蛍光表示管等に使用される絶縁層形成材料は、下記のように、主に(1)〜(3)の特性が要求される。
(1)Al配線または電極間の導通不良を防止するために絶縁特性が良好であること、特に焼成時にAl配線と反応し、絶縁層中に絶縁不良に至る発泡が生じないこと、
(2)ガラス基板等の熱変形を防止するために、低温で焼成可能であること、
(3)平滑な絶縁層を得るために、熱的安定性が良好であること、
特に、車載ディスプレイ等の蛍光表示管は、高輝度化の要請を満たすために、印加電圧が高くなってきていることに加えて、高精細化の要請を満たすために、Al配線間の距離が狭くなってきている。そのため、この用途の絶縁層形成材料は、従来よりも高い絶縁特性が必要になり、この場合、上記(1)〜(3)の特性の内、(1)の特性が重要になる。
絶縁不良の原因となる泡は、ガラス中の水分が原因であり、主にAl配線上で発生する。この泡はガラス中の水分がアルミニウムにより還元されて生じたものである。アルミニウムは、非常に還元能力が高い材料であり、ガラス中の水分を容易に還元する。このため、Al配線上に形成される絶縁層形成材料に多量の水分が含まれている場合、焼成時に、
2Al + 3H2O → Al2O3 + 2H2
の反応が生じ、ガラス中に著しいH2の発泡が生じる。それゆえガラス中の水分量が少ない程、焼成時に発泡が生じ難くなり、絶縁不良が生じ難くなる。
ガラス中の水分量を少なくする方法として、(A)ガラスバッチ中にSi等の金属粉末を添加して、ガラスを溶融する方法、(B)溶融ガラス中に窒素ガスでバブリングしながら、ガラスを溶融する方法がある。
しかし、(A)の方法は、Pt等の溶融炉に深刻なダメージを与えやすく、ガラスの溶融コストが高騰してしまう。また、(B)の方法も、特殊な溶融設備を採用せざるを得ず、ガラスの溶融コストが高騰してしまう。
そこで、本発明は、Al配線上に絶縁層を形成しても、焼成時にガラス中に発泡が生じ難く、また低温で焼成可能であり、しかも熱的安定性が良好であり、焼成時にガラスに失透が発生し難い絶縁層形成材料を創案することにより、発泡が少なく、且つ表面平滑性が良好な絶縁層を形成し、蛍光表示管等の高輝度化や高精細化に寄与することを技術的課題とする。
本発明者は、鋭意努力の結果、ZnO−B2O3−SiO2系ガラス粉末に、Cuおよび/またはFeを含有する無機酸化物粉末を少量添加すれば、絶縁特性が顕著に向上することを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の絶縁層形成材料は、ガラス粉末と無機酸化物粉末を含有する絶縁層形成材料において、(1)ガラス粉末の含有量が70〜99.9質量%、無機酸化物粉末の含有量が0.1〜20質量%であり、(2)ガラス粉末が、ガラス組成として、モル%で、ZnO 15〜45%、B2O3 25〜45%、SiO2 5〜25%を含有し、(3)無機酸化物粉末が、Cuおよび/またはFeを含有することを特徴とする。
本発明者の調査によると、CuOとFe2O3は、絶縁層形成材料の焼成温度域(530〜580℃)でH2Oよりも還元されやすいため、絶縁層形成材料中にCuおよび/またはFeを含有する無機酸化物粉末を添加すれば、2Al+3H2O→Al2O3+2H2の反応が生じ難くなり、絶縁特性を顕著に高めることができる。しかもCuおよび/またはFeを含有する無機酸化物粉末は、添加量が少なくても効果を発揮するため、ZnO−B2O3−SiO2系ガラス粉末の基本特性を損なうことなく、絶縁特性を顕著に高めることができる。
本発明の絶縁層形成材料は、ガラス粉末において、ガラス組成中のZnO、B2O3、SiO2の含有量を上記範囲に規制しているため、軟化点が低く、580℃以下の温度で絶縁層を形成することができる。また、本発明の絶縁層形成材料は、ガラス粉末において、ガラス組成中のZnO、B2O3、SiO2の含有量を上記範囲に規制しているため、熱的安定性が良好であり、焼成時にガラスが失透し、絶縁層の表面平滑性が損なわれる事態を防止しやすくなる。
