JP2011057730A - 微細な炭素繊維が開繊、分散したポリマー組成物の製造方法 - Google Patents

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秀哉 吉武
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憲二 福田
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正幸 西尾
Tsunao Matsuura
綱男 松浦
Hideomi Katano
秀臣 片野
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Abstract

【課題】本発明は、微細な炭素繊維とポリマーとのコンポジット化における混練性、分散性の問題を改善することを目的とする。
【解決手段】無機物粉末とポリマーとを混合して複合物とし、前記複合物と、微細な炭素繊維の凝集体とを剪断力を加えて混練することにより、微細な炭素繊維の開繊性、分散性に優れた、機能性が高いポリマー組成物を製造することができる。
【選択図】なし

Description

本発明は微細な炭素繊維の凝集体を開繊、分散した導電性に優れるポリマー組成物に関する。詳しくは、触媒を使用する気相成長法により微細な炭素繊維から成る凝集体を製造し、その後、微細な炭素繊維の凝集体と、予め無機物粉末を含有したポリマー複合物とを剪断力を作用させて混練し、無機物粉末により微細な炭素繊維の凝集体を開繊、分散した導電性ポリマー組成物とその製造方法に関する。
円筒チューブ状、魚骨状(フィッシュボーン、カップ積層型)、トランプ状(プレートレット)等に代表される微細な炭素繊維は、その形状、形態から様々な応用が期待されている。とりわけ円筒チューブ状の微細な炭素繊維(カーボンナノチューブ)は従来の炭素材料と比較し、強度、導電性等に優れるため、次世代の導電性材料として注目を集めている。
多層カーボンナノチューブ(多層同心円筒状)(非魚骨状)は、例えば、特公平3−64606、特公平3−77288、特表平9−502487、特開2004−299986等に記載されている。この構造のカーボンナノチューブは繊維全体が同心円状にSP2結合の炭素円筒で構成されているが、カーボンナノチューブの実際の生成形態は、これらの繊維が絡まった数μmから数千μmの凝集体として存在する。
カーボンナノチューブは、グラファイト網面が繊維軸と平行であり、これに沿って電子が流れるため、単独の繊維における長軸方向の導電性は良好である。しかしながら、隣接する繊維間での導電性に関しては、側周面が円筒状に閉じたグラファイト網面で構成されているため、π電子の飛び出しによるジャンピング効果(トンネル効果)が期待できない。従って、カーボンナノチューブを導電性フィラーとして利用したポリマーとのコンポジットにおいては、繊維同士の接触が充分に確保されないと導電性が良好に発現されないという問題がある。
カーボンナノチューブに代表される微細な炭素繊維の製造方法として、従来、アーク放電法、気相成長法、レーザー法、鋳型法等が知られている。この中で触媒粒子を用いる気相成長法は、安価な合成方法として注目されているが、大量生産方法は確立されていない。また生成するカーボンナノチューブは結晶性の低い不均質な繊維となるため、高い導電性を要求される場合には黒鉛化処理が必要である。
例えば、特表平9−502487(特許文献1)には、従来技術として、特表平2−503334又は特開昭62−500943に記載の方法で製造される炭素フィブリル原料(円筒チューブ状)のXRD(X線回折)測定におけるグラファイト面間隔(d002)が0.354nmを示し、結晶性が充分でなくそのままでは導電性が低いことが記載されている。そして、このフィブリル原料を2450℃で処理することにより、グラファイト面間隔(d002)が0.340nmとなり結晶性の改善されたフィブリル材料が得られることが記載されている。
また、魚骨状(フィッシュボーン)型炭素繊維(カップ積層型炭素繊維)は、例えば、USP4,855,091、M.EndoおよびY.A.Kimらによる文献〔Appl.Phys.Lett.,vol80(2002)1267〜〕、特開2003−073928、特開2004−360099等に記載されている。この構造は、底のないカップを積層した形状である。この構造の炭素繊維は、特開2004−241300に記載されているように、繊維軸方向に傾斜を有するコーン形状の炭素基底面が積層した構造であるため繊維軸方向の導電性が著しく低く、導電材としては好適といえない。
さらに、プレートレット型カーボンナノファイバー(トランプ状)は、例えば、H.MurayamaおよびT.maedaによる文献〔Nature, vol345[No28](1990)791〜793〕、特開2004−300631等に記載されている。この構造も基本的に魚骨状(フィッシュボーン)型炭素繊維〔カップ積層型炭素繊維〕と同様に繊維軸に対し垂直に炭素基底面円盤が積層した構造であるため、プレートレット型カーボンナノファイバーのみならず、魚骨状(フィッシュボーン)型炭素繊維の場合と同様の理由で導電材としては適さない。
魚骨状、トランプ状の微細繊維は、側周面にグラファイト網面の開放端が露出するため、隣接する繊維間の導電性はカーボンナノチューブに比べ向上する。しかしながら、グラファイト網面のC軸が繊維軸方向に対し傾斜あるいは平行して積層した構造であるため、単独の繊維における繊維軸長軸方向の導電性は低下してしまう。
上記の代表的な構造に加え、特開2006−103996(特許文献2)では、結晶格子の中核をなす炭素原子に化学的に結合した窒素原子を含み、一端が開き他端が閉じた釣鐘型の多層物質が単位構造ユニットとなり1つのユニットの閉じた端部が他のユニットの開いた端部へ差し込まれた形態の繊維構造体とその製造方法が開示されている。しかし、この繊維は、グラファイト網面において炭素原子と化学的に結合した窒素原子が含まれるため、グラファイト網面に構造的歪みが生じ、結晶性が低い、即ち導電性が低いという問題がある。
