JP2011045909A - 微細結晶組織を有するAl−Si系合金、その製造方法、その製造装置及びその鋳物の製造方法 - Google Patents

微細結晶組織を有するAl−Si系合金、その製造方法、その製造装置及びその鋳物の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】初晶α−Alを晶出させることでミクロ結晶組織が微細化された微細結晶組織を有するAl−Si系合金、その製造方法、その製造装置及びその鋳物の製造方法を提供する。
【解決手段】超音波振動を発生させる超音波振動子8と、前記超音波振動子8に接続され前記超音波振動を所定方向に伝達する超音波ホーン7と、前記溶湯を貯留して前記超音波ホーン7に当接する処理容器2と、前記処理容器2を前記超音波ホーン7側に押圧して固定する処理容器固定手段3と、用いて過共晶Al−Si系合金溶湯の冷却過程の際に前記溶湯に超音波振動を付与することで初晶α−Alを晶出させてなる。
【選択図】図2

Description

本発明は、微細結晶組織を有するAl−Si系合金、その製造方法、その製造装置及びその鋳物の製造方法に関する。
超音波を液体に照射したとき、液体中への音響流や超音波キャビテーションの発生が広く知られている。金属液相プロセスへの超音波の適用も多数報告されており、中でも超音波による凝固組織の微細化は古くから知られている。また、金属結晶粒の微細化には、超音波キャビテーションなどの物理現象が密接に関係すると言われており、超音波振動を鋳造プロセスに適用することは公知となっている。
例えば、特許文献1には、20〜40%のSiを含有した過共晶Al合金の金型鋳造部材の製造方法が記載されており、当該製造方法は、素材の融液に超音波振動体を浸漬し、前記超音波振動体を通して超音波振動を付与することで、粗大な針状初晶Siの微細化を行い、高強度を有する金型鋳造部材を製造するものである。
また、特許文献2には、金属組織改質方法が記載されており、当該方法は、溶融金属の湯面から所定距離離したホーンにより鋳型内の溶融金属に超音波振動を付与することで、溶融金属中に微細な核を発生させると共に、初晶のデンドライトが破壊されて、微細な凝固組織となるものである。
また、特許文献3には、耐磨耗性アルミニウム合金及びその製造方法が記載されており、従来よりもSi含有量を減らすとともにPを添加し、さらにMn、Ni、Cr、Zrの含有量を適切に設定することにより、機械加工性と熱間加工性を向上している。
特開平7−278692号公報 特開2006−102807号公報 特開平7−90459号公報
しかし、特許文献1に記載された技術においては、初晶Siの微細化を行うのみであって、初晶α‐Alを微細化することは不可能であった。また、超音波振動体を溶湯に浸漬するため、溶湯付着による超音波振動体の劣化が起こる。
また、特許文献2に記載された技術においては、マクロ結晶粒は微細化できるが、ミクロ結晶粒の微細化はできない。
さらに、特許文献3に記載された技術においては、いわゆる、添加物等の化学的手法を適用することより初晶Siを微細化する方法であり、添加物として様々な成分をいれるため、リサイクル性の悪化、添加物調合時の作業・管理の手間の増加、鋳造時の偏析、加工時のチッピング、使用時の腐食、拡散などの問題が発生することが想定される。また、このような添加物添加では初晶Siの微細化を行うことはできるが、初晶α‐Alを微細化することは不可能であった。
つまり、従来からある超音波振動法による結晶の微細化技術においては、マクロ結晶粒の微細化にとどまるのみでありミクロ結晶組織の微細化が困難であった。具体的には、ミクロ結晶組織を微細化するためには、初晶α−Alを晶出させる技術が求められていた。
そこで、本発明は、上記従来の課題を鑑みてなされたものであり、初晶α−Alを晶出させることでミクロ結晶組織が微細化された微細結晶組織を有するAl−Si系合金、その製造方法、その製造装置及びその鋳物の製造方法を提供することを目的とする。
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
即ち、請求項1においては、Al−Si系合金溶湯の冷却過程の際に前記溶湯に圧力付与することにより初晶α−Alを晶出させてなるものである。
請求項2においては、前記圧力付与は、前記溶湯に超音波振動を付与することで前記溶湯内に発生する超音波キャビテーションを用いるものである。
請求項3においては、前記Al−Si系合金は過共晶であるものである。
請求項4においては、
Al−Si系合金を溶融してAl−Si系合金溶湯を得る溶融工程と、
前記溶湯の冷却過程の際に圧力を付与する圧力付与工程と、
前記溶湯を急冷する冷却工程と、
を有するものである。
請求項5においては、前記Al−Si系合金は過共晶であるものである。
請求項6においては、前記圧力付与工程は、前記溶湯に超音波振動を付与することで前記溶湯内に発生する超音波キャビテーションを用いて圧力を付与する工程であるものである。
請求項7においては、
Al−Si系合金溶湯の冷却過程の際に前記溶湯に超音波振動を付与することにより初晶α−Alを晶出させてなる微細結晶組織を有するAl−Si系合金を製造する製造装置であって、
前記超音波振動を発生させる超音波振動子と、
前記超音波振動子に接続され前記超音波振動を所定方向に伝達する超音波伝達手段と、
前記溶湯を貯留して前記超音波伝達手段に当接する処理容器と、