第二に、本発明の絶縁層形成材料は、無機酸化物粉末が、Al−Cr−Fe−Zn系複合酸化物、Al−Cu−Fe−Mn系複合酸化物、Al−Fe−Mn系複合酸化物、Co−Cr−Fe−Mn系複合酸化物、Co−Cr−Fe−Ni系複合酸化物、Co−Cr−Fe−Ni−Si−Zr系複合酸化物、Co−Cr−Fe系複合酸化物、Co−Cr−Fe−Mn系複合酸化物、Co−Cr−Fe−Ni−Zn系複合酸化物、Co−Fe系複合酸化物、Co−Fe−Mn−Ni系複合酸化物、Cr−Cu系複合酸化物、Cr−Cu−Mn系複合酸化物、Cr−Fe系複合酸化物、Cr−Fe−Mn系複合酸化物、Cr−Fe−Zn系複合酸化物、Fe−Mn系複合酸化物、Fe−Ti系複合酸化物、Fe−Ti−W系複合酸化物、Fe−Ti−Zn系複合酸化物、Fe−Zn系複合酸化物の一種または二種以上を含むことを特徴とする。ここで、「・・・系複合酸化物」とは、明示の成分を必須成分として含有する複合酸化物を指す。なお、「複合酸化物」は、2種以上の酸化物が組み合わさって構成される酸化物であり、それぞれの金属イオンが、O2−の最密充填の隙間に平等なイオン格子を形成する酸化物である。
第三に、本発明の絶縁層形成材料は、無機酸化物粉末が、Cu酸化物(CuO、Cu2O等)またはFe酸化物(Fe2O3、FeO等)を含むことを特徴とする。
第四に、本発明の絶縁層形成材料は、無機酸化物粉末の平均粒子径D50が5μm以下であることを特徴とする。ここで、「平均粒子径D50」とは、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して50%である粒子径を表す。
第五に、本発明の絶縁層形成材料は、無機酸化物粉末の最大粒子径Dmaxが20μm以下であることを特徴とする。ここで、「最大粒子径Dmax」とは、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して99%である粒子径を表す。
第六に、本発明の絶縁層形成材料は、ガラス粉末が、ガラス組成として、更にTiO2を0.1〜10モル%含有することを特徴とする。TiO2は、ガラス構造を緻密化し、ガラス中に水分を含み難くする成分であるとともに、アルミニウムによる還元が比較的生じやすい成分であり、ガラス中の水分の還元量を減少させる効果がある。結果として、TiO2を添加すれば、絶縁特性を高めることができる。
第七に、本発明の絶縁層形成材料は、ガラス粉末が、ガラス組成として、更にBaOを0.1〜12モル%含有することを特徴とする。
第八に、本発明の絶縁層形成材料は、ガラス粉末が、実質的にPbOを含有しないことを特徴とする。ここで、本発明でいう「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が1000ppm(質量)以下の場合を指す。
蛍光表示管で使用されるソーダガラス基板は、ガラス組成中にNa2Oを含有しているが、長期の使用によりNa2OがNa+に電解し、これが鉛含有ガラス中のPbOを還元させ、Al配線上にPbを樹枝状に析出させる。これは鉛樹と称される現象であるが、この現象が生じると、絶縁層の絶縁特性が損なわれる。しかし、ガラス粉末が実質的にPbOを含有しない構成にすれば、このような不具合は生じ難く、結果として蛍光表示管の高輝度化が可能になる。また、ガラス粉末が実質的にPbOを含有しない構成にすれば、Al配線間の距離を狭めても、導通不良が発生し難く、結果としてAl配線の高精細化が可能になる。なお、本発明の絶縁層形成材料は、鉛含有ガラスで形成された絶縁層の保護層としても用いることができる。このようにすれば、保護層により、鉛樹現象を遮断することができる。
第九に、本発明の絶縁層形成材料は、ガラス粉末の平均粒子径D50が5μm以下であることを特徴とする。
第十に、本発明の絶縁層形成材料は、ガラス粉末の最大粒子径Dmaxが20μm以下であることを特徴とする。
第十一に、本発明の絶縁層形成材料は、ガラス粉末の平均粒子径D50が、無機酸化物粉末の平均粒子径D50より大きいことを特徴とする。このようにすれば、ガラス粉末中で2Al+3H2O→Al2O3+2H2の反応が生じ難くなり、絶縁特性を一層高めやすくなる。
第十二に、本発明の絶縁層形成材料は、軟化点が580℃以下であることを特徴とする。ここで、「軟化点」とは、マクロ型示差熱分析(DTA)装置で測定した値を指し、マクロ型DTAは室温から測定を開始し、昇温速度は10℃/分とする。なお、マクロ型DTA装置で測定した軟化点は、図1に示す第四屈曲点の温度(TS)を指す。
第十三に、本発明の絶縁層形成材料は、Alの絶縁被覆に用いることを特徴とする。
第十四に、本発明の絶縁層形成材料は、蛍光表示管に用いることを特徴とする。
