本発明の熱線遮蔽ガラスは、基本構成として、透明基材、タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物を含む熱線吸収層、前記タングステン酸化物及び複合タングステン酸化物以外の金属酸化物を含む熱線反射層、及び屈折率調整層を少なくとも1層有する。
屈折率調整層は、隣接する層の屈折率とは異なる屈折率を有することにより、干渉縞の発生を抑制するための層である。屈折率調整層は、熱線吸収層と熱線反射層との間に配置される。さらに、熱線遮蔽性の耐久性を向上させるために、熱線反射層を最上層として配置し、熱線吸収層を熱線反射層と透明基材との間に配置するのが特に好ましい。このような配置であれば、各層の間に他の機能を持った層がさらに配置されてもよい。
まず、以下に本発明の熱線遮蔽ガラスの基本構成を好適な例を挙げて説明する。
図1に、本発明の好適な一実施形態として熱線遮蔽ガラス100の概略断面図を示す。熱線遮蔽ガラス100は、透明基材110と、前記透明基材110上に積層された熱線吸収層120と、前記熱線吸収層120上に積層された屈折率調整層130と、前記屈折率調整層130上に積層された熱線反射層140とを有する。屈折率調整層130は、屈折率が1.6以上2.8以下である高屈折率層131と、屈折率が1.3以上1.6未満である低屈折率層132との積層体であるのが好ましい。熱線吸収層120は、好ましくは、(複合)タングステン酸化物などの熱線吸収材、及びエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)などのバインダ樹脂を含む。
また、熱線吸収層はプラスチックフィルム上に形成されていてもよい。プラスチックフィルム上に形成された熱線吸収層を用いた場合、透明基材上には接着樹脂層を介して前記プラスチックフィルムを積層するのが好ましい。このような形態の熱線遮蔽ガラスを図2に示す。
図2に、本発明の他の好適な一実施形態として熱線遮蔽ガラス200の概略断面図を示す。熱線遮蔽ガラス200は、透明基材210と、前記透明基材210上に積層された接着樹脂層250と、前記接着樹脂層250上に積層されたプラスチックフィルム260、前記プラスチックフィルム260上に形成された熱線吸収層220と、前記熱線吸収層220上に積層された屈折率調整層230と、前記屈折率調整層230上に積層された熱線反射層240とを有する。このように、薄膜の熱線吸収層220を容易に作製でき、取扱性にも優れることから、プラスチックフィルム260上に形成された熱線吸収層220を用いるのが好ましい。また、屈折率調整層230は、屈折率が1.6以上2.8以下である高屈折率層231と、屈折率が1.3以上1.6未満である低屈折率層232との積層体であるのが好ましい。
熱線吸収層220は、タングステン酸化物や複合タングステン酸化物などの熱線吸収材の他に、バインダ樹脂として、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、及びアクリル樹脂よりなる群から選択される少なくとも一種の透明合成樹脂を含むのが好ましい。このようなバインダ樹脂を使用することにより、熱線吸収層220の耐久性を向上させることができる。また、接着樹脂層250は、エチレン酢酸ビニル共重合体などの透明接着樹脂を含むのが好ましい。
本発明の熱線遮蔽ガラスに用いられる熱線吸収層は、タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物を含むことにより、可視光透過性を損なうことなく、優れた熱線吸収性を有する。このような熱線吸収層を用いることにより、従来公知の複層ガラスに使用されていた耐久性の低い銀層などの金属層の使用を省略しても、優れた熱線遮蔽性を有する熱線遮蔽ガラスを提供することができる。さらに、熱線吸収層及び熱線反射層はいずれも金属単体を含まないことから、耐湿性及び耐酸性に優れる。
さらに、熱線吸収層と熱線反射層との間に屈折率調整層が配置されることにより、干渉縞の発生を抑制して、外観特性を損なうことなく、熱線遮蔽性の耐久性を向上させることが可能となる。
なお、本発明において、熱線とは、一般に赤外線、特に太陽光線の中でも温度を高く上昇させる780nm以上の波長を有する赤外線を意味する。
以下、本発明の熱線遮蔽ガラスに用いられる各材料について説明する。
[屈折率調整層]
屈折率調整層としては、単一又は複数の屈折率調整層が用いられる。特に、高屈折率層と低屈折率層との積層体が屈折率調整層として好ましく用いられる。好ましくは、屈折率が1.6以上2.8以下である高屈折率層と、屈折率が1.3以上1.6未満である低屈折率層とを用い、熱線吸収層、高屈折率層、低屈折率層、及び熱線反射層がこの順で積層される。このように屈折率調整層を用いることにより、熱線吸収層と熱線反射層との間で段階的に屈折率を調整することによって、干渉縞の発生を高く抑制することができる。
高屈折率層の屈折率は、1.6以上2.8以下、特に1.7〜2.1であるのが好ましい。低屈折率層の屈折率は、1.3以上1.6未満、特に1.4〜1.55であるのが好ましい。
なお、屈折率調整層、並びに後記する熱線反射層、及び熱線吸収層など各層の屈折率は、JIS K 7142に準拠して、屈折計(株式会社アタゴ製、装置名:デジタルアッベ屈折計DR−M2)を用いて、23℃雰囲気下、測定波長589nmにおける屈折率を測定することにより得られた値とする。
屈折率調整層には、金属、金属酸化物、及び合成樹脂などを用い、これらにより屈折率を調整するのが好ましい。したがって、蒸着法などを用いて、金属又は金属酸化物からなる屈折率調整層を形成してもよい。しかしながら、屈折率の調整及び製造が容易であることから、屈折率調整層は合成樹脂を主成分とする層であるのが好ましい。
このような観点から、低屈折率層は、合成樹脂からなるのが好ましい。低屈折率層に用いられる合成樹脂としては、1.3以上1.6未満、特に1.4〜1.55の屈折率を有する合成樹脂、例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂、及びポリカーボネート樹脂が好ましく挙げられる。特に好ましくは、フッ素樹脂、アクリル樹脂が挙げられる。これらの樹脂によれば、屈折率の調整が容易であり、優れた透明性を有することから、外観特性に優れた熱線遮蔽性ガラスを提供することができる。
1.3以上1.6未満の屈折率を有するフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、フルオロエチレンビニルエーテル(FEVE)及びエチレンクロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、下記構造:
(n=10〜1000)
を有する重合体Aを挙げることができる。これらの中で、上記重合体A、フルオロエチレンビニルエーテル(FEVE)が好ましい。これらの(共)重合体は、さらに官能基(例、アルコキシシリル基、ヒドロキシル基、アミノ基、イミノ基、(メタ)アクリロイロキシ基、エポキシ基、カルボキシル基、スルホニル基、アクリレート型イソシアヌレート基、硫酸塩基)を有していても良い。市販されているフッ素樹脂の好ましい例としては、ルミフロン(登録商標、旭硝子(株)製)、サイトップ(登録商標、旭硝子(株)製)、ゼッフル(登録商標、ダイキン化学(株)製)、オプツール(登録商標、ダイキン化学(株)製)を挙げることができる。
1.3以上1.6未満の屈折率を有するアクリル樹脂を構成するモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、;フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等のフェノキシアルキル(メタ)アクリレート;2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−プロポキシエチル(メタ)アクリレート、2−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシブチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。アクリル樹脂は、これらのモノマーの単独重合体又は2種以上の共重合体、前記モノマーと他の共重合性単量体との共重合体を挙げることができる。
