以下に、本発明に係る自動変速機の変速制御装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
図1は、本発明の実施例に係る自動変速機の変速制御装置の概略図である。同図に示す変速制御装置1は、車両(図示省略)に搭載される自動変速機20の変速制御が可能に設けられており、この自動変速機20は、動力源であるエンジン10に接続されている。このように、車両の走行時の動力源として設けられるエンジン10は、ガソリンを燃料とするレシプロ式の火花点火式内燃機関となっている。なお、エンジン10は、これに限定されるものではない。エンジン10は、例えば、LPG(Liquefied Petroleum Gas:液化石油ガス)やアルコールを燃料とする火花点火式内燃機関であってもよいし、いわゆるロータリー式の火花点火式内燃機関であってもよいし、ディーゼル機関であってもよい。エンジン10は、ECU(Electronic Control Unit)60に接続されており、ECU60によって回転数やトルク(出力)が制御可能に設けられている。
また、自動変速機20は、トルクコンバータ21、変速装置30及び油圧制御装置35を含んで構成されている。エンジン10で発生し、自動変速機20に入力される動力は、トルクコンバータ21を介して変速比可変手段である変速装置30に伝達可能に設けられており、エンジン10の動力が変速装置30に伝達された場合には、変速装置30で車両の走行条件に応じて選択された変速比で回転数が変更され、変速したトルクを車両の駆動輪(図示省略)側に出力可能に設けられている。
このように設けられる自動変速機20のうち、トルクコンバータ21は、回転可能に設けられると共にエンジン10の動力の入力側となるポンプ22と、回転可能に設けられると共に変速装置30への出力側となるタービン23と、ポンプ22とタービン23との間に配設されたステータ25とを備える流体伝動機構により構成されている。このうち、ポンプ22は、エンジン10の出力軸であるエンジン出力軸11に接続され、エンジン出力軸11と一体に回転するカバー26に接続されており、これらのエンジン出力軸11、カバー26及びポンプ22は、一体となって回転可能に設けられている。
また、タービン23は、変速装置30の入力軸である変速装置入力軸31に接続されており、ポンプ22を介して伝達されたエンジン10の動力を変速装置30に伝達可能に設けられている。即ち、タービン23は、変速装置入力軸31に対して当該タービン23の回転を伝達することにより、エンジン10から伝達された動力を、変速装置30に出力可能に設けられている。また、ステータ25は、回転をしないケース(図示省略)に、ワンウェイクラッチ(図示省略)を介して接続されており、このワンウェイクラッチによって、ステータ25は一方向にのみ回転可能になっている。
また、ポンプ22、タービン23及びステータ25の間には、動力を伝達する作動流体であるオイル(図示省略)が循環可能に封入されており、エンジン10から伝達された動力は、このオイルを介して互いに伝達可能に設けられている。つまり、ポンプ22は、エンジン10からの動力が入力されることにより回転可能に設けられると共に作動流体であるオイルに対して回転時の運動エネルギーを伝達することにより動力を伝達可能に設けられている。また、タービン23は、ポンプ22で運動エネルギーを伝達するオイルを介して動力が伝達されることにより回転可能に設けられており、さらに、変速装置入力軸31に回転を伝達することを介してエンジン10から伝達された動力を変速装置30に出力可能に設けられている。
さらに、トルクコンバータ21は、共に回転可能なポンプ22とタービン23とを断続可能なロックアップ機構27を備えている。このロックアップ機構27は、タービン23と共に回転可能なロックアップクラッチ28と、ポンプ22と一体となって回転可能なカバー26とにより構成される。このうち、ロックアップクラッチ28は、タービン23とカバー26との間に配設されており、トルクコンバータ21内の油圧を制御することにより、カバー26と係合したりカバー26から離間したりする。このため、ロックアップクラッチ28とカバー26とが係合した場合には、ロックアップクラッチ28及びカバー26を介して、ポンプ22とタービン23とが係合した状態になる。この場合、エンジン10から伝達された動力は、このポンプ22とタービン23との係合により、機械的に伝達される。
また、ロックアップクラッチ28とカバー26とを離間させた場合には、エンジン10から伝達された動力は、ポンプ22とタービン23とを循環するオイルを介して伝達される。このように、ロックアップクラッチ28とカバー26とにより構成されるロックアップ機構27は、ロックアップクラッチ28とカバー26とを係合させたり離間させたりすることにより、ポンプ22とタービン23との間の動力の伝達をオイルによる伝達である流体伝達と、ポンプ22とタービン23とを係合させることにより行う伝達である係合伝達とで切り替え可能に設けられている。
また、自動変速機20が有する変速装置30は、複数の変速要素である遊星歯車装置と、複数の摩擦係合要素(クラッチC1、クラッチC2、クラッチC3、クラッチC4、ブレーキB1、B2)40とを組み合わせて構成される多段式の変速装置30となっている。ここで、ブレーキは、変速装置30の筐体に取り付けられる摩擦係合要素40であり、クラッチは、変速装置30の筐体ではなく、回転軸に取り付けられる摩擦係合要素40である。なお、変速装置30が備える変速要素や摩擦係合要素40の数は、自動変速機20の仕様に応じて適宜変更してもよい。
また、油圧制御装置35は、それぞれの摩擦係合要素40へ供給する制御油の油圧を調整する摩擦係合要素用油圧調整手段として、リニアソレノイドバルブ36を備えている。この油圧制御装置35は、各摩擦係合要素40を動作させるための油圧を発生可能に設けられており、発生した油圧を所定の摩擦係合要素40へ配分すると共に、摩擦係合要素40に供給する制御油の油圧を調整する機能も有している。また、自動変速機20には、リニアソレノイドバルブ36に接続され、自動変速機20内に貯留される制御油をリニアソレノイドバルブ36に供給するポンプ(図示省略)が備えられている。
