JP2010142159A - パンの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】パンの製造工程の中にパンの物性を改良する工程を設け、パンのボリュームの向上とソフトでもっちりした食感を維持させ、品質及び日保ちのよいパンの製造ができるパンの製造方法を提供する。
【解決手段】少なくともパン生地を焼成する焼成工程と、前記焼成工程にて作製された焼成物を冷却する冷却工程を行うパンの製造方法において、前記冷却工程の次に、前記冷却工程にて冷却されたパンを未包装の状態で、温度14℃〜16℃、焼成後冷却が完了したパンの水分活性値より高い湿度95%〜99%の低温高湿度の雰囲気中に、30分以上放置する低温保湿処理工程を行うものである。また、前記低温保湿処理工程における雰囲気中に、微細化した水を放散し低温高湿度の雰囲気を作成し、前記低温保湿処理工程においてパンの物性を改良するものである。
【選択図】図1

Description

この発明は、パンの製造工程において、焼成物の物性を改良する工程を設けて、品質及び日保ちのよいパンを製造することが可能なパンの製造方法に関するものである。
食生活においてパンを食べることが一般化し、消費者は日頃からパンを買い置きすることが多くなり、買い置きしたパンを美味しく食べるためには、品質が低下しない内に早く食べなければならない。また、製パンメーカーにおいてはパンを焼成し冷却した後、直ちに包装しできるだけ早く市場に供給することが、パンの品質を劣化させることなく提供できる条件であるが、焼成して得られたパンを冷却した後、そのパンの物性・品質をそのまま長く維持することができれば、出荷時期の調整をすることができ、焼成後冷却し包装した直後に出荷しなくても、品質の良い製品を市場に出荷できることになる。
さらに、販売店においても、時間の経過に伴うパンの品質の低下が少なければ、品質のよい製品を消費者に販売することができる。
それ故、焼成後冷却したパンの時間の経過に伴う品質の低下を如何に少なくするかが極めて重要な問題であり、パンの物性を改良しパンを焼成し冷却が完了したパンの品質を、長時間維持することができるパンの製造方法が要望されている。
しかしながら、焼成し冷却が完了したパンは、製造直後から水分の蒸散等により品質の低下が始まり、流通経路を経て消費者の手に渡るまでに品質の低下が徐々に進み、また、消費者が買い置きしている間にも同様に品質の低下が進む。
そこで、焼成したパンの品質をできるだけ低下させないように、従来からその対策について提案がされている。例えば、 特開昭57−196918公報(特許文献1)に示されている発明は、温度制御が可能な加熱手段と、蒸発蒸気を吹き出す加湿装置と、湿度検知部材と、送風器とを設けてなる陳列兼用保存ケースであり、該陳列兼用保存ケース内の温度を23℃〜28℃の範囲に、湿度を略60%程度に自動的に維持できるようにしたものである。しかし、パンの水分蒸散が進み品質の劣化を防ぐ効果が充分でなく、また、消費者・販売店がパンを上記保存ケースに入れて保存しなければ効果が得られないという問題点がある。
また、特開平10−179012公報(特許文献2)、特開平11−313602公報(特許文献3)に開示されている発明は、前者は、小麦粉又はその他の澱粉を主原料とし、これにイースト及び食塩を添加し、さらに必要に応じて糖類、油脂、乳製品その他の副原料を添加して生地を作り、発酵後焙焼し又は蒸し加熱するパンの製造法において、該生地の作成に使用する水として自由水の代わりにグルコマンナンの水和ゲルを使用し、パン製品に食物繊維であるグルコマンナンを取り込ませるものである。また、後者は、焼成して得られたショートブレッドを冷却した後、アルコール水を添加し、直ちに密封包装するショートブレッドの製造方法で、アルコール水を添加することで水分をショートブレッドに良好に浸透させるものである。その他、パンの老化を防止する添加物を用いるものも種々提案されている。
これらの発明は、主原料に副原料を添加し、自由水の代わりにグルコマンナンの水和ゲルを使用したり、或いは、焼成して得られたショートブレッドを冷却した後、アルコール水を添加するものである。それ故、風味が悪く製造単価が高くなり、また、添加物を用いて品質の劣化を遅らせるものは、近年の消費者の自然志向に合わないものである。
