本発明は、新規なビニルエーテル系ABA型トリブロック共重合体の製造方法に関する。更に詳しくは、ポリビニルエーテル系重合体をソフトセグメントとして含み、ポリオキシスチレン系重合体をハードセグメントとして含むABA型トリブロック共重合体の製造方法に関する。
ヒドロキシスチレンをはじめとするポリオキシスチレン系重合体は、各種の産業分野で機能性高分子材料として使用されており、中でも電子材料の分野、特に半導体レジスト用樹脂成分の原料として使用されている。また、半導体素子などの層間絶縁膜や表面保護膜に用いられる感光性樹脂成分としても検討されている。近年、半導体素子の高集積化、大型化、封止樹脂パッケージの薄型化、小型化、半田リフローによる表面実装への移行等により、ポリオキシスチレン系重合体においても、物性の更なる向上や新規な物性の付与が望まれており、ポリオキシスチレン系重合体と共重合可能な単量体とを共重合して種々の構造単位を導入する試みがなされている。
なかでも、ポリヒドロキシスチレン系重合体をAブロックとし、低級アルキル系のポリビニルエーテル系重合体をセンターブロック(Bブロック)とするABA型トリブロック共重合体は、ポリヒドロキシスチレンの熱衝撃性を改善することができるとともに、ビニルエーテル由来のエーテル結合を有することで基板への密着性や現像液への溶解性にも優れ、半導体素子の層間絶縁膜、表面保護膜などの用途に適した感光性樹脂成分の原料として好適に用いることができる。
ポリオキシスチレン系重合体とポリビニルエーテル系重合体のブロック共重合体を得る方法としては、ポリスチレン系重合体と、ポリビニルエーテル系重合体とを異なる重合条件下で別々に重合し、ポリビニルエーテル系重合体の末端に置換基を導入して、これを介してポリスチレン系重合体を連結させる手法が種々検討されている。
例えば、特許文献1では、トリメチルシリル基等で保護した水酸基を有する重合開始剤を用いてビニルエーテルをリビングカチオン重合して重合体末端に水酸基を含むポリビニルエーテル系重合体を得、スチレン類をカチオン重合する際にこれを停止剤として用いることにより、ポリスチレン系重合体成分とポリビニルエーテル系重合体成分からなるブロック共重合体を製造する方法が開示されている。しかしながら、特許文献1で具体的に合成が示されているのはポリスチレンとポリ(t−ブチルビニルエーテル)のジブロック共重合体及びポリスチレンのホモポリマーの混合物であり、当該方法では、ポリビニルエーテル系重合体とポリオキシスチレン系重合体のABA型トリブロック共重合体のみを効率よく合成することはできなかった。また、重合体末端に水酸基を含むポリビニルエーテルを停止剤として用いて得られるブロック共重合体は、ポリスチレン系重合体成分とポリビニルエーテル系重合体成分とがエーテル結合を介して連結されるため、熱的に不安定であるという欠点があった。
また特許文献2では、側鎖にチオカルボニルエステル結合を有するアルケニルエーテルを開始剤とし、特定のチオカルボン酸塩またはチオエステル化合物を停止剤として用いてビニルエーテルをリビングカチオン重合し、重合体の両末端にチオール基を有するポリアルケニルエーテルを得る方法が開示されている。そして、当該方法により得られた両末端にチオール基を有するポリアルケニルエーテルを連鎖移動剤として使用して、ラジカル重合可能な種々のビニルポリマーを重合することにより、ポリアルケニルエーテルをセンターブロック(Bブロック)とするABA型トリブロック共重合体を得ることができると記載されている。しかしながら、特許文献2では、具体的なブロック共重合体の合成例は示されておらず、ポリビニルエーテルとポリオキシスチレン系重合体のABA型トリブロック共重合体の重合方法については何ら開示されていない。また、重合体末端にチオール基を有するポリアルケニルエーテルを連鎖移動剤とて用いた場合、得られるABA型トリブロック共重合体は、AブロックとBブロックとが硫黄原子を介して結合しているため熱的に不安定であり、乾燥時、あるいは加熱時に着色しやすいという問題があった。また、ラジカル重合による方法は、重合が簡便ではあるが、分子量分布を制御することができないため狭分散性の共重合体を得ることができないと言う問題があった。
また、何れの方法においてもポリビニルエーテル系重合体からなるセグメントとポリオキシスチレン系重合体からなるセグメントとを異なる工程で合成する必要があり、製造方法が煩雑であるという問題点があった。