また、変速装置30は、変速要素である遊星歯車装置の回転要素(キャリアやリングギヤ)を、摩擦係合要素40であるブレーキB1、B2等によって停止させ、また、エンジン10の動力を入力する変速装置30の回転要素を摩擦係合要素40であるクラッチC1、C2、C3、C4等によって切り替えることにより、変速比を変更可能に設けられている。そして、停止させる回転要素の組み合わせを変更することにより、変速段であるギヤ段を変更可能に設けられている。即ち、回転要素の回転や停止の各組み合わせは、それぞれ自動変速機20のギヤ段として設定されており、自動変速機20は、エンジン10から伝達された動力の回転数を変速可能なこのギヤ段を、複数有している。
自動変速機20は、これらのように設けられているため、エンジン10が発生する動力は、トルクコンバータ21を介して自動変速機20の変速装置30へ入力される。また、変速装置30は、当該変速装置30の出力軸である変速装置出力軸32を有しており、変速装置出力軸32は、車両のプロペラシャフト45に接続されている。つまり、変速装置出力軸32は、自動変速機20の出力軸となっている。
また、エンジン10には、エンジン出力軸11の回転数を検出可能な機関回転数検出手段であるエンジン回転数センサ15が設けられている。また、自動変速機20には、変速装置入力軸31の回転数を検出可能な変速装置入力軸回転数検出手段である変速装置入力軸回転数センサ41と、変速装置出力軸32の回転数を検出可能な変速装置出力軸回転数検出手段である変速装置出力軸回転数センサ42とが設けられている。
これらのエンジン回転数センサ15、変速装置入力軸回転数センサ41、変速装置出力軸回転数センサ42、及びリニアソレノイドバルブ36は、ECU60に接続されている。さらに、ECU60には、車両の運転席に設けられるアクセルペダル50の近傍に設けられ、アクセルペダル50の開度であるアクセル開度を検出可能なアクセル開度検出手段であるアクセル開度センサ51が接続されている。
図2は、図1に示す自動変速機の変速制御装置の要部構成図である。ECU60には、処理部61、記憶部80及び入出力部81が設けられており、これらは互いに接続され、互いに信号の受け渡しが可能になっている。また、ECU60に接続されているエンジン回転数センサ15、リニアソレノイドバルブ36、変速装置入力軸回転数センサ41、変速装置出力軸回転数センサ42、アクセル開度センサ51は、入出力部81に接続されており、入出力部81は、これらのエンジン回転数センサ15等との間で信号の入出力を行う。また、記憶部80には、自動変速機20の変速制御装置1を制御するコンピュータプログラムが格納されている。この記憶部80は、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、またはフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ(CD−ROM等のような読み出しのみが可能な記憶媒体)や、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、或いはこれらの組み合わせにより構成することができる。
また、処理部61は、メモリ及びCPU(Central Processing Unit)により構成されており、少なくとも、アクセル開度センサ51での検出結果よりアクセルペダル50の開度であるアクセル開度を取得可能なアクセル開度取得手段であるアクセル開度取得部62と、エンジン回転数センサ15での検出結果よりエンジン回転数を取得する機関回転数取得手段であるエンジン回転数取得部63と、変速装置出力軸回転数センサ42での検出結果より車速を取得する車速取得手段である車速取得部64と、を有している。
また、処理部61は、アクセル開度取得部62で取得したアクセル開度に基づいて要求駆動力を算出する要求駆動力算出手段である要求駆動力算出部65と、変速装置30を変速する際における候補となるギヤ段である候補ギヤ段を、車速取得部64で取得した車速と要求駆動力算出部65で算出した要求駆動力とに基づいて算出する候補ギヤ段算出手段である候補ギヤ段算出部66と、要求駆動力を実現できる駆動輪への出力である要求パワーを、要求駆動力算出部65で算出した要求駆動力に基づいて算出する要求パワー算出手段である要求パワー算出部67と、駆動輪に対して出力できるギヤ段ごとのパワーであるギヤ段パワーを算出するギヤ段パワー算出手段であるギヤ段パワー算出部68と、を有している。
また、処理部61は、候補ギヤ段のうち、エンジンの上下限トルク内で要求駆動力を発生させることができるギヤ段とエンジンの上下限トルク内で要求駆動力を発生させることができないギヤ段とを選別する候補ギヤ段選別手段である候補ギヤ段選別部69と、要求駆動力を満たし、変速時に選択することができるギヤ段が有るか否かを判定する選択ギヤ段有無判定手段である選択ギヤ段有無判定部70と、選択ギヤ段有無判定部70で、変速時に選択することができるギヤ段がないと判定された場合に、複数のギヤ段のうち、エンジン10の回転数ごとに発生可能な最大トルクまたは最低トルクである発生可能トルクによってギヤ段パワー算出部68で算出したギヤ段パワーを発生することのできるエンジンの回転数と、要求パワー算出部67で算出した要求パワーを発生する際におけるエンジンの回転数とトルクとが総合的に最も近くなるギヤ段パワーを駆動輪に対して出力できるギヤ段を、現在の運転状態に適したギヤ段として選択するギヤ段選択手段であるギヤ段選択部71と、を有している。
また、処理部61は、エンジン10の運転制御を行う内燃機関制御手段であるエンジン制御部72と、自動変速機20の摩擦係合要素40に作用させる油圧を制御することにより自動変速機20の変速制御が可能に設けられた油圧制御手段である変速制御部73と、を有している。
