JP2010112307A - 制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】内燃機関に付帯する排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation)装置のEGR率またはEGR量を吸気管内圧力とともに制御するに際して、外部EGRバルブの開度が飽和したままEGR率またはEGR量が目標値を達成できない状態を有効に回避する。
【解決手段】EGRバルブの開度が飽和し、かつEGR率またはEGR量y1とその目標値r1との間に偏差z1が残存している暁には、吸気管内圧力の目標値を本来あるべき値r2から敢えて増減させることにより可変ターボのノズルベーンを駆動し、以てEGRバルブ開度の飽和を解消しつつ偏差z1の縮小を図るようにした。
【選択図】図5
【解決手段】EGRバルブの開度が飽和し、かつEGR率またはEGR量y1とその目標値r1との間に偏差z1が残存している暁には、吸気管内圧力の目標値を本来あるべき値r2から敢えて増減させることにより可変ターボのノズルベーンを駆動し、以てEGRバルブ開度の飽和を解消しつつ偏差z1の縮小を図るようにした。
【選択図】図5
Description
本発明は、内燃機関及びこれに付帯する排気ガス再循環装置を制御する制御装置に関する。
下記特許文献1に開示されている排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation)システムは、過給機を備えた内燃機関のEGR率(または、EGR量)を制御するものである。過給圧とEGR率との間には相互干渉が存在し、1入力1出力のコントローラで過給圧、EGR率の両方を同時に制御することは難しい。しかも、内燃機関の運転領域によって応答性が異なる上、過給機にはターボラグ(むだ時間)がある。このような事情から、特許文献1に記載のシステムでは、非線形制御対象に対して有効な制御手法であるスライディングモード制御を採用し、相互作用を考慮した他入力多出力のコントローラを設計してEGR制御をしている。
特開2007−032462号公報
上記例の如き多入力多出力の協調制御では、吸気管内圧力とEGR率とをともにあるべき目標値に追従させようとする。しかし、協調制御であるが故に、極端な環境条件や大きな外乱、または部材のばらつき等に起因するモデル化誤差(摂動)によって、双方の偏差を同時に0に制御できない状況が発生し得る。
一例を挙げると、排気管内圧力が非常に低いときには、外部EGRバルブの開度を100%全開としてもEGR率を目標値に到達させられないおそれがある。このような場合、EGRバルブを操作するサーボ制御コントローラは、制御入力値としてEGRバルブに100%を超える開度を与えようとする。が、バルブの開度を実際に100%よりも大きくすることは物理的に不可能である。結局、EGRバルブの開度が飽和したまま、EGR率の目標値を達成できずに偏差が残存し、排気ガスの悪化やエンジン出力の低下等を招いてしまう。
また、制御コントローラが算出する制御入力値が操作部を飽和させてしまうほどの過大値または過小値となっていると、以後に制御出力の目標値が変化したとしても、それに合わせて操作部が速やかに作動しないという別の不具合も生起する。例えば、制御コントローラが制御入力としてのEGRバルブ開度を100%超の値に見積もっている状況下で、EGR率の目標値が下降してEGRバルブを絞る必要が生じた際には、制御コントローラが算出するEGRバルブ開度の値も徐々に減少する。にもかかわらず、開度が飽和しているEGRバルブは、制御コントローラから与えられるEGRバルブ開度の値が100%を切るまでの間は開度が全く変化しない。このことは、EGR率の制御収束性の遅れにつながる。
本発明は、以上に述べた新規な課題に初めて着目してなされたものであり、EGR制御を含む多入力多出力の制御系において、一部の操作部の操作量が飽和したまま重要な制御出力が目標値を達成できない状態を有効に回避することを所期の目的としている。
