JP5831344B2 - 剛性に優れたアルミニウム合金及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、剛性に優れたアルミニウム合金及びその製造方法に関する。
従来より、自動車等の各種輸送機器の部材としては鉄鋼材料が使用されている。しかしながら、鉄鋼材料は重量が嵩むために、省エネ化の観点等から素材の軽量化が望まれている。今後、益々軽量化が図られることになるため、鉄鋼材料並みの機械的強度と剛性を有する軽量な素材の開発が急務となっている。
他方、鋳造性に優れながら機械的強度の高いアルミニウム合金の開発がされてきており、このような特性を持つアルミニウム合金の各種輸送機器の部材への適用により、これらの部材の大幅な軽量化が図られてきている。
例えば、JIS規格のAC4C合金或いはAC4CH合金は、Al‐7%Si‐0.35Mgなる化学組成を基本とする、時効硬化型の合金であるが、優れた鋳造性と機械的強度とを兼ね備えたアルミニウム合金として自動車等の各種輸送機器の部材に用いられている。しかしながら、これらの合金を輸送機器の部材として使用する際、使用する箇所によっては剛性が足りないケースがある。
このため、アルミニウム合金の剛性を向上させる方法が、従来より提案されている。アルミニウム合金の剛性を向上させる、すなわち弾性率をより高くする方策のひとつが、より剛性の高い物質を分散材としての、分散材との複合化である。
例えば、特許文献1は、Al2O3、SiC、SiO2、B4C、BN、TiB2、TiCの粒子、ウィスカまたは繊維を分散材としての複合化を提案している。また特許文献2、3、4は、それぞれTiN、TiC、AlB2を分散材としての複合化を提案している。
さらに特許文献5は、高剛性の繊維、ウィスカなどの分散材を含む被覆部を部材の一部に設けることを提案している。
TiB2は剛性が高く、アルミニウム合金との濡れ性にも優れるため、アルミニウム合金の剛性を高くする目的に対して好適である。例えば、特許文献6は、剛性の高いTiB2をアルミニウム合金中に分散させ、複合化することを提案している。また特許文献7は、高剛性の炭素繊維をTiB2で被覆したうえでアルミニウム合金中に分散、複合化することを提案している。
特開2002−178130号公報 特開昭56−165492号公報 特開昭56−165493号公報 特開昭58−100653号公報 特開昭2002−336952号公報 特開昭63−140059号公報 特公昭59−12733号公報
しかしながら、前記各文献で提案されているアルミニウム合金について細かく検討してみると、アルミニウム合金の剛性を向上させる目的で、より剛性の高い物質を分散材として複合化させた場合、TiB2のように、アルミニウム合金との濡れ性が高い物質であっても、マトリックスであるアルミニウム合金との密度差が大きいことから、凝集し偏在してしまう場合が多々見られた。
このような分散材の凝集は、アルミニウム合金の特性が均一化しない原因となり、ひいてはアルミニウム合金を薄肉化し辛くなる原因となって、軽量化が達成されないという問題がある。また、アルミニウム合金への多量の分散材による複合化は、アルミニウム合金を鋳造する際に溶湯の流動性を低下させるために、重力鋳造では湯回り不良が多く発生し外観不良となってしまうほか、鋳巣の発生にともなって、機械的特性並びに剛性を低下させる要因ともなる。
また、剛性が高く、アルミニウム合金との濡れ性にも優れるTiB2をアルミニウム合金中に生成させようとして、アルミニウム合金溶湯にTiやBを添加した場合、TiB2以外の粗大な化合物(Al3TiやAlB2)が晶出し、そのような粗大化合物がアルミニウム合金の機械的特性の低下の原因となることがあること、及び、TiB2は融点が高いために通常の溶解温度では固体として存在し、多量のTiB2化合物を添加する場合は溶湯流動性の問題が生じることが判った。
