JP2013215756A - Al−Si系鋳造合金の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】Al−Si系鋳造合金の表面にアルマイト処理をするに好適なAl−Si系鋳造合金の製造方法を提供する。
【解決手段】Al−Si系鋳造合金の溶湯の冷却過程の際に、溶湯に超音波振動を付与する工程、を少なくとも含むAl−Si系鋳造合金の製造方法である。溶湯に初晶Siが晶出し始める時期から溶湯が共晶温度に到達するまでの第1の期間に、溶湯に超音波振動を付与することにより初晶Siを微細化し、溶湯が共晶温度に到達してから、共晶温度が保持され、溶湯が完全に凝固するまでの第2の期間内に、さらに溶湯に超音波振動を付与することにより、微細化された初晶Siを溶湯の上部に偏析させ、α−Alを溶湯の底部に偏析させる。
【選択図】図2
【解決手段】Al−Si系鋳造合金の溶湯の冷却過程の際に、溶湯に超音波振動を付与する工程、を少なくとも含むAl−Si系鋳造合金の製造方法である。溶湯に初晶Siが晶出し始める時期から溶湯が共晶温度に到達するまでの第1の期間に、溶湯に超音波振動を付与することにより初晶Siを微細化し、溶湯が共晶温度に到達してから、共晶温度が保持され、溶湯が完全に凝固するまでの第2の期間内に、さらに溶湯に超音波振動を付与することにより、微細化された初晶Siを溶湯の上部に偏析させ、α−Alを溶湯の底部に偏析させる。
【選択図】図2
Description
本発明は、Al−Si系鋳造合金の製造方法に係り、特に溶湯を冷却させる際に超音波振動を利用したAl−Si系鋳造合金の製造方法に関する。
従来から、超音波を液体に照射したとき、液体中への音響流や超音波キャビテーションの発生が広く知られている。金属液相プロセスへの超音波の適用も多数報告されており、中でも超音波による凝固組織の微細化は古くから知られている。このような凝固組織の微細化は、金属を溶融した溶湯に超音波振動した際に、溶湯内に発生するキャビテーションなどの物理現象が密接に関係すると言われおり、超音波振動をアルミニウム合金の鋳造プロセスに適用することは公知となっている。
例えば、特許文献1には、20〜40%のSiを含有したAl−Si合金の鋳造方法において、溶湯を700℃〜800℃に加熱した状態で、この溶湯に超音波振動を付与し、その後冷却させることで、粗大針状初晶Siを微細化粒子にする技術が提案されている。
また、特許文献2には、過共晶のAl−Si系合金の冷却過程において、溶湯の注湯後から、超音波振動を付与することで、初晶Siを微細化させると共に、初晶α−Alを晶出させる技術が提案されている。さらに、この技術では、さらに、溶湯の凝固の過程において、共晶温度直上から急冷して、初晶Si粒の界面からα−Al相を成長させている。
上述した特許文献1および2の技術によれば、溶湯を冷却する際に、溶湯に超音波振動を付与することにより、超音波振動を付与しないものに比べて、初晶Siをより多く晶出させることができる。晶出した初晶Siは、微細化された初晶Siであり、この初晶Siが溶湯内において均一に分散する。このような結果、鋳造されたAl−Si系鋳造合金の耐摩耗性を向上させることができる。
このように、Al−Si系鋳造合金は、超音波振動を付与しないものに比べて、その表面mにも初晶Siがより多く晶出することになる。しかしながら、得られたAl−Si系合金に対して、耐摩耗および凝着防止を目的として、さらに陽極酸化処理(アルマイト処理)を行った場合、Siが従来よりも多く晶出しているため、この初晶Siによりアルマイトの生成が阻害され易く、アルマイト層の一部に欠陥が生成されてしまうことがある。
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、溶湯の冷却段階で、超音波振動を付与することで、たとえ初晶Siが増加したとしても、得られたAl−Si系鋳造合金にアルマイト処理をしたアルマイト層に、欠陥の生成がされ難いAl−Si系鋳造合金の製造方法を提供することにある。