前記処理容器を前記超音波伝達手段側に押圧して固定する処理容器固定手段と、を備え、
前記処理容器を介して前記溶湯に前記超音波振動を付与するものである。
請求項8においては、
Al−Si系合金を溶融してAl−Si系合金溶湯を得る溶融工程と、
前記溶湯の冷却過程の際に圧力を付与する圧力付与工程と、
前記冷却過程の際に初晶α−Alが生成した溶湯を用いてAl−Si系合金鋳物の鋳造を行う鋳造工程と、
を有するものである。
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
請求項1においては、Al−Si系合金溶湯の冷却過程の際に前記溶湯に圧力付与することにより初晶α−Alを晶出させて微細結晶組織を得るので、Siの晶出範囲が著しく小さくなることで、Siが微細化し、機械的特性が向上したAl−Si系合金を得ることができる。
請求項2においては、前記溶湯に超音波キャビテーションを用いて圧力付与することにより初晶α−Alを晶出させて微細結晶組織を得るので、Siの晶出範囲が著しく小さくなることで、Siが微細化し、機械的特性が向上したAl−Si系合金を得ることができる。
請求項3においては、初晶α−Alを晶出させて微細結晶組織を得た場合に、Siの晶出範囲が著しく小さくなることで、Siが微細化し、機械的特性がより向上したAl−Si系合金を得ることができる。
請求項4においては、Al−Si系合金溶湯の冷却過程の際に前記溶湯に圧力付与することにより初晶α−Alを晶出させて微細結晶組織を得るので、Siの晶出範囲が著しく小さくなることで、Siが微細化し、機械的特性が向上したAl−Si系合金を得ることができる。
請求項5においては、初晶α−Alを晶出させて微細結晶組織を得た場合に、Siの晶出範囲が著しく小さくなることで、Siが微細化し、機械的特性が向上したAl−Si系合金を得ることができる。
請求項6においては、前記溶湯に超音波キャビテーションを用いて圧力付与することにより初晶α−Alを晶出させて微細結晶組織を得るので、Siの晶出範囲が著しく小さくなることで、Siが微細化し、機械的特性が向上したAl−Si系合金を得ることができる。
請求項7においては、溶湯に超音波伝達手段を浸漬することなく非接触で超音波振動を付与するので、超音波伝達手段を介した溶湯の汚染や溶湯付着による超音波伝達手段の劣化がなくなり、歩留まりや装置寿命を向上することができる。
請求項8においては、初晶α−Alを生成した状態で鍛造することで、高強度で、高靭性で耐磨耗性を有する鋳物を得ることができる。
本発明の一実施形態に係るAl−Si系合金溶湯に超音波振動を付与して凝固を行うための実験装置(超音波振動装置)の全体構成を示す側面図。 (a)(d)はAl−7mass%Si合金、(b)(e)はAl−12mass%Si合金、(c)(f)はAl−18mass%Si合金の各供試合金を用いたものであり、上段(a)(b)(c)は超音波無加振、下段(d)(e)(f)は共晶凝固終了まで超音波加振したソノ凝固試料断面のミクロ組織を示す写真。 各温度条件から急冷(水冷)して形成されたAl−18mass%Si合金のミクロ組織を示す写真であり、(a)は578℃から急冷して形成されたミクロ組織を示す写真、(b)は共晶温度に到達してから1s経過後に急冷して形成されたミクロ組織を示す写真、(c)は共晶温度に到達してから20s経過後に急冷して形成されたミクロ組織を示す写真。 超音波無加振で578℃から急冷(水冷)して形成されたAl−18mass%Si合金のミクロ組織を示す写真。 超音波加振せずに機械撹拌により得られたAl−18mass%Si合金の共晶を示す写真。 超音波加振しながら各温度条件から急冷(水冷)して形成された試料底部におけるAl−18mass%Si合金のミクロ組織を示す写真であり、(a)は582℃から急冷したミクロ組織を示す写真、(b)は578℃から急冷したミクロ組織を示す写真。 常圧下及び高圧下におけるAl−Si系平衡状態図。 α−Al相の断面におけるSi−Kαの強度プロファイルを示す図であり、(a)は超音波加振せずに凝固させたAl−7mass%Si合金の強度プロファイル、(b)は超音波加振しながら凝固させたAl−18mass%Si合金の強度プロファイル。 Si濃度に応じたα−Al粒のミクロ硬さ(ビッカース硬さ)の変化を示す図。 Al−Si合金の化学組成(mass%)を示す図。 AlおよびSiの各物理量を示す図。 図3(c)に示すミクロ組織を有するAl−18mass%Si合金の製造フローを示す図。
次に、発明の実施の形態を説明する。
先ず、本発明の実施形態に係る微細結晶組織を有するAl−Si系合金の製造方法を適用する実験装置について図1を用いて説明する。
なお、本実施形態においては、微細結晶組織を有するAl−Si系合金を実験的に製造する装置を用いて本発明の実施形態を説明するが、特にこの装置構成のみに限定するものでなく、本実施形態に係る実験装置の構成と同様となるように鋳造装置等を構成することで本発明と同様の作用効果を得ることが可能である。
実験装置10(以下、装置10という)は、冷却過程にある金属溶湯を超音波加振しながら凝固させるための装置である。装置10は、図1に示すように、超音波発生手段1、処理容器2、処理容器固定手段3、熱電対4、上下プレート5、6、図示しない溶湯水冷手段及び時間計測手段を具備する。
なお、冷却過程にある金属溶湯を超音波加振しながら凝固させることを、以下において「ソノ凝固」と呼ぶ。