一方、非特許文献1では、ルイス酸の存在下にビニルエーテル系単量体をリビングカチオン重合した後に、続けてオキシスチレン系単量体をリビングカチオン重合させることにより、ポリビニルエーテル系重合体とポリオキシスチレン系重合体からなるジブロック共重合体を得る方法が開示されている。当該方法によれば、ビニルエーテル系セグメントとオキシスチレン系セグメント間の結合は単結合となるため、得られたブロック共重合体は熱的に安定なものとなる。しかしながら、リビングカチオン重合ではオキシスチレン系セグメントからビニルエーテル系セグメントへの重合は進行しないため、オキシスチレン系単量体、ビニルエーテル系単量体、オキシスチレン系単量体の順で重合させることができず、従って、ポリビニルエーテル系重合体をセンターセグメントとするABA型トリブロック共重合体を得ることはできなかった。また、2種以上の単量体を逐次重合させてブロック共重合体を得るためには、各単量体の重合経過をモニターして反応の進行に応じて単量体を追加する必要があり、また、異なる単量体を重合させる際には、各単量体のカチオン重合性に応じてルイス酸の追加や変更等を行う必要があるため製造工程が複雑となり、再現性よく重合反応を行うことが難しかった。
このように、ポリビニルエーテル系重合体とポリオキシスチレン系重合体とを含むABA型トリブロック共重合体は報告された例は無く、ポリビニルエーテル系重合体をセンターブロックとする熱的にも安定なABA型トリブロック共重合体及の簡便な製造方法の開発が求められている。
特開2001−19770号公報
特開平6−116330号公報
Macromolecules1991,24,2658
本発明は、ポリビニルエーテル系重合体とポリオキシスチレン系重合体とを含む新規なビニルエーテル系ABA型トリブロック共重合体の簡便な製造方法を提供することを目的としている。
本発明者らは鋭意研究した結果、2官能性開始剤、ルイス酸及び溶媒の存在下に、オキシスチレン系単量体とビニルエーテル系単量体の混合物を添加し、オキシスチレン系単量体の反応速度定数kOSとビニルエーテル系単量体の反応速度定数kVEとの反応速度定数比kVE/kOSが特定の範囲となるような条件下でリビングカチオン重合させることにより、ポリビニルエーテル系重合体をセンターブロックとする新規なビニルエーテル系ABA型トリブロック共重合体を得ることができ、また、得られたトリブロック共重合体は、A成分とB成分とが単結合により結合されているため熱的にも安定であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、2官能性開始剤、ルイス酸及び溶媒の存在下に、オキシスチレン系単量体とビニルエーテル系単量体の混合物を添加し、オキシスチレン系単量体の反応速度定数kOSとビニルエーテル系単量体の反応速度定数kVEとの反応速度定数比がkVE/kOS≧1650となる条件下でリビングカチオン重合させて、ポリビニルエーテル系重合体をセンターブロックとするABA型トリブロック共重合体を得ることを特徴とするビニルエーテル系ABA型トリブロック共重合体の製造方法を提供するものである。
(式中、R1は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R2は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルコキシアルキル基、炭素数2〜6のアシル基、炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基、炭素数2〜6のアルコキシカルボニルアルキル基、または炭素数2〜6のアルキルシリル基のいずれかを表す。)で表されるオキシスチレン系単量体を用いることができる。
また、ビニルエーテル系単量体としては、次の一般式(2)
[式中、R3は炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖アルキル基、アルキル基の全部若しくは一部の水素がフッ素に置換された炭素数1〜6の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基であるフルオロアルキル基、炭素数2〜6のアルコキシアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、または
−(CH2)m−X
(ここで、mは0、1、2または3であり、Xは未置換のフェニル基、或いは、フェニル基の一つまたはそれ以上の水素が、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基、アルキル基の全部若しくは一部の水素がフッ素に置換された炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基であるフルオロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、またはハロゲン原子によって置換されたフェニル基である)で表されるアリール基またはアリールアルキル基を表す]
