JP2011111358A - カーボンナノチューブ直径分離法 - Google Patents

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Abstract

【課題】密度勾配剤を用い遠心分離によりカーボンナノチューブの直径分離を行う際に、溶液に密度勾配を予め形成しておく必要がなく、しかもカーボンナノチューブの直径分離を行うことのできる方法を提供する
【解決手段】カーボンナノチューブ分散液を遠心処理することにより直径に応じカーボンナノチューブを分離するカーボンナノチューブの直径分離方法において、カーボンナノチューブを塩化セシウムと界面活性剤を含有する水溶液に分散した液を遠心チューブに均一に挿入し、遠心処理し、形成されたカーボンナノチューブバンド域の液を分画することにより、カーボンナノチューブの直径分離を行う。塩化セシウムは30〜50%程度の濃度が好ましい。また界面活性剤としては、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウムなどが好ましい。
【選択図】図2

Description

本発明は、カーボンナノチューブを遠心分離法により直径選択分離を行う方法に関し、より詳細には、予め密度勾配を形成する必要なく、簡便かつ精度よくカーボンナノチューブの直径選択分離を行うことのできるカーボンナノチューブ直径分離法に関する。
単層カーボンナノチューブ(シングルウォールナノチューブ;以下、「SWCNT」ということもある。)は、1991年に発表(非特許文献1)されて以来、1次元細線、触媒、ITOに替わる導電膜、シリコン半導体素材に替わる半導体素材など種々の潜在的な応用が期待される新しい材料として積極的に開発が進められてきた。カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ということもある。)の製造法としては、アーク法、レーザーアブレション法、CVD法、HiPCO法など各種の製造法が知られている。しかし、いずれの製造法においても、目的とするカーボンナノチューブ以外に、ガラス状炭素やアモルファス炭素などの他の炭素物質などが同時に形成される。また、触媒金属が不純物として内包されることもある。したがって、合成後にはこのような不要な炭素物質や不純物を分離、除去する必要がある。さらに、SWCNTについてみても、様々な巻き方、直径のものが存在する。SWCNTは、巻き方に応じて金属性や半導体性が大きく変化し、金属性を示すものは金属型カーボンナノチューブ(以下、「金属型CNT」ということもある。)、半導体性を示すものは半導体型カーボンナノチューブ(以下、「半導体型CNT」ということもある。)といわれており、物性が異なる。また、直径によって、バンドギャップエネルギーが変化する。現状では様々な巻き方・直径のものが混在して生成されてしまうことから、SWCNTをデバイス応用する際には、合成後のCNTからある特定の直径、巻き方のSWCNTを取り出すことは、非常に重要である。このため、金属型・半導体型の分離法、および直径の選択分離を行う直径分離法が種々提案されている。
このような分離法の一つとして、近年、金属型CNTと半導体型CNTの分離および直径の選択分離が、密度勾配遠心分離法によって高精度で可能であることが報告された(非特許文献2)。この方法においては、遠心分離する前に、コール酸ナトリウム(以下、「SC」ということもある。)およびドデシル硫酸ナトリウム(以下、「SDS」ということもある。)の混合溶液によりCNTを分散させるとともに、イオデキサノールにより予め密度勾配をつけたSCおよびSDS溶液を遠心分離用チューブ内に形成させることが必要とされる。このため操作が煩雑であるとともに、イオデキサノールの分子構造には、π共役系が含まれ、π−π相互作用によりカーボンナノチューブに吸着し、カーボンナノチューブからイオデキサノールを除去するには多大な労力が必要とされる。また、イオデキサノールは高価でもある。
本発明者らは、密度勾配遠心分離法を用いて、高純度で金属型CNTと半導体型CNTを分離可能にする技術について研究をすすめた結果、界面活性剤として、これまで使用されていなかったデオキシコール酸ナトリウムあるいはスクロースを用いることにより分離能を改善し得ることを見出した(特許文献1参照)。この分離においては、密度勾配剤としてイオデキサノールあるいはスクロースが用いられるが、イオデキサノールは前記したごとく、カーボンナノチューブからの分離、除去の際の問題、および高価であるという問題、また予め密度勾配を形成しておく必要性があるという問題がある。さらに、スクロースにおいても、予め密度勾配を形成しておくことが必要である。
