JP5177623B2 - カーボンナノチューブの分離法 - Google Patents
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Description
〈1〉泳動方向が陰極から陽極方向となるゲル電気泳動法によりカーボンナノチューブを半導体型と金属型に分離する方法であって、
金属型・半導体型カーボンナノチューブ混合物に陰イオン界面活性剤を含む分散剤を含む溶液を加え該カーボンナノチューブ混合物を分散させたカーボンナノチューブ濃度が1μg/ml〜10mg/mlであるカーボンナノチューブ混合物を得る工程と、
分散剤を含むゲルを入れた分離用容器に前記分散させたカーボンナノチューブ混合物を入れて該分離用容器を通電して該カーボンナノチューブ混合物を該ゲル中に入れる工程と、
ここで、前記分散させたカーボンナノチューブ混合物のうち試料添加位置に近い部分の該カーボンナノチューブ混合物は、半導体型カーボンナノチューブが電気泳動されなくなる結果、半導体型カーボンナノチューブの割合が金属型カーボンナノチューブに比べて多くなり、一方泳動先端部分では、該金属型カーボンナノチューブの割合が半導体型カーボンナノチューブに比べて多くなり、中央部分では、該金属型カーボンナノチューブと該半導体型カーボンナノチューブの割合が電気泳動前の試料と同程度の割合となり、
を備えるカーボンナノチューブを半導体型と金属型に分離する方法。
〈2〉前記電気泳動は、前記分離液が電気泳動方向以外の側面が緩衝液の外界から隔離された状態で行われることを特徴とする〈1〉記載のカーボンナノチューブ分離方法。
〈3〉前記陰イオン界面活性剤が、ドデシル硫酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、又はドデシル硫酸ナトリウムとコール酸ナトリウムとの混合物であることを特徴とする〈1〉記載のカーボンナノチューブ分離方法。
また、ゲルを用いるので、電気泳動による分離後のCNT試料を安定した状態で扱え、精度良く分離や回収を行うことが可能であり、また、金属型と半導体型の分離のみならず、ゲルの分子ふるい効果によって長さや直径などの差違による分離を同時に行うことも可能である。
さらに、本方法はスケールアップも容易であるため工業的に極めて有利なCNTの分離方法ということができる。
ゲル電気泳動装置それ自体は、ディスク型、サブマリン型、スラブ型など従来公知の何れでも使用するがことができる。
また、電気泳動用のゲルとしては、従来公知のもの、たとえばアガロースゲル、アクリルアミドゲル、デンプンゲルなどの高分子ゲルを用いることができる。
この場合、ゲル中の高分子ゲルの濃度はたとえば通常タイプのアガロースゲルで0.1〜2.0wt/vol%とすることができる。また、必要に応じ、緩衝液には、界面活性剤などを添加してもよい。
本発明では、金属型カーボンナノチューブ(金属型CNT)と半導体型カーボンナノチューブ(半導体型CNT)を包含するカーボンナノチューブであれば、その製法、直径、長さあるいは構造(単層、多層)を問わず、いずれのものも分離の対象とすることができる。
アーク放電法により得られるカーボンナノチューブは、一般的に、単層CNT、アモルファスカーボン、金属触媒などが含まれるとされ、このようなカーボンナノチューブの市販品としては、CarboLex−AP(CarboLex社)が挙げられる。
また、レーザー蒸発法で得られるカーボンナノチューブは、一般的に、単層CNT、アモルファスカーボン、金属触媒などが含まれるとされる。
化学気相成長法により得られるカーボンナノチューブは、一般的に、単層CNT、アモルファスカーボン、金属触媒などが含まれるとされ、このようなカーボンナノチューブの市販品としては、HiPco−CNT(CNI社)が挙げられる。
齋藤理一郎、篠原久典 共編「カーボンナノチューブの基礎と応用」培風館
このような方法により、分散液中のカーボンナノチューブの濃度を1μg/ml〜10mg/ml好ましくは0.1mg/ml〜1mg/mlとすることができる。
