JP2011009200A - 絶縁電線及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐熱性、耐含浸ワニス性(耐薬品性)に優れるとともに、可とう性にも優れる絶縁電線を提供する。
【解決手段】導体、及び、その外周を被覆する絶縁層を有する絶縁電線であって、前記絶縁層が、シリコーン変性エンジニアリングプラスチック樹脂を主体として形成され、前記導体を、直接又は他の樹脂層を介して被覆する下層と、前記下層上に前記下層に接して形成される上層を含み、前記上層は、ポリフェニレンスルフィド樹脂及びポリエーテルエーテルケトン樹脂から選ばれる少なくとも1種の結晶性樹脂を主体として形成されることを特徴とする絶縁電線。
【選択図】 図1

Description

本発明は、車載モータ用の巻線等として使用される絶縁電線及びその製造方法に関する。
近年、車載モータの低コスト化やモータの性能向上に対応するため、車載モータ用の巻線について絶縁層の厚膜化が求められる場合がある。厚膜化が求められる場合、絶縁層の形成には、低コストでの厚膜化が可能で、外観の悪化等の問題が生じにくい熱可塑性樹脂の溶融押出による方法が試みられている。
車載モータ用の巻線の絶縁層には、優れた可とう性、電気特性等が求められる。又、絶縁電線を高温雰囲気下で使用しても長期にわたり電気特性や機械特性を保持するとの耐熱性も望まれる。
これらの特性を満たす熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルスルホン樹脂(以下、PESとする。)、ポリエーテルイミド樹脂(以下、PEIとする。)、ポリスルホン樹脂(以下、PSUとする。)が知られている。例えば、特許文献1(特開平11−66958号公報、請求項1)や特許文献2(特開平11−176244号公報、請求項1等)に、PESを含んでなる樹脂により形成されている絶縁層を有する絶縁電線が記載されている。
特開平11−66958号公報 特開平11−176244号公報
しかし、PES、PEIやPSU等の非晶性樹脂(結晶構造を持たない樹脂)は、耐薬品性に乏しく、含浸ワニス処理の際にクラックが発生しやすいとの問題がある。クラックは、残留応力が存在する樹脂に薬品が浸透しポリマー鎖が動き易くなる結果、局所的に応力が緩和され皮膜に亀裂が発生する現象と考えられ、PESやPEIのような非晶性樹脂に発生しやすい傾向がある。例えば、絶縁電線を捲線してコイルを形成し、エポキシ樹脂等の含浸ワニスに浸漬後、含浸ワニスを硬化するときに含浸ワニスの浸透を受けてクラックが発生しやすい。
耐薬品性に優れクラックが発生しにくい樹脂としては、緻密な結晶構造を有する結晶性樹脂を挙げることができる。しかし、結晶性樹脂は一般に接着性に乏しく、導体、あるいは導体の外周に絶縁層を有する絶縁電線と接着させることが困難であるため、曲げ加工時にクラックや浮き、シワが発生する等の問題、可とう性が劣るとの問題がある。また、押出製造方法(引落ダイス、充実ダイス)のうち、充実ダイスを用いれば接着性を向上させることが可能であるが、樹脂が延伸されず強度が発現しないため、可とう性が低下する問題がある。更に、充実ダイスの場合、導体サイズ、導体形状によっては絶縁層の膜厚制御が困難であるとの問題がある。
本発明は、耐熱性、耐含浸ワニス性(耐薬品性)に優れるとともに、可とう性や接着性にも優れる絶縁電線を提供することを課題とする。
本発明者は、前記の課題を達成するため鋭意検討した結果、絶縁層の外周側を、耐薬品性に優れたポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、PPSとする。)又はポリエーテルエーテルケトン樹脂(以下、PEEKとする。)により形成するとともに、その層の内周側に接して、シリコーン変性エンジニアリングプラスチック樹脂を主体として形成される層を設けることにより、耐熱性、耐含浸ワニス性(耐薬品性)、かつ可とう性や接着性にも優れた絶縁層が得られることを見出し、下記の構成からなる発明を完成した。
請求項1に記載の発明は、
導体、及び、その外周を被覆する絶縁層を有する絶縁電線であって、
前記絶縁層が、シリコーン変性エンジニアリングプラスチック樹脂を主体として形成され、前記導体を直接又は他の樹脂層を介して被覆する下層と、前記下層上に前記下層に接して形成される上層を含み、