さらに、特開平2006−51010公報(特許文献4)のパン類の冷却方法は、最終加熱処理されたパン類の表面に水を付着させる第1冷却工程、パン類に付着させた水の蒸発潜熱を利用して冷却を促進させる第2冷却工程、前記第2冷却工程で冷却されたパン類をその表面温度より高い露点温度でかつ前記第2冷却工程より高湿度の雰囲気中に保持して水分を吸着させる第3冷却工程とを具備するパン類の冷却方法で、前記第3冷却工程において、パンを取り巻く雰囲気の温度を10〜20℃及び相対湿度を60〜90%の範囲に設定し、冷却しながら焼成したパンの歩留まり向上と歩留まり率の安定化、商品価値の向上、及び、冷却工程における乾燥による製品の品質の劣化を防止することができることが記載されている。
しかし、この発明は、パンの表面温度がパンを取り巻く雰囲気温度と近似した温度となるまで前記雰囲気中に滞留させることを特徴とするパン類の冷却方法に関するものであり、焼成し冷却が完了したパンの物性を改良するものではなく、したがって、パンの品質の劣化を防止する効果が充分ではない等の問題点があった。
特開昭57−196918公報。 特開平10−179012公報。 特開平11−313602公報。 特開平2006−51010公報。
この発明は、上記したこれらの問題点を解決するものであり、製パン工程において、パン生地を焼成工程において焼成し、冷却工程において焼成した焼成物を冷却し、冷却が完了した焼成物であるパンのボリュームの向上と、ソフトでもっちりとした食感を維持できるようにパンの物性を改良し、パンの老化を遅らせ日保ちをよくするパンの製造方法を提供するものである。
この発明は、上記課題を解決するため研究した結果、製パン工程において焼成した焼成物を冷却した後、包装し出荷するのではなく、冷却が完了した未包装の状態にある焼成物にさらに低温保湿処理工程を行うことによりパンの物性を改良することができること、また、冷却が完了した後の焼成物の水分活性値より高い湿度に設定した雰囲気内で、冷却が完了した焼成物を低温保湿処理工程を行うことにより、前記のパンの物性を効果的に改良できることを見いだし、本発明をなすに至ったものである。
(1)この発明は、少なくともパン生地を焼成する焼成工程と、前記焼成工程にて作製された焼成物を冷却する冷却工程を行うパンの製造方法において、該パンの製造方法は、前記冷却工程にて冷却が完了した焼成物を低温高湿度雰囲気中に所定時間放置する低温保湿処理工程を行うことを特徴とするパンの製造方法である。
(2)前記パンの製造方法は、前記低温保湿処理工程の後に、低温保湿処理された焼成物を包装する包装工程を行うものである前記(1)記載のパンの製造方法。
(3)前記低温保湿処理工程は、前記冷却が完了した焼成物の水分活性値より高い湿度に設定した高湿度雰囲気中にて行うものである前記(1)または(2)に記載のパンの製造方法。
(4)前記低温保湿処理工程は、温度20℃以下、湿度90%以上の低温高湿度雰囲気中にて行うものである前記(1)ないし(3)のいずれかに記載のパンの製造方法。
(5)前記低温保湿処理工程が、温度14℃〜16℃、湿度95%〜99%の低温高湿度雰囲気中にて行うものである前記(1)ないし(3)のいずれかに記載のパンの製造方法。
(6)前記低温保湿処理工程は、冷却が完了した前記焼成物を低温高湿度の雰囲気中において、30分以上放置するものである前記(1)ないし(5)のいずれかに記載のパンの製造方法。
(7)前記低温保湿処理工程は、冷却が完了した前記焼成物を低温高湿度の雰囲気中において、30分〜24時間放置するものである前記(1)ないし(5)のいずれかに記載のパンの製造方法。
(8)前記低温保湿処理工程は、微細化した水を前記焼成物が放置される低温雰囲気中に噴出することにより形成された低温高湿度の雰囲気中にて行うものである前記(1)ないし(6)のいずれかに記載のパンの製造方法。
(9)前記低温保湿処理工程は、超微細ミストを前記焼成物が放置される低温雰囲気中に噴出することにより形成された低温高湿度の雰囲気中にて行うものである前記(1)ないし(6)のいずれかに記載のパンの製造方法。
(10)前記微細化した水または前記超微細ミストの大きさは、80〜100ナノメーターである前記(8)または(9)に記載のパンの製造方法。
(11)前記冷却工程は、前記焼成物の中心温度が、25℃以下となるように行うものである前記(1)ないし(10)のいずれかに記載のパンの製造方法。
(12)前記低温保湿処理工程は、前記冷却が完了した焼成物に自由水を浸透させ、初期の水分活性値が0.92〜0.96であるパンに対し、+0.001〜+0.020となるように行うものである前記(1)ないし(11)のいずれかに記載のパンの製造方法。
この発明のパンの製造方法によれば、製パン工程の冷却工程において、焼成物の冷却を行い、次いで冷却が完了した焼成物を未包装の状態で低温高湿度の雰囲気中に所定時間放置する低温保湿処理工程を行うものであるから、焼成物に対し雰囲気の温度・湿度が影響し、焼成物である焼成されたパンの表層部の水分に変化が生じ、細胞の膨圧が維持されパンの物性が改良される。