本発明では、内燃機関に付帯する排気ガス再循環装置のEGR率またはEGR量を、他の制御量とともに制御するものであって、EGR率またはEGR量に変化を与える操作部の操作量が飽和し、かつEGR率またはEGR量とその目標値との間に偏差が残存している場合において、他の制御量の目標値を本来の値から増減させることにより、前記操作量の飽和を解消しつつ前記偏差を縮小することを特徴とする制御装置を構成した。
つまり、重要な制御量であるEGR率またはEGR量をあるべき目標値に到達させるために、他の制御量の目標値を敢えて本来あるべき値から改変し、これによりEGR率またはEGR量の制御に寄与する操作部の操作量の飽和を解消する、換言すればコントローラが算出する制御入力値を飽和しない範囲の値に誘導するようにしたのである。本発明の制御装置を用いるならば、EGRバルブ等に与える制御入力値が過大値または過小値となる問題が回避され、EGR率またはEGR量を適確に目標値近傍に到達させることが可能になる。加えて、制御対象プラントの現在状況、具体的には内燃機関の運転領域等が遷移する際の制御収束性または速応性の向上をも見込める。即ち、EGRバルブ等の開度を恒常的に非飽和範囲の値に誘導しておけば、運転領域等の遷移時にも即座にEGRバルブの開度が変動し、EGR率またはEGR量を目標値に向けて速やかに変化させることができる。また、本発明では、プラントのモデル自体、即ち状態方程式における係数行列や入力行列等のパラメータのオンライン更新を伴わないので、電子制御装置(Electronic Control Unit)の演算負荷を徒に増大させることもない。
EGR率またはEGR量を、吸気管内圧力とともに制御するものにおいては、EGRバルブの開度が飽和し、かつEGR率またはEGR量とその目標値との間に偏差が残存している場合に、吸気管内圧力の目標値を本来の値から嵩上げすることにより、EGRバルブ開度の飽和を解消しつつ前記偏差を縮小せしめる。
可変ターボ過給機を備えた内燃機関の制御では、吸気管内圧力の目標値を本来の値から嵩上げすることにより可変ノズルターボのノズル開度(開口断面積)を変動させ、以てEGRバルブ開度の飽和を解消しつつEGR率またはEGR量とその目標値との偏差を縮小することができる。
なお、時には、EGR率またはEGR量の目標追従性よりも吸気管内圧力の目標追従性を優先することも想定される。例えば、高回転かつ高負荷の運転領域において、吸気管内圧力を適確に制御したいことがある。このようなケースでは、吸気管内圧力に変化を与える操作部の操作量が飽和して、吸気管内圧力とその目標値との間に偏差が残ってしまうことが問題となる。その場合、EGR率またはEGR量の目標値を本来の値から増減させることにより、前記操作量の飽和を解消しつつ前記偏差を縮小する制御を実施するのがよい。例えば、吸気管内圧力に影響を及ぼす可変ノズルターボのノズル開度が飽和しているならば、EGR率またはEGR量の目標値の増減を通じてEGRバルブの開度を変動させ、可変ノズルターボのノズル開度の飽和を解消することができる。
本発明によれば、EGR制御を含む多入力多出力の制御系において、一部の操作部の操作量が飽和したまま重要な制御出力が目標値を達成できない状態を有効に回避し得る。
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に示すものは、本発明の適用対象の一であるEGRシステムである。内燃機関2に付帯するこのEGRシステムは、吸排気系3、4における複数の流体圧または流量に関する値を検出するための計測器(または、センサ)11、12と、それらの値に目標値を設定し、各値を目標値に追従させるべく複数の操作部45、42、33を操作する制御装置たるECU5とを具備してなる。
内燃機関2は、例えば過給機を備えたディーゼルエンジンである。内燃機関2の吸気系3には、可変ターボのコンプレッサ31を配設するとともに、その下流に吸気冷却用のインタークーラ32、及び吸入空気(新気)量を調節するDスロットルバルブ33を設ける。また、吸入空気量を計測する流量計11、吸気管内圧力を計測する圧力計12をそれぞれ設置する。
