JP2011119385A - 希土類元素を含む鉄系磁石合金粉、およびその製造方法、得られるボンド磁石用樹脂組成物、ボンド磁石、並びに圧密磁石 - Google Patents
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Abstract
【課題】ボンド磁石用組成物としたときの成形性やボンド磁石の機械強度に優れるボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末とその製造方法を提供。
【解決手段】あらかじめ希土類元素を含む鉄系磁石合金からなる磁石粉末の表面にリン酸鉄と希土類金属リン酸塩を含む複合金属リン酸塩被膜(A)を形成し熱処理を施した後、シリケート被膜(B)を被覆形成してなり、かつX線光電子分光装置により表面を分析したとき、実質的に金属状態のFeが検知されない希土類元素を含む鉄系磁石合金粉;希土類元素を含む鉄系磁石合金粗粉を有機溶媒中で粉砕する際、又は粉砕後に、リン酸を添加し攪拌して、磁石合金粉の表面に複合金属リン酸塩被膜(A)を形成し、この磁石合金粉スラリーから溶液を分離除去した後に減圧下で100℃以上として熱処理を施す工程と、次いで、ポリアルコキシポリシロキサンを磁石合金粉に対して0.01〜5質量%の割合で添加し、混合して攪拌して、被膜(A)の表面にシリケート被膜(B)を形成する工程とを含む希土類元素を含む鉄系磁石合金粉の製造方法などによって提供する。
【選択図】なし
【解決手段】あらかじめ希土類元素を含む鉄系磁石合金からなる磁石粉末の表面にリン酸鉄と希土類金属リン酸塩を含む複合金属リン酸塩被膜(A)を形成し熱処理を施した後、シリケート被膜(B)を被覆形成してなり、かつX線光電子分光装置により表面を分析したとき、実質的に金属状態のFeが検知されない希土類元素を含む鉄系磁石合金粉;希土類元素を含む鉄系磁石合金粗粉を有機溶媒中で粉砕する際、又は粉砕後に、リン酸を添加し攪拌して、磁石合金粉の表面に複合金属リン酸塩被膜(A)を形成し、この磁石合金粉スラリーから溶液を分離除去した後に減圧下で100℃以上として熱処理を施す工程と、次いで、ポリアルコキシポリシロキサンを磁石合金粉に対して0.01〜5質量%の割合で添加し、混合して攪拌して、被膜(A)の表面にシリケート被膜(B)を形成する工程とを含む希土類元素を含む鉄系磁石合金粉の製造方法などによって提供する。
【選択図】なし
Description
本発明は、希土類元素を含む磁石合金粉、およびその製造方法、得られるボンド磁石用樹脂組成物、ボンド磁石、並びに圧密磁石に関し、さらに詳しくは、表面被覆が施され腐食環境下でも錆が発生せず、耐食性および樹脂密着性に優れる希土類元素を含む磁石合金粉、その製造方法、及びそれを用いた機械強度に優れるボンド磁石用樹脂組成物、ボンド磁石、圧密磁石に関するものである。
近年、ボンド磁石(樹脂結合型磁石)は、樹脂バインダーと磁石合金粉を充填して容易に製造できるため、新しい用途開拓が繰り広げられている。特に、エレクトロニクス用途で高い寸法精度や複雑形状の加工成型を要求され、この要求を満足するボンド磁石が望まれている。ボンド磁石(樹脂結合型磁石)の製造方法としては、押出成形、圧縮成形、射出成形等の方法があるが、ユーザーからの軽薄短小の強い要望を満足する方法は、射出成形法が適している。
一般に、希土類元素を含む鉄系磁石合金粉を、樹脂バインダーと混練してボンド磁石を製造する場合、該磁石合金粉を数μm程度に粉砕する必要がある。粉砕は不活性ガスまたは有機溶媒中で行うが、粉砕後の磁石合金粉は極めて活性であり、大気に触れると該磁石合金粉は急激に酸化が進み磁気特性を劣化させるので、微粉砕後に、僅かな酸素を不活性雰囲気に導入して徐酸化する方法が良いとされている。
一般に、希土類元素を含む鉄系磁石合金粉を、樹脂バインダーと混練してボンド磁石を製造する場合、該磁石合金粉を数μm程度に粉砕する必要がある。粉砕は不活性ガスまたは有機溶媒中で行うが、粉砕後の磁石合金粉は極めて活性であり、大気に触れると該磁石合金粉は急激に酸化が進み磁気特性を劣化させるので、微粉砕後に、僅かな酸素を不活性雰囲気に導入して徐酸化する方法が良いとされている。
こうしたボンド磁石の中でも、特に、希土類元素を含む鉄系磁石合金粉を用いたボンド磁石は、磁石合金粉と樹脂バインダーとの酸塩基相互作用や前記磁石合金粉からの金属イオンによる酸化劣化のため、分子量の上昇や樹脂の変質による粘度上昇を招き(混練トルク上昇)、コンパウンドの作製が困難になる。すなわち、このようなコンパウンドは、射出成形法を用いて成形を試みてもコンパウンドが流動せずボンド磁石の成形性の指標となる流動性Q値も低いものとなる。
これらの課題を解決するため、例えば、粉末表面にリン酸塩処理やクロム酸塩処理などの化成処理を行うこと(例えば、特許文献1)、亜鉛やアルミニウムを蒸着すること(例えば、特許文献2)、高分子被膜を形成すること(例えば、特許文献3)、さらには、金属めっきをすること(例えば、特許文献4)、磁石合金粉を被膜処理する場合、粉砕溶媒中にリン酸を添加し、希土類や鉄のリン酸塩を合金粉表面に生成させる方法(特許文献5参照)など様々な改善策も提案されている。
これらの課題を解決するため、例えば、粉末表面にリン酸塩処理やクロム酸塩処理などの化成処理を行うこと(例えば、特許文献1)、亜鉛やアルミニウムを蒸着すること(例えば、特許文献2)、高分子被膜を形成すること(例えば、特許文献3)、さらには、金属めっきをすること(例えば、特許文献4)、磁石合金粉を被膜処理する場合、粉砕溶媒中にリン酸を添加し、希土類や鉄のリン酸塩を合金粉表面に生成させる方法(特許文献5参照)など様々な改善策も提案されている。
しかし、上記いずれかの方法をSm−Fe−N系ボンド磁石用合金粉末に適用すると、混練トルクの上昇を多少抑制できることから磁石合金粉と樹脂バインダーとの酸塩基相互作用や前記磁石合金粉からの金属イオンの影響はある程度抑制できるが、磁石粉末表面の性状が荒れて肝心の磁気特性が劣化すると問題が生じる。また、被膜として充分な耐酸化性効果を得るためには、数10μm程度の膜厚にする必要があることから、磁気特性を発現する材料の体積分率が低下し、やはり磁気特性の低下を招いてしまう。また、被膜を形成する際に微粉末同士の凝集により、磁気異方性の方向が不揃いになり、ボンド磁石成形体の磁気特性を低下させ、さらに射出成型時の熱歪による機械的強度を低下するなど、本質的な改善には至っていないのが実情である。
一方、本出願人も上述の課題解決のためにさまざまな検討を行い、ボンド磁石としての成形体の機械強度を改善し、且つ塩水中での錆の発生抑制を目的として、希土類元素を含む鉄系磁石合金粗粉を有機溶媒中で粉砕するか、粉砕後に、リン酸を添加し攪拌して、磁石合金粉の表面に複合金属リン酸塩被膜を形成し、次いで、この磁石合金粉スラリーから溶液を分離除去した後に、アルコキシシリケートを混合し攪拌し、アルコキシシリケートを加水分解して、複合金属リン酸塩被膜表面にシリケート被膜を形成する工程とを含む磁石合金粉の製造方法を提案してきた(例えば、特許文献6)。しかしながら、この方法によれば、成形体の機械強度を改善でき、かつ塩水中の錆の発生を十分に抑制できたものの、射出成形性の指標となる流動性Q値や成形性を十分には向上できなかった。
本発明の目的は、前述した従来技術の問題点に鑑み、表面被覆が施され腐食環境下でも錆が発生せず、耐食性および樹脂密着性に優れる希土類元素を含む磁石合金粉、およびその製造方法、それを用いた機械強度に優れるボンド磁石用樹脂組成物並びに、成形性に優れるボンド磁石、圧蜜磁石を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、希土類元素を含む鉄系磁石合金粉末に、先ず、鉄と希土類元素の金属リン酸塩からなる複合金属リン酸塩被膜を形成し、減圧下、100℃以上で熱処理を施し、該複合金属リン酸塩被膜を安定化させ、次に、この複合金属リン酸塩被膜の表面に特定のシリケート被膜を形成することで、X線光電子分光装置により表面を分析したとき、実質的に金属状態のFeが検出されなくなり、腐食環境下でも錆が発生せず、耐食性および樹脂密着性に優れる希土類元素を含む磁石合金粉が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の第1の発明によれば、あらかじめ希土類元素を含む鉄系磁石合金からなる磁石粉末の表面にリン酸鉄と希土類金属リン酸塩を含む複合金属リン酸塩被膜(A)を形成し、熱処理を施した後、シリケート被膜(B)を被覆形成してなり、かつX線光電子分光装置により表面を分析したとき、実質的に金属状態のFeが検知されないことを特徴とする希土類元素を含む鉄系磁石合金粉が提供される。
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、磁石粉末の平均粒径が8μm以下であることを特徴とする希土類元素を含む鉄系磁石合金粉が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、複合金属リン酸塩被膜(A)が、Al、Zn、Mn、Cu、Caの群から選ばれる少なくとも1種の金属を成分とする金属リン酸塩をさらに含有することを特徴とする希土類元素を含む鉄系磁石合金粉が提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、シリケート被膜(B)が、下記の一般式(1)で示される少なくとも一種のポリアルコキシポリシロキサンを加水分解して得られることを特徴とする希土類元素を含む鉄系磁石合金粉が提供される。ただし、式(1)中、Rは同一あるいは異なる炭素数1〜6のアルキル基、nは2〜100である。
また、本発明の第3の発明によれば、複合金属リン酸塩被膜(A)が、Al、Zn、Mn、Cu、Caの群から選ばれる少なくとも1種の金属を成分とする金属リン酸塩をさらに含有することを特徴とする希土類元素を含む鉄系磁石合金粉が提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、シリケート被膜(B)が、下記の一般式(1)で示される少なくとも一種のポリアルコキシポリシロキサンを加水分解して得られることを特徴とする希土類元素を含む鉄系磁石合金粉が提供される。ただし、式(1)中、Rは同一あるいは異なる炭素数1〜6のアルキル基、nは2〜100である。
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、被膜の厚さの合計が1〜100nmであることを特徴とする希土類元素を含む鉄系磁石合金粉が提供される。
さらに、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、被膜の厚さの合計が1〜100nmであることを特徴とする希土類元素を含む鉄系磁石合金粉が提供される。
さらに、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、被膜の厚さの合計が1〜100nmであることを特徴とする希土類元素を含む鉄系磁石合金粉が提供される。
