JP2011073886A - 二層カーボンナノチューブを主体とする炭素質材料の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明によって提供される二層カーボンナノチューブを主体に構成された炭素質材料の製造方法は、減圧可能な容器内に配置された一対の電極間にアーク放電を発生させて該電極の少なくとも一方からカーボンを蒸発させて行う製造方法であって、該アーク放電の発生領域に近接する外側領域であって900Kを下回らない温度領域内において前記一対の電極の少なくとも一方からの蒸発物を回収することを特徴とする。
【選択図】図3
Description
また、カーボンナノチューブ膜の膜面積を大きくし、基材から完全に分離した状態で(即ち自立膜として)製造できれば、ディスプレイの大型化や膜の単独利用等が可能となり、当該膜の適用範囲が拡大されるので好ましい(特許文献4参照)。
ところで、カーボンナノチューブは、その円筒構造が一層である単層カーボンナノチューブと、二層以上のグラファイト層が同心円状に重なった構造である多層カーボンナノチューブとに大きく分類される。このうち、多層構造に属する二層構造のカーボンナノチューブ(以下「二層カーボンナノチューブ」という。)は、単層カーボンナノチューブと同等の低い電圧で優れた電界電子放出(フィールドエミッション)特性を有しており、さらに単層カーボンナノチューブよりも長寿命であり且つ耐久性に優れるため、特にFEDその他のエレクトロニクス分野での利用に優れるカーボンナノチューブ材料である。
ここで「炭素質材料」とは、炭素を主成分とする材料をいい、炭素以外の元素(例えば後述する金属触媒を構成する金属元素)を包含し得る。
また、ここで「カーボンナノチューブを主体に構成される炭素質材料」とは、炭素質材料に含まれる炭素原子の大半(典型的には原子百分率で全炭素の50at%以上)がカーボンナノチューブとして存在する炭素質材料をいう。
また、ここで「二層カーボンナノチューブを主体に構成された炭素質材料」とは、上記カーボンナノチューブを主体に構成される炭素質材料であって、さらに電子顕微鏡観察等で識別し得る炭素質材料に含まれるカーボンナノチューブの大半(典型的には全カーボンナノチューブ数の50%以上、より好適には炭素質材料に含まれる炭素原子の50at%以上)が二層カーボンナノチューブとして存在する炭素質材料をいう。
従って、上記構成においてアーク放電法に基づくカーボンナノチューブの生成を行い、そして上記アーク放電発生領域(アークプラズマ発生領域)に近接する外側領域であって典型的には900Kを下回らない温度領域内(典型的には900K〜2500K、例えば1000K〜1800K)の領域内で炭素質材料を回収することにより、二層カーボンナノチューブを主体(典型的には捕捉・回収されたカーボンナノチューブのうちの50%又はそれ以上が二層カーボンナノチューブ)として構成された炭素質材料(好ましくは膜状炭素質材料即ちカーボンナノチューブ膜)を効率的に製造することができる。例えば、上記一対の電極における上記蒸発物の発生部位からの距離が100mm以下となる領域内において該蒸発物を回収することが好ましい。
容器内の上記アーク放電発生領域(アークプラズマ発生領域)に近接する外側領域内において蒸発物を回収することにより、二層カーボンナノチューブを主体に構成された炭素質材料を好適に製造することができる。
かかる態様の製造方法によると、上記アーク放電発生領域(アークプラズマ発生領域)に近接する外側領域(典型的には容器内の温度分布が900K以上、特には900K〜2500Kとなる領域)において上記対向する一対の電極間の隙間よりも距離が長い隙間をあけて対向した状態で配置した一対の回収板を採用することによって、好ましくは二層カーボンナノチューブを主体(典型的には捕捉・回収されたカーボンナノチューブのうちの50%又はそれ以上が二層カーボンナノチューブ)として構成された膜状の炭素質素材(即ちカーボンナノチューブ膜)を効率的に製造する(得る)ことができる。
また、好ましくは、上記一対の回収板は、それぞれ、中心に挿通孔が形成された略円板状に形成されており、該挿通孔に上記一対の電極の何れかを挿通させた状態で上記一対の電極にそれぞれ挿脱可能に取り付ける。
また、好ましくは、上記回収板を、直径が概ね80mm〜150mmのサイズとなるように形成する。
また、好ましくは、上記一対の回収板のうち陰極側に配置される回収板を、アーク放電時の上記容器内の温度分布が900K〜2500Kとなる領域に含まれる陰極部分に配置する。
また、好ましくは、上記一対の回収板の間隔を20mm〜100mmに設定する。