で表されるビニルエーテル系単量体を用いることができる。
(式中、R4は炭素数1〜10のアルキレン基を表し、R5は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す)
で表される構造を有するものを用いることができる。
また、ルイス酸としては、有機金属ハロゲン化物と金属ハロゲン化物の混合系を用いることが好ましい。
本発明の方法によれば、従来合成が困難であったポリビニルエーテル系重合体をセンターブロック(Bブロック)とし、ポリオキシスチレン系重合体をその両端部(Aブロック)に有する新規なビニルエーテル系ABA型トリブロック共重合体を、簡便な方法で製造することができる。
また、本発明のビニルエーテル系ABA型トリブロック共重合体の製造方法は、すべての反応原料をはじめから一つの反応槽に仕込んだ状態で共重合体の製造を行うことができるため、製造工程や製造設備を大幅に簡略化でき、従来の種々の方法に比べて工業的に極めて有利である。
以下に、本発明のビニルエーテル系ABA型トリブロック共重合体の製造方法について具体的に説明する。
本発明の製造方法に用いるオキシスチレン系単量体としては上記一般式(1)で表されるオキシスチレン系単量体が好ましい。一般式(1)におけるR1の定義において、炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基等が挙げられる。
また、一般式(1)のR2の定義において、炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、n−アミル基、イソアミル基等が挙げられ、炭素数2〜6のアルコキシアルキル基としてはメトキシ基メチル基、エトキシメチル基、1−メトキシエチル基、1−エトキシエチル基、1−メトキシプロピル基、2−テトラヒドロピラニル基、2−テトラヒドロフラニル基等が挙げられ、炭素数2〜6のアシル基としてはアセチル基、プロピオニル基、tert−ブチルカルボニル基などが挙げられ、炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基としてはメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基などが挙げられ、炭素数2〜6のアルコキシカルボニルアルキル基としてはtert−ブトキシカルボニルメチル基などが挙げられ、炭素数2〜6のアルキルシリル基としてはトリメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基等が挙げられる。
また、これらの置換基は、酸により容易に脱離して水酸基を与えることから、得られたトリブロック共重合体を酸触媒により脱保護して、ヒドロキシスチレン系繰り返し単位をAセグメントに含むトリブロック共重合体を得ることもできる。
一般式(1)で表されるオキシスチレン系単量体としては、例えば、p−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、o−ヒドロキシスチレン、p−イソプロペニルフェノール、m−イソプロペニルフェノール、o−イソプロペニルフェノール等のヒドロキシスチレン類;p−メトキシスチレン、m−メトキシスチレン、p−エトキシスチレン、m−エトキシスチレン、p−プロポキシスチレン、m−プロポキシスチレン、p−イソプロポキシスチレン、m−イソプロポキシスチレン、p−n−ブトキシスチレン、m−n−ブトキシスチレン、p−イソブトキシスチレン、m−イソブトキシスチレン、p−tert−ブトキシスチレン、m−tert−ブトキシスチレン等のアルコキシスチレン類;p−メトキシメトキシスチレン、m−メトキシメトキシスチレン、p−(1−エトキシエトキシ)スチレン、m−(1−エトキシエトキシ)スチレン、p−(2−テトラヒドロピラニル)オキシスチレン、m−(2−テトラヒドロピラニル)オキシスチレン等のアルコキシアルキルオキシスチレン類;p−アセトキシスチレン、m−アセトキシスチレン、p−tert−ブチルカルボニルオキシスチレン、m−tert−ブチルカルボニルオキシスチレン等のアルカノイルオキシスチレン類;p−メトキシカルボニルオキシスチレン、m−メトキシカルボニルオキシスチレン、p−tert−ブトキシカルボニルオキシスチレン、m−tert−ブトキシカルボニルオキシスチレン等のアルコキシカルボニルオキシスチレン類;p−tert−ブトキシカルボニルメチルオキシスチレン、m−tert−ブトキシカルボニルオキシメチルスチレン等のアルコキシカルボニルアルキルオキシスチレン類;p−トリメチルシリルオキシスチレン、m−トリメチルシリルオキシスチレン、p−tert−ブチルジメチルシリルオキシスチレン、m−tert−ブチルジメチルシリルオキシスチレン等のアルキルシリルオキシスチレン類等が挙げられる。
