JP5588276B2 - カーボンナノチューブの色制御方法 - Google Patents

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Description

本発明は、単層カーボンナノチューブ(以下「SWCNT」と記載することもある。)の色を能動的に制御する方法、この方法に用いられる表示セル、及びこの表示セルを用いた表示装置に関する。
SWCNTは、1991年にネイチャー(非特許文献1)に発表されて以来、種々の潜在的な応用、例えば1次元細線、触媒、ITOに替わる導電膜、シリコン半導体素材に替わる半導体素材などへの応用が期待される新しい材料として積極的に開発が進められてきた(非特許文献2)。カーボンナノチューブの製造法としては、アーク法、レーザーアブレーション法、CVD法、High−Pressure CO法(HiPCO法)法など各種の製造法が知られている。しかし、いずれの製造法においても、目的とするカーボンナノチューブ以外に、ガラス状炭素やアモルファス炭素などの他の炭素物質などが同時に形成される。また、触媒金属が不純物として内包されることもある。したがって、合成後にはこのような不要な炭素物質や不純物を分離、除去する必要がある。さらに、SWCNTについてみても、様々な巻き方、直径のものが存在する。SWCNTは、巻き方によって金属性及び半導体性が大きく変化し、金属性を示すものは金属型カーボンナノチューブ、半導体性を示すものは半導体型カーボンナノチューブといわれており、電気的特性が全く異なる。また、直径によっても、バンドギャップエネルギーが変化し、金属性及び半導体性が変化する。現状ではSWCNTを製造する際、様々な巻き方・直径のものが混在して生成されてしまうことから、SWCNTをデバイス応用する際には、合成後のカーボンナノチューブから金属型と半導体型のSWCNTを分離することが必要とされ、その分離方法について種々の研究、提案がなされている。
このような分離方法の一つとして、近年、金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブの分離が、密度勾配遠心分離法によって高精度で可能であることが報告された(非特許文献3参照)。この方法は、イオデキサノール(iodixanol)により予め密度勾配をかけたコール酸ナトリウム及びドデシル硫酸ナトリウム含有溶液を遠心分離用チューブ内に形成し、これに、コール酸ナトリウム及びドデシル硫酸ナトリウムの混合溶液に分散されたカーボンナノチューブを挿入し、遠心分離を行うものである。
本発明者らは、密度勾配遠心分離法を用いて分離をする際に、界面活性剤として、これまで使用されていなかったデオキシコール酸ナトリウムを用いることにより分離能を改善し得ること、また密度勾配剤として高価なイオデキサノールに代えてスクロースを用いることができることを見出した(特許文献1参照)。
また、従来、密度勾配遠心分離法により金属型SWCNT及び半導体型SWCNTを分離する際、カーボンナノチューブを予め分散する溶液及び遠心分離用溶液にそれぞれ2種以上の特定の界面活性剤を特定割合、特定濃度で含有させておくことが必要であると考えられていた(特許文献2参照)が、本発明者らの研究の結果、カーボンナノチューブを分散させる水溶液に含有される界面活性剤として、デオキシコール酸アルカリ金属塩、コール酸アルカリ金属塩、高級アルキルベンゼンスルホン酸アルカリ金属塩のようなカーボンナノチューブを単分散することのできる界面活性剤を用い、一方、遠心分離用溶液に含有される界面活性剤として、金属型SWCNTと半導体型SWCNTとで異なる凝集状態を呈する、高級アルキルスルホン酸アルカリ金属塩のような界面活性剤を用いることで、各々1種の界面活性剤を用いることのみにより、金属型SWCNTと半導体型SWCNTとを高純度で分離できることを新たに見出し、特許出願した(特願2010−28812)。
一方、カーボンナノチューブの色は、種々の直径、金属型及び半導体型カーボンナノチューブが混在する状況では、可視光領域全体に吸収バンド構造が存在するため黒色を呈するが、カーボンナノチューブの金属型及び半導体型の分離精製を行うこと、さらに直径についても大きさ別に分離精製を行うことにより、シアン色・マゼンタ色・イエロー色を呈するカーボンナノチューブ分散水溶液が得られることが知られている(特許文献3参照)。
また、有機電子受容体やハロゲンをSWCNTにドープする化学ドーピング法や電極上に設けられたSWCNT膜に、過塩素酸リチウムのアセトニトリル溶液のような電解液中で対極との間で電圧をかける電気化学ドーピング法により、SWCNTの可視領域での全波長領域での吸光係数の減少、可視領域外の波長域での吸光ピークの低下が起こること、すなわち、化学ドーピング法又は電気化学ドーピング法によりSWCNT膜の色濃度が薄くなることは知られている(非特許文献4、5参照)。しかし、化学ドーピング法や電気化学ドーピング法によりSWCNT膜の色変化(色彩変化)が起こることは知られていない。
特開2008−266112号公報 特願2010−28812号 特開2009−18948号公報
S.Iijima,Nature,vol.354,pp56−58(1991) 応用物理、第78巻、第12号(2009)、第1128頁〜第1134頁 Arnold et al.,Nature nanotechnology,vol.1,pp60−65(2006) S.Kazaoui et al.,Synth.Metal.,pp1201−1202, 121(2001) S.Kazaoui et al.,Appl.Phys.Lett.Vol.78 No.22,3433−3435,2001