これらの工夫を行うことにより、より効率よく膜状炭素質材料(即ちカーボンナノチューブ膜、特に二層カーボンナノチューブに富むカーボンナノチューブ膜)を上記回収板の表面に形成することができる。
本態様の方法では、上記一対の電極を構成する電極(即ち陰極と陽極)の各々に一つずつ電気的に接続された状態の一対の回収板(導電板)を使用する。
かかる構成の製造方法によると、対向する陰極と陽極との間に電圧を印加することにより、上記電極間の隙間以上の隙間をあけて対向配置されている回収板(導電板)間においても、上記電圧と同程度の電位差で電界を生じさせることが可能となる。
他方、アーク放電により電極(典型的には陽極)から蒸発したカーボン粒子は、原子又は正電荷を帯びた陽イオンとして存在し得る。
ここで本態様のように回収板を導電性材料で構成するとともに上記一対の電極と電気的に接続することによって、一対の回収板間に電位差(電界)を生じさせることができる。このことにより、上記カーボン粒子ならびに当該粒子からなるカーボンナノチューブ含有生成物(好ましくは二層カーボンナノチューブを主体に構成された生成物)は全体的に陰極側に配置される回収板に移動していく。この結果、陰極側に配置された回収板における陽極との対向面に上記生成物が効率よく捕捉され、そこで堆積(成膜)する。従って、所定時間のアーク放電を継続実施すれば、上記生成物は上記対向面の一面にわたり堆積されて(付着して)いくので、この生成物を上記対向面において膜状に捕捉することができ、結果、回収板(導電板)の対向面(即ち捕捉面)と同程度の面積で所定厚のカーボンナノチューブからなる膜状堆積物(好ましくは二層カーボンナノチューブを主体に構成されたカーボンナノチューブ膜)として回収することができる。
そして、上記陰極側に配置された回収板の陽極と対向する下向きの面によって、上記蒸発したカーボンからなるカーボンナノチューブであって上記容器内を陽極から陰極側に上昇するカーボンナノチューブを膜状に堆積させて捕捉することを特徴とする。
ここで「上下に配置」とは、上記容器を水平に(真横から)見たとき、一方の電極(ここでは直流放電時において陽極)が下側に、そして他方の電極(ここでは直流放電時において陰極)が上側にあることをいい、一方の電極における他極との対向面同士が上下方向に配置されていれば足りる。また、下側の電極と上側の電極とが垂直(鉛直)方向に沿って一直線上にあるように(若しくは互いの対向面が所定間隔を隔てた水平面内にあるように)配置された電極は、容器内で上下方向に配置されている電極の好ましい一つの典型例である。
このように触媒を含む炭素材料からなる電極を用いることにより、効率よくカーボンナノチューブ含有生成物を生じさせることができる。
(1).鉄(Fe)と、
(2).モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、タングステン(W)、チタン(Ti)及び白金族金属に属する金属元素のうちから選択される少なくとも1種の金属元素と、
を有することを特徴とする。
この種の金属元素をあわせ含む触媒(これら金属元素を主体に構成される触媒を2種以上あわせて含有するものでもよく、或いは、これら金属元素を成分とする1種類の合金触媒でもよい。)を有する電極を使用することにより、二層カーボンナノチューブを効率よく生成することができる。従って、本態様の製造方法によると、効率よく、二層カーボンナノチューブに富む炭素質材料、好適にはカーボンナノチューブ膜(例えばカーボンナノチューブの50mol%以上が二層カーボンナノチューブであるカーボンナノチューブ膜)を製造することができる。
また、好ましくは、基材から分離した状態(即ち基材フリー)の自立膜として製造されたカーボンナノチューブ膜を提供することができる。
また、本発明は、ここで開示されるいずれかの製造方法により製造された膜状炭素質材料(カーボンナノチューブ膜)を構成要素として有する電子放出材料を提供する。典型的には、膜を構成するカーボンナノチューブ数のうちの50%以上が二層カーボンナノチューブであることを特徴とする電子放出材料(電子放出素子)を提供する。
従来のアーク法に基づくカーボンナノチューブ製造方法では、減圧可能な容器(以下「反応容器」という。)内の900Kを下回る温度領域内、即ちアーク放電部位から離隔した位置(例えば電極設置位置から離隔した反応容器の上部内壁面又は内壁近傍)において蒸発物を回収していたが、この場合には得られた回収物(炭素質材料)中に含まれるカーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブが主体となる傾向にある。これに対し、ここで開示される製造方法では、回収位置をアーク放電発生領域に近接する領域(即ち上記近接回領域)に設定したことにより、二層カーボンナノチューブに富む炭素質材料の回収(換言すれば製造)を実現することができた。
