JP5663806B2 - カーボンナノチューブの安価な分離方法と分離材並びに分離容器 - Google Patents

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Description

本発明は、金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ(CNT)から両者を安価に分離する方法と分離材並びに分離容器に関する。
CNTはその電気的特性や機械的強度など優れた性質を持ち、究極の新素材として研究開発が精力的に行われている。このCNTは、レーザー蒸発法、アーク放電法、及び化学気相成長法(CVD法)などの種々の方法で合成されている。しかし、現状ではいずれの合成方法を用いても、金属型CNTと半導体型CNTの混合物の形態でしか得られていない。
実使用においては、金属型又は半導体型のいずれか一方の性質のみを用いることが多いため、CNT混合物から金属型、又は半導体型のCNTのみを分離精製するための研究は、至急に解決することが迫られている重要なものである。
金属型CNTと半導体型CNTを分離する報告は既にあるが、いずれも産業的に金属型CNTと半導体型CNTを生産する上で問題点を含んでいる。問題点は以下のようにまとめることができる。(1)複雑な工程を経るため自動化ができないこと、(2)長時間を要すること、(3)大量処理ができないこと、(4)高価な設備や薬品を必要とすること、(5)金属型CNTと半導体型CNTのどちらか一方しか得られないこと、(6)回収率が低いこと、などである。
例えば、界面活性剤で分散したCNTを微小電極上で誘電泳動する方法(非特許文献1)や、溶媒中でアミン類を分散剤に用いる手法(非特許文献2、3)、過酸化水素によって半導体型CNTを選択的に燃やす方法(非特許文献4)などがあるが、これらは、前記問題点の中でも、特に、得られる最終物質が金属型CNTのみに限定され、その回収率が低いという問題点が解決されていない。
半導体型CNTと金属型CNTとの混合物を液体中に分散させ、金属型CNTを粒子と選択的に結合させ、粒子と結合した金属型CNTを除去して半導体型CNTを分離する方法(特許文献1)、CNTをニトロニウムイオン含有溶液で処理した後、濾過および熱処理してCNTに含有する金属型CNTを除去し、半導体型CNTを得る方法(特許文献2)、硫酸及び硝酸を用いる方法(特許文献3)、電界を印加してCNTを選択的に移動分離し、電気伝導率範囲を絞った半導体型CNTを得る方法(特許文献4)などがある。
これらは、前記問題点の中でも、特に、得られる最終物質が半導体型CNTのみに限定され、その回収率が低いという問題点が解決されていない。
界面活性剤で分散したCNTを、密度勾配超遠心分離法により、金属型CNTと半導体型CNTに分離する方法がある(非特許文献5)。この方法では超遠心分離機という非常に高価な機器を用いること、超遠心分離操作が長時間を要すること、超遠心分離機自体の大型化は限界があり、並列して超遠心分離機を複数設置することとなり、自動化などの処理が難しいことといった問題点があった。
核酸分子に結合されたCNTからなるCNT−核酸複合体を製造し、イオン交換クロマトグラフィーにより分離する方法がある(特許文献5)。しかし、高価な合成DNAが必要であることや、分離精度があまり高くないため回収率や純度が良くないといった問題点がある。
また、界面活性剤で分散したCNT溶液のpHやイオン強度を調節することで、CNTの種類によって異なる程度のプロトン化を生じさせ、電場をかけることで金属型と半導体型とを分離しようとする報告があるが(特許文献6)、この方法では、分離に先立って、懸濁したナノチューブ混合物のpHやイオン強度を、強酸を用いて前処理する工程を必要とし、またそのための厳密な工程管理を余儀なくされる上、最終的には金属型と半導体型のCNTの分離は達成されていない(特許文献6 実施例4)。
前記したとおり、従来の方法は、いずれも前記した問題点を克服できるものになっておらず、新しい考え方に基づくCNTから金属型CNTと半導体型CNTを分離する方法の開発が望まれていた。
