JP2011162677A - 高分子化合物、硬化性組成物及び光学材料、並びにそれらの製造方法 - Google Patents

高分子化合物、硬化性組成物及び光学材料、並びにそれらの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】実質的にフッ素原子を分子内に含まず、かつ低い屈折率を示すポリマーを提供すること。また、そのようなポリマーが含まれることにより、低い屈折率を示す光学材料を容易に作製することのできる硬化性組成物を提供すること。
【解決手段】ポリマー鎖中に包接構造からなる空隙を有する高分子化合物を使用する。また、そのようなポリマーを含む硬化性組成物を使用する。このような高分子化合物を含む光学材料又は硬化性組成物から作製された光学材料は、低い屈折率を示すので、実質的にフッ素原子を導入しなくてもよい。
【選択図】なし

Description

本発明は、ポリマー鎖中に空隙構造を有する高分子化合物及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、ポリマー鎖中に空隙構造を有し、低い屈折率の光学材料を製造するのに有用な高分子化合物及びその製造方法、並びにそれを使用した硬化性組成物及び光学材料用組成物に関する。
近年の通信技術の進歩は、光ファイバ技術の進歩に依るところが極めて大きい。この光ファイバは、無機ガラス製又はプラスチック製のものが知られているが、プラスチック製のものは曲げ加工性が良好で低価格で製造できる等の利点を有するため、通信用途をはじめとして、医療用途、照明用途等に広く利用されている。
このようなプラスチック製の光ファイバは、高い屈折率を示すポリマーからなる芯構造と、低い屈折率を示すポリマーからなる鞘構造とを組み合わせたものが使用される。光ファイバがこのような構造をとることにより、光ファイバの中を伝わる光は、光ファイバの内部に閉じ込められ、外部へと漏れ出すことが抑制される。このような光ファイバの光閉じ込め効果は、芯構造に含まれるポリマーと鞘構造に含まれるポリマーとの間の屈折率の差が大きいほど大きくなるので、両ポリマーの屈折率の差が大きいほど光ファイバの伝送ロスが低減されることになる。このため、芯構造として使用されるポリマーは、より高い屈折率を示すものが要望され、鞘構造として使用されるポリマーは、より低い屈折率を示すものが要望されている。
このようなことから、例えば、特許文献1では、光ファイバの鞘材として含フッ素重合体を使用することが開示されている。ポリマー分子にフッ素原子を導入すると、そのポリマーの屈折率を低下させることができるので、このようなポリマーを光ファイバの鞘材として使用することにより、高い伝送効率を有する光ファイバを作製できると期待される。
特開平8−211233号公報
しかしながら、フッ素を分子内に含むポリマーは、燃焼時に、環境に影響を及ぼすと考えられる含ハロゲン化合物を発生させるおそれがある。このため、光ファイバ等を構成する光学材料には、フッ素原子を含むポリマーが含まれないことが望ましい。しかしながら、フッ素原子を分子内に含まず、かつ光学材料用途として十分に低い屈折率を示すポリマーはこれまで存在しなかったのが現状である。
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、実質的にフッ素原子を分子内に含まず、かつ低い屈折率を示すポリマーを提供することを目的とする。また、本発明は、そのようなポリマーが含まれることにより、低い屈折率を示す光学材料を容易に作製することのできる硬化性組成物を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリマー分子中に空隙構造を導入することにより、そのポリマーの屈折率を低下させることが可能なことを見出し、本発明を完成するに至った。
より具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
(1)ポリマー鎖中に包接構造からなる空隙を有する高分子化合物。
(2)前記包接構造として、カリックスアレーン構造、カリックスレゾルシンアレーン構造及びシクロデキストリン構造からなる群より選択される少なくとも1つを含む(1)項記載の高分子化合物。
(3)前記包接構造をポリマー鎖の枝分かれ点とし、複数の枝分かれ構造を有する(1)項又は(2)項記載の高分子化合物。
(4)ポリマー鎖の側鎖又は末端に少なくとも一つの重合性の不飽和基を有する(1)項から(3)項のいずれか1項記載の高分子化合物。
(5)(4)項記載の高分子化合物と、当該高分子化合物に含まれる前記重合性の不飽和基を重合させる重合開始剤と、を含む硬化性組成物。
(6)(5)項記載の硬化性組成物を硬化させた光学材料組成物。
(7)ポリマー鎖中に包接構造からなる空隙を有する高分子化合物の製造方法であって、前記包接構造は、複数の官能基を有する包接化合物を由来とし、前記包接化合物に含まれる官能基と反応して結合を形成することが可能な結合性置換基を複数有する架橋性化合物と、前記包接化合物と、を反応させることにより高分子量化させる高分子化合物の製造方法。
(8)前記包接化合物が3以上の官能基を有することにより、前記包接構造を枝分かれ点として、前記高分子化合物が複数の枝分かれ構造を有することを特徴とする(7)項記載の高分子化合物の製造方法。
(9)前記包接化合物がカリックスアレーン、カリックスレゾルシンアレーン及びシクロデキストリンからなる群より選択される(7)項又は(8)項記載の高分子化合物の製造方法。
(10)(7)項から(9)項のいずれか1項記載の方法により作製された高分子化合物の分子末端に存在する未反応の前記結合性置換基と、前記結合性置換基と反応して結合を形成することが可能な基及び重合性の不飽和基を有する化合物と、を反応させることにより、前記高分子化合物の末端に重合性の不飽和基を導入することを特徴とする重合性高分子化合物の製造方法。
(11)(10)項記載の重合性高分子化合物を、前記不飽和基を重合させる重合開始剤により高分子量化させて硬化させる光学材料の製造方法。
(12)高分子化合物からなる光学材料の分子の少なくとも一部に、空気を内側に保持できる適切な大きさの空隙を備える分子構造を導入することにより、前記光学材料の屈折率を下げる方法。
本発明によれば、実質的にフッ素原子を分子内に含まず、かつ低い屈折率を示すポリマーが提供される。また、本発明によれば、そのようなポリマーが含まれることにより、低い屈折率を示す光学材料を容易に作製することのできる硬化性組成物が提供される。
まず、本発明の高分子化合物について説明する。