なお、近接回収領域の設定にあたっての上記900Kを下回らないという温度域の条件は一つの目安であって厳格に温度領域を制限するものではない。例えば、四捨五入により900Kに切り上げられるような温度域(例えば850K〜899Kの温度域)もここでいう900Kに包含され得る。同様に、上記温度域の上限温度2500K(若しくは1800K)についても、四捨五入により2500K(若しくは1800K)に切り下げられる温度域(例えば2540K以下或いは1840K以下)が包含され得る。要するに、アーク放電時においてアーク放電領域の外側領域であって900Kを下回らない何れかの部位において電極からの蒸発物(即ち炭素質材料)を回収すればよく、本発明の実施にあたって反応容器内における温度分布を詳細(厳格)に明らかにする必要はない。
従って、近接回収領域は、電極からの距離を指標にして設定することができる。例えば、反応容器内の一対の電極(即ちアーク放電を行う電極)における上記蒸発物の発生部位からの距離が100mm以下となる領域を近接回収領域として設定することができる。このような電極から比較的近い距離において上記蒸発物を回収することによって、二層カーボンナノチューブに富む炭素質材料を回収(製造)することが容易に行える。好ましくは、電極の上記蒸発物発生部位からの距離が10mm〜100mm(例えば10mm〜50mm)となる領域を近接回収領域として好適に設定することができる。
典型的には、一対の回収板が、反応容器内に対向配置される一対の電極間の隙間よりも距離が長い隙間をあけた位置(即ち上記近接回収領域内)において対向した状態で一対の回収板が設けられている。かかる一対の回収板の存在により、一方の電極(典型的には陽極)から蒸発した蒸発物を構成するカーボン粒子(及び典型的には更に触媒金属粒子)から二層カーボンナノチューブに富む炭素質材料を生成するのに好適な環境が、上記回収板間の空間領域に実現され得る。
この結果、かかる製造方法を実施することにより、該回収板間の空間領域内でカーボンナノチューブ(特に二層カーボンナノチューブ)が高効率に生成され、当該カーボンナノチューブを含む生成物(蒸発物)は陰極側回収板の陽極との対向面上にほぼ選択的に付着、堆積していく。従って、高効率且つ高収率でカーボンナノチューブを捕捉、回収することができると共に、上記対向面と同程度の面積を有する膜状炭素質材料、即ちカーボンナノチューブ膜として回収することができる。更に、このカーボンナノチューブ膜は、上記対向面から容易に剥離されて自立膜(即ち基材フリーの膜状炭素質材料)として回収され得る。
なお、ここで開示される製造方法を好適に実施するために設計された後述するような製造装置は、二層カーボンナノチューブの製造に適する装置ではあるが、二層以外の多層カーボンナノチューブや単層カーボンナノチューブの製造に適用することを制限するものではない。
図1に示されるように、当該製造装置1は大まかにいって、反応容器2と、一対の電極11,12と、一対の回収板21,22と、から構成される。
これら陽極11及び陰極12は、いずれもスティック状(又は棒状)に形成されており、その中心軸が垂直方向Zに沿ってほぼ一直線上になるようにして、図1Aに示すように所定間隔L1の隙間14をあけて対向配置されている。なお、各電極11,12の形状はスティック状に限られず、互いに対向させ得る面を有する形状(例えば角柱状)であればよい。従って、電極の形状は、例えばいずれか一方又は両方がタブレット状であってもよく、また、形状及び/又は材質の異なる複数の構成部材(例えばスティック状の部材とタブレット状の部材)を組み立てて(接合して)なる組立型電極体であってもよい。例えば、後述の回収板21,22を介して2つの材質及び形状の異なる構成部材が接合してなる組立型電極体であって、全体形状としてスティック状に見える組立型電極体を、本実施形態に係る電極11,12として好ましく使用することができる。
図1及び図1Aには、スティック状の陽極11と陰極12とをその中心軸を垂直方向Zに沿って一直線上になる(即ち、該中心軸同士のなす角度がほぼ180°となる)ように配置した一例を示しているが、これら電極11,12の配置はこれに限定されない。例えば、陽極11及び陰極12の少なくとも一方(例えば陽極11)を垂直方向Zから外れた角度に配置することにより、陽極11の中心軸と陰極12の中心軸とのなす角度が鈍角となるように電極11,12を配置してもよい。陽極11の中心軸と陰極12の中心軸とのなす角度は90°以上、例えば120°〜180°程度の角度とすることができる。
