さて、特許文献2に開示の燃料噴射装置では、制御ボディの開口壁面は、流入口の周りを囲む面部が窪んでいる一方で、流出口の周りを囲む面部は平滑な平面となっている。加えて、押圧部材の押圧面も、流出口の周りを囲む面部と同じく平滑な平面である。
上述したような構成では、開口壁面に押圧面を押圧することで流入口と圧力制御室および流出口との遮断を図ろうとすると、開口壁面と押圧面との接触する面積が大きくなってしまう。この接触面積の大きさに起因し、これら開口壁面と押圧面との間に生じる面圧を高めることが困難であった。故に、流入口から流入しようとする燃料は、開口壁面および押圧面間を通過し得る。このように、押圧部材は、流入口と圧力制御室および流出口との連通を確実に遮断することができず、圧力制御室への燃料の流入を許してしまっていた。以上によれば、圧力制御弁によって流出口と戻り流路とが連通した後に、圧力制御室内の減圧を急速に生じさせる押圧部材の作用が確実に発揮されず、弁部材による弁部の迅速な開弁を実現できない場合あった。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、制御装置からの制御信号に対する弁部の開閉の応答性を高めた燃料噴射装置を提供することである。
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、制御装置からの制御信号に応じて、供給流路から供給される供給燃料の噴孔からの噴射を制御する弁部を開閉し、当該制御に伴って供給燃料の一部を戻り流路に排出する燃料噴射装置であって、供給流路を流通した燃料が流入口から流入し、戻り流路に流出口から燃料を排出する圧力制御室、および圧力制御室に露出し流入口および流出口が開口する開口壁面を有する制御ボディと、制御信号に応じて、流出口と戻り流路との連通および遮断を切り替え、圧力制御室内の燃料の圧力を制御する圧力制御弁と、圧力制御室内の燃料の圧力に応じて弁部を開閉する弁部材と、圧力制御室内に往復変位可能に配置され、往復変位の方向において開口壁面に対向する押圧面を有し、圧力制御弁によって流出口と戻り流路とが連通すると、流入口と圧力制御室および流出口との連通を遮断するように押圧面によって開口壁面を押圧する押圧部材と、を備え、開口壁面において流出口の周りを囲む流出周囲面部と、押圧面において流出周囲面部に往復変位方向に対向する流出対向面部とのうち少なくとも一方は、押圧面と開口壁面とのうち対応するものから離間する方向に窪むことで流出凹部を形成し、さらに開口壁面において流入口の周りを囲む流入周囲面部と、押圧面において流入周囲面部に往復変位方向に対向する流入対向面部とのうち少なくとも一方は、押圧面と開口壁面とのうち対応するものから離間する方向に窪むことで流入凹部を形成することを特徴とする。
この発明によれば、開口壁面における流出周囲面部、および押圧面において流出周囲面部と往復変位方向に対向する流出対向面部の少なくとも一方は、押圧面と開口壁面とのうち対応するものから離間する方向に窪むことで流出凹部を形成している。また、開口壁面における流入周囲面部、および押圧面において流入周囲面部と往復変位方向に対向する流出対向面部の少なくとも一方は、押圧面と開口壁面とのうち対応するものから離間する方向に窪むことで流入凹部を形成している。これら流出周囲面部および流入周囲面部が、それぞれ流出口および流入口のまわりを囲んでいるので、これら流出周囲面部および流入周囲面部が窪むことによって形成される流出凹部および流入凹部の開口は、流出口および流入口よりも大きくなる。さらに、流出周囲面部および流入周囲面部と往復変位方向において対向する流出対向面部および流入対向面部によって形成される流出凹部および流入凹部の開口も、流出口および流入口より大きくなる。
以上の構成では、圧力制御弁によって流出口と戻り流路とが連通すると、圧力制御室から流出口に向かう燃料の流動によって、押圧部材は、流出口の開口している開口壁面に向けて吸引され、押圧面で当該開口壁面を押圧する。流入口および流出口よりも大きく開口する流出凹部および流出凹部は、開口壁面を押圧面が押圧したときに、これら開口壁面と押圧面とが接触する面積を低減し得る。故に、開口壁面と押圧面との間に生じる面圧を高めることができるので、押圧部材は、開口壁面および押圧面間の燃料の通過を防ぎ、流入口と圧力制御室および流出口との連通を確実に遮断できる。このように、圧力制御弁によって流出口と戻り流路とが連通した後に、押圧部材は、流入口から圧力制御室への燃料の流入を遮断し得るので、当該圧力制御室内の減圧を急速に生じさせる作用を確実に発揮できる。以上によれば、圧力制御室の圧力に応じて弁部を開閉する弁部材は、当該弁部を迅速に開くことができる。したがって、制御装置からの制御信号に対する弁部の開閉の応答性を高めた燃料噴射装置を提供することができる。
請求項2に記載の発明では、押圧部材は、圧力制御弁によって流出口と戻り流路とが遮断されると、押圧面が開口壁面から離間するよう変位することを特徴とする。この発明によれば、圧力制御弁によって流出口と戻り流路とが遮断されると、押圧部材は、流入口から流入する燃料の流れに押され、押圧面が開口壁面から離間するよう変位する。すると、流入口と圧力制御室および流出口とが連通し、当該圧力制御室内の燃料の圧力が上昇する。この圧力制御室内の圧力の上昇に応じて、弁部材は弁部を閉じて、噴孔からの燃料の噴射を停止させる。
請求項3に記載の発明では、押圧面が開口壁面を押圧することにより流入凹部によって区画される流入空間には、燃料を流入させる複数の流入口が、開口壁面に開口すること特徴とする。この発明によれば、開口壁面に複数の流入口を開口させることで、流入口の開口面積の総和は増加する。故に、押圧面が開口壁面を押圧することにより流入凹部によって区画される流入空間は、複数の流入口から流入する燃料によって確実に満たされ得る。押圧部材は、流入空間を満たす燃料の圧力を確実に受けられるので、圧力制御弁によって流出口と戻り流路とが遮断された後、押圧面を開口壁面から確実に離間させられ得る。以上により、圧力制御弁によって流出口と戻り流路とが遮断されてから、流入口と圧力制御室とが連通するまでの時間は遅延し難くなる。したがって、弁部の制御信号への応答性を高める効果は、確実に獲得され得る。
請求項4に記載の発明では、開口壁面において、流出口は当該開口壁面の径方向の中央部に開口し、複数の流入口は、流出口の外周側に、当該流出口の周方向に沿って等間隔で開口することを特徴とする。この発明によれば、開口壁面において、複数の流入口を、流出口の外周側に、当該流出口の周方向に沿って等間隔で開口させることで、これらの流入口から圧力制御室に流入する燃料は、押圧面を当該周方向において均等に押すことができる。故に、開口壁面に対する押圧面の傾きが抑制され、押圧部材は、押圧面を開口壁面から離間させる方向に円滑に変位できる。このような押圧部材の円滑な変位によれば、当該押圧部材の変位の速度は向上し得る。したがって、押圧部材の押圧面が開口壁面から離間した後、圧力制御室内には多くの燃料を流入させられ得るので、圧力制御室内の燃料圧力は迅速に上昇し得る。
請求項5に記載の発明では、流入口は、開口壁面において、流出口よりも当該開口壁面の外縁に近接して開口することを特徴とする。この発明において、圧力制御室内の全体の燃料の圧力をすみやかに上昇させるためには、圧力制御室のうち押圧部材よりも開口壁面側の空間に流入した燃料が、圧力制御室のうち押圧部材よりも開口壁面側とは反対側の空間に移動し易い構成であることが望ましい。そこで、この発明のように、流入口を流出口よりも開口壁面の外縁に近接させることにより、流入口から流入した燃料は、当該開口壁面と押圧面との間に滞留し難くなる。故に、流入口から流入した燃料は、押圧部材を往復変位方向に跨ぐように流れ、圧力制御室のうち押圧部材よりも開口壁面側とは反対側の空間に到達し易くなる。以上によれば、流出口と戻り流路とが遮断された後、圧力制御室内全体の燃料の圧力はすみやかに上昇し得る。この圧力制御室内全体の圧力上昇によれば、弁部材は、弁部をすみやかに遮断し、噴孔からの燃料の噴射を停止させられる。
請求項6に記載の発明では、押圧面は円形であって、流入凹部は、流入周囲面部および流入対向面部のうち、押圧面と同心の環状である少なくとも一方によって形成され、流出凹部は、流出周囲面部および流出対向面部のうち、流入周囲面部および流入対向面部の内周側であって、開口壁面および押圧面の径方向中央部に位置する少なくとも一方によって形成されることを特徴とする。
この発明によれば、開口壁面および押圧面の少なくとも一方において、流入凹部は、円形の押圧面の中心と同心の環状に形成されている。また、流出凹部は、開口壁面および押圧面の少なくとも一方において、環状の流入凹部の内周側である径方向中央部に形成されている。このように、押圧面、流入凹部、および流出凹部の形状を、押圧部材の往復変位方向に沿った変位軸に対して点対称な形状とすることで、開口壁面および押圧面のうち、互いに接触する面部の形状も、押圧面の中心に対して点対称な形状となる。故に、押圧面と開口壁面とが互いに接触している面部に生じる面圧は、全体に亘って均等となり得る。したがって、押圧部が開口壁面を押圧することによりなされる流入口と圧力制御室および流出口との遮断は、さらに確実なものとなり得る。
請求項7に記載の発明では、流出凹部は、流出周囲面部によって形成され、流入凹部は、流入周囲面部によって形成されることを特徴とする。また、請求項8に記載の発明では、流出凹部は、流出対向面部によって形成され、流入凹部は、流入対向面部によって形成されることを特徴とする。これらの発明のように、流出凹部および流入凹部が開口壁面および押圧面のいずれか一方にともに形成されていれば、押圧面によって押圧される開口壁面の位置が当該開口壁面に沿ってずれを生じた場合であっても、流出凹部と流入凹部との相対位置は変わらない。故に、開口壁面および押圧面のうちの互いと接触する面部であって、流出凹部と流入凹部との間に位置する面部の面積は、押圧面により押圧される開口壁面の位置が開口壁面に対してずれを生じた場合であっても、増減しない。故に、この流出凹部と流入凹部との間に位置する面部に押圧によって生じる面圧は増減し難くなる。したがって、押圧面により押圧される開口壁面の位置がずれたとしても、押圧部材は流入口と流出口との遮断を確実になし得る。
さらに、流入口および流出口と往復変位方向に対向する押圧面に、流出凹部および流入凹部が形成されている場合、往復変位方向に沿った変位軸まわりに押圧部材が回転すると、流入口および流出口と流入凹部および流出凹部とが正しく対向しなくなるおそれがある。故に、請求項2に記載の発明のように、流入口および流出口が開口している開口壁面に、流出凹部および流入凹部を形成することで、流出凹部および流入凹部と流出口および流入口との相対位置を固定できる。以上によれば、押圧部材が往復変位方向に沿った変位軸まわりに回転した場合であっても、押圧部材は、押圧面で流入凹部および流出凹部を確実に塞ぎ、流入口と圧力制御室および流出口との遮断を確実に行い得る。
請求項9に記載の発明では、流出凹部は、開口壁面の流出周囲面部によって形成され、流入凹部は、押圧面の流入対向面部によって形成されることを特徴とする。また、請求項10に記載の発明では、流出凹部は、押圧面の流出対向面部によって形成され、流入凹部は、開口壁面の流入周囲面部によって形成されることを特徴とする。
これらの発明では、開口壁面および押圧面は、繰り返しの押圧に耐え得るだけの強度が確保されなければならない。一方で、流出凹部および流入凹部を形成することによって、開口壁面および押圧面は強度が低下する。そこで、開口壁面および押圧面のいずれか一方に流入凹部を、他方に流出凹部を形成することで、開口壁面および押圧面の強度は確保され易くなる。したがって、流入口と流出口との遮断を長期に亘って確実に行い得るようにするためには、開口壁面および押圧面のいずれか一方に流入凹部を、他方に流出凹部を形成することが好適である。
請求項11に記載の発明では、開口壁面は円形であって、流出凹部は、開口壁面の中心から偏心した円形の流出周囲面部によって形成され、流入凹部は、開口壁面において流出周囲面部の外形形状に沿って湾曲した流入周囲面部によって形成され、流入凹部の外周側において押圧面と接触する環状の流入環状面部と、流出凹部の外周側において押圧面と接触する環状の流出環状面部とが連続することを特徴とする。
この発明によれば、流出凹部を形成する流出周囲面部が円形であることから、流出凹部の外周側に、押圧面と接触する環状の流出環状面部が形成される。加えて、流入凹部を形成する流出周囲面部が、流出凹部の外形形状に沿って湾曲した形状であることから、流入凹部の外周側に、押圧面と接触する環状の流入環状面部が形成される。そして、流出凹部を形成する円形の流出周囲面部を、開口壁面の中心から偏心させることで、流入環状面部と流出環状面部とを連続させることができる。このように、押圧面と接触する流入環状面部と流出環状面部とを連続させることで、開口壁面と押圧面との接触面積は低減され得る。これにより、押圧面と開口壁面との間に生じる面圧を向上させることができるので、押圧部材は、流入口と圧力制御室および流出口とを確実に遮断し得る。
請求項12に記載の発明では、流出周囲面部および流出対向面部のうち少なくとも一方は、押圧面又は開口壁面から離間する方向に窪む複数の流出凹部を形成することを特徴とする。また、請求項13に記載の発明では、流入周囲面部および流入対向面部のうちの少なくとも一方は、押圧面又は開口壁面から離間する方向に窪む複数の流入凹部を形成することを特徴とする。これらの発明のように、流入凹部および流出凹部は、連続している必要は無く、流出周囲面部および流出対向面部又は流入周囲面部および流入対向面部に複数形成されていてもよい。
請求項14に記載の発明では、押圧部材は、流出対向面部に開口し、押圧面が開口壁面を押圧することで、圧力制御室と流出口とを連通する連通孔を有し、連通孔は、当該連通孔の流路面積を絞る絞り部を具備することを特徴とする。
この発明によれば、流出対向面部に開口する連通孔は、押圧面が開口壁面を押圧することで、圧力制御室と流出口とを連通する。そして、連通孔に、当該連通孔の流路面積を絞る絞り部を具備させる。以上の構成よれば、連通孔を流通する燃料の流量は、絞り部の予め定められる流路面積を増減させることよって、任意に調整される。故に、押圧面が開口壁面を押圧した後における圧力制御室内の燃料圧力の下降速度は、予め設定された絞り部の流路面積によって任意に設定される。故に、圧力制御室内の燃料圧力に応じて弁部を開閉する弁部材の動作を、最適に調整し得る。
請求項15に記載の発明では、押圧部材は、円盤状であり、軸方向の端面によって押圧面を形成し、連通孔は、押圧面において径方向の中央部から軸方向に沿って延伸することを特徴とする。この発明によれば、押圧面が開口壁面を押圧する際に、圧力制御室と流出口とを連通させる連通孔は、当該連通孔を流通する燃料によって力を受ける。円盤状の押圧部材において、この連通孔を押圧面の径方向中央部から軸方向に沿って延伸させることで、燃料の流通によって連通孔に作用する力によって、押圧面は開口壁面を均等に押圧し得る。故に、開口壁面と押圧面とが接触している面部の面圧は、全体に亘って均等に上昇する。したがって、押圧部材による流入口と流出口との遮断は、さらに確実なものとなる。
請求項16に記載の発明では、絞り部は、押圧部材の軸方向の両端面のうち、押圧面の反対側となる端面よりも、当該押圧面を形成する端面に近接することを特徴とする。この発明において、連通孔を流通する燃料は、当該連通孔が開口する押圧面の中央部を開口壁面側に向って反らせるようとする力を押圧部材に印加する。そこで、絞り部を、押圧部材の軸方向の両端面のうち、押圧面を形成する端面に近接させることによれば、当該押圧部材は、軸方向において押圧面側の剛性を高いままに維持し得る。故に、径方向中央部が開口壁面に向って反ろうとする押圧部材の変形を抑制できる。したがって、押圧面と開口壁面との接触部分は、燃料を確実に遮断できる。
