JP2011043156A - 制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】EGR(Exhaust Gas Recirculation)カット中に可変ターボのノズルベーンを操作して吸気管内圧力を制御できないケースにおいて、吸気管内圧力を適切に制御できるようにする。
【解決手段】EGRバルブ45、可変ターボのノズルベーン42及びDスロットルバルブ33に与えるべき制御入力を反復的に演算するサーボコントローラ51と、EGRガスの還流を停止するEGRカットを実行しかつDスロットルバルブ33の開閉操作を通じて吸気管内圧力の制御を継続するための所定条件が成立しているときに、EGR率とその目標値との偏差を0と見なし、EGRバルブ45の開度をサーボコントローラ51が演算した制御入力によらない値に操作する補正制御部52とを具備する制御装置5を構成した。
【選択図】図2
【解決手段】EGRバルブ45、可変ターボのノズルベーン42及びDスロットルバルブ33に与えるべき制御入力を反復的に演算するサーボコントローラ51と、EGRガスの還流を停止するEGRカットを実行しかつDスロットルバルブ33の開閉操作を通じて吸気管内圧力の制御を継続するための所定条件が成立しているときに、EGR率とその目標値との偏差を0と見なし、EGRバルブ45の開度をサーボコントローラ51が演算した制御入力によらない値に操作する補正制御部52とを具備する制御装置5を構成した。
【選択図】図2
Description
本発明は、排気ターボ過給機及び排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation)装置が付帯した内燃機関を制御する制御装置に関する。
下記特許文献1に開示されているEGRシステムは、過給機を備えた内燃機関のEGR率(または、EGR量)を制御するものである。EGR率と過給圧との間には相互干渉が存在し、一入力一出力のコントローラでEGR率及び吸気管内圧力(または、吸気量)の両方を同時に制御することは難しい。しかも、内燃機関の運転領域によって応答性が異なる上、過給機にはターボラグ(むだ時間)がある。このような事情から、特許文献1に記載のシステムでは、非線形制御対象に対して有効な制御手法であるスライディングモード制御を採用し、相互作用を考慮した多入力多出力のコントローラを設計してEGR制御をしている。
EGRシステムを持つ内燃機関では、時としてそのEGRをカット、即ちEGR通路を閉鎖して排気ガスの還流を停止する必要が生じる。ところが、上記の如き多入力多出力の協調制御では、吸気管内圧力をEGR率とともにあるべき目標値に追従させようとすると、EGRバルブが協調して開いてしまう。となれば、EGR通路が完全に閉鎖状態にあることは保証されず、EGRカット中にもかかわらず排気ガスが漏流してしまうことがあり得た。
そこで、EGRカットを行う際には、EGRバルブを強制的に全閉し、かつDスロットルバルブを強制的に全開するとともに、コントローラにEGR率及びその偏差として0を与え、このコントローラが算出する制御入力値に応じて可変ターボのノズルベーンを開閉操作するようにしている。このような処理を実行することにより、EGRを確実にカットしながら、吸気管内圧力を所要の目標値に制御し続けることが可能となる。
しかしながら、上述した処理を適用できないケースも存在する。例えば、高地等の大気圧の低い場所で低回転低負荷運転をする場合や、エンジン冷却水温が低く目標吸気管内圧力及び実測吸気管内圧力もともに低いような場合等には、燃焼不安定または失火を予防する目的でEGRをカットする。だが、排気ガス量が少なく排気圧も低いことから排気ターボは殆ど仕事をしてくれず、ノズルベーンを操作しても吸気管内圧力を増減させることができない。
また、DPF(Diesel Particulate Filter)を再生する、即ちDPFに捕集しているPM(Particulate Matter)を酸化させて除去する場合、DPFの温度を高めるべく高温の排気ガスをどんどんDPFに送り込む必要があり、そのためにEGRカットを行う。このときには、DPFが詰まっていることにより排気ターボにおけるタービン前後の圧力差が小さくなっており、ノズルベーンを操作しても排気ターボの仕事量が変化しないので、やはり吸気管内圧力を増減させることができない。
