説明を続ける。
図6は、本発明の第3実施形態である減速装置の制動動作を説明するために遊星歯車機構の作動状態を示す模式図であり、同図(a)は非制動時の状態を、同図(b)は制動時の状態をそれぞれ示す。
非制動時は、前記図5に示すように、摩擦ブレーキを作動させない状態にある。このとき、磁石保持部材2および制動部材1のいずれにも摩擦ブレーキによる拘束がないので、磁石保持部材2と制動部材1とは、磁石保持ドラム部25で保持する永久磁石3と制動部材1の円筒部17との磁気吸引作用(円筒部17が磁性材料の場合)または磁界の作用(円筒部17が非磁性材料の場合)により、一体的に同期して回転する状態におかれる。すなわち、図6(a)に示すように、制動部材1と一体のリング歯車7と、磁石保持部材2と一体の太陽歯車6とは、一体的に同期して回転する状態におかれる。
そうすると、回転軸30が回転し、これに伴って回転軸30と一体のキャリア5が回転している際、リング歯車7と太陽歯車6との間に相対的な回転速度差は生じないことから、キャリア5に軸支された遊星歯車8は、支軸9を中心に回転することなく、支軸9に対して相対的に止まった状態に維持される。このため、回転軸30と一体でキャリア5が回転するのに伴い、太陽歯車6、リング歯車7および遊星歯車8は、回転軸30を中心に、互いに同じ回転速度で一体的に同期して回転する。
したがって、非制動時には、遊星歯車8は回転することなく単に太陽歯車6とリング歯車7に噛合った状態であり、遊星歯車機構は全く作動しないこととなる。もっとも、このときは、磁石保持部材2と制動部材1との間に相対的な回転速度差が生じないので、永久磁石3と制動部材1の円筒部17との間にも相対的な回転速度差が生じず、制動力は発生しない。
一方、制動時は、前記図5に示すように、摩擦ブレーキを作動させ、制動部材1がブレーキパッド42、43によって挟み込まれ、これにより制動部材1の回転が停止し、その円筒部17が静止する。これに伴い、図6(b)に示すように、互いに同じ回転速度で一体的に回転している太陽歯車6、リング歯車7および遊星歯車8のうち、制動部材1と一体のリング歯車7のみが静止する。
すると、回転軸30と一体で回転しているキャリア5に軸支された遊星歯車8は、静止したリング歯車7と噛合っていることから、支軸9を中心に回転する。このため、太陽歯車6は、遊星歯車8から回転力が付加されて回転速度が増速され、これに伴って、太陽歯車6と一体の磁石保持部材2の回転速度は、回転軸30の回転速度よりも増速される。
これにより、磁石保持部材2と制動部材1との間に相対的な回転速度差が生じるため、永久磁石3からの磁界の作用で、制動部材1の円筒部17の内周面に渦電流が発生する。すると、制動部材1の円筒部17の内周面に発生した渦電流と永久磁石3からの磁束密度との相互作用によりフレミングの左手の法則に従い、回転する磁石保持部材2の磁石保持ドラム部25に回転方向と逆向きの制動力が生じる。磁石保持ドラム部25に生じた制動力は、磁石保持部材2と一体の太陽歯車6、これと噛合う遊星歯車8、およびこれを軸支するキャリア5に作用し、最終的には回転軸30への制動力となる。この制動力は、回転速度が増速されたことによるため、著しく高いものである。
このような第3実施形態の減速装置でも、遊星歯車機構を具備し、その上で、非制動時にその遊星歯車機構が作動しないため、前記第1実施形態と同様の効果を奏する。
とりわけ、第3実施形態の減速装置は、前記第1、第2実施形態と比較し、遊星歯車機構が制動部材1によって包囲されて密封されており、このことから、遊星歯車機構用グリスの漏出を防止するためのシール部材を格別に設ける必要がない点で有利である。
さらに、第3実施形態では、制動部材1を構成する円板部15、16および円筒部17のうちで回転中心から離れた円筒部17の内周面に渦電流が発生するため、大きい制動トルクがもたらされ、制動効率を著しく向上させることもできる。その上、前記図1、図3に示す第1、第2実施形態の減速装置における磁石カバー4が不要であるため、制動部材1の円筒部17と永久磁石3の間隔を狭めれば、制動力を一層向上させることも可能である。
<第4実施形態>
図7は、本発明の第4実施形態である減速装置の全体構成を示す模式図である。同図に示す第4実施形態の減速装置は、前記図5に示す第3実施形態の減速装置と基本構成は同じであり、前記第3実施形態と同様に遊星歯車機構を具備するが、太陽歯車6とリング歯車7の取付け対象が前記第3実施形態とは相違する。