請求項17に記載の発明では、押圧部材は、軸方向の両端面にそれぞれ開口する連通孔の一対の開口のうち少なくとも一方を拡大する連通凹部を有することを特徴とする。一般に、温度が低くなるほど、燃料の粘性は高くなり、狭い流路を流れ難くなる。故に、流路の流路面積が小さくなるほど、当該流路を流通する燃料の流量は、温度に依存して増減し易くなる。この発明によれば、連通孔の少なくともいずれかの一方の開口を拡大する連通凹部を押圧部材が有することで、連通孔を流通する燃料の流量は、温度に依存して増減し難くなる。故に、燃料の温度が変化しても、圧力制御室内の燃料圧力の下降速度は、変動し難い。したがって、燃料噴射装置は、燃料の温度にかかわらず、高い噴射精度を維持し得る。
請求項18に記載の発明では、連通凹部は、連通孔の一対の開口のうち、押圧面の反対側の開口を拡大することを特徴とする。上述したように、連通孔を流通する燃料から受ける力によって、押圧面の中央部は、開口壁面に向って反ろうとする。故に、連通孔の一対の開口のうち、押圧面側の開口を流入凹部により拡大すると、押圧部材は軸方向において押圧面側の剛性低下が引き起こされ、押圧部材は反りやすくなるおそれがある。そこで、連通孔の一対の開口のうち、押圧面の反対側となる端面の開口を連通凹部によって拡大することで、押圧部材は軸方向において押圧面側の剛性低下を免れ得る。以上により、温度に依存した流量の増減を抑制しつつ、押圧部材の反りは低減される。したがって、連通凹部を有する押圧部材であっても、押圧面と開口壁面との接触部分により、流入口と圧力制御室および流出口とを確実に遮断できる。
請求項19および43に記載の発明では、制御ボディは、開口壁面を囲み、圧力制御室を区画する筒状の筒状部材を有し、押圧部材は、筒状部材内に当該筒状部の軸方向に沿って往復変位可能に配置され、圧力制御弁によって流出口と戻り流路とが遮断されると、押圧面が開口壁面から離間するよう変位し、押圧部材の往復変位方向に沿った変位軸まわりの外周壁面は、筒状部材の内周壁面を補完する形状に形成される補完壁面部、および補完壁面部から凹み、圧力制御室において押圧部材の開口壁面側となる開口空間と、当該押圧部材を挟んで開口空間とは反対側となる背圧空間とを連通する連通流路を、筒状部材の内周壁面とともに形成する連通壁面部、を具備することを特徴とする。
これらの発明において、圧力制御室内の全体の燃料の圧力をすみやかに上昇させるためには、押圧部材よりも開口壁面側となる開口空間から、当該押圧部材を挟んで開口空間とは反対側となる背圧空間に、燃料が移動し易い構成であることが望ましい。しかし、開口空間から背圧空間への燃料の流通量を確保するため、押圧部材の補完壁面部と筒状部材の内周壁面との隙間を大きくすると、押圧部材は、開口壁面に沿ってずれを生じたり、又は往復変位方向に対して傾きを生じたりし易くなる。
そこでこれらの発明では、押圧部材の往復変位方向に沿った変位軸まわりの外周壁面に設けられる連通壁面部は、筒状部材の内周壁面とともに連通流路を形成している。この連通流路は、圧力制御室において、押圧部材よりも開口壁面側となる開口空間と、当該押圧部材を挟んで開口空間とは反対側となる背圧空間とを連通し、開口空間内の燃料を、背圧空間に流通させられる。故に、筒状部材の内周壁面と、当該内周壁面とに沿って形成される押圧部材の補完壁面部との隙間を小さくしても、当該補完壁面部に対して凹んだ連通壁面部によって形成される連通流路によって、燃料の流通量を確保し得る。
以上により、流入口と圧力制御室とが連通し、開口空間内の燃料圧力が上昇してから、背圧空間内の燃料圧力が上昇するまでの遅延を抑制できる。したがって、制御装置からの制御信号に対する弁部の開閉の応答性は向上し得る。
加えて、押圧部材の補完壁面部と筒状部材の内周壁面との隙間を小さくできるので、押圧部材は、開口壁面に沿って往復変位方向と交差する方向にずれを生じたり、又は当該往復変位方向に対して傾きを生じたりし難くなる。故に、流入口と圧力制御室および流出口とを連通および遮断する押圧部材の動作の確実性を向上し得る。したがって、押圧部材を備えることによって、弁部の開閉の応答性が向上する効果を、燃料噴射装置は確実に獲得できる。
さらに、請求項5に記載の発明との組み合わせによれば、開口壁面の外縁に近接して開口する流入口から開口空間に流入した燃料は、連通壁面部を伝い、連通流路を介して、背圧空間に容易に流れ得る。故に、流出口と戻り流路とが遮断された後、開口空間および背圧空間を含む圧力制御室内全体の燃料の圧力は、さらに迅速に上昇し得る。この圧力制御室内全体の圧力上昇によれば、弁部材は、弁部をすみやかに遮断し、噴孔からの燃料の噴射を停止させる。
請求項20に記載の発明では、補完壁面部は、筒状部材の内周壁面に接触し、押圧部材は、筒状部材に対して往復変位方向に摺動可能であること特徴とする。この発明によれば、押圧部材の補完壁面部が筒状部材の内周壁面に接触することで、押圧部材は、円筒部材に対して往復変位方向に摺動可能となる。このような形態では、互いに接触するよう形成された補完壁面部と筒状部材の内周壁面との間の隙間は、僅かなものとなる。故に、往復変位方向と直交する方向への押圧部材のずれを低減できる。このように、往復変位方向と直交する方向への押圧部材のずれを低減できることによれば、押圧部材の押圧面が押圧する開口壁面の位置のずれも解消され得る。以上によれば、押圧面が開口壁面を不均等に押圧することに起因して生じるおそれのある、当該押圧面および開口壁面における偏磨耗の発生を抑制し、押圧面および開口壁面間におけるシール作用を長期に亘って発揮させ続けられる。したがって、燃料噴射装置は、高い噴射精度を維持し続けられる。
請求項21に記載の発明では、補完壁面部は、筒状部材の内周壁面との間に、開口空間と背圧空間とを連通する連通隙間を形成することを特徴とする。この発明のように、補完壁面部は、押圧部材のずれや傾きの発生を抑制することができれば、筒状部材の内周壁面に接触していなくてもよく、当該内周壁面との間に連通隙間を形成していてもよい。また、請求項31に記載の発明では、制御ボディは、開口壁面を囲み且つ圧力制御室を区画する筒状の筒状部材を有し、押圧部材は、筒状部材内に当該筒状部材の軸方向に沿って往復変位可能に配置され、圧力制御弁によって流出口と戻り流路とが遮断されると、押圧面が開口壁面から離間するよう変位し、押圧部材の往復変位方向に沿った変位軸まわりの外周壁面は、筒状部材の内周壁面との間に、押圧部材の開口壁面側となる開口空間と当該押圧部材を挟んで開口空間とは反対側となる背圧空間とを連通する連通隙間を形成することを特徴とする。これらにおいては、連通隙間が開口空間と背圧空間とを連通しているので、背圧空間内における燃料圧力の上昇の遅延は確実に抑制される。
請求項22に記載の発明では、連通流路の流路面積は、流入口の開口面積よりも大きいことを特徴とする。また、請求項32に記載の発明では、連通隙間の流路面積は、流入口の開口面積よりも大きいことを特徴とする。これらの発明によれば、流入口の開口面積よりも連通流路および連通流路の流路面積が大きくされているので、流入口から開口空間に流入した燃料は、連通流路又は連通隙間を介して、当該開口空間から背圧空間に確実に移動できる。したがって、背圧空間内における燃料圧力の上昇の遅延はさらに確実に抑制される。
請求項23に記載の発明では、外周壁面は、開口空間と背圧空間とを連通する複数の連通流路を形成する連通壁面部を具備することを特徴とする。この発明によれば、複数の連通壁面部によって、開口空間と背圧空間とを連通する複数の連通流路が形成される。これにより、開口空間と背圧空間とが複数の連通流路によって連通するので、背圧空間の複数個所に燃料が流入する。これにより、背圧空間内における燃料圧力の上昇がばらつく事態を抑制し得る。
そして、請求項24に記載の発明のように、複数の連通壁面部は、押圧部材の往復変位方向に沿った変位軸まわりに等間隔で位置させるのがよい。押圧部材は、変位軸に沿って往復変位するとともに、当該変位軸まわりに回転し得る。
加えて、特に請求項5に記載の発明のような当該開口壁面の外縁に近接して流入口が開口する形態では、流入口から連通壁面部までの距離は変動することとなる。そこで、請求項24に記載の発明のように、押圧部材の変位軸まわりに等間隔で連通流路を位置させることで、この流入口から連通壁面部までの距離の変動は抑制され得る。以上によれば、流入口から流入した燃料が連通流路を介して背圧空間に至るまで距離も変動し難くなるので、背圧空間における圧力上昇の態様は安定する。したがって、押圧部材の回転位置に依存して、弁部の制御信号への応答が変動する事態を抑制し得る。
請求項25に記載の発明では、連通壁面部は、往復変位方向に沿った平面であることを特徴とする。この発明によれば、補完壁面部から凹む連通壁面部が、押圧部材の往復変位方向に沿った平面であることで、当該連通壁面部と内周壁面とによって形成される連通流路は、往復変位方向に沿って延伸する流路となる。この連通流路の形状によって、開口空間から背圧空間に移動する燃料の流れに生じる抵抗は低減され得る。故に、開口空間から背圧空間への燃料の流入が容易となるので、当該背圧空間における燃料圧力の上昇の遅延は、さらに確実に抑制され得る。
請求項26に記載の発明では、連通壁面部は、押圧部材において押圧面を形成する端面と、当該押圧部材において軸方向の押圧面とは反対側の端面とにそれぞれ開口する溝を形成することを特徴とする。この発明のように、連通壁面部は、平面を形成する形態に限らず、押圧部材の往復変位方向における両端面にそれぞれ開口する溝を形成する形態であってもよい。
請求項27に記載の発明では、往復変位方向に沿って前記背圧空間側から押圧部材を投影すると、連通壁面部によって形成される溝の一対の開口のうち、押圧面を形成する端面の開口は、押圧面とは反対側の端面の開口に対して、押圧部材の周方向に沿ってずれて位置することを特徴とする。この発明において、往復変位方向に沿って背圧空間側から押圧部材を投影したときの投影面積は、圧力制御室内の燃料の圧力を受けられる受圧面積となる。故に、連通壁面部によって形成される溝の一対の開口のうち、押圧面を形成する端面の開口を、押圧面とは反対側の端面の開口に対して、押圧部材の周方向に沿ってずれて位置させることで、受圧面積の減少を抑制できる。故に、押圧面が開口壁面を押圧する押圧力は、連通壁面部を具備する押圧部材であっても、維持され得る。
また、請求項28に記載の発明では、連通壁面部によって形成される溝は、押圧部材の外周壁部において、当該押圧部材の周方向に延びる周方向溝部を具備することを特徴とする。この発明によれば、押圧面とは反対側から往復変位方向に沿って押圧部材を投影したとき、連通壁面部によって形成される溝の一対の開口は、押圧部材の周方向に延びる周方向溝部とそれぞれ重なり得る。故に、押圧部材の受圧面積の減少は、周方向溝部によって抑制される。したがって、押圧面が開口壁面を押圧する押圧力は、連通壁面部を具備する押圧部材であっても、維持され得る。
請求項29に記載の発明では、連通壁面部によって形成される溝は、押圧部材の径方向に沿った深さ方向の長さよりも、当該押圧部材の周方向に沿った幅方向の長さが大きいことを特徴とする。開口空間から背圧空間への燃料の流通を容易にするためには、往復変位方向とは直交する方向の断面における連通流路の流路面積は大きい方がよい。しかし、連通流路の流路面積の拡大を図るため、連通壁面部によって形成される溝を深さ方向に長くすると、押圧部材の往復変位方向における端面に形成された押圧面は縮小してしまう。そこで、連通壁面部による溝において、深さ方向の長さよりも、幅方向の長さを大きくすることにより、連通流路の流路面積を十分に確保しつつ、押圧面の面積の確保も可能となる。
請求項30に記載の発明では、連通壁面部は、前記押圧部材の外壁面にローレット目を形成することを特徴とする。この発明のように、連通壁面部は、多数の微小な溝によって、ローレット目を形成してもよい。このようなローレット目であっても、開口空間から背圧空間に燃料を流すことができる。尚、ローレット目としては、例えば、JIS B 0951に規定されているような、複数の溝が往復変位方向に沿って延伸する平目、又は各溝同士が交差し縞状を呈する綾目等が好適である。
請求項33に記載の発明では、押圧部材は、往復変位方向において、押圧面とは反対側となる端面によって圧力制御室内の燃料から圧力を受ける押圧受圧面を形成し、弁部材は、圧力制御室に露出し、圧力制御室内の燃料から圧力を受ける弁受圧面を有し、押圧受圧面は、弁受圧面よりも面積が大きいことを特徴とする。この発明によれば、押圧面によって開口壁面を押圧し、流入口と圧力制御室および流出口とを遮断する押圧部材は、圧力制御室内の燃料から、弁部材よりも大きな力を受けなければならない。しかし、押圧受圧面および弁受圧面に作用する圧力は同じである。そこで、押圧受圧面の面積を弁受圧面の面積よりも大きくすることにより、押圧部材に弁部材よりも大きな力を作用させることができる。これにより、押圧部材は、圧力制御室内の燃料から強い力を受けられるので、圧力制御弁に対して高い応答性を示し得る。
請求項34に記載の発明では、制御ボディは、円柱状に形成される弁ボディを有し、弁ボディは、軸方向の両端面のうち、開口壁面を形成する一方の端面の径方向中央部に流出口が開口し、他方の端面に圧力制御弁によって開放および閉塞が切り替えられる排出口が開口し、流出口と排出口とを連通する排出路は弁ボディの軸方向に対して傾斜することを特徴とする。
この発明によれば、排出路は、流出口から排出口に向うに従い、弁ボディの軸方向に対して傾斜している。故に、この排出路の軸方向に対する傾斜の角度を調整することによれば、弁ボディの一方の端面の径方向中央部に流出口を開口させた場合であっても、圧力制御弁によって開放および閉塞される排出口の他方の端面における位置は、自由に設定され得る。故に、圧力制御弁は確実な動作が可能な位置に配置される。加えて、排出口の開口する位置も、この圧力制御弁の位置に対応させて決められ。以上によれば、圧力制御弁は、制御信号に応じて排出口の開放および閉塞を確実に行うことができる。したがって、この排出口の開放および遮断によってなされる流出口と戻り流路との連通および遮断の切り換えも、確実に行われることとなる。
請求項35に記載の発明では、制御ボディは、弁部材を収容し噴孔を具備するノズルボディ、および圧力制御弁を収容する弁ホルダをさらに有し、弁ボディは、ノズルボディと弁ホルダとによって挟持されることを特徴とする。この発明のように、制御ボディは、弁ボディ、ノズルボディ、弁ホルダ等の複数の部材で構成されることがよい。このように制御ボディを複数の部材によって構成することで、燃料を流通させる流路を各部材に分割して形成することができる。故に、各流路の形状の自由度は向上し得る。そして、弁ボディをノズルボディと弁ホルダとによって挟持することで、これら複数の部材間において生じる燃料の漏れを抑制し得る。故に、複数の部材に亘って流路を形成しても、燃料を確実に流通させられ得る。
請求項36に記載の発明では、弁ボディは、押圧部材の変位軸まわりにおける回転を弁ホルダによって規制されることを特徴とする。この発明によれば、圧力制御弁を収容する弁ホルダによって、弁ボディの変位軸まわりにおける回転が規制されているので、当該弁ボディの弁ホルダに対する相対回転に起因した、圧力制御弁と排出口との相対位置の変化を防止できる。故に、圧力制御弁は、排出口の開放および閉塞を確実に行い得る。