以上に鑑みてなされた本発明は、EGRカット中に可変ターボのノズルベーンを操作して吸気管内圧力を制御できないケースにおいて、吸気管内圧力を適切に制御できるようにすることを所期の目的としている。
本発明では、排気ターボ過給機及びEGR装置が付帯した内燃機関の吸気管内圧力または吸気量をEGR率またはEGR量とともに制御するものであって、EGRバルブ、可変ターボのノズルベーン及びDスロットルバルブに与えるべき制御入力を反復的に演算するサーボコントローラと、EGRガスの還流を停止するEGRカットを実行しかつDスロットルバルブの開閉操作を通じて吸気管内圧力または吸気量の制御を継続するための所定条件が成立しているときに、EGR率またはEGR量とその目標値との偏差を0と見なし、EGRバルブの開度をサーボコントローラが演算した制御入力によらない値に操作する補正制御部とを具備することを特徴とする制御装置を構成した。このようなものであれば、低大気圧下で低回転低負荷運転を行うケースや、DPF再生を行うケース等において、EGRをカットしつつ吸気管内圧力の制御を継続することが可能となる。
前記補正制御部は、前記所定条件が成立しているときに、ノズルベーンの開度をサーボコントローラが演算した制御入力によらない値に操作することができる。例えば、低大気圧下で低回転低負荷運転を行うケースではノズルベーン開度を絞り気味の値に固定することが好ましく、DPF再生を行うケースではノズルベーン開度を開き気味の値に固定することが好ましい。但し、ノズルベーンの開度操作を、スライディングモードコントローラに委ね続けても構わない。
また、特に、DPFに捕集しているPMを酸化させるDPF再生を行うケースでは、前記補正制御部が、吸気管内圧力の目標値を大気圧以下に設定するものとする。これにより、サーボコントローラが算出するDスロットルバルブ開度の縮小、並びにノズルベーン開度の拡大を誘発する。さすれば、DPFの温度を効果的に高めることが可能となる。
前記サーボコントローラが、制御出力とその目標値との偏差の時間積分xz及びそれ以外のものxyを含む、各制御出力毎に個別の状態変数を参照して、線形入力及び非線形入力を反復的に演算するスライディングモードコントローラである場合、前記補正制御部は、前記所定条件が成立しているときに、前記非線形入力を規定する、EGR率またはEGR量に係る状態変数xz及びxyについての多項式Szxz+Syxyを0とする。ここで、Szは切換超平面を構成する行列Sの成分のうち前記状態変数xzに乗ずる列ベクトルであり、Syは同行列Sの成分のうち前記状態変数xyに乗ずる列ベクトルである。
EGRカット中、スライディングモードコントローラは、EGR率の偏差を0として制御入力を演算する。つまり、EGRカット中は状態変数xzが一定にホールドされるのであるが、そのxzの固定値はEGRカットの機会が訪れる毎に異なり得る(xzは積算値であることから、過去の経緯に依存する)。そうなれば、EGRカット時における、各バルブの開度の再現性が失われてしまう。結果、燃費や燃焼安定性に不利な制御入力が選択されたり(ディーゼルエンジンのDスロットルバルブの開度を不適当に絞ってしまう等)、エンジン出力がその時々でばらついたり、EGRカットを終了する際の制御追従性の一時的劣化(ひいては、排気ガスの一時的悪化)を招いたりするきらいがある。このような問題を回避するため、本発明では、EGRカット中、Szxz+Syxy=0が成立するようにEGR率に係る状態変数xzを書き換え、この状態変数xzが(スライディングモードコントローラが算出する)非線形入力項に影響を及ぼすことを阻止する。
本発明によれば、EGRカット中に可変ターボのノズルベーンを操作して吸気管内圧力を制御できないケースにおいても、吸気管内圧力を適切に制御することが可能となる。
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に示すものは、本発明の適用対象の一であるEGRシステムである。内燃機関2に付帯するこのEGRシステムは、吸排気系3、4における複数の流体圧または流量に関する値を検出するための計測器11、12と、それらの値に目標値を設定し、各値を目標値に追従させるべく複数の操作部45、42、33を操作する制御装置たるECU(Electronic Control Unit)5とを具備してなる。
内燃機関2は、例えば過給機を備えたディーゼルエンジンである。内燃機関2の吸気系3には、可変ターボのコンプレッサ31を配設するとともに、その下流に吸気冷却用のインタークーラ32、及び新気量を調節するDスロットルバルブ33を設ける。また、新気量を計測する流量計11、吸気管内圧力を計測する圧力計12をそれぞれ設置する。
