JP2010103046A - 回転陽極型x線管 - Google Patents

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Abstract

【課題】陽極ターゲットの冷却率に優れているとともに製品寿命の長期化を図ることができる回転陽極型X線管を提供する。
【解決手段】回転陽極型X線管1は、内部に冷却液20が流れる流路を有する固定体10と、ターゲット層52及び真空空洞部51bを有し陽極ターゲットを構成する円盤状の径大部610と、径小部620と、を含み、固定体の外面を囲み、固定体により回転可能に支持された回転体600と、液体金属潤滑剤70と、陰極80と、真空外囲器90と、真空空洞部の内部に収容され、蒸発及び凝縮されることによりターゲット層の熱を放散させる作動流体材200と、を備えている。上記流路は、径大部610と対向した位置及び固定体10の少なくとも1つの端部を結んだ範囲にわたっている。
【選択図】 図1

Description

この発明は、回転陽極型X線管に関する。
一般に、X線管装置は、医療診断システムや工業診断システム等に用いられている。X線管装置は、X線を放射する回転陽極型X線管と、ステータコイルと、これら回転陽極型X線管及びステータコイルを収容した筐体と、を備えている。回転陽極型X線管は、固定シャフトと、この固定シャフトを軸に回転可能に設けられた回転体と、この回転体の端部に継手部を介して設けられた陽極ターゲットと、この陽極ターゲットに対向配置された陰極と、これらを収容した真空外囲器と、この真空外囲器内に充填された冷却液とを有している。固定シャフト及び回転体間の隙間には液体金属が充填されている。
上記X線管装置の動作状態において、ステータコイルは回転体に与える磁界を発生するため、回転体及び陽極ターゲットは回転する。また、陰極は陽極ターゲットに対して電子ビームを照射する。これにより、陽極ターゲットは、電子と衝突するときにX線を放出する。
X線管装置の動作時に、陽極ターゲットは、この陽極ターゲットへの熱入力により高温になる。すなわち、陽極ターゲットは、電子ビームが照射されることにより高温になる。特に、電子が衝突される電子衝撃面(焦点)の温度が高温になる。このため、電子衝撃面の温度は陽極ターゲット材質の溶解温度以下でなくてはならない。
上記したことから、陽極ターゲットを冷却させるための技術が開発されている。例えば、電子衝突面の近くで液体金属を熱伝達流体として用いて陽極ターゲットを冷却する技術が開示されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。上記技術を用いることにより、陽極ターゲットの高冷却が可能となる。
しかしながら、上記開示された技術において、液体金属のシール部は電子衝突面近くに形成されている。電子衝突面より発生した熱はシール部に伝導するため、シール部は高温となり変形してしまう。回転体と固定シャフトとの隙間が変形してしまうため、シール部によるシール性能を十分発揮するための隙間(クリアランス)の維持が困難となるという第1の問題点がある。結果、液体金属の漏れにより、X線管に不良が生じる恐れがある。
また、およそ140mm程度の直径を有し、およそ毎分1万回転で回転する陽極ターゲットを想定した場合、凹部に充填された液体金属の運動は乱流域に達しており、液体金属により発生する摩擦損失はおよそ12kWにも相当する。従って、上記した回転陽極X線管は、回転体を回転駆動するには非常に大型のモータが必要になり、コンパクトな設計と両立させることが困難であるという第2の問題点がある。
しかしながら、上記した第2の問題点は未解決のままであった。
一方、ヒートパイプの原理を応用して陽極ターゲットの冷却を行う技術も開示されている(例えば、特許文献3参照)。
この陽極ターゲットは、内部に半径方向に延在する空洞を設けている。空洞内部には、作動流体が納められている。空洞とターゲット層(X線放射層)を隔てる隔壁が存在している。作動流体は液体状態でターゲットの回転による遠心力により、回転軸から最も離れた空洞壁付近に集められる。空洞とターゲット層を隔てる隔壁もこの集められた作動流体に浸っている。