本発明者らは、鋭意研究を行ったところ、従来の化学ドーピング法又は電気化学ドーピング法が、様々なカイラリティ等の不純物が多く含まれているSWCNT薄膜に対して行われていたのに対して、特定の電子構造を有する、すなわち直径の大きさの揃った金属型又は半導体型のSWCNT薄膜に対して電気化学ドーピング法を行うことにより、SWCNT膜の色(色彩)変化が起こり、しかもSWCNT薄膜の色を能動的に変化させることができることを新たに見出した。
また、本発明者らは、SWCNT内部にC60、βカロテン等のπ共役分子などの他の分子を内包させることにより、色変化の回復状況が速く、また色変化の回復も改善されることから、SWCNT薄膜の色をより能動的に変化させることができることをも新たに見出した。本発明はこれら新知見に基づいて成されたものである。
すなわち、本発明の目的は、特定の電子構造を備えるSWCNT薄膜及びC60、βカロテン等のπ共役分子などの他の分子を内包させた特定の電子構造を備えるSWCNT薄膜に対して、電気化学ドーピング法を行うことにより、当該SWCNT薄膜の色彩を変化せしめる方法、該色制御を迅速に行う方法、これら方法に用いられる表示セル及びこの表示セルを用いた表示装置を提供することである。
本発明は、以下に示す方法に関する。
(1)直径の大きさの揃った金属型又は半導体型単層カーボンナノチューブの薄膜に対し、電気化学ドーピング法を用い電子又はキャリアの注入を行うことにより単層カーボンナノチューブ薄膜の色彩を変化せしめる方法において、
前記直径の大きさの揃った金属型又は半導体型単層カーボンナノチューブはチューブ内にπ共役分子を内包し、
前記直径の大きさの揃った金属型又は半導体型単層カーボンナノチューブの薄膜は電極と接した状態で電解液中に浸漬され、電解液中には更に対極が設けられ、対極と前記電極との間に電圧がかけられて、該単層カーボンナノチューブの薄膜が本来有する色彩を他の色彩に変化させ、その後電圧の印加を停止することにより、単層カーボンナノチューブ薄膜の色彩を前記他の色彩から前記本来の色彩に回復させることを特徴とする単層カーボンナノチューブ薄膜の色彩を変化せしめる方法
)上記(1)に記載の単層カーボンナノチューブ薄膜の色彩を変化せしめる方法において、前記直径の大きさの揃った金属型又は半導体型単層カーボンナノチューブ薄膜は、直径の大きさの揃った金属型又は半導体型単層カーボンナノチューブ分散液をろ過部材を用いてろ過し、ろ過部材を溶剤で溶解除去することにより形成されることを特徴とする単層カーボンナノチューブ薄膜の色彩を変化せしめる方法。
)上記(1)または(2)に記載の単層カーボンナノチューブ薄膜の色彩を変化せしめる方法において、前記電解液がN,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、イミダゾリウム系イオン液体、ピリジニウム系イオン液体、脂肪族系イオン液体から選ばれる少なくとも1種のイオン液体、又は過塩素酸リチウム含有アセトニトリル溶液であることを特徴とする単層カーボンナノチューブ薄膜の色彩を変化せしめる方法。
)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の単層カーボンナノチューブ薄膜の色彩を変化せしめる方法において、前記π共役分子がC60分子又はβカロテン分子であることを特徴とする単層カーボンナノチューブ薄膜の色彩を変化せしめる方法。
本発明においては、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を分離精製することにより得られた、直径の大きさの揃った金属型又は半導体型SWCNTを用いて薄膜を形成し、当該薄膜に電圧を加えることにより、薄膜が本来有する色彩を他の色彩に変化させることができ、またこの色彩の変化した薄膜への電圧の印加を停止することにより、SWCNTが本来有する色彩に戻すことができることから、電圧印加のオン・オフにより、SWCNTの色を能動的に制御することができる。また、本発明の直径の大きさの揃った金属型又は半導体型SWCNT内にC60、βカロテン等の分子を内包させておくことにより、SWCNTの色変化を完全に、また迅速に可逆制御できることから、SWCNTを用いた表示装置(ディスプレイ)を作製することが可能となり、SWCNTの利用分野の拡大を図ることができる。
図1は、本発明のカーボンナノチューブの色制御装置(表示装置)の概略図を示す。 図2は、直径約1.4nmの金属型SWCNT膜に、0V、−2.4V、−3.0Vの電圧をかけたときのときの、各々の電圧におけるSWCNT膜の光吸収スペクトルを示すスペクトル図である。 図3は、直径約1.0nmの金属型SWCNT膜に、0V、−2.5V、−3.0Vの電圧をかけたときのときの、各々の電圧におけるSWCNT膜の光吸収スペクトルを示すスペクトル図である。 図4は、直径約0.8nmの金属型SWCNT膜に、0V、−2.0V、−3.0Vの電圧をかけたときのときの、各々の電圧におけるSWCNT膜の光吸収スペクトルを示すスペクトル図である。 図5は、βカロテン内包半導体型SWCNT膜及び半導体型SWCNT膜に、同じ電圧をかけた後の、SWCNT膜の回復を示すラマンスペクトル図である。
1 セル
2 基板
3 作用極(電極)
4 SWCNT薄膜
5 対極
6 参照極
7 電解液
8 電圧印加手段