特開2008−266112号公報
S. Iijima, Nature, vol.354, pp56-58 (1991) Arnold et al.,Nature nanotechnology , vol.1, pp60-65 (2006)
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、密度勾配剤を用い遠心分離によりカーボンナノチューブの直径分離を行う際に、溶液に密度勾配を予め形成しておく必要がなく、しかもカーボンナノチューブの直径分離を行うことのできる方法を提供することを目的とするものである。
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を行ったところ、密度勾配剤として塩化セシウム(CsCl)を用いることにより、予め遠心分離溶液に密度勾配を形成しておく必要がなく、しかも高精度でカーボンナノチューブの直径分離が行えることを見出した。また、このカーボンナノチューブの直径分離に用いられた液は、回収後濾過することにより再度カーボンナノチューブの直径分離の際の液として用いることができること、さらに、直径分離されたカーボンナノチューブは一連の工程で、従来公知の密度勾配遠心分離法により金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブに分離することができることをも見出した。本発明は、これらの知見に基づいて成されたものである。
すなわち、本発明は、以下に示すとおりのカーボンナノチューブの直径分離方法に関する。
(1)カーボンナノチューブ分散液を遠心処理することにより直径に応じカーボンナノチューブを分離するカーボンナノチューブの直径分離方法において、前記遠心処理にかけられるカーボンナノチューブ分散液が塩化セシウムおよび界面活性剤を含有することを特徴とするカーボンナノチューブの直径分離方法。
(2)前記塩化セシウムのカーボンナノチューブ分散液中の濃度が30〜50重量%であることを特徴とする上記(1)に記載のカーボンナノチューブの直径分離方法。
(3)前記界面活性剤が、コール酸ナトリウムおよびデオキシコール酸ナトリウムから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のカーボンナノチューブの直径分離方法。
(4)前記コール酸ナトリウムまたはデオキシコール酸ナトリウムの濃度が0.4重量%〜3重量%であることを特徴とする上記(3)に記載のカーボンナノチューブの直径分離方法。
(5)前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載のカーボンナノチューブの直径分離方法。
(6)前記カーボンナノチューブ分散液が、カーボンナノチューブを前記界面活性剤含有水溶液に分散し、この分散液を塩化セシウムおよび前記界面活性剤含有水溶液と混合することにより製造されることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載のカーボンナノチューブの直径分離方法。
(7)カーボンナノチューブを分散する界面活性剤水溶液の界面活性剤と、塩化セシウムおよび界面活性剤含有水溶液の界面活性剤が同じ界面活性剤であり、また含有濃度も同じであることを特徴とする上記(6)に記載のカーボンナノチューブの直径分離方法。
(8)前記塩化セシウムおよび界面活性剤含有水溶液が、前記カーボンナノチューブの直径分離処理後に回収された液を濾過することにより得られた液であることを特徴とする上記(6)または(7)に記載のカーボンナノチューブの直径分離方法。
(9)前記塩化セシウムおよび界面活性剤含有水溶液が、前記カーボンナノチューブの直径分離処理後に回収された液を濾過することにより得られた液を濃度調整することにより得られた液であることを特徴とする上記(6)または(7)に記載のカーボンナノチューブの直径分離方法。
(10)上記(6)〜(9)のいずれかに記載のカーボンナノチューブの直径分離法により得られたカーボンナノチューブ分画液の塩化セシウムおよび界面活性剤含有水溶液を、金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブを密度勾配遠心分離法により分離する際に用いられるカーボンナノチューブ分散界面活性剤水溶液の界面活性剤水溶液に置換した後、密度勾配遠心分離法により金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブに分離することを特徴とするカーボンナノチューブの直径および金属型、半導体型分離方法。