前記上層は、PPS及びPEEKから選ばれる少なくとも1種の結晶性樹脂を主体として形成されることを特徴とする絶縁電線である。
本発明の絶縁電線は、絶縁層の外周側にPPS及びPEEKから選ばれる少なくとも1種の結晶性樹脂を主体として形成される層(上層)を有することを特徴とする。PPSやPEEKは、耐熱性及び耐薬品性に優れた結晶性樹脂であるので、本発明の絶縁電線の絶縁層もこの優れた効果を奏する。
上層は、PPS又はPEEKのいずれか一方で形成されていてもよいし、又はPPS及びPEEKのポリマーブレンドであってもよい。なお、樹脂A(この場合は、PPS及びPEEKから選ばれる結晶性樹脂)を主体とするとは、樹脂Aのみからなる場合、又は樹脂Aに他の樹脂が本発明の趣旨を損ねない範囲で配合されている場合を意味し、通常、樹脂Aを少なくとも50重量%以上含む場合を意味し、好ましくは80重量%以上含む場合を意味する。以下の例においても同じである。
本発明の絶縁電線は、さらに、前記上層の内周側に前記上層に接して、シリコーン変性エンジニアリングプラスチック樹脂を主体とする層(下層)を設けることを特徴とする。PPSやPEEK等の結晶性樹脂は、一般に接着性に乏しく、可とう性に劣る傾向があるが、非晶性樹脂であるシリコーン変性エンジニアリングプラスチック樹脂を主体とする層を結晶性樹脂の層に接して設けることにより、接着性が向上し又可とう性に優れた絶縁層が得られる。
シリコーン変性エンジニアリングプラスチック樹脂とは、PEI、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂等のエンジニアリングプラスチック樹脂に、シロキサン基を導入して柔軟性を付与した樹脂である。エンジニアリングプラスチック樹脂に、シリコーン変性により柔軟性を付与したシリコーン変性エンジニアリングプラスチック樹脂は、高い耐熱性と良好な加工性(押出塗装性)とともに、優れた柔軟性を有する。
請求項2に記載の発明は、前記上層が、PPSを主体として形成されることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線である。前記のように、絶縁層の上層は、PPS及びPEEKから選ばれる少なくとも1種の結晶性樹脂を主体として形成されるが、上層がPPSを主体として形成される場合はコストメリットが大きいので好ましい。特に好ましくは、PPSのみにより形成される場合である。
請求項3に記載の発明は、前記PPSの結晶化度が20%以下であることを特徴とする請求項2に記載の絶縁電線である。本発明者は、PPS、PEEK等の結晶性樹脂の結晶化度を低下させると、これらの樹脂とシリコーン変性エンジニアリングプラスチック樹脂との接着力が向上することを見出した。中でも、結晶性樹脂がPPSを主体とする樹脂であって、結晶化度が20%以下の場合、接着力向上の効果が大きい。
すなわち、PPSを主体とする樹脂の場合は、通常の場合、結晶化度は25%程度であるが、20%以下とすることにより、シリコーン変性エンジニアリングプラスチック樹脂からなる下層とPPSからなる上層間の接着力を向上させることができる。特に、結晶化度15%以下の場合、接着力が顕著に優れたものとなるので好ましい。
請求項4に記載の発明は、前記上層が、引落ダイスを用いた溶融押出により形成されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の絶縁電線である。引落ダイスを用いる方法は層の割れが発生しにくく膜厚均一塗装には有利であるが、従来の絶縁電線に適用する場合、上層と下層の接着には不利であった。しかし、本発明の絶縁電線では、下層がシリコーン変性エンジニアリングプラスチックで形成されるので、接着に不利な引落ダイスの場合でも十分な接着力を奏することができる。
請求項5に記載の発明は、前記シリコーン変性エンジニアリングプラスチック樹脂が、シリコーン変性ポリエーテルイミド樹脂、シリコーン変性ポリイミド樹脂及びシリコーン変性ポリカーボネート樹脂から選ばれる樹脂であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の絶縁電線である。前記シリコーン変性エンジニアリングプラスチック樹脂の具体例としては、シリコーン変性PEI、シリコーン変性PI及びシリコーン変性ポリカーボネート(シリコーン変性PC)を挙げることができる。