その結果、生地表面のクラスト部分の乾燥を防止することができるため、焼成物の冷却工程から生じ始める収縮を、低温保湿処理工程において軽微な状態で留めることができ、焼成物であるパンの老化を遅らせ、かつ、ソフトでもっちりとした食感が維持される。それ故、パンが本来有している食感を損なうことがなく、外観上も品質の良いパンを製造することができる。
したがって、本発明により製造されたパンは、ソフトでもっちりとした食感としっとりとして口溶けがよい食感とボリューム感を、併せて味わうことができる。
また、前記低温保湿処理工程の後に、焼成物を包装する包装工程を行うものであるから、未包装の状態において焼成物の低温保湿処理工程が行われ、焼成物であるパンの物性が改良され、歩留まりが100%前後で、自由水の量が増加したパンをその後に包装することになるので、食感とボリューム感を有するパンを包装し出荷することができる。
この発明のパンの製造方法によれば、前記低温保湿処理工程が、前記冷却が完了した焼成物の水分活性値より高い湿度に設定した高湿度雰囲気中に焼成物を放置することにより行われので、冷却が完了した焼成物であるパンのクラム部分の水分や水分活性値が増加し、製品としてのパンに柔らかさとしっとりさを生じさせる。
尚、前記冷却が完了した焼成物の水分活性値と同じ程度の湿度に設定した雰囲気中において前記低温保湿処理を行った場合は、前記効果はわずかで、パンのクラム部分の柔らかさが少し増加し、水分及び水分活性が微増する程度である。
また、前記低温保湿処理工程を、前記冷却が完了した焼成物を、温度20℃以下であり、湿度が90%以上の雰囲気中に放置するものは、温度を下げることにより製品の品質を維持した状態で、歩留まりを高めることができる。
そして、前記低温保湿処理工程が、温度14℃〜16℃、湿度95%〜99%の雰囲気中に焼成物を放置すると、ソフトでもっちりとした食感としっとりとして口溶けがよい食感とボリューム感が得られる製品となる。
さらに、前記低温保湿処理工程が、冷却が完了した焼成物を低温高湿度の雰囲気中において、30分以上放置するものであり、30分以上で24時間以内の時間放置すると、パンの表層部の水分が経時的に変化し、歩留まりが99%以上になり、自由水も増加し、しっとりとして口溶けがよい食感とボリューム感を味わうことができるパンを製造することができる。
特に、温度14℃〜16℃、湿度95%〜99%の低温高湿度の雰囲気中に6時間以上放置すると、パンのクラム部分の水分の増加と水分活性の増加が顕著になり、しっとりとして口溶けのよい食感を得ることができる製品となり、また、時間が経過しても柔らかさを持続することができ、製品の形状とボリュームも向上させることができる。
この発明のパンの製造方法によれば、前記低温保湿処理工程が、前記焼成物を放置する雰囲気中に水を微細化して放散させ、または、超微細ミストとして雰囲気中に放散させ、低温高湿度の雰囲気を作成するものであるから、低温高湿度においても湿度調節が容易にでき、低温高湿度下においてもパンの表面に結露を生じさせることなく湿度調節ができる。
また、前記微細化した水または前記超微細ミストの大きさは、80〜100ナノメーターとすると、一層水滴が気化し易くなり、従来の加湿方式では期待できない低温下における湿度調節が安定的に行われ、焼成後冷却が完了したパンの物性を改良する効果が大きくなる。
前記冷却工程は、前記焼成物の中心温度が、25℃以下となるように行うものである。
この発明のパンの製造方法によれば、前記低温保湿処理工程において、前記冷却が完了した焼成物に自由水を浸透させ、初期の水分活性値が0.92〜0.96であるパンに対し、+0.001〜+0.020増加するので、ソフトでもっちりとした食感としっとりとして口溶けがよい食感とボリューム感を味わうことができるパンを製造することができる。
この発明のパンの製造方法について、図に示す実施例を用いて説明する。
図1は、パンの製造工程の一例を示す説明図、図2〜図5は、低温保湿処理工程の設定温度を15℃、設定湿度を98%に設定して、焼成後冷却が完了したホットドッグ用ロールパン(以下ロールパンAという。)を測定したもので、図2は、ロールパンAを低温保湿処理工程に放置する時間と歩留まりの関係を示す図、図3は、ロールパンAを低温保湿処理工程に放置する時間と水分活性値の関係を示す図、図4は、ロールパンAを低温保湿処理工程に放置する時間と硬さの関係を示す図、図5は、ロールパンAを低温保湿処理工程に放置する時間と凝集性(もっちり感)の関係を示す図である。
尚、図4及び図5において、低温保湿処理工程後ロールパンAを包装し保存した温度は20℃である。
