本発明の一実施形態によれば、制御部は、ストローク測定系の信頼性が低いと判定される場合にストップランプスイッチの状態を利用して運転者の制動要求の発生を判定する。制御部は、ストローク測定系にストップランプスイッチを併用して判定してもよいし、ストローク測定系に代えてストップランプスイッチを用いて判定してもよい。さらに制御部は、制動要求が発生したと判定した場合に、ペダルストロークに依存せずに目標減速度を演算してもよい。例えば、制御部は、制動要求発生からの経過時間に基づいて目標減速度を演算する。
ストロークセンサが正常であることを前提とすれば、制動要求判定においてストロークセンサ出力に他の出力を併用する必要性は低い。ストロークセンサ出力のほうが、より精度よく運転者のブレーキ操作を表していると考えられるからである。ところが、本発明の一実施形態においては、ストロークセンサに異常が生じうることを考慮して、ストップランプスイッチを利用する。
このようにすれば、制動要求判定及びその後の目標減速度演算におけるペダルストロークへの依存度を小さくすることができる。よって、ストローク測定系の信頼性が低い場合例えば故障した場合のブレーキ制御への影響を小さくすることができる。その結果、ストローク測定系に異常が生じてもいわゆるブレーキバイワイヤ方式のブレーキ制御を継続することもできる。
制御部は、運転者による制動要求の発生及び解除、例えば運転者によるブレーキペダルの踏込の開始及び終了をセンサからの入力に基づいて判定してもよい。以下では便宜上、制動要求の発生を「制動オン」、制動要求の解除を「制動オフ」と適宜称する。制御部は、制動オン条件が成立した場合に、運転者によるブレーキ操作が開始され制動要求が発生したものと判定する。制御部は、制動オフ条件が成立した場合に、運転者によるブレーキ操作が解除され制動要求も解除されたものと判定する。
制御部はストローク測定系に異常があるか否かを判定してもよい。制御部は、ストローク測定系が正常であると判定した場合には第1の制動オン条件で制動要求を判定し、ストローク測定系に異常があると判定した場合には第1の制動オン条件とは異なる第2の制動オン条件で判定してもよい。制動オフ判定についても同様に正常時と異常時とで異なる条件で判定してもよい。また、制御部は、ストローク測定系が正常であると判定した場合には第1の目標減速度演算処理で目標減速度を演算し、ストローク測定系に異常があると判定した場合には第1の目標減速度演算処理とは異なる第2の目標減速度演算処理で目標減速度を演算してもよい。
制御部は、ストローク測定系が正常であると判定した場合にストローク測定系からの入力に基づいてストップランプスイッチに異常があるか否かを判定してもよい。この場合制御部は、ストップランプスイッチが正常であると判定した場合にはストップランプスイッチからの入力を用いる制動オン判定の実行を許可し、異常であると判定した場合にはストップランプスイッチからの入力を用いる制動オン判定の実行を禁止する。つまり、ストップランプスイッチが異常であると判定された場合には、ストローク測定系に異常があると判定されたとしても、ストップランプスイッチを用いる制動オン判定は行われない。制御部は、ストローク測定系に異常があると判定され、かつストップランプスイッチが正常であることが保証されていない場合には、制動オンオフ判定を要しないバックアップ用のブレーキモードに移行してもよい。バックアップ用のブレーキモードにおいては通常、運転者のブレーキペダル操作によりマスタシリンダ圧がホイールシリンダに直接導入されて制動力が生じる。
ブレーキ制御装置は、第1乃至第3のセンサを備えてもよい。第1センサ及び第2センサは運転者のブレーキ操作入力に連動する出力を制御部に与える。第1センサは、ブレーキ操作入力が小さい範囲において第2センサに比べてブレーキ操作入力に対して敏感である。第1センサは、ブレーキペダルのストロークを測定するストロークセンサであってもよい。第2センサは、ペダル操作に連動する作動液圧を測定する液圧センサであってもよく、例えばマスタシリンダ圧センサであってもよい。一方、第3センサは運転者のブレーキ操作状態を制御部に与える。第3センサは例えば、ブレーキ操作の有無つまり制動オンオフを制御部に出力する。第3センサはストップランプスイッチであってもよい。なお、「センサ」という用語はいわゆるセンサだけではなくブレーキ操作に応じて変化する信号を制御部に与える手段を含むものとする。
本発明の一実施形態においては、制御部は通常、第1センサ及び第2センサのうち少なくとも一方の測定値がしきい値を超えた場合に制動オン判定をする。一方、制御部は、第1センサに異常があると判定された場合には第3センサからの入力を併用して制動オン判定をする。制御部は例えば、第1センサに異常があると判定された場合には第3センサからの入力が制動オンを示すことを制動オン判定条件に含める。
ストローク測定系は複数の測定値を並列に制御部に出力するよう構成されていてもよい。ストローク測定系は複数のストロークセンサを備えてもよい。複数のストロークセンサはそれぞれが別体に構成されていてもよいし、一部の構成要素を共有していてもよい。ストローク測定系は少なくとも第1ストロークセンサ及び第2ストロークセンサを備えてもよい。第1ストロークセンサ及び第2ストロークセンサはそれぞれがペダルストロークを測定し、測定したストローク値を制御部に出力する。
制御部は、複数のストロークセンサそれぞれからの入力に基づいて個別的にストロークセンサの異常の有無を判定してもよい。制御部は、異常と判定されたストロークセンサに代えてストップランプスイッチを用いて制動オン判定をしてもよい。すなわち、制御部は、複数のストロークセンサのうち正常なものからの入力とストップランプスイッチからの入力とに基づいて制動オン判定をしてもよい。
また、制御部は、複数のストロークセンサからの入力に基づいてストローク測定系の異常の有無を包括的に判定してもよい。つまり制御部は、複数のストロークセンサからの入力に基づいて複数のストロークセンサの少なくとも1つに異常があるか否かを判定してもよい。制御部は、ストローク測定系に異常があると判定した場合にすべてのストロークセンサからの入力とストップランプスイッチからの入力とに基づいて制動オン判定をしてもよい。例えば、制御部は、すべてのストロークセンサ及びストップランプスイッチが制動オンを示す場合には、制動オンと判定してもよい。
