この発明は、記録密度が異なる複数種類の光ディスクに対するデータの記録または再生を行う光ピックアップ装置および該装置に用いられる対物レンズに関する。
光ディスクには、記録密度が異なる複数の規格が存在する。例えば、近年、情報記録のさらなる高容量化を実現すべく実用化されつつあるBD(Blu-ray Disc)やHD DVDといった新規格の光ディスクは、既存の光ディスクの中でも比較的記録密度が高いDVD(Digital Versatile Disc)よりも記録密度が高い。そこで、規格が異なる光ディスクに対する互換性を光情報記録再生装置に持たせるためには、該装置において、情報の記録または再生に使用する光の開口数(NA)を変化させて、記録密度の違いに対応したビームスポットが得られるようにする必要がある。
具体的には、新規格の光ディスクに対する情報の記録または再生には、DVD専用の光学系より高NAの光学系を用いてビームスポットを絞る必要がある。スポット径は波長が短いほど小さく絞れるため、新規格の光ディスクを利用する光学系では、DVD専用の光学系で用いられていた約660nmよりも短い約405nmの発振波長のレーザー光源を用いる必要がある。そのため近年、規格が異なる光ディスクに対する互換性を持つ光情報記録再生装置には、波長の異なるレーザー光を発振可能な光源部を有する光ピックアップ装置が使用されている。
また、一般に記録密度の高い光ディスクを使用する場合は、収差に対する許容度が小さくなることが知られている。そのため、DVDや新規格の光ディスクに対して互換性を持つ光情報記録再生装置では、球面収差を如何に小さく抑えるかがより一層重要な課題になる。
なお、本文において、光情報記録再生装置と記した場合には、情報の記録専用装置、情報の再生専用装置、情報の記録および再生兼用装置、の全てを含むものとする。また、互換性を持つとは、使用する光ディスクを切り替えたとしても部品を交換したりすることなく情報の記録または再生が保証されることをいう。
規格が異なる複数の光ディスクに対して、それぞれ良好な状態で各光ディスクの記録面上にレーザー光を収束させる手段の一つとしてレーザー光の光路中に回折構造を配設することが提案される。該提案は、例えば、以下の特許文献1や特許文献2に開示される。
特開2001−93179号公報
特開平9−54973号公報
特許文献1は、400nm台のレーザー光を用いて新規格の光ディスクに対する情報の記録または再生を行い、650nm台のレーザー光を用いてDVDに対する情報の記録または再生を行うための回折光学素子を有する光ピックアップが開示されている。特許文献1の光ピックアップにおいて回折光学素子は、新規格の光ディスクに対する情報の記録または再生には2次回折光が用いられ、DVDに対する情報の記録または再生には1次回折光が用いられるように構成される。あるいは該回折光学素子は、新規格の光ディスクに対する情報の記録または再生には3次回折光を用い、DVDに対する情報の記録または再生には2次回折光を用いるように構成される。このように構成することにより、各レーザー光の回折効率の低下を抑えつつも、各レーザー光の波長が異なることに起因する球面収差を補正して、各光ディスクの記録面上で情報の記録または再生に好適なスポットを形成している。
しかし、上記特許文献1に開示する光ピックアップの構成では、各光ディスク使用時に用いられるレーザー光が、各光ディスク使用時に好適とされる波長(以下、設計波長という)から微小にずれることによる球面収差の変化については想定されていない。特に、異なる厚さの保護層を持つ複数の光ディスクに対する互換性を得るために回折光学素子を利用した場合、実際に使用されるレーザー光の波長が設計波長から微小変化したことによる球面収差の変化は非常に大きく現れる。該球面収差の変化は、情報の記録または再生、特に記録密度の高い新規格の光ディスクに対する情報の記録または再生に支障をきたすおそれがある。
また、特許文献2は、特許文献1と同様に回折光学素子による回折作用を利用して、二種類の光ディスクに互換性を持つ光ヘッド装置が開示されている。該光ヘッド装置において、回折光学素子は、記録密度の高い光ディスクに対する情報の記録または再生には1次回折光が用いられ、記録密度の低い光ディスクに対する情報の記録または再生には透過光が用いられるように構成される。
ここで、特許文献2の光ヘッド装置は、あくまでDVDと記録密度が相対的に低いCD(Compact Disc)に対して互換性を持つように設計されている。つまり、特許文献2の光ヘッド装置は、新規格の光ディスクに対する情報の記録または再生を全く想定していない。そのため、特許文献2の光ヘッド装置で400nm台のレーザー光を用いると、新規格の光ディスクの記録面上において球面収差を始めとする諸収差が発生してしまい、該新規格の光ディスクに対する情報の記録または再生に適したスポットを形成することができない。つまり、上述した新規格の光ディスクに対する情報の記録または再生ができない。さらに、特許文献2の光ヘッド装置でも、各光ディスク使用時に用いられるレーザー光が、設計波長から微小にずれることによる球面収差をコントロールすることが困難である。従って上記特許文献1と同様の問題を有している。
そこで本発明は上記の事情に鑑み、既存の比較的記録密度の高い光ディスクおよび該既存の光ディスクよりも記録密度の高い新規格の光ディスクに対して互換性を持たせるために回折構造を使用した場合に、いずれの光ディスク使用時でも回折効率の低下を有効に防いで各光ディスクの記録面上において良好なスポットを形成するとともに、各光ディスク使用時に用いられるレーザー光が設計波長から微小変化した場合であっても球面収差の変化を小さく抑えることができる光ピックアップ光学系や対物レンズおよび該光ピックアップ光学系や対物レンズを搭載する光ピックアップ装置を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明の光ピックアップ光学系は、規格の異なる少なくとも二種類の光ディスクに対して波長の異なる第一および第二のレーザー光を使い分けることにより、それぞれの光ディスクに対する情報の記録または再生が可能な光ピックアップ光学系であって、対物レンズと、対物レンズよりも光源側に配置され、少なくとも1面に位相シフト面を有する光学素子と、を有し、第一のレーザー光を用いて情報の記録または再生が行われる第一の光ディスクの保護層厚をt1、第一のレーザー光よりも長い波長を持つ第二のレーザー光を用いて情報の記録または再生が行われる第二の光ディスクの保護層厚をt2とすると、t1およびt2は以下の関係、
t1≦t2
を満たし、
対物レンズの、第一の光ディスクに対する情報の記録または再生時に必要な開口数をNA1、第二の光ディスクに対する情報の記録または再生時に必要な開口数をNA2、とすると、
NA1≧NA2
であり、
