JP2010188526A - クロムフリー塗装鋼板およびこれを用いてなる筐体 - Google Patents

クロムフリー塗装鋼板およびこれを用いてなる筐体 Download PDF

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Abstract

【課題】耐雨だれ汚染性、平面部耐食性および塗膜加工性のいずれにも優れたクロムフリー塗装鋼板、および屋外使用用途適した筐体を提供する。
【解決手段】 亜鉛系めっき鋼板を基材とする鋼板の一方の面に少なくとも2層からなる積層塗膜を備え、積層塗膜の最外層をなす上層塗膜が、表面の水に対する接触角が60°以下、塗膜のTgが40℃以下、主樹脂が高分子量樹脂からなり、かつ膜厚が2μm以上25μm以下を満たし、積層塗膜の最内層をなす下層塗膜が、塗膜のTgが40℃以下、主樹脂が高分子量樹脂からなり、膜厚が2μm以上15μm以下であって、さらに塗膜中に防錆顔料として、吸油量が50ml/100g以上のイオン交換シリカおよび/または多孔質シリカを含み、これらの合計量が塗料固形分に対し、5〜30質量%であることを満たす。
【選択図】 図1

Description

本発明は、屋外や水のかかる環境で使用される可能性のある家電製品、建材、自動車部品などの製造に有用な、クロムフリー塗装鋼板に関する。本発明の塗装鋼板は、従来のクロムフリー塗装鋼板と同等以上の加工性、耐食性を保持しながら、雨だれ等の汚染をより効果的に抑制することができる。
塗装鋼板(プレコート鋼板、PCMとも呼ばれる)は、基材鋼板に塗装および焼付けにより塗膜を形成した後、コイル状に巻き取られ、その状態でユーザーに納入される。ユーザーは、コイルを巻き戻して、打ち抜き、折り曲げ、絞り加工、またはこれらを組み合わせた加工を行って製品化する。作業環境を悪化させ、廃液処理が面倒な塗装作業をユーザーが行う必要がないことから、塗装鋼板の適用は多くの分野に普及している。
塗装鋼板の製造は、基材鋼板(典型的には亜鉛めっきと亜鉛合金めっきとを含む亜鉛系めっき鋼板)に、前処理として塗装下地処理を施した後、下塗り塗料(プライマー)の塗布と焼付け、次に上塗り塗料の塗布と焼付けを順に行う2コート2ベーク方式が一般的である。ただし、最終製品の外側となる「おもて面」とは反対側の「うら面」側については、前処理後にうら面用に開発された塗料を用いて1コート1ベーク方式で塗装が行われることもある。
塗装鋼板は、耐食性、加工性、塗膜硬度(耐疵付き性)、耐汚染性、耐薬品性、耐候性などの多くの性能が要求されるが、要求性能の順位は用途に応じて異なる。エアコン室外機や給湯器といった主に屋外で使用される製品用の塗装鋼板では、加工性、耐食性が非常に重要である。ここで、耐食性とは、塗膜の端部における白錆および/または赤錆発生を抑制する特性(以下、「端部耐食性」と記す。)のみならず、平面部における白錆発生を抑制することも求められる。近年の外装側に使用される面(おもて面)の塗膜全体の厚み(総膜厚)は環境配慮やコスト削減の観点から薄くなる傾向があるため、この平面部における白錆発生を抑制する特性(以下、端部耐食性と区別するために「平面部耐食性」と記す。)が重要視されることが予想される。
さらにこれら要求性能に加え、屋外使用用途の場合には、雨だれ等による鋼板表面の汚染を抑制する耐雨だれ汚染性も要求される。一般的に、耐雨だれ汚染性を有する鋼板はその表面が親水化処理されている。このため、鋼板表面に付着した雨水は、水滴として鋼板表面に留まることなく速やかに鋼板全体に広がり、雨水に含まれる微粒子(土ぼこりやすすなど)や鋼板表面に付着した汚れ成分(土ぼこりやすすなど)を巻き込みながら下方に移動して鋼板から滴下する。このような親水化処理をされていない場合には、雨水は鋼板表面で水滴となり、この水分が蒸発すると、水滴に含まれる汚れ成分だけがスポット状または筋状に残留し、雨だれとして視認されるようになる。
従来の雨だれ汚染性が付与された鋼板は、単純な折り曲げなど加工性の要求レベルの低い建材用途で主として利用されてきたが、近年、家電用途でも使用されてきており、具体的には、エコキュート(登録商標)の貯蔵タンクユニット(箱形)、業務用エアコン室外機(箱形)等でも利用されてきている。しかしながら、絞り、曲げ加工性の厳しい用途にける実績はこれまで皆無である。これは、耐汚染性を付与することで、塗膜加工性が低下するためである。
そこで、本発明は、耐雨だれ汚染性、平面部耐食性および塗膜加工性のいずれにも優れたクロムフリー塗装鋼板を提供することを目的とする。また、本発明は、屋外使用用途、具体的にはエアコン室外機等の絞りや曲げ加工等が厳しい用途に適した筐体を提供することも目的とする。
上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、本発明者は次の知見を得た。
(1)耐雨だれ汚染性を発現させるべく塗膜表面を親水性にすると、耐雨だれ汚染性を付与していない塗膜と比較して、塗膜表面からの水、塩水等の侵入が多くなる。
(2)また、一般的傾向として、雨だれ汚染性を付与した塗膜は、付与していない塗膜と比べ、塗膜加工性が低下する。
(3)雨だれ汚染性と加工性とを高いレベルで両立するためには、少なくとも2層からなる積層塗膜の最内層、すなわち基材の亜鉛系めっき鋼板上に下地処理層を介して形成される塗膜(以下「下層塗膜」と記す。)の主樹脂(バインダー成分を構成するバインダー樹脂の中で含有量が全バインダー成分に対して50質量%以上となる樹脂)として、平均分子量が7000以上の樹脂である高分子量樹脂、好ましくは平均分子量が8000以上の樹脂、特に好ましくは平均分子量が10000以上であるポリエステル樹脂を用い、さらに、下層塗膜をある程度薄膜化する必要がある。なお、「下地処理層」とは、めっきと塗膜との密着力を向上させるために、めっき上に形成される塗装前処理である。
(4)薄膜化することにより、従来のクロムフリーの下層塗膜と比較して、下層塗膜自体の加工性は向上するが、塗膜表面からの水、塩水の侵入量が多くなる傾向がある。このため、優れた耐雨だれ汚染性および加工性を有する塗膜は、従来の塗装鋼板と比較して塗膜表面からの水、塩水の侵入量が非常に多くなり、結果として、平面部耐食性に劣る。
(5)以上の検討に基づいてさらに検討を行った結果、次の知見を得た。すなわち、耐雨だれ汚染性および加工性を高いレベルで両立させる観点から、積層塗膜において最外層をなす塗膜(以下「上層塗膜」と記す。)および下層塗膜の膜厚およびTg(ガラス転移点温度)ならびにこれらを構成する主樹脂の特性を規定し、さらに、上層塗膜の表面特性および下層塗膜に含有させる防錆顔料を特定することで、上記課題を解決することが可能である。
以上の知見に基づき得られた本発明は次のとおりである。
(1)亜鉛系めっき鋼板を基材とするクロムフリー塗装鋼板であって、当該鋼板の一方の面に少なくとも2層からなる積層塗膜を備え、当該積層塗膜の最外層をなす上層塗膜が下記(i)〜(iii)を満たし、前記積層塗膜の最内層をなす下層塗膜が下記(iv)〜(vi)を満たすことを特徴とするクロムフリー塗装鋼板:
(i)上層塗膜の表面の水に対する接触角が60°以下。
(ii)上層塗膜のTgが40℃以下であって、当該上層塗膜を構成するバインダー成分における主樹脂が高分子量樹脂からなる。
(iii)上層塗膜の膜厚が2μm以上25μm以下。
(iv)下層塗膜のTgが40℃以下であって、当該下層塗膜を構成するバインダー成分における主樹脂が高分子量樹脂からなる。
(v)下層塗膜の膜厚が2μm以上15μm以下。
(vi)下層塗膜中に防錆顔料として、吸油量が50ml/100g以上のイオン交換シリカおよび多孔質シリカからなる群から選ばれる1種または2種以上を含み、これらの合計量が塗料固形分に対し、5質量%以上30質量%以下。