また、図6、図8、図10、図12、図14、図16は、低温保湿処理工程の設定温度を15℃、設定湿度を98%に設定し、焼成後冷却が完了したサンドロールパン(以下ロールパンBという。)について測定をしたもので、図7、図9、図11、図13、図15、図17は、低温保湿処理工程の設定温度を15℃、設定湿度を94%に設定し、ロールパンBについて測定をしたものである。
そして、図6と図7は、低温保湿処理工程の条件を変えて処理したロールパンBについて、包装後20℃で保存した日数(日)とクラム部分の硬さの関係を示す図、図8と図9は、同じく低温保湿処理工程に放置する時間と包装後に20℃でD+4日保存時点での製品のクラム部分の硬さを示す図、図10と図11は、低温保湿処理工程に放置する時間とパン全体及びクラム部分の水分の関係を示す図、図12と図13は、低温保湿処理工程に放置する時間とパン全体及びクラム部分の水分活性値の関係を示す図、図14と図15は、低温保湿処理工程に放置する時間と製品重量の関係を示す図、図16と図17は、低温保湿処理工程に放置する時間と製品体積の関係を示す図である。
さらに、図18は、ホットドッグ用ロールパンについての製品評価を示す表1であり、図19は、あんぱんについての製品評価を示す表2である。
この発明のパンの製造方法は、図1に示すように、従来の常法である中種ミキシング工程→第1発酵工程→本捏ミキシング工程→分割工程→丸め工程→中間発酵工程→整形工程→最終発酵工程→焼成工程→冷却工程→包装工程からなる一連のパンの製造工程において、冷却工程と包装工程の間に低温保湿処理工程を設け、冷却が完了した焼成物に対しさらに前記低温保湿処理工程を行うものである。
上記パンの製造工程により、中種ミキシング工程と第1発酵工程と本捏ミキシング工程によりパン生地が作成され、該パン生地が分割工程と丸め工程により所定の大きさに丸められ、中間発酵工程と整形工程と最終発酵工程を経て、整形され最終発酵が完了したパン生地が作成される。
この整形され最終発酵されたパン生地は焼成工程において焼成され、焼成された焼成物は冷却工程において芯温が約25℃付近にまで冷却される。通常はこの冷却が完了した焼成物が製品としてのパンとなり包装し出荷されるが、本発明は、冷却が完了した焼成物を包装する前の未包装の状態で、さらに低温保湿処理工程を行い製品としてのパンにするものである。
この低温保湿処理工程は、低温高湿度に調整された雰囲気中にパンを放置する工程であり、前記低温保湿処理工程は30分以上行われ、いわゆる高湿度の冷蔵保存状態にパンを置きパンの物性を改良するものである。低温保湿処理工程が終了するとパンはその後包装工程において包装され、製品として出荷される。
そして、前記低温保湿処理工程は、低温高湿度の雰囲気に調整されたパン収納冷蔵庫内において行われるようになっている。
前記低温保湿処理工程は、焼成後冷却が完了した焼成物であるパンの水分活性値(略0.90以上)より高い湿度に設定した高湿度雰囲気中にて行う。すなわち、図11、図13から分かるように、焼成後冷却が完了したパンの水分活性値が0.94である場合、この水分活性値0.94と同じ(相対)湿度94%(換言すると水分活性値0.94と、小数点で表した湿度0.94を同じに設定)の雰囲気中にパンを放置した場合では、前記低温保湿処理工程を長く行ってもパンのクラム部分の水分量と水分活性の変化は乏しく、また、図15、図17にあるようにパンの重量及び体積も殆ど増加していない。
それ故、焼成後冷却が完了した焼成物の水分活性値に対し、パンが放置される雰囲気の(相対)湿度を高く設定して前記低温保湿処理工程を行う。
なお、水分活性値は、冷却が完了した焼成物を入れた密閉容器内の水蒸気圧とその温度における純水の蒸気圧の比から算出した値で、その水分活性値は焼成物の置かれる雰囲気の平衡状態になり得る相対湿度との関係において、水分活性値以上の相対湿度に雰囲気湿度を設定することである。
そして、前記低温保湿処理工程を、焼成後冷却が完了した焼成物の水分活性値が略0.90以上であることから前記雰囲気の湿度を90%(湿度を小数点で表示すると0.90)以上に設定し、温度を20℃以下に設定した雰囲気中に、冷却が完了した焼成物を30分以上放置して行う。好ましくは、温度が14℃〜16℃であり、湿度95%〜99%に設定されている雰囲気内に焼成物を30分〜24時間放置して行うのが良い。
前記雰囲気の湿度調節は、微細化した水滴を前記冷却が完了した焼成物を放置する雰囲気中に放散し還流させて行う。温度が14℃〜16℃の低温で湿度95%〜99%に調整することは難しく、超微細ミストの大きさが80〜100ナノメーターのいわゆるナノミストを使用すると、水滴が微細粒であることから気化し易く湿度調整が容易となり、例えば、温度15℃で湿度98%の安定した雰囲気を作ることができる。