本発明は、このような課題を解決するために案出されたものであり、剛性が高く、アルミニウム合金との濡れ性にも優れるTiB2を分散材として複合化させるにあたって分散材をアルミニウム合金の部材全体にわたって均一に分散させるとともに、Al3Ti化合物などの粗大防止することにより、剛性が高く、部材全体にわたって特性の均一なアルミニウム合金及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明の剛性に優れたアルミニウム合金は、その目的を達成するためにSi:5〜10質量%、Mg:0.1〜0.5質量%、Ti:1〜5質量%、B:0.3〜2質量%、および残部:Alと不可避不純物からなる化学組成と、TiB2の凝集体が1mm3当たり5個以下、Al3Tiの最大サイズが50μm以下、鋳巣の面積率が5%以下である金属組織を備えていることを特徴とする。
本発明のアルミニウム合金は、剛性を向上させるために、0.2質量%以上3%以下のMn、0.2質量%以上3%以下のCrをのうちの1種類以上を更に含むことができる。
本発明の剛性に優れたアルミニウム合金は、上記化学組成を有するアルミニウム合金溶湯に、液相線温度以上かつ液相線から100℃以内の温度範囲で、20〜27kHz,出力2kW以上の超音波振動を30秒以上照射し、照射終了後180秒以内に20℃/s以上の冷却速度で加圧鋳造を行うことにより得られる。
前記加圧鋳造は、好ましくはダイカスト鋳造法であるが、さらに好ましくは半凝固ダイカスト鋳造法である。
また上記方法により得られた鋳塊に500℃〜535℃で6〜8時間加熱する溶体化処理を施した後、100℃以下までを20℃/s以上の冷却速度で冷却し、その後に150℃〜300℃で1〜10時間加熱する時効硬化処理を施すことが好ましい。
本発明によれば、超音波照射を行うことにより、晶出したTiB2をアルミニウム合金部材全体にわたって均一に分散させることができるため、部材全体にわたって均一に剛性を向上させことができ、さらに粗大な化合物の晶出を抑えることで、優れた機械的特性を発揮することができる。さらに、ダイカスト鋳造法または半凝固ダイカスト鋳造法により鋳造を行うことでその方法の一つの特長である加圧力によって、鋳巣を低減させることができるため、鋳巣の存在による機械的特性並びに剛性の低下がない。
このため、自動車等の各種輸送機器の部材、特に薄肉化による軽量化及び剛性が必要とされる自動車用ナックルアームやホイール、内燃機関のシリンダーヘッドに好適であるほか、プラスチックの超音波加工用の振動子などの素材としても利用可能である。
超音波ホーンを用いた超音波処理の概要を説明する図 TiB2の凝集体を示す図 粗大な化合物を示す図 本発明アルミニウム合金のミクロ組織を示す図(実施例3) 比較例アルミニウム合金のミクロ組織を示す図(比較例3)
本発明者等は、自動車等各種輸送機器の部材に好適に利用できるアルミニウム合金材として、機械的強度が高く、鋳造用合金として鋳造性に優れるものとして、従来から各種輸送機器に利用されているJIS規格のAC4C合金やAC4CH合金の高剛性化策について検討を重ねてきた。
その過程で、アルミニウム合金との濡れ性にも優れるTiB2をアルミニウム合金中に均一に分散させることができれば、剛性を向上させることができて自動車用ナックルアームやホイール、内燃機関のシリンダーヘッドに好適なものとすることができることを見出した。