上記課題を鑑みて、本発明に係るAl−Si系鋳造合金の製造方法は、Al−Si系合金を溶融してAl−Si系合金からなる溶湯を得る溶融工程と、前記溶湯の冷却過程の際に、前記溶湯に超音波振動を付与する工程と、を少なくとも含むAl−Si系鋳造合金の製造方法であって、前記超音波振動を付与する工程は、前記溶湯に初晶Siが晶出し始める時期から前記溶湯が共晶温度に到達するまでの期間のうち前記溶湯に初晶Siが晶出し始める時期を、少なくとも含む第1の期間に、前記溶湯に超音波振動を付与することにより前記初晶Siを微細化する工程と、前記溶湯が共晶温度に到達してから、該共晶温度が保持され、前記溶湯が完全に凝固するまでの第2の期間内に、前記溶湯に超音波振動を付与することにより、微細化された初晶Siを前記溶湯の上部に偏析させ、α−Alを前記溶湯の底部に偏析させる工程からなることを特徴とする。
本発明によれば、溶湯に初晶Siが晶出し始める時期から前記溶湯が共晶温度に到達するまでの期間のうち、前記溶湯に初晶Siが晶出し始める時期を少なくとも含む第1の期間に、溶湯に超音波振動を付与する。第1の期間で超音波振動を溶湯に付与することにより、溶湯内にキャビテーション気泡は発生する。このキャビテーション気泡が、初晶Siの異質生成時の核となると考えられる。
この結果、超音波振動を付与しないものに比べて、初晶Siをより多く晶出させることができる。晶出した初晶Siは、超音波振動を付与しないものに比べて、微細化された初晶Siであり、この初晶Siが溶湯内において均一に分散する。なお、本発明でいう「初晶Siを微細化する」とは、超音波振動を溶湯に付与しない場合に比べて、晶出する初晶Siが微細化することをいう。
次に、溶湯が共晶温度に到達してから、共晶温度が保持され、溶湯が完全に凝固するまでの第2の期間内に、前記溶湯に超音波振動を付与する。第2の期間において、超音波振動を継続して溶湯に付与することにより、第1の期間と同様に溶湯内にキャビテーション気泡は発生する。このとき、溶湯よりも比重の大きい初晶Siは、キャビテーション気泡の崩壊時の放射圧と、比重差とが起因して、溶湯の上方に押し上げられる。
一方、第2の期間では、凝固時における潜熱により、共晶温度が保持されており、さらに、超音波照射時に発生するキャビテーションが高圧場を発生するので、共晶点が高い濃度側に移動する。これにより、溶湯内には、非平衡のα−Al(相)の晶出量が増加する。晶出したα−Al(SiとAlの共晶中のAl)は、溶湯よりも比重が重い。さらに、溶湯内の固相率が増加し、これにより、キャビテーション気泡の崩壊時の放射圧が遠方まで伝播しない。このような現象を利用して、第2の期間では、微細化された初晶Siを前記溶湯の上部に偏析させ、α−Alを前記溶湯の底部に偏析させる。
このような結果、微細化された初晶Siが溶湯の上部に偏析したAl−Si系鋳造合金の上部は、局所的に微細な初晶Siを従来のもの以上に多く含むため、Al−Si系鋳造合金の上部の機械的強度を高め、耐摩耗性を向上させることができる。
一方、α−Alが記溶湯の底部に偏析したAl−Si系鋳造合金の底部には、初晶Siがほとんどないので、陽極酸化処理(アルマイト処理)を行った場合、この初晶Siによるアルマイトの生成が阻害を抑制され、アルマイト層の形成性を高めることができる。
なお、第2の期間内における前記溶湯に付与する超音波振動は、微細化された初晶Siを前記溶湯の上部に偏析させ、α−Alを前記溶湯の底部に偏析させることができるのであれば、この第2の期間内において、継続的に(第2の期間のすべての期間に)行う必要はなく、断続的(第2の期間の一部の期間)に行ってもよい。
また、ここで、第1の期間の超音波振動の付与の開始タイミングは、溶湯に初晶Siが晶出し始める時期であり、第1の期間の超音波振動の付与終了タイミングは、溶湯に超音波振動を付与することにより初晶Siを微細化することができるのであれば、溶湯が共晶温度に到達するまでのいずれかのタイミングで終了すればよい。