ECU60によって制御される自動変速機20の変速制御装置1の制御は、例えば、エンジン回転数センサ15等の検出結果に基づいて、処理部61が上記コンピュータプログラムを当該処理部61に組み込まれたメモリに読み込んで演算し、演算の結果に応じてリニアソレノイドバルブ36等を作動させることにより制御する。その際に処理部61は、適宜記憶部80へ演算途中の数値を格納し、また格納した数値を取り出して演算を実行する。なお、このように自動変速機20の変速制御装置1を制御する場合には、上記コンピュータプログラムの代わりに、ECU60とは異なる専用のハードウェアによって制御してもよい。
この実施例に係る自動変速機20の変速制御装置1は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。車両の走行中は、アクセルペダル50を足で操作することにより、エンジン10の回転数やトルクを調整し、車速を調整する。このように、アクセルペダル50を操作している場合には、アクセルペダル50のストローク量、或いはアクセル開度が、アクセルペダル50の近傍に設けられるアクセル開度センサ51によって検出される。アクセル開度センサ51による検出結果は、ECU60の処理部61が有するアクセル開度取得部62に伝達され、アクセル開度取得部62で取得する。アクセル開度取得部62で取得したアクセル開度は、ECU60の処理部61が有するエンジン制御部72に伝達され、エンジン制御部72は、伝達されたアクセル開度や、その他のセンサによる検出結果に基づいて、エンジン10を制御する。
エンジン10は、このようにエンジン制御部72で制御されることにより運転可能になっているが、エンジン制御部72によって制御されるエンジン10の動力は、エンジン出力軸11が回転することにより外部に出力される。このエンジン出力軸11の回転は、まず、トルクコンバータ21に伝達され、トルクコンバータ21が回転し、トルクコンバータ21を介して変速装置入力軸31に伝達される。
トルクコンバータ21を介して変速装置入力軸31に伝達されたエンジン出力軸11の回転は、変速装置入力軸31によって変速装置30へ伝達される。これにより、エンジン10の動力は変速装置30へ入力される。ここで、トルクコンバータ21は、ロックアップ機構27によってロックアップが可能に設けられているが、エンジン10の動力がトルクコンバータ21を介して変速装置30へ入力される際には、ロックアップ状態であるか否かにより、トルクコンバータ21内における動力の伝達経路が異なっている。
まず、トルクコンバータ21がロックアップ状態ではない場合、つまり、ロックアップ機構27のロックアップクラッチ28がカバー26から離間した流体伝達の場合について説明すると、エンジン10の動力は、エンジン出力軸11からトルクコンバータ21のカバー26に伝達され、動力が伝達されたカバー26は、当該カバー26と一体となって回転可能に設けられたポンプ22と共に回転する。このようにポンプ22が回転した場合、ポンプ22は当該ポンプ22とタービン23との間に封入され、且つ、ポンプ22とタービン23との間を循環可能なオイルに、ポンプ22の回転時の運動エネルギーを伝達する。これによりオイルは流動し、ポンプ22とタービン23との間を循環する際にポンプ22から伝達された運動エネルギーをタービン23に伝達する。
オイルから運動エネルギーが伝達されたタービン23は、伝達された運動エネルギーによって回転する。このように、オイルから伝達された運動エネルギーにより回転するタービン23は、変速装置30の変速装置入力軸31に接続されており、タービン23が回転した場合には、タービン23の回転に伴って変速装置入力軸31も回転する。これにより、エンジン10の動力は、トルクコンバータ21を介して変速装置30へ入力される。
これに対し、トルクコンバータ21がロックアップ状態の場合、つまり、ロックアップ機構27のロックアップクラッチ28がカバー26と係合した係合伝達の場合について説明すると、エンジン出力軸11からトルクコンバータ21のカバー26に伝達されたエンジン10の動力は、カバー26からロックアップクラッチ28に伝達される。ロックアップクラッチ28に伝達された動力は、ロックアップクラッチ28から変速装置入力軸31に伝達される。これにより、トルクコンバータ21がロックアップ状態の場合には、エンジン10からトルクコンバータ21に伝達された動力は、機械的に変速装置入力軸31まで伝達され、トルクコンバータ21を介して変速装置30へ入力される。
さらに、トルクコンバータ21は、スリップロックアップが可能になっている。このスリップロックアップについて説明すると、カバー26とロックアップクラッチ28とは、ロックアップ時には摩擦係合により係合可能になっているが、スリップロックアップでは、カバー26とロックアップクラッチ28とが滑りながら係合する状態となる。つまり、スリップロックアップは、ロックアップを行う場合よりも、カバー26に対するロックアップクラッチ28の圧着力を弱めた状態でロックアップクラッチ28をカバー26に係合させる。これにより、エンジン出力軸11からトルクコンバータ21のカバー26に伝達されたエンジン10の動力は、滑りながらカバー26からロックアップクラッチ28に伝達される。
また、この状態では、ポンプ22とタービン23とは回転差が発生する場合があるが、ポンプ22とタービン23とで回転差が生じた場合には、カバー26と一体となって回転をするポンプ22からタービン23に対しても、エンジン出力軸11から伝達されたエンジン10の動力がオイルを介して伝達される。このように、ロックアップクラッチ28やタービン23に伝達された動力は、変速装置入力軸31に伝達され、変速装置30へ入力される。これらのように、スリップロックアップ状態の場合には、エンジン10の動力がロックアップクラッチ28及びタービン23の双方より変速装置30に伝達可能になっており、ロックアップを行わない状態とロックアップ状態との間の状態で動力が伝達される。
トルクコンバータ21を介して変速装置入力軸31から変速装置30へ入力されたエンジン10の動力は、変速装置30の変速要素によって回転数及びトルクの大きさが変更されて、変速装置30が有する変速装置出力軸32から出力される。この変速装置出力軸32は車両のプロペラシャフト45に接続されているため、変速装置30からの出力は、プロペラシャフト45を介して車両の駆動輪へ伝達される。これにより駆動輪は回転し、車両は走行する。
