JP2010203587A - 動力伝達装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】無段変速機を搭載する車両において、駆動輪の空転によるスリップが解消した後の走行性能の低下を抑制する。
【解決手段】駆動輪の両輪の空転によるスリップが発生したとき、車速Vが所定車速Vref以上のときにはアクセル開度Accと車速Vとに基づいて変速マップを用いて目標回転速度Ni*を設定し(S120,S150,S130)、車速Vが所定車速Vref未満のときにはスリップが発生したときに発生時点で設定されている変速比が保持されるよう目標回転速度Ni*を設定し(S180,S190)、エンジン回転速度制限要求がなされているときには制限変速比γrefを下回らない範囲内で制限回転数Nelimを目標回転速度Ni*に設定して(S200〜S240)、CVTを制御する。
【選択図】図2

Description

本発明は、車両に搭載され、原動機からの動力を無段階に変速して車軸に伝達する無段変速機を備える動力伝達装置に関する。
従来、この種の動力伝達装置としては、車載された自動変速機を備え、通常時にはスロットル開度と車速とに基づいて変速段を変更する通常の変速制御を実行し、走行中に車輪にスリップが発生したときにはその時の変速段に固定されるよう変速段の変更(アップシフト,ダウンシフト)を禁止するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、スリップ時には変速段の変更を禁止することで、アクセルオンによるダウンシフトに起因してスリップが倍加するのを防止している。
特開平02−42255号公報
こうした動力伝達装置では、スリップ中に変速比の変更を禁止すると、通常時と変速制御が異なるから、運転者に違和感を与えてしまう。逆に通常時と同様の変速制御を実施すると、比較的小さな変速比(減速比)で停車する場合がある。変速機として無段変速機を搭載する車両では、停車中に変速比を変更することはできないから、上述した場合には比較的小さな減速比で発進しなければならず、発進性能が大きく低下してしまう。
本発明の動力伝達装置は、無段変速機を搭載する車両において、運転者に違和感を与えることなく駆動輪の空転によるスリップが解消した後の走行性能の低下を抑制することを主目的とする。
本発明の動力伝達装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
本発明の動力伝達装置は、
車両に搭載され、原動機からの動力を入力し無段階に変速して駆動輪の駆動軸に出力する無段変速機を備える動力伝達装置であって、
前記駆動輪の空転によるスリップが発生した場合、車速が所定車速以上のときには前記無段変速機の変速比が目標変速比となるよう該無段変速機を制御し、車速が前記所定車速未満のときには前記無段変速機の変速比が所定変速比を下回らないよう該無段変速機を制御するスリップ時制御手段
を備えることを要旨とする。
この本発明の動力伝達装置では、駆動輪の空転によるスリップが発生した場合、車速が所定車速以上のときには無段変速機の変速比が目標変速比となるよう無段変速機を制御し、車速が所定車速未満のときには無段変速機の変速比が所定変速比を下回らないよう無段変速機を制御する。したがって、駆動輪の空転によるスリップが発生しても、比較的小さな変速比で車両が停止するのを防止することができ、スリップが解消した後の発進性能が低下するのを抑制することができる。
こうした本発明の動力伝達装置において、前記スリップ時制御手段は、前記検出された車速が前記所定車速未満の場合、通常時には前記スリップが発生したときに設定されている変速比が保持されるよう前記無段変速機を制御し、該変速比を保持すると前記原動機の回転速度が所定回転速度を上回るときには前記所定変速比を下限として該原動機の回転速度が該所定回転速度を上回らないよう前記無段変速機を制御する手段であるものとすることもできる。
また、本発明の動力伝達装置において、前記スリップ時制御手段は、前記駆動輪の空転によるスリップが左右の駆動輪の一方のみの空転によるスリップの場合には、車速に拘わらず前記無段変速機の変速比が前記所定変速比を下回らないよう該無段変速機を制御する手段であるものとすることもできる。こうすれば、左右の駆動輪に連結された差動機構の過回転を抑制することができる。
