JP2011132380A - ポリアリレート樹脂、ポリアリレート樹脂組成物および該ポリアリレート樹脂組成物からなる成形体 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐熱性、耐衝撃性を維持しつつ、透明性、特に耐熱変色性に優れたポリアリレート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ビスフェノールS残基、ビスフェノールTMC[1,1−ビス(4ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン]残基、フタル酸残基を共重合することにより得られる、結晶性を低下させたビスフェノールSからなるポリアリレート樹脂。
【選択図】なし

Description

本発明は、耐熱性、耐衝撃性を維持しつつ、透明性に優れるポリアリレート樹脂およびポリアリレート樹脂組成物に関する。
二価フェノール類、特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAと記載する場合がある。)とテレフタル酸及び/又はイソフタル酸とからなるポリアリレート樹脂は、エンジニアリングプラスチックとして既によく知られている。このポリアリレート樹脂は耐熱性が高く、耐衝撃性などの機械特性や寸法安定性に優れ、加えて透明であるので、その成形体は電気・電気機器、自動車、機械、食品容器などの分野に幅広く使用されている。
近年、ポリアリレート樹脂やポリカーボネート樹脂に配合されるビスフェノールAには、「内分泌かく乱物質」(Endrocrine Disrupting Chemicals)、通称「環境ホルモン」としての作用があることが報告されており、食品や衣料業界を中心にビスフェノールAの衛生性や安全性に対する懸念が広がってきている。
一般的にポリアリレート樹脂を重合する上で、ビスフェノールA以外に用いることが可能なビスフェノールとしては、ビスフェノールCやシロキサンビスフェノールが挙げられるが、いずれも高価なものであり、経済的に不利であった。ポリアリレート樹脂としたときに優れた耐熱性を得ることが可能で、しかも、経済的に有利なビスフェノールとしては、4,4´−ジハイドロキシジフェニルサルホン(以下、ビスフェノールSと称する場合がある)が挙げられる。ビスフェノールSについては、PES樹脂(ポリエーテルスルホン樹脂)などの他のポリマー原料に使用されたりするなど、ビスフェノールAには及ばないとしても、大量に生産されているため、原料コストも他のビスフェノール類と比較して安価である。さらに、ビスフェノールSを用いて得られたポリアリレート樹脂は、ビスフェノールAを用いて得られたポリアリレート樹脂と、同程度の耐熱性を有するものである。
そのため、ビスフェノールSをモノマー成分として用いたポリアリレート樹脂を製造することができれば、ビスフェノールAを使用することができない用途へのポリアリレート樹脂の適用が期待される。しかも、そのようなポリアリレート樹脂は比較的安価に製造できるという利点がある。ところが、二価フェノール類としてのビスフェノールSを単独で界面重縮合に付することが不可能であるという問題があった。この理由は以下のようなものである。
すなわち、ビスフェノールSをモノマー成分として用いた場合は、ビスフェノールSの溶剤溶解性が悪いために、界面重合でポリアリレート樹脂を重合することが困難である。しかも、重縮合途中で低分子量のポリマー成分の析出が起きるために、重合反応が不十分であり、得られるポリアリレート樹脂の重合度を十分に高めることができなかった。そのため、該ポリアリレート樹脂を使用した成形体は、非常に脆弱であり、特に耐衝撃性が悪く、実用に耐えうるものではなかった。
また、ビスフェノールSをジクロロメタンなどの溶剤に溶解させることなく重縮合を進める方法としては、重合反応における反応温度、減圧度および反応時間を特定の範囲に制御する方法(特許文献1)や、重合工程において特定の極限粘度を有するポリカーボネート樹脂を混合して重合反応に付する方法(特許文献2)に示されるような溶融重合法を用いてポリアリレート樹脂を重合する方法が検討されている。