またApplied Physics A 2001(73)259−264(Ren Z. F. ら)(非特許文献1)においても、“bamboo−structure”と称した、前記特許文献2(特開2006−103996)類似の繊維構造が報告されている。この構造体の合成は、シリカに鉄を担持した触媒を使用し、アセチレン20vol%/アンモニア80vol%の混合ガスを使用して、750℃での気相成長法によって実施されている。この報告では、繊維構造体の化学組成分析は全く記述されていないが、原料中に含まれる不活性でない窒素分の濃度が非常に高いことから(59wt%)、該繊維構造体にも化学的に炭素原子と結合した窒素原子が含まれ、構造的乱れを生じていると考えられる。また触媒重量に対する生成物重量の比が6程度と著しく低いため、繊維成長が充分でなくアスペクト比が小さいという点も問題である。
さらに、Carbon 2003(41)2949−2959(Gadelle P. ら)(非特許文献2)においても、繊維を構成するグラファイト網面がコーン形状で、その開放端が繊維側周面に適当な間隔で露出した構造が報告されている。この文献では、クエン酸で共沈させたコバルト塩及びマグネシウム塩の混合物0.2gをHで活性化処理した後、CO及びHから成る原料ガス(H濃度:26vol%)と反応させることにより、4.185gの生成物を得ている。しかし、この方法で得られた繊維構造では、コーン形の側周面と繊維軸のなす角は22°程度と、繊維軸に対して大きく傾斜している。このため、単独の繊維の長軸方向の導電性については、前記の魚骨状炭素繊維と同様の問題がある。また、繊維成長が不充分でアスペクト比が小さいことから、ポリマーとのコンポジットにおいて導電性や補強性を付与することが困難である。更に、触媒重量に対する生成物重量が21と小さいため、製造法として効率的でないばかりでなく、不純物含量が多くなるために用途が制限される。
上記の如く様々な構造を有する微細な炭素繊維およびその製法が提案されているが、このような微細な炭素繊維の多くは、数μmから数十μmの大きさの触媒粒子を基点とする気相成長法で得られるため、複雑に絡み合った10μmから数mmの大きさの凝集体として生成する。微細な炭素繊維の凝集体とポリマーとの混合、複合において、凝集体の開繊が進まず、凝集体が複合物中に50μm以上の凝集体として残存するため、混練および成形装置の不具合(吐出部フィルター閉塞、熱収縮不均一による割れ等)の発生および成形品の導電性発現、表面外観、機械的物性が得られない等の問題点を抱えている。
このため、ポリマー分子量の最適化(特許文献3:特開2001−310994)、変性ポリマー、エラストマー、相溶化剤の配合(特許文献4:特開2007−231219、特許文献5:特開2004−230926、特許文献6:特開2007−169561、特許文献7:特開2004−231745)、カーボンナノチューブの表面改質処理(特許文献8:特開2004−323738)等の特別な組成物の配合及び混合、特殊な表面改質処理を必要とし、ポリマーの種類、組成等が制約される。
また、繊維状フィラーと粒状セラミックスと樹脂からなる組成物については多くの報告がある。例えば特開2008−195766(特許文献9)では、セラミックスを被覆した繊維状無機フィラー(カーボンナノチューブを含む)を樹脂に分散した組成物が開示されている。特開2005−171206(特許文献10)では、塩基性物質で処理された金属酸化物粉体と炭素繊維などの繊維状無機粉体と樹脂からなる組成物が開示されている。特開2006−298946(特許文献11)では、数平均5μm〜20μmの炭素繊維とカーボンブラックとゴムから成る組成物が開示されている。前記特許文献7では、ポリカーボネート樹脂とポリオレフィン樹脂と相溶化材と無機フィラー(カーボンナノチューブを含む)とタルクなどの無機フィラーの5成分からなる樹脂組成物が開示されている。特開2005−325341(特許文献12)では、気相成長炭素繊維と粒子径100μm以下の無機フィラーを含有する樹脂組成物が開示されている。
これらの文献では、樹脂組成物中のフィラーの種類や配合量にそれぞれ特徴を持たせ、それぞれ新たな機能を有する樹脂組成物を提案している。しかしながら、現実には繊維状フィラー、特にカーボンナノチューブをフィラーとする樹脂組成物においてはカーボンナノチューブの分散性が悪いために予想されるフィラーの添加効果が発現しないという問題がある。
特表平9−502487号公報 特開2006−103996号公報 特開2001−310994号公報 特開2007−231219号公報 特開2004−230926号公報 特開2007−169561号公報 特開2004−231745号公報 特開2004−323738号公報 特開2008−195766号公報 特開2005−171206号公報 特開2006−298946号公報 特開2005−325341号公報
Applied Physics A 2001(73)259−264(Ren Z. F. ら) Carbon 2003(41)2949−2959(Gadelle P. ら)
本発明は、微細な炭素繊維とポリマーとのコンポジット化における混練性、分散性の上記問題を改善することを目的とする。
本発明は、以下の事項に関する。
1. 無機物粉末とポリマーとを混合して複合物とする工程と、
前記複合物と、微細な炭素繊維の凝集体とを剪断力を加えて混練する工程を含むことを特徴とする、微細な炭素繊維が開繊、分散したポリマー組成物の製造方法。
2. 前記無機物粉末が、粒状の形状を呈し、その大きさが0.05μm以上、100μm以下であって、前記微細な炭素繊維の凝集体の大きさより小さく、ポリマー組成物総量に対する含有量が5質量%以上、40質量%以下であることを特徴とする上記1に記載のポリマー組成物の製造方法。
3. 前記微細な炭素繊維の凝集体が、
大きさが1μm以上、5000μm以下であり、
気相成長法により製造され、
該凝集体を構成する微細な炭素繊維のグラファイト網面が、閉じた頭頂部と、下部が開いた胴部とを有する釣鐘状構造単位を形成し、前記釣鐘状構造単位が、中心軸を共有して2〜30個層状に積み重なって集合体を形成し、前記集合体が、Head−to−Tail様式で間隔をもって連結して繊維を形成していること特徴とする上記1または2に記載のポリマー組成物の製造方法。
4. 前記微細な炭素繊維が繊維軸方向に対し15°より小さな角度で黒鉛AB面(黒鉛基底面)が配列したことを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載のポリマー組成物の製造方法。
5. 前記微細な炭素繊維の前記集合体胴部の端の外径Dが5〜40nm、内径dが3〜30nmであり、該集合体のアスペクト比(L/D)が2〜150であることを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載のポリマー組成物の製造方法。