一方、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明に係り、希土類元素を含む鉄系磁石合金粗粉を有機溶媒中で粉砕する際、又は粉砕後に、リン酸を添加し攪拌して、磁石合金粉の表面に複合金属リン酸塩被膜(A)を形成し、この磁石合金粉スラリーから溶液を分離除去した後に減圧下で100℃以上として熱処理を施す工程と、次いで、ポリアルコキシポリシロキサンを磁石合金粉に対して0.01〜5質量%の割合で添加し、混合して攪拌して、被膜(A)の表面にシリケート被膜(B)を形成する工程とを含むことを特徴とする希土類元素を含む鉄系磁石合金粉の製造方法が提供される。
また、本発明の第8の発明によれば、第7の発明において、有機溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、2−メトキシエタノール、エタノール、メタノール、又はイソプロピルアルコールから選ばれる1種以上であることを特徴とする希土類元素を含む鉄系磁石合金粉の製造方法が提供される。
また、本発明の第9の発明によれば、第7の発明において、リン酸の添加量が、磁石合金粉の粉末重量当たり、0.1〜2mol/kgであることを特徴とする希土類元素を含む鉄系磁石合金粉の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第10の発明によれば、第7の発明において、シリケート被膜(B)が形成された後、磁石合金粉が、100〜150℃で焼き付け乾燥されることを特徴とする希土類元素を含む鉄系磁石合金粉の製造方法が提供される。
また、本発明の第9の発明によれば、第7の発明において、リン酸の添加量が、磁石合金粉の粉末重量当たり、0.1〜2mol/kgであることを特徴とする希土類元素を含む鉄系磁石合金粉の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第10の発明によれば、第7の発明において、シリケート被膜(B)が形成された後、磁石合金粉が、100〜150℃で焼き付け乾燥されることを特徴とする希土類元素を含む鉄系磁石合金粉の製造方法が提供される。
一方、本発明の第11の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明において、希土類元素を含む鉄系磁石合金粉に、樹脂バインダーとして熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を含有してなるボンド磁石用樹脂組成物が提供される。
また、本発明の第12の発明によれば、第11の発明において、流動性Q値が0.3cm3/sec以上であることを特徴とするボンド磁石用樹脂組成物が提供される。
また、本発明の第12の発明によれば、第11の発明において、流動性Q値が0.3cm3/sec以上であることを特徴とするボンド磁石用樹脂組成物が提供される。
さらに、本発明の第13の発明によれば、第11又は12の発明に係り、ボンド磁石用樹脂組成物を、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法又は射出プレス成形法から選ばれるいずれかの成形法により成形して得られるボンド磁石が提供される。
また、本発明の第14の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明に係り、希土類元素を含む鉄系磁石合金粉を圧密化して得られ、見かけの密度が真密度の85%以上であることを特徴とする圧密磁石が提供される。
また、本発明の第14の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明に係り、希土類元素を含む鉄系磁石合金粉を圧密化して得られ、見かけの密度が真密度の85%以上であることを特徴とする圧密磁石が提供される。
本発明の希土類元素を含む鉄系磁石合金粉は、複合金属リン酸塩被膜を形成後、熱処理を施しているので、磁石合金粉末の表面が従来よりも格段と安定で均一な複合金属リン酸塩被膜で保護されることになり、かつ、その表面に、さらに強固なシリケート被膜を配置しているため、極めて耐食性に優れている。
そのため、この磁石合金粉を用いたボンド磁石用樹脂組成物は、5%塩水中でも錆の発生が見られず、かつ射出成形性の指標となる流動性Q値や成形性が向上し、耐食性に優れるボンド磁石、圧密磁石の製造が可能となり、工業的価値は極めて大きい。
そのため、この磁石合金粉を用いたボンド磁石用樹脂組成物は、5%塩水中でも錆の発生が見られず、かつ射出成形性の指標となる流動性Q値や成形性が向上し、耐食性に優れるボンド磁石、圧密磁石の製造が可能となり、工業的価値は極めて大きい。
以下、本発明の耐食性、耐酸化性および樹脂密着性に優れる希土類元素を含む鉄系磁石合金粉(以下、表面被覆磁石合金粉ともいう)、及びその製造方法、それを用いたボンド磁石用樹脂組成物、ボンド磁石、圧密磁石について詳細に説明する。
1.表面被覆磁石合金粉
本発明の表面被覆磁石合金粉は、あらかじめ希土類元素を含む鉄系磁石合金からなる磁石粉末の表面にリン酸鉄と希土類金属リン酸塩を含む複合金属リン酸塩被膜(A)を形成し熱処理を施した後、シリケート被膜(B)を被覆形成してなり、かつX線光電子分光装置により表面を分析したとき、実質的に金属状態のFeが検出されないことを特徴とする。
本発明の表面被覆磁石合金粉は、あらかじめ希土類元素を含む鉄系磁石合金からなる磁石粉末の表面にリン酸鉄と希土類金属リン酸塩を含む複合金属リン酸塩被膜(A)を形成し熱処理を施した後、シリケート被膜(B)を被覆形成してなり、かつX線光電子分光装置により表面を分析したとき、実質的に金属状態のFeが検出されないことを特徴とする。
磁石合金粉は、希土類元素を含む鉄系磁石合金の粉末であれば、特に制限されない。例えば、希土類−鉄−ほう素系、希土類−鉄−窒素系などの各種磁石合金粉を使用でき、中でも希土類−鉄−窒素系の磁石合金粉が好適である。希土類元素としては、Sm、Nd、Pr、Y、La、Ce、またはGd等が挙げられ、単独若しくは混合物として使用できる。これらの中では、特にSm又はNdを5〜40原子%、Feを50〜90原子%含有するものが磁石特性が高いため好ましい。また、上記磁石合金粉は、ボンド磁石や圧密磁石の原料であるため、平均粒径が8μm以下、特に5μm以下であることが望ましい。平均粒径が8μmを超えると、成形性が悪化するので好ましくない。
(A)複合金属リン酸塩被膜
本発明において、複合金属リン酸塩被膜(A)とは、リン酸鉄と希土類金属リン酸塩を含む被膜である。すなわち磁石合金粉は、その表面が鉄と希土類元素を金属成分として含む金属リン酸塩(a−1)で均一に被覆されていることが必要である。被膜は、金属リン酸塩(a−1)だけでも良いが、さらにアルミニウム、亜鉛、マンガン、銅又はカルシウムのいずれか1種以上を金属成分として含む金属リン酸塩(a−2)が複合化した被膜で均一に被覆されているものが好ましい。
ここで、均一に被覆されるとは、磁石合金粉表面の80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上が複合金属リン酸塩被膜で覆われていることをいう。
本発明において、複合金属リン酸塩被膜(A)とは、リン酸鉄と希土類金属リン酸塩を含む被膜である。すなわち磁石合金粉は、その表面が鉄と希土類元素を金属成分として含む金属リン酸塩(a−1)で均一に被覆されていることが必要である。被膜は、金属リン酸塩(a−1)だけでも良いが、さらにアルミニウム、亜鉛、マンガン、銅又はカルシウムのいずれか1種以上を金属成分として含む金属リン酸塩(a−2)が複合化した被膜で均一に被覆されているものが好ましい。
ここで、均一に被覆されるとは、磁石合金粉表面の80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上が複合金属リン酸塩被膜で覆われていることをいう。
金属リン酸塩(a−1)は、リン酸サマリウム、リン酸鉄などであり、これは磁石合金粉を構成する希土類や鉄にリン酸が反応して形成されたもので、これらが複合化した複合金属リン酸塩も含まれる。一方、金属リン酸塩(a−2)は、例えば、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸銅、リン酸カルシウム、又はこれらが2種以上複合化した金属塩などである。金属成分としては、アルミニウム、亜鉛、マンガン、銅およびカルシウム以外にも、クロム、ニッケル、マグネシウムなどでもよく、これらの金属リン酸塩が複合金属リン酸塩被膜に含まれていてもかまわない。
金属リン酸塩(a−1)、又はこれと金属リン酸塩(a−2)とが複合化した金属リン酸塩は、樹脂バインダーとの結合力を高め、磁石合金粉の耐食性を高める成分である。金属リン酸塩(a−1)だけでも充分な耐塩水性を得ることができるが、さらに耐塩水性を高めるためには、金属リン酸塩(a−2)の金属成分、すなわちアルミニウム、亜鉛、マンガン、銅又はカルシウムから選択された1種以上が、複合金属リン酸塩被膜(A)の金属成分全量に対して、30質量%以上、特に50質量%以上、より好ましくは80質量%以上含まれた複合金属リン酸塩とすることが好ましい。
金属リン酸塩(a−1)、又はこれと金属リン酸塩(a−2)とが複合化した金属リン酸塩は、樹脂バインダーとの結合力を高め、磁石合金粉の耐食性を高める成分である。金属リン酸塩(a−1)だけでも充分な耐塩水性を得ることができるが、さらに耐塩水性を高めるためには、金属リン酸塩(a−2)の金属成分、すなわちアルミニウム、亜鉛、マンガン、銅又はカルシウムから選択された1種以上が、複合金属リン酸塩被膜(A)の金属成分全量に対して、30質量%以上、特に50質量%以上、より好ましくは80質量%以上含まれた複合金属リン酸塩とすることが好ましい。
磁石粉末の表面に形成された被膜(a−1)又は(a−2)は、リン酸塩被膜処理の際用いた有機溶媒及び余剰な処理剤を含んでおり、そのままでは被膜が不安定であるために減圧下、100℃以上で熱処理して、有機溶媒及び余剰な処理剤を揮発させ、かつ被膜を安定化することが重要である。この熱処理を施すことにより、本発明の効果を確実に実現することができる。熱処理の温度は、100℃〜200℃が好ましく、特に好ましいのは、120℃〜180℃である。処理時間は、特に制限されないが通常1〜5時間とする。
ここで、磁石粉末の被膜が均一に形成されることは、錆の発生を防止するなどの耐食性確保や機械強度の保持に必要なのはいうまでもないが、複合金属リン酸塩被膜が均一に形成されないと、磁石粉末の表面に金属状態の鉄が存在することになって、その後のバインダー樹脂との混練時に粘度の上昇し、コンパウンドの作製が困難になり、流動性Q値の低下、成形性の低下の原因となる。従って、この磁石粉末の複合金属リン酸塩被膜の安定性は、本発明において非常に重要な役割をもつ。
ここで、磁石粉末の被膜が均一に形成されることは、錆の発生を防止するなどの耐食性確保や機械強度の保持に必要なのはいうまでもないが、複合金属リン酸塩被膜が均一に形成されないと、磁石粉末の表面に金属状態の鉄が存在することになって、その後のバインダー樹脂との混練時に粘度の上昇し、コンパウンドの作製が困難になり、流動性Q値の低下、成形性の低下の原因となる。従って、この磁石粉末の複合金属リン酸塩被膜の安定性は、本発明において非常に重要な役割をもつ。
(B)シリケート被膜
本発明の表面被覆磁石合金粉は、上記複合金属リン酸塩被膜の表面上に、さらにシリケート被膜が形成されている。
本発明の表面被覆磁石合金粉は、上記複合金属リン酸塩被膜の表面上に、さらにシリケート被膜が形成されている。