請求項37に記載の発明では、制御ボディは、開口壁面を囲む筒状部材を有し、弁部材は、圧力制御室に露出し、圧力制御室内の燃料から圧力を受ける弁受圧面を有し、ノズルボディは、供給流路から供給された燃料を噴孔に流通させる噴射流路を有し、圧力制御室は、筒状部材の内周壁面、開口壁面、および弁受圧面によって、噴射流路から区画されることを特徴とする。
この発明によれば、開口壁面を囲む筒状の筒状部材の内周壁面、開口壁面、および弁部材の弁受圧面によって、供給流路から供給された燃料を噴孔に流通させる噴射流路から区画される圧力制御室内の燃料圧力は、当該噴射流路内における燃料圧力の変動の影響を受け難い。故に、弁部の開閉に起因した噴射流路内の燃料圧力の変動が、圧力制御室内の燃料圧力を変動させる事態を未然に防ぎ得る。以上によれば、圧力制御室内に配置され、当該圧力制御室内の燃料の圧力によって開口壁面を押圧する押圧部材の動作は、さらに確実なものとなる。
請求項38に記載の発明では、押圧部材は、円盤状に形成され、軸方向が往復変位方向に沿うよう配置され、軸方向における両端面のうちの少なくとも一方の外径は、押圧部材の最大外径に対して縮径されていることを特徴とする。この発明のような燃料噴射装置において、押圧部材は、圧力制御室内で変位する際に、傾きを生じる場合がある。そこで、円盤状に形成された押圧部材の軸方向における両端面のうちの少なくとも一方の外径を、押圧部材の最大外径に対して縮径することで、当該押圧部材の外周壁面は、傾きを生じた場合であっても、圧力制御室の内壁面に引っ掛かり難くなる。この外周壁面の形状によって、圧力制御室内での変位の確実性を高められた押圧部材によれば、流入口と圧力制御室との遮断は確実になされ得る。
また円盤状に形成された押圧部材の軸方向の両端面の外径を縮径させる形状としては、請求項39に記載の発明のように、中心軸を通る断面において外周壁面の断面形状が、当該押圧部材の径方向外側に凸状に湾曲する押圧部材とするのがよい。このような形状によれば、押圧部材の内壁面への引っ掛かりは、確実に抑制され得る。
請求項40に記載の発明では、制御ボディは、押圧部材を開口壁面に向けて付勢する付勢部材を有し、押圧部材は、圧力制御弁によって流出口と戻り流路とが遮断され、押圧部材の押圧面側の燃料圧力と当該押圧部材の軸方向において押圧面側とは反対側の燃料圧力とが均衡するまでは、付勢部材の付勢に抗して開口壁面から少なくとも部分的に離間することを特徴とする。この発明によれば、圧力制御弁によって流出口と戻り流路とが遮断されると、圧力制御室内に流入口から燃料が流入することで、押圧部材の押圧面側の燃料圧力が高まる。すると、この押圧部材の押圧面側の燃料圧力と押圧面側とは反対側の燃料圧力とが均衡する。これにより押圧部材は、付勢部材の付勢に抗して開口壁面から少なくとも部分的に離間する。このように、付勢部材により押圧部材を付勢する形態とすることで、押圧部材は、圧力制御弁によって流出口と戻り流路とが連通すると、実質的に変位を伴うことなく、流入口と圧力制御室との連通を遮断することができる。したがって、圧力制御室での急速な減圧が実現し、弁部の制御信号への応答性をさらに高めることができる。
請求項41に記載の発明では、制御ボディは、圧力制御室を区画する内壁面に、押圧面が開口壁面から離間する方向への押圧部材の変位を規制する変位規制部を有し、押圧部材は、外壁面に変位規制部に接触する接触部を有することを特徴とする。この発明によれば、圧力制御室を区画する内壁面に形成された変位規制部に、押圧部材の外壁面に形成された接触部を接触させることで、押圧面が開口壁面から離間する方向への当該押圧部材の変位は規制される。この構成によれば、押圧面が開口壁面から最も離間した状態における当該押圧面と開口壁面との間隔を所定の間隔内に設定し得る。故に、圧力制御弁によって流出口と戻り流路とが連通した後、押圧部材が変位を開始し、押圧面で開口壁面を押圧することで、流入口と圧力制御室とを遮断するまでに要する時間を、一定の時間内に収め得る。したがって、変位規制部および接触部の相乗作用によれば、圧力制御室内に急速な減圧を確実に生じさせることができる。
請求項42に記載の発明では、変位規制部および接触部の少なくとも一方は、燃料が通過可能な規制溝を具備することを特徴とする。上述したように、接触部を変位規制部に接触させて押圧部材の変位を規制する場合、この接触部と変位規制部との接触部分が圧力制御室内における燃料の流れを妨げるおそれがあった。そこで、請求項36に記載の発明では、変位規制部および接触部の少なくとも一方に、燃料の通過可能な規制溝を具備させることで、接触部と変位規制部とが接触した状態であっても、燃料の流れが妨げられ難い構成とし得る。この構成によれば、圧力制御室内の燃料圧力の上昇に支障をきたす事態を回避し得るのである。
請求項43に記載の発明では、制御装置からの制御信号に応じて、供給流路から供給される供給燃料の噴孔からの噴射を制御する弁部を開閉し、当該制御に伴って供給燃料の一部を戻り流路に排出する燃料噴射装置であって、供給流路を流通した燃料が流入口から流入し、戻り流路に流出口から燃料を排出する圧力制御室、圧力制御室に露出し流入口および流出口が開口する開口壁面、および開口壁面を囲み且つ圧力制御室を区画する筒状の筒状部材を有する制御ボディと、制御信号に応じて、流出口と戻り流路との連通および遮断を切り替え、圧力制御室内の燃料の圧力を制御する圧力制御弁と、開口壁面と対向して圧力制御室に露出し当該圧制御室内の燃料から圧力を受ける受圧面を有し、受圧面が受ける圧力に応じて弁部を開閉する弁部材と、筒状部材内において開口壁面と受圧面との間に当該筒状部材の軸方向に沿って往復変位可能に配置され、往復変位の方向において開口壁面に対向する押圧面を有し、圧力制御弁によって流出口と戻り流路とが連通すると、流入口と圧力制御室および前記流出口との連通を遮断するように押圧面によって開口壁面を流入口と制御室および流出口を遮断するように押圧し、圧力制御弁によって流出口と戻り流路とが遮断されると、押圧面が開口壁面から離間するよう変位する押圧部材と、を備え、押圧部材の往復変位方向に沿った変位軸まわりの外周壁面は、筒状部材の内周壁面を補完する形状に形成される補完壁面部、および補完壁面部に対して凹み、圧力制御室において押圧部材の開口壁面側となる開口空間と当該押圧部材を挟んで開口空間とは反対側となる背圧空間とを連通する連通流路を、筒状部材の内周壁面とともに形成する連通壁面部を具備することを特徴とする。
この発明によれば、上述したように、連通流路によって開口空間内の燃料を背圧空間に流通させられるので、筒状部材の内周壁面と押圧部材の補完壁面部との隙間を小さくしても、開口空間と背圧空間との燃料の流通量を確保し得る。以上により、背圧空間内の燃料圧力が上昇するまでの遅延を抑制できので、制御装置からの制御信号に対する弁部の開閉の応答性は向上し得る。
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する。
(第一実施形態)
本発明の第一実施形態による燃料噴射装置100が用いられた燃料供給システム10を、図1に示す。尚、本実施形態の燃料噴射装置100は、内燃機関であるディーゼル機関20の燃焼室22内に向けて直接的に燃料を噴射する、所謂、直接噴射式燃料供給システムである。
燃料供給システム10は、フィードポンプ12、高圧燃料ポンプ13、コモンレール14、機関制御装置17、および燃料噴射装置100等から構成されている。
フィードポンプ12は、電動式のポンプであって、燃料タンク11内に収容されている。フィードポンプ12は、燃料タンク11内に貯留されている燃料に、この燃料の蒸気圧よりも高圧であるフィード圧を与える。このフィードポンプ12は、高圧燃料ポンプ13に燃料配管12aによって接続されており、所定のフィード圧を与えた液相状態の燃料をこの高圧燃料ポンプ13に供給する。尚、燃料配管12aには、調圧弁(図示しない)が設けられており、高圧燃料ポンプ13に供給される燃料の圧力は所定の値に保たれている。
高圧燃料ポンプ13は、ディーゼル機関に取り付けられて、当該ディーゼル機関の出力軸からの動力によって駆動される。高圧燃料ポンプ13は、コモンレール14に燃料配管13aによって接続されており、フィードポンプ12によって供給された燃料にさらに圧力を加えて、該コモンレール14に供給する。加えて、高圧燃料ポンプ13は、機関制御装置17と電気的に接続された電磁弁(図示しない)を有している。この電磁弁の機関制御装置17による開閉の制御によって、高圧燃料ポンプ13からコモンレール14に供給される燃料の圧力は所定の値に制御される。
コモンレール14は、クロム・モリブデン鋼等の金属材料からなる管状の部材であり、ディーゼル機関のバンクあたりの気筒数に応じた複数の分岐部14aが形成されている。この分岐部14aは、供給流路14dを形成する燃料配管によって、それぞれ燃料噴射装置100に接続されている。また、燃料噴射装置100と高圧燃料ポンプ13とは、戻り流路14fを形成する燃料配管によって接続されている。これらの構成によりコモンレール14は、高圧燃料ポンプ13によって高圧な状態で供給された燃料を一時的に蓄え、圧力を保持したまま複数の燃料噴射装置100に供給流路14dを介して分配する。加えて、コモンレール14は、軸方向におけるそれぞれの端部にコモンレールセンサ14bおよび圧力レギュレータ14cを有している。コモンレールセンサ14bは、機関制御装置17に電気的に接続されており、燃料の圧力および温度を検出して当該機関制御装置17に出力する。圧力レギュレータ14cは、コモンレール14内の燃料の圧力を一定に保持するとともに、余剰分の燃料を減圧して排出する。この圧力レギュレータ14cを通過した余剰分の燃料は、コモンレール14と燃料タンク11との間に連通する燃料配管14eによって形成される流路を介して、当該燃料タンク11へ戻される。
燃料噴射装置100は、コモンレール14の分岐部14aを通じて供給される圧力の高められた燃料を噴孔44から噴射する装置である。燃料噴射装置100は、機関制御装置17からの制御信号に応じて、供給流路から供給される供給燃料14dの噴孔44からの噴射を制御する弁部50を開閉する。また、この制御に伴って、噴孔から噴射されなかった供給燃料の一部は、戻り流路14fに排出される。以上によって、燃料噴射装置100による燃料の噴射は制御される。この燃料噴射装置100は、ディーゼル機関20の燃焼室22の一部を構成するヘッド部材21に設けられる挿入孔に挿入されて、取り付けられている。燃料噴射装置100は、ディーゼル機関20の燃焼室22毎に複数配置され、当該燃焼室22内に向け直接的に燃料を、具体的には160から220メガパスカル(MPa)程度の噴射圧力で噴射する。
機関制御装置17は、マイクロコンピュータ等からなり、上述したコモンレールセンサ14bに加えて、ディーゼル機関20の回転速度を検出する回転速度センサ、スロットル開度を検出するスロットルセンサ、吸入吸気量を検出エアフローセンサ、過給圧を検出する過給圧センサ、冷却水温を検出する水温センサ、および潤滑油の油温を検出する油温センサ等、種々のセンサと電気的に接続されている。機関制御装置17は、これらの各センサからの情報に基づいて、高圧燃料ポンプ13の電磁弁および各燃料噴射装置100の弁部50の開閉を制御するための電気信号を、高圧燃料ポンプ13の電磁弁および各燃料噴射装置100に出力する。
次に、図1〜図3に基づいて燃料噴射装置100の構成について、さらに説明する。
燃料噴射装置100は、制御弁駆動部30、制御ボディ40、ノズルニードル60、およびフローティングプレート70を備えている。尚、便宜的に、ディーゼル機関20に挿入された状態で、燃焼室22に露出する弁部50側(図2の下方)を燃料噴射装置100の先端側、弁部50とは反対側(図2の上方)を燃料噴射装置100の基端側とする。
制御弁駆動部30は、制御ボディ40内に収容されている。この制御弁駆動部30は、ターミナル32、ソレノイド31、固定子36、可動子35、スプリング34、およびバルブシート部材33を有している。ターミナル32は、導電性を備える金属材料によって形成され、一端を制御ボディ40から外部に露出させているとともに、他端をソレノイド31と接続させている。ソレノイド31は、螺旋状に巻設されており、ターミナル32を介して機関制御装置17からのパルス電流の供給を受ける。ソレノイド31は、この電流の供給を受けることで、軸方向に沿って周回する磁界を発生させる。固定子36は、磁性材料によって形成された円筒状の部材であって、ソレノイド31によって発生された磁界内で帯磁する。可動子35は、磁性材料によって形成される二段円柱状の部材であって、固定子36の軸方向先端側に配置されている。可動子35は、帯磁した固定子36によって基端側に吸引される。スプリング34は、金属製の線材を周回状に巻設したコイルスプリングであって、可動子35を固定子36から離間させる方向に付勢している。バルブシート部材33は、制御ボディ40の後述する制御弁座部47aとともに圧力制御弁80を形成している。バルブシート部材33は、可動子35の固定子36とは反対側に設けられて、制御弁座部47aに着座自在である。ソレノイド31による磁界の形成の無い場合、バルブシート部材33は、スプリング34の付勢力によって制御弁座部47aに着座している。ソレノイド31によって磁界が形成された場合、バルブシート部材33は、制御弁座部47aから離座する。
制御ボディ40は、ノズルボディ41、シリンダ56、第一バルブボディ46、第二バルブボディ47、弁ホルダ48、リテーニングナット49を有している。この制御ボディ40には、高圧燃料ポンプ13およびコモンレール14(図1参照)側の供給流路14dに連通する流入路52、流入路52から燃料が流入する圧力制御室53、および圧力制御室53から燃料を流出させる流出路54が形成されている。これら流入路52および流出路54の圧力制御室53へ開口する流入口52bおよび流出口54b(図3参照)は、ともにフローティングプレート70に対して基端側において、圧力制御室53に露出している開口壁面53bに位置している。このような制御ボディ40の形態によれば、圧力制御室53には供給流路14dを流通した燃料が流入口52bから流入し、戻り流路14fに流出口54bから燃料を排出する。
ノズルボディ41は、クロム・モリブデン鋼等の金属材料よりなる有底円筒状の部材であって、ノズルニードル収容部43、弁座部45、および噴孔44を有している。ノズルニードル収容部43は、ノズルボディ41の軸方向に沿って形成され、ノズルニードル60を収容する円筒穴である。このノズルニードル収容部43には、高圧燃料ポンプ13およびコモンレール14からの高圧な燃料が供給される。このようにノズルニードル収容部43内には、供給流路14dから供給された燃料を噴孔44に流通させる噴射流路43aが形成されている。弁座部45は、ノズルニードル収容部43の先端側の底壁に形成されて、ノズルニードル60の先端と接触自在である。噴孔44は、弁座部45のさらに先端側に位置し、ノズルボディ41の内側から外側に向けて放射状に複数形成された微小な孔である。この微小な噴孔44を通過することで、燃料は、微粒化および拡散して空気と混合し易い状態となる。
シリンダ56は、金属材料よりなり、開口壁面53bを囲み且つ圧力制御室53を区画する円筒状の部材であって、ノズルニードル収容部43内に、当該収容部43と同軸となるよう配置され、第一バルブボディ46の先端側に保持されている。このシリンダ56の内周壁部は、基端側で第一バルブボディ46の先端側の壁部とともに円筒穴である圧力制御室53を形成している。加えてシリンダ56の内壁部は、先端側でノズルニードル60を軸方向に沿って往復変位可能に支持するシリンダ摺動部59を形成している。