超音波発生手段1は、超音波伝達手段である超音波ホーン7と、当該超音波ホーン7の下部に連接される超音波振動子8から構成される。
超音波ホーン7は、前記超音波振動子8により発生させた所定方向(本実施形態においては図1に示す矢印方向)の振動エネルギーを被伝達物に伝達する金属製(Ti−6Al−4V(mass%)合金製)の共鳴体であり、超音波ホーン7の上端面には前記被伝達物である処理容器2の底部を当接して載置することが可能であり、その外周面はホーン自身の空冷効果を高めるためにフィン形状に加工されている。また、超音波振動子8は、図示しない超音波発振器を介して高周波電源に接続されており、所定の振動条件の超音波振動を発生させることが可能である。
処理容器2は、コップ状の金属製るつぼ(上部内径40mm、底部内径30mm、有効深さ33mmのSUS304製容器)であり、所定量の溶湯(本実施形態においてはAl−Si系合金溶湯)を貯留可能である。また、前記所定量の溶湯とは、溶湯に対して超音波加振する際においては、溶湯の湯面と処理容器2上端面との間に適宜間隔を有するように処理容器2内に溶湯を満たし、処理容器2内が満杯とならない量の溶湯である。
処理容器固定手段3は、上下方向に伸縮可能であるロッド3aを有するエアシリンダであり、ロッド3aの先端にはロッド3aが下方(処理容器2側)に伸長して処理容器2の上端部を押えるための緩衝材3bを備える。処理容器固定手段3は、エアシリンダのロッド3aを下方に伸長し、緩衝材3bの下面を処理容器2の上端部に当接し、処理容器2の上端部を超音波ホーン7側に所定圧にて押圧することで処理容器2が動かないように固定することが可能である。
熱電対4は、溶湯温度計測手段であり、処理容器2内に貯留した溶湯内に浸漬して、溶湯内の所定位置における溶湯温度を測定することが可能である。熱電対4は、図示しない計測記録手段に接続されており、計測記録手段は計測された溶湯温度を連続してモニターしながら記録することが可能である。また、熱電対4にて計測される溶湯温度により溶湯の冷却過程において形成される結晶組織状態を把握することが可能となり、その結果、所望の結晶組織を有する素材を得ることができる。
上プレート5は、前記処理容器固定手段3であるエアシリンダを固定支持するための板状部材である。また、下プレート6は、前記超音波ホーン7と超音波振動子8とを固定支持するための板状部材である。また、上下プレート5、6は、所定間隔を保持した状態で配置されるとともに、超音波加振を行った際に、前記下プレート6の位置が超音波振動子8の共振の腹の部分となるように配置されている。
溶湯水冷手段は、溶湯を急冷(水冷)するための手段である。溶湯水冷手段は、溶湯に対して所定の条件(温度・時間)にて急冷を行うことが可能であり、当該条件を適宜決定することで溶湯を任意の結晶組織状態に凝固することができる。
時間計測手段は、溶湯を急冷する冷却工程に至るまでの時間を計測する手段である。時間計測手段は、結晶組織形成の信頼性(結晶組織の再現性)を向上するための時間管理の際に利用される。
このように装置10を構成することにより、処理容器2内に所定量の溶湯を注湯して前記超音波ホーン7の上端部に載置後、エアシリンダを駆動して緩衝材3bにて処理容器2の上端面を押えて固定し、図示しない超音波発振器により超音波振動子8を所定の振動条件にて振動させると、溶湯に超音波振動が非接触(溶湯と超音波ホーン7とが直接触れない状態)にて印加され、処理容器2内の溶湯中に超音波キャビテーション(気泡)と音響流を発生させることが可能である。すなわち、装置10は、超音波ホーン7の上端面に押しつけられた処理容器2の底面が超音波振動することで、処理容器2内に注湯した溶湯に超音波振動を伝播させることが可能である。こうして、装置10は、溶湯に超音波振動を非接触で印加することが可能となる。すなわち、溶湯に超音波ホーン7を直接浸漬することなく非接触で超音波振動を付与するので、超音波ホーン7を介した溶湯の汚染や溶湯付着による超音波ホーン7の劣化がなくなり、歩留まりや装置寿命を向上することができる。
また、装置10は、前記超音波キャビテーションを利用して溶湯に所定の圧力にて付与する圧力付与装置であり、溶湯中において局部加圧を高効率にて付与することが可能である。
なお、本実施形態においては、圧力付与手段として超音波振動により発生する超音波キャビテーションを用いたが、特に限定するものではなく、例えば、所定の加圧手段により溶湯全体を一体的に加圧する方式を適用することも可能である。
以下に、本発明の実施例として、上述した装置10を用いて行った微細結晶組織を有するAl−Si系合金を得るために行った実験について詳細に説明する。
(実験方法)
金属溶湯を超音波加振するため、本実施例で用いる装置10の概略を図1に示す。処理容器(るつぼ)2中の溶湯を超音波加振する際は、緩衝材3bとエアシリンダを用いて、処理容器2の底面を超音波ホーン7先端面に押しつけた。押しつけられた処理容器2の底面が超音波振動することで、処理容器2内に注湯した溶湯に超音波振動を伝播させた。超音波加振条件は、出力2000W、全振幅20μm、共振周波数20kHzとした。ただし、全振幅20μmはホーン先端の負荷がない状態における測定値である。供試合金として、過共晶組成のAl−18mass%Si合金を中心に、亜共晶のAl−7mass%Si合金、共晶に近いAl−12mass%Siおよび過共晶のAl−25mass%Si合金を用いた(以後、mass%を省略)。これら市販合金インゴットの化学組成を図10に示す。
