JP2010190804A - 動脈硬化改善・予防効果の評価方法及び評価用キット、並びに、物質のスクリーニング方法 - Google Patents

動脈硬化改善・予防効果の評価方法及び評価用キット、並びに、物質のスクリーニング方法 Download PDF

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憲一 三原
Tsugutaka Yamaguchi
亜尚 山口
Jun Mukai
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Masahiro Matsuura
昌宏 松浦
Yuji Naito
裕二 内藤
Toshiichi Yoshikawa
敏一 吉川
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Abstract

【課題】被験物質が有する動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を評価する方法等を提供する。
【解決手段】動脈硬化を発症している動物又は将来の発症リスクが高い動物に被験物質を摂取させ、該動物の体液中における特定のマーカー物質の濃度を基準値と比較し、被験物質が有する動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を評価する。マーカー物質は2種以上を組み合わせて用いる。マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体にマーカー物質を捕捉して、体液中のマーカー物質の濃度を算出する構成が推奨される。該評価方法を用いる物質のスクリーニング方法、該評価方法を簡便に行うことができるキットも提供される。
【選択図】図1

Description

本発明は、動脈硬化改善・予防効果の評価方法及び評価用キット、並びに、物質のスクリーニング方法に関し、さらに詳細には、動脈硬化を発症している動物又は将来の発症リスクが高い動物に被験物質を摂取させ、該動物の体液中におけるマーカー物質の濃度を指標として、被験物質が有する動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を評価する動脈硬化改善・予防効果の評価方法、該評価方法を簡便に行うことができる動脈硬化改善・予防効果の評価用キット、並びに、該評価方法を用いて動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を有する物質をスクリーニングする物質のスクリーニング方法に関する。
近年、食生活の欧米化が進み、それに起因すると考えられる肥満、糖尿病、高脂血症、動脈硬化等の生活習慣病が増加している。これらの発症増加は遺伝的なものではなく、主に環境因子によるものである。例えば、高脂肪食や高カロリー食の摂取による脂質代謝異常が、血中脂質上昇、インスリン抵抗性の発現、脂肪細胞肥大化、インスリン分泌不全等の原因となっている。その結果、糖尿病、肥満、動脈硬化等が高確率で発症し、病態の進展へとつながっている。
動脈硬化とは、動脈壁が肥厚して弾力性がなくなる病態の総称である。動脈硬化にはいくつかの種類があるが、アテローム動脈硬化(粥状硬化)と呼ばれる病態が最も多くみられる。特に注記しない場合には、動脈硬化とはアテローム動脈硬化を指すことも多い。アテローム動脈硬化は、動脈内壁に粥状のプラーク(アテローム)が沈着して血流に支障をきたす状態であり、脳、心臓、腎臓、手足などに重篤な損傷をもたらすおそれがある。すなわち、脳梗塞、脳出血、心筋梗塞、狭心症、腎不全、手足の壊死など、生命に直接かかわる症状につながるおそれがある。動脈硬化が起こる原因については、まだ完全には解明されていない部分もあるが、上記のように肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧等が発症の危険因子とされている。
動脈硬化のような生活習慣病に属する疾病については、予防することの重要性が強調されている。すなわち、生活習慣病は徐々に進行するものが多く、発症初期には自覚症状があまりないことが多い。その結果、発見されたときにはすでに重篤な状態まで進んでいることがあり、予防の重要性が特に高い。このような背景の下、疾病の将来の発症リスクを検出することができるようなバイオマーカー、すなわち「予防マーカー」あるいは「リスクマーカー」と呼ばれるマーカー物質の探索が盛んに行われている。生活習慣病の予防マーカーを用いれば、例えば、当該疾病の将来の発症リスクを判定することが可能となり、事前に生活習慣の是正、食事制限、運動等の適切な処置を行って当該疾病の発症を予防することが可能となる。また、予防マーカーを用いることで、被験物質が当該疾病の発症リスクを低減させるような効果を有するかを容易に調べることも可能となり、食品素材の機能性評価やスクリーニングにも有用である。そして、そのような評価・スクリーニング系で選抜された食品素材を含む食品を日常的に摂取することで、生活習慣病を容易に予防することが可能となる。
生活習慣病関連では、例えば特許文献1に糖尿病の予防マーカー、特許文献2に高脂血症の予防マーカーについての開示がある。ただし、これらは動脈硬化に特化したバイオマーカーではない。一方、動脈硬化に特化したバイオマーカーを探索する試みもあり、例えば特許文献3には炎症のバイオマーカーであるC反応性タンパク(CRP)が、特許文献4には腫瘍マーカーであるα−フェトプロテイン(AFP)が動脈硬化のバイオマーカーとしても使えるとの記載がある。しかしながら、CRPやAFPについては動脈硬化とは全く異なる臨床的意義(炎症や発がん)が確立しており、動脈硬化のバイオマーカーとしては特異性の面で使いにくい。したがって、動脈硬化の将来の発症リスク診断や、被験物質が有する動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を可能にする新たなマーカー物質を特定することが望まれている。
国際公開第2006/073195号パンフレット 特開2007−064747号公報 特表2001−525058号公報 特開2007−010567号公報
本発明の目的は、動脈硬化の予防マーカーとなり得るマーカー物質を新たに特定し、該マーカー物質を用いて被験物質が有する動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を評価する方法等を提供することにある。
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、動脈硬化を発症している動物又は将来の発症リスクが高い動物に被験物質を摂取させ、該動物の体液中における下記(MA1)〜(MA6):
(MA1)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約5200のイオンピークを生じるタンパク質又はそのホモログ、
(MA2)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、質量分析に供すると質量/電荷比が約6830のイオンピークを生じるタンパク質又はそのホモログ、
(MA3)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約7000のイオンピークを生じるタンパク質又はそのホモログ、
(MA4)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約7090のイオンピークを生じるタンパク質又はそのホモログ、
(MA5)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約7560のイオンピークを生じるタンパク質又はそのホモログ、及び
(MA6)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約8720のイオンピークを生じるタンパク質又はそのホモログ、
からなる群より選ばれた少なくとも1種のマーカー物質の濃度、並びに、
下記(MB1)〜(MB2):
(MB1)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、質量分析に供すると質量/電荷比が約4240のイオンピークを生じるタンパク質又はそのホモログ、及び
(MB2)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、質量分析に供すると質量/電荷比が約5070のイオンピークを生じるタンパク質又はそのホモログ、
からなる群より選ばれた少なくとも1種のマーカー物質の濃度を基準値と比較し、被験物質が有する動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を評価することを特徴とする動脈硬化改善・予防効果の評価方法である。
本発明の動脈硬化改善・予防効果の評価方法は、動脈硬化を発症している動物又は将来の発症リスクが高い動物に被験物質を摂取させ、該動物の体液中における上記(MA1)〜(MA6)の少なくとも1種、並びに、上記(MB1)〜(MB2)の少なくとも1種の濃度を基準値と比較し、被験物質が有する動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を評価するものである。上記マーカー物質(MA1)〜(MA6)及び(MB1)〜(MB2)は、いずれも動脈硬化の発症直前段階にある動物の体液中で特異的に検出されるタンパク質であり、動脈硬化の予防マーカー・リスクマーカーとして有用なものである。本発明の動脈硬化改善・予防効果の評価方法によれば、体液中のマーカー物質を指標とするので、被験物質が有する動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を容易に評価することができる。また本発明では、(MA1)〜(MA6)から選ばれたマーカー物質と(MB1)〜(MB2)から選ばれたマーカー物質との組み合わせからなる複数種のマーカー物質を指標とするので、当該効果を高精度に評価することができる。なお、「動物」には、マウス等の飼育可能な動物の他、ヒトも含むものとする。
ここで、各マーカー物質における質量/電荷比(以下、「m/z」と略記することもある。)の「約4240」、「約6830」、「約8720」等の値は、質量分析における測定値の誤差範囲を考慮した値であり、概ね±0.2%の幅を有する。すなわち、約4240は概ね4240±0.2%、約6830は概ね6830±0.2%、約8720は概ね8720±0.2%を表す。他の質量/電荷比についても全く同様に、概ね±0.2%の幅を有する。また、これらのマーカー物質はいずれも主に血液中に存在するタンパク質である。被験物質が動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を有する場合、動物の体液中のマーカー物質(MA2)、(MA3)、及び(MB1)の濃度はより低値を示し、(MA1)、(MA4)、(MA5)、(MA6)、及び(MB2)の濃度はより高値を示す。
請求項2に記載の発明は、 下記(a)〜(f)の少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項1に記載の動脈硬化改善・予防効果の評価方法である。
(a)マーカー物質(MA1)はアポリポタンパク質A2の断片である、
(b)マーカー物質(MA2)はアポリポタンパク質C1の断片である、
(c)マーカー物質(MA3)はアポリポタンパク質C1である、
(d)マーカー物質(MA6)はアポリポタンパク質A2である、
(e)マーカー物質(MB1)はα1−アンチトリプシン1−1の断片である、
(f)マーカー物質(MB2)はアポリポタンパク質A2の断片である。
アポリポタンパク質A2、アポリポタンパク質C1、及びα1−アンチトリプシン1−1は、いずれも物理化学的性質がよく知られている物質であるので、本発明の動脈硬化改善・予防効果の評価方法によればマーカー物質(MA1)、(MA2)、(MA3)、(MA6)、(MB1)、及び(MB2)の解析が容易である。
請求項3に記載の発明は、動脈硬化を発症している動物又は将来の発症リスクが高い動物に被験物質を摂取させ、該動物の体液中における下記(NA1)〜(NA4):