(2)前記上層塗膜中の主樹脂がポリエステル樹脂であり平均分子量が10000以上である上記(1)記載のクロムフリー塗装鋼板。
(3)前記下層塗膜中の主樹脂がポリエステル樹脂であり平均分子量が10000以上である上記(1)または(2)記載のクロムフリー塗装鋼板。
(4)前記少なくとも2層からなる積層塗膜を備える面が塗装鋼板としてのおもて面である、上記(1)から(3)のいずれか記載のクロムフリー塗装鋼板。
ここで、「おもて面」とは、本発明に係る塗装鋼板が筐体などの用途に使用されたときに、その使用状態において外側となる面をいう。なお、「うら面」とはおもて面の反対側の面をいう。「おもて面」の一部が使用状態において内側となる場合もあるが、一方の面の主要な領域が使用状態に置いて外側となるとき、その面が「おもて面」と定義され、このようにして定義されたおもて面の反対の面が「うら面」となる。
(5)前記上層塗膜中に少なくとも1種の非クロム化合物を含有する、上記(1)から(4)のいずれか記載のクロムフリー塗装鋼板であって、この塗装鋼板を0.5cm×4.5cmの長方形に切断したサンプル100個を50℃のイオン交換水(電気伝導度:4μS/cm以下)200mlに周波数40kHzの超音波振動付与下で30分浸漬した時の浸漬水の電気伝導度が30μS/cm以上であることを特徴とするクロムフリー塗装鋼板。
(6)前記非クロム化合物がアルカリ金属リン酸塩である、上記(5)記載のクロムフリー塗装鋼板。
(7)前記アルカリ金属リン酸塩が、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム一水和物、およびリン酸二水素ナトリウム二水和物からなる群から少なくとも1種である、上記(6)に記載のクロムフリー塗装鋼板。
(8)前記塗装鋼板のおもて面が少なくとも2層からなる積層塗膜から形成され、かつ、うら面が1層の塗膜から形成されており、該うら面塗膜の表面の水に対する接触角が60°超の場合には、うら面塗膜の顔料の含有量が塗料固形分に対して30質量%以上70質量%以下であり、該うら面塗膜の表面の水に対する接触角が60°以下の場合には、うら面塗膜の顔料の含有量が15質量%以上70質量%以下であることを特徴とする上記(4)〜(7)のいずれか記載のクロムフリー塗装鋼板。
(9)上記(1)から(8)のいずれか記載のクロムフリー塗装鋼板を成型加工して得られた筐体。
本発明に係る鋼板は、積層塗膜を構成する上層塗膜および下層塗膜におけるTgおよび膜厚ならびにそれらの主樹脂の特性が特定の範囲に規定されていることにより、耐雨だれ汚染性および加工性を高いレベルで両立させることが可能である。しかも、下層塗膜に特定の防錆顔料を含有しているため、積層塗膜を水分が透過して基材をなす鋼板に到達しにくく、平面部耐食性にも優れる。さらに、上層塗膜が特定の条件を満たすことにより端面耐食性を向上させることも可能である。このように本発明に係る鋼板は耐雨だれ汚染性、加工性および耐食性をいずれも高度に兼ね備えているため、屋外用途に適している。
(a)は接触角の測定原理を示す図であり、(b)は本発明において実施した接触角の測定方法を概念的に示す図である。
以下、本発明に係る塗装鋼板およびこれを用いてなる筐体について説明する。
1.基材鋼板
本発明の塗装鋼板に用いられる基材鋼板は特に制限されず、一般的に塗装鋼板に使用される亜鉛を含有するめっき層を有する亜鉛系めっき鋼板、すなわち、亜鉛めっき鋼板もしくは亜鉛合金めっき鋼板またはこれらのめっきを基板と合金化させた合金化めっき鋼板を用いてもよい。
亜鉛系めっき鋼板は、電気めっき、溶融めっき、気相めっきのいずれで作製したものでもよい。亜鉛系めっき鋼板の例としては、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、溶融5%Al−Zn合金めっき鋼板、溶融55%Al−Zn合金めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気Zn−Ni合金めっき鋼板などが挙げられる。ただし、後述するように熱放射率を高めるという観点から、合金化溶融亜鉛めっき鋼板とすることが好ましい。また、導電性を確保する観点からも、合金化溶融亜鉛めっき鋼板とすることが好ましい。
亜鉛系めっき鋼板のめっき付着量も特に限定されず、一般的な範囲内でよい。好ましくは、片面平均付着量で100g/m以下である。この付着量は、より具体的には、電気めっきの場合には3g/m以上50g/m以下、溶融めっきの場合には30g/m以上100g/m以下とすることがより好ましい。
鋼板の厚さは、用途によって決定されるものではあるが、過度に厚い場合は加工性が低下することが懸念される。
2.塗装下地処理
塗装鋼板の製造では、塗膜密着性および耐食性を確保するため、塗装前に基材鋼板を前処理(塗装下地処理)するのが普通である。本発明に係る塗装鋼板も塗装下地処理としての塗装下地処理を施し、塗膜厚の低下による一般的な意味での耐食性の低下を最小限に抑えることとしている。
塗装下地処理は、特に限定されないが、昨今の環境保護の観点から、クロムフリーの塗装鋼板とすることが好ましいため、クロメート処理ではなく、クロムを実質的に含有しない処理液を用いて行うことが好ましい。そのような処理液の代表例は、液相シリカ、気相シリカおよび/またはケイ酸塩などのケイ素化合物を主皮膜成分とし、場合により有機樹脂を共存させたシリカ系処理液である。
塗装下地処理は、シリカ系処理に限られるものではない。シリカ系以外にも、塗装下地処理に使用するための各種のクロムフリー処理液が提案されており、また今後も提案されることが予想される。そのようなクロムフリー処理液を使用することもできる。塗装下地処理により形成される皮膜の付着量は、使用する塗装下地処理に応じて、適当な付着量を選択すればよい。シリカ系処理液の場合、通常の付着量は、Si換算で1mg/m以上20mg/m以下の範囲内であろう。
塗装下地処理に先立って、Ni等の鉄族金属イオンを含む酸性もしくはアルカリ性水溶液による表面調整処理を施すことが多い。また、それ以前に、基材鋼板を清浄化するため、アルカリ脱脂などが通常は行われる。
3.うら面
本発明に係る塗装鋼板を用いてなる筐体を有する製品においてその筐体の外側をなす面(本発明においてこの面を「おもて面」という。)の反対側の面(本発明においてこの面を「うら面」という。)は、まず基材をなす亜鉛系めっき鋼板上に上記の塗装下地処理がなされ、その上に少なくとも1層の塗膜からなる塗膜層が形成されることにより得られる。
本発明においてうら面の塗膜は特に制限されず、必要な性能、外観を実現できるように適宜設計されればよい。ただし、電気伝導度の低い水等が端面に付着、浸漬した際に、発生する鋼板端面からの赤錆発生を抑制するためには、下記に示す塗膜を用いることが好ましい。以下の説明では、塗膜が単層からなる場合と積層からなる場合とでは好ましいうら面の塗膜の構成が異なるため、場合分けして説明する。
(1)うら面が1層の塗膜から形成される場合
うら面に備えられる1層の塗膜は、以下の(i)〜(iv)を満たすものである:
(i)塗膜の表面の水に対する接触角が60°超、
(ii)塗膜の膜厚が2μm以上10μm以下、
(iii)塗膜中の顔料の含有量が、塗料固形分に対し30質量%以上70質量%以下、および
(iv)この塗膜中の顔料のうち、顔料が単独で存在する場合は平均1次粒径が1μm以上であり、顔料同士が凝集して存在する場合は凝集時の顔料の粒径を表す平均2次粒径が1μm以上の顔料の合計量が塗料固形分に対し15質量%以上。
または、以下の(i)〜(iv)を満たすものである:
(i)塗膜の表面の水に対する接触角が60°以下、
(ii)塗膜の膜厚が2μm以上10μm以下、
(iii)塗膜中の顔料の含有量が、塗料固形分に対し15質量%以上70質量%以下、および