第一バルブボディ46および第二バルブボディ47は、クロム・モリブデン鋼等の金属材料よりなる円柱状の部材である。第二バルブボディ47は、弁ホルダ48の先端側に保持されるとともに、第一バルブボディ46を先端側で保持している。第一バルブボディ46および第二バルブボディ47は、ノズルボディ41と弁ホルダ48とによって挟持されており、且つ変位軸まわりの回転を当該弁ホルダ48によって規制されている。
これら第一バルブボディ46および第二バルブボディ47には、流入路52および流出路54の一部である排出路47cが設けられている。特に、第二バルブボディ47に形成された流入路52および排出路47cには、各流路の最大流量を規定するための絞り部である流入側絞り流路52aおよび流出側絞り流路54aがそれぞれ設けられている。加えて、第二バルブボディ47の基端側には、制御弁駆動部30のバルブシート部材33とともに圧力制御弁80を形成する制御弁座部47aが設けられている。この第二バルブボディ47の軸方向基端側の端面に形成された制御弁座部47aには、圧力制御弁80によって開放および閉塞が切り替えられる排出口47bが開口している。圧力制御弁80は、制御信号に応じて、排出口47bの開放および閉塞をする。この排出口47bが開放および閉塞されることにより、第一バルブボディ46において開口壁面53bを形成する端面の径方向中央部に開口する流出口54bと戻り流路14fとの連通および遮断は、切り替える。そして、この流出口54bと戻り流路14fとの連通および遮断が切り替えることによって、圧力制御室53内の燃料の圧力は制御される。
弁ホルダ48は、クロム・モリブデン鋼等の金属材料よりなる筒状の部材であって、軸方向に沿って形成される縦孔48a,48b、およびソケット部48cを有している。縦孔48aは、流入路52の一部であって、第二バルブボディ47に形成されている流入路52と連通している。縦孔48bは、先端側で制御弁駆動部30を収容している。加えて、縦孔48bの基端側には、開口端を閉塞するようソケット部48c形成されている。このソケット部48cは、内部に制御弁駆動部30のターミナル32の一端が突出しており、機関制御装置17と接続されたプラグ部(図示しない)と嵌合自在である。このソケット部48cと図示しないプラグ部との接続によれば、機関制御装置17から制御弁駆動部30への駆動電流の供給が可能となる。
リテーニングナット49は、金属材料よりなる二段円筒状の部材であって、ノズルボディ41の一部、第一バルブボディ46、および第二バルブボディ47を収容しつつ、弁ホルダ48の先端側に螺合されている。加えて、リテーニングナット49は、内周壁部で段差部49aを形成している。この段差部49aは、リテーニングナット49の弁ホルダ48への取り付けによって、ノズルボディ41および第一,第二バルブボディ46,47を弁ホルダ48側に付勢する。
ノズルニードル60は、高速度工具鋼等の金属材料よって円柱状に形成されて、シート部65、弁受圧面61、および鍔部材67を有している。シート部65は、ノズルニードル60の先端部に形成されて、制御ボディ40の弁座部45に着座可能である。このシート部65は、ノズルニードル収容部43内に供給される高圧な燃料の噴孔44への連通および遮断を切り替える弁部50を弁座部45とともに構成している。弁受圧面61は、ノズルニードル60の基端部に形成されており、圧力制御室53に露出し、当該圧力制御室53内の燃料から圧力を受ける。鍔部材67は、ノズルニードル60の外周壁部に外嵌され、該ノズルニードル60に保持される環状の部材である。以上により、圧力制御室53は、シリンダ56の内周壁面57、第一バルブボディ46の開口壁面53b、および弁受圧面61によって、噴射流路43aから区画されている。
加えてノズルニードル60は、リターンスプリング66によって弁部50側に付勢されている。リターンスプリング66は、金属製の線材を周回状に巻設したコイルスプリングであって、先端側を鍔部材67の基端側の面に、基端側をシリンダ56の先端側の端面に、それぞれ着座させている。以上の構成によるノズルニードル60は、圧力制御室53内の燃料の圧力に応じて制御ボディ40に対して直線状に往復変位し、弁部50の開閉を行うこととなる。
フローティングプレート70は、金属材料よりなる円盤状の部材であって、連通孔71を有している。このフローティングプレート70は、その軸方向をシリンダ56の軸方向と同一方向に向けられた状態で該シリンダ56内部に収容されている。このように、シリンダ56内に当該シリンダ56の軸方向に沿って往復変位可能に配置されたフローティングプレート70は、ノズルニードル60の往復変位方向に沿う方向に変位可能である。このフローティングプレート70の往復変位の方向である軸方向の両端面73a,79aのうち、開口壁面53bに対向する端面73aによって、円形の押圧面73が形成されている。また、軸方向において押圧面73とは反対側となる端面79aによって、圧力制御室53内の燃料から圧力を受ける円形の押圧受圧面79が形成されている。
フローティングプレート70は、圧力制御弁80によって流出口54bと戻り流路14fとが連通状態へ切り替えられると、圧力制御室53内の燃料の圧力によって押圧受圧面79が開口壁面53b側に付勢される。これにより、フローティングプレート70は、押圧面73によって開口壁面53bを押圧し、流入路52と圧力制御室53との連通を遮断する。加えて、連通孔71は、フローティングプレート70の中央に、軸方向沿って形成されている。フローティングプレート70によって流入口52bが閉塞されると、圧力制御室53内の燃料は、この連通孔71を通過して流出路54へ流出する。尚、連通孔71の流路面積は、流出側絞り流路54aの流路面積よりも大きい。また、フローティングプレート70は、圧力制御弁80によって流出口54bと戻り流路14fとが遮断状態へ切り替えられると、流入路52内の燃料の圧力によって開口壁面53bから離間する方向に押される。これによりフローティングプレート70は、押圧面73が開口壁面53bから離間するよう変位し、流入路52と圧力制御室53とを連通させる。
(特徴部分)
次に、図3〜図6に基づいて燃料噴射装置100の特徴部分について、さらに詳細に説明する。
制御ボディ40の第一バルブボディ46には、流入路52および排出路47cとして、軸方向に貫通する縦孔46aおよび縦孔46bが形成されている。縦孔46bは、排出路47cの一部であって、流出口54bをフローティングプレート70の中央の連通孔71に向けて開口している。縦孔46aは、流入路52の一部であって、縦孔46bを中心として周方向に等間隔で四つ形成されている(図4参照)。この縦孔46aの圧力制御室53側は、流路面積の減少する絞り流路46cを形成しており、流入口52bの開口面積を小さくしている。ここで、四つの絞り流路46cの流路面積の総和は、流入側絞り流路52aの流路面積よりも大きい。以上によれば、流入口52bおよび流出口54bは、フローティングプレート70に対して同じ側に形成されるとともに、該プレート70の往復変位方向に沿った変位軸に対して点対称で配置されることとなる。
このような縦孔46aおよび縦孔46bの形状によって、開口壁面53bにおいて流出口54bは当該開口壁面53bの径方向中央部に円形に開口している(図4参照)。また、流入口52bは、流出口54bの外周側に、当該流出口54bの周方向に沿って等間隔で複数開口しており、開口壁面53bにおいて流出口54bよりも当該開口壁面53bの外縁に近接している。第一バルブボディ46の圧力制御室53を形成する軸方向基端側の端面には流入口52bおよび流出口54bの開口する開口壁面53bが形成されている。この開口壁面53bにおいて、流入口52bおよび流出口54bを囲う部分をそれぞれ流入周囲面部52dおよび流出周囲面部54dとする(図5(a)参照)。
流出口54bと排出口47bとを連通する排出路47cのうち、第二バルブボディ47に形成されている流路部分は、当該第二バルブボディ47の軸方向に対して傾斜している(図3参照)。この排出路47cの軸方向に対する傾斜の角度を調整することによれば、第一バルブボディ46の開口壁面53bの径方向中央部に流出口54bを開口させた場合であっても、第二バルブボディ47の軸方向基端側の端面における排出口47bおよび制御弁座部47aの位置は、自由に設定され得る。故に、圧力制御弁80の確実な動作が確保され易い位置に当該圧力制御弁80が配置されるよう、排出口47bの開口する位置を決定できる。以上によれば、制御信号に応じて排出口47bの開放および閉塞を行う圧力制御弁80の動作の確実性は向上し得る。したがって、この排出口47bの開放および遮断によってなされる流出口54bと戻り流路14fとの連通および遮断の切り換えの確実性も向上し得る。
フローティングプレート70は、流入凹部72a、流出凹部74a、内周側押圧部72、外周側押圧部74、補完壁面部76、および連通壁面部77を、上述した連通孔71および押圧面73等に加えて、さらに有している(図4および図5(a)参照)。
流入凹部72aは、押圧面73において、開口壁面53bの流入周囲面部52dに往復変位方向に対向する流入対向面部72bによって形成されている。この流入対向面部72bは、開口壁面53bから離間する方向に窪むことで、流出凹部74aの周囲を囲む円環状の流入凹部72aを形成している。流入凹部72aは、押圧面73が開口壁面53bを押圧している状態下で、複数の流入口52bから燃料を流入させる流入空間83を流入周囲面部52dとともに区画する。
流出凹部74aは、押圧面73において、開口壁面53bの流出周囲面部54dに往復変位方向に対向し、流入対向面部72bの内周側に位置する流出対向面部74bによって形成されている。この流出対向面部74bは、開口壁面53bから離間する方向に窪むことで流出凹部74aを形成している。この流出凹部74aは、押圧面73の径方向中央部に位置しており、円形の当該押圧面73および円環状の流入凹部72aと同心である(図4参照)。
内周側押圧部72および外周側押圧部74は、ともにフローティングプレート70の端面73aに位置する押圧面73に同心且つ円環状に形成されており、開口壁面53bと相対している。これら内周側押圧部72および外周側押圧部74は、フローティングプレート70の変位軸に対して点対称に形成されている。外周側押圧部74はフローティングプレート70の径方向外側の周端縁に配置され、円環状の流入凹部72aの径方向外側を全周に亘って囲っている。内周側押圧部72は、外周側押圧部74の内周側に配置されており、流出凹部74aと流入凹部72aとを連続させている。これら内周側押圧部72および外周側押圧部74は、フローティングプレート70の軸方向に沿って、開口壁面53b側に向けて突出する連続した凸部である。
以上の構成では、流入凹部72aは、外周側押圧部74と内周側押圧部72とによって囲まれている。故に、押圧面73が開口壁面53bを押圧した状態下では、流入凹部72aは、流入路52側から流入空間83に流入する燃料の圧力を受ける。また、流出凹部74aは、内周側押圧部72によって囲まれている。故に、押圧面73が開口壁面53bを押圧した状態下では、流出凹部74aは流出路54内の燃料から圧力を受ける。
補完壁面部76および連通壁面部77は、フローティングプレート70の往復変位方向に沿った変位軸まわりの外周壁面75に形成されている。この外周壁面75は、当該フローティングプレート70の中心軸を通る断面においける断面形状が、当該フローティングプレート70の径方向外側に凸状に湾曲している。補完壁面部76は、シリンダ56の内周壁面57を補完する形状に形成されている。この外周壁面75による補完壁面部76とシリンダ56の内周壁面57との間隙によって、燃料の通過可能な連通隙間78が形成されている。この連通隙間78は、圧力制御室53において開口空間53cと、背圧空間53dとを連通する。ここで、開口空間53cとは、圧力制御室53においてフローティングプレート70の開口壁面53b側の空間である。一方、背圧空間53dとは、圧力制御室53においてフローティングプレート70を挟んで開口空間53cとは反対側となる空間である。
連通壁面部77は、外周壁面75の一部を補完壁面部76に対して凹ませることによって形成されている。連通壁面部77は、開口空間53cと背圧空間53dとを連通する連通流路77aを、内周壁面57とともに形成している。第一実施形態における連通壁面部77は、往復変位方向に沿った平面であって、フローティングプレート70の径方向において相対するよう一対設けられている。
これら連通隙間78および連通流路77aの流路面積の総和は、流入口52bの開口面積の総和よりも大きくされている。加えて第一実施形態では、連通隙間78および連通流路77aの流路面積の総和は、流入路52の中で最小流路面積となる流入側絞り流路52aの流路面積の総和よりも大きくされている。以上の構成によれば、背圧空間53dの圧力回復がフローティングプレート70によって妨げられ難い。これら補完壁面部76および連通壁面部77を含む外周壁面75とシリンダ56の内周壁面57との間で連通隙間78および連通流路77aを形成することによれば、フローティングプレート70の外径、さらには押圧受圧面79の面積を縮小することなく、必要な連通隙間78および連通流路77aの流路面積が確保されるのである。これにより、押圧受圧面79は、弁受圧面61よりも面積が大きく形成でき、圧力制御室53内の燃料から大きな力を受けることができる。故に、圧力制御弁80に対するフローティングプレート70の応答性は高まり得る。
さらに、往復変位方向に沿った平面である連通壁面部77の形状により、連通隙間78の流路面積は、フローティングプレート70の変位位置にかかわらず維持されるのである。故に、開口空間53cから背圧空間53dへの燃料の流通は確実なものとなるので、背圧空間53d内ではすみやかに圧力が上昇する。したがって、圧力制御弁80に対するノズルニードル60の応答性も高まり得る。
連通孔71は、フローティングプレート70において、当該フローティングプレート70の軸方向に沿って延伸しており、押圧面73が開口壁面53bを押圧することで、圧力制御室53と流出口54bとを連通する。この連通孔71の一対の開口のうち、一方の開口71aは、内周側押圧部72によって囲まれた流出凹部74a内であって、押圧面73において径方向の中央部に位置している。この開口71aは、軸方向に沿って流出口54bと相対している。また、他方の開口は、押圧受圧面79において径方向の中央部に位置している。
連通孔71は、絞り部71cおよび連通凹部71bを有している。絞り部71cは、連通孔71の流路面積を絞ることにより、当該連通孔71を流通する燃料の流量を調整する。この絞り部71cは、連通孔71において、押圧受圧面79を形成する端面79aよりも押圧面73を形成する端面73aに近接するよう設けられている。連通凹部71bは、連通孔71の押圧受圧面79側の開口を拡大している。この連通凹部71bは、押圧受圧面79の径方向中央部を軸方向に沿って窪ませることにより形成されている。
プレートスプリング55は、ノズルニードル60とフローティングプレート70との間に設けられており、フローティングプレート70を開口壁面53bに向けて付勢する(図3参照)。プレートスプリング55は、金属製の線材を周回状に巻設したコイルスプリングであって、軸方向先端側をノズルニードル60に、軸方向基端側をフローティングプレート70の端面79aに、それぞれ着座させている。このプレートスプリング55の付勢によれば、フローティングプレート70は、当該プレート70の開口空間53c側と背圧空間53d側との間に圧力差が無い場合であっても、流入口52b側に付勢されて、開口壁面53bに接触している。
また、圧力制御弁80によって流出口54bと戻り流路14fとが遮断されると、フローティングプレート70は、流入空間83内の燃料の圧力により、プレートスプリング55の付勢に抗して、押圧面73を開口壁面53bから離間させる。そして、開口空間53c内の燃料の圧力と、背圧空間53d内の燃料の圧力とが均衡するまでは、押圧面73が開口壁面53bから離間した状態は維持され続ける(図5(b)参照)。