(NA1):配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はそのホモログ、
(NA2):配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はそのホモログ、
(NA3):配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はそのホモログ、及び
(NA4):配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はそのホモログ、
からなる群より選ばれた少なくとも1種のマーカー物質の濃度、並びに、
下記(NB1)〜(NB2):
(NB1):配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はそのホモログ、及び
(NB2):配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はそのホモログ、
からなる群より選ばれた少なくとも1種のマーカー物質の濃度を基準値と比較し、被験物質が有する動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を評価することを特徴とする動脈硬化改善・予防効果の評価方法である。
本発明の動脈硬化改善・予防効果の評価方法は、動脈硬化を発症している動物又は将来の発症リスクが高い動物に被検物質を摂取させ、該動物の体液中における上記(NA1)〜(NA4)の少なくとも1種、並びに、上記(NB1)〜(NB2)の少なくとも1種の濃度を基準値と比較し、被検物質が有する動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を評価するものである。上記(NA1)〜(NA4)及び(NB1)〜(NB2)のマーカー物質は、いずれも動脈硬化の発症直前段階にある動物の体液中で特異的に検出されるタンパク質であり、動脈硬化の予防マーカー・リスクマーカーとして有用なものである。本発明の動脈硬化改善・予防効果の評価方法によれば、被検物質が有する動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を、容易かつ高精度に評価することができる。なお本発明においても、「動物」には、マウス等の飼育可能な動物の他、ヒトも含むものとする。
(NA1)〜(NA4)及び(NB1)〜(NB2)のマーカー物質は、いずれも主に血液中に存在する。被験物質が動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を有する場合、動物の体液中のマーカー物質(NA2)、(NA3)、及び(NB1)の濃度はより低値を示し、(NA1)、(NA4)、及び(NB2)の濃度はより高値を示す。
請求項4に記載の発明は、前記基準値は、動脈硬化を発症している動物又は将来の発症リスクが高い動物に、動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を有さない既知物質を摂取させた際の、該動物の体液中における前記マーカー物質の濃度であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の動脈硬化改善・予防効果の評価方法である。
かかる構成により、被験物質が有する動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を、より容易かつ高精度に評価することができる。
請求項5に記載の発明は、前記動脈硬化を発症している動物又は将来の発症リスクが高い動物は、自然発症モデル動物又は遺伝子操作モデル動物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の動脈硬化改善・予防効果の評価方法である。
本発明の動脈硬化改善・予防効果の評価方法では、動脈硬化を発症している動物又は将来の発症リスクが高い動物として、自然発症モデル動物又は遺伝子操作モデル動物を用いる。かかる構成により、動物の飼育が容易となり、被験物質が有する動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を、きわめて容易に評価することができる。なお当該動物の例としては、アポリポタンパク質E遺伝子欠損マウス(以下、「アポE欠損マウス」と略記する。)が挙げられる。アポE欠損マウスは通常の飼育でアテロームを形成し、動脈硬化発症モデル動物の標準として各分野で採用されているものである。
請求項6に記載の発明は、前記体液は、血液であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の動脈硬化改善・予防効果の評価方法である。
かかる構成により、測定試料となる体液を簡単に採取でき、より簡便かつ迅速に、被験物質が有する動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を評価することができる。
請求項7に記載の発明は、前記被験物質は、食品素材又は医薬であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の動脈硬化改善・予防効果の評価方法である。
かかる構成により、機能性食品や医薬の開発を目的として、被験物質が有する動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を評価することができる。
請求項8に記載の発明は、前記体液又は体液成分を、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体に接触させて、体液中の前記マーカー物質を担体上に捕捉し、捕捉された前記マーカー物質の量に基づいて体液中の前記マーカー物質の濃度を算出することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の動脈硬化改善・予防効果の評価方法である。
本発明の動脈硬化改善・予防効果の評価方法においては、マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を使用する。そして、該担体に体液又は体液成分を接触させて、体液又は体液成分に含まれるマーカー物質を、マーカー物質に対する親和性を有する物質を介して担体上に捕捉し、捕捉されたマーカー物質の量に基づいて体液中のマーカー物質の濃度を算出する。本発明の動脈硬化改善・予防効果の評価方法によれば、担体上に捕捉されたマーカー物質を測定対象とするので、測定試料中に含まれる夾雑物質の影響を低減させることができ、より高感度かつ高精度でマーカー物質の濃度を測定することができる。なお、体液成分の例としては、体液が血液である場合の血清又は血漿が挙げられる。
請求項9に記載の発明は、前記担体は平面部分を有し、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、該平面部分の一部に固定化されていることを特徴とする請求項8に記載の動脈硬化改善・予防効果の評価方法である。
本発明の動脈硬化改善・予防効果の評価方法では、平面部分を有する担体を用い、マーカー物質に対する親和性を有する物質は該平面部分の一部に固定化されている。かかる構成により、マーカー物質に対する親和性を有する物質を、担体上の複数箇所にスポット的に固定化することができる。その結果、複数種のマーカー物質の濃度を測定する際に、1個の担体で同時測定することが可能となり、作業効率がよい。また、1個の担体で複数の測定試料を同時処理することも可能となる。さらに、各スポットの面積を小さくすることにより、微量の測定試料からでもマーカー物質の濃度を測定することができる。なお、平面部分を有する担体の例としては、チップ等の基板が挙げられる。
請求項10に記載の発明は、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体又は抗体であることを特徴とする請求項8又は9に記載の動脈硬化改善・予防効果の評価方法である。
本発明の動脈硬化改善・予防効果の評価方法においては、マーカー物質に対する親和性を有する物質としてイオン交換体又は抗体を用い、イオン交換体又は抗体を介して測定試料中のマーカー物質を担体上に捕捉する。当該物質がイオン交換体の場合は各種のものが入手容易であり、マーカー物質を捕捉するための担体を容易に調製することができる。また、当該物質が抗体の場合は、より特異的にマーカー物質を捕捉することができる。捕捉されたマーカー物質の量を測定する方法としては、質量分析、イムノアッセイ(抗体の場合)が挙げられる。
請求項11に記載の発明は、請求項1〜10のいずれか1項に記載の動脈硬化改善・予防効果の評価方法によって被験物質を評価し、動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を有する物質をスクリーニングすることを特徴とする物質のスクリーニング方法である。
本発明は物質のスクリーニング方法にかかり、動物の体液中における上記(MA1)〜(MA6)の少なくとも1種、並びに、上記(MB1)〜(MB2)の少なくとも1種の濃度を基準値と比較し、あるいは、上記(NA1)〜(NA4)の少なくとも1種、並びに、上記(NB1)〜(NB2)の少なくとも1種の濃度を基準値と比較し、動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を有する物質をスクリーニングするものである。上記マーカー物質(MA1)〜(MA6)、(MB1)〜(MB2)、(NA1)〜(NA4)、及び(NB1)〜(NB2)は、いずれも動脈硬化の発症直前段階にある動物の体液中で特異的に検出されるタンパク質であり、動脈硬化の予防マーカー・リスクマーカーとして有用なものである。本発明の物質のスクリーニング方法によれば、動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を有する物質を、容易かつ高精度にスクリーニングすることができる。特に、被験物質が食品素材や医薬の場合は、動脈硬化の改善効果を有する機能性食品や医薬又は将来の発症リスクの低減効果を有する機能性食品や医薬の開発に有用な食品素材をスクリーニングすることができる。
請求項12に記載の発明は、請求項1〜10のいずれか1項に記載の動脈硬化改善・予防効果の評価方法に用いるためのキットであって、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含むことを特徴とする動脈硬化改善・予防効果の評価用キットである。
本発明の動脈硬化改善・予防効果の評価用キットは、マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含む。かかる構成により、マーカー物質の濃度測定に際して当該担体を別途用意する必要がなく、きわめて簡便にマーカー物質の濃度を測定することができる。
請求項13に記載の発明は、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体であることを特徴とする請求項12に記載の動脈硬化改善・予防効果の評価用キットである。
かかる構成により、マーカー物質をより確実に担体上に捕捉することができる。
動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を有する物質をスクリーニングするために使用される構成が推奨される(請求項14)。
本発明の動脈硬化改善・予防効果の評価方法によれば、被験物質が有する動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を、容易かつ高精度に評価することができる。
本発明の物質のスクリーニング方法によれば、動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を有する物質を、容易かつ高精度にスクリーニングすることができる。
本発明の動脈硬化改善・予防効果の評価用キットによれば、マーカー物質の濃度測定に際して当該担体を別途用意する必要がなく、きわめて簡便にマーカー物質の濃度を測定することができる。