本発明の絶縁層形成材料において、ガラス粉末と無機酸化物粉末の混合割合は、ガラス粉末70〜99.9質量%、無機酸化物粉末0.1〜20質量%であり、ガラス粉末80〜99.5質量%、無機酸化物粉末0.5〜10質量%が好ましく、ガラス粉末85〜99.1質量%、無機酸化物粉末0.9〜5質量%がより好ましい。無機酸化物粉末の含有量が0.1質量%より少ないと、無機酸化物による効果を享受し難くなる。一方、無機酸化物粉末の含有量が20質量%より多いと、熱的安定性が低下しやすくなり、しかも無機酸化物粉末の界面に残存泡等が発生しやすくなる。
本発明の絶縁層形成材料において、無機酸化物粉末は、Al−Cr−Fe−Zn系複合酸化物、Al−Cu−Fe−Mn系複合酸化物、Al−Fe−Mn系複合酸化物、Co−Cr−Fe−Mn系複合酸化物、Co−Cr−Fe−Ni系複合酸化物、Co−Cr−Fe−Ni−Si−Zr系複合酸化物、Co−Cr−Fe系複合酸化物、Co−Cr−Fe−Mn系複合酸化物、Co−Cr−Fe−Ni−Zn系複合酸化物、Co−Fe系複合酸化物、Co−Fe−Mn−Ni系複合酸化物、Cr−Cu系複合酸化物、Cr−Cu−Mn系複合酸化物、Cr−Fe系複合酸化物、Cr−Fe−Mn系複合酸化物、Cr−Fe−Zn系複合酸化物、Fe−Mn系複合酸化物、Fe−Ti系複合酸化物、Fe−Ti−W系複合酸化物、Fe−Ti−Zn系複合酸化物、Fe−Zn系複合酸化物の一種または二種以上が好ましい。これらの複合酸化物を用いると、Al配線上の発泡を減少させる効果を享受することができる。これらの複合酸化物としては、(Co,Fe,Mn)(Fe,Cr,Mn)2O4、(Ni,Co,Fe)(Fe,Cr)2O4、(Ni,Co,Fe)(Fe,Cr)2O4・(Zn,Fe)(Fe,Cr)2O4、(Co,Fe,Mn)(Fe,Cr,Mn)2O4、(Fe,Mn)(Fe,Mn)2O4(Manganese ferrite black spinel)、(Fe,Mn)(Fe,Cr,Mn)O4、Cu(Cr,Mn)2O4、CuCr2O4、(Co,Fe)(Fe,Cr)2O4、(Ni,Co,Fe)(Fe,Cr)2O4・ZrSiO4、Fe(Fe,Cr)2O4、(Zn,Fe)(Fe,Cr)2O4、(Zn,Fe)(Fe,Cr,Al)2O4、(Fe,Co)Fe2O4、(Zn,Fe)Fe2O4、(Zn,Fe)(Fe,Cr)2O4、(Fe,Zn)Fe2O4:TiO2、(Co,Ni,Zn)TiO4、Fe2TiO4、Cr2O3:Fe2O3等を挙げることができる。
また、本発明の絶縁層形成材料において、無機酸化物粉末は、Cu酸化物またはFe酸化物が好ましい。これらの無機酸化物粉末を添加すると、材料コストを低廉化できるとともに、Al配線上の発泡を減少させる効果を享受することができる。
本発明の絶縁層形成材料において、無機酸化物粉末は黒色であることが好ましい。無機酸化物粉末が黒色であると、絶縁層形成材料に不純物が混入しても、絶縁層が外観不良になりにくい。また、無機酸化物粉末が黒色であると、蛍光表示管等の製造工程において、センサー等で構成部材を認識しやすくなり、製造工程のオートメーション化等を容易に図ることができる。黒色の無機酸化物粉末としては、Al−Cu−Fe−Mn系複合酸化物、Al−Fe−Mn系複合酸化物、Co−Cr−Fe系複合酸化物、Co−Cr−Fe−Mn系複合酸化物、Co−Cr−Fe−Ni系複合酸化物、Co−Cr−Fe−Mn系複合酸化物、Co−Cr−Fe−Ni−Zn系複合酸化物、Co−Fe−Mn−Ni系複合酸化物、Cr−Cu系複合酸化物、Cr−Cu−Mn系複合酸化物、Cr−Fe−Mn系複合酸化物、Fe−Mn系複合酸化物等を挙げることができ、具体的には(Co,Fe,Mn)(Fe,Cr,Mn)2O4、(Ni,Co,Fe)(Fe,Cr)2O4、(Ni,Co,Fe)(Fe,Cr)2O4・(Zn,Fe)(Fe,Cr)2O4、(Co,Fe,Mn)(Fe,Cr,Mn)2O4、(Fe,Mn)(Fe,Mn)2O4、(Fe,Mn)(Fe,Cr,Mn)O4、Cu(Cr,Mn)2O4、CuCr2O4、(Co,Fe)(Fe,Cr)2O4等を挙げることができる。
本発明の絶縁層形成材料において、無機酸化物粉末の平均粒子径D50は5μm以下、4μm以下、特に3μm以下が好ましい。無機酸化物粉末の平均粒子径D50が5μmより大きいと、無機酸化物粉末の表面積が小さくなるため、Al配線上の発泡を減少させる効果を発揮し難くなる。
