JP4691799B2 - ピストン用アルミニウム鋳造合金およびピストンの製造方法 - Google Patents

ピストン用アルミニウム鋳造合金およびピストンの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【技術分野】
本発明は,実用疲労特性に優れたピストンおよびこれに用いるアルミニウム鋳造合金に関する。
【0002】
【従来技術】
自動車のエンジン等の内燃機関においては,それを構成する部品としてピストンが不可欠であり,従来よりアルミニウム鋳造合金を用いて作製されている。このアルミニウム鋳造合金としては,種々のものが提案され改善がなされてきている。
例えば,特開平8−104937号公報の「高温強度に優れた内燃機関ピストン用アルミニウム合金及び製造方法」においては,Cu:3〜7重量%,Si:8〜13重量%,Mg:0.3〜1重量%,Fe:0.1〜1.0重量%,Ti:0.01〜0.3重量%,P:0.001〜0.01重量%,Ca:0.0001〜0.01重量%及び必要に応じてNi:0.2〜2.5重量%を含み,P/Caが重量比で0.5〜50の範囲に調整されている合金が公開されている。
【0003】
【解決しようとする課題】
しかしながら,上記公報に示された合金は,従来よりある合金に比べ優れた耐磨耗性を維持し,且つ高温強度が改善されるという特徴を有する。しかし,ピストンのピンボス部に応力集中が生じやすいため,同部位の実用疲労特性が十分で無いという問題がある。また,ピストンの高出力化に伴ない,350℃付近まで晒される頂面部の高温疲労強度がまだ十分でないという問題もある。さらにピストンの内部に気孔が発生し易く疲労特性のばらつきが大きいという問題もある。
【0004】
また上記合金ではCuやNiなど耐熱性を高める成分の増量により高温強度をある程度高めているが,さらに添加量を高めると延性が低下し,それにより疲労強度が低下してしまうという問題が生じる。またCu量が高いとCu化合物が晶出する最終凝固部が材料内に点在し,その部分に凝固収縮により気孔が生じてしまう。
このように,耐熱成分を増量する従来の方法だけでは,ピストンとしての実用疲労特性をこれ以上向上できない限界に達している。
【0005】
本発明はかかる従来の問題点に鑑みてなされたもので,従来よりも実用疲労特性に優れたピストン用アルミニウム鋳造合金およびピストンの製造方法を提供しようとするものである。
【0006】
【課題の解決手段】
第1発明(請求項1の発明)は,Mg:0.2重量%以下,Ti:0.1〜0.3重量%,Si:11〜15重量%,Cu:2〜3.5重量%,Fe:0.2〜1重量%,Mn:0.2〜1重量%,Ni:1〜3重量%,P:0.001〜0.015重量%,残部Alおよび不純物からなり,基地α−Al相の結晶粒径dと二次デンドライトアーム間隔DASとの比d/DASが25以下であり,初晶Siが存在する過共晶組織を有することを特徴とするピストン用アルミニウム鋳造合金にある。
【0007】
本発明では,凝固組織の最適化,基地アルミ組織の最適化を図り,これらにより初めてピストンとしての実用疲労特性を向上させることができる。
まず,Mg量の低減により,ピストンの実使用中にピンボス部が晒される200℃付近までの温度域での耐力を低減している。これにより,ピストンに燃焼圧による負荷がかかった際にピストンピンの変形に追従してピンボス部が変形できる。そのため,両者の接触面積が広くなり,局部的な応力集中が防止できる効果がある。この効果により,ピンボス部の実用疲労特性が向上するメリットが生じる。このような低耐力化による実用疲労特性の向上は,従来のピストン材にはない全く新しいコンセプトである。
【0008】