この場合、いずれのストロークセンサが異常であるかを特定することなくストローク測定系に異常があるか否かが包括的に判定される。すべてのストロークセンサ及びストップランプスイッチからの入力に基づいて制動要求判定がなされる。異常が多数箇所で同時に生じる確率はきわめて小さいと考えられるので、すべてのセンサを参照することにより判定精度への影響を抑制することができる。
制御部は、ストローク測定系からの入力に基づいて制動オン判定をするストローク判定と、ストップランプスイッチからの入力に基づいて制動オン判定をするストップランプスイッチ判定とをしてもよい。制御部は、ストローク判定及びストップランプスイッチ判定がともに制動オンを示す場合に制動オン判定をしてもよい。
この場合、制御部は、ストップランプスイッチ判定においてはストップランプスイッチからの入力がオン状態であるときに制動オンと判定し、該入力がオン状態からオフ状態に切り替わったときには制動オフ判定への切替を所定時間遅延させてもよい。具体的には例えば、制御部はストップランプスイッチ判定においては、ストップランプスイッチからの入力信号がオン判定時間を超えてオン状態を継続した場合に制動オンと判定し、該入力信号がオフ判定時間を超えてオフ状態を継続した場合に制動オフと判定する。ここで、オフ判定時間はオン判定時間よりも長い時間に設定される。このようにすれば、オン判定が一度なされたときの判定結果の反転を抑制することができる。ストップランプスイッチにチャタリングが生じても制動オン判定を維持することが可能となる。
図1は、本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置10を示す系統図である。同図に示されるブレーキ制御装置10は、車両用の電子制御式ブレーキシステムを構成しており、運転者によるブレーキ操作部材としてのブレーキペダル12への操作に応じて車両の4輪のブレーキを独立かつ最適に設定するものである。また、本実施形態に係るブレーキ制御装置10が搭載された車両は、4つの車輪のうちの操舵輪を操舵する図示されない操舵装置や、これら4つの車輪のうちの駆動輪を駆動する図示されない内燃機関やモータ等の走行駆動源等を備えるものである。
本実施形態に係るブレーキ制御装置10は、例えば、走行駆動源として電動モータと内燃機関とを備えるハイブリッド車両に搭載される。このようなハイブリッド車両においては、車両の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって車両を制動する回生制動と、ブレーキ制御装置10による液圧制動とのそれぞれを車両の制動に用いることができる。本実施形態における車両は、これらの回生制動と液圧制動とを併用して所望の制動力を発生させるブレーキ回生協調制御を実行することができる。
制動力付与機構としてのディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ20FR〜20RLを含む。そして、各ホイールシリンダ20FR〜20RLは、それぞれ異なる流体通路を介してブレーキアクチュエータ80に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ20FR〜20RLを総称して「ホイールシリンダ20」という。
ブレーキ制御装置10においては後述の右マスタカット弁27FRおよび左マスタカット弁27FL、増圧弁40FR〜40RL、減圧弁42FR〜42RL、オイルポンプ34、アキュムレータ50等を含んでブレーキアクチュエータ80が構成されている。ホイールシリンダ20にブレーキアクチュエータ80からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。
なお、本実施形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ20を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。あるいは、流体力により摩擦部材の押圧力を制御するのではなく、例えば電動モータ等の電動の駆動機構を用いて摩擦部材の車輪への押圧力を制御する制動力付与機構を用いることもできる。
ブレーキペダル12は、運転者による踏み込み操作に応じて作動液としてのブレーキフルードを送り出すマスタシリンダ14に接続されている。ブレーキペダル12には、その踏み込みストロークを検出するためのストロークセンサ46が設けられている。ストロークセンサ46は2系統のセンサすなわち出力系統が並列に設けられている。ストロークセンサ46のこれら2つの出力系統は、踏み込みストロークをそれぞれ独立かつ並列的に計測して出力する。複数の出力系統を備えることにより、いずれかの出力系統が故障したとしても踏み込みストロークを測定することができるのでフェイルセーフ性を高める上で有効である。また複数の出力系統からの出力を加味して(例えば平均して)ストロークセンサ46の出力とすることにより、一般に信頼性の高い出力を得ることができる。
ストロークセンサ46としては例えば、踏み込みストロークの変動による磁場変化を電気信号に変換して検出するホール素子を搭載する非接触形式のセンサを用いてもよい。この種のセンサは非接触センサとしてはコスト及び信頼性に比較的優れているという点で好ましい。各出力系統においては検出素子の検出値を増幅器で増幅して計測値として出力する。ホール素子を検出素子とする場合には、検出された電圧値が増幅器により増幅され計測値として出力される。各出力系統から並列的に出力された計測値は、例えばブレーキECU200にそれぞれ入力され、ブレーキECU200は入力された計測値を利用してストローク量を演算する。演算されたストローク量は例えば目標減速度の演算に用いられる。なおストロークセンサ46は、3つ以上の出力系統を並列に備えていてもよい。
なお、ストロークセンサ46は接触式のセンサであってもよい。この場合、ストロークセンサ46は複数の接点を有して、見かけ上複数のセンサであるかのように複数の測定値をブレーキECU200に並列に出力するように構成されていてもよい。
マスタシリンダ14の一方の出力ポートには、運転者によるブレーキペダル12の操作力に応じた反力を創出するストロークシミュレータ24が接続されている。マスタシリンダ14とストロークシミュレータ24とを接続する流路の中途には、シミュレータカット弁23が設けられている。シミュレータカット弁23は、非通電時に閉状態にあり、運転者によるブレーキペダル12の操作が検出された際に開状態に切り換えられる常閉型の電磁開閉弁である。なお、シミュレータカット弁23を設置することは必須ではなく、ストロークシミュレータ24がシミュレータカット弁23を介することなくマスタシリンダ14に直接接続されていてもよい。