本発明の高分子化合物は、そのポリマー鎖中に包接構造からなる空隙を有する。これにより、本発明の高分子化合物は、低い屈折率を示すものとなり、光学材料、又は光学材料の原料として好適に使用される。また、本発明の高分子化合物は、そのポリマー鎖中に空隙構造を有するので、そのような構造を持たない通常のポリマーに比べて軽量であるという特徴も有する。このため、本発明の高分子化合物は、軽量であることが要求される部材を構成する材料としても好適に使用される。ポリマー鎖中に含まれる包接構造からなる空隙は、複数含まれることが好ましいが特に限定されない。
本発明の高分子化合物が低い屈折率を示す理由は、現在調査中であるが、次のような2つの可能性が考えられる。1つ目は、ポリマー鎖中に含まれる包接構造からなる複数の空隙に分子レベルで空気が含まれるためと考えられる。最も低い屈折率を示す物質は、空気であり、その屈折率は1である。このため、本発明の高分子化合物は、その分子構造の所々に、空気と同様の低い屈折率を示す箇所が存在することになり、結果として、高分子化合物全体の屈折率が低下するものと考えられる。
2つ目は、本発明の高分子化合物の密度がその分子内に含まれる空隙構造により低くなるためと考えられる。物質の屈折率nは、Mを分子量、Rを分子屈折、ρを密度とすれば、下記数式(1)のLorentz−Lorenzの式で表され、この数式におけるρR項を小さくすれば、屈折率が低くなることがわかる。そのため、本発明の高分子化合物は、その分子内に含まれる空隙構造によって密度が小さくなり、下記数式(1)におけるρR項が小さくなって低い屈折率を示すものと推察される。
Figure 2011162677
以上のことから、本発明の高分子化合物は、実質的にフッ素原子を含まず、かつ低い屈折率を示すポリマーとなる。なお、「実質的にフッ素原子を含まず」とは、ポリマーの構造中に積極的にフッ素原子を導入しないことを意味するものであり、本発明は、原料となる化合物に微量に含まれていたフッ素原子によって、ポリマー中にフッ素原子が導入されてしまうことを排除しない。
本発明の高分子化合物に含まれる包接構造は、環状の構造である。このような構造としては、カリックスアレーン構造、カリックスレゾルシンアレーン構造、シクロデキストリン構造、クラウンエーテル構造等、大環状化合物の構造が挙げられる。これらの中でも、カリックスアレーン構造、カリックスレゾルシンアレーン構造、シクロデキストリン構造が好ましく用いられる。なお、本発明において、「カリックスアレーン構造」という用語は、カリックスアレーン構造に含まれるフェノール性水酸基のパラ位が置換されているもの及び置換されていないものの両方を含むものとして使用される。すなわち、「カリックスアレーン構造」という用語は、パラ位が置換されていないカリックスアレーン構造のみならず、p−tert−ブチルカリックスアレーン構造等も含む意味となる。このことは、「カリックス[6]アレーン構造」及び「カリックス[8]アレーン構造」という用語にも当てはまる。
また、上記の理由から、分子内に含まれる包接構造による空隙が大きいほど屈折率が低くなることが考えられる。そのような観点からは、包接構造としてカリックスアレーン構造を使用する場合には、フェノール単位が6又は8個含まれるカリックス[6]アレーン構造又はカリックス[8]アレーン構造が好ましく、カリックス[8]アレーン構造がより好ましい。また、包接構造としてシクロデキストリン構造を使用する場合には、グルコース単位が6、7又は8個含まれるα−シクロデキストリン構造、β−シクロデキストリン構造又はγ−シクロデキストリン構造が好ましく、β−シクロデキストリン構造又はγ−シクロデキストリン構造がより好ましく、γ−シクロデキストリン構造が最も好ましい。
また、包接構造は、環状の構造であればよいので、上記カリックスアレーン構造、カリックスレゾルシンアレーン構造、シクロデキストリン構造又はクラウンエーテル構造に限定されず、高分子化合物のポリマー鎖が部分的にループして形成されたループ構造であってもよい。このようなループ構造としては、1本のポリマー鎖がループした構造の他に、ポリマー鎖が高度に枝分かれをし、かつ、これらの枝分かれ構造が互いに再結合することによって形成された分子内環状構造も含まれる。後者の例としては、ポリマー鎖が高度に枝分かれをした構造を有するハイパーブランチポリマーと呼ばれる高分子化合物が挙げられる。本発明者らの検討により、ハイパーブランチポリマーは、通常の直鎖状ポリマーよりも低い屈折率を示すことが判明している。
本発明の高分子化合物は、上記のように空隙を提供する包接構造がポリマー鎖に含まれるが、この包接構造をポリマー鎖の枝分かれ点とし、複数の枝分かれ構造を有することが好ましい。本発明の高分子化合物は、このような構造を有することによって、ポリマー鎖が高度に枝分かれをしたハイパーブランチポリマーとなって複屈折性が低下し、光学材料としてより優れた特性を備えることになる。また、本発明の高分子化合物がハイパーブランチポリマーとなることにより、上記のように、より低い屈折率を示すようになる。
このように、包接構造をポリマー鎖の枝分かれ点とさせ、複数の枝分かれ構造を本発明の高分子化合物に与えるためには、例えば、包接構造に含まれる複数の官能基を利用すればよい。詳細は後述の高分子化合物の製造方法で説明するが、カリックスアレーン構造、カリックスレゾルシンアレーン構造又はシクロデキストリン構造の由来となるカリックスアレーン、カリックスレゾルシンアレーン又はシクロデキストリンには、1分子中に複数個の水酸基が含まれている。そこで、これらの水酸基を利用して分子間架橋することのできる架橋性化合物を使用して、架橋性化合物と包接化合物とからなる高分子化合物を合成すれば、包接構造をポリマー鎖の枝分かれ点とさせることができる。
本発明の高分子化合物は、ポリマー鎖の側鎖又は末端に少なくとも一つの重合性の不飽和基を有することが好ましい。このような不飽和基を有することにより、本発明の高分子化合物は、当該不飽和基を重合させることのできる重合開始剤の存在下、重合して高分子量化し、硬化することができる。不飽和基が導入された本発明の高分子化合物の一例を、下記化学式(1)として模式的に示す。
Figure 2011162677
上記化学式(1)において、丸い図形で示される部分は、包接化合物を由来とする包接構造を示し、波線及び直線部分は、包接構造同士を結合させる架橋性化合物からなる架橋構造を示す。この架橋性化合物は、包接化合物の官能基(例えば、カリックス[8]アレーンのフェノール性水酸基)と反応する置換基(結合性置換基)として、例えば、グリシジル基を有する。このような架橋性化合物として、分子の両端にグリシジル基が導入されたビスフェノールA化合物が例示される。