本発明の方法においては、塩化セシウムがイオン性塩であることから、密度勾配剤としてイオデキサノールを用いた場合のようなπ−π相互作用は起こらず、カーボンナノチューブから容易に除去することが可能である。また、塩化セシウムは、遠心中に密度勾配が自動的に形成されるため、遠心処理前に遠心チューブ内に密度勾配を形成させておく必要がなく、カーボンナノチューブが分散された塩化セシウム、界面活性剤含有溶液を単に遠心チューブ内に挿入すればよいことから、分離処理する前の遠心チューブ内に密度勾配を予め形成しておかなければならなかった従来の方法に比べ、分離処理に要する作業が短縮、簡単となることから、コスト的に優れた方法である。さらに、本発明の直径分離法により、直径範囲の狭いカーボンナノチューブを得ることができる。
また、本発明の直径分離法においては、遠心処理後のカーボンナノチューブバンド域以外の液を限外濾過するなどして不純物として存在するカーボンナノチューブなどを除去すれば、遠心処理に使用した液を再度遠心処理に使用する液として再利用が可能となり、コスト上優れた方法である。
また、本発明の直径分離法においては、遠心処理後のカーボンナノチューブバンド域の分画によって得られた分画液のカーボンナノチューブ担持液を、金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブを密度勾配遠心分離法により分離する際に用いられるカーボンナノチューブ分散界面活性剤水溶液の界面活性剤水溶液に置換し、この置換されたカーボンナノチューブ分散液を用いて従来公知の密度勾配遠心分離法により金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブの分離を直接行うことができ、一連の工程で、カーボンナノチューブの直径分離および金属型カーボンナノチューブ、半導体型カーボンナノチューブの分離を行うことができる。
図面代用写真であり、実施例1によって得られた遠心後の遠心チューブの写真である。 分離前の単層カーボンナノチューブ溶液および実施例1の遠心処理により得られた単層カーボンナノチューブバンドの上層部の光吸収スペクトル図である。 直径分離後の単層カーボンナノチューブのおよびこれをさらに密度勾配遠心分離法で遠心処理して得た単層カーボンナノチューブバンドの上層部と下層部の光吸収スペクトル図である。 実施例4によって得られる上層部および下層部から得られた単層カーボンナノチューブ分離の光吸収スペクトル図である。
本発明は、密度勾配剤を用いて遠心処理を行いカーボンナノチューブ、例えば単層カーボンナノチューブの直径分離を行う方法において、密度勾配剤として塩化セシウムを用いることを特徴とする。前記したように、本発明のカーボンナノチューブの直径分離方法においては、密度勾配剤を用いるが、遠心分離チューブ内に密度勾配剤により予め遠心分離前に密度勾配を形成する必要はない。本発明のカーボンナノチューブの直径分離方法においては、まず、カーボンナノチューブ分散水溶液を作製し、このカーボンナノチューブ分散水溶液を塩化セシウム含有水溶液と混合し、この混合液を遠心チューブに挿入し、遠心分離機で遠心し、形成されたカーボンナノチューブの所定のバンド域から液を分画することにより、所定の直径を有する、直径分布の狭いカーボンナノチューブを得ることができる。以下、本発明のカーボンナノチューブの直径分離方法を、単位操作ごとにさらに詳細に説明する。
まず、カーボンナノチューブ分散水溶液は、次のような方法により作製される。すなわち、界面活性剤含有水溶液に、カーボンナノチューブを入れた後、超音波分散させることによりカーボンナノチューブ分散水溶液を作製する。なお、カーボンナノチューブに界面活性剤含有水溶液を加え、超音波分散させてもよい。界面活性剤としては、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウムなどが好ましく用いられるが、本発明において用いられる界面活性剤がこれらに限定されるものではない。界面活性剤は2種以上が併用されてもよい。界面活性剤の濃度は、使用される界面活性剤により異なるものの、通常0.4〜3%(重量)程度の濃度が好ましく、臨界ミセル濃度より大きくする必要がある理由から1%(重量)程度であることがより好ましい。また、カーボンナノチューブの量は、界面活性剤水溶液100ml当たり、1〜100mg程度の量とされる。超音波分散は、カーボンナノチューブの均一単分散が行われる限り、従来公知あるいは周知の任意の超音波分散装置を用い、任意の時間行えばよい。一例としては、バス型超音波分散器により0.5〜1時間カーボンナノチューブの予備的分散を行った後、4時間から20時間かけてホモジナイザーを用い分散を行う方法が挙げられる。