さらに、本発明の動力伝達装置において、シフト操作に基づいて車速と前記入力軸の回転速度との関係として予め定められた複数の回転速度関係から一つを選択し、該選択した回転速度関係を用いて車速に基づいて前記入力軸の目標回転速度を設定して前記無段変速機を制御する手動変速モードを有し、前記スリップ時制御手段は、前記手動変速モード時に前記駆動輪の空転によるスリップが発生した場合には、車速が前記所定車速以上のときには前記複数の回転速度関係のすべての選択を許可し、車速が前記所定車速未満のときには前記複数の回転速度関係のうち高速段側の回転速度関係の選択を禁止する手段であるものとすることもできる。こうすれば、スリップが解消した後の発進性能が低下するのを抑制すると共にスリップ中の運転者のシフト操作にも対応することができる。この態様の本発明の動力伝達装置において、前記スリップ時制御手段は、前記手動変速モード時に前記駆動輪の空転により発生したスリップが左右の駆動輪の一方のみの空転によるスリップの場合には、車速に拘わらず前記複数の回転速度関係のうち高速段側の回転速度関係の選択を禁止する手段であるものとすることもできる。こうすれば、左右の駆動輪に連結された差動機構の過回転を抑制することができる。
本発明の一実施例としての動力伝達装置が組み込まれた自動車10の構成の概略を示す構成図である。 CVTECU59により実行される通常変速モード時変速制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。 変速マップの一例を示す説明図である。 スリップが発生したときの変速の様子の一例を示す説明図である。 マニュアル変速モード時変速制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。 変速マップの一例を示す説明図である。 スリップが発生したときの変速の様子の他の例を示す説明図である。
次に、本発明の実施の形態を実施例を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施例としての動力伝達装置が組み込まれた自動車10の構成の概略を示す構成図である。自動車10は、ガソリンや軽油などの炭化水素系の燃料の爆発燃焼により動力を出力するエンジン22と、エンジン22を運転制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24と、エンジン22のクランクシャフト26に接続された周知の流体式のトルクコンバータ40と、このトルクコンバータ40にインプットシャフト51が接続されると共にギヤ機構70およびデファレンシャルギヤ72を介して駆動輪73a,73bにアウトプットシャフト52が接続されたベルト式の無段変速機としてのCVT50と、CVT50を変速制御するCVT用電子制御ユニット(以下、CVTECUという)59と、車両全体をコントロールするメイン電子制御ユニット(以下、メインECUという)80とを備える。なお、実施例の動力伝達装置としては、CVT50と、CVTECU59が該当する。
エンジンECU24には、クランクシャフト26に取り付けられた回転速度センサ29からのエンジン回転速度Neなどエンジン22を運転制御するのに必要な各種センサからの信号が入力され、エンジンECU24からは、スロットル開度を調節するスロットルモータへの駆動信号や燃料噴射弁への制御信号,点火プラグへの点火信号などが出力されている。エンジンECU24は、メインECU80からの制御信号によってエンジン22を制御し、エンジン22の運転状態に関するデータをメインECU80に出力する。
CVT50は、溝幅が変更可能でインプットシャフト51に接続されたプライマリープーリー53と、同じく溝幅が変更可能で駆動軸としてのアウトプットシャフト52に接続されたセカンダリープーリー54と、プライマリープーリー53およびセカンダリープーリー54の溝に架けられたベルト55と、プライマリープーリー53およびセカンダリープーリー54の溝幅を変更する第1アクチュエータ56および第2アクチュエータ57とを備え、プライマリープーリー53およびセカンダリープーリー54の溝幅を変更することによりインプットシャフト51の動力を無段階に変速してアウトプットシャフト52に出力する。ここで、第1および第2アクチュエータ56,57は、図示しないが、デューティソレノイドの駆動によりプライマリープーリー53やセカンダリープーリー54に作用させる油圧を調圧することにより各プーリー53,54の溝幅を調節する油圧駆動のアクチュエータとして構成されている。
CVTECU59は、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成されている。このCVTECU59にはインプットシャフト51に取り付けられた回転速度センサ61からのインプット回転速度Niやアウトプットシャフト52に取り付けられた回転速度センサ62からのアウトプット回転速度Noutなどが入力され、CVTECU59からは、第1アクチュエータ56および第2アクチュエータ57への駆動信号などが出力されている。また、CVTECU59は、メインECU80からの制御信号によってCVT50の変速比(ギヤ比)を制御し、インプット回転速度Ni,アウトプット回転速度NoutなどCVT50の運転状態に関するデータをメインECU80に出力する。