内燃機関2の排気系4には、コンプレッサ31を駆動するタービン41を配設し、タービン41の入口には過給機のA/R比を増減させるためのノズルベーン42を設ける。そして、内燃機関2の燃焼室より排出される排気ガスの一部を吸気系3に還流させるEGR通路43を形成する。EGR通路43は、吸気系3におけるスロットルバルブ33よりも下流に接続する。EGR通路43には、排気冷却用のEGRクーラ44と、通過する排気ガス(EGRガス)量を調節する外部EGRバルブ45とを設ける。
本実施形態では、EGR率(または、EGR量)と、吸気管内圧力とについて各々目標値を設定し、双方の制御量を一括に目標値に向かわせるべく複数の操作部、即ちEGRバルブ45、可変ターボのノズル42及びスロットルバルブ33を操作する制御を実施する。
EGRバルブ45、ノズルベーン42、スロットルバルブ33は、ECU5により統御されてその開度をリニアに変化させる。各操作部45、42、33は、駆動信号のデューティ比を増減させることで開度を変える電気式のバルブや、あるいはバキュームコントロールバルブ等と組み合わされ弁体のリフト量を制御して開度を変える機械式のバルブ等を用いてなる。
ECU5は、プロセッサ、RAM、ROMまたはフラッシュメモリ、A/D変換回路、D/A変換回路等を包有するマイクロコンピュータである。ECU5は、EGR率及び吸気管内圧力を検出するための計測器11、12の他、エンジン回転数、アクセルペダルの踏込量、冷却水温、吸気温、外部の気温、気圧等を検出する各種計測器(図示せず)と電気的に接続し、これら計測器から出力される信号を受け取って各値を知得することができる。
因みに、本実施形態では、EGR率を直接計測していない。内燃機関2のシリンダに入る空気量は、可変ターボのノズル開度を基に予測することが可能である。その空気量の予測値をgcylとおき、流量計11で計測される吸入空気量をgaとおくと、推定EGR率eegrについて、eegr=1−ga/gcylなる関係が成立する。ECU5のROMまたはフラッシュメモリには予め、可変ターボのノズル開度とシリンダに入る空気量との関係を定めたマップデータが記憶されている。ECU5は、可変ターボのノズル開度をキーとしてマップを検索し、シリンダに入る空気量の予測値を得、これと吸入空気量とを上記式に代入してEGR率を算出する。
並びに、ECU5は、EGRバルブ45、可変ターボのノズル42、スロットルバルブ33や、燃料噴射を司るインジェクタ及び燃料ポンプ等(図示せず)と電気的に接続しており、これらを駆動するための信号を入力することができる。
ECU5で実行するべきプログラムはROMまたはフラッシュメモリに予め記憶されており、その実行の際にRAMへ読み込まれ、プロセッサによって解読される。ECU5は、プログラムに従い内燃機関2を制御する。例えば、エンジン回転数、アクセルペダルの踏込量、冷却水温等の諸条件に基づき要求される燃料噴射量(いわば、エンジン負荷)を決定し、その要求噴射量に対応する駆動信号をインジェクタ等に入力して燃料噴射を制御する。その上で、ECU5は、プログラムに従い、図2ないし4に示すスライディングモードコントローラ51、及び目標値補正部52としての機能を発揮する。
スライディングモードコントローラ51は、EGR率及び吸気管内圧力のスライディングモード制御を担う。フィードバック制御時、ECU5は、各種計測器(図示せず)が出力する信号を受け取ってエンジン回転数、アクセル踏込量、冷却水温、吸気温、外部の気温及び気圧等を知得し、要求噴射量を決定する。続いて、少なくともエンジン回転数及び要求噴射量に基づき、目標EGR率及び目標吸気管内圧力を設定する。ECU5のROMまたはフラッシュメモリには予め、エンジン回転数及び要求噴射量に応じて設定するべき各目標値を示すマップデータが記憶されている。ECU5は、エンジン回転数及び要求噴射量をキーとしてマップを検索し、EGR率及び吸気管内圧力の目標値を得る。さらに、マップを参照して得た目標値を基本値とし、これを冷却水温、吸気温、外部の気温や気圧等に応じて補正して最終的な目標値とする。