また、車両の走行中には、ECU60の処理部61が有する変速制御部73は自動変速機20を制御し、車両の走行状態に応じて変速制御を行う。詳しくは、車両の走行時には、エンジン回転数センサ15でエンジン出力軸11の回転数を検出し、検出結果がECU60の処理部61が有するエンジン回転数取得部63に伝達されて、エンジン回転数取得部63で取得する。また、車両の走行時には、変速装置出力軸回転数センサ42で変速装置出力軸32の回転数を検出する。この変速装置出力軸32と駆動輪とは、変速比が一定であるため、変速装置出力軸32の回転数を検出することにより、駆動輪の回転数を推定することができ、これにより車速を推定することができる。このため、変速装置出力軸回転数センサ42は、変速装置出力軸32の回転数を検出することを介して車速を検出可能な車速検出手段として設けられている。この変速装置出力軸回転数センサ42で検出した変速装置出力軸32の回転数は、ECU60の処理部61が有する車速取得部64に伝達され、車速取得部64で所定の演算を行うことにより、車速として取得する。
変速制御部73は、エンジン回転数取得部63で取得したエンジン回転数や車速取得部64で取得した車速などに応じてリニアソレノイドバルブ36を作動させることによりクラッチC1などの摩擦係合要素40を作動させ、摩擦係合要素40の係合や解放を切り替えて遊星歯車装置の回転要素の回転及び停止を切り替えることにより、変速比を変更し、ギヤ段を切り替える。詳しくは、ギヤ段を切り替える場合には、リニアソレノイドバルブ36を作動させて、複数のギヤ段に対応した複数の摩擦係合要素40の解放と係合とを切り替えることにより、エンジン10の動力を出力する際におけるギヤ段を切り替える。このように摩擦係合要素40の解放と係合とを切り替えることによりギヤ段を切り替える場合は、変速前のギヤ段に対応する摩擦係合要素40は解放し、変速後のギヤ段に対応する摩擦係合要素40を係合することによりギヤ段を切り替える。これにより、変速装置30は、変速装置入力軸31に入力されたエンジン10の回転を、変速して変速装置出力軸32から出力することができる。即ち、変速装置30は、摩擦係合要素40の係合及び解放に基づいてギヤ段を切り替え、変速が可能に設けられている。
図3は、加速時に変速装置のギヤ段を選択する場合における説明図である。変速装置30のギヤ段の切り替えは、このように摩擦係合要素40の係合や解放を切り替えることにより行うが、車両の加速時におけるギヤ段の切り替えは、運転者が要求する駆動力である要求駆動力に基づいて切り替える。具体的には、要求駆動力を発生させることができ、且つ、エンジン10がストールせず、また、エンジン10の回転数がオーバーレブにならず、さらに、エンジン10の回転数がノイズや振動を発生しない回転数になるギヤ段を、候補ギヤ段としてECU60の処理部61が有する候補ギヤ段算出部66で、要求駆動力に基づいて算出する。
このため、まず、ギヤ段を所定のギヤ段にした場合におけるエンジン10の回転数が、車速が車速取得部64で取得した車速になる回転数になった場合に、その回転数が、エンジン10がストールする回転数であるエンスト回転数Rs以下になったり、オーバーレブになる回転数であるオーバーレブ回転数Ro以上になったりする場合には、そのギヤ段は候補ギヤ段から除外する。
なお、エンジン10の回転数は、車速が同じ場合でもトルクコンバータ21のロックアップの状態によって変化するため、この判断はロックアップの状態ごとに判断をする。即ち、ギヤ段ごとに、トルクコンバータ21が、ロックアップがオンの状態と、スリップロックアップの状態と、ロックアップがオフの状態、即ち流体伝達のみの状態であるトルコンモードとのそれぞれの状態の場合におけるエンジン10の回転数を算出し、この回転数がエンスト回転数Rs以下になったり、オーバーレブ回転数Ro以上になったりするか否かを判断する。このため、例えば、図3に示すように、変速装置30を1速や2速に変速した場合におけるエンジン回転数が、ロックアップオンLn、スリップロックアップLs、トルコンモードLfの全ての状態においてオーバーレブ回転数Ro以上になる場合には、1速と2速は候補ギヤ段から除外される。
また、エンジン10の運転時におけるノイズや振動は、所定の回転数で所定のトルクを発生させる場合に大きくなる。このため、ギヤ段を所定のギヤ段にした場合におけるエンジン10の回転数が、車速を車速取得部64で取得した車速にすることができる回転数になり、エンジン10のトルクが、要求駆動力を発生することができるトルクになる回転数及びトルクの状態が、ノイズや振動を発生しない運転状態になる要件であるN/V(Noise/Vibration)要件を満たしていない場合には、このギヤ段は候補ギヤ段から除外される。
このため、要求駆動力が大きいことにより、エンジン10の回転数ごとに発生可能な最大トルクが用いられる場合における発生可能トルクである発生可能最大トルクTmが必要な場合において、例えば、図3に示すように、変速装置30を6速に変速した場合で、且つ、トルクコンバータ21がロックアップオンLnの場合とスリップロックアップLsの場合にN/V要件を満たさない場合には、これらの状態は候補ギヤ段から除外される。
つまり、変速装置30のギヤ段を6速にし、トルクコンバータ21をロックアップオンLnにした場合にロックアップオン時のN/V要件であるロックアップオン時N/V要件NVoを満たさず、変速装置30のギヤ段を6速にし、トルクコンバータ21をスリップロックアップLsにした場合にスリップロックアップ時のN/V要件であるスリップロックアップ時N/V要件NVsを満たさないため、変速装置30を6速にし、且つ、トルクコンバータ21をロックアップオンLn、またはスリップロックアップLsにする状態は、候補ギヤ段から除外される。
さらに、これらのようにして候補としてあげられた候補ギヤ段のうち、エンジン10の上下限トルク内に有するギヤ段をECU60の処理部61が有する候補ギヤ段選別部69で選別し、この中から最も燃費が良いギヤ段を、現在の走行状態に適しており、運転者の要求を、より満たすことができるギヤ段として選択する。このようにして選択したギヤ段が変速装置30の現在のギヤ段の場合は、現在のギヤ段を維持し続け、選択したギヤ段が現在のギヤ段ではない場合には、変速制御部73で変速装置30を制御することによりギヤ段を切り替える。