メインECU80は、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成されている。このメインECU80には、シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSPやアクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込みを検出するブレーキスイッチ86からのブレーキスイッチ信号BSW,車速センサ87からの車速V,駆動輪73a,73bにそれぞれ取り付けられた車輪速センサ88a,88bからの車輪速Vfr,Vfl,従動輪74a,74bにそれぞれ取り付けられた車輪速センサ89a,89bからの車輪速Vrr,Vrlなどが入力されている。メインECU80は、エンジンECU24やCVTECU59と通信可能に接続されており、エンジンECU24やCVTECU59と各種制御信号やデータのやりとりを行なう。
実施例の自動車10では、シフトポジションセンサ82により検出するシフトレバー81のポジションとしては、駐車ポジション(Pポジション)や中立ポジション(ニュートラル),後進ポジション(Rポジション),ドライブポジション(Dポジション)などがある他、ドライブポジションからの移行により車速Vに対するエンジン22の回転速度の回転速度比を7段(M1〜M7)に変更するためにアップシフトを指示するアップシフト指示ポジションとダウンシフトを指示するダウンシフト指示ポジションとがある。以下、ドライブポジションや後進ポジションによる変速モードを通常変速モードと呼び、アップシフト指示ポジションやダウンシフト指示ポジションによる変速モードをマニュアル変速モードと呼ぶ。
次に、こうして構成された実施例の自動車10の動作、特に駆動輪73a,73bに空転によるスリップが発生したときの動作について説明する。図2は、CVTECU59により実行される通常変速モード時変速制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、通常変速モードが設定されているときに所定時間毎(例えば数msecや数十msec毎)に繰り返し実行される。
通常変速モード時変速制御ルーチンが実行されると、CVTECU59のCPUは、まず、アクセル開度Accや車速V,車輪速Vfr,Vfl,Vrr,Vrl,回転速度センサ61,62からのインプット回転速度Niおよびアウトプット回転速度Noなどの制御に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、アクセル開度Accや車速V,車輪速Vfr,Vfl,Vrr,Vrlは、それぞれアクセルペダルポジションセンサ84や車速センサ87,車輪速センサ88a,88b,89a,89bにより検出されたものをメインECU80から通信により入力するものとした。
こうしてデータが入力されると、入力された車輪速Vfr,Vfl,Vrr,Vrlに基づいて駆動輪73a,73bに空転によるスリップが発生しているか否かを判定する処理を行なう(ステップS110)。この処理は、駆動輪73a,73bの両輪にスリップが生じているか片輪にスリップが生じているかを区別して判定し、例えば、駆動輪73a,73bの車輪速Vfr,Vflの平均値Vf(駆動輪速)をとると共に従動輪74a,74bの車輪速Vrr,Vrlの平均値Vr(従動輪測)をとって各平均値Vf,Vrの偏差(Vf−Vr)を計算し計算した偏差と閾値とを比較することにより両輪にスリップが生じているか否かを判定し、駆動輪73a,73bの車輪速Vfr,Vflの偏差(Vfr−Vrr)を計算し計算した偏差の絶対値と閾値とを比較することにより片輪にスリップが生じているか否かを判定することができる。
判定の結果、駆動輪73a,73bにスリップが生じていないと判定されたときには(ステップS120)、変速制限フラグFに値0を設定し(ステップS130)、入力したアクセル開度Accと車速Vとに基づいて図3に例示する変速マップを用いてCVT50のインプットシャフト51の目標回転速度Ni*を設定し(ステップS140)、インプットシャフト51が目標回転速度Ni*で回転するようCVT50を制御して(ステップS250)、本ルーチンを終了する。CVT50の制御は、具体的には、現在の回転速度Niと目標回転速度Ni*との偏差を打ち消す方向に目標デューティDsを設定すると共に目標デューティDsをもって第1および第2アクチュエータ56,57(デューティソレノイド)を駆動するフィードバック制御により行なわれる。