ここで、反応条件を選択することにより、架橋性化合物の両端に存在する結合性置換基のうちの一方を未反応のまま残すことが可能であり、さらにその未反応の結合性置換基と結合する不飽和化合物を反応させることができる。これにより、高分子化合物に重合性の不飽和結合を導入することができる。上記化学式(1)は、未反応の結合性置換基(例えばグリシジル基)と、その結合性置換基と結合する不飽和化合物(例えばメタアクリル酸)とを反応させて、高分子化合物に重合性のメタアクロイル基を導入した例を示すものである。
架橋性化合物を由来とする架橋構造としては、ビスフェノールA骨格、ビスフェノールF骨格、エチレングリコール骨格、プロピレングリコール骨格、ポリエチレングリコール骨格、1,6−ヘキサンジオール骨格、1,4−ブタンジオール骨格等が例示されるが特に限定されない。
重合性の不飽和基としては、ラジカルの存在により重合することのできる不飽和結合を有する置換基が挙げられ、このような置換基としては、ビニル基、アリル基、スチリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロパルギル基等が例示されるが特に限定されない。
このように重合性の不飽和基を有する高分子化合物と、その不飽和基を重合させる重合開始剤とを含む硬化性組成物も本発明の一つである。このような硬化性組成物を成形用の型に流し込み、当該硬化性組成物に含まれる高分子量化合物を重合させることにより、所望とする形状の硬化物を得ることができる。この硬化物は、低い屈折率を有する光学材料組成物となり、そのまま、又は更なる加工を経て、低い屈折率を示す光学材料となる。硬化性組成物には、型に流し込む際の適性を向上させること等を目的として、適切な溶媒が添加されてもよい。
重合開始剤としては、光重合開始タイプのものであっても、熱重合開始タイプのものであってもよい。
光重合開始タイプの重合開始剤は、紫外線等の活性エネルギー線の照射によりラジカルを発生させる化合物であり、このような化合物としては、例えば、ベンジル、ジアセチル等のα−ジケトン類;ベンゾイン等のアシロイン類;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のアシロインエーテル類;チオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、チオキサントン−4−スルホン酸、ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;アセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、α,α’−ジメトキシアセトキシベンゾフェノン、2,2’−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、p−メトキシアセトフェノン、2−メチル[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン等のアセトフェノン類;アントラキノン、1,4−ナフトキノン等のキノン類;フェナシルクロリド、トリブロモメチルフェニルスルホン、トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等のハロゲン化合物;ジ−t−ブチルパーオキサイド等の過酸化物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド類等が挙げられる。また、市販品としては、イルガキュア(登録商標)184、651、500、907、CGI1369、CG24−61、ダロキュア1116、1173(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)、ルシリンLR8728、TPO(BASF社製)、ユベクリルP36(UCB社製)等を挙げることができる。
熱重合開始剤は、室温又は加熱によってラジカルを発生させる化合物であり、このような化合物としては、例えば、過酸化物、アゾ化合物等を挙げることができ、具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等を挙げることができる。
本発明の高分子化合物の数平均分子量は、1500〜50000であることが好ましく、2500〜8000であることがより好ましい。本発明の高分子化合物の数平均分子量が1500以上であることにより、優れたフィルム形成能を有する。また、本発明の高分子化合物の数平均分子量が50000以下であることにより、高分子化合物の粘度を比較的低く抑えることができるので、優れた加工性と他の化合物との優れた混和性・流動性を付与することができ、上記硬化性組成物としたときに優れた均一の成形性を得ることができる。
次に、本発明の高分子化合物の製造方法について説明する。本発明の製造方法は、ポリマー鎖中に包接構造からなる空隙を有する高分子化合物の製造方法であり、この包接構造は、複数の官能基を有する包接化合物を由来とするものである。そして、この包接化合物に含まれる官能基と反応して結合を形成することが可能な結合性置換基を複数有する架橋性化合物と、上記包接化合物と、を反応させることにより高分子量化させて高分子量化合物を生成させる。すなわち、本発明の製造方法は、上記で説明した高分子化合物を製造する方法である。
本発明の製造方法で使用される包接化合物としては、例えば、カリックスアレーン類、カリックスレゾルシンアレーン類、シクロデキストリン類等が挙げられる。そして、既に説明したように、より大きな空隙を高分子化合物の分子内に導入し、当該高分子量化合物の屈折率を低下させるという観点からは、包接化合物としてカリックスアレーン類を使用する場合には、フェノール単位が6又は8個含まれるカリックス[6]アレーン又はカリックス[8]アレーンが好ましく、カリックス[8]アレーンがより好ましい。また、包接化合物としてシクロデキストリン類を使用する場合には、グルコース単位が6、7又は8個含まれるα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン又はγ−シクロデキストリンが好ましく、β−シクロデキストリン又はγ−シクロデキストリンがより好ましく、γ−シクロデキストリンが最も好ましい。これらの化合物は、公知の合成法によって入手できる他、市販品を入手することもできる。また、カリックスアレーン類は、各フェノール性水酸基のパラ位に各種置換基が結合したものであってもよい。このようなカリックスアレーン類としては、p−tert−ブチルカリックス[6]アレーン、p−tert−ブチルカリックス[8]アレーン等が例示される。なお、本発明において、「カリックスアレーン」という用語は、特に指定のない場合、カリックスアレーン、p−tert−ブチルカリックスアレーン等、カリックスアレーンのフェノール性水酸基のパラ位に各種置換基を有さないもの及び有するものの両方を含むものとして使用される。このことは、「カリックス[6]アレーン」又は「カリックス[8]アレーン」という用語についても同様である。
