JP7334901B2 - 低欠陥カーボンナノチューブの分離法および低欠陥ナノチューブ - Google Patents

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Description

本発明は、カーボンナノチューブの集合体を欠陥の少ないカーボンナノチューブと欠陥の多いカーボンナノチューブに分離する手法、それにより得られる欠陥の少ないカーボンナノチューブに関する。また、その分離結果を用いてカーボンナノチューブに含まれる欠陥の濃度を推定評価する方法に関する。
カーボンナノチューブ(CNT)は光学特性や電気伝導特性、熱伝導特性、機械的強度などに優れ、用途の広い新素材として研究開発が進められている。CNTは構造の違いによって電気的な性質が異なって金属にも半導体にもなり(非特許文献1)、これらを分離する事により(特許文献1)金属型は薄膜化して導電膜に、半導体型はトランジスタや集積回路への応用研究が進められている。
CNTの合成法は、グラファイト電極間で放電させることで炭素を蒸発させて合成するアーク放電法や、メタンやアルコールなどの有機分子や一酸化炭素などを原料として、電気炉内で金属微粒子触媒から成長させる化学気相合成法など様々な手法がある(非特許文献2)。いずれの手法で合成したCNTでも表面に欠陥を含んでいる事がわかっている。
グラファイトやCNTにどの程度欠陥が入っているかを調べる手法として、ラマン散乱スペクトルのピーク強度比が広く用いられている。振動数1590cm-1付近に観測されるGバンドと呼ばれる光学活性モードの強度と、1300cm-1付近に、励起レーザー光の波長に依存して振動数を変化させて観測されるDバンドと呼ばれる欠陥由来の振動モードの強度と比をG/D比と呼び、その大小を比較する事により、どの程度の欠陥が導入されているかの目安としている(非特許文献3)。CNTのラマン散乱を測定すると、必ずDバンドが観測されることから、どの合成法で作製したCNTも欠陥を含んでいる事がわかる。
しかし、G/D比の値と欠陥濃度の関係については、G/Dの値がいくつなら欠陥がどの程度入っているという基準が得られていない。GバンドもDバンドも異なる共鳴効果(非特許文献4,5)により強度が変化するため、励起するレーザー光の波長がへんかしたり、CNTの直径分布が変化したりすると、欠陥濃度が変化しなくてもG/D比が変化してしまうという問題点があるため(非特許文献6)、異なる合成法で作製されたCNT集合体の欠陥導入の度合いを定量的に調べる事はできない。
高分解能電子顕微鏡観察や、走査型トンネル顕微鏡観察により、個々のCNTを原子レベルで観察し、欠陥がどれだけ含まれるかを一つ一つ評価する事は原理的には可能であるが、多数のCNTの集合体の平均的な欠陥導入の度合いを信頼できる精度で調べるためには、数百から数万本という極めて多数のCNTを一本一本調べる事が必要となり、現実的に不可能である。
合成直後のCNT集合体は、合成に使用された触媒金属やそれを取り囲む炭素皮膜、うまく合成されなかったCNTの断片やグラファイト、アモルファスカーボン等を含んでいるが、それら不純物を除去する事により、CNTの純度を向上させ、相対的にG/Dを向上させる事がこれまでに可能となっている。例えば、CNT集合体を、酸素を含むガス中で加熱する事により、欠陥を相対的に多く含むと考えられるアモルファスカーボンを優先的に酸化燃焼させ、炭酸ガスに変換することによって除去する手法がある(非特許文献7)。溶媒中に分散したCNTを溶解させた酸化剤を用いて酸化させる手法もある(非特許文献8)。どちらも、結果として得られた精製されたCNT集合体は、精製前よりもG/Dが向上する。しかし、これらの酸化手法では、精製対象であるCNTも同時に酸化してしまうため、CNTだけに着目すれば、酸化処理前よりも欠陥濃度が上昇してしまう事になる。
界面活性剤などの分散剤を用いて水中や有機溶媒中でCNTに超音波を照射するなどして分散し、その分散液を遠心分離機もしくは超遠心分離機にかけることにより、沈降速度の速い粒子を選択的に沈降させ、沈降速度の遅いCNTを上澄みとして回収する手法がある。この方法で得られた上澄み液は、遠心分離をかける前よりもG/D比が向上しており、CNTの精製が行われた事がわかる。
上記、超音波分散と遠心分離を組み合わせた手法をさらに発展させ、密度勾配をかけた溶媒中で超遠心分離をかけることにより、実効的密度の違いで分離する密度勾配超遠心分離法と呼ばれる手法があり、この手法でも、CNTと不純物の実効的密度の違いからCNTの精製が可能である。
しかし、これらの精製法はすべて、CNTと不純物の混合物から不純物を除去することにより、全体としてG/D比が改善されただけであり、CNTの集合体の中から欠陥の少ないCNTを選び出す事は一切できていない。CNT薄膜を用いて、トランジスタなどの高性能半導体電子デバイスを作製する場合、欠陥が多く移動度の低いCNTが少量でも混じっていると、デバイス全体の移動度が低下してしまうため、欠陥の多いCNTを除去して、欠陥の少ないCNTのみを選別して取り出す技術が望まれているが、これまでは実現しなかった。
特許第5594727号公報
R.Saito et.al. Electronic structure of chiral graphene tubules, Applied Physics Letters Volume 60 (1992) pp.2204 - 2206. 「カーボンナノチューブの基礎と応用」倍風館(2004) p23-p40 F.Tuinstra and J.L.Koenig,The Journal of Chemical Physics Volume53 (1970) pp.1126-1130. C. Thomsen and S. Reich, Physical Review Letters volume85 (2000)pp.5214-5217. Ernst Richter and K.R.Subbaswamy, Physical Review Letters volume 79(1997)pp.2738-2741. Rahul Rao et al.Carbon volume49(2011)pp.1318-1325. Jie Ma and Jian Nong Wang, Chemistry of matterials volume 20 (2008) pp.2895-2902. Shawn X. Xie et al. Applied Physics Letters volume 103 (2013) pp.133114-1-5.
本発明は、以上のようなこと情に鑑みてなされたものであって、カーボンナノチューブの集合体を欠陥の少ないカーボンナノチューブ集合体と欠陥の多いカーボンナノチューブ集合体に分離する手法、それにより得られる欠陥の少ないカーボンナノチューブ集合体を提供することを目的とするものである。またさらに、上記分離を定量的に分析することにより、CNT集合体に含まれていた欠陥の少ないCNTの割合を調べ、CNTの欠陥濃度の評価を実現することを目的とするものである。
本発明者らは上記課題を解決するため検討を重ねたところ、CNT集合体を界面活性剤で水に分散し、疎水基を含むハイドロゲル粒子と作用させることにより、欠陥を多く含むCNTがハイドロゲル粒子に吸着するのに対し、欠陥の少ないCNTはハイドロゲル粒子に吸着せずに溶液中に残ることを見いだした。吸着したCNTは、界面活性剤の種類や濃度を調整した水溶液を作用させることによりハイドロゲル粒子から流出させて採取することが可能であり、結果的に元CNT分散液を元CNT分散液よりも欠陥の少ないCNT分散液と元CNTよりも欠陥の多いCNTの分散液に分離することが可能となる。各分散液の濃度は、光吸収スペクトルの光学濃度から算出することが可能であるため、欠陥の少ないCNTと欠陥の多いCNTの相対比率を定量的に算出することが可能である。また、欠陥の少ないCNTは欠陥の多いCNTよりも電子移動度が高くなるため、欠陥の少ないCNT分散液を用いて導電膜やトランジスタを作製することにより、この分離を行わないCNTよりも高移動度の導電膜やトランジスタを作製することができる。
この分離手法は、疎水性の性質を持つCNT側壁の欠陥部分が局所的に親水性となることを利用して分離を行うものであり、それ故界面活性剤の種類には基本的に制限が無い。水に分散されたCNTにおいては、原子空孔などの欠陥部分にはカルボキシル基などが自然と形成されるため、欠陥の無い部分よりも親水性が高くなる。界面活性剤を添加すると、界面活性剤は疎水性相互作用によりCNTの疎水表面を減らすようにCNT表面に吸着するが、欠陥周辺では親水性となっているため、界面活性剤が吸着しても自由エネルギーが減少しないことから、吸着する界面活性剤分子数が少なくなる。そのため、欠陥が多く疎水性表面の狭いCNTに吸着する界面活性剤分子の数は、欠陥が少なく疎水性表面の広いCNTに吸着する界面活性剤分子よりも少なくなる。界面活性剤の被覆率が低いとハイドロゲルの疎水基に吸着するため、欠陥の多いCNTがハイドロゲルに吸着する。これが本発明の原理である。したがって、添加する界面活性剤の濃度を下げると、全体としてCNT表面の界面活性剤の被覆率が低下するため、吸着するCNTの量が増加し、吸着しないCNTが減少する。その際、界面活性剤濃度が高かったときには未吸着であったCNTの中でも、欠陥の多いCNTからゲルに吸着するようになるため、吸着するかしないかの境目が、より欠陥の少ない方に移行する。そのため、吸着しないCNTの欠陥濃度は、界面活性剤の濃度が低いほど低くなり、つまりより低欠陥のCNTが得られることになる。以上のように界面活性剤の濃度調整により、得られるCNTの欠陥濃度調整が可能となる。
