以下、本発明の実施形態の対物レンズおよび該対物レンズが搭載される光情報記録再生装置について説明する。本実施形態の光情報記録再生装置は、所定の規格の高記録密度光ディスクに対する情報の記録や再生を行う装置である。ここでいう所定の規格の高記録密度光ディスクは、例えばBD規格の光ディスクである。以下、説明の便宜上、所定の規格の高記録密度光ディスクを光ディスクD1と記す。
図1は、本実施形態の対物レンズ10を有する光情報記録再生装置100の概略構成を表す模式図である。図1に示されるように、光情報記録再生装置100は、該装置全体の制御を統括的に実行するシステムコントローラ20を有している。システムコントローラ20は、光情報記録再生装置100の電源投入後、システムバスを介して必要なハードウェアにアクセスする。例えば光情報記録再生装置100の電源投入直後、システムコントローラ20は、フラッシュメモリ21にアクセスしてファームウェアを読み出し、ワークエリアにロードしてファームウェアを起動する。システムコントローラ20は、ファームウェアに従って光情報記録再生装置100を構成する各要素の動作のタイミング等を制御する。
例えば光情報記録再生装置100のスロット(不図示)に光ディスクD1が装填されたとき、システムコントローラ20は、光ディスクD1のリードインエリアに書き込まれたTOC(Table Of Contents)を読み取るため、光源部1を駆動制御する。
光源部1は、設計基準波長406nmの青色レーザー光を照射する半導体レーザーと、該半導体レーザーを駆動するドライバ回路により構成されている。かかるレーザー光の波長λ(単位:nm)は、使用環境、製品個体差等を考慮すると数nm〜数十nm程度の範囲で変動する。
図1に示されるように、光源部1の半導体レーザーから照射されたレーザー光束は、コリメートレンズ2に入射する。コリメートレンズ2に入射したレーザー光束は、平行光束に変換された後、ビームスプリッタキューブ3により偏向されて対物レンズ10の第一面11に入射する。第一面11に入射したレーザー光束は、対物レンズ10の第二面12から射出されて、情報の記録または再生の対象となる光ディスクD1に収束する。収束したレーザー光束は反射されて、入射時と同一の光路を戻り、ビームスプリッタキューブ3を透過して集光レンズ4に入射する。集光レンズ4に入射したレーザー光束は、受光部5により受光される。なお、図1に示される一点鎖線は、光情報記録再生装置100の光学ユニットの基準軸AXである。また、点線は、光ディスクD1への入射光束またはその戻り光を示している。なお、コリメートレンズ2と集光レンズ4は、ビームスプリッタキューブ3と対物レンズ10との間に配置された単一のレンズ構成としてもよい。
光ディスクD1は、図示省略された保護層、記録面を有している。なお、実際の光ディスクD1において、記録面は、保護層と基板層あるいはレーベル層によって挟持されている。また、光ディスクD1は、記録時や再生時等にターンテーブル上にセットされ回転した状態にある。光ディスクD1の保護層は、例えば0.05〜0.15mmの範囲に収まる厚みを有する。
受光部5は、受光されたレーザー光束を光電変換してアナログ信号を生成し、サーボエラー信号生成回路6、RF信号生成回路7、ジッタ値検出回路8に出力する。
サーボエラー信号生成回路6は、受光部5から入力するアナログ信号に基づきフォーカスエラー信号、トラッキングエラー信号を生成してシステムコントローラ20に出力する。システムコントローラ20は、入力したフォーカスエラー信号、トラッキングエラー信号に基づきフォーカス駆動信号、トラッキング駆動信号を生成してフォーカス/トラッキングアクチュエータドライバ9に出力する。フォーカス/トラッキングアクチュエータドライバ9は、入力したフォーカス駆動信号、トラッキング駆動信号に基づき二軸アクチュエータ19のフォーカス方向、トラッキング方向の駆動を制御する。かかる二軸アクチュエータ19の駆動により対物レンズ10がフォーカス方向、トラッキング方向に移動して、フォーカスエラー、トラッキングエラーの補正がされる。その結果、対物レンズ10の第二面12から射出されるレーザー光束は、光ディスクD1の記録面近傍に収束する。
フォーカスエラー、トラッキングエラーの補正がされることにより、光ディスクD1に書き込まれた情報の読み取りが可能となる。RF信号生成回路7は、受光部5から出力したアナログ信号をビットストリームに変換して所定の誤り訂正処理を行う。次いで、誤り訂正されたビットストリームからRF信号をデコードしてシステムコントローラ20に出力する。ここでは光ディスクD1のリードインエリアに書き込まれたTOCがデコードされてシステムコントローラ20に出力される。
システムコントローラ20は、入力したTOCに基づき光ディスクD1の種別を判定する。光ディスクD1の種別には、例えば片面単層BDや片面2層BD等がある。システムコントローラ20は、フラッシュメモリ21にアクセスして、判定した光ディスクD1の種別に対応するチルト角制御情報を読み出す。ここでチルト角制御情報は、例えば設計基準温度(35℃)下でコマ収差が良好に補正される、対物レンズ10のチルト角の情報である。チルト角制御情報は、予め、光ディスクD1の種別毎に測定されてフラッシュメモリ21に格納されている。
システムコントローラ20は、フラッシュメモリ21から読み出されたチルト角制御情報をキャッシュメモリ20aに保持するとともにオフセット発生回路13に出力する。オフセット発生回路13は、入力したチルト角制御情報に基づきチルト駆動信号を生成して加算器14に出力する。このとき加算器14には、オフセット発生回路13からのチルト駆動信号のみが入力する。そのため、加算器14は、オフセット発生回路13から入力したチルト駆動信号をそのままチルトアクチュエータドライバ15に出力する。チルトアクチュエータドライバ15は、入力したチルト駆動信号に基づきチルトアクチュエータ16の駆動を制御する。かかるチルトアクチュエータ16の駆動により、対物レンズ10は、設計基準温度(35℃)下でコマ収差が良好に補正される角度(以下、「基準チルト角」と記す。)にチルトされる。