上記例示した包接化合物のうち、カリックス[6]アレーン又はカリックス[8]アレーンには、複数の官能基として、フェノール性水酸基が1分子中にそれぞれ6個又は8個含まれる。また、上記例示した包接化合物のうち、カリックスレゾルシンアレーンには、複数の水酸基として、フェノール性水酸基が1分子中に8個以上含まれる。また、上記例示した包接化合物のうち、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン又はγ−シクロデキストリンには、複数の官能基として、水酸基が1分子中にそれぞれ18個、21個又は24個含まれる。
これらの包接化合物には、複数の官能基として、複数の水酸基が含まれる。そして、これらの水酸基は、後述する架橋性化合物と反応することにより、包接化合物同士の間で分子間結合を形成させる。これにより、複数の包接化合物同士が架橋性化合物によって架橋(結合)された構造を有する高分子化合物が生成する。なお、包接化合物に含まれる複数の官能基は、架橋性化合物との反応性を調整することを目的として、その一部がアセチル基等により保護されてもよい。これにより、得られる高分子化合物の分子量や架橋密度を調節することができる。
本発明の製造方法で使用される架橋性化合物は、上記包接化合物に含まれる官能基と反応し、結合を形成することが可能な結合性置換基を複数有する。これにより、架橋性化合物は、複数の包接化合物同士を重付加又は重縮合反応によって次々に架橋し、高分子化合物を形成させることができる。
包接化合物に含まれる官能基がフェノール性水酸基の場合、結合性置換基としては、グリシジル基、オキセタン基等が例示され、中でも、反応性が高いことからグリシジル基が好ましい。
結合性置換基としてグリシジル基を有する架橋性化合物としては、2官能性のビスフェノールAジグリシジルエーテル、1,2−エタンジオールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジトールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、多官能性のノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が例示され、中でも、ビスフェノールAジグリシジルエーテルが、官能基の数、分子骨格の熱安定性、剛直さ等を総合的に考慮すると好ましい。ビスフェノールAジグリシジルエーテルは、グリシジル基を2個有する化合物であり、ビスフェノールA骨格の両端にグリシジル基が導入された構造を有する。
上記包接化合物を架橋性化合物と反応させて高分子化合物を作製するには、包接化合物と、架橋性化合物と、必要なら適切な触媒と、を適切な溶媒中で混合し、撹拌しながら反応させればよい。一例として、包接化合物の官能基としてフェノール性水酸基が含まれ、架橋性化合物の結合性置換基としてグリシジル基が含まれる場合には、テトラブチルアンモニウムブロミドを触媒とし、N−メチルピロリドンを溶媒として、150℃で12時間反応させる方法が挙げられるが、特に限定されず、使用する包接化合物と架橋性化合物との組み合わせに応じて、条件を適宜変更して反応させればよい。
本発明の製造方法について、一実施態様を挙げてより具体的に説明する。本実施態様は、包接化合物としてカリックス[8]アレーンを、架橋性化合物としてビスフェノールAジグリシジルエーテルをそれぞれ使用したものである。上述の通り、ビスフェノールAジグリシジルエーテルは、2個のグリシジル基がビスフェノールA骨格の両端に結合した化合物である。なお、本発明は、以下の実施態様には何ら限定されない。
カリックス[8]アレーンには、8個のフェノール性水酸基が含まれる。架橋性化合物による架橋反応を行うのに先立ち、これらフェノール性水酸基の一部を保護基により保護することが好ましい。このような保護基としては、アセチル基、ベンゾイル基、アルキルまたはアリールエーテル基、カルバモイル基等が例示され、中でも、反応プロセスの容易さ、原料の入手の容易さ、取り扱いやすさ等を総合的に判断するとアセチル基が好ましい。これらの保護基を導入する方法は、公知の通りである。例えば、保護基としてアセチル基を導入する場合、カリックス[8]アレーンにアセチルクロリドを作用させればよい。なお、保護基としてアセチル基を選択した場合、実際には、このアセチル基もビスフェノールAジグリシジルエーテルのグリシジル基と反応することが、本発明者らの熱分析計による反応熱の解析によって明らかになっている。このため、保護基としてアセチル基を使用する場合、カリックス[8]アレーンに含まれるフェノール性水酸基と保護基であるアセチル基とが、ビスフェノールAジグリシジルエーテルに含まれるグリシジル基と競争的に反応することになる。この場合であっても、フェノール性水酸基とグリシジル基との反応が優勢であるので、反応制御という観点で、保護基を導入することの効果を期待することができる。
カリックス[8]アレーンに保護基が導入された後、カリックス[8]アレーン1分子に残存するフェノール性水酸基の数は、平均2.1〜8.0が好ましく、平均2.8〜3.5が好ましい。カリックス[8]アレーン1分子に導入される保護基の数が2.1以上であることにより、高分子化合物を多分岐化することができる。なお、カリックス[8]アレーン1分子に残存するフェノール性水酸基の数が2.0以下であることにより、高分子化合物は直鎖状となる。なお、保護基としてアセチル基を導入する場合、カリックス[8]アレーンへの保護基の導入率は、H−NMRにおけるアセチル基のメチルプロトンのケミカルシフトの積分値から算出することができる。そして、この導入率をもとに、カリックス[8]アレーン1分子に、平均何個の保護基が導入されたのかを知ることができる。なお、カリックス[8]アレーン1分子に導入される保護基の数は、カリックス[8]アレーンと保護基の導入剤とのモル比を調節することにより適宜調整することができる。
続いて、保護基を導入されたカリックス[8]アレーンと、架橋性化合物であるビスフェノールAジグリシジルエーテルとを、テトラブチルアンモニウムブロミド触媒の存在下で反応させる。反応に使用する溶媒としては、N−メチルピロリドンが例示される。