本発明はかかる新規な知見に基づいてなされたものである。
すなわち、この出願によれば、以下の発明が提供される。
〈1〉界面活性剤を用いて水に分散した原料カーボンナノチューブをハイドロゲルに作用させることにより、分散液に含まれている欠陥が多いカーボンナノチューブを選択的にハイドロゲルに吸着させること、及び吸着せずに水溶液中に残留した欠陥が少ないカーボンナノチューブを回収することを含む、原料カーボンナノチューブよりも欠陥の少ないカーボンナノチューブの分離回収方法。
〈2〉〈1〉に記載の分離回収方法において、界面活性剤の濃度を下げることによりハイドロゲルに吸着する欠陥が多いカーボンナノチューブの量を増加させ、より欠陥の少ないカーボンナノチューブのみを水溶液中に残留させ、それを回収することを特徴とする原料カーボンナノチューブよりもより欠陥の少ないカーボンナノチューブの分離回収方法。
〈3〉〈1〉または〈2〉に記載の分離回収方法によって得られた、原料カーボンナノチューブよりも欠陥の少ないカーボンナノチューブ。
〈4〉界面活性剤を用いて水に分散した原料カーボンナノチューブをハイドロゲルに作用させることにより、分散液に含まれている欠陥が多いカーボンナノチューブを選択的にハイドロゲルに吸着させること、及び前記ハイドロゲルに吸着した欠陥の多いカーボンナノチューブを、吸着時と異なる種類や濃度の界面活性剤水溶液をハイドロゲルに作用させることにより溶液中に溶出させて回収することを含む、原料カーボンナノチューブ中の欠陥の多いカーボンナノチューブの分離回収方法。
〈5〉〈4〉に記載の分離回収方法によって得られた、原料カーボンナノチューブ中の欠陥の多いカーボンナノチューブ。
〈6〉〈3〉に記載された原料カーボンナノチューブよりも欠陥の少ないカーボンナノチューブと〈5〉に記載された原料カーボンナノチューブ中の欠陥の多いカーボンナノチューブとの量比を、分離前のカーボンナノチューブの分散処理時間を変化させて複数導出することにより、原料カーボンナノチューブに含まれる欠陥の濃度を推定評価することを含む、カーボンナノチューブの欠陥濃度評価方法。
これまでのCNTの精製では、CNT以外の不純物を除去するのみであったが、本発明の欠陥濃度の違いで分離する技術を使うことにより、CNTの中でも欠陥の少ないCNTと欠陥の多いCNTに分離することが可能になる。欠陥の少ないCNTでは、欠陥に起因する電子の散乱や格子振動の散乱が減少するため、電子やホールの移動度が高く、かつ格子振動による熱伝導度も高いCNTを選別して分取することが可能となる。この分離法で得られたCNTをさらに金属型・半導体型で分離精製することにより、高い移動度を持つ高速動作トランジスタやそれを集積した集積回路、抵抗の低い導電性薄膜などが可能となる。また、一定の条件で得られる欠陥の少ないCNTと欠陥の多いCNTの比率を計算し比較することにより、分離前のCNT集合体の欠陥導入率を評価することが可能になる。この欠陥濃度評価法により、ラマン散乱による評価法では不可能だった合成法や直径分布に依存しないCNTの品質評価が可能となる。
0.5%SC中に分散した分離用CNT分散液を、0.5%SCで平衡化したS1000ゲルを充填したカラムに注入し、0.5%SC水溶液で欠陥の少ないCNTを溶出した後、1.0%(DOC)溶液で欠陥の多いCNTを溶出した際のクロマトグラム(縦軸左)および、各フラクションのラマンスペクトルにおけるG/D比(縦軸右)。記号R,S,Tは代表的フラクションを示す。 フラクションR,S,および未分離Pの光吸収スペクトル フラクションTおよび未分離P’(Pの0.5倍)の光吸収スペクトル フラクションR,S,Tおよび未分離CNT分散液Pのラマン散乱スペクトル カラムの平衡化および注入CNT分散液および未吸着CNT溶出を0.25%SCで行った欠陥濃度による分離実験のクロマトグラム カラムの平衡化および注入CNT分散液および未吸着CNT溶出を0.5%SCで行った欠陥濃度による分離実験のクロマトグラム カラムの平衡化および注入CNT分散液および未吸着CNT溶出を1.0%SCで行った欠陥濃度による分離実験のクロマトグラム 0.25%SC水溶液で分離したフラクションR,Tおよび未分離CNT分散液Pのラマン散乱スペクトル 0.5%SC水溶液で分離したフラクションR,Tおよび未分離CNT分散液Pのラマン散乱スペクトル 1.0%SC水溶液で分離したフラクションRおよび未分離CNT分散液Pのラマン散乱スペクトル 未吸着CNT溶出を0.25mL/minの流速で行った欠陥濃度による分離実験のクロマトグラム 未吸着CNT溶出を0.5mL/minの流速で行った欠陥濃度による分離実験のクロマトグラム 未吸着CNT溶出を1.0mL/minの流速で行った欠陥濃度による分離実験のクロマトグラム 0.25mL/minの流速で分離したフラクションR,Tおよび未分離CNT分散液Pのラマン散乱スペクトル 0.5mL/minの流速で分離したフラクションR,Tおよび未分離CNT分散液Pのラマン散乱スペクトル 1.0mL/minの流速で分離したフラクションR,Tおよび未分離CNT分散液Pのラマン散乱スペクトル 直径1nmの単層CNT(HiPco)の欠陥濃度による分離実験のクロマトグラム 直径1nmの単層CNT(HiPco)のフラクションR,Tおよび未分離CNT分散液Pの光吸収スペクトル 直径1nmの単層CNT(HiPco)のフラクションR,Tおよび未分離CNT分散液Pのラマン散乱スペクトル 0.5%SCを用いた多層CNT(Nanocyl)の欠陥濃度による分離のクロマトグラム 0.75%SCを用いた多層CNT(Nanocyl)の欠陥濃度による分離のクロマトグラム 0.75%SCを用いて分離した多層CNT(Nanocyl)のフラクションR,T及び未分離CNT分散液Pの光吸収スペクトル 0.5%SCを用いたアーク放電法による単層CNT(AP)の欠陥濃度による分離のクロマトグラム(左縦軸)とG/D比(右縦軸) 0.5%SCを用いたアーク放電法による単層CNT(AP)の欠陥濃度による分離のフラクションR,Tおよび未分離CNT分散液Pの光吸収スペクトル 0.5%SCを用いたアーク放電法による単層CNT(AP)の欠陥濃度による分離のフラクションR,Tおよび未分離CNT分散液Pのラマン散乱スペクトル 0.25%SC溶液で平衡化、CNT分散液注入後、SC水溶液の濃度を段階的に変えて、CNTを溶出した欠陥濃度による分離のクロマトグラム SC濃度を段階的に変更して溶出したフラクションR1,R2,R3,R4,Tおよび未分離CNT分散液Pの光吸収スペクトル SC濃度を段階的に変更して溶出したフラクションR1,R2,R3,R4,Tおよび未分離CNT分散液Pの光吸収スペクトルの拡大像 SC濃度を段階的に変更して溶出したフラクションR1,R2,R3,Tおよび未分離CNT分散液PのラマンスペクトルのG/D比。点線は、未分離PのG/Dを示す。 超遠心処理無しのCNT分散液に対し、バッチ式で分離した上澄みCNT分散液と、未分離CNT分散液のラマン散乱スペクトル 超遠心処理を行ったCNT分散液に対し、バッチ式で分離した上澄みCNT分散液と、未分離CNT分散液のラマン散乱スペクトル 超音波分散時間を0.5時間としたCNT分散液の欠陥濃度による分離実験のクロマトグラム 超音波分散時間を1.0時間としたCNT分散液の欠陥濃度による分離実験のクロマトグラム 超音波分散時間を2.0時間としたCNT分散液の欠陥濃度による分離実験のクロマトグラム 超音波分散時間を0.5、1.0、2.0時間として欠陥濃度による分離を行い、得られたフラクションRの全体に対する割合を分散時間に対してプロットし、分散処理前のフラクションRの割合を導出した図 欠陥濃度による分離を行い、得られたフラクションR,T、および未分離のCNT分散液Pを用いてフィルム上に作製したCNT薄膜のシート抵抗をその吸光度を横軸にプロットしたグラフ 欠陥濃度による分離を行い、得られたフラクションR,T、および未分離のCNT分散液Pを用いてフィルム上に作製したCNT薄膜の原子間力顕微鏡像
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、CNTを界面活性剤水溶液に分散して得られたCNT分散液をハイドロゲルと作用させることにより、CNT分散液に含まれる欠陥の多いCNTを選択的に固定相であるハイドロゲルに吸着させて固定し、欠陥の少ないCNTを流動相である水溶液中に残留させることにより、欠陥の少ないCNTを分離回収することを特徴とする。分離原理を以下に述べる。CNT側壁は疎水性であり、そこに疎水性相互作用により界面活性剤が吸着することで水中に安定に分散される。しかし、そこに格子空孔などの構造欠陥がある場合、カルボキシル基などの親水基が自然と形成され局所的に親水性となる。親水性表面には疎水性相互作用が有効に働かず、界面活性剤が吸着しないため、欠陥近傍のCNT側壁は界面活性剤の吸着量が減少する。そのため、欠陥の多いCNTへの界面活性剤の吸着量は、欠陥の少ないCNTへの界面活性剤の吸着量に比べて少なくなる。CNT表面の界面活性剤の吸着量が少ない場合、CNTはハイドロゲルへ吸着するため、欠陥が多く、界面活性剤の吸着量が少ないCNTが選択的にハイドロゲルに吸着する。本発明はこのような原理に基づくため、使用する界面活性剤の種類に制限は無い。欠陥の少ないCNTは、ハイドロゲルに吸着せず、水溶液中に分散した状態を維持するため、それを回収することにより欠陥の少ないCNTを分取するが、溶液中に分散しているCNTを回収する方法であれば、クロマトグラフィーを使っても良いし、別の手法でも良い。回収方法には制限が無い。