ところが、対物レンズ10の周辺温度が設計基準温度(35℃)から外れるほど、或いは光ディスクD1に含まれる製品個体差が大きいほど、光ディスクD1の種別に応じた基準チルト角にチルト調整を行っただけではコマ収差が大きく残存して、光ディスクD1の記録面上に良好なスポットが形成されない。そのため、システムコントローラ20は、光ディスクD1の記録または再生を行う間、温度変化等に応じて信号品質が向上するようにチルト角演算回路17に所定のパルス信号を出力する。
温度変化等に伴い、ジッタ値検出回路8に入力するアナログ信号(特に高周波成分)が変化する。ジッタ値検出回路8は、かかるアナログ信号の高周波成分を抽出してA/D変換を行い、ジッタ値を検出する。ジッタ値検出回路8は、検出されたジッタ値をシステムコントローラ20に出力する。システムコントローラ20は、クローズドループ制御により入力したジッタ値の変化を算出し、対物レンズ10をジッタ値が向上する方向にチルトさせるようにチルト角制御回路18に所定のパルス信号を出力する。
チルト角制御回路18は、入力したパルス信号に基づき対物レンズ10をジッタ値が向上する方向に所定の角度チルトさせるチルト駆動信号を生成して加算器14に出力する。加算器14は、基準チルト角とチルト角制御回路18により生成された所定のチルト角とを加味したチルト駆動信号をチルトアクチュエータドライバ15に出力する。そのため、チルトアクチュエータ16は、チルトアクチュエータドライバ15の駆動制御により、常にコマ収差発生量が低減する方向に対物レンズ10をチルトさせる。
チルト角を制御するために、RF信号振幅、ビットエラーレート、コマ収差検出手段で検出されるコマ収差量等に基づきチルト方向を制御してもよい。
対物レンズをチルトさせるとき、従来は、対物レンズの周辺温度が高いほど対物レンズを大きくチルトさせるが故にアクチュエータに負荷がかかり過ぎ、また、当該周辺温度が低いほどチルト調整によるコマ収差発生量の精細なコントロールが難しくなることは先に述べた通りである。そこで、本実施形態の対物レンズ10は、当該周辺温度が高い場合にアクチュエータのチルト角を低減してアクチュエータへの過度の負担を有効に避けるとともに、当該周辺温度が低い場合にチルト調整によるコマ収差発生量の精細なコントロールを補償すべく、温度変化に起因する一定のチルト角に対するコマ収差発生量の変動が効果的に抑えられるように構成されている。以下、対物レンズ10の具体的構成について説明する。
対物レンズ10は、光ディスクD1に対する情報の記録や再生を行うべく、波長λ使用時における光ディスクD1側の開口数NAが例えば0.8〜0.87の範囲に収まるように構成されている。
対物レンズ10は、合成樹脂等によって成形された樹脂製レンズであり、例えばガラス製レンズに比べて軽量である。そのため、対物レンズ10が例えばガラス製レンズである場合と比べて、チルトアクチュエータ16、二軸アクチュエータ19の負担等が軽減する。対物レンズ10を樹脂製レンズとした場合には、軽量化以外にも、製造の容易性や量産性、コスト等の種々の面においてガラス製レンズと比較して有利である。対物レンズ10の材料には、波長λに対する屈折率nが例えば1.4〜1.7の範囲に収まる樹脂が選択される。なお、樹脂製レンズは、ガラス製レンズと比べて、温度変化に起因する一定のチルト角に対するコマ収差発生量の変動がより一層顕著である。本実施形態においては、対物レンズ10は樹脂製レンズであるにも拘わらず、温度変化に起因する一定のチルト角に対するコマ収差発生量の変動が効果的に抑えられている。
対物レンズ10は、第一面11、第二面12がともに非球面である。非球面の形状は、光軸からの高さがh(単位:mm)となる非球面上の座標点の該非球面の光軸上での接平面からの距離(サグ量)をX(h)と定義し、非球面の光軸上での曲率(1/r(但し、r(単位:mm)は曲率半径))をCと定義し、円錐係数をκと定義し、4次以上の偶数次の非球面係数をA
2i(ただしiは2以上の整数)と定義した場合に、次の式で表される。対物レンズ10の各レンズ面を非球面にすることにより、球面収差やコマ収差等の諸収差を適切にコントロールすることが可能になる。
本実施形態の対物レンズ10には、第一面11、第二面12がともに非球面形状を有するタイプと、第一面11、第二面12がともに非球面形状であり且つ何れか一方の面に輪帯構造が設けられたタイプの二通りのタイプがある。以下、両タイプを区別して説明する必要がある場合に限り、前者のタイプの対物レンズを「輪帯構造無し対物レンズ」と記し、後者のタイプの対物レンズを「輪帯構造付き対物レンズ」と記す。
輪帯構造は、対物レンズ10の光軸を中心とした同心状に分割された複数の屈折面と各屈折面の境界において光軸に沿って延びる複数の微小な段差からなる。かかる輪帯構造は、一般的には、第一面11に設けられる。輪帯構造を第一面11に設けた場合には、例えば輪帯構造の最小輪帯幅をより広く設計することができ、有効光束幅に対する輪帯の段差部分による光量損失を抑えることができるメリットがある。また、回転する光ディスクD1と向き合わず第二面12に対するゴミ等の付着の心配が増えない、対物レンズ10がレンズクリーナーを用いて擦られた場合に輪帯構造が摩耗する虞がない、などのメリットがある。
輪帯構造の段差は、各屈折面の境界の内側を透過する光束と外側を透過する光束との間で所定の光路長差が生じるように設計される。かかる構造を一般に回折構造と称することができる。所定の光路長差が特定の波長αのn倍(nは整数)となるように設計された輪帯構造は、ブレーズ波長αのn次回折構造と称することができる。ここで、回折構造に特定の波長βの光束を透過させた際に最も回折効率が高くなる回折光の回折次数は、波長βの光束に対して与えられる光路長差を波長βで割ったときの値に最も近い整数mとして求まる。
他にも、各屈折面の境界の内側を透過する光束および外側を透過する光束間に光路長差が生じるということは、互いの位相が、輪帯構造の段差の作用によってずれると捉えることもできる。したがって輪帯構造は、入射する光束の位相をシフトする構造、つまり、位相シフト構造と称することもできる。