ステップ120で両輪スリップと判定されると、車速Vと所定車速Vrefとを比較する(ステップS150)。ここで、車速Vは、駆動輪73a,73bに空転によるスリップが発生しているときを考えているから、実施例では、車速センサ87からの車速Vに代えて従動輪74a,74bの車輪速Vrr,Vrlの平均値Vrを車速に換算したもの用いるものとした。また、所定車速Vrefは、CVT50は停車時には変速比の変更はできないことから、自動車10が急減速しても停車するまでにCVT50の変速比を発進可能な変速比γref(例えば、値1.0や値0.8など)まで戻すことができる車速の下限値付近の値として設定されたものであり、CVT50の仕様に応じて例えば時速15kmや時速20km,時速25kmなどのように定めることができる。両輪スリップを判定され且つ車速Vが所定車速Vref以上のときには、アクセル開度Accと車速Vとに基づいてインプットシャフト51の目標回転速度Ni*を設定してCVT50を制御する(ステップS130,S140,S250)。一方、両輪スリップを判定されたが車速Vが所定車速Vref未満のときや片輪スリップと判定されたときには、変速制限フラグFの値を調べ(ステップS160)、変速制限フラグFが値1のときには次の処理に進み、変速制限フラグFが値0のときには変速制限フラグFに値1を設定すると共に(ステップS170)、入力したインプット回転速度Niをアウトプット回転速度Noで割ることによりスリップ時変速比γsを計算する(ステップS180)。駆動輪73a,73bにスリップが発生した直後は変速制限フラグFが値0であるから、このときに入力したインプット回転速度Niをアウトプット回転速度Noで割ったものはスリップが発生した時点でのCVT50の変速比を示す。そして、スリップが発生した時点でのCVT50の変速比が保持されるようスリップ時変速比γsに入力したアウトプット回転速度Noを乗じたものをインプットシャフト51の目標回転速度Ni*に設定する(ステップS190)。
こうして目標回転速度Ni*を設定すると、エンジン回転速度制限要求がなされているか否かを判定する(ステップS200)。ここで、エンジン回転速度制限要求は、エンジン回転速度Neがエンジン22の上限回転速度Nemax(例えば、5000rpmや6000rpmなど)に到達しているときにエンジンECU24によってなされるものである。エンジン回転速度制限要求がなされていないときにはステップS190で設定した目標回転速度Ni*でCVT50を制御して(ステップS250)、本ルーチンを終了する。一方、エンジン回転速度制限要求がなされているときには、上限回転速度Nemaxよりも若干低い制限回転速度Nelimを目標回転速度Ni*に設定し(ステップS210)、制限回転速度Nelimを入力したアウトプット回転速度Noで割ることにより修正後変速比γ*を計算する(ステップS220)。そして、修正後変速比γ*が前述した制限変速比γref以上のときにはステップS210で修正した目標回転速度Ni*でCVT50を制御し(ステップS250)、計算した修正後変速比γ*が前述した制限変速比γrefよりも小さい(アップシフト側)のときには、発進が困難な変速比で停車するおそれがあると判断し、制限変速比γrefに入力したアウトプット回転速度Noを乗じたものに目標回転速度Ni*を再修正し(ステップS240)、再修正した目標回転速度Ni*で目標回転速度Ni*でCVT50を制御して(ステップS250)、本ルーチンを終了する。
図4に、スリップが発生したときの変速の様子の一例を示す説明図である。図示するように、両輪スリップが発生し且つ車速Vが所定車速Vref以上のときや片輪スリップが発生したときには、スリップが発生した時点に設定されている変速比が保持されるよう目標回転速度Ni*が設定されるが、エンジン回転数制限要求がなされると、制限回転数Nelimに目標回転速度Ni*が修正される。そして、修正された目標回転速度Ni*が制限変速比γrefを下回るときには制限変速比γrefに沿うように目標回転数Ne*が再修正される。
次に、マニュアル変速モード時の動作について説明する。図5は、CVTECU59により実行されるマニュアル変速モード時変速制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、マニュアル変速モードが設定されているときに所定時間毎(例えば数msec毎や数十msec毎)に繰り返し実行される。