9 電位測定手段
本発明は、特定の電子構造を備えるSWCNT薄膜、即ち直径の大きさの揃った金属型又は半導体型SWCNT薄膜に対して電気化学ドーピング法を用いて、SWCNTに電子の注入或いはキャリアの注入を行うことにより、SWCNTの色制御を能動的に行う方法に関するものである。図1を参照しつつ、本発明の方法を更に詳細に説明すると、本発明の方法は、任意の方法で、SWCNTの直径及び金属型、半導体型の分離精製を行って得られた直径の大きさの揃った金属型又は半導体型SWCNTの薄膜4を基板上の作用極3となる導電膜に少なくとも接するように形成し、電解液7中で、作用極3と対極5間に電圧を印加することにより、前記直径の大きさの揃った金属型又は半導体型SWCNTが本来有する色彩を他の色彩に変化させることからなる。SWCNTの色彩は、金属型SWCNTの場合、直径が1.3〜1.4nmであればシアン系(青)の色をしており、直径がほぼ1nmであればマゼンタ系(赤)であり、0.8〜0.9nmであればイエロー系(黄)である。半導体型SWCNTの場合、直径が1.3〜1.4nmであれば、赤色系の色、直径が1nmであれば、緑系の色、0.8nmであれば青色系の色である。金属型SWCNTの方が、半導体型SWCNTに比べ色鮮やかであり、また電気化学ドーピング法を適用した際の色の変化も金属系SWCNTの方が、半導体系SWCNTに比べ鮮明であることから、本発明においては、SWCNTとして金属型SWCNTを用いることが好ましい。以下、本発明の方法をさらに具体的に説明する。
まず、本発明において用いられる直径の大きさの揃った金属型又は半導体型SWCNTを作製するために用いられる原料SWCNTから説明すると、原料SWCNTは、例えば、アーク放電、HiPCO法、CoMoCAT法、レーザーアブレーション法、スーパーグロースCVD法等の公知の方法により作製されたいずれのものであってもよい。SWCNT自体市販されているので、原料SWCNTは市販品を用いればよい。
本発明において用いられる直径の大きさの揃った金属型又は半導体型SWCNTを作製するには、原料SWCNTの直径分離、及び金属型、半導体型分離を行えばよい。このとき、直径分離と金属型、半導体型分離の順序はどちらが先でも、どちらが後でもよいし、その方法も従来公知の任意の方法によればよい。現在、直系が揃った、種々の直径を有するSWCNTが市販されているのでこれを用い、直径の大きさの揃ったSWCNTを更に金属型と半導体型に分離精製することが最も簡単な方法といえる。以下に、金属型又は半導体型SWCNTを得る方法を具体的に説明する。
金属型及び半導体型SWCNTの混在するSWCNTから金属型及び半導体型SWCNTを分離精製する方法の一例として、従来公知の次のような方法が挙げられる。すなわち、まず、SWCNTをデオキシコール酸ナトリウムなどの界面活性剤を用いて水に分散させる。一方、密度勾配剤としてイオデキサノールなどを用いて、密度の異なる複数の液を作製し、これにさらにコール酸ナトリウム及びドデシル硫酸ナトリウムを加え、遠心分離用溶液を作製する。その後、先に作製したSWCNT分散液にイオデキサノール、ドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤を添加し、遠心分離用チューブ内に、イオデキサノール濃度の大きい順に、SWCNT分散液及び密度の異なる複数の遠心分離用溶液が入れられる。その後、遠心分離を行うことにより、金属型と半導体型のSWCNTが行われる。このとき、密度勾配剤としてスクロースが用いられてもよい。
また、他の方法の例としては、本発明者らが先に出願した次のような方法が挙げられる。すなわち、前記密度勾配法において、SWCNT分散液の界面活性剤として、デオキシコール酸アルカリ金属塩、コール酸アルカリ金属塩、高級アルキルベンゼンスルホン酸アルカリ金属塩のような、カーボンナノチューブを単分散させることのできる界面活性剤を用い、一方、遠心分離用溶液に含有される界面活性剤として、金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブとで異なる凝集特性を示す、高級アルキルスルホン酸アルカリ金属塩のような界面活性剤(以下、「凝集用界面活性剤」ということもある。)を用いることにより、各々1種の界面活性剤を用いるのみで、金属型と半導体型のSWCNTの分離を行う方法が挙げられる。
この例について更に具体的に説明する。この例において、SWCNT分散水溶液を調製する際に用いられる、SWCNTを単分散させることのできる界面活性剤としては、単分散性の観点から、デオキシコール酸アルカリ金属塩及びコール酸アルカリ金属塩が好ましく、アルカリ金属塩としてはナトリウム塩が好ましい。SWCNTを単分散させることのできる界面活性剤は1種が用いられればよいが、2種以上が併用されてもかまわない。さらに、単分散性の能力においては劣るものの、高級アルキルスルホン酸アルカリ金属塩、例えばドデシル硫酸ナトリウムなどもSWCNTを単分散させることのできる界面活性剤として利用することができる。