内燃機関2の排気系4には、コンプレッサ31を駆動するタービン41を配設し、タービン41の入口には過給機のA/R比を増減させるためのノズルベーン42を設ける。タービン41の下流には、DPF(図示せず)を設置する。そして、内燃機関2の燃焼室より排出される排気ガスの一部を吸気系3に還流させるEGR通路43を形成する。EGR通路43は、吸気系3におけるスロットルバルブ33よりも下流に接続する。EGR通路43には、排気冷却用のEGRクーラ44と、通過する排気ガス(EGRガス)量を調節する外部EGRバルブ45とを設ける。
本実施形態では、EGR率(または、EGR量)と、吸気管内圧力(または、吸気量)とについて各々目標値を設定し、双方の制御量を一括に目標値に向かわせるべく複数の操作部、即ちEGRバルブ45、可変ターボのノズル42及びスロットルバルブ33を操作する制御を実施する。
EGRバルブ45、ノズルベーン42、スロットルバルブ33は、ECU5により統御されてその開度をリニアに変化させる。各操作部45、42、33は、駆動信号のデューティ比を増減させることで開度を変える電気式のバルブや、あるいはバキュームコントロールバルブ等と組み合わされ弁体のリフト量を制御して開度を変える機械式のバルブ等を用いてなる。
ECU5は、プロセッサ、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)またはフラッシュメモリ、A/D変換回路、D/A変換回路等を包有するマイクロコンピュータである。ECU5は、EGR率及び吸気管内圧力を検出するための計測器11、12の他、エンジン回転数、アクセルペダルの踏込量、冷却水温、吸気温、外部の気温、大気圧、DPFの前後差圧(DPFの上流側排気圧と下流側排気圧との差)等を検出する各種計測器(図示せず)と電気的に接続し、これら計測器から出力される信号を受け取って各値を知得することができる。
因みに、本実施形態では、EGR率を直接計測していない。内燃機関2のシリンダに入る空気量は、可変ターボのノズル開度を基に予測することが可能である。その空気量の予測値をgcylとおき、流量計11で計測される新気量をgaとおくと、推定EGR率eegrについて、eegr=1−ga/gcylなる関係が成立する。ECU5のROMまたはフラッシュメモリには予め、可変ターボのノズル開度とシリンダに入る空気量との関係を定めたマップデータが記憶されている。ECU5は、可変ターボのノズル開度をキーとしてマップを検索し、シリンダに入る空気量の予測値を得、これと新気量とを上記式に代入してEGR率を算出する。
並びに、ECU5は、EGRバルブ45、可変ターボのノズル42、スロットルバルブ33や、燃料噴射を司るインジェクタ及び燃料ポンプ等(図示せず)と電気的に接続しており、これらを駆動するための信号を入力することができる。
ECU5で実行するべきプログラムはROMまたはフラッシュメモリに予め記憶されており、その実行の際にRAMへ読み込まれ、プロセッサによって解読される。ECU5は、プログラムに従い内燃機関2を制御する。例えば、エンジン回転数、アクセルペダルの踏込量、冷却水温等の諸条件に基づき要求される燃料噴射量(いわば、要求されるエンジン負荷)を決定し、その要求噴射量に対応する駆動信号をインジェクタ等に入力して燃料噴射を制御する。その上で、ECU5は、プログラムに従い、図2、図3に示すサーボコントローラ51及び補正制御部52としての機能を発揮する。
サーボコントローラ51は、スライディングモードコントローラであって、EGR率及び吸気管内圧力のスライディングモード制御を担う。フィードバック制御時、ECU5は、各種計測器(図示せず)が出力する信号を受け取ってエンジン回転数、アクセル踏込量、冷却水温、吸気温、外部の気温及び気圧等を知得し、要求噴射量を決定する。続いて、少なくともエンジン回転数及び要求噴射量に基づき、目標EGR率及び目標吸気管内圧力を設定する。ECU5のROMまたはフラッシュメモリには予め、エンジン回転数及び要求噴射量に応じて設定するべき各目標値を示すマップデータが記憶されている。ECU5は、エンジン回転数及び要求噴射量をキーとしてマップを検索し、EGR率及び吸気管内圧力の目標値を得る。さらに、マップを参照して得た目標値を基本値とし、これを冷却水温、吸気温、外部の気温や気圧等に応じて補正して最終的な目標値とする。