なかでも、p−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−イソプロペニルフェノール、m−イソプロペニルフェノール、p−tert−ブトキシスチレン、m−tert−ブトキシスチレン、p−アセトキシスチレン、m−アセトキシスチレン等が好ましく用いられる。
また、本発明の製造方法に用いるビニルエーテル系単量体としては上記一般式(2)で表されるビニルエーテル系単量体が好ましい。式(2)におけるR3の定義において、炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、n−アミル基、イソアミル基等が挙げられ、炭素数1〜6のフルオロアルキル基としてはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基などが挙げられ、炭素数2〜6のアルコキシアルキル基としてはメトキシメチル基、エトキシメチル基、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−テトラヒドロピラニル基、2−テトラヒドロフラニル基等が挙げられ、炭素数5〜10のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、ビシクロ[2.2.2]オクチル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル基、アダマンチル基などが挙げられ、アリール基としてはフェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、フルオロフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基等が挙げられ、アリールアルキル基としてはベンジル基、メチルベンジル基、エチルベンジル基、メトキシベンジル基、エトキシベンジル基、フルオロベンジル基、トリフルオロメチルベンジル基等が挙げられる。
一般式(2)で表されるビニルエーテル系単量体としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、sec−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、n−アミルビニルエーテル、イソアミルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;トリフルオロメチルビニルエーテル、ペンタフルオロエチルビニルエーテル、2,2,2−トリフルオロエチルビニルエーテル等のフルオロアルキルビニルエーテル類;2−メトキシエチルビニルエーテル、2−エトキシエチルビニルエーテル、2−テトラヒドロピラニルビニルエーテル、2−テトラヒドロフラニルビニルエーテル等のアルコキシアルキルビニルエーテル類;シクロペンチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、シクロヘプチルビニルエーテル、シクロオクチルビニルエーテル、2−ビシクロ[2.2.1]ヘプチルビニルエーテル、2−ビシクロ[2.2.2]オクチルビニルエーテル、8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニルビニルエーテル、1−アダマンチルビニルエーテル、2−アダマンチルビニルエーテル等のシクロアルキルビニルエーテル類;フェニルビニルエーテル、4−メチルフェニルビニルエーテル、4−トリフルオロメチルフェニルビニルエーテル、4−フルオロフェニルビニルエーテル等のアリールビニルエーテル類;ベンジルビニルエーテル、4−フルオロベンジルビニルエーテル等のアリールアルキルビニルエーテル類等が挙げられる。
特に、ポリオキシスチレン系重合体の可撓性や耐衝撃性を改善するために、ソフトセグメントとしてポリビニルエーテル系重合体を導入する場合は、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、sec−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、n−アミルビニルエーテル、イソアミルビニルエーテル、トリフルオロメチルビニルエーテル、ペンタフルオロエチルビニルエーテル、2,2,2−トリフルオロエチルビニルエーテル、2−メトキシエチルビニルエーテル、2−エトキシエチルビニルエーテル等を好ましく用いることができ、特にメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、sec−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、n−アミルビニルエーテル、イソアミルビニルエーテル等の低級アルキルビニルエーテル類を好ましく用いることができる。