本発明の絶縁層形成材料において、無機酸化物粉末の最大粒子径Dmaxは20μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましい。無機酸化物粉末の最大粒子径Dmaxが20μmより大きいと、絶縁層の表面に表面突起が発生しやすくなり、平滑な絶縁層を得難くなる。
本発明の絶縁層形成材料において、ガラス粉末のガラス組成範囲を上記のように限定した理由を述べる。
ZnOは、溶融温度や軟化点を過剰に上げることなく、熱膨張係数を下げる成分であり、その含有量は15〜45%、好ましくは22〜35%、より好ましくは25〜32%である。ZnOの含有量が少な過ぎると、熱膨張係数が十分に低下せず、ガラス基板等に反りが発生しやすくなる。また、ZnOの含有量が少な過ぎると、軟化点が高くなり、580℃以下の温度で平滑な絶縁層を得難くなる。一方、ZnOの含有量が多過ぎると、熱的安定性が低下し、焼成時にガラスが失透しやすくなる。
B2O3は、ガラスの骨格を形成する成分であるとともに、SiO2と比較して、溶融温度および軟化点を下げる成分であり、その含有量は25〜45%、好ましくは28〜40%、より好ましくは30〜39%である。B2O3の含有量が少な過ぎると、熱的安定性が低下し、焼成時にガラスが失透しやすくなる。一方、B2O3の含有量が多過ぎると、ガラスが分相しやすくなり、この場合、580℃以下の温度で平滑な絶縁層を形成し難くなる。
B2O3の含有量の一部をBaOに置換すれば、具体的にはモル比B2O3/BaOの値を13以下、10以下、特に8以下規制すれば、Al配線上の発泡を減少させることができるとともに、軟化点が低下しやすくなる。
SiO2は、ガラスの骨格を形成する成分であるとともに、熱膨張係数を低下させる効果があり、その含有量は5〜25%、好ましくは12〜21%、より好ましくは15〜19%である。SiO2の含有量が少な過ぎると、熱的安定性が低下し、溶融時または焼成時にガラスが失透しやすくなる。一方、SiO2の含有量が多過ぎると、軟化点が高くなり、580℃以下の温度で平滑な絶縁層を得難くなる。
上記成分以外にも、例えば、下記の成分をガラス組成中に添加することができる。
Li2Oは、軟化点を下げる成分であり、その含有量は0〜12%、0〜4%、0〜2%、特に0〜0.5%未満が好ましい。Li2Oの含有量が多過ぎると、熱的安定性が低下し、溶融時または焼成時にガラスが失透しやすくなる。
近年、マザーガラス基板に絶縁層を一括して形成する方法が検討されている。この方法は、絶縁層形成材料を含むペーストをマザーガラス基板(既にマザーガラス基板に所定の配線パターンが形成されている)上にスクリーン印刷法等で塗布し、これを焼成した後に、マザーガラス基板を所定のサイズに分断し、複数のガラス基板を得る方法である。この方法を用いれば、複数の絶縁層を一括して形成できるため、蛍光表示管等の製造効率が向上する。特に、マザーガラス基板が大きい程、多くの絶縁層を一括して形成できるため、蛍光表示管等の製造効率が向上する。しかし、マザーガラス基板が大きい程、絶縁層形成材料の焼成時にマザーガラス基板が反りやすくなる。同様にして、マザーガラス基板の板厚が小さい程、絶縁層形成材料の焼成時にマザーガラス基板が反りやすくなる。マザーガラス基板の反りが大きくなれば、マザーガラス基板を所定サイズに分断し難くなることに加えて、焼成工程後に用いる製造装置でマザーガラス基板をピックアップし難くなり、蛍光表示管等の製造効率が低下するおそれがある。発明者の調査によれば、Li2Oの含有量が多いと、ガラス基板にNa又はKが含まれている場合、絶縁層形成材料の焼成時に、ガラス粉末中のLi+とガラス基板中のNa+又はK+がイオン交換し、その結果、ガラス基板がガラス基板側に凸状に反りやすくなり、蛍光表示管等の製造効率が低下しやすくなる。そこで、Li2Oの含有量を0.5%未満に規制すれば、絶縁層形成材料とガラス基板に含まれるアルカリイオンがイオン交換し難くなり、蛍光表示管等の製造効率を高めやすくなる。
Li2Oの含有量の一部または全部をK2Oに置換すれば、具体的にはモル比Li2O/K2Oの値を1未満、0.5未満、特に0に規制すれば、熱的安定性が向上するとともに、Al配線上の発泡を減少させることができる。