さらに鋭意検討することにより、アルミニウム合金の鋳造に際して、超音波照射を行うことにより、TiB2をアルミニウム合金部材全体にわたって均一に分散させて含有させるとともに、粗大な化合物の晶出を抑えることができ、またダイカスト鋳造法または半凝固ダイカスト鋳造法の採用との組合せにより、鋳巣を低減させることができることを見出し、本発明に到ったのである。
以下にその詳細を説明する。
まず、本発明アルミニウム合金の化学組成について説明する。
<必須成分>
〔Si:5〜10質量%〕
Siは、剛性等の機械的性質の向上や、耐摩耗性、鋳造性を向上させる作用がある。本発明は、JIS規格のAC4C或いはAC4CHを基本とするものであるから、Si含有量は6.5〜7.5質量%の範囲が好ましいが、5〜10質量%の範囲であれば実施できる。Siが5質量%に満たないと、溶湯の流動性が十分でなく、複雑な形状や薄肉部を有するものを鋳造する場合には、成形性の観点から好ましくない。また、Si含有量が10質量%を超えると、延性が低下し、好ましくない。そこで、Si含有量は5〜10質量%の範囲とする。
〔Mg:0.1〜0.5質量%〕
Mgは溶体化状態において固溶強化によって機械的強度を向上させる作用があるほか、後述する時効硬化処理においては、SiとともにMg2Si化合物を形成して析出し、機械的強度をさらに向上させる作用がある。Mgも、本発明がJIS規格のAC4C及びAC4CHを基本とするものであるから、その好ましい含有量の範囲は0.25〜0.45質量%であるが、実施可能な範囲は0.1〜0.5質量%である。Mgが0.1質量%を下回ると前述の効果による機械的強度の向上の作用が不足するため、好ましくない。Mgが0.5質量%を超えると、Siとの反応により形成、析出するMg2Si化合物の量が増大し、延性が低下するため、好ましくない。また、特に超音波照射する際に、Mgの添加によってキャビテーション(微細な泡)が発生しやすくなるため、微細化効果を発揮する。この作用は0.1質量%以上の添加で顕著となるが、0.5質量%を超えると析出するMg2Siが多くなり、伸びが低下し鋳造性が低下する。そこでMgの添加量は0.1質量%〜0.5質量%の範囲とする。
〔Ti:1〜5質量%及びB:0.3〜2質量%〕
TiとBは互いに結合してTiB2なる化合物を形成して剛性向上に大きく寄与する元素である。Ti量が1質量%に満たなかったり、B量が0.3質量%に満たなかったりすると、剛性を向上させるTiB2の生成量が少なくなってしまい、剛性向上効果が充分でない。逆にTi量が5質量%を超える程に多かったり、B量が2質量%を超える程に多かったりすると、TiB2は微粒子かつアルミニウムとの密度差が大きいことから、凝集、偏在して鋳造時に超音波を照射しても均一に分散させることができない。また、Tiの量が多くなると粗大な化合物Al3Tiが晶出するため機械的特性が低下し、B量が多くなると粗大な化合物AlB2が晶出するため機械的特性が低下してしまう。そこでTiの添加量は1〜5質量%、Bの添加量は0.3〜2質量%の範囲とする。
<任意添加成分>
剛性を向上させるために、MnおよびCrの少なくとも一方を下記の範囲で必要に応じて任意に添加できる。
〔Mn:0.2〜3質量%〕
Mnは剛性向上に寄与するAlMn系,AlMnSi系晶出物を形成し、剛性を向上させる作用があり、必要に応じて含有させる。これらの晶出物は、アルミニウムとの濡れ性は良く、TiB2とアルミニウム合金の濡れ性にも影響を与えないため、TiB2添加による剛性向上を阻害することなく、さらなる剛性向上を達成できる。0.2質量%以下ではこのような効果が小さく、3質量%を超える程に多くなると、破壊の起点となるAlMn系,AlMnSi系晶出物が多くなってかえって、伸び等の機械的性質を低下させることになる。したがって、Mnの添加量は0.2質量%〜3質量%以下とする。
〔Cr:0.2〜3質量%〕