位相シフト面は、光学素子及び対物レンズ透過した後に、第一のレーザー光を第一の光ディスクの記録面上に収束させ、かつ第二のレーザー光を第二の光ディスクの記録面上に収束させる第一の領域を有し、第一の領域は、隣接しあう屈折面間の境界において、内側に位置する屈折面を基準にした場合における第一のレーザー光に対する光路長付加量が略2波長分となるような段差が形成される輪帯群と、輪帯群の外側に位置し、内側に位置する屈折面を基準にした場合における第一のレーザー光に対する光路長付加量が輪帯群の段差とは反対方向に略3波長分となるような戻り段差部と、からなる輪帯構造を少なくとも一つ有することを特徴とする。
請求項1に記載の発明によれば、このように構成することにより、特に新規格の光ディスク(第一の光ディスク)に対する情報の記録または再生時に、使用されるレーザー光が設計波長から微小に変化した場合であっても、該変化に伴う球面収差の変化を小さく抑えることができる。また、上記構成により、新規格の光ディスクおよび既存の光ディスク(第二の光ディスク)のいずれに対する情報の記録または再生時における回折効率の低下も良好に抑えることができる。従って、本発明によれば、微小な波長変化の影響を受けることなく、情報の記録または再生に好適なスポットを対象となる光ディスクの記録面上に形成することができる。
請求項2に記載の光ピックアップ光学系によれば、第一のレーザー光が入射した場合に、第一の光ディスクの記録面上に所望のスポット径を得るための光学素子の入射側の面での有効光束径が、第二のレーザー光が入射した場合に、第二の光ディスクの記録面上に所望のスポット径を得るための光学素子の入射側の面での有効光束径より大きくなるように設定した場合、位相シフト面は、第一の領域の外側に、光学素子および対物レンズを透過した第一のレーザー光の収束には寄与し、光学素子および対物レンズを透過した第二のレーザー光の収束には寄与しない第二の領域を有することが望ましい。この場合、該第二の領域は、隣接しあう屈折面間の境界において、内側に位置する屈折面を基準にした場合に、第一のレーザー光に対する光路長付加量が第一の領域とは異なるような段差が形成される。
上記のような第二の領域を設ける場合、第一のレーザー光に対する光路長付加量は略1波長分、もしくは略−1波長分であることが好ましい(請求項3)。
また、請求項4に記載の光ピックアップ光学系によれば、第二のレーザー光が入射した場合に、第二の光ディスクの記録面上に所望のスポット径を得るための光学素子の入射側の面での有効光束径が、第一のレーザー光が入射した場合に、第一の光ディスクの記録面上に所望のスポット径を得るための光学素子の入射側の面での有効光束径より大きくなるよう設定した場合、位相シフト面は、第一の領域の外側に、光学素子および対物レンズを透過した第二のレーザー光の収束には寄与し、光学素子および対物レンズを透過した第一のレーザー光の収束には寄与しない第二の領域を有することが望ましい。この場合、第二の領域は、隣接しあう屈折面間の境界において、内側に位置する屈折面を基準にした場合に、第二のレーザー光に対する光路長付加量が第一の領域とは異なるような段差が形成される。
上記のような第二の領域を設ける場合、第二の領域の段差は、第二のレーザー光に対する光路長付加量が略1波長分、もしくは略−1波長分とであることが好ましい(請求項5)。
以上のように、有効光束径の大小に応じて、第一の領域の外側にさらに所定の光路長差を与える段差を持つ第二の領域を設けることにより、いずれのレーザー光を使用する時でも、各光ディスクの記録面上において良好なスポットを形成することができる。
なお、光ピックアップ光学系を構成する対物レンズと光学素子を同一の保持部材によって保持されることにより、両者の相対的な位置ずれを有効に回避して性能劣化を防ぐことができる(請求項6)。
また、請求項1から請求項6のいずれかに記載の光ピックアップ光学系は、第一のレーザー光の波長をλ1、第二のレーザー光の波長をλ2、波長λ1に対する対物レンズの屈折率をn1、第二の波長λ2に対する対物レンズの屈折率をn2、とすると、以下の式(1)、
0.55<(λ1/(n1-1))/(λ2/(n2-1))<0.65 ・・・(1)
を満たすような少なくとも二種類の光束を照射する光源を備える光ピックアップ装置に搭載される(請求項7)。このような光ピックアップ装置は、規格の異なる二種類の光ディスクのいずれに対して情報の記録または再生を行うことができる。条件式(1)の上限以上になると、DVD使用時における光の利用効率が低下してしまい好ましくない。下限以下になると、BDもしくはHD DVD使用時における光の利用効率が低下してしまい好ましくない。
また、本発明に係る対物レンズは、規格の異なる少なくとも二種類の光ディスクに対して波長の異なる第一および第二のレーザー光を使い分けることにより、それぞれの光ディスクに対する情報の記録または再生が可能な光ピックアップ装置に搭載される対物レンズであって、第一のレーザー光を用いて情報の記録または再生が行われる第一の光ディスクの保護層厚をt1、第一のレーザー光よりも長い波長を持つ第二のレーザー光を用いて情報の記録または再生が行われる第二の光ディスクの保護層厚をt2とすると、t1およびt2は以下の関係、
t1≦t2
を満たし、
対物レンズの、第一の光ディスクに対する情報の記録または再生時に必要な開口数をNA1、第二の光ディスクに対する情報の記録または再生時に必要な開口数をNA2、とすると、
NA1≧NA2
であり、
対物レンズは、少なくとも1面に位相シフト構造を有し、該位相シフト構造は、第一のレーザー光を第一の光ディスクの記録面上に収束させ、かつ第二のレーザー光を第二の光ディスクの記録面上に収束させる第一の領域を有し、第一の領域は、第一のレーザー光に対する光路長付加量が略2波長分となるような段差が形成される輪帯群と、輪帯群の外側に位置し、内側に位置する屈折面を基準にした場合における第一のレーザー光に対する光路長付加量が輪帯群を構成する段差とは反対方向に略3波長分となるような戻り段差部と、からなる輪帯構造を少なくとも一つ有することを特徴とする。
請求項9に記載の対物レンズによれば、第一のレーザー光が入射する場合の対物レンズの入射側の面での有効光束径が、第二のレーザー光が入射する場合の対物レンズの入射側の面での有効光束径より大きくなるよう設定した場合、上記光ピックアップ光学系における位相シフト面と同様に、上記位相シフト構造は、第一の領域の外側に、第一のレーザー光のみを収束させて第二のレーザー光の収束には寄与しない第二の領域を有することが望ましい。そして、該第二の領域では、隣接しあう屈折面間の境界において、内側に位置する屈折面を基準にした場合に、第一のレーザー光に対する光路長付加量は、第一の領域とは異なる段差が形成される。
該位相シフト構造の第二の領域において、第一のレーザー光に対する光路長付加量が略1波長分、もしくは略−1波長分となるように形成されることが好ましい(請求項10)。
また、第二のレーザー光が入射する場合の対物レンズの入射側の面での有効光束径が、第一のレーザー光が入射する場合の対物レンズの入射側の面での有効光束径より大きくなるよう設定した場合、位相シフト構造は、第一の領域の外側に、第二のレーザー光のみを収束させて第一のレーザー光の収束には寄与しない第二の領域を有することが望ましい。該第二の領域では、隣接しあう屈折面間の境界において、内側に位置する屈折面を基準にした場合に、第二のレーザー光に対する光路長付加量は、第一の領域とは異なる段差が形成される(請求項11)。