本発明のシリケート被膜は、酸化珪素を成分とするものであれば特に制限されず、ポリアルコキシポリシロキサンを加水分解してアルコキシシリケートとする方法、シリカ粉を機械的に付着する方法、エチルシリケートを原料とするゾルゲル反応、又はプラズマ化学蒸着法で被覆する方法などにより形成されるものでよい。ただし、ポリアルコキシポリシロキサンを加水分解して得られるものが被膜の均一性という観点で特に好適である。
本発明においてアルコキシシリケートとは、アルコキシ基を有するシリケート化合物であり、具体的には、下記一般式(1)で示されるポリアルコキシポリシロキサンの加水分解によって得られるものである。なお、式(1)中、Rは同一あるいは異なる炭素数1〜6のアルキル基、nは2〜100である。
本発明においてアルコキシシリケートとは、アルコキシ基を有するシリケート化合物であり、具体的には、下記一般式(1)で示されるポリアルコキシポリシロキサンの加水分解によって得られるものである。なお、式(1)中、Rは同一あるいは異なる炭素数1〜6のアルキル基、nは2〜100である。
このうち、Rが炭素数1〜3のアルキル基であり、nが2〜50のポリアルコキシポリシロキサン、さらには、Rが炭素数1〜2のアルキル基であり、nが2〜20のポリアルコキシポリシロキサンが好ましい。
具体的に本発明で使用するアルコキシシリケートとしては、商品名;MKシリケートMS51(シリカ換算濃度が52質量%であるメチルシリケートオリゴマー、三菱化学(株)製)、商品名:MKシリケートMS56S(シリカ換算濃度が59質量%であるメチルシリケートオリゴマー、三菱化学(株)製)、商品名:ES40(ヒュルスジャパン社製)のような、エチルシリケートの部分加水分解縮合物などを挙げることができる。これらは、単一材料で用いてもよいし、異なる材料を混合して使用してもよい。異なる材料を混合して使用すれば、被膜の緻密性が向上する。
ここに例示したシリケートオリゴマーは、ケイ素にアルコキシ基の結合したアルコキシシランを部分加水分解し、更に縮合してなるアルコキシシランのオリゴマーである。原料のアルコキシシランとしては、テトラアルコキシシランなど、加水分解縮合可能な基を2以上有するケイ素化合物が挙げられる。テトラアルコキシシラン、中でもテトラメトキシシランを用いれば容易にシリカ換算濃度を高くすることができる。
ここに例示したシリケートオリゴマーは、ケイ素にアルコキシ基の結合したアルコキシシランを部分加水分解し、更に縮合してなるアルコキシシランのオリゴマーである。原料のアルコキシシランとしては、テトラアルコキシシランなど、加水分解縮合可能な基を2以上有するケイ素化合物が挙げられる。テトラアルコキシシラン、中でもテトラメトキシシランを用いれば容易にシリカ換算濃度を高くすることができる。
オリゴマー(低縮合物)を得る部分加水分解・縮合反応の際に、適宜触媒を加えることができる。例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、カルボン酸、スルホン酸等の有機酸等を触媒として用いることができる。また、部分加水分解・縮合反応では、溶媒を存在させることができる。溶媒には、例えば、アルコール、エーテル、ケトン等の水溶性の有機溶媒を用いることができる。溶媒の使用量は、テトラアルコキシシランに対して0.1〜10質量倍、好ましくは0.1〜1.5質量倍とする。テトラアルコキシシランの部分加水分解縮合反応は、所定量の水を必要に応じて適宜攪拌しながら加えるとよい。加熱昇温して、還流状態で加水分解縮合反応を進行させる。還流温度は、溶媒の沸点に近い温度で行う。還流の反応時間は、触媒の種類にもよるが、通常0.5〜10時間、好ましくは2〜5時間である。
次に、部分加水分解縮合反応により生成したアルコールを留出させる。この方法には各種の蒸留、蒸発操作が適用できる。すなわち、常圧又は減圧下でアルコールの沸点以上に加熱して留出させる方法、又は窒素、炭酸ガス、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを導入して留出させる方法などがある。工業的には、常圧で80〜200℃、好ましくは120〜180℃まで溶液で加熱、留去させる方法が適している。テトラアルコキシシランとしてテトラメトキシシランを用い、ポリメトキシポリシロキサンを得る場合は、この際の温度は80〜130℃、好ましくは100〜120℃である。留出時間は、特に制限はないが通常1〜5時間とする。工業的には、この範囲まで昇温した後、その温度を維持して0.5〜10時間、好ましくは1〜5時間保ち、反応を完結させればよく、これにより多量の均一な生成物を効率的に得ることができる。
この反応生成物は、通常、縮合度で2〜30程度の縮合物の混合物として得られる。その一部を分離し、あるいは分離せずにそのまま用いてもよい。なお、本発明においてシリケートオリゴマーのシリカ換算濃度は、特に限定されるものではないが、52質量%以上が好ましく、特に、アルコール換算OH濃度が0.5質量%以下、特に0.1質量%以下とした場合、液の保存安定性が極めて優れたものとなる。OHを0.5質量%以下とする方法も特に限定されるものではなく、例えば、シリケートオリゴマーのOHを縮合させるか、又はエステル交換反応によりアルコキシ基とする方法で調整できる。
また、この方法で得られるシリケートオリゴマーには、通常0.5〜10質量%程度の、テトラアルコキシシランのモノマーが残存しているので、このモノマーを留去するのが望ましい。テトラメトキシシランのモノマーは、角膜等への刺激性等の毒性を有し作業環境上好ましくないだけでなく、オリゴマーの保存安定性に影響を及ぼすことがあるからである。1質量%以下、好ましくは0.2質量%以下にまでモノマーを除去すればよい。
また、シリケートオリゴマーには、これと縮合反応し得る官能基、及び/又は加水分解により縮合反応しうる基を有する反応性有機化合物を配合して、珪素含有組成物とすることができる。反応性有機化合物とは、シリケートオリゴマーの有するアルコキシ基と互いに縮合可能な基を有する有機化合物、及び/又は加水分解によりシリケートオリゴマーの有するアルコキシ基と互いに縮合可能な基を生じうる有機化合物である。このような反応性有機化合物としては、たとえば、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基等を有するものが挙げられ、その分子量は2000以下のものが好ましい。
次に、部分加水分解縮合反応により生成したアルコールを留出させる。この方法には各種の蒸留、蒸発操作が適用できる。すなわち、常圧又は減圧下でアルコールの沸点以上に加熱して留出させる方法、又は窒素、炭酸ガス、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを導入して留出させる方法などがある。工業的には、常圧で80〜200℃、好ましくは120〜180℃まで溶液で加熱、留去させる方法が適している。テトラアルコキシシランとしてテトラメトキシシランを用い、ポリメトキシポリシロキサンを得る場合は、この際の温度は80〜130℃、好ましくは100〜120℃である。留出時間は、特に制限はないが通常1〜5時間とする。工業的には、この範囲まで昇温した後、その温度を維持して0.5〜10時間、好ましくは1〜5時間保ち、反応を完結させればよく、これにより多量の均一な生成物を効率的に得ることができる。
この反応生成物は、通常、縮合度で2〜30程度の縮合物の混合物として得られる。その一部を分離し、あるいは分離せずにそのまま用いてもよい。なお、本発明においてシリケートオリゴマーのシリカ換算濃度は、特に限定されるものではないが、52質量%以上が好ましく、特に、アルコール換算OH濃度が0.5質量%以下、特に0.1質量%以下とした場合、液の保存安定性が極めて優れたものとなる。OHを0.5質量%以下とする方法も特に限定されるものではなく、例えば、シリケートオリゴマーのOHを縮合させるか、又はエステル交換反応によりアルコキシ基とする方法で調整できる。
また、この方法で得られるシリケートオリゴマーには、通常0.5〜10質量%程度の、テトラアルコキシシランのモノマーが残存しているので、このモノマーを留去するのが望ましい。テトラメトキシシランのモノマーは、角膜等への刺激性等の毒性を有し作業環境上好ましくないだけでなく、オリゴマーの保存安定性に影響を及ぼすことがあるからである。1質量%以下、好ましくは0.2質量%以下にまでモノマーを除去すればよい。
また、シリケートオリゴマーには、これと縮合反応し得る官能基、及び/又は加水分解により縮合反応しうる基を有する反応性有機化合物を配合して、珪素含有組成物とすることができる。反応性有機化合物とは、シリケートオリゴマーの有するアルコキシ基と互いに縮合可能な基を有する有機化合物、及び/又は加水分解によりシリケートオリゴマーの有するアルコキシ基と互いに縮合可能な基を生じうる有機化合物である。このような反応性有機化合物としては、たとえば、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基等を有するものが挙げられ、その分子量は2000以下のものが好ましい。
(C)カップリング剤処理被膜
本発明においては、上記磁石粉末のシリケート被膜(B)には、更に、樹脂バインダーに対して親和性のあるカップリング剤処理被膜(C)を形成しても良い。ただし、本発明によれば、カップリング剤処理被膜(C)を形成しなくても、従来の特開2006−169618号よりも顕著な作用効果が発揮される。
ここで、カップリング剤としては、磁性粉表面のシリケート被膜、更に詳しくは表面活性シラノール基(Si−OH)と縮合反応を起こすとともに樹脂と十分な親和性を有するものであれば使用でき、特に特定されるものではない。本発明で使用するカップリング剤は、公知の材料が使用でき、例えば、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤のいずれかが挙げられ、このうちシラン系カップリング剤が好ましい。
上記シラン系カップリング剤の中で、好ましいのは、炭素数3〜10の直鎖状アルキル基、又は炭素数1〜10の官能基を有するトリアルコキシ系シランである。表面被覆磁石合金粉の複層処理被膜の膜厚は、平均で0〜100nm、特に0〜80nmであることが好ましい。
本発明においては、上記磁石粉末のシリケート被膜(B)には、更に、樹脂バインダーに対して親和性のあるカップリング剤処理被膜(C)を形成しても良い。ただし、本発明によれば、カップリング剤処理被膜(C)を形成しなくても、従来の特開2006−169618号よりも顕著な作用効果が発揮される。
ここで、カップリング剤としては、磁性粉表面のシリケート被膜、更に詳しくは表面活性シラノール基(Si−OH)と縮合反応を起こすとともに樹脂と十分な親和性を有するものであれば使用でき、特に特定されるものではない。本発明で使用するカップリング剤は、公知の材料が使用でき、例えば、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤のいずれかが挙げられ、このうちシラン系カップリング剤が好ましい。
上記シラン系カップリング剤の中で、好ましいのは、炭素数3〜10の直鎖状アルキル基、又は炭素数1〜10の官能基を有するトリアルコキシ系シランである。表面被覆磁石合金粉の複層処理被膜の膜厚は、平均で0〜100nm、特に0〜80nmであることが好ましい。
本発明の表面被覆磁石合金粉は、被膜中に金属状態で存在するFeが実質的に検出されないという特徴がある。本発明において、被膜中に金属状態で存在するFeの量は、X線光電子分光装置(XPS)により以下のようにして測定し評価する。