(iv)この塗膜中の顔料のうち、顔料が単独で存在する場合は平均1次粒径が1μm以上であり、顔料同士が凝集して存在する場合は凝集時の顔料の粒径を表す平均2次粒径が1μm以上の顔料の合計量が塗料固形分に対し5質量%以上。
ここで、「顔料」とは防錆や着色などを目的とした顔料全体をいう。また、「塗料固形分」とは塗料を焼き付けた際の固形分(塗膜)をいい、この「塗料」には塗装下地処理のための処理液は含まれない。塗料固形分の質量は次のようにして計測される。すなわち、所定量の塗料または塗料原料(主樹脂等)をオーブンに入れ、その質量を計測しながらオーブン内を加熱して塗料または塗料原料を固化させる。オーブン内の質量変化がなくなるまで固化させたときの固化物の質量計測値を塗料固形分の質量と定義する。したがって、「塗料固形分に対する質量%」とは、この重量計測値を100%としたときの質量割合をいう。この塗料固形分(塗膜の乾燥状態での重量)を構成する成分として、バインダー成分、顔料、およびビーズなどの他の成分が挙げられる。
本発明における顔料の「粒径」とは、塗膜中に存在する顔料が単独で存在する場合は平均1次粒径を指し、顔料同士が凝集して存在する場合は凝集時の顔料の粒径を表す平均2次粒径を意味し、次の計測方法で求めることが好ましい。まず、塗膜が形成された塗装鋼板を切断してその断面を露出させ、その断面をさらに研摩する。こうして得られた断面を電子顕微鏡で観察して、塗膜中の断面の観察像を得る。その観察像の視野に存在する顔料から数個を選び出し、それぞれの顔料の長辺長さと短辺長さを測定し、これら長辺の平均値と短辺の平均値を算出し、さらにこれらを平均して平均1次粒径を算出する。
なお、平均1次粒径の数値は計測方法によって若干変動する。例えば、粒度分布計を用いる場合には測定原理によって、画像解析の場合には画像処理方法によって変動しうる。しかしながら、本発明において規定される顔料の粒径の範囲はこうした変動を考慮したものであり、いずれの方法によって得られた粒径であっても、本発明に規定される範囲であれば、所期の効果を得ることが安定的に実現される。
亜鉛系めっき鋼板の一方の面にこのような1層のみからなる塗膜を有する構成とすることにより、端面からの赤錆発生を効果的に抑制することができる。
このように塗膜を1層のみから構成することが端面赤錆の発生を抑制する観点から好ましい理由は次のように考えられる。すなわち、比較的薄い膜厚中に所定量以上の顔料を含有させ、かつ少なくともその一部は比較的大きな粒径、具体的には1μm以上の粒径の顔料とすることで、外界の水分が塗膜を通過して亜鉛系めっき層に到達しやすくなる。このため、亜鉛系めっき層からの亜鉛の溶解が進行し、その結果端面近傍のpHが上昇したり亜鉛化合物が形成したりすることにより、鋼板の腐食が抑制される。
A)顔料
顔料の種類は特に限定されず、防錆顔料、着色顔料などいずれを用いてもよい。
防錆顔料の例としては、トリポリリン酸アルミニウム、リン酸および亜リン酸のZn、Mg、Al、Ti、Zr、およびCe塩、Caイオン交換シリカ、ならびに吸油量100〜1000ml/100g、比表面積200〜1000m2/g、粒径2〜30μmの非晶質シリカ粒子が挙げられる。
着色顔料の例としては、酸化亜鉛、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリンなどの無機顔料、銅フタロシアニン、トルイジンレッドなどの有機顔料、さらにはカーボンブラックなどが挙げられる。
顔料の含有量は、塗料固形分に対して、接触角が60°超の場合には30質量%以上70質量%以下、接触角が60°以下の場合には15質量%以上70質量%以下とする。顔料の含有量が30質量%未満(接触角>60°の場合)または15質量%未満(接触角≦60°の場合)の場合には、水分が塗膜を透過しにくくなるため、亜鉛の溶解が進行しにくくなって、端面からの赤錆の発生を抑制する効果が現れにくくなってしまう。一方、顔料の含有量が70質量%を超えると、塗装鋼板の加工性が低下するなど塗装鋼板に求められる他の特性を満足することが困難となる。
ここで、接触角によって含有量の下限を変化させているのは次の理由による。すなわち、顔料の含有量が多いほど水分が塗膜を透過しやすくなる傾向を有する一方、接触角が大きいほど塗膜に接触する水分量は少なくなり、水分が塗膜を透過する量も少なくなる。そこで、接触角が大きく水分の塗膜透過量が少ない場合には顔料の含有量を多くすることで、赤錆発生の抑制に必要な水分の塗膜透過量を確保することが実現される。
また、この顔料のうち、粒径1μm以上の顔料の塗料固形分に対する合計含有量を、接触角が60°超の場合には15質量%以上とし、接触角が60°以下の場合には5質量%以上とする。
また、この場合も接触角によって含有量の下限を変化させているのは、上記の顔料全体の含有量の場合と同様に、接触角が大きく水分の塗膜透過量が少ない場合には、含有量が多いほど水分透過量を増加させる粒径1μm以上の顔料の含有量を多くすることで、赤錆発生の抑制に必要な水分の塗膜透過量を確保するためである。粒径1μm以上の顔料の塗料固形分に対する合計含有量の上限は特に設定されないが、塗装後の加工性維持の理由から70質量%以下とすることが好ましい。
なお、このような端面の保護機構に基づくと、顔料の含有量を増加させるほど、塗装面の耐食性、具体的にはおもて面の端面からの塗膜の膨れ幅を少なくする特性は劣化する方向にあるが、このような場合でも、顔料の少なくとも一部を次のような顔料を有することで、上記の塗装面の耐食性も確保されるため、好ましい。
(i)リン酸および亜リン酸のZn、MgおよびAl塩(例えば、トリポリリン酸アルミニウム)、
(ii)吸油量が50ml/100g以上のイオン交換シリカ、ならびに非晶質シリカ
からなる群から選ばれる1種または2種以上の合計量が塗料固形分に対し5質量%以上。このうち、(ii)の吸油量が50ml/100g以上のイオン交換シリカ、ならびに非晶質シリカが特に好ましい。
また、顔料の粒径は塗膜の厚さよりも小さいことが好ましい。顔料の粒径が塗膜の厚さよりも大きいものが過度に多い場合には、塗装面の耐食性が低下することが懸念される。
B)バインダー成分
バインダー成分は、バインダーの主成分であるバインダー樹脂、硬化剤、およびその他(硬化触媒等)、の成分から構成される。
バインダー樹脂の種類は、実用的には塗装鋼板として要求される性能に応じて適宜選択され、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂など、これまでも塗装鋼板に用いられてきた各種の樹脂を使用することができ、これらの樹脂を必要に応じてブレンドして用いてもよい。
バインダー樹脂に組み合わせる架橋剤としては、例えば、メラミン樹脂、ポリイソシアネート化合物などが挙げられる。必要であれば、架橋触媒を配合してもよい。
バインダー成分の塗料固形分に対する含有量は、15〜90質量%とすることが好ましい。バインダー成分の含有量が過度に多い場合には相対的に顔料の含有量が低下し、耐食性が低下したり、所望の色調の着色が困難となったりする。一方、その含有量が過度に低い場合には、塗膜自身の硬度は上昇し耐疵付き性は向上するが、塗膜自身の伸びが低下するため、加工性が低下したりする。特に好ましい含有量の範囲は塗料固形分に対して30〜85質量%である。
なお、A)記載の顔料構成との兼ね合いで、接触角を60°以下の塗膜とする場合については、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂などをベース樹脂として、例えば、テトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物を含有させた樹脂等を用いることで接触角を60°以下とすることが可能となる。その含有量は特に限定されないが、一例を挙げればベース樹脂100質量部に対して1〜10質量部程度である。
