JP2010274746A - 車両制御装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】車両が横風を受けている場合に、ヨーモーメントを横力で割った値である比率xの目標比率x*を、実際の車両の挙動が目標挙動となる大きさに決定する。横風は、車両の形状で決まる着力点に作用するため、横風の強さに基づけば横風によって車両に作用する横風ヨーモーメントを取得することができる。そして、アクチュエータが、横風の強さと目標比率x*とを掛けた値である目標ヨーモーメントから横風ヨーモーメントを引いた値である制御ヨーモーメントが付与されるように制御される。その結果、車両の実挙動を目標挙動に近づけることができる。
【選択図】図6
Description
特許文献2には、操舵補助力、操舵輪の舵角の制御と、ロール剛性の前後配分比、左右輪の制駆動力差の制御とを組み合わせて行われる車両制御装置が記載されている。特許文献2に記載の車両制御装置においては、CCDカメラにより検出された白線のデータに基づいて、白線に沿って走行させるための目標修正舵角と、目標ヨーモーメントとが求められる。(a)実質的に直進走行しており、かつ、目標ヨーモーメントの絶対値が設定値より小さい場合には、実際の転舵トルクが目標転舵トルクとなるようにパワーステアリング装置の補助操舵力が制御されるが、(b)目標ヨーモーメントの絶対値が設定値以上である場合には、実際の転舵トルクが目標転舵トルクとなるようにパワーステアリング装置の補助操舵力が制御されるとともに、左右制動力差が目標制動力差となるように左右制動力制御装置が制御される。また、(c)旋回走行状態にあり、良路である場合には、実際のロール剛性配分が目標ロール剛性配分に近づくようにアクティブスタビライザ装置が制御される。
特許文献3には、車両の右側と左側とで、空力特性を異ならせることにより、車両のヨーモーメントを制御する車両制御装置が記載されている。特許文献3に記載の車両制御装置においては、フロントバンパの左側部分と右側部分とが、それぞれ、突出位置と退避位置とに切り替え可能とされており、それにより、左側部分と、右側部分との空力特性が変更され、車両のヨーモーメントが制御される。
車両が横力を受けている場合に、ヨーモーメントを横力で割ることによって得られる比率に基づいてアクチュエータを制御すれば、車両の実際の挙動を良好に運転者の要求する目標挙動に近づけることができる。
例えば、目標比率を、車両の実挙動が目標挙動となる大きさに決定し、その目標比率に基づいてアクチュエータを制御した場合に、そのアクチュエータによる制御ヨーモーメントと、横力による横力ヨーモーメントとが車両に加えられることによって、目標挙動が実現されるようにすることができる。
具体的に、横力が横風である場合において、横風が車両の重心から目標比率だけ隔たった点に作用したと仮定した場合に、車両の挙動が目標挙動となる大きさに決定することができる。一方、横風は車両の形状等で決まる横力着力点に等価的に作用し、車両に横風ヨーモーメントを付与する。したがって、この横風が目標比率で決まる点に作用したと仮定した場合の目標ヨーモーメントから実際の横風ヨーモーメントを引いたヨーモーメントがアクチュエータによって加えられるようにすれば、横力を受けた場合の車両の実際の挙動を目標挙動とすることができる。
このように、目標比率に基づけば、フィードフォワード制御により、車両の挙動を目標挙動に近づけることが可能となるのであり、フィードバック制御を行う必要性が低くなる。
目標比率は、横力が作用する点と車両の重心(ヨーモーメントの中心点)との間の距離に対応するが、距離は、車両自体から外れた大きさとすることもできる。
ヨーモーメントを横力で割ることによって得られる比率の目標値である目標比率を取得する目標比率取得部と、
その目標比率取得部によって取得された前記目標比率に基づいて前記アクチュエータを制御することにより、前記車両が横力を受けている場合の、前記車両の実際の挙動である実挙動を運転者の要求する目標挙動とするアクチュエータ制御部と
を含むことを特徴とする車両制御装置。
(2)前記アクチュエータ制御部が、前記目標比率を、前記車両が横力を受けた場合に、前記実挙動が前記目標挙動となる大きさに決定する挙動対応目標比率決定部を含む(1)項に記載の車両制御装置。
(3)前記アクチュエータ制御部が、前記目標比率を、前記車両が横力を受けた場合の、前記車両のヨーレイトと横加速度との少なくとも一方の変化である応答が、前記アクチュエータの制御が行われない場合より小さくなる大きさに決定する応答対応目標比率決定部を含む(1)項または(2)項に記載の車両制御装置。
目標挙動は、運転者が要求する目標平面挙動、目標ロール挙動、目標操舵特性が得られる挙動等とすることができる。
例えば、車両が横力を受けている場合に、目標挙動を、「ステアリングホイールの操舵修正を行わなくても車両が直進する(ヨーレイトの定常値が0である)挙動」、「ステアリングホイールの操舵量(0または0以外の大きさ)を一定に保持した場合のヨーレイトや横加速度の収まりがよくなる(ダンピングが最良となる)挙動」、「ステアリングホイールの操舵量を一定に保持した場合であってもロール角が0となる挙動」、「ステアリングホイールの操舵量を一定に保持した場合であってもロール角の収まりがよくなる挙動」、「ステアリングホイールから手を離しても、ロール角の収まりがよくなる挙動」、「ステアリングホイールから手を離しても車両が直進する(ヨーレイトの定常値が0である)挙動」、「ステアリングホイールの操舵量を一定に保持した場合に操舵トルクが0となる挙動」、「ステアリングホイールの操舵量が一定に保持した場合に操舵トルクの収まりがよくなる挙動」、「ステアリングホイールから手を離しても車両に作用する横加速度が0となる挙動」、「ステアリングホイールから手を離しても横加速度の収まりがよくなる挙動」等とすることができる。