上記位相シフト構造の第二の領域において、光路長付加量は略1波長分、もしくは略−1波長分となるように形成されることが好ましい(請求項12)。
また、請求項8から請求項12のいずれかに記載の対物レンズは、第一のレーザー光の波長をλ1、第二のレーザー光の波長をλ2、波長λ1に対する対物レンズの屈折率をn1、第二の波長λ2に対する対物レンズの屈折率をn2、とすると、以下の式(1)、
0.55<(λ1/(n1-1))/(λ2/(n2-1))<0.65 ・・・(1)
を満たすような少なくとも二種類の光束を照射する光源を備える光ピックアップ装置に搭載される(請求項13)。このような光ピックアップ装置は、規格の異なる少なくとも二種類の光ディスクのいずれに対しても情報の記録または再生を行うことができる。
以上のように、本発明によれば、光学素子の一面、あるいは対物レンズの一面を上述したような特徴を持つ段差構造として形成することにより、情報の記録または再生時に使用されるレーザー光の設計波長からのずれに起因する球面収差の変化を小さく抑えることができる。これは、特に記録密度が高く収差に対する許容度が小さい新規格の光ディスク使用時に非常に効果的である。同時に、該段差構造は、回折効率の低下を低減する効果も奏する。従って第一と第二のいずれの光ディスク使用時であっても、各光ディスクの記録面上に情報の記録または再生に良好なスポットを形成することができる。
以下、本発明に係る光ピックアップ光学系10を搭載する光ピックアップ装置100や本発明に係る対物レンズ20を搭載する光ピックアップ装置200の実施形態を説明する。光ピックアップ装置100、200は、記録密度が異なる第一と第二の光ディスクD1、D2に対して互換性を有する光情報記録再生装置に搭載される。なお、どの光ディスクも情報の記録または再生時は、図示しないターンテーブル上に載置され回転駆動される。
各光情報記録再生装置により情報の記録または再生が行われる光ディスクD1、D2は、各保護層厚をt1、t2とすると、以下の関係を有している。
t1≦t2
また、各光ディスクD1、D2のそれぞれに対して情報の記録または再生を行う場合、記録密度の違いに対応したビームスポットが得られるように、必要とされるNAの値を変化させる必要がある。ここで、各光ディスクD1、D2に対する情報の記録または再生時に必要とされる最適な設計開口数を、それぞれNA1、NA2とすると、各NAには以下のような関係がある。
NA1≧NA2
つまり、記録密度がより高い第一の光ディスクD1に対する情報の記録または再生時には、より小径なスポットの形成が要求されるため、必要なNAが高くなる。
具体的な例としては、第一の光ディスクD1は、DVDよりも高容量の情報記録が可能な新規格の光ディスク、例えばBDやHD DVDを想定する。また、第二の光ディスクは、既存の光ディスクにおいて比較的記録密度が高い光ディスク、例えばDVDを想定する。
上記のように記録密度が異なる各光ディスクD1、D2を使用する場合、各記録密度に対応したビームスポットの径が得られるように、それぞれ異なる波長のレーザー光が用いられる。具体的には、第一の光ディスクD1に対して情報の記録または再生を行う際には、第一の光ディスクD1の記録面上においてより小径のビームスポットを形成するために、最も短い設計波長(第一の波長)であるレーザー光(以下、第一のレーザー光という)が光源から照射される。第一の波長としては、例えば400nm台の波長が選択される。そして第二の光ディスクD2に対して情報の記録または再生を行う際には、第一の光ディスクD1の記録面上において形成されるスポットよりは大きな径のスポットが第二の光ディスクD2の記録面上に形成されるように、第一のレーザー光より長い設計波長(第二の波長)であるレーザー光(以下、第二のレーザー光という)が光源から照射される。第二の波長としては、例えば650nm台の波長が選択される。
図1は、光ピックアップ光学系10を搭載する光ピックアップ装置100の概略構成および光ディスクD1、D2を示す図である。光ピックアップ装置100は、第一のレーザー光を照射する光源1A、第二のレーザー光を照射する光源2A、コリメートレンズ1B、2B、ビームスプリッタ3、光ピックアップ光学系10、ハーフミラー4、受光部5を有する。図1では、第一のレーザー光を実線で示し、第二のレーザー光を点線で示す。
第一の光ディスクD1使用時に光源1Aから照射される第一のレーザー光は、ハーフミラー4で偏向され、コリメートレンズ1Bを介して平行光束に変換された後、ビームスプリッタ3を介して光ピックアップ光学系10に入射する。そして、光ピックアップ光学系10から射出された第一のレーザー光は、ターンテーブル上に載置された第一の光ディスクD1の記録面上に収束する。
第二の光ディスクD2使用時に光源2Aから照射される第二のレーザー光は、コリメートレンズ2Bを介して平行光束に変換された後、ビームスプリッタ3を介して光ピックアップ光学系10に入射する。そして、光ピックアップ光学系10から射出された第二のレーザー光は、ターンテーブル上に載置された第二の光ディスクD2の記録面上に収束する。
なお、上記の通り、光ピックアップ光学系10に入射する各レーザー光を平行光束にすることにより、光ピックアップ光学系10をトラッキングシフトした場合においてコマ収差等の軸外収差の発生を有効に防止することができる。
各光ディスクD1、D2の記録面で反射した各レーザー光は、ハーフミラー4を透過し、受光部5によって受光される。
図2は、光ピックアップ光学系10を拡大して示した図である。光ピックアップ光学系10は、位相シフト素子11および対物レンズ12を有する。位相シフト素子11と対物レンズ12は、レンズホルダ13によって保持されている。このように、光ピックアップ光学系10を複数の光学素子から構成する場合、各素子をレンズホルダ13のように同一の保持部材によって保持することにより、各素子の相対的な位置ずれによる性能劣化を防ぎ、フォーカシング時の駆動制御を容易にしている。
位相シフト素子11は、光源側から順に第一面11aと第二面11bを有する。第一面11aは以下に詳述するような段差が連続して形成される位相シフト構造を持つ位相シフト面である。より具体的には、第一面11aは、光軸AXの周囲にある内側領域(第一の領域)11aiと内側領域11aiの外側に形成される外側領域(第二の領域)11aoを有する。内側領域11aiと外側領域11aoは、互いに異なる位相シフト構造を有する。
なお、本実施形態では、第二面11bは、平面として形成されている。しかし、本発明に係る光ピックアップ光学系において、位相シフト素子11の第二面11bも第一面11aと同様に位相シフト面として構成することも可能である。