これらのオキシスチレン系単量体及びビニルエーテル系単量体は、それぞれ1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
2官能性開始剤としては、前記一般式(3)で表される化合物が好ましい。一般式(3)においてR4で表される炭素数1〜10のアルキレン基の具体的な例としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、シクロへキシレン基などが挙げられる。また、R5の定義における炭素数1〜4のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基などが挙げられる。
一般式(3)で表される化合物の具体的な例としては、1,1−ビス(1−アセトキシメトキシ)メタン、1,2−ビス(1−アセトキシメトキシ)エタン、1,3−ビス(1−アセトキシメトキシ)プロパン、1,4−ビス(1−アセトキシメトキシ)エタン、1,2−ビス(1−アセトキシメトキシ)ブタン、1,5−ビス(1−アセトキシメトキシ)エタン、1,2−ビス(1−アセトキシメトキシ)ペンタン、1,6−ビス(1−アセトキシメトキシ)ヘキサン、1,7−ビス(1−アセトキシメトキシ)ヘプタン、1,8−ビス(1−アセトキシメトキシ)オクタン、1,9−ビス(1−アセトキシメトキシ)ノナン、1,10−ビス(1−アセトキシメトキシ)デカン、1,1−ビス(1−アセトキシエトキシ)メタン、1,2−ビス(1−アセトキシエトキシ)エタン、1,3−ビス(1−アセトキシエトキシ)プロパン、1,4−ビス(1−アセトキシエトキシ)ブタン、1,5−ビス(1−アセトキシエトキシ)ペンタン、1,6−ビス(1−アセトキシエトキシ)ヘキサン、1,7−ビス(1−アセトキシエトキシ)ヘプタン、1,8−ビス(1−アセトキシエトキシ)オクタン、1,9−ビス(1−アセトキシエトキシ)ノナン、1,10−ビス(1−アセトキシエトキシ)デカン、1,4−ビス(1−アセトキシメトキシ)シクロヘキサン、1,4−ビス(1−アセトキシエトキシ)シクロヘキサンなどが挙げられる。なかでも、1,4−ビス(1−アセトキシエトキシ)ブタン、1,4−ビス(1−アセトキシエトキシ)シクロヘキサン等が好ましく用いられる。これらの化合物は、1,4−ブタンジオールジビニルテーテルまたは1,4−シクロヘキサンジオールジビニルエーテルに酢酸を付加させることにより得られる。
2官能性開始剤の添加量には特に制限はなく、目的とする共重合体の分子量により適宜決定される。
ルイス酸としては、オキシスチレン系単量体とビニルエーテル系単量体の両者がカチオン重合可能な一般的に用いられるルイス酸を特に制限なく使用することができる。具体的には、例えば、EtAlCl2、Et1.5AlCl1.5等の有機金属ハロゲン化物、TiCl4、TiBr4、BCl3、BF3、BF3・OEt2、SnCl2、SnCl4、SbCl5、SbF5、WCl6、TaCl5、VCl5、FeCl3、ZnBr2、AlCl3、AlBr3等の金属ハロゲン化物を好適に使用することができる。これらのルイス酸は単独で使用してもよいし、複数のルイス酸を併用してもよいが、有機金属ハロゲン化物と金属ハロゲン化物を組み合わせて用いることがより好ましく、特に、EtAlCl2とSnCl4の混合系が好ましい。
ルイス酸の使用量は、特に限定されないが、使用するビニルエーテル系単量体の重合特性あるいは重合濃度等を考慮して設定することができる。通常はビニルエーテル系単量体に対して0.1〜100モル%で使用することができ、好ましくは1〜50モル%の範囲で使用することができる。
溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、デカン、ヘキサデカン、イソペンタン、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒;塩化エチレン、塩化メチレン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素溶媒;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類溶媒が挙げられる。これらの溶媒の中でも、トルエン、塩化メチレン、THFが好適に使用される。これらの溶媒は、単独で用いても良いし、2種類以上を組み合わせで用いても良い。