収まりがよい、あるいは、ダンピングが最良になる挙動とは、例えば、定常値を1とした場合の過渡応答時の変化量が最も小さくなる挙動とすることができる。
(4)前記アクチュエータ制御部が、前記目標比率を、車両のモデルに基づいて決定するモデル対応目標比率決定部を含む(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載の車両制御装置。
モデルは2自由度のモデルあるいは3自由度のモデルとすることができ、モデルに基づいて、目標比率について運動方程式を作成して解けば、目標比率を取得することができる。
(5)前記アクチュエータ制御部が、(a)前記車両が受ける横力としての横風の強さを検出する横風検出部と、(b)前記アクチュエータによって前記車両に加えられるヨーモーメントである制御ヨーモーメントを、前記目標比率xから着力点と車両の重心との間の距離yを引いた値(x−y)に、前記横風検出部によって検出された横風の強さFwを掛けた値{Fw・(x−y)}として決定する制御ヨーモーメント決定部とを含む(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の車両制御装置。
横風は車両の側面全体に作用するが、等価的に車両に作用する点を着力点と称し、車両の形状等により予め決まる。着力点は車両の重心から離れた点であるため、横風が着力点に作用することによってヨーモーメントが生じる。
(6)前記アクチュエータ制御部が、(a)前記車両が受ける横風の強さを検出する横風検出部と、(b)前記アクチュエータによって前記車両に加えられるヨーモーメントである制御ヨーモーメントMdを、前記目標比率と前記横風検出部によって検出された横風の強さを掛けることによって得られる目標ヨーモーメントMrefから前記横風に起因して前記車両に実際に加えられる横風ヨーモーメントMwを引いた値(Md=Mref−Mw)として決定する制御ヨーモーメント決定部を含む(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載の車両制御装置。
横風の強さに、目標比率から着力点と重心との間の距離を引いた値を掛けたヨーモーメントがアクチュエータによって加えられるようにすれば、車両の挙動を目標挙動とすることができる。
このように、目標比率が取得されれば、アクチュエータによる制御ヨーモーメントを決定する際の演算を容易にすることができるのであり、アクチュエータの制御を容易にすることができる。
(7)前記横風検出部が、(a)前記車両の複数の車輪の各々に対応して設けられ、車輪と路面との間に実際に作用する横方向の力を検出するタイヤ横力検出部と、(b)前記車両の質量と横加速度との積である横方向の慣性力を取得する車両横方向慣性力取得部と、(c)その車両横方向慣性力取得部によって取得された横方向の慣性力から、前記タイヤ横力検出部によって検出された前記複数の車輪の各々に作用するタイヤ横力の和を引いた値を前記横風の強さとする横風演算部とを含む(5)項または(6)項に記載の車両制御装置。
タイヤ横力と車両横方向慣性力とに基づけば、横風の強さを取得することができる。タイヤ横力は、例えば、車輪に設けられた作用力センサによって検出することができる。作用力センサは、路面から作用する力を受ける部材(例えば、タイヤ、ホイールのスポーク、車軸等)の歪みを検出するものとすることができ、これら部材の歪みに基づいてタイヤ横力を取得することができる。
(8)前記アクチュエータが、前記車両の右側部分に加えられる前後方向力である右側前後方向力と左側部分に加えられる前後方向力である左側前後方向力との差を制御可能なものであり、前記アクチュエータ制御部が、前記アクチュエータを制御することにより、前記右側前後方向力と前記左側前後方向力との差を制御する手段を含む(1)項ないし(7)項のいずれか1つに記載の車両制御装置。
(9)前記アクチュエータが、前記車両の前輪側と後輪側との少なくとも一方の側の右側駆動輪と左側駆動輪とにそれぞれ設けられた駆動用モータであり、前記アクチュエータ制御部が、前記右側駆動輪に設けられた駆動用モータと前記左側駆動輪に設けられた駆動用モータとをそれぞれ制御する駆動用モータ制御部を含む(8)項に記載の車両制御装置。
例えば、アクチュエータは、(a)左右駆動輪に設けられた駆動用モータとすることができる。左右駆動輪に加えられる駆動力または回生制動力を制御することによって、左右駆動輪の駆動力差(制動力差)を制御して、ヨーモーメントを制御することができる。アクチュエータは、(b)左右輪に設けられた摩擦ブレーキとすることができる。左右輪に加えられるブレーキ力を制御することによって左右制動力差を制御することができる。アクチュエータは、(c)左右駆動輪と駆動源との間に設けられた駆動力配分機構(差動制限装置)とすることができる。左右駆動輪に配分される駆動力の比率を制御すれば、左右駆動輪の駆動力差を制御することができる。
(10)前記アクチュエータが、前記車両の右側部分の空力特性である右側空力特性と左側部分の空力特性である左側空力特性との差を制御可能なものであり、前記アクチュエータ制御部が、前記アクチュエータを制御することにより、前記右側空力特性と前記左側空力特性との差を制御する手段を含む(1)項ないし(9)項のいずれか1つに記載の車両制御装置。
