以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。本実施の形態は、鉛直軸に対する車両の姿勢角であるピッチ角及びロール角を推定すると共に、車両のスリップ角を推定する姿勢角スリップ角推定装置に本発明を適用したものである。
まず、図2に示すように、車両運動の軸を重心から車両前方方向に向かってx軸、車両左方向に向かってy軸、鉛直上向きに向かってz軸としたときの各軸回りの回転角速度を各々ロール角速度、ピッチ角速度、ヨー角速度と定義する。
図1に示すように、第1の実施の形態に係る姿勢角スリップ角推定装置10は、車両運動のxyz3軸の加速度である前後加速度Gx、横加速度Gy、及び上下加速度Gzの各々を検出し、検出値に応じたセンサ信号を出力する前後加速度センサ12、横加速度センサ14、及び上下加速度センサ16と、ロール角速度Pを検出し、検出値に応じたセンサ信号を出力するロール角速度センサ18と、ヨー角速度Rを検出し、検出値に応じたセンサ信号を出力するヨー角速度センサ20とを備えている。
上下加速度センサ16、及びロール角速度センサ18は、後述するドリフト量推定手段28によって推定されたセンサドリフト量に基づいて、各センサからのセンサ信号を補正するドリフト量補正手段22に接続されている。ドリフト量補正手段22は、ドリフト量推定手段28に接続されている。
ドリフト量補正手段22は、車体の鉛直軸に対する姿勢角であるロール角φ及びピッチ角θを推定する姿勢角オブザーバ24に接続されている。
また、前後加速度センサ12、横加速度センサ14、及びヨー角速度センサ20は、後述するドリフト量推定手段38によって推定された前後加速度センサ12、横加速度センサ14、及びヨー角速度センサ20の各々のセンサドリフト量に基づいて、前後加速度センサ12、横加速度センサ14、及びヨー角速度センサ20の各々からのセンサ信号を補正するドリフト量補正手段32に接続されている。ドリフト量補正手段32は、ドリフト量推定手段38に接続されている。
上下加速度センサ16、ロール角速度センサ18、ドリフト量補正手段32、及び姿勢角オブザーバ24は、車両運動の運動方程式により得られるロール角及びピッチ角の各々の微分量を算出する運動方程式微分量算出手段26に接続されている。なお、ドリフト量補正手段32からは、ドリフト量を補正されたヨー角速度が運動方程式微分量算出手段26に入力される。
姿勢角オブザーバ24及び運動方程式微分量算出手段26は、上下加速度センサ16及びロール角速度センサ18の各々のセンサドリフト量を推定するドリフト量推定手段28に接続されている。
ドリフト量補正手段32は、車体スリップ角を推定するスリップ角オブザーバ34に接続されている。
前後加速度センサ12、横加速度センサ14、ヨー角速度センサ20、姿勢角オブザーバ24、及びスリップ角オブザーバ34は、車両運動の運動方程式により得られる前後車体速度及び横車体速度の各々の微分量を算出する運動方程式微分量算出手段36に接続されている。
スリップ角オブザーバ34及び運動方程式微分量算出手段36は、前後加速度センサ12、横加速度センサ14、及びヨー角速度センサ20の各々のセンサドリフト量を推定するドリフト量推定手段38に接続されている。
ドリフト量補正手段22、姿勢角オブザーバ24、運動方程式微分量算出手段26、ドリフト量推定手段28、ドリフト量補正手段32、スリップ角オブザーバ34、運動方程式微分量算出手段36、及びドリフト量推定手段38は、各手段の機能を実現する1つまたは複数のコンピュータ、または1つまたは複数の電子回路で構成することができる。
姿勢角オブザーバ24は、スリップ角オブザーバ34で推定された横車体速度Vの推定値、前後車体速度Uの推定値、ドリフト量補正手段22で補正された上下加速度Gzの検出値に応じた補正信号、及びロール角速度Pの検出値に応じた補正信号に基づいて、ピッチ角速度Qを推定する。姿勢角オブザーバ24は、ドリフト量補正手段22及びドリフト量補正手段32で補正された、車両運動の前後加速度Gx、横加速度Gy、上下加速度Gz、ヨー角速度R、及びロール角速度Pの各検出値に応じた補正信号と、前後車体速度Uの推定値Vsoと、ピッチ角速度Qの推定値とに基づいて、車体の鉛直軸に対する姿勢角であるロール角φ及びピッチ角θを推定する。