次に、このカーボンナノチューブ分散水溶液は塩化セシウム含有水溶液と混合される。塩化セシウム含有水溶液における塩化セシウムの濃度は、30〜50重量%程度が好ましく、一般的には45重量%程度で使用することが好ましい。また、塩化セシウム含有水溶液には、カーボンナノチューブ分散水溶液混合時のカーボンナノチューブの分散性を塩化セシウム含有水溶液と混合した後も保持させる観点から、界面活性剤を含有させることが好ましい。このとき使用される界面活性剤としては、カーボンナノチューブ分散水溶液を形成する際に用いられたものと同様のものが挙げられ、また使用濃度もカーボンナノチューブ分散水溶液を形成する際の濃度と同様の濃度とされる。混合液中の塩化セシウムの濃度は、30〜50重量%とされることが通常好ましく、より好ましくは35〜48重量%、さらに好ましくは40〜45重量%である。塩化セシウムの濃度が30重量%より小さい場合、試料が全てチューブの底に沈殿してしまう恐れがあり、また50重量%を超える場合、分離が充分に起こらない恐れがある。また、混合水溶液中の界面活性剤の量は、0.5〜3重量%であることが好ましい。塩化セシウム含有水溶液とカーボンナノチューブ分散水溶液との混合割合は、通常、塩化セシウム含有水溶液100mlに対し、カーボンナノチューブ分散水溶液1〜100mlであることが好ましく、最終混合物中でのカーボンナノチューブの量は、混合液100ml中カーボンナノチューブを1〜100mg程度とすることが好ましい。
次に、遠心チューブに上記混合液を均一に挿入し、遠心を行う。本発明においては、予め溶液に密度勾配をかける必要がないことから、混合液を単に遠心チューブに挿入するだけでよい。遠心条件は、塩化セシウム溶液の濃度、使用する遠心機、ローターの種類などにより異なり、特に限定されるものではないが、通常200,000g〜450,000g程度の遠心を、3〜20時間程度行えばよい。例えば、日立工機製P65VT3をローターとして用い、遠心機として日立工機製CP100WXを用いる場合、402,000g(最大遠心加速度)で22度3時間遠心を行えばよい。遠心の結果、溶液密度勾配がかかり、超遠心チューブ内にカーボンナノチューブに由来するバンドが形成される。バンドの上層部と下層部ではカーボンナノチューブの直径分布が異なり、上層部の方が下層部に比べ直径が小さいものとなる。
遠心後、チューブ内の溶液を上から一定量順次取り出す(分画する)ことにより、カーボンナノチューブに由来するバンドの所定のバンド域から、所定の径を有し、かつ径の揃ったカーボンナノチューブを分離、取得することができる。分画は、例えば、遠心チューブの上方から細い中空管を挿入し、液上方から順次所定量ずつ液を抜き取る方法などの方法によって行われる。必要であればカーボンナノチューブに由来するバンド域までは一度に取り除き、カーボンナノチューブに由来するバンド域のみ分画、採取してもよい。このとき、同じ形状の複数の遠心チューブに同じ組成のカーボンナノチューブ混合液を挿入し、同じ条件で遠心処理し、この遠心処理済みの複数の遠心チューブの、カーボンナノチューブに由来するバンド域の同じ領域から同時にカーボンナノチューブ混合液を分画し、同じ容器に回収することにより、同時に多量の直径分離カーボンナノチューブを迅速に製造することができる。分画量は任意でよいが、例えば、直径16mm、高さ78mmの遠心チューブ内に12mlの混合液が挿入される場合、カーボンナノチューブに由来するバンド域の液量は通常1〜6ml程度となるから、このような条件である場合には、分画量は0.6ml程度とすればよい。しかし、本発明における分画量はこれに限定されるものではなく、要は所定の直径を有するカーボンナノチューブが分離、取得できる量範囲とされればよい。また、細かく分画して、それぞれの液において異なる直径を有するカーボンナノチューブ含有液を得るようにしてもよいし、所定の直径を有する範囲の複数の分画液を合わせて一つの液として、所定の直径を有するカーボンナノチューブを得るようにしてもよい。