Crは剛性向上に寄与するAlCr系,AlCrSi系晶出物を形成し、剛性を向上させる作用があり、必要に応じて含有させる。これらの晶出物は、アルミニウムとの濡れ性は良く、TiB2とアルミニウム合金の濡れ性にも影響を与えないため、TiB2添加による剛性向上を阻害することなく、さらなる剛性向上を達成できる。0.2質量%以下ではこのような効果が少なく、3質量%を超える程に多くなると、破壊の起点となるAlCr系,AlCrSi系晶出物が多くなってかえって、伸び等の機械的性質を低下させることになる。したがって、Crの添加量は0.2質量%〜3質量%以下とする。
<不可避不純物>
不可避不純物としては、Fe、Cuなどを挙げることができる。不可避不純物の含有量は、FeおよびCuはそれぞれ0.3質量%未満、他の不可避不純物は、各元素0.05質量%未満、合計0.3質量%未満であれば本発明を実施できる。
次に、本発明アルミニウム合金の金属組織について説明する。
〔TiB2の凝集体:1mm3当たり5個以下〕
TiB2の凝集体が多いと、靭性が低下する。そこで、本発明では、アルミニウム合金中のTiB2の凝集体は1mm3当たり5個以下とする。ところで、TiB2の凝集体は、平面写真では図2に示すようにリング状に観察されるが、立体的には外径50μm以上の球殻状の形状である凝集体のことをいう。なお図2に示すような平面写真での観察においては、球殻の切断面によっては、外径が50μm以下に観察されることもある。
後述するように、各元素を上記の組成範囲に調整したアルミニウム合金溶湯に、液相線温度以上かつ液相線温度から100℃以内の温度範囲の合金溶湯に所定条件で超音波照射することにより、TiB2の凝集体の生成を防ぐことができるとともに、TiB2を部材内に均一に分散することができる。
〔粗大な化合物の最大サイズ:50μm以下〕
Tiを添加したAC4C合金やAC4CH合金では、化合物Al3Tiが晶出し、粗大化して機械的特性を低下させることがある。そこで、本発明合金では、機械的強度の低下を抑えるために、Al3Tiなどの化合物の大きさを50μm以下のサイズとする。
Al3Tiの粗大な化合物は図3に示すような針状に成長する。Al3Ti化合物は超音波振動を付与する温度域では既に晶出しているため、超音波キャビテーションによって粗大なAl3Ti化合物を分断することができると考えられる。後述するように、各元素を上記の組成範囲に調整したアルミニウム合金溶湯に、液相線温度以上かつ液相線温度から100℃以内の温度範囲の合金溶湯に所定条件で超音波照射することにより、Al3Tiなどの化合物の大きさを50μm以下のサイズにすることができる。
〔鋳巣の面積率:5%以下〕
アルミニウム合金鋳物材にあっては、鋳巣の存在は機械的強度や靭性を低減させる要因となる。そこで、本発明合金では、機械的強度や靭性の低下を抑えるために、鋳巣を面積率で5%以下にした。
TiB2を生成させたアルミニウム合金においては鋳巣が発生しやすくなるが、加圧鋳造を行うことで鋳巣を低減させることができる。
続いて、本発明にアルミニウム合金の製造方法について説明する。
本発明方法では、上記の添加元素と不可避不純物からなる化学組成のアルミニウム合金溶湯に超音波振動を照射した後、加圧鋳造により鋳造を行っている。
用いる超音波処理用の装置としては、図1に示すような、超音波ジェネレータ1、振動子2、ホーン3と制御ユニットから構成されているものが好ましい。一例として、磁歪振動子を構成した超音波発生装置の操作原理を説明する。超音波ジェネレータ1により発生した交流強力電流を超音波振動子2に印加し、超音波振動子によって発生した超音波振動はネジ方式接続4を介してホーン3によってホーン先端に伝達し、先端からアルミニウム合金溶湯中に導入する。共振条件を保つために、共振周波数自動制御ユニット5を備えている。このユニットは、振動子に流れる電流値を周波数の関数として測定し、電流値が最大値を保持するように、周波数を自動調整するものである。
