図1は、本実施例が適用された車両の動力伝達装置10およびその車両に設けられた制御系統の要部を示す図である。
図1において、動力伝達装置10は、FR(フロントエンジン・リアドライブ)駆動形式の車両用のものであり、走行用の動力源としてのエンジン(動力源)12と、ツインクラッチ式変速機14と、プロペラシャフト16と、差動歯車装置18とをそれぞれ直列に備え、さらにその差動歯車装置18にそれぞれ連結された左右一対の駆動軸20と、その一対の駆動軸20にそれぞれ連結された駆動輪22とを備えている。上記エンジン12で発生された動力は、ツインクラッチ式変速機14、プロペラシャフト16、差動歯車装置18、および一対の駆動軸20を順に介して一対の駆動軸22へそれぞれ伝達されるようになっている。
上記ツインクラッチ式変速機14は、ツインクラッチ部24と、変速部26とを備えて構成されている。上記ツインクラッチ部24は、エンジン12のクランク軸28に連結されたクラッチ入力軸30と、そのクラッチ入力軸30(エンジン12のクランク軸28)から駆動輪22までの間に並列に設けられた一対の第1動力伝達経路32および第2動力伝達経路34にそれぞれ設けられた第1クラッチ36および第2クラッチ38と、それら第1クラッチ36および第2クラッチ38を介してクラッチ入力軸30に選択的に連結される第1クラッチ出力軸40および第2クラッチ出力軸42とを備えている。
上記第1クラッチ36および第2クラッチ38は、例えば、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が第1油圧アクチュエータ44および第2油圧アクチュエータ46により押圧される湿式多板型の油圧式摩擦係合装置である。これら第1クラッチ36および第2クラッチ38は、油圧制御回路48から第1油圧アクチュエータ44および第2油圧アクチュエータ46に供給される油圧に応じて、スリップ係合を含む係合状態または遮断状態(開放状態)が切り換わるようになっている。すなわち、第1油圧アクチュエータ44および第2油圧アクチュエータ46に供給される油圧の大小に応じて、クラッチ入力軸30と第1クラッチ出力軸40および第2クラッチ出力軸42との連結状態が、係合状態からスリップ係合状態を経て遮断状態に又は遮断状態からスリップ係合状態を経て係合状態に連続的に制御されるようになっている。
上記変速部26は、第1動力伝達経路32において第1クラッチ36や第1クラッチ出力軸40と直列に設けられるとともに変速ギヤ段のうちの奇数段を備えた第1変速機構50と、第2動力伝達経路34において第2クラッチ38や第2クラッチ出力軸42と直列に設けられるとともに変速ギヤ段のうちの偶数段を備えた第2変速機構52とを備えている。
上記第1変速機構50は、ツインクラッチ部24の第1クラッチ出力軸40に軸心まわりの相対回転不能に連結された第1入力軸54と、その第1入力軸54に平行に設けられた出力軸56と、それら第1入力軸54と出力軸56との間に設けられたギヤ比の異なる変速ギヤ対58および60と、それら変速ギヤ対58および60のどちらかを選択的に介して第1入力軸54および出力軸56を動力伝達状態とするための同期噛合装置62とを備えている。上記変速ギヤ対58および60は、それぞれ変速ギヤ段のうちの奇数段である第1速ギヤ段「1st」および第3速ギヤ段「3rd」を達成するためのギヤ対であって、第1入力軸54に固設されたギヤと出力軸56に相対回転可能に設けられたギヤとから構成されている。また、上記同期噛合装置62は、よく知られた所謂シンクロ機構を有する噛合クラッチであり、シフトアクチュエータ64の制御によって、変速ギヤ対58および出力軸56が動力伝達状態とされるか、変速ギヤ対60および出力軸56が動力伝達状態とされるか、或いは変速ギヤ対58および変速ギヤ対60のどちらも動力遮断状態とされるかが切り換えられるようになっている。
また、上記第2変速機構52は、ツインクラッチ部24の第2クラッチ出力軸42に軸心まわりの相対回転不能に連結された第2入力軸66と、その第1入力軸54に平行に設けられた第1変速機構50と共通の出力軸56と、それら第2入力軸66と出力軸56との間に設けられたギヤ比の異なる変速ギヤ対68および70と、それら変速ギヤ対68および70のどちらかを選択的に介して第2入力軸66および出力軸56を動力伝達状態とするための同期噛合装置72とを備えている。上記変速ギヤ対68および70は、それぞれ変速ギヤ段のうちの偶数段である第2速ギヤ段「2nd」および第4速ギヤ段「4th」を達成するためのギヤ対であって、第2入力軸66に固設されたギヤと出力軸56に相対回転可能に設けられたギヤとから構成されている。また、上記同期噛合装置72は、同期噛合装置62と同様な所謂シンクロ機構を有する噛合クラッチであり、シフトアクチュエータ64の制御によって、変速ギヤ対68および出力軸56が動力伝達状態とされるか、変速ギヤ対70および出力軸56が動力伝達状態とされるか、或いは変速ギヤ対68および変速ギヤ対70のどちらも動力遮断状態とされるかが切り換えられるようになっている。なお、シフトアクチュエータ64により同期噛合装置62および72のどちらを作動させるかは、セレクトアクチュエータ74によって制御されるようになっている。ここで、上記シフトアクチュエータ64およびセレクトアクチュエータ74は、本実施例では例えばSRモータ(Switched Reluctance Motor )により構成されており、図示しない出力回転軸に一体的に設けられたロータリエンコーダから出力されるパルス信号が後述の電子制御装置82に対して供給されるようになっている。電子制御装置82では、そのロータリエンコーダから出力されるパルス信号を取得してSRモータの回転状況を把握し、シフトアクチュエータ64およびセレクトアクチュエータ74を駆動するフィードバック制御が行われる。
以上のように構成されたツインクラッチ式変速機14では、第1クラッチ36および第2クラッチ38の一方が解放されると同時に他方が係合されることにより第1変速機構50および第2変速機構52の一方のギヤ段から他方のギヤ段への変速が行われるようになっている。すなわち、ツインクラッチ式変速機14では、第1クラッチ36および第2クラッチ38のうち実際に動力伝達に関与している側のクラッチが遮断状態とされると同時に実際に動力伝達に関与していない側のクラッチが係合状態とされることにより、第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与している側の変速機構で達成されているギヤ段から実際に動力伝達に関与していない側の変速機構で達成されているギヤ段へ変速が行われるようになっている。