6. 前記微細な炭素繊維の凝集体が、Fe、Co、Ni、Al、MgおよびSiからなる群より選ばれる元素を含む触媒を用いた気相成長法により製造され、前記微細な炭素繊維中の灰分が4質量%以下であることを特徴とする上記1〜5のいずれかに記載のポリマー組成物の製造方法。
7. 前記微細な炭素繊維の凝集体が、マグネシウムが置換固溶したコバルトのスピネル型酸化物を含む触媒上に、CO及びHを含む混合ガスを供給して反応させ、微細な炭素繊維を成長させることにより製造されることを特徴とする、上記1〜6のいずれかに記載のポリマー組成物の製造方法。
8. 前記スピネル型酸化物を、MgCo3−xで表したとき、マグネシウムの固溶範囲を示すxの値が、0.5〜1.5であることを特徴とする上記1〜7のいずれかに記載のポリマー組成物の製造方法。
9. ポリマー組成物総量に対して、前記微細な炭素繊維の凝集体を0.1質量%以上、40質量%以下の量で含有することを特徴とする上記1〜8のいずれかに記載のポリマー組成物の製造方法。
10. 前記無機物粉末が、硫酸バリウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、タルク及び酸化チタンからなる群より選ばれる無機物粉末であることを特徴とする上記1〜9のいずれかに記載のポリマー組成物の製造方法。
11. ポリマー組成物のポリマー成分が、熱可塑性樹脂、エラストマー及び液状ポリマーからなる群より選ばれるポリマーであることを特徴とする上記1〜10のいずれかに記載のポリマー組成物の製造方法。
12. ポリマー組成物のポリマー成分が、ポリアミドであることを特徴とする上記1〜11のいずれかに記載のポリマー組成物の製造方法。
13. 上記1〜12のいずれかに記載の製造方法により製造される、微細な炭素繊維が開繊、分散したポリマー組成物。
本発明によれば、微細な炭素繊維を特殊な表面処理及び特別な混練・混合手法や配合処方、例えばゴム成分、界面活性剤、相溶化剤等の添加を用いなくても、微細な炭素繊維とポリマーとのコンポジット化における混練性、分散性の問題を改善することができる。従って、コンポジットの加工性に優れ、またコンポジットの導電性、熱伝導性、摺動性、補強、難燃性等の機能発現に優れるポリマー組成物とその効率的な製造方法とが提供される。
(a)微細な炭素繊維を構成する最小構造単位(釣鐘状構造単位)を模式的に示す図である。(b)釣鐘状構造単位が、2〜30個積み重なった集合体を模式的に示す図である。 (a)集合体が間隔を隔てて連結し、繊維を構成する様子を模式的に示す図である。(b)集合体が間隔を隔てて連結する際に、屈曲して連結した様子を模式的に示す図である。 実施例1で製造した微細な炭素繊維のTEM写真像である。 微細な炭素繊維に横方向から無機物粉体の剪断力が加えられた時、中間点で剪断力が引っ張り応力に転換される説明図である。
本発明の微細な炭素繊維と無機物粉末を含むポリマー組成物は、予め無機物粉末をポリマー中へ混合、混練して複合化した後、該複合物と微細な炭素繊維の凝集体とを混練した際、無機物粉末が微細な炭素繊維凝集体に剪断力を作用させることにより得られる。
<微細な炭素繊維の構造>
本発明に用いられる微細な炭素繊維の凝集体を構成する微細な炭素繊維の一例を以下に示す。本発明に用いられる代表的な微細な炭素繊維の凝集体を構成する微細な炭素繊維は、図1(a)に示すような釣鐘状構造を最小構造単位として有する。釣鐘(temple bell)は、日本の寺院で見られ、比較的円筒形に近い胴部を有しており、円錐形に近いクリスマスベルとは形状が異なる。図1(a)に示すように、構造単位11は、釣鐘のように、頭頂部12と、開放端を備える胴部13とを有し、概ね中心軸の周囲に回転させた回転体形状となっている。構造単位11は、炭素原子のみからなるグラファイト網面により形成され、胴部開放端の円周状部分はグラファイト網面の開放端となる。なお、図1(a)において、中心軸および胴部13は、便宜上直線で示されているが、必ずしも直線ではなく、後述する図3のように曲線の場合もある。
胴部13は、開放端側に緩やかに広がっており、その結果、胴部13の母線は釣鐘状構造単位の中心軸に対してわずかに傾斜し、両者のなす角θは、15°より小さく、より好ましくは1°<θ<15°、更に好ましくは2°<θ<10°である。θが大きくなりすぎると、該構造単位から構成される微細な繊維が魚骨状炭素繊維様の構造を呈してしまい、繊維軸方向の導電性が損なわれてしまう。一方θが小さいと、円筒チューブ状に近い構造となり、構造単位の胴部を構成するグラファイト網面の開放端が繊維外周面に露出する頻度が低くなるため、隣接繊維間の導電性が悪化する。
微細な炭素繊維には、欠陥、不規則な乱れが存在するが、このような不規則性を排除して、全体としての形状を捉えると、胴部13が開放端側に緩やかに広がった釣鐘状構造を有していると言える。本発明の微細な炭素繊維は、すべての部分においてθが上記範囲を示すことを意味しているのではなく、欠陥部分や不規則な部分を排除しつつ、構造単位11を全体的に捉えたときに、総合的にθが上記範囲を満たしていることを意味している。そこで、θの測定では、胴部の太さが不規則に変化していることもある頭頂部12付近を除くことが好ましい。より具体的には、例えば、図1(b)に示すように釣鐘状構造単位集合体21(下記参照)の長さをLとすると、頭頂側から(1/4)L、(1/2)Lおよび(3/4)Lの3点においてθを測定してその平均を求め、その値を、構造単位11についての全体的なθとしてもよい。また、Lについては、直線で測定することが理想であるが、実際は胴部13が曲線であることも多いため、胴部13の曲線に沿って測定した方が実際の値に近い場合もある。
頭頂部の形状は、微細な炭素繊維として製造される場合、胴部と滑らかに連続し、上側(図において)に凸の曲面となっている。頭頂部の長さは、典型的には、釣鐘状構造単位集合体について説明するD(図1(b))以下程度であり、d(図1(b))以下程度であるときもある。
さらに、後述するように活性な窒素を原料として使用しないため、窒素等の他の原子は、釣鐘状構造単位のグラファイト網面中に含まれない。このため繊維の結晶性が良好である。
本発明の微細な炭素繊維においては、図1(b)に示すように、このような釣鐘状構造単位が中心軸を共有して2〜30個積み重なって釣鐘状構造単位集合体21を形成している。積層数は、好ましくは2〜25個であり、より好ましくは2〜15個である。