好ましくは、陽極11と陰極12とをその中心軸をほぼ垂直方向Zに沿って一直線上になるように配置する。
より好ましいカーボンナノチューブ合成用触媒、特に二層カーボンナノチューブ合成用触媒としては、上記のFeに加えて、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、タングステン(W)、チタン(Ti)及び白金族金属に属する金属元素(例えば白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh))のうちから選択される少なくとも1種の金属元素を有することが特に好ましい。
あるいは上記のような合金触媒に代えて、Fe或いはNi(Ni−Y合金等の合金を包含する)及びCoから選択される一種又は二種以上を構成金属元素とする触媒(特に好ましいのはFeを構成元素とする触媒)と、Mo、Cr、W、Ti及び白金族金属に属する金属元素(Pt、Pd、Ru、Rh等)のうちから選択される少なくとも1種の金属元素を構成元素とする触媒と、を混合させて炭素材料に含有させたものでもよい。
特にFeとMoの合金からなる触媒の使用、或いは、Feを構成金属元素とする触媒(Fe触媒)とMoを構成金属元素とする触媒(Mo触媒)とを混合して使用することが、二層カーボンナノチューブの精製効率を向上させ得るために好ましい。
電極を構成する炭素(カーボン)量の大凡0.1mol%〜10mol%に相当する量、好ましくは0.5mol%〜5mol%に相当する量(例えば1mol%〜3mol%)の添加が適当である。
なお、本実施形態に係る陽極11側及び陰極12側それぞれの支柱31,32は、雄ねじ構造であり、容器の一部に形成された図示しない雌ねじ孔に装着されている。そして支柱31,32の反応容器外に配置される一端は、モータ等の図示しないアクチュエータに接続されており、このアクチュエータを駆動させることにより、支柱31,32が回転し、それに伴う支柱31,32の垂直方向Zへの移動に伴い該支柱31,32に支持された電極11,12もまた垂直方向Zの両方向に移動可能としている。従って、当該アクチュエータを利用することにより、カーボン粒子の蒸発による陽極11の消耗に伴って、陰極12及び/又は陽極11を垂直方向Zに徐々に移動させることにより、両電極11,12間の隙間14を一定の距離(間隔L1)に保持することができる。なお、かかる垂直方向Zへの電極11,12の移動量(典型的には陰極12側の移動量)を設定するにあたっては、陽極11の消耗量(先端部の減り具合)又は両電極11,12間の隙間14の距離をセンサにより検知する、印加電圧から陽極11の消耗量を予測する、等の手法を適宜採用することにより、該消耗量に見合った(該消耗量を補填する)移動制御が実現される。
回収板21,22は耐熱性を有する材料(好ましくは導電性の耐熱材料)から構成される。回収板21,22の構成材料として利用し得る材料としては、炭素材料、金属又は合金材料が挙げられるが、電極11,12の構成材料と同様の材料(例えばグラファイト)を好ましく採用することができる。また、電極11,12と同じ材料を採用することにより、アーク放電時に電極11(又は電極12)表面と導電体21(又は導電体22)表面とを均等に帯電させ得る。あるいは、金属製やシリコン製の基板を回収板として使用することができる。また、セラミック製(例えば石英製)の基板を回収板として使用することができる。
上記回収板21,22の形状は特に限定されないが、電極11,12を挿通させる挿通孔(即ち、電極11,12の断面形状に対応したサイズの挿通孔)を中心に備えたフラットな形状、具体的には略円板状であるものを好適に採用することができる。かかる形状の上記回収板21,22としては、その直径が80mm〜150mm(より好ましくは80mm〜120mm、更に好ましくは90mm〜100mm)のサイズに形成されているものを用いることができる。また、かかる回収板21,22の互いに対向する面21a,22aのうち、特に陰極12側の対向面22aには、アーク放電時に陽極11から蒸発し得るカーボン粒子(典型的には更に触媒金属粒子)からなるカーボンナノチューブ含有生成物が付着、堆積する。従って、該含有生成物を付着させ易く、且つ堆積後には剥離し易くすることを考慮すれば、上記対向面22aの表面粗さは3.2μm以下であることが好ましい。なお、これら回収板21,22の厚みについては特に限定されないが、扱い易さ等を考慮すれば、例えば3mm〜6mm程度の厚みのものを好ましく用いることができる。