具体的には、例えば、第2変速機構52において第2速ギヤ段「2nd」が達成されるとともに第2クラッチ38が係合状態とされることにより第2速ギヤ段「2nd」で車両が走行中である場合において、動力伝達に関与していない第1変速機構50がシフトアクチュエータの駆動により変速ギヤ対60および出力軸56を動力伝達状態とする第3速ギヤ段「3rd」に切り換えられ、第2クラッチ38が解放されると同時に第1クラッチ36が係合されることにより、第2ギヤ段「2nd」から第3ギヤ段「3rd」へのアップシフトが行われるようになっている。また、例えば、第2変速機構52において第2速ギヤ段「2nd」が達成されるとともに第2クラッチ38が係合状態とされることにより第2速ギヤ段「2nd」で車両が走行中である場合において、動力伝達に関与していない第1変速機構50がシフトアクチュエータの駆動により変速ギヤ対58および出力軸56を動力伝達状態とする第1速ギヤ段「1st」に切り換えられ、第2クラッチ38が解放されると同時に第1クラッチ36が係合されることにより、第2ギヤ段「2nd」から第1ギヤ段「1st」へのダウンシフトが行われるようになっている。ここで、上記第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与していない側の変速機構でのギヤ段の切り換えすなわち所謂プレシフトと称される作動は、変速指示の前に行われる場合もあれば、変速指令後に行われる場合もある。しかし、どちらの場合であっても、上記プレシフトは、変速時の第1クラッチ36および第2クラッチ38の係合状態の切り換え(クラッチ切り換え)に際してクラッチ入力軸30の回転速度が変速比の変化に伴って変化する区間(イナーシャ相)の前において、行われる。
図1において、シフト操作装置76は、例えば運転席の横に配設され、複数のシフトポジションPSHのうちのいずれか1を選択するために運転者により手動操作されるシフトレバー(手動操作体)78と、そのシフトレバー78の操作位置すなわちシフトポジションPSHを検出するためのシフトポジションセンサ80とを備えている。
上記シフトレバー78は、第1動力伝達経路32および第2動力伝達経路34をそれぞれ遮断状態(ニュートラル状態)とし、且つ図示しないメカニカルパーキング機構によって機械的に出力軸58の回転を固定するための駐車ポジション「P(パーキング)」、変速部26のギヤ段を図示しない後進ギヤ対を介して動力を伝達する後進ギヤ段「Rev」に切り換えるための後進走行ポジション「R(リバース)」、第1動力伝達経路32および第2動力伝達経路34をそれぞれ遮断状態(ニュートラル状態)とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、自動変速モードを成立させて、変速部26のギヤ段を全ての前進ギヤ段(第1速ギヤ段「1st」〜第4速ギヤ段「4th」)を用いて自動的に切り換える自動変速制御を行うための前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または手動変速モードを成立させて、変速部26のギヤ段をシフトレバー78の所定操作位置への手動変速操作毎に1つずつ切り換えるための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。上記前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」においてシフトレバー78が位置させられる所定操作位置とは、その前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」を間において設けられたアップシフト位置「+」およびダウンシフト位置「−」のことであり、シフトレバー78がそのアップシフト位置「+」へ操作される毎にアップシフトが指令され、またシフトレバー78がそのダウンシフト位置「−」へ操作される毎にダウンシフトが指令されるようになっている。したがって、シフト操作装置76は、自動変速走行モードと手動変速走行モードとを切り換える変速モード切換装置としても機能している。
図1において、電子制御装置82は、CPU、RAM、ROM、および入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御やツインクラッチ式変速機14の変速制御等を実行するものである。したがって、電子制御装置82は、ツインクラッチ式変速機14の制御装置としても機能している。
電子制御装置82には、エンジン回転速度センサ84からエンジン回転速度NEを表す信号、車速センサ86から車速Vを表す信号、アクセル開度センサ88からアクセルペダル90の操作量すなわちアクセル開度Accを表す信号、およびシフトポジションセンサ80からシフトポジションPSHを表す信号等がそれぞれ供給される。また、電子制御装置82からは、第1クラッチ36および第2クラッチ38の係合状態を切り換える油圧アクチュエータ44および46を制御するために、油圧制御回路48に含まれる電磁弁(例えばリニアソレノイドバルブ)等を作動させるためのバルブ作動指令信号SVや、第1変速機構50および第2変速機構52にて達成されるギヤ段を切り換えるために、シフトアクチュエータ64およびセレクトアクチュエータ74を作動させるためのシフト作動指令信号SM1およびセレクト作動指令信号SM2等が、それぞれ出力される。