釣鐘状構造単位集合体21の胴部の外径Dは、5〜40nm、好ましくは5〜30nm、更に好ましくは5〜20nmである。Dが大きくなると形成される微細な繊維の径が太くなるため、ポリマーとのコンポジットにおいて導電性能等の機能を付与するためには、多くの添加量が必要となってしまう。一方、Dが小さくなると形成される微細な繊維の径が細くなって繊維同士の凝集が強くなり、例えばポリマーとのコンポジット調製において、分散させることが困難になる。胴部外径Dの測定は、集合体の頭頂側から、(1/4)L、(1/2)Lおよび(3/4)Lの3点で測定して平均することが好ましい。なお、図1(b)に胴部外径Dを便宜上示しているが、実際のDの値は、上記3点の平均値が好ましい。
また、集合体胴部の内径dは、3〜30nm、好ましくは3〜20nm、更に好ましくは3〜10nmである。胴部内径dの測定についても、釣鐘状構造単位集合体の頭頂側から、(1/4)L、(1/2)Lおよび(3/4)Lの3点で測定して平均することが好ましい。なお、図1(b)に胴部内径dを便宜上示しているが、実際のdの値は、上記3点の平均値が好ましい。
釣鐘状構造単位集合体21の長さLと胴部外径Dから算出されるアスペクト比(L/D)は、2〜150、好ましくは2〜50、更に好ましくは2〜20である。アスペクト比が大きいと、形成される繊維の構造が円筒チューブ状に近づき、1本の繊維における繊維軸方向の導電性は向上するが、構造単位胴部を構成するグラファイト網面の開放端が繊維外周面に露出する頻度が低くなるため、隣接繊維間の導電性が悪化する。一方、アスペクト比が小さいと構造単位胴部を構成するグラファイト網面の開放端が繊維外周面に露出する頻度が高くなるため、隣接繊維間の導電性は向上するが、繊維外周面が、繊維軸方向に短いグラファイト網面が多数連結して構成されるため、1本の繊維における繊維軸方向の導電性が損なわれる。
微細な炭素繊維は、図2(a)に示すように、前記集合体がさらにHead−to−Tailの様式で連結することにより形成される。Head−to−Tailの様式とは、微細な炭素繊維の構成において、隣り合った前記集合体どうしの接合部位が、一方の集合体の頭頂部(Head)と他方の集合体の下端部(Tail)の組合せで形成されていることを意味する。具体的な接合部分の形態は、第一の釣鐘状構造単位集合体21aの下端開口部において、最内層の釣鐘状構造単位の更に内側に、第二の釣鐘状構造単位集合体21bの最外層の釣鐘状構造単位の頭頂部が挿入され、さらに、第二の釣鐘状構造単位集合体21bの下端開口部に、第三の釣鐘状構造単位集合体21cの頭頂部が挿入され、これがさらに連続することによって繊維が構成される。
微細な炭素繊維の1本の微細繊維を形成する各々の接合部分は、構造的な規則性を有しておらず、例えば第一の釣鐘状構造単位集合体と第二の釣鐘状構造単位集合体の接合部分の繊維軸方向の長さは、第二の釣鐘状構造単位集合体と第三の釣鐘状構造単位集合体の接合部分の長さと必ずしも同じではない。また、図2(a)のように、接合される二つの釣鐘状構造単位集合体が中心軸を共有して直線状に連結することもあるが、図2(b)の釣鐘状構造単位集合体21bと21cのように、中心軸が共有されずに接合して、結果として接合部分において屈曲構造を生じることもある。前記釣鐘状構造単位集合体の長さLは繊維ごとにおおむね一定である。しかしながら、気相成長法では、原料及び副生のガス成分と触媒及び生成物の固体成分が混在するため、発熱的な炭素析出反応の実施においては、前記の気体及び固体からなる不均一な反応混合物の流動状態によって一時的に温度の高い局所が形成されるなど、反応器内に温度分布が生じ、その結果、長さLにある程度のばらつきが生じることもある。
微細な炭素繊維は、微細な炭素繊維のXRDにおいて、測定される002面のピーク半価幅W(単位:degree)は、2〜4の範囲である。Wが4を超えると、グラファイト結晶性が低く導電性も低い。一方、Wが2未満ではグラファイト結晶性は良いが、同時に繊維径が太くなり、樹脂等に導電性等の機能を付与するためには多くの添加量が必要となってしまう。
微細な炭素繊維のXRD測定によって求められるグラファイト面間隔d002は、0.350nm以下、好ましくは0.341〜0.348nmである。d002が0.350nmを超えるとグラファイト結晶性が低くなり、導電性が低下する。一方、0.341nm未満の繊維は、製造の際に収率が低い。
微細な炭素繊維に含有される灰分は、4重量%以下であり、通常の用途では、精製を必要としない。通常、0.3重量%以上1.5重量%以下であり、より好ましくは0.3重量%以上1重量%以下である。尚、灰分は、繊維を0.1グラム以上燃焼して残った酸化物の重量から決定される。
後述の気相成長法による生成直後は、上記特徴をもつ微細な炭素繊維が、数十μmから数mmの塊状に複雑に絡み合った凝集体を形成している。
本発明において、微細な炭素繊維の凝集体を用いるときは、特に限定されないが、1μm以上、5000μm以下のものを用いることが好ましく、5μm以上、3000μm以下のものを用いることがより好ましい。
上記特徴をもつ微細な炭素繊維は、PCT/JP2009/054210に記載があるように、応力により容易に短繊維化できる。本発明においても、微細な炭素繊維の凝集体に、後述するように無機物粉末を媒介して剪断力を加えると、上記構造単位集合体の接合部は互いに隣接する黒鉛基底面で接合しているため、繊維軸に平行な応力が加わることにより黒鉛基底面間で容易に滑りが生じ、構造単位集合体はお互いに引き抜けるように部分的に切断される。このとき、構造単位集合体がファンデルワールス力で接合した構造であるため、小さなエネルギーで接合部を分離することができ、得られた微細な炭素繊維は何ら損傷を受けることはない。従って、微細な炭素繊維を容易に開繊することができる。
剪断力が微細な炭素繊維に加わった状態を図4に示す。この場合、A、B、C点に加えられた力は、B’点を支点とする繊維軸方向に垂直な圧縮力と繊維軸方向に平行な張力として作用する。この張力が本発明の繊維の最も引っ張り強度の低い、言い換えれば、黒鉛AB面間(黒鉛基底面間)ですべりを起こし易い構造単位集合体の接合部で作用し、繊維はこの部分で分離切断される。
一方、通常のカーボンナノチューブといわれる欠陥のない微細な炭素繊維は、繊維のほぼ全体が炭素SP2結合で出来ているため、この結合を切断するには多大のエネルギーを要するのみならず、切断された繊維の外壁は大きな損傷を受ける。
前記構造単位集合体接合部の一部を切断した同部分のグラファイト網面は繊維外周面に露出し、グラファイト層端面はより活性な部位として存在する。この結果、1本の繊維における繊維軸方向の導電性を損なうことなく、前記π電子の飛び出しによるジャンピング効果(トンネル効果)によって隣接する繊維間の導電性は、切断前の微細な炭素繊維よりも一層向上し、ポリマーとの親和性も改善されることが期待される。