合成されたCNTは、金属型と半導体型の両方のCNTを含む数十から数百本の束(バンドル)になっており、金属型と半導体型のCNTを分離するに先立って、一本ずつに孤立した状態にする必要がある。そこで、金属型・半導体型CNT混合物に界面活性剤などの分散剤を含む溶液を加え、十分に超音波処理を行い、分散・孤立化させる。この分散溶液には、孤立化CNTと、孤立化できずにバンドルを形成したままのCNT、合成副産物であるアモルファスカーボンや金属触媒などが含まれる。超音波処理後の分散液を遠心分離にかける事により、バンドルしているCNTやアモルファスカーボン、金属触媒は沈殿し、界面活性剤とミセルを形成した孤立CNTを上清に回収できる。この溶液が電気泳動に使用する試料となる。
ゲルには、アガロースのほか、アクリルアミドやデンプンなどの高分子を使用することができ、その濃度も適宜変更できる。ゲルは、熱による融解後に冷却する方法、又は、重合開始剤を加える方法などによって作製される。通常、ゲル電気泳動では分子量の大きさで分離することができることから、本発明では、適当なゲル濃度を用いれば、金属型と半導体型のCNTを分離すると同時に、CNTの長さ、あるいは太さの分離を行うことも可能である。
電気泳動用緩衝液としては、TBやTAEの他の緩衝液を使用することも可能である。電場の制御法としては、定電圧、定電流のどちらでも問題なく、また、高分子DNAを分離する時に使用されるような一定間隔で電場の方向を変えて泳動するパルスフィールド電気泳動法を適用することも可能である。
[光吸収スペクトル測定]
金属型・半導体型CNTの比率を見積もるために紫外−可視−近赤外光吸収スペクトル測定を利用する。図2のLaser−CNT(細:直径1.2±0.1nm)を用いた時の結果を例として説明すると、M1と呼ばれる吸収波長帯(およそ500−700nm)は金属型CNTに、S2(およそ700−1050nm)とS3(およそ500nm以下)という2つ吸収波長帯は半導体型CNTに由来する。ここではM1とS2のピークの大きさの比率から金属−半導体の比率を見積もる。測定するCNTの平均直径によって吸収波長帯(M1、S2、S3)は変化し、細くなるにつれて短波長側に、太くなるにつれて長波長側にシフトしていく。
測定方法は、泳動後のゲルを適当な溶媒で希釈してから溶かして測定しても良いし、ゲルをそのまま測定に用いても良い。ガラス管などの容器のまま測定を行うことも可能であり、リアルタイムで測定をすることも可能である。金属型と半導体型の吸収波長帯は、使用するCNTの直径分布から見積もることができる。
また、ゲルを用いるので、電気泳動による分離後のCNT試料を安定した状態で扱え、精度良く分離や回収を行うことが可能であり、また、金属型と半導体型の分離のみならず、ゲルの分子ふるい効果によって長さや直径などの差違による分離を同時に行うことも可能である。
さらに、本方法はスケールアップも容易であるため工業的に極めて有利なCNTの分離方法ということができる。
[Laser−CNT(細)の調製]
平均粒径5ミクロンの高純度グラファイト粉末に、ニッケル酸化物およびコバルト酸化物の粉末をモル濃度比それぞれ0.6%ずつ混合し、均一に混ぜ合わせたものを、フェノール樹脂でロッド状に整形固化させ、それを1200℃で2時間、不活性ガス中で焼結したものをターゲットとした。このターゲットをアルゴンガス760Torrの雰囲気を満たした石英管中に置き、アルゴンガスを毎分100cc程度流しながら、石英管全体を1050℃まで加熱した。ターゲット表面に450mJ/pulseのNd:YAGレーザー光を照射し、炭素およびニッケルおよびコバルトを蒸発させた。これらが電気炉内で凝集し形成された単層カーボンナノチューブが石英管内に付着したものを回収し、原料試料とした。原料試料を、過酸化水素濃度15%の水に分散し、100℃で2時間環流し、その後塩酸で触媒金属を除去し、精製されたLaser−CNT(細:直径1.2±0.1nm)を得た。
[CNT分散液の調製]
0.6mgのLaser−CNT(細:直径1.2±0.1nm)に、1.2%SDS−0.8%SCの混合物の水溶液(2ml)を加えた。その溶液をチップ型超音波破砕機(VP−15、タイテック社製、チップ先端径:3mm)を用いて、超音波処理した。その際、マイクロチューブは氷水中で冷却しながら、出力2で、0.7秒on−0.3秒offを繰り返して合計5.7時間(合計on時間、4時間)の条件で行った。超音波処理後の分散液を遠心分離(16,000×g、15時間、25℃)にかけた後、上清を回収した。この溶液には、界面活性剤によって孤立分散しているCNTが多く含まれる。得られた上清に終濃度が10%となるようにショ糖(50%水溶液)を添加し、電気泳動用の試料とした。