そして、ECU5は、計測器11、12が出力する信号を受け取ってEGR率及び吸気管内圧力の現在値を知得し、各制御量の現在値と目標値との偏差からEGRバルブ45の開度、可変ターボのノズル42の開度及びスロットルバルブ33の開度を演算して、各々の操作量に対応する駆動信号をそれら操作部45、42、33に入力、開度を操作する。
EGR率の適応スライディングモード制御に関して補記する。状態方程式及び出力方程式は、下式(数1)の通りである。
本実施形態では、状態量ベクトルXを出力ベクトルYから直接知得できる構造とする、換言すれば計測器11、12を介して検出可能な値を直接の制御対象とすることにより、状態推定オブザーバを排して推定誤差に伴う制御性能の低下を予防している。出力行列Cは既知、本実施形態では単位行列とする。
プラントのモデル化、即ち状態方程式(数1)における係数行列A及び入力行列Bの同定にあたっては、各操作部45、42、33に様々な周波数からなるM系列信号を入力して開度を操作し、EGR率及び吸気管内圧力の値を観測して、その入出力データから行列A、Bを同定する。各操作部45、42、33に入力するM系列信号は、互いに無相関なものとする。これにより、各値の相互干渉を考慮したモデルを作成することができる。
図4に、適応スライディングモード制御系のブロック線図を示す。スライディングモードコントローラ51の設計手順には、切換超平面の設計と、状態量を切換超平面に拘束するための非線形切換入力の設計とが含まれる。
1形のサーボ系を構成するべく、当初の状態量ベクトルXに、目標値ベクトルRと出力ベクトルYとの偏差の積分値ベクトルZを付加した新たな状態量ベクトルXeを定義すると、下式(数2)に示す拡大系の状態方程式を得る。
安定余裕を考慮し、切換超平面の設計にはシステムの零点を用いた設計手法を用いる。即ち、上式(数2)の拡大系がスライディングモードを生じているときの等価制御系が安定となるように超平面を設計する。切換関数σを式(数3)で定義すると、状態が超平面に拘束されている場合にσ=0かつ式(数4)が成立する。
故に、スライディングモードが生じているときの線形入力(等価制御入力)は、下式(数5)となる。
上式(数5)の線形入力を拡大系の状態方程式(数2)に代入すると、下式(数6)の等価制御系となる。
この等価制御系が安定になるように超平面を設計することと、目標値Rを無視した系に対して設計することとは等価であるので、下式(数7)が成立する。
上式(数7)の系に対して安定度εを考慮し、最適制御理論を用いてフィードバックゲインを求め、それを超平面とすると、下式(数8)となる。
行列Psは、リカッチ方程式(数9)の正定解である。
リカッチ方程式(数9)におけるQsは制御目的の重み行列で、非負定な対称行列である。q1、q2は偏差の積分Zに対する重みであり、制御系の周波数応答の速さの違いにより決定する。q3、q4は出力Yに対する重みであり、ゲインの大きさの違いにより決定する。また、リカッチ方程式(数9)におけるRsは制御入力の重み行列で、正定対称行列である。εは安定余裕係数で、ε≧0となるように指定する。
なお、上記式(数8)、(数9)に替えて、以下に示す離散系の超平面構築式(数10)及び代数リカッチ方程式(数11)を用いてもよい。
超平面に拘束するための入力の設計には、最終スライディングモード法を用いる。ここでは、制御入力Uを、線形入力Ueqと新たな入力即ち非線形入力(非線形制御入力)Unlとの和として、下式(数12)で表す。
切換関数σを安定させたいので、σについてのリアプノフ関数を下式(数13)のように選び、これを微分すると式(数14)となる。
式(数12)を式(数14)に代入すると、下式(数15)となる。
非線形入力Unlを下式(数16)とすると、リアプノフ関数の微分は式(数17)となる。
従って、切換ゲインkを正とすれば、リアプノフ関数の微分値を負とすることができ、スライディングモードが保証される。このときの制御入力Uは、下式(数18)である。
ηはチャタリング低減のために導入した平滑化係数であって、η>0である。