ここで、上記ツインクラッチ式変速機14の変速制御は、油圧アクチュエータ44、46、シフトアクチュエータ64、およびセレクトアクチュエータ74によって行われ、自動変速モードが成立している場合において、例えば車速軸とアクセル開度軸との二次元座標内において設定された複数本のアップシフト線およびダウンシフト線から構成される予め記憶された変速線図(変速マップ)から、実際の車速Vおよびアクセル開度Accに基づいて変速すべきギヤ段を決定し、その決定されたギヤ段を成立させるように、同期噛合装置62および同期噛合装置72の噛合状態を切り換えるとともに第1クラッチ36および第2クラッチ38の係合状態を切り換える自動変速制御と、手動変速モードが成立している場合において、例えばシフトレバー78による手動変速操作に基づいて変速するギヤ段を決定し、その決定されたギヤ段を成立させるように、同期噛合装置62および同期噛合装置72の噛合状態を切り換えるとともに第1クラッチ36および第2クラッチ38の係合状態を切り換える手動変速制御とを含むものである。上記第1クラッチ36および第2クラッチ38の係合状態の切換は、駆動力変化などの変速ショックが発生したり摩擦材の耐久性が損なわれたりすることを防止するために、油圧制御回路48の例えばリニアソレノイド弁などの電磁弁の駆動電流制御によって上記第1クラッチ36および第2クラッチ38の係合圧が連続的に制御されることにより行われる。なお、本実施例では、上述のようにエンジン要求負荷量に相当するものとしてアクセル開度Accが用いられたが、これに限らず、例えばスロットル開度や吸入空気量、或いは燃料噴射量などが用いられてもよい。このことは、以下において用いられているアクセル開度Accに関しても同様である。
図2は、ツインクラッチ式変速機14の制御装置としても機能する電子制御装置82の制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。
図2において、変速モード検出手段92は、シフトポジションPSHを表す信号に基づいて自動モードおよび手動変速モードが成立していることを検出する。換言すれば、変速モード検出手段92は、シフトポジションPSHが前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」であることに基づいて自動変速モードが成立していると判断し、またシフトポジションPSHが前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」であることに基づいて手動変速モードが成立していると判断し、またシフトポジションPSHが駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行ポジション「R(リバース)」、および中立ポジション「N(ニュートラル)」のいずれか1であることに基づいて、自動変速モードおよび手動変速モードのどちらも成立していないと判断する。
車両状態算出手段94は、エンジン回転速度センサ84、車速センサ86、およびアクセル開度センサ88から供給された信号に基づいて、車両状態を示す値としての車速V、アクセル開度Acc、およびエンジン回転速度NEを取得する。また、車両状態算出手段94は、例えば車速Vとエンジン回転速度NEとの予め設定されて記憶された関係(マップ、演算式)から、実際の車速Vおよびエンジン回転速度NEに基づいて、実際のギヤ段すなわち変速部26の第1変速機構および第2変速機構のうち実際に動力伝達に関与している側の変速機構で達成されているギヤ段を算出する。
手動変速操作判定手段96は、シフトポジションセンサ80から供給されるシフトポジションPSHを表す信号に基づいて、シフトレバー78を用いて手動変速操作が行われたことを判定する。具体的には、手動変速操作判定手段96は、変速モード検出手段92により手動変速モードが成立していると判定されると、シフトポジションPSHを表す信号に基づいて、シフトレバー78が前記アップシフト位置「+」へ操作されるアップシフト指示操作が行われたか否か、或いはシフトレバー78が前記ダウンシフト位置「−」へ操作されるダウンシフト指示操作が行われたか否かを判定する。
手動変速モードプレシフト制御手段98は、要求駆動力算出手段100と、要求駆動力正負判定手段102と、プレシフト手段104とを備えている。
上記要求駆動力算出手段100は、予め設定された関係から、エンジン要求負荷量としての例えばアクセル開度Acc等に基づいて要求駆動力F*を算出する。上記予め設定された関係は、アクセル開度Accおよび要求駆動力F*の関係として予め実験的に求められて記憶されている。
上記要求駆動力正負判定手段102は、要求駆動力算出手段100により算出された要求駆動力F*に基づいて、その要求駆動力F*が正か負かを判定する。
上記プレシフト手段104は、上記要求駆動力正負判定手段102により要求駆動力F*が正であると判定されると、後述のクラッチアクチュエータ制御手段(クラッチ切換手段)120による第1クラッチ36および第2クラッチ38の係合状態の切り換えすなわちクラッチ切換に先立って、車両状態算出手段94により算出された実際のギヤ段すなわち第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与している側の変速機構で達成されているギヤ段よりも1つアップ側のギヤ段を、その第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与していない側の変速機構において予め達成させるプレシフトを実行するために、後述のシフトアクチュエータ制御手段118に対して上記実際のギヤ段よりも1つアップ側のギヤ段への切り換えを指令する。また、プレシフト手段104は、上記要求駆動力正負判定手段102により要求駆動力F*が負であると判定されると、クラッチアクチュエータ制御手段120によるクラッチ切換に先立って、車両状態算出手段94により算出された実際のギヤ段よりも1つダウン側のギヤ段を第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与していない側の変速機構において予め達成させるプレシフトを実行するために、後述のシフトアクチュエータ制御手段118に対して上記実際のギヤ段よりも1つダウン側のギヤ段への切り換えを指令する。
また、プレシフト手段104は、手動変速操作判定手段96によりアップシフト指示操作が行われたと判定された場合すなわちアップ側への手動変速操作が判定された場合には、クラッチアクチュエータ制御手段120によるクラッチ切換に先立って、車両状態算出手段94により算出された実際のギヤ段よりも1つアップ側のギヤ段を第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与していない側の変速機構において達成させるために、後述のシフトアクチュエータ制御手段118に対して上記実際のギヤ段よりも1つアップ側のギヤ段への切り換えを指令する。また、プレシフト手段104は、手動変速操作判定手段96によりダウンシフト指示操作が行われたと判定された場合すなわちダウン側への手動変速操作が判定された場合には、クラッチアクチュエータ制御手段120によるクラッチ切換に先立って、車両状態算出手段94により算出された実際のギヤ段よりも1つダウン側のギヤ段を実際に動力伝達に関与していない側の変速機構において達成させるために、後述のシフトアクチュエータ制御手段118に対して上記実際のギヤ段よりも1つダウン側のギヤ段への切り換えを指令する。