しかしながらより好ましい態様としては、初晶Siを微細化する工程において、前記第1の期間は、前記溶湯に初晶Siが晶出し始める時期から前記溶湯が共晶温度に到達するまでのすべての期間である。この態様によれば、このような期間において、溶湯に超音波振動を継続して付与するので、さらに多くの微細化された初晶Siを晶出させることができる。さらに、第1と第2の期間において、連続して溶湯に超音波振動を付与することができる。
また、前記超音波振動を付与する工程において、第1の期間で初晶Siを微細化し、第2の期間で、微細化された初晶Siを前記溶湯の上部に偏析させ、α−Alを前記溶湯の底部に偏析させることができるであれば、超音波振動を付与する位置は、特に限定されるものではない。
しかしながら、より好ましい態様としては、前記超音波振動を付与する工程において、前記超音波の付与を前記溶湯の下方から行う。この態様によれば、第2の期間において、初晶Siを、キャビテーション気泡の崩壊時の放射圧で、溶湯の上方に押し上げられ易くなる。この結果、より好適に、微細化された初晶Siを前記溶湯の上部に偏析させ、α−Alを前記溶湯の底部に偏析させることができる。
さらに、好ましい態様としては、前記溶湯が凝固した前記底部の表面に、アルマイト処理を行なう。α−Alが偏析したAl−Si系鋳造合金の底部には、初晶Siがほとんどないので、この初晶Siによるアルマイトの生成が阻害を抑制され、この底部において、欠陥のほとんどないアルマイト層を形成することができる。このようなアルマイト層により、耐摩耗および凝着防止に優れたAl−Si系鋳造合金を得ることができる。
本発明によれば、溶湯の冷却段階で、超音波振動を付与することで、たとえ初晶Siが増加したとしても、得られたAl−Si系鋳造合金にアルマイト処理をしたアルマイト層に、欠陥の生成がされ難いAl−Si系鋳造合金を得ることができる。
次に、発明の実施の形態を説明する。本発明の一実施形態に係るAl−Si系合金溶湯に超音波振動を付与して凝固を行うための鋳造装置の全体構成を示す側面図である。なお、本実施形態においては、微細結晶組織を有するAl−Si系合金を実験的に製造する鋳造装置を用いて本発明の実施形態を説明するが、特にこの装置構成のみに限定するものでなく、本実施形態に係る実験装置の構成と同様となるように鋳造装置等を構成することで本発明と同様の作用効果を得ることが可能である。
鋳造装置10(以下、装置10という)は、冷却過程にある金属溶湯を超音波加振しながら凝固させるための装置である。装置10は、図1に示すように、超音波発生部1、処理容器2、処理容器固定部3、熱電対4、上下プレート5、6、図示しない溶湯温度調整部を備えている。
超音波発生部1は、超音波伝達部である超音波ホーン7と、当該超音波ホーン7の底部に連接される超音波振動子8から構成される。超音波ホーン7は、超音波振動子8により発生させた所定方向(本実施形態においては図1に示す矢印方向)の振動エネルギーを被伝達物に伝達する金属製(Ti−6Al−4V(mass%)合金製)の共鳴体である。
超音波ホーン7の上端面は、被伝達物である処理容器2の底部を当接して載置することが可能な形状であり、その外周面はホーン自身の空冷効果を高めるためにフィン形状に加工されている。また、超音波振動子8は、図示しない超音波発振器を介して高周波電源に接続されており、所定の振動条件の超音波振動を発生させることが可能である。ここでは、超音波振動の周波数帯は、17kH〜25kHにあることが好ましい。
処理容器2は、コップ状の金属製るつぼ(上部内径40mm、底部内径30mm、有効深さ33mmのSUS304製容器)であり、本実施形態ではAl−Si系合金溶湯が貯留される。