本発明者らは、従来の方法とは相違する新規な金属型CNT及び半導体CNT分離方法に着手し、以下の発明を完成させた(特許文献7〜9、非特許文献6〜8)。これらの発明は、いずれもゲルを用いるもので、特にアガロースゲルを用いた時に良好な分離が認められた。まず、界面活性剤で分散したCNT溶液を用いてアガロースゲル電気泳動を行うと、金属型と半導体型のCNTを分離できることを初めて見いだした(特許文献7、非特許文献6)。さらに、CNTを溶液状態ではなく、あらかじめゲルの中に固めた状態のもの(CNT含有ゲル)に対して電気泳動を行うと、ほぼすべてのCNTが金属型と半導体型に分離されるという高収率分離法を発明した(特許文献8、非特許文献6)。さらに、CNT含有ゲルを用いて、電気泳動のような電気的な手段ではなく、遠心分離や凍結−解凍−圧搾、拡散、浸透などの物理的手段を適用することでも分離が可能であることを発見した(特許文献9、非特許文献7)。本法は電気泳動を用いた手法より、さらに簡便で大量のCNTを安価に分離できる手法である。以上の手法はいずれの場合においても、半導体型CNTがゲルに選択的に吸着することにより分離が達成されるが、ゲルに吸着した半導体型CNTを回収するために、ゲルを溶かして分離する必要があった。本発明者らは、適当な溶出液を用いることで、ゲルを溶解することなくCNTを回収する手法も開発した(非特許文献8)。特にクロマトグラフィーの手法で吸着と脱着を利用した連続分離法は、吸着したCNTを溶液状態で回収できるだけでなく、ゲルをそのまま再利用することが可能である。さらに、分離の自動化も可能となる上、分離したCNTの純度も改善しており、極めて優れた手法である。しかしながら、この分離法ではゲルを繰り返し使用できるものの、迅速な分離を実現するには、微小なゲル粒子を用いて表面積を大きくしたり、溶液が通り抜けるためのゲル粒子の間の空間を確保するために球状の均一なゲルビーズを用いる必要があった。このような微小で均一な形状のゲルビーズは高価なものが多く、これに代わる材料が強く求められていた。
特開2007−31238号公報 特開2005−325020号公報 特開2005−194180号公報 特開2005−104750号公報 特開2006−512276号公報 特開2005−527455号公報 特開2008−285386号公報 特開2008−285387号公報 WO/2009/075293
Advanced Materials 18, (2006) 1468-1470 J. Am. Chem. Soc. 127, (2005) 10287-10290 J. Am. Chem. Soc. 128, (2006) 12239-12242 J. Phys. Chem. B 110, (2006) 25-29 Nature Nanotechnology 1, (2006) 60-65 Appl. Phys. Express 1, (2008) 114001-1-3 Nano Letters 9, (2009) 1497-1500 Appl. Phys. Express 2, (2009) 125002-1-3
上述の様に、金属型と半導体型のCNTを分離する手法において、我々がこれまでに開発したゲルを用いる手法は、従来のものと比較して、簡便、高収率、高純度、安価でなおかつ、大量処理も可能な非常に優れた方法であるが、分離のさらなる低コスト化が望まれていた。本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、高価なゲルビーズの代わりに非常に安価なアガロースや寒天の粉末をそのまま用いることによって、当該粉末に半導体型CNTを選択的に吸着させる一方で、金属型CNTを溶液中に存在させることにより、両者を簡便に分離できる技術手段、すなわち、安価な設備と簡便な工程により、金属型CNTと半導体型CNTを含むCNTから両者を短時間で大量に効率良く分離精製することができ、かつ安価な分離が可能なCNTの分離方法と分離材並びに分離容器を提供することを目的とするものである。
本発明者らは上記課題を解決するため検討を重ねたところ、ゲルでなく、アガロースや寒天の粉末をそのまま分離容器に充填し、クロマトグラフィーの要領で分離を行うことより、金属型と半導体型のCNTを分離できることを見いだした。寒天粉末又はアガロース粉末で構成される分離材に半導体型カーボンナノチューブと金属型カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ分散液を添加した後、前記分離材に分離液を作用させることにより前記分離材に未吸着の前記金属型カーボンナノチューブを溶出させて前記分離材に吸着する前記半導体型カーボンナノチューブと分離し、次いで、前記分離材に溶出液を作用させることにより前記分離材から前記半導体型カーボンナノチューブを溶出させる(図1)。従来の分離手法では、アガロースや寒天などをゲルとして用いるために、アガロースなどを含む水溶液を加熱して溶解したのちゲル化の手順を踏むか、成形された高価なゲルビーズを購入する必要があった。本発明はゲルの元となるアガロースや寒天の粉末をそのまま、あるいは、アガロースや寒天の粉末の懸濁液として用いるという極めて独創的な手法である(図2)。用いる材料はアガロースや寒天以外の、海藻からの抽出物を粉末にした物でも良い。本発明は、寒天やアガロースの新たな用途を開くものである。