自動変速判定手段106は、例えば車速軸とアクセル開度軸との二次元座標内において設定された複数本のアップシフト線およびダウンシフト線から構成される予め記憶された変速線図(変速マップ)から、例えば図3に例示されるような実際の車速Vとアクセル開度Accとで示される車両状態を示す点Poが上記複数本のアップシフト線およびダウンシフト線のいずれか1を横切ったか否かを判定する。
自動変速モードプレシフト制御手段108は、変化速度ベクトル算出手段110と、変速段推定手段112と、プレシフト手段114と、プレシフトタイミング判定手段116とを備えている。
上記変化速度ベクトル算出手段110は、例えば図3に示すような車速軸とアクセル開度軸との二次元座標内に複数本の変速線が予め設定された変速線図内において、実際の車速Vとアクセル開度Accとで示される車両状態を示す点Poの変化方向および変化速度によって表わされる変化速度ベクトルを算出する。図3の変速線図内には、2−3アップシフト線および2−1ダウンシフト線が例示されており、また、車両状態を示す点Poの変化速度ベクトルとして変化速度ベクトルv1、v2、v3、およびv4が例示されている。ここで、上記変化速度ベクトルの算出は、具体的には、例えば、実際の車速Vおよびアクセル開度Accに基づいて図3に示すような変速線図内における現在の車両状態を示す点Poの位置を算出し、その現在の車両状態を示す点Poの位置と現在より所定時間前に算出された車両状態を示す点Poの位置との比較に基づいて、例えばそれら2点間距離および所定時間値に基づいて変化速度ベクトルの変化速度を算出し、それら2点間を結ぶ直線に基づいて変化速度ベクトルの変化方向を算出する。
上記変速段推定手段112は、変化速度ベクトル算出手段110により算出された変化速度ベクトルと予め設定された変速線図内の複数本の変速線とに基づいて、次回の変速時の変速段および変速予測時刻を推定する。具体的には、変速段推定手段112は、図3に示すような変速線図において、車両状態を示す点Poが横切ると予測される最初の変速線を、変化速度ベクトル算出手段110により算出された変化速度ベクトルの変化方向に基づいて算出することによって、次回の変速時の変速段を推定し、また、車両状態を示す点Poが最初の変速線を横切ると予測される時刻を、変化速度ベクトル算出手段110により算出された変化速度ベクトルの変化速度および変化方向に基づいて算出することによって、次回の変速時の変速予測時刻を推定する。
例えば、図3に例示する変化速度ベクトルv1の場合には、2点鎖線の矢印aで示される変化速度ベクトルv1の変化方向に基づいて、車両状態を示す点Poが最初の変速線を横切ると予測される変速線が2−3アップシフト線であると算出されて、次回の変速時の変速段は第3速ギヤ段「3rd」であると推定され、また、その点Poの位置から矢印aと2−3アップシフト線との交点までの長さ、および変化速度ベクトルv1の変化速度に基づいて、車両状態を示す点Poが2−3アップシフト線を横切ると予測される時刻が算出される。また、同様に、図3に例示する変化速度ベクトルv2の場合には、2点鎖線の矢印bで示される変化速度ベクトルv2の変化方向に基づいて、車両状態を示す点Poが最初の変速線を横切ると予測される変速線は2−1ダウンシフト線であると算出されて、次回の変速時の変速段は第1速ギヤ段「1st」であると推定され、また、その点Poの位置から矢印bと2−1ダウンシフト線との交点までの長さ、および変化速度ベクトルv2の変化速度に基づいて、車両状態を示す点Poが2−1ダウンシフト線を横切ると予測される時刻が算出される。
ここで、図3の変速線図には、アクセル開度Accの100%すなわち上限値を示す上限線Aとアクセル開度Accの0%すなわち下限値を示す下限線Bとが設けられており、車両状態を示す点Poは、そのアクセル開度Accの変化方向が前記上限線Aまたは下限線Bによって制限され、制限された後はその上限線Aまたは下限線Bに沿って移動させられると推定される。例えば、図3に例示する変化速度ベクトルv3の場合には、車両状態を示す点Poは2点鎖線の矢印cで示されるように移動させられ、その車両状態を示す点Poが最初の変速線を横切ると予測される変速線は2−3アップシフト線であると算出されて、次回の変速時の変速段は第3速ギヤ段「3rd」であると推定され、また、その点Poの位置から矢印cに沿う2−3アップシフト線までの長さ、および変化速度ベクトルv3の変化速度に基づいて、車両状態を示す点Poが2−3アップシフト線を横切ると予測される時刻が算出される。また、図3に例示する変化速度ベクトルv4の場合には、車両状態を示す点Poは2点鎖線の矢印dで示されるように移動させられ、その車両状態を示す点Poが最初の変速線を横切ると予測される変速線は2−1ダウンシフト線であると算出されて、次回の変速時の変速段は第1速ギヤ段「1st」であると推定され、また、その点Poの位置から矢印dに沿う2−1ダウンシフト線までの長さ、および変化速度ベクトルv4の変化速度に基づいて、車両状態を示す点Poが2−1ダウンシフト線を横切ると予測される時刻が算出される。
上記プレシフト手段114は、クラッチアクチュエータ制御手段120によるクラッチ切換に先立って、変速段推定手段112により推定された次回の変速時の変速段を、前記第1変速機構および第2変速機構のうち実際に動力伝達に関与していない側の変速機構において予め達成させるプレシフトを実行するために、後述のシフトアクチュエータ制御手段118に対して上記推定された次回の変速時の変速段への切り換えを指令する。また、プレシフト手段114は、変速段推定手段112により推定された次回の変速時の変速段および変速予測時刻に基づいて、その変速予測時刻から予め設定された一定時間前にプレシフトの実行を許可するプレシフトタイミング判定手段116を備えている。なお、上記一定時間は、少なくともプレシフト実行開始から終了までにかかる時間以上になるように予め実験的に求められて記憶されている。