処理容器固定部3は、上下方向に伸縮可能であるロッド3aを有するエアシリンダであり、ロッド3aの先端にはロッド3aが下方(処理容器2側)に伸長して処理容器2の上端部を押えるための緩衝材3bを備える。処理容器固定部3は、エアシリンダのロッド3aを下方に伸長し、緩衝材3bの下面を処理容器2の上端部に当接し、処理容器2の上端部を超音波ホーン7側に所定圧にて押圧することで処理容器2が動かないように固定することが可能である。
熱電対4は、溶湯温度を計測する手段であり、処理容器2内に貯留した溶湯内に浸漬して、溶湯内の所定位置における溶湯温度を測定することが可能である。熱電対4は、図示しない計測記録部に接続されており、計測記録部は計測された溶湯温度を連続してモニターしながら記録することが可能である。また、熱電対4にて計測される溶湯温度により溶湯の冷却過程において形成される結晶組織状態を把握することが可能となり、その結果、所望の結晶組織を有する素材を得ることができる。
上プレート5は、処理容器固定部3であるエアシリンダを固定支持するための板状部材である。また、下プレート6は、前記超音波ホーン7と超音波振動子8とを固定支持するための板状部材である。また、上下プレート5、6は、所定間隔を保持した状態で配置されるとともに、超音波加振を行った際に、前記下プレート6の位置が超音波振動子8の共振の腹の部分となるように配置されている。
溶湯温度調整部は、溶湯を加熱または冷却をすることにより、溶湯を溶湯温度するための手段である。溶湯温度調整部は、溶湯に対して所定の条件(温度・時間)にて温度調整を行うことが可能であり、例えば、溶湯が冷却工程において共晶温度に到達したときに、溶湯を共晶温度に保持することが可能なように調節することができる。しかしながら、溶湯が共晶温度に到達したときは、凝固時における潜熱により、共晶温度は保持されるため、後述する第2の期間において、微細化された初晶Siを溶湯の上部に偏析させ、α−Alを溶湯の底部に偏析させることができるのであれば、特に溶湯温度調整部は用いなくてもよい。
以下に本実施形態に係るAl−Si系鋳造合金の製造方法を説明する。本実施形態では、Siが12質量%以上含有した過共晶Al−Si系合金を素材として用いる。まず、Al−Si系合金の素材を溶融してAl−Si系合金からなる溶湯を得る(溶融工程)。
次に、溶湯の冷却過程の際に、溶湯に超音波振動を付与する。具体的には、上述した装置10を用いて、溶湯に超音波振動を付与する。まず、処理容器2内に所定量の溶湯を注湯して超音波ホーン7の上端部に載置する。載置後、エアシリンダを駆動して緩衝材3bにて処理容器2の上端面を押えて固定する。
この状態で、図示しない超音波発振器により、後述する第1および第2の期間において、超音波振動子8を所定の振動条件にて振動させると、溶湯に超音波振動が非接触(溶湯と超音波ホーン7とが直接触れない状態)で付与(印加)され、処理容器2内の溶湯中に超音波キャビテーション(気泡)と音響流を発生させることが可能である。
すなわち、装置10は、超音波ホーン7の上端面に押しつけられた処理容器2の底面が超音波振動することで、処理容器2内に注湯した溶湯に下方から超音波振動を伝播させることが可能である。こうして、装置10は、溶湯に超音波振動を非接触で印加することが可能となる。
図2は、溶湯に超音波振動を付与する工程を説明するための図であり、図3は、溶湯に超音波振動を付与する工程におけるAl−Si系鋳造合金の組織の状態を説明するための模式図であり、(a)は、第1の期間におけるAl−Si系鋳造合金の組織の状態を示した模式図であり、(b)は、第2の期間におけるAl−Si系鋳造合金の組織の状態を示した模式図であり、(c)は、本実施形態の比較として、溶湯の冷却過程の際に、溶湯に超音波振動を付与しない場合のAl−Si系鋳造合金の組織の状態を示した模式図である。
本実施形態では、図2に示すように、溶湯に初晶Siが晶出し始める時期から溶湯が共晶温度に到達するまでの期間のうち、少なくとも溶湯に初晶Siが晶出し始める時期を含む第1の期間に、溶湯に超音波振動を付与し、初晶Siを微細化する。
