JP2004209487A - アルミニウム系鋳造合金の凝固結晶組織を制御する方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】加熱溶解した不純物含有アルミニウム系鋳造合金が凝固する時に、アルミニウム系鋳造合金の溶湯への超音波振動を直接付与することによって初晶を粒径数10μmの多角形の微細粒状に制御する。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は鉄やケイ素を含んだアルミニウム系鋳造合金の凝固結晶組織を制御して、高温強度、耐磨耗性および摺動特性等の高機能性が要求されるシリンダブロック、コンロッド(連結棒)や蒸気タービンブレード等の成形材料に改質する方法およびその装置に関する。
【0002】
【従来の技術とその課題】
アルミニウム系鋳造合金に少量の鉄を添加することによって、アルミニウム系鋳造合金の高温強度性が改善されることはよく知られている。そして、この方法を利用してアルミニウム系鋳造合金から高温強度性を必要とする、シリンダブロックやアルミニウム系ダイキャスト等を成形することも知られている。
【0003】
しかしながら、鉄がアルミニウム系鋳造合金に不純物として混入されている場合には、その鉄を除去することが難しいだけでなくアルミニウム系鋳造合金が凝固する場合に、針状の金属間化合物(主にAl3Fe)が初晶として生成される。
【0004】
また、Al-Si-Fe系鋳造合金の製造方法においても、凝固時に針状の金属間化合物(主にAl3Fe)の初晶が発生することは不可避であるとされている。
【0005】
そして、このように生成される針状の金属間化合物の初晶は、硬度が高く切り欠き効果があるため、圧延成形や押し出し成形等の二次加工をする場合に大きな障害になるとされている。
【0006】
このような成形不良を防ぐために、従来はアルミニウム材の中に鉄(Fe)が1wt%を超えるような場合には、そのアルミニウム材を廃棄するか大量の純アルミニウムインゴットで薄めて再生する等の方法が主に採用されている。
【0007】
しかしながら、このような方法は貴重な資源を無駄にすることになるため、成形時に粗大な初晶が破壊されても鋭利な劈開面のエッジが生じないように、リン(P)やジルコニウム(Zr)あるいはバナジウム(V)等の微細化剤を添加して初晶を約40μm程度にしたり、これにクロム(Cr)を添加して初晶のケイ素(Si)を均質分散する等の改良法が提案されている。ところが、アルミニウム系鋳造合金に、このような第3元素を混入することはアルミニウム系鋳造合金を再利用(リサイクル化)する場合に不純物として残るという問題が生じる。
【0008】
このような微細化剤を使用しないで初晶を微細粒状化する方法として超音波を利用する方法が開発されている(たとえば、引用文献1および2を参照)。
【0009】
【文献】
文献1: 特公昭60−48575号公報
文献2: 特開平07−278692号公報
しかしながら、引用文献1に記載の方法は合金を製造するために超音波を利用するものであり本願発明のように初晶を微細粒状化するために使用されているわけではない。また、引用文献2に記載の発明は粗大なケイ素(Si)からなる針状初晶を微細に粉砕して分散するために超音波振動を利用する方法が記載されている。
【0010】
しかしながら、引用文献2に記載の方法は、Si量が20〜40%と高いAl-Si合金において針状にのびるSiを700〜800℃の溶融状態で超音波振動を付加して微細塊状にした。しかし、ホーン材質の記述はなく、当時一般的には金属ホーンを使用している。金属ホーンは溶融金属からの侵食が激しく、アルミニウム合金にTiのホーンではTiそのものが微細化効果を持つ金属のため超音波振動の効果が疑問である。またTiが添加されることでリサイクルを阻害する。
【0011】
超音波振動は溶融域で温度を保持して付加した場合微細化効果は少ない。凝固時の付加が重要となる。そして、凝固時の初晶の金属間化合物が硬く脆いため加工性を阻害するので微細化が重要となる。この文献では微細粒状化したSiは100〜300μmと粗大であり、凝固時の付加では30μmと微細化が可能となる。
【0012】
この出願の発明は、以上のとおりの従来技術の限界と問題点を解消したアルミニウム系鋳造合金の凝固結晶組織を制御する方法を提供するものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、上記の課題を解決するためのものとして、第1には、不純物を含有するアルミニウム系鋳造合金の凝固時に超音波振動を付与して不純物の初晶を微小化することを特徴とするアルミニウム系鋳造合金の凝固結晶組織の制御方法を提供し、第2には、超音波振動装置の超音波振動ホーンを直接溶融金属に挿入して振動させる制御方法を提供し、第3には、初晶を粒径数10μmの多角形の塊状に微細化する制御方法を提供し、第4には、初晶を形成する不純物がFe,Si,Cu,Mg,Niまたは複合した金属間化合物のいずれかである制御方法を、第5には、初晶を形成する不純物が0.1〜5.0重量%混入されていることを特徴とする制御方法を、第6には、初晶の組成が主としてAl3Feの金属間化合物またはSiであることを特徴とする制御方法を、第7には、アルミニウム系鋳造合金がAl-Fe系鋳造合金であることを特徴とする制御方法を、第8には、アルミニウム系鋳造合金がAl-Si-Fe系鋳造合金である制御方法を、第9には、アルミニウム系鋳造合金がスクラップ材であることを特徴とする制御方法を提供する。