この反応における反応温度は、80℃以上であれば時間をかければ反応は進行するが、反応プロセスとしては130℃〜160℃の範囲であることが好ましい。反応温度が130℃以上であることにより、良好にこの反応を進行させることができる。また、反応温度が160℃未満であることにより、反応物がミクロゲルとなることを抑制することができる。反応温度は、150℃であることが最も好ましい。
この反応における触媒としては、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)の他に、テトラブチルアンモニウムクロリド(TBAC)、テトラブチルホスホニウムクロリド(TBPC)、テトラブチルホスホニウムブロミド(TBPB)、テトラフェニルホスホニウムクロリド(TPPC)、テトラフェニルホスホニウムブロミド(TPPB)等を使用することができる。いずれの化合物を触媒として使用してもよいが、対アニオンがブロミドである化合物の方がクロリドである化合物よりも効率良く反応が進行する。他の触媒としてはトリブチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、アルキルイミダゾール類等の第三アミン類やトリフェニルホスフィン等の第三フホスフィン類も触媒として使用できるが触媒活性の観点からは第四オニウム塩類の使用が好ましい。また、触媒の使用量は、ビスフェノールAジグリシジルエーテルに対して5モル%程度を例示することができるが、特に限定されない。
この反応におけるカリックス[8]アレーンとビスフェノールAジグリシジルエーテルとの仕込み比は、カリックス[8]アレーンに対する保護基の導入量により異なるが、例えば、カリックス[8]アレーンの水酸基残存量が1分子当たり3.3の場合、カリックス[8]アレーン:ビスフェノールAジグリシジルエーテル=1:1.75〜1:2.15の範囲を例示することができる。この範囲であれば、数平均分子量(Mn)3200〜8500、分子量分布(Mw/Mn)1.5〜2.7の高分子量化合物を収率14〜50%の範囲で得ることができる。この比率よりもカリックス[8]アレーンの仕込み量が多くなると、可溶性ポリマーの収率が減少し、ゲル化合物の収率が増加するので好ましくない。なお、上記比率よりもビスフェノールAジグリシジルエーテルの仕込み量を多くすると、高分子化合物の末端エポキシ基の存在量を増加させることができる。
反応溶液中における総モノマー濃度は、0.1〜1.5Mが好ましく、0.1〜1.0Mが好ましい。なお、ここでいう「総モノマー濃度」とは、カリックス[8]アレーンとビスフェノールAジグリシジルエーテルとの濃度の和を意味する。反応溶液中の総モノマー濃度が0.1M以上であることにより、架橋反応の進行を良好とすることができ、反応溶液中の総モノマー濃度が1.5M以下であることにより、ミクロゲルの生成による高分子化合物の可溶性成分の収率の低下を抑制することができる。
以上の反応を行うことにより、下記化学式(2)で模式的に示すような高分子化合物が得られる。下記化学式(2)中、丸い図形で示される部分は、原料であるカリックス[8]アレーンに由来する包接構造である。この包接構造は、ポリマー鎖に含まれる空隙となる。そして、下記化学式(2)中、破線及び直線で示す部分は、架橋性化合物であるビスフェノールAジグリシジルエーテルに由来する構造である。下記化学式(2)で示すように、架橋性化合物(ビスフェノールAジグリシジルエーテル)が複数のカリックス[8]アレーンを架橋して高分子構造を形成する。そして、カリックス[8]アレーンが3以上の官能基を有することにより、包接構造(カリックス[8]アレーン)を枝分かれ点として、高分子化合物が複数の枝分かれ構造を有するハイパーブランチポリマーとなることが理解される。高分子化合物をハイパーブランチポリマーとすることの利点については、既に述べた通りである。
Figure 2011162677
上記化学式(2)で模式的に示すように、作製された高分子化合物には、架橋性化合物(ビスフェノールAジグリシジルエーテル)の末端にカリックス[8]アレーンが結合せず、フリーとなっている箇所が存在する。このフリーとなっている架橋性化合物の末端には、未反応の結合性置換基(グリシジル基)が存在する。この未反応の結合性置換基と反応して結合を形成することが可能な基及び重合性の不飽和基の両方を有する化合物を、上記化学式(2)で模式的に示す高分子化合物に反応させることによって、下記化学式(3)として模式的に示す重合性高分子化合物が得られる。
Figure 2011162677
上記化学式(3)で模式的に示す重合性高分子化合物は、上記化学式(2)で模式的に示す高分子化合物の末端に重合性の不飽和基であるメタクリロイル基が導入されたものである。既に説明したように、この化合物は、当該不飽和基を重合させる重合開始剤により高分子量化されて硬化し、光学材料となる。このような光学材料の製造方法も本発明の一つである。上記化学式(3)で模式的に示す高分子化合物に含まれる不飽和基を重合させる重合開始剤、この高分子化合物を重合させて硬化物とする方法、及びこの硬化物を光学材料とする方法については既に述べた通りであるので、ここでの説明は省略する。
上記化学式(2)で模式的に示す高分子化合物の末端に重合性の不飽和基を導入するのに使用される化合物は、本実施態様のように高分子化合物の末端がグリシジル基である場合には、アクリル酸、メタアクリル酸、プロピオン酸、ソルビン酸等のようにカルボキシル基を有する不飽和化合物が例示される。
本実施態様において、上記化学式(2)で模式的に示す高分子化合物の末端に重合性の不飽和基を導入する場合、当該高分子化合物と、上記例示した不飽和基を導入するための化合物とをN−メチルピロリドン等の溶媒に溶解させて溶液とし、TBAB等の触媒の存在下で加温すればよい。反応温度は、40〜200℃の範囲が例示される。また、上記化学式(2)で模式的に示す高分子化合物を合成した反応溶液に、上記例示した不飽和基を導入するための化合物を加えて加温することにより、高分子化合物の末端に不飽和基をワンポットで導入させるワンポット合成法を使用してもよい。
また、本実施態様と異なり、高分子化合物の末端がグリシジル基ではない結合性置換基である場合には、当該結合性置換基と反応して結合を形成させる置換基及び重合性の不飽和基を併せ持つ化合物を適宜選択して使用すればよい。
以上のように、本発明の高分子化合物は、当該高分子化合物の構造中に空気を保持することのできる空隙を含むので、低い屈折率を示す。このことを違う観点から見ると、本発明は、高分子化合物からなる光学材料の分子の少なくとも一部に、空気を内側に保持できる適切な大きさの空隙を備える分子構造を導入することにより、当該光学材料の屈折率を下げる方法を提供するともいえる。このような、光学材料の屈折率を下げる方法もまた、本発明の一つである。