変速装置30のギヤ段は、このようにして選択するが、車両の運転状態によっては、選択することができるギヤ段が無い場合がある。例えば、運転者が大きな駆動力を要求している場合、その要求駆動力を実現できるギヤ段が無い場合がある。
この場合、各ギヤ段における最大のギヤ段パワー、即ち、各ギヤ段が選択された際に駆動輪に対して出力できるギヤ段ごとの最大パワーのうち、それぞれの最大パワーをエンジン10の発生可能最大トルクTmによって発生するギヤ段ごとの回転数が、要求パワーPrのトルクと回転数に最も近いギヤ段を選択する。この選択は、ECU60の処理部61が有するギヤ段選択部71で行う。また、このように要求パワーPrと各ギヤ段で発生させることができる最大パワーとに基づいてギヤ段を選択する場合は、トルクコンバータ21のロックアップの状態も含めて、ギヤ段を選択する。
つまり、エンジン10のトルクは、エンジン10の回転数ごとに最大トルクが異なっており、また、エンジン10の回転数が同じ回転数であっても、アクセル開度等の運転状態によってトルクは変化する。このため、エンジン10の発生可能最大トルクTmは、エンジン10の回転数ごとの最大トルクとなっている。この発生可能最大トルクTmを、エンジン10の回転数とトルクとにより表した場合、図3に示すようにエンジン10の回転数ごとにトルクの大きさが変化する曲線で示される。
また、ギヤ段ごとの最大パワーは、最大パワーを発生できるエンジン10の回転数とトルクとの関係がギヤ段ごとに設定されている。さらに、このギヤ段ごとの最大パワーは、トルクコンバータ21の状態ごとに設定されており、各ギヤ段において、トルクコンバータ21がロックアップオンLn、スリップロックアップLs、トルコンモードLfのそれぞれの状態ごとに設定されている。このため、ギヤ段及びトルクコンバータ21の状態ごとの最大パワーを、発生可能最大トルクTmで発生する際におけるエンジン10の回転数は、ギヤ段及びトルクコンバータ21の状態ごとに異なっている。
例えば、上記のように1速と2速とが候補ギヤ段から除外され、また、6速がN/V要件により除外されることにより3速と4速と5速とが候補ギヤ段になった場合で、且つ、それぞれのギヤ段においてトルクコンバータ21がロックアップオンLnの状態の場合における最大パワーを、順に3速ロックアップ最大パワーPa3、4速ロックアップ最大パワーPa4、5速ロックアップ最大パワーPa5とした場合に、これらをエンジン10の回転数とトルクとにより表すと、図3に示すようにエンジン10の回転数ごとにトルクの大きさが変化する曲線で示される。
ギヤ段及びトルクコンバータ21の状態ごとの最大パワーを、発生可能最大トルクTmで発生する際におけるエンジン10の回転数は、この3速ロックアップ最大パワーPa3、4速ロックアップ最大パワーPa4、5速ロックアップ最大パワーPa5と、エンジン10の発生可能最大トルクTmとの各交点の回転数になっている。
また、要求パワーPrは、ギヤ段ごとの最大パワーと同様にエンジン10の回転数とトルクとにより表すことができ、要求パワーPrをエンジン10の回転数とトルクとにより表すと、図3に示すように、ギヤ段ごとの最大パワーと同様にエンジン10の回転数ごとにトルクの大きさが変化する曲線で示される。このように示される要求パワーPrに基づいてギヤ段を選択する場合には、ギヤ段及びトルクコンバータ21の状態ごとの最大パワーとエンジン10の発生可能最大トルクTmとの交点と、要求パワーPrの曲線との距離が最も小さくなるギヤ段を選択する。
つまり、ギヤ段選択部71は、要求パワーPrとギヤ段ごとの最大パワーと発生可能最大トルクTmとをエンジン10の回転数とトルクとにより表した場合に、複数のギヤ段ごとの最大パワーのうち最大パワーと発生可能最大トルクTmとの交点と要求パワーPrとの距離が最も近くなる最大パワーを駆動輪に対して出力できるギヤ段を、現在の運転状態に適したギヤ段として選択する。
例えば、図3で例示するように、3速ロックアップ最大パワーPa3と発生可能最大トルクTmとの交点と、要求パワーPrとの距離をDa3とし、4速ロックアップ最大パワーPa4と発生可能最大トルクTmとの交点と、要求パワーPrとの距離をDa4とし、5速ロックアップ最大パワーPa5と発生可能最大トルクTmとの交点と、要求パワーPrとの距離をDa5とした場合において、各距離の関係がDa3<Da4<Da5になっている場合には、ギヤ段選択部71は3速のギヤ段を選択する。
このように、ギヤ段選択部71は、発生可能最大トルクTmによってギヤ段ごとの最大パワーを発生することのできるエンジン10の回転数と、要求パワーPrを発生する際におけるエンジン10の回転数とトルクとが総合的に最も近くなる最大パワーを駆動輪に対して出力できるギヤ段を、現在の運転状態に適したギヤ段として選択する。
換言すると、ギヤ段ごとの最大パワーを発生可能最大トルクTmによって発生する場合におけるエンジン10の回転数と要求パワーPrを発生する場合における所定のエンジン10の回転数との差と、この場合における発生可能最大トルクTmと要求パワーPrを発生するためのエンジン10のトルクとの差とを、同じ重み付けをして足し合わせ、この足し合わせた値が最も小さくなる値となる最大パワーを駆動輪に対して出力できるギヤ段を選択する。即ち、ギヤ段ごとの最大パワーを発生可能最大トルクTmによって発生する場合におけるエンジン10の回転数とトルクと、要求パワーPrを発生する場合における所定のエンジン10の回転数とトルクとの差が総合的に小さくなる最大パワーを駆動輪に対して出力できるギヤ段を、現在の運転状態に適したギヤ段として選択する。