[ゲル電気泳動]
電気泳動用のゲル(0.4%低融点アガロース、超音波分散に用いた10分の1の濃度の界面活性剤[ここでは0.12%SDS、0.08%SC]、TB緩衝液)は長さ10cm、外径7cm、内径5cmのガラス管中に作製した。アトー社製のディスクゲル電気泳動装置で、泳動用緩衝液に超音波分散に用いた10分の1の濃度の界面活性剤(ここでは0.12%SDS、0.08%SC)を含むTB緩衝液を用いて、陰極から陽極方向に、50Vで60分間電気泳動を行った。ディスクゲル電気泳動とは、電気泳動方向以外の側面が緩衝液などの外界から隔離された状態で行われることを特徴とする電気泳動である。電気泳動時のゲルの様子を図1に示す。電気泳動開始前(0分)から、15分後には一部のCNT試料がゲルの中に入っているのが分かる。泳動開始30分後には、CNT試料はほぼすべてゲル中に入り、色合いから、大きく分けて3つの部分に分類できた。試料添加位置から最も近い緑色の部分と、中ほどの濃緑色の部分、泳動先端の青みを帯びた灰色の部分である。これら3つの部分は、さらに45分、60分と泳動を続けると、その領域を広げながら泳動されていった。緑色の部分に注目すると、濃緑色の部分にあった一部のCNTが泳動されなくなり、ほとんど動かなくなるのが観察できた。
[光吸収スペクトル測定]
電気泳動後のゲルはガラス管から取り出し、適当な位置で切断した。各ゲル片に2%SDS水溶液を加え、湯せんで溶かした後、紫外可視近赤外分光光度計(島津 SolidSpec−3700)を使用して光吸収スペクトルを測定した。電気泳動後の写真と光吸収スペクトルの結果を図2に示す。電気泳動で分離する前の分散液の吸収スペクトルと比較すると、目視で緑色が確認できた部分の吸収スペクトル(1)は、半導体型CNTに対応するS2の吸収が顕著に増加する一方で、金属型CNTに対応するM1の吸収が減少していた。逆に泳動先端に近い部分(3、4)では、半導体型CNTに由来するS2の吸収が減少し、金属型CNTに対応するM1の吸収が増加していた。中間の濃緑色の部分(2)は、分離前の試料と金属型と半導体型の比率はほとんど変わっていなかった。
以上の結果をまとめると次の様になる。特定の界面活性剤を用いた本ゲル電気泳動法では、半導体型CNTは電気泳動されなくなる結果、試料添加位置に近い部分でその割合が多くなる。一方、泳動先端部分では金属型CNTの割合が多くなり、中央部分では電気泳動前の試料と同程度の割合となる。このような現象はこれまでに報告例がなく、本手法は、既存の金属型・半導体型CNT分離法とは全く異なる、新規な原理に基づいたものである。
実施例1と同様の実験を、界面活性剤として1.2%SDS−0.8%SCの混合物の代わりに2%SDSを使用して行った。電気泳動後のゲルの写真と光吸収スペクトルの結果を図3に示す。実施例1の結果と同様に、ゲルの上端に近い部分(1)に半導体型CNTが、泳動先端に近い部分(3、4)に金属型CNTが分離された。中央部(2)は分離前の試料と同程度の比率であった。
[Laser−CNT(太)の調製]
実施例1の[Laser−CNT(細)の調製法]のCNT合成時の温度1050℃を1250℃に変更する以外は同様の手順で実験を行い、Laser−CNT(太:直径1.4±0.1nm)を得た。
得られたLaser−CNT(太)を用いて、実施例1と同様の実験を行った。電気泳動時のゲルの様子を図4に示す。太さの異なるCNTでは、金属型と半導体型で吸収波長が異なるため、見た目の色が変わる。電気泳動開始前(0分)から、15分後には一部のCNT試料がゲルの中に入っているのが分かる。泳動開始30分後には、CNT試料はほぼすべてゲル中に入り、色合いから、大きく分けて3つの部分に分類できた。試料添加位置から最も近い赤茶色の部分と、中ほどの濃緑色の部分、泳動先端の青緑色の部分である。これら3つの部分は、さらに45分、60分と泳動を続けると、その領域を広げながら泳動されていった。赤茶色の部分に注目すると、濃緑色の部分にあった一部のCNTが泳動されなくなり、ほとんど動かなくなるのが観察できた。電気泳動後のゲルの写真と光吸収スペクトルの結果を図5に示す。太いLaser−CNTを用いた時も、細いLase−CNTを用いた時と同様に、ゲルの上端に近い部分(1)に半導体型CNTが、泳動先端に近い部分(3、4)に金属型CNTが分離された。中央部(2)は分離前の試料と同程度の比率であった。