Na2Oは、軟化点を下げる成分であり、その含有量は0〜15%、1〜13%、3〜10%、特に5〜8%が好ましい。Na2Oの含有量が少な過ぎると、軟化点が高くなり、580℃以下の温度で平滑な絶縁層を得難くなる。一方、Na2Oの含有量が多過ぎると、熱的安定性が低下し、溶融時または焼成時にガラスが失透しやすくなる。
K2Oは、軟化点を下げる成分であり、その含有量は0〜12%、0.1〜10%、1〜8%、特に3〜7%が好ましい。K2Oの含有量が多過ぎると、熱的安定性が低下し、溶融時または焼成時にガラスが失透しやすくなる。
Li2O+Na2O+K2O(Li2O、Na2O、K2Oの合量)は、軟化点、熱的安定性、耐薬品性および熱膨張係数に影響を及ぼす成分であり、その含有量は5〜20%、6〜15%、特に8〜13.5%が好ましい。Li2O+Na2O+K2Oの含有量が少な過ぎると、軟化点が高くなり、580℃以下の温度で平滑な絶縁層を得難くなる。一方、Li2O+Na2O+K2Oの含有量が多過ぎると、熱的安定性が低下し、溶融時または焼成時にガラスが失透しやすくなるとともに、熱膨張係数が十分に低下せず、ガラス基板等に反りが発生しやすくなる。
MgOは、熱的安定性を高める成分であり、また耐水性や耐薬品性を改良する成分であり、その含有量は0〜10%、0〜5%、特に0〜3.5%が好ましい。MgOの含有量が多過ぎると、軟化点が高くなり、580℃以下の温度で平滑な絶縁層を得難くなる。
CaOは、熱的安定性を高める成分であり、また耐水性や耐薬品性を改良する成分であり、その含有量は0〜10%、0〜5%、特に0〜3.5%が好ましい。CaOの含有量が多過ぎると、軟化点が高くなり、580℃以下の温度で平滑な絶縁層を得難くなる。
SrOは、熱的安定性を高める成分であり、また耐水性や耐薬品性を改良する成分であり、その含有量は0〜10%、0〜5%、特に0〜3.5%が好ましい。SrOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が十分に低下せず、ガラス基板等に反りが発生しやすくなる。
BaOは、熱的安定性を顕著に高める成分であり、また耐水性や耐薬品性を改良する成分であり、その含有量は0〜12%、0.1〜12%、1〜10%、特に2〜7%が好ましい。BaOの含有量が多過ぎると、ガラス基板等の熱膨張係数に整合し難くなり、ガラス基板等に反りが発生しやすくなる。なお、上記の通り、B2O3の一部をBaOで置換すれば、Al配線上の発泡を一層抑制できることから、BaOは、必須成分とすることが好ましい。
Al2O3は、ガラスの分相を抑える成分であり、また耐薬品性を高める成分であり、その含有量は0〜7%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0.1〜3%である。Al2O3の含有量が多過ぎると、軟化点が高くなり、580℃以下の温度で平滑な絶縁層を得難くなる。
TiO2は、上記の通り、ガラス構造を緻密化し、ガラス中に水分を含み難くする成分であるとともに、アルミニウムによる還元が比較的生じやすい成分であり、ガラス中の水分の還元量を減少させる効果がある。また、TiO2は、熱膨張係数を下げる成分である。TiO2の含有量は0〜10%、0.1〜7%、特に1〜5%が好ましい。TiO2の含有量が多過ぎると、熱的安定性が低下し、溶融時または焼成時にガラスが失透しやすくなるとともに、軟化点が高くなり、580℃以下の温度で平滑な絶縁層を得難くなる。
CuOは、アルミニウムに非常に還元されやすい成分であり、ガラス組成中に添加すれば、Al配線上の発泡を減少させることができ、結果として、絶縁特性を高めることができる。CuOの含有量は0〜10%、0.1〜5%、特に0.5〜2%が好ましい。CuOの含有量が多過ぎると、焼成時にガラスからCuが析出しやすくなり、Al配線間に絶縁不良が発生するおそれがある。
Fe2O3は、アルミニウムに非常に還元されやすい成分であり、ガラス組成中に添加すれば、Al配線上の発泡を減少させることができ、結果として、絶縁特性を高めることができる。また、Fe2O3は、アルミニウムに還元された場合でも、導電性に乏しいFe3O4になるため、蛍光表示管等に高い電圧が印加されても、Al配線間に絶縁不良が発生し難い利点を有する。Fe2O3の含有量は0〜10%、0.3〜5%、特に1〜2.5%が好ましい。Fe2O3の含有量が多過ぎると、熱的安定性が低下し、溶融時または焼成時にガラスが失透しやすくなる。