X線を発生させるためにターゲット層に電子ビームが当たると、ターゲット層に熱が発生するが、この熱は空洞とターゲット層を隔てる隔壁を伝わって隔壁に接している作動流体(液体)に伝わる。伝熱により作動流体(液体)の温度がその沸点以上に上昇すると、作動流体が蒸発して気化するためにより多くの熱をターゲット層から放散させることができる。
蒸発した作動流体は空洞内に充満し、蒸発部よりも低い温度に冷却された空洞壁面で凝縮して液化する。その際、冷却された空洞壁面に作動流体の熱が伝達される。液化した作動流体は遠心力により再び回転軸から最も離れた空洞壁付近に集められる。空洞壁面を水冷するための流路は陽極ターゲット内部に設けられている。流路は、回転軸に沿って回転体内部に設けられた水導入路及び水排出路に連通している。
ヒートパイプの原理を応用して陽極ターゲットの冷却を行う技術は、上記した他にも開示されている(例えば、特許文献4参照)。更に、上記作動流体の材料にナトリウム等の金属を使用する技術も開示されている(例えば、特許文献5及び特許文献6参照)。
特開2001−319606号公報及び特表2005−520300号公報には、上記作動流体の材料にナトリウム等の金属を使用する技術が開示されている。
USP5541975 DE3644719 USP4165472 US2007/0297570A1 特開2001−319606号公報 特表2005−520300号公報
しかしながら、上記作動流体として水又は水に類似の冷却液を使用しているため、沸点は100℃程度と低く、医療用X線診断に使用されるX線管パワーを十分に吸収させることは困難である。更に、真空容器外部から水を真空中で回転する回転体内に導くためには、真空を維持できる回転シールを回転体に設けて、X線管の真空容器内の高真空度を維持させる必要があるが、特許文献3には全くその手段が開示されていない。
現在においても、少なくとも真空排気装置を持たない真空封止切りのX線管に応用可能な信頼できる真空回転シールは実用化がまだ行われておらず、また実用化されたとしても非常に高コストになると予想され、製品に適用する上で問題がある。
なお、特許文献4に開示されたX線管においても、X線管の内部を真空に維持させる必要があるが、その手段は開示されていない。真空を維持する場合、図示しない真空容器に真空回転シールを設ける必要があり、この場合、真空回転シールが回転体の外面を囲むように設けることで真空容器内部を真空に維持する必要がある。しかしながら、信頼できる真空回転シールは実用化がまだ行われておらず、また実用化されたとしても非常に高コストになると予想され、製品に適用する上で問題がある。
更に、上記したように、特許文献5及び特許文献6には、上記作動流体の材料にナトリウム等の金属を使用する技術が開示されている。しかし、気化した作動流体が凝縮する空洞壁を積極的に冷却する技術は開示されておらず、輻射冷却することが示されている。そのため、陽極ターゲットからの伝熱パワーが高いと空洞壁の温度が上昇し、ヒートパイプとしての冷却能力が低下してしまう。上記した理由により、上述した特許文献と同様に、医療用X線診断に使用されるX線管パワーを十分に吸収させることは困難である。
この発明は以上の点に鑑みなされたもので、その目的は、陽極ターゲットの冷却率に優れているとともに製品寿命の長期化を図ることができる回転陽極型X線管を提供することにある。
上記課題を解決するため、本発明の態様に係る回転陽極型X線管は、
外面に軸受面を有し、内部に冷却液が流れる流路を有する円筒状の固定体と、
ターゲット層及び前記ターゲット層の直下に位置した真空空洞部を有し陽極ターゲットを構成する円盤状の径大部と、前記径大部と一体化された径小部と、を含み、前記固定体の外面を囲み、内面に前記軸受面に隙間を置いて対向する軸受面を有し、前記固定体により回転可能に支持された回転体と、
前記隙間に充填された液体金属潤滑剤と、
前記ターゲット層に対向配置された陰極と、
前記固定体、回転体、液体金属潤滑剤及び陰極を収容し、前記回転体の外側に露出した前記固定体に固定された真空外囲器と、
前記真空空洞部の内部に収容され、蒸発及び凝縮されることにより前記ターゲット層の熱を放散させる作動流体材と、を備え、