本発明方法においては、オキシスチレン系単量体の反応速度定数kOSとビニルエーテル系単量体の反応速度定数kVEとの反応速度定数比がkVE/kOS≧1650となるような条件とすることが必要である。このような条件で反応させることにより、オキシスチレン系単量体とビニルエーテル系単量体が共存する条件下にもかかわらず、はじめにビニルエーテル系単量体のみが重合し、ビニルエーテル系単量体がすべて消費された後でオキシスチレン系単量体の重合がおこるため、ABA型トリブロック体のみを得ることができる。一方、kVE/kOS<1650という条件の場合には、ビニルエーテル系単量体が完全に消費される前にオキシスチレン系単量体の反応が進行し、重合途中で連鎖移動が発生するためABA型トリブロック共重合体のみを得ることができない。
オキシスチレン系単量体の反応速度定数kOSとビニルエーテル系単量体の反応速度定数kVEは、オキシスチレン系単量体とビニルエーテル系単量体が共存する重合条件下において求められるものであり、単量体の種類のほか、重合温度、開始剤、触媒、溶媒の種類などさまざまな要因で変動する。
kVE/kOS≧1650となるような条件が発現可能であれば、単量体、重合温度、開始剤、触媒、溶媒の組合せは特に限定されないが、単量体としては、より反応速度定数の大きなビニルエーテル系単量体とより反応速度定数の小さなオキシスチレン系単量体を組み合わせたほうが、反応速度定数比が大きくなるため好ましい。また、重合温度は低いほうが反応速度定数比をより大きくすることができるため好ましいが、低すぎるとオキシスチレン系単量体のカチオン重合が阻害される場合がある。
本発明の好適な一例としてkVE/kOS≧1650を実現するための組合せを示せば、単量体としてエチルビニルエーテルとp−tert−ブトキシスチレン、2官能性開始剤として1,4−ビス(1−アセトキシエトキシ)ブタン、溶媒としてトルエンを用い、重合温度として−40℃で重合を行う方法が挙げられる。
重合反応は、反応容器に溶媒とともに2官能性開始剤とルイス酸を加え、系内の反応温度を調整した後、オキシスチレン系単量体とビニルエーテル系単量体の混合物を加えて、撹拌し重合反応を進行させる。上記のkVE/kOS≧1650の条件を満足する場合には、反応開始後直ちにビニルエーテル系単量体の重合反応が進行する。そして、ビニルエーテル系単量体の重合反応が完全に終了した後に、引き続きオキシスチレン系単量体が生成したポリビニルエーテル系重合体の末端部から重合反応を開始する。
このようにして、ポリビニルエーテル系重合体をセンターブロック(Bブロック)とし、ポリオキシスチレン系重合体をその両端部(Aブロック)に有する、セグメントAとセグメントBとが単結合により結合された新規なビニルエーテル系ABA型トリブロック共重合体を得ることができる。
本発明の製造方法によれば、重合がブロック的に進行し、連鎖移動物質が発生しないため、得られるトリブロック共重合体の分散度(Mw/Mn)は1.3以下となる。更に、本発明の製造方法は、各種原料を反応の最初の段階から仕込んだ状態で行うことができるため、製造工程や製造設備を大幅に簡略化でき、工業的に有利である。
以下に実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例において得られた共重合体の物性評価は以下の方法により行った。
平均共重合組成:13C−NMRの測定結果から求めた。
重量平均分子量Mw及び分子量分布Mw/Mn:
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により標準ポリスチレン検量
線から求めた[RI検出器;カラムはShodex社製KF−801+KF−805
L;溶離液はテトラヒドロフラン]。
実施例1:
p−tert−ブトキシスチレン/エチルビニルエーテル/p−tert−ブト
キシスチレン系トリブロック共重合体の製造。