以上の構成による燃料噴射装置100が、機関制御装置17からの駆動電流に応じて弁部50を開閉させ燃料の噴射を行う動作を、図6に基づいて、図2〜図5を参照しつつ、以下に説明する。
機関制御装置17からのパルス状の駆動電流に応じて発生するソレノイド31による磁界は、圧力制御弁80を開弁させる(図6,t1)。この圧力制御弁80の開弁開始とともに、連通状態となった排出路47cからの燃料の流出が始まる。この燃料の流出は、圧力制御室53内において、まず流出口54b付近を減圧させる。プレートスプリング55によって予め開口壁面53b側に付勢されたフローティングプレート70は、流出口54b付近の減圧によって、開口壁面53bに接触している内周側押圧部72および外周側押圧部74を、当該開口壁面53b側へさらに強く付勢する。以上によれば、フローティングプレート70は、流入口52bと圧力制御室53および流出口54bとの連通を遮断する。
圧力制御室53のうち背圧空間53d内の燃料は、フローティングプレート70の連通孔71を通過し、流出路54を介して流出する。流入路52との連通が遮断された圧力制御室53内では急速な減圧が生じる。すると、圧力制御室53内の燃料から弁受圧面61の受ける力とリターンスプリング66の付勢力との和が、ノズルニードル収容部43内の燃料から主にシート部65等の受ける力を下回ることとなる。これによりノズルニードル60は、直ちに圧力制御室53側に高速で押し上げられて、変位を開始する(図6,t2)。尚、ノズルニードル60の変位中は、圧力制御室53内の圧力がほぼ一定で推移する。
ノズルニードル60の圧力制御室53側への変位が停止すると、再び圧力制御室53内の減圧が生じる(図6,t3)。すると、圧力制御室53の圧力が、フローティングプレート70の流出凹部74aに作用する流出口54b付近の圧力に次第に近づく。これにより、フローティングプレート70を基端側に付勢する付勢力は弱まる。対して、流入凹部72aに作用する流入口52b付近の燃料の圧力と、圧力制御室53内の燃料の圧力との差は増大する。故に、フローティングプレート70は、流入凹部72aによって受ける流入口52b付近の圧力によって、プレートスプリング55の付勢力に抗して、先端側に押し下げられることとなる(図6,t4)。
フローティングプレート70の先端側への変位によれば、流入路52と圧力制御室53との連通の遮断は中止されて、当該圧力制御室53内への燃料の流入が再開される。よって、圧力制御室53内の圧力低下は停止する。ここで、開口空間53cに流入した燃料は、フローティングプレート70の押圧面73と開口壁面53bとの間を通過する。故に、フローティングプレート70の周方向における外周側押圧部74の長さと、当該フローティングプレート70の変位量とを乗じた面積が、当該プレート70と第一バルブボディ46との間の流路面積となる。そこで、フローティングプレート70は、当該プレート70と第一バルブボディ46との間の流路面積が流入側絞り流路52aの流路面積を上回るよう、ノズルニードル60側に変位することが望ましい。
機関制御装置17からの駆動電流に応じたソレノイド31による磁界の消失によって、圧力制御弁80は閉弁を開始する(図6,t5)。圧力制御弁80が閉弁することにより流出口54bと戻り流路14fとが遮断されると、(図6,t6)、流出口54bからの燃料の流出は停止する。これによりフローティングプレート70は、流入凹部72a内の燃料の圧力に押され、押圧面73を開口壁面53bから離間させるよう変位する。流入口52bと圧力制御室53とが連通すると、圧力制御室53内の圧力は上昇する。すると、圧力制御室53内の燃料から弁受圧面61の受ける力とリターンスプリング66による付勢力との和は、ノズルニードル収容部43内の燃料から主にシート部65等が受ける力を再び上回ることとなる。これより、ノズルニードル60は弁部50側に高速で押し下げられて、シート部65を弁座部45に着座させることで、弁部50を閉弁状態とする(図6,t7)。
ノズルニードル60の変位が停止すると、圧力制御室53内の圧力はさらに上昇し、流入路52内の圧力と等しくなる。フローティングプレート70は、開口空間53c側と背圧空間53d側との間の圧力差に起因した付勢力を失うこととなるので、プレートスプリング55による付勢力で第一バルブボディ46側に押し上げられて、内周側押圧部72および外周側押圧部74を開口壁面53bに接触させた状態に戻る(図6,t8)。尚、上述した弁部50の開弁から閉弁までの時間は、3ミリ秒程度である。
つづいて、ノズルニードル60が最大変位に達する以前に圧力制御弁80を閉弁した場合について以下説明する。
圧力制御弁80の閉弁による燃料の流出の停止と、連通孔71を通過した燃料の供給によれば、流出凹部74aの受ける流出口54b付近の圧力は回復する。故に、流入凹部72aの受ける流入口52b付近の高い圧力によってフローティングプレート70は、先端側に押し下げられる。このフローティングプレート70の先端側への変位によれば、流入路52と圧力制御室53とが連通する。
圧力制御室53内への燃料の流入によれば、当該圧力制御室53の圧力はノズルニードル60を弁部50側に押し下げるまでに回復する。これによれば、ノズルニードル60は、直ちに圧力制御弁80側に高速で押し下げられて、シート部65を弁座部45に着座させることで、弁部50を閉弁状態とする。弁部50の閉弁後、フローティングプレート70は、上述したようにプレートスプリング55の付勢力によって第一バルブボディ46側に押し上げられて、内周側押圧部72および外周側押圧部74を開口壁面53bに接触させた状態となる。
ここまで説明した第一実施形態では、流出凹部74aおよび流入凹部72aの開口は、流出口54bおよび流入口52bよりも大きい。この流出凹部74aおよび流入凹部72aを囲む内周側押圧部72および外周側押圧部74が開口壁面53bと接触する構成とすることで、押圧面73と当該開口壁面53bとの接触面積は低減され得る。故に、内周側押圧部72および外周側押圧部74と開口壁面53bとの接触領域に生じる応力は高められ得る。これにより、フローティングプレート70は、圧力制御弁80によって流出口54bと戻り流路14fとが連通された後に、開口壁面53bおよび押圧面73間の燃料の通過を防ぎ、流入口52bと圧力制御室53および流出口54bとの連通を確実に遮断できる。
以上のように、流入口52bから圧力制御室53への燃料の流入を確実に遮断し得るフローティングプレート70によって、流出路54と戻り流路14fとの連通直後に、圧力制御室53内では急速な減圧が生じる。この圧力制御室53内の減圧を急速に生じさせる作用が確実に発揮されることで、ノズルニードル60は、圧力制御室53側に高速で変位して弁座部45からシート部65を離座させ、迅速に弁部50を開弁状態にし得る。したがって、弁部50の駆動電流への応答性を高めた燃料噴射装置100を提供することができるのである。
加えて第一実施形態では、フローティングプレート70に対して流出口54bを流入口52bと同じ側に形成しているので、内周側押圧部72および外周側押圧部74と開口壁面53bとの接触領域にはさらに高い応力を生じさせることができる。また、内周側押圧部72および外周側押圧部74を円環状に形成することによれば、流入口52bと圧力制御室53との遮断に要するシール長さの確保が容易となる。
さらに、フローティングプレート70は、その軸方向に沿って第一バルブボディ46側に付勢されるとともに、当該プレート70の中心軸に点対称な形状の流入凹部72aおよび流出凹部74a形成を形成している。これにより、内周側押圧部72および外周側押圧部74の形状がフローティングプレート70の中心軸に対して点対称な円環形状とるので、押圧面73と開口壁面53bとの接触領域の形状も当該変位軸に対して点対称な形状となる。故に、内周側押圧部72および外周側押圧部74は開口壁面53bに均等に押圧され、接触領域の全体に亘って均等な面圧が生じ得る。以上によれば、内周側押圧部72および外周側押圧部74と開口壁面53bとの間でのシール作用は、確実なものとなるのである。
また第一実施形態では、開口壁面53bに複数の流入口52bを開口させることで、流入口52bの開口面積の総和を増加させられる。これにより流入空間83は、流入口52bから流入する燃料によって確実に満たされ得る。故にフローティングプレート70は、流入空間83を満たした燃料の圧力を確実に受けられる。したがって、開口壁面53bから押圧面73を離間させるフローティングプレート70の動作の確実性が向上し、ひいては流入口52bと圧力制御室53との連通に要する時間の遅延は抑制され得る。
加えて、これら複数の流入口52bを流出口54bの外周側に当該流出口54bの周方向に沿って等間隔で開口させることにより、これら流入口52bから圧力制御室53に流入する燃料は、押圧面73を周方向において均等に押すことができる。故に、開口壁面53bに対する押圧面73の傾きが抑制され、フローティングプレート70は、押圧面73を開口壁面53bから離間させる方向に円滑に変位できる。このようなフローティングプレート70の円滑な変位によれば、当該フローティングプレート70の変位の速度は向上し得る。
さらに、圧力制御室53内の燃料の圧力を全体においてすみやかに上昇させるためには、開口空間53cに流入した燃料が、背圧空間53dに移動し易い構成であることが望ましい。そこで、第一実施形態では、流入口52bを流出口54bよりも開口壁面53bの外縁に近接させ、押圧面73の外縁近傍に対向させることにより、流入口52bから流入した燃料は、当該開口壁面53bと押圧面73との間に滞留し難くなる。故に、流入口52bから流入した燃料は、フローティングプレート70を往復変位方向に跨ぐように流れ、背圧空間53dに到達し易くなる(図5(b)参照)。
これらの構成によれば、燃料噴射装置100は、流出口54bと戻り流路14fとが遮断された後、迅速にフローティングプレート70を変位させ、圧力制御室53内全体の燃料の圧力をすみやかに上昇させ得る。したがって、弁部50の制御信号への応答性を高める効果は、確実に獲得され得る。
さらに第一実施形態では、フローティングプレート70は、内周側押圧部72で流出口54b周囲の開口壁面53bを押圧することで、当該流出口54b付近を確実に減圧させる。加えて、フローティングプレート70は、連通孔71を有することで、圧力制御室53内からの流出路54への燃料の流出を可能にしている。故に、フローティングプレート70は、圧力制御室53内の減圧を最適化でき、流出口54b付近の低下した圧力を用いて、流入路52へ向けて強く付勢され得る。さらに、流出口54bと戻り流路14fとの連通時に、開口壁面53bから内周側押圧部72および外周側押圧部74を離間させるフローティングプレート70の動作によれば、圧力制御室53内へ流入する燃料によって、当該圧力制御室53内の圧力は上昇する。以上のように、連通孔71によって圧力制御室53内の減圧を調整することで、燃料噴射装置100は、流出路54の遮断後、直ちにノズルニードル60を弁部50側に高速で変位させて、弁部50を閉弁することができる。したがって、駆動電流への応答性の高い弁部50を備えた燃料噴射装置100を提供できるのである。
加えて、押圧面73が開口壁面53bを押圧する際に、圧力制御室53と流出口54bとを連通させる連通孔71は、当該連通孔71を流通する燃料によって力を受ける。円盤状のフローティングプレート70において、この連通孔71を押圧面73の径方向中央部から軸方向に沿って延伸させることで、燃料から連通孔71に作用する力は、押圧面73が開口壁面53bを周方向において均等に押圧できるように作用する。故に、開口壁面53bと押圧面73との接触領域では、全体に亘って均等に面圧が上昇し得る。したがって、フローティングプレート70による流入口52bと流出口54bとの遮断は、さらに確実なものとなる。
さらに、連通孔71を流通する燃料の流量は、絞り部71cの予め定められる流路面積を増減させることによって、任意に調整され得る。故に、押圧面73が開口壁面53bを押圧した後における圧力制御室53内の燃料圧力の下降速度は、予め設定された絞り部71cの流路面積によって任意に設定され得る。これにより、圧力制御室53内の燃料圧力に応じて弁部50を開閉するノズルニードル60の動作を、最適に調整し得る。
ここで、燃料は、温度が低くなるほど粘性が高くなり、狭い流路を流れ難くなる。故に、流路の流路面積が小さくなるほど、当該流路を流通する燃料の流量は、温度に依存して増減し易くなる。そこで第一実施形態では、連通凹部71bによって連通孔71の押圧受圧面79側の開口を拡大することで、当該連通孔71を流通する燃料の流量の温度に依存した増減を抑制している。故に、燃料の温度が変化しても、圧力制御室53内の燃料圧力の下降速度は、変動し難くなる。したがって、燃料噴射装置100は、燃料の温度にかかわらず、高い噴射精度を維持し得る。
また、連通孔71を流通する燃料は、当該連通孔71の開口する押圧面73の径方向中央部を開口壁面53b側に向って反らせるようとする力をフローティングプレート70に印加する。そこで第一実施形態では、絞り部71cを、フローティングプレート70の軸方向の両端面73a,79aのうち、押圧面73を形成する端面73aに近接させることで、フローティングプレート70の押圧面73側の剛性を高いままに維持している。これにより、径方向中央部が開口壁面53bに向って反ろうとするフローティングプレート70の変形を抑制できる。
さらに、連通孔71を流通する燃料の温度に依存した増減を抑制するための連通凹部71bを押圧受圧面79側の端面79aに設けることで、フローティングプレート70の押圧面73側の剛性低下は防ぎ得る。以上により、温度に依存した流量の増減を抑制しつつ、フローティングプレート70の反りはさらに低減され得る。これにより、連通凹部71bを有するフローティングプレート70であっても、内周側押圧部72および外周側押圧部74は、全体に亘って開口壁面53bと確実に接触できる。したがって、フローティングプレート70による流入口52bと圧力制御室53および流出口54bとの遮断は、さらに確実なものとなる。
ここで、上述したように圧力制御室53内の全体の燃料の圧力をすみやかに上昇させるためには、開口空間53cから背圧空間53dに燃料が移動し易い構成であることが望ましい。しかし、開口空間53cから背圧空間53dへの燃料の流通量を確保するため、補完壁面部76とシリンダ56の内周壁面57との隙間を大きくすると、フローティングプレート70は、往復変位方向と交差する方向、即ち開口壁面53bに沿った方向にずれを生じたり、又は往復変位方向に対して傾きを生じたりし易くなる。
そこで加えて第一実施形態では、フローティングプレート70の外周壁面75に設けられる連通壁面部77とシリンダ56の内周壁面57とによって連通流路77aを形成することで、背圧空間53dへの燃料の流通は確実なものとなり得る。故に、内周壁面57と補完壁面部76との隙間を小さくしても、連通流路77aによって、燃料の流通量を確保し得る。以上により、流入口52bと圧力制御室53とが連通し、開口空間53c内の燃料圧力が上昇してから、背圧空間53d内の燃料圧力が上昇するまでの遅延を抑制できる。したがって、機関制御装置17からの制御信号に対する弁部50の開閉の応答性は確実に向上し得る。
加えて、補完壁面部76と内周壁面57との隙間を小さくすることにより、フローティングプレート70は、開口壁面53bに沿って往復変位方向と交差する方向にずれを生じたり、又は当該往復変位方向に対して傾きを生じたりし難くなる。故に、流入口52bと圧力制御室53および流出口54bとを連通および遮断するフローティングプレート70の動作の確実性を向上し得る。したがって、フローティングプレート70を備えることによって、弁部50の開閉の応答性を向上させる効果を、第一実施形態による燃料噴射装置100は確実に獲得できる。