また、SWCNTを単分散させることのできる界面活性剤の濃度は、使用される界面活性剤の種類、分散されるSWCNTの量により異なるものの、通常0.4〜3重量%程度の濃度であることが好ましく、臨界ミセル濃度より大きくする必要がある理由から1重量%程度であることがより好ましい。また、SWCNTを単分散させることのできる界面活性剤の濃度は、遠心処理用溶液における界面活性剤濃度以下であることが好ましい。一方、SWCNTの量は任意でよいが、通常、界面活性剤水溶液100ml当たり、1〜100mg程度の量とされる。超音波分散は、SWCNTの均一分散が行われる限り、従来公知あるいは周知の任意の超音波分散装置やホモジナイザーなどを適宜用いることができ、分散処理時間は任意でよい。一例としては、バス型超音波分散器により0.5〜1時間、SWCNTの予備的分散を行った後、1〜20時間かけてホモジナイザーを用い分散を行う方法が挙げられる。
さらに、用いられる密度勾配剤は、遠心分離用チューブ内の密度勾配を形成するよう充填された遠心分離用溶液に用いられる密度勾配剤と同一のものを用いることが好ましい。前記混合液中の密度勾配剤の濃度は、20〜50重量%程度が好ましいが、前記混合液層の上に充填される界面活性剤含有水溶液中の密度勾配剤の濃度より高くなるように調整することが必要である。必要であれば、密度勾配剤含有水溶液には、ドデシル硫酸ナトリウムなど遠心分離用溶液で用いられる凝集特性の異なる界面活性剤などの界面活性剤が含まれていてもよい。またその濃度は、SWCNT分散水溶液と混合された後の混合水溶液の濃度が、遠心分離用溶液中の凝集用界面活性剤の濃度より低くなるような濃度であることが好ましい。
一方、遠心分離用チューブには、密度勾配剤の含有量により密度が変えられた界面活性剤含有水溶液が密度の高いものから順次チューブ底部より層状に充填されて密度勾配が形成され、遠心分離用溶液が形成される。密度勾配剤としては、従来公知あるいは周知の密度勾配剤であれば良く特に限定されるものではないが、イオデキサノールなどが好ましいものとして挙げられる。遠心分離用溶液の密度は重要であり、カーボンナノチューブ分散溶液に用いられる分散用界面活性剤及び遠心分離用溶液で用いられる凝集用界面活性剤の種類などによって異なるが、例えばカーボンナノチューブ分散溶液の分散用界面活性剤としてデオキシコール酸ナトリウムを用い、遠心分離用溶液の凝集用界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウムを用いる場合、その濃度によっても異なるものの、一般的には密度1.1〜1.2g/mlにおいて金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブの分離がなされる。密度勾配剤の濃度は、このような密度を含む密度勾配が形成されるような濃度とされればよく、一例としてはイオデキサノール濃度が35重量%、32.5重量%、30重量%、27.5重量%、25重量%である5種類の濃度の溶液を用意し、これに凝集用界面活性剤をこれら溶液間で同濃度となるよう含有させ、遠心分離用チューブ中に濃度の大きい順に下層から層状に注入して遠心分離用溶液(以下、「凝縮層」ということもある。)を形成する。
また、この凝縮層に含有される凝集用界面活性剤としては、金属型SWCNTと半導体型SWCNTとにおいて異なる凝集状態を形成することのできる界面活性剤であれば何れのものでも良いが、高級アルキルスルホン酸アルカリ金属塩が好ましいものとして挙げられ、高級アルキルスルホン酸アルカリ金属塩の中では、ドデシル硫酸ナトリウムが好ましい。この凝集用界面活性剤を用いる場合、SWCNT分散水溶液中でSWCNTの表面に吸着したSWCNT分散用界面活性剤と、凝縮層で用いられる凝集用界面活性剤との置換が起こり、これにより金属型SWCNTと半導体型SWCNTとで異なった凝集状態が形成され、この凝集状態の違いにより金属型SWCNTと半導体型SWCNTの密度が異なったものとなり、この密度の違いにより遠心処理により金属型単層カーボンナノチューブと半導体型単層カーボンナノチューブが分離すると考えられることから、凝縮層における界面活性剤の濃度は、SWCNT分散用界面活性剤との置換が起こり、金属型SWCNTと半導体型SWCNTにおいて凝集状態が異なったものとなり、密度の違いが起こるような濃度とされる必要がある。通常、凝縮層中の凝集用界面活性剤の濃度が、SWCNT分散液中の分散用界面活性剤の濃度以上であることが好ましい。凝縮層で用いられる凝集用界面活性剤の濃度は、使用される界面活性剤により異なるものの、通常0.4〜3重量%程度の濃度が好ましく、臨界ミセル濃度より大きくする必要がある理由から1重量%程度以上であることがより好ましい。
前記するようにして調製されたSWCNTの分散水溶液層の上に凝縮層が形成された遠心分離用チューブを、超遠心機を用いて遠心が行われる。遠心処理の結果、遠心分離用チューブ内に上層部(金属型SWCNT)と下層部(半導体型SWCNT)で色相の異なる単層カーボンナノチューブバンドが形成される。これを分画することにより、金属型及び半導体型が選択的に含まれる溶液が得られる。
従来公知の方法或いは本発明者が先に出願した方法などで金属型及び半導体型SWCNTの分離された直径の大きさの揃った金属型又は半導体型SWCNTは、SWCNTの直径によりそれぞれ特有の色彩を有している。前記したように、例えば、直径が1.3〜1.4nmの金属型SWCNTはシアン系(青)、直径がほぼ1nmであればマゼンタ系(赤)、0.8〜0.9nmであればイエロー系(黄)の色を呈している。したがって、これらの中から適当な色、すなわち直径を選択して、薄膜形成用のSWCNTとすればよい。なお、本明細書において、「直径の大きさの揃った」とは、所望の色彩を有するSWCNTが得られる程度の範囲で直径が揃っているという意味であり、正確に1つの直径を有するものでもよいが、一定範囲、例えば0.1nm前後の範囲内で直径の異なるSWCNTの混合物であってもよい。