例えば、図3に例示する変化速度ベクトルv1およびv3の場合には、変速段推定手段112により次回の変速時の変速段が第3速ギヤ段であると推定されたことに基づいて、変速段推定手段112により算出された次回の変速予測時刻から予め設定された一定時間前に、実際に動力伝達に関与していない第1変速機構50において第3速ギヤ段が達成するように後述のシフトアクチュエータ制御手段118に対して指令が出力される。また、例えば、図3に例示する変化速度ベクトルv2およびv4の場合には、変速段推定手段112により次回の変速時の変速段が第1速ギヤ段であると推定されたことに基づいて、変速段推定手段112により算出された次回の変速予測時刻から予め設定された一定時間前に、実際に動力伝達に関与していない第1変速機構50において第1速ギヤ段が達成するように後述のシフトアクチュエータ制御手段118に対して指令が出力される。
また、プレシフト手段114は、自動変速判定手段106により実際の車速Vとアクセル開度Accとで示される車両状態を示す点Poが変速線図内における複数本のアップシフト線のいずれか1を横切ったと判定された場合には、そのアップシフト線に対応するアップ側のギヤ段を第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与していない側の変速機構において達成させるために、後述のシフトアクチュエータ制御手段118に対して上記アップ側のギヤ段への切り換えを指令する。また、プレシフト手段114は、自動変速判定手段106により実際の車速Vとアクセル開度Accとで示される車両状態を示す点Poが変速線図内における複数本のダウンシフト線のいずれか1を横切ったと判定された場合には、そのダウンシフト線に対応するダウン側のギヤ段を第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与していない側の変速機構において達成させるために、後述のシフトアクチュエータ制御手段118に対して上記ダウン側のギヤ段への切り換えを指令する。
シフトアクチュエータ制御手段118は、プレシフト手段104およびプレシフト手段114から出力されたギヤ段切換指令に従って、第1変速機構50或いは第2変速機構52においてそのギヤ段切換指令に対応する所定のギヤ段が達成するように、シフトアクチュエータ64およびセレクトアクチュエータ74を制御する。
クラッチアクチュエータ制御手段(クラッチ切換手段)120は、手動変速操作判定手段96においてアップ側およびダウン側への手動変速操作が判定された場合、或いは自動変速判定手段106により実際の車速Vとアクセル開度Accとで示される車両状態を示す点Poが変速線図内における複数本のアップシフト線およびダウンシフト線のいずれか1を横切ったと判定された場合には、前記第1クラッチ36および第2クラッチ38のうちの動力伝達に関与している側を解放し、関与していない側を係合させるように、油圧制御回路48を介して油圧アクチュエータ44および油圧アクチュエータ46を制御する。
図4および図5は、電子制御装置82の信号処理によって実行される制御作動の要部を説明するフローチャートである。これらのフローチャートは、自動変速モードにおけるプレシフト制御および手動変速モードにおけるプレシフト制御を実行するための1制御サイクルにおける一連の手順(自動変速モードプレシフト制御ルーチンおよび手動変速モードプレシフト制御ルーチン)を示したフローチャートであって、たとえば数msec〜数十msecの所定の周期ごとにそれぞれのルーチンが同時並行にて繰り返し実行される。
先ず、図4について説明する。図4において、先ず、変速モード検出手段92に対応するステップS1(以下、ステップを省略する)では、手動変速モードが成立しているか否かが判定される。
S1の判定が否定される場合には、S1以下が繰り返し実行されるが、肯定される場合には、要求駆動力算出手段100に対応するS2において、アクセル開度Accと要求駆動力F*との予め設定された関係から、アクセル開度Accに基づいて要求駆動力F*が算出される。
次いで、手動変速操作判定手段96に対応するS3では、シフトポジションPSHに基づいて、アップシフト指示操作が有るか否かが判定される。
S3の判定が肯定される場合には、プレシフト手段104およびシフトアクチュエータ制御手段118に対応するS4において、車両状態に基づいて算出された実際のギヤ段よりも1つアップ側のギヤ段が第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与していない側の変速機構において達成するように、シフトアクチュエータ64およびセレクトアクチュエータ74が制御されて、本ルーチンが終了される。
また、S3の判定が否定される場合には、手動変速操作判定手段96に対応するS5において、シフトポジションPSHに基づいて、ダウンシフト指示操作が有るか否かが判定される。
S5の判定が肯定される場合には、プレシフト手段104およびシフトアクチュエータ制御手段118に対応するS6において、車両状態に基づいて算出された実際のギヤ段よりも1つダウン側のギヤ段が第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与していない側の変速機構において達成するように、シフトアクチュエータ64およびセレクトアクチュエータ74が制御されて、本ルーチンが終了される。
また、S5の判定が否定される場合には、要求駆動力正負判定手段102に対応するS7において、S2で算出された要求駆動力F*が正か否かが判定される。
S7の判定が肯定される場合には、プレシフト手段104およびシフトアクチュエータ制御手段118に対応するS8において、車両状態に基づいて算出された実際のギヤ段よりも1つアップ側のギヤ段を、その第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与していない側の変速機構において達成させるプレシフトが行われて、本ルーチンが終了される。