かかる方法で一対の回収板21及び22を、陽極11及び陰極12に各々一つずつ挿脱可能に取り付ける。この際、好ましくは、陽極11側の回収板21の面方向(即ち、陰極12側の回収板22と対向し得る面21aの面方向)と陰極12側の回収板22の面方向(即ち、陽極11側の回収板21と対向し得る面22aの面方向)とが互いに平行関係となるように配置する。更に好ましくは、互いに水平方向(図1に示すX方向)に沿うように配置する。
対向する回収板21,22における互いの対向面21a,22aのなす角度は、陰極12側の回収板22の対向面22aが陽極11の対向面11a(即ちカーボン粒子、典型的には更に触媒金属粒子が蒸発し得る面)と対向し得るような角度であって、特に上記対向面22aが電極11,12間の隙間14、又は回収板21,22間の隙間24を移動(拡散)するカーボンナノチューブ含有生成物を効率良く捕捉し得るような角度に設定されていればよい。好ましくは、上記回収板21,22の対向面21a,22a同士のなす角度を±30°以下(好ましくは±10°以下、より好ましくは±5°以下)に設定する。且つ、当該対向面21a,22aの各面方向と水平面とのなす角度が±30°以下(好ましくは±10°以下、より好ましくは±5°以下)となるように設定する。典型的には、上記各対向面21a,22a同士の面方向のなす角度がゼロ(厳密に平行)、又はほぼゼロであり、互いに水平面とのなす角度がゼロ(厳密に水平)、又はほぼゼロであるように回収板21,22を配置する。このとき、電極11,12についても、これらの対向面11a,12aが互いに厳密な平行で且つ厳密な水平であるような配置であることがより好ましい。
かかる状態に配置することにより、回収板21,22間の隙間24は一様に間隔L2で一定(即ち平行)であるので、該回収板21,22は平行平板コンデンサーのような役割を果たし得る。即ち、アーク放電時の回収板21,22間において、水平方向(典型的には図1におけるX方向)に対して平行に等電位面が存在するため、該等電位面に垂直(即ち垂直方向Z)の向きに、その電界力が働く。即ち、回収板21,22の間に働く電界力は、垂直方向Zに沿って陽極11側から陰極12側の向きに一様な大きさで生じる。従って、陰極12側の回収板22の対向面22aは該電界力方向に対して垂直をなすので、陽極11から蒸発したカーボンから生じるカーボンナノチューブはより効率良く陰極12側の回収板22の対向面22aに付着し、堆積し得る。
かかる温度分布を呈する領域(即ち近接回収領域)内への回収板21,22の配置については、当該回収板21,22の各々が電極11,12の対向面11a,12aの各々から等しい距離で退行させた位置に取り付けられており、電極11,12間の隙間14の間隔L1が1mm〜3mmに設定されている場合には、上記回収板21,22間の隙間24の間隔L2を20mm〜100mm(好ましくは20mm〜80mm、より好ましくは30mm〜60mm)に設定することにより実現され得る。
或いはまた、事前に回収板21,22を配置しない状態でアーク放電を実施して反応容器2の内部空間4の温度分布を測定しておき、その測定結果に基づく好適な温度分布を呈する空間領域内(即ち近接回収領域内)に、陰極12側の回収板22(特に対向面22a)が含まれるように、回収板21,22の電極11,12への取付け位置を決めることもできる。
本実施形態において、具体的には図示されるように、反応容器2の内部空間4に配されて垂直方向Zに沿って上面部2aから下方向に伸びる支柱32に対して回収板22を備えた陰極12をセットする。他方、反応容器2の内部空間4に配されて垂直方向Zに沿って底面部2bから上方向に伸びる支柱31に対して回収板21を備えた陽極11をセットする。このとき、両電極11、12の対向面11a,12a間の隙間14の距離(間隔L1)が1mm〜3mmとなるように陽極11及び/又は陰極12の配置位置を調節する。この調節により、同時に、両回収板21,22間の隙間24の距離(間隔L2)が20mm〜100mmとなるように調節され得る。
なお、回収されたカーボンナノチューブ膜を従来公知の精製処理や加工処理に供することもできる。例えば、当該膜をほぐして、精製処理を実施後、得られた精製物を糸状に紡いでフィラメントに加工してもよい。かかる処理を施すことにより大量のカーボンナノチューブが得られる。従って、ここに開示される製造方法及び製造装置は、アーク放電法によりカーボンナノチューブ(好ましくは二層カーボンナノチューブ)を多量に製造し得る方法及び装置となり得る。