スライディングモード制御では、状態量を超平面に拘束するために非線形ゲインを大きくする必要がある。だが、非線形ゲインを大きくすると、制御入力にチャタリングが発生する。そこで、モデルの不確かさを、構造が既知でパラメータが未知な確定部分と、構造が未知だがその上界値が既知な不確定部分とに分ける。状態方程式(数1)に不確かさ(f+Δf)を加え、下式(数19)で表す。
不確かさの確定部分fは、未知パラメータθを同定することで補償される。さすれば、切換ゲインは不確かさの不確定部分Δfのみにかかることとなり、切換ゲインが不確実成分全体(f+Δf)にかかる場合と比べて制御入力のチャタリングを大幅に低減できる。
制御入力Uは、式(数18)に適応項Uadを追加した下式(数20)となる。
制御入力(数20)におけるΓ1は、適応ゲイン行列である。関数hは、一般には状態量x及び/または未知パラメータθの関数とするが、本実施形態ではhをx及びθに無関係な単純式、定数とすることにより、xを速やかに収束させ、θの適応速度を高めるようにしている。特に、h=1とした場合、推定パラメータを下式(数21)に則って同定することができる。
本実施形態では、EGR率y1及び吸気管内圧力y2を制御出力変数とし、EGRバルブ45の開度u1、可変ターボのノズル42の開度u2及びスロットルバルブ33の開度u3を制御入力変数とした3入力2出力のフィードバック制御を行う。状態変数の個数(システムの次数)は、当初の系(数1)では出力変数の個数と同じく2、拡大系(数2)では4となる。制御出力及び状態量をこのように特定することで、排気ガスに直接触れる箇所に流量計等の計測器を設置する必要がなくなる。
尤も、本実施形態のような3入力2出力のシステムでは、det(SBe)=0が成立し、行列(SBe)は正則とはならない。そこで、逆行列(SBe)-1を、一般化逆行列として算定する。一般化逆行列には、例えばムーア・ペンローズ型の逆行列(SBe)†を用いる。
しかして、目標値補正部52は、EGR率に変化を与える操作部45の操作量が飽和し、かつEGR率とその目標値との間に偏差が残存している場合において、吸気管内圧力の目標値を本来あるべき値から増減させる。
例えば、排気管内圧力が非常に低いときには、EGRバルブ45の開度を100%全開としてもEGR率y1を目標値r1に到達させられないおそれがある。このような場合、スライディングモードコントローラ51は、制御入力u1としてのEGRバルブ45の開度を100%超と算定する。が、バルブ開度を実際に100%よりも大きくすることは物理的に不可能である。結果、図6に示すように、EGRバルブ45の実開度が飽和したまま、EGR率y1とその目標値r1との偏差z1が残ってしまい、排気ガスの悪化やエンジン出力の低下等の問題を招く。
さらに、スライディングモードコントローラ51が算出する制御入力u1の値がEGRバルブ45の開度を飽和させてしまうほどの過大値となっていると、その後に内燃機関2の運転領域等が遷移してEGR率の目標値が下降したとしても、それに合わせてEGRバルブ45が速やかに作動しない。即ち、スライディングモードコントローラ51は、EGR率の目標値が下降するのに応じて制御入力値u1を徐々に減少させるが、100%を超えていた制御入力値u1が100%を切るまでの期間は、EGRバルブ45の開度は飽和したままで変化しない。このことは、EGR率y1の制御収束性の遅れにつながる。
上述の事象を回避するために、目標値補正部52は、図3及び図5に示しているように、吸気管内圧力の目標値を、エンジン回転数や燃料噴射量等に基づいて定まる本来の値r2から敢えて(Δr2分)嵩上げする。吸気管内圧力の目標値が上昇すると、スライディングモードコントローラ51が算出する制御入力の値も変動する。特に、制御入力u2である可変ターボのノズルベーン42の開度が、過給圧を高める方向に変化する(つまり、ノズルベーン42の開度が絞られる)。それとともに、制御入力u1であるEGRバルブ45の開度が減少する。ひいては、実際のEGRバルブ45の開度が飽和状態を脱してスライディングモードコントローラ51が算出する制御入力値u1に合致するようになり、EGR率y1とその目標値r1との偏差z1が縮小する。但し、吸気管内圧力y2は、本来の目標値r2よりも高くなる。いわば、吸気管内圧力の目標追従性を犠牲にしてEGR率の目標追従性を確保していることになる。