本発明はかかる新規な知見に基づいてなされたものである。
すなわち、この出願によれば、以下の発明が提供される。
〈1〉寒天粉末又はアガロース粉末で構成され、前記寒天粉末又はアガロース粉末をあらかじめ水系媒体に懸濁し膨潤させた分離剤に、半導体型カーボンナノチューブと金属型カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ分散液を添加した後、前記分離材に分離液を作用させることにより前記分離材に未吸着の前記金属型カーボンナノチューブを溶出させて前記分離材に吸着する前記半導体型カーボンナノチューブと分離し、次いで、前記分離材に溶出液を作用させることにより前記分離材から前記半導体型カーボンナノチューブを溶出させることを特徴とする金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブの分離方法。
〈2〉〈1〉記載の金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブの分離方法に用いられる分離材であって、寒天粉末又はアガロース粉末で構成され、前記寒天粉末又は前記アガロース粉末は、表面に、水系媒体を吸収して膨潤してなる膨潤層を備えることを特徴とする金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブの分離用分離材。
〈3〉〈1〉記載の金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブの分離方法に用いられる分離容器であって、筒状形状を有し、一方の端部に導入口、他端部に溶出口を備え、前記導入口と前記溶出口との間に、寒天粉末又はアガロース粉末で構成される分離材が充填されていることを特徴とする金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブの分離容器。
〈4〉前記導入口と前記分離材との間、および前記溶出口と前記分離材との間の少なくとも一方にフィルターが配設されていることを特徴とする〈3〉に記載の分離容器。
本発明によれば、高価なゲルビーズを使用せず、あるいは分離に適したゲルの調製の手順を経ずに、アガロース粉末あるいはより安価な寒天粉末を用いて、ゲルを用いた場合と同等の金属型と半導体型のCNTを分離することが可能となる。
粉末を充填した分離容器を用いた金属型CNTと半導体型CNTの分離を示す図。 分離材の調製方法を示した図 寒天粉末またはアガロース粉末の模式図 分離容器の模式図 アガロース粉末を用いて分離したCNT(実施例1、Arc−CNT)の光吸収スペクトルを示す図。細線:分離前、灰色太線:未吸着画分、黒色太線:吸着画分 寒天粉末を用いて分離したCNT(実施例1、Arc−CNT)の光吸収スペクトルを示す図。細線:分離前、灰色太線:未吸着画分、黒色太線:吸着画分 比較例:アガロースゲルビーズを用いて分離したCNT(実施例1、Arc−CNT)の光吸収スペクトルを示す図。細線:分離前、灰色太線:未吸着画分、黒色太線:吸着画分 アガロース粉末を用いて分離したCNT(実施例2、CoMocat−CNT)の光吸収スペクトルを示す図。細線:分離前、灰色太線:未吸着画分、黒色太線:吸着画分 寒天粉末を用いて分離したCNT(実施例2、CoMocat−CNT)の光吸収スペクトルを示す図。細線:分離前、灰色太線:未吸着画分、黒色太線:吸着画分 アガロース粉末を用いて分離したCNT(実施例3、Hipco−CNT)の光吸収スペクトルを示す図。細線:分離前、灰色太線:未吸着画分、黒色太線:吸着画分
本発明は、金属型CNTと半導体型CNTを含む混合物(以下単にCNTとも言う)を対象にし、このCNTから金属型CNTと半導体型CNTとを分離する方法に関するものである。
分離に使用するCNTは、製造方法や形状(直径や長さ)あるいは構造(単層、二層など)について問題とされることなく、いずれも本発明の金属型CNTと半導体型CNTの分離の対象とすることができる。
一般的に、CNTの構造は(n,m)と言う2つの整数の組からなるカイラル指数により一義的に定義される。本発明でいう、金属型CNTと半導体型CNTとは、カーボンナノチューブをその電気的性質から分けたものであり、金属型CNTは、カイラル指数がn-m=(3の倍数)となるものであり、半導体型CNTは、それ以外の(n-m=3の倍数でない)ものと定義される(非特許文献6 齋藤理一郎、篠原久典 共編「カーボンナノチューブの基礎と応用」培風館、p13〜22)。