前記流路は、前記径大部と対向した位置及び前記固定体の少なくとも1つの端部を結んだ範囲にわたっている。
また、本発明の他の態様に係る回転陽極型X線管は、
側面にラジアルすべり軸受面を有し、一端部が閉塞され、内部に冷却液が流れる流路を有する円筒状の固定体と、
ターゲット層、前記ターゲット層の直下に位置した真空空洞部及び前記固定体の一端部と隙間をおいて嵌合される凹部を有し陽極ターゲットを構成する円盤状の径大部と、前記固定体の側面を囲み、内面に前記ラジアルすべり軸受面に隙間を置いて対向するラジアルすべり軸受面を有し、一端部で前記径大部と一体化された径小部と、を含み、前記固定体により回転可能に支持された回転体と、
前記隙間に充填された液体金属潤滑剤と、
前記ターゲット層に対向配置された陰極と、
前記固定体、回転体、液体金属潤滑剤及び陰極を収容し、前記固定体の一端部の反対側に位置する前記固定体の他端部に固定された真空外囲器と、
前記真空空洞部の内部に収容され、蒸発及び凝縮されることにより前記ターゲット層の熱を放散させる作動流体材と、を備え、
前記流路は、前記固定体の一端部及び他端部を結んだ範囲にわたっている。
この発明によれば、陽極ターゲットの冷却率に優れているとともに製品寿命の長期化を図ることができる回転陽極型X線管を提供することができる。
以下、図面を参照しながらこの発明の第1の実施の形態に係る回転陽極型X線管装置について詳細に説明する。
図1に示すように、回転陽極型X線管装置は、回転陽極型X線管1と、磁界を発生させるコイルとしてのステータコイル2と、図示しないが回転陽極型X線管及びステータコイルを収容した筐体とを備えている。
回転陽極型X線管1は、固定体10と、冷却液20と、管部30と、陽極ターゲット50と、回転部60と、液体金属潤滑剤70と、陰極80と、真空外囲器90とを備えている。回転陽極型X線管1は動圧軸受を使っている。
固定体10は、筒部11と、筒部11の一端部を閉塞した蓋部12とを有している。固定体10は、Fe(鉄)やMo(モリブデン)等の材料で形成されている。筒部11は、回転軸aに沿って延出して回転軸aを中心軸として円筒状に形成されている。筒部11は、側面にラジアルすべり軸受面S1を有している。筒部11及び蓋部12は一体に形成されている。固定体10の内部は冷却液20で満たされている。この実施の形態において、冷却液20は水である。固定体10は、この内部に冷却液20が流れる流路を形成している。固定体10は、この他端部側に冷却液20を内部に取り入れる取り入れ口10bを有している。
管部30は、固定体10の内部に設けられ、固定体10とともに流路を形成している。管部30の一端部は、固定体10の他端部に形成された開口部10aを通って固定体10の外部に延出している。管部30は、管部30の側面が開口部10aに密接するように開口部10aに固定されている。
管部30は、その外部に冷却液20を吐き出す吐き出し口30aと、冷却液20を固定体10から管内部に導く導入口30bとを有している。吐き出し口30aは、固定体10の外部に位置している。導入口30bは、蓋部12(固定体10の一端部)に隙間を置いて位置している。
上記したことから、回転陽極型X線管1外部からの冷却液20は、取り入れ口10bから取り入れられ、筒部11及び管部30の間を通り、導入口30bより管部30の内部を通って吐出し口30aから回転陽極型X線管1外部に吐出される。
陽極ターゲット50は、陽極51と、この陽極の外面の一部に設けられたターゲット層52とを有している。陽極51は、円盤状に形成され、固定体10と同軸的に設けられている。陽極51は、Mo等の材料で形成されている。ターゲット層52は、W(タングステン)等の材料で輪状に形成されている。ターゲット層52は、陽極51の半径方向外側に位置している。ターゲット層52の表面は電子衝突面である。
陽極51は、凹部51aを有している。凹部51aは、回転軸aに沿った方向及び半径方向に延在している。すなわち、凹部51aは、回転軸aに沿った方向に凹んでいる。凹部51aには筒部12が嵌合されている。凹部51aは、固定体10の一端部に隙間を置いて形成されている。この隙間は、およそ100μmである。この部分に潤滑剤70が満たされることにより熱伝達流路100が形成される。ターゲット層52の熱は、最終的に陽極51と、潤滑剤70の熱伝達流路100とを伝導して固定体10に伝導され、固定体10の内部の流路を流れる冷却液20に伝達される。