テトラアルコキシシランの例としては、例えばメチルシリケート51, エチルシリケート40, エチルシリケート48 (コルコート社製)やMKCシリケートMS51, MS56(三菱化学株式会社製)等の市販品等が挙げられる。また、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等のモノマーに水及び触媒を加えて加水分解縮合させることによっても得られる。
C)他の成分
うら面を構成する1層の塗膜中に含まれる成分としては、上記のバインダー成分および顔料以外に、レベリング剤、外観の凹凸を得るためのビーズ、溶接性や電磁波シールド性を向上させるための導電粉、加工性を向上させるためのワックス等が挙げられ、これらを必要に応じて適宜含有させてもよい。
但し、これらの成分の含有量が増えると加工性が低下することが懸念されるため、防錆顔料以外の顔料をさらに含有する場合でも、これらの他の成分の塗料固形分に対する合計含有量は20質量%以下とすることが好ましく、10質量%以下とすることが特に好ましい。
D)塗膜厚さ
うら面を構成する1層の塗膜の厚さは2〜10μmとする。耐端面赤錆性の観点からは塗膜の厚さが薄い方が有利であるが、2μm未満の場合には、塗膜による隠蔽性が得られにくくなり、うら面とはいえども外観の意匠性が低下することが懸念される。また、塗装面の耐食性も過度に低下するおそれがある。一方、塗膜が厚すぎると顔料の含有量を上記の範囲としても、端面の赤錆発生の抑制に必要な水分の塗膜透過量を確保することが困難となってしまう。なお、上述のように、塗膜の厚さは含有させた顔料の粒径以上とすることが好ましい。
(2)うら面が2層以上の塗膜から形成される場合
うら面が2層以上の塗膜から構成される場合において、端面の赤錆をさらに抑制する観点からは、最内層以外の少なくとも1層の塗膜である上塗り塗膜に、下記(A)および(B)の要件を満たす少なくとも1種の非クロム化合物を含有させることが好ましい:
(i)イオン交換水(電気伝導度:4μS/cm以下)に0.1質量%濃度で溶解させた時の水の電気伝導度が500μS/cm以上、
(ii)200℃までに熱分解を生じない。
好ましい非クロム化合物の例としては、アルカリ金属のリン酸塩もしくは塩化物またはアルカリ土類金属の次亜リン酸塩である。具体例としては、トリポリリン酸ナトリウム(三リン酸五ナトリウム)、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化ナトリウム、次亜リン酸カルシウム等が挙げられる。
このような非クロム化合物は、水に溶け易いため、水と接触した時に塗膜の端面から比較的容易に滲みだし、端面付近の水の電気伝導度を上げる。それにより、亜鉛の犠牲防食能を促進させ、赤錆発生を抑制する。
端面以外の耐食性とのバランスという点では、前記非クロム化合物としてアルカリ金属リン酸塩を選択することが好ましい。詳細なメカニズムについては、不明だが、イオン化したリン酸イオンが、鋼板端面の亜鉛、鉄素地に作用することで、赤錆、白錆の発生を抑制しているものと推測される。ここで、「リン酸塩」とは、オルトリン酸塩に限られるものではなく、トリポリリン酸塩のようなポリリン酸塩(縮合リン酸塩)、亜リン酸塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩なども含む。
なお、うら面に3層以上の塗膜を有する場合には、最内層以外の少なくとも1層の塗膜、すなわち上塗り塗膜を構成する塗膜の少なくとも一つに上記の非クロム化合物を含有させるのが好ましく、最外層の塗膜に含有させればより好ましい。
上記の非クロム化合物を含有させる層の塗膜(本実施態様では最外層塗膜)のバインダー成分を構成するバインダー樹脂は特に限定されず、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーンポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂などから選んだ1種または2種以上を使用することができる。また、架橋剤は、架橋触媒の配合の可否を含め、目的に合わせて適宜設定すればよい。
これらの非クロム化合物およびバインダー成分の塗料固形分に対する含有量は特に限定されない。例示的に示せば、非クロム化合物:0.5〜30質量%、バインダー成分:30〜80質量%である。
また、最外層塗膜は、上述した非クロム化合物のほか、通常用いられるクロムフリー防錆顔料を含んでいてもよいし、着色顔料を含有してもいてもよい。また、他の添加剤、例えば、耐候性を改善するのに有効な紫外線吸収剤および光安定剤、加工性(プレス成形性)の改善に有効なワックスを含有していてもよい。これらの含有量は目的に合わせて適宜設定すればよい。
最外層塗膜の膜厚は、全体として0.5〜50μmであることが望ましく、さらに望ましくは2〜20μmである。塗膜厚が薄すぎると耐食性および隠蔽性が不十分であり、厚すぎるとコスト高および塗膜内部応力増大に伴う加工性、密着性が低下することが懸念される。
なお、最内層をなす塗膜である下塗り塗膜については、組成および膜厚のいずれについても特に制限されず、公知の塗膜を形成すればよい。
4.おもて面
本発明に係る塗装鋼板のおもて面には、まず基材をなす亜鉛系めっき鋼板上に上記の塗装下地処理がなされ、その上に少なくとも2層の塗膜からなる積層塗膜が形成される。
このおもて面における少なくとも2層の塗膜からなる積層塗膜は、最外層をなす塗膜(上層塗膜)が下記(1)〜(3)を満たし、最内層をなす塗膜(下層塗膜)が下記(4)〜(6)を満たす。
(1)上層塗膜の表面の水に対する接触角が60°以下。
(2)上層塗膜のTgが40℃以下であって、当該上層塗膜を構成するバインダー成分における主樹脂が高分子量樹脂からなる。
(3)上層塗膜の膜厚が2μm以上25μm以下。
(4)下層塗膜のTgが40℃以下であって、当該下層塗膜を構成するバインダー成分における主樹脂が高分子量樹脂からなる。
(5)下層塗膜の膜厚が2μm以上15μm以下。
(6)下層塗膜中に防錆顔料として、吸油量が50ml/100g以上のイオン交換シリカおよび多孔質シリカからなる群から選ばれる1種または2種以上を含み、これらの合計量が塗料固形分に対し、5%以上30%以下。
ここで、「主樹脂」とは、バインダー成分を構成するバインダー樹脂の中で含有量が全バインダー成分に対して50質量%以上となる樹脂をいい、単独の樹脂種で構成される場合もあれば複数の樹脂種が同様の特性を有することによって主樹脂として総称される場合もある。
「高分子量樹脂」とは、平均分子量が7000以上の樹脂をいい、平均分子量が3000以下の低分子量樹脂に比べると、柔軟性のある塗膜が得られやすい。
「Tg」とはガラス転移点温度を意味する。
以下に上層塗膜および下層塗膜について詳しく説明する。
(1)上層塗膜
上層塗膜とは、めっきと塗膜との密着性等を向上させるために行われた塗装下地処理により得られた下地処理層を介して、亜鉛系めっき鋼板上に形成される積層塗膜のうち、最も外側の層をなす塗膜をいう。
本発明に係る塗装鋼板のおもて面における塗膜は積層塗膜であり、その上層塗膜は、必須の成分として主樹脂が高分子量樹脂であるバインダー成分を含有し、必要に応じ顔料およびその他の成分を含有するとともに、上層塗膜の表面の水に対する接触角が60°以下、塗膜のTgが40℃以下、かつ膜厚が2μm以上25μm以下である。
A)バインダー成分
上層塗膜を構成するバインダー成分は、バインダーの主成分であるバインダー樹脂、硬化剤、およびその他の成分(硬化触媒など)から構成される。本発明においては、このバインダー樹脂のうち、主樹脂は、平均分子量が7000以上である高分子量樹脂であり、平均分子量が8000以上であることが好ましく、平均分子量が10000以上であればさらに好ましい。