まず、モノクロX線源(AlKα線)でFe2p3/2スペクトルを測定する。次に、束縛エネルギー705eV〜720eVの範囲で得られたスペクトルプロファイルをXPSに内蔵されている解析ソフトウェア(スペクトラムプロセッシング)によって、シャーリー法に基づきプロファイルのベースラインを設定し、金属状態の鉄Feの波形P1、鉄Feの酸化物形態の波形P2、鉄Feの別の酸化物形態の波形P3の3つの波形に分離する。その後、P1、P2、P3のそれぞれの波形の面積を算出して、これら3つの波形面積の合計に対する金属状態の鉄Feの波形P1の波形面積を百分率で求める。
従来の燐酸溶液による表面処理方法によって得られた磁石粉末では、被膜をX線光電子分光装置でFe2p3/2プロファイルを波形分離すると、図1のようなチャートが得られた。これまで、燐酸溶液による表面処理方法によって得られた磁石粉末には、金属状態の鉄Feの形態と、鉄Feの酸化物を含む形態の少なくとも2種類からなる被膜が形成されることが明らかになっている。図1中、金属状態の鉄Feの波形がP1、鉄Feの酸化物形態の波形がP2とP3である。鉄Feの酸化物形態には、FeO、Fe2O3、Fe3O4、FeOOHといった酸化鉄があり、その一部が希土類元素、炭素、水素との複合酸化物になっているものと考えられる。
まず、モノクロX線源(AlKα線)でFe2p3/2スペクトルを測定する。次に、束縛エネルギー705eV〜720eVの範囲で得られたスペクトルプロファイルをXPSに内蔵されている解析ソフトウェア(スペクトラムプロセッシング)によって、シャーリー法に基づきプロファイルのベースラインを設定し、金属状態の鉄Feの波形P1、鉄Feの酸化物形態の波形P2、鉄Feの別の酸化物形態の波形P3の3つの波形に分離する。その後、P1、P2、P3のそれぞれの波形の面積を算出して、これら3つの波形面積の合計に対する金属状態の鉄Feの波形P1の波形面積を百分率で求める。
従来の燐酸溶液による表面処理方法によって得られた磁石粉末では、被膜をX線光電子分光装置でFe2p3/2プロファイルを波形分離すると、図1のようなチャートが得られた。これまで、燐酸溶液による表面処理方法によって得られた磁石粉末には、金属状態の鉄Feの形態と、鉄Feの酸化物を含む形態の少なくとも2種類からなる被膜が形成されることが明らかになっている。図1中、金属状態の鉄Feの波形がP1、鉄Feの酸化物形態の波形がP2とP3である。鉄Feの酸化物形態には、FeO、Fe2O3、Fe3O4、FeOOHといった酸化鉄があり、その一部が希土類元素、炭素、水素との複合酸化物になっているものと考えられる。
図1のP1、P2、P3のそれぞれの波形面積を算出して、これら3つの波形面積の合計に対する金属状態の鉄Feの波形P1の波形面積を求めると、面積百分率は3%を超える。このような金属状態の鉄Feの波形P1の百分率が2.0%を超えた磁石粉では、バインダー樹脂と混練するときのトルクが高く、得られた組成物の流動性Q値が低下し、また組成物を成形して得たボンド磁石は、機械強度が低下してしまう。
これに対して、本発明により、さらにこの粉末に対してポリアルコキシポリシロキサンによる表面処理を行うと、得られた磁石粉末は、被膜をX線光電子分光装置でFe2p3/2プロファイルを波形分離したとき、図2のようなチャートが得られた。金属状態の鉄Feは目視できず、鉄Feの酸化物形態の波形P2と、P2とは異なる鉄Feの酸化物形態の波形P3のみからなることが分かる。金属状態の鉄Feの波形が消失する理由は、まだ完全には解明されないが、燐酸処理の後で熱処理し、ポリアルコキシポリシロキサンによる表面処理を行ったことで金属状態の鉄Feが鉄Feの酸化物に変化したためと推測される。その後、同様にしてP1、P2、P3のそれぞれの波形面積を算出して、これら3つの波形面積の合計に対する金属状態の鉄Fe(P1)の波形面積を求めると、面積百分率は0.1%であった。
本発明では、金属状態の鉄Fe(P1)の波形面積の割合が2.0%以下の磁石粉であるため、バインダー樹脂と混練するときのトルクが低くなり、得られた組成物の流動性Q値が上昇して、組成物を成形して得たボンド磁石の機械強度が増加する。
本発明では、金属状態の鉄Fe(P1)の波形面積の割合が2.0%以下の磁石粉であるため、バインダー樹脂と混練するときのトルクが低くなり、得られた組成物の流動性Q値が上昇して、組成物を成形して得たボンド磁石の機械強度が増加する。
上記複層処理被膜で被覆された希土類元素を含む鉄系磁石合金粉は、ボンド磁石用樹脂組成物の原料として使用され、このボンド磁石用樹脂組成物を、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法又は射出プレス成形法から選ばれるいずれかの成形法により成形することにより、ボンド磁石を製造することができる。また、上記複層処理被膜で被覆された希土類元素を含む鉄系磁石合金粉を圧密化して、見かけの密度が真密度の85%以上の圧密磁石を作製することができる。
2.表面被覆磁石合金粉の製造方法
本発明の複層処理被膜で被覆された希土類元素を含む鉄系磁石合金粉(表面被覆磁石合金粉)は、希土類元素を含む鉄系磁石合金粉を次の方法により処理することで製造される。
本発明の複層処理被膜で被覆された希土類元素を含む鉄系磁石合金粉(表面被覆磁石合金粉)は、希土類元素を含む鉄系磁石合金粉を次の方法により処理することで製造される。
(1)複合金属リン酸塩被膜の形成
溶解法あるいは還元拡散法等を用いて得られた希土類元素を含む鉄系磁石合金粗粉は、通常平均粒径20μmを超える粉末を含んでいる。そこで、該平均粒径20μmを超える粉末を含む希土類元素を含む鉄系磁石合金粗粉は、有機溶媒中で、平均粒径8μm以下に粉砕する必要がある。この粉砕の際、又は粉砕後に、リン酸を添加した後、該溶液を攪拌することで複合金属リン酸塩被膜を形成する。この際、リン酸とともに、アルミニウム、亜鉛、マンガン、銅又はカルシウムから選ばれた1種以上の金属の酸化物、複合酸化物、リン酸塩又はリン酸水素化合物を添加することができる。
溶解法あるいは還元拡散法等を用いて得られた希土類元素を含む鉄系磁石合金粗粉は、通常平均粒径20μmを超える粉末を含んでいる。そこで、該平均粒径20μmを超える粉末を含む希土類元素を含む鉄系磁石合金粗粉は、有機溶媒中で、平均粒径8μm以下に粉砕する必要がある。この粉砕の際、又は粉砕後に、リン酸を添加した後、該溶液を攪拌することで複合金属リン酸塩被膜を形成する。この際、リン酸とともに、アルミニウム、亜鉛、マンガン、銅又はカルシウムから選ばれた1種以上の金属の酸化物、複合酸化物、リン酸塩又はリン酸水素化合物を添加することができる。
先ず、平均粒径20μmを超える希土類元素を含む鉄系磁石合金の粗粉末に、有機溶媒を加え、磁石合金粉の粉砕前、あるいは粉砕中に、リン酸を添加して、攪拌を続ける。攪拌は、通常1〜180分間続行することが好ましい。リン酸を添加するのは、磁石合金粉の平均粒径が8μm以下であれば、粉砕後であってもよい。ただし、なるべく粉砕から時間をおかずに添加することが望ましい。
有機溶媒としては、特に制限はなく、2−メトキシエタノール、イソプロピルアルコール、エタノール、トルエン、メタノール、ヘキサン等のいずれか1種または2種以上の混合物を用いると良い。但し、メタノールは、リン酸と速やかに反応してエステル化し、良好な被膜が形成されるのを妨げる恐れがあるので取り扱いには注意を要する。
前記の金属成分が容易に金属イオンを生成し、磁石合金粉の溶解を適度に調整するためには、N,N−ジメチルホルムアミド、ホルムアミド等の極性溶媒を混合することが望ましい。また、磁石合金粉の溶解を促進するために、有機溶媒に水や酸を混合しても良い。
リン酸としては、金属化合物と反応して金属リン酸塩を生成するオルトリン酸をはじめ、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、直鎖状のポリリン酸、環状のメタリン酸が使用できる。また、リン酸アンモニウム、リン酸アンモニウムマグネシウムなども使用できる。これら化合物は、単独でも複数種を組み合わせてもよく、通常、キレート剤、中和剤などと混合して処理剤とされる。
これらのうち、オルトリン酸が好ましい性能を発揮するが、その理由は、これが上記の金属化合物と反応しやすく、希土類系金属を成分とする磁石合金粉の表面に保護膜を形成しやすいためと考えられる。
前記の金属成分が容易に金属イオンを生成し、磁石合金粉の溶解を適度に調整するためには、N,N−ジメチルホルムアミド、ホルムアミド等の極性溶媒を混合することが望ましい。また、磁石合金粉の溶解を促進するために、有機溶媒に水や酸を混合しても良い。
リン酸としては、金属化合物と反応して金属リン酸塩を生成するオルトリン酸をはじめ、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、直鎖状のポリリン酸、環状のメタリン酸が使用できる。また、リン酸アンモニウム、リン酸アンモニウムマグネシウムなども使用できる。これら化合物は、単独でも複数種を組み合わせてもよく、通常、キレート剤、中和剤などと混合して処理剤とされる。
これらのうち、オルトリン酸が好ましい性能を発揮するが、その理由は、これが上記の金属化合物と反応しやすく、希土類系金属を成分とする磁石合金粉の表面に保護膜を形成しやすいためと考えられる。
リン酸は、磁石合金粉の粒径、表面積等に合わせて最適量を添加するが、通常は、粉砕する磁石合金粉に対して0.1〜2mol/kg(粉末重量当たり)であり、好ましくは0.15〜1.5mol/kg、さらに好ましくは0.2〜0.4mol/kgである。リン酸の添加量が0.1mol/kg未満であると、磁石合金粉の表面が十分に被覆されないために耐塩水性が改善されず、また大気中で乾燥させると酸化・発熱して磁気特性が極端に低下する。2mol/kgを超えると、磁石合金粉との反応が激しく起こって磁石合金粉が溶解する。リン酸の濃度は、特に制限されず、無水リン酸、50〜99%リン酸水溶液などが用いられる。
また、金属成分として、アルミニウム、亜鉛、マンガン、銅又はカルシウムなどのイオンの供給源であり、有機溶媒に溶け金属イオンを生成する酸化物、複合酸化物、リン酸塩又はリン酸水素化合物などの金属化合物を併用することができる。これらの金属化合物は、溶媒中でイオン化し、磁石合金粉の成分である希土類金属や鉄が溶媒へ溶け出すにともない、磁石合金粉の表面で反応して金属リン酸塩(a−2)が複合した被膜を形成する。そのため、鉄と希土類元素の金属燐酸塩(a−1)単独の場合に比べて、シリケート被膜などとの結合力をさらに向上することが可能となる。
具体的には、有機溶媒に溶解する化合物が使用できるので、特に制限はないが、酸化物、複合酸化物、リン酸塩又はリン酸水素化合物が好ましい。例えば、アルミニウム化合物としては、リン酸アルミニウム、リン酸水素アルミニウムが好ましい。亜鉛化合物としては、酸化亜鉛、リン酸亜鉛四水和物、リン酸水素亜鉛が好ましい。マンガン化合物としては、酸化マンガン、リン酸水素マンガンが好ましい。銅化合物としては、酸化銅(I)、リン酸水素銅が好ましい。カルシウム化合物としては、酸化カルシウム、リン酸水素カルシウムが好ましい。