また,Ti添加により結晶粒を微細化し,これによりデンドライトアームの整列を防止し,デンドライトアームの間隙に生成する晶出物が形成する凝固組織を等方・均質化することができる。これにより,発生するひずみの分布を均一にし,疲労強度を向上させている。
【0009】
また,Ti,V,Fe,Mnの添加により,高温強度を高め,ピストンの頂面部に必要な350℃付近の高温疲労強度を高めている。
また,凝固様式をα−Al相が指向性凝固する過共晶凝固にすることにより,気孔の発生を防止している。
【0010】
以下に,各合金元素量と組織形態の限定理由を記する。
Mg:0.2重量%以下,
Mgは200℃以下の低温での低耐力化と350℃付近の高温での高耐力化を両立するために,低減した。Mg含有量が0.2重量%を超えると,200℃以下での耐力が高まることによって,ピンボス部の応力集中が大きくなるとともに,基地アルミ部の延性が低下して,同部位のアルミ部に疲労亀裂が生じやすくなるデメリットが生じる。好ましい範囲は0.1重量%以下である。この限定により,上記効果はより明確に作用する。含有量が少ないほど上記メリットは大きいが,高純度でコスト高となるため,この位の限定が好ましい。
【0011】
Ti:0.1〜0.3重量%,
Ti含有量が0.1重量%未満の場合,結晶粒の微細化が不十分で,疲労強度を向上させるほど組織の等方・均質化が達成されない。Ti含有量が0.3重量%を超える場合,基地アルミ相がTi固溶により硬くなり過ぎてせん断破壊を生じるおそれがあるとともに,粗大なTi化合物が生成し靱性が低下するおそれがある。
なお,Tiの添加をAl−Ti−B合金,Al−Ti−C合金などによって行う場合には,不純物としてBおよびCの含有を許容する。
【0012】
Cu:2〜3.5重量%,
Cu含有量が2重量%未満では,350℃付近の高温耐力が十分でなく,疲労強度も不足する。Cu含有量が3.5重量%を超えると,Cu化合物が晶出する最終凝固部が点在して,凝固収縮によりこの部位に気孔が生成する。これにより疲労強度が低下する。好ましい範囲は2.5〜3.25重量%である。この範囲で,さらに安定して高い疲労特性が得られる。
【0013】
Si:11〜15重量%,
Si含有量が11重量%未満の場合,Pを添加しても過共晶凝固させることができず,亜共晶凝固してしまうおそれがある。亜共晶凝固になると,凝固時に気孔の原因となるガスを放出する基地α−Al相が分散して凝固し,最終凝固部が点在するため気孔が生じやすい。Si含有量が15重量%を超えると粗大な初晶Siが多量に生成して,低温での延性や靭性が著しく低下するおそれがある。また,被削性が著しく低下するおそれがある。Si量が高いほど350℃付近の高温疲労強度は向上する。好ましい範囲は12〜14重量%である。この範囲においてさらに安定して過共晶凝固が得られるとともに,初晶Siの大きさ,量が適度であるため,さらに高い疲労特性と適度な被削性を具備することができる。
【0014】
Fe:0.2〜1重量%,
Fe含有により,Fe化合物が晶出物を生成する。この晶出物の分散強化により高温耐力が向上する。Fe含有量が0.2重量%未満では晶出物が少なく,高温耐力の向上が十分でない。Fe含有量が1重量%を超えると,粗大なFe化合物を生成しやすく,凝固組織が不均質になり,局部的な応力集中が生じて疲労特性が低下するおそれがある。なお,Fe化合物とはFeを含む化合物の総称とする。
【0015】
Mn:0.2〜1重量%,
MnもFeと同様,化合物を晶出させ,分散強化による高温耐力の向上に寄与する。また,基地アルミ中に固溶して,固溶強化により高温耐力を向上させる効果もある。1重量%を超えると,粗大なMn化合物を生成しやすく,凝固組織が不均質になり,局部的な応力集中が生じて疲労特性が低下するおそれがある。なお,Mn化合物とはMnを含む化合物の総称とする。Mnはまた,Fe化合物中にも含有される。例えばAl−Si−Fe−Mn化合物は,FeおよびMnを含むので,Fe化合物とMn化合物の両方に属する。