そして、ECU5は、計測器11、12が出力する信号を受け取ってEGR率及び吸気管内圧力の現在値を知得し、各制御量の現在値と目標値との偏差からEGRバルブ45の開度、可変ターボのノズル42の開度及びスロットルバルブ33の開度を演算して、各々の操作量に対応する駆動信号をそれら操作部45、42、33に入力、開度を操作する。
EGR率の適応スライディングモード制御に関して補記する。状態方程式及び出力方程式は、下式(数1)の通りである。
プラントのモデル化、即ち状態方程式(数1)における係数行列A及び入力行列Bの同定にあたっては、各操作部45、42、33に様々な周波数からなるM系列信号を入力して開度を操作し、EGR率及び吸気管内圧力の値を観測して、その入出力データから行列A、Bを同定する。各操作部45、42、33に入力するM系列信号は、互いに無相関なものとする。これにより、各値の相互干渉を考慮したモデルを作成することができる。
図3に、本実施形態の適応スライディングモード制御系のブロック線図を示す。スライディングモードコントローラ51の設計手順には、切換超平面の設計と、状態量を切換超平面に拘束するための非線形切換入力の設計とが含まれる。1形のサーボ系を構成するべく、当初の状態量ベクトルXに、目標値ベクトルRと出力ベクトルYとの偏差の積分値ベクトルZを付加した新たな状態量ベクトルXeを定義すると、下式(数2)に示す拡大系の状態方程式を得る。
なお、上記式(数8)、(数9)に替えて、以下に示す離散系の超平面構築式(数10)及び代数リカッチ方程式(数11)を用いてもよい。
スライディングモード制御では、状態量を超平面に拘束するために非線形ゲインを大きくする必要がある。だが、非線形ゲインを大きくすると、制御入力にチャタリングが発生する。そこで、モデルの不確かさを、構造が既知でパラメータが未知な確定部分と、構造が未知だがその上界値が既知な不確定部分とに分ける。状態方程式(数1)に不確かさ(f+Δf)を加え、下式(数19)で表す。
制御入力Uは、式(数18)に適応項Uadを追加した下式(数20)となる。
尤も、本実施形態のような3入力2出力のシステムでは、det(SBe)=0が成立し、行列(SBe)は正則とはならない。そこで、逆行列(SBe)-1を、一般化逆行列として算定する。一般化逆行列には、例えばムーア・ペンローズ型の逆行列(SBe)†を用いる。
EGRバルブ45に係る制御入力u1、ノズルベーン42に係る制御入力u2、Dスロットルバルブに係る制御入力u3はそれぞれ、下式(数22)に示すように、線形入力項と非線形入力項と適応項との和となる。
しかして、補正制御部52は、EGR通路43を閉鎖してEGRガスの還流を停止する必要が生じた場合に、EGRカットのための各種処理を実行する。
一般的なEGRカット条件は、内燃機関2や自動車の種類等によっても異なるが、
(I)高回転で高負荷の運転領域にあるとき。つまり、エンジン回転数が閾値以上かつ燃料噴射量が閾値以上であるとき
(II)標高の高い場所に所在し、ある程度以上の負荷運転領域にあるとき。換言すれば、外部の気圧が、エンジン回転数及び燃料噴射量を基に定まる閾値(ECU5のROMまたはフラッシュメモリには予め、エンジン回転数及び燃料噴射量に応じて設定するべき外気圧の閾値を示すマップデータが記憶されている)以下であるとき
(III)標高の低い場所に所在し、暖気運転を必要としているとき。つまり、外部の気圧が所定閾値以上かつ冷却水温が所定閾値(典型的には、40℃)以下であるとき
等にEGRカットを行う。そのときには、EGRバルブ45を強制的に全閉し、Dスロットルバルブ33を強制的に全開するとともに、可変ターボのノズルベーン42を開閉操作して吸気管内圧力y2を制御する。
(I)高回転で高負荷の運転領域にあるとき。つまり、エンジン回転数が閾値以上かつ燃料噴射量が閾値以上であるとき
(II)標高の高い場所に所在し、ある程度以上の負荷運転領域にあるとき。換言すれば、外部の気圧が、エンジン回転数及び燃料噴射量を基に定まる閾値(ECU5のROMまたはフラッシュメモリには予め、エンジン回転数及び燃料噴射量に応じて設定するべき外気圧の閾値を示すマップデータが記憶されている)以下であるとき
(III)標高の低い場所に所在し、暖気運転を必要としているとき。つまり、外部の気圧が所定閾値以上かつ冷却水温が所定閾値(典型的には、40℃)以下であるとき