過共晶のAl−18Si合金とAl−25Siは、各々730℃と830℃で溶解し、690℃と760℃で注湯した。また、亜共晶のAl−7Si合金とほぼ共晶のAl−12Si合金は730℃で溶解し、640℃で注湯した。全てのAl−Si合金溶湯に対して微細化剤は添加せず、脱ガス処理としてArをAlパイプの先端から0.9ksの間吹き出した。何れも約65gの溶湯を処理容器2に注湯し、注湯直後から超音波加振し始めた。溶湯が所定の温度に到達した時点で、ミクロ組織を保存するため処理容器2とともに水中に急冷した。K熱電対を用いて、冷却過程にある溶湯温度を連続的に計測・記録した。特に断らない限り、温度測定および組織観察は容器中心線上の底から8mmのほぼ試料中央位置で行った。ただし、一部のソノ凝固実験では、下部(底面から3mm)および上部(13mm)における測温と組織観察を併せて行った。
超音波振動によって溶湯中に生じる音響流の影響のみを検証するため、機械撹拌で溶湯内に回転流を作り、過共晶Al−Si合金の凝固過程におけるα−Alの晶出を観察した。そのための機械撹拌実験には、前述のソノ凝固用と同じSUS304製容器を用い、2枚プロペラ型撹拌子(図示せず)を23s−1(1400rpm)で回転させて撹拌流を発生させた。そして共晶凝固途中まで溶湯を機械撹拌した後、容器とともに水冷した。
通常凝固の亜共晶Al−Si合金に現れる初晶α−Al相と、ソノ凝固において過共晶Al−Si合金に晶出する非平衡α−Al相内のSi濃度を比較するためEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)による線分析を行った。試料準備にあたっては、冷却過程におけるSi濃度の変化を避けるため、共晶凝固完了直後に水中へ急冷し、その試料断面でEPMA分析を実施した。また、亜共晶および過共晶Al−Si合金中に晶出したα−Al相のミクロ硬さ(ビッカース硬さ)を測定した。ただし、硬さ測定用試料は急冷せず、室温まで空冷した。
次に、実験結果および考察を述べる。
<ソノ凝固によるミクロ組織の変化>
超音波振動の有無による、亜共晶Al−7Si、共晶Al−12Siそして過共晶Al−18Si合金の凝固組織の違いを図2に示す。ただし、上段は超音波無加振、下段は共晶凝固終了まで超音波加振したソノ凝固試料断面のミクロ組織である。図2に示す各ミクロ組織において、白い領域がα−Al相、灰色部分がSi相である。
超音波加振せずに凝固させた亜共晶組成の図2(a)では、デンドライド状の初晶α−Al相が成長しており、比較的大きな共晶Si粒が枝間に認められる。共晶組成の図2(b)は、試料の化学組成が僅かに亜共晶側であり、冷却速度も速いため、初晶α−Al相のデンドライトが成長している。図2(c)の過共晶組成の場合、大きく成長した初晶Si粒の周囲にα−Al領域が認められ、共晶Siも比較的大きく成長している。
一方、ソノ凝固させた図2(d)の亜共晶Al−7Si合金の組織は、デンドライド状であった初晶α−Al相が粒状に変化している。図2(e)の共晶Al−12Siと図2(f)の過共晶Al−18Siでは、白く見える多数の粒状α−Al相の晶出が特筆される。その結果、共晶組織領域が大幅に減少している。Al−12Siの場合、共晶Siとは異なる塊状Siの晶出も僅かに認められる。また、過共晶組成の場合、超音波無加振では粗大であった初晶Siがソノ凝固では顕著に微細化している。ソノ凝固の場合、何れのSi濃度でも板状であった共晶Siが微細粒状化している。
以上をまとめると、亜共晶Al−7Siをソノ凝固させた場合、初晶α−Al相がデンドライト状から粒状に形態を変え、共晶組織領域の減少が認められる。共晶組成では、平衡状態に比べて過剰なα−Al相の粒状晶出とともに共晶とは形態の異なる塊状Si粒が現れる。さらに過共晶組成では、初晶Si粒の微細化に加えて、特徴的な非平衡α−Al相の晶出が観察される。ソノ凝固では、初晶が微細化するだけでなく、共晶凝固も影響されると考えられる。
以降、主に過共晶Al−18Si合金を用いて、ソノ凝固における非平衡α−Al相の晶出過程について説明する。
<非平衡粒状α−Al相の晶出>
ソノ凝固において、本来過共晶Al−18Si合金には晶出しない非平衡α−Al相が認められたことから、先ず非平衡α−Al相の晶出時期を特定するための実験を行った。超音波加振しながら、異なる固相率まで凝固を進行させた時点で水中に急冷した。代表例として、ソノ凝固急冷試料中央部(底面から8mm)のミクロ組織を、凝固の進行順に図3に示す。共晶温度直上から急冷した図3(a)の場合、微細化した初晶Si粒に加えて、初晶Si粒の界面から成長するα−Al相が認められる。比較のため、超音波処理なしの過共晶Al−18Si合金溶湯を共晶温度直上(578℃)から急冷した。その中央部ミクロ組織を図4に示す。α−Al相は初晶Si粒の界面に認められ、一部はデントライト状に成長している。急冷前の共晶温度直上では、初晶Siの周囲に液相が存在していたと考えられる。すなわち、ソノ凝固させた図3(a)からは、共晶温度直上における非平衡α−Al相の晶出の有無は明確ではない。