以下、第一面11aの内側領域11aiが有する位相シフト構造について詳説する。内側領域11aiの位相シフト構造は、複数の段差を有し、入射光束に対して第一の方向(例えば光ピックアップ光学系10から各光ディスクに向かう方向)に位相をシフトさせる輪帯群と、第一の方向とは逆の第二の方向(例えば光ピックアップ光学系10から光源に向かう方向)に位相をシフトさせる戻り段差部と、から構成される輪帯構造を有している。図3は、該輪帯構造を説明するための模式図である。なお以下の位相シフト構造の説明で用いる光路長付加量は、第一のレーザー光の設計波長(第一の波長)を基準にしている。
図3に示すように、光軸AXから第i番目に位置する輪帯構造(第i輪帯構造)に着目した場合、輪帯群を構成する各段差における光路長付加量はすべて同一に形成される。また、第i輪帯構造を構成する第i輪帯群における光路長付加量をX(i)、第i輪帯構造を構成する第i戻り段差部における光路長付加量をY(i)とすると、第i輪帯構造は、以下の条件(α)を満たすように形成される。
-5<|X(i)|-|Y(i)|<4 ・・・(α)
ここで、光軸近傍の輪帯を基準とした場合において、第i輪帯群における最も外側の輪帯での光路長付加量をφie(単位:λ)、第i戻り段差部における光路長付加量をφim(単位:λ)とすると、上記条件(α)は、以下の条件(2)として表される。
-5<|φie-φ(i-1)m|-|φim-φie|<4 ・・・(2)
但し、i=1の時、φ(i−1)=0とする。
条件(2)は、特に第一の光ディスクD1に対する情報の記録または再生時に第一のレーザー光の波長が第一の波長から微小に変化することによって生じる球面収差の変化を小さく抑えるための条件である。条件(2)の値が下限以下になると、各光ディスクに対する情報の記録または再生時に用いられるレーザー光の波長が設計波長から微小に変化することにより変化する球面収差に対する補正が過剰になってしまう。また、条件(2)の値が上限以上になると、該球面収差に対する補正が不足してしまう。よっていずれの状態も高精度な情報の記録または再生には好ましくない。
また、第二の光ディスクD2に対する情報の記録または再生時、第二のレーザー光の回折効率の低下を防ぎ、第二の光ディスクD2の記録面上に良好なスポットが形成されるために、条件(2)における|φim-φie|、つまり光路長付加量Y(i)の絶対値は、以下の条件(3)を満たすように構成される。
2.7<|φim-φie|<3.3 ・・・(3)
次いで外側領域11aoが有する位相シフト構造について説明する。外側領域11aoは、第一の光ディスクD1使用時と第二の光ディスクD2使用時で必要とされる有効光束径が異なる場合に設けられる。
第一の光ディスクD1使用時に必要とされる有効光束径が第二の光ディスクD2使用時に必要とされる有効光束径よりも大きい場合、外側領域11aoは、該領域11aoを透過する第一のレーザー光が第一の光ディスクD1の記録面上で良好に収束し、該領域11aoを透過する第二のレーザー光に対しては第二の光ディスクD2の記録面上での収束に寄与しないような位相シフト構造を有するように構成される。
具体的には、外側領域11aoの位相シフト構造は、少なくとも一つ以上の段差によって区切られた複数の輪帯から構成されている。そして、各段差での第一のレーザー光に対する光路長付加量が内側領域11ai(より具体的には、内側領域11aiの各輪帯群における各段差および戻り段差部)で付与される第一のレーザー光に対する光路長付加量と異なるように構成される。
なお、第二の光ディスクD2使用時に必要とされる有効光束径が第一の光ディスクD1使用時に必要とされる有効光束径よりも大きい場合には、外側領域11aoは、該領域11aoを透過する第二のレーザー光が第二の光ディスクD2の記録面上で良好に収束し、該領域11aoを透過する第一のレーザー光に対しては第一の光ディスクD1の記録面上での収束に寄与しないような位相シフト構造を有するように構成される。この場合、外側領域11aoの位相シフト構造は、第二のレーザー光に対する光路長付加量が内側領域11aiで付与される第二のレーザー光に対する光路長付加量と異なるように構成される。
次いで光ピックアップ装置200の説明をする。図4は、対物レンズ20を搭載する光ピックアップ装置200の概略構成および光ディスクD1、D2を示す図である。図4において、光ピックアップ装置100と同一の構成は図1と同一の符号を付し、ここでの説明は省略する。
図5は、対物レンズ20を拡大して示した図である。対物レンズ20は、光源側から順に第一面20a、第二面20bを有する。第一面20aは、上述した位相シフト素子11における第一面11aと同様に位相シフト面として構成される。そして、第一面20aは、互いに異なる位相シフト構造を持つ内側領域20aiと外側領域20aoに分けられる。各領域20ai、20aoが有する位相シフト構造は、上述した各領域11ai、11aoと同一であるため、ここでの説明は省略する。
なお以上説明した光ピックアップ光学系10や対物レンズ20が搭載される、各光ピックアップ装置100、200は、第一のレーザー光と第二のレーザー光の波長について、光ピックアップ光学系10の光学素子11や対物レンズ20の屈折率を考慮しつつ比較した場合、以下の条件(1)を満たすように設計される。
0.55<(λ1/(n1-1))/(λ2/(n2-1))<0.65 ・・・(1)
但し、λ1は第一の波長を、
λ2は第二の波長を、
n1は第一の波長λ1に対する光ピックアップ光学系10の光学素子11あるいは対物レンズ20の屈折率を、
n2は第二の波長λ2に対する光ピックアップ光学系10の光学素子11あるいは対物レンズ20の屈折率を、それぞれ表す。
上記の光ピックアップ光学系10や対物レンズ20を搭載するとともに、条件(1)を満たすように構成された光ピックアップ装置は、各光ディスク使用時におけるレーザー光の回折効率を高めるとともに、特に第一の光ディスク使用時に波長が第一の波長から微小に変化することによる球面収差の変化を小さく抑えるという効果をより顕著に得ることができる。
以上説明した実施形態に基づく具体的な実施例を3例提示する。実施例1は、光ピックアップ装置100の具体的実施例、実施例2および3は、光ピックアップ200の具体的実施例である。従って、各実施例の光ピックアップ装置100、200の概略構成は図1や図4に示される。実施例1において、第一の光ディスクD1の保護層厚t1が0.1mm、第二の光ディスクD2の保護層厚t2が0.6mm、実施例2および3においては第一の光ディスクD1および第二の光ディスクD2は、いずれも保護層厚t1、t2が0.6mmと想定する。
実施例1の光ピックアップ装置100に搭載される光ピックアップ光学系10の具体的な仕様は、表1に示されている。
表1中、倍率の値が示すように、実施例1の光ピックアップ装置100では、第一、第二いずれの光ディスクD1、D2使用時であっても、使用されるレーザー光は平行光束として光ピックアップ光学系10に入射する。表1に示す光ピックアップ光学系10を備える光ピックアップ装置100の各光ディスクD1、D2使用時における具体的数値構成は、それぞれ表2、表3に示される。但し、表2、表3では、説明の便宜上、光源と光ピックアップ光学系10の間に配設される部材および各光ディスクにおけるレーベル面に関する数値構成を省略している。なお各表における表記Eは、10を基数、Eの右の数字を指数とする累乗を表している。後述する各実施例2、3で示す各表においても同様である。