マニュアル変速モード時変速制御ルーチンが実行されると、CVTECU59は、まず、車速VやシフトポジションSP,車輪速Vfr,Vfl,Vrr,Vrlなどの制御に必要なデータを入力し(ステップS300)、入力された車輪速Vfr,Vfl,Vrr,Vrlに基づいて駆動輪73a,73bに空転によるスリップが発生しているか否かを判定する(ステップS310)。判定の結果、駆動輪73a,73bにスリップが生じていないと判定されたときには(ステップS320)、入力した車速VとシフトポジションSPとに基づいて図6に例示する変速マップを用いてインプットシャフト51の目標回転速度Ni*を設定し(ステップS360)、設定した目標回転速度Ni*でCVT50を制御して(ステップS370)、本ルーチンを終了する。ここで、目標回転速度Ni*の設定は、マニュアル変速モード時ではシフトレバー81からのシフトポジションSPとしてはアップシフト指示ポジションが選択されると1段だけアップシフトされダウンシフト指示ポジションが選択されると1段だけダウンシフトされるから、シフト段M1〜M7のうち現在設定されているシフト段に対応する車速Vと目標回転速度Ni*との関係を用いて車速Vから目標回転速度Ni*を導出することにより行なわれる。
一方、ステップ320で両輪スリップと判定されると、車速Vと所定車速Vrefとを比較する(ステップS330)。両輪スリップを判定され且つ車速Vが所定車速Vref以上のときには、車速VとシフトポジションSPとに基づいてインプットシャフト51の目標回転速度Ni*を設定してCVT50を制御する(ステップS360,S370)。一方、両輪スリップと判定されたが車速Vが所定車速Vref未満のときや片輪スリップと判定されたときには、シフトポジションSPを調べ(ステップS340)、シフトポジションSPが所定のシフト段Sn(実施例では、M4)よりも大きいとき(アップシフト側のシフト段)にはシフト段Snに固定し(ステップS350)、固定したシフト段SnのシフトポジションSPと車速Vとに基づいて目標回転速度Ni*を設定してCVT50を制御する(ステップS360,S370)。ここで、所定のシフト段Snは、実施例では、前述した制限変速比γrefに形成するシフト段として設定されている。したがって、この場合には、アップシフト指示ポジションを選択しても、所定のシフト段Snを超えるアップシフトは行なわれないから、両輪スリップ時に車速Vが所定車速Vref未満のときや片輪スリップ時にCVT50の変速比が制限変速比γrefを下回ることはない。
以上説明した実施例の動力伝達装置によれば、通常変速モード時に駆動輪73a,73bの両輪の空転によるスリップが発生したとき、車速Vが所定車速Vref以上のときにはアクセル開度Accと車速Vとに基づいて変速マップを用いて目標回転速度Ni*を設定し、車速Vが所定車速Vref未満のときには停車状態から発進が可能な制限変速比γrefを超えてアップシフトしないよう目標回転速度Ni*を設定してCVT50を制御するから、スリップが収束してグリップしたときに比較的小さな変速比で停車することに起因して発進性能が低下するのを抑制することができる。また、駆動輪73a,73bのうち片輪のみにスリップが発生しているときにも制限変速比γrefを超えてアップシフトしないようCVT50を制御するから、差動回転に伴ってデファレンシャルギヤ72に過回転が生じるのを抑制することができる。しかも、スリップが発生したときに発生時点で設定されている変速比が保持されるよう目標回転速度Ni*を設定し、エンジン回転速度Neが上限回転数Nemaxに至ってエンジンECU24からエンジン回転速度制限要求がなされているときには制限変速比γrefの範囲内で制限回転数Nelimを目標回転速度Ni*とするから、スリップの発生に伴ってエンジン22が過回転するのをより確実に抑制することができる。
また、実施例の動力伝達装置によれば、マニュアル変速モード時に駆動輪73a,73bの両輪の空転によるスリップが発生したとき、車速Vが所定車速Vref以上のときにはシフトポジションSPと車速Vとに基づいて目標回転速度Ni*を設定し、車速Vが所定車速Vref未満のときには停車状態から発進が可能な制限変速比γrefを超えてアップシフトしないよう高速段のシフト操作を禁止すると共に低速段のシフト操作を許可して目標回転速度Ni*を設定してCVT50を制御するから、シフト操作に対する違和感を運転者に与えないようにすることができると共に高速段にアップシフトすることによる不都合すなわちスリップが収束したときに高速段側で停車することに起因して発進性能が低下するのを回避することができる。また、駆動輪73a,73bのうち片輪のみにスリップが発生しているときにも制限変速比γrefを超えてアップシフトしないよう高速段のシフト操作を禁止してCVT50を制御するから、差動回転に伴ってデファレンシャルギヤ72に過回転が生じるのを抑制することができる。
実施例の動力伝達装置では、駆動輪73a,73bにスリップが生じたときにはスリップ時変速比γsに保持されるよう目標回転速度Ni*を設定し、エンジン回転速度Neが上限回転速度Nemaxを超えてエンジンECU24からエンジン回転速度制限要求がなされたときに制限回転数Nelimを目標回転速度Ni*に設定するものとしたが、エンジン回転速度Neが上限回転速度Nemaxに至るのを待つことなく、ステップS190で設定された目標回転速度Ni*が制限回転数Nelimを超えたときには、目標回転速度Ni*を制限回転数Nelimに制限するものとしてもよい。この場合の変速の様子を図7に示す。