図3(b)は共晶温度に到達してから1s経過後に急冷し、図3(c)は共晶温度に到達して20s経過後に急冷した組織である(図12に示すフロー参照)。ただし、本実施例におけるソノ凝固の場合、Al−18Si合金溶湯の共晶凝固時間は約45sであった。図3(b)には、微細化された初晶Si粒だけでなく、粒状のα−Al相が明瞭に認められ、非平衡α−Al粒は急冷前から存在していたと考えられる。図3(c)になると、粒状α−Al相およびSi粒の数がさらに増加している。過共晶Al−18Si合金溶湯をソノ凝固させた場合、試料中央部では、共晶温度に到達すると直ちに非平衡α−Al粒の晶出が認められ、共晶の進行とともに急速にその数を増している。
<機械撹拌における粒状α−Al相の晶出>
本来過共晶Al−Si合金には晶出しない非平衡α−Al粒が、共晶凝固の進行とともにその数を増加している。しかしながら、ソノ凝固試料中央部の組織観察からは、共晶温度に到達する前から非平衡α−Al相が晶出したか否かは明確ではなかった。類似の凝固現象として、共晶組成付近のAl−Si合金溶湯を機械撹拌しながら凝固させるとき、塊状Si粒がα−Al相から独立して存在する分離共晶組織が報告されている。これは共晶凝固過程において、Si/α−Alの共存する凝固界面から撹拌流によって共晶Siが強制的に剥がされる結果、α−Al相とSi粒が分離して存在すると説明されている。
そこで、音響流による撹拌効果を明確にするために、超音波キャビテーションの発生が少ないと考えられる機械撹拌実験を行った。図1と同じ実験装置を使って、Al−18Si合金溶湯を超音波加振せずに、共晶途中までプロペラによって機械撹拌しながら凝固させた。得られた代表的なミクロ組織を図5に示す。機械撹拌によって、微細化した初晶SiおよびSi/α−Alが共存する共晶領域に加え、α−Al粒の晶出が認められる。Al−18Si合金の共晶凝固過程で機械撹拌を加えることにより、Si相とα−Al相を一部分離して晶出させることが可能である。ソノ凝固に置き換えた場合、音響流の効果によって、過共晶Al−Si合金の共晶凝固過程、すなわち、共晶温度(577℃)においてα−Al相が分離して晶出する可能性がある。
<共晶温度以上における粒状α−Al相の晶出>
ソノ凝固過程で、共晶温度直上から急冷した試料底部のミクロ組織は、図3(a)に示した中央部とは異なり、非平衡α−Al粒の晶出が明確に認められた。例えば、共晶温度以上の582℃および578℃から急冷した、ソノ凝固試料底部のミクロ組織を図6に示す。(b)の578℃からの急冷組織だけではなく、共晶温度より5℃高い(a)の582℃から急冷した場合にも、冷却過程で溶湯から晶出したとみられる細かいデンドライト状α−Al相とは別に、微細化した初晶Si粒とともに粒状α−Al相の晶出が認められる。この試料底部の粒状α−Al相は、粒径が30μm程度であることから、急冷直前の液相中にすでに存在していたと考えられる。
試料中心線上で、底部から3mm、8mm、13mmの位置において、ソノ凝固過程の溶湯温度を連続的に記録した。超音波加振なしの場合、上部、下部、中央部の共晶温度に到達しており、上部と中央部の時間差は約5sであった。しかしながら、ソノ凝固過程の冷却曲線は、音響流の撹拌効果によって上、中、下の位置で共晶温度到達時間にほとんど差がなかった。すなわち、ソノ凝固過程では、共晶温度到達時間の位置による差がないことから、容器底部では共晶温度に到達する前に、共晶組成に近い液相中に、初晶Si粒だけでなく粒状のα−Al相が晶出していたと考えられる。図6(a)と図6(b)の比較から、冷却が進むにつれて非平衡α−Al相は粒状に成長し,その数も増している。ただし、ソノ凝固においても、上、中、下の位置で共晶凝固終了までの時間には差を生じた。共晶が進み固相率が高くなるにしたがって、撹拌されにくくなるため、中央部の共晶終了が遅れると思われる。以上のように、試料底面付近では、共晶温度到達前に非平衡α−Al相が晶出しており、この実験結果は音響流による共晶温度での分離共晶では説明できない。
<ソノ凝固におけるキャビテーションの役割>
超音波キャビテーションの効果を調べるため、図1の超音波振動系(装置10)を用い、内径25mm、深さ50mmの透明ガラス容器(肉厚1mm、図示せず)内に純水を入れて加振実験を行った。その結果、振動端面に接しているガラス容器底面およびその付近に、激しい超音波キャビテーション気泡の発生が観察された。キャビテーションは、振動端に近く、有効な核発生サイトを与える容器底面で集中的に発生すると考えられる。キャビテーション気泡の界面は凝固核の発生サイトになり得ることに加え、キャビテーション気泡の崩壊時に、1GPa以上の高圧を発生することが知られている。ここで、圧力上昇に伴う融点の変化(dT/dP)は、Clausius−Clapeyronの式(1)から見積もることができる。
dT/dP=T(Vliq−Vsol)/ΔH ・・・・・(1)
ただし、Tは融点、VliqとVsolはそれぞれ液体と固体のモル体積であり[(Vliq−Vsol)/Vsol=ΔV]、ΔHはモル溶融潜熱である。また、AlおよびSiの各物理量を図11の表にまとめて示す。Alの固体は液体よりも密度が大きく、Siは逆であるため、AlおよびSiの融点の圧力依存性は、Alに対して62℃/GPa、Siに対して−41℃/GPaと計算される。すなわち、Al溶湯は高圧下で融点が上昇するため、常圧下では液体であっても、高圧では固体として存在することになる。