欠陥の多いCNTがハイドロゲルに吸着する原理は、疎水性相互作用であるため、溶媒は水または水を含む有機溶媒もしくは疎水性相互作用を生じせしめる液体であれば何でも良い。ハイドロゲルにはCNTの疎水表面が吸着する疎水基を含むことが必要となるが、その条件を満たすハイドロゲルであれば、デキストランをベースにしたゲルでも、アガロースをベースにしたゲルでも他のゲルでも制限が無い。分離対象となるCNTと使用するハイドロゲルに適合する界面活性剤を選ぶことにより、欠陥濃度の違いによるCNTの分離精製が可能である。
本発明は、CNTの表面の欠陥濃度の違いによって分離するため、CNTの内部の構造や成分は原理的に影響を受けない。つまり、分離対象となるCNTは、製造方法や形状(直径や長さ)あるいは構造(単層、二層、三層、多層)などについて制限は無く、いずれも本発明の分離の対象とすることができる。
[CNT分散液の調製について]
本発明の、欠陥の多いCNTと欠陥の少ないCNTの分離では、必ずしもCNTが1本1本バラバラに分散されている必要は無い。複数のCNTが束になって溶媒中に分散していても、束の表面の平均的な欠陥濃度により分離可能である。しかし、CNTは原子配列の構造によって金属的な性質を示すものと半導体的な性質を示すものがあり、それらが混在して数本から数百本の束状に合成されるため、電子デバイス応用の際には金属型と半導体型を分離するために、CNTが溶液中でバラバラに孤立分散していることが望ましい。
そこで、CNTの混合物を界面活性剤の水溶液に加え、十分に超音波処理を行うことによりCNTを分散する。この分散処理を施した液には、孤立化分散したCNTと、孤立化できずにバンドルを形成したままのCNT、合成副産物であるアモルファスカーボンや金属触媒などが含まれる。このCNT分散液を遠心分離機で遠心分離することにより、沈降速度の違いから、バンドルのままのCNTやアモルファスカーボン、金属触媒を先に沈殿させ、孤立分散したCNTを上清として回収する。得られた上清がCNTの分離に使用する試料となる。ここで、超音波処理時間や遠心時間、遠心加速度gを変更することにより、超音波分散によるCNTへの欠陥導入や、CNT分散液の孤立性が制御できる。
CNT分散液の調製に用いる溶媒としては、水が最も好ましい。この点からCNT分散液の調製には水が使用される。
界面活性剤は、制限無く何でも使用することができるが、アルキル硫酸系の陰イオン界面活性剤は、金属型と半導体型で吸着する分子数に差が生じてしまうため、欠陥濃度のみで分離する界面活性剤としては好ましくない。しかし、金属型と半導体型の分離と欠陥濃度の違いによる分離を同時に行いたい場合は、使用することができる。疎水性の高いCNTを効率よく分散するには疎水性の高い界面活性剤が望ましく、コール酸ナトリウム(SC)やその各種誘導体が使われる。陽イオン界面活性剤や両性界面活性剤も使用することができる。これらの界面活性剤は、適宜混合して使用することができる。濃度は、分離対象のCNTの欠陥濃度や、分取したい欠陥濃度、使用する界面活性剤の種類、ハイドロゲルの種類によって、最適化を行うことができる。
[用いるハイドロゲルについて]
使用するハイドロゲルは、疎水基を有するゲルであれば制限は無いが、疎水性相互作用を際立たせるために、分析物とクーロン相互作用などの特殊な相互作用を持たないハイドロゲルが好ましい。サイズ排除クロマトグラフィーでは、分析物とのあからさまな相互作用が無いハイドロゲルを使用するため、サイズ排除クロマトグラフィーで用いられるハイドロゲルとして、多糖類であるデキストランをベースにしたハイドロゲル(セファクリル:アリルデキストランとN,N’-メチレンビスアクリルアミドのホモポリマー、GEヘルスケア社)、同じく多糖類であるアガロースをベースにしたセファロースやスーパーロース(GEヘルスケア社)などが好ましい。他にデンプンゲルやアクリルアミドゲルなどでも良く、また、これらハイドロゲルの混合物、あるいは、これらハイドロゲルの構成成分や他の物質の混合物や化合物からなるハイドロゲルであってもよい。ゲルの濃度については、例えば、終濃度で0.01%~25%とするのがよい。
本発明の分離はゲル分離であれば、カラム法に限定されるものではなく、バッチ法にも適用できる。カラムを用いた分離では、カラムへの送液は、オープンカラムを用いて溶媒の重力落下で送液する方法の他、密閉したカラムにポンプで溶液を送液する方法などが適用できる。ポンプを用いた分離では、大型カラムを用いて、流速をあげて大量処理を行うことも可能である。クロマトグラフィー装置を用いた自動分離も可能である。
欠陥濃度の高・低の判断基準として、ラマン散乱スペクトルにおける、Gバンドの強度とDバンドの強度の比を計算して用いた。Gバンドとは、炭素sp2混成軌道による二次元共有結合ネットワークを有する炭素材料に共通して観測される、2次元面内の振動モードであり、通常は1590cm-1付近に観測されるが、CNTにおいては、曲率を持つため、直径依存して若干その振動数が変化することが知られている。Dバンドは、欠陥に由来して生じるラマン散乱のモードで、欠陥の極めて少ない単結晶グラファイトでは観測されない。これらの比をとり、G/Dであれば大きいほど、D/Gであれば小さいほど欠陥が少ないと判断される。ただし、Gバンドの強度は、CNTの構造に依存した共鳴効果により増強されているため(非特許文献5)、CNTの直径分布とラマン散乱に使用するレーザー光の波長の組み合わせにより大きく変化してしまうことから、測定するCNTの直径分布とラマン散乱に使用するレーザーが同一の条件でしか比較することができない。欠陥濃度の違いで分離した場合は、直径分布は変化しないため、ラマン散乱測定の条件が同一であれば、G/D比が大きいほど欠陥が少ないと評価できる。
CNTの直径分布や、金属型と半導体型の割合の変化については、紫外-可視-近赤外光吸収スペクトル測定を利用する。CNTの光吸収構造は、同等の直径で構造のみが異なるCNT群に対し、低エネルギー(長波長)側から半導体型CNTの第一ギャップ(S11)、半導体型CNTの第二ギャップ(S22)、金属型CNTの見かけ上のバンドギャップ(M11)の吸収という順番で観測される。それぞれの吸収波長は、直径が大きくなるほど長波長に観測されることから、光吸収スペクトルから、金属型や半導体型のCNTの直径分布が判別できる。この情報を元に、ラマン散乱測定において使用されたレーザー光が、対象CNTの金属型を励起しているのか、半導体型を励起しているのかを知ることができる。
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明がこれに制限されるものではない。
〈実施例1〉
高速液体クロマトグラフィー装置とデキストラン系ハイドロゲルを用い、界面活性剤として陰イオン界面活性剤であるコール酸ナトリウム(SC)とデオキシコール酸ナトリウム(DOC)を使用した、CNTの欠陥濃度の違いによる分離。
[CNT分散液の作製]
CNT(EC1.5、名城ナノカーボン社製)30mgを、純水30mLにSCを0.5%(以下すべて重量%)濃度で溶解させた界面活性剤水溶液に投入し、1/2インチホーン型超音波ホモジナイザー(Sonifier 250D、ブランソン社製)で出力30%にて30分間超音波を照射し、CNTの分散液を作製した。その際、超音波のエネルギーによる水温上昇を防ぐため、上記水溶液を入れたガラス瓶を冷水にて冷却した。得られたCNT分散液を、アングルローター(S50A、日立工機製)を装着した超遠心分離機(himac CS100GXII、日立工機製)を用いて遠心加速度210000gで1時間遠心処理を行い、CNTのバンドルや不純物粒子を沈降させた後、上澄み80%を回収して、分離用CNT分散液とした。
[欠陥濃度の違いによる分離]
分離用CNT分散液を欠陥の少ないCNT分散液と欠陥の多いCNT分散液に分離するため、高速液体クロマトグラフィー装置(HPLC、AKTA pure25、GEヘルスケア製)を用いて欠陥濃度の違いによる分離を行った。23.5mLのセファクリルゲル(S1000、GEヘルスケア社製)を充填した直径10mm、長さ300mmのカラム(Tricorn10/30、GEヘルスケア社製)を、0.5%のSC水溶液で平衡化した後、分離用CNT分散液を1mL注入し、その後0.5%SC水溶液を0.5mL/minの流速でカラムボリューム(CV、この場合23.5mL)の2.5倍量(2.5CVと表記、この場合58.75mL)流すことにより、ゲルに吸着しない欠陥の少ないCNTを分取し、溶出時間の異なるフラクションを1mLごとに得た。クロマトグラムを図1aに示す。吸光度は鋭い立ち上がりの後テールを引く。図中に示す通り、初期に流出する代表的なフラクションをRとし、中期に流出するフラクションをSとする。その後カラムに注入する水溶液を変更し、1.0%濃度のDOC水溶液を0.5mL/minの流速で2.5CV流すことにより、ゲルに吸着していたCNTをゲルから脱離して溶出し、欠陥の多いCNTを分取し、いくつかのフラクションを得た。そのうち代表的なフラクションをTとする。図1aのクロマトグラムにおいて、非吸着フラクションがテールを引くのは、吸着するほどには欠陥濃度は高く無いものの、ある程度欠陥濃度の高いCNTは、界面活性剤の吸着量が少なくゲルとの相互作用が大きくなるため、欠陥濃度が低く界面活性剤の吸着量の多いCNTよりも溶出に時間がかかるためと考えられる。つまり、最も欠陥濃度の低いCNTは界面活性剤の吸着量が多く素早くカラムを通り、最初のフラクションとして回収されるが、欠陥濃度が上がるにしたがって界面活性剤の吸着量が低下し、溶出時間が長くなり、一定以上の欠陥濃度のものはカラムに吸着すると考えられる。そのため、フラクションRはフラクションSよりも低欠陥であり、吸着したフラクションTが最も欠陥濃度が高くなる。