本発明において、部分的な短繊維化により得られる微細な炭素繊維は、釣鐘状構造単位集合体が数個から数十個程度、好ましくは、10個から50個程度連結した繊維長さである。この微細な炭素繊維1本のアスペクト比は5ないし200程度である。さらに好ましいアスペクト比は10ないし50である。剪断力を加えても、釣鐘状構造単位集合体の炭素SP2結合から成る繊維直胴部分では、繊維の切断が起こらず、また釣鐘状構造単位集合体よりも小さく切断されることはない。
<微細な炭素繊維の製造方法>
微細な炭素繊維の製造方法は、次のとおりである。微細な炭素繊維は、触媒を用いて、気相成長法により製造される。触媒としては、好ましくはFe、Co、Ni、Al、MgおよびSiからなる群より選ばれる元素を含む触媒が使用され、供給ガスは、好ましくはCO及びHを含む混合ガスである。最も好ましくは、コバルトのスピネル型結晶構造を有する酸化物に、マグネシウムが固溶置換した触媒を用いて、CO及びHを含む混合ガスを触媒粒子に供給して気相成長法により、微細な炭素繊維を製造する。以下、気相成長法による上記釣鐘状構造体を有する微細な炭素繊維の製造方法について一例として説明する。
コバルトのスピネル型結晶構造を有する酸化物に、マグネシウムが固溶置換した触媒を用いて、CO及びHを含む混合ガスを触媒粒子に供給して気相成長法により、微細な炭素繊維を製造する。
Mgが置換固溶したコバルトのスピネル型結晶構造は、MgCo3−xで表される。ここで、xは、MgによるCoの置換を示す数であり、形式的には0<x<3である。また、yはこの式全体が電荷的に中性になるように選ばれる数で、形式的には4以下の数を表す。即ち、コバルトのスピネル型酸化物Coでは、2価と3価のCoイオンが存在しており、ここで、2価および3価のコバルトイオンをそれぞれCoIIおよびCoIIIで表すと、スピネル型結晶構造を有するコバルト酸化物はCoIICoIII で表される。Mgは、CoIIとCoIIIのサイトの両方を置換して固溶する。MgがCoIIIを置換固溶すると、電荷的中性を保つためにyの値は4より小さくなる。但し、x、y共に、スピネル型結晶構造を維持できる範囲の値をとる。
触媒として使用できる好ましい範囲として、Mgの固溶範囲は、xの値が0.5〜1.5であり、より好ましくは0.7〜1.5である。xの値が0.5未満の固溶量では、触媒の活性は低く、生成する微細な炭素繊維の量は少ない。xの値が1.5を超える範囲では、スピネル型結晶構造を調製することが困難である。
触媒のスピネル型酸化物結晶構造は、XRD測定により確認することが可能であり、結晶格子定数a(立方晶系)は、0.811〜0.818nmの範囲であり、より好ましくは0.812〜0.818nmである。aが小さいとMgの固溶置換が充分でなく、触媒活性が低い。また、0.818nmを超える格子定数を有する前記スピネル型酸化物結晶は調製困難である。
このような触媒が好適である理由として、本発明者らは、コバルトのスピネル構造酸化物にマグネシウムが置換固溶した結果、あたかもマグネシウムのマトリックス中にコバルトが分散配置された結晶構造が形成されることにより、反応条件下においてコバルトの凝集が抑制されていると推定している。
また、触媒の粒子サイズは、適宜選ぶことができるが、例えばメジアン径として、0.1〜100μm、好ましくは、0.1〜10μmである。
触媒粒子は、一般に基板または触媒床等の適当な支持体に、散布するなどの方法により載せて使用する。基板または触媒床への触媒粒子の散布は、触媒粒子を直接散布して良いが、エタノール等の溶媒に懸濁させて散布し、乾燥させることにより所望の量を散布しても良い。
触媒粒子は、原料ガスと反応させる前に、活性化させることも好ましい。活性化は通常、HまたはCOを含むガス雰囲気下で加熱することにより行われる。これらの活性化操作は、必要に応じて、HeやNなどの不活性ガスで希釈することにより実施することができる。活性化を実施する温度は、好ましくは400〜600℃、より好ましくは450〜550℃である。
気相成長法の反応装置に特に制限はなく、固定床反応装置や流動床反応装置といった反応装置により実施することができる。
気相成長の炭素源となる原料ガスは、CO及びHを含む混合ガスが利用される。
ガスの添加濃度{H/(H+CO)}は、好ましくは0.1〜30vol%、より好ましくは2〜20vol%である。添加濃度が低すぎると円筒状のグラファイト質網面が繊維軸に平行したカーボンナノチューブ様の構造を形成してしまう。一方、30vol%を超えると釣鐘状構造体の炭素側周面の繊維軸に対する傾斜角が大きくなり、魚骨形状を呈するため繊維方向の導電性の低下を招く。
また、原料ガスは不活性ガスを含有していてもよい。不活性ガスとしては、CO、N、He、Ar等が挙げられる。不活性ガスの含有量は、反応速度を著しく低下させない程度が好ましく、例えば80vol%以下、好ましくは50vol%以下の量である。また、HおよびCOを含有する合成ガスまたは転炉排出ガス等の廃棄ガスを、必要により適宜処理して使用することもできる。
気相成長を実施する反応温度は、好ましくは400〜650℃、より好ましくは500〜600℃である。反応温度が低すぎると繊維の成長が進行しない。一方、反応温度が高すぎると収量が低下してしまう。反応時間は、特に限定されないが、例えば2時間以上であり、また12時間程度以下である。
気相成長を実施する反応圧力は、反応装置や操作の簡便化の観点から常圧で行うことが好ましいが、Boudouard平衡の炭素析出が進行する範囲であれば、加圧または減圧の条件で実施しても差し支えない。
この微細な炭素繊維の製造方法によれば、触媒単位重量あたりの微細な炭素繊維の生成量は、従来の製造方法に比べて格段に大きいことが示された。この微細な炭素繊維の製造方法による微細な炭素繊維の生成量は、触媒単位重量あたり40倍以上であり、例えば40〜200倍である。その結果、前述のような不純物、灰分の少ない微細な炭素繊維の製造が可能である。
この微細な炭素繊維の製造方法により製造される微細な炭素繊維に特有な接合部の形成過程は明らかではないが、発熱的なBoudouard平衡と原料ガスの流通による除熱とのバランスから、前記触媒から形成されたコバルト微粒子近傍の温度が上下に振幅するため、炭素析出が断続的に進行することにより形成されるものと考えられる。即ち、[1]釣鐘状構造体頭頂部形成、[2]釣鐘状構造体の胴部成長、[3]前記[1]、[2]過程の発熱による温度上昇のため成長停止、[4]流通ガスによる冷却、の4過程が触媒微粒子上で繰り返されることにより、微細な炭素繊維構造特有の接合部が形成されると推定される。