高圧下におけるAl−Si系平衡状態図が報告されており、その一例を図7に示す。容器底面付近のキャビテーション気泡が集中する領域では、溶湯中に1GPa以上の局所高圧場が発生すると考えられることから、図7では、高圧として2.8GPaにおける状態図を常圧下の平衡状態図と重ね合わせて示した。2.8GPaの高圧下では、α−Al固溶体の液相線温度が上昇し、共晶点のSi濃度も高くなることが読み取れる。常圧下では、Al−18Si合金溶湯から初晶Siが晶出する温度域において、温度低下とともに溶湯中のSi濃度が18mass%から12.6mass%に近づいていく。本実施例のソノ凝固の場合でも、試料下部の領域で局所高圧場が発生することから、共晶温度(577℃)以上でも、非平衡相であるα−Al粒が晶出できると考えられる。共晶温度到達前は、処理容器2底面付近で晶出した非平衡α−Al粒が音響流によって試料中心に運ばれ、消滅する可能性がある。そのため、共晶到達前の温度から急冷した試料の中央部分(図3(a))では、α−Al粒が明瞭には観察されなかった。しかしながら、共晶温度まで温度が低下することで、晶出した非平衡α−Al粒は再溶融しないで存在できるようになる。
つまり、超音波キャビテーション気泡が集中する領域では、溶湯中に1GPa以上の局所高圧場が発生し、その結果として、共晶点移動によるミクロ組織の微細化のコントロールが可能となる。
<非平衡α−Al相のSi濃度と硬さ特性>
過共晶Al−18Si合金を高圧下で凝固させた場合、非平衡α−Al相への固溶Si濃度が常圧下の値より上昇することが、図7の高圧下における状態図から予想される。すなわち、超音波キャビテーションによる局部高圧場は、非平衡α−Al相を晶出させ、α−Al相中のSi濃度を高くすると考えられる。このキャビテーション効果を確かめるため、ソノ凝固させたAl−18Si合金におけるα−Al相中のSi濃度をEPMA線分析によって測定した。比較のため、超音波加振なしで凝固させた、Al−7Si合金の初晶α−Al相中のSi濃度も同一条件で測定した。その結果を図8に示す。(a)のAl−7Si合金の場合、初晶α−Al相中のSi濃度は中央部で最小となっている。初晶α−Al相が成長するとき、高温で晶出したα−Alの周囲を、低温で晶出する高Si濃度のα−Alが取り囲むことが、図7の常圧下における状態図から理解される。図8(b)のソノ凝固Al−18Si合金に晶出したα−Al相中のSi濃度は、図8(a)の初晶α−Al相中の値よりも中央部が高くなっている。図7に示した2.8GPaの平衡状態図のように、高圧下ではα−Al相の固相線が右上に移動し、α−Al相中のSi固溶限が上昇する。本実施例のソノ凝固過程で晶出する非平衡α−Al相は、超音波キャビテーション気泡の崩壊時に発生する、局部高圧場で晶出したと考えられるため、高圧下の状態図のように高いSi濃度になったと考えられる。ただし、高Si濃度域は中心付近の結晶核に限定されており、α−Al相の成長とともにSi濃度がほぼ均一になったものと思われる。
ソノ凝固特有の非平衡α−Al相は、亜共晶組成で晶出する初晶α−Alに比べてSi濃度が高いことから、機械的性質の向上が期待できる。ソノ凝固させた過共晶Al−Si合金に現れる非平衡α−Al相、通常のAl−7Si合金の初晶α−Al相のビッカース硬さを測定した。その結果を図9に示す。過共晶Al−Si合金において非平衡相として晶出したα−Al粒は、亜共晶組成における初晶α−Al相よりも硬くなっている。すなわち、ソノ凝固させた過共晶Al−Si合金は、非平衡α−Al相による靭性を備え、微小初晶Si粒を含む新たな耐磨耗材料として用途開発が期待できる。
上述したように、過共晶組成のAl−18mass%Si合金を中心に、超音波加振しながら凝固させるソノ凝固実験を行い、以下の結論を得た。
(1)過共晶Al−Si合金をソノ凝固させることによって、初晶Siが微細化するだけでなく、粒状の非平衡α−Al相が多数晶出する。粒状α−Al相が晶出することから、Si/α−Alからなる共晶領域は著しく減少する。
(2)ソノ凝固させる容器底面近傍では、著しいキャビテーションの発生が認められた。キャビテーション気泡の崩壊によって発生する局部高圧場は、α−Al相の液相線温度を上昇させ、α−Al相中のSi固溶限を高くする。この局所高圧場の発生によって、共晶温度(577℃)以上でも非平衡α−Al相を晶出することが可能である。
(3)高圧下の状態図から予想されるように、ソノ凝固によって晶出した非平衡α−Al相中のSi濃度は、通常凝固させた亜共晶Al−Si合金の初晶α−Al相の値よりも高くなる。以上のように、過共晶Al−Si合金のソノ凝固の場合、共晶温度以上で、高いSi濃度の非平衡α−Al相を晶出することから、超音波キャビテーション気泡の崩壊による局部高圧場が、支配的な役割を果たしていると考えられる。
以上の実験結果に基づいて、過共晶Al−Si系合金(12%Si以上)であるAl−18Si合金を溶融し、溶湯を凝固させる際の冷却過程で前述した装置10を用いて振動条件(周波数:20kHz、全振幅:20μm)にて局部加圧を行ってソノ凝固させ、共晶温度以上で急冷することにより粒状α−Alを晶出させSi/α−Alからなる共晶領域を著しく減少させた微細結晶組織(図3(b)(c))を生成することが可能となる。
また、上述したように、ソノ凝固特有の非平衡α−Al相は、通常凝固させた亜共晶Al−Si合金の初晶α−Al相の値よりも高くなる亜共晶組成で晶出する初晶α−Alに比べてSi濃度が高い、すなわち、耐磨耗性を向上させるSi成分が多いことから、晶出のさせかたを制御することで凝固形成されるAl−Si系合金の機械特性を向上し、耐磨耗性を制御するだけでなく靭性を制御して合金を鋳造することが可能である。