【0016】
Ni:1〜3重量%,
NiもFe,Mnと同じく,化合物を晶出させ,分散強化による高温耐力の向上に寄与する。Ni含有量が1重量%未満では,Ni化合物の晶出が少なく,高温耐力の向上が不十分である。Ni含有量が3重量%を超えると粗大なNi化合物が晶出し,凝固組織が不均質になり,局部的な応力集中が生じて疲労特性が低下するおそれがある。
【0017】
P:0.001〜0.015重量%,
P添加により,安定した過共晶凝固を達成し,気孔発生を防止する。また初晶Siを微細化し,延性や靭性を確保する。0.015重量%を超えると,湯流れ性が悪化し,凝固組織が不均質になる。
【0018】
次に,基地α−Al相の結晶粒径dと二次デンドライトアーム間隔DASとの比d/DASは25以下とする。
上記d/DASが25より大きいと,凝固組織が不均質になり,局部的な応力集中が大きくなり,その結果として疲労強度が低下する。好適な範囲は20以下である。この範囲で,デンドライトアームの整列がほぼ無くなり,デンドライトアームの間隙に生成する晶出物がランダムな方位に分散して,凝固組織の均質化が十分に達成される。以上のようなd/DASの制御はTi含有量の制御および,必要に応じて後述するTi添加プロセスの併用により達成される。
【0019】
次に,組織形態は,初晶Siが存在する過共晶組織とする。
初晶Siは後述する図2,図3に示すごとく塊状の粒子(符号57)である。
凝固様式をα−Al相が指向性凝固する過共晶凝固にすることにより,気孔の発生を防止することができる。亜共晶凝固になると,凝固時に気孔の原因となるガスを放出する基地α−Al相が分散してて凝固し,最終凝固部が点在するため気孔が生じやすい。過共晶凝固への制御は主としてSi量とP添加量の調整で行う。しかし,Ca,Naなど亜共晶凝固を促進する元素を多量に含む場合には,Pの増量または亜共晶化促進元素量の低減により過共晶凝固を達成することが必要である。なお,凝固様式が過共晶凝固か亜共晶凝固かは初晶Siの有無で判断できる。
【0020】
次に,第2発明(請求項2の発明)は,Mg:0.2重量%以下,Ti:0.1〜0.3重量%,Si:11〜15重量%,Cu:2〜3.5重量%,Fe:0.2〜1重量%,Mn:0.2〜1重量%,Ni:1〜3重量%,P:0.001〜0.015重量%,V:0.03〜0.3重量%,残部Alおよび不純物からなり,基地α−Al相の結晶粒径dと二次デンドライトアーム間隔DASとの比d/DASが25以下であり,初晶Siが存在する過共晶組織を有することを特徴とするピストン用アルミニウム鋳造合金にある。
【0021】
本発明の合金は,上記第1発明の合金に,さらにV:0.03〜0.3重量%を添加したものである。
この場合には,V添加により,高温耐力が顕著に増加し高温疲労強度がさらに高まる。また,V添加は第1発明の合金の強化メカニズムを損なうことなく,高温疲労強度をさらに高めるという付加的効果を発現できる。
V含有量が0.03重量%未満では高温耐力の向上が不十分である。0.3重量%を超えると均一な溶解が難しく,組織が不均質になる。
【0022】
次に,第3発明(請求項3の発明)は,Ti:0.1〜0.3重量%,Mg:0.5〜2重量%,Si:11〜13重量%,Cu:2.5〜3.25重量%,Fe:0〜0.7重量%,Mn:0〜0.7重量%,Ni:0.5〜1.5重量%,P:0.001〜0.015重量%,残部Alおよび不純物からなり,基地α−Al相の結晶粒径dと二次デンドライトアーム間隔DASとの比d/DASが25以下であり,初晶Siが存在する過共晶組織を有することを特徴とするピストン用アルミニウム鋳造合金にある。
【0023】