陽極51は、さらに回転軸aに沿った方向および半径方向に延在した真空空洞部51bを有している。空洞部51bの内部には、陽極51の開口部50cに取り付けられた排気管53を通して作動流体材200が入れられている。作動流体材200を入れることにより、ヒートパイプの原理を応用して陽極ターゲット50の冷却を行うことができる。ここでは、作動流体材200として、固体状の亜鉛が入れられている。固体状の亜鉛が入れられた後、排気管53を介して、空洞部51b内部が真空排気され、排気管53が封止切られている。なお、空洞部51bは、ターゲット層52の直下に位置している。
図1においては、X線管の製造工程中に陽極51が回転され、かつ陽極51が電子衝撃を受けて昇温された結果、作動流体材200(固体の亜鉛)は、遠心力により回転軸aから最も離れた空洞部51bの壁面に液体状態で集合し、陽極51を回転させたまま冷却した後にその場所に固体となった状態として示されている。
X線を発生させるためにターゲット層52に電子ビームが当たると、ターゲット層52に熱が発生するが、この熱は、陽極51を介して直下の作動流体材200に伝わる。伝熱により作動流体材200(液体)の温度がその沸点以上に上昇すると、表面(真空空間との界面)より作動流体材が蒸発して気化するためにより多くの熱をターゲット層52から放散させることができる。
蒸発した作動流体材200は空洞部51b内に充満し、蒸発部よりも低い温度に冷却された空洞部51bの壁面で凝縮して液化する。その際、冷却された空洞部51bの壁面に作動流体材200の熱が伝達される。液化した作動流体材200は遠心力により再び回転軸aから最も離れた空洞部51bの壁付近に集められる。空洞部51bの壁面を水冷するための流路は固定体10の内部に設けられている。
なお、作動流体材200は、表面で気化するため、表面と、ターゲット層52との界面と、の間隔(作動流体材の熱伝導パス)が短いほど多くの熱をターゲット層52から放散させることができる。このため、空洞部51bに作動流体材200を多く入れれば良いのではない。作動流体材200は、常時、ターゲット層52の直下を覆う程度設けられていれば良い。
回転部60は、筒部11より径の大きい円筒状に形成されている。回転部60は、固定体10及び陽極ターゲット50と同軸的に設けられている。
回転部60は、FeやMo等の材料で形成されている。より詳しくは、回転部60は、筒部61と、筒部61の他端部に設けられたシール部63と、筒部64とを有している。
筒部61は、筒部11の側面を囲んでいる。筒部61は、内面に軸受面S1にラジアル軸受隙間RG1を置いて対向したラジアルすべり軸受面S2を有している。ラジアル軸受隙間RG1の大きさはおよそ20μmである。ラジアル軸受面S1及び軸受面S2は、ラジアルすべり軸受B1を形成している。ここで、軸受面S1及び軸受面S2にそれぞれ溝が付いている。回転部60は陽極ターゲット50と接合されている。回転部60は、固定体10を軸に陽極ターゲット50とともに回転可能に設けられている。
シール部63は、軸受面S2に対して陽極ターゲット50の反対側に位置している。シール部63は、筒部61の他端部に接合されている。シール部63は、環状に形成され、固定体10の側面全周に亘って隙間を置いて設けられている。筒部64は、筒部61の側面と接合され、筒部61に固定されている。筒部64は、例えばCu(銅)で形成されている。
潤滑剤70は、蓋部12を含む固定体10の一端部及び凹部51a間の隙間、並びに筒部11(軸受面S1)及び筒部61(軸受面S2)間の隙間に充填されている。なお、これらの隙間は全て繋がっている。この実施の形態において、潤滑剤70は、ガリウム・インジウム・錫合金(GaInSn)である。