前記実験にて説明したように、本実施形態に係る微細結晶組織を有するAl−Si系合金を製造する方法は、Al−Si系合金を溶融してAl−Si系合金溶湯を得る溶融工程と、前記溶湯の冷却過程の際に圧力を付与する圧力付与工程と、前記溶湯を急冷する冷却工程と、を有するものである。これにより、Al−Si系合金溶湯の冷却過程の際に前記溶湯に圧力付与することにより初晶α−Alを晶出させて微細結晶組織を得るので、Siの晶出範囲が著しく小さくなることで、Siが微細化し、機械的特性が向上したAl−Si系合金を得ることができる。
<初晶α−Alが生成した溶湯を用いた鋳造>
前記実施例にて説明した微細結晶組織を有するAl−Si系合金の製造方法は、鋳造や鍛造に適用することが可能である。以下、具体的な適用例について説明する。
先ず、前述したように、Al−Si系合金溶湯のソノ凝固過程において溶湯中に生成(晶出)する非平衡α−Al粒を利用して鋳造を行う鋳造方法を説明する。
前述したようにAl−18Si合金溶湯(730℃)を用いて所定の振動条件にてソノ凝固を行うことで、図3(a)(b)(c)に示すミクロ組織を得ることが可能であるが、鋳造の際に、前述した方法と同様にして、このようなミクロ組織を有した鋳物(鋳造品)を製造することも可能である。
本実施形態に係る微細結晶組織を有するAl−Si系合金鋳物の製造方法における主なフローは、Al−Si系合金を溶融してAl−Si系合金溶湯を得る溶融工程と、前記溶湯の冷却過程の際に圧力を付与する圧力付与工程と、前記冷却過程の際に初晶α−Alが生成した溶湯を用いてAl−Si系合金鋳物の鋳造を行う鋳造工程と、とからなる。
また、前記フローにおける溶融工程、前記圧力付与工程の各工程は、前述した微細結晶組織を有するAl−Si系合金の製造方法における各工程と同様である。
なお、溶融工程と圧力付与工程との間に、溶湯の脱ガスや不純物除去(ノロ取り)を行う溶湯清浄化工程を導入することも可能である。
まず、前記Al−Si系合金鋳物の製造方法を適用する装置としては、前述した装置10もしくは装置10と同等の構成を有する超音波振動装置と、遠心鋳造あるいは金型鋳造など目的に応じた鋳造装置もしくは鍛造装置(鋳造・鍛造プロセス)と、を具備すればよい。
なお、超音波振動装置と鋳造装置とを一体的に構成することで、上記鋳物の製造を連続的に行う構成とすることも可能である。
また、前記鋳造工程は、所定の鋳型にソノ凝固過程を経た溶湯を注湯して当該鋳型を所定の冷却条件(例えば、鋳型を急冷(水冷)する条件)により冷却するものであり、この鋳造工程における鋳造方式としては、金型鋳造や遠心鋳造等がある。すなわち、鋳造工程では、超音波振動装置によりソノ凝固過程を経た溶湯(初晶α−Alの核が生成した状態の溶湯)が鋳型に注湯され鋳造が実行される。
以下に、適用例をフローで示す。各フローは前述した各工程(溶融工程→溶湯清浄化工程→圧力付与工程→鋳造工程)に主に対応するものであり、説明は省略する。
<適用例1:微細Siの表面晶出方法>
730℃でAl−18mass%Si溶解→溶湯清浄化(脱ガス、ノロ取り)→超音波加振(20kHz、20μm)→578℃到達後遠心鋳造。
<適用例2:高強度鋳物製造方法>
730℃でAl−18mass%Si溶解→溶湯清浄化(脱ガス、ノロ取り)→超音波加振(20kHz、20μm)→578℃到達後金型鋳造。
適用例1を適用した場合、図3(a)に示すように晶出した初晶Siが鋳物の中心側(内側)に移動することになる。その結果、内部に摺動面を有する部材、例えば、シリンダブロックなどの摺動面を有する部材等において所望の部位に耐磨耗性を付与することができる。また、適用例2を適用した場合、図3(a)に示すように晶出した初晶Siの存在により鋳物の高強度組織化が可能である。
<適用例3:傾斜Si層析出耐磨耗材製造>
730℃でAl−18mass%Si溶解→溶湯清浄化(脱ガス、ノロ取り)→超音波加振(20kHz、20μm)→577℃到達後遠心鋳造。
<適用例4:チクソモールディング>
730℃でAl−18mass%Si溶解→溶湯清浄化(脱ガス、ノロ取り)→超音波加振(20kHz、20μm)→577℃到達後金型鋳造。
適用例3を適用した場合、図3(b)に示すように晶出した初晶Siが鋳物の中心側(内側)に移動するとともに共晶Siが適用例1と比べてさらに鋳物の中心側(内側)に移動することになる。その結果、内部に摺動面を有する部材、例えば、シリンダブロックなどの摺動面を有する部材等において所望の部位に適用例1に示したものよりもさらに耐磨耗性を付与することができる。また、適用例4を適用した場合、チクソ効果を有したチクソモールディング材を得ることができる。
<適用例5:高強度Al鍛造品の製造>
730℃でAl−18mass%Si溶解→溶湯清浄化(脱ガス、ノロ取り)→超音波加振(20kHz、20μm)→577℃到達後20秒待機→鍛造。
<適用例6:セミソリッド用ビレット製造>
730℃でAl−18mass%Si溶解→溶湯清浄化(脱ガス、ノロ取り)→超音波加振(20kHz、20μm)→577℃到達後20秒待機→急冷。
適用例5を適用した場合、図3(c)に示すようなミクロ組織を有する鍛造品となる。その結果、鍛造品の高強度化が可能となる。また、適用例6を適用した場合、セミソリッド用ビレットを再溶融してセミソリッド鋳造を行って、高強度の鋳造品を得ることができる。