合成樹脂からなる低屈折率層の厚さは5〜60nm、特に10〜40nmであるのが好ましい。
また、高屈折率層は、屈折率調整用微粒子及び合成樹脂を含む層であるのが好ましい。高屈折率層に用いられる合成樹脂としては、例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂、及びポリカーボネート樹脂が好ましく挙げられる。特に好ましくは、フッ素樹脂、アクリル樹脂が挙げられる。
屈折率調整用微粒子としては、金属粒子又は金属酸化物粒子が用いられる。金属粒子としては、金、及び銀などの粒子が挙げられる。また、金属酸化物粒子としては、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化タンタル、酸化セリウム、酸化ランタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化インジウム、酸化チタン、酸化チタン/酸化ジルコニウム複合酸化物、酸化チタン/酸化ジルコニウム/酸化ケイ素複合酸化物などの粒子が挙げられる。なかでも、高い屈折率を有し、干渉縞の発生を高く抑制できることから、屈折率調整用粒子は、酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛、及び酸化ジルコニウムなどの金属酸化物粒子を用いるのが好ましい。これらの屈折率調整用粒子は、一種単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
屈折率調整用粒子の平均粒子径は、10〜800nm、特に10〜400nmであるのが好ましい。これにより、透明性に優れる屈折率調整層を形成し、熱線遮蔽ガラスの外観特性を向上させることが可能となる。
なお、屈折率調整用粒子の平均粒子径は、高屈折率層の断面を透過型電子顕微鏡により倍率100万倍程度で観測し、少なくとも100個の屈折率調整用粒子の投影面積円相当径を求め、その数平均値とする。
屈折率調整用微粒子及び合成樹脂を含む高屈折率層の厚さは、5〜60nm、特に10〜40nmであるのが好ましい。
合成樹脂を含む屈折率調整層(低屈折率層、高屈折率層)は、合成樹脂、必要に応じて屈折率調整用粒子及び有機溶剤を含む樹脂組成物の硬化層である。屈折率調整層を作製するには、例えば、樹脂組成物を熱線吸収層又はプラスチックフィルムなどの適当な支持体上に塗布し、単に乾燥させる方法などが用いられる。この時、樹脂組成物は、ポリイソシアネート化合物などの硬化剤を含んでいてもよい。乾燥は、塗布した樹脂組成物を60〜150℃、特に70〜110℃で加熱することにより行うのが好ましい。乾燥時間は1〜10分間程度でよい。
なお、低屈折率層及び高屈折率層を作製する場合、各層を1層ずつ塗工し硬化させてもよく、全層を塗工した後にまとめて硬化させてもよい。
また、屈折率調整層(特に低屈折率層及び高屈折率層)を形成するために用いられる樹脂組成物は、熱硬化性、又は光(一般に紫外線)硬化性の樹脂組成物であってもよい。したがって、樹脂組成物は、重合開始剤をさらに含むのが好ましい。例えば、熱硬化させる場合には熱重合開始剤を使用し、紫外線硬化させる場合は光重合開始剤を使用することが好ましい。なかでも、光重合開始剤を含むのが特に好ましい。
光重合開始剤としては、樹脂の性質に適した任意の化合物を使用することができる。例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティケミカルズ社製、イルガキュア(登録商標)184)などが好ましく用いられる。光重合開始剤の量は、樹脂組成物に対して一般に0.1〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。
樹脂組成物が光硬化性である場合、樹脂組成物は重合性モノマー、オリゴマーをさらに含んでいてもよい。重合性モノマー、オリゴマーとしては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の硬質の多官能モノマーを主に使用することが好ましい。
熱又は光硬化性樹脂組成物を用いて屈折率調整層を作製する場合には、合成樹脂、重合開始剤、必要に応じて屈折率調整層及び有機溶剤などを含む組成物を、熱線吸収層又はプラスチックフィルムなどの適当な支持体上に塗布した後、加熱、又は紫外線、X線、γ線、電子線などの光照射により硬化させる方法が好ましく用いられる。光照射は、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプ等の光線から発する紫外線を照射して行うことができる。
また、屈折率調整層としては、金属アルコキシド及び/又は金属アセチルアセトネートを加水分解した後、重縮合させて得られる縮合物からなる層を用いることもできる。金属アルコキシド及び金属アセチルアセトネートを用いたゾルゲル法によれば、屈折率調整層の作製時に屈折率の調整及び製造が容易である。屈折率調整層において、金属アルコキシド及び金属アセチルアセトネートが一種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
金属アセチルアセトネートは、アセチルアセトンに金属が結合して形成される金属錯体である。金属アセチルアセトナートは、チタン、スズ、インジウム、ジルコニウム、亜鉛、コバルト、鉄、ニッケルなどの金属のアセチルアセトナートを挙げることができる。また、これらのアセチルアセトナートは、アセチルアセトナート塩であってもよい。
金属アルコキシドとしては、一般式(I):R1 nM(OR2)m-n(但し、R1及びR2は炭素原子数1〜10のアルキル基を表し、MはSi、Ti、Al、及びZrよりなる群から選択される原子を表し、mは原子Mの価数であって3又は4であり、mが4である場合にnは0〜2の整数であり、mが3の場合には0〜1の整数である)で示される金属アルコキシドが好ましく挙げられる。このような金属アルコキシドは、加水分解後に溶剤中で安定であり、所望の屈折率を有する屈折率調整層を容易に形成することができる。
前記一般式(I)、及び後記する一般式(II)及び(III)において、R1及びR2は、炭素原子数1〜10、特に炭素原子数1〜4のアルキル基を表す。アルキル基は、直鎖状でも分岐状であってもよい。好ましくは、メチル基、エチル基、イソプロピル基、及びブチル基が挙げられる。また、前記一般式において、R1及びOR2がそれぞれ複数ある場合には、これらは互いに同一であっても、異なっていてもよい。
屈折率調整層は、所望する屈折率を有する層を容易に形成することができることから、上記一般式で示される金属アルコキシドを加水分解した後、重縮合させて得られる縮合物からなる層であるのが好ましい。この縮合物は、−M−O−(Mは上記式と同義である)の繰り返し単位を主骨格とする。
屈折率が1.3〜2.8である低屈折率層を作製するには、一般式(II):R1 nM1(OR2)4-n(但し、M1はSiを表し、R1及びR2は炭素原子数1〜10のアルキル基を表し、nは0〜2の整数である)で示される金属アルコキシドが好ましく用いられる。このような金属アルコキシドとして、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシランなどが挙げられる。
ゾルゲル法により作製した低屈折率層の厚さは5〜60nm、特に10〜40nmであるのが好ましい。