マスタシリンダ14の一方の出力ポートにはさらに右前輪用のブレーキ油圧制御管16が接続されており、ブレーキ油圧制御管16は、図示されない右前輪に対して制動力を付与する右前輪用のホイールシリンダ20FRに接続されている。また、マスタシリンダ14の他方の出力ポートには、左前輪用のブレーキ油圧制御管18が接続されており、ブレーキ油圧制御管18は、図示されない左前輪に対して制動力を付与する左前輪用のホイールシリンダ20FLに接続されている。
右前輪用のブレーキ油圧制御管16の中途には、右マスタカット弁27FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管18の中途には、左マスタカット弁27FLが設けられている。なお、以下では適宜、右マスタカット弁27FRおよび左マスタカット弁27FLを総称して、マスタカット弁27という。
マスタカット弁27は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたマスタカット弁27は、マスタシリンダ14と前輪側のホイールシリンダ20FR及び20FLとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに規定の制御電流が通電されてマスタカット弁27が閉弁されるとブレーキフルードの流通は遮断される。
また、右前輪用のブレーキ油圧制御管16の中途には、右前輪側のマスタシリンダ圧を検出する右マスタ圧力センサ48FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管18の途中には、左前輪側のマスタシリンダ圧を計測する左マスタ圧力センサ48FLが設けられている。ブレーキ制御装置10では、運転者によってブレーキペダル12が踏み込まれた際、ストロークセンサ46によりその踏み込み操作量が検出されるが、これらの右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLによって検出されるマスタシリンダ圧からもブレーキペダル12の踏み込み操作力(踏力)を求めることができる。このように、ストロークセンサ46の故障を想定して、マスタシリンダ圧を2つの圧力センサ48FRおよび48FLによって監視することは、フェイルセーフの観点からみて好ましい。なお、以下では適宜、右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLを総称して、マスタシリンダ圧センサ48という。
また、マスタシリンダ14には、ブレーキフルードを貯留するためのリザーバタンク26が接続されている。リザーバタンク26には、油圧給排管28の一端が接続されており、この油圧給排管28の他端には、モータ32により駆動されるオイルポンプ34の吸込口が接続されている。オイルポンプ34の吐出口は、高圧管30に接続されており、この高圧管30には、アキュムレータ50とリリーフバルブ53とが接続されている。本実施形態では、オイルポンプ34として、モータ32によってそれぞれ往復移動させられる2体以上のピストン(図示せず)を備えた往復動ポンプが採用される。また、アキュムレータ50としては、ブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギに変換して蓄えるものが採用される。なお、モータ32、オイルポンプ34、及びアキュムレータ50は、ブレーキアクチュエータ80とは別体のパワーサプライユニットとして構成されてブレーキアクチュエータ80の外部に設けられていてもよい。
アキュムレータ50は、オイルポンプ34によって例えば14〜22MPa程度にまで昇圧されたブレーキフルードを蓄える。また、リリーフバルブ53の弁出口は、油圧給排管28に接続されており、アキュムレータ50におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ53が開弁し、高圧のブレーキフルードは油圧給排管28へと戻される。更に、高圧管30には、アキュムレータ50の出口圧力、すなわち、アキュムレータ50におけるブレーキフルードの圧力を検出するアキュムレータ圧センサ51が設けられている。
そして、高圧管30は、増圧弁40FR,40FL,40RR,40RLを介して右前輪用のホイールシリンダ20FR、左前輪用のホイールシリンダ20FL、右後輪用のホイールシリンダ20RRおよび左後輪用のホイールシリンダ20RLに接続されている。以下適宜、増圧弁40FR〜40RLを総称して「増圧弁40」という。増圧弁40は、リニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。増圧弁40は、上流側のアキュムレータ圧と下流側のホイールシリンダ圧との差圧が当該弁を開弁させようとする力として作用するように設置されている。増圧弁40は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。増圧弁40を通じて上流圧すなわちアキュムレータ圧が供給されホイールシリンダ20は増圧される。
また、右前輪用のホイールシリンダ20FRと左前輪用のホイールシリンダ20FLとは、それぞれ前輪側の減圧弁42FRまたは42FLを介して油圧給排管28に接続されている。減圧弁42FRおよび42FLは、必要に応じてホイールシリンダ20FR,20FLの減圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。減圧弁42FRおよび42FLは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされ、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。減圧弁42FRおよび42FLは、上流側のホイールシリンダ圧と下流側のリザーバ圧(大気圧)との差圧が当該弁を開弁させようとする力として作用するように設置されている。