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の絶縁電線を捲線して製造されたことを特徴とするモータである。本発明の絶縁電線は、耐熱性、耐含浸ワニス性(耐薬品性)に優れ、さらに可とう性にも優れる絶縁層を有するので、モータの製造に好適に用いられる。
本発明の絶縁電線は、下層を構成する樹脂を、導体表面又はあらかじめ形成された他の層上に焼付け又は溶融押出して被覆した後、上層を構成する樹脂を溶融押出して、前記下層を被覆することにより製造することができる。特に、上層を構成する、PPS及びPEEKから選ばれる少なくとも1種を主体とする樹脂を溶融押出する際に、溶融押出温度を、樹脂の融点よりも50℃以上高い温度とし、溶融押出後、樹脂のガラス転位温度まで急激に冷却することにより、樹脂の結晶化を抑制し、結晶化度を低くすることができ、その結果接着力が向上するので好ましい。
請求項7に記載の発明は、この好ましい製造方法に該当するものであり、
導体上に、前記導体を直接又は他の樹脂層を介して被覆する下層を形成する工程と、前記下層上に、前記下層に接して上層を形成する工程を有する絶縁電線の製造方法であって、前記下層は、シリコーン変性エンジニアリングプラスチック樹脂を主体として形成され、前記上層を形成する工程は、
PPS及びPEEKから選ばれる少なくとも1種を主体とする樹脂を、その融点より50℃以上高い温度で溶融押出を行い前記下層上に塗布する工程、及び
塗布された樹脂の温度を、塗布後30秒間に230℃以上低下させる冷却工程、を有することを特徴とする絶縁電線の製造方法である。
この製造方法によれば、PPS及びPEEKから選ばれる少なくとも1種を主体とする樹脂の結晶化を抑制することができる。特に樹脂が、PPSを主体とする樹脂の場合、結晶化度を20%以下とすることができる。その結果、高い接着力が得られる。
溶融押出は、好ましくは引落ダイスを用いて行われる。引落ダイスを用いる方法によれば、層の割れが発生しにくく膜厚均一塗装には有利である。又、下層はシリコーン変性エンジニアリングプラスチックを主体として形成されるので、引落ダイスを用いても、十分な接着力を奏することができる。
溶融押出温度とは、引落ダイスを用いる場合は、ダイスの温度である。請求項7の発明は、この温度を、樹脂の融点よりも50℃以上高い温度とすることを特徴とする。この温度より低い温度で溶融押出をすると、結晶化度は十分低くならず、PPSを主体とする樹脂の場合、20%以下の結晶化度は得られにくくなる。
溶融押出温度は、好ましくは、樹脂の融点よりも70〜90℃高い温度である。溶融押出温度が高い程、樹脂の結晶化度を低くすることができる。しかし、溶融押出温度が高すぎる場合は樹脂の分解が生じる。そこで、この問題を防ぐため、樹脂の融点よりも90℃高い温度以下とすることが好ましい。
請求項7の発明は、溶融押出後、塗布された樹脂を急冷することも特徴とする。具体的には、塗布後30秒間に230℃以上、樹脂の温度を低下させることを特徴とする。好ましくは、塗布された樹脂を、450℃/分以上の冷却速度で、樹脂のガラス転位温度まで冷却する。この急冷により、樹脂の結晶化度がより低くなり、より高い接着力が得られる。
請求項8に記載の発明は、溶融押出を行い下層上に塗布する前記樹脂が、PPSを主体とする樹脂であることを特徴とする請求項7に記載の絶縁電線の製造方法である。下層上に塗布する結晶性樹脂としてPPSを主体とする樹脂を選択すると、コストメリットが大きい。又、より高い接着力が得られると考えられる。
請求項9に記載の発明は、PPSを主体とする樹脂の塗布が、前記樹脂のガラス転位点以上に加熱された前記下層上に行われることを特徴とする請求項8に記載の絶縁電線の製造方法である。PPSを主体とする樹脂を、下層表面に塗布する際に、下層の温度、すなわち下層が形成された電線の温度を、前記PPSを主体とする樹脂のガラス転位点以上に上げておくと、塗布の際下層が軟化するため、接着力をさらに向上させることができるので好ましい。より好ましくは、250℃以上に加熱された下層上にPPSを主体とする樹脂を塗布する場合である。
本発明の絶縁電線の絶縁層は、耐熱性、耐含浸ワニス性(耐薬品性)に優れる。さらにこの絶縁層は、可とう性や電線等への接着性にも優れ、曲げ加工等によりクラックや浮き、シワが発生しにくいとの特徴を有する。