また、S7の判定が否定される場合には、プレシフト手段104およびシフトアクチュエータ制御手段118に対応するS9において、車両状態に基づいて算出された実際のギヤ段よりも1つダウン側のギヤ段を、その第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与していない側の変速機構において達成させるプレシフトが行われて、本ルーチンが終了される。
続いて、図5について説明する。図5において、先ず、変速モード検出手段92に対応するステップS10では、自動変速モードが成立しているか否かが判定される。
S1の判定が否定される場合には、S10以下が繰り返し実行されるが、肯定される場合には、変化速度ベクトル算出手段110に対応するS11において、車速軸とアクセル開度軸との二次元座標内に複数本の変速線が予め設定された変速線図内において、実際の車速Vとアクセル開度Accとで示される車両状態を示す点Poの変化方向および変化速度によって表わされる変化速度ベクトルが算出される。
次いで、変速段推定手段112に対応するS12において、S11で算出された変化速度ベクトルと予め設定された変速線図内の複数本の変速線とに基づいて、次回の変速時の変速段および変速予測時刻が推定される。
次いで、自動変速判定手段106に対応するS13において、実際の車速Vとアクセル開度Accとで示される車両状態を示す点Poが変速線図内における複数本のアップシフト線のいずれか1を横切ったか否かが判定される。
S13の判定が肯定される場合には、プレシフト手段114およびシフトアクチュエータ制御手段118に対応するS14において、S13で横切ったと判定されたアップシフト線に対応する実際のギヤ段よりも1つアップ側のギヤ段が第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与していない側の変速機構において達成するように、シフトアクチュエータ64およびセレクトアクチュエータ74が制御されて、本ルーチンが終了される。
S13の判定が否定される場合には、自動変速判定手段106に対応するS15において、実際の車速Vとアクセル開度Accとで示される車両状態を示す点Poが変速線図内における複数本のダウンシフト線のいずれか1を横切ったか否かが判定される。
S15の判定が肯定される場合には、プレシフト手段114およびシフトアクチュエータ制御手段118に対応するS16において、S15で横切ったと判定されたダウンシフト線に対応する実際のギヤ段よりも1つダウン側のギヤ段が第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与していない側の変速機構において達成するように、シフトアクチュエータ64およびセレクトアクチュエータ74が制御されて、本ルーチンが終了される。
また、S15の判定が否定される場合には、プレシフトタイミング判定手段116に対応するS17において、S12で算出された次回の変速予測時刻に基づいて、その変速予測時刻から予め設定された一定時間前に達したか否かが判定される。
S17の判定が肯定される場合には、プレシフト手段114およびシフトアクチュエータ制御手段118に対応するS8において、S2で算出された次回の変速時の変速段に基づいて、その変速段に対応するギヤ段を、第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与していない側の変速機構において達成させるプレシフトが行われて、本ルーチンが終了される。
上述のように、本実施例のツインクラッチ式変速機14の制御装置としても機能する電子制御装置82によれば、二次元座標内に複数本のアップシフト線およびダウンシフト線が予め設定された変速線図内において車両状態を示す点Poの変化方向および変化速度を表す変化速度ベクトルを算出する変化速度ベクトル算出手段110と、その変化速度ベクトル算出手段110により算出された変化速度ベクトルと前記変速線とに基づいて次回の変速時の変速段を推定する変速段推定手段112と、その変速段推定手段112により推定された次回の変速時の変速段を、前記第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与していない側の変速機構において予め達成させるプレシフトを実行するプレシフト手段114と、前記車両状態を示す点Poが前記アップシフト線又はダウンシフト線を横切ると、第1クラッチ36および第2クラッチ38のうちの動力伝達に関与している側を解放し、関与していない側を係合させるクラッチアクチュエータ制御手段(クラッチ切換手段)120とを、含むことから、車両状態値(車両状態を示す点Po)の動的変化を示す変化速度ベクトルに基づいてプレシフトすべき次回の変速時の変速段が推定されるので、その推定された次回の変速時の変速段に基づいてプレシフトが実行されることにより、そのプレシフトの実行の遅れが抑制され、適切なタイミングでプレシフトを実行することができる。
また、本実施例のツインクラッチ式変速機14の制御装置としても機能する電子制御装置82によれば、前記変速線図は、車速軸と駆動力要求量軸との二次元座標内において設定された複数本のアップシフト線およびダウンシフト線から構成されるものであり、前記変化速度ベクトルは、その車速軸と駆動力要求量軸との二次元座標内において車速Vとエンジン要求負荷量としてのアクセル開度Accとで示される車両状態を示す点Poの変化速度および変化方向によって表されるものであり、前記変速段推定手段112は、前記変速線図において前記車両状態を示す点Poが横切ると予測される最初の変速線および時刻に基づいて次回の変速時の変速段および変速予測時刻を推定するものであることから、車速Vとエンジン要求負荷量に相当するアクセル開度Accとで示される車両状態値の時間的な変化を示す変化速度ベクトルに基づいてプレシフトすべき次回の変速時の変速時刻が推定されるので、その推定された次回の変速時の変速段および変速予測時刻に基づいてプレシフトが実行されることにより、そのプレシフトの実行の遅れが抑制され、適切なタイミングでプレシフトを実行することができる。
また、本実施例のツインクラッチ式変速機14の制御装置としても機能する電子制御装置82によれば、プレシフト手段114は、変速段推定手段112により推定された次回の変速時の変速段および変速予測時刻に基づいて、その変速予測時刻から予め設定された一定時間前に前記プレシフトの実行を許可するプレシフトタイミング判定手段116を備えることから、車両状態値の時間的な変化を示す変化速度ベクトルに基づいて推定された次回の変速予測時刻に基づいて次回の変速に先立ってプレシフトが実行されることにより、プレシフトが確実に実行された後の適切なタイミングでクラッチ切換を実行することができる。