質量/電荷比が5200(平均値)のイオンピークについての箱髭図であり、(a)はアゼルニジピン、(b)は紅花種子抽出物を、第3群と第4群に摂取させた場合を示す。 質量/電荷比が6832(平均値)のイオンピークについての箱髭図であり、(a)はアゼルニジピン、(b)は発酵乳を、第3群と第4群に摂取させた場合を示す。 質量/電荷比が7004(平均値)のイオンピークについての箱髭図であり、(a)はアゼルニジピン、(b)は発酵乳を、第3群と第4群に摂取させた場合を示す。 質量/電荷比が7093(平均値)のイオンピークについての箱髭図を示す。 質量/電荷比が7562(平均値)のイオンピークについての箱髭図を示す。 質量/電荷比が8723(平均値)のイオンピークについての箱髭図であり、(a)はアゼルニジピン、(b)は紅花種子抽出物を、第3群と第4群に摂取させた場合を示す。 質量/電荷比が4239(平均値)のイオンピークについての箱髭図を示す。 質量/電荷比が5065(平均値)のイオンピークについての箱髭図を示す。 実施例2で行ったSDS−PAGEの結果を示す写真である。 実施例2で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図である。 実施例3で行ったSDS−PAGEの結果を示す写真である。 実施例3で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図である。 実施例4で行ったSDS−PAGEの結果を示す写真である。 実施例4で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図である。 実施例5で行ったSDS−PAGEの結果を示す写真である。 実施例5で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図である。 実施例6で行ったSDS−PAGEの結果を示す写真である。 実施例6で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図である。
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
本発明の動脈硬化改善・予防効果の評価方法(以下、「本発明の評価方法」と略記することがある。)の1つの様相では、動脈硬化を発症している動物又は将来の発症リスクが高い動物(以下、「動脈硬化発症・高リスク動物」と称することがある。)に被験物質を摂取させ、該動物の体液中における上記(MA1)〜(MA6):
(MA1)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約5200のイオンピークを生じるタンパク質又はそのホモログ、
(MA2)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、質量分析に供すると質量/電荷比が約6830のイオンピークを生じるタンパク質又はそのホモログ、
(MA3)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約7000のイオンピークを生じるタンパク質又はそのホモログ、
(MA4)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約7090のイオンピークを生じるタンパク質又はそのホモログ、
(MA5)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約7560のイオンピークを生じるタンパク質又はそのホモログ、及び
(MA6)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約8720のイオンピークを生じるタンパク質又はそのホモログ、
からなる群より選ばれた少なくとも1種のマーカー物質の濃度、並びに、
下記(MB1)〜(MB2):
(MB1)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、質量分析に供すると質量/電荷比が約4240のイオンピークを生じるタンパク質又はそのホモログ、及び
(MB2)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、質量分析に供すると質量/電荷比が約5070のイオンピークを生じるタンパク質又はそのホモログ、
からなる群より選ばれた少なくとも1種のマーカー物質の濃度を基準値と比較し、被験物質が有する動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果(以下、「動脈硬化の改善等効果」と称することがある。)を評価する。以下、(MA1)〜(MA6)からなるマーカー物質の群を「MA群」、(MB1)〜(MB2)からなるマーカー物質の群を「MB群」と称することがある。
MA群、MB群に属するマーカー物質はいずれも主に血液中に存在するタンパク質であり、動脈硬化の発症直前段階にある動物体内で特異的に検出されるものである。なお、(MA2)、(MA3)、及び(MB1)の各マーカー物質は、動脈硬化を発症している状態又は動脈硬化の将来の発症リスクが高い状態でより高値を示すものであるので、被験物質が動脈硬化の改善等効果を有する場合には、当該被験物質を摂取させた動物においてより低値を示す(以下、これらのマーカー物質を包含するグループを「グループ1」と称することがある。)。一方、(MA1)、(MA4)、(MA5)、(MA6)、及び(MB2)の各マーカー物質は、動脈硬化を発症している状態又は動脈硬化の将来の発症リスクが高い状態でより低値を示すものであるので、被験物質が動脈硬化の改善等効果を有する場合には、当該被験物質を摂取させた動物においてより高値を示す(以下、これらのマーカー物質を包含するグループを「グループ2」と称することがある。)。
N末端アミノ酸解析の結果と質量/電荷比の情報から、マーカー物質(MA1)と(MB2)は「アポリポタンパク質A2の断片」と同定され得る。また、ある条件のペプチドマッピングと質量/電荷比の情報から、マーカー物質(MA2)は「アポリポタンパク質C1の断片」、マーカー物質(MA3)は「アポリポタンパク質C1」、マーカー物質(MA6)は「アポリポタンパク質A2」、マーカー物質(MB1)は「α1−アンチトリプシン1−1の断片」とそれぞれ同定され得る。すなわち、ある実施形態では、下記(a)〜(f)の少なくとも1つを満たす。
(a)マーカー物質(MA1)はアポリポタンパク質A2の断片である、
(b)マーカー物質(MA2)はアポリポタンパク質C1の断片である、
(c)マーカー物質(MA3)はアポリポタンパク質C1である、
(d)マーカー物質(MA6)はアポリポタンパク質A2である、
(e)マーカー物質(MB1)はα1−アンチトリプシン1−1の断片である、
(f)マーカー物質(MB2)はアポリポタンパク質A2の断片である。
本発明の動脈硬化改善・予防効果の評価方法の他の様相では、動脈硬化を発症している動物又は将来の発症リスクが高い動物に被験物質を摂取させ、該動物の体液中における下記(NA1)〜(NA4):
(NA1):配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はそのホモログ、
(NA2):配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はそのホモログ、
(NA3):配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はそのホモログ、及び
(NA4):配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はそのホモログ、
からなる群より選ばれた少なくとも1種のマーカー物質の濃度、並びに、
下記(NB1)〜(NB2):
(NB1):配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はそのホモログ、及び
(NB2):配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はそのホモログ、
からなる群より選ばれた少なくとも1種のマーカー物質の濃度を基準値と比較し、被験物質が有する動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を評価する。以下、(NA1)〜(NA4)からなるマーカー物質の群を「NA群」、(NB1)〜(NB2)からなるマーカー物質の群を「NB群」と称することがある。
ここで「ホモログ」とは、アミノ酸残基の数が略同じで、アミノ酸配列の相同性が概ね70%以上であるタンパク質又はポリペプチドをいう。アミノ酸配列の相同性については、例えば、BLAST (Basic Local Alignment Search Tool) データベースを用いて調べることができる。具体的には、SWISS-PLOT等のアミノ酸配列を検索した結果「identities」で示される値を、相同性の値とすることができる。
ホモログは、例えば、異なる動物由来の同機能タンパク質同士で見出される。例えば、マウス由来のα1−アンチトリプシン1−1断片(配列番号7)のホモログとしては、ラット由来(配列番号22;相同性85%)、ウシ由来(配列番号23;相同性82%)、サル由来(配列番号24;相同性88%)、ヒト由来(配列番号25;相同性88%)の各α1−アンチトリプシン1−1断片が挙げられる。
同様に、マウス由来のアポリポタンパク質A2断片(配列番号3)のホモログとしては、ラット由来(配列番号26;相同性76%)、ウシ由来(配列番号27;相同性77%)、サル由来(配列番号28;相同性77%)、ヒト由来(配列番号29;相同性77%)の各アポリポタンパク質A2断片が挙げられる。同様に、マウス由来の別のアポリポタンパク質A2断片(配列番号2)のホモログとしては、ラット由来(配列番号30;相同性80%)、ウシ由来(配列番号31;相同性82%)、サル由来(配列番号32;相同性86%)、ヒト由来(配列番号33;相同性86%)の各アポリポタンパク質A2断片が挙げられる。
ホモログは、例えば、同種の動物由来のアイソフォーム同士でも見出される。例えば、α1−アンチトリプシンには、アミノ酸配列がわずかに異なる5種のアイソフォーム(α1−アンチトリプシン1−1から1−5)が見出されている。そしてマウス由来のα1−アンチトリプシン1−1断片(配列番号7)のホモログとして、マウス由来のα1−アンチトリプシン1−2断片(配列番号34;相同性97%)、同α1−アンチトリプシン1−3断片(配列番号35;相同性92%)、同α1−アンチトリプシン1−4断片(配列番号36;相同性94%)、同α1−アンチトリプシン1−5断片(配列番号37;相同性83%)が挙げられる。
上記した「タンパク質又はそのホモログ」には、翻訳後に修飾を受けたものも含まれるものとする。修飾の例としては、N末端αアミノ基やリジンεアミノ基のメチル化、アセチル化、アデニリル化、ミリスチル化等;セリン・スレオニン・アスパラギンへの糖又は糖鎖の付加;セリン・スレオニン・チロシン・アルギニン・ヒスチジンのリン酸化;システインのシステイニル化、ホモシステイニル化、スルホニル化等;グルタミン酸のγ−カルボキシル化;N末端グルタミン酸のピログルタミン酸への変換、等が挙げられる。また、これらの修飾の脱離(脱メチル化、糖又は糖鎖の脱離、脱リン酸化等)も「修飾」に含まれる。
タンパク質の全長と断片との関係については、例えば、マウス由来アポリポタンパク質A2(配列番号1)のアミノ酸番号18(Phe)〜63(Leu)の部分に相当するタンパク質断片(配列番号2)と、アミノ酸番号29(Val)〜73(Leu)の部分に相当するタンパク質断片(配列番号3)は、いずれも「アポリポタンパク質A2の断片」である。
また、シグナル配列が切断された後のアポリポタンパク質C1(配列番号4)のN末端アミノ酸配列は「Ala−Pro」から始まるが、これら2つのアミノ酸は切断され得ることが報告されている(Oleg Chertov et al., Proteomics, Vol. 4, No. 4, 2004)。このようなN末端の2アミノ酸が欠損したアポリポタンパク質C1のタンパク質断片(配列番号5)は「アポリポタンパク質C1の断片」である。
さらに、マウス由来α1−アンチトリプシン1−1(配列番号6)のアミノ酸番号354(Ser)〜389(Lys)に相当するC末端側の36アミノ酸からなるタンパク質断片(配列番号7)は、「α1−アンチトリプシン1−1の断片」である。