各表中、rはレンズ各面の曲率半径(単位:mm)、dは情報の記録または再生時におけるレンズ厚またはレンズ間隔(単位:mm)、n(Xnm)は波長Xnmでの屈折率である。また、面番号1が位相シフト素子11の第一面11a、面番号2が該素子11の第二面11bを表す。面番号3、4が対物レンズ12の各面を表し、面番号5、6は各光ディスクにおける保護層及び記録面を表す。
表1〜表3によれば、実施例1の光ピックアップ装置100は、(λ1/(n1−1))/(λ2/(n2−1))=0.592であり、条件(1)を満たすように構成されている。
実施例1の光ピックアップ装置100は、第一のレーザー光が入射した場合に、第一の光ディスクの記録面上に所望のスポット径を得るための位相シフト素子11の入射側の面での有効光束径が、第二のレーザー光が入射した場合に、第二の光ディスクの記録面上に所望のスポット径を得るための該入射側の面での有効光束径よりも大きくなるように設計される。そのため、第一面11a(面番号1)は、互いに異なる位相シフト構造を持つ内側領域11aiと外側領域11aoを持つ。なお、第一面11aにおける各領域の範囲を光軸AXからの高さhで表すと、
内側領域11ai…h≦1.35、
外側領域11ao…1.35<h<1.70、となる。
位相シフト素子11の第一面11a、および対物レンズ12の両面は非球面である。各非球面の形状は光軸からの高さがhとなる非球面上の座標点の該非球面の光軸上での接平面からの距離(サグ量)をX(h)、非球面の光軸上での曲率(1/r)をC、円錐係数をK、4次、6次、8次、10次、12次…の非球面係数をA
4、A
6、A
8、A
10、A
12、…として、数1で示す式で表される。
各非球面の形状を規定する円錐係数と非球面係数は、表4に示される。表4に示すように、第一面11aにおいて、内側領域11ai、外側領域11aoの非球面形状はそれぞれ異なる。
位相シフト素子11の第一面11aに形成される位相シフト構造は具体的には表5に示される。表5は、第一面11aに形成される輪帯の範囲と、第一のレーザー光および第二レーザー光が各輪帯を透過することにより与えられる光路長付加量を示した表である。各輪帯の範囲は、光軸AXからの高さhmin〜hmaxで表している。
表5に示すように、内側領域11aiの位相シフト構造は、第一から第八までの8つの輪帯群と、各輪帯群の間に設けられた第一から第七の7つの戻り段差部からなる。換言すれば、内側領域11aiの位相シフト構造は、輪帯群と戻り段差部からなる輪帯構造を第一から第七まで7つ有する。各輪帯群は第一輪帯群を除きいずれも3つの輪帯から構成されている。そして、各輪帯は第一のレーザー光に対する光路長付加量が2波長分(または−2波長分)となるように形成される。また各戻り段差部は、第一のレーザー光に対する光路長付加量が直前の輪帯(例えば第一戻り段差部に着目した場合、輪帯番号3の輪帯)の光路長付加量と反対方向に3波長分(または−3波長分)となるように形成される。表6に各輪帯構造および第八輪帯群に関する条件(2)と条件(3)の値を示す。表6に示すように、第一から第七の全ての輪帯構造が、条件(2)と条件(3)を満足していることが分かる。
また、表5に示すように、外側領域11aoの位相シフト構造は、複数の輪帯からなる。各輪帯は、第一のレーザー光に対する光路長付加量が1波長分となるように形成される。
このように形成することにより、外側領域11aoの位相シフト構造は、光学素子および対物レンズを透過した第一のレーザー光の収束にのみ寄与し、第二のレーザー光の収束には寄与しない、つまり第二のレーザー光に対する開口制限機能を有することができる。
以上説明した実施例1の位相シフト素子11の第一面10aに設けられる位相シフト構造を回折構造として捉えると、該回折構造は、以下の光路差関数φ(h)により表すことができる。
光路差関数φ(h)は、回折面(第一面10a)上での光軸からの高さhの点において、回折構造により回折されなかった場合の仮想の光線と、回折構造により回折された光線との光路長差を示す。P2、P4、P6、…はそれぞれ二次、四次、六次、…の係数である。該回折構造を規定する光路差関数係数P2、…は、表7に示される。mは各領域11ai、11aoにおいて各レーザー光の回折効率が最大となる回折次数を表す。上記の通り、回折次数mは、使用するレーザー光ごと、および回折構造が設けられる領域ごとに異なる値が設定されており、詳しくは表8に示される。表8に示すように、内側領域11aiは、第一のレーザー光および第二のレーザー光の収束に寄与するような回折構造になっている。これに対し、外側領域11aoは、光学素子および対物レンズを透過した第一のレーザー光の収束にのみ寄与する、つまり入射側の面での有効光束径が小さい第二のレーザー光に対する開口制限機能を持つような回折構造になっている。
図6(A)は、実施例1の光ピックアップ装置100において、設計波長(405nm)よりも+5nm変化した第一のレーザー光が第一の光ディスクD1の記録面上で形成するスポットの強度とスポット中心からの距離との関係を表すグラフである。図6(B)は、実施例1の光ピックアップ装置100において、設計波長(660nm)の第二のレーザー光が第二の光ディスクD2の記録面上で形成するスポットの強度とスポット中心からの距離との関係を表すグラフである。図7(A)は、戻り段差部を持たない、換言すると、輪帯群だけで構成された輪帯構造を持つ光ピックアップ光学系を備える従前の光ピックアップ装置(以下、比較例1の光ピックアップ装置という)において、設計波長よりも+5nm変化した第一のレーザー光が第一の光ディスクD1の記録面上で形成するスポットの強度とスポット中心からの距離との関係を表すグラフである。図7(B)は、比較例1の光ピックアップ装置において、設計波長の第二のレーザー光が第二の光ディスクD2の記録面上で形成するスポットの強度とスポット中心からの距離との関係を表すグラフである。各グラフにおいて、縦軸がスポット中心の強度を100としたときの相対強度を、横軸がスポット中心からの距離(単位:mm)を、それぞれ示す。以下に説明する実施例2、3に関連して示すグラフも同一である。
図6(A)と図7(A)を比較すると、実施例1の光ピックアップ装置100の方が、スポットの周囲に発生するいわゆるサイドローブの強度を良好に低減して情報の記録または再生に寄与する該スポット中央部の強度を高めていることが分かる。ここで、第一の光ディスク使用時に略無収差となる光ピックアップ光学系を備える光情報記録再生装置において、設計波長の第一のレーザー光が第一の光ディスクD1の記録面上で形成されるスポット径(強度が13.5%でのスポット径をいう。以下同じ。)は0.397(μm)である。図7(A)に示すスポット径は、0.359(μm)であるのに対し、図6(A)に示すスポット径は0.394(μm)と設計波長時のスポット径と略同一である。また、設計波長の第一のレーザー光が無収差で第一の光ディスクD1の記録面上に収束した場合の光の回折効率を100%と仮定した場合に、図7(A)に示すスポットの回折効率が54.1%であるのに対して、図6(A)に示すスポットは86.3%とかなり改善されている。