輪帯構造は、光路差関数φ(h)により表すことができる。光路差関数φ(h)は、対物レンズ10の回折レンズとしての機能を光軸からの高さhにおける光路長付加量の形で表現した関数であり、輪帯構造における各段差の設置位置を規定する。光路差関数φ(h)は、二次、四次、六次、・・・の光路差関数係数をそれぞれP2、P4、P6、・・・と定義し、使用する(入射する)レーザー光の設計波長をλと定義し、入射光束の回折効率が最大となる回折次数をmと定義した場合に、次の式により表される。
φ(h)=(P2h2+P4h4+P6h6+P8h8+P10h10+P12h12)mλ
ここで、本出願人は、高温(80℃)下で対物レンズを1.0度チルトさせたときに発生する3次のコマ収差の値を、設計基準温度(35℃)下で対物レンズを1.0度チルトさせたときに発生する3次のコマ収差の値で除算した除算値(つまり、温度変化が生じた際の、一定のチルト角に対するコマ収差発生量の割合)をチルト感度と定義した場合に、図2、図3に示される関係を見出した。図2、図3の各図の縦軸はチルト感度を、横軸は対物レンズの屈折率nから1を減算した値(以下、「屈折率n−1」と記す。)を表す。なお、チルト感度が1.000に近い場合、温度変化(35℃〜80℃の範囲)に拘わらず、一定のチルト角に対するコマ収差発生量がほぼ変わらないことを意味する。
図2は、対物レンズの光軸上の厚みd(単位:mm)を1.70又は1.85に設計した場合における、チルト感度と屈折率n−1との関係を示している。また、図3は、対物レンズの波長λに対する焦点距離f(単位:mm)を1.18、1.41、又は1.77に設計した場合における、チルト感度と屈折率n−1との関係を示している。なお、図2のグラフは、厚みdと屈折率n以外は全て同一仕様の対物レンズを使用して検証された結果である。また、図3のグラフは、焦点距離fと屈折率n以外は全て同一仕様の対物レンズを使用して検証された結果である。
図2によれば、対物レンズの屈折率nが大きいほどチルト感度が大きく、また、対物レンズの光軸上の厚みdが厚いほどチルト感度が大きくなることが分かる。図3によれば、対物レンズの屈折率nが大きいほどチルト感度が大きく、また、対物レンズの波長λに対する焦点距離fが短いほどチルト感度が大きくなることが分かる。すなわち、本出願人は、図2、図3に示される検討結果に基づき、厚みdが厚いほど、又は屈折率nが大きいほど、或いは焦点距離fが短いほどチルト感度が1.000に近付いて、高温時における一定のチルト角に対するコマ収差発生量の低減(つまり、該コマ収差発生量の変動であり、別の観点によれば、低温時におけるチルト角に対するコマ収差発生量の増加)が効果的に抑えられ、コマ収差に関する温度特性が改善することを見出している。
なお、図2、図3において、チルト感度が0.000に近付くほど、高温時における一定のチルト角に対するコマ収差発生量がより一層小さい、或いは、低温時における一定のチルト角に対するコマ収差発生量がより一層大きい状態にある。前者の場合、高温時に対物レンズ10をより一層チルトさせる必要があるため、チルトアクチュエータ16に負荷がかかり望ましくない。後者の場合には、低温時にチルト調整によるコマ収差発生量の精細なコントロールがより一層難しくなり望ましくない。また、チルト感度が0.000(又は0.000を下回る値)である場合、80℃(又は35℃〜80℃の範囲の何れの温度)下で対物レンズ10を幾らチルトさせてもコマ収差が全く発生しないため、対物レンズ10のチルトによるコマ収差の補正がなされない問題が生じる。
以上の検討結果を鑑みて、本実施形態の対物レンズ10は、次の条件(1)を満たすように構成されている。
条件(1)の上限を上回る場合、焦点距離fが短くなりすぎる、又は厚みdが厚くなりすぎる等の理由により、図1に示される作動距離WD、つまり光ディスクD1の保護層表面と対物レンズ10の第二面12の頂点との距離を十分に確保することが難しい。一方、条件(1)の下限を下回る場合、焦点距離fが長くなりすぎる、又は厚みdが薄くなりすぎる、或いは屈折率nが低すぎる等の理由により、チルト感度の低下が避けられない。そのため、設計基準温度(35℃)に対して温度が変化したときにチルトアクチュエータ16の負荷の増大やコマ収差の補正精度の低下等が懸念される。また、条件(1)の下限を大きく下回る場合にはチルト感度が0.000以下となり、対物レンズ10のチルトによるコマ収差の補正ができなくなる問題が生じる。
そこで、対物レンズ10を条件(1)を満たすように構成する。かかる場合、十分な作動距離WDを確保しつつも依然として焦点距離fを短く又は厚みdを厚くできるため、チルト感度が高くなり(つまり、温度変化に起因する一定のチルト角に対するコマ収差発生量の変動が効果的に抑えられて)コマ収差に関する温度特性が改善する。或いは、十分な作動距離WDを確保しつつも依然として焦点距離fを短く又は厚みdを厚くでき、さらに屈折率nを高くすることもできるため、チルト感度が高くなりコマ収差に関する温度特性が改善する。すなわち、対物レンズ10は、温度変化が生じた場合にもコマ収差発生量の変動が効果的に抑えられているため、チルトアクチュエータ16の負荷の増大やコマ収差の補正精度の低下等の問題が有効に避けられる。
本実施形態の対物レンズ10は、第一面11又は第二面12の少なくとも一面に輪帯構造が設けられた輪帯構造付き対物レンズである場合には、条件(1)に加えてさらに次の条件(2)を満たすように構成されている。
なお、(Σφ
0.00−1.00)は、対物レンズ10の有効光束径(瞳座標)内に設けられた全ての該段差の高さの合計値として定義され、(Σφ
0.95−1.00)は、対物レンズ10の光軸を基準とした該有効光束半径の95%〜100%の範囲内に設けられた全ての該段差の高さの合計値として定義される。