すなわち、第4実施形態では、管状のキャリア5は、その軸方向の中ほどに全周にわたって外側に突出する鍔部5cを有する。磁石保持部材2は、回転軸30と一体化されたキャリア5の鍔部5cに軸受34を介して支持され、これにより回転軸30に対し自由に回転が可能になっている。
そして、第4実施形態では、太陽歯車6は制動部材1に保持され、制動部材1と一体化されている。例えば、制動部材1を構成する円板部15、16は、キャリア5の鍔部5cとの間にキャリア5と同心状で前後に一対の環状部19を有し、各環状部19の外周に太陽歯車6が嵌め込まれている。一方、リング歯車7は磁石保持部材2に保持され、磁石保持部材2と一体化されている。例えば、磁石保持部材2は、制動部材1の環状部19と同心状の環状部27を有し、各環状部27の内周にリング歯車7が嵌め込まれている。遊星歯車8は、太陽歯車6とリング歯車7に噛合っており、キャリア5の鍔部5cに設けられた支軸9によって回転可能に軸支されている。
このような構成の第4実施形態の減速装置の制動動作について、図7に加えて下記の図8も参照し、説明を続ける。
図8は、本発明の第4実施形態である減速装置の制動動作を説明するために遊星歯車機構の作動状態を示す模式図であり、同図(a)は非制動時の状態を、同図(b)は制動時の状態をそれぞれ示す。
非制動時は、前記第3実施形態と同様に、摩擦ブレーキを作動させない状態にあり、磁石保持部材2と制動部材1とは、永久磁石3による磁気吸引作用または磁界の作用により、一体的に同期して回転する状態におかれる。すなわち、図8(a)に示すように、制動部材1と一体の太陽歯車6と、磁石保持部材2と一体のリング歯車7とは、一体的に同期して回転する状態におかれる。
そうすると、回転軸30が回転し、これに伴って回転軸30と一体のキャリア5が回転している際、リング歯車7と太陽歯車6との間に相対的な回転速度差は生じないことから、前記第3実施形態と同様に、キャリア5に軸支された遊星歯車8は、支軸9に対して相対的に止まった状態に維持されるため、太陽歯車6、リング歯車7および遊星歯車8は、互いに同じ回転速度で、回転軸30を中心に一体的に同期して回転する。
したがって、非制動時には、第3実施形態と同様に、遊星歯車機構は全く作動しないこととなり、制動力は発生しない。
一方、制動時は、前記第3実施形態と同様に、摩擦ブレーキを作動させ、これにより制動部材1の回転が停止し、その円筒部17が静止する。これに伴い、図8(b)に示すように、互いに同じ回転速度で一体的に回転している太陽歯車6、リング歯車7および遊星歯車8のうち、制動部材1と一体の太陽歯車6のみが静止する。
すると、回転軸30と一体で回転しているキャリア5に軸支された遊星歯車8は、静止した太陽歯車6と噛合っていることから、支軸9を中心に回転する。このため、リング歯車7は、遊星歯車8から回転力が付加されて回転速度が増速され、これに伴って、リング歯車7と一体の制動部材1の回転速度は、回転軸30の回転速度よりも増速される。
これにより、前記第1実施形態と同様に、磁石保持部材2と制動部材1との間に相対的な回転速度差が生じるため、磁石保持ドラム部25に回転方向と逆向きの制動力が生じる。磁石保持ドラム部25に生じた制動力は、磁石保持部材2と一体のリング歯車7、これと噛合う遊星歯車8、およびこれを軸支するキャリア5に作用し、最終的には回転軸30への制動力となる。
このような第4実施形態の減速装置でも、遊星歯車機構を具備し、その上で、非制動時にその遊星歯車機構が作動しないため、前記第3実施形態と同様の効果を奏する。
とりわけ、前記第3実施形態の減速装置は、第4実施形態と比較し、前記第1実施形態と同様の理由から、制動力の向上度合いが大きい点で有利である。
その他本発明は上記の各実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。例えば、上記の第1、第2実施形態では、永久磁石からの磁界が作用する制動部材の部分は、回転軸と直交するドーナツ形円板状の制動ディスク部とされているが、これに代えて、回転軸と同心状で円筒状の制動ドラム部とされても構わない。この場合、制動ドラム部の内側に、磁石保持部材の磁石保持ディスク部に代えて、回転軸と同心状で円筒状の磁石保持ドラム部を設け、この磁石保持ドラム部の外周面に永久磁石を取り付けた態様となる。この場合の永久磁石は、制動ドラム部の内周面に対向し、磁極の向きが径方向であって、円周方向に隣接するもの同士で磁極が交互に異なって配置される。