金属成分であるアルミニウム、亜鉛、マンガン、銅又はカルシウムから選ばれた1種以上の金属の酸化物、複合酸化物、リン酸塩又はリン酸水素化合物は、磁石合金粉の粒径、表面積等に合わせて最適量を添加するが、該磁石合金粉に対して、例えば、0.01〜1mol/kg(粉末重量当たり)とする。添加量が0.01mol/kg未満であると、磁石合金粉の表面が十分に被覆されないために耐塩水性が改善されず、1mol/kgを超えると磁化の低下が著しくなり、磁石としての性能が低下する。金属成分を添加する場合、その添加時期は、いつでも良く、粉砕前に溶媒に溶かしておき、粉砕途中に一度に添加する方法、粉砕中、徐々に添加する方法などが用いられる。あるいは粉砕直後であってもよい。
具体的には、有機溶媒に溶解する化合物が使用できるので、特に制限はないが、酸化物、複合酸化物、リン酸塩又はリン酸水素化合物が好ましい。例えば、アルミニウム化合物としては、リン酸アルミニウム、リン酸水素アルミニウムが好ましい。亜鉛化合物としては、酸化亜鉛、リン酸亜鉛四水和物、リン酸水素亜鉛が好ましい。マンガン化合物としては、酸化マンガン、リン酸水素マンガンが好ましい。銅化合物としては、酸化銅(I)、リン酸水素銅が好ましい。カルシウム化合物としては、酸化カルシウム、リン酸水素カルシウムが好ましい。
金属成分であるアルミニウム、亜鉛、マンガン、銅又はカルシウムから選ばれた1種以上の金属の酸化物、複合酸化物、リン酸塩又はリン酸水素化合物は、磁石合金粉の粒径、表面積等に合わせて最適量を添加するが、該磁石合金粉に対して、例えば、0.01〜1mol/kg(粉末重量当たり)とする。添加量が0.01mol/kg未満であると、磁石合金粉の表面が十分に被覆されないために耐塩水性が改善されず、1mol/kgを超えると磁化の低下が著しくなり、磁石としての性能が低下する。金属成分を添加する場合、その添加時期は、いつでも良く、粉砕前に溶媒に溶かしておき、粉砕途中に一度に添加する方法、粉砕中、徐々に添加する方法などが用いられる。あるいは粉砕直後であってもよい。
これによって、溶液中に溶けだした希土類元素、鉄など磁石を構成する元素がリン酸塩を形成し、金属化合物と反応しあって、複合金属リン酸塩が磁石合金粉を被覆する。この反応が完結し、充分な膜厚の被膜を形成するには、金属化合物の種類などにもよるが、1〜180分間、好ましくは3〜150分、さらに好ましくは5〜60分の攪拌(粉砕)、保持時間が必要である。
平均粒径が20μmを超える粉末を含む鉄系磁石合金粗粉は、平均粒径8μm以下、好ましくは1〜5μmまで粉砕されることが好ましい。
平均粒径が20μmを超える粉末を含む鉄系磁石合金粗粉は、平均粒径8μm以下、好ましくは1〜5μmまで粉砕されることが好ましい。
形成された複合金属リン酸塩被膜は、安定な被膜とするため減圧下で100℃以上に加熱する。この熱処理によって、リン酸塩被膜処理の際用いた有機溶媒及び余剰な処理剤が揮発して、被膜が安定形成される。熱処理の温度は、100℃〜200℃が好ましく、特に好ましいのは120℃〜180℃である。処理時間は、特に制限されないが通常1〜5時間、好ましくは1〜3時間、さらに好ましくは1〜2時間とする。
この熱処理が行われないか、不十分な条件で行うと、複合金属リン酸塩被膜が均一に形成されず、磁石粉末の表面に金属状態の鉄が存在することがある。
この熱処理が行われないか、不十分な条件で行うと、複合金属リン酸塩被膜が均一に形成されず、磁石粉末の表面に金属状態の鉄が存在することがある。
(2)シリケート被膜の形成
複合金属リン酸塩被膜で被覆された磁石合金粉が含まれたスラリーは、一旦、減圧濾過した後、シリケート被膜の被覆形成処理を行う。シリケート被膜の被覆形成処理の方法は、特に限定されないが、予め脱水縮合反応により高分子化されたアルコキシシリケート溶液を混合、攪拌してシリケート層を定着させることが重要である。
複合金属リン酸塩被膜で被覆された磁石合金粉が含まれたスラリーは、一旦、減圧濾過した後、シリケート被膜の被覆形成処理を行う。シリケート被膜の被覆形成処理の方法は、特に限定されないが、予め脱水縮合反応により高分子化されたアルコキシシリケート溶液を混合、攪拌してシリケート層を定着させることが重要である。
アルコキシシリケート溶液は、アルコキシ基を有するシリケート化合物を含む処理液であり、具体的には、前記一般式(1)で示されるポリアルコキシポリシロキサンを使用することが好ましい。アルコキシシリケート溶液は、濃度が希土類元素を含む鉄系磁石合金粉に対して、0.01〜5質量%となるように添加・混合することが必要である。0.01質量%未満では磁石合金粉表面を完全に被覆することができず、流動性Q値の向上が不十分となり、またFeメタルが存在し錆の発生や成形性が不十分となり、本発明の効果が十分に得られない。また5質量%を超えると被膜が厚くなりすぎて脆くなってしまうため、被膜の緻密な形成が阻害されるため、本発明の効果である錆の発生防止や、成形性の改善が不十分となる。
磁石合金粉スラリーを攪拌し、シリケート被膜(B)を形成する。被膜形成を完全に行うためには常に磁石合金粉スラリーを攪拌し、また、被膜形成を十分に行えるように、焼付け乾燥温度は100〜150℃にすることが好ましい。処理温度を高くするほど緻密で強固な被膜が得られるが、高過ぎると磁性粉の磁気特性、特に保磁力が低下するので注意が必要である。
磁石合金粉スラリーを攪拌し、シリケート被膜(B)を形成する。被膜形成を完全に行うためには常に磁石合金粉スラリーを攪拌し、また、被膜形成を十分に行えるように、焼付け乾燥温度は100〜150℃にすることが好ましい。処理温度を高くするほど緻密で強固な被膜が得られるが、高過ぎると磁性粉の磁気特性、特に保磁力が低下するので注意が必要である。
アルコキシシリケートは、上記複合金属リン酸塩被膜で表面被覆された磁石合金粉の表面上に、速やかに付着し、乾燥後はシリケート被膜として強固に結合する。焼付け乾燥すれば、より強固なシリケート被膜とすることができる。磁性粉表面にシリケート被膜が直接結合したとしても、その結合酸化安定性は低いが、下地に酸化安定性の高い複合金属リン酸塩被膜を有することによって、シリケート層の結合安定性は飛躍的に向上する。また、従来のように減圧下で熱処理しなかった複合金属リン酸塩被膜は完全に緻密とは言えず、そのため腐食性イオンの透過が避けられなかったが、複合金属リン酸塩被膜を減圧下で熱処理し、さらにシリケート被膜と組み合わせることにより複合金属リン酸塩被膜はより安定な構造となり、残る未被覆の欠陥部分をシリケート被膜により完全に封穴され、バリアー効果が相乗的に向上する。そのため、本出願人が以前提案した複合金属リン酸塩被膜とシリケート被膜の積層膜では、発生することがあった錆の問題を完全に解消することができる。
なお、本発明においては、上記磁石粉末のシリケート被膜(B)には、更に、必要により樹脂バインダーに対して親和性のあるカップリング剤処理被膜(C)を形成しても良い。ただし、本発明によれば、カップリング剤処理被膜(C)を形成しなくても、従来の特開2006−169618号よりも顕著な作用効果が発揮される。
なお、本発明においては、上記磁石粉末のシリケート被膜(B)には、更に、必要により樹脂バインダーに対して親和性のあるカップリング剤処理被膜(C)を形成しても良い。ただし、本発明によれば、カップリング剤処理被膜(C)を形成しなくても、従来の特開2006−169618号よりも顕著な作用効果が発揮される。
3.ボンド磁石用樹脂組成物
本発明のボンド磁石用樹脂組成物は、上記の表面被覆磁石合金粉に、樹脂バインダーとして熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を配合し、所望によりその他の添加剤を配合したものである。
本発明のボンド磁石用樹脂組成物は、上記の表面被覆磁石合金粉に、樹脂バインダーとして熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を配合し、所望によりその他の添加剤を配合したものである。
樹脂バインダーは、磁石粉末の結合材として働く成分であり、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂などの熱可塑性樹脂、あるいは、エポキシ樹脂、ビス・マレイミドトリアジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、硬化反応型シリコーンゴムなどの熱硬化性樹脂が使用できるが、特に熱可塑性樹脂が好ましい。
熱可塑性樹脂の種類は、特に制限されず、従来樹脂バインダーとして公知のものを使用できる。熱可塑性樹脂の具体例としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン612、芳香族系ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、酢酸セルロース樹脂、前出の各樹脂系エラストマー等が挙げられ、これらの単重合体や他種モノマーとのランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、他の物質による末端基変性品等が挙げられる。
これら熱可塑性樹脂は、得られるボンド磁石に所望の機械的強度が得られる範囲で、溶融粘度や分子量が低いものが望ましい。また、熱可塑性樹脂の形状は、パウダー状、ビーズ状、ペレット状等、特に限定されないが、磁石合金粉と短時間に均一に混合される点で、パウダー状が望ましい。
熱可塑性樹脂の配合量は、磁石合金粉100重量部に対して、通常5〜100重量部、好ましくは5〜50重量部である。熱可塑性樹脂の配合量が5重量部未満であると、組成物の混練抵抗(トルク)が大きくなったり、流動性が低下して磁石の成形が困難となったりし、一方、100重量部を超えると、所望の磁気特性が得られなくなってしまう。
これら熱可塑性樹脂は、得られるボンド磁石に所望の機械的強度が得られる範囲で、溶融粘度や分子量が低いものが望ましい。また、熱可塑性樹脂の形状は、パウダー状、ビーズ状、ペレット状等、特に限定されないが、磁石合金粉と短時間に均一に混合される点で、パウダー状が望ましい。
熱可塑性樹脂の配合量は、磁石合金粉100重量部に対して、通常5〜100重量部、好ましくは5〜50重量部である。熱可塑性樹脂の配合量が5重量部未満であると、組成物の混練抵抗(トルク)が大きくなったり、流動性が低下して磁石の成形が困難となったりし、一方、100重量部を超えると、所望の磁気特性が得られなくなってしまう。
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビス・マレイミドトリアジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、キシレン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、熱硬化型シリコーン樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、熱硬化型フッ素樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ケイ素樹脂などが例示される。
熱硬化性樹脂であれば、その取り扱い性、ポットライフの面から2液型が有利であり、2液を混合後は、常温から200℃までの温度で硬化しうるものが好ましい。その反応機構は、一般的な付加重合型でも縮重合型であってもよい。また、必要に応じて過酸化物等の架橋反応型モノマーやオリゴマーを添加しても差し支えない。