アクチュエータは、例えば、車両のフロントバンパの右側部分と左側部分とに設けられ、右側部分の形状と左側部分の形状とをそれぞれ変更させるものとすることができる。車両の右側空力特性と左側空力特性と差を制御することにより車両に作用するヨーモーメントを制御することができる。
(11)前記アクチュエータが、前記車両の後輪を転舵させる後輪転舵機構と、その後輪転舵機構を制御することにより前記車両に加えられるヨーモーメントを制御する手段とを含む(1)項ないし(10)項のいずれか1つに記載の車両制御装置。
例えば、後輪を前輪と同相に転舵させれば、車両のヨーモーメントを小さくすることができ、逆相に転舵させれば、車両のヨーモーメントを大きくすることができる。
タイヤ横力センサ46は、車輪41〜44のタイヤ、ホイールのスポーク、車軸等に設けられた歪みセンサを含む。歪みセンサは、車輪に作用する横方向の力を検出可能な姿勢で設けられる。歪みセンサによる検出値に基づいてタイヤと路面との間の作用する横方向力が検出される。
アクチュエータ12は、車両10が横風を受けている場合に、車両10の実際の挙動である実挙動が目標挙動に近づくように制御される。
ステップ1(以下、S1と略称する。他のステップについても同様とする)において、車両10が受ける横風の強さFwを求める。
図3に示すように、車両10において、横方向に作用する力について、以下の式(1)が成立する。
m・Gy=CFf+CFr+Fw・・・(1)
車両10には、前輪41,42、左右後輪43,44と路面との間に横方向の力(コーナリングフォースCF)が作用するとともに横風が作用し、慣性力{車両質量mと横加速度Gyとの積(m・Gy)}と釣り合う。そして、各輪のタイヤに作用する横方向の力は、タイヤ横力センサ46によって検出することができ、車両に作用する横加速度Gyは、横Gセンサ30により検出することができる。したがって、式(1)に検出値Gy、CFf、CFrを代入すれば、横風の強さFwを求めることができる。
なお、車両10のモデルを、図3に示す2自由度のモデルとすれば、左右前輪41,42を1つの前輪とみなし、左右後輪43,44を1つの後輪とみなすことができる。
「目標挙動」は、例えば、「横風を受けても、操舵角を0で固定した状態で直進する」、「横風を受けても、操舵角を0で固定した状態でヨーレイトのダンピングが最良となる挙動」等が該当する。「目標挙動」は、例えば、予め定められた挙動としたり、運転者の図示しないスイッチの操作等により選択された挙動としたりすることができる。
S3において、横風により車両が受けるヨーモーメントMw(以下、横風ヨーモーメントと称する)を求める。
横風ヨーモーメントMwは、車両10が横風を受ける場合のその横風着力点と重心Gとの間の距離dwと、横風の強さFwとの積で表われる。この横風着力点と重心との間の距離dwは、車両10の形状等で決まる値であり、既知である。
Mw=Fw・dw
S4において、アクチュエータ12により車両に加えられるヨーモーメント(以下、制御ヨーモーメントと称する)が、目標ヨーモーメントMrefから横風ヨーモーメントMwを引いた制御ヨーモーメントMdとして、取得される。
Md=Mref−Mw
制御ヨーモーメントMdがアクチュエータ12によって車両に加えられれば、車両10には目標ヨーモーメントMrefが加えられることになるのであり、目標挙動が実現される。
なお、目標ヨーモーメントMrefを、式
Mref=Fw・x*
で表して、比率x*を求めるようにすることができる。このようにすれば、アクチュエータ12によって出力されるヨーモーメントMdは、式
Md=Fw・(x*−dw)
に従って求めることが可能となる。すなわち、横風の強さFwと、比率x*から距離dwを引いた値(x*−dw)との積として制御ヨーモーメントを取得できるのである。
S5において、車両に制御ヨーモーメントMdが加えられるようにアクチュエータ12が制御される。
このように、本実施例においては、フィードフォワード制御が行われるのであり、フィードバック制御が行われることがない。換言すれば、目標比率x*を設定すればよく、フィードバック制御を行わなくても、車両の挙動を目標挙動とすることができる。
(a)の場合において、ホイールインモータ60,62の駆動力がそれぞれ制御されることにより、左右後輪43,44の駆動力差が制御され、制御ヨーモーメントが制御される。
(b)の場合において、差動制限装置76の制御により左右駆動輪43,44に分配される駆動力比が制御され、制御ヨーモーメントが制御される。
(c)の場合において、摩擦ブレーキ80,82のブレーキ力をそれぞれ制御することにより、左右制動力差が制御され制御ヨーモーメントが制御される。
(d)の場合において、空力特性変更装置90,92の制御により、左右の空力特性の差が制御され、制御ヨーモーメントが制御される。
以下の各実施例において、「目標挙動」、「目標比率x*」について説明する。また、実施例1〜実施例3においては、アクチュエータが駆動力差制御アクチュエータ68である場合について説明し、実施例4においては、空力特性差制御アクチュエータ94である場合について説明する。
図5に示すように2自由度のモデルを想定した場合、表1に示すように、車両における横方向の力の釣り合いについて式(2)が成立し、モーメントの釣り合いについて式(3)が成立する。式(2)は、上記式(1)と同様の式であるが、式(2)は、式(1)において、前輪コーナリングフォースCFf、後輪コーナリングフォースCFrをそれぞれ、正規化した前輪、後輪コーナリングパワーCf、Cr、車両の走行速度V、車両重心点の横すべり角β等を用いて表した式である。
具体的には、前輪コーナリングフォースCFf、後輪コーナリングフォースCFrは、それぞれ、前輪コーナリングパワー(正規化していない値)Kf、Kr、前輪、後輪の横すべり角αf、αrとした場合に、式