[CNT分散液の調製について]
合成されたCNTは通常、金属型CNTと半導体型CNTの両方を含む数十から数百本の束(バンドル)になっている。金属型CNTと半導体型CNTの分離に先立って、一本ずつに孤立した状態のCNTとして分散可溶化して、長時間安定に存在させておくことが肝要である。
そこで、金属型CNT及び半導体型CNTからなる混合物を、分散剤として界面活性剤を添加した溶液に加え、十分に超音波処理などを行うことにより、CNTを分散・孤立化させる。この分散処理を施した液には、分散・孤立化したCNTと、分散・孤立化できずにバンドルを形成したままのCNT、合成副産物であるアモルファスカーボンや金属触媒などが含まれる。
分散処理を施した液を遠心分離機により遠心分離することにより、バンドルのままのCNTやアモルファスカーボン、金属触媒は沈殿し、一方、界面活性剤とミセルをなした孤立CNTは上清として回収できる。得られた上清が金属型CNTと半導体型CNTの分離に使用する試料(CNT分散液)となる。
CNT分散液の調製に用いる溶媒としては、水が最も好ましい。この点からCNT分散液の調製には水が使用される。
界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤のいずれもが使用できる。
陰イオン界面活性剤では、アルキル硫酸塩などのアルキル硫酸系で炭素数が10〜14のものや、ドデカンスルホン酸、ドデカノイルサルコシン、ドデカン酸、コール酸やこれらの塩、例えば、ナトリウム塩などが好ましい。アルキル硫酸塩は、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、デシル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウムなどが例示される。両性界面活性剤では、n−ドデシルホスホコリンなどが好ましい。これらの界面活性剤は混合して使用することができ、また、他の界面活性剤と併用することもできる。
併用される界面活性剤は、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤の他、高分子ポリマー、DNA、タンパク質などの分散剤でも良い。界面活性剤などの分散剤の濃度については、使用するCNTの種類や濃度、使用する分散剤の種類などによって異なるが、通常、終濃度で0.01%〜25%とすることができる。
この方法により、分散液中のCNTの濃度を1μg/ml〜10mg/ml、好ましくは、0.1mg/ml〜1mg/mlとすることができる。
[分離方法]
本発明の金属型CNTと半導体型CNTの分離方法は、前述のようにして得られるCNT分散液を、分離材である粉末を充填した分離容器に通し、半導体型CNTを選択的に粉末に吸着させ、金属型CNTを未吸着画分として回収し、その後、吸着した半導体型CNTを、溶出液を用いて脱着して回収し、分離するものである(図1)。
[分離材]
分離に用いる粉末は、アガロースや寒天(テングサ属などの藻類に含まれる多糖で、主成分はアガロースとアガロペクチンからなる)などの粉末である。粉末の粒径は、好ましくは1μm〜500μmである。後述する分離容器に充填する際には、アガロース粉末や寒天粉末を水などの水系媒体に懸濁し、懸濁液の状態にして充填するのが好ましい。例えば、5gの寒天粉末に適量の水を加えて、寒天粉末懸濁液を調製すると、寒天粉末は水を吸って膨潤し、およそ8倍の重量となる。膨潤した粉末は、表面に薄い膨潤層を有する(図3)。膨潤層を有する粉末を用いたCNTの分離においては、粉末内部にはCNTは進入せず、この膨潤層の部分でCNTを吸着していると考えられる。実際、アガロースゲルを用いたCNTの分離では、ゲルの内部にCNTが進入することが知られているが、同じゲルを用いて繰り返し分離を行うと、ゲル内部にCNTが蓄積・残存する。一方、膨潤層を有する粉末を用いた分離においては、繰り返し分離を行っても粉末に残存するCNTはほとんど無く、粉末内部までCNTが進入していないと考えられる。この粉末を用いた分離は、ゲルを用いた分離に比べ、簡便・安価であることに加え、繰り返し使用に非常に適しているという利点があるといえる。
アガロース粉末や寒天粉末を懸濁させる水系媒体は、50重量%〜100重量%の水と0重量%〜50重量%の水溶性有機溶媒とからなる媒体である。水溶性有機溶媒としては、メタノールやエタノールなどのアルコールの他、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。アガロース粉末や寒天粉末に加える水系媒体の量は、アガロース粉末や寒天粉末を懸濁させることができる量であれば特に制限されない。