なお、CuOの含有量が多過ぎると、絶縁層形成材料の焼成後に、Al配線が褐色に変化しやすい。よって、そのような変色が許容されない場合、例えば前面ガラス基板等に用いる場合には、CuOとFe2O3の内、Fe2O3を優先的に添加することが好ましい。
上記成分の他にも、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を添加することができる。例えば、耐水性や耐薬品性を高めるためにZrO2を5%(好ましくは2%)まで、また熱的安定性を高めるためにP2O5、希土類酸化物を10モル%まで添加してもよい。
本発明に係るガラス粉末は、上記の通り、PbOの含有を完全に排除するものではないが、環境的観点からPbOを実質的に含有しないことが好ましい。また、ガラス中に含まれるPbOは、ビークル中のカーボンによってPbに還元され、これがアノードに付着し、蛍光表示管等の輝度特性を劣化させるおそれもある。
本発明の絶縁層形成材料において、ハロゲン(特にF2、Cl2)およびSO3を実質的に含まないことが好ましい。ハロゲンおよびSO3は焼成時に揮発し、カソードやアノードを汚染して電子の授受を阻害し、その結果、蛍光表示管等の輝度特性を低下させるおそれがある。よって、焼成時の成分揮発による輝度特性の劣化が問題とならないレベルにまでこれらの成分を低減することが好ましい。具体的には、ハロゲンを合量で100ppm(質量)以下、SO3を10ppm(質量)以下に規制することが好ましい。ハロゲンおよびSO3の含有量を低減するためには、ガラス原料を選択する際にこれらの含有量(不純物として含有する量)が少ないものを選択すればよい。また、ガラスの溶融温度を1300℃以上に設定したり、或いは溶融時間を長くすると、ハロゲンおよびSO3の含有量を更に低減することができる。
本発明の絶縁層形成材料は、必要に応じて、耐火性フィラー粉末、例えばアルミナ、ジルコニア、ジルコン、チタニア、コーディエライト、ムライト、シリカ、ウイレマイト、酸化錫、酸化亜鉛等の粉末を合量で10質量%まで添加することができる。しかし、絶縁層形成材料に耐火性フィラー粉末を添加すると、絶縁層の表面平滑性が損なわれやすくなる。このため、本発明の絶縁層形成材料は、実質的に耐火性フィラー粉末を含有しないことが好ましい。ここで、「実質的に耐火性フィラー粉末を含有しない」とは、絶縁層形成材料中の耐火性フィラー粉末の含有量が1000ppm(質量)以下の場合を指す。
本発明の絶縁層形成材料において、熱膨張係数は100×10−7/℃以下、95×10−7/℃以下、90×10−7/℃以下、特に60〜88×10−7/℃が好ましい。絶縁層形成材料の熱膨張係数が高過ぎると、絶縁層形成材料とガラス基板等の収縮挙動が不整合になるため、ガラス基板等に反りが発生しやすくなり、結果として、蛍光表示管等の製造効率が低下しやすくなる。ここで、本発明でいう「熱膨張係数」とは、JIS R3102に基づいて測定した値を指し、押棒式熱膨張係数測定(TMA)装置により、30〜300℃の温度範囲で測定した値を指す。なお、測定試料は、絶縁層形成材料をプレス成型し、緻密に焼結させた後、直径4mm、長さ40mmの円柱状に研磨加工したものを用いた。
本発明の絶縁層形成材料において、軟化点は580℃以下、570℃以下、特に565℃以下が好ましい。絶縁層形成材料の軟化点が580℃より高いと、ガラスの流動性が乏しくなり、平滑な絶縁層を得難くなることに加えて、絶縁層の緻密性が低下する。また、絶縁層形成材料の軟化点が580℃より高いと、絶縁層の形成に際し、高温焼成が必要になり、ガラス基板等に熱変形等が生じやすくなる。
本発明の絶縁層形成材料において、ガラス粉末の平均粒子径D50は5μm以下、4μm以下、特に3μm以下が好ましい。ガラス粉末の平均粒子径D50が5μmより大きいと、ガラス粉末が軟化し難くなり、平滑な絶縁層を得難くなる。
本発明の絶縁層形成材料において、ガラス粉末の最大粒子径Dmaxは20μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましい。ガラス粉末の最大粒子径Dmaxが20μmより大きいと、塗布膜の厚みを均一化することが困難になり、平滑な絶縁層を得難くなる。
本発明の絶縁層形成材料は、ペーストの形態で使用することができる。ペーストの形態で使用する場合、絶縁層形成材料とともに、バインダー、溶剤、可塑剤等を使用する。ペースト中の絶縁層形成材料の含有量は、30〜90質量%が好ましい。絶縁層形成材料の含有量が30質量%より少ないと、ペーストの粘性が低くなり過ぎ、乾燥膜の膜厚を制御することが困難になる。一方、絶縁層形成材料の含有量が90質量%より多いと、ペーストの粘性が高くなり過ぎ、乾燥膜の膜厚を制御することが困難になる。