NA群、NB群に属するマーカー物質はいずれも主に血液中に存在するタンパク質であり、動脈硬化の発症直前段階にある動物体内で特異的に検出されるものである。通常、(NA1)、(NA2)、(NA3)、(NA4)の各マーカー物質は、ぞれぞれ(MA1)、(MA2)、(MA3)、(MA6)の各マーカー物質に相当する。また、(NB1)、(NB2)の各マーカー物質は、ぞれぞれ(MB1)、(MB2)の各マーカー物質に相当する。すなわち、(NA2)、(NA3)、(NB1)の各マーカー物質は「グループ1」に属し、(NA1)、(NA4)、(NB2)の各マーカー物質は「グループ2」に属する。
本発明の評価方法では、MA群に属するマーカー物質の少なくとも1種とMB群に属するマーカー物質の少なくとも1種、あるいは、NA群に属するマーカー物質の少なくとも1種と、NB群に属するマーカー物質の少なくとも1種を組み合わせて用いる。ここで、MA群又はNA群とMB群又はNB群とから各々1種のみを選択して用いてもよいし、いずれか一方又は両方の群から複数種のマーカー物質を選択して用いてもよい。複数種を選択する場合の組み合わせ方については特に限定はないが、例えば、グループ1から選択したマーカー物質とグループ2から選択したマーカー物質とを組み合わせることができる。
本発明の評価方法の好ましい実施形態では、上記基準値として、動脈硬化を発症している動物又は将来の発症リスクが高い動物(動脈硬化発症・高リスク動物)に、動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果(動脈硬化の改善等効果)を有さない既知物質を摂取させた際の、該動物の体液中における前記マーカー物質の濃度を用いる。すなわち、動脈硬化発症・高リスク動物に、動脈硬化の改善等効果を有さない既知物質を摂取させた場合、その体液中の上記マーカー物質の濃度は「異常値」となる。そして、被験物質を摂取させた上記動物における値(測定値)と当該基準値(異常値)とを比較し、測定値が基準値と有意に差がありかつ正常側である場合(正常側に維持された場合)に、当該被験物質が「動脈硬化の改善等効果を有する」と評価することができる。具体的には、グループ1に属するマーカー物質を指標とする場合は、測定値が当該基準値に比べて有意に低いときに、一方、グループ2に属するマーカー物質を指標とする場合は、測定値が基準値に比べて有意に高いときに、当該被験物質が「動脈硬化の改善等効果を有する」と評価することができる。
さらに、基準値は複数あってもよい。例えば、上記の異常値に加え、動脈硬化を発症していない動物又は動脈硬化の発症リスクが低い動物(以下、「動脈硬化未発症・低リスク動物」と称することがある。)における値(正常値。陰性対照。)を基準値に加えることができる。具体的には、
(1)動脈硬化未発症・低リスク動物に、普通食又は被験物質を摂取させる群(正常値を示す群)、
(2)動脈硬化発症・高リスク動物に、「動脈硬化の改善等効果を有さない既知物質」を摂取させる群(異常値を示す群)、及び、
(3)動脈硬化発症・高リスク動物に被験物質を摂取させる群、
の計3群を設定し、動物を飼育する。そして、各動物の体液中の上記マーカー物質を測定し、各測定値を比較する。このとき、(1)と(2)とで有意差があり、(3)と(2)とで有意差があり、かつ(3)が(2)に比べて正常側((1)に近い側)である場合(正常側に維持された場合)に、当該被験物質が「動脈硬化の改善等効果を有する」と評価することができる。
さらに、基準値として、
(4)動脈硬化発症・高リスク動物に、「動脈硬化の改善等効果を有する既知物質」を摂取させる群、
の動物における値(陽性対照)を加えることもできる。具体的には、上記(1)〜(3)に加えて、上記(4)の群を設定し、動物を飼育する。このとき、(1)と(2)とで有意差があり、(3)と(2)とで有意差があり、かつ(3)が(2)に比べて正常側((1)及び(4)に近い側)である場合に、当該被験物質が「動脈硬化の改善等効果を有する」と評価することができる。すなわち、このような被験物質は、(4)で採用した上記既知物質と同様の挙動を示し、同様の作用を有する物質といえる。
「動脈硬化の改善等効果を有する既知物質」の例としては、アゼルニジピン等の降圧剤(カルシウム拮抗薬)が挙げられる。さらに、食品素材では、発酵乳、紅花種子抽出物などが挙げられる。なお、発酵乳の動脈硬化に対する効果等については、例えば、インターネット<URL:http://www.calpis.co.jp/corporate/press/nrl_00007.html>(2007年7月13日 日本動脈硬化学会にて発表)に記載されている。また、紅花種子抽出物の動脈硬化に対する効果等については、例えば、国際公開第03/086437号パンフレット、国際公開第2005/034975号パンフレットに記載されている。
「動脈硬化を発症している動物又は将来の発症リスクが高い動物」(動脈硬化発症・高リスク動物)における動物の種類には特に限定はなく、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ブタ等を採用することができる。また、動脈硬化発症・高リスク動物としては、動脈硬化の自然発症モデル動物、あるいはトランスジェニックやジーンターゲッティングによる遺伝子操作モデル動物が好ましく用いられる。当該動物の具体例としては、アポE欠損マウスが挙げられる。アポE欠損マウスは通常飼育で動脈硬化を発症するので、飼育実験を容易に行うことができ、特に好適である。
なお、アポE欠損マウスを通常飼育するといずれ動脈硬化を発症するが、その発症は飼育20週目ごろから検出可能となることが分かっている(例えば、Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology; 2004; 24; 1006-1014)。よって、飼育20週目以前、例えば飼育14週目のアポE欠損マウスは、動脈硬化の発症直前段階にあるといえる。本発明の評価方法で用いるマーカー物質(MA1)〜(MA6)及び(MB1)〜(MB2)は、飼育14週目のアポE欠損マウスの体液中に存在し、動脈硬化の発症直前段階にないマウス(例えば、正常マウス)と比較してその体液中の濃度に有意差を示す。したがって、本発明においてアポE欠損マウスを用いる場合には、例えば、飼育14週目ごろの体液を測定試料として各マーカー物質の濃度を測定すればよい。
一方、高コレステロール食を摂取するとアテローム形成するような動脈硬化自然発症モデル動物を用いることもできる。この場合には、例えば、被験物質とコレステロールとを同時摂取させることにより、被験物質が有する動脈硬化の改善等効果を評価することができる。さらに、動物としてヒトを採用することもできる。この場合には、臨床試験の結果によって物質を評価することになる。
本発明の評価方法において使用する動物の体液としては、血液が好ましく用いられる。特に、血液から調製した血清又は血漿(体液成分)を測定試料とすることが好ましい。血清又は血漿は遠心分離等の公知の方法で血液から調製することができる。
本発明の評価方法における被験物質としては、食品素材、医薬原体などが挙げられる。すなわち、食品素材や医薬原体を評価対象とする場合は、機能性食品や医薬の開発に役立てることができる。
本発明の評価方法において、マーカー物質の濃度を測定する方法は、そのマーカー物質の濃度を特異的に測定できる方法であれば、タンパク質の定量に一般に用いられている方法をそのまま用いることができる。例えば、各種のイムノアッセイ、質量分析(MS)、クロマトグラフィー、電気泳動等を用いることができる。
イムノアッセイによれば、夾雑物質の多い試料のままでも正確にマーカー物質の濃度を測定することができる。イムノアッセイの例としては、抗原抗体結合物を直接的又は間接的に測定する沈降反応、凝集反応、溶血反応などの古典的な方法や、標識法と組み合わせて検出感度を高めたエンザイムイムノアッセイ(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)等の方法が挙げられる。なお、これらのイムノアッセイに用いるマーカー物質に特異的な抗体は、モノクローナルでもよいし、ポリクローナルでもよい。
質量分析によれば、各マーカー物質由来のイオンピークを特定し、そのイオンピーク強度をもって各マーカー物質の量(濃度)を測定することができる。質量分析によってマーカー物質の濃度を測定する場合のイオン化の方法としては、マトリクス支援レーザーイオン化(matrix-assisted laser desorption/ionization、MALDI)、エレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization、ESI)のいずれも適用可能であるが、多価イオンの生成が少ないMALDIが好ましい。特に、飛行時間質量分析計(time-of-flight mass spectrometer、TOF)と組み合わせたMALDI−TOF−MSによれば、より正確にマーカー物質由来のイオンピークを特定することができる。
電気泳動によりマーカー物質の濃度を測定する場合は、例えば、検査材料をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に供して目的のマーカー物質を分離し、適宜の色素や蛍光物質でゲルを染色し、目的のマーカー物質に相当するバンドの濃さや蛍光強度を測定すればよい。SDS−PAGEだけではマーカー物質の分離が不十分な場合は、等電点電気泳動(IEF)と組み合わせた2次元電気泳動を用いることもできる。さらに、ゲルから直接検出するのではなく、ウエスタンブロッティングを行って膜上のマーカー物質の量を測定することもできる。
クロマトグラフィーによってマーカー物質の濃度を測定する場合は、例えば、液体高速クロマトグラフィー(HPLC)による方法を用いることができる。すなわち、試料をHPLCに供して目的のマーカー物質を分離し、そのクロマトグラムのピーク面積を測定することにより試料中のマーカー物質の濃度を測定することができる。
好ましい実施形態では、マーカー物質を担体上に捕捉し、その捕捉されたマーカー物質を測定対象とする。すなわち、マーカー物質に対する親和性を有する物質を担体に固定化し、その親和性を有する物質を介してマーカー物質を担体上に捕捉する。そして、捕捉された前記マーカー物質の量に基づいて体液中の前記マーカー物質の濃度を算出する。本実施形態によれば、試料中に含まれる夾雑物質の影響を低減させることができ、より高感度かつ高精度でマーカー物質の濃度を測定することができる。本実施形態において用いることができる担体の例としては、ビーズ、金属、ガラス、樹脂等のような一般的なものの他、基板のような、平面部分を有する担体を用いることができる。基板を用いる場合は、その平面部分の一部にマーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化することが好ましい。例としては、基板としてチップを用い、その表面の複数箇所にスポット的にマーカー物質に親和性を有する物質を固定化した担体が挙げられる。なお「親和性」の例としては、イオン結合、金属キレート体とタンパク質中のヒスチジン残基等とのアフィニティ、抗原と抗体、酵素と基質、若しくはホルモンとレセプターのようなバイオアフィニティ、及び、疎水性相互作用のような化学的な相互作用、が挙げられる。
イオン結合によってマーカー物質を担体に捕捉する場合は、イオン交換体を担体に固定化する。この場合、イオン交換体には陽イオン交換体、陰イオン交換体のいずれも用いることができ、さらに、強陽イオン交換体、弱陽イオン交換体、強陰イオン交換体、弱陰イオン交換体のいずれも用いることができるが、強陰イオン交換体と弱陽イオン交換体が好ましく用いられる。強陰イオン交換体の例としては、4級アンモニウム(トリメチルアミノメチル)(QA)、4級アミノエチル(ジエチル,モノ・2−ヒドロキシブチルアミノエチル)(QAE)、4級アンモニウム(トリメチルアンモニウム)(QMA)等の強陰イオン交換基を有するものが挙げられる。また、弱陽イオン交換体の例としては、カルボキシメチル(CM)等の弱陽イオン交換基を有するものが挙げられる。また、強陽イオン交換体の例としては、スルホプロピル(SP)等の強陽イオン交換基を有するものが挙げられる。さらに、弱陰イオン交換体の例としては、ジメチルアミノエチル(DE)、ジエチルアミノエチル(DEAE)等の弱陰イオン交換基を有するものが挙げられる。