本発明の絶縁電線の一例の断面を模式的に示す模式断面図である。 本発明の絶縁電線の製造装置の一例を模式的に示す模式図である。
次に、本発明を実施するための形態につき説明するが、本発明の範囲はこの形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を損ねない範囲で種々の変更を加えることは可能である。
図1は、本発明の絶縁電線の一例の断面を模式的に示す模式断面図である。図1に示されるように、絶縁電線1は、中心の導体2、その外周を導体2に接して被覆するエナメル層3(焼付層)、エナメル層3の外周をエナメル層3に接して被覆する下層4(シリコーン変性エンジニアリングプラスチック樹脂を主体として形成される層)、及び下層4の外周を下層4に接して被覆する上層5(PPS及びPEEKから選ばれる少なくとも1種の結晶性樹脂を主体として形成される層)からなり、エナメル層3、下層4及び上層5で絶縁層を構成している。
この例では、絶縁層はエナメル層3を含み、下層4はエナメル層3に接して形成されているが、絶縁層がエナメル層3を含まず、導体2の上に直接下層4が形成されていてもよい。すなわち下層4は、導体上に直接設けても良いし、他の樹脂層(この例ではエナメル層3)を介して設けても良い。又、上層5が下層4に接し下層4の外周側に形成されている限りは、絶縁層が、エナメル層3、下層4及び上層5以外の層を含んでいてもよい。
導体2の材質や形態は特に限定されない。単線でもよいし拠り線でもよい。断面形状も真円でもよいし他の形状でもよい。その太さも限定されない。材質も、通常の電線に使用されるものであれば、いかなるものでもよい。
エナメル層3を形成する絶縁樹脂としては、従来用いられているものを使用することができ、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、PEI、ポリアミド等が挙げられる。これらの樹脂は単独で用いても良いし、複数種を併用して用いても良い。これらの樹脂を溶剤に溶解したワニスを導体に塗布、焼付けすることでエナメル層3を形成する。
下層4の構成成分であるシリコーン変性エンジニアリングプラスチック樹脂としては、市販品も用いることができる。例えば、シリコーン変性PEIの市販品としては、SABICイノベーティブプラスチックスジャパン社製のシルテム1500(曲げ弾性率:380MPa)、シルテム1600(Tg:195℃、曲げ弾性率:1250MPa)、シルテム1700(Tg:200℃、曲げ弾性率:2150MPa)等を挙げることができる。
上層5の構成成分であるPPS、PEEKとしては、市販品も用いることができる。例えば、PPSとしてはフォートロン0220A9やDIC−PPS FZ−2100、トレリナA900、PEEKとしては、ビクトレックスPEEK 450G、キータスパイアPEEK KT−880NT等の市販品を挙げることができる。
前記絶縁層には無機フィラーを添加しても良い。無機フィラーを添加することにより、亀裂の伝播を抑制し、耐含浸ワニス性をさらに向上できる。また無機フィラーを添加することにより、機械強度を向上できる。無機フィラーとしては、酸化チタン、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、チタン酸カリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、クレー、タルク等が挙げられ、これらから選ばれた無機フィラーが好ましく使用される。中でも酸化チタン及びシリカが好ましく、特に酸化チタンが、樹脂への分散性の理由で好ましい。無機フィラーの添加量としては、絶縁層を構成する樹脂100重量部に対して0.5〜30重量部が好ましい。
無機フィラーは市販品を用いることもできる。例えば、酸化チタンとしては、古河機械金属社製の、FR−88(平均粒径0.19μm)、FR−41(平均粒径0.21μm)、RLX−A(平均粒径3〜4μm)等を挙げることができる。又、シリカとしては、龍森社製のUF−007(平均粒径5μm)、5X(平均粒径1.5μm)、アルミナとしては、岩谷産業社製のRA−30(平均粒径0.1μm)、炭酸カルシウムとしては白石工業社製のVigot−15(平均粒径0.15μm)、備北粉化工業社製のソフトン(平均粒径3μm)等を挙げることができる。