この際に用いる超音波ホーンは、高耐熱性を有しアルミニウム合金溶湯中で超音波照射させてもエロージョンされ難い材料、例えばセラミックス材料、耐熱性の高い金属としてはNb‐Mo合金などを選択することができる。なお付与する振動としては振幅10〜70μm(p‐p)、周波数20〜27kHzで、アルミニウム合金溶湯1kg当たり出力2kW以上程度の超音波を付与することでTiB2の均一な分散化とAl3Tiなどの化合物の微細化を達成することができる。なお、AlMn系,AlMnSi系晶出物、AlCr系,AlCrSi系晶出物は針状ではなく塊状のため超音波照射による微細化効果は発揮されないと考えられる。ここで、p‐pはピーク‐to‐ピークであり、例えばサイン波の場合は最大値と最低値との差のことをさす。超音波振動が、振幅10〜70μm(p‐p)、周波数20〜27kHzの範囲を外れるとTiB2の均一な分散化とAl3Tiなどの化合物の微細化が達成できない。またアルミニウム合金溶湯1kg当たりの超音波振動の出力が2kW未満であると振動の出力が不足し、TiB2の均一な分散化とAl3Tiなどの化合物の微細化が達成できない。
各元素を上記の組成範囲に調整したアルミニウム合金溶湯に超音波振動を照射するが、超音波照射時の合金溶湯温度は液相線温度以上かつ液相線温度から100℃以内とし、超音波照射は30秒以上行う。
液相線温度以上で超音波照射を行うことで高い微細化効果を得られ、かつ液相線温度から100℃以内にすることで超音波照射終了から凝固までの時間を短縮することができる。
また、溶湯温度が高すぎると溶湯中のガス量が増え溶湯品質が低下したり、炉材、ホーンなどの寿命が低下したりする危険がある。したがって、超音波照射温度は液相線温度以上かつ液相線温度から100℃以内とする。
超音波照射時間は30秒以上にする。これにより、超音波照射により粗大な化合物の晶出を防止する効果があり、これより短いとTiB2の均一な分散化とAl3Tiなどの化合物の微細化の効果が発揮され難くなってしまうためである。
さらに、超音波照射後180秒以内に20℃/s以上の冷却速度で加圧鋳造を行う。超音波照射後180秒以内とするのは、分散させたTiB2が元の状態に戻り、粗大な化合物の微細化効果が消失してしまうのを防ぐためである。冷却速度は20℃/sより遅いと、晶出物が成長する時間があるため、晶出物の粗大化を招いてしまうためである。晶出物が粗大化するとそれを起点として破壊が起こり、機械的強度が低くなってしまう。
また、加圧鋳造として、ダイカスト法や半凝固ダイカスト法があるが、所定の位置で超音波照射することによって、180秒以内で鋳造をすることができる。180秒以内で鋳造を開始するための超音波照射位置として例えば溶解炉内,ラドル内,湯溜り内,スリーブ直上,スリーブ内などがあげられる。
これらの処理を行うことで、TiB2の凝集体が1mm3当たり5個以下、粗大な化合物の最大サイズが50μm以下、鋳巣の面積率が5%以下である剛性及び靭性に優れたアルミニウム合金を得ることができる。
さらに、本発明では、マトリックスはJIS規格のAC4C或いはAC4CHを基本とするものであるから、機械的強度改善を目的として時効硬化処理をすることができる。そのための溶体化処理及び時効硬化のための熱処理は、JIS規格のAC4C或いはAC4CHのそれと同様に実施すればよい。
すなわち、溶体化処理を500℃〜535℃で6〜8時間した後、100℃以下までを20℃/s以上の冷却速度で冷却し、その後時効効果のために熱処理を150℃〜300℃で1〜10時間行う。