[光吸収スペクトルの測定]
分光光度計(UV3600、島津制作所製)により、波長200nm~1350nmの範囲で紫外・可視・近赤外光吸収スペクトルを測定した。光吸収スペクトル測定では、光路長10mmの光学セルを用いて、溶媒水溶液を参照としてCNT分散液の光吸収スペクトルを測定したが、その際CNT濃度が高すぎると正確な測定ができないため、分離用CNT分散液および欠陥濃度の違いで分離した欠陥の少ないCNTの分散液は0.5%SC水溶液で、欠陥の多いCNT分散液は1.0%のDOC水溶液で希釈してから測定を行った。分離前のCNT分散液は100倍に、分離後は10倍に希釈して調整した。欠陥の少ないCNTフラクションR及びSを図1bに、欠陥の多いCNTフラクションTの光吸収スペクトルを図1cに示す。どちらも、分離前の分離用CNT分散液Pのスペクトルを点線で示してある。ただし、吸光度が異なるため、図1cではPの吸光度を0.5倍し、P’と表記した。フラクションTとP’のスペクトルに顕著な差は見られないが、フラクションRのスペクトルはPのスペクトルに比べ、波長650~800nm(M11)および波長1000~1300nm付近(S22)に観測されるCNT固有の光吸収構造において、微細な凹凸がより強く観測される。CNTの光吸収の波長は、CNTの直径や螺旋度などの構造に依存して変化するが、使用した試料には多数の異なる構造のCNTが混在しているため、様々な波長の光吸収が重ね合わさって観測され、波長650~800nmおよび波長1000~1300nm付近の光吸収バンドを形成している。CNTの光吸収においては、エキシトンによる光吸収が支配的であるが、エキシトンの寿命はCNTの欠陥が少ないほど長くなる。光吸収の半値幅はエキシトンの寿命の逆数に比例するため、欠陥の少ないCNTでは、光吸収の半値幅が狭くなる。フラクションRの光吸収スペクトルにおいて、微細な凹凸構造が強く観察されるのは、他のフラクションよりもエキシトンの寿命が長く、光吸収の半値幅が狭いためであり、欠陥濃度が他のフラクションよりも低いことを示している。
[ラマンスペクトルの測定]
CNT分散液および欠陥濃度の違いにより分離した欠陥の少ないCNTと欠陥の多いCNTのラマンスペクトルを、ラマン分光器(CRP-200MS、分光計器)を用いて測定した。使用したレーザーは波長488nmである。試料は光路長10mmの石英製キュベットに入れて、後方散乱のジオメトリーのマクロステージで測定した。典型的なスペクトルをフラクションR,S,Tおよび未分離の分離用CNT分散液Pについて図1dに示す。1590cm-1付近に観測されるG-bandの強度が1となるように強度を規格化してある。したがって、D-bandの強度を比較することで、G/D比の大小がわかる。なお、D-bandにはG-bandの散乱のテールがかかっているため、D-bandの正味の強度を求める際には、バックグラウンドを差し引く必要がある。フラクションRのD-bandは、他のどのフラクションよりも強度が低く、G/Dが一番高いことがわかる。一方、フラクションTは分離前のPよりもD-band強度が高く、G/D比が低いことがわかる。フラクションごとに測定したG/D比を図1aのクロマトグラム内に示した。図中破線は分離前のPのG/D比である37を示している。これよりも高い値であれば分離前よりも低欠陥、低ければ高欠陥であることを意味する。フラクションR近傍の、初期の溶出フラクションではG/Dが50を超えており、低欠陥であることを示している。Sの付近では、分離前とほぼ同じ値となっている。一方、Tの付近では30以下であり、分離前よりもG/Dが低い。以上をまとめると、0.5%SCの条件で吸着したフラクションTは、分離前よりも欠陥の多いCNTであることがわかる。吸着しなかったフラクションRとSは平均として分離前よりも欠陥が少なくなっており、溶出初期のフラクションRにおいて特に欠陥が少なくなっている。これらの結果から、カラムクロマトグラフィーで、欠陥の多いCNTをカラムに吸着させ、非吸着のCNTの溶出過程で、初期のフラクションを分取することにより、欠陥の少ないCNTを得ることができることがわかる。
〈実施例2〉
CNTの欠陥濃度による分離における、SC濃度依存性試験。CNTの分散溶媒および、カラムの平衡化に用いるSC溶液の濃度を変更して、実施例1と同様のCNTの分離試験を行った。
[CNT分散液の作製]
実施例1と同じ工程でCNT(EC1.5、名城ナノカーボン社製)を原料として0.5%SC水溶液を用いて、超音波処理および超遠心処理によりCNT分散液を準備した。このCNT分散液を遠心限外濾過(アミコンウルトラ:ポアサイズ100K、メルク・ミリポア)を用いて液量が1/10になるまで濃縮した。この濃縮されたCNT分散液を等量の純水で希釈し、0.25%SC水溶液に分散した分離用CNT分散液を準備した。そこにSC粉末を計量して加えることにより、SC濃度をそれぞれ0.5%および1.0%に調整して、0.5%SC濃度の分離用CNT分散液および1.0%SC濃度の分離用CNT分散液を準備した。
[CNTの欠陥濃度の違いによる分離]
分離用CNT分散液を欠陥の少ないCNT分散液と欠陥の多いCNT分散液に分離するため、実施例1と同様に、高速液体クロマトグラフィー装置を用いて欠陥濃度の違いによる分離を行った。セファクリルゲル(S1000)を充填したカラムを、0.25%のSC水溶液で平衡化した後、0.25%のSC溶液に分散した分離用CNT分散液を1mLカラムに注入し、その後0.25%SC水溶液を0.5mL/minの流速で2.5CV流すことにより、ゲルに吸着しない欠陥の少ないCNT画分Rを分取した。その後注入する水溶液を1%DOC水溶液に変更し、0.5mL/minの流速で2.5CV流すことにより、ゲルに吸着していたCNTをゲルから脱離して溶出し、欠陥の多いCNT画分Tを分取した。クロマトグラムを図2aに示す。次に、セファクリルゲル(S1000)を新たに充填したカラムを準備し、0.5%SC水溶液で平衡化した後、0.5%SC水溶液に分散した分離用CNT分散液を1mL注入し、その後0.5%SC水溶液を0.5mL/minの流速で2.5CV流すことにより、ゲルに吸着しない欠陥の少ないCNT画分Rを分取した。その後注入する水溶液を1%DOC水溶液に変更し、0.5mL/minの流速で2.5CV流すことにより、ゲルに吸着していたCNTをゲルから脱離して溶出し、欠陥の多いCNT画分Tを分取した。クロマトグラムを図2bに示す。次にセファクリルゲル(S1000)を新たに充填したカラムを準備し、1.0%SC水溶液で平衡化した後、1.0%SC水溶液に分散したCNT分散液を1mL注入し、その後1.0%SC水溶液を0.5mL/minの流速で2.5CV流すことにより、ゲルに吸着しない欠陥の少ないCNT画分Rを分取した。その後注入する水溶液を1%DOC水溶液に変更し、0.5mL/minの流速で2.5CV流すことにより、ゲルに吸着していたCNTをゲルから脱離して溶出し、欠陥の多いCNT画分Tを分取した。クロマトグラムを図2cに示す。
図2a,b,cのいずれの場合も、注入した分離用CNT分散液の中の一部のCNTがゲルに吸着し、それをDOC水溶液で溶出しており、吸着クロマトグラフィーが実現されているが、吸着するCNTの割合がSCの濃度によって変化していることがわかる。SC濃度が低いほど吸着画分Tの濃度が上がり、その分未吸着画分の濃度が下がっている。これは、欠陥の多いCNTには、表面に親水基が多いため界面活性剤の吸着量が低くなり、ゲルに吸着するという分離原理を裏付ける結果である。つまり、SC濃度が低くなると、CNT表面に吸着するSC分子数は全体的に低下するため、CNTはよりゲルに吸着しやすい状態となる。この状態では、吸着と未吸着の境界となる臨界欠陥濃度が低下し、より欠陥の少ないCNTのみが未吸着の成分となり、ゲルに吸着する欠陥の多いCNTの割合が増加することになる。したがって、未吸着成分はより欠陥の少ないCNTとなる。
[ラマンスペクトル測定]
SC濃度0.25%、0.5%、1.0%の条件で得られた未吸着CNT画分Rおよび吸着CNT画分T、分離用CNT分散液Pのラマンスペクトルを、ラマン分光器を用いて波長488nmのレーザーで測定した。結果を図2d(0.25%SC)、図2e(0.5%SC)、図2f(1.0%SC)に示す。ただし、1.0%SCの吸着CNT画分Tは、濃度が低すぎて、分析可能なラマンスペクトルを得ることができなかったため、結果を示していない。実施例1と同様の解析法により、未吸着CNT画分RのG/D比をそれぞれ算出し、以下の表に示した。分離前のCNT分散液PのG/Dが40であったのに対し、0.25%SCの条件で分離したR画分のG/Dは51、0.5%SCの条件では46、1.0%SCの条件では41であった。SC濃度が低いほど、吸着・未吸着の境界となるCNTの欠陥濃度が下がるため、SC濃度が低いほど未吸着画分のCNTの欠陥濃度が低下し、未吸着画分RのG/D比が高くなることが分かる。
〈実施例3〉
CNTの欠陥濃度による分離のSC水溶液流速依存性。未吸着画分と吸着画分を分離する際のSC水溶液の流速を変化させて、実施例1と同様のCNTの分離試験を行った。
[CNT分散液の作製]
実施例1と同様の方法により、CNT(EC1.5、名城ナノカーボン社製)を、0.5%のSC水溶液に超音波分散後超遠心処理し、分離用CNT分散液とした。
[CNTの欠陥濃度の違いによる分離]