また、本実施例のツインクラッチ式変速機14の制御装置としても機能する電子制御装置82によれば、前記一定時間は、少なくとも前記プレシフトの実行開始からそのプレシフトの実行終了までにかかる時間以上に設定されていることから、推定された次回の変速予想時刻までにプレシフトが完了するので、急加速操作時においても適切なタイミングでプレシフトを実行することができる。
また、本実施例のツインクラッチ式変速機14の制御装置としても機能する電子制御装置82によれば、前記変速線図には、前記エンジン要求負荷量としてのアクセル開度Accの上限値を示す上限線Aとアクセル開度Accの下限値を示す下限線Bとが設けられており、前記変化速度ベクトルは、そのアクセル開度Accの変化方向が上記上限線Aまたは下限線Bによって制限され、制限された後はその上限線Aまたは下限線Bに沿って移動させられることから、車両状態値の時間的な変化を示す変化速度ベクトルに基づいて推定された次回の変速予測時刻に基づいて次回の変速に先立ってプレシフトが実行されることにより、アクセル開度が最大値又は最小値であってもプレシフト判断の遅れが抑制され、適切なタイミングでプレシフトを実行することができる。
また、本実施例のツインクラッチ式変速機14の制御装置としても機能する電子制御装置82によれば、シフトレバー78を用いて手動変速操作が行われたことを判定する手動変速操作判定手段96と、要求駆動力算出手段100において算出された車両の要求駆動力F*が正であって車両のパワーオン走行であるときは、前記第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与している側の変速機構で達成されているギヤ段よりもアップ側のギヤ段を、その第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与していない側の変速機構において予め達成させるプレシフトを実行するプレシフト手段114と、前記手動変速操作判定手段96によりアップ側への手動変速操作が判定されると、前記第1クラッチ36および第2クラッチ38のうちの動力伝達に関与している側を解放し、関与していない側を係合させるシフトアクチュエータ制御手段118とを、含むことから、手動変速操作に応答してギヤ段を切り換える手動変速モードのツインクラッチ式変速機であっても、プレシフトを実行する変速段が好適に設定され得るので、適切なプレシフトを実行することができる。すなわち、車両の要求駆動力F*が正であって車両のパワーオン走行であるときに前記手動変速操作判定手段96によりアップ側への手動変速操作が判定されてアップシフトが行われる場合には、そのアップシフトの最中にエンジン12に要求される負荷量(車両の要求駆動力F*)は正であり、そのアップシフトにより動力伝達が遮断される時間が長いほど変速ショックが大きくなるが、そのアップシフトに先立って、第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与している側の変速機構で達成されているギヤ段のアップ側のギヤ段がプレシフトを実行する変速段として設定されるので、変速ショックが抑制された変速を可能とする適切なプレシフトを実行することができるようになっている。
また、本実施例のツインクラッチ式変速機14の制御装置としても機能する電子制御装置82によれば、プレシフト手段114は、手動変速操作判定手段96によりダウン側への手動変速操作が判定された場合には、前記第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与している側の変速機構で達成されているギヤ段よりもダウン側のギヤ段を、その第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与していない側の変速機構において達成させるものであることから、手動変速操作に応答してギヤ段を切り換える手動変速モードのツインクラッチ式変速機であっても、プレシフトを実行する変速段が好適に設定され得るので、適切なプレシフトを実行することができる。すなわち、車両の要求駆動力F*が正であって車両のパワーオン走行であるときに前記手動変速操作判定手段96によりダウン側への手動変速操作が判定されてダウンシフトが行われる場合には、そのダウンシフトの最中にエンジン12に要求される負荷量(車両の要求駆動力F*)は正であり、そのダウンシフトの最中に第1変速機構50および第2変速機構52のうちそのダウンシフト前に実際に動力伝達に関与していなかった側の変速機構がアップ側からダウン側へ変速段が切り換えられても、変速ショックが発生し難いので、変速ショックが抑制された変速を可能とする適切なプレシフトを実行することができるようになっている。
また、本実施例のツインクラッチ式変速機14の制御装置としても機能する電子制御装置82によれば、プレシフト手段114は、車両の要求駆動力F*が負であって車両のパワーオフ走行であるときは、第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与している側の変速機構で達成されているギヤ段よりもダウン側のギヤ段を、その第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与していない側の変速機構において達成させるプレシフトを実行するものであることから、手動変速操作に応答してギヤ段を切り換える手動変速モードのツインクラッチ式変速機であっても、プレシフトを実行する変速段が好適に設定され得るので、適切なプレシフトを実行することができる。すなわち、車両の要求駆動力F*が負であって車両のパワーオフ走行であるときに前記手動変速操作判定手段96によりダウン側への手動変速操作が判定されてダウンシフトが行われる場合には、そのダウンシフトの最中にエンジン12に要求される負荷量(車両の要求駆動力)は負であり、そのダウンシフトにより動力伝達が遮断される時間が長いほど変速ショックが大きくなるが、そのダウンシフトに先立って、第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与している側の変速機構で達成されているギヤ段のダウン側のギヤ段がプレシフトを実行する変速段として設定されるので、変速ショックが抑制された変速を可能とする適切なプレシフトを実行することができるようになっている。