<無機物粉末>
本発明において使用される好適な無機物粉末は、混練により無機物粉末が微細な炭素繊維凝集体へ剪断力を与える粒状の形状が好ましく、微細な炭素繊維の凝集体より小さいことが好ましく、粒径は0.05μm以上、100μm以下が好ましい。粒径が0.05μm未満であると微細な炭素繊維凝集体の大きさに対し無機物粉末の粒子径が小さいため剪断力が弱く、凝集体の開繊が進まない。粒子径が100μmを越えるとポリマー組成物の成形品表面の光沢性、平滑性が悪化する。
本発明において使用される好適な粒状の無機物粉末は、金属、半金属、酸化物、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、フッ化物、窒化物、炭化物、ホウ化物、硫化物、および水素化物等の無機化合物が挙げられ、通常の各種機能性フィラーが利用できる。具体的には顔料(硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、酸化アルミニウム、マグネタイト、二酸化チタン、酸化亜鉛、二酸化錫、酸化ジルコニウム、コバルトブルー、チタンイエロー等)、導電性フィラー(銀、銅、ニッケル、Alドープ酸化亜鉛、ITO、ATO、ITO又はATO被覆二酸化チタン、窒化物、炭化物、ホウ化物)、磁性フィラー(フェライト、Sm/Co、Nd/Fe/B等)、熱伝導性フィラー(Ag、BN、AlN、Al)、耐熱性フィラー(粘土鉱物、タルク、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム等)、難燃性フィラー(ホウ酸亜鉛、赤燐、リン酸アンモニウム、水酸化マグネシウム等)、防音防振性フィラー(鉄粉、硫酸バリウム、フェライト等)、熱線輻射フィラー(ハイドロタルサイト、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等)、ゴム加硫剤(硫黄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム)がある。
<ポリマー成分>
本発明において、微細な炭素繊維と無機物粉末とが分散されるポリマー成分として、種々のポリマーを使用することができる。
好ましい樹脂は、通常分子量1万以上の成形可能な高分子化合物であり、熱可塑性樹脂、エラストマー、熱硬化性樹脂、光及び電子線硬化性樹脂、反応性樹脂等のいずれであってもよい。また、高分子化合物は、主鎖が炭素で構成されている有機系子高分子、またはケイ素、硫黄、リンなどの無機元素を含有する無機系高分子であってもよい。
好適な熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル・コポリマー樹脂、エチレン・ビニル・コポリマー樹脂、エチレン・アクリル酸エチル・コポリマー樹脂、アイオノマー等)、ポリアミド系樹脂(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン11等の脂肪族ポリアミドおよびその共重合体、ナイロン66/6T、ナイロン6T/6I、ナイロンMXD6等の芳香族ポリアミドおよびその共重合体等)、ポリビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル、スチレン、ABS樹脂等)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフトレート、ポリカーボネート、液晶ポリマー等)、ポリエーテル系樹脂(ポリオキシメチレン、ポリフェニレン・エーテル、芳香族ポリサルホン、ポリエーテル・ケトン類、ポリフェニレン・サルファイド、ポリエーテル・イミド等)、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド等)が挙げられ、これらの樹脂は単独または2種以上混合物であってもよい。
また、ポリマー成分として、ゴムエラストマー(オレフィン系、スチレン系、エステル系、アミド系、ウレタン系、ポリブタジエン系、ニトリル系、アクリル系、フッ素系、シリコーン系等)、および生物分解樹脂なども使用できる。また、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等が代表的である。
樹脂成分として、分子量が1万未満のオリゴマー、低分子量化合物のグリース、オイル等も使用可能であり、微細な炭素繊維の機能が損なわれずに組成物とすることができる。
<ポリマー組成物>
本発明のポリマー組成物は、上記の微細な炭素繊維と無機物粉末とポリマー成分とを含有するものであり、微細な炭素繊維の優れた開繊性と分散性のため、「従来の極細炭素繊維」に比べて広範囲で微細な炭素繊維の配合量を変化させることができる。
微細な炭素繊維の配合量は、目的の導電性が得られる範囲で、ポリマーの機械的特性の低下を招かない範囲で適宜変更することができる。一般的には、配合量は、組成物総質量に対して、0.1〜40質量%、より好ましくは0.25〜10質量%、より好ましくは0.5〜8質量%である。
ポリマー組成物に含まれる無機物粉末は、組成物総量に対し5質量%以上、40質量%以下であり、好ましくは10質量%以上、30質量%以下である。無機物粉末の含有量が、5質量%未満であると微細な炭素繊維凝集体を無機物粉末の剪断力で開繊するエネルギーが小さく、剪断効果が見られない。40質量%を越えると、ポリマー物性が低下する。
本発明においては、後述する方法により無機物粉末を介して剪断力を与えることにより数μmから数mmの微細な炭素繊維凝集体を、繊維切断を出来るだけ抑制しながら効率良く、開繊、分散、複合化させた導電性に優れるポリマー組成物が提供される。すなわち前述した微細な炭素繊維から成る凝集体とポリマーとの混練、複合においては、無機物粉末が微細な炭素繊維凝集体の間隙に侵入し、無機物粉末を媒介した剪断力が、微細な炭素繊維に効率良く与えられることにより凝集体を構成する微細な繊維が効率良く切断され、凝集体の開繊、分散、複合化が進む。更に開繊、分散された微細な炭素繊維は、無機物粉末により再凝集が抑えられると同時に無機物粉末表面を覆ってポリマー中に微細な炭素繊維の導電ネットワークが形成され、導電性に優れるポリマー組成物が得られる。
<ポリマー組成物の製造方法>