この合金は,上記第1発明の合金に比較して,Mg量が高く,それに準じて,Si,Fe,Mn,Ni量を最適化している。高Mg化により基地アルミ部が析出強化され延性が乏しくなるので,Si,Fe,Mn,Niなどによって生成する晶出物の大きさと量を適正にする必要がある。晶出物が粗大またはその量が多すぎると,基地アルミとの界面に応力集中が生じて,界面の剥離や晶出物の割れが生じ易い。それが疲労破壊の起点となるので,合金の疲労強度が低下する。
【0024】
以下に,各合金元素量の限定理由を記する。
Ti:0.1〜0.3重量%,
Cu:2.5〜3.25重量%,
P:0.001〜0.015重量%,
Ti,Cu,Pの含有量の限定理由は上記第1発明の場合と同様であり,特にCuは,上述した好ましい範囲に限定した
なお,Tiの添加をAl−Ti−B合金,Al−Ti−C合金などによって行う場合には,不純物としてBおよびCの含有を許容する。
【0025】
Mg:0.5〜2重量%,
MgはMg2Si系の析出物を生成させ,その析出強化によって200℃以下の低温での耐力を改善する。2重量%を超えるとMg2Siが凝固過程で晶出物として生成し,これにより靭性が低下する。0.5重量%未満では析出量が少なく,200℃での材料としての疲労強度が十分でない。
【0026】
上記第1,第2発明の合金に比べると第3発明の合金は耐力が高く,ピストンのピンボス部においてピンとの接触による応力集中を生じ易い。従って,この合金を使用する場合には,ピンボス部の接触面積を増やして応力集中を低減するピン穴形状の最適設計が必要である。すなわち,ピンボス部の応力集中を形状設計などによって解決できる場合には,本第3発明の合金が最適であるのに対して,形状設計等の他の方法により解決できない場合には,第1,第2発明の合金を用いることが好ましい。それゆえ,第1〜3の合金により,種々の設計をしたピストンのいずれにも対応できる。
【0027】
そして,350℃付近での高温疲労強度をより重視し,ピンボス部の応力集中を最適形状設計によりある程度抑えたピストンの場合には,第1,第2の合金のMg量を0.2〜0.5重量%まで高めた合金が最適である。0.2重量%以上のMg量により適度な析出強化が図られ,200℃付近における疲労強度が著しく向上する。0.5重量%を超えると基地アルミ相が析出強化により硬くなり過ぎて,晶出物との界面に応力集中が生じ,界面剥離や晶出物の割れが生じて,疲労強度が低下する。すなわち,Mg量が0.5重量%を超える場合には第3発明の合金のごとく,Si,Fe,Mn,Ni量を次のように最適化する必要がある。
【0028】
Si:11〜13重量%,
Si含有量が13重量%を超えると初晶Siが粗大化し,またその生成量が増加して,低温での延性や靱性が十分確保できない。
【0029】
Fe:0〜0.7重量%,
350℃付近の高温強度を最重視すると0.2重量%以上のFeの含有が必須となるが,本合金では,ピンボス部の200℃付近での疲労強度をより重視するため,Feの下限は0まで許容する。Fe含有量が低いと材料の延性が増す効果も発現し,応力集中部での亀裂の発生を防止する。
【0030】
Mn:0〜0.7重量%,
MnもFeと同様,下限を0とする。理由は同じくピンボス部の疲労強度を重視するためである。また,Mn含有量が低いと延性が向上する効果も発現し,応力集中部での亀裂の発生を防止する。
【0031】
Ni:0.5〜1.5重量%,
Ni化合物を小さくかつ少なくするため,第1,2発明の合金より,含有量を少なくした。Ni含有量が0.5重量%未満では,Ni化合物の晶出が少なく,高温耐力の向上が不十分である。Ni含有量が1.5重量%を超えるとNi化合物が大きすぎて,剥離や割れが生じて疲労特性が低下するおそれがある。
【0032】
また,第3発明においても,上記と同様に,基地α−Al相の結晶粒径dと二次デンドライトアーム間隔DASとの比d/DASは25以下とし,組織形態は,初晶Siが存在する過共晶組織とする。
【0033】