さらに、第一実施形態では、外周壁面75に連通流路77aを形成する構成と、流入口52bを開口壁面53bの外縁に近接させて配置する構成との相乗効果によって、背圧空間53dへの燃料の流入はさらに容易となっている。具体的には、流入口52bから開口空間53cに流入した燃料が、外周壁面75を伝い、連通流路77aおよび連通隙間78を介して、背圧空間53dへ流れることができるからである(図5(b)参照)。加えて、流入口52bの開口面積よりも連通流路77aおよび連通隙間78の流路面積が大きくされているので、開口空間53cから背圧空間53dへの流通は容易である。さらに、複数の連通流路77aが形成されていることによれば、背圧空間53dの複数個所に開口空間53cから燃料を流入させられる。また加えて、連通壁面部77がフローティングプレート70の往復変位方向に沿った平面であるので、連通流路77aは、当該往復変位方向に沿って延伸する。この連通流路77aの形状によって、開口空間53cから背圧空間53dに移動する燃料の流れに生じる抵抗は低減され得る。これらの相乗作用により、流入口52bから開口空間53cに流入した燃料は、連通流路77a又は連通隙間78を介して、開口空間53cから背圧空間53dに確実に移動できる。
以上によれば、流出口54bと戻り流路14fとが遮断された後、開口空間53cおよび背圧空間53dを含む圧力制御室53内全体の燃料の圧力は、さらに迅速に上昇し得る。この圧力制御室内全体の圧力上昇によれば、ノズルニードル60は、弁部50をすみやかに遮断し、噴孔44からの燃料の噴射を停止させられる。
また、フローティングプレート70の径方向外側に凸状に湾曲させた外周壁面75の形状によれば、当該フローティングプレート70がシリンダ56に対して傾いた場合であっても、当該外周壁面75は圧力制御室53の内周壁面57に引っ掛かり難くなる。この外周壁面75の形状によって、圧力制御室53内での変位の確実性を高められたフローティングプレート70によれば、流入口52bと圧力制御室53との遮断は確実になされ得る。
またさらに第一実施形態では、フローティングプレート70は、内周側押圧部72および外周側押圧部74をプレートスプリング55の付勢力によって開口壁面53bに接触させている。このように、プレートスプリング55により付勢される形態のフローティングプレート70は、圧力制御弁80によって流出口54bと戻り流路14fとが連通すると、実質的に変位を伴うことなく、直ちに流入口52bと圧力制御室53との連通を遮断することができる。したがって、圧力制御弁80の開弁開始から圧力制御室53内の減圧の立ち上がりまでに要する時間を短縮でき、ひいては弁部50の制御信号への応答性をさらに高めることができる。
さらにまた第一実施形態では、流出凹部74aおよび流入凹部72aがともに押圧面73に形成されているので、押圧面73によって押圧される開口壁面53bの位置がずれを生じた場合であっても、流出凹部74aと流入凹部72aとの相対位置は変わらない。故に、開口壁面53bと押圧面73との接触面積は、押圧面73によって押圧される開口壁面53bの位置がずれを生じた場合であっても、増減しない。故に、開口壁面53bと押圧面73との接触面積における面圧の増減は抑制され得る。したがって、押圧面73により押圧される開口壁面53bの位置がずれたとしても、フローティングプレート70は流入口52bと流出口54bとを確実に遮断し得る。
尚、第一実施形態において、機関制御装置17が請求項に記載の「制御装置」に、ノズルニードル60が請求項に記載の「弁部材」に、フローティングプレート70が請求項に記載の「押圧部材」に、プレートスプリング55が請求項に記載の「付勢部材」に、それぞれ相当する。
(第二実施形態)
図7〜図10示す本発明の第二実施形態による燃料噴射装置200は、第一実施形態による燃料噴射装置100の変形例である。以下に第二実施形態におけるバルブボディ246、シリンダ256、およびフローティングプレート270、について説明する。尚、第一実施形態のプレートスプリング55に相当する構成は、第二実施形態において省かれている。
図7〜図9に示すように、第二実施形態におけるバルブボディ246は、第一実施形態における第一バルブボディ46および第二バルブボディ47に相当する。このバルブボディ246には、流入路252および流出路254として、軸方向に貫通する縦孔246aおよび縦孔246bが形成されている。これら縦孔246aおよび縦孔246bは、ともにバルブボディ246の軸方向に対して傾斜している。縦孔246bは、流出路254の一部であって、流出口254bを開口壁面253bの中央から偏心した位置に向けて開口している。この縦孔246bには、流出側絞り流路254aが設けられている。また縦孔246aは、流入路252の一部であって、流入口252bを開口壁面253bの中央から、流出口254bとは反対側に偏心した位置に向けて開口している。また、縦孔246aには、流入側絞り流路252aが設けられている。
加えて、バルブボディ246の円形の開口壁面253bには、流出凹部274aおよび流入凹部272aが形成されている。流出凹部274aは、開口壁面253bにおいて流出口254bの周りを囲む流出周囲面部254dがフローティングプレート270の押圧面273から離間する方向に窪むことにより形成されている。流出周囲面部254dは、開口壁面253bの中心から偏心した円形であって、その中心に流出口254bを開口させている。一方、流入凹部272aは、開口壁面253bにおいて流入口252bの周りを囲む流入周囲面部252dがフローティングプレート270の押圧面273から離間する方向に窪むことにより形成されている。この流入周囲面部252dは、開口壁面253bにおいて流出周囲面部254dの外形形状に沿って湾曲した三日月状である。
バルブボディ246の開口壁面253bには、さらに流出環状面部254cおよび流入環状面部252cが形成されており、フローティングプレート270の押圧面273と相対している。これら流出環状面部254cおよび流入環状面部252cは、フローティングプレート270に向けて突出する凸部であって、押圧面273に接触する。流出環状面部254cは、流出凹部274aの外周側において押圧面273と接触する円環状の面部であって、流出凹部274aを囲うとともに流入凹部272aに囲まれるように配置されている。また流入環状面部252cは、フローティングプレート270の径方向外側の周端縁と往復変位方向において相対するように配置される円環状の面部である。これら流入環状面部252cおよび流出環状面部254cの互いの一部は連続している。
シリンダ256は、圧力制御室53を区画する内周壁面257にフローティングプレート270の押圧面273が開口壁面253bから離間する方向への変位を規制するプレートストッパ258を有している。このプレートストッパ258は、具体的には、シリンダ256の軸方向において、当該シリンダ256内に収容されているフローティングプレート270よりもノズルニードル60側で、当該シリンダ256の内周壁面257の内径を縮小することによって形成されている。
フローティングプレート270は、押圧面273、接触部275a、および規制溝273aをさらに有している。押圧面273において、開口壁面253bの流入周囲面部252dおよび流出周囲面部254dと往復変位方向において対向する流入対向面部272bおよび流出対向面部274bは、平滑な平面とされている。この押圧面273は、流出環状面部254cおよび流入環状面部252cの全域に亘って相対しており、これら各環状面部252c,254cに接触して押圧する。
接触部275aは、フローティングプレート270の軸方向において押圧面273側とは反対側となる端面の周端縁であって、シリンダ256のプレートストッパ258と相対している。この接触部275aは、フローティングプレート270のノズルニードル60側への変位によってプレートストッパ258に接触する。規制溝273aは、接触部275aにフローティングプレート270の径方向に沿って形成されている。この規制溝273aによれば、接触部275aとプレートストッパ258とが接触した状態であっても、開口空間53cからから背圧空間53dへ向う燃料の流路は確保される。また、圧力制御弁80の閉弁時におけるフローティングプレート270は、バルブボディ246から離間して接触部275aをプレートストッパ258に接触させた状態である。
また、第二実施形態によるフローティングプレート270の往復変位方向に沿った変位軸まわりの外周壁面275には、補完壁面部276および連通壁面部277が形成されている。補完壁面部276は、シリンダ256の内周壁面257を補完する形状に形成されている。この外周壁面275による補完壁面部276はシリンダ256の内周壁面257に接触し、フローティングプレート270をシリンダ256に対して往復変位方向に摺動可能にしている。この補完壁面部276および内周壁面257間には、燃料を流通させるための隙間は形成されていない。
連通壁面部277は、外周壁面275の一部を補完壁面部276に対して凹ませることによって形成されている。連通壁面部277は、圧力制御室53内において開口空間53cと背圧空間53dとを連通する連通流路277aを、内周壁面257とともに形成している。第二実施形態における連通壁面部277は、往復変位方向に沿った平面であって、フローティングプレート270の径方向において相対するよう一対設けられている。
尚、第二実施形態では、圧力制御室53における開口空間53cから背圧空間53dへの燃料の流通は、連通流路277aによって行われることを想定されている。即ち、補完壁面部276と内周壁面257との間を通じた漏れにより、開口空間53cから背圧空間53dに燃料を流通させることは想定されていない。故に、連通流路277aの流路面積は、流入口252bの開口面積の総和および流入側絞り流路252aの流路面積の総和よりも大きくされている。
以上の構成による燃料噴射装置200が、機関制御装置17からの駆動電流に応じて弁部50(図2参照)を開閉させ燃料の噴射を行う動作を、図10に基づき、および図7〜9を参照しつつ以下に説明する。
機関制御装置17(図2参照)からの駆動電流に応じて発生するソレノイド31(図2参照)による磁界は、圧力制御弁80を開弁させる(図10,t1)。この圧力制御弁80の開弁開始とともに、戻り流路14f(図2参照)と連通状態となった流出口254bからの燃料の流出が始まる。この燃料の流出は、圧力制御室53内において、まず流出口254b付近を減圧させる。この流出口254b付近の減圧によって流出対向面部274bに作用する圧力の低下したフローティングプレート270は、開口壁面253b側への変位を開始し、押圧面273で流出環状面部254cおよび流入環状面部252cを押圧する(図10,t2)。以上によれば、フローティングプレート270は、流入口252bと圧力制御室53との連通を遮断する。
圧力制御室53内の燃料は、フローティングプレート270の連通孔71を通過し、流出口254bから流出する。流入口252bとの連通が遮断された圧力制御室53内では急速な減圧が生じる。すると、圧力制御室53内の燃料から弁受圧面61の受ける力とリターンスプリング66の付勢力との和が、ノズルニードル収容部43内の燃料から主にシート部65(図2参照)等の受ける力を直ちに下回ることとなる。これによりノズルニードル60は、直ちに圧力制御室53側に高速で押し上げられて、変位を開始する(図10,t3)。尚、ノズルニードル60の変位している間は、圧力制御室53内の圧力がほぼ一定で推移する。
ノズルニードル60の圧力制御室53側への変位が停止すると、再び圧力制御室53内の減圧が生じる(図10,t4)。すると、圧力制御室53の圧力が、流出対向面部274bへ作用する流出口254b付近の圧力に次第に近づく。これにより、フローティングプレート270を基端側に付勢する付勢力は弱まる。対して、流入対向面部272bに作用する流入口252b付近の燃料の圧力と、圧力制御室53内の燃料の圧力との差は増大する。故に、フローティングプレート270は、弁受圧面61側に押し下げられることとなる(図10,t5)。
フローティングプレート270の弁受圧面61側への変位によれば、流入路252と圧力制御室53との連通の遮断は中止されて、当該圧力制御室53内への燃料の流入が再開される。よって、圧力制御室53内の圧力低下は停止する。ここで、流入凹部272aを囲む三日月状のシールの長さとフローティングプレート270の変位量との積が、当該プレート270とバルブボディ246との間の流路面積となる。故に、フローティングプレート270は、当該プレート270とバルブボディ246との間の流路面積が流入側絞り流路252aの流路面積を上回る位置まで変位することが望ましい。
機関制御装置17からの駆動電流に応じたソレノイド31による磁界の消失によって、圧力制御弁80は閉弁を開始する(図10,t6)。圧力制御弁80が閉弁すると(図10,t7)、流出路254からの燃料の流出の停止によって圧力制御室53内の圧力は直ちに上昇する。これによりフローティングプレート270は、流入対向面部272bに作用する圧力によってさらに押し下げられて、接触部275aをプレートストッパ258に接触させるまで変位する。また、圧力制御室53内の燃料から弁受圧面61の受ける力とリターンスプリング66による付勢力との和は、ノズルニードル収容部43内の燃料から主にシート部65(図2参照)等が受ける力を再び上回ることとなる。これより、ノズルニードル60は高速で押し下げられて、弁部50(図2参照)を閉弁状態とする(図10,t8)。
ここまで説明した第二実施形態においても、第一実施形態と同様に、フローティングプレート270は、押圧面273と流入環状面部252cおよび流出環状面部254cとの間にシールを形成し、流入口252bと圧力制御室53との連通を確実に遮断できる。故に、圧力制御弁80の開弁直後の圧力制御室53内の圧力を急速に低下させ、ノズルニードル60の高速な移動を実現することによれば、弁部50の駆動電流への応答性が高められるのである。
加えて第二実施形態では、流出凹部274aを形成する円形の流出周囲面部254dを、開口壁面253bの中心から偏心させることで、流入環状面部252cと流出環状面部254cとを連続させることができる。このように、押圧面273と接触する流入環状面部252cと流出環状面部254cとを連続させることで、開口壁面253bと押圧面273との接触面積は低減され得る。これにより、押圧面273と開口壁面253bとの間に生じる面圧を向上させることができるので、フローティングプレート270は、流入口252bと圧力制御室53および流出口254bとを確実に遮断し得る。
また第二実施形態では、プレートストッパ258に接触部275aを接触させることで、フローティングプレート270の変位を規制している。この規制により、開口壁面253bから特定の間隔内にフローティングプレート270を常に位置させることができるの。故に、流出口254bと戻り流路14fとの連通から、フローティングプレート270が圧力制御室53と流入口252bとを遮断するまでに要する時間を、一定の時間内に収めることができる。したがって、プレートストッパ258および接触部275aの相乗作用によれば、圧力制御室53内のすみやかな減圧を確実に生じさせることができるのである。