遠心に用いられた混合液は、必要なカーボンナノチューブを分離した後回収され、回収溶液に残存するカーボンナノチューブなどの不純物を限外濾過機などを用いて除去した後、塩化セシウム、界面活性剤濃度が所定の範囲にあればそのままで、また必要であればそれらの濃度を適宜調整することにより、再度カーボンナノチューブの直径分離のための塩化セシウム含有水溶液として使用することができる。
本発明においては、直径分離に用いるカーボンナノチューブとして、単層カーボンナノチューブが好ましく用いられる。また、直径分離に用いるカーボンナノチューブは、金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブとを分離した後の金属型カーボンナノチューブあるいは半導体型カーボンナノチューブに対して行われてもよいし、これら両者が分離される前のものに対して行われてもよい。
金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブとを分離する前のカーボンナノチューブに対して本発明の直径分離法が適用された後、さらに遠心精製を行うことにより、金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブとを分離することもできる。このカーボンナノチューブ直径分離後の金属・半導体カーボンナノチューブ分離法の一例を示すと、次のような方法が挙げられる。
分画によって得られた直径分離後のカーボンナノチューブ分散水溶液には、塩化セシウムおよび界面活性剤、例えばコール酸ナトリウムなどが含まれている。このカーボンナノチューブ分散水溶液を遠心型限外濾過膜を用いて、金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブとを密度勾配遠心分離する際に使用される界面活性剤水溶液、例えばデオキシコール酸ナトリウム1重量%溶液に置換する。置換を行った溶液を、ホモジナイザーを用いて所定時間、例えば1時間ホモジナイズを行い、新たなカーボンナノチューブ分散液を形成する。こうして作製されたカーボンナノチューブ分散液を従来と同様の方法、例えばイオデキサノール(iodixanol)などの密度勾配剤を用いて密度勾配をかけた溶液が挿入された遠心チューブに挿入し、遠心を行う。遠心条件は、従来の密度勾配分離法での金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブの分離条件と同様の条件とすればよい。
遠心分離により、遠心チューブ内に上層部と下層部で色相の異なるカーボンナノチューブバンドが形成される。これを分画することにより、金属型および半導体型が選択的に含まれる溶液を得ることができる。これによって、直径分離され、さらに金属型、半導体型に分離された極めて高純度のカーボンナノチューブが得られる。
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の例では、特に断りのない限り、%は重量%を示す。
実施例1
単層カーボンナノチューブ(名城ナノカーボン社製ArcSO)100mgを100mlのコール酸ナトリウム1%水溶液に分散させて、単層カーボンナノチューブ分散液を作製した。分散条件は、バス型超音波分散器で30分分散させた後、さらに、ホモジナイザー(ブランソン社製ソニファイアー)で15時間分散処理を行った。
他方、45%セシウムクロライド水溶液にコール酸ナトリウム(SC)を加え、最終的に、45%セシウムクロライド1%コール酸ナトリウム水溶液を作製した。同溶液に前述の単層カーボンナノチューブ分散液を加え、最終的に42.5%セシウムクロライドおよび1%コール酸ナトリウムを含む単層カーボンナノチューブ混合液を作製した。この混合液を、超遠心チューブ(日立工機、12PAチューブ)に12ml均一に挿入した。
前記の単層カーボンナノチューブ混合液を挿入した超遠心チューブを、ローター(日立工機、P65VT3)および遠心機(日立工機、CP100WX)を用いて、402,000g(最大遠心加速度)で22度、3時間遠心を行った。その結果、遠心チューブ内に、単層カーボンナノチューブに由来するバンドが形成された(図1)。溶液密度は、上端から底面にかけて1.40gml-1から1.59gml-1と勾配がかかっており、そのうち、単層カーボンナノチューブ由来のバンドは、1.42gml-1から1.52gml-1の間に形成された。