本発明の絶縁電線の絶縁層には、本発明の目的とする作用効果を損なわない範囲で、さらに、通常使用される添加剤、加工助剤、着色剤等を含めることができる。
前記のように、本発明の絶縁電線は、下層を構成する樹脂を、導体表面又はあらかじめ形成された他の層上に焼付け又は溶融押出して被覆した後、上層を構成する樹脂を溶融押出して被覆することにより製造することができる。例えば、導体2の表面上にエナメル層3を構成する樹脂を焼付けしてエナメル層3を形成し、次にエナメル層3の表面上に下層4を構成する樹脂を焼付け又は溶融押出して下層4を形成し、さらに下層4の表面上に上層5を構成する樹脂を溶融押出して上層5を形成することにより、図1で示される絶縁電線を得ることができる。
溶融押出の条件や使用する装置等は、従来の絶縁電線の製造における熱可塑性樹脂の押出による絶縁層の形成の場合と同様な条件、装置を採用することができる。
このようにして製造された絶縁電線は、自動車に搭載されるモータ等の巻線等として、好適に用いられる。
次に、本発明の絶縁電線1を好適に製造するための製造装置について、図2に基づいて説明する。図2に示すように、製造装置は、加熱炉11、被覆装置12、保温炉13、冷却水槽14、及びドライヤーゾーン15を備えている。
被覆装置12には、押出機ゾーン23が設けられている。心線6は巻出し部21に巻き取られて保管されているが、巻出し部21より、図中の矢印の方向に繰り出され押出機ゾーン23を通る。押出機ゾーン23内に設けられている押出機により、心線6の表面上に絶縁層の各層(エナメル層3、下層4又は上層5等の層)を構成する樹脂が押出され、心線6が当該樹脂により被覆され被覆電線7が形成される。ここで、心線6とは、導体の線、又はその表面上にあらかじめ他の樹脂層(エナメル層3、下層4等)が形成された導体線である。押出機ゾーン23内に設けられている押出機としては、単軸押出機等、公知の押出機を用いることができる。
なお、他の樹脂層が形成されている場合、押出により形成される層と当該他の樹脂層(下地)との接着を向上させるために、押出直前に電線を熱風機等で予備加熱しておくことが好ましい。特に、上層5を形成する際には、押出直前に電線を加熱することにより、下層4の樹脂を軟化させることで、接着力を向上できるので好ましい。そこで、図2に示す例では、被覆装置12の前に、加熱炉11が設けられている。
被覆装置12を出た被覆電線7は、冷却水槽14を通ることにより冷却され絶縁層の樹脂が固化される。被覆装置12を出た被覆電線の、冷却による被覆内残留応力を低減させるために、保温炉等に通して除冷しても良い。そこで、図2に示す例では、被覆装置12と冷却水槽14の間に保温炉13が設けられている。しかし、上層5を形成する場合は、樹脂の溶融押出後急冷することが好ましいので、保温炉13を通さずに、空冷することが好ましい。
その後、被覆電線7は、ドライヤーゾーン15に送られて乾燥され、本発明の絶縁電線1となる。乾燥の方法としては、例えば、ドライヤーゾーン15で被覆電線7に冷風を当てて水分を除去する方法、ドライヤーゾーン15に設けられた乾燥炉を50〜80℃程度に設定し被覆電線7を1〜3分位で通す方法、ドライヤーゾーン15を通る被覆電線7に、ドライヤー温風を数十秒間当てる方法等が挙げられる。自然乾燥すなわち空冷区間を数十秒通す方法でもよい。ドライヤーゾーン15を出た絶縁電線1は、リール17に巻き取られる。
次に本発明をより具体的に説明するための実施例を示すが、実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
実施例1〜4、比較例1〜3
[絶縁電線の作製]
1.7×3.2mmφの平角銅線の外周に、ポリアミドイミド樹脂を40μmの厚さで、更にその上に、接着層(請求項1の下層に該当)として表1又は表2に示す各種樹脂を5μmの厚さで焼付被覆したエナメル線を心線として用いた。この心線に、押出機(25V−24D−HB、25mmφ、L/D=24、三葉製作所社製)により、PPS(東レ社製)を、引落ダイスを用いて押出塗装し、厚さ100μmの押出層(請求項1の上層に該当)を形成した(線速10m/分、心線温度250℃)。得られた絶縁電線のそれぞれについて、以下に示す評価を行った。なお、比較例3では、押出塗装の際、引落ダイスの代わりに充実ダイスを用いた。その結果を表1又は表2に示す。