三方活栓をつけたガラス容器を準備し、アルゴン置換後、アルゴン雰囲気下で加熱してガラス容器内の吸着水を除いた。容器内に1,4−ビス(1−アセトキシエトキシ)ブタン5.1ミリモーラー(以下mMと略記する。)、酢酸エチル2.55モーラー(以下Mと略記する。)、EtAlCl2のトルエン溶液(6.12mM)を加え、系内を0℃に冷却した後、1時間攪拌することで反応開始種を生成させた。次にSnCl4のトルエン溶液(20.4mM)を加えて系内を−40℃に冷却した後、エチルビニルエーテル(以下EVEと記載する。)0.345Mとp−tert−ブトキシスチレン(以下、PTBOSと記載する。)0.345Mの混合物を加え、22時間攪拌して重合を行った。EVE、PTBOSの転化率を時分割にガスクロマトグラフィー(GC)を用いてモニタリングし、PTBOSモノマーの転換が終了した時点で重合反応系内にメタノールを加えて反応を停止した。重合4分後のEVEの転化率は100%であり、PTOBSの転化率は0%であったことからトリブロック共重合体が生成していることを確かめた。またPTBOSの反応速度定数kTBOSとEVEの反応速度定数kEVEよりkEVE/kTBOSは1850と算出された。平均共重合組成(モル比)はPTBOS/EVE=50/50であり、重量平均分子量Mwは16800であり、数平均分子量Mnは13500であり、分子量分布Mw/Mnは1.25であった。
実施例2:
p−tert−ブトキシスチレン/エチルビニルエーテル/p−tert−ブト
キシスチレン系トリブロック共重合体の製造
重合方法は、実施例1の重合温度を−30℃にした以外は同様である。重合4分後のEVEの転化率は100%であり、PTOBSの転化率は0%であったことからトリブロック共重合体が生成していることを確かめた。またPTBOSの反応速度定数kTBOSとEVEの反応速度定数kEVEよりkEVE/kTBOSは1650と算出された。平均共重合組成はPTBOS/EVE=50/50であり、重量平均分子量Mwは17800であり、数平均分子量Mnは13700であり、分子量分布Mw/Mnは1.29であった。
比較例1:
p−tert−ブトキシスチレン/エチルビニルエーテル/p−tert−ブト
キシスチレン系トリブロック共重合体の製造
重合方法は、実施例1の重合温度を−20℃にした以外は同様である。重合2分後のEVEの転化率は97.4%であり、PTOBSの転化率は1.6%であったことからトリブロック共重合体以外の物質が生成していることを確かめた。またPTBOSの反応速度定数kTBOSとEVEの反応速度定数kEVEよりkEVE/kTBOSは1600と算出された。平均共重合組成はPTBOS/EVE=50/50であり、重量平均分子量Mwは16400であり、数平均分子量Mnは12100であり、分子量分布Mw/Mnは1.36であった。
比較例2:
p−tert−ブトキシスチレン/プロピルビニルエーテル/p−tert−ブ
トキシスチレン系トリブロック共重合体の製造
重合方法は、実施例1のエチルビニルエーテルをプロピルビニルエーテル(以下PVE)にした以外は同様である。重合30秒後のPVEの転化率は88.6%であり、PTOBSの転化率は0.2%であったことからトリブロック共重合体以外の物質が生成していることを確かめた。またPTBOSの反応速度定数kTBOSとPVEの反応速度定数kPVEよりkPVE/kTBOSは1140と算出された。平均共重合組成はPTBOS/PVE=50/50であり、重量平均分子量Mwは17800であり、数平均分子量Mnは12600であり、分子量分布Mw/Mnは1.41であった。
比較例3:
p−tert−ブトキシスチレン/イソブチルビニルエーテル/p−tert−ブ
トキシスチレン系トリブロック共重合体の製造
重合方法は、実施例1のエチルビニルエーテルをイソブチルビニルエーテル(以下IBVE)にした以外は同様である。重合1時間後のIBVEの転化率は97.4%であり、PTOBSの転化率は16.7%であったことからトリブロック共重合体以外の物質が生成していることを確かめた。またPTBOSの反応速度定数kTBOSとIBVEの反応速度定数kIBVEよりkIBVE/kTBOSは660と算出された。平均共重合組成はPTBOS/IBVE=50/50であり、重量平均分子量Mwは15600であり、数平均分子量Mnは11000であり、分子量分布Mw/Mnは1.43であった。
実施例1、2及び比較例1〜3の実施条件及びその結果をまとめて表1に示す。
表1の結果からわかるように、オキシスチレン系単量体とビニルエーテル系単量体の反応速度定数比kVE/kOSが1650以上ではトリブロック共重合体のみが生成し、分子量分布Mw/Mnは1.3以下となるが、kVE/kOSが1650に満たない場合はトリブロック共重合体以外も生成し、分子量分布Mw/Mnは1.3よりも大きくなる。
本発明の方法によって、ソフトセグメントとしてポリビニルエーテルを、ハードセグメントとしてオキシスチレン系重合体をふくむ新規なABA型トリブロック重合体を容易に、かつ効率よく得ることができ、熱衝撃性や熱安定性、溶媒類への溶解性、基板への接着性に優れた共重合体樹脂を得ることができる。この共重合体樹脂は、このような特性から半導体素子の層間絶縁膜、表面保護膜などの用途に使用される感光性樹脂の原料として有用である。