図4は、減速時に変速装置のギヤ段を選択する場合における説明図である。加速時における変速装置30のギヤ段の切り替えは、このように運転者の要求駆動力に基づいて行うが、減速時におけるギヤ段の切り替えも加速時と同様に、運転者の要求駆動力に基づいて行う。つまり、減速時にエンジン10の回転抵抗により発生する減速力、即ち、エンジンブレーキによる減速力は、車両の前方をプラスとし、後方をマイナスとした場合に、マイナス方向の駆動力になる。このため、減速時に運転者がアクセル開度を小さくすることにより発生するエンジンブレーキによる減速力も、運転者の要求駆動力になり、減速時におけるギヤ段の切り替えも、この運転者の要求駆動力に基づいて行う。
つまり、減速時にギヤ段を切り替える場合も、加速時にギヤ段を切り替える場合と同様に、ギヤ段を所定のギヤ段にした場合におけるエンジン10の回転数が、車速が車速取得部64で取得した車速になる回転数になった場合に、その回転数がエンスト回転数Rs以下になったりオーバーレブ回転数Ro以上になったりする場合には、そのギヤ段は候補ギヤ段から除外する。
減速時における変速装置30のギヤ段の切り替えは、このようにして選択された候補ギヤ段のうち、要求駆動力を満たすことができるギヤ段を選択する。つまり、変速後のギヤ段における減速方向の駆動力が、減速方向の要求駆動力以下になるギヤ段の中から、変速するギヤ段を選択し、駆動力を絶対値で見た場合には、変速後のギヤ段における駆動力が要求駆動力以上になるギヤ段の中から、変速するギヤ段を選択する。しかし、減速時に切り替えるギヤ段を選択する場合も、加速時に切り替えるギヤ段を選択する場合と同様に、運転者が減速方向の大きな駆動力を要求している場合、その要求駆動力を実現できるギヤ段が無い場合がある。
この場合、各ギヤ段における最低のギヤ段パワーであり、各ギヤ段において減速力が最も大きくなるパワー、即ち、各ギヤ段が選択された際に駆動輪に対して出力できるギヤ段ごとの最低パワーのうち、それぞれの最低パワーをアイドルオン時最低トルクTaによって発生するギヤ段ごとの回転数が、要求パワーPrに最も近いギヤ段を選択する。なお、このアイドルオン時最低トルクTaは、エンジン10の回転数ごとに発生可能な最低トルクが用いられる場合における発生可能トルクとなっており、アクセルペダル50が全閉の状態においてアイドル運転が可能な燃料を噴射する際における最低トルクとなっている。
つまり、アクセルペダル50を全閉してアイドルオンとなった場合におけるエンジン10のトルクは、エンジン10の回転数によって最低トルクが異なっており、回転数が高くなるに従って、概ねトルクが小さくなっており、換言すると、エンジン10の回転数が高くなるに従って減速方向のトルクが大きくなっている。このため、アイドルオン時最低トルクTaは、エンジン10の回転数ごとの最低トルクとなっている。このアイドルオン時最低トルクTaを、エンジン10の回転数とトルクとにより表した場合、図4に示すようにエンジン10の回転数が高くなるに従ってトルクが小さくなる線で示される。
また、ギヤ段ごとの最低パワーは、最低パワーを発生できるエンジン10の回転数とトルクとの関係がギヤ段ごとに設定されている。
また、このように要求パワーPrと各ギヤ段で発生させることができる最低パワーに基づいてギヤ段を選択する場合は、トルクコンバータ21のロックアップの状態も含めてギヤ段を選択するが、この実施例に係る自動変速機20の変速制御装置1では、減速時にはロックアップを行う、いわゆる減速時ロックアップ制御を行う。このため、ギヤ段ごとの最低パワーは、トルクコンバータ21がロックアップオンの状態における最低パワーになっている。
これらに基づいて行うギヤ段の選択について説明すると、例えば、減速時のギヤ段を選択する際に1速と2速はオーバーレブ回転数Ro以上になることにより候補ギヤ段から除外され、また、5速と6速は最低パワーが大きく、減速方向のパワーが小さいため候補ギヤ段から除外されることにより3速と4速とが候補ギヤ段になった場合における最低パワーを、順に3速ロックアップ最低パワーPi3、4速ロックアップ最低パワーPi4とする。この場合に、3速ロックアップ最低パワーPi3と4速ロックアップ最低パワーPi4とをエンジン10の回転数とトルクとにより表すと、図4に示すようにエンジン10の回転数ごとにトルクの大きさが変化する曲線で示される。
ギヤ段ごとの最低パワーを、アイドルオン時最低トルクTaで発生する際におけるエンジン10の回転数は、この3速ロックアップ最低パワーPi3や4速ロックアップ最低パワーPi4と、アイドルオン時最低トルクTaとの各交点の回転数になっている。
また、要求パワーPrは、図4に示すように、加速時における要求パワーPr(図3)と同様にエンジン10の回転数ごとにトルクの大きさが変化する曲線で示される。このように示される要求パワーPrに基づいてギヤ段を選択する場合には、ギヤ段ごとの最低パワーとアイドルオン時最低トルクTaとの交点と、要求パワーPrの曲線との距離が最も小さくなるギヤ段を選択する。
つまり、ギヤ段選択部71は、要求パワーPrとギヤ段ごとの最低パワーとアイドルオン時最低トルクTaとをエンジン10の回転数とトルクとにより表した場合に、複数のギヤ段ごとの最低パワーのうち最低パワーとアイドルオン時最低トルクTaとの交点と要求パワーPrとの距離が最も近くなる最低パワーを駆動輪に対して出力できるギヤ段を、現在の運転状態に適したギヤ段として選択する。
例えば、図4で例示するように、3速ロックアップ最低パワーPi3とアイドルオン時最低トルクTaとの交点と、要求パワーPrとの距離をDs3とし、4速ロックアップ最低パワーPi4とアイドルオン時最低トルクTaとの交点と、要求パワーPrとの距離をDs4とした場合において、双方の距離の関係がDs3<Ds4になっている場合には、ギヤ段選択部71は3速のギヤ段を選択する。
このように、ギヤ段選択部71は、アイドルオン時最低トルクTaによってギヤ段ごとの最低パワーを発生することのできるエンジン10の回転数と、要求パワーPrを発生する際におけるエンジン10の回転数とトルクとが総合的に最も近くなる最低パワーを駆動輪に対して出力できるギヤ段を、現在の運転状態に適したギヤ段として選択する。