例えば、図2に示すカーボンナノチューブ膜製造装置101のように、円筒状反応容器102の内部空間104に一対の電極(即ち陽極111と陰極112)を水平方向(即ち図中のX方向)に対向させたものであってもよい。具体的には、図2に示す実施形態において陽極111及び陰極112は、それぞれ、反応容器102の対向する側面部102c,102dに固定されて水平方向Xに設けられた支柱131,132に支持されている。
なお、電極111,112ならびに支柱131,132の構造や移動機構等は、上述した図1に示す装置1に装備されたものと同様であるので重複した説明は省略する。
なお、回収板121,122ならびに支柱151,152の構造や移動機構等は、上述した図1に示す装置1に装備されたものと同様であるので重複した説明は省略する。
かかる構成のカーボンナノチューブ膜製造装置101によっても 電極111,112間の隙間(L1)よりも回収板121,122の隙間(L2)の距離を長くするように調節して当該回収板121,122を所望の近接回収領域内に配置することによって、上述した図1に示す装置1と同様に本発明の製造方法を好適に実施することができる。なお、ガス供給管141とガス排出管142については、図1に示す装置と同様であるので重複した説明は省略する。
上記製造方法に基づき、図1に示す構成のカーボンナノチューブ膜製造装置1を用いてカーボンナノチューブ膜を製造した。以下に、採用した条件を示す。
陰極12としてグラファイトからなる円筒状電極(直径:10mm)を用いた。また、陽極11として、MoとFeの原子比が3:10の組成となるように調製された金属触媒(Mo触媒とFe触媒とを混合して使用してもよく或いはMo−Fe合金触媒を使用してもよい。)をFeがカーボン全体の1at%に相当する量且つMoがカーボン全体の0.3at%に相当する量となるように含有する触媒入りグラファイト棒(6.5mm×6.5mmの断片矩形状の角柱状電極)を用いた。
これら電極11,12の配置は、各極の中心軸方向が垂直方向(図中のZ方向)に沿って一直線上にあるような配置(垂直配置)とし、グラファイト製回収板21,22の対向面21a,22aは、ほぼ厳密な平行で水平面内にあるような配置とした(図1参照)。ここで、電極11,12間の隙間L1は約2mmに設定し、近接回収領域内に配置した回収板間の隙間L2は約30mmに設定した。
アーク放電実施後、反応容器2の取出口(図1には示していない。)を開放し、そこから陰極12側の回収板22を陰極12と共に取り出した。当該回収板22の対向面22aに付着したカーボンナノチューブ膜をピンセットで端部を掴んで剥がした。
上記試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜の観察を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope、株式会社トプコン製、型式ABT−150F)によって行った。それらの写真を図4〜7に示す。図4は、試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜におけるやや周縁部に近い部分のSEM写真(倍率20,000倍)であり、図5は、当該部分を拡大したSEM写真(倍率50,000倍)である。図6は、試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜における中央部付近のSEM写真(倍率20,000倍)であり、図7は、当該部分を拡大したSEM写真(倍率50,000倍)である。
他方、図6〜7に示されるように、上記膜の中心部付近では、カーボンナノチューブが多層構造をなしてクモの巣状に堆積(積層)しているのが認められた。
なお、金属触媒由来の微小金属粒子(典型的には直径20nmまたはそれ以下の微小粒子)が膜の表面や内部の一部に散乱していることが認められたが、種々の酸を使用した酸化処理、例えば0.5〜2M程度の濃度の塩酸によりカーボンナノチューブ膜を処理する(好ましくは、予め200〜500℃程度の高温で加熱処理した試料を使用する。)ことによって、不純物たる金属微粒子及び/又はカーボン微粒子を容易に除去することができる。
これらTEM像から明らかなように、得られたカーボンナノチューブ膜は、多数のカーボンナノチューブが緻密に集まって(固まって)成る束状構造(バンドル構造)により形成されており、該束状構造を構成するカーボンナノチューブの大部分(ここではTEM像観察に基づいてカーボンナノチューブ全数のうちの90%以上)は二層カーボンナノチューブ(DWNT:Double Wall Nanotube)であることが確認された。DWNTでない残りのカーボンナノチューブはほぼ単層カーボンナノチューブ(SWNT:Single Wall Nanotube)であった。また、TEM観察に基づく二層カーボンナノチューブの外径は1.9nm〜4.7nm(メジアン径:2.9nm)であり、内径は1.2nm〜3.8nm(メジアン径:2.2nm)であった。また、TEM観察に基づく隣り合う二つのグラファイト層間の距離は、一定ではないが概ね0.37nm〜0.47nmの範囲内であった。