しかしながら、溶融重合法では、以下のような2つの問題点があった。
第1に、溶融重合法において重合度を高めるためには、仕込まれたモノマー混合物を効率的に攪拌させる必要がある。しかし、ビスフェノールSとイソフタル酸を用いた場合には、その溶融粘度が高くなりすぎる。従って、ある一定以上の分子量になると攪拌トルクが大きくなり過ぎるため攪拌効率が低下し、分子量が上昇しなくなり、実用上の指標であるインヘレント粘度が0.50dl/g以上のポリアリレート樹脂を製造することが非常に困難となる。
第2に、得られたポリアリレート樹脂の透明性が悪くなることである。上記のように溶融粘度が高い場合には、重合温度を高くして溶融粘度を下げ、重合度を高める方法が行われている。しかしながら、300℃を超える高い重合温度で重合を行った場合には、ビスフェノールSの熱分解が発生し、ポリアリレート樹脂の黄変が起こる。すなわち、ビスフェノールSは熱分解することにより酸化キノン体となり黄色に変色するために、得られたポリアリレート樹脂は著しく黄変し、透明性が損なわれる。
特開2003−212980号公報 特開2005−220311号公報
本発明は、上記のような問題点を解決し、耐熱性、機械特性を維持しつつ、透明性に優れるポリアリレート樹脂を提供することを目的とする。また、該ポリアリレート樹脂を用いたポリアリレート樹脂組成物および該ポリアリレート樹脂組成物を成形してなる成形体を提供することを目的とする。
本発明者等は、上記課題を解決するために検討した結果、ビスフェノールS残基、ビスフェノールTMC[1,1−ビス(4ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン]残基、フタル酸残基を共重合することで、その結晶性を低下させて、ビスフェノールSからなるポリアリレート樹脂を製造でき、さらに上記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成を要旨とするものである。
(1)ビスフェノールS残基、ビスフェノールTMC残基およびフタル酸残基から構成され下記式(I)で表されることを特徴とするポリアリレート樹脂。
Figure 2011132380
なお、上記式(I)において、m/n=9/1〜4/6である。
(2)インへレント粘度が0.50〜1.00dl/gであり、かつガラス転移温度が200〜260℃であることを特徴とする(1)のポリアリレート樹脂。
(3)(1)または(2)のポリアリレート樹脂を製造するに際し、純水相と有機相の2相からなる界面重合法で重合を行うことを特徴とするポリアリレート樹脂の製造方法。
(4)(1)又は(2)のポリアリレート樹脂とポリエステル樹脂とが、質量比で(ポリアリレート樹脂)/(ポリエステル樹脂)=100/0〜30/70で配合されていることを特徴とするポリアリレート樹脂組成物。
(5)(4)のポリアリレート樹脂組成物を成形してなる成形体。
本発明によれば、耐衝撃性に優れたビスフェノールSと、溶剤溶解性に優れたビスフェノールTMCを共重合することで、耐熱性、機械特性を維持しつつ、透明性に優れるポリアリレート樹脂を提供することができる。該ポリアリレート樹脂は、ビスフェノールAを用いないため、衛生性、安全性に配慮した材料として有用である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリアリレート樹脂(A)は、ビスフェノールS(4,4´−ジハイドロキシジフェニルサルホン)残基、テトラブロモビスフェノールTMC[1,1−ビス(4ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン]残基およびフタル酸残基とから構成されており、下記式(I)で示される芳香族ポリエステルである。
Figure 2011132380
ビスフェノールSは比較的安価な化合物であり、ポリアリレート樹脂としたときの耐衝撃性や耐熱性に優れるという利点がある。