かかる高分子樹脂は、平均分子量が3000以下の低分子量樹脂など平均分子量が低い樹脂に比べて樹脂自体の伸び率が高いため、高分子樹脂を主樹脂として用いることで優れた加工性が実現される。主樹脂の平均分子量の上限は特に限定されないが、通常の手段で市場から入手できる樹脂材料における平均分子量の上限は30000である。
バインダー樹脂の具体的な種類としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーンポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂などから選んだ1種または2種以上を使用することができ、それらの中でもポリエステル樹脂を用いることが好ましい。
なお、硬化剤はメラミン樹脂、ポリイソシアネート化合物などが例示され、硬化触媒、架橋触媒の配合の可否を含め、目的に合わせて種類および含有量を適宜設定すればよい。ただし、過度に多く含有させると、塗膜の高度が過度に高くなって加工性が低下してしまう。
バインダー成分の含有量は、塗料固形分に対して40質量%以上95質量%以下とすることが好ましい。バインダー成分の含有量が過度に多い場合には相対的に顔料の含有量が低下することで、塗膜の耐疵付き性が低下したり、所望の色調の調色が困難になったりする。一方、その含有量が過度に低い場合、つまり、バインダー成分に対して、顔料の含有量が過度に多い場合、加工性が低下したりする。特に好ましい含有量の範囲は、塗料固形分に対して55質量%以上90質量%以下である。さらに好ましくは、60質量%以上70質量%以下である。
B)顔料成分
「顔料」とは防錆や着色などを目的とした顔料全体をいう。本発明に係る上層塗膜は、クリア塗膜である場合には顔料を含有しないが、クリア塗膜でない場合には、使用時にユーザーの目に直接触れる塗膜であるから、顔料のうち少なくとも着色顔料を含有する。
着色顔料の具体的な種類は特に限定されない。酸化亜鉛、酸化チタン(チタニア)、炭酸カルシウム、カオリンなどの無機顔料、銅フタロシアニン、トルイジンレッドなどの有機顔料、さらにはカーボンブラックなど所望の色調に合わせて適宜使用すればよい。また、所定の意匠を満足するために、着色顔料の一部または全部としてアルミフレーク、マイカ等の光輝顔料を必要に応じ用いてもよい。
上層塗膜における着色顔料の含有量は、塗料固形分に対して5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。この範囲を外れて含有量が過度に少ない場合には所定の色調を安定的に発現させることが困難となり、過度に多い場合には塗膜強度が低下したり、平面部耐食性が著しく低下したりする。
上層塗膜は着色顔料以外に防錆顔料を含有してもよい。防錆顔料の例としては、リン酸および亜リン酸のZn、Mg、Al、Ti、Zr、およびCe塩、Caイオン交換シリカ、ならびに吸油量100ml/100g以上1000ml/100g以下かつ比表面積100m2/g以上1000m2/g以下を満たす多孔質シリカ粒子(以下「多孔質シリカ顔料」と略記する。)が挙げられる。防錆顔料をも含有させる場合であっても、防錆顔料と着色顔料とを含む顔料全体の含有量を塗料固形分に対して5質量%以上50質量%以下とすることが、加工性を維持するの観点から好ましい。
上記の多孔質シリカ顔料の吸油量および比表面積の範囲について、吸油量100ml/100g未満または比表面積100m2/g未満の場合には十分な耐食性能を得ることが困難となってしまう。逆に、吸油量1000ml/100gを超えたり比表面積1000m2/gを超えたりする場合には、塗料中に添加した際の塗料安定性、塗装性を損なうため適していない。
顔料の形状は特に限定されないが、形状が過度に大きい場合(具体例として顔料の粒径が本発明に係る積層塗膜全体の厚さよりもはるかに大きい場合が挙げられる。)には、塗布工程において不都合を生じる可能性が高まる。例えば、ロールコーターを用いて塗布する場合には、顔料の形状が過度に大きいとロールギャップを通過することが困難となり、調製時の塗料における顔料の含有量と塗布された塗料における顔料の含有量とが大きく異なってしまう。その結果、塗膜が所定の特性を得られなくなることが懸念される。また、顔料の形状が過度に大きい場合には、乾燥により得られた塗膜の厚さが不均一になるとともに、二次加工においてワレの起点となったりすることが懸念される。したがって、顔料の形状は、粒径として積層塗膜全体の厚さの2倍以内であることが好ましい。また、上層塗膜の塗布工程を安定的に行うという観点からは、顔料の粒径が上層塗膜の厚さの3倍以内であることが好ましく、1倍以内であれば特に好ましい。
ここで、うら面2層以上の塗膜と同様、切断端面からの赤錆の発生を抑制するために、下記(i)および(ii)の要件を満たす少なくとも1種の非クロム化合物を含有してもよい。
(i)イオン交換水(電気伝導度:4μS/cm以下)に0.1質量%濃度で溶解させた時の水の電気伝導度が500μS/cm以上、
(ii)200℃までに熱分解を生じない。
非クロム化合物についてはアルカリ金属リン酸塩が好ましく、具体的には、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム一水和物、およびリン酸二水素ナトリウム二水和物からなる群から少なくとも1種が例示される。
上記の赤錆発生を抑制するために添加される化合物の添加量としては、塗料固形分に対して1質量%以上10質量%以下含有することが好ましい。
C)その他の成分
上層塗膜中に含まれる成分としては、上記のバインダー成分および顔料以外に、レベリング剤、外観の凹凸やプレス性の向上を得るためのアクリルビーズやPTFE等の樹脂ビーズ、溶接性や電磁波シールド性を向上させるための導電粉、耐候性を改善するのに有効な紫外線吸収剤および光安定剤、加工性(プレス成形性)の改善に有効なワックス等が挙げられ、これらを必要に応じて適宜含有させてもよい。このほか、後述する表面特性を実現するために親水性付与剤を含有させてもよい。
但し、これらの成分の含有量が増えすぎると加工性が低下したり外観が劣化したりすることが懸念されるため、これらの合計含有量は塗料固形分に対して30質量%以下とすることが好ましく、20質量%以下とすることが特に好ましい。
D)Tg
本発明に係る上層塗膜は、加工性を維持する観点から、塗膜のTgが40℃以下である。Tgの下限は特に限定されないが、過度に低い場合には耐疵付き性などが低下することが懸念されるため、0℃以上とすることが好ましい。
なお、Tgは次のような方法で測定される。TMA(熱機械測定装置)を用い、測定対象の塗膜表面から塗膜厚み方向に針を刺し、一定の温度変化をさせて、測定対象物の熱膨張変化を測定し、ガラス転移点温度(Tg)を測定する。これにより塗膜の表面だけではなく、塗膜厚み方向のTgを測定することができる。なお、TMAの方式には、例えば示差膨張方式のTMAがあるが、測定方式によりTgの測定数値が大きく変動することはないため、いずれの方式のTMAを用いてもよい。
E)膜厚
本発明に係る上層塗膜の膜厚は、全体として2〜25μmとし、5〜20μmとすることが望ましい。塗膜厚が薄すぎると耐食性および隠蔽性が不十分であり、厚すぎるとコスト高および塗膜内部応力増大に伴う加工性、密着性が低下することが懸念される。
F)表面特性
本発明に係る上層塗膜は、その表面の水に対する接触角が60°以下である。このように表面が親水性を有することで耐雨だれ汚染性が得られる。
上層塗膜の表面にそのような特性を付与する手段は特に限定されない。塗膜の表面に親水性を付与することが可能な親水性付与剤をバインダー成分に含有させて塗膜を形成すれば、その表面は親水性となり、接触角を60°以下とすることが実現される。また、塗膜の表面を例えば酸素プラズマに暴露させたり、塗膜表面に通常大気下で紫外線を照射したりするなどの処理を行うことで、塗膜表面のOH基濃度が高まり、接触角を60°以下とすることが実現される。