また、図6(B)と図7(B)を比較すると、実施例1の光ピックアップ装置100と比較例1の光ピックアップ装置は、サイドローブも含めたスポット形状や強度が概ね近似していることが分かる。ここで、第二の光ディスク使用時に略無収差となる光ピックアップ光学系を備える光情報記録再生装置において、設計波長の第二のレーザー光が第二の光ディスクD2の記録面上で形成されるスポット径は0.840(μm)である。図7(B)に示すスポット径は0.842(μm)であるのに対し、図6(B)に示すスポットは0.840(μm)、つまり設計波長時のスポットと同一径である。また、設計波長の第二のレーザー光が無収差で第二の光ディスクD2の記録面上に収束した場合の光の回折効率を100%と仮定した場合に、図7(B)に示すスポットの回折効率は、86.9%であるに対して、図6(B)に示すスポットは83.5%と若干落ちるものの、十分使用可能な範囲内にある。
以上の比較より、実施例1の光ピックアップ装置100は、比較例1の装置に比べて、第一の光ディスクD1使用時に波長が微小に変化したことによる球面収差の変化を小さく抑え、高い光量をもって最適な径に極めて近いスポットを第一の光ディスクD1の記録面上に形成できる効果を有していることが分かる。また、実施例1の光ピックアップ装置100は、該効果を有しつつも、第二の光ディスクD2使用時に該光ディスクD2の記録面上で形成されるスポットを、比較例1の装置と略同様の状態に維持していることも分かる。つまり、実施例1の光ピックアップ装置100は、既存の第二の光ディスクに対して高精度での情報の記録または再生を保証しつつも、高密度で記録可能であるがために収差に対する許容度がより小さくなった第一の光ディスクD1に対する情報の記録または再生を、波長の変化の有無を問わず高い精度をもって実現することができる。
実施例2の光ピックアップ装置200に搭載される対物レンズ20の具体的な仕様は、表9に示されている。
表9中、倍率の値が示すように、実施例2の光ピックアップ装置200も実施例1と同様に、第一、第二いずれの光ディスクD1、D2使用時であっても、使用されるレーザー光は平行光束として対物レンズ20に入射する。表9に示す対物レンズ20を備える光ピックアップ装置200の各光ディスクD1、D2使用時における具体的数値構成は、それぞれ表10、表11に示される。
各表中、面番号1、2が対物レンズ20の第一面20a、第二面20bをそれぞれ表す。また、面番号3、4が各光ディスクにおける保護層及び記録面を表す。
表9〜表11によれば、実施例2の光ピックアップ装置200は、(λ1/(n1−1))/(λ2/(n2−1))=0.592であり、実施例1と同様に、条件(1)を満たすように構成されている。
実施例2の光ピックアップ装置200は、第一のレーザー光が入射した場合の対物レンズ20の入射側の面での有効光束径が、第二のレーザー光が入射した場合の該入射側の面での有効光束径よりも大きくなるように設計される。そのため、第一面20a(面番号1)は、互いに異なる位相シフト構造を持つ内側領域20aiと外側領域20aoを持つ。なお、第一面20aにおける各領域の範囲を光軸AXからの高さhで表すと、
内側領域20ai…h≦1.86、
外側領域20ao…1.86<h<1.95、となる。
対物レンズ20の両面は非球面として構成される。各非球面の形状を規定する円錐係数と非球面係数は、表12に示される。表12に示すように、第一面20aにおいて、内側領域20ai、外側領域20aoの非球面形状はそれぞれ異なる。
対物レンズ20の第一面20aに形成される位相シフト構造は具体的には表13に示される。表13は、第一面20aに形成される輪帯の範囲と、第一のレーザー光および第二レーザー光が各輪帯を透過することにより与えられる光路長付加量を示した表である。各輪帯の範囲は、光軸AXからの高さhmin〜hmaxで表している。
表13に示すように、内側領域20aiの位相シフト構造は、第一から第五までの5つの輪帯群と、各輪帯群の間に設けられた第一から第四の4つの戻り段差部からなる。換言すれば、内側領域20aiの位相シフト構造は、輪帯群と戻り段差部からなる輪帯構造を第一から第四まで4つ有する。各輪帯群は第一輪帯群を除きいずれも2つの輪帯から構成されている。そして、各輪帯は第一のレーザー光に対する光路長付加量が2波長分となるように形成される。また各戻り段差部は、第一のレーザー光に対する光路長付加量が直前の輪帯(例えば第一戻り段差部に着目した場合、輪帯番号2の輪帯)の光路長付加量と反対方向に3波長分となるように形成される。表14に各輪帯構造および第五輪帯群に関する条件(2)と条件(3)の値を示す。表14に示すように、第一から第四の全ての輪帯構造が、条件(2)と条件(3)を満足していることが分かる。
また、表13に示すように、外側領域20aoの位相シフト構造は、複数の輪帯からなる。各輪帯は、第一のレーザー光に対して光路長付加量が1波長分となるように形成される。
以上説明した対物レンズ20の第一面10aに設けられる位相シフト構造を回折構造として捉えた場合における光路差関数係数P2、…は、表15に示される。回折次数mは、表16に示される。表16に示すように、内側領域20aiは、第一のレーザー光および第二のレーザー光の収束に寄与するような回折構造になっている。これに対し、外側領域20aoは、第一のレーザー光の収束にのみ寄与する、つまり第二のレーザー光に対する開口制限機能を持つような回折構造になっている。
図8(A)は、実施例2の光ピックアップ装置200において、設計波長よりも+5nm変化した第一のレーザー光が第一の光ディスクD1の記録面上で形成するスポットの強度とスポット中心からの距離との関係を表すグラフである。図8(B)は、実施例2の光ピックアップ装置200において、設計波長の第二のレーザー光が第二の光ディスクD2の記録面上で形成するスポットの強度とスポット中心からの距離との関係を表すグラフである。図9(A)は、戻り段差部を持たない、換言すると、輪帯群だけで構成された輪帯構造を持つ対物レンズを備える以外は、実施例2と同一構成を採る従前の光ピックアップ装置(以下、比較例2の光ピックアップ装置という)において、設計波長よりも+5nm変化した第一のレーザー光が第一の光ディスクD1の記録面上で形成するスポットの強度とスポット中心からの距離との関係を表すグラフである。図9(B)は、比較例2の光ピックアップ装置において、設計波長の第二のレーザー光が第二の光ディスクD2の記録面上で形成するスポットの強度とスポット中心からの距離との関係を表すグラフである。