なお、溶湯に初晶Siが晶出し始める時期は、溶湯が液相線温度に到達した時期をいう。ここで、第1の期間の好ましい終了タイミングは、初晶Siの微細化を考慮すると、少なくとも液相線温度から−5℃以下の温度になるまでの期間である。
第1の期間において、超音波振動を溶湯に付与することにより、溶湯内にキャビテーション気泡は発生する。このキャビテーション気泡が、初晶Siの異質生成時の核となると考えられる。この結果、超音波振動を付与しないものに比べて、初晶Siをより多く晶出させることができる。晶出した初晶Siは、超音波振動を付与しないものに比べて、微細化された初晶Siであり、図3(a)に示すように、微細化された初晶Siを溶湯内において均一に分散させることができる。
次に、図2に示すように、溶湯が共晶温度に到達してから、共晶温度が保持され、溶湯が完全に凝固するまでの第2の期間内に、溶湯に、超音波振動を付与する。第2の期間内において、超音波振動を溶湯に付与することにより、溶湯内にキャビテーション気泡は発生する。このとき、溶湯よりも比重の大きい初晶Siは、キャビテーション気泡の崩壊時の放射圧と、比重差とが起因して、溶湯の上方に押し上げられる。
一方、第2の期間では、凝固時における潜熱により、共晶温度が保持されており、さらに、超音波照射時に発生するキャビテーションが高圧場を発生するので、共晶点が高い濃度側に移動する。これにより、溶湯内には、非平衡の(すなわち状態図では発生することのない)α−Al(相)の晶出量が増加する。晶出したα−Al(SiとAlの共晶中のAl)は、溶湯よりも比重が重い。さらに、溶湯内の固相率の増加が増加し、これにより、キャビテーション気泡の崩壊時の放射圧が遠方まで伝播しない。
このような現象を利用して、第2の期間では、図3(b)に示すように、微細化された初晶Siと、非平衡状態のα−Alとを分離して、微細化された初晶Siを前記溶湯の上部に偏析させ、α−Alを前記溶湯の底部に偏析させる。
したがって、このような偏析の現象が発現されることを前提として、本実施形態では、第2の期間内における溶湯への超音波振動の付与は、継続的に(第2の期間すべてにおいて)または断続的に(第2の期間の一部の期間において)行うことができる。
なお、第1の期間を、溶湯に初晶Siが晶出し始める時期から前記溶湯が共晶温度に到達するまですべて期間とし、この期間において溶湯に超音波振動を継続して付与すれば、さらに多くの微細化された初晶Siを晶出させることができ、第1の期間および第2の期間の間、溶湯に継続して超音波振動を付与することができる。
従来の如く超音波振動を付与せずにAl−Si系鋳造合金を製造した場合には、図3(c)に示すように、粗大初晶Siが、溶湯の上部に偏析し、この状態で溶湯が凝固する。しかしながら、本実施形態のAl−Si系鋳造合金の製造方法によれば、微細化された初晶Siが溶湯の上部に偏析したAl−Si系鋳造合金の上部は、局所的に微細な初晶Siを従来のもの以上に多く含むため、Al−Si系鋳造合金の上部の機械的強度を高め、耐摩耗性を向上させることができる。
一方、α−Alが記溶湯の底部に偏析したAl−Si系鋳造合金の底部には、初晶Siがほとんどないので、陽極酸化処理(アルマイト処理)を行った場合、この初晶Siによるアルマイトの生成が阻害を抑制され、アルマイト層の形成性を高めることができる。
以下に本実施形態を実施例により説明する。
〔実施例1〕
実施例1では、Al−Si系鋳造合金を製造した。まず、Al−17%Si合金(過共晶のAl−Si合金)の素材を準備し(液相線温度645℃、共晶温度577℃、溶融温度710℃)を準備し、黒鉛るつぼ内に投入し、これを溶融炉内に投入した。大気雰囲気下で、溶融炉内の温度を810℃にし、溶融温度に到達後1時間、脱ガスとして、高純度Arガス、0.75MPa、1.0L/minの条件で供給し、10分間静置した。