焼成後冷却した焼成物が、低温高湿度の雰囲気内に置かれ低温保湿処理工程が行なわれると、図2に示されているように、ロールパンAの水分の歩留まりは、低温保湿処理工程に放置する時間が30分未満では99.00%前後の歩留まりであるが、放置時間が30分以上に長くなるに従って徐々に歩留まりが上昇し、放置時間が12時間で歩留まりが約99.50%、約16時間後に歩留まり100.50%に上昇し、20時間後には100.80%のピーク値を示し、その後放置時間が長くなるに従い徐々に歩留まりが低下し、24時間後には100.70%になっている。
このように、低温保湿処理工程において焼成物の放置される時間が長くなると、焼成直後からパンのクラム部分の水分が表皮に向かって移動し表皮から水分蒸散が始まるが、低温高湿度の雰囲気内に放置することにより、放置する時間に従いパンの表層部の水分蒸散が変化し、やがて水分蒸散が停止し、雰囲気の水蒸気がパンの表層部に浸透し始め、歩留まりが99%〜100.80%になり、しっとりとして口溶けがよい食感を味わうことができ、パンの重量も増加したものとなる。
また、低温保湿処理工程において放置時間により、水分活性値も前記歩留まり程大きく増加しないが、図3に示されているように、低温保湿処理工程を行わない冷却が完了したロールパンAの水分活性値は0.95以下であるが、低温保湿処理工程にパンを放置すると、30分で0.955、6時間で0.956、18時間で0.955、24時間で0.957の数値となり、水分活性値より高い湿度の雰囲気中に30分以上放置すると、自由水の量が増えパンの物性が改良される傾向にあることが分かる。
図4は、焼成後冷却が完了したロールパンAを用いて測定したいわゆるパンの老化テストで、低温保湿処理工程に放置する時間を横軸に、ロールパンAの硬さを縦軸に取って表したもので、その測定結果を見ると、
a.低温保湿処理工程を行わないで包装し、温度20℃で保存した場合のロールパンの硬さは、保存2日目0.61、保存3日目0.76、保存4日目0.85
となり、
低温保湿処理工程後に包装し、温度20℃で保存した場合、
b.低温保湿処理工程におけるパンの放置時間が30分の場合、ロールパンの硬さは、保存2日目0.59、保存3日目0.78、保存4日目0.82
c.低温保湿処理工程におけるパンの放置時間が6時間の場合、ロールパンの硬さは、保存2日目0.55、保存3日目0.73、保存4日目0.78
d.低温保湿処理工程におけるパンの放置時間が12時間の場合、ロールパンの硬さは、保存2日目0.54、保存3日目0.72、保存4日目0.74
e.低温保湿処理工程におけるパンの放置時間が18時間の場合、ロールパンの硬さは、保存2日目0.54、保存3日目0.66、保存4日目0.72
f.低温保湿処理工程におけるパンの放置時間が24時間の場合、ロールパンの硬さは、保存2日目0.52、保存3日目0.60、保存4日目0.68
となり、パンの低温保湿処理工程における放置時間が30分〜24時間とした場合、保存2日目、3日目、4日目と時間が経過するに従いロールパンAの硬さは、柔らかくなる傾向を示している。しかし、低温保湿処理工程を行わないロールパンは、低温保湿処理工程を行ったロールパンより保存2日目、3日目、4日目のいずれにおいてもパンが硬くなっていることを示している。
図5は、低温保湿処理工程に放置する時間を横軸に、ロールパンAのもっちりさ(凝集性)を縦軸に取って表したもので、その測定結果を見ると、
イ.低温保湿処理工程を行わないで包装し、温度20℃で保存した場合のロールパンのもっちりさは、2日目0.444、3日目0.425、4日目0.426
となり、
低温保湿処理工程後に包装し、温度20℃で保存した場合、
ロ.低温保湿処理工程におけるパンの放置時間が30分の場合、ロールパンのもっちりさは、保存2日目0.450、保存3日目0.452、保存4日目0.423
ハ.低温保湿処理工程におけるパンの放置時間が6時間の場合、ロールパンのもっちりさは、保存2日目0.472、保存3日目0.474,保存4日目0.430
ニ.低温保湿処理工程におけるパンの放置時間が12時間の場合、ロールパンのもっちりさは、保存2日目0.473,保存3日目0.475,保存4日目0.456
ホ.低温保湿処理工程におけるパンの放置時間が18時間の場合、ロールパンのもっちりさは、保存2日目0.472,保存3日目0.470,保存4日目0.468
ヘ.低温保湿処理工程におけるパンの放置時間が24時間の場合、ロールパンのもっちりさは、保存2日目0.500,保存3日目0.474,保存4日目0.489