さらに第二実施形態では、接触部275aに規制溝273aを形成することで、接触部275aとプレートストッパ258とが接触した状態であっても、開口空間53cおよび背圧空間53d間の燃料の流れは妨げられ難い。この規制溝273aの作用発揮によれば、背圧空間53dの増圧に支障をきたす事態を回避し得るのである。
また加えて第二実施形態では、開口壁面253bに流出凹部274aおよび流入凹部272aを形成することで、流出凹部74aおよび流入凹部72aと流出口54bおよび流入口52bとの相対位置を固定できる。以上によれば、フローティングプレート270が往復変位方向に沿った変位軸まわりに回転した場合であっても、フローティングプレート270は押圧面273で流入凹部272aおよび流出凹部74aを確実に塞ぎ、流入口252bと圧力制御室53および流出口254bとの遮断を確実に行い得る。
さらに加えて第二実施形態では、フローティングプレート270の補完壁面部276がシリンダ256の内周壁面257に接触することで、フローティングプレート270は、シリンダ256に対して往復変位方向に摺動可能となっている。このような形態では、互いに接触するよう形成された補完壁面部276と内周壁面257との間の隙間は、僅かなものとなる。故に、往復変位方向と直交する方向へのフローティングプレート70のずれを抑制できる。このように、往復変位方向と直交する方向へのフローティングプレート270のずれを低減できることによれば、フローティングプレート270の押圧面273が押圧する開口壁面253bの位置のずれも解消され得る。以上によれば、押圧面273が開口壁面253bを不均等に押圧することに起因して生じるおそれのある当該押圧面273および開口壁面253bの偏磨耗を抑制し、押圧面273および開口壁面253b間におけるシール作用を長期に亘って発揮させ続けられる。したがって、燃料噴射装置200は、高い噴射精度を維持し続けられる。また、補完壁面部276と円筒状壁部57との間の隙間が僅かなものとなることにより、傾きの発生が確実に抑制され得るので、フローティングプレート270の動作は、さらに確実に行われ得る。
尚、第二実施形態において、フローティングプレート270が請求項に記載の「押圧部材」に、それぞれ相当する。
(第三実施形態)
図11〜図14に示す本発明の第三実施形態による燃料噴射装置300は、第一実施形態による燃料噴射装置100の別の変形例である。以下に第三実施形態におけるバルブボディ346およびフローティングプレート370、について説明する。
第三実施形態におけるバルブボディ346は、第一実施形態における第一バルブボディ46および第二バルブボディ47に相当する。このバルブボディ346には、流入路352および流出路354の一部として、軸方向に貫通する縦孔346aおよび縦孔346bが形成されている(図11参照)。これら縦孔346aおよび縦孔346bは、ともにバルブボディ346の軸方向に対して傾斜している。縦孔346bは、流出路354の一部であって、流出口354bを開口壁面353bの径方向中央部に開口させている。また縦孔346aは、流入路352の一部であって、流入口352bを径方向の中央部から偏心した位置に開口させている。
バルブボディ346の円形の開口壁面353bには、流出凹部374aおよび流入凹部372aが形成されている(図12および図13参照)。流出凹部374aは、開口壁面353bにおいて流出口354bの周りを囲み、開口壁面353bと同心円状の流出周囲面部354dがフローティングプレート370の押圧面373から離間する方向に窪むことにより形成されている。流出周囲面部354dの径方向中央部には、円形の流出口354bが開口している。一方、流入凹部372aは、開口壁面353bにおいて流入口352bの周りを囲む流入周囲面部352dがフローティングプレート370の押圧面373から離間する方向に窪むことにより形成されている。この流入周囲面部352dは、開口壁面353bにおいて流出周囲面部354dの周囲を囲む円環状である。この流入周囲面部352dには円形の流入口352bが開口している。
バルブボディ346の開口壁面353bには、さらに流出環状面部354cおよび流入環状面部352cが形成されており、フローティングプレート370の押圧面373と相対している。これら流出環状面部354cおよび流入環状面部352cは、フローティングプレート370に向けて突出する凸部であって、押圧面373に接触する。流出環状面部354cは、流出凹部374aの外周側において押圧面373と接触する円環状の面部である。また流入環状面部352cは、フローティングプレート370の径方向外側の外縁と往復変位方向において相対するように配置される円環状の面部である。これら流入環状面部352cおよび流出環状面部354cの中心は、ともに開口壁面353bの中心一致している。
フローティングプレート370の押圧面373には、流入対向面部372bおよび流出対向面部374bが形成されている(図13参照)。開口壁面353bの流入周囲面部352dおよび流出周囲面部354dと往復変位方向において対向する流入対向面部372bおよび流出対向面部374bは、往復変位方向と直交する方向に沿って平滑である。押圧面373は、流入環状面部352cおよび流出環状面部354cの全域に亘って対向しており、これら各環状面部352c,354cに接触して押圧する。
また、フローティングプレート370の往復変位方向に沿った変位軸まわりの外周壁面375には、補完壁面部376および連通壁面部377が形成されている(図14(a),(b)参照)。第三実施形態によるフローティングプレート370の外周壁面375は、フローティングプレート370の変位軸に沿っている。補完壁面部376は、シリンダ56の内周壁面57を補完する形状に形成されている。この外周壁面375による補完壁面部376はシリンダ56の内周壁面57に接触し、フローティングプレート370をシリンダ56に対して往復変位方向に摺動可能にしている。この補完壁面部376および内周壁面57間には、燃料を流通させるための隙間は形成されていない。
連通壁面部377は、外周壁面375の一部を補完壁面部376から凹ませることによって形成されている。第三実施形態における連通壁面部377は、フローティングプレート370の押圧面373側の端面と、押圧受圧面379側の端面とにそれぞれ開口する溝377bである。連通壁面部377による溝377bは、圧力制御室53内において開口空間53cと背圧空間53dとを連通する連通流路377aを、内周壁面57とともに形成している。この連通壁面部377による溝377bは、フローティングプレート370の変位軸まわりを螺旋状に旋回している。故に、往復変位方向に沿って背圧空間53d側からフローティングプレート370を投影すると、押圧面373を形成する端面の開口は、押圧受圧面379側の端面の開口に対して、当該フローティングプレート370の周方向に沿ってずれて位置している。この連通壁面部377による溝377bは、フローティングプレート370まわりに等間隔で四つ形成されている。
尚、第三実施形態における開口空間53cから背圧空間53dへの燃料の流通は、連通流路377aによって行われる。即ち、補完壁面部376と内周壁面57との間を通じた漏れにより、開口空間53cから背圧空間53dに燃料を流通させることは想定されていない。故に、連通流路377aの流路面積の総和は、流入口352bの開口面積の総和よりも大きくされている。
ここまで説明した第三実施形態のように、連通壁面部377は、第一実施形態のような平面に限らず、フローティングプレート370の軸方向における両端面にそれぞれ開口する溝377bを形成してもよい。加えて、往復変位方向に沿って背圧空間53d側からフローティングプレート370を投影したときの投影面積が当該プレート370の受圧面積となるので、連通壁面部377による溝377bの一対の開口を互いにずれて位置させることで、受圧面積の減少を抑制できる。故に、押圧面373が開口壁面353bを押圧する押圧力は、連通壁面部377を具備するフローティングプレート370であっても、高いまま維持され得る。
加えて第三実施形態では、流入口352bは、開口壁面353bにおいて、当該開口壁面353bの中心に対して偏心した位置に開口している。このような形態において用いられるフローティングプレート370では、複数の連通壁面部377による溝377bを当該プレート370の変位軸まわりに等間隔で位置させている。以上によれば、当該プレート370が変位軸まわりに回転しても、流入口352bから当該流入口352bに最も近接している溝377bまでの距離は変動し難い。故に、流入口352bから流入した燃料が連通流路377aを介して背圧空間53dに至るまで距離の変動も抑制される。これにより、背圧空間53dにおける圧力上昇の態様は安定し得る。したがって、フローティングプレート70の回転位置に依存して、弁部50の制御信号への応答が変動する事態を抑制し得る。
尚、第三実施形態において、フローティングプレート370が請求項に記載の「押圧部材」に相当する。
(第四,第五実施形態)
図15および図16に示す本発明の第四,第五実施形態は、それぞれ第三実施形態の変形例である。以下、第四,第五実施形態のフローティングプレート470,570について説明する。
図15に示すように、第四実施形態のフローティングプレート470の往復変位方向に沿った変位軸まわりの外周壁面475には、補完壁面部476および連通壁面部477が形成されている。連通壁面部477は、外周壁面475の一部を補完壁面部476に対して凹ませることによって形成されている。第四実施形態における連通壁面部477は、フローティングプレート470の押圧面473側の端面と、押圧受圧面479側の端面とにそれぞれ開口する溝である。この連通壁面部477による溝は、当該フローティングプレート470の軸方向に延伸する軸方向溝部477b,477cと、当該プレート470の周方向に延伸する周方向溝部477dを具備している。軸方向溝部477b,477cは、それぞれ押圧面473側の端面および押圧受圧面479側の端面に開口しており、フローティングプレート470の周方向に沿って互いにずれて位置している。これら軸方向溝部477b,477cは、周方向溝部477dによって繋げられている。
また、図16に示すように、第五実施形態のフローティングプレート570の往復変位方向に沿った変位軸まわりの外周壁面575には、補完壁面部576および連通壁面部577が形成されている。連通壁面部577は、外周壁面575の一部を補完壁面部576に対して凹ませることによって形成されている。第五実施形態における連通壁面部577は、フローティングプレート570の押圧面573側の端面と、押圧受圧面579側の端面とにそれぞれ開口する溝を形成している。この連通壁面部577による溝は、当該フローティングプレート570の軸方向に延伸する軸方向溝部577b,577c,577dと、当該プレート570の周方向に延伸する周方向溝部577e,577fを具備している。軸方向溝部577b,577cは、それぞれ押圧面573側の端面および押圧受圧面579側の端面に開口しており、フローティングプレート570の軸方向において重なるよう位置している。一方、軸方向溝部577b,577cは、軸方向溝部577dとフローティングプレート570の周方向に沿ってずれて位置している。これら軸方向溝部577b,577dは、周方向溝部577eによって連続させられている。加えて、軸方向溝部577d,577cは、周方向溝部577fによって連続させられている。
ここまで説明した第四,第五実施形態のように、連通壁面部477,577による溝の形状は、第三実施形態によるものに限定されない。これら連通壁面部477,577による溝であっても、往復変位方向に沿って押圧受圧面479又は579側からフローティングプレート470,570を投影したときの投影面積、即ちプレート470,570の受圧面積の減少を抑制できる。故に、押圧面473,573が作用させ得る押圧力は、連通壁面部477,577が形成されたフローティングプレート470,570であっても高いまま維持され得る。
尚、第四,第五実施形態において、フローティングプレート470,570が請求項に記載の「押圧部材」に相当する。
(第六,第七実施形態)
図17および図18に示す本発明の第六,第七実施形態は、それぞれ第三実施形態の別の変形例である。以下、第六,第七実施形態のフローティングプレート670,770およびバルブボディ646,746について説明する。
図17に示すように、第六実施形態のバルブボディ646の円形の開口壁面653bには、流入凹部672aが形成されている。流入凹部672aは、開口壁面653bにおいて流入口652bの周りを囲む流入周囲面部652dがフローティングプレート670の押圧面673から離間する方向に窪むことにより形成されている。この流入周囲面部652dは、流出周囲面部654dの周囲を囲む円環状である。この流入周囲面部652dには円形の流入口652bが開口している。一方、流出口654bの周囲を囲む流出周囲面部654dは、この第六実施形態では円形の平滑な平面である。
フローティングプレート670の押圧面673には、流出凹部674aが形成されている。この押圧面673において開口壁面653bの流出周囲面部654dと対向している部分が流出対向面部674bである。流出凹部674aは、流出対向面部674bを開口壁面653bから離間させる方向に窪ませることによって形成されている。この流出凹部674aは、円形の押圧面673において径方向の中央部に位置し、当該押圧面673と同心である円形の窪みである。加えてこの流出凹部674aは、バルブボディ646に形成された円環状の流入凹部672aと同軸である。一方、流出対向面部674bの外周側に位置し、流入周囲面部652dと対抗する流入対向面部672bは、この第六実施形態では円環状の平滑な平面である。
図18に示すように、第七実施形態のバルブボディ746の円形の開口壁面753bには、流出凹部774aが形成されている。流出凹部774aは、開口壁面753bにおいて流出口754bの周りを囲む流出周囲面部754dがフローティングプレート770の押圧面773から離間する方向に窪むことにより形成されている。この流出周囲面部754dは、流入周囲面部752dによって周囲を囲まれた円状であって、開口壁面753bの径方向中央部に当該開口壁面753bと同心となるよう位置している。この流出周囲面部754dの径方向中央部には円形の流出口754bが開口している。一方、流入口752bの周囲を囲む流入周囲面部752dは、この第七実施形態では円環状の平滑な平面である。
フローティングプレート770の押圧面773には、流入凹部772aが形成されている。この流入凹部772aは、押圧面773において、開口壁面753bの流入周囲面部752dと対向している流入対向面部772bが、当該開口壁面753bから離間する方向に窪むとにより形成されている。この流入凹部772aは、円形の押圧面773と同心である円環状の窪みである。加えてこの流入凹部772aは、バルブボディ746に形成された円形の流出凹部774aと同軸である。一方、流入対向面部772bに周囲を囲まれており、流出周囲面部754dと対抗する流出対向面部774bは、この第七実施形態では円形の平滑な平面である。
ここまで説明したように、第六実施形態では、流入凹部672aはバルブボディ646に、流出凹部674aはフローティングプレート670に形成されている。一方、第七実施形態では、流入凹部72aはフローティングプレート70に、流出凹部774aはバルブボディ346に形成されている。これらのように、駆動信号に対する弁部50(図2参照)の応答性向上を目的としたフローティングプレートを備える燃料噴射装置では、当該プレートの押圧面とバルブボディの開口壁面は、繰り返しの押圧に耐え得るだけの強度が確保されなければならない。一方で、流出凹部および流入凹部を形成することによって、開口壁面および押圧面は強度が低下するおそれがある。これらの実施形態のように、開口壁面および押圧面のいずれか一方に流入凹部672a,772aを、他方に流出凹部674a,774aを形成することで、開口壁面653b,753bおよび押圧面673,773の強度は確保され易くなる。したがって、流入口652b,752bと圧力制御室53および流出口654b,754bとの遮断を長期に亘って確実に行い得るようにするためには、開口壁面および押圧面のいずれか一方に流入凹部を、他方に流出凹部を形成することが好適なのである。