また、屈折率が1.6以上2.8以下である高屈折率層を作製するには、一般式(III):R1 nM2(OR2)m-n(但し、M2は、Ti、Zr、又はAlを表し、R1及びR2は炭素原子数1〜10のアルキル基を表し、mは原子Mの価数であって3又は4であり、mが4である場合にnは0〜2の整数であり、mが3の場合には0〜1の整数である)で示される金属アルコキシドが好ましく用いられる。このような金属アルコキシドとして、具体的には、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、メチルトリイソプロポキシチタン等のアルコキシチタン化合物;トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、メチルジイソプロポキシアルミニウム、トリブトキシアルミニウム、ジエトキシアルミニウムクロリド等のアルコキシアルミニウム化合物;テトラエトキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、メチルトリイソプロポキシジルコニウム等のアルコキシジルコニウム化合物などが挙げられる。
ゾルゲル法により作製した高屈折率層の厚さは5〜60nm、特に10〜40nmであるのが好ましい。
上述した屈折率調整層を作製するには、金属アルコキシド、金属アセチルアセトネート、又はこれらの加水分解物を含むゾル溶液を、熱線吸収層又はプラスチックフィルムなどの適当な支持体上に塗布し、塗布後のゾル溶液中に含まれる金属アルコキシドや金属アセチルアセトネートが加水分解反応及び重縮合反応により膨潤ゲルを形成した後、膨潤ゲルを加熱することにより乾燥ゲルを形成する方法が用いられる。
ゾル溶液には必要に応じて、ゾルゲル反応を促進させるために、触媒を加えても良い。触媒としては、塩酸、硝酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、及びシュウ酸などの酸触媒;N,N−ジメチルベンジルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミンなどの第3級アミン触媒が挙げられる。なかでも、酸触媒を用いるのが好ましい。酸触媒は、通常、ゾル溶液のpHが4〜7の範囲になるように、ゾル溶液に添加される。
ゾル溶液は、水、有機溶剤を含む。有機溶剤としては、メタノール、エタノールなどのアルコール;アセトン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフランなどが好ましく用いられる。
ゾル溶液を熱線吸収層などの適当な支持体上に塗布するには、バーコーター法、ロールコーター法、カーテンフロー法など適当な方法を用いて行うことができる。
ゾル溶液の加水分解反応及び重縮合反応は、支持体上に塗布されたゾル溶液を、0〜95℃、特に70〜90℃の温度で、100分〜10日間、特に500分〜3日間放置することにより行うのが好ましい。その後、ゾル溶液を、100〜190℃、特に1500〜190℃で加熱することにより乾燥させる。加熱時間は、1〜5分間程度であればよい。
なお、ゾルゲル法により低屈折率層及び高屈折率層を作製する場合、各ゾル溶液を1種ずつ塗工し加熱乾燥させてもよく、全てのゾル溶液を塗工した後にまとめて加熱乾燥させてもよい。上述した方法により、−M1−O−の繰り返し単位を主骨格とする縮合物からなる低屈折率層、−M2−O−の繰り返し単位を主骨格とする縮合物からなる高屈折率層が得られる。
なお、上述した合成樹脂を含む低屈折率層及び高屈折率層、ゾルゲル法により作製された低屈折率層及び高屈折率層は、それぞれ用途に応じて組み合わせて用いることができる。
[熱線反射層]
本発明の熱線遮蔽ガラスに用いられる熱線反射層は、タングステン酸化物及び複合タングステン酸化物以外の金属酸化物からなる。
熱線反射層の屈折率は、1.5〜2.8、特に1.6〜2.4であるのが好ましい。このような屈折率を有する熱線反射層と、屈折率調整層とを使用することにより干渉縞の発生を高く抑制することができる。
熱線反射層に用いられる金属酸化物としては、可視光を選択的に透過させ、熱線を選択的に反射することができるものが使用できる。金属酸化物として具体的には、酸化スズ、スズ含有酸化インジウム(ITO)、フッ素含有酸化スズ(FTO)、アンチモン含有酸化スズ(ATO)、酸化インジウム、アンチモン含有酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化ランタン、酸化ネオジム、酸化イットリウムなどが挙げられる。なかでも、酸化スズ、フッ素含有酸化スズ、アンチモン含有酸化スズ、及びスズ含有酸化インジウムが好ましく挙げられる。これらの金属酸化物によれば、耐久性にすぐれる熱線反射層を形成することができる。また、金属酸化物は、一種単独で用いられてもよく、二種以上を併用することもできる。
熱線反射層の厚さは、50〜500nm、特に100〜400nmであるのが好ましい。このように薄い熱線反射層であっても、上述した熱線吸収層を用いることにより優れた熱線遮蔽性を有する熱線遮蔽ガラスを提供することが可能となる。
熱線反射層を作製するには、物理蒸着法、化学蒸着法、溶射法およびメッキ法が挙げられる。物理蒸着法としては真空蒸着法、スパッタリングおよびイオンプレーティングが挙げられる。化学蒸着(CVD)法としては、熱CVD法、プラズマCVD法および光CVD法等がある。該方法によりダイヤモンドライクカーボン、TiN、CrNのような硬質被膜を形成することが可能である。また、溶射法としては大気圧プラズマ溶射法、および減圧プラズマ溶射法等がある。メッキ法としては、無電解メッキ(化学メッキ)法、溶融メッキおよび電気メッキ法等が挙げられ、電気メッキ法においてはレーザーメッキ法を用いることができる。
[熱線吸収層]
熱線吸収層は、熱線吸収材として、タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物を含む。
熱線吸収層の屈折率は、1.45〜1.65、特に1.50〜1.57であるのが好ましい。このような屈折率を有する熱線吸収層と、屈折率調整層とを使用することにより干渉縞の発生を高く抑制することができる。
熱線吸収層に用いられる熱線吸収材は、可視光透過率を低下させることなく、優れた熱線吸収性を熱線遮蔽ガラスに付与することができる。したがって、このような熱線吸収材を含む熱線吸収層を用いることにより、金属酸化物を含む熱線反射層の厚さを非常に薄くすることができる。
タングステン酸化物は、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表される酸化物である。また、複合タングステン酸化物は、上記タングステン酸化物に、元素M(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素)を添加した組成を有するものである。これにより、z/y=3.0の場合も含めて、WyOz中に自由電子が生成され、近赤外線領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、1000nm付近の近赤外線吸収材料として有効となる。本発明では、複合タングステン酸化物が好ましい。
上述した一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物において、タングステンと酸素との好ましい組成範囲は、タングステンに対する酸素の組成比が3よりも少なく、さらには、当該熱線吸収材をWyOzと記載したとき、2.2≦z/y≦2.999である。このz/yの値が、2.2以上であれば、熱線吸収材中に目的以外であるWO2の結晶相が現れるのを回避することが出来るとともに、材料としての化学的安定性を得ることが出来るので有効な熱線吸収材として適用できる。一方、このz/yの値が、2.999以下であれば必要とされる量の自由電子が生成され効率よい熱線吸収材となり得る。