(押出層/接着層の接着力測定)
得られた絶縁電線の押出層皮膜に、その長手方向に沿って長さ2cmほどの2本の切れ込みを0.5mm間隔で入れ、2本の切れ込みの間の押出層皮膜の一端をピンセットでめくって、熱機械試験機(TMA:サーマルメカニカルアナルシス、セイコー電子社製)を用いて押出層皮膜の180°剥離試験を行い、接着力(g/mm)を測定した。その結果を、以下に示す基準に従って、表1又は表2に示す。
○:10g/mm以上、 △:0〜10g/mm、 ×:0g/mm
(可とう性試験)
得られた絶縁電線について、プレスエッジワイズ曲げ(曲げ半径2mm、90°曲げ、プレス機を用いて電線に圧縮力をかけて曲げる方法)を行い、押出層の皮膜の割れの有無、ならびに押出層/接着層間の浮きの有無を確認した。なお、割れや浮きの有無の確認は、皮膜の断面を研磨し、その断面を160倍の顕微鏡で観察して行った。その結果を以下に示す基準に従って、表1又は表2に示す。
○:割れ、浮き無し、 ×:割れ又は/及び浮き有り
Figure 2011009200
[表1中で使用した原材料]
*1:酸二無水物モノマーとジアミンモノマー(シリコーンジアミンを含む)をγ−ブチロラクトン溶剤中、160℃で4時間加熱することで合成した。
*2:シルテム1500(曲げ強度:18MPa、曲げ弾性率:380MPa)(D790 23℃、SABICイノベーティブプラスチックスジャパン社製)
*3:シルテム1700(曲げ強度:94MPa、曲げ弾性率:2150MPa)(D790 23℃、SABICイノベーティブプラスチックスジャパン社製)
*4:レキサンEXL1414(曲げ強度:92MPa、曲げ弾性率:2233MPa)(D790 23℃、SABICイノベーティブプラスチックスジャパン社製)
Figure 2011009200
表1、2より明らかなように、シリコーン変性エンジニアリングプラスチック樹脂からなる接着層(下層)を設けた実施例1〜4では、接着力、可とう性がいずれも優れている絶縁電線が得られている。一方、接着層(下層)を設けてはいるが、シリコーン変性エンジニアリングプラスチック樹脂以外により接着層を形成している比較例1〜2では可とう性に劣る結果が得られている。更に、充実ダイスを用いた比較例3では、接着力は向上し、可とう性試験で浮きは発生しないものの、割れが発生し、可とう性に劣る結果が得られている。
実施例5〜7
[絶縁電線の作製]
1.7×3.2mmφの平角銅線の外周にポリアミドイミド樹脂を40μmの厚さで、更にその上に接着層(請求項1の下層に該当)として、シリコーン変性PEI(シルテム1700)を5μmの厚さで焼付被覆したエナメル線を心線として用いた。この心線を、加熱炉(図2における11)に通して表3に示す線温(接着層の温度)まで加熱した後、押出機(25V−24D−HB、25mmφ、L/D=24、三葉製作所社製)により、PPS(東レ社製、融点280℃)を、引落ダイスを用い、表3に示す押出機ダイス温度、線速10m/分で押出塗装して、厚さ100μmの押出層(請求項1の上層に該当)を形成した。
ダイスより押出された電線を、30秒間(0.5分)空冷し(図2における保温炉13は通さない)、その後冷却水槽(図2における14)に導入して60℃となるまで水冷した。30秒間の空冷後の絶縁電線の温度を、表3に「空冷時到達温度」として示す。又、(押出機ダイス温度−空冷時到達温度)/0.5分を平均冷却速度として表3に示す。
得られた絶縁電線のそれぞれについて、以下に示す評価を行った。その結果を表3に示す。
(押出層結晶化度)
PPS皮膜のみをカッターで切り取り、昇温速度10℃/minでDSC(示差走査熱量測定)測定を行い、130℃付近に見られる再結晶化に伴う発熱ピーク(ピーク1とする)、及び、280℃付近に見られる結晶融解に伴う吸熱ピーク(ピーク2とする)を観測する。ピーク1及びピーク2の面積(熱量)から、以下の式で結晶化度を算出する。
結晶化度[%]
=(ピーク2の面積−ピーク1の面積)[J/g]/146.2[J/g]×100
なお、上記式中、146.2J/gとは、仮にPPSが100%結晶化した際の結晶融解熱である。又、DSC測定は、示差走査熱量計 DSC220C(セイコー電子工業社製)を用いて行った。