【0014】
また、この出願は、第10には、アルミニウム系鋳造合金の凝固結晶組織を制御する超音波振動装置において、超音波振動ホーンが溶融したアルミニウム系合金に侵食されないセラミックで成形または被覆されていることを特徴とする超音波振動装置を、第11には、超音波振動ホーンがサイアロンセラミックまたは窒化ケイ素セラミックで成形されている超音波振動装置を、第12には、超音波振動ホーンがサイアロンセラミックまたは窒化ケイ素セラミックで被覆されていることを特徴とする超音波振動装置を提供するものである。
【0015】
【発明の実施の形態】
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつアルミニウム系鋳造合金の凝固結晶組織を制御する方法およびその装置を提供するものであるが、以下にその実施の形態について詳しく説明する。
【0016】
この出願の発明は、主として二次加工を伴う成型品に割れを生じさせる金属間化合物(主にAl3Fe)の初晶を生成するアルミニウム系鋳造合金に超音波振動を付与することによって初晶を微細粒状化することにある。
【0017】
このように初晶を微細粒状化することは、加工時に初晶が破壊されることによって生ずる鋭利な劈開面を有するエッジの発生が抑制されて加工性を向上するだけでなく、エッジへの応力集中が抑制されるので成型品の高温強度性、耐磨耗性および摺動特性等が改良されてアルミニウム系鋳造合金の用途を拡大するものである。
【0018】
この出願の発明は加熱溶解した鉄などの不純物を含むアルミニウム系鋳造合金の溶湯へ超音波振動を直接付与することによって、金属間化合物(主にAl3Fe)初晶を微細粒状化する点に特徴を有するものである。
【0019】
この出願の発明はアルミニウム系鋳造合金に超音波振動を与えるための超音波振動ホーン(horn)を溶融金属中に挿入して超音波振動を直接付加することが重要である。このため超音波振動ホーン(horn)が金属製の場合には、溶融金属に侵食されるため超音波振動ホーンの表面をセラミックコーティングすることが必要になる。また、超音波振動ホーン(horn)自体をセラミックで作製する場合には金属溶湯、すなわちアルミニウム系鋳造合金の溶湯と反応せず、高温強度に優れ、しかも耐熱衝撃性の高い、サイアロンセラミック(Si3N4+Al2O3)や窒化珪素セラミック(Si3N4)等を使用することが好ましい。
【0020】
この出願の発明は溶融しているアルミニウム系鋳造合金が凝固する時に超音波振動を直接付与することによって、金属間化合物(主にAl3Fe)の初晶を粒径数10μm程度の多角形の塊状にするものであるが、超音波振動は結晶が凝固し始める凝固初期の核生成時に液相線を中心に付与することによって初晶は充分に微細粒状化される。このため、結晶が完全凝固終了する固相線まで超音波振動を付与する必要はない。
【0021】
この出願の発明において対象となるアルミニウム系鋳造合金としては、スクラップ材(リサイクル用成形材)のように不純物の鉄(Fe)が多量に含有されるアルミニウム系鋳造合金になる。たとえば、Al-Fe系鋳造合金(Fe量が2〜20重量%含有)またはAl-Si-Fe系鋳造合金(Si量が4〜30重量%、Fe量が2〜20重量%含有)等のアルミニウム系鋳造合金等である。もちろん、アルミニウム系鋳造合金のスクラップ材(リサイクル用成形材)は、鉄(Fe)以外にも銅(Cu),マグネシウム(Mg),ニッケル(Ni)等の不純物が混入されており、このような不純物を含有したアルミニウム系鋳造合金の凝固結晶組織を制御する方法に適用できることはいうまでもない。なお、これら不純物の量は限定されるものではないが初晶を生成するものとして0.1〜5wt%程度混入されたものが考慮される。
【0022】
【実施例】
Al-Si-Fe系鋳造合金(Siを6重量%、Feを2〜5重量%含有した合金)を作製した。
【0023】
工業用純アルミニウム、Al-25重量%Si合金、Al-50重量%Fe合金を使用して電気炉中で400gを内径40mm、高さ90mmのアルミナるつぼ(3)内で750℃で溶解した。このアルミナるつぼ(3)を超音波発振器、振動子、2段の水冷ブースタ(1)、超音波振動ホーン(2)、振幅測定器、温度測定用熱電対(4)を持つ温度計測器および水冷銅板から構成されている超音波凝固組織制御装置にセットして超音波振動を付加した。