一方、右後輪用のホイールシリンダ20RRと左後輪用のホイールシリンダ20RLとは、常開型の電磁流量制御弁である減圧弁42RRまたは42RLを介して油圧給排管28に接続されている。後輪側の減圧弁42RRまたは42RLは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされ、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。また、電流の大きさがホイールシリンダ圧に応じて定まる所定の電流値を超えた場合には閉弁される。減圧弁42RRおよび42RLは、上流側のホイールシリンダ圧と下流側のリザーバ圧(大気圧)との差圧が当該弁を開弁させようとする力として作用するように設置されている。以下、適宜、減圧弁42FR〜42RLを総称して「減圧弁42」という。
また、右前輪用、左前輪用、右後輪用および左後輪用のホイールシリンダ20FR〜20RL付近には、それぞれ対応するホイールシリンダ20に作用するブレーキフルードの圧力であるホイールシリンダ圧を検出するホイールシリンダ圧センサ44FR,44FL,44RRおよび44RLが設けられている。以下、適宜、ホイールシリンダ圧センサ44FR〜44RLを総称して「ホイールシリンダ圧センサ44」という。
ブレーキアクチュエータ80は、本実施形態における制御部としての電子制御ユニット(以下「ECU」という)200によって制御される。ブレーキECU200は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、入出力インターフェース、メモリ等を備えるものである。
ブレーキECU200には、ストロークセンサ46、マスタシリンダ圧センサ48、ホイールシリンダ圧センサ44が接続される。ストロークセンサ46、マスタシリンダ圧センサ48、ホイールシリンダ圧センサ44は測定値を示す信号を出力し、ブレーキECU200は各センサの出力信号を入力信号として受ける。各センサの検出値は、所定時間おきにブレーキECU200に与えられ、ブレーキECU200の所定の記憶領域に格納保持される。
また、ブレーキECU200にはストップランプスイッチ70が接続されている。ブレーキペダル12が踏み込まれるとストップランプスイッチ70はオン状態となる。これによりストップランプ(図示せず)が点灯される。また、ブレーキペダル12の踏込が解除されるとストップランプスイッチ70はオフ状態となり、ストップランプは消灯される。ストップランプスイッチ70の点灯状態を示す信号がストップランプスイッチ70からブレーキECU200へと所定時間おきに入力され、ブレーキECU200の所定の記憶領域に格納保持される。
上述のように構成されたブレーキ制御装置10は、例えばブレーキ回生協調制御を実行することができる。ブレーキ制御装置10は制動要求を受けて制動を開始する。制動要求は、例えば運転者がブレーキペダル12を操作した場合など、車両に制動力を付与すべきときに生起される。ブレーキECU200は、制動オン条件が成立した場合に、運転者によるブレーキ操作が開始され制動要求が発生したものと判定する。また、ブレーキECU200は、制動オフ条件が成立した場合に、運転者によるブレーキ操作が解除され制動要求も解除されたものと判定する。ブレーキECU200は例えば、制動オン条件が不成立となった場合に制動オフ条件が成立したと判定してもよい。
制動要求を受けてブレーキECU200はブレーキペダル12の踏み込みストロークとマスタシリンダ圧とから目標減速度すなわち要求制動力を演算する。ブレーキECU200は、要求制動力から回生による制動力を減じることによりブレーキ制御装置10により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する。ここで、回生による制動力は、上位のハイブリッドECU(図示せず)からブレーキ制御装置10に供給される。そして、ブレーキECU200は、算出した要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ20FR〜20RLの目標液圧を算出する。ブレーキECU200は、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように、フィードバック制御により増圧弁40や減圧弁42に供給する制御電流の値を決定する。ブレーキECU200は、目標減速度及び目標液圧の演算と各制御弁の制御とを制動中に所定周期で繰り返し実行する。
その結果、ブレーキ制御装置10においては、ブレーキフルードがアキュムレータ50から増圧弁40を介して各ホイールシリンダ20に供給され、車輪に所望の制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ20からブレーキフルードが減圧弁42を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。このようにしていわゆるブレーキバイワイヤ方式の制動力制御が行われる。
このとき右マスタカット弁27FRおよび左マスタカット弁27FLは通常は閉状態とされる。ブレーキ回生協調制御中は、マスタカット弁27の上下流間には、回生制動力の大きさに対応する差圧が作用する。運転者によるブレーキペダル12の踏み込みによりマスタシリンダ14から送出されたブレーキフルードは、ストロークシミュレータ24に流入する。これにより適切なペダル反力が生成される。
本実施形態においてはブレーキシステムが正常な場合、ブレーキECU200は、運転者のブレーキ操作入力として例えばペダルストロークが制動オン判定閾値を超えたことを条件として制動オンであるとする。例えば、ブレーキECU200は、ストロークセンサ46の各出力系統の検出値に基づいてそれぞれ算出されるペダルストロークがともに制動オン判定閾値を超えたことを条件として制動オンであるとする。また、ブレーキECU200はブレーキ操作入力として例えば右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLのそれぞれの測定値を利用して制動オンか否かを判定する。ブレーキECU200は、右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLのそれぞれの測定値がともに予め設定された液圧しきい値を超えたことを条件として制動オンであるとしてもよい。