[分離容器]
CNTの分離に用いられる分離容器1は、図4に示すように、筒状形状を有し、一方の端部に導入口2、他端部に溶出口3を備え、導入口2と溶出口3との間には寒天粉末又はアガロース粉末で構成される分離材4が充填されている。このような分離容器1を構成する容器としては、市販のカラムや円筒形の容器などを用いることができる。カラムや円筒形の容器の下部、すなわち、溶出口3と分離材4との間に、粉末が容器から漏れ出すのを防ぐためにフィルター5を設置することができる。容器に、先に準備した粉末の懸濁液を注ぎ込み、粉末を充填する。CNT分散液や後述する分離液、溶出液などの添加によって、容器に充填した粉末が乱れるのを防ぐために、容器の上部、すなわち、導入口2と分離材4との間にもフィルター6を設置することができる。以上は、容器の上部が解放された状態で使用する場合であるが、充填した粉末上部に液だまりがほとんど無い様な密閉系の容器を用いることも可能である。
[分離]
分離に先立って、分離容器中の粉末又はその懸濁液を分離用の界面活性剤を含む水溶液(分離液)で平衡化しておくことが好ましい。分離用の界面活性剤は、上記した界面活性剤のうちCNTの分散に用いたものと同じ種類のものやCNTの分散に用いたものとは違う種類のもの、あるいはその混合物でも良い。平衡化を終えた分離容器にCNT分散液を添加する。その後、分離液を添加することにより、粉末に吸着して分離容器に保持される半導体型CNTと、粉末に吸着せず分離容器を通り抜ける金属型CNTに分離する。粉末に吸着した半導体型CNTは、適当な溶出液を分離容器に添加して溶出させる(図1)。
上記の方法において、粉末に吸着した半導体型CNTを脱離させる際に用いる溶出液は、分離液に含まれる界面活性剤とは別の種類の界面活性剤を含む溶液が使用できる。溶出液に含まれる界面活性剤の具体例としては、デオキシコール酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、Tween-20、TritonX-100などが例示される。また、溶出液に、分離に用いた界面活性剤と同一の種類の界面活性剤を含む溶液を用いてもよい。例えば、SDSが例示される。この場合、分離に用いる溶出液に含まれる界面活性剤の濃度は、分離に用いた界面活性剤よりも高いことが望ましい。
金属型CNTと半導体型CNTの比率を見積もるために紫外-可視-近赤外光吸収スペクトル測定を利用する。
HiPco法で合成されたCNT(HiPco−CNT、直径1.0±0.3nm)を用いた時の結果を例として説明する(図10)。M11と呼ばれる吸収波長帯(およそ450-620nm)は金属型CNTによるものである。S11(およそ900nm以上)、S22(およそ620-900nm)とS33(およそ450nm以下)という3つ吸収波長帯は、半導体型CNTによるものである。ここでは、M11とS22のピークの大きさの比率から金属型CNTと半導体型CNTの比率を見積もる。測定するCNTの平均直径によって吸収波長帯(M11、S11、S22、S33)は変化する。平均直径が細くなるにつれて短波長側に、平均直径が太くなるにつれて長波長側にシフトしていく。
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明がこれに制限されるものではない。
〈実施例1〉
アガロース粉末または寒天粉末を分離容器に充填し、ARC法で合成したCNTを分離した例である。粉末の代わりに、アガロースゲルビーズを用いた例との比較も行った。
[CNT分散液の調製]
100mgのARC−CNT(名城ナノカーボン社、APJ、化学気相成長法で合成されたCNT、直径1.4±0.1nm)に、1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液(100ml)を加え、良く懸濁した。その溶液をチップ型超音波破砕機(ソニファイアー、ブランソン社製、チップ先端径:0.5インチ)を用いて、冷水中で冷却しながら、出力30%で2時間超音波処理した。
超音波処理よって得られた分散液を、超遠心分離(505,000×g、1時間)にかけた後、上清を80%回収した。この溶液をCNT分散液とした。
[分離容器の調製と分離]
アガロース粉末(Agarose H14、タカラバイオ、5014)に水を加えた懸濁液をプラスチック製の容器に充填した(充填後の容量は約4ml)。1%SDS水溶液で平衡化した分離容器に、0.2mlのCNT分散液を分離容器に添加した後、1%SDS水溶液を添加し、未吸着画分を回収した。次に、1%デオキシコール酸ナトリウム(DOC)水溶液を添加して溶出してくるCNTを回収した。