となり、パンの低温保湿処理工程における放置時間が30分〜24時間の場合、保存2日目、3日目のロールパンのもっちりさは、30分〜6時間放置するともっちりさが徐々に増加し、6時間〜18時間放置すると前記増加したもっちりさを持続し、24時間放置すると保存2日目におけるもっちりさが大きく増している。保存4日目は30分放置させたロールパンはもっちりさが一時減退するが、放置時間が30分〜24時間と長く放置する程もっちりさが増加し、低温保湿処理工程を行わないロールパンに比べもっちりさが増していることを示している。
上記図4及び図5から、低温保湿処理工程における放置時間を30分〜24時間とした場合、保存2日目〜保存4日目のパンの物性は、(0.5H:保存4日目を除き)柔らかくもっちりさのあるロールパンとなることが分かる。
図18に示す表1は、ホットドッグ用ロールパンについて、低温保湿処理工程を行わなかった場合と低温保湿処理工程を30分〜24時間行った場合の製品評価表である。
上記表1より明らかなように、発酵条件と焼成時間を同一にして焼成し、その後冷却したホットドッグ用ロールパンは、低温保湿処理工程を行わない場合と行った場合では、外観品質、焼色、内相についてはほとんど差違がないが、ロールパンのボリュームについては、
1.低温保湿処理工程を行わないロールパンのボリュームは、324.88cc
2.低温保湿処理工程におけるパンの放置時間が30分の場合、ロールパンのボリュームは、328.09cc
i.低温保湿処理工程におけるパンの放置時間が6時間の場合、ロールパンのボリュームは、336.65cc
j.低温保湿処理工程におけるパンの放置時間が12時間の場合、ロールパンのボリュームは、343.44cc
k.低温保湿処理工程におけるパンの放置時間が18時間の場合、ロールパンのボリュームは、344.55cc
l.低温保湿処理工程におけるパンの放置時間が24時間の場合、ロールパンのボリュームは、345.21cc
となっており、ホットドッグ用ロールパンAのボリュームは、低温保湿処理工程に30分以上放置すると放置時間が長い程増加し、また、食感・風味については、低温保湿処理工程を行わないロールパンより、低温保湿処理工程におけるパンの放置時間が30分〜24時間のものは、ロールパンを食したときのしっとり感と口溶けの良さにおいて優れた製品となった。
図19に示す表2は、あんぱんについて、低温保湿処理工程を行わなかった場合と低温保湿処理工程を30分〜24時間行った場合の製品評価表である。
上記表2より明らかなように、発酵条件と焼成時間を同一にして焼成し冷却したあんぱんについて、低温保湿処理工程を行わない場合と行った場合では、外観品質、焼色、内相についてはほとんど差違がないが、食感・風味については、低温保湿処理工程を18時間〜24時間放置させて行うことにより、しっとりとして口どけが良い食感を味わうことができるあんぱんとなった。
次に、図6〜図17は、サンドロール(ロールパンB)について、設定温度を15℃、設定湿度を98%(小数点で表すと0.98)に設定して低温保湿処理工程を行った場合と、焼成後冷却が完了したロールパンBの水分活性値が0.94近辺であることから、湿度を94%(小数点で表すと0.94)に設定した低温保湿処理工程を行った場合の測定結果を示したものである。
図6は、ロールパンBのクラム部分の柔らかさを測定したもので、製品保存日数(日)を横軸に取り、硬さを縦軸に表したもので、低温保湿処理工程の条件を変えて該処理工程を行ったロールパンBについて、包装後20℃で保存した日数が1日目は低温保湿処理工程を行ったものと行わなかったものの硬さの差は殆どないが、2日目からわずかに硬さを増して行くが、低温保湿処理工程を長く行ったもの程柔らかさが持続し、低温保湿処理工程を行わなかったものは硬さが増している。製品保存日数が3日、4日と長くなるにつれ、低温保湿処理工程を行わなかったものと長い時間該工程を行ったものとの差が顕著になっている。
これに対し、設定湿度を94%として測定した図7では、20℃で保存した日数が1日目から4日目になるに従い低温保湿処理工程を行った時間にほとんど関係なく次第にクラム部分が硬くなっている。
図8は、低温保湿処理工程後に包装したロールパンBの20℃で保存した日数4日目の硬さを測定したもので、横軸に低温保湿処理工程を行った時間、縦軸に硬さを取って表し、設定湿度98%で低温保湿処理工程を行った場合、放置時間を長く行った製品程柔らかさが持続し、低温保湿処理工程を行う効果が有ることを証明している。そして、設定湿度を98%で低温保湿処理工程を24時間行った製品は、20℃で製品を保存した日数が4日の硬さが、低温保湿処理工程を行っていない製品の2日時点での硬さと同等であった。