CFf=Kf・αf
CFr=Kr・αr
で表すことができる。
上式において、前輪、後輪のコーナリングパワーKf,Krを車両質量mに対して正規化した値Cf、Crを用いて、前輪車軸、後輪車輪と重心との間の距離Lf、Lr{(Lf+Lr)はホイールベースLとなる}とした場合、
CFf=Cf・αf・mgLr/L
CFr=Cr・αr・mgLf/L
で表すことができる。
上式において、前輪、後輪の横すべり角αf、αrは、それぞれ、前輪舵角δf、後輪舵角δrおよび前輪、後輪のそれぞれの位置における車体横すべり角βf、βrとした場合に、式
αf=δf−βf
αr=δr−βr
で表すことができる。また、前輪、後輪のそれぞれの位置における車体横すべり角βf、βrは、それぞれ、車両の重心Gにおける横すべり角β、ヨーレイトγとした場合に、
βf=β+Lf・γ/V
βr=β−Lr・γ/V
で表すことができる。以上のことから、前輪、後輪コーナリングフォースCFf,Cfrは、
CFf=Cf・{δf−(β+Lf・γ/V)}・mgLr/L
CFf=Cr・{δr−(β−Lr・γ/V)}・mgLf/L
で表すことができる。ここで、前輪、後輪舵角δf,δrを0とすると、
CFf=−Cf・(β+Lf・γ/V)・mgLr/L
CFr=−Cr・(β−Lr・γ/V)・mgLf/L
となる。これを式(1)に代入すれば、表1に示す(2)式が得られる。
Iz・γ′=CFf・Lf−CFr・Lr+Fw・dw・・・(3a)
が成立する。「′」は微分値であることを表す。ヨーモーメントを求める場合の重心Gからの距離を車両の前方へ向かって正の値としたため、後輪コーナリングフォースCFrによるヨーモーメントを表す項に(−)が付されるのである。Izは、車両のヨー慣性モーメントである。
(3a)式において、前輪、後輪のコーナリングフォースCFf,CFrに上述の値を代入して、dwをxとすると、表1に示す(3)式が得られる。
以下、車両の実挙動が、「目標挙動」となるようにxの値が求め、制御モーメントMdを求める場合について具体的に説明する。
LNSP=(Cf−Cr)LfLr/(CfLr+CrLf)
で表される。ニュートラルステアポイントとは、直進状態にある車両に、何らかの原因で、重心スリップ角βが生じた場合、それによる進行方向のずれをなくすためのモーメントが生じるが、このモーメントを生じさせる横力の着力点をいう。ニュートラルステアポイントは、車両の重心Gより後輪側にあるのが普通である。
INZは、車両のヨー慣性モーメントIZを下式に示すように正規化した値(車両質量mとLfLrとで正規化した値)である。
INZ=Iz/(mLfLr)
(4)式、(5)式から、横風を受けた場合のヨーレイトの応答は、式(6)で表すことができる。
γ(s)/Fw(s)=−{(CfLr+CrLf)(x−LNSP)g/L+Vxs}/(det・mLfLr)・・・(6)
なお、式(6)においてdetがsの二次式で表されるため、分母(det・mLfLr)は、特性方程式を用いて、
VINZmLfLr(s2+2ζ・ωn・s+ωn2)
で表すことができる。
上述の式(6)に、定常状態においてヨーレイトが0となるための条件(s=0においてγ=0となる)を代入すれば、
x=LNSP・・・(7)
が得られる。
すなわち、目標比率x*がLNSPとして取得される(x*=LNSP)。
なお、実施例1において取得された目標比率x*は図6にまとめて示す。
Md=Fw(x*−dw)
として求めることができる。
駆動力差制御アクチュエータ68によって制御モーメントMdが付与されるのであるが、車両10には制御ヨーモーメントMdと横風ヨーモーメントMwとが加えられて、目標ヨーモーメントMrefが加えられることになる。横風Fwを受けている場合であっても、ステアリングホイールの操舵角を0に固定した状態で、車両10を直進させることが可能となる。
制御ヨーモーメントMdが、例えば、図7に示すように、左方向のモーメントである場合に、左右駆動輪43,44の駆動力差FM、車両10のトレッドbとした場合に、式
Md=FM・b
FM=Md/b
が成立する。左後輪43に駆動力(FML=−Md/b)が付与され、右後輪44に駆動力(FMR=Md/b)が付与されれば、制御ヨーモーメントMdが付与されることになる。換言すれば、左駆動輪43,右駆動輪44の各々のヨーモーメント制御用の目標値は、それぞれ、−Md/b、Md/bとされる。
一方、車両10の駆動用の目標値はアクセル開度、車速等に基づいて決まり、左駆動輪43,右駆動輪44について、それぞれ、FDL、FDRとされる。
したがって、左右駆動輪43,44のホイールインモータ60,62によって出力される最終的な駆動力の目標値(目標駆動力)は、それぞれ、
FRref=FDR+FMR=FDR+Md/b
FLref=FDL+FML=FDL−Md/b
となる。
ホイールインモータ60,62に接続されたインバータ64,66に、左右駆動輪43,44の目標駆動力FRref,FLrefがそれぞれ出力される。ホイールインモータ60,62は、それぞれ、インバータ64,66により、目標駆動力FRref,FLrefが得られるように制御される。
式(6)は、伝達関数を使うと、
γ(s)/Fw(s)=G(0)(1+Ts)/{1+2(ζ/ωn)・s+s2/ωn2}・・・(7)
で表される。