図8(A)と図9(A)を比較すると、実施例2の光ピックアップ装置200の方が、スポットの周囲に発生するいわゆるサイドローブの強度を良好に低減して情報の記録または再生に寄与する該スポット中央部の強度を高めていることが分かる。ここで、第一の光ディスク使用時に略無収差となる対物レンズを備える以外は、実施例2と同一構成を採る第一の光ディスク専用の光情報記録再生装置において、設計波長の第一のレーザー光が第一の光ディスクD1の記録面上で形成されるであろうスポットの径は0.520(μm)である。図9(A)に示すスポット径は0.522(μm)、図8(A)に示すスポット径は、0.524(μm)と設計波長時のスポットと略同一である。また、設計波長の第一のレーザー光が無収差で第一の光ディスクD1の記録面上に収束した場合の光の回折効率を100%と仮定した場合に、図9(A)に示すスポットの回折効率が85.4%であるのに対して、図8(A)に示すスポットは94.3%と改善されている。
また、図8(B)と図9(B)を比較すると、実施例2の光ピックアップ装置200と比較例2の光ピックアップ装置は、サイドローブも含めたスポット形状や強度が概ね近似していることが分かる。ここで、第二の光ディスク使用時に略無収差となる対物レンズを備える以外は、実施例2と同一構成を採る第二の光ディスク専用の光情報記録再生装置において、設計波長の第二のレーザー光が第二の光ディスクD2の記録面上で形成されるであろうスポットの径は0.918(μm)である。図9(B)に示すスポット径は、0.917(μm)、図8(A)に示すスポット径は0.916(μm)、と設計波長時と略同一である。また、設計波長の第二のレーザー光が無収差で第二の光ディスクD2の記録面上に収束した場合の光の回折効率を100%と仮定した場合に、図9(B)に示すスポットの回折効率は、91.7%であるのに対し、図8(B)に示すスポットは88.7%と若干落ちるものの、十分使用可能な範囲内にある。
以上の比較より、実施例2の光ピックアップ装置200は、比較例2の装置に比べて、第一の光ディスクD1使用時に波長が微小に変化したことによる球面収差の変化を小さく抑え、高い光量をもって最適な径に極めて近いスポットを第一の光ディスクD1の記録面上に形成できる効果を有していることが分かる。また、実施例2の光ピックアップ装置200は、該効果を有しつつも、第二の光ディスクD2使用時に該光ディスクD2の記録面上で形成されるスポットを、比較例2の装置と略同様の状態に維持していることも分かる。つまり、実施例2の光ピックアップ装置200は、既存の第二の光ディスクに対して高精度での情報の記録または再生を保証しつつも、高密度で記録可能であるがために収差に対する許容度がより小さくなった第一の光ディスクD1に対する情報の記録または再生を、波長の変化の有無を問わず高い精度をもって実現することができる。
実施例3の光ピックアップ装置200に搭載される対物レンズ20の具体的な仕様は、表17に示されている。
表17中、倍率の値が示すように、実施例3の光ピックアップ装置200も上記実施例2と同様に、第一、第二いずれの光ディスクD1、D2使用時であっても、使用されるレーザー光は平行光束として対物レンズ20に入射する。表17に示す対物レンズ20を備える光ピックアップ装置200の各光ディスクD1、D2使用時における具体的数値構成は、それぞれ表18、表19に示される。なお、表18、19に示す面番号1〜4は、上記実施例2で説明した面と同一の面を表す。
表17〜表19によれば、実施例3の光ピックアップ装置200も、(λ1/(n1−1))/(λ2/(n2−1))=0.592であり、実施例1と同様に、条件(1)を満たすように構成されている。
実施例3の光ピックアップ装置200は、上記の各実施例とは異なり、第二のレーザー光が入射した場合の対物レンズ20の入射側の面での有効光束径の方が、第一のレーザー光が入射した場合の該入射側の面での有効光束径よりも大きくなるように設計される。そのため、第一面20a(面番号1)は、互いに異なる位相シフト構造を持つ内側領域20aiと外側領域20aoを持つ。なお、第一面20aにおける各領域の範囲を光軸AXからの高さhで表すと、
内側領域20ai…h≦2.015、
外側領域20ao…2.015<h<2.080、となる。
対物レンズ20の両面は非球面として構成される。各非球面の形状を規定する円錐係数と非球面係数は、表20に示される。表20に示すように、第一面20aにおいて、内側領域20ai、外側領域20aoの非球面形状はそれぞれ異なる。
対物レンズ20の第一面20aに形成される位相シフト構造は具体的には表21に示される。表21は、第一面20aに形成される輪帯の範囲と、第一のレーザー光および第二レーザー光が各輪帯を透過することにより与えられる光路長付加量を示した表である。各輪帯の範囲は、光軸AXからの高さhmin〜hmaxで表している。
表21に示すように、内側領域20aiの位相シフト構造は、第一から第五までの5つの輪帯群と、各輪帯群の間に設けられた第一から第四の4つの戻り段差部からなる。換言すれば、内側領域20aiの位相シフト構造は、輪帯群と戻り段差部からなる輪帯構造を第一から第四まで4つ有する。各輪帯群は第一輪帯群を除きいずれも3つの輪帯から構成されている。そして、各輪帯は第一のレーザー光に対する光路長付加量が2波長分となるように形成される。また各戻り段差部は、第一のレーザー光に対する光路長付加量が直前の輪帯(例えば第一戻り段差部に着目した場合、輪帯番号3の輪帯)の光路長付加量と反対方向に3波長分となるように形成される。表22に各輪帯構造および第五輪帯群に関する条件(2)と条件(3)の値を示す。表22に示すように、第一から第四の全ての輪帯構造が、条件(2)と条件(3)を満足していることが分かる。
また、表21に示すように、外側領域20aoの位相シフト構造は、複数の輪帯からなる。各輪帯は、第二のレーザー光に対して光路長付加量が1波長分となるように形成される。
以上説明した対物レンズ20の第一面10aに設けられる位相シフト構造を回折構造として捉えた場合における光路差関数係数P2、…は、表23に示される。回折次数mは、表24に示される。表24に示すように、内側領域20aiは、第一のレーザー光および第二のレーザー光の収束に寄与するような回折構造になっている。これに対し、外側領域20aoは、第二のレーザー光の収束にのみ寄与する、つまり入射側の面での有効光束径が小さい第一のレーザー光に対する開口制限機能を持つような回折構造になっている。
図10(A)は、実施例3の光ピックアップ装置200において、設計波長よりも+5nm変化した第一のレーザー光が第一の光ディスクD1の記録面上で形成するスポットの強度とスポット中心からの距離との関係を表すグラフである。図10(B)は、実施例3の光ピックアップ装置200において、設計波長の第二のレーザー光が第二の光ディスクD2の記録面上で形成するスポットの強度とスポット中心からの距離との関係を表すグラフである。図11(A)は、戻り段差部を持たない、換言すると、輪帯群だけで構成された輪帯構造を持つ対物レンズを備える以外は、実施例3と同一構成を採る従前の光ピックアップ装置(以下、比較例3の光ピックアップ装置という)において、設計波長よりも+5nm変化した第一のレーザー光が第一の光ディスクD1の記録面上で形成するスポットの強度とスポット中心からの距離との関係を表すグラフである。図11(B)は、比較例3の光ピックアップ装置において、設計波長の第二のレーザー光が第二の光ディスクD2の記録面上で形成するスポットの強度とスポット中心からの距離との関係を表すグラフである。