バインダーは、ペーストの粘性を高める成分であるとともに、乾燥後の膜強度を高める成分であり、その含有量は0.1〜20質量%が好ましい。バインダーの含有量が0.1質量%より少ないと、上記効果を得難くなる。一方、バインダーの含有量が20質量%より多いと、絶縁層の膜厚を制御し難くなり、しかも絶縁層中に泡が残存しやすくなり、結果として、平滑な絶縁層を得難くなる。バインダーとして、ニトロセルロース、エチルセルロース、ポリブチルメタアクリレート、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタアクリレート、ポリエチルメタアクリレート等を単独、或いは混合して使用することができる。
溶剤は、絶縁層形成材料を分散し、ペースト化するための成分であり、その含有量は10〜30質量%が好ましい。溶剤の含有量が10質量%より少ないと、ペーストの粘性が高くなり過ぎ、乾燥膜の膜厚を制御することが困難になる。一方、溶剤の含有量が30質量%より多いと、ペーストの粘性が低くなり過ぎ、乾燥膜の膜厚を制御することが困難になる。溶剤として、ターピネオール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタジオールモノイソブチレート等を単独、或いは混合して使用することができる。
可塑剤は、乾燥速度をコントロールするとともに、乾燥膜に柔軟性を与える成分であり、その含有量は0〜10質量%が好ましい。可塑剤の含有量が10質量%より多いと、絶縁層の膜厚を制御し難くなり、しかも絶縁層中に泡が残存しやすくなり、結果として、平滑な絶縁層を得難くなる。可塑剤として、ブチルベンジルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジカプリルフタレート、ジブチルフタレート等を単独、或いは混合して使用することができる。
ペーストは、絶縁層形成材料、バインダー、溶剤、可塑剤等を所定の割合で混合した後、三本ローラー等で混練することにより作製することができる。絶縁層は、得られたペーストをスクリーン印刷法で所定の膜厚になるまで積層した後、これを乾燥し、所定温度で焼成することで形成することができる。なお、塗布膜は、ドクターブレード法、ロールコート法、スプレー法、リバースコーター法、グリーンシート法、テーブルコーター法等でも形成することができる。
本発明の絶縁層形成材料は、上記の要求特性(1)〜(3)を満たすため、プラズマディスプレイパネル等の誘電体材料としても好適である。従来、プラズマディスプレイパネルの電極として、Ag電極が用いられてきたが、近年、部材コストを低廉化するために、Ag電極に替えて、Al電極を用いる試みが検討されている。上記の通り、Al電極上に絶縁層を形成する場合、絶縁層形成材料が、焼成時にAl電極と反応し、絶縁層中に発泡が生じやすいため、Al電極間の絶縁不良が発生しやすくなる。しかし、本発明の絶縁層形成材料は、絶縁特性が良好であるため、このような不具合を防止することができる。
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。表1、2は、本発明の実施例(試料No.1〜9)、比較例(試料No.10〜12)を示している。
各試料は次のようにして調製した。まず表1、2に示すガラス組成となるように各種酸化物、炭酸塩等のガラス原料を調合し、均一に混合した後、白金坩堝に入れて1250℃で2時間溶融し、次いで溶融ガラスをフィルム状に成形した。続いて、ガラスフィルムを所望の粒径となるように、ジルコニアボールを用いたアルミナ製ボールミルで所定時間粉砕した後、分級を行い、平均粒子径D50が3μm、最大粒子径Dmaxが13μmのガラス粉末を得た。なお、ガラス中のハロゲンの含有量が100ppm(質量)以下、SO3の含有量が10ppm(質量)以下になるように、不純物の少ないガラス原料を選択した。
次に、得られたガラス粉末と表3に記載の無機酸化物粉末とを混合し、絶縁層形成材料を得た。得られた各試料につき、各種特性を評価した。なお、無機酸化物粉末の平均粒子径D50は1μm、最大粒子径Dmaxは5μmであった。