金属キレート体を介してマーカー物質を捕捉する場合は、例えば、Cu2+、Zn2+、Ni2+、Co2+、Al3+、Fe3+、Ga3+等の金属キレート体を固定化した担体を用いることができる。
抗体によってマーカー物質を担体に捕捉する場合は、マーカー物質に特異的な抗体を担体に固定化すればよい。
疎水性相互作用によってマーカー物質を担体に捕捉する場合は、担体に疎水基をもつ物質を固定化する。疎水基の例としては、C4〜C20のアルキル基、フェニル基等が挙げられる。
本実施形態においてマーカー物質の測定方法にイムノアッセイを用いる場合は、抗体を固定化した担体を用いることが好ましい。このようにすれば、担体に固定化された抗体を1次抗体としたイムノアッセイの系を簡単に構築することができる。例えば、マーカー物質に特異的でエピトープの異なる2種類の抗体を用意し、一方を1次抗体として担体に固定化し、他方を2次抗体として酵素標識し、サンドイッチEIAの系を構築することができる。その他、結合阻止法や競合法によるイムノアッセイの系も構築可能である。さらに、担体として基板を用いる場合は、抗体チップによるイムノアッセイが可能である。抗体チップによれば、複数のマーカー物質の濃度を同時に測定でき、迅速な測定が可能である。
一方、本実施形態において質量分析を用いる場合は、例えば、抗体の他、イオン交換体、金属キレート体又は疎水基を固定化した担体を用いることができる。なお、これらの物質による結合は抗原と抗体等のバイオアフィニティほどの特異性がないので、これらの物質を固定化した担体を用いる場合はマーカー物質以外の物質も担体上に捕捉されうるが、質量分析によれば分子量を反映した質量分析計スペクトルによって定量するので、問題はない。特に、担体として基板を用い、表面エンハンス型レーザー脱離イオン化(surface-enhanced laser desorption/ionization)−飛行時間質量分析(time-of-flight mass spectrometry)(以下、「SELDI−TOF−MS」と称する)を行うことにより、マーカー物質の濃度をより正確に測定することができる。使用できる基板の種類としては、陽イオン交換基板、陰イオン交換基板、順相基板、逆相基板、金属イオン基板、抗体基板等を用いることができるが、陽イオン交換基板、特に弱陽イオン交換基板と、陰イオン交換基板、特に強陰イオン交換基板が好ましく用いられる。
本発明の物質のスクリーニング方法は、本発明の動脈硬化改善・予防効果の評価方法によって被験物質を評価し、動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果(動脈硬化の改善等効果)を有する物質をスクリーニングするものである。本発明の物質のスクリーニング方法においても、上記した本発明の評価方法の実施形態と全く同様の実施形態をとることができる。
本発明の評価方法を簡便に行なうために、必要な試薬類をまとめて評価用キットを構築することができる。当該評価用キットとしては、例えば、マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含むものが挙げられる。特に、担体として、CM等の弱陽イオン交換体、あるいはQAやQAE等の強陰イオン交換体を固定化した基板を含めた評価用キットによれば、SELDI−TOF−MS等を簡便に行なうことができる。本キット中には他の試薬類、例えば、標準物質、前処理用の各種緩衝液等を含めてもよい。なお本キットは、動脈硬化の改善等効果を有する物質をスクリーニングするためのキットとしても使用できる。本発明のキットの構成例を以下に挙げる。
〔キットの構成例〕
(1)弱陽イオン交換基板:1枚以上
(2)強陰イオン交換基板:1枚以上
(3)基板洗浄用バッファーA(pH3.0):適量
(4)基板洗浄用バッファーB(pH9.0):適量
(5)各マーカー物質の標準品:各適量
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
1.動脈硬化発症モデル動物を使った動物実験(1)
動脈硬化発症モデル動物としてアポE欠損マウス(The Jackson Laboratory社)、正常動物としてC57BL/6J系統マウス(日本チャールス・リバー社。以下、単に「正常マウス」と略記する。)を採用した。また、与える飼料としてCE−2(日本クレア社。以下、単に「通常飼料」と略記する。)と、アゼルニジピンを0.006%(3mg/kg体重に相当)含有するCE−2(以下、単に「アゼルニジピン含有飼料」と略記する。)を採用した。アゼルニジピンとしては、カルブロック(登録商標、三共株式会社製)を採用した。
マウスの種類と与える飼料の組み合わせが異なる以下の4つの群を設定し、飼育を開始した。各群の個体数は5匹以上とした。
第1群:正常マウスを通常飼料で飼育
第2群:アポE欠損マウスを通常飼料で飼育
第3群:アポE欠損マウスをアゼルニジピン含有飼料で飼育
第4群:正常マウスをアゼルニジピン含有飼料で飼育
すなわち、第1群は動脈硬化を発症しない群、第2群は動脈硬化を発症する群、第3群は動脈硬化の発症が抑制される群、に相当する。第4群はアゼルニジピンの作用検証用の群である。
アポE欠損マウスにおいて動脈硬化が発症し始める飼育期間である14週目に各群のマウスから血漿を採取し、体液試料とした。これにより、動脈硬化の発症直前段階の体液試料が得られた。
2.プロテインチップによる解析とイオンピークの選抜
採取した各体液試料20μLに、変性バッファー(9M 尿素、2% CHAPS、50mM Tris−HCl(pH9.0))30μLを加えて前処理を行い、タンパク質を変性させた。次に、前処理した各体液試料を強陰イオン交換樹脂カラム(Q−Sepharose、GEヘルスケア社)にアプライした。次いで、pH9.0の緩衝液(50mM Tris−HCl(pH9.0)、0.1%(w/v)1−o−N−オクチル−β−D−グルコピラノシド(以下、「OGP」と称する。))、pH5.0の緩衝液(100mM 酢酸ナトリウム(pH5.0)、0.1%(w/v)OGP)、pH3.0の緩衝液(50mM クエン酸ナトリウム(pH3.0)、0.1%(w/v)OGP)、及び有機溶媒(0.1%トリフルオロ酢酸、50.0%アセトニトリルからなる混合液)各200μLで順に溶出させ、画分1(pH9.0で溶出、素通り)、画分2(pH5.0で溶出)、画分3(pH3.0で溶出)、画分4(有機溶媒で溶出)の4つの粗分画画分を得た。
得られた各画分10μLをpH3.0のプロテインチップ結合バッファー(50mM クエン酸ナトリウム)で10倍希釈した後、弱陽イオン交換チップCM10(バイオラッド社)に添加した。同様に、得られた各画分10μLをpH9.0のプロテインチップ結合バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0))で10倍希釈した後、強陰イオン交換チップQ10(バイオラッド社)に添加した。各チップを各結合バッファーで3回洗浄した後に脱イオン水で1回洗浄し、乾燥させた。次に、エネルギー吸収分子であるシナピン酸(SPA−H、SPA−L)又はα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)を添加し、プロテインチップリーダーModel PBS IIc(バイオラッド社)を用いて、SELDI−TOF−MSを行なった。なお、測定分子量範囲(m/z)は、3000〜200000の範囲で行なった。また、測定は2連で行い、m/zの平均値を算出した。データ解析は、Protein Chip Software、CiphergenExpress Data Manager、及びBiomarker Patterns Software(いずれもバイオラッド社)を用いて行なった。具体的には、ベースライン補正、分子量校正、スペクトルの正規化処理を行なった後、シングルマーカー解析及び数本のマーカーを組み合わせたマルチフロー解析を行なった。その結果、粗分画画分の種類、プロテインチップの種類、チップの洗浄条件等の組み合わせによって多数のピークが検出された。各ピークについて、p値(Mann−Whitney検定法)、ROC面積、及びイオンピーク強度を算出し、さらに、以下の(1)〜(4)の条件を指標として29個の候補ピークを1次選抜した。
(1)候補ピーク探索(基本)
第1群と第2群との間でイオン強度に有意差がある(p<0.05)。
(2)アゼルニジピン効果検証
第2群と第3群との間でイオン強度に有意差があり(p<0.05)、かつ第3群の値の方が第2群の値よりも第1群の値に近い(第3群の値が第1群側に復帰している)。
(3)増減パターン解析
第2群のみが高値または低値を示し、第1群、第3群および第4群の間ではあまり差がない。なお、第3群と第4群との間に差があっても、第4群の値の方が第3群の値よりも第2群から離れている場合には本条件を満たすものとして取り扱う。
3.動脈硬化発症モデル動物を使った動物実験(2)
アゼルニジピンの代わりに紅花種子抽出物を用いて第3群と第4群を設定し、同様の動物実験を行った。第3群と第4群に与える飼料(紅花種子抽出物含有飼料)として、紅花種子抽出物を2%(1000mg/kg体重に相当)含有する通常飼料を採用した。血漿の採取は飼育13週目とした。上記(1)〜(3)の条件を指標として9個の候補ピークを1次選抜した。
4.動脈硬化発症モデル動物を使った動物実験(3)
アゼルニジピンの代わりに発酵乳を用いて第3群と第4群を設定し、同様の動物実験を行った。第3群と第4群に与える飼料(発酵乳含有飼料)として、発酵乳を10%(5g/kg体重に相当)含有する通常飼料を採用した。血漿の採取は飼育13週目とした。上記(1)〜(3)の条件を指標として5個の候補ピークを1次選抜した。
5.マーカー物質の2次選抜
1次選抜された各候補ピークを比較し、アゼルニジピン摂取で増減するピーク6種(MA群;MA1〜MA6)と、アゼルニジピン摂取で増減しないピーク2種(MB群;MB1〜MB2)の計8種を最終選抜した。
6.マーカー物質(MA1)の特定
第3群と第4群にアゼルニジピン又は紅花種子抽出物を摂取させたときの画分3(pH3.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−L)を行なった場合に、質量/電荷比が5200(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で高値を示し、第2群で低値を示した(グループ2)。図1(a),図1(b)に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。図1(a)はアゼルニジピン、図1(b)は紅花種子抽出物を、第3群と第4群に摂取させた場合を示す。図中、髭の上端と下端はそれぞれ最大値と最小値、箱の上辺と下辺はそれぞれ第3四分位(75パーセンタイル)と第1四分位(25パーセンタイル)、箱の中の線は中央値である(図2以降も同じ)。その結果、本ピークのp値は0.0002(アゼルニジピン;第1群vs第2群)、0.008(アゼルニジピン;第2群vs第3群)、0.006(紅花種子抽出物;第1群vs第2群)、0.027(紅花種子抽出物;第2群vs第3群)であった。なお、マーカー物質(MA1)は発酵乳摂取で増減しないものであった。
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約5200のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(MA1))が、動脈硬化を発症しているマウス、又は動脈硬化の将来の発症リスクが高いマウスに特異的な物質であり、動脈硬化のマーカーとなり得ることがわかった。これにより、被験物質を摂取させた動脈硬化を発症している動物又は将来の発症リスクが高い動物(動脈硬化発症・高リスク動物)の体液中におけるマーカー物質(MA1)の濃度を指標として、被験物質が有する「動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果」(動脈硬化の改善等効果)の評価、並びに、当該効果を有する物質のスクリーニングを行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約5200のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質が「動脈硬化の改善等効果を有する」と評価することができる。