ビスフェノールTMCは、その化学構造中のシクロヘキサン環の3位に2個のメチレン置換基、5位に1個のメチレン置換基、すなわち合計で3個のメチレン置換基を有している。そのため、得られたポリマーの溶剤溶解性を向上させることができる。したがって、ポリアリレート樹脂の重合時には、得られたポリマーが重合溶媒から析出することがなく、重合反応を適性に進行させることができる。
本発明においては、ビスフェノールSとビスフェノールTMCとを共重合させているため、結晶性を低下することができ、透明性に優れるという利点がある。また、通常、ビスフェノールは溶媒への溶解性に劣るものであるが、本発明においては、ビスフェノールTMCと共重合させることにより、後述の界面重合法においてポリアリレート樹脂を得ることができるまでに溶解性を向上させることができる。
ビスフェノールSとビスフェノールTMCとの共重合比率としては、ビスフェノールSのモル数をmとし、ビスフェノールTMCのモル数をnとして、m/n=9/1〜4/6であることが必要であり、好ましくはm/n=8/2〜4/6であり、より好ましくは、m/n=7/3〜4/6であり、特に好ましくはm/n=7/3〜5/5である。nが1未満であると(つまり、m=9に対して、ビスフェノールTMCの比率が1未満であると)、ビスフェノールSの比率が高くなり過ぎて、得られたポリアリレート樹脂の溶剤溶解性が著しく低下し、重合途中で析出したり、ポリマー液が白濁したりして分子量が十分に上昇しないという問題がある。一方、nが6より大きいと(つまり、m=4に対して、ビスフェノールTMCの比率が6より大きいと)、得られるポリアリレート樹脂の耐衝撃性が低下する。
また、上記ビスフェノールSやビスフェノールTMCの一部を、実質的にその特性を損なわない範囲で、他の二価アルコール類で置き換えてもよい。その他の二価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、1,4−ジヒドロキシメチルシクロヘキサンジオールなどが挙げられる。
本発明のポリアリレート樹脂(A)を構成するフタル酸残基を得るためのフタル酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、またはこれらの混合物などが挙げられる。なかでも、本発明の構造を有するポリアリレート樹脂(A)を合成する上で、良好な合成反応を進めるためには、イソフタル酸とテレフタル酸の混合物を用いることが好ましい。
テレフタル酸とイソフタル酸の混合比率は、性能バランスの観点から、モル比で、テレフタル酸/イソフタル酸=8/2〜2/8であることが好ましく、より好ましくは7/3〜3/7の範囲である。最も好ましいのは、両者の等モル混合物である。
また、フタル酸の一部を、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の脂肪族ジカルボン酸類で置き換えてもよい。このような脂肪族ジカルボン酸としては、ジカルボキシメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、ドデカン二酸などが挙げられる。
本発明において、ポリアリレート樹脂(A)を重合する方法は、界面重合法、溶液重合法、溶融重合法などが挙げられるが、中でも、界面重合法が好ましい。界面重合法によれば、溶液重合法や溶融重合法と比較して反応が速く、フタル酸成分を重合させるための原料であるフタル酸ハライドの加水分解を最小限に抑えることができるため、高分子量のポリアリレート樹脂を容易に得ることができる。また、界面重合法は、得られる樹脂に、優れた粘度コントロール性、低不純物性、透明性を付与しうる重合法である。以下に、一般的な界面重合法によるポリアリレート樹脂の製造方法を詳述する。
界面重合法は、二価フェノール類をアルカリ水溶液に溶解させた水相と、ジカルボン酸成分を重合させるための原料であるジカルボン酸ハライドを水に不溶の有機溶媒に溶解させた有機相とを、触媒の存在下で混合することによっておこなわれる。この界面重合の方法は、W.M.EARECKSON,J.Poly.Sci.XL399(1959)や、特公昭40−1959号公報などに記載されている。