換言すると、ギヤ段ごとの最低パワーをアイドルオン時最低トルクTaによって発生する場合におけるエンジン10の回転数と要求パワーPrを発生する場合における所定のエンジン10の回転数との差と、この場合におけるアイドルオン時最低トルクTaと要求パワーPrを発生するためのエンジン10のトルクとの差とを、同じ重み付けをして足し合わせ、この足し合わせた値が最も小さくなる値となる最低パワーを駆動輪に対して出力できるギヤ段を選択する。即ち、ギヤ段ごとの最低パワーをアイドルオン時最低トルクTaによって発生する場合におけるエンジン10の回転数とトルクと、要求パワーPrを発生する場合における所定のエンジン10の回転数とトルクとの差が総合的に小さくなる最低パワーを駆動輪に対して出力できるギヤ段を、現在の運転状態に適したギヤ段として選択する。
なお、実施例に係る自動変速機20の変速制御装置1では、減速時には減速時ロックアップ制御を行うため、減速時におけるギヤ段の選択は、トルクコンバータ21がロックアップオンの状態について説明したが、減速時ロックアップ制御を行わない場合には、加速時にギヤ段を選択する場合と同様に、ギヤ段及びトルクコンバータ21の状態ごとの最低パワーに基づいてギヤ段を選択する。
また、この説明では、アクセルペダル50の全閉時にアイドル運転が可能な燃料を噴射する場合の最低トルクであるアイドルオン時最低トルクTaに基づいてギヤ段を選択する場合について説明しているが、アクセルペダル50の全閉時にフューエルカット(Fuel Cut)を行う場合には、フューエルカットを行う場合の最低トルクであるF/C時エンジントルクTf(図4)を用いて、アイドルオン時と同様にギヤ段の選択を行う。なお、このF/C時エンジントルクTfも、アイドルオン時最低トルクTaと同様に、エンジン10の回転数ごとに発生可能な最低トルクが用いられる場合における発生可能トルクとなっている。
図5は、実施例に係る自動変速機の変速制御装置の処理手順を示すフロー図である。次に、実施例に係る自動変速機20の変速制御装置1の制御方法、即ち、当該変速制御装置1の処理手順について説明する。詳しくは、実施例に係る自動変速機20の変速制御装置1で変速装置30のギヤ段を選択する際における処理手順について説明する。なお、以下の処理は、車両の運転時に各部を制御する際に、所定の期間ごとに呼び出されて実行する。
実施例に係る自動変速機20の変速制御装置1の処理手順では、まず、車両の走行状態情報を取得する(ステップST101)。この走行状態情報としては、例えば、アクセル開度やエンジン10の回転数や車速等を取得する。このうち、アクセル開度は、運転者が操作するアクセルペダル50の開度であるアクセル開度をアクセル開度センサ51で検出し、検出結果をECU60の処理部61が有するアクセル開度取得部62で取得する。また、エンジン10の回転数は、エンジン出力軸11の回転数をエンジン回転数センサ15で検出し、検出結果をECU60の処理部61が有するエンジン回転数取得部63で取得する。また、車速は、変速装置出力軸32の回転数を変速装置出力軸回転数センサ42で検出し、検出結果をECU60の処理部61が有する車速取得部64で取得する。
次に、要求駆動力を算出する(ステップST102)。この要求駆動力の算出は、ECU60の処理部61が有する要求駆動力算出部65で行う。要求駆動力算出部65は、アクセル開度取得部62で取得したアクセル開度に基づいて、運転者が要求する駆動力である要求駆動力を算出する。なお、この要求駆動力は、加速時における駆動力のみならず、減速時に減速度を発生させる力である減速方向の駆動力も含まれる。
次に、候補ギヤ段を算出する(ステップST103)。この候補ギヤ段の算出は、ECU60の処理部61が有する候補ギヤ段算出部66で行う。候補ギヤ段算出部66は、車速取得部64で取得した車速、及び要求駆動力算出部65で算出した要求駆動力より、要求駆動力に近い駆動力を発生させることができ、且つ、エンジン10がストールせず、また、エンジン10の回転数がオーバーレブにならず、さらに、エンジン10の回転数がノイズや振動を発生しない回転数になるギヤ段を、候補ギヤ段として算出する。
この算出は、予めECU60の記憶部80に記憶され、図3や図4に示すようなエンジン10の回転数とトルクとの関係により表されるマップに基づいて算出する。詳しくは、車速が車速取得部64で取得した車速の場合における変速装置30の各ギヤ段でのエンジン10の回転数を算出し、算出した回転数がエンスト回転数Rs以下になったりオーバーレブ回転数Ro以上になったりするギヤ段は、候補ギヤ段から除外する。また、算出したエンジン10の回転数が、ロックアップオン時N/V要件NVoやスリップロックアップ時N/V要件NVsを満たさない回転数になるギヤ段も、候補ギヤ段から除外する。さらに、要求駆動力と各ギヤ段で発生させることのできる駆動力とを比較し、要求駆動力を発生させることができないギヤ段も、候補ギヤ段から除外する。候補ギヤ段算出部66は、これらのようにして候補ギヤ段を算出する。
次に、エンジン動作範囲内の候補ギヤ段を選別する(ステップST104)。この選別は、ECU60の処理部61が有する候補ギヤ段選別部69で行う。候補ギヤ段選別部69は、候補ギヤ段算出部66で算出した各候補ギヤ段で要求駆動力を発生させる場合におけるエンジン10のトルクを算出し、算出したトルクがエンジン10の上下限トルク内となるギヤ段を選別し、エンジン動作範囲内の候補ギヤ段を選別する。候補ギヤ段のうち、要求駆動力を発生させる場合におけるエンジン10のトルクがエンジン10の上下限トルク内となるギヤ段が、加速時または減速時に選択するギヤ段となる。
次に、解がないか否かを判定する(ステップST105)。この判定は、ECU60の処理部61が有する選択ギヤ段有無判定部70で行う。選択ギヤ段有無判定部70は、候補ギヤ段選別部69でギヤ段を選別した際に選択可能なギヤ段が有るか否か、即ち、要求駆動力を満たすギヤ段を選択する際における解が有るか否かを判定する。この判定により、選択するギヤ段は有り、解は有ると判定された場合には、この処理手順から抜け出る。
選択ギヤ段有無判定部70での判定(ステップST105)により、要求駆動力を満たすギヤ段を選択する際における解がないと判定された場合には、次に、要求パワーを算出する(ステップST106)。この要求パワーの算出は、要求駆動力算出部65で算出した要求駆動力に基づいて、ECU60の処理部61が有する要求パワー算出部67で行う。要求パワー算出部67は、要求駆動力を発生させるのに必要な駆動輪への出力である要求パワーを、図3や図4に示すようにエンジン10の回転数とトルクとの関係を用いて算出する。