他のマーカー物質についても同様の手順で解析を行った。以下に、実験条件と結果を順次示す。
7.マーカー物質(MA2)の特定
・第3群と第4群への摂取:アゼルニジピン又は発酵乳
・質量/電荷比:6832(平均値)
・画分:画分3(pH3.0)
・プロテインチップ:強陰イオン交換チップQ10
・プロテインチップ結合バッファー:pH9.0
・EAM:SPA−L
・増減パターン:第1,3,4群で低値、第2群で高値(グループ1)
・p値(発酵乳;第1群vs第2群):0.0002
・p値(発酵乳;第2群vs第3群):0.0007
・紅花種子抽出物摂取で増減しない
・箱髭図:図2
図2の各箱髭図において、(a)はアゼルニジピン、(b)は発酵乳を、第3群と第4群に摂取させた場合を示す。
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約6830のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(MA2))が、動脈硬化を発症しているマウス、又は動脈硬化の将来の発症リスクが高いマウスに特異的な物質であり、動脈硬化のマーカーとなり得ることがわかった。これにより、被験物質を摂取させた動脈硬化発症・高リスク動物の体液中におけるマーカー物質(MA2)の濃度を指標として、被験物質が有する動脈硬化の改善等効果の評価、並びに、当該効果を有する物質のスクリーニングを行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約6830のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質が「動脈硬化の改善等効果を有する」と評価することができる。
8.マーカー物質(MA3)の特定
・第3群と第4群への摂取:アゼルニジピン又は発酵乳
・質量/電荷比:7004(平均値)
・画分:画分4(有機溶媒)
・プロテインチップ:弱陽イオン交換チップCM10
・プロテインチップ結合バッファー:pH3.0
・EAM:SPA−L
・増減パターン:第1,3,4群で低値、第2群で高値(グループ1)
・p値(アゼルニジピン;第1群vs第2群):0.0002
・p値(アゼルニジピン;第2群vs第3群):0.004
・p値(発酵乳;第1群vs第2群):0.0002
・p値(発酵乳;第2群vs第3群):0.001
・紅花種子抽出物摂取で増減しない
・箱髭図:図3
図3の各箱髭図において、(a)はアゼルニジピン、(b)は発酵乳を、第3群と第4群に摂取させた場合を示す。
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約7000のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(MA3))が、動脈硬化を発症しているマウス、又は動脈硬化の将来の発症リスクが高いマウスに特異的な物質であり、動脈硬化のマーカーとなり得ることがわかった。これにより、被験物質を摂取させた動脈硬化発症・高リスク動物の体液中におけるマーカー物質(MA3)の濃度を指標として、被験物質が有する動脈硬化の改善等効果の評価、並びに、当該効果を有する物質のスクリーニングを行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約7000のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質が「動脈硬化の改善等効果を有する」と評価することができる。
9.マーカー物質(MA4)の特定
・第3群と第4群への摂取:アゼルニジピン
・質量/電荷比:7093(平均値)
・画分:画分3(pH3.0)
・プロテインチップ:強陰イオン交換チップQ10
・プロテインチップ結合バッファー:pH9.0
・EAM:SPA−L
・増減パターン:第1,3,4群で高値、第2群で低値(グループ2)
・p値(アゼルニジピン;第1群vs第2群):0.0002
・p値(アゼルニジピン;第2群vs第3群):0.0002
・紅花種子抽出物摂取、発酵乳摂取で増減しない
・箱髭図:図4
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約7090のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(MA4))が、動脈硬化を発症しているマウス、又は動脈硬化の将来の発症リスクが高いマウスに特異的な物質であり、動脈硬化のマーカーとなり得ることがわかった。これにより、被験物質を摂取させた動脈硬化発症・高リスク動物の体液中におけるマーカー物質(MA4)の濃度を指標として、被験物質が有する動脈硬化の改善等効果の評価、並びに、当該効果を有する物質のスクリーニングを行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約7090のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質が「動脈硬化の改善等効果を有する」と評価することができる。
10.マーカー物質(MA5)の特定
・第3群と第4群への摂取:アゼルニジピン
・質量/電荷比:7562(平均値)
・画分:画分3(pH3.0)
・プロテインチップ:弱陽イオン交換チップCM10
・プロテインチップ結合バッファー:pH3.0
・EAM:CHCA
・増減パターン:第1,3,4群で高値、第2群で低値(グループ2)
・p値(アゼルニジピン;第1群vs第2群):0.0002
・p値(アゼルニジピン;第2群vs第3群):0.0009
・紅花種子抽出物摂取、発酵乳摂取で増減しない
・箱髭図:図5
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約7560のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(MA5))が、動脈硬化を発症しているマウス、又は動脈硬化の将来の発症リスクが高いマウスに特異的な物質であり、動脈硬化のマーカーとなり得ることがわかった。これにより、被験物質を摂取させた動脈硬化発症・高リスク動物の体液中におけるマーカー物質(MA5)の濃度を指標として、被験物質が有する動脈硬化の改善等効果の評価、並びに、当該効果を有する物質のスクリーニングを行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約7560のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質が「動脈硬化の改善等効果を有する」と評価することができる。
11.マーカー物質(MA6)の特定
・第3群と第4群への摂取:アゼルニジピン又は紅花種子抽出物
・質量/電荷比:8723(平均値)
・画分:画分1(pH9.0)
・プロテインチップ:弱陽イオン交換チップCM10
・プロテインチップ結合バッファー:pH3.0
・EAM:SPA−L
・増減パターン:第1,3,4群で高値、第2群で低値(グループ2)
・p値(アゼルニジピン;第1群vs第2群):0.0007
・p値(アゼルニジピン;第2群vs第3群):0.028
・p値(紅花種子抽出物;第1群vs第2群):0.0001
・p値(紅花種子抽出物;第2群vs第3群):0.006
・発酵乳摂取で増減しない
・箱髭図:図6
図6の各箱髭図において、(a)はアゼルニジピン、(b)は紅花種子抽出物を、第3群と第4群に摂取させた場合を示す。
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約8720のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(MA6))が、動脈硬化を発症しているマウス、又は動脈硬化の将来の発症リスクが高いマウスに特異的な物質であり、動脈硬化のマーカーとなり得ることがわかった。これにより、被験物質を摂取させた動脈硬化発症・高リスク動物の体液中におけるマーカー物質(MA6)の濃度を指標として、被験物質が有する動脈硬化の改善等効果の評価、並びに、当該効果を有する物質のスクリーニングを行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約8720のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質が「動脈硬化の改善等効果を有する」と評価することができる。
12.マーカー物質(MB1)の特定
・第3群と第4群への摂取:紅花種子抽出物
・質量/電荷比:4239(平均値)
・画分:画分3(pH3.0)
・プロテインチップ:強陰イオン交換チップQ10
・プロテインチップ結合バッファー:pH9.0
・EAM:CHCA
・増減パターン:第1,3,4群で低値、第2群で高値(グループ1)
・p値(紅花種子抽出物;第1群vs第2群):0.00004
・p値(紅花種子抽出物;第2群vs第3群):0.015
・アゼルニジピン摂取、発酵乳摂取で増減しない
・箱髭図:図7
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約4240のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(MB1))が、動脈硬化を発症しているマウス、又は動脈硬化の将来の発症リスクが高いマウスに特異的な物質であり、動脈硬化のマーカーとなり得ることがわかった。これにより、被験物質を摂取させた動脈硬化発症・高リスク動物の体液中におけるマーカー物質(MB1)の濃度を指標として、被験物質が有する動脈硬化の改善等効果の評価、並びに、当該効果を有する物質のスクリーニングを行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約4240のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質が「動脈硬化の改善等効果を有する」と評価することができる。
13.マーカー物質(MB2)の特定
・第3群と第4群への摂取:紅花種子抽出物
・質量/電荷比:5065(平均値)
・画分:画分3(pH3.0)
・プロテインチップ:弱陽イオン交換チップCM10
・プロテインチップ結合バッファー:pH3.0
・EAM:CHCA
・増減パターン:第1,3,4群で高値、第2群で低値(グループ2)
・p値(紅花種子抽出物;第1群vs第2群):0.00004
・p値(紅花種子抽出物;第2群vs第3群):0.002
・アゼルニジピン摂取、発酵乳摂取で増減しない
・箱髭図:図8
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約5070のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(MB2))が、動脈硬化を発症しているマウス、又は動脈硬化の将来の発症リスクが高いマウスに特異的な物質であり、動脈硬化のマーカーとなり得ることがわかった。これにより、被験物質を摂取させた動脈硬化発症・高リスク動物の体液中におけるマーカー物質(MB2)の濃度を指標として、被験物質が有する動脈硬化の改善等効果の評価、並びに、当該効果を有する物質のスクリーニングを行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約5070のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質が「動脈硬化の改善等効果を有する」と評価することができる。
マーカー物質(MA1)の精製と同定
強陰イオン交換樹脂Q−Sepharose HP(GEヘルスケア社)を充填したカラム(1mL)を平衡化バッファー(50mM Tris−HCl pH9.0,1M 尿素,0.22% CHAPS)にて平衡化した。C57BLマウス血清(清水実験材料社)500μLに対して変性バッファー(50mM Tris−HCl pH9.0,9M 尿素,2% CHAPS)を750μL加えて4℃で20分間変性処理した。変性処理したサンプルを12,000G、4℃で10分間遠心し、0.45μmのフィルターでろ過した後、平衡化した前記カラムに添加した。50mM Tris−HCl(pH9.0)、及び100mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)で順に洗浄した後、50mM クエン酸ナトリウムバッファー(pH3.0)で溶出し、ピーク画分を分取した。