また、ブレーキシステムが正常な場合、目標減速度は例えば次のように演算される。まずブレーキECU200は、ストロークセンサ46により測定されたペダルストロークST及びマスタシリンダ圧センサ48により測定されたマスタシリンダ圧PMCを読み込む。なお、測定値として2つのマスタシリンダ圧センサ48のいずれかの測定値を用いてもよいし、2つの測定値の平均値を用いてもよい。また、ブレーキECU200はこれらの入力信号にローパスフィルタを適宜かけて滑らかな信号としてもよい。
ブレーキECU200は、ペダルストロークSTの測定値からストロークに基づく目標減速度GSTを求める。例えば、ブレーキECU200には、ペダルストロークSTとストロークに基づく目標減速度GSTとの関係が予めマップ化されて記憶されている。一例ではペダルストロークSTが増加するとともに目標減速度GSTの増加率が大きくなるように両者の関係が設定されている。
更にブレーキECU200は、マスタシリンダ圧PMCの測定値からマスタシリンダ圧に基づく目標減速度GPMCを求める。ブレーキECU200には、同様にマスタシリンダ圧PMCとマスタシリンダ圧に基づく目標減速度GPMCとの関係が予めマップ化されて記憶されている。例えばマスタシリンダ圧PMCと目標減速度GPMCとがほぼリニアとなるように両者の関係が設定されている。
ブレーキECU200は、上述の目標減速度GST及びGPMCの重み付け平均値として、次式により目標減速度G0を算出する。
G0=A・GST+(1−A)・GPMC
ここで、係数Aは、ストロークに基づく目標減速度GSTに対する重みであり、零以上1以下のいずれかの値である。ブレーキECU200は例えば、前回の目標減速度G0の値に基づいて係数Aを算出する。ブレーキECU200には、目標減速度G0の値と係数Aとの関係が予め設定されて記憶されている。
ブレーキECU200は更に、算出された目標減速度G0に基づいて各ホイールシリンダ20における目標液圧を演算し、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように増圧弁40及び減圧弁42を制御する。
なお、本実施形態に係るブレーキ制御装置10は、回生制動力を利用せずに液圧制動力だけで要求制動力をまかなう場合にも、当然制動力を制御することができる。ブレーキ回生協調制御を実行しているか否かにかかわらず、増圧弁40及び減圧弁42により制動力を制御する制御モードを以下では適宜「リニア制御モード」と称する。あるいは、ブレーキバイワイヤによる制御と呼ぶ場合もある。ブレーキシステムが正常である場合には通常リニア制御モードが選択されて制動力が制御される。
リニア制御モードでの制御中に、例えば作動液圧の応答遅れやオーバーシュート等によりホイールシリンダ圧が目標液圧から乖離してしまう場合がある。ブレーキECU200は、例えばホイールシリンダ圧センサ44の測定値に基づいてホイールシリンダ圧の応答異常の有無を周期的に判定している。ブレーキECU200は、例えばホイールシリンダ圧測定値の目標液圧からの乖離量が基準を超える状態が所定時間以上継続した場合にホイールシリンダ圧の制御応答に異常があると判定する。ホイールシリンダ圧の制御応答に異常があると判定された場合には、ブレーキECU200は、リニア制御モードを中止してバックアップ用のブレーキモードに制御モードを切り替える。あるいはブレーキシステムのいずれかの箇所に故障(例えばセンサ故障)が生じる場合もある。このような場合にもブレーキECU200は、リニア制御モードを中止してバックアップ用のブレーキモードに制御モードを切り替えてもよい。
バックアップモードにおいては、運転者のブレーキペダル12への入力が液圧に変換され機械的にホイールシリンダ21に伝達されて車輪に制動力が付与される。ブレーキECU200は、増圧弁40及び減圧弁42の制御を中止する。このため増圧弁40及び減圧弁42の開閉状態は初期状態となる。つまり増圧弁40はいずれも閉弁され、減圧弁42のうちフロント側の減圧弁42FR、42FLは閉弁され、減圧弁42のうちリヤ側の減圧弁42RR、42RLは開弁される。またマスタカット弁27は開弁される。なお本実施形態では、各輪に増圧弁40及び減圧弁42が設けられているので、ブレーキECU200は、ホイールシリンダ圧の応答異常を各輪で判定し、異常が検出されたホイールシリンダのみをバックアップモードに移行してもよい。
ところで、上述のようにシステムが正常な場合には、ブレーキECU200は、ペダルストローク判定または作動液圧判定により制動要求を判定している。また、目標減速度はペダルストローク及び作動液圧の双方に基づいて算出している。要求制動力が小さい場合(例えば所定の基準値よりも小さい場合)には、ストロークセンサ46の出力は運転者のペダル操作に追従するのに対して作動液圧は立ち上がりが遅れる傾向にある。これは例えば、ブレーキペダル12の非操作時にブレーキの引きずりが生じないように、設計上マスタシリンダにはアイドルストロークが設定され、ブレーキパッド及びロータ間にはクリアランスが設定されているからである。言い換えれば、ブレーキペダル12が操作されても、これらのアイドルストローク及びクリアランスに相当するペダルストロークを超えるまでは作動液圧は上がらないようになっている。
このため、ストロークセンサ46に異常が生じると、特に要求制動力が小さい領域でのブレーキフィーリングに影響が生じることになる。相対的に立ち上がりに遅れのある作動液圧に基づいて制動要求判定及び目標減速度演算がなされるからである。その結果、例えば運転者にとって見かけ上ブレーキペダルのアイドルストロークが大きくなったように感じられ、運転者が違和感や不安感を感じるおそれがある。
そこで、本発明の一実施形態においては、ストロークセンサ46に基づく制動要求判定において、ストロークセンサ出力に代替的にまたは併用してオンオフ出力を用いる。一実施例では、ストロークセンサ46に異常があると判定された場合にストップランプスイッチ70の出力を併用する。また、ストローク測定値に基づく目標減速度GSTの演算においては、ストロークセンサ出力に代えてまたは併用して経過時間を用いる。例えば、制動要求発生時からの経過時間に比例して目標減速度を増加させる。この場合、所定の上限値に到達するまで目標減速度を増加させる。
図2は、本発明の一実施形態に係る制御処理を説明するためのフローチャートである。ブレーキECU200は、所定の演算周期で図2に示される処理を繰り返す。ブレーキECU200は、図2に示される処理を実行することにより制動要求判定条件及び目標減速度演算方法を選択する。