条件(2)を満たす対物レンズには二通りの形態がある。一方の形態の対物レンズは、各段差の高さが略一定であり、対物レンズ10の有効光束径の周辺部(該有効光束半径の95%〜100%の範囲)に該段差が密に設けられた構成を有する。他方の形態の対物レンズは、対物レンズ10の瞳座標上で各段差が等間隔で配置され、該有効光束径の周辺部に設けられた段差が該周辺部より内側に設けられた段差より高い高さを持つ構成を有する。本実施形態では、前者の形態の対物レンズを想定している。図4に、前者の形態の対物レンズの模式的構成を示す。図4全体、および図4の拡大図Aを参照するところ、対物レンズ10(輪帯構造付き対物レンズ)の周辺部に、輪帯構造をなす段差が密に設けられていることが分かる。
対物レンズ10(輪帯構造付き対物レンズ)を条件(2)を満たすように構成した場合、輪帯構造による回折作用により、温度変化に起因する一定のチルト角に対するコマ収差発生量の変動がより一層補償される。別の側面によれば、条件(2)を満たすことにより、温度変化時の球面収差発生量を抑えることができる。その結果、倍率変動が少なくなり、コマ収差発生量の変動が抑えられることとなる。条件(2)の上限を上回る場合、対物レンズ10の有効光束径の周辺部の段差の配置密度が高くなりすぎるため、該周辺部の段差個々のサイズが極めて微細になる。かかる場合、対物レンズ10の成型時に金型に樹脂が充填し難くなるため、段差をなす各面が安定した寸法形状を得られず歩留まりの低下が懸念される。該周辺部の段差をなす各面が安定した寸法形状を得られない場合には、該周辺部で光が実質的に通らなくなり、光ディスクD1に対する情報の記録や再生を行うために必要なNAの担保が難しくなる。一方、条件(2)の下限を下回る場合、輪帯構造の回折作用による、温度変化に起因する一定のチルト角に対するコマ収差発生量の変動に対する補償(以下、「温度補償」と記す。)が十分でない。すなわち、輪帯構造の追加に伴う開発コストや製造コストの増加等に対して十分な温度補償効果が得られないため、費用対効果の面で好ましくない。
輪帯構造付き対物レンズの別の形態としては、十分な作動距離WDを確保しつつもチルト感度を高くしてコマ収差に関する温度特性を改善すべく、例えば次の条件(3)および(4)を満たす構成が想定される。
かかる別の形態では、先に説明された条件(1)および(2)を満たす対物レンズ10(輪帯構造付き対物レンズ)に比べて、厚みdの厚みを薄く又は焦点距離fを長くすることができ、作動距離WDをより一層確保し易くなっている。厚みdを薄くし又は焦点距離fを長くした分のチルト感度の低下は、対物レンズ10の有効光束径の周辺部に段差をより一層密に設けることで補償されている。対物レンズ10(輪帯構造付き対物レンズ)の構成が、条件(3)、(4)を満たさない場合には、条件(1)、(2)を満たさない場合と同様の問題が生じる。
なお、上述した何れの形態の対物レンズにおいても、対物レンズ10の大型化等を有効に避けるべく、焦点距離fは1.0〜1.5の範囲に抑える(つまり比較的短くする)ことが好ましい。
図5および図6は、光ディスクD1使用時に発生する対物レンズ(図5、図6ともに同一仕様の対物レンズ)の球面収差SAと正弦条件違反量SCを示すグラフである。各図の実線が球面収差SAを示し、破線が正弦条件違反量SCを示す。また、各図の縦軸は入射瞳座標を、横軸は球面収差量(単位:mm)または正弦条件違反量を表す。なお、図5、図6に示すグラフおよび線種の定義は、後述される各実施例および比較例で提示されるグラフにおいても同様とする。
図5は、設計基準温度(35℃)下でコマ収差が良好に補正されるように設計された対物レンズの収差図である。図5(a)が設計基準温度(35℃)下における対物レンズの収差図であり、図5(b)が高温(80℃)下における対物レンズの収差図である。図5(b)に示されるように、高温(80℃)下では、正弦条件違反量SCが、対物レンズの光軸を基準とした有効光束半径の30%〜50%程度で極大値をとり、周辺部に向かってアンダーになる。これは、温度が高温に変化したことによる正弦条件違反量SCのアンダー方向の変化と、倍率変動(球面収差を補正するためにコリメートレンズ2を光軸AX方向に移動させたことによる倍率変動)による正弦条件違反量SCのアンダー方向の変化とが足し合わせられるためである。正弦条件違反量SCが急激にアンダーになるような特性を有するほどチルト感度が低下する傾向にある。
そこで、本出願人は、設計基準温度(35℃)下で正弦条件違反量SCを有効光束径の周辺部で意図的にオーバーになるように設計することにより、高温時におけるチルト感度の低下をより一層抑制するようにしている。具体的には、設計基準温度(35℃)下で、正弦条件違反量SCが有効光束半径の20%〜80%未満の範囲内で極小値を持ち、かつ該有効光束半径の80%〜100%の範囲内で最大値を持ち、該最大値が0.001〜0.01の範囲内であるように対物レンズを構成する。
また、設計基準温度(35℃)下で保護層厚が厚い設計値で有効光束半径100%での正弦条件違反量SCと球面収差SAが一致するように設計することにより、高温時におけるチルト感度の低下をより一層抑制するようにしている。具体的には、設計基準温度(35℃)下で、保護層厚が0.105〜0.15(単位:mm)で有効光束半径100%での正弦条件違反量SCと球面収差SAが一致している対物レンズを構成する。
図6は、かかる技術的思想に基づき設計された対物レンズの収差図である。図6(a)が設計基準温度(35℃)下における対物レンズの収差図であり、図6(b)が高温(80℃)下における対物レンズの収差図である。図6(a)に示されるように、対物レンズは、設計基準温度(35℃)下で、正弦条件違反量SCが有効光束径の周辺部に向かうほどオーバーになり、コマ収差を意図的に発生させるように設計されている。かかる設計がされたとき、図6(b)に示されるように、高温(80℃)下においては、正弦条件違反量SCが補正された値をとる。