目標値補正部52は、制御入力u1たるEGRバルブ45の開度が飽和値(開度100%)または飽和値近傍の所定閾値に達しており、並びに、計測器11を介して検出されるEGR率y1とその目標値r1との偏差z1の大きさが所定閾値以上またはこれを上回ることを条件として、吸気管内圧力の目標値の補正量Δr2を決定し、本来の目標値r2にこの補正量Δr2を加味した新たな目標値r2+Δr2を演算してコントローラ51に与える。吸気管内圧力の目標値の補正量Δr2は、EGR率y1と目標値r1との偏差z1に、プラントのモデルのステップ応答定常ゲインの逆数を乗じた値である。
ECU5のROMまたはフラッシュメモリには予め、EGR率y1及び偏差z1(または、目標値r1)に対応して設定するべき補正量Δr2を示すマップデータが記憶されている。目標値補正部52は、このマップを参照して補正量Δr2を決定する。即ち、EGR率y1及び偏差z1をキーとしてマップを検索し、補正量Δr2を得る。
翻って、EGRバルブ45の開度が飽和値または飽和値近傍の所定閾値に達していない、または、EGR率y1とその目標値r1との偏差z1の大きさが所定閾値よりも小さい場合には、通常通りエンジン回転数や燃料噴射量等に基づいて定まる目標吸気管内圧力r2をそのままコントローラ51に与える。
本実施形態によれば、内燃機関2に付帯する排気ガス再循環装置のEGR率またはEGR量を、他の制御量とともに制御するものであって、EGR率またはEGR量に変化を与える操作部45の操作量が飽和し、かつEGR率またはEGR量とその目標値との間に偏差が残存している場合において、他の制御量の目標値を本来の値から増減させることにより、前記操作量45の飽和を解消しつつ前記偏差を縮小することを特徴とする制御装置を構成したため、操作部45の操作量の飽和を回避してEGR率またはEGR量を恒常的に目標値近傍に到達させることが可能になる。加えて、内燃機関2の運転領域等が遷移する際の制御収束性または速応性の向上をも見込める。即ち、操作部45の開度を恒常的に非飽和範囲の値に誘導しておけば、運転領域等の遷移時にも即座に操作部45の開度が変動し、EGR率またはEGR量を目標値に向けて速やかに変化させることができる。本実施形態の制御装置では、EGR率またはEGR量とその目標値との偏差の有無によってフィードバックコントローラ51の内容を切り換えるようなことは行わないので、複数のモデルを同定し複数のコントローラを設計するといった工数の増大を甘受せずに済み、またECU5の演算負荷を徒に増大させることもない。
EGR率またはEGR量を、吸気管内圧力とともに制御するものとし、EGRバルブ45の開度が飽和し、かつEGR率またはEGR量とその目標値との間に偏差が残存している場合に、吸気管内圧力の目標値を本来の値から嵩上げすることにより、EGRバルブ開度の飽和を解消しつつ前記偏差を縮小せしめるようにしており、EGRバルブ45が全開して飽和してしまう問題を好適に回避できる。
可変ターボ過給機を備えた内燃機関2の制御であり、吸気管内圧力の目標値を本来の値から嵩上げすることにより、可変ノズルターボのノズル42の開度を変動させるようにしており、EGRバルブ45の開度の飽和を解消しつつEGR率またはEGR量とその目標値との偏差を速やかに縮小することが可能となっている。
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。上記実施形態では、吸気管内圧力よりもEGR率(または、EGR量)の目標追従性の方を重視していたが、これとは逆に、EGR率の目標追従性を犠牲にして吸気管内圧力の目標追従性を優先することも考えられる。