弱陽イオン交換樹脂HiTrap CM FF(GEヘルスケア社)を充填したカラム(1mL)を50mM クエン酸ナトリウムバッファー(pH3.0)にて平衡化した。分取したピーク画分に対して等量の50mM クエン酸ナトリウムバッファー(pH3.0)を添加・混合し、0.45μmのフィルターでろ過した後、平衡化した前記カラムに添加した。50mM クエン酸ナトリウムバッファー(pH3.0)でカラムを洗浄した後、50mM クエン酸ナトリウムバッファー(pH5.0)で溶出し、約1mLずつ分取した。各画分に対してSELDI−TOF−MS分析を行い、3〜5番目の画分にマーカー物質(MA1)の質量/電荷比(平均値:5200)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した。
分取した画分の一部をアセトン沈殿処理した後、ポリペプチド分離用ゲル(15−20%)NTH−5A0Tゲル(DRC社)を用いてSDS−PAGEを行った(図9)。図9中、レーン1〜5はいずれも回収画分、Mは分子量マーカーである。分離された約5.2kDaのバンド(図9の矢印)を切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(MA1)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した(図10の矢印)。
あらためて同様のSDS−PAGEを行ってPVDF膜に転写し、約5.2kDaのバンド部分をN末端アミノ酸解析に供した。その結果、配列番号8で表される10アミノ酸が決定された。このアミノ酸配列はマウスアポリポタンパク質A2(配列番号1)の一部と完全一致していた。さらに、配列番号1のアミノ酸番号18(Phe)〜63(Leu)の部分に相当するタンパク質断片(配列番号2)の予想される等電点が6.77、分子量が5195であり、これらの値がSELDI−TOF−MS分析の結果とよく一致した。このことから、マーカー物質(MA1)は「アポリポタンパク質A2の断片」(配列番号2)と同定された。
マーカー物質(MA2)、(MA3)の精製と同定
強陰イオン交換樹脂Q−Sepharose HP(GEヘルスケア社)を充填したカラム(1mL)を平衡化バッファー(50mM Tris−HCl pH9.0,1M 尿素,0.22% CHAPS)にて平衡化した。C57BLマウス血清(清水実験材料社)500μLに対して変性バッファー(50mM Tris−HCl pH9.0,9M 尿素,2% CHAPS)を750μL加えて変性処理し、平衡化した前記カラムに添加した。非吸着画分を回収した。
回収した画分の一部をアセトン沈殿処理した後、ポリペプチド分離用ゲル(15−20%)NTH−5A0Tゲル(DRC社)を用いてSDS−PAGEを行った(図11)。図36中、レーン1〜6はいずれも回収画分、Mは分子量マーカーである。分離された約7.0kDa付近のバンド(図11の矢印)を切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(MA3)の質量/電荷比(平均値:7004)と同等の質量/電荷比を示すピーク(図12のa)、並びに、マーカー物質(MA2)の質量/電荷比(平均値:6832)と同等の質量/電荷比を示すピーク(図12のb)を確認した。
あらためて同様のSDS−PAGEを行って約7.0kDa付近のバンドを切り出し、還元アルキル化処理した後、0.01μg/μLのトリプシン溶液(50mM 炭酸水素アンモニウム(pH8.0)に溶解)を作用させてゲル内で消化した。消化したサンプル1μLを金属プレート上に滴下し、飽和CHCA溶液0.4μLをさらに滴下して乾燥させた後、質量分析計Proteomics Analyzer 4700(アプライドバイオシステムズ社)で測定したところ、少なくとも3個のピークが検出され、それらの精密質量は、「1279.70」、「1299.71」、及び「1042.53」と算出された。これらのデータを元に実施例3と同様にしてペプチドマスフィンガープリンティングを行ったところ、精密質量「1279.70」、「1299.71」、及び「1042.53」のペプチドはそれぞれ配列番号9〜11で表わされるアミノ酸配列のペプチドと一致し、目的のタンパク質は99%以上の確率で「アポリポタンパク質C1」(配列番号4)と同定された。各ペプチドの精密質量、アミノ酸配列、及び配列番号の対応関係を第1表に示す。
マーカー物質(MA3)は、その電荷/質量比(平均値:7004)から、アポリポタンパク質C1の全長(配列番号4)と同定された。一方、アポリポタンパク質C1については、N末端の2アミノ酸残基(Ala−Pro)が欠損したタンパク質断片(配列番号5)が血清中に存在することが確認されている。そしてマーカー物質(MA2)は、その電荷/質量比(平均値:6832)から、当該アポリポタンパク質C1の断片(配列番号5)と同定された。アミノ酸配列から計算される質量は、図12のピークaが6993Da、図12のピークbが6825Daであった。
マーカー物質(MA6)の精製と同定
強陰イオン交換樹脂Q−Sepharose HP(GEヘルスケア社)を充填したカラム(1mL)を平衡化バッファー(50mM Tris−HCl pH9.0,1M 尿素,0.22% CHAPS)にて平衡化した。C57BLマウス血清(Innovative Research社)500μLに対して変性バッファー(50mM Tris−HCl pH9.0,9M 尿素,2% CHAPS)を750μL加えて変性処理し、平衡化した前記カラムに添加した。50mM Tris−HCl(pH9.0)、100mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)、及び50mM クエン酸ナトリウムバッファー(pH3.0)で順に洗浄した後、50% アセトニトリル,0.1% TFAで溶出し、ピーク画分を分取した。
回収した画分の一部をアセトン沈殿処理した後、ポリペプチド分離用ゲル(15−20%)NTH−5A0Tゲル(DRC社)を用いてSDS−PAGEを行った(図13)。図13中、レーン1,2はいずれも回収画分、Mは分子量マーカーである。分離された約8.7kDaのバンド(図13の矢印)を切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(MA6)の質量/電荷比(平均値:8723)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した(図14の矢印)。
あらためて同様のSDS−PAGEを行って約8.7kDaのバンドを切り出し、実施例3と同様にしてゲル内消化及び質量分析を行ったところ、少なくとも2個のピークが検出され、それらの精密質量は「1832.01」及び「1193.69」と算出された。これらのデータを元に実施例3と同様にしてペプチドマスフィンガープリンティングを行ったところ、精密質量「1832.01」と「1193.69」のペプチドはそれぞれ配列番号12,13で表わされるアミノ酸配列のペプチドと一致し、目的のタンパク質は99%以上の確率で「アポリポタンパク質A2」(配列番号1)と同定された。各ペプチドの精密質量、アミノ酸配列、及び配列番号の対応関係を第2表に示す。
マーカー物質(MB1)の精製と同定
強陰イオン交換樹脂Q−Sepharose HP(GEヘルスケア社)を充填したカラム(5mL)を平衡化バッファー(50mM 酢酸ナトリウムバッファー pH5.0,1M 尿素,0.22% CHAPS)にて平衡化した。C57BLマウス血清(清水実験材料社)5.5mLを20,000G、4℃で10分間遠心し、上清を回収した。回収した上清5mLに対して変性バッファー(50mM 酢酸ナトリウムバッファー pH5.0,9M 尿素,2% CHAPS)を7.5mL加えて変性処理した。変性処理したサンプルをMillex HV 0.45μmフィルター(ミリポア社)でろ過した後、平衡化した前記カラムに添加した。50mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)で洗浄後、50mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH4.0)で溶出した(8段階)。各画分に対してSELDI−TOF−MS分析を行い、3〜5番目の画分に、マーカー物質(MB1)の電荷比(平均値:4239)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した。3〜5番目の画分を混合した(計18mL)。
Hi Trap Phenyl HP(GEヘルスケア社)を850mM 硫酸アンモニウム/100mM リン酸バッファー(pH7.0)にて平衡化した。3〜5番目の混合画分(計18mL)に等量の850mM 硫酸アンモニウム/100mM リン酸バッファー(pH7.0)を添加し、攪拌の後、氷上で30分間静置した。12,000G、4℃で10分間遠心し、上清を回収した。平衡化した前記カラムに、回収した上清を5mLずつ添加し、素通り画分を回収した。
RESOURCE 15 RPC 4.6/100(GEヘルスケア社)を0.05% TFAにて平衡化した。この平衡化したカラムに、回収した素通り画分を10mLずつ添加した。A液(0.05% TFA)とB液(アセトニトリル/0.05% TFA)を用いたグラジエント溶出(B液:0%→70%/30CV、流速1mL/分)を行い、溶出された画分を回収した。回収画分に対してSELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(MB1)の電荷比(平均値:4239)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した。
回収画分を遠心エバポレーターにかけて有機溶媒を除去した後、凍結乾燥して濃縮した。試料の一部をPAGE(6M尿素を含む16.5%ポリアクリルアミドゲルを使用)に供した(図15)。図15中、レーン1,2はいずれも回収画分、Mは分子量マーカーである。分離された約4.2kDaのバンド(図15の矢印)を切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(MB1)の電荷比(平均値:4239)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した(図16の矢印)。
あらためて同様のPAGEを行って約4.2kDaのバンドを切り出し、実施例3と同様にしてゲル内消化及び質量分析を行ったところ、少なくとも3個のピークが検出され、それらの精密質量は、「962.52」、「2648.38」、及び「795.45」と算出された。これらのデータを元に実施例3と同様にしてペプチドマスフィンガープリンティングを行ったところ、これらのペプチドはそれぞれ配列番号14〜16で表わされるアミノ酸配列のペプチドと一致し、目的のタンパク質は99%以上の確率で「α1−アンチトリプシン」と同定された。さらにその分子量から、マーカー物質(MB1)は、α1−アンチトリプシン1−1(配列番号6)のアミノ酸番号354(Ser)〜389(Lys)に相当する「α1−アンチトリプシン1−1の断片」(配列番号7)と同定された。各ペプチドの精密質量、アミノ酸配列、及び配列番号の対応関係を第3表に示す。
マーカー物質(MB2)の精製と同定
強陰イオン交換樹脂Macro−Prep(バイオラッド社)を充填したスピンカラム(1mL)を平衡化バッファー(50mM 酢酸ナトリウムバッファー pH5.0,1M 尿素,0.22% CHAPS)にて平衡化した。C57BLマウス血清(清水実験材料社)5.5mLを20,000G、4℃で10分間遠心し、上清を回収した。回収した上清1.2mLに対して変性バッファー(50mM 酢酸ナトリウムバッファー pH5.0,9M 尿素,2% CHAPS)を1.8mL加えて変性処理した。変性処理したサンプルをMillex HV 0.45μmフィルター(ミリポア社)でろ過した後、平衡化した前記カラムに添加した。50mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)、50mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH4.0)、100mM クエン酸ナトリウムバッファー(pH3.0)でカラムを順次洗浄した後、33.3%イソプロパノール/16.7%