複合タングステン酸化物は、安定性の観点から、一般に、MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、(0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表される酸化物であることが好ましい。アルカリ金属は、水素を除く周期表第1族元素、アルカリ土類金属は周期表第2族元素、希土類元素は、Sc、Y及びランタノイド元素である。特に、熱線吸収材としての光学特性、耐候性を向上させる観点から、M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちの1種類以上であるものが好ましい。
また、複合タングステン酸化物は、シランカップリング剤で処理されていることが好ましい。優れた分散性、熱線吸収性、及び透明性が得られる。
元素Mの添加量を示すx/yの値が0.001より大きければ、十分な量の自由電子が生成され熱線吸収効果を十分に得ることが出来る。元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、熱線吸収効果も上昇するが、x/yの値が1程度で飽和する。また、x/yの値が1より小さければ、熱線吸収層中に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。
酸素量の制御を示すz/yの値については、MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物においても、上述のWyOzで表記される熱線吸収材と同様の機構が働くことに加え、z/y=3.0においても、上述した元素Mの添加量による自由電子の供給があるため、2.2≦z/y≦3.0が好ましく、さらに好ましくは2.45≦z/y≦3.0である。
さらに、複合タングステン酸化物が六方晶の結晶構造を有する場合、当該酸化物の可視光領域の透過が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。
この六角形の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光領域の透過が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。ここで、一般的には、イオン半径の大きな元素Mを添加したとき当該六方晶が形成され、具体的には、Cs、K、Rb、Tl、In、Ba、Sn、Li、Ca、Sr、Feを添加したとき六方晶が形成されやすい。勿論これら以外の元素でも、WO6単位で形成される六角形の空隙に添加元素Mが存在すれば良く、上記元素に限定される訳ではない。
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物が均一な結晶構造を有するとき、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、更に好ましくは0.33である。x/yの値が0.33となることで、添加元素Mが、六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
また、六方晶以外では、正方晶、立方晶のタングステンブロンズも熱線吸収効果がある。そして、これらの結晶構造によって、近赤外線領域の吸収位置が変化する傾向があり、立方晶<正方晶<六方晶の順に、吸収位置が長波長側に移動する傾向がある。また、それに付随して可視光線領域の吸収が少ないのは、六方晶<正方晶<立方晶の順である。このため、より可視光領域の光を透過して、より赤外線領域の光を遮蔽する用途には、六方晶のタングステンブロンズを用いることが好ましい。
また、本発明の複合タングステン酸化物の表面が、Si、Ti、Zr、Alの一種類以上を含有する酸化物で被覆されていることは、耐候性の向上の観点から好ましい。
本発明の複合タングステン酸化物は、例えば下記のようにして製造される。
上記一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物、及び/又は、MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物は、タングステン化合物出発原料を不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して得ることができる。
タングステン化合物の出発原料には、3酸化タングステン粉末、もしくは酸化タングステンの水和物、もしくは、6塩化タングステン粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末から選ばれたいずれか一種類以上であることが好ましい。
ここで、タングステン酸化物を製造する場合には製造工程の容易さの観点より、タングステン酸化物の水和物粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、を用いることがさらに好ましく、複合タングステン酸化物を製造する場合には、出発原料が溶液であると各元素を容易に均一混合可能となる観点より、タングステン酸アンモニウム水溶液や、6塩化タングステン溶液を用いることがさらに好ましい。これら原料を用い、これを不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して、上述した粒径のタングステン酸化物、または/及び、複合タングステン酸化物を得ることができる。
また、上記元素Mを含む一般式MxWyOzで表される複合タングステン酸化物は、上述した一般式WyOzで表されるタングステン酸化物のタングステン化合物出発原料と同様であり、さらに元素Mを、元素単体または化合物の形で含有するタングステン化合物を出発原料とする。ここで、各成分が分子レベルで均一混合した出発原料を製造するためには各原料を溶液で混合することが好ましく、元素Mを含むタングステン化合物出発原料が、水や有機溶媒等の溶媒に溶解可能なものであることが好ましい。例えば、元素Mを含有するタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、等が挙げられるが、これらに限定されず、溶液状になるものであれば好ましい。
ここで、不活性雰囲気中における熱処理条件としては、650℃以上が好ましい。650℃以上で熱処理された出発原料は、十分な着色力を有し熱線吸収材として効率が良い。不活性ガスとしてはAr、N2等の不活性ガスを用いることが良い。また、還元性雰囲気中の熱処理条件としては、まず出発原料を還元性ガス雰囲気中にて100〜650℃で熱処理し、次いで不活性ガス雰囲気中で650〜1200℃の温度で熱処理することが良い。この時の還元性ガスは、特に限定されないがH2が好ましい。また還元性ガスとしてH2を用いる場合は、還元雰囲気の組成として、H2が体積比で0.1%以上が好ましく、さらに好ましくは2%以上が良い。0.1%以上であれば効率よく還元を進めることができる。
水素で還元された原料粉末はマグネリ相を含み、良好な熱線吸収性を示し、この状態で熱線吸収材として使用可能である。しかし、酸化タングステン中に含まれる水素が不安定であるため、耐候性の面で応用が限定される可能性がある。そこで、この水素を含む酸化タングステン化合物を、不活性雰囲気中、650℃以上で熱処理することで、さらに安定な熱線吸収材を得ることができる。この650℃以上の熱処理時の雰囲気は特に限定されないが、工業的観点から、N2、Arが好ましい。当該650℃以上の熱処理により、熱線吸収材中にマグネリ相が得られ耐候性が向上する。
本発明の複合タングステン酸化物は、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等のカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。シランカップリング剤が好ましい。これによりバインダ樹脂との親和性が良好となり、透明性、熱線吸収性の他、各種物性が向上する。