実施例の動力伝達装置では、両輪スリップが発生したときでも片輪スリップが発生したときでも同一の制限変速比γrefを下限として目標回転速度Ni*を設定するものとしたが、両輪スリップが発生したときと片輪スリップが発生したときとで異なる制限変速比を用いて目標回転速度Ni*を設定するものとしてもよい。
ここで、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「原動機」に相当し、CVT50が「無段変速機」に相当し、CVTECU59が「スリップ時制御手段」に相当する。ここで、「原動機」としては、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関に限定されるものではなく、水素エンジンなど、如何なるタイプの内燃機関であっても構わないし、内燃機関以外の電動機など、動力を出力可能なものであれば如何なるタイプの原動機であっても構わない。「無段変速機」としては、ベルト式のCVTに限定されるものではなく、トロイダル式のCVTなど、原動機からの動力を入力し無段階に変速して車軸に出力できるものであれば如何なるタイプの無段変速機としても構わない。なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
本発明は、自動車産業に利用可能である。
10 自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、40 トルクコンバータ、50 CVT 51 インプットシャフト、52 アウトプットシャフト、53 プライマリープーリー、54 セカンダリープーリー、55 ベルト、56 第1アクチュエータ、57 第2アクチュエータ、59 CVT用電子制御ユニット(CVTECU)、61,62 回転速度センサ、70 ギヤ機構、72 デファレンシャルギヤ、73a,73b 駆動輪、74a,74b 従動輪、80 メイン電子制御ユニット(メインECU)、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキスイッチ、87 車速センサ、88a,88b,89a,89b 車輪速センサ。

Claims (5)

  1. 車両に搭載され、原動機からの動力を入力し無段階に変速して駆動輪の駆動軸に出力する無段変速機を備える動力伝達装置であって、
    前記駆動輪の空転によるスリップが発生した場合、車速が所定車速以上のときには前記無段変速機の変速比が目標変速比となるよう該無段変速機を制御し、車速が前記所定車速未満のときには前記無段変速機の変速比が所定変速比を下回らないよう該無段変速機を制御するスリップ時制御手段
    を備える動力伝達装置。
  2. 前記スリップ時制御手段は、前記検出された車速が前記所定車速未満の場合、前記スリップが発生したときに設定されている変速比が保持されるよう前記無段変速機を制御し、該変速比を保持すると前記原動機の回転速度が所定回転速度を上回るときには前記所定変速比を下限として該原動機の回転速度が該所定回転速度を上回らないよう前記無段変速機を制御する手段である請求項1記載の動力伝達装置。
  3. 前記スリップ時制御手段は、前記駆動輪の空転によるスリップが左右の駆動輪の一方のみの空転によるスリップの場合には、車速に拘わらず前記無段変速機の変速比が前記所定変速比を下回らないよう該無段変速機を制御する手段である請求項1または2記載の動力伝達装置。
  4. 請求項1ないし3いずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
    シフト操作に基づいて車速と前記入力軸の回転速度との関係として予め定められた複数の回転速度関係から一つを選択し、該選択した回転速度関係を用いて車速に基づいて前記入力軸の目標回転速度を設定して前記無段変速機を制御する手動変速モードを有し、
    前記スリップ時制御手段は、前記手動変速モード時に前記駆動輪の空転によるスリップが発生した場合には、車速が前記所定車速以上のときには前記複数の回転速度関係のすべての選択を許可し、車速が前記所定車速未満のときには前記複数の回転速度関係のうち高速段側の回転速度関係の選択を禁止する手段である
    動力伝達装置。
  5. 前記スリップ時制御手段は、前記手動変速モード時に前記駆動輪の空転により発生したスリップが左右の駆動輪の一方のみの空転によるスリップの場合には、車速に拘わらず前記複数の回転速度関係のうち高速段側の回転速度関係の選択を禁止する手段である請求項4記載の動力伝達装置。
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