図1、図2及び図3に示すように、シール部63及び固定体10間の隙間(クリアランス)cは、回転部60の回転を維持するとともに潤滑剤70の漏洩を抑制できる値に設定されている。上記したことから、隙間cはわずかである。この実施の形態において、隙間cは200μm以下である。このため、シール部63は、ラビリンスシールリング(labyrinth seal ring)として機能する。
また、シール部63は、複数の収容部63aを有している。ここでは、シール部63は、4つの収容部63aを有している。収容部63aは、シール部63の内側を円形枠状に窪めてそれぞれ形成されている。収容部63aは、万一隙間cから潤滑剤70が漏れた場合、漏れた潤滑剤70を収容する。
固定体10は、環部14をさらに有している。筒部61は、段差部61aを有している。環部14は、段差部61a及びシール部63で囲まれたスペースに嵌合されている。
環部14は、スラスト軸受面S9を有している。筒部61は、スラスト軸受面S10を有している。軸受面S9及び軸受面S10は、回転軸aに沿った方向に互いにスラスト軸受隙間SG5を保持して対向している。軸受面S9及び軸受面S10は、スラスト軸受B5を形成している。スラスト軸受隙間SG5の大きさはおよそ30μmである。
環部14は、スラスト軸受面S11を有している。シール部63は、スラスト軸受面S12を有している。軸受面S11及び軸受面S12は、回転軸aに沿った方向に互いにスラスト軸受隙間SG6を保持して対向している。軸受面S11及び軸受面S12は、スラスト軸受B6を形成している。スラスト軸受隙間SG6の大きさはおよそ30μmである。
これらスラスト軸受B5、B6は、高温にならず、軸受面S9及び軸受面S10間の隙間、並びに軸受面S11及び軸受面S12間の隙間を一定に維持できるため、ターゲットが高温になってもスラスト軸受B5、B6を正常に機能させることができる。
上記した陽極ターゲット50及び回転部60は、回転体600を形成している。回転体600は、陽極ターゲット50及び回転部60が一体となって形成されている。回転体600は、固定体10により回転可能に支持されている。回転体600は、径大部610と、径大部610より径の小さい径小部620とを有している。この実施の形態において、径大部610が陽極ターゲット50であり、径小部620が回転部60である。
図1に示すように、陰極80は、回転軸aに沿った方向において、陽極ターゲット50のターゲット層52に間隔を置いて対向配置されている。陰極80は、電子を放出するフィラメント81を有している。
真空外囲器90は、固定体10、冷却液20、管部30、陽極ターゲット50、回転部60、潤滑剤70及び陰極80を収容している。真空外囲器90は、X線透過窓90a及び開口部90bを有している。X線透過窓90aは、回転軸aに対して直交した方向にターゲット層52と対向している。固定体10の他端部は、開口部90bを通って真空外囲器90の外部に露出されている。開口部90bは、固定体10を固定している。固定体10の側面は、開口部90bに密接している。真空外囲器90は、固定体10の他端部を支持している。
陰極80は、真空外囲器90の内壁に取付けられている。真空外囲器90は密閉されている。真空外囲器90の内部は真空状態に維持されている。
ステータコイル2は、回転部60の側面、より詳しくは筒部64の側面に対向して真空外囲器90の外側を囲むように設けられている。ステータコイル2の形状は環状である。図示しない筐体内部に、回転陽極型X線管1及びステータコイル2が収容されている他、図示しない冷却液が充填されている。
上記したように回転陽極型X線管装置が形成されている。
上記X線管装置の動作状態において、ステータコイル2は回転部60(特に筒部64)に与える磁界を発生するため、回転体600は回転する。これにより、陽極ターゲット50は回転する。また、陰極80に相対的に負の電圧が印加され、陽極ターゲット50に相対的に正の電圧が印加される。例えば、陰極80に−150kVの電圧が印加され、陽極ターゲット50は接地されている。
これにより、陰極80及び陽極ターゲット50間に電位差が生じる。このため、陰極80は、電子を放出すると、この電子は、加速され、ターゲット層52に衝突される。すなわち、陰極80は、ターゲット層52に電子ビームを照射する。これにより、ターゲット層52は、電子と衝突するときにX線を放出し、放出されたX線はX線透過窓90aを透過して真空外囲器90外部、ひいては筐体外部に放出される。