これらは、反応可能な状態にあれば、重合度や分子量に制約されないが、硬化剤や他の添加剤等との最終混合状態で、ASTM100型レオメーターで測定した150℃における粘度が500Pa・s以下、好ましくは400Pa・s以下、特に好ましくは、100〜300Pa・sである。粘度が500Pa・sを超えると、成形時に著しい混練トルクの上昇、流動性の低下を招き、成形困難になるので好ましくない。一方、粘度が小さくなりすぎると、磁石粉末と樹脂バインダーが成形時に分離しやすくなるため、0.5Pa・s以上であることが望ましい。
上記樹脂バインダーは、磁石合金粉100重量部に対して、3〜50重量部の割合で添加される。添加量は7〜30重量部、さらには、10〜20重量部がより好ましい。3重量部未満では、著しい混練トルクの上昇、流動性の低下を招いて、成形困難になり、一方、50重量部を超えると、所望の磁気特性が得られないので好ましくない。
熱硬化性樹脂であれば、その取り扱い性、ポットライフの面から2液型が有利であり、2液を混合後は、常温から200℃までの温度で硬化しうるものが好ましい。その反応機構は、一般的な付加重合型でも縮重合型であってもよい。また、必要に応じて過酸化物等の架橋反応型モノマーやオリゴマーを添加しても差し支えない。
これらは、反応可能な状態にあれば、重合度や分子量に制約されないが、硬化剤や他の添加剤等との最終混合状態で、ASTM100型レオメーターで測定した150℃における粘度が500Pa・s以下、好ましくは400Pa・s以下、特に好ましくは、100〜300Pa・sである。粘度が500Pa・sを超えると、成形時に著しい混練トルクの上昇、流動性の低下を招き、成形困難になるので好ましくない。一方、粘度が小さくなりすぎると、磁石粉末と樹脂バインダーが成形時に分離しやすくなるため、0.5Pa・s以上であることが望ましい。
上記樹脂バインダーは、磁石合金粉100重量部に対して、3〜50重量部の割合で添加される。添加量は7〜30重量部、さらには、10〜20重量部がより好ましい。3重量部未満では、著しい混練トルクの上昇、流動性の低下を招いて、成形困難になり、一方、50重量部を超えると、所望の磁気特性が得られないので好ましくない。
本発明における樹脂バインダーには、滑剤、紫外線吸収剤、難燃剤や種々の安定剤等を添加できる。
滑剤としては、例えば、パラフィンワックス、流動パラフィン等のワックス類、ステアリン酸、ラウリン酸等の脂肪酸類、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸塩(金属石鹸類)、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類、弗素化合物、窒化珪素、二硫化モリブデン等の無機化合物粉体が挙げられる。これらの滑剤は、一種単独でも二種以上組み合わせても良い。該滑剤の配合量は、磁石合金粉100重量部に対して、通常0.01〜20重量部、好ましくは0.1〜10重量部である。
紫外線吸収剤としては、フェニルサリシレート等のベンゾフェノン系;2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系;蓚酸アニリド誘導体などが挙げられる。
また、安定剤としては、ビス(2、2、6、6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1、2、2、6、6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート等のヒンダード・アミン系安定剤のほか、フェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系などの抗酸化剤等が挙げられる。これらの安定剤も、一種単独でも二種以上組み合わせても良い。該安定剤の配合量は、磁石合金粉100重量部に対して、通常0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜3重量部である。
混合方法は、特に限定されず、例えば、リボンブレンダー、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサー等の混合機、或いはバンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、単軸押出機、二軸押出機等の混練機が使用できる。
滑剤としては、例えば、パラフィンワックス、流動パラフィン等のワックス類、ステアリン酸、ラウリン酸等の脂肪酸類、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸塩(金属石鹸類)、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類、弗素化合物、窒化珪素、二硫化モリブデン等の無機化合物粉体が挙げられる。これらの滑剤は、一種単独でも二種以上組み合わせても良い。該滑剤の配合量は、磁石合金粉100重量部に対して、通常0.01〜20重量部、好ましくは0.1〜10重量部である。
紫外線吸収剤としては、フェニルサリシレート等のベンゾフェノン系;2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系;蓚酸アニリド誘導体などが挙げられる。
また、安定剤としては、ビス(2、2、6、6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1、2、2、6、6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート等のヒンダード・アミン系安定剤のほか、フェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系などの抗酸化剤等が挙げられる。これらの安定剤も、一種単独でも二種以上組み合わせても良い。該安定剤の配合量は、磁石合金粉100重量部に対して、通常0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜3重量部である。
混合方法は、特に限定されず、例えば、リボンブレンダー、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサー等の混合機、或いはバンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、単軸押出機、二軸押出機等の混練機が使用できる。
こうして、本発明の機械強度および流動性に優れるボンド磁石用樹脂組成物を得ることができる。このボンド磁石用樹脂組成物は、射出成形の指標である流動性Q値が、0.3cm3/sec以上、好ましくは0.4cm3/sec以上という流動性に優れるものである。そのため、従来は困難であった薄肉で小型の成形体を射出成形によって容易に製造することができる。
4.ボンド磁石
上記のボンド磁石用樹脂組成物は、樹脂バインダーが熱可塑性樹脂の場合、その溶融温度で加熱溶融された後、所望の形状を有する磁石に成形される。その際、成形法としては、従来からプラスチック成形加工等に利用されている射出成形法、押出成形法、射出圧縮成形法、射出プレス成形法、トランスファー成形法等の各種成形法が挙げられるが、これらの中では、特に射出成形法、射出圧縮成形法、及び射出プレス成形法等が好ましい。
一方、樹脂バインダーが熱硬化性樹脂の場合は、混合時の剪断発熱等によって硬化が進まないよう、剪断力が弱く、かつ冷却機能を有する混合機を使用することが好ましい。混合により組成物が塊状化するので、これを射出成形法、圧縮成形法、押出成形法、圧延成形法、或いはトランスファー成形法等により成形する。
本発明のボンド磁石は、希土類元素を含む鉄系磁石合金粉末に、鉄と希土類元素の金属リン酸塩からなる複合金属リン酸塩被膜、シリケート被膜が安定的に形成されているので、腐食環境下でも錆が発生せず、耐食性に優れている。また、磁石合金粉末の樹脂密着性にも優れているため、機械的強度も十分である。
上記のボンド磁石用樹脂組成物は、樹脂バインダーが熱可塑性樹脂の場合、その溶融温度で加熱溶融された後、所望の形状を有する磁石に成形される。その際、成形法としては、従来からプラスチック成形加工等に利用されている射出成形法、押出成形法、射出圧縮成形法、射出プレス成形法、トランスファー成形法等の各種成形法が挙げられるが、これらの中では、特に射出成形法、射出圧縮成形法、及び射出プレス成形法等が好ましい。
一方、樹脂バインダーが熱硬化性樹脂の場合は、混合時の剪断発熱等によって硬化が進まないよう、剪断力が弱く、かつ冷却機能を有する混合機を使用することが好ましい。混合により組成物が塊状化するので、これを射出成形法、圧縮成形法、押出成形法、圧延成形法、或いはトランスファー成形法等により成形する。
本発明のボンド磁石は、希土類元素を含む鉄系磁石合金粉末に、鉄と希土類元素の金属リン酸塩からなる複合金属リン酸塩被膜、シリケート被膜が安定的に形成されているので、腐食環境下でも錆が発生せず、耐食性に優れている。また、磁石合金粉末の樹脂密着性にも優れているため、機械的強度も十分である。
5.圧蜜磁石
本発明の圧蜜磁石は、上記希土類元素を含む磁石合金粉を用いて、熱間圧縮成形法又はホットプレスで圧密化して製造されるものである。圧密磁石を製造する方法は、特に限定されず、高い圧縮力がかけられ、見かけ密度を真密度の85%以上としうる方法であればよい。見かけ密度が85%未満では磁気特性が低くなるので好ましくない。本発明の磁石合金粉は、鉄と希土類元素の金属リン酸塩からなる複合金属リン酸塩被膜、シリケート被膜が安定的に形成されているので、劣化要因である酸素や水分の経路となるオープンポアが閉塞されているので優れた耐塩水性を有する。
本発明の圧密磁石は、上記の耐塩水性以外に磁気特性、特に磁石の保磁力が改善されている。磁石合金粉がSm−Fe−N系磁石合金粉の場合、従来は圧密化するとき、サマリウム−鉄−窒素系化合物の分解や脱窒素することがあったが、本発明によれば、粒子間に非磁性体のリン酸塩被膜とシリケート被膜が均一かつ安定に存在するため保磁力の低下を防ぐことができる。
本発明の圧蜜磁石は、上記希土類元素を含む磁石合金粉を用いて、熱間圧縮成形法又はホットプレスで圧密化して製造されるものである。圧密磁石を製造する方法は、特に限定されず、高い圧縮力がかけられ、見かけ密度を真密度の85%以上としうる方法であればよい。見かけ密度が85%未満では磁気特性が低くなるので好ましくない。本発明の磁石合金粉は、鉄と希土類元素の金属リン酸塩からなる複合金属リン酸塩被膜、シリケート被膜が安定的に形成されているので、劣化要因である酸素や水分の経路となるオープンポアが閉塞されているので優れた耐塩水性を有する。
本発明の圧密磁石は、上記の耐塩水性以外に磁気特性、特に磁石の保磁力が改善されている。磁石合金粉がSm−Fe−N系磁石合金粉の場合、従来は圧密化するとき、サマリウム−鉄−窒素系化合物の分解や脱窒素することがあったが、本発明によれば、粒子間に非磁性体のリン酸塩被膜とシリケート被膜が均一かつ安定に存在するため保磁力の低下を防ぐことができる。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
(1)成分
磁石合金粉:
・Sm−Fe−N系磁石合金粉[住友金属鉱山(株)製、平均粒径:30μm]
有機溶媒:
・イソプロピルアルコール(IPA)[関東化学(株)製] 被膜成分:
リン酸水溶液
・オルトリン酸水溶液[商品名:りん酸、関東化学(株)製]