【0024】
この装置の超音波振動は、電歪型振動子が高周波電流で振動するものであり、この振動を拡大器で増幅した後、ブースタ(1)および超音波振動ホーン(2)へ伝達するため超音波振動ホーン(2)は縦振動する構造になっている。
【0025】
超音波振動ホーン(2)は高温溶湯へ直接挿入するためファインセラミックのサイアロンを選定した。このサイアロンからなる超音波振動ホーン(2)はストレート形で直径20mmのものを使用した。
【0026】
図1に超音波振動ホーンと鋳型の位置関係を示す。超音波振動ホーン(2)をアルミナるつぼ(3)内の溶融金属の表面から10mmの深さに挿入し、振動が付加されている溶融金属の温度を温度測定用熱電対(4)で測定しながら、所定の温度に達した時に超音波振動ホーン(2)を引き抜いた。
【0027】
振動を付加する時の温度は液相線温度を中心として完全凝固までが望ましく、本実施例では700℃から完全凝固の直前である600℃の範囲で行なった。
【0028】
図2および図3はAl-6重量%Si-5重量%Fe系鋳造合金の超音波振動処理の有無による組織の変化を示した拡大写真である。
【0029】
一般に、Al-Si系鋳造合金に鉄が1.5重量%以上混入されると初晶の粗大な針状Al3Feが発生するとされているが、図2は超音波振動処理をしない時の写真であり、図3は超音波振動を付与した時の写真である。図3の写真から明らかなように初晶のAl3Feは微細粒状になっており、10〜100μmに微細化されたAl3Feが均一に分散されていることが確認された。
【0030】
【発明の効果】
不純物として鉄やケイ素が含有されているアルミニウム系鋳造合金の高温強度性、耐磨耗性および摺動特性等の機能性を改良してダイキャスト(die casting)、シリンダブロック、コンロッド(連結棒)や蒸気タービンブレードへの適応を可能とするものであり、また凝固時に連続して超音波振動を付加することで、大きなインゴットを連続鋳造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】凝固時の組織制御のための超音波振動付加装置である。
【図2】Al-6重量%Si-5重量%Fe系鋳造合金の凝固時に組織制御のため超音波振動付与しない場合の粗大な初晶針状Al3Feが晶出している組織を示す。
【図3】Al-6重量%Si-5重量%Fe系鋳造合金の凝固時に組織制御のため超音波振動付加した場合の初晶のAl3Feが微細粒状化している組織を示す。
【符号の説明】
1 ブースタ
2 超音波振動ホーン
3 アルミナるつぼ
4 温度測定用熱電対
Claims (12)
- 不純物を含有するアルミニウム系鋳造合金の凝固時に超音波振動を付与して不純物が含まれる金属間化合物の初晶を微細粒状化することを特徴とするアルミニウム系鋳造合金の凝固結晶組織の制御方法。
- 超音波振動装置の超音波振動ホーンを直接溶融金属に挿入して振動させることを特徴とする請求項1の制御方法。
- 初晶の粒径を10〜80μmの多角形に微細粒状化することを特徴とする請求項1または2の制御方法。
- 初晶を形成する不純物がFe,Si,Cu,Mg,Niまたは複合した金属間化合物のいずれか、であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかの制御方法。
- 初晶を形成する不純物が0.1〜5.0wt%程度混入されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかの制御方法。
- 初晶が主としてAl3FeまたはAl-Si-Feの金属間化合物であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかの制御方法。
- アルミニウム系鋳造合金がAl-Fe系鋳造合金であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかの制御方法。
- アルミニウム系鋳造合金がAl-Si-Fe系鋳造合金である請求項1ないし6のいずれかの制御方法。
- アルミニウム系鋳造合金がスクラップ材であることを特徴とする請求項1ないし8いずれかの制御方法。
- 請求項1ないし9のアルミニウム系鋳造合金の凝固結晶組織を制御するための超音波振動装置であって、超音波振動ホーンが溶融したアルミニウム系合金に侵食されないセラミックで成形またはセラミックで被覆されていることを特徴とする超音波振動装置。
- 超音波振動ホーンがサイアロンセラミックまたは窒化珪素セラミックで成形されていることを特徴とする請求項10の超音波振動装置。
- 超音波振動ホーンがサイアロンセラミックまたは窒化ケイ素セラミックで被覆されていることを特徴とする請求項10の超音波振動装置。
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