〔実施例1〕
実施例1では、Al−Si系鋳造合金を製造した。まず、Al−17%Si合金(過共晶のAl−Si合金)の素材を準備し(液相線温度645℃、共晶温度577℃、溶融温度710℃)を準備し、黒鉛るつぼ内に投入し、これを溶融炉内に投入した。大気雰囲気下で、溶融炉内の温度を810℃にし、溶融温度に到達後1時間、脱ガスとして、高純度Arガス、0.75MPa、1.0L/minの条件で供給し、10分間静置した。
離型材として、BN(ボロンナイトライド)が塗布された、底面直径45mm、開口部直径58mmの処理容器(SUS製カップ)内に、溶湯深さ54mmになるまで注入した(鋳込み重量170g)。なお、補強のために、処理容器の底部に底板として1mmの厚さのSUSプレートをスポット溶接した。
次に、図1に示す装置を用いて、溶湯に超音波振動を付与した(超音波を付与した)。具体的には、図4に示すように、冷却段階における第1の期間として、溶湯に初晶Siが晶出し始める時期(溶湯温度が液相線温度(645℃)に到達した時期)から溶湯が共晶温度に到達するまでの期間(60秒間)、第2の期間として、溶湯が共晶温度に到達してから、凝固による潜熱により共晶温度が保持され、溶湯が完全に凝固するまでの期間(190秒間)まで、溶湯に継続して超音波振動を付与した。
すなわち、溶湯が液相線温度(645℃)に到達したときから溶湯が完全に凝固するまでの間、継続して250秒間、溶湯に超音波を照射した。その後、放冷することにより、Al−Si系鋳造合金を得た。なお、このときの処理容器の押し付け力を6.5Nとし、ホーンは強制冷却し、さらに超音波振動の周波数を20kHとした。
〔実施例2〕
実施例1と同じようにAl−Si系鋳造合金を製造した。実施例1と相違する点は、図4に示すように、超音波振動を溶湯に付与する第1の期間を、溶湯に初晶Siが晶出し始める時期(溶湯温度が液相線温度(645℃)に到達した時期)から15秒間とし、一旦、超音波振動の付与を休止した点である。すなわち、実施例2では、固相および液相が共存する領域になった時点で、超音波振動を溶湯に付与し、一旦休止後、溶湯が共晶温度に到達してから溶湯が完全凝固するまで超音波振動を溶湯に付与したことになる。
実施例1と同じようにAl−Si系鋳造合金を製造した。実施例1と相違する点は、図4に示すように、超音波振動を溶湯に付与する第1の期間を、溶湯に初晶Siが晶出し始める時期(溶湯温度が液相線温度(645℃)に到達した時期)から15秒間とし、一旦、超音波振動の付与を休止した点である。すなわち、実施例2では、固相および液相が共存する領域になった時点で、超音波振動を溶湯に付与し、一旦休止後、溶湯が共晶温度に到達してから溶湯が完全凝固するまで超音波振動を溶湯に付与したことになる。
〔比較例1〕
実施例1と同じようにAl−Si系鋳造合金を製造した。実施例1と相違する点は、冷却段階において、超音波振動を溶湯に付与していない点である。
実施例1と同じようにAl−Si系鋳造合金を製造した。実施例1と相違する点は、冷却段階において、超音波振動を溶湯に付与していない点である。
〔比較例2〕
実施例1と同じようにAl−Si系鋳造合金を製造した。実施例1と相違する点は、図4に示すように、冷却段階における第1の期間として、溶湯に初晶Siが晶出し始める時期(溶湯温度が液相線温度(645℃)に到達した時期)から溶湯が共晶温度に到達するまでの期間(60秒間)のみ、溶湯に継続して超音波振動を付与した点である。
実施例1と同じようにAl−Si系鋳造合金を製造した。実施例1と相違する点は、図4に示すように、冷却段階における第1の期間として、溶湯に初晶Siが晶出し始める時期(溶湯温度が液相線温度(645℃)に到達した時期)から溶湯が共晶温度に到達するまでの期間(60秒間)のみ、溶湯に継続して超音波振動を付与した点である。