次に、直径の大きさの揃った金属型又は半導体型SWCNTの薄膜形成方法について説明する。本発明では、作用極3となる導電膜が形成された基板2に前記SWCNTの薄膜4を形成することが必要とされる。導電膜は、白金膜、クロム膜、ITO膜など公知の導電膜のいずれであってもよい。導電膜は基板の全面に設けられてもよいし、基板2の一部に設けられてもよいが、前記SWCNT薄膜4は少なくとも一部が該導電膜3と接触していることが必要である。また、導電膜が形成される基板2としては、石英、ガラス、ポリマー、シリコン、化合物半導体などが挙げられる。基板の導電膜上へのSWCNT薄膜4の形成法としては、例えば、以下の方法が挙げられるが、導電膜上への薄膜の形成法がこれらに限定されるものではない。その際、形成されたSWCNT膜には、良好な導電特性が必要なため、SWCNTの分離精製の際に用いられた界面活性剤が残っていないようにすることが好ましい。
(ア)SWCNTをメタノール、エタノール、N−メチルピロリドン等の溶媒に分散し、この分散液を加熱した、導電膜を有する基板上にノズルから霧状に少しずつ吹き付けて成膜する。
(イ)メタノール、エタノール、N−メチルピロリドン等の溶媒に金属性SWCNTを分散して藻状とする。その後、メンブレンフィルターを用いて減圧濾過を行い、フィルター上にSWCNTを回収する。次に、熱湯・メタノール・トルエンを用いて良く洗浄し、Triton(ポリオオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の界面活性剤水溶液に金属型SWCNTを分散させ、更に、ニトロセルロースフィルターを用いて減圧濾過し、フィルター上にSWCNT膜を形成させる。膜形成後、フィルター上のSWCNT膜面を基板上の導電膜面に少なくともその一部が接するような状態で貼り付け、乾燥後ニトロセルロースフィルターをアセトン等の溶媒を用いて溶解することにより、導電膜形成面にSWCNT薄膜を転写する。必要に応じ、基板上のSWCNT薄膜を、例えば、真空中で500℃まで加熱後、1時間その温度を維持することにより、成膜過程で混入した溶媒や不純物を除去する。
上記のごときSWCNTの薄膜形成方法により形成され薄膜を用いて、直径の大きさの揃った金属型又は半導体型SWCNTの色彩を変化せしめる方法、これに用いられるセル及び該セルを用いた表示装置について説明する。
本発明においては、電気化学ドーピング法を用いてSWCNT薄膜に電圧を印加し、SWCNTへの電子又はキャリアの注入を行うことによりSWCNT薄膜の色彩が変えられ、能動的に制御が行われるが、このためには、前記基板上の導電膜上に設けられたSWCNT薄膜が電解液に浸漬された状態とされ、この電解液中に対極、必要に応じ参照極を設け、基板上の導電膜からなる作用極と対極の間に電圧が印加されることが必要である。図1に、本発明のSWCNT薄膜の色彩を変化せしめる方法に用いられる表示セルの一例を示す。図1の表示セルは、セル1、基板2上に設けられた導電膜からなる作用極(電極)3、作用極3に少なくとも一部が接触するように設けられた直径の大きさの揃った金属型又は半導体型SWCNT薄膜4、対極(補助電極)5、参照極6、電解液7を含んでいる。また、作用極3と対極5間には電圧印加手段8が、作用極3と参照極6間には電位測定手段9が設けられている。前記セル1は、前記基板上の2本の導電膜(作用極3)上に設けられた直径の大きさの揃った金属型又は半導体型SWCNT薄膜4を収納できる大きさの内容積を有するものとされ、石英、ガラス、シリコン、プラスチック等の透明な材料から好ましく作製される。セル1内には、前記SWCNT薄膜4の形成された基板2と共に、電解液7が入れられ、SWCNT薄膜が電解液に浸漬され、また、電解液7中に、対極5、参照極6も設置される。
電解液としては、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウム ビス(フルオロメタンスルホニル)イミド(N,N,N−Trimethyl−N−propylammonium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide)のようなイオン液体、過塩素酸リチウムなどの電解質を含むアセトニトリル或いは水などの溶剤溶液など、電解液として知られた液を適宜用いることができる。
また、対極3としては、例えば白金電極などが、参照極6としては、例えばAg/Ag+(0.01M AgNO3、0.1M TBAP、AN)などが用いられる。なお、対極としては、基板上にITOなどの導電膜が設けられたものが用いられてもよい。
直径の大きさの揃った金属型又は半導体型SWCNT薄膜4に、例えば、参照電極6の電位が例えば0Vから+3.0V、あるいは0Vから−3.0V付近になるよう、作用極3と対極5間に電圧が掛けられると、電位の大きさにより、SWCNT薄膜の色(色彩)が異なったものとなる。例えば直径約1.4nmの金属型SWCNT膜の場合、シアン系の色が電圧が0Vから離れる(大きくなる或いは小さくなる)に従って、徐々にイエロー系の色に変化していき、3Vあるいは−3Vにおいて、きれいなイエロー系の色となる。また、電位を元の状態に戻すと、SWCNT膜の色も元のシアン系の色に戻る。このため、電圧印加手段8によりSWCNT膜への電圧を制御することにより、能動的にSWCNT膜の色制御を行うことができる。この例では、直径約1.4nmの金属型SWCNT膜の場合を述べたが、他の直径或いは半導体型SWCNT膜の場合においても色彩は異なるものの同様の色制御がなされる。