アセトニトリル/0.1% TFAで溶出・回収した。回収画分2.5mLを遠心エバポレーターにかけて有機溶媒を除去した後、SELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(MB2)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した。
強陽イオン交換樹脂SP−Sepharose HP(GEヘルスケア社)を充填したスピンカラム(80μL)を50mM クエン酸ナトリウムバッファー(pH3.0)で平衡化した。この平衡化したカラムに、先の回収画分1mLを添加した。50mM クエン酸ナトリウムバッファー(pH3.0)、100mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)、50mM Tris−HCl(pH9.0)でカラムを順次洗浄した後、25mM リン酸カリウムバッファー(pH11.0)/33.3% イソプロパノール/16.7% アセトニトリルで溶出・回収した。回収画分に対してSELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(MB2)の電荷比(平均値:5065)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した。
回収画分を遠心エバポレーターにかけて有機溶媒を除去し、さらにアセトン沈殿処理した後、PAGE(6M尿素を含む16.5%ポリアクリルアミドゲルを使用)に供した(図17)。図17中、レーン1,2はいずれも回収画分、Mは分子量マーカーである。分離された約5.1kDaのバンド(図17の矢印)を切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(MB2)の電荷比(平均値:5065)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した(図18の矢印)。
あらためて同様のSDS−PAGEを行って約5.1kDaのバンドを切り出し、上記1と同様にしてゲル内消化及び質量分析を行ったところ、少なくとも4個のピークが検出され、それらの精密質量は「1657.79」、「2832.43」、「1831.97」、及び「1193.69」と算出された。これらのデータを元に上記1と同様にしてペプチドマスフィンガープリンティングを行ったところ、これらのペプチドはそれぞれ配列番号17〜20で表わされるアミノ酸配列のペプチドと一致し、目的のタンパク質は99%以上の確率で「アポリポタンパク質A2」と同定された。各ペプチドの精密質量、アミノ酸配列、及び配列番号の対応関係を第4表に示す。
あらためて同様のPAGEを行ってPVDF膜に転写し、約5.1kDaのバンド部分をN末端アミノ酸解析に供した。その結果、配列番号21で表される10アミノ酸が決定された。このアミノ酸配列はマウスアポリポタンパク質A2(配列番号1)の一部と完全一致していた。さらに、配列番号1のアミノ酸番号29(Val)〜73(Leu)の部分に相当するタンパク質断片(45アミノ酸)の予想される等電点が8.36、分子量が5059であり、これらの値がSELDI−TOF−MS分析の結果とよく一致した。このことから、マーカー物質(MA2)は「アポリポタンパク質A2の断片」と同定された。当該タンパク質断片に相当する、配列番号1のアミノ酸番号29(Val)〜73(Leu)の部分のアミノ酸配列を配列番号3に示す。
各マーカー物質について、対応するNA/NB群のマーカー、m/z値(平均値)、摂取素材ごとの増減の有無、グループ1と2の区別、箱髭図の番号、同定結果、および配列番号を、第5表に示す。

Claims (14)

  1. 動脈硬化を発症している動物又は将来の発症リスクが高い動物に被験物質を摂取させ、該動物の体液中における下記(MA1)〜(MA6):
    (MA1)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約5200のイオンピークを生じるタンパク質又はそのホモログ、
    (MA2)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、質量分析に供すると質量/電荷比が約6830のイオンピークを生じるタンパク質又はそのホモログ、
    (MA3)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約7000のイオンピークを生じるタンパク質又はそのホモログ、
    (MA4)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約7090のイオンピークを生じるタンパク質又はそのホモログ、
    (MA5)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約7560のイオンピークを生じるタンパク質又はそのホモログ、及び
    (MA6)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約8720のイオンピークを生じるタンパク質又はそのホモログ、
    からなる群より選ばれた少なくとも1種のマーカー物質の濃度、並びに、
    下記(MB1)〜(MB2):
    (MB1)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、質量分析に供すると質量/電荷比が約4240のイオンピークを生じるタンパク質又はそのホモログ、及び
    (MB2)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、質量分析に供すると質量/電荷比が約5070のイオンピークを生じるタンパク質又はそのホモログ、
    からなる群より選ばれた少なくとも1種のマーカー物質の濃度を基準値と比較し、被験物質が有する動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を評価することを特徴とする動脈硬化改善・予防効果の評価方法。
  2. 下記(a)〜(f)の少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項1に記載の動脈硬化改善・予防効果の評価方法。
    (a)マーカー物質(MA1)はアポリポタンパク質A2の断片である、
    (b)マーカー物質(MA2)はアポリポタンパク質C1の断片である、
    (c)マーカー物質(MA3)はアポリポタンパク質C1である、
    (d)マーカー物質(MA6)はアポリポタンパク質A2である、
    (e)マーカー物質(MB1)はα1−アンチトリプシン1−1の断片である、
    (f)マーカー物質(MB2)はアポリポタンパク質A2の断片である。
  3. 動脈硬化を発症している動物又は将来の発症リスクが高い動物に被験物質を摂取させ、該動物の体液中における下記(NA1)〜(NA4):
    (NA1):配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はそのホモログ、
    (NA2):配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はそのホモログ、
    (NA3):配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はそのホモログ、及び
    (NA4):配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はそのホモログ、
    からなる群より選ばれた少なくとも1種のマーカー物質の濃度、並びに、
    下記(NB1)〜(NB2):
    (NB1):配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はそのホモログ、及び
    (NB2):配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はそのホモログ、
    からなる群より選ばれた少なくとも1種のマーカー物質の濃度を基準値と比較し、被験物質が有する動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を評価することを特徴とする動脈硬化改善・予防効果の評価方法。
  4. 前記基準値は、動脈硬化を発症している動物又は将来の発症リスクが高い動物に、動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を有さない既知物質を摂取させた際の、該動物の体液中における前記マーカー物質の濃度であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の動脈硬化改善・予防効果の評価方法。
  5. 前記動脈硬化を発症している動物又は将来の発症リスクが高い動物は、自然発症モデル動物又は遺伝子操作モデル動物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の動脈硬化改善・予防効果の評価方法。
  6. 前記体液は、血液であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の動脈硬化改善・予防効果の評価方法。
  7. 前記被験物質は、食品素材又は医薬であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の動脈硬化改善・予防効果の評価方法。
  8. 前記体液又は体液成分を、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体に接触させて、体液中の前記マーカー物質を担体上に捕捉し、捕捉された前記マーカー物質の量に基づいて体液中の前記マーカー物質の濃度を算出することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の動脈硬化改善・予防効果の評価方法。
  9. 前記担体は平面部分を有し、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、該平面部分の一部に固定化されていることを特徴とする請求項8に記載の動脈硬化改善・予防効果の評価方法。
  10. 前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体又は抗体であることを特徴とする請求項8又は9に記載の動脈硬化改善・予防効果の評価方法。
  11. 請求項1〜10のいずれか1項に記載の動脈硬化改善・予防効果の評価方法によって被験物質を評価し、動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を有する物質をスクリーニングすることを特徴とする物質のスクリーニング方法。
  12. 請求項1〜10のいずれか1項に記載の動脈硬化改善・予防効果の評価方法に用いるためのキットであって、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含むことを特徴とする動脈硬化改善・予防効果の評価用キット。
  13. 前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体であることを特徴とする請求項12に記載の動脈硬化改善・予防効果の評価用キット。
  14. 動脈硬化の改善効果又は将来の発症リスクの低減効果を有する物質をスクリーニングするために使用されることを特徴とする請求項12又は13に記載の動脈硬化改善・予防効果の評価用キット。
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