図2に示される処理においては、ブレーキECU200はまず、ストロークセンサ46に異常があるか否かを判定する(S10)。ブレーキECU200は、個別異常判定と包括異常判定とを実行する。
ブレーキECU200は、個別異常判定においてはストロークセンサ46の2つの出力系統のそれぞれに異常があるか否かを判定する。ストロークセンサの一方の出力系統において断線やショートが生じている場合には、センサ出力が最大値または最小値に張り付いた状態となる。そこでブレーキECU200は例えば、所定の判定時間を超えてストロークセンサ出力が最大値または最小値に一致し続ける場合に、当該出力系統に異常が生じていると判定する。このようにして、ストロークセンサ46の各出力系統について個別的に異常の有無を判定することができる。ブレーキECU200は、いずれかの出力系統が異常である場合と、いずれの出力系統も正常である場合と、に区別して判定結果を記憶する。本実施形態ではストロークセンサ46は2つの出力系統を有するから、ブレーキECU200は判定結果が、第1出力が異常である場合、第2出力が異常である場合、及び第1出力及び第2出力ともに正常である場合、の3つのうちいずれであるかを記憶する。
一方、ブレーキECU200は、包括異常判定においてはストロークセンサ46の第1出力と第2出力とを比較し、比較結果に基づいてストロークセンサ46のいずれかの出力系統に異常が生じているか否かを判定する。ブレーキECU200は例えば、ストロークセンサ46の第1出力と第2出力との差が許容範囲を超える場合にストロークセンサ46に異常があると判定する。この場合、複数箇所で同時に異常が生じる可能性は経験的に相当低いと考えられるから、いずれか1つの出力が異常であり他の出力は正常である可能性が高いと推測できる。ブレーキECU200は、いずれかの出力系統が異常である場合と、いずれの出力系統も正常である場合と、に区別して判定結果を記憶する。
ストロークセンサ46の異常判定に続いて、ブレーキECU200は、制動要求判定条件を選択する(S12)。まず、ストロークセンサ46が正常であると判定された場合には、ブレーキECU200は上述のように、ストローク及び作動液圧の少なくとも一方が判定しきい値を超えたことを条件として制動オンと判定する。すなわち、次の条件(a)及び条件(b)の少なくとも一方が成立することを制動オン条件とする。条件(a)は、「ストロークセンサ46の第1出力及び第2出力がともに制動オン判定閾値を超えたこと」である。条件(b)は、「右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLのそれぞれの測定値がともに予め設定された液圧しきい値を超えたこと」である。
一方、個別異常判定結果においてストロークセンサ46の第1出力が異常であると判定された場合には、ブレーキECU200は、第1出力に代えてストップランプスイッチ70の出力を用いて制動要求を判定するよう制動要求判定条件を選択する。具体的には例えば、ブレーキECU200は、ストップランプスイッチからの出力信号がオン状態を示しかつストロークセンサ46の第2出力が制動オン判定閾値を超えた場合に制動オンと判定する。逆に、個別異常判定結果においてストロークセンサ46の第2出力が異常であると判定された場合には、ブレーキECU200は、第2出力に代えてストップランプスイッチ70の出力を用いて制動要求を判定する。具体的には例えば、ブレーキECU200は、ストップランプスイッチからの出力信号がオン状態を示しかつストロークセンサ46の第1出力が制動オン判定閾値を超えた場合に制動オンと判定する。
さらに、包括異常判定結果においてストロークセンサ46に異常があると判定された場合には、ブレーキECU200は、ストップランプスイッチ70の出力を併用して制動要求を判定するよう制動要求判定条件を選択する。具体的には例えば、ブレーキECU200は、ストロークセンサ46の第1出力及び第2出力がともに制動オン判定閾値を超えかつストップランプスイッチの出力信号がオン状態を示す場合に制動オンと判定する。なおこの場合、右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLの測定値の少なくとも一方が制動オンを示すことを更なる制動オン判定条件として付加し、判定精度をより向上させてもよい。
本発明の一実施形態においては、ブレーキECU200は、ストップランプスイッチ70の出力信号が所定のオン判定時間を超えて継続したときに、ストップランプスイッチに基づく判定において制動オンと判定する。また、ブレーキECU200は、ストップランプスイッチ70の出力信号が所定のオフ判定時間を超えて継続したときに、ストップランプスイッチに基づく判定において制動オフと判定する。
オン判定時間は相当短い時間に設定され、例えばオン状態を示す信号を一度受信したらブレーキECU200は直ちに制動オンと判定してもよい。これに対してオフ判定時間は相当長い時間に設定される。オフ判定時間は、例えばオン判定時間の少なくとも数倍、好ましくは10倍以上に設定される。このようにオン判定時間よりもオフ判定時間を長くすることにより、一度制動オンと判定された後はごく短周期のストップランプスイッチのオンオフ切替(いわゆるチャタリング)が生じてもオン判定が維持されることになる。チャタリングは例えばストップランプスイッチの接点不良などによって生じる。オフ判定に切り替えられずにオン判定が継続されることにより、減速度を速やかに立ち上げることが可能となる。
図2に戻る。制動要求判定条件の選択が完了すると、ブレーキECU200は、目標減速度の演算方法を選択する(S14)。ストロークセンサ46が正常であると判定された場合には、ブレーキECU200は上述のように、ストロークに基づく目標減速度GSTとマスタシリンダ圧に基づく目標減速度GPMCとの重み付け平均により目標減速度G0を演算する。また、個別異常判定結果においてストロークセンサ46のいずれかの出力が異常であると判定された場合には、ブレーキECU200は、正常な出力のみを用いてストロークに基づく目標減速度GSTを演算する。なお、正常な出力のみを用いることに代えて、ブレーキECU200は、経過時間を用いて目標減速度を演算する目標減速度演算方法を選択してもよい。