分離用CNT分散液を欠陥の少ないCNT分散液と欠陥の多いCNT分散液に分離するため、実施例1と同様に、高速液体クロマトグラフィー装置を用いて欠陥濃度の違いによる分離を行った。セファクリルゲル(S1000)を充填したカラムを、0.5%のSC水溶液で平衡化した後、分離用CNT分散液を1mLカラムに注入し、その後0.5%SC水溶液を0.25mL/minの流速で2.5CV流すことにより、ゲルに吸着しない欠陥の少ないCNT画分Rを分取した。その後注入する水溶液を1%DOC水溶液に変更し、0.25mL/minの流速で2.5CV流すことにより、ゲルに吸着していたCNTをゲルから脱離して溶出し、欠陥の多いCNT画分Tを分取した。クロマトグラムを図3aに示す。次に、セファクリルゲル(S1000)を新たに充填したカラムを準備し、0.5%SC水溶液で平衡化した後、分離用CNT分散液を1mL注入し、その後0.5%SC水溶液を0.5mL/minの流速で2.5CV流すことにより、ゲルに吸着しない欠陥の少ないCNT画分Rを分取した。その後注入する水溶液を1%DOC水溶液に変更し、0.5mL/minの流速で2.5CV流すことにより、ゲルに吸着していたCNTをゲルから脱離して溶出し、欠陥の多いCNT画分Tを分取した。クロマトグラムを図3bに示す。次にセファクリルゲル(S1000)を新たに充填したカラムを準備し、0.5%SC水溶液で平衡化した後、分離用CNT分散液を1mL注入し、その後0.5%SC水溶液を1.0mL/minの流速で2.5CV流すことにより、ゲルに吸着しない欠陥の少ないCNT画分Rを分取した。その後注入する水溶液を1%DOC水溶液に変更し、1.0mL/minの流速で2.5CV流すことにより、ゲルに吸着していたCNTをゲルから脱離して溶出し、欠陥の多いCNT画分Tを分取した。クロマトグラムを図3cに示す。
図3a,b,cのいずれの場合も、注入した分離用CNT分散液の中の一部のCNTがゲルに吸着し、それをDOC水溶液で溶出しており、吸着クロマトグラフィーが実現されているが、吸着するCNTの割合がSC溶液の流速によって変化していることがわかる。SC溶液の流速が遅いほど吸着画分の濃度が上がり、その分未吸着画分の濃度が下がっている。これは、欠陥の多いCNTがゲルに吸着するには有限の時間がかかり、流速が速いと吸着力の弱いCNTは、限られたカラム通過時間内には十分吸着できずに、未吸着成分としてフラクションRに混入することを示している。
[ラマンスペクトル測定]
SC溶液の流速0.25mL/min、0.5mL/min、1.0mL/minの条件で得られた未吸着CNT画分Rと吸着CNT画分Tのラマンスペクトルを、マクロラマン分光器を用いて波長488nmおよび633nmのレーザーで測定した。また、分離前の分離用CNT分散液Pのラマンスペクトルも同条件で測定した。488nmのレーザーで測定したスペクトルを流速0.25mL/minについては図3d、0.5mL/minについては図3e、1.0mL/minについては図3fに示す。実施例1と同様の解析法により、それぞれのG/D比を算出し、以下の表に示した。波長488nmの結果では、分離前の分離用CNT分散液PのG/Dが33であったのに対し、0.25mL/minの条件で分離したR画分のG/Dは52、0.5mL/minの条件では38、1.0mL/minの条件では38であった。また、T画分については、0.25mL/minではG/Dは25、0.5mL/minでは23、1.0mL/minでは22であった。いずれの流速でも、フラクションRは未分離PよりもG/Dが高くなり、分離前よりも欠陥の少ないCNTが得られたことが分かる。逆にフラクションTでは、未分離よりもG/Dが低くなり、分離前よりも欠陥の多いCNTが得られた。流速依存性を見ると、流速が遅いほうが、フラクションRのG/Dが大きくなり、より欠陥の少ないCNTが得られていることがわかる。波長633nmでの測定では、488nmの励起光と共鳴するCNTの種類が変わり、金属型と半導体型の割合が変化するが、各流速でのフラクションRのG/Dが未分離PのG/Dよりも高くなり、フラクションTのG/Dは未分離PのG/Dよりも低くなるという結果も、流速が遅いほうがフラクションRのG/Dが高くなるという結果も、488nmの結果と同様であり、金属型と半導体型の区別はなく、どちらに対しても欠陥の少ないCNTと多いCNTに分離できていることがわかる。以上のように、流速を変化させることにより、欠陥の少ないCNTと欠陥の多いCNTの分離条件を調整することができる。
〈実施例4〉
実施例1と同様の実験を、一酸化炭素を原料とした、合成法および平均直径が異なる単層CNT(HiPco)を用いて行った。
[CNT分散液の作製]
純水100mLにSCを0.5%濃度で溶解させた界面活性剤水溶液にCNT(HiPcoロット番号R1-832、NanoIntegris製)100mgを投入し、1/2インチホーン型超音波ホモジナイザーで出力30%にて150分間超音波を照射し、CNTの分散液を作製した。その際、超音波のエネルギーによる水温上昇を防ぐため、上記水溶液を入れたガラス瓶を20℃に保った水槽に入れて冷却した。得られたCNT分散液を、S50Aアングルローターを装着した超遠心分離機を用いて遠心加速度210000gで1時間、超遠心処理を行い、CNTのバンドルや不純物粒子を沈降させた後、上澄み80%を回収し、分離用CNT分散液(HiPco)とした。
[CNTの欠陥濃度の違いによる分離]
分離用CNT分散液(HiPco)を欠陥の少ないCNT分散液と欠陥の多いCNT分散液に分離するため、実施例1と同様に、高速液体クロマトグラフィー装置を用いて欠陥濃度の違いによる分離を行った。23.5mLのセファクリルゲル(S1000)を充填した直径10mm、長さ300mmのカラムを、0.5%のSC水溶液で平衡化した後、分離用CNT分散液(HiPco)を1mLカラムに注入し、その後0.5%SC水溶液を0.5mL/minの流速で2.5CV流すことにより、ゲルに吸着しない欠陥の少ないCNT画分Rを分取した。その後注入する水溶液を1.0%DOC水溶液に変更し、0.5mL/minの流速で2.5CV流すことにより、ゲルに吸着していたCNTをゲルから脱離して溶出し、欠陥の多いCNT画分Tを分取した。クロマトグラムを図4aに示す。注入した分離用CNT分散液中の一部のCNTがゲルに吸着し、それをDOC水溶液で溶出しており、吸着クロマトグラフィーが実現されている。
[光吸収スペクトルの測定]
実施例1と同様に、分光光度計により、波長200nmから1350nmの範囲で紫外・可視・近赤外光吸収スペクトルを測定した。ただし、分離用CNT分散液およびフラクションRの希釈には0.5%のSC水溶液、フラクションTの希釈には1.0%のDOC水溶液を用いた。分離前の分離用CNT分散液P、フラクションR及びTの光吸収スペクトルを図4bに示す。スペクトルの違いを明確にするため、各スペクトルは280nmの吸光度でノーマライズしてある。実線で示されたフラクションRのスペクトルは、未分離PのスペクトルよりもCNT由来の吸収ピークの凹凸構造が顕著で、微細構造が見えるほど半値幅が狭い。一方、フラクションTのスペクトルは、未分離Pに比べてCNT由来の吸収構造の凹凸が小さく、微細構造も見えず、半値幅が広いことがわかる。これは、フラクションRのCNTは欠陥が少なく、そのためエキシトンの寿命が長く、吸収ピークの半値幅が狭くなっていると解釈できる。フラクションTはその反対に、欠陥が多く、半値幅が広くなっている。
[ラマンスペクトルの測定]
フラクションR、Tおよび未分離の分離用CNT分散液Pについて、ラマン分光器を用いてラマンスペクトルを測定した。使用したレーザーの波長は633nmである。試料は光路長10mmの石英製キュベットに入れて、後方散乱のジオメトリーのマクロステージで測定した。典型的なスペクトルをフラクションR,Tおよび未分離のPについて図4cに示す。1590cm-1付近に観測されるG-bandの強度を1として強度をノーマライズしてある。したがって、D-bandの強度を比較することで、G/D比の大小がわかる。D-bandを比較しやすいように、10倍に拡大したスペクトルを同時に示してある。実施例1と同様の解析法により、フラクションR,Tおよび未分離CNT分散液PのG/D比の値を算出し、以下の表に示した。フラクションRのD-band(G/D=93)は、未分離のPのD-band(G/D=71)よりも小さく、未分離のCNTよりも低欠陥のCNTが分取できていることがわかる。逆にフラクションTのD-band(G/D=48)は、Pのそれよりも大きく、欠陥が多いことがわかる。
〈実施例5〉
実施例1と同様の実験を、異なる合成法で合成された、多層カーボンナノチューブを用いて行った。
[CNT分散液の作製]
純水30mLにSCを0.5%および0.75%濃度で溶解させた2種類の界面活性剤水溶液にそれぞれ、多層CNT(Nanocyl-7000、Nanocyl製)30mgを投入し、1/2インチホーン型超音波ホモジナイザーで出力30%にて3時間超音波を照射し、CNTの分散液を作製した。その際、超音波のエネルギーによる水温上昇を防ぐため、上記水溶液を入れたガラス瓶を20℃に保った水槽に入れて冷却した。得られたCNT分散液を遠心分離機(Himac CT-13)により遠心加速度16060gで1時間、2mLのマイクロチューブを用いて遠心処理を行い、CNTのバンドルや不純物粒子を沈降させた後、上澄み80%を回収し、SC濃度が0.5%および0.75%の二種類の分離用CNT分散液(Nanocyl0.5)と分離用CNT分散液(Nanocyl0.75)を準備した。
[CNTの欠陥濃度の違いによる分離]