次に,第4発明(請求項4の発明)は,上記第1〜第3発明のピストン用アルミニウム鋳造合金よりなるピストンを製造する方法であって,Ti含有量が0.1重量%以下の合金溶湯を準備し,該合金溶湯にAl−Ti合金を添加して上記合金溶湯内のTi含有量を増した後,該合金溶湯を700℃以上の温度に保持すると共に上記Al−Ti合金の添加後8時間以内に,鋳型内に注湯して上記ピストンを鋳造することを特徴とするピストンの製造方法にある。
【0034】
本発明では,Ti添加を上記の様なプロセスで行うことにより,d/DASが25以下の凝固組織が均質な合金およびその合金からなるピストンを量産工程で円滑に安定して製造できる。
【0035】
Al−Ti合金のTi含有量は2〜12重量%が好適である。最適含有量は5重量%であり,1〜5kg塊の形で供給されるインゴットを用いることがより好ましい。これにより,添加用合金の品質が安定し,製作した合金およびピストンの品質が安定する。
【0036】
また,Tiの添加にAl−Ti−B合金,またはAl−Ti−C合金などの結晶粒微細化用母合金を用いても良い。すなわち,上記Al−Ti合金は,Al−Tiの他に添加元素を含有する合金をも含む概念である。但し,この場合には,合金が溶解し微細化効果が出現するまでの潜伏時間と微細化効果が低下するとともにTi化合物が凝集・沈降する時間が供試母合金ごとに規定されているので,その条件に従い,添加後,注湯までのプロセスを厳密に管理する必要がある。Al−Ti合金添加の場合には,700℃以上で保持しておけばTi化合物の凝集が生じ難く,溶解後30分程度から少なくとも8時間程度は微細化効果を維持できる。
【0037】
次に,請求項5の発明のように,上記合金溶湯にAl−Cu−P合金の形でPを添加して,過共晶凝固させると共に初晶Si粒径を50μm以下に微細化することが好ましい。P添加は,初晶Siの微細化用に供給されるAl−Cu−P合金の形で行うのが好ましい。これにより,量産工程で初晶Si粒径を50μm以下に安定的に微細化できる。
【0038】
次に,請求項6の発明のように,鋳造後の上記ピストンを,温度470〜500℃で2〜12時間溶体化加熱後,温水中に焼き入れした後,温度200〜250℃で2〜12時間時効処理を施すことが好ましい。
すなわち,上記アルミニウム鋳造合金よりなるピストンは,鋳造後,溶体化処理と時効処理を施し,目的形状に機械加工して得られる。
【0039】
この熱処理条件としては,上記のごとき条件が好ましい。特に溶体化加熱温度の上限は500℃を超えない様,厳密に制御することが好ましい。500℃を超えると部分的に溶融し,再凝固の際に気孔を生成するおそれがある。このような熱処理条件により,上記合金の特性を十分に発揮し,均質で性能の安定したピストンを得ることができる。
【0040】
なお,熱処理コストを低減するため,上記溶体化処理の代わりに鋳造焼き入れ(鋳造直後に温水中に焼き入れ)を用いてもよい。この場合,焼き入れ直前のピストン温度は400℃以上であることが好ましい。
ピストンの鋳造方法としては,低コストな重力鋳造が利用できる。但し,高圧鋳造,ダイカストなどでも鋳造可能である。
【0041】
また,Tiの添加は溶解の最終工程にて,Al−Ti合金,Al−Ti−B合金,またはAl−Ti−C合金などの母合金添加の形で行うのが望ましい。これにより,結晶粒が十分に微細化され組織が等方・均質化されるとともに,凝集したTi化合物の混入を抑制できる。
【0042】
【発明の実施の形態】
実施形態例1
本発明の実施形態例にかかるピストン用アルミニウム鋳造合金につき4つの実施例と4つの比較例を用いて説明する。
【0043】
本例では,表1に示すごとく,8種類のアルミニウム合金を溶製した。
各合金は,Ti含有量が0.1重量%以下の合金溶湯を準備し,該合金溶湯にAl−Ti合金等を添加して上記合金溶湯内のTi含有量を増した後,該合金溶湯を700℃以上の温度に保持すると共に上記Al−Ti合金の添加後8時間以内に,鋳型内に注湯して鋳造した。