溶体化処理が500℃未満、または6時間未満であると溶体化が不完全であり、その後に時効硬化処理を行っても、機械的強度は改善されない。他方、溶体化処理は535℃以下、かつ8時間以内で十分であり、それを超えての溶体化処理は、コストの増大を招くほか、本発明においてはAl3Ti化合物の粗大化の要因ともなるため、好ましくない。
溶体化処理後は100℃以下までを20℃/s以上の冷却速度で冷却する。例えば直径30mmの球形の部材であれば、10dm3以上の容量の10℃〜50℃の水中に投入すれば、20℃/s以上の冷却速度を実現できる。もちろん100℃までを20℃/s以上の冷却速度で冷却できるのであれば、他の方法によることもできる。冷却速度が20℃/s未満であると、冷却中にMg2Siが析出したり、Al3Tiが粗大化したりすることがあるため、好ましくない。
時効硬化のための熱処理が150℃未満、または1時間未満であると時効硬化が不十分であり、機械的強度が改善されない。他方、時効硬化のための熱処理は300℃以下、かつ10時間以内で十分であり、それを超えての溶体化処理は、コストの増大を招くことになるため、好ましくない。
このような時効硬化処理により、高い剛性を保ったまま、より一層の機械的強度の改善を図ることができるため、自動車用ナックルアームやホイール、内燃機関のシリンダーヘッドのほか、プラスチックの超音波加工用の振動子などの素材として、より好適な部材を得ることができる。
〔実施例1〕
表1に実施例1として示した組成のアルミニウム合金1kgを溶解炉内に配置した坩堝内に用意した。合金の溶製には、純度99.9%のアルミニウム、Al‐25%Si、純度99.95%のマグネシウム、Al‐10%TiおよびAl‐4%Bの母合金を用いた。この溶湯にNb‐Mo合金製の超音波ホーンを予熱炉内で予熱した後、坩堝内のアルミニウム合金溶湯中にホーンを浸漬させて、超音波を650℃で300秒間照射した。このときの超音波振動の共振周波数は23kHz、音響出力を2kW、振幅(p‐p)を40μmに設定して行った。なお、この溶湯の液相線は613℃である。
この溶湯をカップに移湯して、600℃まで冷却して半凝固材を作製し、超音波照射終了から120秒以内に20℃/s以上で加圧鋳造を行い、板状サンプルを作製した。この時の固相温度は577℃であった。
その後、溶体化処理500℃〜535℃で6〜8時間行った後、10℃の水中に急冷し時効効果のための熱処理を155℃で6時間行った。
続いて、表2に示すように室温引張特性として引張強度Rm、0.2%耐力Rp0.2、伸びA、ヤング率Eを測定、算出した。さらにTiB2の凝集体の個数については、10mm2のアルミニウム表面を深さ方向に20μmずつ5回エッチングして、同一位置の10mm2についてそれぞれの深さにおけるTiB2の凝集体の個数を顕微鏡観察によって求め、粗大な化合物サイズ、鋳巣の面積率については画像解析を行って求めた。
〔実施例2〜3〕
組成を表2のように変化させた以外は、実施例1と同様の方法で坩堝内に超音波照射を行い、半凝固ダイカスト鋳造、溶体化処理を行った。なお、液相線、固相線は実施例1と同様であった。そして、実施例1と同様に、表2に示すように室温引張特性として引張強度Rm、0.2%耐力Rp0.2、伸びA、ヤング率Eを測定、算出し、TiB2の凝集体の個数、粗大な化合物サイズ、鋳巣の面積率を求めた。
〔実施例4〕
液相線以上で加圧鋳造を開始した以外は、実施例1と同一の組成、同一の条件で超音波照射を行い、溶体化処理を行った。なお、液相線、固相線は実施例1と同様であった。そして、実施例1と同様に、表2に示すように室温引張特性として引張強度Rm、0.2%耐力Rp0.2、伸びA、ヤング率Eを測定、算出し、TiB2の凝集体の個数、粗大な化合物サイズ、鋳巣の面積率を求めた。