本発明の色変化の原理は、電気化学ドーピングプロセスとなっている。即ち、SWCNT表面にイオンが集まり、電気二重層を形成することにより、SWCNTに電子又はキャリアが注入され、色変化が生じる。イオンの吸着は様々な状況下におこり、表面に集まったイオンが乖離しない等の理由により、電圧を元に戻しても、吸収スペクトルが完全には元に戻らない可能性がある。本発明により、SWCNTの色を能動的に制御することは可能であるが、本発明を表示装置(ディスプレイ)等に応用する場合は、色変化が完全に可逆であることが重要である。本発明者らは、SWCNTの色変化が、C60分子、βカロテン分子などのπ共役系分子等の分子をSWCNT内に内包させて、イオンがSWCNT内部にトラップされることを防ぐことにより、完全に可逆とすることができることを見出した。
分子をSWCNT内に内包させる方法としては、例えば、以下(1)、(2)のような方法が例示される。なお、分子をSWCNT内に内包させる方法が、以下の方法に限定されるものではない。
(1)まず、精製したSWCNTを300〜400℃で10分〜1時間、大気雰囲気でアニールを行う。その後、真空中、金属型SWCNTを320℃で再度アニーリングを行い、分子と共に石英ガラス管内に封入する。その後、500℃で24時間加熱し、トルエンで外側に吸着した分子を除去し、分子を内包した金属型SWCNTを作製する。
(2)まず、精製したSWCNTを300〜400℃で10分〜1時間、大気雰囲気でアニールを行う。その後、分子が飽和しているヘキサン等の溶液中にSWCNTを入れ、還流作業を約5時間行う。その後、テトラヒドロフラン溶液を用いて外側に吸着した除去し、分子を内包した金属型SWCNTを作製する。
なお、上記例では、アニール温度、アニール回数、内包処理温度、処理時間、分子を溶解する溶剤、及びそれによる処理時間などを具体的に記載したが、本発明においては、SWCNT内に分子が内包されればよいのであり、上記具体的に示された条件に限定されるものではなく、SWCNT内に分子を内包させることができる範囲で、処理条件は任意に変更可能である。また、このSWCNT内への分子内包は金属型、半導体型のいずれでも行うことができる。
上記セルは、作用電極、対極間に電圧を印加する、或いは印加された電圧を元に戻すなどの方法で、金属型又は半導体型に応じ、また直径の相違に応じ、それぞれ特有の色変化を能動的に形成できることから、セルを透明セルとすることにより、表示セルとして利用することができる。表示セルとして用いる場合、表示セルを複数配置し、電圧印加手段8を用いて各々のセルへの電圧の印加を制御する(例えば、オン・オフを行う)ことにより、或いは一枚の基板上に複数の作用極と各作用極に対応してSWCNT薄膜を形成し、電圧印加手段を用いて各作用極への電圧の制御を行う(例えば、オン・オフを行う)ことにより、各セルごとに膜の色を可逆的に変化、制御することができることから、これを情報表示媒体などの表示装置として用いることもできる。
以下、本発明を実施例、参考例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例、参考例により何ら限定されるものではない。なお、以下の例では、特に断りのない限り、%は重量%を示す。
参考例1〔シアン系統色のSWCNTの色制御〕
(SWCNT原料の精製方法)
原料SWCNTとして、アーク放電法によって作成された直径約1.4nmのSWCNTを用いた。先ず、このSWCNT30mgを、デオキシコール酸ナトリウム(DOC)1%水溶液30mlに、バス型超音波洗浄器(シャープ社製)を用いて分散させた。その後、超音波ホモジナイザー(ブランソン社製、250D)を用いて4時間分散処理を行った。得られた分散液を超遠心分離機(日立工機、CP100WX、ローター、P40ST)を用いて40,000rpmで30分遠心を行い、上澄み液のみを回収し、この溶液をSWCNT分散液として利用した。
(抽出方法)
密度勾配剤としてイオデキサノールを利用し、イオデキサノール濃度35%、32.5%、30%、27.5%の4種類の溶液を用意した。それぞれにドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及びコール酸ナトリウム(SC)を1.5%ずつになるように界面活性剤濃度を調整し、密度勾配液を作製した。
また、上記で作製したSWCNT分散液と、イオデキサノール溶液及び界面活性剤を混合し、イオデキサノール濃度40%、SDS濃度2.4%、SC濃度0.6%、DOC濃度0.33%となるように、イオデキサノール含有SWCNT分散液を作製した。
次に、遠心分離用チューブ(40PAtube)の中に、最下層にイオデキサノール含有SWCNT分散液を約7ml注入し、次に密度勾配液をイオデキサノール濃度の大きい順に、前記イオデキサノール含有SWCNT分散液の上に約7mlずつ層状に注入した。
その後、超遠心機(日立工機CP100WX、ローターP50VT2)を用いて、50,000rpmで9時間遠心を行った。その結果、シアン系統色を示す金属型SWCNTを遠心チューブの上層部に得ることができた。
(SWCNT薄膜の形成方法)