分離用CNT分散液を欠陥の少ないCNT分散液と欠陥の多いCNT分散液に分離するため、実施例1と同様に、高速液体クロマトグラフィー装置を用いて欠陥濃度の違いによる分離を行った。23.5mLのセファクリルゲル(S1000)を充填した直径10mm、長さ300mmのカラムを、まず0.5%のSC水溶液で平衡化した後、分離用CNT分散液(Nanocyl0.5)を1mLカラムに注入し、その後0.5%SC水溶液を0.5mL/minの流速で2.5CV流すことにより、ゲルに吸着しない欠陥の少ないCNT画分Rを分取した。その後注入する水溶液を1.0%DOC水溶液に変更し、0.5mL/minの流速で2.5CV流すことにより、ゲルに吸着していたCNTをゲルから脱離して溶出し、欠陥の多いCNT画分Tを分取した。クロマトグラムを図5aに示す。次にSC濃度を0.75%に変更して、分離用CNT分散液(Nanocyl0.75)の分離実験を行った。ただし、吸着したCNTの溶出はDOC1.0%濃度で変更していない。クロマトグラムを図5bに示す。いずれの場合も、分離用CNT分散液の中の一部のCNTがゲルに吸着し、それをDOC水溶液で溶出しており、吸着クロマトグラフィーが実現されているが、0.75%濃度のSC水溶液の場合は、吸着するCNTの量が減少するため、SC溶液で溶出するCNTの量が増加している。このSC濃度依存性は、実施例2で観測された傾向と一致しており、欠陥濃度による分離が行われたことがわかる。
[光吸収スペクトルの測定]
実施例1と同様に、分光光度計により、波長200nmから1350nmの範囲で紫外・可視・近赤外光吸収スペクトルを測定した。0.75%SCを用いた際の分離前の分離用CNT分散液(Nanocyl0.75)P、フラクションR及びTの光吸収スペクトルを図5cに示す。ただし、CNT分散液の希釈には分離用CNT分散液とフラクションRについては0.75%のSC水溶液、フラクションTについては1.0%のDOC水溶液を用いた。スペクトルの違いを明確にするため、各スペクトルは280nmの吸光度でノーマライズしてある。欠陥の多い多層CNTであるため、分離前の分離用CNT分散液Pのスペクトルは、アモルファスカーボンのスペクトルと同様のスペクトルを示し、CNTに特徴的なスペクトルは顕著ではない。しかし、CNT固有の光吸収が観測されるはずの近赤外波長域の光吸収を比較すると、フラクションRが最も吸光度が高く、次いでP,そしてTが最も低いという、実施例4と同じ結果となっている。一方、250nm付近の紫外の吸収をみると、PとTはほぼ重なっており違いが無いが、Rのみ鋭いピーク構造を示している。これは、実施例4(図4b)でみられるフラクションRのピークの先鋭化と同じ結果であり、フラクションRのCNTが低欠陥であることを示している。
〈実施例6〉
実施例1と同様の実験を、アーク放電法でグラファイト粉末から合成された、平均直径1.4nmの直径分布の狭いCNTを用いて行った。
[CNT分散液の作製]
純水30mLにSCを0.5%濃度で溶解させた界面活性剤水溶液にCNT(AP、ロット番号AP-A26k、Carbon Solution製)30mgを投入し、1/2インチホーン型超音波ホモジナイザーで出力30%にて30分照射し、CNTの分散液を作製した。その際、超音波のエネルギーによる水温上昇を防ぐため、上記水溶液を入れたガラス瓶を20℃に保った水槽に入れて冷却した。得られたCNT分散液を、S50Aアングルローターを装着した超遠心分離機を用いて、遠心加速度210000gで1時間超遠心処理を行い、CNTのバンドルや不純物粒子を沈降させた後、上澄み80%を回収し、分離用CNT分散液(AP)とした。
[CNTの欠陥濃度の違いによる分離]
分離用CNT分散液(AP)を欠陥の少ないCNT分散液と欠陥の多いCNT分散液に分離するため、実施例1と同様に、高速液体クロマトグラフィー装置を用いて欠陥濃度の違いによる分離を行った。23.5mLのセファクリルゲル(S1000)を充填した直径10mm、長さ300mmのカラムを、0.5%のSC水溶液で平衡化した後、分離用CNT分散液(AP)を1mLカラムに注入し、その後0.5%SC水溶液を0.5mL/minの流速で2.5CV流すことにより、ゲルに吸着しない欠陥の少ないCNT画分Rを分取した。その後注入する水溶液を1.0%DOC水溶液に変更し、0.5mL/minの流速で2.5CV流すことにより、ゲルに吸着していたCNTをゲルから脱離して溶出し、欠陥の多いCNT画分Tを分取した。クロマトグラムを図6aに示す。注入したSC水溶液中に分散したCNT分散液の一部がゲルに吸着し、それをDOC水溶液で溶出しており、吸着クロマトグラフィーが実現されている。
[光吸収スペクトルの測定]
実施例1と同様に、分光光度計により、波長200nmから1350nmの範囲で紫外・可視・近赤外光吸収スペクトルを測定した。ただし、CNT分散液の希釈には、分離用CNT分散液およびフラクションRについては0.5%のSC水溶液、フラクションTについては1.0%のDOC水溶液を用いた。分離前の分離用CNT分散駅(AP)P、フラクションR及びTの光吸収スペクトルを図6bに示す。スペクトルの違いを明確にするため、各スペクトルは280nmの吸光度で規格化してある。APは直径分布が狭いため、金属型および半導体型の光吸収スペクトルが、明瞭に分離して観測される。図6bに示した、1000nm付近のS22、500nm付近のS33の記号は、半導体型CNTの第二および第三吸収帯を示しており、720nm付近のM11は、金属型CNTの第一吸収帯を示している。実線で示されたフラクションRのスペクトルは、点線で示された未分離PのスペクトルよりもCNT由来の吸収が顕著で、特に半導体型S22バンドの強度が強いだけで無く、微細な凹凸構造が強く観測されている。これは、フラクションRのCNTが未分離CNTPよりも欠陥が少なく、そのためエキシトンの寿命が長く、吸収ピークの半値幅が狭くなっていると理解できる。P,R,Tにおける、S22,S33,M11バンドの中心波長や全体の幅は変化が無いことから、直径やカイラリティーの分離は生じていないことがわかる。
[ラマンスペクトルの測定]
フラクションR、Tおよび未分離のPについて、ラマン分光器を用いてラマンスペクトルを測定した。使用したレーザーの波長は488nmである。試料は光路長10mmの石英製キュベットに入れて、後方散乱のジオメトリーのマクロステージで測定した。典型的なスペクトルをフラクションR,Tおよび未分離のPについて図6cに示す。1590cm-1付近に観測されるG-bandの強度を1として強度をノーマライズしてある。したがって、D-bandの強度を比較することで、G/D比の大小がわかる。D-bandを比較しやすいように、20倍に拡大したスペクトルを同時に示してある。このCNTのD-bandは小さいため、違いがわかりにくいが、D-bandの大きさは、T>P>Rの順に変化しており、欠陥濃度の違いによって分離されていることがわかる。フラクションRおよびフラクションTをそれぞれ分画したCNT分散液のG/Dの値を図6aのクロマトグラムの中に示した。分離前のCNT分散液(AP)のG/Dよりも高い値がフラクションRに観測され、低い値がフラクションTに観測されていることがわかる。
〈実施例7〉
界面活性剤濃度を段階的に変化させて通液し、欠陥濃度の異なるCNTを段階的に溶出する分離法の検証実験
[CNT分散液の作製]
純水100mLにSCを0.5%濃度で溶解させた界面活性剤水溶液にCNT(EC1.5、名城ナノカーボン製)100mgを投入し、1/2インチホーン型超音波ホモジナイザーで出力30%にて1時間照射し、CNTの分散液を作製した。その際、超音波のエネルギーによる水温上昇を防ぐため、上記水溶液を入れたガラス瓶を20℃に保った水槽に入れて冷却した。得られたCNT分散液を、S50Aアングルローターを装着した超遠心分離機により遠心加速度210000gで1時間超遠心処理を行い、CNTのバンドルや不純物粒子を沈降させた後、上澄み80%を回収した。このCNT分散液に等量の純水を加え、SC濃度を0.25%にして分離用CNT分散液(EC1.5)とした。
[界面活性剤の段階的濃度変更による欠陥濃度が段階的に異なるCNTの分離]
分離用CNT分散液(EC1.5)から欠陥濃度の異なるCNT分散液を段階的に分離するため、高速液体クロマトグラフィー装置を用いて、溶出用の界面活性剤水溶液の界面活性剤濃度を段階的に変更して分離を行った。23.5mLのセファクリルゲル(S1000)を充填した直径10mm、長さ300mmのカラムを、0.25%のSC水溶液で平衡化した後、分離用CNT分散液(EC1.5)を1mLカラムに注入し、その後0.25%SC水溶液を0.5mL/minの流速で2.5CV流すことにより、ゲルに吸着しない欠陥の少ないCNT画分R1を分取した。その後注入する水溶液を0.5%SC水溶液に変更し、同流速で2.5CV流すことにより、0.25%SC環境下ではゲルに吸着するが、0.5%SC環境下ではゲルに吸着しないCNT画分R2を分取した。同様に0.75%SC水溶液を2.5CV流し、R3画分を、1.0%SC水溶液を2.5CV流しR4画分を分取した。最後に1.0%DOC水溶液に変更し、0.5mL/minの流速で2.5CV流すことにより、最後までゲルに吸着していたCNTをゲルから脱離して溶出し、欠陥の多いCNT画分Tを分取した。クロマトグラムを図7aに示す。最初に未吸着のCNTが溶出した後、SC濃度を上げるたびにその濃度で溶出するCNTが段階的に溶出していることがわかる。SC濃度が1.0%に達すると、溶出するCNT濃度が大きく低下することから、カラムに残留しているCNTがほとんど無い状態であることがわかるが、DOC1.0%で溶出すると、まだ溶出可能なCNTがカラムに残留していたことがわかった。各SC濃度における吸光度の変化を見ると、2.5CVでは完全にゼロに落ちていないことから、溶出に時間のかかるCNTが各濃度で溶出しきれておらず、そのため溶解度の高いDOC1.0%水溶液で一気に溶出したものと考えられる。最初の0.25%SCで吸着したCNTを、段階的にSC濃度を変化させることで、それぞれの濃度に対応したCNTが溶出しており、吸着クロマトグラフィーおよびその段階的溶出が実現していることがわかる。