等にEGRカットを行う。そのときには、EGRバルブ45を強制的に全閉し、Dスロットルバルブ33を強制的に全開するとともに、可変ターボのノズルベーン42を開閉操作して吸気管内圧力y2を制御する。
これに対し、本実施形態で重視しているのは、EGRカットを必要としながらも、ノズルベーン42の開閉操作によっては吸気管内圧力y2をその目標値r2に制御できないケースである。例えば、
(IV)標高の高い場所に所在し、上記条件(II)の成立しない低回転低負荷の運転領域にあるとき
(V)DPFの再生を必要とするとき。つまり、DPFの前後差圧が所定値を越えているとき
(VI)エンジン冷却水温が所定域位置以下であり、目標吸気管内圧力が所定閾値以下、実測吸気管内圧力が所定閾値以下であるとき
等が該当する。以降、このようなケースをEGRカットNA域と呼称する。図4に、現在状況がEGRカットNA域にあるか否かを判定するためのEGRカットNA条件を概念的に示している。
(IV)標高の高い場所に所在し、上記条件(II)の成立しない低回転低負荷の運転領域にあるとき
(V)DPFの再生を必要とするとき。つまり、DPFの前後差圧が所定値を越えているとき
(VI)エンジン冷却水温が所定域位置以下であり、目標吸気管内圧力が所定閾値以下、実測吸気管内圧力が所定閾値以下であるとき
等が該当する。以降、このようなケースをEGRカットNA域と呼称する。図4に、現在状況がEGRカットNA域にあるか否かを判定するためのEGRカットNA条件を概念的に示している。
補正制御部52は、EGRカットNA域におけるEGRカット中、スライディングモードコントローラ51に与える目標値Rを切り換える。即ち、補正制御部52は、EGRカット用のEGR率目標値egrtargを、目標値r1としてスライディングモードコントローラ51に与える。このegrtargは、通常0である。
他方、吸気管内圧力の目標値r2については、DPFの再生処理を行う場合を除き、エンジン回転数や燃料噴射量等に基づいて定まる本来の目標値をスライディングモードコントローラ51に与える。DPFの再生処理を行う場合には、大気圧以下の所定値を、吸気管内圧力の目標値r2としてスライディングモードコントローラ51に与える。DPFの再生期間は、DPFの温度を高める目的で、ノズルベーン42をできる限り大きく開き、かつDスロットルバルブ33をできる限り小さく絞っておきたいことによる。
さらに、補正制御部52は、同じegrtargを、EGR率y1及びxe3(本実施形態では、状態量X=出力Yとしていることに留意)としてスライディングモードコントローラ51に与える。つまり、計測器11、12を介して検出したEGR率の実測値を無視する。これにより、EGRカット中のEGR率の偏差が0と見なされる。
また、補正制御部52は、EGRカットNA域におけるEGRカット中、EGRバルブ45の開度を、スライディングモードコントローラ51が演算した制御入力u1によらずに全閉する。並びに、ノズルベーン42の開度を、スライディングモードコントローラ51が演算した制御入力u2によらない値に強制操作する。例えば、標高の高い場所での低回転低負荷運転ではノズルベーン42を絞り気味の開度に固定し、DPFの再生処理ではノズルベーン42を全開に近い開き気味の開度に固定する。このときのノズルベーン42の開度を、エンジン回転数及び燃料噴射量の多寡に応じて決定するようにしてもよい。
但し、EGRカットNA域におけるEGRカット中に、ノズルベーン42の開度操作をスライディングモードコントローラ51に委ね続ける、即ちスライディングモードコントローラが演算した制御入力u2をそのままノズルベーン42に与え続けることを妨げない。
以上に加え、補正制御部52は、EGRカットNA域におけるEGRカット中、EGR率y1に係る状態変数xe1及びxe3についての多項式S1xe1+S3xe3を0とする。
スライディングモードコントローラ51が算出する非線形入力Unlは、下式(数23)に示す切換関数σに依存する。
EGRカット中は、EGRバルブ45を強制的に全閉してしまうことから、EGR率y1の制御を考慮しなくてよい。つまり、上式(数23)におけるS1xe1の項及びS3xe3の項が必要ない。よって、EGRカット中、S1xe1+S3xe3=0となるように状態変数xe1、xe3を反復継続的に書き換えて、これら状態変数xe1、xe3が非線形入力Unlに与える影響を除去する。