【0044】
具体的には,Ti,V,Pの添加はそれぞれAl−5wt%Ti合金,Al−5wt%V合金,Al−19wt%Cu−1.4wt%P合金を他の成分を調整した上記合金溶湯中に最後に溶解して行った。
その後740〜760℃でフラックス添加による脱酸処理を施した後,真空中で20分間保持する真空脱ガス処理を施した後,表面にBNを塗布した室温のJIS4号試験片採取用舟型に鋳込んだ。
【0045】
注湯温度は680℃である。なお舟型は予めバーナー加熱し十分に水分を除去した後室温に冷却したものを用いた。得られた鋳造素材に,495℃×3時間の加熱後50℃の温水中に焼き入れる溶体化処理を施し,次いで210℃×3時間の時効処理を施した。さらに,疲労試験片を採取する素材については,その試験温度と同じ350℃または200℃で100時間加熱する,予備加熱処理を施した。
【0046】
実施例1の合金は第1発明に属する合金でMg量が低く,Tiを添加したものである。
実施例2の合金は,実施例1の合金にVを添加した第2発明に属する合金である。
実施例3の合金は第3発明に属する合金で,Mgを増量し,Si,Ni,Fe,Mnを減量した合金である。
実施例4の合金は実施例1の合金にMgを適量添加した合金である。
【0047】
比較例1はピストンに広く使用されているJISのAC8A合金である。
比較例2の合金はCu量を高くし,高温強度を高めた公知合金である。
比較例3は実施例1に比ぺCu量のみ低い合金である。
比較例4は実施例1に比ぺCu量が高い合金である。
【0048】
【表1】
Figure 0004691799
【0049】
この様に熱処理した鋳造素材から機械加工により疲労試験片,組織観察試料および硬さ測定試料を採取した。疲労試段片の平行部はφ4mm×長さ6mmとし,舟型底から14mm高さの位置を試験辺の軸中心として加工した。硬さ測定試料は200℃で100時間の予備加熱を行った素材から採取した。
【0050】
350℃での疲労試験はφ4×長さ6mmの平行部を有する平滑試験片を用いて,電気油圧式疲労試験機により,引張−圧縮の50Hzの正弦波応力波形にて実施した。また,200℃での切欠材の疲労試験は,φ6mmの平行部に3本の環状切欠(切欠底径φ4mm,切欠底R0.1)付き試験片を用いて,電気油圧式疲労試験機により,引張−圧縮の50Hzの正玄波応力波形にて実施した。
【0051】
350℃疲労強度,200℃切欠疲労強度,室温におけるビッカース硬さおよび組織観察によって調べた気孔の有無を表2に示す。表示した疲労強度はいずれも試験結果の応力振幅−破断寿命線図から求めた寿命が107回となる疲労強度である。
【0052】
組織観察の結果,Al−Ti合金の形でTiを0.2重量%添加した実施例1〜4および比較例3,4の合金は結晶粒径dと二次デンドライトアーム間隔DASとの比d/DASが25以下でデンドライトアームの整列がほとんどない均質な凝固組織であるのに対し,Ti添加量が0.1重量%以下である比較例1,2の合金ではd/DASが25より大きくデンドライトアームの整列が多く認められる不均質な凝固組織であった。
【0053】
ここで,上記結晶粒径dと二次デンドライトアーム間隔DASとの関係を,図1を用いて模式的に説明する。
同図より知られるごとく,上記アルミニウム鋳造合金の組織における結晶粒5は,主として基地α−Al相56と,これと同じ相よりなりデンドライト50とそれを取り囲む晶出物55とにより構成されている。そして,二次デンドライトアーム間隔DASは,この二次デンドライトアーム54の平均間隔の寸法である。
【0054】