本発明における界面重合法について、以下に詳細に説明する。まず、上記水相としてビスフェノールSとビスフェノールTMCのアルカリ水溶液を調製し、次いで、重合触媒、さらに必要に応じて分子量調整剤(末端封止剤)を添加する。さらに、後述の有機相を調製するための溶媒に、フタル酸成分を重合させるための原料であるフタル酸ハライドを混合して、有機相を調製する。その後、水相の溶液に有機相の溶液を混合し、25℃以下で1〜5時間攪拌しながら界面重合反応を行うことによって、高分子量のポリアリレート樹脂を得ることができる。
上記のフタル酸ハライドは、特に限定されないが、本発明の構造を有するポリアリレートを合成する上で、良好な合成反応を進めるためには、フタル酸クロライドを用いることが好ましい。
アルカリ水溶液を調製するためのアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。なかでも、経済的に有利な点および廃液処理が容易な点から水酸化ナトリウムが好ましい。
重合触媒としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリドデシルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、ピリジン、キノリン、ジメチルアニリン等の第3級アミン;トリメチルベンジルアンモニウムハライド、トリブチルベンジルアンモニウムハライド、トリエチルベンジルアンモニウムハライド、トリブチルベンジルホスホニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド等の第4級アンモニウム塩;トリメチルベンジルホスホニウムハライド、トリブチルベンジルホスホニウムハライド、トリエチルベンジルホスホニウムハライド、テトラブチルホスホニウムハライド、トリフェニルベンジルホスホニウムハライド、テトラフェニルホスホニウムハライド等の第4級ホスホニウム塩などが挙げられる。なかでも、反応速度が速く、フタル酸ハライドの加水分解を最小限に抑える観点から、トリブチルベンジルアンモニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド、テトラブチルホスホニウムハライドが好ましい。
分子量調整剤としては、1官能の化合物が挙げられ、具体的には、フェノール、クレゾール、p−tert−ブチルフェノールなどが例示される。なかでも、取扱性の点から、p−tert−ブチルフェノールが好ましい。なお、分子量調整剤は、ポリアリレート樹脂の重合時に添加されるものである。
有機相を得るための溶媒としては、水と相溶せず、かつポリアリレート樹脂を溶解する溶媒が挙げられる。具体的には、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼンなどの塩素系溶媒;トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族系炭化水素系溶媒;テトラヒドロフランなどが例示され、なかでも、非引火性で製造設備を防爆仕様にしなくても取扱性が良好である点から、ジクロロメタンが好ましい。上記の溶媒に、フタル酸ハライドを溶解させ、この有機相の溶液を前述の水相の溶液に混合し、25℃以下の温度で、1〜5時間攪拌しながら界面重縮合反応を行うことによって、高分子量のポリアリレート樹脂を得ることができる。
本発明のポリアリレート樹脂(A)のインへレント粘度(ηinh)は、0.50〜1.00dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.50〜0.80dl/gである。インへレント粘度が0.5dl/g未満であると、ポリアリレート樹脂の耐衝撃性が低下する場合がある。一方、インへレント粘度が1.00dl/gを超えると、溶融粘度が非常に高くなり、成形体を得るために射出成形および押出成形に付した場合に樹脂の流れが悪くなり、実用に耐えられない場合がある。
本発明において、インへレント粘度を上述の範囲に制御するためには、重量平均分子量を45,000〜110,000の範囲とすればよい。分子量を制御する方法としては、分子量調整剤を添加する方法などが挙げられる。