得られた直径約1.4nmの金属型SWCNTに1対1の割合でメタノール溶液を入れ、藻状にさせた。次いで、メンブレンフィルター(孔径0.1μm、ミリポア社製)を用いて減圧濾過を行い、フィルター上にSWCNTを回収した。その後、熱湯・メタノール・トルエンを用いて、良く洗浄し、最後に、界面活性剤Triton(ポリオオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、和光純薬製)1%水溶液に金属型SWCNTを分散させた。更に、ニトロセルロースフィルター(孔径0.22μm、ミリポア社)を用いて減圧濾過し、フィルター上に直径約10mmのSWCNT膜を形成させ、このSWCNT膜面を基板に貼り付け、乾燥させた後、フィルターをアセトンで溶かし、両サイドに幅1〜2mmの白金電極が形成されている9mm×50mmのガラス基板上に膜を転写させた。
(色の制御方法)
石英セル(10mm×10mm×50mm)の中に、イオン液体(N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド,アルドリッチ社製)を満たし、シアン系統色を示す金属型SWCNT膜と白金電極が形成されているガラス基板、参照電極(Ag/Ag)、対極(補助電極)を図1のとおりに配置した。参照電極の電位が、0Vから+3.0V、あるいは0Vから−3.0V付近になるよう、作用極と対極間に電圧をかけることにより、SWCNT薄膜に電圧が印加されることにより電気化学ドーピング法を行ったところ、いずれの場合にも印加電圧が大きくなれば、SWCNTの色のシアン系統色からイエロー系統色への色変化が大きくなり、3V或いは−3V付近で、いずれもイエロー系統色となった。このときのSWCNTの250〜1600nmの光吸収スペクトルを分光光度計(島津製作所製、UV−3600)により測定した。
図2に、印加電圧0V、−2.4V、−3.0VのときのSWCNT膜の光吸収スペクトルを示す。図2から明らかなように、SWCNT膜の700nm近辺にあるピークの吸光量が電圧印加により減少し、これによってSWCNT膜の色がシアン系統色からイエロー系統色になったことが分かる。さらに、印加した電圧を0Vに戻したところ、何れの場合も、SWCNTの色がイエロー系統色からシアン系統色へと徐々に回復した。
参考例2〔マゼンタ系統色のSWCNTの色制御〕
(SWCNT原料の精製方法)
原料は、High−Pressure CO法によって作成された直径約1.0nmのSWCNTを用いた(Undym社製)。先ず、直径約1.0nmのSWCNT30mgをデオキシコール酸ナトリウム(DOC)1%水溶液30mlにバス型超音波洗浄器(シャープ社製)を用いて分散させた。その後、超音波ホモジナイザー(ブランソン社製、250D)を用いて4時間分散処理を行った。得られた分散液を超遠心分離機(日立工機、CP100WX、ローター、P40ST)を用いて40,000rpmで30分遠心を行い、上澄み液のみを回収し、この溶液をSWCNT分散液として利用した。
(抽出方法)及び(SWCNT薄膜の形成方法)
金属型SWCNTの抽出及び得られた金属型SWCNTの薄膜の形成は、参考例1と同様の手順で行った。
(色の制御方法)
マゼンタ系統色を示す直径約1.0nmの金属型SWCNT膜を用いた以外は、参考例1と同様の装置及び手順で電気化学ドーピング法を行った。このとき、参照電極の電位が、0Vから+3.0V、あるいは0Vから−3.0V付近になるよう、作用極と対極間に電圧をかけたところ、いずれの場合にも電圧が大きくなれば、SWCNTの色のマゼンタ系統色からイエロー系統色(あるいは茶系統色)への色変化が大きくなり、3V或いは−3V付近で、イエロー系統色(あるいは茶系統色)となった(図3)。参考例1と同様にして、SWCNTの光吸収スペクトルを測定した。
図3に、0V、−2.5V、−3.0VのときのSWCNT膜の光吸収スペクトルを示す。図3から明らかなように、SWCNT膜の500nm近辺にあるピークの吸光量が電圧印加により減少し、これによってSWCNTの色がマゼンタ系統色からイエロー系統色(あるいは茶系統色)になったことが分かる。また、印加した電圧を0Vに戻したところ、何れの場合も、SWCNT膜の色がイエロー系統色(あるいは茶系統色)からマゼンタ系統色へと徐々に回復した。
参考例3〔イエロー系統色のSWCNTの色制御〕
(SWCNT原料の精製方法)
原料は、CoMoCAT法によって作成された平均直径約0.8〜0.9nmのSWCNT(CoMoCAT;アルドリッチ社製)を用いた。先ず、SWCNT30mgをデオキシコール酸ナトリウム(DOC)1%水溶液30mlにバス型超音波洗浄器(シャープ社製)を用いて分散させた。その後、超音波ホモジナイザー(ブランソン社製、250D)を用いて4時間分散処理を行った。得られた分散液を超遠心分離機(日立工機、CP100WX、ローター、P40ST)を用いて40,000rpmで30分遠心を行い、上澄み液のみを回収し、この溶液をSWCNT分散液として利用した。
(抽出方法)及び(金属型SWCNTの薄膜形成方法)
金属型SWCNTの抽出及び得られた金属型SWCNTの薄膜の形成は、参考例1と同様の手順で行った。
(色の制御方法)
イエロー系統色を示す金属型SWCNT膜を用いた以外は、実施例1と同様の装置及び手順で電気化学ドーピング法を行った。このとき、参照電極の電位が、0Vから+3.0V、あるいは0Vから−3.0V付近になるよう、作用極と対極間に電圧をかけたところ、いずれの場合にも電圧が大きくなれば、SWCNTの色がイエロー系統色からより薄いイエロー系統色へと変化した(図4)。また、印加した電圧を0Vに戻したところ、何れの場合も、SWCNTの色が薄いイエロー系統色からイエロー系統色へと徐々に回復した。
実施例
(βカロテン分子内包半導体型及び金属型SWCNTの作製方法)