また、上記の第1、第2実施形態では、制動部材および磁石保持部材のうち、磁石保持部材を制動時に静止させる構成であるが、制動部材を制動時に静止させる構成であっても構わない。この場合でも、上記の第3、第4実施形態と同様の原理により、制動力を発生させることができるからである。
また、制動時に磁石保持部材または制動部材を静止させる摩擦ブレーキとしては、電動式直動アクチュエータを駆動源とし、ブレーキディスクまたは制動部材を一対のブレーキパッドで挟み込むディスクブレーキに限らない。例えば、摩擦噛合クラッチ機構や電磁クラッチ機構を利用した摩擦ブレーキでもよいし、ドラムブレーキでもよい。
また、上記の第3、第4実施形態では、太陽歯車、リング歯車、遊星歯車、キャリアを軸方向前後に対称に一対ずつ備える構成であるが、前後どちらか一方に一組のみでも構わない。
また、上記の第3、第4実施形態では、永久磁石からの磁界が作用する制動部材の部分は、回転軸と同心状の円筒部の内周面とされているが、回転軸と直交する円板部の内面を加えても構わない。さらには永久磁石からの磁界が作用する制動部材の部分を回転軸と直交する円板部の内面のみに変更することもできる。この場合、永久磁石は、円板部の内面と対向する磁石保持ドラム部の側面に磁極の向きが円周方向に隣接するもの同士で異なるように配置される。
本発明の渦電流式減速装置は、あらゆる車両の補助ブレーキとして有用である。
1:制動部材、 11:制動ディスク部、 12:放熱フィン、
13、14:環状部、 15、16:円板部、 17:円筒部、
18、19:環状部、
2:磁石保持部材、 21:磁石保持ディスク部、 22:環状部材、
23、24:環状部、 25:磁石保持ドラム部、 26、27:環状部、
3:永久磁石、 4:磁石カバー、
5:キャリア、 5a、5b、5c:鍔部、
6:太陽歯車、 7:リング歯車、 8:遊星歯車、 9:支軸、
30:回転軸、 31:連結軸、 32:ナット、
33、34、35:軸受、 36:スリーブ、
40:ブレーキディスク、 41:ブレーキキャリパ、
42、43:ブレーキパッド、 44:電動式直動アクチュエータ、
45:電動モータ、 46:ブラケット

Claims (5)

  1. 車両の回転軸に回転可能に支持された制動部材と、
    前記制動部材に円周方向にわたり交互に向きの異なる磁界を作用させる複数の永久磁石と、
    前記永久磁石を保持し、前記回転軸に回転可能に支持された磁石保持部材と、
    前記制動部材および前記磁石保持部材のうちのいずか一方に保持された太陽歯車と、
    前記制動部材および前記磁石保持部材のうちのいずか他方に保持されたリング歯車と、
    前記太陽歯車および前記リング歯車に噛合う遊星歯車と、
    前記遊星歯車を軸支し、前記回転軸に固定されたキャリアと、
    制動時に前記制動部材または前記磁石保持部材を静止させる摩擦ブレーキと、を備えたことを特徴とする渦電流式減速装置。
  2. 前記制動部材は、前記永久磁石、前記磁石保持部材、前記太陽歯車、前記リング歯車、前記遊星歯車および前記キャリアを包囲するように一対の円板部およびこれらの円板部同士の外周部を連結する円筒部からなり、
    前記摩擦ブレーキは、制動時に前記制動部材を静止させることを特徴とする請求項1に記載の渦電流式減速装置。
  3. 前記永久磁石は、前記円筒部の内周面に対向し、磁極の向きが径方向であって、円周方向に隣接するもの同士で磁極が交互に異なって配置されていることを特徴とする請求項2に記載の渦電流式減速装置。
  4. 前記制動部材は、前記永久磁石からの磁界が作用する円板状の制動ディスク部を有し、
    前記永久磁石は、前記制動ディスク部の主面に対向し、磁極の向きが軸方向であって、円周方向に隣接するもの同士で磁極が交互に異なって配置されていることを特徴とする請求項1に記載の渦電流式減速装置。
  5. 前記制動部材は、前記永久磁石からの磁界が作用する円筒状の制動ドラム部を有し、
    前記永久磁石は、前記制動ドラム部の内周面に対向し、磁極の向きが径方向であって、円周方向に隣接するもの同士で磁極が交互に異なって配置されていることを特徴とする請求項1に記載の渦電流式減速装置。
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