但し、状態変数xe3は線形入力Ueqにも影響を及ぼすので、xe3を書き換えることは得策でない。翻って、状態変数xe1は線形入力Ueqに影響を及ぼさない(行列Aeの定義に留意)。従って、状態変数xe1を書き換えることを通じて、S1xe1+S3xe3=0を実現する。そのために必要なxe1は、下式(数24)となる。
図5に、ECU5が実行する処理の手順例を示す。ECU5は、エンジン回転数及び要求燃料噴射量、冷却水温、大気圧、DPFの前後差圧等を参照して、EGRカットNA条件が成立したか否かを判断する(ステップS1)。EGRカットNA条件が成立していれば、S1xe1+S3xe3=0の関係を満足する状態変数xe1を算出し(ステップS2)、ECU5のメモリに記憶保持しているxe1の書き換えを行う(ステップS3)。
その上で、スライディングモード制御の手法に則り、制御入力Uを算出する(ステップS4)。ステップS4では、所定の目標EGR率egrtargを、EGR率の目標値r1及び実測値y1、xe3としてスライディングモードコントローラ51に与える。加えて、DPFの再生処理に伴うEGRカットであるならば、大気圧よりも低い目標吸気管内圧力r2をスライディングモードコントローラ51に与える。
しかる後、操作部45、42、33を操作する(ステップS5)。ステップS5では、Dスロットルバルブ33にスライディングモードコントローラ51で演算した制御入力値u3を与える一方、EGRバルブ45をスライディングモードコントローラ51で演算した制御入力値u1によることなく全閉する。さらに、必要に応じて、ノズルベーン42を、スライディングモードコントローラ51で演算した制御入力値u2を無視して強制操作する。
ステップS2ないしS5を含むEGRカット処理は、EGRカットNA条件が成立しなくなるまで、即ちEGRカットを終了するまで続行する(ステップS6)。
EGRカットNA条件の成立していない期間は、原則(EGRカット条件の成立時等を除き)、通常通り制御入力Uを算出し(ステップS7)、操作部45、42、33にその制御入力Uをそのまま与えてこれら操作部45、42、33を操作する(ステップS8)。
ECU5は、上記のステップS1ないしS8を、反復的に実施する。
本実施形態によれば、排気ターボ過給機及びEGR装置が付帯した内燃機関2の吸気管内圧力または吸気量をEGR率またはEGR量とともに制御するものであって、EGRバルブ45、可変ターボのノズルベーン42及びスロットルバルブ33に与えるべき制御入力Uを反復的に演算するサーボコントローラ51と、EGRガスの還流を停止するEGRカットを実行しかつスロットルバルブ33の開閉操作を通じて吸気管内圧力または吸気量の制御を継続するための所定のEGRカットNA条件が成立しているときに、EGR率またはEGR量とその目標値との偏差を0と見なし、EGRバルブ45の開度をサーボコントローラ51が演算した制御入力u1によらない値に操作する補正制御部52とを具備する制御装置を構成したため、低大気圧下で低回転低負荷運転を行うケースや、DPF再生を行うケース等において、EGRを確実にカットしつつ吸気管内圧力の適切な制御を継続することが可能となる。
EGRカットNA条件が成立しているときに、前記補正制御部52が、ノズルベーン42の開度をサーボコントローラ51が演算した制御入力u2によらない値に操作するものであるため、EGRカット中にノズルベーン42の開度が極端に大きくなったり小さくなったりすることを予防できる。ノズルベーン42の開閉速度は有限である(現実には、1秒間かけても全開から全閉に操作するようなことはできない)が、上記の手立てにより、EGRカット終了後の制御追従性を保つことが可能となり、EGRカット終了に伴う排気ガスの一時的悪化を回避できる。
DPFに捕集しているPMの酸化処理を行う場合であって、EGRカットNA条件が成立しているときに、前記補正制御部52が、吸気管内圧力の目標値を大気圧以下に設定するものであるため、サーボコントローラ51が算出するスロットルバルブ33の開度u3の縮小、並びにノズルベーン42の開度u2の拡大を誘発することができ、DPFの温度を効果的に高めることが可能となる。