[光吸収スペクトルの測定]
実施例1と同様に、分光光度計により、波長200nmから1350nmの範囲で各フラクションの紫外・可視・近赤外光吸収スペクトルを測定した。ただし、CNT分散液の希釈にはフラクションR1(および分離用CNT分散液),R2,R3,R4についてはそれぞれ0.25%、0.5%、0.75%、1.0%濃度のSC水溶液、フラクションTについては1.0%のDOC水溶液を用いた。分離前のCNT分散駅(EC1.5)P、フラクションR1-R4及びTの光吸収スペクトルを図7bに示す。スペクトルの違いを明確にするため、各スペクトルは280nmの吸光度で規格化してある。さらにスペクトルの違いを明確にするため、1100nm付近の点線で囲った部分のスペクトルを拡大して図7cに示す。1100nm付近に観測されるCNT由来の吸収構造が各フラクションで異なっていることがわかる。微細構造の振幅が、R1>R2>P>R3>T>R4の順に変化していることから、振幅が高いほどエキシトンの寿命が長く、欠陥が少ないことがわかる。つまり、未分離のPよりもR1とR2は欠陥が少なく、R3,R4,Tは欠陥が多い。つまり、界面活性剤の濃度を段階的に変化させて溶出することにより、欠陥濃度が段階的に異なるCNTを溶出できたことを示している。
[ラマンスペクトルの測定]
フラクションR1、R2、R3、Tおよび未分離のPについて、ラマン分光器を用いてラマンスペクトルを測定した。使用したレーザーの波長は488nmである。試料は光路長10mmの石英製キュベットに入れて、後方散乱のジオメトリーのマクロステージで測定した。なお、フラクションR4については、濃度が不十分で正確に測定できなかった。得られたラマンスペクトルからG/Dを算出して、各フラクションごとにプロットしたものを図7dに示す。G/Dの値は未分離Pでは40であるのに対し、R1は50、R2は42とPよりも高い値となっており、低欠陥のCNTであることを示している。一方、R3とTはそれぞれ33および30となっており、未分離Pよりも低い値となっている。全体として、G/Dの値はSC濃度増加に伴い単調に減少している。このように、溶出課程で界面活性剤の濃度を段階的に変化させることにより、溶出させるCNTの平均的欠陥濃度を調整することが可能であることが示された。
〈実施例8〉
カラムを使うこと無く、ゲルビーズを充填したボトルにCNT分散液を投入することにより、欠陥の多いCNTをゲルに吸着させ、吸着せずに残った欠陥の少ないCNTを回収する、バッチ式分離を行った。
[CNT分散液の作製]
純水100mLにSCを0.5%濃度で溶解させた界面活性剤水溶液にCNT(EC1.5、名城ナノカーボン製)100mgを投入し、1/2インチホーン型超音波ホモジナイザーで出力30%にて90分間照射し、CNTの分散液を作製した。その際、超音波のエネルギーによる水温上昇を防ぐため、上記水溶液を入れたガラス瓶を20℃に保った水槽に入れて冷却した。得られたCNT分散液を小分けし、等量の純水を添加することにより、SC濃度を0.25%として分離用CNT分散液(遠心無しEC1.5)とした。さらに、0.5%SC濃度のCNT分散液を、S50Aアングルローターを装着した超遠心分離機を用いて遠心加速度210000gで1時間超遠心処理を行い、CNTのバンドルや不純物粒子を沈降させた後、上澄み80%を回収した後、そこに等量の純水を加えてSC濃度を0.25%とし、分離用CNT分散液(超遠心EC1.5)とした。
[CNTの欠陥濃度によるバッチ式分離]
セファクリルゲル(S1000)を、水置換処理を5回繰り返した後、高速クロマトグラフィー用の直径50mmのカラムに充填し、そこに0.25%濃度のSC水溶液を3CV流すことにより、0.25%SCで平衡化したゲルを準備した。このゲルをカラムから取り出し、45mLのファルコンチューブ2本に、それぞれに20mLずつ入れ、そこに0.25%SC水溶液を各5mLずつ加えた。そこに分離用CNT分散液(遠心無しEC1.5)2mLと分離用CNT分散液(超遠心EC1.5)2mLをそれぞれ添加し密閉した。これら2本のファルコンチューブを回転式攪拌機(ビッグローターBR-2、アズワン製)で60分攪拌した後、遠心分離機で加速度3000gで3分遠心分離することによりゲルビーズを沈降させ、上澄みCNT分散液(遠心無しEC1.5)と上澄みCNT分散液(超遠心EC1.5)をそれぞれ回収した。
[ラマンスペクトルの測定]
分離用CNT分散液(遠心無しEC1.5)、上澄みCNT分散液(遠心無しEC1.5)、分離用CNT分散液(超遠心EC1.5)、および上澄みCNT分散液(超遠心EC1.5)の4試料に対し、ラマン分光器を用いてラマンスペクトルを測定した。使用したレーザーの波長は488nmである。試料は光路長10mmの石英製キュベットに入れて、後方散乱のジオメトリーのマクロステージで測定した。分離用CNT分散液(遠心無しEC1.5)(P-noUS)および上澄みCNT分散液(遠心無しEC1.5)(Batch-no-US)のCNT分散液のラマンスペクトルを図8aに、分離用CNT分散液(超遠心EC1.5)(P-US)および上澄みCNT分散液(超遠心EC1.5)(Batch-US)のラマンスペクトルを図8bに示す。得られたスペクトルから、G/D値を算出した。その結果、分離用CNT分散液(遠心無しEC1.5)のG/Dは39であるのに対し、上澄みCNT分散液(遠心無しEC1.5)のG/Dは42であった。また、分離用CNT分散液(超遠心EC1.5)のG/Dは38であるのに対し、上澄みCNT分散液(超遠心EC1.5)のG/Dは42であった。以上、どちらのCNT分散液についても、バッチ処理した上澄みCNT分散液ではG/Dが向上しており、分離前よりも欠陥の少ないCNTが得られたことがわかる。以上のことから、クロマトグラフィーは必須でなく、バッチ式等、CNT分散液に含まれる欠陥の多いCNTをゲルに吸着させて固定する手法であれば、流動相から欠陥の少ないCNTを得ることができる。また、超遠心処理後による孤立分散CNTを使用する必要は無く、分散処理のみのCNT分散液から欠陥の少ないCNTを分離することができる。
〈実施例9〉
CNTの欠陥濃度による分離を用いた、CNTの評価試験。超音波処理時間を変えた試料の欠陥濃度による分離結果から、超音波未処理のCNT試料に含まれる欠陥の少ないCNT量を外挿することにより、CNT試料の結晶性評価を行う。
[CNT分散液の作製]
純水30mLにSCを0.5%濃度で溶解させた界面活性剤水溶液にCNT(EC1.5、名城ナノカーボン製)30mgを投入した試料を3本用意し、それぞれ1/2インチホーン型超音波ホモジナイザーで出力30%にて超音波照射時間を30分、1時間、2時間として超音波処理を行い、CNTの分散液を作製した。その際、超音波のエネルギーによる水温上昇を防ぐため、上記水溶液を入れたガラス瓶を20℃に保った水槽に入れて冷却した。得られた3種類のCNT分散液を、それぞれS50Aアングルローターを装着した超遠心分離機により遠心加速度210000gで1時間超遠心処理を行い、CNTのバンドルや不純物粒子を沈降させた後、上澄み80%を回収した。それぞれの分散液の光吸収スペクトルを測定し、波長280nmの吸光度が最も低濃度である30分間分散した試料と等しくなるように、1時間処理、2時間処理のCNT分散液を0.5%濃度のSC水溶液で希釈し、濃度の等しい3種類の分離用CNT分散液(0.5h)、分離用CNT分散液(1.0h)および分離用CNT分散液(2.0h)を準備した。
[CNTの欠陥濃度の違いによる分離]
分離用CNT分散液を欠陥の少ないCNT分散液と欠陥の多いCNT分散液に分離するため、実施例1と同様に、高速液体クロマトグラフィー装置を用いて欠陥濃度の違いによる分離を行った。23.5mLのセファクリルゲル(S1000)を充填した直径10mm、長さ300mmのカラムを、0.5%のSC水溶液で平衡化した後、分離用CNT分散液(0.5h)を1mLカラムに注入し、その後0.5%SC水溶液を0.5mL/minの流速で2.5CV流すことにより、ゲルに吸着しない欠陥の少ないCNT画分Rを分取した。その後注入する水溶液を1.0%DOC水溶液に変更し、0.5mL/minの流速で2.5CV流すことにより、ゲルに吸着していたCNTをゲルから脱離して溶出し、欠陥の多いCNT画分Tを分取した。クロマトグラムを図9aに示す。このクロマトグラムから、ゲルに吸着しなかったフラクションRの面積を求め、31.1%の結果を得た。同様の実験を分散時間1時間の分離用CNT分散液(1h)、および分散時間2時間の分離用CNT分散液(2h)についても行った。それぞれのクロマトグラムを図9bおよび図9cに示す。それぞれ、クロマトグラムからフラクションRの面積割合を算出し、21.2%、12.3%を得た。超音波処理時間を長くすることにより、フラクションRが減り、フラクションTが増えることがわかる。超音波処理は、CNTに欠陥を導入することが知られていることから、フラクションTが高欠陥CNTの画分であることと矛盾せず、本発明が正しく機能していることを示している。