次に、ピッチ角速度の推定について説明する。剛体に固定された3軸加速度及び3軸角速度を検出する3軸センサから出力されるセンサ信号と運動状態量との関係を表す剛体の運動方程式は、以下のように記述することができる。
ただし、 Gx:前後加速度、Gy:横加速度、Gz:上下加速度、P:ロール角速度、Q:ピッチ角速度、R:ヨー角速度、U:前後車体速度、V:横車体速度、W:上下車体速度、φ:ロール角、θ:ピッチ角、g:重力加速度である。
本実施の形態において車両を剛体とした場合、前後加速度Gx、横加速度Gy、及び上下加速度Gzの3軸速度、並びにロール角速度P及びヨー角速度Rの2軸角速度の各々は、前後加速度センサ12、横加速度センサ14、上下加速度センサ16、ロール角速度センサ18、及びヨー角速度センサ20によって検出されたセンサ信号がドリフト量補正手段22又はドリフト量補正手段32でドリフト量を補正された信号であり、横車体速度Vは、後述するスリップ角オブザーバ34によって推定でき、また、前後車体速度Uは各輪の車輪速に基づいて推定することができる。
本実施の形態では、上記(3)式において上下車体速度Wの変化を無視(W=0とする)できると仮定し、ロール角φ及びピッチ角θの各々の前回推定値φのチルダ、θのチルダ、横車体速度Vの前回推定値Vのチルダ、及び前後車体速度Uとして前後車体速度の推定値Vsoを用いることにより、ピッチ角速度Qの推定値Qのチルダを以下の(6)式から求めることができる。姿勢角オブザーバ24は、下記(6)式の演算を実行することによりピッチ角速度Qの推定値Qのチルダを求める。
なお、上記(6)式において、P−Pdrは、ロール角速度センサ20のセンサ信号Pのドリフト量Pdrを補正した信号を表わし、Gz−Gzdrは、上下加速度センサ16のセンサ信号Gzのドリフト量Gzdrを補正した信号を表わしている。
ピッチ角速度が上記のように推定されると、ピッチ角もロール角と同時に姿勢角オブザーバ24によって推定することができる。姿勢角オブザーバ24を用いた場合の自動車固有の運動の拘束条件について説明する。上記の運動方程式を利用して、姿勢角オブザーバ24を構成する場合、積分演算によって推定される速度及び角度の状態量が発散しないように、測定できる物理量のフィードバックが必要となる。本実施の形態では、自動車運動固有の特徴を、以下のようにフィードバックする物理量に利用する。なお、以下の式では、ロール角及びピッチ角として各々の前回推定値φのチルダ、θのチルダ、横車体速度としての横車体速度の推定値Vのチルダ、及び前後車体速度Uとしての前後車体速度の推定値Vsoを各々用いている。
前後車体速度の推定値Vsoを微分して上記(1)式に代入し、自動車運動固有の特徴として、車体の前後方向に関しては「車輪のスリップは長時間増加し続けない」という性質を利用すると、上記(1)式から上下車体速度の変化を無視した、フィードバックに利用する以下の(7)式に示す条件が得られる。
なお、上記(7)式において、Gx−Gxdrは、前後加速度センサ12のセンサ信号Gxのドリフト量Gxdrを補正した信号を表わしている。
上記(7)式は、車輪速度から推定される加速度(前後車体速度の推定値Vsoの微分値)と前後加速度Gxとの差と、ピッチ角θとの関係を記述している。
また、車体の横方向に関しては、「スリップ角は長時間増加し続けない」という性質からロール角速度及び横加速度を無視できることから、フィードバックに利用するための、上記(2)式から得られる以下の(8)式に示す条件が得られる。
なお、上記(8)式において、Gy−Gydrは、横加速度センサ14のセンサ信号Gyのドリフト量Gydrを補正した信号を表わしている。
さらに、一般的な道路勾配を考慮すると、「鉛直方向の加速度は、重力加速度に略一致している」とみなすことができる。この条件は、前後加速度Gx、横加速度Gy、上下加速度Gz、ピッチ角θ、及びロール角φを用いて次式の代数方程式によって記述することができる。