シランカップリング剤の例として、γ−クロロプロピルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、トリメトキシアクリルシランを挙げることができる。ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、トリメトキシアクリルシランが好ましい。これらシランカップリング剤は、単独で使用しても、又は2種以上組み合わせて使用しても良い。また上記化合物の含有量は、複合タングステン酸化物100質量部に対して5〜20質量部で使用することが好ましい。
本発明で使用される熱線吸収材の平均粒子径は、透明性を保持する観点から、10〜800nm、特に10〜400nmであるのが好ましい。これは、800nmよりも小さい粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光線領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。特に可視光領域の透明性を重視する場合は、さらに粒子による散乱を考慮することが好ましい。この粒子による散乱の低減を重視するとき、平均粒子径は20〜200nm、特に20〜100nmが好ましい。
なお、熱線吸収材の平均粒子径は、熱線吸収層の断面を透過型電子顕微鏡により倍率100万倍程度で観測し、少なくとも100個の熱線吸収材の投影面積円相当径を求め、その数平均値とする。
熱線吸収層における(複合)タングステン酸化物の含有量は、バインダ樹脂100質量部に対して、10〜500質量部、さらに20〜500質量部、特に30〜300質量部であるのが好ましい。
熱線吸収層は、上述した熱線吸収材の他に、バインダ樹脂を含むのが好ましい。バインダ樹脂としては、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、金属イオン架橋エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、部分鹸化エチレン−酢酸ビニル共重合体、カルボキシル化エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル−(メタ)アクリレート共重合体などのエチレン系共重合体などの透明接着樹脂が好ましく用いられる。透明接着樹脂としては、EVAが特に好ましく用いられる。これらの透明接着樹脂を使用することにより、熱線吸収材を高分散させることができ、外観特性に優れる熱線遮蔽ガラスが得られる。
エチレン系共重合体を含む熱線吸収層は、有機過酸化物を含むのが好ましい。有機過酸化物により透明接着樹脂を架橋硬化させることにより、熱線吸収層と隣接する層や透明基材とを接合一体化することができる。有機過酸化物としては、100℃以上の温度で分解してラジカルを発生するものであれば、どのようなものでも併用することもできる。有機過酸化物は、一般に、成膜温度、組成物の調整条件、硬化(貼り合わせ)温度、被着体の耐熱性、貯蔵安定性を考慮して選択される。特に、半減期10時間の分解温度が70℃以上のものが好ましい。
この有機過酸化物の例としては、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン−3−ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、メチルエチルケトンパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキシル−2,5−ビスパーオキシベンゾエート、ブチルハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、ヒドロキシヘプチルパーオキサイド、クロロヘキサノンパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、クミルパーオキシオクトエート、コハク酸パーオキサイド、アセチルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレーオ及び2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイドを挙げることができる。
エチレン系共重合体を含有する熱線吸収層は、架橋助剤を含有するのが好ましい。架橋助剤としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等に複数のアクリル酸あるいはメタクリル酸をエステル化したエステル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどの多官能化合物を挙げることができる。
エチレン系共重合体を含有する熱線吸収層は、接着性をさらに高めるために、接着向上剤として、シランカップリング剤を含んでいてもよい。このシランカップリング剤の例として、γ−クロロプロピルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。これらシランカップリング剤は、単独で使用しても、又は2種以上組み合わせて使用しても良い。また上記化合物の含有量は、エチレン系共重合体100質量部に対して5質量部以下であることが好ましい。
エチレン系共重合体を含有する熱線吸収層は、種々の物性(機械的強度、接着性、透明性等の光学的特性、耐熱性、耐光性、架橋速度等)の改良あるいは調整、特に機械的強度の改良のため、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物、エポキシ基含有化合物、可塑剤、紫外線吸収剤を含んでいることが好ましい。
エチレン系共重合体を含有する熱線吸収層の厚さは、100μm〜1000mm、特に300〜900μmとするのが好ましい。これにより、優れた接着性及び熱線吸収性を有する熱線吸収層が得られる。
エチレン系共重合体を含有する熱線吸収層を作製するには、例えば、熱線吸収材、エチレン系共重合体及び有機過酸化物などを含む組成物を、通常の押出成形、カレンダ成形(カレンダリング)等により成形して層状物を得る方法などを用いることができる。組成物の混合は、40〜90℃、特に60〜80℃の温度で加熱混練することにより行うのが好ましい。また、製膜時の加熱温度は、架橋剤が反応しない或いはほとんど反応しない温度とすることが好ましい。例えば、40〜90℃、特に50〜80℃とするのが好ましい。
またEVAなどのエチレン系共重合体を用いることにより、粘着性を有する熱線吸収層が得られ、他に接着樹脂層などを使用せずに熱線吸収層のみで他の層と接着することができる。したがって、透明接着樹脂を含む熱線吸収層を含む熱線遮蔽ガラス100は、図1に示すように、透明基材110、熱線吸収層120、屈折率調整層130、及び熱線反射層140が、この順で積層された構造を有する。
エチレン系共重合体を含有する層を用いて熱線遮蔽ガラスを作製する場合、熱線遮蔽ガラスに用いられる各層を積層した後、得られた積層体を加熱加圧することにより、透明接着樹脂を含有する層を架橋硬化させるのが好ましい。これにより透明接着樹脂を含有する層と隣接する層とを接合一体化することができる。
熱線吸収層に含まれる他のバインダ樹脂としては、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、オレフィン樹脂、及びアクリル樹脂などの透明合成樹脂が用いられる。これらは一種単独で用いられてもよく、二種以上を併用してもよい。バインダ樹脂としてこれらの透明合成樹脂を用いた場合、熱線吸収層は、熱線吸収材及び透明合成樹脂を含む樹脂組成物の硬化層であるのが好ましい。
フッ素樹脂の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、フルオロエチレンビニルエーテル(FEVE)及びエチレンクロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、下記構造:
(n=10〜1000)
を有する重合体Aを挙げることができる。これらの中で、上記重合体A、フルオロエチレンビニルエーテル(FEVE)が好ましい。これらの(共)重合体は、さらに官能基(例、アルコキシシリル基、ヒドロキシル基、アミノ基、イミノ基、(メタ)アクリロイロキシ基、エポキシ基、カルボキシル基、スルホニル基、アクリレート型イソシアヌレート基、硫酸塩基)を有していても良い。市販されているフッ素樹脂の好ましい例としては、ルミフロン(登録商標、旭硝子(株)製)、サイトップ(登録商標、旭硝子(株)製)、ゼッフル(登録商標、ダイキン化学(株)製)、オプツール(登録商標、ダイキン化学(株)製)を挙げることができる。
シリコーン樹脂の例としては、ストレートシリコーンワニス及び変性シリコーンワニスを挙げることができる。ストレートシリコーンワニスは、通常、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシランの加水分解重合により製造される(使用時は、一般に塗布後、100℃以上で硬化される)。変性シリコーンワニスは、シリコーンワニスにアルキド、ポリエステル、アクリル、エポキシ等の樹脂を反応させたものである。市販されているシリコーン樹脂の好ましい例としては、シリコーンワニスKRシリーズ(信越化学(株)製)を挙げることができる。
オレフィン樹脂のモノマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン等を挙げることができる。
アクリル樹脂のモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、;フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等のフェノキシアルキル(メタ)アクリレート;2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−プロポキシエチル(メタ)アクリレート、2−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシブチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。アクリル樹脂は、これらのモノマーの単独重合体又は2種以上の共重合体、前記モノマーと他の共重合性単量体との共重合体を挙げることができる。
熱線吸収材及び透明合成樹脂を含む熱線吸収層は、熱線吸収材、透明合成樹脂、及び必要に応じて有機溶剤を含む樹脂組成物の硬化層である。熱線吸収層を作製するには、例えば、樹脂組成物をプラスチックフィルム上に塗布し、単に乾燥させる方法などが用いられる。この時、樹脂組成物は、ポリイソシアネート化合物などの硬化剤をさらに含んでいてもよい。
また、熱線吸収層を形成するために用いられる、熱線吸収材及び透明合成樹脂を含む樹脂組成物は、熱硬化性、又は光(一般に紫外線)硬化性の樹脂組成物でああってもよい。したがって、樹脂組成物は、熱重合開始剤、光重合開始剤をさらに含んでいてもよい。なかでも、光重合開始剤を含むのが特に好ましい。
光重合開始剤の具体的な例は、上述した屈折率調整層に用いられるものと同じものが好ましく挙げられる。光重合開始剤の量は、樹脂組成物に対して一般に0.1〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。また、樹脂組成物が光硬化性である場合、樹脂組成物は重合性モノマー、オリゴマーをさらに含んでいてもよい。重合性モノマー、オリゴマーとしては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の硬質の多官能モノマーを主に使用することが好ましい。
フッ素樹脂などの透明合成樹脂を含有する熱線吸収層の厚さは、0.5〜30μm、特に1〜15μmとするのが好ましい。これにより、優れた接着性及び熱線遮蔽性を有する熱線吸収層が得られる。
また、フッ素樹脂などの透明合成樹脂を用いた場合、製造が容易となり、取扱性にも優れることから、熱線吸収層をプラスチックフィルム上に形成するのが好ましい。プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンアフタレート(PEN)フィルム、ポリエチレンブチレートフィルムを挙げることができ、PETフィルムが好ましい。プラスチックフィルムの厚さは、10〜400μm、特に20〜200μmであるのが好ましい。また、プラスチックフィルム表面には、接着性を向上させるために、予めコロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、プライマー層コート処理などの接着処理を施してもよい。
透明合成樹脂を含む熱線吸収層を作製する場合、透明合成樹脂、熱線吸収材、及び有機溶剤などを含む組成物を、プラスチックフィルム又は透明基材など所定の基材上に塗布し、乾燥させた後、必要に応じて加熱、又は紫外線、X線、γ線、電子線などの光照射により硬化させる方法が好ましく用いられる。乾燥は、プラスチックフィルム上に塗布した樹脂組成物を60〜150℃、特に70〜110℃で加熱することにより行うのが好ましい。乾燥時間は1〜10分間程度でよい。光照射は、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプ等の光線から発する紫外線を照射して行うことができる。
熱線吸収層は、(複合)タングステン酸化物以外に、必要により色素を含んでいてもよい。色素としては、一般に800〜1200nmの波長に吸収極大を有するもので、例としては、フタロシアニン系色素、金属錯体系色素、ニッケルジチオレン錯体系色素、シアニン系色素、スクアリリウム系色素、ポリメチン系色素、アゾメチン系色素、アゾ系色素、ポリアゾ系色素、ジイモニウム系色素、アミニウム系色素、アントラキノン系色素、を挙げることができ、特にシアニン系色素又、フタロシアニン系色素、ジイモニウム系色素が好ましい。これらの色素は、単独又は組み合わせて使用することができる。
熱線吸収層は、上記色素をバインダ樹脂100質量部に対して、0.1〜20質量部、さらに1〜20質量部、特に1〜10質量部含有することが好ましい。
本発明では、熱線吸収層に、ネオン発光の吸収機能を付与することにより色調の調節機能を持たせても良い。このために、熱線吸収層にネオン発光の選択吸収色素を含有させても良い。
ネオン発光の選択吸収色素としては、シアニン系色素、スクアリリウム系色素、アントラキノン系色素、フタロシアニン系色素、ポリメチン系色素、ポリアゾ系色素、アズレニウム系色素、ジフェニルメタン系色素、トリフェニルメタン系色素を挙げることができる。このような選択吸収色素は、585nm付近のネオン発光の選択吸収性とそれ以外の可視光波長において吸収が小さいことが必要であるため、吸収極大波長が575〜595nmであり、吸収スペクトル半値幅が40nm以下であるものが好ましい。
また、光学特性に大きな影響を与えない限り、熱線吸収層には、着色用の色素、紫外線吸収剤、酸化防止剤等をさらに加えても良い。
[接着樹脂層]
本発明の熱線遮蔽ガラスは、各層間の接着性を向上させるために接着樹脂層を有していてもよい。特にプラスチックフィルム上に形成された熱線吸収層を用いた場合には、プラスチックフィルムと、これに隣接する層又は透明基材との間に接着樹脂層が用いられるのが特に好ましい。
例えば、プラスチックフィルム260上に形成された熱線吸収層220を用いた熱線遮蔽ガラス200は、図2に示すように、透明基材210、接着樹脂層250、プラスチックフィルム260、前記熱線吸収層220、前記屈折率調整層230、及び前記熱線反射層240が、この順で積層された構造を有する。