以上から明らかなように、本発明の製造方法によると、従来のように触媒として硫黄元素(S)を含まない金属触媒で二層カーボンナノチューブに富むカーボンナノチューブ集合物(カーボンナノチューブ膜)を製造することができる。
具体的には、図10のa側に示されるように、低波数領域(RBM)の観察の結果、514.5nmレーザにより139〜219cm−1の範囲にピークがみられ、且つ、633nmレーザにより117〜285cm−1の範囲にピークがみられた。従って、得られたカーボンナノチューブ膜を構成するカーボンナノチューブの直径は1.1nm〜1.8nm(514.5nmレーザ)、0.9nm〜2.2nm(633nmレーザ)と算出された。
また、図10のb側に示されるように、1590cm−1付近にシャープなピーク(Gバンド)が観察された。また、1350cm−1付近のピーク(Dバンド)はわずかに観測されるのみであった。G/D比は25に達していた。以上の結果から、得られた膜中のカーボンナノチューブは非常に高い結晶性を呈し且つ欠陥の少ないものであることがわかった。
また、DTA曲線において575℃付近に顕著なピークがみられる。このピークは、二層カーボンナノチューブに顕著なものであり、供試物中の二層カーボンナノチューブの含有率の高さ(換言すれば純度の高さ)を示している。
比較対照として、上記一対の回収板21,22を反応容器2内に配置しないこと以外は、同様の装置構成ならびに実験条件によって同様のアーク放電を実施した。
アーク放電実施後、反応容器2の取出口(図示せず)を開放し、近接回収領域外である(即ちアーク放電時に900Kよりも低い温度領域である)容器2の上面部2aの内壁面に付着していたカーボンナノチューブを含む炭素質材料をピンセットで剥がして取り出した。
こうして得られた比較対照の炭素質材料の構成を電子顕微鏡(SEMとTEM)で観察した。その結果、図12のSEM写真にみられるように、本比較試験例で得られた炭素質材料は、カーボンナノチューブが多層構造をなしてクモの巣状に堆積(積層)した構造であった。また、図13のTEM写真から明らかなように、この炭素質材料は、多数のカーボンナノチューブが緻密に集まって(固まって)成る束状構造(バンドル構造)により形成されていた。しかしながら、かかるTEM写真に示されるように、当該束状構造(バンドル構造)は、実質的に単層カーボンナノチューブにより構成されており、二層カーボンナノチューブの集積は認められない。このことは、具体的なデータは示していないが、得られた炭素質材料について行ったTGA/DTA測定においても裏付けられている。即ち本比較試験例で得られた炭素質材料については、DTA曲線において二層カーボンナノチューブに顕著な575℃付近のピークが認められなかった。
以上の比較試験例の結果から、二層カーボンナノチューブに富む炭素質材料(典型的には二層カーボンナノチューブに富むカーボンナノチューブ膜)は、アーク放電により電極(陽極)から蒸発した蒸発物を上記近接回収領域内において捕捉・回収することにより好適に得られることが確認された。
上記試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜の有用性を評価するため、電界電子放出特性を調べた。
即ち、試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜を、空気中で300℃、400℃又は500℃まで加熱して所定時間(ここでは1時間)加熱処理した。あるいは、さらに当該加熱処理後に塩酸(ここでは濃度が1Mの塩酸を使用した。)に試料を24時間浸漬する塩酸処理を行った。かかる加熱処理のみのもの、及びその後に塩酸処理を行ったものの何れについても、エタノールで洗浄し、続いて脱イオン水で洗浄し、次いで100℃で2時間の乾燥処理を行った。
図14に模式的に示すように、上記得られた乾燥状態のカーボンナノチューブ膜210を石英製の基板220の表面に貼り付けることにより、本試験例に係る電界電子放出材料としての電界電子放出型カソード(FEC)200を作製した。