上記したように構成された回転陽極型X線管装置によれば、X線を放出する際、陽極ターゲット50、特にターゲット層52の電子衝突面は高温になるが、ターゲット層52の熱は、作動流体材200により熱伝達流路100付近の空洞部51bの壁部へと伝達され、潤滑剤70の熱伝達流路100を伝導して固定体10に伝導され、最終的に固定体10の内部の流路を流れる冷却液20に伝達される。なお、上記したようなX線を発生させる工程は、まずX線管を製造する真空排気工程で実施されるのが通常である。
X線の発生を続けた場合でも、ターゲット層52直下の作動液体材200に浸った空洞部51bの壁面の温度が作動流体材200(亜鉛)の沸点907℃を超えない限り、作動流体材は蒸発しない(ヒートパイプ作用は働かない)。それ以上の熱入力があると、作動流体材200の蒸発が顕著となり、ヒートポンプ作用が発生するため、ターゲット層52直下の作動液体材に浸った空洞部51bの壁面の温度を950℃〜1000℃程度に抑えることができる。
また、凝固点(融点)が420℃であることを考慮して、熱伝達流路100付近の空洞部51bの壁の温度が420℃以上、例えば500℃とする制限がある。この制限条件を考慮した陽極ターゲット50や固定体10の構造設計と冷却液20の流量設定を行うことにより陽極ターゲット50の冷却率を向上させることが可能である。
作動流体材200の熱伝達率が高いことと熱伝達流路100の熱伝導パスが短いことにより、陽極ターゲット50の冷却率の優れた回転陽極型X線管1を得ることができる。
これにより、陽極ターゲット50の溶融等、陽極ターゲット50に生じる不良を抑制することができる。陽極ターゲット50の許容できる熱入力を大きくすることができるため、回転陽極型X線管1の出力を向上させることもできる。その他、回転陽極型X線管1の製品寿命を長くする効果を得ることができる。
また、冷却液20を水としたことも陽極ターゲット50の冷却率の向上、ひいては回転陽極型X線管1の高出力化に寄与している。すなわち、冷却液20は熱伝達流路100の近傍で沸騰状態となり、冷却に寄与する。このように、沸騰冷却は、沸騰を伴わない冷却より冷却効率が良く、一層ターゲット層52の温度を低減させることができる。上記したことから、陽極ターゲット50の高冷却が可能となる。
シール部63は、軸受面S2に対して陽極ターゲット50の反対側に位置している。シール部63はターゲット層52の電子衝突面の近くに設けられていない。シール部63は熱経路上、電子衝突面から遠いため、電子衝突による熱の影響を受けない。すなわち、シール部63が高温となって生じるシール部63の変形を抑制することができる。従って、シール部63の熱変形を無視して隙間cを小さくすることができるとともに、シール部63からの潤滑剤70の漏洩を抑制することができる。
上記したことから、陽極ターゲット50の冷却率に優れているとともに製品寿命の長期化を図ることができる回転陽極型X線管1および回転陽極型X線管1を備えた回転陽極型X線管装置を得ることができる。
次に、この発明の第2の実施の形態に係る回転陽極型X線管装置について詳細に説明する。なお、この実施の形態において、他の構成は上述した第1の実施の形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
図4に示すように、ターゲット層52および陰極80は、真空外囲器90内で回転軸aに直交した方向に互いに対向配置されている。X線透過窓90aは、回転軸aに沿った方向において、ターゲット層52と対向している。図示しないが、筐体は、X線透過窓90aを透過したX線を透過させる窓部を有している。
上記した実施の形態においても、陽極ターゲット50の冷却率に優れているとともに製品寿命の長期化を図ることができる回転陽極型X線管1および回転陽極型X線管1を備えた回転陽極型X線管装置を得ることができる。
なお、この発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化可能である。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