この伝達関数のボード線図は、図8(a)、(b)に示す2つのボード線図(模式的に概略を示した)を合わせたものとなるが、図8(c) の[1]の場合と[2]の場合とを比較すると明らかなように、1/Tの値が、共振周波数ωnより大きい場合に、ゲインを小さくできることがわかる。実際のボード線図に基づいて検討すると、1/Tが大きくなるほど共振周波数ωnの場合のゲインを小さくすることができるのであり、1/Tが無限大、すなわち、T=0(γの時定数が0)の場合に、ダンピングが最良となる。また、ヨーレイトγの時定数と比率xとの間には、図9に示す関係が成立することから、時定数が0の場合に比率xが0となることがわかる。目標比率x*が0とされるのである。
制御モーメントMdは、
Md=Fw・(0−dw)
とされ、上述の場合と同様に、左後輪43,右後輪44の各々について目標駆動力FRref,FLrefが取得され、目標駆動力が得られるようにインバータ64,66によりホイールインモータ60,62が制御される。
図10(a)は、ヨーレイトの時間に対する変化(応答)を示し、図10(b) は初期値を0,定常値を1とした場合の応答(以下、定常値で正規化した応答と称する)を示す。比率xが0(重心点)である場合に、ヨーレイトの定常値の値が小さく、かつ、ヨーレイトの定常値に達するまでの変化(過渡応答特性)が最も緩やかであることがわかる。また、図10(a)から、比率xがLNSPの場合に、ヨーレイトの定常値が0となることが明らかである。
このように、シミュレーションの結果に基づいて目標比率x*を取得することもできる(x*=0)。
横加速度Gyは、式
Gy=V・(γ+β′)
で表すことができるため、横加速度の横風入力に対する伝達関数は、式
Gy(s)/Fw(s)=V・{γ(s)/Fw(s)+β(s)′/Fw(s)}
=V・{γ(s)/Fw(s)+β(s)・s/Fw(s)}
で表すことができる。具体的に、上式に、式(4)、(5)を代入すると、表2に示す式(8a)が得られる。
式(8a)において、s=0、Gy(s)=0を代入すると、表2の式(9)が得られ、(9)式をxについて解くと、
x=LNSP
が得られる。目標比率x*がLNSPとして取得されるのである。
横加速度の横風入力に対する伝達関数は、表2の式(8b)に示すように、定数と2次遅れ系との和で表すことができる。そして、横加速度Gyの横風に対するダンピングが最良になるのは、式(8b)において二次遅れ系の時定数が0である場合である。二次遅れ系の時定数TGyは、表2の式(10)で表すことができ、(10)式において時定数TGyを0として比率xについて解くと、
x=INZ(CfLr+CrLf)/(Cr−Cf)・・・(11)
が得られる。
目標比率x*がINZ(CfLr+CrLf)/(Cr−Cf)として取得されるのである。
また、図12に、シミュレーションによって得られた、横風がそれぞれ比率xの位置に作用した場合の、横加速度Gyの応答(ステップ応答)を示す。
図12(a)は横加速度の変化を示し、図12(b)は初期値を0とした場合の横加速度の変化量を示し、図12(c)は定常値で正規化した横加速度の応答を示す。
図12(a)から、比率xがLNSPである場合に、定常値が0となることがわかる。
図12(a)、(b)、(c)において、x=3.538(ダンピングbest)で表される距離が、式(11)により得られた値x*であり、図12(a)、(b)、(c)から、比率xがダンピングbestとした場合に、横加速度の定常値で正規化した場合の過渡特性が最も良好に(変化量が最も小さく)なることがわかる。
車両10が横風を受けた場合の横方向の力の釣り合い、重心周りのヨーモーメントの釣り合いについては、表3に示すように、上述の式(2)、(3)と同様の式(20)、(21)が成立する。
mV(γ+β′)=CFf+CFr+Fw・・・(20)
Iz・γ′=CFf・Lf−CFr・Lr+Fw・x・・・(21)
ただし、コーナリングフォースCFf,CFrは、それぞれ、式
CFf=−mgLrCf(β+Lfγ/V+hfφ′/V)/L・・・(22)
CFr=−mgLfCr(β−Lrγ/V+hrφ′/V)/L・・・(23)
で表される。φはロール角(φ′はロールレイト)であり、hf、hrは前輪車軸、後輪車軸におけるロールセンタと重心との間の距離であり、hfφ′/V、hrφ′/Vは、それぞれ、ロール挙動に起因してタイヤに加えられる横力である。
また、重心周りのロールモーメントの釣り合いについて、式
Ixφ″+Cxφ′+Kxφ=mghφ−hf・CFf−hr・CFr+Fw・hw・・・(24)
が成立する。
(24)式において、「″」は2階微分値を表す。また、添え字xは、ロールセンタ周り(瞬間的なロール回転中心)に対する物理量であることを表し、Ixは車両のロール慣性モーメントであり、Cxはロール減衰であり、Kxはロール剛性である。hwは、横風着力点と重心との間の高さの差である。
なお、ロール角φは、ロールセンタ周りの角度であるが、車体は剛体であるため、重心周りのロール角φと同じであるとみなすことができる。また、コーナリングフォースCFf、CFrは、路面とタイヤとの間に作用する力であるが、サスペンションを介して車体に作用するのであり、ロール時にはロールセンタに作用する。車両重量mgについても同様に、ロール時には車体のロールセンタに作用すると考えることができる。このように、ロール時には、重心、コーナリングフォースがロールセンタに作用すると考えることができるため、重心周りのロールモーメントを取得する際に、重心とロールセンタとの間の高さの差が用いられるのである。
さらに、(20)式、(21)式、(24)式をラプラス変換して求められる横風Fwに対する伝達関数は、表3の(25)式となる。
図13に示すように、ロールセンタ周りのロールモーメントの釣り合いを考えると、式
Ixφ″+Cxφ′+Kxφ=mghφ+mVγh−Fw・hw′・・・(26)
が得られる。mVγは、車両10に作用する遠心力である。hw′は、ロールセンタから横風着力点までの高さであり、hφは、重心とロールセンタとの間の幅方向の距離の近似値である。