例えば、高回転かつ高負荷の運転領域において、吸気管内圧力y2を適確に抑制したいことがある。そのようなケースでは、吸気管内圧力y2に変化を与える操作部42の操作量が飽和して、吸気管内圧力y2とその目標値r2との間に偏差z2が残ってしまうことが問題となる。排気管内圧力が既に高い状態であると、可変ターボのノズルベーン42を過給圧を低める方向に操作した(つまり、ノズルベーン42の開度を開けた)としても過給圧が十分に低下せず、故にノズルベーン42の開度を100%全開としても吸気管内圧力y2を目標値r2に到達させられないおそれがある。この場合、スライディングモードコントローラ51は、制御入力u2としてのノズル42の開度を100%超と算定する。が、バルブ開度を実際に100%よりも大きくすることは物理的に不可能である。結果、ノズル42の実開度が飽和したまま、吸気管内圧力y2とその目標値r2との偏差z2が定常的に残存してしまう。
上述の事象を回避するために、目標値補正部52は、EGR率の目標値を、エンジン回転数や燃料噴射量等に基づいて定まる本来の値r1から敢えて嵩上げする。EGR率の目標値が上昇すると、スライディングモードコントローラ51が算出する制御入力の値も変動する。特に、制御入力u1であるEGRバルブ45の開度が増大し、それとともに(排気管内圧力が低下することから)制御入力u2であるノズルベーン42の開度が減少する。ひいては、実際のノズルベーン42の開度が飽和状態を脱してスライディングモードコントローラ51が算出する制御入力値u2に合致するようになり、吸気管内圧力y2とその目標値r2との偏差z2が縮小する。但し、EGR率y1は、本来の目標値r1よりも高くなる。
目標値補正部52は、制御入力u2たるノズルベーン42の開度が飽和値(開度100%)または飽和値近傍の所定閾値に達しており、並びに、計測器12を介して検出される吸気管内圧力y2とその目標値r2との偏差z2の大きさが所定閾値以上またはこれを上回ることを条件として、EGR率の目標値の補正量Δr1を決定し、本来の目標値r1にこの補正量Δr1を加味した新たな目標値r1+Δr1を演算してコントローラ51に与える。EGR率の目標値の補正量Δr1は、吸気管内圧力y2と目標値r2との偏差z2に、プラントのモデルのステップ応答定常ゲインの逆数を乗じた値である。
ECU5のROMまたはフラッシュメモリには予め、吸気管内圧力y2及び偏差z2(または、目標値r2)に対応して設定するべき補正量Δr1を示すマップデータが記憶されている。目標値補正部52は、このマップを参照して補正量Δr1を決定する。即ち、吸気管内圧力y2及び偏差z2をキーとしてマップを検索し、補正量Δr1を得る。
翻って、ノズルベーン42の開度が飽和値または飽和値近傍の所定閾値に達していない、または、吸気管内圧力y2とその目標値r2との偏差z2の大きさが所定閾値よりも小さい場合には、通常通りエンジン回転数や燃料噴射量等に基づいて定まる目標EGR率r1をそのままコントローラ51に与える。
あるいは、吸気管内圧力をできる限り高めようとして、可変ターボのノズルベーン42を過給圧を高める方向に操作した(つまり、ノズルベーン42の開度を絞った)結果、ノズルベーン42の実開度が低位に飽和してしまうこともあり得る。その際には、EGR率の目標値を本来の値r1から敢えて低減させることにより、EGRバルブ45の開度の減少を惹起して(排気管内圧力を高めて)ノズルベーン42の開度を開けつつ吸気管内圧力y2とその目標値r2との偏差z2を縮小する。
EGR制御系における制御入力変数は、EGRバルブ開度、可変ノズルターボ開度及びスロットルバルブ開度には限定されない。制御出力変数も、EGR率(または、EGR量)及び吸気管内圧力には限定されない。これら以外の新たな入力変数、出力変数を付加することも可能である。例えば、吸気系に過給機(のコンプレッサ)をバイパスする通路が存在している場合、その通路上に設けられたバルブをも操作することがある。このとき、当該バイパス通路内の圧力または流量等を制御出力変数に含め、当該バイパス通路上のバルブの開度を制御入力変数に含めることができる。
フィードバックコントローラが実現する多入力多出力制御の手法はスライディングモード制御には限定されず、スライディングモード制御以外の手法、例えば最適制御、H∞制御、バックステッピング制御等を採用しても構わない。