例えば、図5に示すように、上記した片端支持軸受構造に替えて両端支持軸受構造を採用しても良い。
冷却液20は、水に限らず、水及び不凍液の混合液(水を主成分とする不凍液)であっても良い。そして、この冷却液20を用いて沸騰冷却を行い、ターゲット層52の温度を低減させることが好ましい。
また、筐体内部に満たされる冷却液(図示せず)と冷却液20を共通の冷却液とすることができる。その場合には、管部30の吐出し口30aから直接筐体内に冷却液20が排出されるようにすれば良い。このようにすることにより、陽極ターゲット50以外のX線管の発熱部の冷却率も向上させることが可能となる。
固定体10は、工具鋼のようなスチール、モリブデン又はモリブデン合金の材料で形成することが好ましい。さらに固定体10の表面およびそれに対向する回転体600の表面は、潤滑剤70との反応温度の高い高融点金属やセラミクス等で被覆されていればさらに好ましい。潤滑剤70との反応温度の高い物質で被覆して、素材と潤滑剤70との反応生成物を作り出さないようにすることにより、良好な回転特性を長時間維持させることが可能となる。なお、潤滑剤70との反応温度の高い物質の被覆を形成するためには、金属を化学蒸着/物理蒸着又は溶射等の手段を用いて行えば良い。
図6は金属元素の沸点(Tb)と凝固点(Tm)の関係を示す図である。ここに示される金属元素のうち、冷却性能向上させるという観点では、本発明に適する作動流体材200としては、およそ650<Tb(℃)<1600、Tm(℃)<700となる範囲にあるものである。毒性のあるものを除くと、作動流体として好ましい元素は、Bi、Sb、
Mg、Zn、Li、Na、K、Rb、Csである。
また、これらの元素に他の金属元素を添加して合金としたものも本発明の作動流体材200として使用することができる。
例えば、Zn35wt%に対してSnを65wt%添加した合金を採用することにより、融点をZnの融点419℃に対して330℃まで下げられるため、排気時に比較的容易に図1に示されるような形態とすることができる。図1に示される形態が実現されないと、それ以降の工程で陽極ターゲット50に回転アンバランスが生じるため好ましくない。
同様に、Bi65wt%に対してInを35wt%添加した合金を採用することにより、融点をBiの融点271℃に対して110℃まで下げられるため、排気時に比較的容易に図1に示されるような形態とすることができる。
また、他の例としてBi70wt%にSbを30wt%添加した合金を採用することにより、融点をBiの融点271℃に対して400℃に上げられるため、X線発生後に作動流体材が凝固するまで回転し続けなければならない時間を短縮させることが可能となる。
回転陽極型X線管装置の用途によって、作動流体材200は、水であっても良い。空洞部51bの内部で凝縮した作動流体材200が、遠心力により、陽極ターゲット50直下の空洞部51bに戻るよう、空洞部51bが形成されていれば良い。
回転陽極型X線管1は、径大部610の内部に設けられ、管部30の側面を囲むように管部30と一体に形成された環部をさらに備えていても良い。この場合、管部30及び環部は、固定体10とともに冷却液20の流路を形成する。
この発明の第1の実施の形態に係る回転陽極型X線管装置を示す断面図。 図1に示した回転陽極型X線管装置の他の一部を示す拡大断面図であり、特に、シール部を示す拡大断面図。 図1及び図3に示したシール部を示す拡大断面図。 この発明の第2の実施の形態に係る回転陽極型X線管装置を示す断面図。 図1に示した回転陽極型X線管装置の変形例を示す断面図。 金属元素の沸点(Tb)と凝固点(Tm)の関係を示す図。
符号の説明
1…回転陽極型X線管、2…ステータコイル、10…固定体、11…筒部,12…蓋部、14…環部、20…冷却液、30…管部、50…陽極ターゲット、51…陽極、51a…凹部、51b…空洞部、52…ターゲット層、60…回転部、61…筒部、63…シール部、63a…収容部、64…筒部、70…潤滑剤、80…陰極、81…フィラメント、90…真空外囲器、90a…X線透過窓、100…熱伝達流路、200…作動流体材、600…回転体、610…径大部、620…径小部、a…回転軸、c…隙間。