図2に示す比較例2の合金の組織においては,符号6に示す様な二次デンドライトアームの整列した部分が明らかに認められる。これに対し図3に示す本発明の合金の組織においては,このような二次デンドライトアームの整列が認められず,組織が均質であると判断できる。
このように組織の均質性の判断基準として上記d/DASの代りに二次デンドライトアームの整列部の有無を用いてもよい。この場合,二次デンドライトアームが10個以上,明確に同一方向に並んでいる図2の符号6のような組織を整列有りと判断する。なお,この判断は試料の標準的な組織写真を用いて行うものとし,ごく一部の特異組織は判断対象としないこととする。
【0055】
また,Cu量が高い比較例2と4の合金では気孔が観察され,安定した疲労強度が要求されるピストン材料としては好ましくない。
また,供試した全合金はAl−Cu−P合金の形でP添加を行っており,その結果初晶Siの平均粒径は50μm以下と微細であることを確認した。
表2から知られるごとく,実施例1〜4の合金はいずれも比較例1〜3の合金に比べて350℃における高温疲労強度が高い。
【0056】
すなわち,実施例1〜4の合金は高出力ピストンの頂面部に要求される350℃付近の温度域での疲労特性に優れると考えられる。
また,実施例3,4の合金は比較例2の合金に比べて200℃の切欠疲労強度が高い。
比較例1の合金も同強度が高いが350℃の疲労強度が極めて低い欠点がある。
実施例1,2の合金は200℃切欠疲労強度が比較例2に比べてやや高いレベルにしかないが,硬さが著しく低いという特徴を持つ。すなわち,硬さが低い実施例1,2の合金でピストンを製造すると,ピストンピンの変形に応じてピンボス部が変形し易く,両者の接触面が増して応力集中が低減されるという効果が期待できる。
【0057】
実施例1,2の合金では200℃での疲労強度が適度である上,このような接触応力の低減効果が期待できるので,ピンボス部の実用疲労特性に優れると考えられる。なお,比較例3の合金は,さらに硬さが低い特徴を持つが,200℃における平滑材の疲労強度が極度に低い上,350℃疲労強度も実施例1〜4ほど高くない。
【0058】
以上の結果から,Ti添加により凝固組織を均質化し,Cu量を適度に増量し,Mg量に応じてSi,Ni,Fe,Mn量を調整した第1〜第3発明に属する実施例1〜4の合金が,頂面およびピンボス部の実用疲労特性に優れることが分かった。なお,Vの適量添加によりさらに疲労強度が向上することが分かった。
【0059】
【表2】
Figure 0004691799
【0060】
実施形態例2
本例では,上記実施例1〜4のアルミニウム鋳造合金を用いて製造したピストンの一例を示す。
本例のピストン1は,図4に示すごとく,全体形状が円筒状であって,その上端に頂面部3を有し,その裏側にピンボス部2を2つ有している。各ピンボス部2にはピン穴20が設けられており,各ピン穴20に図示しないコンロッドを固定するためのピストンピンを挿入するように構成されている。
【0061】
このピストン1を製造するに当たっては,上記実施形態例1の試験片を製造する場合と同様に行う。
すなわち,Ti含有量が0.1重量%以下の合金溶湯を準備し,合金溶湯にAl−Ti合金,Al−Cu−P合金等を添加して上記合金溶湯内のTi含有量を増す。その後,この合金溶湯を700℃以上の温度に保持すると共に上記Al−Ti合金の添加後8時間以内に,鋳型内に注湯して上記ピストン1を鋳造する。
その後,ピストン1は,温度470〜500℃で2〜12時間溶体化加熱後,温水中に焼き入れした後,温度200〜250℃で2〜12時間時効処理を施す。
【0062】
このようにして得られたピストン1は,使用する合金(実施例1〜4)ごとに,それぞれ上記実施形態例1において述べたような優れた作用効果を発揮する。
それ故,ピストン1は,過共晶凝固による気孔発生の防止,Ti添加による凝固組織の均質化,最適Cu添加,Ti,V,Fe,Mn添加による高温強度向上,Al−Cu−P添加による初晶Si微細化,Mg低減による低耐力化を併用することにより,ピストンとしての多様な実用疲労特性を総合的に高めることができる。