図5の対物レンズの場合、例えば、設計基準温度(35℃)下で対物レンズを1.0度チルトさせたときに発生する3次のコマ収差が0.098であるのに対して、高温(80℃)下で対物レンズを1.0度チルトさせたときに発生する3次のコマ収差の値が0.023である。このときのチルト感度は0.24である。高温(80℃)時にコマ収差を補正するためには、設計基準温度(35℃)時と比べて対物レンズを約4倍の角度チルトさせる必要がある。
一方、図6の対物レンズの場合、例えば、設計基準温度(35℃)下で対物レンズを1.0度チルトさせたときに発生する3次のコマ収差が0.161であるのに対して、高温(80℃)下で対物レンズを1.0度チルトさせたときに発生する3次のコマ収差の値が0.083であり、その減少量が抑えられている。このときのチルト感度は0.52もある。そのため、高温(80℃)時にコマ収差を補正するにあたり、設計基準温度(35℃)時と比べて対物レンズを約2倍の角度チルトさせるだけでよい。すなわち、図6の収差特性を有するように対物レンズを構成した場合、チルトアクチュエータ16のチルト角がより一層抑えられて、チルトアクチュエータ16の負荷が軽減される効果が得られる。
これまで説明された対物レンズ10を搭載する光情報記録再生装置100の具体的実施例を、次に13例説明する。各具体的実施例1〜13の光情報記録再生装置100は、図1に示される概略構成を有する。なお、実施例1〜3、実施例8〜10の対物レンズ10は、輪帯構造無し対物レンズである。また、実施例4〜7、実施例11〜13の対物レンズ10は、輪帯構造付き対物レンズである。輪帯構造付き対物レンズの回折次数mは、全て一次である。
実施例1の光情報記録再生装置100に搭載される対物レンズ10の仕様、具体的には、光ディスクD1の再生等に使用される光束の波長λ(単位:nm)、光ディスクD1使用時における対物レンズ10の焦点距離f(単位:mm)、NA、および倍率は、次の表1に示される通りである。また、実施例1をはじめとする各具体的実施例では、本発明に係る特徴、つまり対物レンズ10の特徴を明確化するため、提示する数値構成を対物レンズ10以降の数値構成に限定する。また、実施例1の各表についての説明は、他の具体的実施例で提示される各表においても適用される。
なお、光情報記録再生装置100は、表1中、倍率の値が示すように、対物レンズ10に平行光束が入射するように設計されている。これにより、トラッキングシフト時における意図しない軸外収差の発生を有効に避けることができる。
実施例1の光情報記録再生装置100の光ディスクD1使用時における具体的数値構成は、表2に示される。
表2において、面番号1、2は対物レンズ10の第一面11、第二面12を、面番号3、4は対象となる光ディスクの保護層、記録層をそれぞれ示す。「r」は光学部材の各面の曲率半径(単位:mm)、「d」は光学部材厚または光学部材間隔(単位:mm)、「n」は使用波長λに対する光学部材の屈折率である。なお、非球面素子におけるrは、光軸上での曲率半径を示す。
対物レンズ10の第一面11(面番号1)および第二面12(面番号2)は、非球面である。各面の非球面形状は、光ディスクD1に対する情報の記録や再生を行うのに最適に設計されている。各面の非球面形状を規定する円錐係数κと、4次以上の偶数次の非球面係数は、表3に示される。なお、各表における表記Eは、10を基数、Eの右の数字を指数とする累乗を表している。
実施例1の対物レンズ10は、条件(1)の数式の値が0.520であり、条件(1)を満たす。ここで、対物レンズの実際のチルト角度は0.2度ほどである。このときのチルト感度が0.200以上である場合、温度変化が生じた場合のコマ収差発生量の変動(低温時のコマ収差発生量の増加又は高温時のコマ収差発生量の低下)が抑えられている状態にある。ここで、チルト角度に対してコマ収差発生量は線形であるため、チルト感度は角度に依らず一定となる。実施例1の対物レンズ10のチルト感度は0.357であり、0.200以上である。すなわち、実施例1の対物レンズ10は、高記録密度光ディスクの記録や再生に適した光学性能を有しつつも、条件(1)を満たすことにより、温度変化が生じたときのコマ収差発生量の変動が抑えられている。そのため、チルトアクチュエータ16の負荷の増大やコマ収差の補正精度の低下が有効に避けられる。
図7(a)は、設計基準温度(35℃)下における実施例1の対物レンズ10の収差図であり、図7(b)は、高温(80℃)下における実施例1の対物レンズ10の収差図である。図7(a)、(b)によれば、設計基準温度時又は高温時の何れにおいても球面収差、コマ収差が共に良好に補正されていることが分かる。
次に、実施例2について説明する。以下、実施例2における対物レンズ10の具体的仕様を表4に、光ディスクD1使用時における具体的数値構成を表5に、非球面形状を規定する各係数を表6に示す。
実施例2の対物レンズ10は、条件(1)の数式の値が0.555であり、条件(1)を満たす。また、実施例2の対物レンズ10のチルト感度は0.335である。すなわち、実施例2の対物レンズ10は、実施例1の対物レンズ10と同じく、高記録密度光ディスクの記録や再生に適した光学性能を有しつつも、条件(1)を満たすことにより、温度変化が生じたときのコマ収差発生量の変動が抑えられている。そのため、チルトアクチュエータ16の負荷の増大やコマ収差の補正精度の低下が有効に避けられる。
図8(a)は、設計基準温度(35℃)下における実施例2の対物レンズ10の収差図であり、図8(b)は、高温(80℃)下における実施例2の対物レンズ10の収差図である。図8(a)、(b)によれば、設計基準温度時又は高温時の何れにおいても球面収差、コマ収差が共に良好に補正されていることが分かる。
次に、実施例3について説明する。以下、実施例3における対物レンズ10の具体的仕様を表7に、光ディスクD1使用時における具体的数値構成を表8に、非球面形状を規定する各係数を表9に示す。
実施例3の対物レンズ10は、条件(1)の数式の値が0.487であり、条件(1)を満たす。また、実施例3の対物レンズ10のチルト感度は0.238である。すなわち、実施例3の対物レンズ10は、実施例1、2の対物レンズ10と同じく、高記録密度光ディスクの記録や再生に適した光学性能を有しつつも、条件(1)を満たすことにより、温度変化が生じたときのコマ収差発生量の変動が抑えられている。そのため、チルトアクチュエータ16の負荷の増大やコマ収差の補正精度の低下が有効に避けられる。