Claims (12)

  1. 外面に軸受面を有し、内部に冷却液が流れる流路を有する円筒状の固定体と、
    ターゲット層及び前記ターゲット層の直下に位置した真空空洞部を有し陽極ターゲットを構成する円盤状の径大部と、前記径大部と一体化された径小部と、を含み、前記固定体の外面を囲み、内面に前記軸受面に隙間を置いて対向する軸受面を有し、前記固定体により回転可能に支持された回転体と、
    前記隙間に充填された液体金属潤滑剤と、
    前記ターゲット層に対向配置された陰極と、
    前記固定体、回転体、液体金属潤滑剤及び陰極を収容し、前記回転体の外側に露出した前記固定体に固定された真空外囲器と、
    前記真空空洞部の内部に収容され、蒸発及び凝縮されることにより前記ターゲット層の熱を放散させる作動流体材と、を備え、
    前記流路は、前記径大部と対向した位置及び前記固定体の少なくとも1つの端部を結んだ範囲にわたっている回転陽極型X線管。
  2. 側面にラジアルすべり軸受面を有し、一端部が閉塞され、内部に冷却液が流れる流路を有する円筒状の固定体と、
    ターゲット層、前記ターゲット層の直下に位置した真空空洞部及び前記固定体の一端部と隙間をおいて嵌合される凹部を有し陽極ターゲットを構成する円盤状の径大部と、前記固定体の側面を囲み、内面に前記ラジアルすべり軸受面に隙間を置いて対向するラジアルすべり軸受面を有し、一端部で前記径大部と一体化された径小部と、を含み、前記固定体により回転可能に支持された回転体と、
    前記隙間に充填された液体金属潤滑剤と、
    前記ターゲット層に対向配置された陰極と、
    前記固定体、回転体、液体金属潤滑剤及び陰極を収容し、前記固定体の一端部の反対側に位置する前記固定体の他端部に固定された真空外囲器と、
    前記真空空洞部の内部に収容され、蒸発及び凝縮されることにより前記ターゲット層の熱を放散させる作動流体材と、を備え、
    前記流路は、前記固定体の一端部及び他端部を結んだ範囲にわたっている回転陽極型X線管。
  3. 前記作動流体材は、亜鉛、アンチモン及びビスマスから選択された材料、又はこれらの材料の少なくとも1つを成分に含む合金である請求項1又は2に記載の回転陽極型X線管。
  4. 前記固定体の内部に設けられ、前記固定体とともに前記流路を形成する管部をさらに備えている請求項1又は2に記載の回転陽極型X線管。
  5. 前記径大部の内部に設けられ、前記管部の側面を囲むように前記管部と一体に形成された環部をさらに備え、
    前記管部及び環部は、前記固定体とともに前記流路を形成する請求項4に記載の回転陽極型X線管。
  6. 前記冷却液は、水である請求項1又は2に記載の回転陽極型X線管。
  7. 前記冷却液は、水を主成分とする不凍液である請求項1又は2に記載の回転陽極型X線管。
  8. 前記固定体は、スチール、モリブデン又はモリブデン合金の材料で形成されている請求項1又は2に記載の回転陽極型X線管。
  9. 前記固定体の表面の一部は、前記液体金属潤滑剤との反応温度が素材のそれよりも高い金属で被覆されている請求項1又は2に記載の回転陽極型X線管。
  10. 前記ターゲット層は、前記回転体の回転軸に沿った方向に前記陰極と対向し、前記径大部の半径方向外側に位置している請求項1又は2に記載の回転陽極型X線管。
  11. 前記ターゲット層は、前記回転体の回転軸に直交した方向に前記陰極と対向し、前記径大部の半径方向外側に位置している請求項1又は2に記載の回転陽極型X線管。
  12. 前記回転体は、前記径小部の軸受面に対して前記径大部の反対側の前記径小部に設けられ、前記回転体の回転を維持するとともに前記液体金属潤滑剤の漏洩を抑制するシール部を有している請求項1又は2に記載の回転陽極型X線管。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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