本発明のポリアリレート樹脂(A)のガラス転移温度は、220〜260℃であることが好ましい。より好ましくは220〜250℃であり、さらに好ましくは230〜250℃である。ガラス転移温度が220℃より低いと耐熱性に劣る場合があり、一方、ガラス転移温度が260℃より高いと成形加工性に劣り、熱分解が生じる場合がある。
本発明のポリアリレート樹脂(A)のシャルピー衝撃値は、実用に耐えうる強度を達成するためには、3kJ/m以上であるものが好ましい。
本発明のポリアリレート樹脂(A)は、ポリエステル樹脂(B)と混合し、ポリアリレート樹脂組成物としてもよい。ポリエステル樹脂は溶融粘度が低いため、樹脂組成物としたときに、流動性を向上させることができる。
上記のポリエステル樹脂(B)としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸と、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ブタンジオール、エチレングリコール等のジオールとの縮合ポリエステルが用いられる。
上記ポリエステル樹脂(B)を構成するジオールとしては、1,4−シクロヘキサンメタノール、1,4−ブタンジオール、エチレングリコールの混合物が用いられてもよい。ここで、その混合モル比率(すなわち、1,4−シクロヘキサンメタノール/1,4−ブタンジオール/エチレングリコール)は、任意に選択することができるが、1,4−シクロヘキサンメタノールのモル分率は、耐油性、耐薬品性の観点から、20〜100モル%であることが好ましい。
また、上記の混合物中、1,4−ブタンジオールのモル分率は0〜30モル%が好ましい。上記の混合物中に1,4−ブタンジオールが含まれると、耐薬品性が向上するという利点があるが、その割合が30モル%を超えると、耐熱性が低下する場合がある。
また、上記混合物中、エチレングリコールのモル分率は0〜80モル%であることが好ましい。上記の混合物中にエチレングリコールが含まれると流動性が向上するという利点があるが、その割合が80モル%を超えると、耐薬品性および耐熱性が低下する場合がある。
なお、本発明の効果を損なわない範囲において、上記以外のジオール成分(他のジオール成分)を配合することは特に制限されない。他のジオール成分としては、流動性向上の観点から、脂肪族ジオールを用いることが好ましい。なかでも、安価で入手が容易であることから、ポリエチレンテレフタレート、1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)成分を含むコポリエステルを好適に用いることができる。1,4−シクロヘキサンジメタノール成分を含むコポリエステルとは、例えば、テレフタル酸、エチレングリコールおよびCHDMからなる、いわゆる非晶性PETコポリマー(PETG樹脂)や、テレフタル酸とCHDMからなるポリシクロへキシレン・ジメチレン・テレフタレート樹脂(PCT樹脂)、テレフタル酸、イソフタル酸、およびCHDMからなるPCTA樹脂(PCT樹脂の酸成分の一部をイソフタル酸で置き換えた樹脂)などが挙げられる。なかでも、全グリコール成分中、CHDM成分を30モル%位以上含むものが好ましい。
本発明のポリエステル樹脂(B)の極限粘度は、機械的強度および成形加工性の観点から、0.5〜1.2dl/gであることが好ましく、より好ましくは、0.6〜1.0dl/gである。なお、極限粘度は、フェノールと四塩化エタンとの等量混合物を溶媒として、温度20℃で測定した溶液粘度に基づき算出される。
ポリアリレート樹脂(A)とポエステル樹脂(B)の混合割合としては、質量比で、(ポリアリレート樹脂)/(ポリカーボネート樹脂)=100/0〜30/70であることが好ましく、さらに好ましくは90/10〜40/60であり、特に好ましくは90/10〜50/50の範囲である。上記混合割合が30/70を下回ると、耐熱性が不足して問題となる場合がある。
本発明のポリアリレート樹脂組成物のガラス転移温度は、155〜220℃であることが好ましく、より好ましくは160〜210℃である。ガラス転移温度が155℃より低いと耐熱性に劣る場合があり、一方、ガラス転移温度が220℃より高いと成形加工性に劣り、熱分解が生じる場合がある。