参考例1に記載の(SWCNT原料の精製方法)及び(抽出方法)と同様の方法により、先ず、SWCNT原料を、金属型、半導体型に分離精製した。分離、回収した半導体型及び金属型SWCNT(各約1mg)を、各々400℃で30分間、大気雰囲気でアニールを行った。その後、得られた半導体型又は金属型SWCNTをβカロテン分子が飽和しているヘキサン溶液中に入れ、還流作業を5時間行った。その後、テトラヒドロフラン溶液を用いて外側に吸着したβカロテン分子を除去し、βカロテン分子を内包した半導体型及び金属型SWCNTを作製した。
(βカロテン分子内包SWCNTの色変化及びその回復)
参考例1に記載の(金属型SWCNTの薄膜形成方法)と同様の方法により、βカロテン分子内包半導体型及び金属型SWCNTの薄膜を形成し、各βカロテン分子内包SWCNTに対し、参考例1と同様の装置及び手順で電気化学ドーピング法を行った。電圧を−3.0Vとした後電圧を元に戻したところ、いずれの場合にも分子を内包していないSWCNTに比べ、βカロテン分子内包SWCNTの方がスペクトルの回復が効率よく起こった。図5に、βカロテン内包半導体型SWCNT及び分子を内包していない半導体型SWCNTに、同じ電圧をかけた後の、SWCNT膜の回復を示すラマンスペクトル図を示す。図5のラマンスペクトルの電圧印加前後のGバンドのラマン強度比から、βカロテン内包半導体型SWCNTでは、回復が約1.4倍改善されていることが分かった。
実施例
(C60分子内包半導体型及び金属型SWCNTの作製方法)
参考例1に記載の(SWCNT原料の精製方法)及び(抽出方法)と同様の方法により、先ず、SWCNT原料を、金属型、半導体型に分離精製した。分離、回収した半導体型及び金属型SWCNT(各約1mg)を、各々400℃で30分間、大気雰囲気でアニールを行った。その後、真空中、320℃で再度アニーリングを行い、得られた半導体型又は金属型SWCNTをC60分子(約10mg)と共に石英ガラス管内に封入し、500℃で24時間加熱した後、トルエンで外側に吸着したC60を除去し、C60分子を内包した直径約1.4nmの半導体型又は金属型SWCNTを作製した。
(C60分子内包SWCNTの色変化及びその回復)
こうして得られたC60分子を内包したSWCNTの場合も、βカロテン分子内包SWCNTと同様、スペクトルの効率よい回復結果が得られた。
なお、電圧を元に戻した際の色彩の回復効率が、分子内容SWCNTの方がよい理由は、次のようなことによると考えられるが、これにより本願発明が何等限定されるものではない。
すなわち、本発明の色変化は、電気化学ドーピング法により行われるが、このときSWCNT表面にイオンが集まり、電気二重層を形成することにより、SWCNTにキャリアが注入され、色変化が生じる。イオンの吸着は様々な状況下におこり、表面に集まったイオンが乖離しない、SWCNT内部の空間にイオンがトラップされる等の理由により、電圧を元に戻しても、吸収スペクトルが完全には元に戻らないという問題がある。このとき、SWCNT内部にC60分子やβカロテン分子を内包させると、イオンのSWCNT内部へのトラップが起こらず、電圧を元に戻した際の色彩の回復速度が速くなると考えられる。

Claims (4)

  1. 直径の大きさの揃った金属型又は半導体型単層カーボンナノチューブの薄膜に対し、電気化学ドーピング法を用い電子又はキャリアの注入を行うことにより単層カーボンナノチューブ薄膜の色彩を変化せしめる方法において、
    前記直径の大きさの揃った金属型又は半導体型単層カーボンナノチューブはチューブ内にπ共役分子を内包し、
    前記直径の大きさの揃った金属型又は半導体型単層カーボンナノチューブの薄膜は電極と接した状態で電解液中に浸漬され、電解液中には更に対極が設けられ、対極と前記電極との間に電圧がかけられて、該単層カーボンナノチューブの薄膜が本来有する色彩を他の色彩に変化させ、その後電圧の印加を停止することにより、単層カーボンナノチューブ薄膜の色彩を前記他の色彩から前記本来の色彩に回復させることを特徴とする単層カーボンナノチューブ薄膜の色彩を変化せしめる方法
  2. 請求項1に記載の単層カーボンナノチューブ薄膜の色彩を変化せしめる方法において、前記直径の大きさの揃った金属型又は半導体型単層カーボンナノチューブ薄膜は、直径の大きさの揃った金属型又は半導体型単層カーボンナノチューブ分散液をろ過部材を用いてろ過し、ろ過部材を溶剤で溶解除去することにより形成されることを特徴とする単層カーボンナノチューブ薄膜の色彩を変化せしめる方法。
  3. 請求項1または2に記載の単層カーボンナノチューブ薄膜の色彩を変化せしめる方法において、前記電解液がN,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、イミダゾリウム系イオン液体、ピリジニウム系イオン液体、脂肪族系イオン液体から選ばれる少なくとも1種のイオン液体、又は過塩素酸リチウム含有アセトニトリル溶液であることを特徴とする単層カーボンナノチューブ薄膜の色彩を変化せしめる方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の単層カーボンナノチューブ薄膜の色彩を変化せしめる方法において、前記π共役分子がC60分子又はβカロテン分子であることを特徴とする単層カーボンナノチューブ薄膜の色彩を変化せしめる方法。
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