[超音波未処理CNTのフラクションRの割合の算出]
欠陥濃度による分離の結果は、分離用CNT分散液準備過程の超音波処理の条件によって変化してしまうため、そのままでは試料の評価法として適切で無い。しかし、超音波処理時間を変えて実験を行い、超音波処理時間ゼロの値を外挿すれば、超音波処理の影響を受ける前の初期値を推定できる。そこで、クロマトグラムのフラクションRの割合を縦軸に、超音波処理時間を横軸に結果をプロットしたグラフを図9dに示す。縦軸は対数プロットになっている。欠陥導入は、指数関数的に進行すると考えられることから、フラクションRの割合WRは、WR=WRexp(-t/τ)で変化すると考えられる。ここで、tは超音波照射時間、τは特性時間、WRは、未処理のCNTのフラクションRの割合である。実験結果をこの式を用いて最小二乗法でフィッティングすることにより、初期値WRが40.8%と導出できる。つまり、このCNTは、超音波処理を行う前の時点で、欠陥の少ないCNTの割合が約41%であったことを示している。この割合は、界面活性剤の濃度、CNT分散液の濃度、カラム直径と長さ、カラム担体の種類、流速によって変化するが、これらのパラメータを同一にして実験を行えば、合成法や直径分布が異なるCNTの欠陥濃度を公平に比較することが可能になる。一般にラマン散乱のG/D比も欠陥濃度の評価に用いられているが、G/Dは、CNTの直径が変化すると共鳴条件が変わってしまい、値が変化してしまうため、直径分布が同一のCNT間でしか比較することができず、異なる合成法で作られたCNT間では比較することができない。欠陥濃度による分離の手法を用いたCNTの結晶性の評価は、このような欠点が無いため、異なる直径や異なる合成法のCNTの結晶性を公平に比較可能である。
〈実施例10〉
欠陥濃度で分離した、欠陥の少ないCNTと欠陥の多いCNT、および分離前のCNTによる導電膜を作製し、電気抵抗を比較した。
[CNT分散液の作製]
純水100mLにSCを0.5%濃度で溶解させた界面活性剤水溶液にCNT(EC1.5、名城ナノカーボン製)100mgを投入した試料を用意し、1/2インチホーン型超音波ホモジナイザーで出力30%にて90分、超音波を照射しCNTの分散液を作製した。その際、超音波のエネルギーによる水温上昇を防ぐため、上記水溶液を入れたガラス瓶を20℃に保った水槽に入れて冷却した。得られたCNT分散液を、S50Aアングルローターを装着した超遠心分離機を用いて遠心加速度210000gで1時間超遠心処理を行い、CNTのバンドルや不純物粒子を沈降させた後、上澄み80%を回収し、分離用CNT分散液(EC1.5)を準備した。
[CNTの欠陥濃度の違いによる分離]
分離用CNT分散液を欠陥の少ないCNT分散液と欠陥の多いCNT分散液に分離するため、実施例1と同様に、高速液体クロマトグラフィー装置を用いて欠陥濃度の違いによる分離を行った。ただし、大量分取のため大型のカラムを用いた。400mLのセファクリルゲル(S1000)を充填した直径50mm、長さ203mmのカラムを、0.5%のSC水溶液で平衡化した後、0.5%のSC溶液に分散した分離用CNT分散液(EC1.5)を40mLカラムに注入し、その後0.5%SC水溶液を0.5mL/minの流速で2.5CV(1000mL)流すことにより、ゲルに吸着しない欠陥の少ないCNT画分Rを分取した。その後注入する水溶液を1.0%DOC水溶液に変更し、0.5mL/minの流速で2.5CV流すことにより、ゲルに吸着していたCNTをゲルから脱離して溶出し、欠陥の多いCNT画分Tを分取した。同分離をもう一度繰り返し、導電膜用の分散液(フラクションRとフラクションT)および分離前の分離用CNT分散液(EC1.5)Pを準備した。
[導電膜の作製]
フラクションR,フラクションTおよび未分離のCNT分散液(EC1.5)Pの三種類について、以下の手順でポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム上に薄膜を形成した。得られた各フラクションに適宜界面活性剤を追加調整して、すべてのCNT分散液の界面活性剤濃度を0.5%SC+0.5%DOCの混合界面活性剤として、CNT分散性を向上させた。その後、トラックエッチによる微細な穴を形成した親水性ポリカーボネート製のフィルター(VCTP04700、メルクミリポア製)で吸引濾過し、フィルター上に薄膜を作製した。この薄膜を水およびメタノールで洗浄後、熱湯で洗浄した。これを50%メタノール+50%純水の混合液に浸した後、PENフィルムに圧着し、60℃のオーブンで乾燥させた後に、Nメチルピロリドンおよびジクロロメタンで洗浄して、ポリカーボネート製のフィルターを溶解除去し、CNT薄膜をPENフィルムに転写した。最後にフィルムを60℃のオーブンで乾燥し、導電膜とした。CNTによって、フィルターの穴から流出するCNT量が異なるため、濾過するCNTの量を未分離Pに関しては、27.2μgと40.8μgの2種類、フラクションRに関しては、7.2μgと10.8μgの2種類、フラクションTに関しては、32μgと48μgの2種類とした。なお、それぞれのCNT量は、光吸収から見積もった。
[導電膜の電気抵抗測定]
PENに転写したフラクションR,フラクションT、および未分離Pの3種のCNT薄膜のシート抵抗を4探針型低抵抗抵抗率計(ロレスタ-GX、三菱ケミカルアナリテック製)を用いて測定した。各フィルムにおいて4カ所の抵抗値を測定し、その平均を求めた。得られたシート抵抗を、以下の表に示す。括弧内の数値は、波長500nmにおける吸光度であり、CNT膜の厚さに比例する量である。そこで、横軸を波長500nmにおける吸光度、縦軸をシート抵抗として、方対数プロットしたグラフを図10aに示す。未分離を四角、フラクションTを三角、フラクションRを丸で示してある。シート抵抗は、厚さによって変化し、厚いほど低くなる性質があるが、このようにプロットすることにより、どの厚みにおいても、フラクションRのシート抵抗が小さいことがわかる。一方、TとPの間には大きな差が無い。この結果から、欠陥の少ないCNT画分のフラクションRから作製したCNT薄膜のシート抵抗が分離前Pや欠陥の多いCNTであるフラクションTから作製したCNT薄膜のシート抵抗よりも小さいことが明確であり、これは、フラクションRで得られたCNTのキャリア移動度が高いことを示している。
[原子間力顕微鏡像の測定]
シート抵抗の違いが、CNT以外の不純物の混入によるもので無いことを確認するために、CNT薄膜の原子間力顕微鏡像を観測した。原子間力顕微鏡(NanoNavi S・image、SII社製)を用いて、フラクションRとフラクションTおよび未分離CNTであるPを、形状観察のため少量だけ濾過したポリカーボネートフィルター表面の原子間力顕微鏡像を、9Nmのカンチレバーによりダイナミックフォースモードで測定した結果を図10bに示す。図中、黒い丸はフィルターに空いた直径0.1μmのトラックエッチによる濾過穴である。白い線に見えるのがCNTである。いずれのフラクションの像も観測されるのはCNTのみであり、不純物粒子は見えないことから、どれもCNT純度は十分高く、観測されたシート抵抗の違いは、CNT表面の欠陥濃度の違いに由来することがわかる。

Claims (4)

  1. 原料カーボンナノチューブをコール酸ナトリウム水溶液に分散させた分散液を、疎水基を有するハイドロゲルに作用させることにより、前記分散液に含まれている欠陥が多いカーボンナノチューブを選択的に前記ハイドロゲルに吸着させること、及び
    吸着せずに前記水溶液中に残留した欠陥が少ないカーボンナノチューブを回収すること、
    を含む、原料カーボンナノチューブよりも欠陥の少ないカーボンナノチューブの分離回収方法。
  2. 請求項1に記載の分離回収方法において、前記コール酸ナトリウムの濃度を下げることにより前記ハイドロゲルに吸着する欠陥が多いカーボンナノチューブの量を増加させ、より欠陥の少ないカーボンナノチューブのみを前記水溶液中に残留させ、それを回収することを含む、原料カーボンナノチューブよりも欠陥の少ないカーボンナノチューブの分離回収方法。
  3. 原料カーボンナノチューブをコール酸ナトリウム水溶液に分散させた分散液を、疎水基を有するハイドロゲルに作用させることにより、前記分散液に含まれている欠陥が多いカーボンナノチューブを選択的に前記ハイドロゲルに吸着させること、及び
    前記ハイドロゲルに吸着した欠陥の多いカーボンナノチューブを、吸着時と異なる種類や濃度の界面活性剤水溶液をハイドロゲルに作用させることにより溶液中に溶出させて回収すること、
    を含む、原料カーボンナノチューブ中の欠陥の多いカーボンナノチューブの分離回収方法。
  4. 原料カーボンナノチューブをコール酸ナトリウム水溶液に同一濃度で分散させた複数の分散液であって、前記複数の分散液毎に超音波処理による分散処理時間が異なる複数の分散液を用い、
    前記複数の分散液毎に、請求項1又は2に記載の分離回収方法により、原料カーボンナノチューブよりも欠陥の少ないカーボンナノチューブを分離回収して、それぞれの、原料カーボンナノチューブよりも欠陥の少ないカーボンナノチューブの量を算出すること、
    前記複数の分散液毎に算出された、原料カーボンナノチューブよりも欠陥の少ないカーボンナノチューブの量から、超音波未処理の原料カーボンナノチューブに含まれる欠陥の濃度を推定評価すること、
    を含むカーボンナノチューブの欠陥濃度評価方法。
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