本発明のポリアリレート樹脂組成物のシャルピー衝撃値は、実用に耐えうる強度を達成するためには、6kJ/m以上であるものが好ましい。
本発明のポリアリレート樹脂またはポリアリレート樹脂組成物には、成形体としたときの耐熱変色性をさらに向上させる観点から、ヒンダードアミン系光安定剤を含有させてもよい。ヒンダードアミン系光安定剤の含有量としては、特に制限されず、適宜の量を用いることができる。
本発明のポリアリレート樹脂またはポリアリレート樹脂組成物には、成形品の耐熱変色性が低下しない範囲内で、紫外線吸収剤、ブルーイング剤、難燃剤、帯電防止剤、滑剤等の各種添加剤を添加してもよい。
本発明のポリアリレート樹脂またはポリアリレート樹脂組成物は、任意の方法で各種成形体に成形することができる。成形方法は特に制限されず、通常の射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、溶融キャスティング法などが用いられる。上記の中でも、本発明の耐熱性、耐衝撃性、難燃性に優れたポリアリート樹脂組成物の特性を、十分に生かして加工出来るため、射出成形法により成形することが好ましい。射出成形における成形条件としては、特に限定されないが、シリンダー温度が250〜370℃、金型温度が70〜140℃であることが好ましい。
本発明のポリアリレート樹脂およびポリアリレート樹脂組成物を成形してなる成形体の具体例としては、薄型テレビ、パソコン、携帯電話、モバイル機器等のディスプレー周り、筐体等の電化製品用樹脂部品、ヘッドライトカバー、ランプカバー、リフレクター等の自動車用外装樹脂部品、インストルメントパネル周りの各種照明、表示灯、警告灯のほか、天井、足周り、ドアサイドの室内灯等の自動車用内装樹脂部品が挙げられる。
このようにして得られたポリアリレート樹脂組成物は、耐熱性、耐衝撃性、透明性、特に耐熱変色性、耐衝撃性、難燃性が要求される分野で特に好適に用いられる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
1.原料
(1)フタル酸ハライド
・テレフタル酸クロライド(TPC)(イハラニッケイ化学工業社製、「テレフタロイルクロライド」)
・イソフタル酸クロライド(IPC)(イハラニッケイ化学工業社製、「イソフタロイルクロライド」)
(2)脂肪族カルボン酸ハライド
・シクロへキサンジカルボン酸クロライド(CHDC)
(3)ビスフェノールS(BPS)
・4,4−ジハイドロキシジフェニルスルホン(日華化学社製、「ビスフェノールS」)
(4)ビスフェノールTMC(BPTMC)
・ビスフェノール3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(本州化学工業社製、「BisP−TMC」)
(5)ビスフェノールAP(BPAP)
・1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン(本州化学工業社製、「BisP−AP」)
(6)ビスフェノールZ(BPZ)
・4,4´−シクロヘキサン−1,1−ジイルジフェノール(本州化学工業社製、「BisP−Z」)
(7)ポリエステル樹脂
・B−1
ポリエチレンテレフタレート(ユニチカ社製、「NEH−2070」)
極限粘度:0.88dl/g
・B−2
PETG(イーストマンケミカル社製、「イースター6763」)
テレフタル酸/エチレングリコール/CHDM=100/68/32(モル比)
極限粘度:0.70dl/g
・B−3
PCTA(イーストマンケミカル社製、「サーミックス6761」)
テレフタル酸/CHDM=100/100(モル比)
極限粘度:0.90dl/g
2.試験方法
実施例中の各種の特性値については以下のようにして測定、評価を行った。
(1)インヘレント粘度
1,1,2,2−テトラクロロエタンを溶媒とし、該溶媒中に実施例および比較例で得られたポリアリレート樹脂を濃度1g/dlで溶解させて溶液を得た。温度25℃の条件で、溶媒の粘度[η]および溶液の粘度[η]を測定し、下記式によりインヘレント粘度を算出した。