(接着力)
前記の(押出層/接着層の接着力測定)と同じ方法にて接着力(g/mm)を測定した。その測定値を表3に示す。
(耐加工性)
得られた絶縁電線を1%伸長してまっすぐにした後、曲げ半径2.0mmで90°に曲げ、曲げ部にΦ4.8mmの丸棒を当て、38kN/cmの一定加重でプレスして、押出層の皮膜の割れの有無を確認した。なお、割れの有無の確認は、皮膜の断面を研磨し、その断面を160倍の顕微鏡で観察して行った。その結果を以下に示す基準に従って、表3に示す。
○:割れ無し、 △:小さな割れ有り、 ×:割れ有り
Figure 2011009200
表3に示す結果より、押出機ダイス温度(溶融押出の温度)が、樹脂の融点(280℃)より50℃以上高く、溶融押出後30秒間での絶縁電線の温度低下が230℃以上である実施例6、7では、樹脂の結晶化度は20%以下と低く、優れた接着力が得られている。一方、押出機ダイス温度が樹脂の融点より40℃高く、溶融押出後30秒間での絶縁電線の温度低下が220℃である実施例5では、樹脂の結晶化度は25%であり、接着力及び耐加工性は、実施例6、7より劣っていた。
1、 絶縁電線
2、 導体
3、 エナメル層
4、 下層
5、 上層
6、 心線
7、 被覆電線
11、加熱炉
12、被覆装置
13、保温炉
14、冷却水槽
15、ドライヤーゾーン
17、リール
21、巻出し部
23、押出機ゾーン

Claims (9)

  1. 導体、及び、その外周を被覆する絶縁層を有する絶縁電線であって、
    前記絶縁層が、シリコーン変性エンジニアリングプラスチック樹脂を主体として形成され、前記導体を直接又は他の樹脂層を介して被覆する下層と、前記下層上に前記下層に接して形成される上層を含み、
    前記上層は、ポリフェニレンスルフィド樹脂及びポリエーテルエーテルケトン樹脂から選ばれる少なくとも1種の結晶性樹脂を主体として形成されることを特徴とする絶縁電線。
  2. 前記上層が、ポリフェニレンスルフィド樹脂を主体として形成されることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。
  3. 前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の結晶化度が20%以下であることを特徴とする請求項2に記載の絶縁電線。
  4. 前記上層が、引落ダイスを用いた溶融押出により形成されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の絶縁電線。
  5. 前記シリコーン変性エンジニアリングプラスチック樹脂が、シリコーン変性ポリエーテルイミド樹脂、シリコーン変性ポリイミド樹脂及びシリコーン変性ポリカーボネート樹脂から選ばれる樹脂であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の絶縁電線。
  6. 請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の絶縁電線を捲線して製造されたことを特徴とするモータ。
  7. 導体上に、前記導体を直接又は他の樹脂層を介して被覆する下層を形成する工程と、
    前記下層上に、前記下層に接して上層を形成する工程を有する絶縁電線の製造方法であって、
    前記下層は、シリコーン変性エンジニアリングプラスチック樹脂を主体として形成され、
    前記上層を形成する工程は、
    ポリフェニレンスルフィド樹脂及びポリエーテルエーテルケトン樹脂から選ばれる少なくとも1種を主体とする樹脂を、その融点より50℃以上高い温度で溶融押出を行い前記下層上に塗布する工程、及び
    塗布された樹脂の温度を、塗布後30秒間に230℃以上低下させる冷却工程、を有することを特徴とする絶縁電線の製造方法。
  8. 溶融押出を行い下層上に塗布する前記樹脂が、ポリフェニレンスルフィド樹脂を主体とする樹脂であることを特徴とする請求項7に記載の絶縁電線の製造方法。
  9. ポリフェニレンスルフィド樹脂を主体とする樹脂の塗布が、前記樹脂のガラス転位点以上に加熱された前記下層上に行われることを特徴とする請求項8に記載の絶縁電線の製造方法
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