実施例1と同様の実験を、界面活性剤として1.2%SDS−0.8%SCの混合物の代わりに4%SCを使用して行った。また、超音波処理時のLaser−CNT(細)の濃度を1mg/mlとし、電気泳動のゲルと緩衝液には0.2%SCを添加した。電気泳動後のゲルの写真と光吸収スペクトルの結果を図6に示す。電気泳動で分離する前の分散液の吸収スペクトルと比較すると、目視で緑色が確認できたゲル上半分の吸収スペクトル(1)は、金属型CNTに対応するM1の吸収が減少する一方で、半導体型CNTに対応するS2の吸収が増加していた。逆に泳動先端に近い部分(2)では、半導体型CNTに由来するS2の吸収が減少し、金属型CNTの吸収(M1)が増加していた。界面活性剤にSCを単独で用いても、半導体型と金属型のCNTを分離精製できることを示している。
実施例1と同様の実験を、Laser−CNT(細)の代わりにHiPco(登録商標)−CNT(直径1.0±0.3nm)を用いて行った。超音波分散に用いる界面活性剤溶液を1%SDSもしくは1.2%SDS−0.8%SCとして、電気泳動用のゲルと緩衝液にはTB緩衝液の代わりにTAE緩衝液を使用し、界面活性剤は添加しなかった。1%SDSを用いた際の電気泳動後のゲルの写真と光吸収スペクトルの結果を図7に示す。電気泳動で分離する前の分散液の吸収スペクトルと比較すると、目視で緑色が確認できたゲル上半分の吸収スペクトル(1)は、金属型CNTに対応するM1の吸収が減少する一方で、半導体型CNTに対応するS2の吸収が顕著に増加していた。逆に泳動先端に近い部分(2)では、半導体型CNTに由来するS2の吸収が減少していた。この結果はHiPco(登録商標)−CNTを用いても、半導体型と金属型のCNTを分離精製できることを示している。図示しないが、界面活性剤に1.2%SDS−0.8%SCの混合物を用いた時の結果も同様であった。
なお、上記実施例1〜5における電気泳動後のガラス管に入った状態のゲル中のCNTの光学測定は、ゲルを一度溶液に溶かしてから測定する上記の方法の他に、ゲルを溶かさずにガラス管のまま直接計測することも可能であった。
Claims (3)
- 泳動方向が陰極から陽極方向となるゲル電気泳動法によりカーボンナノチューブを半導体型と金属型に分離する方法であって、
金属型・半導体型カーボンナノチューブ混合物に陰イオン界面活性剤を含む分散剤を含む溶液を加え該カーボンナノチューブ混合物を分散させたカーボンナノチューブ濃度が1μg/ml〜10mg/mlであるカーボンナノチューブ混合物を得る工程と、
分散剤を含むゲルを入れた分離用容器に前記分散させたカーボンナノチューブ混合物を入れて該分離用容器を通電して該カーボンナノチューブ混合物を該ゲル中に入れる工程と、
ここで、前記分散させたカーボンナノチューブ混合物のうち試料添加位置に近い部分の該カーボンナノチューブ混合物は、半導体型カーボンナノチューブが電気泳動されなくなる結果、半導体型カーボンナノチューブの割合が金属型カーボンナノチューブに比べて多くなり、一方泳動先端部分では、該金属型カーボンナノチューブの割合が半導体型カーボンナノチューブに比べて多くなり、中央部分では、該金属型カーボンナノチューブと該半導体型カーボンナノチューブの割合が電気泳動前の試料と同程度の割合となり、
を備えるカーボンナノチューブを半導体型と金属型に分離する方法。 - 前記電気泳動は、前記分離液が電気泳動方向以外の側面が緩衝液の外界から隔離された状態で行われることを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブ分離方法。
- 前記陰イオン界面活性剤が、ドデシル硫酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、又はドデシル硫酸ナトリウムとコール酸ナトリウムとの混合物であることを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブ分離方法。
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