これに対し、設定湿度を94%として測定した図9では、低温保湿処理工程を行った時間を長くしても当初は柔らかさが増すが、8時間以上長く行っても柔らかさはほとんど変わらず、水分活性値と同程度の湿度94%(0.94)で低温保湿処理工程を行っても効果は極めて小さいことが分かる。
図10は、設定湿度を98%としてパン全体及びクラム部分の水分を測定したもので、横軸に低温保湿処理工程を行う時間、縦軸に水分を表したもので、低温保湿処理工程を行う時間が0時間から6時間までは、パン全体の水分は若干低下傾向にあり、クラム部分は徐々に水分が増加傾向を示し、低温保湿処理工程が6時間を超えるとパン全体もクラム部分も水分が急速に増加し始め、12時間以上行った製品はパン全体もクラム部分も大幅に水分が増加することを示している。これに対し、設定湿度を94%として測定した図11では、低温保湿処理工程を行う時間が5時間を越えるとパン全体の水分が増加傾向を示すが、クラム部分は低温保湿処理工程を行う時間が16時間まではほとんど変化がなく、16時間を超えたあたりから水分の上昇がみられる程度である。
図12は、ロールパンBのパン全体及びクラム部分の水分活性を設定湿度を98%として低温保湿処理工程を行った場合を測定したもので、横軸に低温保湿処理工程を行う時間、縦軸に水分活性値を表したもので、低温保湿処理工程を行う時間が0時間から6時間まではパン全体の水分活性値は殆ど変化がなく、クラム部分の水分活性値はわずかに増加し、低温保湿処理工程を行う時間が6時間を超え12時間以上行ったものは、パン全体及びクラム部分の水分活性値が水分と同様に大きく増加していることが分かる。
これに対し、設定湿度を94%として測定した図13では、クラム部分の水分活性値の上昇はわずかで、低温保湿処理工程を行う時間が長くなってもその増加はわずかで、パン全体では0〜16時間は水分活性値の増加はわずかであるが、16時間以上になると急増している。
図14及び図16は、低温保湿処理工程を行う時間と製品重量と製品体積の変化を測定したもので、設定湿度98%で低温保湿処理工程を長く行った製品程製品重量が増加し、製品体積は低温保湿処理工程を長く行った製品程わずかに増加している。
これに対し、設定湿度を94%として測定した図15、図17では、低温保湿処理工程を行う時間が長くなっても製品重量がわずかに増加する程度であり、設定湿度を98%に設定した場合の略二分の一である。また、製品体積についてはほとんど増加はない。
上記より、本発明のパンの製造方法によれば、少なくともパン生地を焼成する焼成工程と、焼成物を冷却する冷却工程を行う製パン工程において、前記冷却工程にて冷却が完了した焼成物を、未包装の状態で、低温高湿度の雰囲気中に所定時間放置する低温保湿処理工程を行うことにより、パンの表層部の水分の変化が生じ、細胞の膨圧が維持される等パンの物性が改良される。その結果、生地表面の乾燥を防止できるため、パンの老化を遅らせ、パンのボリュームの向上と、しっとりと口どけの良いソフトな食感を維持でき、日保ちのよいパンを製造することができる。
低温保湿処理工程における雰囲気の相対湿度と水分活性値との関係は、図6、図8、図10、図12、図14、図16に示された測定値と、図7、図9、図11、図13、図15、図17に示された測定値とを対比すれば、水分活性値より相対湿度を高くした雰囲気中に焼成物を放置し低温保湿処理工程を行うと、パンの物性の改良に効果があることが明らかである。
特に、温度14℃〜16℃、湿度95%〜99%の低温高湿度雰囲気中にて低温保湿処理工程を行うと効果が明確に現れた。
また、微細化した水を低温保湿処理工程の雰囲気中に放散させ、低温で高湿度の安定した雰囲気を作成できるので、パン表面に結露が生じることもなく低温で98%前後の高湿度の中で、低温保湿処理工程を行うことができ、上記の品質の優れた日保ちの良いパンを提供することができる。
なお、この発明は上記実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の形態を実施しうるものである。