図9(a)は、設計基準温度(35℃)下における実施例3の対物レンズ10の収差図であり、図9(b)は、高温(80℃)下における実施例3の対物レンズ10の収差図である。図9(a)、(b)によれば、設計基準温度時又は高温時の何れにおいても球面収差、コマ収差が共に良好に補正されていることが分かる。
次に、実施例4について説明する。以下、実施例4における対物レンズ10の具体的仕様を表10に、光ディスクD1使用時における具体的数値構成を表11に、非球面形状を規定する各係数を表12に示す。
実施例4の対物レンズ10は、輪帯構造付き対物レンズである。表13に、第一面11(面番号1)の輪帯構造を規定するための光路差関数φ(h)における2次以上の偶数次の光路差関数係数を示す。
実施例4の対物レンズ10は、条件(1)、(2)の数式の値がそれぞれ、0.520、0.32であり、条件(1)および(2)(又は条件(3)および(4))を満たす。また、実施例4の対物レンズ10のチルト感度は0.440である。すなわち、実施例4の対物レンズ10は、高記録密度光ディスクの記録や再生に適した光学性能を有しつつも、条件(1)および(2)(又は条件(3)および(4))を満たすことにより、温度変化が生じたときのコマ収差発生量の変動が抑えられている。そのため、チルトアクチュエータ16の負荷の増大やコマ収差の補正精度の低下が有効に避けられる。
図10(a)は、設計基準温度(35℃)下における実施例4の対物レンズ10の収差図であり、図10(b)は、高温(80℃)下における実施例4の対物レンズ10の収差図である。図10(a)、(b)によれば、設計基準温度時又は高温時の何れにおいても球面収差、コマ収差が共に良好に補正されていることが分かる。
次に、実施例5について説明する。以下、実施例5における対物レンズ10の具体的仕様を表14に、光ディスクD1使用時における具体的数値構成を表15に、非球面形状を規定する各係数を表16に、光路差関数φ(h)を規定する各係数を表17に示す。
実施例5の対物レンズ10は、条件(1)、(2)の数式の値がそれぞれ、0.506、0.30であり、条件(1)および(2)(又は条件(3)および(4))を満たす。また、実施例5の対物レンズ10のチルト感度は0.477である。すなわち、実施例5の対物レンズ10は、実施例4の対物レンズ10と同じく、高記録密度光ディスクの記録や再生に適した光学性能を有しつつも、条件(1)および(2)(又は条件(3)および(4))を満たすことにより、温度変化が生じたときのコマ収差発生量の変動が抑えられている。そのため、チルトアクチュエータ16の負荷の増大やコマ収差の補正精度の低下が有効に避けられる。
図11(a)は、設計基準温度(35℃)下における実施例5の対物レンズ10の収差図であり、図11(b)は、高温(80℃)下における実施例5の対物レンズ10の収差図である。図11(a)、(b)によれば、設計基準温度時又は高温時の何れにおいても球面収差、コマ収差が共に良好に補正されていることが分かる。
次に、実施例6について説明する。以下、実施例6における対物レンズ10の具体的仕様を表18に、光ディスクD1使用時における具体的数値構成を表19に、非球面形状を規定する各係数を表20に、光路差関数φ(h)を規定する各係数を表21に示す。
実施例6の対物レンズ10は、条件(3)、(4)の数式の値がそれぞれ、0.448、0.29であり、条件(3)および(4)を満たす。また、実施例6の対物レンズ10のチルト感度は0.475である。すなわち、実施例6の対物レンズ10は、高記録密度光ディスクの記録や再生に適した光学性能を有しつつも、条件(3)および(4)を満たすことにより、温度変化が生じたときのコマ収差発生量の変動が抑えられている。実施例6の対物レンズ10は、さらに、有効光束半径100%での正弦条件違反量SCと球面収差SAが一致する保護層厚が0.129(単位:mm)であるように設計されている。かかる点からも、温度変化が生じたときのコマ収差発生量の変動が抑えられている。そのため、チルトアクチュエータ16の負荷の増大やコマ収差の補正精度の低下が有効に避けられる。
図12(a)は、設計基準温度(35℃)下における実施例6の対物レンズ10の収差図であり、図12(b)は、高温(80℃)下における実施例6の対物レンズ10の収差図である。図12(a)、(b)によれば、設計基準温度時又は高温時の何れにおいても球面収差、コマ収差が共に良好に補正されていることが分かる。また、図12(a)に示されるように、実施例6の対物レンズ10は、設計基準温度下で、正弦条件違反量SCが有効光束半径の20%〜80%未満の範囲内で極小値を持ち、かつ該有効光束半径の80%〜100%の範囲内で最大値を持ち、該最大値が0.001〜0.01の範囲内であるように構成されている。そのため、図12(b)に示されるように、高温時におけるコマ収差発生量の変動が非常に小さく抑えられている。
次に、実施例7について説明する。以下、実施例7における対物レンズ10の具体的仕様を表22に、光ディスクD1使用時における具体的数値構成を表23に、非球面形状を規定する各係数を表24に、光路差関数φ(h)を規定する各係数を表25に示す。
実施例7の対物レンズ10は、条件(3)、(4)の数式の値がそれぞれ、0.448、0.39であり、条件(3)および(4)を満たす。また、実施例7の対物レンズ10のチルト感度は0.553である。すなわち、実施例7の対物レンズ10は、実施例6の対物レンズ10と同じく、高記録密度光ディスクの記録や再生に適した光学性能を有しつつも、条件(3)および(4)を満たすことにより、温度変化が生じたときのコマ収差発生量の変動が抑えられている。実施例7の対物レンズ10は、さらに、有効光束半径100%での正弦条件違反量SCと球面収差SAが一致する保護層厚が0.129(単位:mm)であるように設計されている。かかる点からも、温度変化が生じたときのコマ収差発生量の変動が抑えられている。そのため、チルトアクチュエータ16の負荷の増大やコマ収差の補正精度の低下が有効に避けられる。