シリケート溶液:
・MKシリケートMS51(商品名、シリカ換算濃度が52重量%であるメチルシリケートオリゴマー、三菱化学(株)製)
・MKシリケートMS56S(商品名、シリカ換算濃度が59重量%であるメチルシリケートオリゴマー、三菱化学(株)製)
樹脂バインダー(ナイロン樹脂)
・ナイロン12(商品名、ダイアミドZ9005、ダイセル・デグサ(株)製)
磁石合金粉:
・Sm−Fe−N系磁石合金粉[住友金属鉱山(株)製、平均粒径:30μm]
有機溶媒:
・イソプロピルアルコール(IPA)[関東化学(株)製] 被膜成分:
リン酸水溶液
・オルトリン酸水溶液[商品名:りん酸、関東化学(株)製]
シリケート溶液:
・MKシリケートMS51(商品名、シリカ換算濃度が52重量%であるメチルシリケートオリゴマー、三菱化学(株)製)
・MKシリケートMS56S(商品名、シリカ換算濃度が59重量%であるメチルシリケートオリゴマー、三菱化学(株)製)
樹脂バインダー(ナイロン樹脂)
・ナイロン12(商品名、ダイアミドZ9005、ダイセル・デグサ(株)製)
(2)評価方法
得られた複層処理被膜で被覆された希土類元素を含む鉄系磁石合金粉について、以下の方法を用いて評価を行った。
(2−1)複層処理被膜の合計膜厚
上記複層処理被膜の合計膜厚は、上記複層処理被膜で被覆された希土類元素を含む鉄系磁石合金粉の断面の電子顕微鏡写真から測定した。
得られた複層処理被膜で被覆された希土類元素を含む鉄系磁石合金粉について、以下の方法を用いて評価を行った。
(2−1)複層処理被膜の合計膜厚
上記複層処理被膜の合計膜厚は、上記複層処理被膜で被覆された希土類元素を含む鉄系磁石合金粉の断面の電子顕微鏡写真から測定した。
(2−2)XPS分析
得られた複層処理被膜で被覆された希土類元素を含む鉄系磁石合金粉は、XPSの表面分析により磁石合金粉の構成元素であるメタル状態の鉄が存在するかを調べ、なければ被膜処理が十分なされたと判断し良好とした。
具体的には、被膜処理した磁石粉を導電性テープに密に固定して、X線光電子分光装置(XPS、VG Scientific社製 ESCALAB220i−XL)で状態分析した。鉄の状態分析としてFe2p3/2のスペクトルに注目し、分析面積をφ0.6mmとして試料表面の平均的な情報が得られるようにした。束縛エネルギー705eV〜720eVの範囲で得られたFe2p3/2スペクトルプロファイルを、前記XPSに内蔵されている解析ソフトウェアであるスペクトラムプロセッシングによって、シャーリー法に基づきプロファイルのベースラインを設定し、金属状態の鉄Feの波形P1、鉄Feの酸化物形態の波形P2、鉄Feの別の酸化物形態の波形P3の3つの波形に分離し、この後、P1、P2、P3の各波形面積を算出して、これら3つの波形面積の合計に対する金属状態の鉄Feの波形P1の波形面積を百分率で求めた。
波形分離は、前記スペクトラムプロッセッシングに初期値として、P1については中心値707.4eV及び半値幅1.06eV、P2については中心値711.2eV及び半値幅3.02eV、P3については中心値713.0eV及び半値幅5.3eVを入力し、この後はソフトウェア内部で以下の処理が実行される。即ち、分離された波形の合成波形と実際に測定された波形について束縛エネルギーにおける強度の差を算出し、この差が最小となるように前記の中心値と半値幅を求め、この中心値と半値幅に対応するP1、P2、P3の各々の波形面積の合計に対する金属状態のFeの波形P1の面積の百分率を、前記のスペクトラムプロッセッシングが算出する。
得られた複層処理被膜で被覆された希土類元素を含む鉄系磁石合金粉は、XPSの表面分析により磁石合金粉の構成元素であるメタル状態の鉄が存在するかを調べ、なければ被膜処理が十分なされたと判断し良好とした。
具体的には、被膜処理した磁石粉を導電性テープに密に固定して、X線光電子分光装置(XPS、VG Scientific社製 ESCALAB220i−XL)で状態分析した。鉄の状態分析としてFe2p3/2のスペクトルに注目し、分析面積をφ0.6mmとして試料表面の平均的な情報が得られるようにした。束縛エネルギー705eV〜720eVの範囲で得られたFe2p3/2スペクトルプロファイルを、前記XPSに内蔵されている解析ソフトウェアであるスペクトラムプロセッシングによって、シャーリー法に基づきプロファイルのベースラインを設定し、金属状態の鉄Feの波形P1、鉄Feの酸化物形態の波形P2、鉄Feの別の酸化物形態の波形P3の3つの波形に分離し、この後、P1、P2、P3の各波形面積を算出して、これら3つの波形面積の合計に対する金属状態の鉄Feの波形P1の波形面積を百分率で求めた。
波形分離は、前記スペクトラムプロッセッシングに初期値として、P1については中心値707.4eV及び半値幅1.06eV、P2については中心値711.2eV及び半値幅3.02eV、P3については中心値713.0eV及び半値幅5.3eVを入力し、この後はソフトウェア内部で以下の処理が実行される。即ち、分離された波形の合成波形と実際に測定された波形について束縛エネルギーにおける強度の差を算出し、この差が最小となるように前記の中心値と半値幅を求め、この中心値と半値幅に対応するP1、P2、P3の各々の波形面積の合計に対する金属状態のFeの波形P1の面積の百分率を、前記のスペクトラムプロッセッシングが算出する。
(2−3)流動性(メルトインデックスMI法)
作製したボンド磁石用組成物は、プラスチック粉砕機により粉砕して、成形用ペレットとした。これをメルトインデクサーを用い、測定温度:250℃、荷重:21.6kgで、ダイスウェル:直径2.1mm×厚さ8mmの中を所定重量のコンパウンドが通過する所要時間から、流動性(cm3/sec)を評価した。この値が大きいほど流動性が高く、射出成形性が良好である。
(2−4)成形品の錆発生試験
得られた成形品を、5%NaCl水溶液中に半浸漬し、24時間後の錆びの発生具合を判定した。目視にて錆が見られた場合は、有りで不良、見られなかった場合には、無しで良好とした。
作製したボンド磁石用組成物は、プラスチック粉砕機により粉砕して、成形用ペレットとした。これをメルトインデクサーを用い、測定温度:250℃、荷重:21.6kgで、ダイスウェル:直径2.1mm×厚さ8mmの中を所定重量のコンパウンドが通過する所要時間から、流動性(cm3/sec)を評価した。この値が大きいほど流動性が高く、射出成形性が良好である。
(2−4)成形品の錆発生試験
得られた成形品を、5%NaCl水溶液中に半浸漬し、24時間後の錆びの発生具合を判定した。目視にて錆が見られた場合は、有りで不良、見られなかった場合には、無しで良好とした。
[実施例1〜10]
容器内部を窒素で置換した媒体攪拌ミルを用い、回転数200rpmで、還元磁石合金粉(Sm−Fe−N系)1kgを1.5kgの有機溶媒に合金粉に対し0.3mol/kgの割合でオルトリン酸水溶液を混合した溶液中にて2時間粉砕し、平均粒径3μmの磁石合金粉を作製した。
次に、得られたスラリーをろ過し、ろ過物をミキサーへ投入し、攪拌しながら真空中100℃に保持して2時間熱処理した。得られた磁石合金粉に有機溶媒中に溶かしたシリケート(三菱化学MKシリケートMS56S、MS51)を所定量添加し、攪拌しながら真空中150℃に保持して2時間乾燥させた。
得られた複層処理被膜の合計膜厚は、上記複層処理被膜で被覆されたSmFeN合金粉の断面の電子顕微鏡写真から測定した。
次に、得られた磁石合金粉を用いて、磁粉体積率が60%となるように、ナイロン12を添加し、ラボプラストミルで混練を行った後、230℃にて射出成形してボンド磁石を作製した。得られた磁石合金粉、ボンド磁石用組成物、ボンド磁石を上記方法で調べ、表1の結果を得た。
容器内部を窒素で置換した媒体攪拌ミルを用い、回転数200rpmで、還元磁石合金粉(Sm−Fe−N系)1kgを1.5kgの有機溶媒に合金粉に対し0.3mol/kgの割合でオルトリン酸水溶液を混合した溶液中にて2時間粉砕し、平均粒径3μmの磁石合金粉を作製した。
次に、得られたスラリーをろ過し、ろ過物をミキサーへ投入し、攪拌しながら真空中100℃に保持して2時間熱処理した。得られた磁石合金粉に有機溶媒中に溶かしたシリケート(三菱化学MKシリケートMS56S、MS51)を所定量添加し、攪拌しながら真空中150℃に保持して2時間乾燥させた。
得られた複層処理被膜の合計膜厚は、上記複層処理被膜で被覆されたSmFeN合金粉の断面の電子顕微鏡写真から測定した。
次に、得られた磁石合金粉を用いて、磁粉体積率が60%となるように、ナイロン12を添加し、ラボプラストミルで混練を行った後、230℃にて射出成形してボンド磁石を作製した。得られた磁石合金粉、ボンド磁石用組成物、ボンド磁石を上記方法で調べ、表1の結果を得た。
[比較例1〜4]
容器内部を窒素で置換した媒体攪拌ミルを用い、回転数200rpmで、還元磁石合金粉(Sm−Fe−N系)1kgを1.5kgの有機溶媒に合金粉に対し0.3mol/kgの割合でオルトリン酸水溶液を混合した溶液中にて2時間粉砕し、平均粒径3μmの磁石合金粉を作製した。
次に、得られたスラリーをろ過し、ろ過物をミキサーへ投入し、攪拌しながら真空中100℃に保持して2時間熱処理した。得られた磁石合金粉に有機溶媒中に溶かしたシリケート(三菱化学MKシリケートMS56S、MS51)を所定量添加し、攪拌しながら真空中150℃に保持して2時間乾燥させた。
得られた被膜の膜厚は、上記被膜で被覆されたSmFeN合金粉の断面の電子顕微鏡写真から測定した。次に、得られた磁石合金粉を用いて、磁粉体積率が60%となるように、ナイロン12を添加し、ラボプラストミルで混練後に、230℃にて射出成形してボンド磁石を作製した。得られた磁石合金粉、ボンド磁石用組成物、ボンド磁石を上記方法で調べ、表2の結果を得た。
容器内部を窒素で置換した媒体攪拌ミルを用い、回転数200rpmで、還元磁石合金粉(Sm−Fe−N系)1kgを1.5kgの有機溶媒に合金粉に対し0.3mol/kgの割合でオルトリン酸水溶液を混合した溶液中にて2時間粉砕し、平均粒径3μmの磁石合金粉を作製した。
次に、得られたスラリーをろ過し、ろ過物をミキサーへ投入し、攪拌しながら真空中100℃に保持して2時間熱処理した。得られた磁石合金粉に有機溶媒中に溶かしたシリケート(三菱化学MKシリケートMS56S、MS51)を所定量添加し、攪拌しながら真空中150℃に保持して2時間乾燥させた。
得られた被膜の膜厚は、上記被膜で被覆されたSmFeN合金粉の断面の電子顕微鏡写真から測定した。次に、得られた磁石合金粉を用いて、磁粉体積率が60%となるように、ナイロン12を添加し、ラボプラストミルで混練後に、230℃にて射出成形してボンド磁石を作製した。得られた磁石合金粉、ボンド磁石用組成物、ボンド磁石を上記方法で調べ、表2の結果を得た。
[比較例5〜6]
容器内部を窒素で置換した媒体攪拌ミルを用い、回転数200rpmで、還元磁石合金粉(Sm−Fe−N系)1kgを1.5kgの有機溶媒にて2時間粉砕し、平均粒径3μmの磁石合金粉を作製した。そのスラリーをろ過し、ろ過物をヘンシェルミキサーへ投入、攪拌しながら真空中150℃に保持して2時間乾燥させた。
次に、得られたスラリーをろ過し、ろ過物をミキサーへ投入し、攪拌しながら真空中100℃に保持して2時間熱処理した。得られた磁石合金粉に有機溶媒中に溶かしたシリケート(三菱化学MKシリケートMS56S、MS51)を所定量添加し、攪拌しながら真空中150℃に保持して2時間乾燥させた。