図10(A)と図11(A)を比較すると、実施例3の光ピックアップ装置200の方が、スポットの周囲に発生するいわゆるサイドローブの強度を良好に低減して情報の記録または再生に寄与する該スポット中央部の強度を高めていることが分かる。ここで、第一の光ディスク使用時に略無収差となる対物レンズを備える以外は、実施例3と同一構成を採る第一の光ディスク専用の光情報記録再生装置において、設計波長の第一のレーザー光が第一の光ディスクD1の記録面上で形成されるであろうスポットの径は0.521(μm)である。図11(A)に示すスポット径は0.534(μm)であるのに対し、図10(A)に示すスポット径は、0.530(μm)と、実施例3の光ピックアップ装置200の方がより好適なスポット形状に近い。また、設計波長の第一のレーザー光が無収差で第一の光ディスクD1の記録面上に収束した場合の光の回折効率を100%と仮定した場合に、図11(A)に示すスポットの回折効率は、82.0%であるのに対し、図10(A)に示すスポットは95.6%と改善されている。
また、図10(B)と図11(B)を比較すると、実施例3の光ピックアップ装置200と比較例3の光ピックアップ装置は、サイドローブも含めたスポット形状や強度が概ね近似していることが分かる。ここで、第二の光ディスク使用時に略無収差となる対物レンズを備える以外は実施例3と同一構成を採る第二の光ディスク専用の光情報記録再生装置において、設計波長の第二のレーザー光が第二の光ディスクD2の記録面上で形成されるであろうスポットの径は0.851(μm)である。図11(B)に示すスポット径は、0.861(μm)であるのに対し、図10(B)に示すスポット径は0.853(μm)と設計波長時のスポット径と略同一である。また、設計波長の第二のレーザー光が無収差で第二の光ディスクD2の記録面上に収束した場合の光の回折効率を100%と仮定した場合に、図11(B)に示すスポットの回折効率は、87.7%であるのに対し、図10(B)に示すスポットは86.9%と若干落ちるものの、十分使用可能な範囲内にある。
以上の比較より、実施例3の光ピックアップ装置200は、比較例3の装置に比べて、第一の光ディスクD1使用時に波長が微小に変化したことによる球面収差の変化を小さく抑え、高い光量をもって最適な径に極めて近いスポットを第一の光ディスクD1の記録面上に形成できる効果を有していることが分かる。また、実施例3の光ピックアップ装置200は、該効果を有しつつも、第二の光ディスクD2使用時に該光ディスクD2の記録面上で形成されるスポットを、比較例3の装置と略同様の状態に維持していることも分かる。つまり、実施例3の光ピックアップ装置200は、既存の第二の光ディスクに対して高精度での情報の記録または再生を保証しつつも、高密度で記録可能であるがために収差に対する許容度がより小さくなった第一の光ディスクD1に対する情報の記録または再生を、波長の変化の有無を問わず高い精度をもって実現することができる。
以上が本発明の実施例である。なお、上記の各実施例はあくまでも本発明に係る光ピックアップ光学系や対物レンズを備える光ピックアップ装置の一例である。つまり本発明は、各実施例の具体的数値構成に限定されるものではない。例えば位相シフト構造を設ける面は、位相シフト素子や対物レンズの第一面ではなく、第二面であってもよい。また、第一面と第二面の両方に回折構造を設けても良い。
なお、図3において、輪帯構造は複数示した。また各実施例でも内側領域11ai、20aiは複数の輪帯構造を有していると説明した。しかし本発明は、光ピックアップ光学系の位相シフト素子および対物レンズの各内側領域が有する位相シフト構造において、輪帯構造は、少なくとも一つあれば波長の微小な変化に対応した収差の変化を抑制する効果は得られる。つまり該輪帯構造は、必ずしも複数形成する必要はない。
本発明の実施形態の光ピックアップ光学系を搭載する光ピックアップ装置の概略構成および各光ディスクを示す図である。
実施形態の光ピックアップ光学系を拡大して示す図である。
実施形態の輪帯構造を説明するための図である。
本発明の実施形態の対物レンズを搭載する光ピックアップ装置の概略構成および光ディスクを示す図である。
実施形態の対物レンズを拡大して示す図である。
図6(A)は、実施例1の装置において、設計波長よりも+5nm変化した第一のレーザー光が第一の光ディスクの記録面上で形成するスポットの強度とスポット中心からの距離との関係を表すグラフである。図6(B)は、実施例1の装置において、設計波長の第二のレーザー光が第二の光ディスクの記録面上で形成するスポットの強度とスポット中心からの距離との関係を表すグラフである。
図7(A)は、比較例1の装置において、設計波長よりも+5nm変化した第一のレーザー光が第一の光ディスクの記録面上で形成するスポットの強度とスポット中心からの距離との関係を表すグラフである。図7(B)は、比較例1の装置において、設計波長の第二のレーザー光が第二の光ディスクの記録面上で形成するスポットの強度とスポット中心からの距離との関係を表すグラフである。
図8(A)は、実施例2の装置において、設計波長よりも+5nm変化した第一のレーザー光が第一の光ディスクの記録面上で形成するスポットの強度とスポット中心からの距離との関係を表すグラフである。図8(B)は、実施例2の装置において、設計波長の第二のレーザー光が第二の光ディスクの記録面上で形成するスポットの強度とスポット中心からの距離との関係を表すグラフである。
図9(A)は、比較例2の装置において、設計波長よりも+5nm変化した第一のレーザー光が第一の光ディスクの記録面上で形成するスポットの強度とスポット中心からの距離との関係を表すグラフである。図9(B)は、比較例2の装置において、設計波長の第二のレーザー光が第二の光ディスクの記録面上で形成するスポットの強度とスポット中心からの距離との関係を表すグラフである。
図10(A)は、実施例3の装置において、設計波長よりも+5nm変化した第一のレーザー光が第一の光ディスクの記録面上で形成するスポットの強度とスポット中心からの距離との関係を表すグラフである。図10(B)は、実施例3の装置において、設計波長の第二のレーザー光が第二の光ディスクの記録面上で形成するスポットの強度とスポット中心からの距離との関係を表すグラフである。
図11(A)は、比較例3の装置において、設計波長よりも+5nm変化した第一のレーザー光が第一の光ディスクの記録面上で形成するスポットの強度とスポット中心からの距離との関係を表すグラフである。図11(B)は、比較例3の装置において、設計波長の第二のレーザー光が第二の光ディスクの記録面上で形成するスポットの強度とスポット中心からの距離との関係を表すグラフである。
符号の説明
10 光ピックアップ光学系
11 位相シフト素子
12 対物レンズ
20 対物レンズ
D1、D2 光ディスク
100、200 光ピックアップ装置