すなわち、比較例2では、固相および液相が共存する領域になった時点で、溶湯が共晶温度に到達してから溶湯が完全凝固するまでの第2の期間は、超音波振動を溶湯に付与していないことになる。
〔比較例3〕
実施例1と同じようにAl−Si系鋳造合金を製造した。実施例1と相違する点は、冷却段階における第2の期間として、第2の期間として、溶湯が共晶温度に到達してから、共晶温度が保持され、溶湯が完全に凝固するまでの期間(190秒間)まで、溶湯に継続して超音波振動を付与した点である。
実施例1と同じようにAl−Si系鋳造合金を製造した。実施例1と相違する点は、冷却段階における第2の期間として、第2の期間として、溶湯が共晶温度に到達してから、共晶温度が保持され、溶湯が完全に凝固するまでの期間(190秒間)まで、溶湯に継続して超音波振動を付与した点である。
すなわち、比較例3では、溶湯に初晶Siが晶出し始める時期(溶湯温度が液相線温度(645℃)に到達した時期)から溶湯が共晶温度に到達するまでの第1の期間は、超音波振動を溶湯に付与していないことになる。
<顕微鏡観察>
実施例1、2および比較例1〜3のAl−Si系鋳造合金の上部および底部近傍の金属組織を顕微鏡観察した。この結果を図5および6に示す。図5は、実施例1および2に係るに係るAl−Si系鋳造合金の上部および底部のミクロ組織を示す写真図である。図6は、比較例1、2および3に係るに係るAl−Si系鋳造合金の上部および底部のミクロ組織を示す写真図である。
実施例1、2および比較例1〜3のAl−Si系鋳造合金の上部および底部近傍の金属組織を顕微鏡観察した。この結果を図5および6に示す。図5は、実施例1および2に係るに係るAl−Si系鋳造合金の上部および底部のミクロ組織を示す写真図である。図6は、比較例1、2および3に係るに係るAl−Si系鋳造合金の上部および底部のミクロ組織を示す写真図である。
(結果1)
図5に示すように、実施例1および2に係るAl−Si系鋳造合金の上部には、底部に比べて、初晶Siが多く存在していた。さらに、Al−Si系鋳造合金の底部には、初晶Siはわずかであり、初晶α−Alが、上部に比べて多く存在していた。
図5に示すように、実施例1および2に係るAl−Si系鋳造合金の上部には、底部に比べて、初晶Siが多く存在していた。さらに、Al−Si系鋳造合金の底部には、初晶Siはわずかであり、初晶α−Alが、上部に比べて多く存在していた。
一方、図6に示すように、比較例1に係るAl−Si系鋳造合金の上部には、粗大な初晶Siが存在しており、その底部には、共晶Siが多く存在していた。また、比較例2に係るAl−Si系鋳造合金の上部および底部には、初晶Siが分散し、実施例1および2のAl−Si系鋳造合金の底部よりも多く存在していた。比較例3に係るAl−Si系鋳造合金の上部には、粗大な初晶Siが存在し、その底部には、共晶Siが多く存在していた。なお、実施例1、2および比較例1〜3のいずれのAl−Si系鋳造合金も、共晶Siは、均一に分散していた。
このような結果から、実施例1および2の場合には、超音波振動を付与する工程のうち、第1の期間において、初晶Siが微細化され、第2の期間において微細化された初晶Siが溶湯の上部に偏析し、α−Alを前記溶湯の底部に偏析したと考える。また、実施例1および2の場合、初晶Siは、Al−Si系鋳造合金の底部から上部に向かって傾斜的に増加し、α−Alは、Al−Si系鋳造合金の上部から底部に向かって傾斜的に増加していると考えられる。
<アルマイト処理>
実施例1の底部の表面にアルマイト処理(陽極酸化処理)をおこなった。具体的には、電解液組成:硫酸溶液(H2SO429質量%)、電流密度:直流(DC)6〔A/dm2〕、電圧:150V以下、温度:10°C、時間:20分間の条件で電流制御により、アルマイト処理をおこなった。同様に比較例1の底部表面および比較例2の底部表面に、アルマイト処理をおこなった。