また、包括異常判定結果においてストロークセンサ46に異常があると判定された場合には、ブレーキECU200は、制動要求発生からの経過時間を用いて目標減速度を演算する目標減速度演算方法を選択する。この場合、ブレーキECU200は、制動オンと判定した時点から経過時間を起算する。ブレーキECU200は、経過時間が増すにつれて目標減速度を大きくする。例えば、制動オン判定時から一定の増加率で目標減速度を大きくする。あるいは、制動オン判定と同時に目標減速度を初期値αに設定し、その初期値αから経過時間とともに目標減速度を大きくしてもよい。目標減速度の初期値α及び増加率は例えばブレーキフィーリングを考慮して適当に設定すればよい。ブレーキECU200は、経過時間に基づく目標減速度GTをストロークに基づく目標減速度GSTとして最終的な目標減速度G0の演算に用いる。このように経過時間を用いて目標減速度を算出することにより、ストロークセンサ46さらには作動液圧センサの故障時にも目標減速度を与えることができる。
ブレーキECU200は、経過時間に基づく目標減速度GTを算出する際に経過時間だけではなく車速を加味して目標減速度を決定してもよい。例えば、車速が大きいほど目標減速度が大きくなるよう調整された車速と目標減速度との関係が予め設定されてブレーキECU200に記憶されていてもよい。このようにすれば、高速走行時の目標減速度を大きくすることができる。高速時のブレーキの効きがよいという印象を運転者に与えることができる。
ブレーキECU200は、経過時間に基づく目標減速度GTを制限してもよい。例えば、予め設定された上限値Aを超えないようにしてもよい。経過時間が増すにつれて目標減速度を大きくする場合には、ブレーキECU200は、経過時間に基づく目標減速度GTが上限値Aに達した時点以降は目標減速度GTを上限値Aに維持する。上限値Aは例えばブレーキフィーリングを考慮して適当に設定すればよい。上限値Aを設定することにより、目標減速度が過度に大きくなるのを防ぐことができる。
上限値Aは、例えば車速に連動して設定されてもよい。例えば、車速が大きいほど上限値Aが大きな値に設定されてもよい。上限値Aと車速との関係は、予め設定されてブレーキECU200に記憶されていてもよい。上限値Aは例えば、制動オンの時点での車速に対応する値に設定される。上限値Aは、一回の制動中は固定されていてもよいし、一回の制動中においても例えば車速に応じて変化させてもよい。このように車速と目標減速度上限値とを連動させても、高速走行時の目標減速度が大きくなるので高速時のブレーキの効きがよいという印象を運転者に与えることができる。
一方、ブレーキECU200は、制動オン条件が不成立となった時点から経過時間に基づく目標減速度GTを減少させる。ブレーキECU200は例えば、制動オフ判定時から一定の減少率で目標減速度を小さくする。あるいは、制動オフ判定時から所定時間までは一定の減少率で目標減速度を小さくし、当該所定時間経過時に目標減速度をゼロに切り替えるようにしてもよい。目標減速度の減少率及びゼロ切替時間は例えばブレーキフィーリングを考慮して適当に設定すればよい。この減少率の大きさは、制動オンの際の目標減速度増加率の大きさに等しくてもよい。
また、ブレーキECU200は、アクセルペダルが操作された場合に目標減速度を減少させてもよい。ブレーキECU200は、アクセルペダルがオンとなった時点から目標減速度または上限値Aを減少させてもよい。このようにすれば、運転者が加速度を要求した場合に速やかに減速度を小さくして要求加速度を与えることができる。また、運転者のアクセル操作を契機とすることで、ストップランプスイッチがオン状態で固着する異常が発生している場合にも目標減速度を適切に減少させることができる。
なお、ブレーキECU200は、マスタシリンダ圧に基づく目標減速度GPMCが所定値まで増加した時点以降は経過時間に基づく目標減速度GTを一定値に維持するか徐々に減少させてもよい。あるいは、マスタシリンダ圧に基づく目標減速度GPMCが経過時間に基づく目標減速度GTを超えた時点以降は、経過時間に基づく目標減速度GTを一定値に維持するか徐々に減少させてもよい。経過時間に基づく目標減速度GTを与える目的の1つは、マスタシリンダ圧に基づく目標減速度GPMCの立ち上がりの遅れが最終目標減速度G0に与える影響を軽減することにある。よって、マスタシリンダ圧に基づく目標減速度GPMCが立ち上がった後は経過時間に基づく目標減速度GTを小さくしてもよい。
図3は、本発明の一実施形態における経過時間に基づく目標減速度GTの時間変化の一例を示す図である。経過時間に基づく目標減速度GTを実線で示し、マスタシリンダ圧に基づく目標減速度GPMCを参考として破線で示す。図3の縦軸は目標減速度であり、横軸は時間を示す。図3には、一回の制動中つまり制動開始から制動終了までの目標減速度の履歴の一例が示されている。
図3に示されるように、経過時間に基づく目標減速度GTは制動オン判定とともに初期値αに設定され、時間とともに一定の増加率で増えていく。目標減速度GTが上限値Aに達すると上限値Aに維持される。なお時刻tにおいて、マスタシリンダ圧に目標減速度GPMCが立ち上がって経過時間に基づく目標減速度GTに追いつく。さらに時間が経過して制動オフ判定がなされると、経過時間に基づく目標減速度GTは一定の減少率で減少する。
図2に示される処理においては、このようにして制動要求判定条件及び目標減速度演算方法が選択される。ブレーキECU200は、次の処理実行タイミングで上述の処理を再度実行する。ブレーキECU200は、選択された制動要求判定条件が満たされた場合に制動要求が発生したと判定する。また、ブレーキECU200は、制動要求が発生したと判定した場合に、選択された目標減速度演算方法で目標減速度を演算する。
以上のように本実施形態によれば、ストロークセンサ46の異常の有無を判定し、異常がある場合にはストップランプスイッチを併用してまたは代替的に用いて制動要求判定が行われる。よって、ストロークセンサ異常による制動要求判定の遅れを軽減し、特に小ペダルストローク領域でのブレーキフィーリングへの影響を抑制することができる。また、目標減速度の演算についてもストロークセンサ46の異常時には経過時間を用いてストロークセンサ出力への依存を少なくしている。これにより、制動要求判定後の制動力立ち上がりの遅れを小さくして小ペダルストローク領域でのブレーキフィーリングへの影響を抑制することができる。