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
42…可変ターボのノズルベーン(操作部)
45…EGRバルブ(操作部)
5…ECU(制御装置)
51…適応スライディングモードコントローラ
52…目標値補正部
45…EGRバルブ(操作部)
5…ECU(制御装置)
51…適応スライディングモードコントローラ
52…目標値補正部
Claims (4)
- 内燃機関に付帯する排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation)装置のEGR率またはEGR量を、他の制御量とともに制御するものであって、
EGR率またはEGR量に変化を与える操作部の操作量が飽和し、かつEGR率またはEGR量とその目標値との間に偏差が残存している場合において、
他の制御量の目標値を本来の値から増減させることにより、前記操作量の飽和を解消しつつ前記偏差を縮小することを特徴とする制御装置。 - EGR率またはEGR量を、吸気管内圧力とともに制御するものであり、
EGRバルブの開度が飽和し、かつEGR率またはEGR量とその目標値との間に偏差が残存している場合において、
吸気管内圧力の目標値を本来の値から嵩上げすることにより、EGRバルブ開度の飽和を解消しつつ前記偏差を縮小する請求項1記載の制御装置。 - 過給機を備えた内燃機関の制御にあたり、吸気管内圧力の目標値を本来の値から嵩上げすることにより可変ノズルターボのノズル開度を変動させ、EGRバルブ開度の飽和を解消しつつEGR率またはEGR量とその目標値との偏差を縮小する請求項2記載の制御装置。
- 内燃機関に付帯する排気ガス再循環装置のEGR率またはEGR量を、吸気管内圧力とともに制御するものであって、
吸気管内圧力に変化を与える操作部の操作量が飽和し、かつ吸気管内圧力とその目標値との間に偏差が残存している場合において、
EGR率またはEGR量の目標値を本来の値から増減させることにより、前記操作量の飽和を解消しつつ前記偏差を縮小することを特徴とする制御装置。
Priority Applications (1)
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---|---|---|---|
JP2008286751A JP2010112307A (ja) | 2008-11-07 | 2008-11-07 | 制御装置 |
Applications Claiming Priority (1)
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ID=42301038
Family Applications (1)
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---|---|---|---|---|
JP2012012968A (ja) * | 2010-06-29 | 2012-01-19 | Fujitsu Ltd | エンジン制御プログラム及び装置 |
JP2012026346A (ja) * | 2010-07-22 | 2012-02-09 | Toyota Motor Corp | 内燃機関の制御装置 |
JP2015094258A (ja) * | 2013-11-11 | 2015-05-18 | 富士通株式会社 | エンジン制御装置、方法及びプログラム |
JP2016176385A (ja) * | 2015-03-19 | 2016-10-06 | 日野自動車株式会社 | 可変容量型ターボチャージャーの制御装置 |
-
2008
- 2008-11-07 JP JP2008286751A patent/JP2010112307A/ja active Pending
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