以下、実施例を示すことにより、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、下記実施例の記載に何ら限定されるものではない。
なお、以下の記載において、p−tert−ブチルカリックス[8]アレーンは、スガイ化学工業株式会社より入手したものをそのまま使用し、アセチルクロライドは、東京化成工業株式会社より入手したものをそのまま使用し、メタアクリル酸は、シグマアルドリッチジャパン株式会社より入手したものをそのまま使用した。また、ビスフェノールAジグリシジルエーテルは、ジャパンエポキシレジン株式会社より入手したものをメタノール:メチルエチルケトン=4:1混合溶媒で2回再結晶して精製したものを使用した。また、N−メチルピロリドンは、水素化カルシウム(CaH)により脱水後、蒸留精製したものを使用した。また、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)は、酢酸エチルで再結晶して精製したものを使用し、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン(イルガキュア(登録商標)907)は、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社より入手したものをそのまま使用した。
さらに、以下の記載において、赤外分光光度計(IR)は、日本分光株式会社製FT−IR420型、又は日本バイオラットラボラトリーズ株式会社製Realtime−IR FTS3000型(検出器:Mercury Cadmium Tellide)を使用し、H核磁気共鳴装置(H−NMR)は、日本電子株式会社製JNM−ECA−600型を使用し、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)は、東ソー株式会社製HLC−8020型(カラム:TSKgelG1000H、溶媒:THF、検出器:HLC−8020、内蔵RI・UV−8020)においてポリスチレンを標準として使用した。
[合成例1]
・部分アセチル化されたp−tert−ブチルカリックス[8]アレーン誘導体(BCA[8]−Ac3.3)の合成
500mL三口フラスコに、p−tert−ブチルカリックス[8]アレーン(BCA[8])13.0g(10mmol)を量り取り、フラスコ内をアルゴン置換し、脱水テトラヒドロフラン(THF)250mLを加えた。この溶液にトリエチルアミン19.3mL(BCA[8]の水酸基に対して3当量)を加え、氷冷し、アセチルクロライド3.56mL(3.93g、50.0mmol)を加え、室温で24時間反応させた。反応溶液をクロロホルムで希釈し、0.5N水酸化ナトリウム水溶液で3回、0.5N塩酸水溶液で3回、水で3回、それぞれ洗浄し、有機層を分取して無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥に使用した硫酸マグネシウムを濾別した後、濾液である有機層を濃縮し、この有機層に貧溶媒としてメタノールを加えて沈殿を生成させ、白色粉末のBCA[8]−AC3.3を13.2g(収率88.8%)得た。
得られた化合物の各物性値は、次の通りである。
IR(KBr、cm−1):1762(νC=O),2869,2906,2962(ν−CHaliphatic),3050(νC−Haromatic),3412(νO−H)
H−NMR(600MHz、CDCl) δ(ppm):1.10−1.27(br,71.7H),1.97(br,13.4H),3.46−3.70(br,16.0H),6.97−7.19(br,15.5H)
なお、BCA[8]に含まれる8個のフェノール性水酸基に対するアセチル基の導入率は、H−NMRスペクトルにおける1.97ppmのピークの積分値より算出される。上記の合成手順において、算出されたアセチル基の導入率は55.8%であり、このことから、合成された化合物においてフェノール性水酸基の官能基数は、1分子当たり平均3.3個であることがわかった。なお、上記「BCA[8]−Ac3.3」という名称における「3.3」とは、残存するフェノール性水酸基が1分子当たり平均3.3個であることを意味する。
[合成例2]
・BCA[8]−Ac3.3とビスフェノールAジグリシジルエーテル(BPGE)との重付加反応
10mLナス型フラスコに、BPGEを51.1mg(0.15mmol)、BCA[8]−Ac3.3を150mg(0.1mmol)、触媒としてテトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)を2.5mg(BPGEに対して5mol%)、及び溶媒としてN−メチルピロリドン1mLを量り取り、フラスコ内をアルゴン置換した後、150℃にて12時間反応を行った。反応終了後、反応溶液をTHFで希釈し、この希釈した反応溶液を水200mLに注ぎ、生成したポリマーを析出させた。析出したポリマーを回収してTHFに溶解させ、このTHF溶液を無水硫酸マグネシウムにより乾燥後、溶媒を留去させた。その後、良溶媒としてTHF、貧溶媒としてn−ヘキサンをそれぞれ使用して、再沈精製を行い、得られた精製物を60℃で減圧乾燥することにより、白色固体のポリマーを92.5mg(収率46%)得た。
得られたポリマーの各物性値は、次の通りである。なお、以下の物性値において、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)は、THFを溶離液に用いたSECにより算出した。
SEC(THF): Mn:4400、Mw/Mn:1.8
IR(KBr、cm−1):1759(νC=O),2870,2906,2962(ν−CHaliphatic),3037(νC−Haromatic),3446(νO−H)
H−NMR(600MHz、CDCl) δ(ppm):1.10−1.25(br,72H),1.57−2.10(br,30.6H),3.65−4.00(br,33.1H),6.77−7.14(br,30.0H)
[合成例3]
・BCA[8]−Ac3.3とBPGEとの重付加反応、及びメタクリロイル基の導入による重合性高分子化合物の合成(one−pot two−stage法)(実施例1)