次に、候補ギヤ段のパワーを算出する(ステップST107)。この候補ギヤ段のパワーの算出は、ECU60の処理部61が有するギヤ段パワー算出部68で行う。ギヤ段パワー算出部68は、車両の加速時の場合には、候補ギヤ段算出部66で算出した候補ギヤ段のうち、各候補ギヤ段のそれぞれの最大パワーを算出し、車両の減速時の場合には、候補ギヤ段算出部66で算出した候補ギヤ段のうち、各候補ギヤ段のそれぞれの最低パワーを算出する。これらのギヤ段の最大パワーや最低パワーは、図3や図4に示すようにエンジン10の回転数とトルクとの関係を用いてマップの状態で予め設定され、ECU60の記憶部80に記憶されている。ギヤ段パワー算出部68は、候補ギヤ段の最大パワーや最低パワーを、記憶部80に記憶されたマップを参照することにより算出する。なお、このように候補ギヤ段のパワーを算出する場合には、トルクコンバータ21のロックアップの状態も含めて、ロックアップの状態ごとに算出する。
次に、ギヤ段を選択する(ステップST108)。このギヤ段の選択は、ECU60の処理部61が有するギヤ段選択部71で行う。ギヤ段選択部71は、ギヤ段パワー算出部68で算出した複数の候補ギヤ段の最大パワーを発生可能最大トルクTmで発生する際におけるトルクと回転数、またはギヤ段パワー算出部68で算出した複数の候補ギヤ段の最低パワーをアイドルオン時最低トルクTaやF/C時エンジントルクTfで発生する際におけるトルクと回転数と、要求パワー算出部67で算出した要求パワーのトルクと回転数とを比較し、距離が最も小さい候補ギヤ段を選択する。具体的には、ギヤ段選択部71は、ギヤ段パワー算出部68で算出した複数の候補ギヤ段の最大パワーと発生可能最大トルクTmとの交点と、要求パワー算出部67で算出した要求パワーPrとの距離、または、ギヤ段パワー算出部68で算出した複数の候補ギヤ段の最低パワーとアイドルオン時最低トルクTaやF/C時エンジントルクTfとの交点と、要求パワー算出部67で算出した要求パワーPrとの距離を、これらを表すマップ上で比較し、距離が最も小さい候補ギヤ段を選択する。ギヤ段選択部71でギヤ段を選択したら、この処理手順から抜け出る。
選択ギヤ段有無判定部70での判定で(ステップST105)、ギヤ段を選択する際の解は有ると判定された場合、またはギヤ段選択部71でギヤ段を選択した場合には(ステップST108)、実際に変速装置30の変速を行う他の処理手順で、変速制御部73によって変速装置30の油圧制御装置35を制御することにより、選択されたギヤ段に変速する。
以上の自動変速機20の変速制御装置1は、要求駆動力を実現できるギヤ段が無い場合に、発生可能最大トルクTmやアイドルオン時最低トルクTaなどのエンジン10の発生可能トルクによってギヤ段ごとの最大パワーや最低パワーであるギヤ段パワーを発生することのできるエンジン10の回転数と、要求パワーPrを発生する際におけるエンジン10の回転数とトルクとが総合的に最も近くなるギヤ段パワーを駆動輪に対して出力できるギヤ段を、現在の運転状態に適したギヤ段としてギヤ段選択部71で選択している。これにより、要求駆動力が大きく、エンジン10の性能により要求駆動力を発生させることができない場合でも、要求パワーPrに最も近いギヤ段パワーを発生させることのできるギヤ段を選択することができ、車両の走行時における運転者の要求を、自動変速機20の変速制御に最大限反映させることができる。この結果、より確実に適切な変速を行うことができる。
また、要求駆動力を実現できるギヤ段が無い場合に、適切なギヤ段を選択し、より確実に適切な変速を行うことができるので、エンジン10の性能を最大限使い切ることができる。また、このように運転者の要求を自動変速機20の変速制御に最大限反映させ、適切な変速を行うことにより、車両の運転時におけるフィーリングを向上させることができる。
また、要求駆動力を実現できるギヤ段が無い場合において現在の運転状態に適したギヤ段を選択する際に、各パワーをエンジン10の回転数とトルクとにより表した場合におけるギヤ段パワーと発生可能トルクとの交点と要求パワーPrとの距離が、最も近くなるギヤ段パワーを駆動輪に対して出力できるギヤ段を、現在の運転状態に適したギヤ段として選択している。これにより、要求パワーPrを発生する際におけるエンジン10の回転数とトルクとが総合的に最も近くなるギヤ段パワーを、より容易に選択することができ、このギヤ段パワーを駆動輪に対して出力できるギヤ段を選択することにより、容易に、且つ、確実に適切なギヤ段を選択することができる。この結果、より確実に適切な変速を行うことができる。
また、ギヤ段パワーを算出する際に、トルクコンバータ21のロックアップの状態ごとに算出するので、より正確にギヤ段パワーを算出することができる。つまり、ギヤ段パワーを算出する際に、同じギヤ段であってもロックアップの状態が異なる場合には、異なるギヤ段パワーとして扱うので、各ギヤ段が選択された際に駆動輪に対して出力できる最大パワーや最低パワーを、より正確に算出することができる。これにより、ギヤ段パワーに基づいてギヤ段を選択する際に、より確実に適切なギヤ段を選択することができる。この結果、より確実に適切な変速を行うことができる。
また、要求駆動力を実現できるギヤ段が無い場合において現在の運転状態に適したギヤ段を選択する際に用いる発生可能トルクとして、車両の加速時にはエンジンの回転数ごとに発生可能な最大トルクである発生可能最大トルクTmを使用し、車両の減速時にはエンジンの回転数ごとに発生可能な最低トルクであるアイドルオン時最低トルクTaやF/C時エンジントルクTfを使用している。このように発生可能トルクを、車両の加速時と減速時とで異なるトルクを使用することにより、車両が加速をしている場合でも減速をしている場合でも、確実にギヤ段パワーと要求パワーPrとを比較することができ、車両の加速時と減速時とのいずれの場合にも、適切なギヤ段を選択することができる。この結果、より確実に適切な変速を行うことができる。