図1は、この発明の製パン工程の一例を示す説明図である。 図2は、ロールパンAを低温保湿処理工程に放置する時間と歩留まりの関係を示す図である。 図3は、ロールパンAを低温保湿処理工程に放置する時間と水分活性値の関係を示す図である。 図4は、ロールパンAを低温保湿処理工程に放置する時間と硬さの関係を示す図である。 図5は、ロールパンAを低温保湿処理工程に放置する時間と凝集性の関係を示す図である。 図6は、湿度98%の雰囲気で低温保湿処理工程を行った場合のロールパンBについて、包装後20℃で製品を保存した日数とクラム部分の硬さのの関係を示す図である。 図7は、湿度94%の雰囲気で低温保湿処理工程を行った場合のロールパンBについて、包装後20℃で製品を保存した日数とクラム部分の硬さのの関係を示す図である。 図8は、湿度98%の雰囲気で低温保湿処理工程を行った場合の低温保湿処理工程に放置する時間と製品保存日数4日目時点のクラム部分の硬さの関係を示す図である。 図9は、湿度94%の雰囲気で低温保湿処理工程を行った場合の低温保湿処理工程に放置する時間と製品保存日数4日目時点のクラム部分の硬さの関係を示す図である。 図10は、湿度98%の雰囲気で低温保湿処理工程を行った場合の低温保湿処理工程に放置する時間とパン全体及びクラム部分の水分の関係を示す図である。 図11は、湿度94%の雰囲気で低温保湿処理工程を行った場合の低温保湿処理工程に放置する時間とパン全体及びクラム部分の水分の関係を示す図である。 図12は、湿度98%の雰囲気で低温保湿処理工程を行った場合の低温保湿処理工程に放置する時間とパン全体及びクラム部分の水分活性値の関係を示す図である。 図13は、湿度94%の雰囲気で低温保湿処理工程を行った場合の低温保湿処理工程に放置する時間とパン全体及びクラム部分の水分活性値の関係を示す図である。 図14は、湿度98%の雰囲気で低温保湿処理工程を行った場合の低温保湿処理工程に放置する時間と製品重量の関係を示す図である。 図15は、湿度94%の雰囲気で低温保湿処理工程を行った場合の低温保湿処理工程に放置する時間と製品重量の関係を示す図である。 図16は、湿度98%の雰囲気で低温保湿処理工程を行った場合の低温保湿処理工程に放置する時間と製品体積の関係を示す図である。 図17は、湿度94%の雰囲気で低温保湿処理工程を行った場合の低温保湿処理工程に放置する時間と製品体積の関係を示す図である。 図18は、ホットドッグ用ロールパンについての製品評価を示す表1である。 図19は、あんぱんについての製品評価を示す表2である。

Claims (12)

  1. 少なくともパン生地を焼成する焼成工程と、前記焼成工程にて作製された焼成物を冷却する冷却工程を行うパンの製造方法において、該パンの製造方法は、前記冷却工程にて冷却が完了した焼成物を低温高湿度雰囲気中に所定時間放置する低温保湿処理工程を行うことを特徴とするパンの製造方法。
  2. 前記パンの製造方法は、前記低温保湿処理工程の後に、低温保湿処理された焼成物を包装する包装工程を行うものである請求項1記載のパンの製造方法。
  3. 前記低温保湿処理工程は、前記冷却が完了した焼成物の水分活性値より高い湿度に設定した高湿度雰囲気中にて行うものである請求項1または2に記載のパンの製造方法。
  4. 前記低温保湿処理工程は、温度20℃以下、湿度90%以上の低温高湿度雰囲気中にて行うものである請求項1ないし3のいずれかに記載のパンの製造方法。
  5. 前記低温保湿処理工程が、温度14℃〜16℃、湿度95%〜99%の低温高湿度雰囲気中にて行うものである請求項1ないし3のいずれかに記載のパンの製造方法。
  6. 前記低温保湿処理工程は、冷却が完了した前記焼成物を低温高湿度の雰囲気中において、30分以上放置するものである請求項1ないし5のいずれかに記載のパンの製造方法。
  7. 前記低温保湿処理工程は、冷却が完了した前記焼成物を低温高湿度の雰囲気中において、30分〜24時間放置するものである請求項1ないし5のいずれかに記載のパンの製造方法。
  8. 前記低温保湿処理工程は、微細化した水を前記焼成物が放置される低温雰囲気中に放散させることにより形成された低温高湿度の雰囲気中にて行うものである請求項1ないし7のいずれかに記載のパンの製造方法。
  9. 前記低温保湿処理工程は、超微細ミストを前記焼成物が放置される低温雰囲気中に放散させることにより形成された低温高湿度の雰囲気中にて行うものである請求項1ないし7のいずれかに記載のパンの製造方法。
  10. 前記微細化した水または前記超微細ミストの大きさは、80〜100ナノメーターである請求項8または9記載のパンの製造方法。
  11. 前記冷却工程は、前記焼成物の中心温度が、25℃以下となるように行うものである請求項1ないし10のいずれかに記載のパンの製造方法。
  12. 前記低温保湿処理工程は、前記冷却が完了した焼成物に自由水を浸透させ、初期の水分活性値が0.92〜0.96であるパンに対し、+0.001〜+0.020となるように行うものである請求項1ないし11のいずれかに記載のパンの製造方法。
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