図13(a)は、設計基準温度(35℃)下における実施例7の対物レンズ10の収差図であり、図13(b)は、高温(80℃)下における実施例7の対物レンズ10の収差図である。図13(a)、(b)によれば、設計基準温度時又は高温時の何れにおいても球面収差、コマ収差が共に良好に補正されていることが分かる。また、実施例6と同様に、高温時におけるコマ収差発生量の変動が非常に小さく抑えられている。
次に、実施例8について説明する。以下、実施例8における対物レンズ10の具体的仕様を表26に、光ディスクD1使用時における具体的数値構成を表27に、非球面形状を規定する各係数を表28に示す。
実施例8の対物レンズ10は、条件(1)の数式の値が0.603であり、条件(1)を満たす。また、実施例8の対物レンズ10のチルト感度は0.530である。すなわち、実施例8の対物レンズ10は、実施例1〜3の対物レンズ10と同じく、高記録密度光ディスクの記録や再生に適した光学性能を有しつつも、条件(1)を満たすことにより、温度変化が生じたときのコマ収差発生量の変動が抑えられている。そのため、チルトアクチュエータ16の負荷の増大やコマ収差の補正精度の低下が有効に避けられる。
図14(a)は、設計基準温度(35℃)下における実施例8の対物レンズ10の収差図であり、図14(b)は、高温(80℃)下における実施例8の対物レンズ10の収差図である。図14(a)、(b)によれば、設計基準温度時又は高温時の何れにおいても球面収差、コマ収差が共に良好に補正されていることが分かる。
次に、実施例9について説明する。以下、実施例9における対物レンズ10の具体的仕様を表29に、光ディスクD1使用時における具体的数値構成を表30に、非球面形状を規定する各係数を表31に示す。
実施例9の対物レンズ10は、条件(1)の数式の値が0.644であり、条件(1)を満たす。また、実施例9の対物レンズ10のチルト感度は0.608である。すなわち、実施例9の対物レンズ10は、実施例1〜3、8の対物レンズ10と同じく、高記録密度光ディスクの記録や再生に適した光学性能を有しつつも、条件(1)を満たすことにより、温度変化が生じたときのコマ収差発生量の変動が抑えられている。そのため、チルトアクチュエータ16の負荷の増大やコマ収差の補正精度の低下が有効に避けられる。
図15(a)は、設計基準温度(35℃)下における実施例9の対物レンズ10の収差図であり、図15(b)は、高温(80℃)下における実施例9の対物レンズ10の収差図である。図15(a)、(b)によれば、設計基準温度時又は高温時の何れにおいても球面収差、コマ収差が共に良好に補正されていることが分かる。
次に、実施例10について説明する。以下、実施例10における対物レンズ10の具体的仕様を表32に、光ディスクD1使用時における具体的数値構成を表33に、非球面形状を規定する各係数を表34に示す。
実施例10の対物レンズ10は、条件(1)の数式の値が0.749であり、条件(1)を満たす。また、実施例10の対物レンズ10のチルト感度は0.662である。すなわち、実施例10の対物レンズ10は、実施例1〜3、8、9の対物レンズ10と同じく、高記録密度光ディスクの記録や再生に適した光学性能を有しつつも、条件(1)を満たすことにより、温度変化が生じたときのコマ収差発生量の変動が抑えられている。そのため、チルトアクチュエータ16の負荷の増大やコマ収差の補正精度の低下が有効に避けられる。
図16(a)は、設計基準温度(35℃)下における実施例10の対物レンズ10の収差図であり、図16(b)は、高温(80℃)下における実施例10の対物レンズ10の収差図である。図16(a)、(b)によれば、設計基準温度時又は高温時の何れにおいても球面収差、コマ収差が共に良好に補正されていることが分かる。
次に、実施例11について説明する。以下、実施例11における対物レンズ10の具体的仕様を表35に、光ディスクD1使用時における具体的数値構成を表36に、非球面形状を規定する各係数を表37に、光路差関数φ(h)を規定する各係数を表38に示す。
実施例11の対物レンズ10は、条件(1)、(2)の数式の値がそれぞれ、0.603、0.32であり、条件(1)および(2)(又は条件(3)および(4))を満たす。また、実施例11の対物レンズ10のチルト感度は0.643である。すなわち、実施例11の対物レンズ10は、実施例4、5の対物レンズ10と同じく、高記録密度光ディスクの記録や再生に適した光学性能を有しつつも、条件(1)および(2)(又は条件(3)および(4))を満たすことにより、温度変化が生じたときのコマ収差発生量の変動が抑えられている。そのため、チルトアクチュエータ16の負荷の増大やコマ収差の補正精度の低下が有効に避けられる。
図17(a)は、設計基準温度(35℃)下における実施例11の対物レンズ10の収差図であり、図17(b)は、高温(80℃)下における実施例11の対物レンズ10の収差図である。図17(a)、(b)によれば、設計基準温度時又は高温時の何れにおいても球面収差、コマ収差が共に良好に補正されていることが分かる。
次に、実施例12について説明する。以下、実施例12における対物レンズ10の具体的仕様を表39に、光ディスクD1使用時における具体的数値構成を表40に、非球面形状を規定する各係数を表41に、光路差関数φ(h)を規定する各係数を表42に示す。
実施例12の対物レンズ10は、条件(1)、(2)の数式の値がそれぞれ、0.644、0.39であり、条件(1)および(2)(又は条件(3)および(4))を満たす。また、実施例12の対物レンズ10のチルト感度は0.647である。すなわち、実施例12の対物レンズ10は、実施例4、5、11の対物レンズ10と同じく、高記録密度光ディスクの記録や再生に適した光学性能を有しつつも、条件(1)および(2)(又は条件(3)および(4))を満たすことにより、温度変化が生じたときのコマ収差発生量の変動が抑えられている。そのため、チルトアクチュエータ16の負荷の増大やコマ収差の補正精度の低下が有効に避けられる。