親水性付与剤についてさらに説明すれば、テトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物を例示することができる。テトラアルコキシシランの例としては、例えばメチルシリケート51、エチルシリケート40、エチルシリケート48(以上コルコート(株)製)やMKCシリケートMS51、MS56(以上三菱化学(株)製)等の市販品等が挙げられる。また、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等のモノマーに水及び触媒を加えて加水分解縮合させることによっても得られる。このような親水性付与剤をバインダー成分の一部として含有させたものを塗布してこれを焼き付けることによって、接触角が60°以下の表面を有する上層塗膜を得ることが実現される。
このほか、光触媒機能を有する酸化チタン粒子を親水性付与剤として分散させてもよい。ただし、この場合には酸化チタンが着色顔料としても機能するため、色調の自由度が制限される。
G)製造方法
上層塗膜の製造方法は特に限定されない。常法にしたがって、上記の構成成分を適切な媒体に溶解および/または分散させて塗膜形成用液状組成物とし、後述する下層塗膜の上に任意の方法でこの組成物を所定の厚さで塗布し、加熱などを行って媒体を揮発させるとともにバインダー成分を硬化させて、固体の塗膜とすればよい。
焼き付け温度に関しては、硬化剤として主として用いるメラミンの架橋反応を考慮すると200℃以上とすることが好ましく、かつ、上層塗膜の直下に位置する下層の塗膜(積層塗膜が二層構造の場合には下層塗膜)との密着性向上のため、下層の塗膜の焼き付け温度以上で焼き付けることが好ましい。上層塗膜のより好ましい焼き付け温度範囲としては、220℃〜250℃である。
焼き付け時間に関しては、硬化剤として主として用いるメラミンの架橋反応を考慮すると10秒から120秒の範囲であることが好ましい。10秒以下であるとメラミンの架橋反応が十分でない可能性が高くなり所定の性能が得られない可能性があり、120秒を超えると生産性が著しく低下する。
(2)下層塗膜
続いて、下層塗膜について説明する。
下層塗膜とは、めっきと塗膜との密着性等を向上させるために行われた塗装下地処理により得られた下地処理層を介して、亜鉛系めっき鋼板上に形成される積層塗膜のうち、最下層をなし、下地処理層に接する塗装をいう。
本発明に係る下層塗膜は、主樹脂が高分子量樹脂であるバインダー成分、顔料およびその他の成分から構成され、以下に説明する特定の防錆顔料を含有し、Tgが40℃以下であって、かつ膜厚が2μm以上15μm以下である。
耐食性を改善するためにクロム酸ストロンチウムなどのクロム酸塩系の防錆顔料を使用した従来の塗装鋼板では、この防錆顔料は下層塗膜に含有させることが多かった。その一つの理由は、前述したように、上層塗膜には意匠性(色調、光沢など)、耐疵付き性、耐候性など種々の性能が要求され、塗膜設計の自由度が制約されるのに対して、下層塗膜の方は制約が少ないためである。
本発明の塗装鋼板においても、下層塗膜に平面部耐食性を担う防錆顔料が含有され、必要に応じ、端面耐食性を担う防錆顔料や添加剤がさらに含有される。
なお、亜鉛系めっき鋼板上に形成された積層塗膜が3層以上の塗膜から構成されている場合には、最下層をなし下地処理層に接する下層塗膜と最外層をなす上層塗膜との間に位置する中間塗膜(一層であっても複数層であってもよい。)は、その塗膜のTgが40℃以下であって、その塗膜を構成するバインダー成分に含まれるバインダー樹脂のうち、全バインダー成分に対して50質量%以上を占める樹脂、すなわち主樹脂が高分子量樹脂(平均分子量が10000以上の樹脂)とすることが好ましい。
A)バインダー成分
下層塗膜を構成するバインダー成分は、バインダーの主成分であるバインダー樹脂、硬化剤、およびその他の成分(硬化触媒など)から構成される。本発明においては、このバインダー樹脂のうち、平均分子量が10000以上である高分子量樹脂を主樹脂とする。かかる樹脂を用いることで、平均分子量が3000以下の低分子量樹脂を用いた場合に比べて、塗膜の硬度が過度に高まることが抑制され、優れた加工性が実現される。主樹脂の平均分子量の上限は特に限定されないが、平均分子量が過度に大きい場合には、これを含む組成物を基材上に塗布することが困難となる場合がある。具体的には、平均分子量が大きすぎる場合には溶剤への溶解度が低下するため、塗料作成に要する溶媒量が増加する。このため、塗布された塗料に含まれる溶剤の量が相対的に増加することになる。したがって、同一膜厚の塗膜を形成する場合、溶剤量の少ない塗膜と比較して、焼き付け時に揮発する溶剤の量が増え、その結果、オーブン焼き付け時、インシネへの負荷が大きくなりラインスピードを高めることが困難となる。また、厚膜化使用とした場合には、基材鋼板状に塗布される塗料の付着量を増やす必要があり、厚膜を形成することが困難になる。通常の手段で市場から入手できる樹脂材料における平均分子量の上限は30000であり、25000以下であれば上記のような塗布作業性の問題はほとんど生じない。
バインダー樹脂の具体的な種類としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーンポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂などから選んだ1種または2種以上を使用することができ、それらの中でもポリエステル樹脂を用いることが好ましい。
なお、硬化剤はメラミン樹脂、ポリイソシアネート化合物などが例示され、硬化触媒、架橋触媒の配合の可否を含め、目的に合わせて種類および含有量を適宜設定すればよい。
バインダー成分の含有量は、塗料固形分に対して50質量%以上95質量%以下とすることが好ましい。バインダー成分の含有量が過度に多い場合には相対的に顔料の含有量が低下し、耐食性が低下する。一方、その含有量が過度に低い場合には加工性が低下する。特に好ましい含有量の範囲は、塗料固形分に対して65質量%以上95質量%以下である。さらに好ましくは、70質量%以上95質量%以下である。
B)顔料成分
本発明に係るおもて面の下層塗膜は、吸油量が50ml/100g以上のイオン交換シリカおよび多孔質シリカからなる群から選ばれる1種または2種以上のシリカ化合物を防錆顔料として含む。かかる上記シリカ化合物からなる防錆顔料は、平面部耐食性に特に優れるため、上層塗膜表面を加工性に優れたかつ親水性(具体的には表面の水に対する接触角が60°以下)にした際の平面部の耐食性低下を抑制することができる。
このシリカ化合物からなる防錆顔料の合計含有量は、塗料固形分に対して5質量%以上30質量%以下とする。含有量が5質量%未満の場合には、上層塗膜表面を加工性に優れたかつ親水性としたときに十分な平面部耐食性を実現することが困難となってしまう。一方、含有量が30質量%超の場合には、加工性が低下し、成型したときに塗膜にクラックが発生しやすくなってしまう。
ここで、上記記載のシリカ化合物からなる防錆顔料以外に、他の防錆顔料、例えばトリポリリン酸アルミニウムや上記吸油量の範囲を満たしていないカルシウム交換シリカや非晶質のシリカを含有してもかまわない。ただし、平面部耐食性を確保する観点から吸油量が50ml/100g以上のシリカ化合物からなる防錆顔料の含有量を塗料固形分に対して5質量%以上とするとともに、加工性を維持する観点から吸油量が50ml/100g以上のシリカ化合物からなる防錆顔料と他の防錆顔料との合計含有量を塗料固形分に対して30質量%以下とする。