【0063】
【発明の効果】
上述のごとく,本発明によれば,従来よりも実用疲労特性に優れたピストン用アルミニウム鋳造合金およびピストンの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態例1における,結晶粒径dと二次デンドライトアーム間隔DASとの関係を示す説明図。
【図2】実施形態例1における,比較例2の合金の光学顕微鏡組織を示す図面代用写真。
【図3】実施形態例1における,実施例1の合金の光学顕微鏡組織を示す図面代用写真。
【図4】実施形態例2における,ピストンの一部切欠き斜視図。
【符号の説明】
1...ピストン,
2...ピンボス部,
20...ピン穴,
3...頂面部,
5...結晶粒,
50...デンドライト,
54...二次デンドライトアーム,
55...初晶Si以外の晶出物(黒又は灰色の粒子),
56...基地α−Al相(白い基地部),
57...初晶Si(塊状の粒子),
6...二次デンドライトアームが整列した部分,

Claims (6)

  1. Mg:0.2重量%以下,Ti:0.1〜0.3重量%,Si:11〜15重量%,Cu:2〜3.5重量%,Fe:0.2〜1重量%,Mn:0.2〜1重量%,Ni:1〜3重量%,P:0.001〜0.015重量%,残部Alおよび不純物からなり,基地α−Al相の結晶粒径dと二次デンドライトアーム間隔DASとの比d/DASが25以下であり,初晶Siが存在する過共晶組織を有することを特徴とするピストン用アルミニウム鋳造合金。
  2. Mg:0.2重量%以下,Ti:0.1〜0.3重量%,Si:11〜15重量%,Cu:2〜3.5重量%,Fe:0.2〜1重量%,Mn:0.2〜1重量%,Ni:1〜3重量%,P:0.001〜0.015重量%,V:0.03〜0.3重量%,残部Alおよび不純物からなり,基地α−Al相の結晶粒径dと二次デンドライトアーム間隔DASとの比d/DASが25以下であり,初晶Siが存在する過共晶組織を有することを特徴とするピストン用アルミニウム鋳造合金。
  3. Mg:0.5〜2重量%,Ti:0.1〜0.3重量%,Si:11〜13重量%,Cu:2.5〜3.25重量%,Fe:0〜0.7重量%,Mn:0〜0.7重量%,Ni:0.5〜1.5重量%,P:0.001〜0.015重量%,残部Alおよび不純物からなり,基地α−Al相の結晶粒径dと二次デンドライトアーム間隔DASとの比d/DASが25以下であり,初晶Siが存在する過共晶組織を有することを特徴とするピストン用アルミニウム鋳造合金。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載のピストン用アルミニウム鋳造合金よりなるピストンを製造する方法であって,
    Ti含有量が0.1重量%以下の合金溶湯を準備し,該合金溶湯にAl−Ti合金を添加して上記合金溶湯内のTi含有量を増した後,該合金溶湯を700℃以上の温度に保持すると共に上記Al−Ti合金の添加後8時間以内に,鋳型内に注湯して上記ピストンを鋳造することを特徴とするピストンの製造方法。
  5. 請求項4において,上記合金溶湯にAl−Cu−P合金の形でPを添加して,過共晶凝固させると共に初晶Si粒径を50μm以下に微細化することを特徴とするピストンの製造方法。
  6. 請求項4又は5において,鋳造後の上記ピストンを,温度470〜500℃で2〜12時間溶体化加熱後,温水中に焼き入れした後,温度200〜250℃で2〜12時間時効処理を施すことを特徴とするピストンの製造方法。
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