(インヘレント粘度)=In(η/η
(2)ガラス転移温度
示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー社製、商品名「DSC7」)を用いて、昇温速度20℃/分で40℃から300℃まで昇温し、得られた昇温曲線中のガラス転移に由来する2つの折曲点温度の中間点をガラス転移温度とした。
(3)耐衝撃性(シャルピー衝撃値)
射出成形機(東芝機械社製、「EC100N型」)を用いて、実施例および比較例で得られたポリアリレート樹脂またはポリアリレート樹脂組成物から、ISO準拠の試験片を所定の成形条件で成形し、ISO 179−1に準拠して測定した。
(4)重合性
界面重合法、または溶融重合法で得られたポリアリレート樹脂の重合性は、以下の基準で評価した。
○:重合後のポリマー液が透明であり、かつ、クロロホルムにポリマーが溶解する。
△:重合後のポリマー液が白濁し、かつ、クロロホルムにポリマーが溶解する。
×:重合後のポリマー液が白濁し、かつ、クロロホルムにポリマーが溶解しない。
(5)透明性(全光線透過率)
射出成形機(東芝機械社製、「EC100N型」を用いて厚さ2mmの見本版を成形し、色調測定装置(日本電色社製、「SZ−Σ80型側色器」)により、JIS K7103に基づいて測定した。本発明においては、全光線透過率が60%以上であるものを実用に耐えうるものとした。
(実施例1)
攪拌容器を備えた反応容器中に、ビスフェノールSを14.56kg(58モル)、ビスフェノールTMCを7.74kg(25モル)、分子量調整剤としてp−tert−ブチルフェノール(DIC社製)624g(4.2モル)、アルカリとして水酸化ナトリウム(東ソー社製)8.35kg(209モル)、重合触媒としてベンジル−トリ−n−ブチルアンモニウムクロライド(ライオンアクゾ社製、「BTBAC−50」)624g、ハイドロサルファイトナトリウム(BASF社製)111gを注入し、さらに反応容器中に水600Lを注入して溶解し、水相とした。
さらに、別の反応容器中で、ジクロロメタン(トクヤマ社製、「メチレンクロライド」)350Lに、イソフタル酸クロライドとテレフタル酸クロライドの等量混合物であるフタル酸クロライド(モル比=50:50)17.30kg(85モル)を溶解し、有機相とした。この有機相を、既に攪拌している水相溶液中に強攪拌下で添加し、温度を15℃に保って2時間重合反応を行った。この後、攪拌を停止し、デカンテーションにより水相と有機相を分離した。水相を除去した有機相に、純水600Lと酢酸100mLを添加して反応を停止し、さらに15℃で30分間攪拌した。この有機相を純水で5回洗浄し、該有機相をヘキサン1000L中に添加してポリマーを沈殿させた。沈殿したポリマーを有機相から分離し、次いで120℃で1日間乾燥させて、ポリアリレート樹脂(A−1)を得た。得られたポリアリレート樹脂(A−1)について1H−NMR(日本電子社製、「ECA500 NMR」)を用いて組成分析を行ったところ、ビスフェノールS成分、ビスフェノールTMC成分、フタル酸成分の重合比率は、仕込み比率(混合比率)と同一であることが確認された。その結果を表1に示す。
Figure 2011132380
(実施例2〜5、比較例1〜7)
表1に示す組成に従い、実施例1と同様にして、ポリアリレート樹脂(A−2)〜(A−12)を得た。評価結果を表1に示す。
(実施例6)
エステル化反応装置にビスフェノールS14.56kgとビスフェノールTMC7.74kgとイソフタル酸12.11kgとテレフタル酸5.19kg(モル比:BPS/BPTMC/イソフタル酸/テレフタル酸=80/20/50/50)と、無水酢酸16.66kg(91.3モル)とを仕込み、窒素雰囲気下で、常圧、140℃で3時間攪拌混合しながら反応させた。
その後、280℃まで4時間で昇温し、1時間保持後、さらに310℃まで1.5時間かけて昇温した。その後、120分かけて3hPaまで減圧した。その時の反応率は90%、溶融粘度は1200dPa・sであった。常法によりストランド状に払い出し、チップ化して、溶融重合法により製造されたポリアリレート樹脂(A−13)を得た。評価結果を表1に示す。