また、防錆顔料以外の顔料を含有させてもよい。ただし、これら顔料を含有させることによって、上記の吸油量が50ml/100g以上のシリカ化合物からなる防錆顔料の塗料固形分に対しての含有量が相対的に低下して平面部耐食性が低下することが懸念されるため、吸油量が50ml/100g以上のシリカ化合物からなる防錆顔料の含有量は、その他顔料を含有させない場合と同様に、塗料固形分に対して5質量%以上30質量%以下の範囲を維持し、その他顔料の含有量は、吸油量が50ml/100g以上のシリカ化合物からなる防錆顔料を含む他の顔料との合計含有量として、塗料固形分に対して30質量%以下とする。
C)その他の成分
下層塗膜についても、上層塗膜と同様にバインダー成分および顔料成分以外の成分を含有させてもよいが、耐食性確保の観点から、その他の成分の合計含有量は塗料固形分に対して10質量%以下とすることが好ましく、5質量%以下とすることが特に好ましい。
D)Tg
本発明に係る下層塗膜も、上層塗膜と同様に加工性を維持する観点から、塗膜のTgが40℃以下である。Tgの下限は特に限定されないが、過度に低い場合には耐疵付き性などが低下することが懸念されるため、0℃以上とすることが好ましい。
E)膜厚
下層塗膜のうち、上記の多孔質シリカ顔料を所定の含有量で含む塗膜の厚さを2μm以上とする。膜厚を2μm未満とすると、所望の平面部耐食性を得ることが困難となる。一方、膜厚の上限は15μmを上限とする。これ以上の膜厚では、優れた加工性が得られず、かつ経済的な観点からも好ましくない。
なお、下層塗膜および上層塗膜以外に積層塗膜の構成要素となる塗膜(以下、「中間塗膜」という。)がある場合であっても、加工性の観点から積層塗膜全体の厚さは35μm以下とすることが好ましい。この中間塗膜の構成(単層/複層)および組成は特に限定されないが、通常の組成であれば、中間塗膜が厚くなればなるほど平面部耐食性は向上するものの加工性は低下し、下層塗膜の組成によっては端部耐食性も低下する。したがって、中間塗膜は薄いことが好ましく、積層塗膜が中間塗膜を有さない2層構成であることがより好ましい。
F)製造方法
下層塗膜の製造方法も特に限定されない。上層塗膜の場合と同様に、適切な媒体に溶解および/または分散させて塗膜形成用液状組成物とし、適切な方法で素地鋼板上にこれを所定の厚さで塗布し、加熱などを適宜行って塗膜とすればよい。なお、上記の吸油量が50ml/100g以上のシリカ化合物からなる防錆顔料を分散させやすくする観点からは、分散剤を添加することが好ましい。
なお、焼き付け温度に関しては、上層塗膜と同様に200℃以上とすることが好ましく、210℃〜230℃の範囲であって、下層塗膜の上に形成される塗膜(積層塗膜が二層構成の場合には上層塗膜)の焼付け温度よりも低い温度であることが、下層塗膜とその上層の塗膜との密着性を向上させる観点からより好ましい。
焼き付け時間に関しても、上層塗膜と同様、10秒から120秒の範囲であることが好ましい。
5.成型
本発明の塗装鋼板から、例えば、打ち抜き、プレス成型といった慣用の形状加工のための二次加工方法、すなわち成型加工により筐体を形成することができる。この筐体は耐雨だれ汚染性に優れているので、例えば、エアコン室外機や給湯器などの屋外で使用されることの多い機器のハウジングとして有用であり、雨水等にさらされても、雨スジ等の汚染が抑制される。
以下の実施例により本発明の効果を例証する。実施例は例示を目的とし、本発明を制限するものではない。実施例中、%は特に指定しない限り塗料固形分に対する質量%である。
1.試験片の製造
板厚0.8mmの溶融亜鉛めっき鋼板(亜鉛付着量:片面当たり45g/m2、寸法:300×250mm)からなる塗装基材に、アルカリ脱脂および水洗を行った後、日本ペイント(株)製のシリカ系クロムフリー化成処理液(製品名:サーフコートEC2330)を塗装下地処理液として用いて、この製品の指示通りに塗装下地処理を両面に施した。この処理における付着量は、Si付着量として4〜8mg/m2であった。
塗装下地処理を施した後、後述する塗料を用いて、最初にうら面の塗膜の塗装を行った。塗装後の鋼板に対してオーブンにて焼付け処理を行った。焼き付け温度は、1層からなる場合、2層の塗膜からなる場合共に、PMT(基板の最高到達温度)が170℃とした。次いで、おもて面の下層塗膜の塗装および引き続いての焼付け処理(PMT:216℃)を行い、最後におもて面の上層塗膜の塗装および引き続いての焼付け処理(PMT:230℃)を行った。
塗装はバーコーターで行った。うら面側の塗膜の厚みは、うら面が1層塗膜からなる場合には厚みを5μmとし、2層塗膜からなる場合には、下塗り塗膜の厚みを特に規定されていない場合には4μmとし、上塗り塗膜の厚みを9μmとした。おもて面については、特に規定されない場合には、下層塗膜の厚みを5μm、上層塗膜の厚みを15μmとした。
ここで、用いた塗料について説明する。
使用したベース塗料は次のとおりである。
(1)うら面下塗り塗膜用塗料、おもて面下層塗膜用塗料
表1記載のクリア塗料からなるバインダー成分(いずれも日本ファインコーティングス(株)製)に表2記載の顔料を添加して、表3記載の下塗り塗料を作製した。なお、表1における硬化剤の含有量は全バインダー樹脂100質量部に対する質量割合(単位:質量部)である。また、顔料分散時には、塗料質量100gに対して20gのガラスビーズを入れた容器をハイブリッドミキサーで20分間攪拌することにより、塗料中に均一に分散させた。また、表2における粒径は、顔料製造者が提供するカタログに記載された値である。
Figure 2010188526
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(2)おもて面上層塗膜用塗料、うら面上塗り塗膜用塗料
表4記載のいずれも日本ファインコーティングス社製のクリア塗料(顔料を含んでいない樹脂組成分からなる塗料)をバインダー成分とし、このバインダー成分に対して、表5に示されるように、着色顔料として表2に示されるチタニアを塗料固形分に対する質量%として35〜50質量%、さらに追加の添加顔料として非クロム化合物としてのリン酸二水素カリウムなどを塗料固形分に対する質量%として5〜15質量%添加し、顔料濃度(PWC)が塗料固形分に対する質量%として40〜60質量%である上塗り塗料を作製した。なお、表4における硬化剤の含有量は全バインダー樹脂100質量部に対する質量割合(単位:質量部)である。また、顔料分散時には、塗料質量100gに対して20gのガラスビーズを入れた容器をハイブリッドミキサーで20分間攪拌することにより、塗料中に均一に分散させた。
Figure 2010188526
Figure 2010188526
なお、表5の顔料含有量における%は、塗料固形分に対する質量%を意味する。また、追加的に添加された顔料のうち、リン酸二水素カリウムは、下記(A)および(B)の要件を満たす:
(A)イオン交換水(電気伝導度:4μS/cm以下)に0.1質量%濃度で溶解させた時の水の電気伝導度が500μS/cm以上、
(B)200℃までに熱分解を生じない。
こうして得られた試験片の構成を表6〜表9に示す。
なお、表6のNo.1−1〜1−24はおもて面上層塗膜を変更したときの諸性能への影響を評価するためのものであり、表7のNo.2−1〜2−18はおもて面下層塗膜を変更したときの諸性能への影響を評価するためのものであり、表8のNo.3−1〜3−16は赤錆性付与を評価するためのものであり、表9のNo.4−1〜4−12はおもて面を構成する各塗膜の厚みなどを変更したときの諸性能への影響を評価するためのものである。
Figure 2010188526
Figure 2010188526
Figure 2010188526
なお、表8におけるNo.3−17の塗装鋼板では、うら面の下層塗膜の厚みを1μmとした。
Figure 2010188526
2.評価項目
(1)塗膜加工性
試験片に対して折り曲げ試験(23℃)を行い、10倍ルーペを用いて各折り曲げ厚みTでの塗膜クラック有無を調査した。判定基準は下記のとおりであり、○を合格とした:
○:0T〜1T、
×:2T以下。
(2)接触角測定
作製した塗装鋼板を30mm×60mmのサイズの試験片をシャーリングにより切り出した試験片を湿潤試験条件(温度:49℃、相対湿度95%以上:結露有り)に15時間静置してからブロアーで十分に乾燥させた後、おもて面塗膜の水との接触角を測定した。
接触角の測定は接触角測定器(協和界面科学、CA−A)を用い、マイクロシリンジから水滴を滴下した後30秒後の水滴形状の画像を撮影して、その画像に対して次の方法を行った。本来は、図1(a)に示されるように接触角は水滴と鋼板との接触端における接線から求められるが、鋼板の表面状態は若干のばらつきがあるため接線を規定することは必ずしも容易でない。そこで、図1(b)に示されるように、まず、鋼板表面と水滴との二つの接触端と水滴の頂点を頂点とする三角形を求め、その三角形のそれぞれの接触端をなす頂点における内角を求めた。そして、これらの内角の和を接触角とした。こうして求めた接触角における判定基準は次のとおりであり、○を合格とした:
×:接触角が60°より大きい、
○:接触角が60°以下。
(3)耐雨だれ汚染性評価
作製した塗装鋼板を30mm×60mmのサイズの試験片をシャーリングにより切り出した試験片を湿潤試験条件(温度:49℃、相対湿度95%以上:結露有り)に15時間静置してからブロアーで十分に乾燥させた後、カーボンブラックの懸濁液を垂らし、24時間静置後水を含んだガーゼで拭き取り、残り具合を確認した。判定基準は次のとおりであり、○を合格とした:
○:消えているか、ほとんど落ちている、
×:汚れ落ち無し。
(4)平面部耐食性調査
塗装鋼板の各試験片から70mm×150mmのサイズの評価用試験片をシャーリングにより切り出し、切断端面にシールをした後、JIS2371に指定された条件で480時間の塩水噴霧試験に供した。その後、シールをした端面部分を除く平面部分からの白錆、赤錆の発生状況(面積率)を測定した。判定基準は下記の通りであり、○を合格とした:
○:白錆発生ほとんど無し(5%未満)、
×:白錆、赤錆面積率5%以上。
(5)カット部耐食性調査
塗装鋼板の各試験片から70mm×150mmのサイズの評価用試験片をシャーリングにより切り出し、切断端面にシールをした後、カッターナイフで、鋼板素地までクロスカットに切れ目を入れ、JIS2371に指定された条件で480時間の塩水噴霧試験に供した。その後、クロスカット部の塗膜フクレ幅を測定し、基準板と比較してフクレの大小を評価した。判定基準は下記のとおりであり、○を合格とした:
○:基準板と比較して±1mm未満、
×:基準板よりも1mm以上大きい、
測定不能 : 塗膜全面からフクレ、さび発生しており、測定不能。
(6)耐端面赤錆性試験1
塗装鋼板の各サンプルについて、1cm×4cmの長方形サイズ(端面長さの和は10cm)の試験片をシャーリングにて10個ずつ切り出し(各サンプルにおける合計の端面長さは1m)、10個の試験片を別々にビーカー内のイオン交換水20ml中に浸漬した。ビーカーを40℃の恒温槽に120時間放置した後、試験片を取り出し、各試験片の端面からの赤錆発生状況(端面から発生した赤錆により変色した溶液の色調を観察)を測定した。評価基準は次のとおりであり、○以上を合格とした:
◎:赤錆、白錆発生ほとんど無(溶液は透明でほとんど着色無し)、
○:白錆発生、赤錆発生ほとんど無し(溶液はやや白濁)、
×:赤錆発生あり(溶液中に赤錆の固形分が少しあり、溶液は赤茶色に着色)。
(7)耐端面赤錆性試験2
塗装鋼板の各サンプルについて、0.5cm×4.5cmの細片サイズ(端面長さの和は10cm)の試験片をシャーリングにて100個ずつ切り出した(各サンプルにおける試験片の合計端面長さは10m)。これら100個の試験片を、超音波振動装置に載置したビーカー内の50℃のイオン交換水200ml中に一緒に浸漬した。50℃の温度を保持したまま、ビーカーに40kHzの超音波振動を30分間付与した(使用装置:アズワン株式会社製 US CLEANER)。超音波振動の付与が終了した後、試験片を直ちに取り除き、得られた水溶液(浸漬水)を用いて、電気伝導度計(堀場製作所社製D−54SE)にて電気伝導度を測定した。判定基準は、次のとおりであり、○を合格とした:
○:30μS/cm以上、
×:30μS/cm未満。
(8)意匠性調査
得られた塗装鋼板のおもて面について、目視にて外観評価を行った。判定基準は次のとおりであり、○を合格とした:
○:隠蔽性がある、
×:隠蔽性がない。

Claims (9)

  1. 亜鉛系めっき鋼板を基材とするクロムフリー塗装鋼板であって、
    当該鋼板の一方の面に少なくとも2層からなる積層塗膜を備え、
    当該積層塗膜の最外層をなす上層塗膜が下記(1)〜(3)を満たし、
    前記積層塗膜の最内層をなす下層塗膜が下記(4)〜(6)を満たすことを特徴とするクロムフリー塗装鋼板:
    (1)上層塗膜の表面の水に対する接触角が60°以下。
    (2)上層塗膜のTgが40℃以下であって、当該上層塗膜を構成するバインダー成分における主樹脂が高分子量樹脂からなる。
    (3)上層塗膜の膜厚が2μm以上25μm以下。
    (4)下層塗膜のTgが40℃以下であって、当該下層塗膜を構成するバインダー成分における主樹脂が高分子量樹脂からなる。
    (5)下層塗膜の膜厚が2μm以上15μm以下。
    (6)下層塗膜中に防錆顔料として、吸油量が50ml/100g以上のイオン交換シリカおよび多孔質シリカからなる群から選ばれる1種または2種以上を含み、これらの合計量が塗料固形分に対し、5質量%以上30質量%以下。
  2. 前記上層塗膜中の主樹脂がポリエステル樹脂であり平均分子量が10000以上である請求項1記載のクロムフリー塗装鋼板。
  3. 前記下層塗膜中の主樹脂がポリエステル樹脂であり平均分子量が10000以上である請求項1または2記載のクロムフリー塗装鋼板。
  4. 前記少なくとも2層からなる積層塗膜を備える面が塗装鋼板としてのおもて面である、請求項1から3のいずれか記載のクロムフリー塗装鋼板。
  5. 前記上層塗膜中に少なくとも1種の非クロム化合物を含有する、請求項1から4のいずれか記載のクロムフリー塗装鋼板であって、この塗装鋼板を0.5cm×4.5cmの長方形に切断したサンプル100個を50℃のイオン交換水(電気伝導度:4μS/cm以下)200mlに周波数40kHzの超音波振動付与下で30分浸漬した時の浸漬水の電気伝導度が30μS/cm以上であることを特徴とするクロムフリー塗装鋼板。
  6. 前記非クロム化合物がアルカリ金属リン酸塩である、請求項5記載のクロムフリー塗装鋼板。
  7. 前記アルカリ金属リン酸塩が、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム一水和物、およびリン酸二水素ナトリウム二水和物からなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項6に記載のクロムフリー塗装鋼板。
  8. 前記塗装鋼板のおもて面が少なくとも2層からなる積層塗膜から形成され、かつ、うら面が1層の塗膜から形成されており、
    該うら面塗膜の表面の水に対する接触角が60°超の場合には、うら面塗膜の顔料の含有量が塗料固形分に対して30質量%以上70質量%以下であり、
    該うら面塗膜の表面の水に対する接触角が60°以下の場合には、うら面塗膜の顔料の含有量が15質量%以上70質量%以下である
    請求項4〜7のいずれか記載のクロムフリー塗装鋼板。
  9. 請求項1から8のいずれか記載のクロムフリー塗装鋼板を成型加工して得られた筐体。
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