上述した適用例にて示したように、初晶Si等が晶出している結晶を有効利用することで、より一層機械特性を向上した鋳造品や鍛造品を提供することが可能となる。
本発明では、冷却過程にある金属溶湯を超音波加振しながら凝固させると(ソノ凝固させると)、ミクロ組織が微細になり、機械的性質の向上が期待できる。結晶粒の微細化は凝固核数の増加とほぼ同義であることから、溶湯の撹拌、すなわち、超音波音響流が鋳型壁面からの結晶核の遊離を促進し、結晶核数の増加に有利である。
また、上述したように、亜共晶あるいは過共晶組成のAl−Si合金溶湯をソノ凝固させた場合、初晶のα−Al相あるいはSi粒の微細化が観察された。さらに過共晶Al−Si合金溶湯をソノ凝固させたミクロ組織には、微細化された初晶Si粒に加えて、平衡状態図からは予想できない非平衡α−Al相の晶出が観察された。
このように、亜共晶もしくは過共晶組成のAl−Si合金溶湯をソノ凝固させれば、どちらにおいてもSi粒の微細化が確認され形成される合金が機械特性、とりわけ耐磨耗性が良好となる。また、溶湯として用いるインゴットとしては、亜共晶よりも過共晶組成のAl−Si合金の方がSi濃度の点で耐磨耗性を得る上ではより好ましい。
本発明では、非平衡α−Al相の晶出には、超音波キャビテーション気泡の発生と崩壊が重要な役割を果たすと仮定し、ソノ凝固途中から水中への急冷実験などを行って、その晶出機構を見出し、この晶出機構を利用して機械特性の優れた合金を製造することが可能であることを見出した。
なお、本実施形態に示した微細結晶組織を得るための製造方法はAl−Si合金への適用に限定するものではなく、その他の合金として例えばAl−Mg系、Mg−Zn系等の2元系や3元系組成の合金に対しても本発明に係る製造方法を適用して微細結晶組織を得ることも可能である。
本発明では、過共晶Al−Si系(12%Si以上)合金溶湯により耐磨耗性を向上した材料を製造することが可能となる。例えば、メッキ、表面被覆等を軽減できる部材を鋳造や鍛造により得ることができる。
本発明では、溶湯に圧力をかける装置の一例として超音波振動装置を用いたことにより、溶湯内において超音波加振による溶湯局部圧力増大が起こり、共晶点移動(共晶温度上昇、Si元素飽和温度上昇)の作用を得る。その結果、容易に初晶α−Alを得ることが可能となり凝固組織を任意の状態に制御することができる。
本発明では、溶湯を直ちに急冷して凝固する冷却工程により任意に晶出した初晶α−AlやSi粒の結晶を固化することを特徴とする。その結果、耐磨耗性を有するとともに高靭性(粒状微細化)を両立する結晶組織を得ることができる。
1 超音波発生手段
2 処理容器(るつぼ)
3 処理容器固定手段
7 超音波ホーン
8 超音波振動子
10 実験装置

Claims (8)

  1. Al−Si系合金溶湯の冷却過程の際に前記溶湯に圧力付与することにより初晶α−Alを晶出させてなることを特徴とする微細結晶組織を有するAl−Si系合金。
  2. 前記圧力付与は、前記溶湯に超音波振動を付与することで前記溶湯内に発生する超音波キャビテーションを用いることを特徴とする請求項1に記載の微細結晶組織を有するAl−Si系合金。
  3. 前記Al−Si系合金は過共晶であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の微細結晶組織を有するAl−Si系合金。
  4. Al−Si系合金を溶融してAl−Si系合金溶湯を得る溶融工程と、
    前記溶湯の冷却過程の際に圧力を付与する圧力付与工程と、
    前記溶湯を急冷する冷却工程と、
    を有することを特徴とする微細結晶組織を有するAl−Si系合金の製造方法。
  5. 前記Al−Si系合金は過共晶であることを特徴とする請求項4に記載の微細結晶組織を有するAl−Si系合金の製造方法。
  6. 前記圧力付与工程は、前記溶湯に超音波振動を付与することで前記溶湯内に発生する超音波キャビテーションを用いて圧力を付与する工程であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の微細結晶組織を有するAl−Si系合金の製造方法。
  7. Al−Si系合金溶湯の冷却過程の際に前記溶湯に超音波振動を付与することにより初晶α−Alを晶出させてなる微細結晶組織を有するAl−Si系合金を製造する製造装置であって、
    前記超音波振動を発生させる超音波振動子と、
    前記超音波振動子に接続され前記超音波振動を所定方向に伝達する超音波伝達手段と、
    前記溶湯を貯留して前記超音波伝達手段に当接する処理容器と、
    前記処理容器を前記超音波伝達手段側に押圧して固定する処理容器固定手段と、を備え、
    前記処理容器を介して前記溶湯に前記超音波振動を付与することを特徴とする微細結晶組織を有するAl−Si系合金の製造装置。
  8. Al−Si系合金を溶融してAl−Si系合金溶湯を得る溶融工程と、
    前記溶湯の冷却過程の際に圧力を付与する圧力付与工程と、
    前記冷却過程の際に初晶α−Alが生成した溶湯を用いてAl−Si系合金鋳物の鋳造を行う鋳造工程と、
    を有することを特徴とする微細結晶組織を有するAl−Si系合金鋳物の製造方法。
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