両極間の隙間を500μmに設定して電界電子放出試験を行った。具体的には、ターンオン電界(Eto:V/μm)及び閾値電界(Eth:V/μm)を、それぞれ、電流密度を1μA/cm2及び1mA/cm2として求め、さらに電界増強因子(β:Field Enhancement Factor)をF−N式(ファウラー−ノルドハイム式:Fowler-Nordheim equation)から求めた。具体的には、本試験によって作成したI−V曲線からFowler−Nordheimプロットを行い低電界域(スタート時)と高電界域とで異なる傾きの直線が得られるところ、当該低電界域における直線の傾きから導き出される電界増強因子β2と当該高電界域における直線の傾きから導き出される電界増強因子β1とを別々な値として表1に掲載してある。換言すれば、安定した電界放出を継続しているときの電界増強因子β1と、引き出し電圧が低いときの電界増強因子β2とをそれぞれ別個に求めて掲載した。なお、これら二つの電界増強因子間においてβ2<β1であること自体は一般的な現象であり、特別なことではない。なお、電界増強因子βはカーボンナノチューブの太さ、直径、バンドル形状に依存する。以上の結果を表1に示す。
2,102 反応容器
4,104 内部空間
11,111 電極(陽極)
12,112 電極(陰極)
21,121 回収板
22,122 回収板
200 電界電子放出型カソード(FEC)
210 カーボンナノチューブ膜
220 基板
250 対極
Claims (10)
- 減圧可能な容器内に配置された一対の電極間にアーク放電を発生させて該電極の少なくとも一方からカーボンを蒸発させて行う、カーボンナノチューブを主体に構成される炭素質材料の製造方法であって、
前記アーク放電の発生領域に近接する外側領域であって900Kを下回らない温度領域内において前記一対の電極の少なくとも一方からの蒸発物を回収することを特徴とする、二層カーボンナノチューブを主体に構成された炭素質材料を製造する方法。 - 前記一対の電極における前記蒸発物の発生部位からの距離が100mm以下となる領域内において該蒸発物を回収することを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
- 前記対向する一対の電極間の隙間よりも距離が長い隙間をあけて対向した状態で、一対の回収板を配置し、
前記一対の電極の少なくとも一方からの蒸発物を、前記一対の回収板のうちの少なくとも一方の回収板において膜状に堆積させて捕捉することを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。 - 前記一対の回収板は導電性であり、該一対の回収板のうちの一方の回収板は前記対向する一対の電極のうちの一方の電極に電気的に接続された状態で配置されており、且つ、前記一対の回収板のうちの他方の回収板は前記対向する一対の電極のうちの他方の電極に電気的に接続された状態で配置されていることを特徴とする、請求項3に記載の製造方法。
- 前記一対の電極を上下方向に対向するように、下側に陽極を配置し且つ上側に陰極を配置し、
前記陰極側に配置された回収板の陽極と対向する下向きの面によって、前記蒸発したカーボンからなるカーボンナノチューブであって前記容器内を陽極から陰極側に上昇するカーボンナノチューブを膜状に堆積させて捕捉することを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。 - 前記一対の電極のうちの少なくとも陽極は、金属触媒を含有する炭素材料により構成されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
- 前記一対の電極のうちの少なくとも陽極は、前記金属触媒の構成金属元素として、
鉄(Fe)と、
モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、タングステン(W)、チタン(Ti)及び白金族金属に属する金属元素のうちから選択される少なくとも1種の金属元素と、
を有することを特徴とする、請求項6に記載の製造方法。 - 請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法によって製造されたカーボンナノチューブを主体に構成された炭素質材料であって、
該炭素質材料に含まれるカーボンナノチューブ数のうちの50%以上が二層カーボンナノチューブであることを特徴とする、炭素質材料。 - 膜状に製造された、請求項8に記載の炭素質材料。
- 請求項9に記載の膜状炭素質材料を有することを特徴とする、電界電子放出材料。
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