前記サーボコントローラ51が、制御出力とその目標値との偏差の時間積分xe1、xe2及びそれ以外のものxe3、xe4を含む、各制御出力毎に個別の状態変数を参照して、線形入力Ueq及び非線形入力Unlを反復的に演算するスライディングモードコントローラであり、EGRカットNA条件が成立しているときに、前記補正制御部52が、前記非線形入力Unlを規定する、EGR率またはEGR量に係る状態変数xe1及びxe3についての多項式S1xe1+S3xe3を0とするものであることから、EGRカットNA域におけるxe1の固定値が恒常的に一定とならないことに起因した不都合を緩和ないし解消できる。即ち、EGRカットNA域における燃費や燃焼安定性の悪化、エンジン出力のばらつき、EGRカットを終了する際の制御追従性の一時的劣化等を回避することが可能となる。
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。EGR制御における制御入力変数は、EGRバルブ開度、可変ノズルターボ開度及びスロットルバルブ開度には限定されない。制御出力変数も、EGR率(または、EGR量)及び吸気管内圧力(または、吸気量)には限定されない。新たな入力変数、出力変数を付加して、4入力3出力の3次システムを構築するようなことも可能である。例えば、吸気系に過給機(のコンプレッサ)をバイパスする通路が存在している場合、その通路上に設けられたバルブをも操作することがある。このとき、当該バイパス通路内の圧力または流量等を制御出力変数に含め、当該バイパス通路上のバルブの開度を制御入力変数に含めることができる。
サーボコントローラが実現する多入力多出力制御の手法はスライディングモード制御には限定されず、スライディングモード制御以外の手法、例えば最適制御、H∞制御、バックステッピング制御等を採用しても構わない。
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
本発明は、例えば、過給機及びEGR装置が付帯した内燃機関のEGR率を制御するための制御コントローラとして利用することができる。
5…ECU(制御装置)
51…適応スライディングモードコントローラ(サーボコントローラ)
52…補正制御部
51…適応スライディングモードコントローラ(サーボコントローラ)
52…補正制御部
Claims (4)
- 排気ターボ過給機及び排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation)装置が付帯した内燃機関の吸気管内圧力または吸気量をEGR率またはEGR量とともに制御するものであって、
EGRバルブ、可変ターボのノズルベーン及びDスロットルバルブに与えるべき制御入力を反復的に演算するサーボコントローラと、
EGRガスの還流を停止するEGRカットを実行しかつDスロットルバルブの開閉操作を通じて吸気管内圧力または吸気量の制御を継続するための所定条件が成立しているときに、EGR率またはEGR量とその目標値との偏差を0と見なし、EGRバルブの開度をサーボコントローラが演算した制御入力によらない値に操作する補正制御部と
を具備することを特徴とする制御装置。 - 前記補正制御部は、前記所定条件が成立しているときに、ノズルベーンの開度をサーボコントローラが演算した制御入力によらない値に操作する請求項1記載の制御装置。
- 前記所定条件が、DPF(Diesel Particulate Filter)に捕集しているPM(Particulate Matter)の酸化処理を行う場合であって、
前記補正制御部は、前記所定条件が成立しているときに、吸気管内圧力の目標値を大気圧以下に設定する請求項1または2記載の制御装置。 - 前記サーボコントローラは、制御出力とその目標値との偏差の時間積分xz及びそれ以外のものxyを含む、各制御出力毎に個別の状態変数を参照して、線形入力及び非線形入力を反復的に演算するスライディングモードコントローラであり、
前記補正制御部は、前記所定条件が成立しているときに、前記非線形入力を規定する、EGR率またはEGR量に係る状態変数xz及びxyについての多項式Szxz+Syxyを0とする請求項1、2または3記載の制御装置。
但し、Szは切換超平面を構成する行列Sの成分のうち前記状態変数xzに乗ずる列ベクトルであり、Syは同行列Sの成分のうち前記状態変数xyに乗ずる列ベクトルである
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-
2009
- 2009-08-24 JP JP2009193662A patent/JP2011043156A/ja active Pending
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