10mL二口フラスコに、BPGEを153.3mg(0.45mmol)、BCA[8]−Ac3.3を335.4mg(0.3mmol)、触媒としてTBABを7.5mg(BPGEに対して5mol%)、及び溶媒としてN−メチルピロリドン0.51mLを量り取り、空気雰囲気下、150℃にて2時間反応を行った。反応終了後、反応容器を氷水につけることにより急冷し重合反応を停止させた。その後、反応溶液に酸素を吹き込みながら、80℃にて、メタクリル酸96mg(1.1mmol)を1分間で滴下し、24時間反応させた。反応終了後、反応溶液をTHFで希釈し、この希釈した反応溶液を水200mLに注ぎ、生成したポリマーを析出させた。析出したポリマーを回収してTHFに溶解させ、このTHF溶液を無水硫酸マグネシウムにより乾燥後、溶媒を留去させた。その後、良溶媒としてTHF、貧溶媒としてn−ヘキサンをそれぞれ使用して、再沈精製を行い、得られた精製物を室温で減圧乾燥することにより、白色固体のポリマーを209.9mg(収率43%)得た。このポリマーを実施例1のポリマーとした。実施例1のポリマーは、上記化学式(3)にて模式的に示すように、高度に分岐した構造を有するハイパーブランチポリマーとなっており、かつ、ポリマー鎖の末端及び側鎖にメタクリロイル基を有するものである。ポリマー鎖の側鎖にもメタクリロイル基が存在する理由は、フェノール性水酸基とグリシジル基とが反応してポリマー鎖の側鎖に水酸基が生じ、この水酸基がメタアクリル酸と反応してエステル結合を生じさせるためである。
得られたポリマーの各物性値は、次の通りである。なお、以下の物性値において、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)は、THFを溶離液に用いたSECにより算出した。
SEC(THF): Mn:2200、Mw/Mn:1.7
IR(KBr、cm−1):3435(νO−H),3014(νC−Haromatic),2963,2906,2870(ν−CHaliphatic),1757(νC=O),1673(νC=Cmethacryl),1607,1583(νC=Caromatic
H−NMR(600MHz、CDCl) δ(ppm):1.09−1.25(br,72.0H),1.59−1.96(br,36.7H),4.00−4.36(br,37.0H),5.61(s,1.3H,methacryl),6.15(s,1.2H,methacryl),6.79−7.15(br,32.7H)
[合成例4]
・BPGEとビスフェノールAとの重付加反応による直鎖状ポリエーテルの合成(比較例1)
すり付き試験管に、BPGEを170mg(0.5mmol)、ビスフェノールA(BPA)を114mg(0.15mmol)、触媒としてテトラフェニルホスホニウムクロリド(TPPC)を19mg(BPGEに対して5mol%)、及び溶媒としてo−ジクロロベンゼン0.5mLを量り取り、容器内を窒素置換した後、100℃にて12時間反応を行った。反応終了後、反応溶液をTHFで希釈し、この希釈した反応溶液を約200mLのエタノール:n−ヘキサン=1:5混合溶媒中に注ぎ、生成したポリマーを析出させた。析出したポリマーを回収してテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、その後、良溶媒としてTHF、貧溶媒としてエタノール:n−ヘキサン=1:1混合溶媒およびn−ヘキサンを用いて、それぞれ1回ずつ再沈精製を行った。得られた精製物を室温で減圧乾燥することにより、白色固体のポリマーを240mg(収率82%)得た。このポリマーを比較例1のポリマーとした。比較例1のポリマーは、包接構造を含まない直鎖状のポリマーである。
得られたポリマーの各物性値は、次の通りである。なお、以下の物性値において、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)は、THFを溶離液に用いたSECにより算出した。
SEC(THF): Mn:38000、Mw/Mn:2.8
IR(KBr、cm−1):3407(νO−H)1607,1510(νC=Caromatic)1296,1043,(νC−O−Cester
H−NMR(600MHz、CDCl) δ(ppm):1.54(s,6.0H),3.92−4.02(br,3.9H),4.07−4.13(br,1.0H),5.34(d,1.0H,J=4.8Hz,OH),6.82(d,4.0H,J=8.4Hz),7.07(d,4.0H,J=8.4Hz)
[合成例5]
・1,1’,1”−トリス(4−グリシジルオキシフェニル)メタン(TGOPM)とビスフェノールAとの重付加反応によるハイパーブランチポリエーテルの合成(比較例2)
すり付き試験管に、TGOPMを92mg(0.2mmol)、ビスフェノールA(BPA)を68mg(0.3mmol)、触媒としてTBABを9.7mg(BPGEに対して5mol%)、及び溶媒としてo−ジクロロベンゼン0.6mLを量り取り、容器内を窒素置換した後、100℃にて2時間反応を行った。反応終了後、反応溶液をTHFで希釈し、この希釈した反応溶液を約200mLのn−ヘキサンに注ぎ、生成したポリマーを析出させた。析出したポリマーを回収してテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、その後、良溶媒としてTHF、貧溶媒として水およびn−ヘキサンを用いて、それぞれ1回ずつ再沈精製を行った。得られた精製物を室温で減圧乾燥することにより、白色固体のポリマーを120mg(収率76%)得た。このポリマーを比較例2のポリマーとした。比較例2のポリマーは、包接構造を含まないハイパーブランチポリマーである。
得られたポリマーの各物性値は、次の通りである。なお、以下の物性値において、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)は、THFを溶離液に用いたSECにより算出した。
SEC(THF): Mn:2000、Mw/Mn:2.2
IR(KBr、cm−1):3401(νO−H)1608,1508(νC=Caromatic)1299,1041,(νC−O−CesterH−NMR(600MHz、CDCl) δ(ppm):1.54(s,6.0H),2.65−2.70(m,0.9H),2.79−2.85(m,0.9H),3.27−3.32(m,1.0H),3.75−3.81(m,1.0H),3.92−4.04(br,5.2H),4.14−4.22(br,1.3H),4.22−4,30(m,0.9H),5.31−5.37(br,1.3H,OH),5.38−5.46(br,0.7H),6.61−6.66(br,1.3H),6.80−6.84(br,2.8H),6.84−6.90(br,4.3H),6.92−7.00(br,5.7H),7.05−7.12(br,2.7H),9.11−9.18(br,0.7H,Ph−OH)
[屈折率の測定]