得られた複層処理被膜の合計膜厚は、上記複層処理被膜で被覆されたSmFeN合金粉の断面の電子顕微鏡写真から測定した。
次に、得られた磁石合金粉を用いて、磁粉体積率が60%となるように、ナイロン12を添加し、ラボプラストミルで混練後に、230℃にて射出成形してボンド磁石を作製した。得られた磁石合金粉、ボンド磁石用組成物、ボンド磁石を上記方法で調べ、表2の結果を得た。
容器内部を窒素で置換した媒体攪拌ミルを用い、回転数200rpmで、還元磁石合金粉(Sm−Fe−N系)1kgを1.5kgの有機溶媒にて2時間粉砕し、平均粒径3μmの磁石合金粉を作製した。そのスラリーをろ過し、ろ過物をヘンシェルミキサーへ投入、攪拌しながら真空中150℃に保持して2時間乾燥させた。
次に、得られたスラリーをろ過し、ろ過物をミキサーへ投入し、攪拌しながら真空中100℃に保持して2時間熱処理した。得られた磁石合金粉に有機溶媒中に溶かしたシリケート(三菱化学MKシリケートMS56S、MS51)を所定量添加し、攪拌しながら真空中150℃に保持して2時間乾燥させた。
得られた複層処理被膜の合計膜厚は、上記複層処理被膜で被覆されたSmFeN合金粉の断面の電子顕微鏡写真から測定した。
次に、得られた磁石合金粉を用いて、磁粉体積率が60%となるように、ナイロン12を添加し、ラボプラストミルで混練後に、230℃にて射出成形してボンド磁石を作製した。得られた磁石合金粉、ボンド磁石用組成物、ボンド磁石を上記方法で調べ、表2の結果を得た。
[比較例7、8]
実施例1と同様にして、磁石合金粉のスラリーをろ過し、ろ過物をミキサーへ投入し、攪拌し、次に、真空中、常温に保持して1時間乾燥処理してリン酸塩被膜を形成した。磁石合金粉のリン酸塩被膜に熱処理を行わなかった以外は、実施例2、6の条件で、リン酸塩とシリケートの被膜を形成した。
その後、実施例1と同様にして、ボンド磁石を作製した。得られた磁石合金粉、ボンド磁石用組成物、ボンド磁石を上記方法で調べ、表2の結果を得た。
実施例1と同様にして、磁石合金粉のスラリーをろ過し、ろ過物をミキサーへ投入し、攪拌し、次に、真空中、常温に保持して1時間乾燥処理してリン酸塩被膜を形成した。磁石合金粉のリン酸塩被膜に熱処理を行わなかった以外は、実施例2、6の条件で、リン酸塩とシリケートの被膜を形成した。
その後、実施例1と同様にして、ボンド磁石を作製した。得られた磁石合金粉、ボンド磁石用組成物、ボンド磁石を上記方法で調べ、表2の結果を得た。
「評価」
表1から、実施例1〜10は、得られた磁石合金粉の表面が安定な複合金属リン酸塩被膜によって均一に保護され、かつ強固なシリケート被膜で表面が覆われているため、XPSによる分析では、Feメタルは検出されず、このためシリケートを用いない比較例1に比べて、流動性Q値は向上し、より成形しやすい組成物が得られることがわかる。一方、磁石合金粉のXPSによる分析結果で、Feメタルは検出されず、錆試験においても発錆の主原因と考えられるFeメタルが皆無であるため錆の発生を抑制できることも分かる。
なお、実施例9,10は、二種類のシリケートを等量とし、所定量用いて、本発明の磁石合金粉とし、これをナイロンと混練した後、射出成形し、ボンド磁石を作製したものである。二種類のシリケートを用いたため、磁石合金粉は、表面が安定な複合金属リン酸塩被膜によって均一に保護され、かつ強固なシリケート被膜でより均一に表面が覆われている。そのため、流動性Q値は向上し、より成形しやすい組成物が得られることがある。
表1から、実施例1〜10は、得られた磁石合金粉の表面が安定な複合金属リン酸塩被膜によって均一に保護され、かつ強固なシリケート被膜で表面が覆われているため、XPSによる分析では、Feメタルは検出されず、このためシリケートを用いない比較例1に比べて、流動性Q値は向上し、より成形しやすい組成物が得られることがわかる。一方、磁石合金粉のXPSによる分析結果で、Feメタルは検出されず、錆試験においても発錆の主原因と考えられるFeメタルが皆無であるため錆の発生を抑制できることも分かる。
なお、実施例9,10は、二種類のシリケートを等量とし、所定量用いて、本発明の磁石合金粉とし、これをナイロンと混練した後、射出成形し、ボンド磁石を作製したものである。二種類のシリケートを用いたため、磁石合金粉は、表面が安定な複合金属リン酸塩被膜によって均一に保護され、かつ強固なシリケート被膜でより均一に表面が覆われている。そのため、流動性Q値は向上し、より成形しやすい組成物が得られることがある。
これに対して、表2から、比較例1の磁石合金粉は、シリケート材を用いていないため、XPSによる分析では、Feメタルが検出された。従って、流動性Q値は低下し、成形性が劣る結果となった。錆試験でも、多くの錆が観察された。
比較例2〜4の磁石合金粉は、シリケート材を本発明から逸脱する量用いた。本発明より少ない比較例2,4は、XPSによる分析で、Feメタルが検出された。従って、流動性Q値は低下し、成形性が劣る結果となった。錆試験でも、多くの錆が観察された。一方、シリケート材を多量に用いた比較例3の磁石合金粉は、被膜そのものは、厚いが、XPSによる分析で、Feメタルが検出された。量が多すぎ被膜の緻密な形成が行えなかったためと考えている。このため、錆試験でも錆が観察された。
比較例5,6の磁石合金粉は、複合金属リン酸塩被膜処理を施さずにシリケート材のみを本発明量使用し処理を行ったものである。シリケート材単独では、XPSによる分析で、Feメタルが検出された。従って、流動性Q値は低下し、成形性が劣る結果となった。錆試験でも、多くの錆が観察された。磁石合金粉の凹凸等を被膜化できなかったものと考えている。
比較例7、8は、複合金属リン酸塩被膜処理後、乾燥のみを行って、熱処理を施さずにシリケート膜を形成したため、複合金属リン酸塩被膜の均一性が不十分となり、流動性Q値の向上は不十分で成形性も不十分な結果となった。
比較例2〜4の磁石合金粉は、シリケート材を本発明から逸脱する量用いた。本発明より少ない比較例2,4は、XPSによる分析で、Feメタルが検出された。従って、流動性Q値は低下し、成形性が劣る結果となった。錆試験でも、多くの錆が観察された。一方、シリケート材を多量に用いた比較例3の磁石合金粉は、被膜そのものは、厚いが、XPSによる分析で、Feメタルが検出された。量が多すぎ被膜の緻密な形成が行えなかったためと考えている。このため、錆試験でも錆が観察された。
比較例5,6の磁石合金粉は、複合金属リン酸塩被膜処理を施さずにシリケート材のみを本発明量使用し処理を行ったものである。シリケート材単独では、XPSによる分析で、Feメタルが検出された。従って、流動性Q値は低下し、成形性が劣る結果となった。錆試験でも、多くの錆が観察された。磁石合金粉の凹凸等を被膜化できなかったものと考えている。
比較例7、8は、複合金属リン酸塩被膜処理後、乾燥のみを行って、熱処理を施さずにシリケート膜を形成したため、複合金属リン酸塩被膜の均一性が不十分となり、流動性Q値の向上は不十分で成形性も不十分な結果となった。
Claims (14)
- あらかじめ希土類元素を含む鉄系磁石合金からなる磁石粉末の表面にリン酸鉄と希土類金属リン酸塩を含む複合金属リン酸塩被膜(A)を形成し、熱処理を施した後、シリケート被膜(B)を被覆形成してなり、かつX線光電子分光装置により表面を分析したとき、実質的に金属状態のFeが検出されないことを特徴とする希土類元素を含む鉄系磁石合金粉。
- 磁石粉末の平均粒径が8μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の希土類元素を含む鉄系磁石合金粉。
- 複合金属リン酸塩被膜(A)が、Al、Zn、Mn、Cu、Caの群から選ばれる少なくとも1種の金属を成分とする金属リン酸塩をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の希土類元素を含む鉄系磁石合金粉。
- 被膜の厚さの合計が1〜100nmであることを特徴とする請求項1に記載の希土類元素を含む鉄系磁石合金粉。
- Feの量が、磁石合金粉表面をX線光電子分光装置でFe2p3/2スペクトルを測定した後、得られたスペクトルプロファイルの面積に基づいて算出したとき、2.0%以下であることを特徴とする請求項1に記載の希土類元素を含む鉄系磁石合金粉。
- 希土類元素を含む鉄系磁石合金粗粉を有機溶媒中で粉砕する際、又は粉砕後に、リン酸を添加し攪拌して、磁石合金粉の表面に複合金属リン酸塩被膜(A)を形成し、この磁石合金粉スラリーから溶液を分離除去した後に減圧下で100℃以上として熱処理を施す工程と、次いで、ポリアルコキシポリシロキサンを磁石合金粉に対して0.01〜5質量%の割合で添加し、混合して攪拌して、被膜(A)の表面にシリケート被膜(B)を形成する工程とを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の希土類元素を含む鉄系磁石合金粉の製造方法。
- 有機溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、2−メトキシエタノール、エタノール、メタノール、又はイソプロピルアルコールから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項7に記載の希土類元素を含む鉄系磁石合金粉の製造方法。
- リン酸の添加量が、磁石合金粉の粉末重量当たり、0.1〜2mol/kgであることを特徴とする請求項7に記載の希土類元素を含む鉄系磁石合金粉の製造方法。
- シリケート被膜(B)が形成された後、磁石合金粉が、100〜150℃で焼き付け乾燥されることを特徴とする請求項7に記載の希土類元素を含む鉄系磁石合金粉の製造方法。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の希土類元素を含む鉄系磁石合金粉に、樹脂バインダーとして熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を含有してなるボンド磁石用樹脂組成物。
- 流動性Q値が0.3cm3/sec以上であることを特徴とする請求項11に記載のボンド磁石用樹脂組成物。
- 請求項11又は12に記載のボンド磁石用樹脂組成物を、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法又は射出プレス成形法から選ばれるいずれかの成形法により成形して得られるボンド磁石。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の希土類元素を含む鉄系磁石合金粉を圧密化して得られ、見かけの密度が真密度の85%以上であることを特徴とする圧密磁石。
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EP3514807A1 (en) * | 2018-01-22 | 2019-07-24 | Nichia Corporation | Method of preparing a compound for bonded magnets, and compound for bonded magnets |
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-
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