実施例1の底部の表面にアルマイト処理(陽極酸化処理)をおこなった。具体的には、電解液組成:硫酸溶液(H2SO429質量%)、電流密度:直流(DC)6〔A/dm2〕、電圧:150V以下、温度:10°C、時間:20分間の条件で電流制御により、アルマイト処理をおこなった。同様に比較例1の底部表面および比較例2の底部表面に、アルマイト処理をおこなった。
実施例1、および比較例1、2に係るAl−Si系鋳造合金のアルマイト処理により形成されたアルマイト層の断面を顕微鏡観察した。この結果を、図7に示す。図7は、Al−Si系鋳造合金の表面にアルマイト処理を行なったミクロ組織を示す断面写真図であり、(a)は、実施例1に係るAl−Si系鋳造合金の断面写真図、(b)は、比較例1に係るAl−Si系鋳造合金の断面写真図、(c)は、比較例2に係るAl−Si系鋳造合金の断面写真図である。
(結果2)
図7(a)に示すように、実施例1のAl−Si系鋳造合金の底部の表面の全面に、アルマイト層が欠陥なく形成されているが、図7(b)および(c)に示すように、比較例1および2のAl−Si系鋳造合金の底部表面には、アルマイト層が形成されていない部分が多数存在した。これは、比較例1および2のAl−Si系鋳造合金の底部表面には、初晶Siが実施例1のものに比べて多く存在し、この初晶Siによりアルマイト処理時に、アルマイト層の形成が阻害されたものと考えられる。
図7(a)に示すように、実施例1のAl−Si系鋳造合金の底部の表面の全面に、アルマイト層が欠陥なく形成されているが、図7(b)および(c)に示すように、比較例1および2のAl−Si系鋳造合金の底部表面には、アルマイト層が形成されていない部分が多数存在した。これは、比較例1および2のAl−Si系鋳造合金の底部表面には、初晶Siが実施例1のものに比べて多く存在し、この初晶Siによりアルマイト処理時に、アルマイト層の形成が阻害されたものと考えられる。
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本考案は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
1:超音波発生部、2:処理容器(るつぼ)、3:処理容器固定部、7:超音波ホーン、
8:超音波振動子、10:鋳造装置
8:超音波振動子、10:鋳造装置
Claims (4)
- Al−Si系合金を溶融してAl−Si系合金からなる溶湯を得る溶融工程と、前記溶湯の冷却過程の際に、前記溶湯に超音波振動を付与する工程と、を少なくとも含むAl−Si系鋳造合金の製造方法であって、
前記超音波振動を付与する工程は、前記溶湯に初晶Siが晶出し始める時期から前記溶湯が共晶温度に到達するまでの期間のうち、前記溶湯に初晶Siが晶出し始める時期を少なくとも含む第1の期間に、前記溶湯に超音波振動を付与することにより前記初晶Siを微細化する工程と、
前記溶湯が共晶温度に到達してから、該共晶温度が保持され、前記溶湯が完全に凝固するまでの第2の期間内に、前記溶湯に超音波振動を付与することにより、微細化された初晶Siを前記溶湯の上部に偏析させ、α−Alを前記溶湯の底部に偏析させる工程からなることを特徴とするAl−Si系鋳造合金の製造方法。 - 前記第1の期間は、前記溶湯に初晶Siが晶出し始める時期から前記溶湯が共晶温度に到達するまでのすべての期間であることを特徴とする請求項1に記載のAl−Si系鋳造合金の製造方法。
- 前記超音波振動を付与する工程において、前記超音波の付与を前記溶湯の下方から行うことを特徴とする請求項1または2に記載のAl−Si系鋳造合金の製造方法。
- 前記溶湯が凝固した前記底部の表面に、アルマイト処理を行なうことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のAl−Si系鋳造合金の製造方法。
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