本発明のポリマー組成物は、(a)微細な炭素繊維の凝集体、(b)無機物粉末および(c)ポリマー成分を、公知の混合方法、混練方法、混練機によって製造することができるが、(b)無機物粉末および(c)ポリマー成分をあらかじめ混合した複合物とした後、(a)微細な炭素繊維の凝集体と混合すると微細な炭素繊維の開繊、分散性が高く好ましい。
例えば、まず、無機物粉末とポリマーを一緒にロールミル、溶融ブレンダー(バンバリーミキサー、ブラベンダー、コニーダー)、一軸または二軸押出混練機で処理し、溶融または軟化状態のポリマーに無機物粉末が分散された複合物を調製する。無機物粉末とポリマーを混合して複合物を調製する時間は、特に限定されないが、15秒〜45分が好ましく、30秒〜20分が特に好ましい。また、混合する際の温度は、特に限定されないが、室温〜300℃が好ましく、室温であれば操作しやすく便利である。
次いで、上記複合物に微細な炭素繊維の凝集体を加えて混練し、凝集体を開繊、分散、複合させることにより微細な炭素繊維が開繊、分散したポリマー組成物が製造できる。微細な炭素繊維の凝集体を加えてから混練する時間は、特に限定されないが、15秒〜45分が好ましく、30秒〜30分が特に好ましい。また、混練する際の温度は、特に限定されないが、室温〜300℃が好ましく、室温であれば操作しやすく便利である。
なお、無機物粉末及び微細な炭素繊維の凝集体の供給方法は、一括でもよく多段でも良い。
<ポリマー組成物の用途>
本発明によるポリマー組成物は、微細な炭素繊維の黒鉛構造を有する炭素に特有な高い熱伝導性や摺動性、さらには高い引っ張り強度と弾性率を生かして、導電化、導電化補助としての用途の他に、樹脂や無機材料と複合化することによる熱伝導材、摺動材、難燃化材(ドリップ防止材)および補強材のフィラーとして、あるいは研磨材として有用である。
以下に本発明の実施例を比較例とともに説明する。
<実施例1>
イオン交換水500mLに硝酸コバルト〔Co(NO・6HO:分子量291.03〕115g(0.40モル)、硝酸マグネシウム〔Mg(NO・6HO:分子量256.41〕102g(0.40モル)を溶解させ、原料溶液(1)を調製した。また、重炭酸アンモニウム〔(NH)HCO:分子量79.06〕粉末220g(2.78モル)をイオン交換水1100mLに溶解させ、原料溶液(2)を調製した。次に、反応温度40℃で原料溶液(1)と(2)を混合し、その後4時間攪拌混合した。生成した沈殿物のろ過、洗浄を行い、乾燥した。
これを焼成した後、乳鉢で粉砕し、43gの触媒を取得した。本触媒中のスピネル構造の結晶格子定数a(立方晶系)は0.8162nm、置換固溶によるスピネル構造中の金属元素の比はMg:Co=1.4:1.6であった。
石英製反応管(内径75mmφ、高さ650mm)を立てて設置し、その中央部に石英ウール製の支持体を設け、その上に触媒0.9gを散布した。He雰囲気中で炉内温度を550℃に加熱した後、CO、Hからなる混合ガス(容積比:CO/H=95.1/4.9)を原料ガスとして反応管の下部から1.28L/分の流量で7時間流し、微細な炭素繊維の凝集体を合成した。得られた微細な炭素繊維の凝集体をSEMで観察し、SEM写真を画像解析することにより、粒度分布を測定したところ、凝集体粒度が50μmから2000μm、平均粒度700μmであった。
収量は53.1gであり、灰分を測定したところ1.5質量%であった。生成物のXRD分析で観察されたピーク半価幅W(degree)は3.156、d002は0.3437nmであった。実施例1で得られた微細な炭素繊維のTEM像を図3に示す。TEM画像から、得られた微細な炭素繊維を構成する釣鐘状構造単位及びその集合体の寸法に関するパラメータは、D=12nm、d=7nm、L=114nm、L/D=9.5、θは0から7°であり、平均すると約3°であった。また、集合体を形成する釣鐘状構造単位の積層数は約10であった。尚、D、dおよびθについては、集合体の塔頂から(1/4)L、(1/2)Lおよび(3/4)Lの3点について測定した。
<実施例2>
酸化亜鉛粉末(堺化学工業(株)製酸化亜鉛2種(空気透過法による平均粒子径0.6μm)(総組成物に対し15質量%配合)と加硫剤を含む高ニトリル(NBR)生ゴム(竹原ゴム工業(株)製)とを、加圧ニーダー(井上製作所(株)製KPD−3)で室温10分間、混練、分散した後、実施例1の微細な炭素繊維凝集体(凝集体粒度が50μmから2000μm、平均粒度700μm)を適当量配合し、加圧ニーダーで室温20分間混練、分散し、組成物を作成した。得られた組成物を厚さ3mmにホットプレス加硫成形(180℃、15分)し、シートを作成した。シート表面のSEM観察から、1.0μm以上の微細な炭素繊維凝集体は観察されなかった。得られたシートの体積抵抗値(Ω・cm)(印加電圧10V)は、樹脂組成物の体積抵抗値は、低抵抗率計ロレスタGP(MCP−T610)および高抵抗率計ハイレスタUP(MCP−HT450)((株)ダイヤインスツルメンツ製)で測定した。測定結果を、配合組成とともに表1に示す。
<比較例1>
実施例2の酸化亜鉛粉末を配合せずに微細な炭素繊維凝集体を実施例2と同様に室温20分間混練し、シートを作成し、シート表面のSEM観察から微細な炭素繊維凝集体の開繊が全く進まず1000μm以上の凝集体が観察された。体積抵抗値の測定結果を表1に示す。
<比較例2>
予め微細な炭素繊維凝集体とNBR生ゴムと混練し、その後実施例2の酸化亜鉛粉末を配合し、実施例2と同様に混練、シート化した。シート表面のSEM観察から微細な炭素繊維凝集体の開繊の進行は見られたが100μm以上の凝集体が観察された。体積抵抗値の測定結果を表1に示す。
<実施例3>
沈降性硫酸バリウム(堺化学工業(株)製B−54(SEM観察から粒度0.3〜2.0μm、平均粒度1.2μm)(総組成物に対し30質量%配合)とシリコーンゴム(東レダウコーニング(株)製XE20)とを三本ロール(井上製作所(株)製ロールミルMR−6×12)で予め10分間混練、分散した後、実施例1の微細な炭素繊維凝集体(凝集体粒度が50μmから2000μm、平均粒度700μm)を適当量配合し、三本ロールで10分間混練、分散し、組成物を作成した。得られた組成物を厚さ3mmにホットプレス加硫成形し、シートを作成した。シート表面のSEM観察から微細な炭素繊維凝集体は見られなかった。体積抵抗値の測定結果を表2に示す。
<比較例3>
沈降性硫酸バリウムを配合せずに実施例3と同様にシリコーンゴムと、実施例1の微細な炭素繊維凝集体とを適当量配合し、三本ロールで室温10分間混練、分散し、加硫シートを作成した。シート表面のSEM観察から微細な炭素繊維凝集体30μm以上の凝集体が観察された。体積抵抗値の測定結果を表2に示す。