また、本実施形態によれば、ストロークセンサ異常時のブレーキフィーリングへの影響が軽減されているので、ストロークセンサに異常が検出されてもブレーキバイワイヤ制御を継続することができる。典型的なブレーキ制御方法では、何らかの異常が検出されるとバックアップ用のブレーキモードに移行するのに対して、本実施形態によればブレーキバイワイヤ制御をより活用することができる。
さらに、個別異常判定と包括異常判定とを併用することにより、ストロークセンサにおける多様な故障モードを網羅することができる。例えば、接触式のストロークセンサを用いる場合には接触部に摩耗粉が付着することによりストロークセンサ出力が正常時に比べて不安定となることがある。この場合、上述の個別異常判定では異常が比較的検出されにくいが、包括異常判定を導入することにより異常判定精度をより向上することができる。
上述の実施形態においては、正常時と異常時とで制動要求判定条件を切り替えているが、これに限られない。正常時に有効な判定条件に付加して、異常時に有効となる判定条件を予め設定しておいてもよい。この場合、ブレーキECU200は、正常時用の判定条件及び異常時用の判定条件のうちいずれかが成立したときに制動要求発生と判定してもよい。例えば、上述の条件(a)は、正常時に有効な判定条件の一例である。条件(b)もまた正常時用の判定条件の一例である。異常時に有効となる判定条件として例えば以下の条件(c)乃至(e)が予め設定されていてもよい。この場合、ブレーキECU200は、条件(a)乃至(e)のうちのいずれかが成立した場合に制動要求発生と判定する。
条件(c)は例えば、ストロークセンサ46の第1出力が正常、かつ、ストロークセンサ46の第2出力が異常、かつ、ストップランプスイッチ70が正常、かつ、ストップランプスイッチがオン状態を示し、かつ、ストロークセンサ46の第1出力がオン状態を示すこと、としてもよい。
条件(d)は例えば、ストロークセンサ46の第1出力が異常、かつ、ストロークセンサ46の第2出力が正常、かつ、ストップランプスイッチ70が正常、かつ、ストップランプスイッチがオン状態を示し、かつ、ストロークセンサ46の第2出力がオン状態を示すこと、としてもよい。
さらに条件(e)は、ストロークセンサ46の第1出力及び第2出力の比較結果が異常、かつ、ストップランプスイッチ70が正常、かつ、ストップランプスイッチがオン状態を示し、かつ、ストロークセンサ46の第1出力及び第2出力がオン状態を示すこと、としてもよい。条件(e)において、ストロークセンサ46の第1出力及び第2出力がオン状態を示すことに代えて、右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLの測定値の少なくとも一方が制動オンを示すことを加えてもよい。また、条件(e)において、ストロークセンサ46の第1出力及び第2出力の比較結果が異常であることに代えて、ストロークセンサ46の第1出力及び第2出力が異常であること、としてもよい。
本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、各実施形態の各要素を適宜組み合わせたものも、本発明の実施形態として有効である。また、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を各実施形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれうる。以下、そうした例をあげる。
ブレーキECU200は、図2に示されるストロークセンサ異常判定処理(S10)に付随して、またはこれとは独立に、ストップランプスイッチ70に異常があるか否かを判定してもよい。ブレーキECU200は例えば、ストップランプスイッチ70がオン状態のまま固定されるオン固着状態であるか否かを判定してもよい。この場合、ブレーキECU200は例えば、一定時間(例えば数秒乃至10秒程度)継続してブレーキ操作がなくかつストップランプスイッチ70も当該一定時間オフ状態を継続した場合にオン固着状態ではないと判定する。一定時間継続してブレーキ操作がないとの判定は例えば、ストロークセンサ46の第1出力及び第2出力がともに一定時間継続してブレーキ操作がないことを示す場合になされる。このようにストロークセンサの出力を利用する場合には、ストロークセンサに異常が検出されていないことを条件とすることが好ましい。
ブレーキECU200は、ストップランプスイッチ70がオン固着状態ではないと判定した場合にはストップランプスイッチ70からの入力を用いる制動オン判定の実行を許可する。一方、ブレーキECU200は、オン固着状態であると判定した場合にはストップランプスイッチ70からの入力を用いる制動オン判定の実行を禁止する。つまり、ストップランプスイッチ70のオン固着状態においてはストップランプスイッチ70を用いる制動オン判定は行われない。これにより、ストップランプスイッチ70のオン固着発生による突発的な制動や制動終了後のブレーキ引きずりを防ぐことができる。
また、上述の実施形態においては、包括異常判定において異常が検出された場合に制動要求判定にストロークセンサの出力を継続して用いているが、これに限られない。包括異常判定において異常が検出された場合においてストロークセンサの複数の出力を併用しても要求される信頼性が保証されない場合には、制動要求判定及び目標減速度演算にストロークセンサの出力を用いることを中止してもよい。この場合、ブレーキECU200は、包括異常判定の判定結果が正常状態に復帰したことを条件として、ストロークセンサの出力を用いて制動要求判定及び目標減速度演算をするようにしてもよい。
また、上述の実施形態においては、正常時と異常時とで制動要求判定条件を異ならせた上で目標減速度の演算処理も正常時と異常時とで異ならせているが、これに限られない。制動要求判定条件を正常時と異常時とで共通とし(例えば正常時に有効な条件とし)、目標減速度の演算処理を正常時と異常時とで異ならせてもよい。逆に、目標減速度の演算処理は正常時と異常時とで共通とし、制動要求判定条件を正常時と異常時とで異ならせてもよい。
10 ブレーキ制御装置、 20 ホイールシリンダ、 27 マスタカット弁、 40 増圧弁、 42 減圧弁、 44 ホイールシリンダ圧センサ、 46 ストロークセンサ、 48 マスタシリンダ圧センサ、 51 アキュムレータ圧センサ、 70 ストップランプスイッチ、 80 ブレーキアクチュエータ、 200 ブレーキECU。