また、本実施例のツインクラッチ式変速機14の制御装置としても機能する電子制御装置82によれば、プレシフト手段114は、手動変速操作判定手段96によりアップ側への手動変速操作が判定された場合には、前記第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与している側の変速機構で達成されているギヤ段よりもアップ側のギヤ段を、その第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与していない側の変速機構において達成させるものであることから、手動変速操作に応答してギヤ段を切り換える手動変速モードのツインクラッチ式変速機であっても、プレシフトを実行する変速段が好適に設定され得るので、適切なプレシフトを実行することができる。すなわち、車両の要求駆動力F*が負であって車両のパワーオフ走行であるときに前記手動変速操作判定手段96によりアップ側への手動変速操作が判定されてアップシフトが行われる場合には、そのアップシフトの最中にエンジン12に要求される負荷量(車両の要求駆動力)は負であり、そのアップシフトの最中に第1変速機構50および第2変速機構52のうちそのアップシフト前に実際に動力伝達に関与していなかった側の変速機構がダウン側からアップ側へ変速段が切り換えられても、変速ショックが発生し難いので、変速ショックが抑制された変速を可能とする適切なプレシフトを実行することができるようになっている。
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
たとえば、前述の実施例において、プレシフト手段104は、要求駆動力算出手段100のおいて算出された要求駆動力F*に基づいて、要求駆動力正負判定手段102によりその要求駆動力F*が正であると判定されたときには、実際のギヤ段よりもアップ側のギヤ段を実際に動力伝達に関与していない側の変速機構において達成させるプレシフトを実行し、また、上記要求駆動力F*が負であると判定されたときには、実際のギヤ段よりもダウン側のギヤ段を実際に動力伝達に関与していない側の変速機構において達成させるプレシフトを実行するように構成されていたが、これに限らない。例えば、上記要求駆動力算出手段100および要求駆動力正負判定手段102に代えて、エンジン要求負荷量としての例えばアクセル開度Acc等に基づいて車両の走行状態がパワーオン走行であるかパワーオフ走行であるかを判定する走行状態判定手段が設けられ、プレシフト手段104は、上記走行状態判定手段により車両の走行状態がパワーオン走行であると判定されたときには、実際のギヤ段よりもアップ側のギヤ段を実際に動力伝達に関与していない側の変速機構において達成させるプレシフトを実行し、また、上記走行状態判定手段により車両の走行状態がパワーオフ走行であると判定されたときには、実際のギヤ段よりもダウン側のギヤ段を実際に動力伝達に関与していない側の変速機構において達成させるプレシフトを実行するように構成されてもよい。
また、前述の実施例において、ツインクラッチ式変速機14は、手動変速モードおよび自動変速モードを備えていたが、少なくともどちらか一方の変速モードを備えていればよい。それに伴って、例えば、手動変速モードだけを備えたツインクラッチ式変速機14であれば、変速モード検出手段や、自動変速モードに関連した制御機能に対応する自動変速判定手段106、自動変速モードプレシフト制御手段108、変化速度ベクトル算出手段110、変速段推定手段112、プレシフト手段114、およびプレシフトタイミング判定手段116を備えていなくてもよい。また、例えば、自動変速モードだけを備えたツインクラッチ式変速機14であれば、変速モード検出手段や、手動変速モードに関連した制御機能に対応する手動変速操作判定手段96、手動変速モードプレシフト制御手段98、要求駆動力算出手段100、要求駆動力正負判定手段102、およびプレシフト手段104を備えていなくてもよい。
また、前述の実施例では、プレシフトタイミング判定手段116が設けられ、プレシフト手段104は、プレシフトタイミング判定手段116によりプレシフトが許可された場合にプレシフトを実行するものであったが、このプレシフトタイミング判定手段116を備えていなくてもよい。すなわち、プレシフト手段104は、変速段推定手段112により次回の変速時の変速段が推定されたことに応答して、その変速段を、第1変速機構50および第2変速機構52のうち実際に動力伝達に関与していない側の変速機構において達成させるプレシフトを実行するものであってもよい。
また、前述の実施例において、プレシフト手段114は、変速段推定手段112により推定された次回の変速時の変速段および変速予測時刻に基づいて、その変速予測時刻から予め設定された一定時間前にプレシフトの実行を許可するプレシフトタイミング判定手段116を備えており、上記一定時間は、少なくともプレシフト実行開始から終了までにかかる時間以上になるように予め実験的に求められて記憶されているものであったが、上記一定時間に代わって、例えば、油圧アクチュエータ44および46の作動油温など、ツインクラッチ部24内の油温或いは変速部26内の油温に応じて予め設定されて記憶された所定時間などが用いられ得る。
また、前述の実施例において、変速部26は、変速ギヤ段のうちの奇数段である第1速ギヤ段「1st」および第3速ギヤ段「3rd」を備えた第1変速機構50と、変速ギヤ段のうちの偶数段偶数段である第2速ギヤ段「2nd」および第4速ギヤ段「4th」を備えた第2変速機構52とを備えたものであったが、これに限らず、例えば上記第1変速機構50が第3速ギヤ段「3rd」に比較して変速比が小さく設定された高速側ギヤ段として例えば第5速ギヤ段、第7速ギヤ段、および第9速ギヤ段などを備え、また例えば上記第2変速機構52が第4速ギヤ段「4th」に比較して変速比が小さく設定された高速側ギヤ段として例えば第6速ギヤ段、第8速ギヤ段、および第10速ギヤ段などを備えていてもよい。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。