接着樹脂層には、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、金属イオン架橋エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、部分鹸化エチレン−酢酸ビニル共重合体、カルボキシル化エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル−(メタ)アクリレート共重合体などのエチレン系共重合体を使用することができる(なお、「(メタ)アクリル」は「アクリル又はメタクリル」を示す。)。その他、接着樹脂層には、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ゴム系粘着剤、SEBS及びSBS等の熱可塑性エラストマー等も用いることができる。なかでも、優れた接着性を有することから接着樹脂層には、EVAを用いるのが好ましい。
接着樹脂層に用いられるEVAは、酢酸ビニル含有率が、EVA100質量部に対して、23〜38質量部であり、特に23〜28質量部であることが好ましい。これにより接着性及び透明性に優れる接着樹脂層を得ることができる。またEVAのメルト・フロー・インデックス(MFR)が、4.0〜30.0g/10分、特に8.0〜18.0g/10分であることが好ましい。予備圧着が容易になる。
接着樹脂層は、EVAの他に、有機過酸化物を含むのが好ましい。これによりEVAを架橋させて、接着樹脂層と他の層とを接合一体化することができる。また、接着樹脂層は、さらに架橋助剤、シランカップリング剤を含むのが好ましい。これらの有機過酸化物、架橋助剤、シランカップリング剤の具体的な例は、熱線吸収層において上述したのと同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
接着樹脂層は、種々の物性(機械的強度、接着性、透明性等の光学的特性、耐熱性、耐光性、架橋速度等)の改良あるいは調整、特に機械的強度の改良のため、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物、エポキシ基含有化合物、可塑剤、紫外線吸収剤を含んでいることが好ましい。
接着樹脂層の厚さは、100〜2000μm、特に400〜1000μmであるのが好ましい。
EVAを含有する接着樹脂層を作製するには、熱線吸収層において上述したのと同様の方法が用いられるため、ここでは詳細な説明を省略する。
[透明基材]
本発明の熱線遮蔽ガラスに用いられる透明基材としては、例えば、グリーンガラス、珪酸塩ガラス、無機ガラス板、無着色透明ガラス板などのガラス板の他、プラスチックフィルムを用いてもよい。前記プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンアフタレート(PEN)フィルム、ポリエチレンブチレートフィルムを挙げることができる。透明基板の厚さは、1〜20mm程度が一般的である。
なお、本発明において、熱線遮蔽ガラスにおける「ガラス」とは透明基板全般を意味するものである。したがって、熱線遮蔽ガラスとは、熱線遮蔽性が付与された透明基板を意味する。
本発明の熱線遮蔽ガラスは、基本構成として、透明基材、タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物を含む熱線吸収層、金属酸化物を含む熱線反射層、及び屈折率が1.3〜2.8である屈折率調整層を有する。熱線遮蔽ガラスを複層ガラスに用いた際に熱線遮蔽性の耐久性を向上させるために、熱線反射層は最上層として配置されるのが好ましい。より好ましくは、透明基材上に、熱線吸収層、屈折率調整層、及び熱線反射層がこの順で配置される。特に好ましくは、透明基材上に、熱線吸収層、高屈折率層、低屈折率層、及び熱線反射層がこの順で配置される。各層間には目的に応じて他の層が配置されてもよく、図1及び2に示される構造を有する熱線遮蔽性ガラスを使用するのが特に好ましい。
図1に示す熱線遮蔽ガラス100を作製するには、透明基材110上に、EVAなどの透明接着樹脂及び(複合)タングステン酸化物を含む熱線吸収層120、高屈折率層131、低屈折率層132、及び熱線反射層140を積層し、これにより得られた積層体を加熱加圧することにより、熱線吸収層120を架橋硬化させるのが好ましい。これにより、透明基材110、熱線吸収層120、及び熱線反射層130を接合一体化することができる。
図2に示す熱線遮蔽ガラス200を作製するには、まず、アクリル樹脂などの透明合成樹脂及び(複合)タングステン酸化物を含む熱線吸収層220をプラスチックフィルム260上に作製した後、熱線吸収層220上に、高屈折率層231、低屈折率層232、及び熱線反射層240を作製する。次に、EVAなどの接着樹脂を含む接着樹脂層250を作製する。そして、透明基材210上に、接着樹脂層250、プラスチックフィルム250上に形成した熱線吸収層220、高屈折率層231、低屈折率層232、及び熱線反射層240をこの順で積層する。このようにして得られた積層体を、加熱加圧することにより、接着樹脂層250を架橋硬化させるのが好ましい。これにより、各層が接合一体化された熱線遮蔽ガラス200を得ることができる。
各積層体を加熱加圧するには、積層体を40〜200℃で1〜120分間、特に60〜150℃で1〜20分間、1.0×103Pa〜5.0×107Paの圧力で加圧しながら行うのが好ましい。
[複層ガラス]
本発明の熱線遮蔽ガラスは、複層ガラスに用いられるのが好ましい。上述した通り、本発明の熱線遮蔽ガラスは、優れた熱線遮蔽性を長期間に亘って維持することができる。したがって、このような熱線遮蔽ガラスを用いた複層ガラスは、優れた熱線遮蔽性を長期間に亘って維持することができる。
本発明の熱線遮蔽ガラス300を用いた複層ガラスは、図3に示すように、熱線遮蔽ガラス300と、他のガラス板370とを、中空層380を介して対向するように配置することにより得られる。複層ガラスにおいて、熱線遮蔽ガラス300は、最上層に配置された金属酸化物を含む熱線反射層(図示せず)が中空層380側となるように配置されるのが好ましい。中空層380は、熱線遮蔽ガラス300とガラス板370とをこれらの外周部にスペーサー390を介在させて接着剤(図示せず)を用い接合することにより形成される。
中空層としては、空気層、不活性ガス層、及び減圧層などが用いられる。これらの中空層によれば、複層ガラスに求められる断熱性を向上するとともに、熱線遮蔽層の経時的劣化を抑制することができる。
空気層は、乾燥剤を含むスペーサーを用いることにより乾燥空気を用いてもよい。不活性ガス層は、クリプトンガス、アルゴンガス、及びキセノンガスなどの不活性ガスを含む。減圧層の気圧は、1.0Pa以下、特に0.01〜1.0Paとするのが好ましい。中空層の厚さは、6〜12mmであるのが好ましい。
本発明の複層ガラスは、上述した熱線遮蔽ガラスを用いることにより、優れた熱線遮蔽性を長期間に亘り維持することができる。このような効果は、中空層として空気層を用いたとしても十分に得ることができる。さらに、乾燥剤を使用しない又は乾燥剤の使用量を低減することも可能である。したがって、不活性ガス層や減圧層を中空層として用いた場合に比較して簡易な構成とすることができる。
板ガラスとしては、フロートガラス、型板ガラス、表面処理により光り拡散機能を備えたすりガラス、網入りガラス、線入板ガラス、強化ガラス、倍強化ガラス、低反射ガラス、高透過板ガラス、セラミック印刷ガラス、紫外線吸収機能を備えた特殊ガラスなど、種々のガラスを適宜選択して実施することができる。また、板ガラスの組成についても、ソーダ珪酸ガラス、ソーダ石灰ガラス、ほう珪酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、各種結晶化ガラスなどを使用することができる。