〔実施例5〕
溶体化処理の温度を変化させた以外は、実施例3と同一の組成、同一の条件で超音波照射を行い、半凝固ダイカスト鋳造を行った。なお、液相線、固相線は実施例1と同様であった。そして、実施例1と同様に、表2に示すように室温引張特性として引張強度Rm、0.2%耐力Rp0.2、伸びA、ヤング率Eを測定、算出し、TiB2の凝集体の個数、粗大な化合物サイズ、鋳巣の面積率を求めた。
〔実施例6、7〕
組成を表2のように変化させた以外は、実施例1と同様の方法で坩堝内に超音波照射を行い、半凝固ダイカスト鋳造、溶体化処理を行った。なお、液相線、固相線は実施例1と同様であった。そして、実施例1と同様に、表2に示すように室温引張特性として引張強度Rm、0.2%耐力Rp0.2、伸びA、ヤング率Eを測定、算出し、TiB2の凝集体の個数、粗大な化合物サイズ、鋳巣の面積率を求めた。
〔比較例1〜2〕
組成を表2のように変化させた以外は、実施例1と同様の方法で坩堝内に超音波照射を行い、半凝固ダイカスト鋳造、溶体化処理を行った。なお、液相線、固相線は実施例1と同様であった。そして、実施例1と同様に、表2に示すように室温引張特性として引張強度Rm、0.2%耐力Rp0.2、伸びA、ヤング率Eを測定、算出し、TiB2の凝集体の個数、粗大な化合物サイズ、鋳巣の面積率を求めた。
〔比較例3〕
組成を表2に示す通り実施例3と同一にし、超音波処理の変わりに機械的撹拌を行った。機械的撹拌の条件としては、溶湯を液相線以上に保持しこの溶湯を回転翼サイズ40×50mm、回転数7回/sにて300秒間機械的に撹拌した。その後、実施例1と同様に半凝固材を作製し、撹拌終了から120秒以内に20℃/s以上で加圧鋳造を行い、板状サンプルを作製した。
なお、液相線、固相線は実施例1と同様であった。そして、実施例1と同様に、表2に示すように室温引張特性として引張強度Rm、0.2%耐力Rp0.2、伸びA、ヤング率Eを測定、算出し、TiB2の凝集体の個数、粗大な化合物サイズ、鋳巣の面積率を求めた。
〔比較例4〕
組成を表2に示す通り実施例3と同一にし、実施例1と同様の方法で坩堝内に超音波照射を行い、冷却速度20℃/s以上にて重力鋳造を行った。その後実施例1と同一の条件で溶体化処理を行った。なお、液相線、固相線は実施例1と同様であった。そして、実施例1と同様に、表2に示すように室温引張特性として引張強度Rm、0.2%耐力Rp0.2、伸びA、ヤング率Eを測定、算出し、TiB2の凝集体の個数、粗大な化合物サイズ、鋳巣の面積率を求めた。
〔比較例5〕
組成を表2のように変化させた以外は、実施例1と同様の方法で坩堝内に超音波照射を行い、半凝固ダイカスト鋳造、溶体化処理を行った。なお、液相線、固相線は実施例1と同様であった。そして、実施例1と同様に、表2に示すように室温引張特性として引張強度Rm、0.2%耐力Rp0.2、伸びA、ヤング率Eを測定、算出し、TiB2の凝集体の個数、粗大な化合物サイズ、鋳巣の面積率を求めた。
実施例では、全てでTiB2の凝集体が1mm3に5個以下であり、粗大な晶出物の最大サイズが50μm以内であった。これにより、伸びAを2.0%以上、ヤング率Eを75GPa以上とすることができ、靭性及び剛性に優れたアルミニウム合金を作製できたことがわかる。
なお、実施例3によって製造されたアルミニウム合金のミクロ組織を図4に示す。この図からリング状のTiB2の凝集体は生成しておらず、TiB2は分散していることがわかる。
比較例1については、伸びをはじめとするその他の特性は良好であったが、TiとBの含有量が低いため、充分な剛性を得ることができなかった。