(実施例7)
実施例1で得られたポリアリレート樹脂(A−1)とポリエステル樹脂(B−1)の混合比率を(A−1)/(B−1)=60/40(質量比)とし、二軸押出機(東芝機械社製、商品名「TEM−41SS型」)を用いて、シリンダー温度300℃、スクリュー回転250rpm、吐出量50kg/hにて溶融混練を行い、その後、ストランド状に押し出して、冷却した後、カッティングして、ポリアリレート樹脂組成物ペレットを得た。得られたポリアリレート樹脂組成物を、上述の射出成形機を用いて、シリンダー温度300℃、金型温度100℃にて、厚み2mm、長さ70mm、幅40mmの試験片を作製し、評価に付した。その評価結果を表2に示す。
Figure 2011132380
(実施例8〜14)
表2に示すように、ポリアリレート樹脂とポリエステル樹脂の種類、およびポリアリレート樹脂とポリエステル樹脂の混合比率を変えて、実施例1と同様にして試験片を作製し、評価に付した。その評価結果を表2に示す。
(比較例8〜9)
表3に示すように、ポリアリレート樹脂とポリエステル樹脂の種類、およびポリアリレート樹脂とポリエステル樹脂の混合比率を変えて、実施例1と同様にして試験片を作製し、評価に付した。その評価結果を表3に示す。
Figure 2011132380
実施例1〜5のポリアリレート樹脂、および実施例7〜13のポリアリレート樹脂組成物は、耐熱性、耐衝撃性に優れるものであった。
実施例6のポリアリレート樹脂は、溶融重合法で重合を行ったため、界面重合法で重合を行った場合と対比すると重合性が低く、耐衝撃性もやや劣るものであった。また、得られたポリアリレート樹脂が黄変し、透明性も若干損なわれた。しかしながら、実用に供することは可能である。
実施例14は、溶融重合法で得られたポリアリレート樹脂を用いたため、耐衝撃性にやや劣るものであった。
比較例1および2のポリアリレート樹脂は、ビスフェノールTMCの共重合比率が高いため、耐衝撃性に劣るものであった。
比較例3のポリアリレート樹脂は、ビスフェノールTMCを用いなかったため、耐衝撃性に劣り、また、重合性にも劣っていた。
比較例4のポリアリレート樹脂は、ビスフェノールTMCの代わりにビスフェノールZを用いたため、耐衝撃性に劣り、また重合性にも劣っていた。
比較例5のポリアリレート樹脂は、ビスフェノールTMCの代わりにビスフェノールAPを用いたため、耐衝撃性に劣っていた。
比較例6のポリアリレート樹脂は、ビスフェノールTMCの代わりにビスフェノールZを用いたため、耐衝撃性に劣っていた。
比較例7のポリアリレート樹脂は、ビスフェノールSの代わりにビスフェノールAPを用いたため、耐衝撃性に劣っていた。
比較例8は、比較例1で得られたポリアリレート樹脂を用いてポリアリレート樹脂組成物を作製したため、耐衝撃性、耐熱性に劣っていた。
比較例9は、比較例2で得られたポリアリレート樹脂を用いてポリアリレート樹脂組成物を作製したため、耐衝撃性、耐熱性に劣っていた。

Claims (5)

  1. ビスフェノールS残基、ビスフェノールTMC残基およびフタル酸残基から構成され下記式(I)で表されることを特徴とするポリアリレート樹脂。
    Figure 2011132380
    なお、上記式(I)において、m/n=9/1〜4/6である。
  2. インへレント粘度が0.50〜1.00dl/gであり、かつガラス転移温度が200〜260℃であることを特徴とする請求項1記載のポリアリレート樹脂。
  3. 請求項1または2に記載のポリアリレート樹脂を製造するに際し、純水相と有機相の2相からなる界面重合法で重合を行うことを特徴とするポリアリレート樹脂の製造方法。
  4. 請求項1又は2記載のポリアリレート樹脂とポリエステル樹脂とが、質量比で(ポリアリレート樹脂)/(ポリエステル樹脂)=100/0〜30/70で配合されていることを特徴とするポリアリレート樹脂組成物。
  5. 請求項4記載のポリアリレート樹脂組成物を成形してなる成形体。
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