熱膨張係数は、JIS R3102に基づいて測定し、TMA装置により、30〜300℃の温度範囲で測定した。なお、測定試料は、各試料を所定形状にプレス成型し、緻密に焼結させた後、直径4mm、長さ40mmの円柱状に研磨加工したものを用いた。
ガラス転移点は、TMA装置で測定した。なお、測定試料は、各試料を所定形状にプレス成型し、緻密に焼結させた後、直径4mm、長さ40mmの円柱状に研磨加工したものを用いた。
軟化点は、マクロ型DTA装置で測定した。マクロ型DTAは、室温から測定を開始し、昇温速度は10℃/分とした。
次のようにして、絶縁特性を評価した。まず各試料をビークル(エチルセルロースを5%含有させたターピネオール溶液)中に分散させた後、三本ロールミルで混練してペースト化した。次いで、このペーストをAl配線(配線幅100μm、配線間隔100μm)が施されたソーダガラス基板(熱膨張係数85×10−7/℃)の上にスクリーン印刷法で塗布し、膜厚100μmの塗布膜を形成した。続いて、この塗布膜を150℃で30分間乾燥し、乾燥膜を得た後、電気炉で550℃10分間焼成した。焼成に際し、昇降温速度は10℃/分とした。最後に、顕微鏡で得られた絶縁層の断面を観察し、5μm以上の泡数が5個未満/cm2であったものを「○」、5μm以上の泡数が5〜20個/cm2であったものを「△」、5μm以上の泡数が20個/cm2以上であったものを「×」として評価した。
次のようにして、表面平滑性を評価した。まず各試料をビークル(エチルセルロースを5%含有させたターピネオール)中に分散させた後、三本ロールミルで混練してペースト化した。次いで、このペーストをソーダガラス基板(熱膨張係数:85×10−7/℃)の上にスクリーン印刷法で塗布し、膜厚100μmの塗布膜を形成した。続いて、この塗布膜を150℃で30分間乾燥し、乾燥膜を得た後、電気炉で560℃30分間焼成した。焼成に際し、昇降温速度は10℃/分とした。最後に、得られた絶縁層の平均表面粗さRaを触針式表面粗さ計で測定し、平均表面粗さRaが3μm以下のものを「○」、3μmを超えるものを「×」として評価した。
次のようにして、輝度特性を評価した。まず予め輝度特性に影響がないことが確認された鉛含有ガラスを用い、蛍光表示管を作製した。この蛍光表示管の輝度特性を測定し、これを100%とした。次に、表中の各試料を用いて作製した蛍光表示管の輝度特性を測定し、輝度特性が相対値で90%以上のものを「○」、90%未満のものを「×」として評価した。蛍光表示管は、内部に蛍光体、リード配線、絶縁層、グリッド、フィラメント、アノード等を組み込み、前面ガラス基板と背面ガラス基板を封着材料で封着することにより作製した。なお、封着材料は、予め輝度特性に影響がないことが確認されたものを使用した。
次のようにして、反り量を評価した。まず各試料をビークル(エチルセルロースを5%含有させたターピネオール溶液)中に分散させた後、三本ロールミルで混練してペースト化した。次に、このペーストを300mm×300mm×1.8mm厚のソーダガラス基板(熱膨張係数:85×10−7/℃)の中央部分にスクリーン印刷機で塗布し、100mm×100mmの塗布膜を形成した。続いて、この塗布膜を電気炉で560℃30分間焼成し、30μm厚の絶縁層を形成した。焼成に際し、昇降温速度は5℃/分とした。最後に、絶縁層の表面を触針式表面粗さ計(株式会社東京精密製サーフコム756A)で測定することにより、90mm幅におけるソーダガラス基板の最大反り量を測定し、最大反り量が15μm未満のものを「○」とし、最大反り量が15〜30μmであるものを「△」とし、最大反り量が30μmより大きいものを「×」として評価した。
表1、2から明らかなように、試料No.1〜9は、軟化点が580℃以下であり、且つ絶縁特性、表面平滑性および輝度特性が良好であった。なお、試料No.3〜9は、反り量の評価も良好であった。
一方、表2から明らかなように、試料No.10〜12は、Cu、Feを含む無機酸化物粉末を含有していないため、絶縁特性の評価が不良であった。また、試料No.10は、ガラス組成中のSiO2の含有量が多いため、軟化点が高く、表面平滑性の評価が不良であった。さらに、試料No.12は、ガラス組成中のLi2Oの含有量が多いため、反り量の評価が不良であった。なお、試料No.12は、ガラス基板の板厚が大きい場合には、反り量の評価が「○」になると考えられる。