また、(26)式において、定常状態における釣り合いを考えると{ロール角の微分値、2回微分値を0とする(φ″=0、φ′=0)}、ロールセンタ周りのロールモーメントの釣り合いの式
Kxφ=mghφ+mVγh−Fw・hw′・・・(27)
が得られ、この(27)式をロール角φについて解くと、式
φ=(mVγh−Fwhw′)/(Kx−mgh)・・・(28)
が得られる。
一方、ロール角φの定常値が0であることから、表3の式(25)の[γ(s)/Fw(s)}においてs=0とした場合のヨーレイトγを求めると、式
γ=V・(CfLr+CrLf)・(x−LNSP)・Fw/{(1+KhV2)CfCrLfLrLmg}・・・(29)
が得られる(式(4)、(5)から求めることができる)。ここで、Khは、
Kh=(Cr−Cf)/(CfCrLg)
で表される値である。
(29)式を(28)式に代入すると、
φ=[V2h(CfLr+CrLf)・(x−LNSP)/{(1+KhV2)CfCrLfLrLg}−hw′]Fw/(Kx−mgh)・・・(30)
が得られる。
(30)式においてφ=0として、比率xについて解けば、
x=LNSP+gLCfCrLfLrhw′(1+KhV2)/{hV2(CfLr+CrLf)}・・・(31)
が得られる。このように、目標比率x*を求めることができる。
(31)式に示すように目標比率x*は、車両の走行速度Vで決まる値であるが、図14に示すように、重心から大きく離れていない値となる。
また、実施例1における場合と同様に、制御モーメントMdを、式
Md=Fw(x*−dw)
に従って取得することができ、制御モーメントMdが得られるように、駆動力差制御アクチュエータ68が制御される。
シミュレーションにより得られた、ロール角φのステップ応答を図15に示す。図15(b)には、定常値で正規化したロール角φの応答を示す。図15(b)から、比率xが重心から前輪車軸までの間の距離Lf近傍の値の場合に、過渡的な変化を最も穏やか(変化量が最も小さい)になり、ダンピングを最良にできることがわかる。この結果から、目標比率x*は、(x*=Lf)として取得される。
図16(a)、(b)に、シミュレーションで得られたロール角φのステップ応答を示す。図16(b)は、定常値で正規化したロール角の応答を示す。図16(b) から比率xが0.5m(重心から前方へ0.5m)である場合に、過渡的な変化が最も緩やかとなり、ロール角のダンピングが最良になることがわかる。このことから、目標比率x*が、
x*=0.5
として取得される。
なお、これら2.3.の場合においては、シミュレーションの結果に基づいて目標比率x*が決定されたが、目標比率x*は、車両の諸元、車速で決まるため、車両、車速が変われば、変わる値である。したがって、例えば、車両毎(車種で同じ場合には車種毎)に、車速と目標比率x*との関係を予め取得して、テーブル化して記憶させておけば、目標比率x*を取得することができる。テーブルを利用して目標比率が決定されるようにすれば、演算によって取得される場合(例えば、演算式が複雑である場合)より、容易に取得できることもある。
実施例1において、式(2)、(3)を取得する際に、前輪舵角δf、後輪舵角δrを0としたが、実施例3においては、後輪舵角δrが0で、前輪舵角δfが0でない場合(δf=δ)について考える。それにより、表4に示すように式(2)、(3)に対応する式(32)、(33)が得られる。なお、以下の式において、前輪舵角δfを単にδとする。
一方、前輪のキングピン軸周りのモーメントを考えると、式
Isδ″=Ts−Csδ′+CFf・ξ・・・(34)
CFf=−mgLrCf/L・(β+Lfγ/V−δ)
が成立する。
一方、キングピン軸周りにステアリング機構から加えられるトルク(運転者によって加えられるトルクに起因するため操舵トルクと称する)Tsと、路面から加えられる復元トルクTmとの和(Ts+Tm)と、キングピン軸周りに加えられるトルク(Isδ″+Csδ′)とは同じである。このことから、(34)式が得られる。
また、式(32)、(33)、(34)についてラプラス変換して、整理すると、ステップ応答の式(35)が得られる。
ステアリングホイールの操舵角が0である場合には前輪舵角δが0となるため、式(32)、(33)において、前輪舵角δを0とすることができる。これらをラプラス変換して得られた伝達関数の式は、実施例1における式(4)、(5)と同じ式となる。
また、(34)式において前輪舵角δを0として、ラプラス変換すると、伝達関数の式、
Ts(s)/Fw(s)=mgLrCf(β(s)+Lfγ(s)/V)ξ/(Fw(s)・L)・・・(36)
が得られる。この(36)式に、(4)式を代入すると、表4に示す(37)式が得られる。
(37)式に、操舵トルクの定常値が0となる条件(s=0、Ts=0)を代入すると、式
gCr(1+x/Lr)/mV−xV/mLfLr=0・・・(39)
が得られる。この式を比率xについて解けば、
x=gCrLfLr/(V2−gCrLf)
が得られる。目標比率x*を、
x*=gCrLfLr/(V2−gCrLf)
として取得することができるのである。
図18に示すように、比率x*は走行速度Vで決まる値となるが、重心と前輪車軸までの間の距離Lfに近い値になると考えられる。
1−ii.「目標挙動」を、ステアリングホイールの操舵角を0として固定した状態で、操舵トルクTsのダンピングが最良となる挙動とした場合
横風入力に対する操舵トルクの伝達関数を求めると、式
Ts(s)/Fw(s)=G(0)(1+Ts)/(1+2ξ/ωn・s+s2/ωn2)