複層ガラスの形状は、用途に応じて、矩形状、丸状、菱形状など、種々の形状とすることができる。複層ガラスの用途についても、建築物や乗り物(自動車、鉄道車両、船舶)用の窓ガラス、あるいは、プラズマディスプレイなどの機器要素をはじめとして、冷蔵庫や保温装置などのような各種装置の扉や壁部など、種々の用途に使用することができる。
本発明の複層ガラスは、断熱性を有するとともに、優れた熱線遮蔽性を有する。したがって、複層ガラスは、比較的、緯度が低い地域など、温暖な地域で使用されるのが特に好ましい。このような地域において複層ガラスを建築物や車両などに使用する場合には、ガラス板が室内側、熱線遮蔽ガラスが室外側に配置されるのが好ましい。一方、本発明の複層ガラスを比較的、緯度が高い地域など、寒冷地域で使用する場合には、ガラス板が室外側、熱線遮蔽ガラスが室内側に配置されるのが好ましい。このように使用することにより、優れた断熱性及び熱線遮蔽性を特に発揮することができる。
以下、本発明を実施例により説明する。本発明は、以下の実施例により制限されるものではない。
(実施例1)
1.熱線吸収層の作製
下記成分を含む組成物をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ100μm)上に、バーコーターを用いて塗布し、80℃のオーブン中で2分間乾燥させた後、高圧水銀灯により500mJ/cm2のUV積算光量として紫外線を照射することにより、PETフィルム上に熱線吸収層(厚さ10μm:屈折率1.52)を作製した。
熱線吸収層形成用組成物の組成:
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート80質量部
光重合開始剤(イルガキュア(登録商標)184)5質量部
Cs0.33WO3(平均粒径80nm)20質量部
メチルイソブチルケトン300質量部
2.高屈折率層の作製
下記成分を含む組成物を熱線吸収層上にバーコータにより塗布し、80℃で30秒間乾燥させた後、高圧水銀灯により500mJ/cm2のUV積算光量として紫外線を照射することにより、高屈折率層(厚さ20nm:屈折率1.65)を形成した。
高屈折率層形成用組成物の組成:
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート2質量部
酸化スズ粒子(平均粒子径15nm)8質量部
メチルイソブチルケトン1000質量部
3.低屈折率層の作製
下記成分を含む組成物を高屈折率層上にバーコータにより塗布し、80℃で30秒間乾燥し、低屈折率層(厚さ25nm:屈折率1.37)を形成した。
低屈折率層形成用組成物の組成:
官能基含有フッ素樹脂(固形分15質量%、MIBK85質量%、
オプツールAR−110、ダイキン工業(株)製)70質量部
メチルイソブチルケトン1000質量部
4.熱線反射層の作製
低屈折率層上に、スパッタリングにより、フッ素含有酸化スズよりなる熱線反射層(厚さ0.3μm:屈折率2.0)を作製した。
5.接着樹脂層の作製
下記の配合を原料としてカレンダ成形法によりシート状の接着樹脂層(厚さ0.4mm)を得た。なお、配合物の混練は80℃で15分行い、またカレンダロールの温度は80℃、加工速度は5m/分であった。
接着樹脂層の配合:
EVA(EVA100質量部に対する酢酸ビニルの含有量25質量部、
東ソー株式会社製 ウルトラセン635) 100質量部、
架橋剤(tert−ブチルパ−オキシ2−エチルヘキシルカーボネート;
化薬アクゾ株式会社製 トリゴノックス117) 2.5質量部、
架橋助剤(トリアリルイソシアヌレート;
日本化成株式会社 TAIC(登録商標)) 2質量部、
シランカップリング剤(γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン;
信越化学株式会社製、KBM503) 0.5質量部
6.熱線遮蔽ガラスの作製
ガラス基材(厚さ3mm)上に、接着樹脂層、プラスチックフィルム上に形成された熱線吸収層、高屈折率層、低屈折率層、及び熱線反射層をこの順で積層した。得られた積層体を、100℃で30分間加熱することにより仮圧着を行った後、オートクレーブ中で圧力13×105Pa、温度140℃の条件で30分間加熱した。これにより、接着樹脂層を硬化させて、透明基材と各層間が接着一体化された熱線遮蔽ガラス(図2)を得た。
7.複層ガラスの作製
ガラス板(厚さ3mm)と、熱線遮蔽ガラスとを、これらの周縁部に配置された額縁状のアルミニウム製スペーサを介して対向配置し、これらをブチルゴムにより接着した。このとき、熱線遮蔽ガラスの熱線反射層が形成された面が、スペーサーにより形成された空気層側になるようにした。空気層の厚さは12mmとした。
(実施例2)
以下に示す方法により高屈折率層及び低屈折率層を作製した以外は、実施例1と同様にして熱線遮蔽ガラス、及びこれを用いた複層ガラスを作製した。
1.高屈折率層及び低屈折率層の作製
テトラブトキシチタン10g、キシレン100g、及びブタノール100gを混合し、高屈折率層形成用溶液を得た。これとは別に、エチルアルコール10gに、テトラエトキシシラン10g、純水10g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.1gを添加、撹拌し、低屈折率層形成用溶液を得た。
次に、PETフィルム上に形成された熱線吸収層上に、湿度30%、25℃雰囲気下で、ロールコーター法により、高屈折率層形成用溶液を塗布した後、低屈折率層形成用溶液を塗布した。その後、塗布した溶液を100℃で300分間放置した後、150℃で10分間加熱した。これにより、熱線吸収層上に、高屈折率層(厚さ25nm:屈折率1.9)、及び低屈折率層(厚さ25nm:屈折率1.48)を作製した。
(比較例1)
1.熱線遮蔽ガラスの作製
インライン式の直流スパッタリング装置を用いて、ガラス基材(厚さ3mm)上に、ガラス板側から、酸化亜鉛膜、銀膜、酸化チタン膜、酸化亜鉛膜をこの順に含む熱線遮蔽膜を成膜することにより熱線遮蔽ガラスを得た。酸化亜鉛膜はアルゴンと酸素とを1:9の流量比で導入した0.4Paの減圧雰囲気下で、窒化シリコン膜はアルゴンと窒素とを1:9の流量比で導入した0.4Paの減圧雰囲気下で、その他の膜は0.4Paに減圧したアルゴン雰囲気下で、それぞれ成膜した。酸化亜鉛膜、窒化シリコン膜、銀膜、酸化チタン膜は、それぞれ、亜鉛、シリコン、銀、チタンをターゲットとして成膜した。酸化チタン膜は、チタン膜として成膜し、この膜を次の酸化亜鉛膜の成膜工程で酸化して生成させた。成膜条件(印加電圧、成膜時間等)は、各膜の膜厚が表中の値となるように予め確認した条件を適用した。すべてのサンプルにおいて、チタン膜は2nmとなるように成膜した。
2.複層ガラスの作製
上記の通りに作製した熱線遮蔽ガラスを用いて、実施例1と同様にして複層ガラスを作製した。
(比較例2)
高屈折率層及び低屈折率層を作製せずに、熱線吸収層上に熱線反射層を直接作製した以外は、実施例1と同様にして熱線遮蔽ガラス、及びこれを用いた複層ガラスを作製した。
(評価)
1.熱線遮蔽性の耐久性
複層ガラスを、波長320nm〜400nmの近紫外線を発生する近紫外線蛍光ランプを照射しながら、温度60℃、相対湿度90%RHの雰囲気中に5000時間放置した。放置前後の複層ガラスの可視光透過率、可視光反射率、日射透過率及び日射反射率を、JIS R3106−1998に基づき測定した。なお、透過率及び反射率の測定には、日立製作所製U3410型自記分光光度計を使用した。反射特性は入射角を12°とした正反射光により、透過特性は入射角を0°として測定した。結果を表1に示す。
2.外観特性(干渉縞観察)
熱線遮蔽ガラスを黒い紙の上に置き、三波長形蛍光ランプ(松下電器産業(株)、パルック、20W、昼白色)で照らして蛍光ランプの像の周りの干渉縞を観察し、下記の基準により干渉縞を判定する。結果を表1に示す。
◎:干渉縞がまったく認められない。
△:干渉縞がかすかに認められる。
×:干渉縞が明瞭に認められる。