比較例2については、TiとBの含有量が高く剛性は良好であるが、TiB2の凝集体が数多く生成してしまうため、伸びがかなり低くなってしまう。また、Ti添加量が多いため粗大な化合物が晶出する。さらに鋳巣の面積率も高かった。
比較例3については、実施例3と組成や工法、熱処理条件は同一であるが、超音波照射の代わりに機械的撹拌を行った。TiとBが適量添加されているため、剛性は良好であるが、機械的撹拌のみではTiB2の分散が足りず、伸びが低くなってしまった。また比較例3によって製造されたアルミニウム合金のミクロ組織を図5に示す。この図からもTiB2のリング状の凝集体やAl3Tiの粗大な化合物が多数生成していることがわかる。
比較例4については、TiとBが適量添加されているため、剛性は良好であり、Al3Tiも微細化したが、重力鋳造では鋳巣の面積率を抑えることができず、伸びも低かった。
比較例5については、実施例6と同様にMnとCrを加えており、剛性は良好であったが、MnおよびCrの添加量がそれぞれ4質量%と多く、破壊の起点となるAlMn系,AlMnSi系,AlCr系,AlCrSi系晶出物が晶出するため、伸びが低下してしまった。粗大な化合物(60μm)はAlMn系,AlMnSi系,AlCr系,AlCrSi系晶出物である。
本発明によれば、剛性が高く、アルミニウム合金との濡れ性にも優れるTiB2を分散材として複合化させるにあたって分散材をアルミニウム合金の部材全体にわたって均一に分散させるとともに、Al3Ti化合物などの粗大防止することにより、剛性が高く、部材全体にわたって特性の均一なアルミニウム合金及びその製造方法が提供される。
1 超音波ジェネレータ
2 振動子
3 ホーン
4 ネジ方式接続
5 制御ユニット

Claims (6)

  1. Si:5〜10質量%、Mg:0.1〜0.5質量%、Ti:1〜5質量%、B:0.3〜2質量%、および残部:Alと不可避不純物からなる化学組成と、TiB2の凝集体が1mm3当たり5個以下、Al3Tiの最大サイズが50μm以下、鋳巣の面積率が5%以下である金属組織を備えており、ヤング率が75GPa以上であることを特徴とする剛性に優れたアルミニウム合金。
  2. さらに、0.2〜3質量%のMn、0.2〜3質量%のCrを1種類以上含む化学組成を有する請求項1に記載の剛性に優れたアルミニウム合金。
  3. Si:5〜10質量%、Mg:0.1〜0.5質量%、Ti:1〜5質量%、B:0.3〜2質量%、および残部がAlと不可避不純物からなる化学組成を有するアルミニウム合金溶湯に、液相線温度以上かつ液相線から100℃以内の温度範囲で、20〜27kHz,溶湯1kg当たり出力2kW以上、振幅10〜70μm(p−p)の超音波振動を30秒以上照射し、照射終了後180秒以内に20℃/s以上の冷却速度で加圧鋳造することを特徴とするヤング率が75GPa以上である剛性に優れたアルミニウム合金の製造方法。
  4. 前記アルミニウム合金溶湯が、さらに、0.2〜3質量%のMn、0.2〜3質量%のCrを1種類以上含む化学組成を有する請求項3に記載の剛性に優れたアルミニウム合金の製造方法。
  5. 超音波振動の照射終了後に固液共存領域まで冷却した後、半凝固状態で加圧鋳造することを特徴とする請求項3又は4に記載の剛性に優れたアルミニウム合金の製造方法。
  6. 請求項3〜5いずれか1項に記載の方法得られたアルミニウム合金鋳塊に、500℃〜535℃で6〜8時間加熱する溶体化処理を施した後、100℃以下までを20℃/s以上の冷却速度で冷却し、その後に150℃〜300℃で1〜10時間加熱する時効硬化処理を施すことを特徴とする剛性に優れたアルミニウム合金の製造方法。
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