実施例1、比較例1又は比較例2のポリマーのそれぞれについて、サンプル瓶にポリマー20mgを量り取り、このポリマーにクロロホルム1.0mLを加えて、均一になるまで静置しポリマー溶液を調製した。その後、このポリマー溶液を使用し、スピンコート法によりシリコンウェーハ(15mm角)上に膜厚1000Å付近のポリマーの薄膜を形成させ、エリプソンメーター(株式会社溝尻光学工業所製、DHA−OLX/S4型、測定波長:632.8nm)を用いて屈折率を測定した。その結果を表1に示す。
Figure 2011162677
表1から明らかなように、ポリマー鎖中に包接構造からなる空隙を有する高分子化合物である実施例1のポリマーは、そのような構造を持たない比較例1及び2のポリマーよりも低い屈折率を示すことが理解される。このため、実施例1のポリマーは、実質的にフッ素原子を分子内に含まず、かつ低い屈折率を示すことが理解され、光学材料用途として有用であることが示された。
[硬化性組成物の作製]
実施例1のポリマーは、ポリマー鎖中に包接構造からなる空隙を有し、低い屈折率を示す材料であるのと同時に、そのポリマー鎖の側鎖又は末端に少なくとも一つのメタクリロイル基(重合性の不飽和基)を有する。そこで、以下の通り、実施例1のポリマーと光重合開始剤とを組み合わせて硬化性組成物を調製した。
[試験例1]
サンプル瓶に、実施例1のポリマーを58.5mg(97質量部)、光重合開始剤としてイルガキュア(登録商標)907を1.5mg(3質量部)、及び溶媒として乾燥THFを0.125mL加え、均一な溶液になるまで静置した。この溶液には、実施例1のポリマーと光重合開始剤とからなる硬化性組成物が含まれることになる。得られた溶液をKBr板に塗布し、次いで常圧で数時間乾燥させることで、KBr板上に硬化性組成物のフィルムを作製した。作製された硬化性組成物のフィルムに、250W超高圧水銀灯を光源とした紫外線(照度:5.0mW/cm、254nm)を15分間照射し、その後24時間減圧乾燥を行った。
その結果、IR吸収試験において、メタクリロイル基のνC=Cに由来する1636cm−1のピークが減少し、その転化率が66%であることがわかった。このことから、上記硬化性組成物において、光ラジカル重合反応が進行することが確認された。また、得られた硬化物について熱分析を行った。その結果、光照射前のガラス転移温度は128℃であり、光照射後のガラス転移温度は195℃であった。さらに、熱安定性については、光照射前における5%質量減少温度が315℃、10%質量減少温度が347℃であったのに対し、光照射後では5%質量減少温度が324℃、10%質量減少温度が353℃であった。以上のことから本材料は優れた熱安定性を有している材料である。
[試験例2]
試験例1と同様に硬化性組成物が含まれる溶液を調製し、この溶液をメンブランフィルター(0.45μm)に通した。得られた溶液のうち約5μLをシリコンウェーハ(15mm角)上に滴下し、スピンコーター(1500rpm)を用いて、当該シリコンウェーハ上に約0.1μmに調整した薄膜を作製した。この薄膜を常圧にて数時間乾燥させ、エリプソンメーター(株式会社溝尻光学工業所製、DHA−OLX/S4型、測定波長:632.8nm)を用いて、硬化前(紫外線照射前)の屈折率を測定した。その後、作製した薄膜に250W超高圧水銀灯を光源とした紫外線(照度:5.0mW/cm、254nm)を15分間照射し、エリプソンメーターを用いて硬化後(紫外線照射後)の薄膜の屈折率を測定した。
その結果、光照射後では、光照射前に比べて薄膜の屈折率が0.003減少した。このことは、メタクリロイル基が反応し、メチレン鎖となることによる分子屈折[R]の減少によるものと考えられる。また、膜厚は、光照射の前後で39Å(3.7%)収縮した。これは、架橋反応に伴う体積収縮と考えられる。
試験例1及び試験例2からわかるように、上記硬化性組成物は紫外線照射によって硬化させることが可能であり、硬化後であっても依然として低い屈折率を維持することが理解される。以上の通り、本発明の硬化性組成物は、例えば、それを成形用の型に流し込んでから紫外線照射することにより、容易に屈折率の低い光学材料の成形体とすることが可能である。このことから、本発明の硬化性組成物を使用すれば、低い屈折率を示す光学材料を容易に作製できることが理解される。

Claims (12)

  1. ポリマー鎖中に包接構造からなる空隙を有する高分子化合物。
  2. 前記包接構造として、カリックスアレーン構造、カリックスレゾルシンアレーン構造及びシクロデキストリン構造からなる群より選択される少なくとも1つを含む請求項1記載の高分子化合物。
  3. 前記包接構造をポリマー鎖の枝分かれ点とし、複数の枝分かれ構造を有する請求項1又は2記載の高分子化合物。
  4. ポリマー鎖の側鎖又は末端に少なくとも一つの重合性の不飽和基を有する請求項1から3のいずれか1項記載の高分子化合物。
  5. 請求項4記載の高分子化合物と、当該高分子化合物に含まれる前記重合性の不飽和基を重合させる重合開始剤と、を含む硬化性組成物。
  6. 請求項5記載の硬化性組成物を硬化させた光学材料組成物。
  7. ポリマー鎖中に包接構造からなる空隙を有する高分子化合物の製造方法であって、
    前記包接構造は、複数の官能基を有する包接化合物を由来とし、
    前記包接化合物に含まれる官能基と反応して結合を形成することが可能な結合性置換基を複数有する架橋性化合物と、前記包接化合物と、を反応させることにより高分子量化させる高分子化合物の製造方法。
  8. 前記包接化合物が3以上の官能基を有することにより、前記包接構造を枝分かれ点として、前記高分子化合物が複数の枝分かれ構造を有することを特徴とする請求項7記載の高分子化合物の製造方法。
  9. 前記包接化合物がカリックスアレーン、カリックスレゾルシンアレーン及びシクロデキストリンからなる群より選択される請求項7又は8記載の高分子化合物の製造方法。
  10. 請求項7から9のいずれか1項記載の方法により作製された高分子化合物の分子末端に存在する未反応の前記結合性置換基と、前記結合性置換基と反応して結合を形成することが可能な基及び重合性の不飽和基を有する化合物と、を反応させることにより、前記高分子化合物の末端に重合性の不飽和基を導入することを特徴とする重合性高分子化合物の製造方法。
  11. 請求項10記載の重合性高分子化合物を、前記不飽和基を重合させる重合開始剤により高分子量化させて硬化させる光学材料の製造方法。
  12. 高分子化合物からなる光学材料の分子の少なくとも一部に、空気を内側に保持できる適切な大きさの空隙を備える分子構造を導入することにより、前記光学材料の屈折率を下げる方法。
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