が得られ、ボード線図を描くと、図19に示すようになる。実施例1における場合(図8に示す場合)と同様となり、操舵トルクの時定数が0(T=0)の場合に、操舵トルクのダンピングが最もよくなることがわかる。
一方、時定数TTSは、(37)式から、式
TTS=−(INZ+x/Lr)/{gCr(1+x/Lr)/V−xV/(LfLr)}
で表すことができ、この式において、時定数TTSを0として、比率xについて解けば、
x=−INZLr
が得られ、目標比率x*を、(−INZLr)として取得することができる。
一方、操舵トルクの時定数TTSと比率xとの間の関係は、図20に示すことができ、この図から、時定数TTSが0の場合の比率xを取得することができる(x=−INZLr)。
なお、図21(a)、(b)には、シミュレーションで得られた操舵トルクのステップ応答を示す。図21(a)は、時間に対する操舵トルクの応答を示し、図21(b) は定常値で正規化した場合の操舵トルクの応答を示す。比率xが−INZLrである場合(図21(a)、(b)においてダンピングベストと記載)に、操舵トルクの過渡的な変化が最も緩やかであることがわかる。このように、演算により取得しても、シミュレーションにより取得しても同じ結果が得られる。
ステアリングホイールの操舵角を修正後一定に保った場合には、前輪舵角δは一定の値(定数)となるため、式(32)、(33)を、ラプラス変換して得られたステップ応答の式は、表4に示す式(38)のようになる。しかし、式(38)の右辺第2項Zは定数項であるため、過渡応答には影響がない。
2−i.「目標挙動」を、ヨーレイトの定常値が0となるようにステアリングホイールの操舵を修正して、その角度を保持した状態で、操舵トルクの定常値が0となる挙動とした場合
操舵トルクの定常値が0である場合には前輪コーナリングフォースが0となる(CFf=0)。そのため、式
mgLrCf(β+Lfγ/V−δ)/L=0・・・(40)
が成立する。
また、(32)、(33)式において、前輪コーナリングフォースを0,定常時ヨーレイトを0(ヨーレイトの微分値、2階微分値が0)とした場合には、式
0=−mgLfCr(β−Lrγ/V)+F・・・(41)
0=mgLfCr(β−Lrγ/V)Lr+Fx・・・(42)
が成立する。なお、(32)式における{mV(γ+β′)}はmγ′となるため、0である。
(41)式、(42)式から、比率xを、−Lr(x*=−Lr)として取得することができる。
2−ii.「目標挙動」を、ヨーレイトの定常値が0となるようにステアリングホイールの操舵を修正して、その角度を保持した状態で、操舵トルクのダンピングが最良とする挙動とした場合
ステアリングホイールの操舵角を修正した後固定した場合の応答は、操舵角が0で固定した場合の応答と、ステアイングホイールの操舵角が0でない場合の応答との重ね合わせであるため、2−iiの場合と、上述の1−iiの場合とで、運動特性方程式は同じになる。したがって、この場合の目標比率x*は、1−iiの場合と同じ(−INZLr)となるのである。
ステアリングホイールから手を離せば、キングピン軸周りのトルクも0となるため、(34)式に、Ts=0,Isδ″=0、Csδ′=0を代入すると、式
mgLrCf(β+Lfγ/V−δ)/L・ξ=0・・・(43)
が得られ、この式から、前輪コーナリングフォース{mgLrCf(β+Lfγ/V−δ)/L}が0となることがわかる。
また、式(35)において、前輪のコーナリングフォースCFf,前輪コーナリングパワーCfを0とすれば、表5の式(44)が得られる。
式(44)において、ヨーレイトの定常値が0である場合の条件(s=0、γ=0)を代入すれば、式
−gCrLf(x+Lr)/mLfLrL=0・・・(45)
が得られ、(45)式から、比率x=−Lrが得られる。目標比率x*を(−Lr)として取得することができる。
3−ii.「目標挙動」を、ステアリングホイールから手を離した場合に、横加速度Gyの定常値が0となる挙動とした場合
横風に対する横加速度の伝達関数を求めると、表5に示す式(46) が得られる。
式(46)において、s=0、Gy=0を代入すると、
gCrLf(x+Lr)/LfLrL=0
が得られる。この式から、比率xは−Lr、すなわち、x*=−Lrが得られる。
3−iii.「目標挙動」がステアリングホイールから手を離した場合に、横加速度Gyのダンピングが最良となる挙動とした場合
伝達関数は、表5の(47)式に示すように、(定数+2次遅れ系)で表される。実施例1における場合と同様に、横風に対するダンピングが最良となるのは、時定数が0の場合であり、それにより、式
(INZCrLf−Crx)=0
が得られ、この式から
x=INZLf
が得られる。
空力特性変更装置90,92は、図22(a)、(b)に示すように、フロントバンパ200の右サイド部202と左サイド部204とを収納位置と突出可能とに切り替えるものである。空力特性変更装置90,92は、互いに構造が同じであるため、空力特性変更装置90について説明し、空力特性変更装置92についての説明を省略する。
右サイド部202は、図23に示すように、フロントバンパ200の本体部に、前部のピン212に回動可能に保持された前プレート214と、後部のピン216に回動可能に保持された後プレート218とを備え、前プレート214をピン212の周りに突出位置と収納位置とに回動させる前プレート用アクチュエータ220と、後プレート218をピン216の周りに突出位置と収納位置とに回動させる後プレート用アクチュエータ222とを含む。前プレート用アクチュエータ220は、前プレート214の裏面(車体の内側の面)に回動可能に設けられた駆動ロッド230と、駆動ロッド230を、車体に対して相対移動させる駆動源としての電動モータ232と、電動モータ232の回転を直線移動に変換して、前記駆動ロッド230を移動させる運動変換機構234とを含む。運動変換機構234は、駆動ロッド230に設けられたラックと、電動モータ232の出力軸に設けられたピニオンとを含む。後プレート用アクチュエータ222は、前プレート用アクチュエータ220と構造が同じものであるため、説明を省略する。