<実施例4>
アンチモンドープ二酸化錫を被覆した二酸化チタン粉末(三菱マテリアル電子化成(株)製白色導電粉W−1(TEM観察から0.15〜0.3μm、平均粒度0.2μm)(総組成物に対し10質量%を配合)とポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製ユーピロンS3000)とを適当量ヘンシェルミキサーで予備混合した後、混合物を二軸押出混練機により250℃で溶融混合し、溶融混合物をペレット化した。このペレットと実施例1の微細な炭素繊維凝集体(総組成物に対し1.5質量%)とを二軸押出混練機により250℃で溶融混合し、ペレット組成物を得、組成物を300℃で加熱溶融し、厚さ3mmの板状に射出成形を行った。成形板表面のSEM観察から微細な炭素繊維凝集体は開繊、分散され、凝集体は5μm未満となった。体積抵抗値(印加電圧10V)を測定した結果を表3に示す。導電性無機フィラーの白色導電粉を併用することにより微細な炭素繊維の凝集体が開繊し、印加電圧の依存性が少ない成形品得られることがわかった。
<比較例4>
実施例1の微細な炭素繊維の凝集体(総組成物に対し2.0質量%)とポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製ユーピロンS3000)とを実施例4と同様にヘンシェルミキサーで予備混合した後、混合物を二軸押出混練機により250℃で溶融混合し、溶融組成物をペレット化し、射出成形を行った。成形板表面のSEM観察から微細な炭素繊維凝集体の開繊の進行は見られたが80μm以上の凝集体が観察された。体積抵抗値を測定した結果を表3に示す。
本発明のポリマー組成物は、樹脂本来の物性を維持しながら、高い導電性を示す。従って、電気電子分野や自動車分野における電磁波遮蔽部材、帯電防止部品、静電塗装用部材として、さらには、半導体デバイスの製造、搬送工程におけるトレー、包装材、クリーンルーム用の建材、無塵衣、また、電子機器導電部材(ベルト、鞘、ロール、コネクター、ギヤ、チューブ等)、などの用途に有用である。
11 構造単位
12 頭頂部
13 胴部
21、21a、21b、21c 集合体

Claims (13)

  1. 無機物粉末とポリマーとを混合して複合物とする工程と、
    前記複合物と、微細な炭素繊維の凝集体とを剪断力を加えて混練する工程を含むことを特徴とする、微細な炭素繊維が開繊、分散したポリマー組成物の製造方法。
  2. 前記無機物粉末が、粒状の形状を呈し、その大きさが0.05μm以上、100μm以下であって、前記微細な炭素繊維の凝集体の大きさより小さく、ポリマー組成物総量に対する含有量が5質量%以上、40質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリマー組成物の製造方法。
  3. 前記微細な炭素繊維の凝集体が、
    大きさが1μm以上、5000μm以下であり、
    気相成長法により製造され、
    該凝集体を構成する微細な炭素繊維のグラファイト網面が、閉じた頭頂部と、下部が開いた胴部とを有する釣鐘状構造単位を形成し、前記釣鐘状構造単位が、中心軸を共有して2〜30個層状に積み重なって集合体を形成し、前記集合体が、Head−to−Tail様式で間隔をもって連結して繊維を形成していること特徴とする請求項1または2に記載のポリマー組成物の製造方法。
  4. 前記微細な炭素繊維が繊維軸方向に対し15°より小さな角度で黒鉛AB面(黒鉛基底面)が配列したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマー組成物の製造方法。
  5. 前記微細な炭素繊維の前記集合体胴部の端の外径Dが5〜40nm、内径dが3〜30nmであり、該集合体のアスペクト比(L/D)が2〜150であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリマー組成物の製造方法。
  6. 前記微細な炭素繊維の凝集体が、Fe、Co、Ni、Al、MgおよびSiからなる群より選ばれる元素を含む触媒を用いた気相成長法により製造され、前記微細な炭素繊維中の灰分が4質量%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリマー組成物の製造方法。
  7. 前記微細な炭素繊維の凝集体が、マグネシウムが置換固溶したコバルトのスピネル型酸化物を含む触媒上に、CO及びHを含む混合ガスを供給して反応させ、微細な炭素繊維を成長させることにより製造されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリマー組成物の製造方法。
  8. 前記スピネル型酸化物を、MgCo3−xで表したとき、マグネシウムの固溶範囲を示すxの値が、0.5〜1.5であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリマー組成物の製造方法。
  9. ポリマー組成物総量に対して、前記微細な炭素繊維の凝集体を0.1質量%以上、40質量%以下の量で含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリマー組成物の製造方法。
  10. 前記無機物粉末が、硫酸バリウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、タルク及び酸化チタンからなる群より選ばれる無機物粉末であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリマー組成物の製造方法。
  11. ポリマー組成物のポリマー成分が、熱可塑性樹脂、エラストマー及び液状ポリマーからなる群より選ばれるポリマーであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のポリマー組成物の製造方法。
  12. ポリマー組成物のポリマー成分が、ポリアミドであることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のポリマー組成物の製造方法。
  13. 請求項1〜12のいずれか1項に記載の製造方法により製造される、微細な炭素繊維が開繊、分散したポリマー組成物。
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