尚、第六,第七実施形態において、フローティングプレート670,770が請求項に記載の「押圧部材」に相当する。
(第八実施形態)
図19に示す本発明の第八実施形態は、第一実施形態のさらに別の変形例である。以下、第八実施形態のフローティングプレート870について説明する。
フローティングプレート870において、流入口52bと往復変位方向において対向する流入対向面部872bは、開口壁面53b(図4参照)から離間する方向に窪む複数の流入凹部872aを形成している。この複数の流入凹部872aは、全体として円環状を呈しており、押圧面873において径方向の中央部の流出対向面部874bに形成された流出凹部874aを囲っている。流入凹部872aは、互いに同一の形状であって、流入凹部872aの周方向に沿って等間隔で配置されている。
加えて、流入凹部872aと流出凹部874aとの間に位置し、開口壁面53bを押圧する円環状の内周側押圧部872と、流入凹部872aの外周側に位置する円環状の外周側押圧部874とは、各流入凹部872aを区切る接続部873bによって接続されている。この接続部873bは内周側押圧部872から外周側押圧部874に向けて、フローティングプレート870の径方向に沿って延伸している。
ここまで説明した第八実施形態のように、流入凹部872aは、流入対向面部872bによって複数形成されていてもよい。加えて、開口壁面53bを押圧するため強度を要する内周側押圧部872および外周側押圧部874が複数の接続部873bによって径方向に接続されているので、これら内周側押圧部872および外周側押圧部874の剛性は向上し得る。故に、内周側押圧部872および外周側押圧部874と開口壁面53bとの間の面圧は、全体に亘って均等に向上し得る。したがって、フローティングプレート870は、流入口52bと圧力制御室53(図4参照)および流出口54bとの遮断を確実に行うことができる。
尚、第八実施形態において、フローティングプレート870が請求項に記載の「押圧部材」に相当する。
(第九実施形態)
図20に示す本発明の第九実施形態は、第三実施形態のさらに別の変形例である。このフローティングプレート970の往復変位方向に沿った変位軸まわりの外周壁面975には、補完壁面部976としてローレット目が形成されている。このローレット目は、フローティングプレート970の軸方向に延伸し、当該プレート970の周方向に等間隔で配置された微小な溝である。このようなローレット目として、例えばJIS B 0951に規定されている平目等が好適である。
尚、例えば図21に示すフローティングプレート970aのように、ローレット目は、複数の溝が交差して縞状を呈する綾目等であってもよい。また、第九実施形態等において、フローティングプレート970,970aが請求項に記載の「押圧部材」に相当する。
(第十実施形態)
図22および図23に示す本発明の第十実施形態は、第三実施形態のさらに別の変形例である。以下、第十実施形態のフローティングプレートA70について説明する。
フローティングプレートA70の往復変位方向に沿った変位軸まわりの外周壁面A75には、補完壁面部A76および連通壁面部A77が形成されている。連通壁面部A77は、外周壁面A75の一部を補完壁面部A76に対して凹ませることによって形成されている。この連通壁面部A77は、フローティングプレートA70の押圧面A73側の端面と、押圧受圧面A79側の端面とにそれぞれ開口する溝A77bを形成している。この連通壁面部A77による溝A77bは、フローティングプレートA70の往復変位方向に沿った変位軸まわりに等間隔で四つ形成され、フローティングプレートA70の変位軸に沿って延伸している。これら四つの溝A77bとシリンダ56の内周壁面57によって形成される連通流路A77aには、流入口352bより圧力制御室53内に流入した燃料が、開口空間53cから背圧空間53dに向けて連通する(図22,矢示参照)。また、これら連通流路A77aの流路面積の総和は、流入口352bの開口面積よりも大きくされている。
この第十実施形態のように、連通壁面部A77による溝A77bの形状は、フローティングプレートA70の変位軸に沿う形状であってもよい。このように溝A77bの形状を簡素化することで、圧力制御室53内での開口空間53cおよび背圧空間53d間における燃料の流通が確実に行い得る連通流路A77aを形成するフローティングプレートA70を容易に獲得することができる。
尚、第十実施形態において、フローティングプレートA70が請求項に記載の「押圧部材」に相当する。
(第十一実施形態)
図24に示す本発明の第十一実施形態は、第十実施形態の変形例である。以下、第十一実施形態のフローティングプレートB70について、図24に基づいて、図22を参照しつつ説明する。
第十一実施形態のフローティングプレートB70の往復変位方向に沿った変位軸まわりの外周壁面B75には、補完壁面部B76および連通壁面部B77が形成されている。連通壁面部B77は、外周壁面B75の一部を補完壁面部B76に対して凹ませることによって形成されている。この連通壁面部B77は、フローティングプレートB70の押圧面B73側の端面と、押圧受圧面B79側の端面とにそれぞれ開口する溝B77bである。この連通壁面部B77による溝B77bは、フローティングプレートB70の往復変位方向に沿った変位軸まわりに等間隔で三つ形成され、フローティングプレートB70の変位軸に沿って延伸している。加えて、各溝B77bは、フローティングプレートB70の径方向に沿った深さ方向の長さよりも、当該プレートB70の周方向に沿った幅方向の長さが大きい。具体的には、一つの溝B77bの幅方向の長さは、当該溝B77bの幅方向における両端とフローティングプレートB70の変位軸とによる中心角が約90度となるよう設定されている。また、フローティングプレートB70の外周壁面B75において、周方向両側を溝B77bによって挟まれた補完壁面部B76を、プレート摺動面部B75bとする。このプレート摺動面部B75bは、その幅方向における両端とフローティングプレートB70の変位軸とによる中心角が約30度となるよう設定されている。これらフローティングプレートB70の周方向において等間隔で三箇所設けられたプレート摺動面部B75bがシリンダ56の内周壁面57に接触することで、当該フローティングプレートB70の変位軸は、シリンダ56の変位軸と高い精度で同軸となり得る。また、フローティングプレートB70の周方向に沿って広い幅を備える溝B77bの形状により、当該フローティングプレートB70の外周壁面B75とシリンダ56の内周壁面57との摺動面積は低減される。故に、円滑なフローティングプレートB70の動作も実現し得る。
ここまで説明した第十一実施形態では、溝B77bの深さ方向における長さを縮小しつつ、幅方向における長さを拡大することで、溝B77bによって形成される連通流路B77aの流路面積を拡大している。このように、溝B77bをフローティングプレートB70の周方向に沿った幅方向に長くすることで、連通流路B77aの流路面積を十分に確保しつつ、押圧面B73の面積の確保を図り得る。故に、押圧面B73の設計の自由度を高めることができる。
尚、第十一実施形態において、フローティングプレートB70が請求項に記載の「押圧部材」に相当する。
(第十二,第十三実施形態)
図25および図26に示す本発明の第十二,第十三実施形態は、それぞれ第十一実施形態の変形例である。第十二実施形態によるフローティングプレートC70および第十三実施形態によるフローティングプレートD70は、それぞれ軸方向における両端面の外径が、各当該フローティングプレートC70,D70の最大外径に対して縮径されている。
具体的に、第十二実施形態のフローティングプレートC70では、当該プレートC70の外周壁面C75において、軸方向の両端面と連続している両端部に、径方向内側に窪む段差が形成されている。この段差によって、フローティングプレートC70の最大外径に対し、両端面の外径が縮径されている。
加えて、フローティングプレートC70の外周壁面C75には、第十一実施形態の溝B77bに相当する溝C77bが形成されている。フローティングプレートC70の周方向において溝C77bにより挟まれた部分であって、当該プレートC70の軸方向において中央に位置する部分が、シリンダ56の内周壁面57に対して摺動するプレート摺動面部C75bである。このプレート摺動面部C75bが、シリンダ56の内周壁面57に対して摺動することにより、フローティングプレートC70は径方向のずれの発生を抑制されている。
また、第十三実施形態によるフローティングプレートD70では、外周壁面D75は、当該フローティングプレートD70の中心軸を通る断面においける断面形状が、当該フローティングプレートD70の径方向外側に凸状に湾曲している。この湾曲によって、フローティングプレートD70の最大外径に対して、両端面の外径が縮径されている。
加えて、フローティングプレートD70でも、フローティングプレートC70と同様に、第十一実施形態の溝B77bに相当する溝D77bが、外周壁面D75に形成されている。これにより、周方向において溝C77bにより挟まれ、且つ軸方向の中央に位置するプレート摺動面部D75bが、シリンダ56の内周壁面57に対して摺動する構成となる。このプレート摺動面部D75bが、シリンダ56の内周壁面57に対して摺動することにより、フローティングプレートD70は径方向のずれの発生を抑制されている。
これら第十二,第十三実施形態では、軸方向の両端面の外縁が縮径された各プレートC70,D70の形状によって、各プレートC70,D70の軸方向が正しい変位方向に対して傾いたとしても、当該各両端面の外縁とシリンダ56の内周壁面57との接触は生じ難い。故に、フローティングプレートC70,D70の傾きに起因して、各両端面の外縁がシリンダ56の内周壁面57に引っ掛かることで、フローティングプレートC70,D70がシリンダ56に固着する事態を未然に防ぎ得る。したがって、噴射の精度とともに信頼性の向上が図られた燃料噴射装置を実現できる。
尚、第十二,第十三実施形態において、フローティングプレートC70,D70が請求項に記載の「押圧部材」に相当する。
(他の実施形態)
以上、本発明による複数の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定して解釈されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
上記実施形態では、圧力制御室53において開口空間53cと背圧空間53dとを連通させる連通流路77aを形成する連通壁面部77として、フローティングプレート70の軸方向に沿った平面、溝、およびローレット目が形成された構成を説明した。しかし、この連通壁面部77は、シリンダ56の内周壁とともに燃料流通が可能な連通流路77aを形成できれば、形状および数を限定されるものではない。例えば、図22(a)に示すフローティングプレート1070ように、外周壁面1075から当該プレート1070の径方向内側に凹み且つ軸方向に沿って延びる窪みを、連通壁面部1077として具備する形態であってもよい。また、例えば図22(b)に示すフローティングプレート1170のように、当該プレート1170の軸方向に沿って延びる切り欠きを、連通壁面部1177として具備する形態であってもよい。
上記第十二,第十三実施形態のように、フローティングプレートの外周壁面とシリンダの内周壁面とが摺動する形態に限らず、これら外周壁面および内周壁面間に連通隙間が形成される形態においても、端面の外縁を縮径させてよい。シリンダとフローティングプレートとが摺動しない形態であっても、端面の外径を縮径させることでフローティングプレートのシリンダへの固着は防がれ得る。また、外径の縮径される端面は、軸方向の両端面のうちのいずれか一方であっても、フローティングプレートとシリンダとの固着を抑制する作用は発揮され得る。
上記第一実施形態では、フローティングプレート70側に連続した凸部である内周側押圧部72および外周側押圧部74を設け、制御ボディ40側の開口壁面53bを平面としていた。また上記第二実施形態では、制御ボディ40側に連続した凸部である流出環状面部254cおよび流入環状面部252cを設け、フローティングプレート270側の押圧面273を平面としていた。これらのように、上記実施形態では、流入凹部および流出凹部をともに開口壁面又は押圧面に設ける形態について主に説明した。また、このような形態では、流入凹部および流出凹部を連続させる環状の凸部である内周側押圧面が形成されてしまうので、当該内周側押圧面の強度が維持できないというおそれがある。故に、第六および第七実施形態では、流入凹部および流出凹部のうちの一方を開口壁面に他方を押圧面に設ける形態を説明した。しかし、これら流入凹部および流出凹部が形成されるのは、開口壁面および押圧面のいずれか一方のみでなくてもよい。流入凹部および流出凹部は、開口壁面および押圧面の両方に設けられていてもよい。
上記実施形態においては、圧力制御室53に連通する流入路および流出路は、フローティングプレートに対して同じ側に開口していた。しかし、流出口付近の燃料の圧力を用いて、流入路と圧力制御室53との連通を遮断できる配置であれば、流入口および流出口とフローティングプレートとの相対的な位置は限定しない。
上記実施形態においては、フローティングプレート70は、円柱状であって、中心軸方向に沿った外周壁部の断面形状が、径方向外側に向って凸状に湾曲していた。加えてフローティングプレート70の外周壁部には、軸方向に沿った連通壁面部77を設けていた。しかし、圧力制御室53の内壁部とフローティングプレート70との外壁部との間の通過隙間の流路面積を確保できれば、平面部等の連通壁面部の形成されないフローティングプレートであってもよい。また、フローティングプレートの外周壁の形状も限定しない。
上記実施形態においては、圧力制御室53内の燃料の圧力を制御する圧力制御弁80を開閉する駆動部として、ソレノイド31の電磁力で可動子35を駆動する機構を用いていた。しかし、機関制御装置17からの制御信号に応じて可動し、圧力制御弁80を開閉できる駆動部であれば、ソレノイドを用いた形態以外の、例えばピエゾ素子を用いる形態であってもよい。
上記実施形態では、バルブボディの開口壁面、シリンダの内周壁面、およびノズルニードルの弁受圧面によって圧力制御室を区画し、当該圧力制御室内の燃料と、噴射流路を通じて噴孔供給される燃料とが分けられた形態の燃料噴射装置に本発明を適用した例を説明した。しかし、上記実施形態のシリンダに相当する構成を有さず、制御ボディのバルブボディ又はノズルボディ等によって圧力制御室等が形成される形態の燃料噴射装置に本発明を適用してもよい。
以上、燃料を燃焼室22に直接的に噴射するディーゼル機関20に用いられる燃料噴射装置に、本発明を適用した例を説明した。しかし、本発明は、ディーゼル機関20に限らず、オットーサイクル機関等の内燃機関に用いられる燃料噴射装置に適用されてもよい。加えて、燃料噴射装置によって噴射される燃料は、軽油に限らず、ガソリン、および液化石油ガス等であってもよい。さらには、外燃機関等の燃料を燃焼させる機関の燃焼室に向けて燃料を噴射する燃料噴射装置に本発明を適用してもよい。