遠心チューブ内の溶液を上から、0.6mlステップで分画を行い、おのおの光吸収スペクトルを確認した。その結果、単層カーボンナノチューブに由来するバンドの上層部と下層部で明確に直径分布が異なることが分かった。図2に、直径分離前の単層カーボンナノチューブ(SWCNT)溶液の光吸収スペクトル(上図)と上層部から得られた単層カーボンナノチューブ溶液の光吸収スペクトル(下図)を示す。金属型および半導体型単層カーボンナノチューブに由来する吸収帯を図に示しているが、遠心分離後に非常にバンド幅が小さくなっていることが分かる。バンド幅の半値幅は、分離することにより1381cm-1から1070cm-1へと減少しており、また、吸収のピーク位置のシフト(例えば、半導体単層カーボンナノチューブのバンドでは、1015nmから983nmへ変化)が起こっていた。バンド幅の減少、吸収ピークの位置のシフト、から、塩化セシウム(CsCl)を用いた遠心分離により効率よく、直径選択が行われていることが分かる。
実施例2
実施例1において、遠心後の溶液の単層カーボンナノチューブのバンド領域以外の領域の溶液を集め、遠心型限外濾過膜(ミリポア:アミコン)を用いて、3000g 3時間の遠心を行った。その結果、フィルター上部に、単層カーボンナノチューブ等の不純物が吸着、除去され、コール酸ナトリウム含有塩化セシウム溶液を回収することができた。この回収溶液の塩化セシウムおよびコール酸ナトリウムの濃度を各々45%、1%に調整した。この調整溶液を45%セシウムクロライド1%コール酸ナトリウム水溶液として用いることを除き実施例1と同様にして、単層カーボンナノチューブの遠心処理を行ったところ、実施例1と同様の結果が得られた。
この結果から、単層カーボンナノチューブの直径分離に用いた塩化セシウム溶液を回収、再利用することができることが分かる。これにより単層カーボンナノチューブの直径分離の際のコストの改善を行うことができる。
実施例3
塩化セシウムおよびコール酸ナトリウムが不純物として含まれる実施例1によって得られた直径分離単層カーボンナノチューブ含有水溶液を、遠心型限外濾過膜(ミリポア:アミコン)を用いて、デオキシコール酸ナトリウム1%溶液に置換した。置換を行った溶液に対して、ホモジナイザー(ブランソン社製、ソニファイアー)で1時間ホモジナイズを行い、新たな単層カーボンナノチューブ分散液を作製した。
超遠心用チューブ(日立工機、40PAチューブ、総量40ml)内にイオデキサノール40%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)3%水溶液、イオデキサノール35%ドデシル硫酸ナトリウム3%水溶液、イオデキサノール30%ドデシル硫酸ナトリウム3%水溶液、イオデキサノール25%ドデシル硫酸ナトリウム3%水溶液を順に下層より8mlずつ挿入した。残りの8mlのスペースに、イオデキサノール40%ドデシル硫酸ナトリウム3%水溶液4mlと前記単層カーボンナノチューブ分散液4mlを混合した溶液を挿入し、遠心チューブを封じた。その後、ローター(日立工機、P50VT2)および遠心機(日立工機、CP100WX)を用いて、243000gで22度9時間遠心を行った。
遠心後、遠心チューブ内に、上層部は青みがかり、下層部は赤みがかった単層カーボンナノチューブバンドが形成された。上層から順に約0.6mlずつ分画を行い、各々の光吸収スペクトルを明らかにした。その結果(単層カーボンナノチューブバンド域の上層部および下層部の光吸収スペクトル)を図3に示す。図3の上図は遠心処理前の直径分離単層カーボンナノチューブ(SWCNT)溶液の光吸収スペクトル図であり、中図は、遠心後に得られたバンド上層部の溶液の光吸収スペクトル図を、下図は、遠心後に得られたバンド下層部の光吸収スペクトル図である。図3に示すように、金属型および半導体型が選択的(各々約80%以上)に含まれる溶液を得ることができた。
実施例3から、直径選択を行って得られた、金属型および半導体型の単層カーボンナノチューブの両者が含まれている単層カーボンナノチューブ溶液を、更に遠心精製することで、金属型および半導体型単層カーボンナノチューブの分離精製が可能であることが分かる。即ち、単層カーボンナノチューブを一連の工程により、直径分離に加え半導体型、金属型分離も行った極めて高純度な単層カーボンナノチューブを得ることができる。
実施例4
単層カーボンナノチューブ(名城ナノカーボン社製ArcSO)100mgを100mlのデオキシコール酸ナトリウム1%水溶液に分散させて、単層カーボンナノチューブ分散液を作製した。分散条件は、バス型超音波分散器で30分分散させた後、さらに、ホモジナイザー(ブランソン社製ソニファイアー)で15時間分散処理を行った。