各画分の光吸収スペクトル測定の結果を図5に示す。また、同様の実験をアガロース粉末の代わりに寒天粉末(植物培地用、和光純薬、016-11875)で行った結果を図6に、アガロースゲルビーズ(セファロース2B、GEヘルスケア社)で行った結果を図7に示す。図中、「細線」、「灰色太線」及び「黒色太線」は、それぞれ、分離前、未吸着画分、1%DOC水溶液溶出画分の各スペクトルを示す。
いずれの場合においても、分離前のCNT分散液のスペクトルの半導体型CNTの吸収(S22)と金属型CNTの吸収(M11)の比率に比べ、分離後の未吸着画分のスペクトルでは金属型CNTのM11の割合が顕著に増加しており、金属型CNTの分離が確認できた。逆に、溶出画分では半導体型CNTの吸収(S22)の割合が顕著に増加しており、半導体型CNTの分離が確認できた。アガロース粉末や寒天粉末を用いて分離した時の金属型と半導体型のCNTの純度は、アガロースゲルビーズを用いた時の結果とほぼ変わらず、ゲル化やビース成形の手順を踏まずとも、良好な分離ができることを示している。特に、寒天粉末は、精製されたアガロースと異なり、未精製のもので非常に安価であるが、十分な分離能を有していた。
本実施例は、アガロース粉末や寒天粉末を用いて、半導体型CNTの選択的な粉末への吸着と溶出により、金属型CNTと半導体型CNTを分離できることを明確に示している。
〈実施例2〉
実施例1と同様の実験を、異なる種類のCNT(CoMoCAT−CNT、SG76、シグマアルドリッチ、直径0.9±0.2nm)を用いて行った。アガロース粉末を用いた結果を図8に示し、寒天粉末を用いた結果を図9に示す。図中、「細線」、「灰色太線」及び「黒色太線」は、それぞれ、分離前、未吸着画分、1%DOC水溶液溶出画分の各スペクトルを示す。
この場合においても、未吸着画分に金属型CNT、溶出画分に半導体型CNTが分離された。
〈実施例3〉
実施例1と同様の実験を、異なる種類のCNT(HiPco−CNT、ユニダイム社、直径1.0±0.3nm)を用いて行った。寒天粉末を用いた結果を図10に示す。図中、「細線」、「灰色太線」及び「黒色太線」は、それぞれ、分離前、未吸着画分、1%DOC水溶液溶出画分の各スペクトルを示す。
この場合においても、未吸着画分に金属型CNT、溶出画分に半導体型CNTが分離された。

Claims (4)

  1. 寒天粉末又はアガロース粉末で構成され、前記寒天粉末又はアガロース粉末をあらかじめ水系媒体に懸濁し膨潤させた分離剤に、半導体型カーボンナノチューブと金属型カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ分散液を添加した後、前記分離材に分離液を作用させることにより前記分離材に未吸着の前記金属型カーボンナノチューブを溶出させて前記分離材に吸着する前記半導体型カーボンナノチューブと分離し、次いで、前記分離材に溶出液を作用させることにより前記分離材から前記半導体型カーボンナノチューブを溶出させることを特徴とする金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブの分離方法。
  2. 請求項1記載の金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブの分離方法に用いられる分離材であって、寒天粉末又はアガロース粉末で構成され、前記寒天粉末又は前記アガロース粉末は、表面に、水系媒体を吸収して膨潤してなる膨潤層を備えることを特徴とする金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブの分離用分離材。
  3. 請求項1記載の金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブの分離方法に用いられる分離容器であって、筒状形状を有し、一方の端部に導入口、他端部に溶出口を備え、前記導入口と前記溶出口との間に、寒天粉末又はアガロース粉末で構成される分離材が充填されていることを特徴とする金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブの分離容器
  4. 前記導入口と前記分離材との間、および前記溶出口と前記分離材との間の少なくとも一方にフィルターが配設されていることを特徴とする請求項3に記載の分離容器。
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