図18(a)は、設計基準温度(35℃)下における実施例12の対物レンズ10の収差図であり、図18(b)は、高温(80℃)下における実施例12の対物レンズ10の収差図である。図18(a)、(b)によれば、設計基準温度時又は高温時の何れにおいても球面収差、コマ収差が共に良好に補正されていることが分かる。
次に、実施例13について説明する。以下、実施例13における対物レンズ10の具体的仕様を表43に、光ディスクD1使用時における具体的数値構成を表44に、非球面形状を規定する各係数を表45に、光路差関数φ(h)を規定する各係数を表46に示す。
実施例13の対物レンズ10は、条件(1)、(2)の数式の値がそれぞれ、0.697、0.30であり、条件(1)および(2)(又は条件(3)および(4))を満たす。また、実施例13の対物レンズ10のチルト感度は0.765である。すなわち、実施例13の対物レンズ10は、実施例4、5、11、12の対物レンズ10と同じく、高記録密度光ディスクの記録や再生に適した光学性能を有しつつも、条件(1)および(2)(又は条件(3)および(4))を満たすことにより、温度変化が生じたときのコマ収差発生量の変動が抑えられている。そのため、チルトアクチュエータ16の負荷の増大やコマ収差の補正精度の低下が有効に避けられる。
図19(a)は、設計基準温度(35℃)下における実施例13の対物レンズ10の収差図であり、図19(b)は、高温(80℃)下における実施例13の対物レンズ10の収差図である。図19(a)、(b)によれば、設計基準温度時又は高温時の何れにおいても球面収差、コマ収差が共に良好に補正されていることが分かる。また、実施例6又は7と同様に、高温時におけるコマ収差発生量の変動が非常に小さく抑えられている。
次に、実施例14について説明する。以下、実施例14における対物レンズ10の具体的仕様を表47に、光ディスクD1使用時における具体的数値構成を表48に、非球面形状を規定する各係数を表49に示す。
実施例14の対物レンズ10は、条件(1)の数式の値が0.487であり、条件(1)を満たす。また、実施例14の対物レンズ10のチルト感度は0.493である。すなわち、実施例14の対物レンズ10は、実施例1〜3、8〜10の対物レンズ10と同じく、高記録密度光ディスクの記録や再生に適した光学性能を有しつつも、条件(1)を満たすことにより、温度変化が生じたときのコマ収差発生量の変動が抑えられている。実施例14の対物レンズ10は、さらに、有効光束半径100%での正弦条件違反量SCと球面収差SAが一致する保護層厚が0.130(単位:mm)であるように設計されている。図20に、使用される光ディスクの保護層厚が0.110(単位:mm)で倍率が−0.0081であるときの設計基準温度(35℃)下における実施例14の対物レンズ10の収差図を示す。図20に示されるように、実施例14の対物レンズ10は、設計基準温度(35℃)下で保護層厚が厚い光ディスク使用時に正弦条件違反量SCが補正されて、有効光束半径100%での正弦条件違反量SCと球面収差SAがほぼ一致するように設計されていることが分かる。かかる点からも、実施例14の対物レンズ10は、温度変化が生じたときのコマ収差発生量の変動が抑えられている。そのため、チルトアクチュエータ16の負荷の増大やコマ収差の補正精度の低下が有効に避けられる。
図21(a)は、設計基準温度(35℃)下における実施例14の対物レンズ10の収差図であり、図21(b)は、高温(80℃)下における実施例14の対物レンズ10の収差図である。図21(a)、(b)によれば、設計基準温度時又は高温時の何れにおいても球面収差、コマ収差が共に良好に補正されていることが分かる。また、実施例6又は7或いは13と同様に、高温時におけるコマ収差発生量の変動が非常に小さく抑えられている。
比較例
次に、比較例について説明する。以下、比較例における対物レンズの具体的仕様を表50に、光ディスクD1使用時における具体的数値構成を表51に、非球面形状を規定する各係数を表52に示す。なお、比較例の光情報記録再生装置は、対物レンズの構成が各実施例の光情報記録再生装置と相違するだけで、他の構成要素は同一である。比較例の対物レンズは、輪帯構造を有していない。
比較例の対物レンズは、条件(1)、(2)の数式の値がそれぞれ、0.335、0.00であり、条件(1)、(2)(或いは条件(3)、(4))の何れも満たしていない。比較例の対物レンズのチルト感度は−0.291である。すなわち、比較例の対物レンズは、条件(1)を満たさないためチルト感度(絶対値)が大きく、高温時により一層チルトさせる必要がある。そのため、チルトアクチュエータ16に負荷をかけることとなり望ましくない。さらに、比較例の対物レンズは、チルト感度が負の値であるため、35℃〜80℃の何れかの温度下で幾らチルトさせてもコマ収差が全く発生せず、コマ収差の補正がなされない問題がある。
図22(a)は、設計基準温度(35℃)下における比較例の対物レンズの収差図であり、図22(b)は、高温(80℃)下における比較例の対物レンズの収差図である。図22(a)、(b)によれば、設計基準温度下では収差補正はなされるものの、高温時にコマ収差が大きく発生していることが分かる。
実施例1〜14によれば、比較例との比較から分かるように、少なくとも条件(1)を満たすため、高記録密度光ディスクの記録や再生に適した光学性能を有しつつも、温度変化が生じたときのコマ収差発生量の変動が抑えられている。そのため、チルトアクチュエータ16の負荷の増大やコマ収差の補正精度の低下が有効に避けられる。
以上が本発明の実施形態および該実施形態の具体的実施例の説明である。本発明は、上記の構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。例えば、輪帯構造は、本実施形態では第一面11だけに設けられているが、第一面11、第二面12の両面に設けられてもよい。