他方、45%セシウムクロライド水溶液にデオキシコール酸ナトリウム(DOC)を加え、最終的に、45%セシウムクロライド1%デオキシコール酸ナトリウム水溶液を作製した。同溶液に前述の単層カーボンナノチューブ分散液を加え、最終的に42.5%セシウムクロライドおよび1%デオキシコール酸ナトリウムを含む単層カーボンナノチューブ混合液を作製した。この混合液を、超遠心チューブ(日立工機、12PAチューブ)に12ml均一に挿入した。
前記の単層カーボンナノチューブ混合液を挿入した超遠心チューブを、ローター(日立工機、P50VT2)および遠心機(日立工機、CP100WX)を用いて、243,000g(最大遠心加速度)で22度、9時間遠心を行った。その結果、遠心チューブの中間層に単層カーボンナノチューブ由来のバンドが形成された。遠心チューブ内の溶液を上から、0.6mlステップで分画を行い、おのおの光吸収スペクトルを確認した。その結果、単層カーボンナノチューブに由来するバンドの上層部と下層部で直径分布が異なる傾向が見られることが分かった(図4)。

Claims (10)

  1. カーボンナノチューブ分散液を遠心処理することにより直径に応じカーボンナノチューブを分離するカーボンナノチューブの直径分離方法において、前記遠心処理にかけられるカーボンナノチューブ分散液が塩化セシウムおよび界面活性剤を含有することを特徴とするカーボンナノチューブの直径分離方法。
  2. 前記塩化セシウムのカーボンナノチューブ分散液中の濃度が30〜50重量%であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブの直径分離方法。
  3. 前記界面活性剤が、コール酸ナトリウムおよびデオキシコール酸ナトリウムから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載のカーボンナノチューブの直径分離方法。
  4. 前記コール酸ナトリウムまたはデオキシコール酸ナトリウムの濃度が0.4重量%〜3重量%であることを特徴とする請求項3に記載のカーボンナノチューブの直径分離方法。
  5. 前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のカーボンナノチューブの直径分離方法。
  6. 前記カーボンナノチューブ分散液が、カーボンナノチューブを前記界面活性剤含有水溶液に分散し、この分散液を塩化セシウムおよび前記界面活性剤含有水溶液と混合することにより製造された液であり、遠心処理後遠心チューブ内に形成されたカーボンナノチューブバンド域を分画することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のカーボンナノチューブの直径分離方法。
  7. カーボンナノチューブを分散する界面活性剤水溶液の界面活性剤と、塩化セシウムおよび界面活性剤含有水溶液の界面活性剤が同じ界面活性剤であり、また含有濃度も同じであることを特徴とする請求項6に記載のカーボンナノチューブの直径分離方法。
  8. 前記塩化セシウムおよび界面活性剤含有水溶液が、前記カーボンナノチューブの直径分離処理後に回収された液を濾過することにより得られた液であることを特徴とする請求項6または7に記載のカーボンナノチューブの直径分離方法。
  9. 前記塩化セシウムおよび界面活性剤含有水溶液が、前記カーボンナノチューブの直径分離処理後に回収された液を濾過することにより得られた液の塩化セシウムおよび界面活性剤の濃度を調整することにより得られた液であることを特徴とする請求項6または7に記載のカーボンナノチューブの直径分離方法。
  10. 請求項6〜9のいずれかに記載のカーボンナノチューブの直径分離法により得られたカーボンナノチューブ分画液の塩化セシウムおよび界面活性剤含有水溶液を、金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブを密度勾配遠心分離法により分離する際に用いられるカーボンナノチューブ分散界面活性剤水溶液の界面活性剤水溶液に置換した後、密度勾配遠心分離法により金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブに分離することを特徴とするカーボンナノチューブの直径および金属型、半導体型分離方法。
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