また、後プレート218が突出位置にあり、前プレート216が収納位置にある場合には、空気抵抗を大きくすることができる。本実施例においては、後プレート218を突出位置として前プレート216を収納位置とした場合の開口部が、図示しないアクチュエータによって図22(b)に示すようにプレート240によって閉塞されるようにされている。プレート240は、上部の開口部を塞ぐものとしたり、前部の開口部を塞ぐものとしても、上部および前部の両方の開口部を塞ぐものとしてもよい。
その一例を図25に示す。例えば、空力特性変更装置90,92によって、車両10に右方向のヨーモーメントを付与する場合、右バンパ部202を空気抵抗が大きい状態として、左バンパ部204を空気抵抗が小さい状態とする。そのため、右バンパ部202は収納位置と、後プレート218のみが突出する位置とのいずれかとされ、左バンパ部204が収納位置と突出位置との間で、その突出量が制御される。左バンパ部204が収納位置にある場合(空気抵抗が大きい場合)は、突出位置にある場合(空気抵抗が小さい場合)より、左側部分と右側部分との間の空気抵抗の差が小さくなるため、車両10に生じるヨーモーメントは小さくなる。また、右バンパ部202が収納位置にある場合と後プレート218のみが突出する位置にある場合とでは、左バンパ部204の突出量が同じ場合に、右バンパ部202において後ろプレート218のみが突出位置にある方が、左右の空力特性の差が大きくなり、大きなヨーモーメントが付与される。そのことを概念的に示したのが、(a)右バンパ部202が収納位置にある場合の左バンパ部204の突出量と生じるヨーモーメントとの間の関係を示すテーブル、(b)右バンパ部202において後プレート218のみが突出位置にある場合の左バンパ部204の突出量と生じるヨーモーメントとの間の関係を示すテーブルである。
左方向のヨーモーメントを付与する場合には、左右が逆になる点を除き、同様である。
なお、空力特性変更装置90,92の制御は、実施例2〜4の場合にも同様に適用することができる。
以上複数の実施例について説明したが、本発明は、上述に記載の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
Claims (7)
- アクチュエータを制御することにより車両のヨーモーメントを制御する車両制御装置であって、
ヨーモーメントを横力で割ることによって得られる比率の目標値である目標比率を取得する目標比率取得部と、
その目標比率取得部によって取得された前記目標比率に基づいて前記アクチュエータを制御することにより、前記車両が横力を受けた場合の前記車両の実際の挙動である実挙動を運転者が要求する目標挙動に近づけるアクチュエータ制御部と
を含むことを特徴とする車両制御装置。 - 前記目標比率取得部が、前記目標比率を、前記車両が横力を受けた場合に、前記実挙動が前記目標挙動となる大きさに決定する挙動対応目標比率決定部を含む請求項1に記載の車両制御装置。
- 前記目標比率取得部が、前記目標比率を、前記車両が横力を受けた場合の、前記車両のヨーレイトと横加速度との少なくとも一方の変化である応答が、前記アクチュエータの制御が行われない場合より小さくなる大きさに決定する応答対応目標比率決定部を含む請求項1または2に記載の車両制御装置。
- 前記アクチュエータ制御部が、(a)前記車両が受ける横力としての横風の強さを検出する横風検出部と、(b)前記アクチュエータによって前記車両に加えられるべきヨーモーメントである制御ヨーモーメントを、前記目標比率から横風着力点と車両の重心との間の距離を引いた値に、前記横風検出部によって検出された横風の強さを掛けた値として決定する制御ヨーモーメント決定部とを含む請求項1ないし3のいずれか1つに記載の車両制御装置。
- 前記横風検出部が、(a)前記車両の複数の車輪の各々に対応して設けられ、車輪と路面との間に実際に作用する横方向の力を検出するタイヤ横力検出部と、(b)前記車両の質量と横加速度との積である横方向の慣性力を取得する車両横方向慣性力取得部と、(c)その車両横方向慣性力取得部によって取得された横方向の慣性力から、前記タイヤ横力検出部によって検出された前記複数の車輪の各々に作用するタイヤ横力の和を引いた値を前記横風の強さとする横風演算部とを含む請求項4に記載の車両制御装置。
- 前記アクチュエータが、前記車両の右側部分に加えられる前後方向力である右側前後方向力と左側部分に加えられる前後方向力である左側前後方向力との差を制御可能なものであり、前記アクチュエータ制御部が、前記アクチュエータを制御することにより、前記右側前後方向力と左側部分前後方向力との差を制御する手段を含む請求項1ないし5のいずれか1つに記載の車両制御装置。
- 前記アクチュエータが、前記車両の右側部分の空力特性である右側空力特性と左側部分の空力特性である左側空力特性との差を制御可能なものであり、前記アクチュエータ制御部が、前記アクチュエータを制御することにより、前記右側空力特性と前記左側空力特性との差を制御する手段を含む請求項1ないし6のいずれか1つに記載の車両制御装置。
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