上記(7)〜(9)式の関係は、いずれもある程度長い時間を考慮したときに満足する条件であることから、オブザーバ測定量のフィードバックには、以下で説明するように上記(7)〜(9)式の両辺をローパスフィルタ処理した値を利用する。
次に、基本的な非線形オブザーバの構成について説明する。ここでは、ドリフト量を補正された補正信号と、ピッチ角速度の推定値とを含む値uを下記(10)式のように表現している。
また、対象となる車両運動を下記(11)式のように表現し、オブザーバを構成するために測定できる物理量を(12)式のように表現すると、非線形オブザーバは、以下の(13)式及び(14)式の非線形運動方程式によって記述することができる。
ただし、xのチルダ、yのチルダは、それぞれx、yの推定値を表わし、k(xのチルダ、u)は設計するオブザーバゲインを表わしている。
上記(7)式〜(9)式は、何れもある程度長い時間を考慮したときに満足する条件であることから、オブザーバの測定量のフィードバックには、下記(15)〜(17)式に示す、上記(7)式〜(9)式の両辺をローパスフィルタでローパスフィルタ処理した値を利用する。
ただし、τx、 τy、 τgは、上記(7)式〜(9)式で考慮するローパスフィルタの数秒から数十秒以上の時定数を各々表している。
次に、上記の基本的な非線形オブザーバを用いてロール角φ及びピッチ角θを推定する本実施の形態の姿勢角オブザーバ24について説明する。上記(4)式、(5)式の角度に関する状態方程式には、速度の状態量が含まれていないことから、角度としてロール角φ及びピッチ角θを速度の推定と分離して推定することができる。
このため、まず、上記のローパスフィルタによって生じる状態量を含め、ロール角及びピッチ角を推定するためのオブザーバを構成する。本実施の形態では、オブザーバの状態量xのチルダを下記(18)式で表す。
また、フィードバックに用いるオブザーバ出力を下記(19)式で表す。
さらに、センサ信号等から演算される車両出力を以下の(20)式で表わし、適切なオブザーバゲインk(xのチルダ,u)を設定することによって、ロール角及びピッチ角を推定する姿勢角オブザーバ24を構成している。
なお、上記(21)式の右辺の第2項の分子は、前後車体速度の推定値Vsoの微分値から、ドリフト量を補正されたヨー角速度値R−Rdrと横車体速度の推定値との積と、ドリフト量を補正された前後加速度値G−Gxdrとの和を減算した前後加速度状態量の偏差である。また、上記(22)式の右辺の第2項の分子は、ドリフト量を補正されたヨー角速度値R−Rdrと前後車体速度の推定値Vsoとの積からドリフト量を補正された横加速度値Gy−Gydrを減算した横加速度状態量の偏差である。
オブザーバゲインの一例として、本実施の形態では、オブザーバの安定性を確保するため、線形化を行ったときの対角成分が負の係数を持つように、下記(23)式のように表す。
ただし、Kφy、 Kφg、 Kθx、 Kθg、 Kx、 Ky、 Kgは適切な正の定数である。したがって、ロール角及びピッチ角を推定する本実施の形態の非線形オブザーバは、以下の(24)式で表される運動方程式で記述される。
ただし、xのチルダは、以下の(25)式で表される。
姿勢角オブザーバ24は、上記(24)式を用いることにより、車体鉛直方向に対する姿勢角であるロール角φのチルダの微分量dφのチルダとピッチ角θのチルダの微分量dθのチルダとを算出し、算出したロール角φのチルダの微分量dφのチルダ及びピッチ角θのチルダの微分量dθのチルダの各々を積分することにより、ロール角φのチルダ及びピッチ角θのチルダを算出することができる。
スリップ角オブザーバ34は、車両横方向の車体速度である横車体速度Vを推定すると共に、各輪の車輪速度に基づいて車両前後方向の車体速度である前後車体速度Uを推定し、また、横車体速度Vの推定値、前後車体速度Uの推定値、前後加速度Gxの検出値に応じた補正信号、横加速度Gyの検出値に応じた補正信号、及びヨー角速度Rの検出値に応じた補正信号に基づいて、前後車体速度U及び横車体速度Vを推定する。また、スリップ角オブザーバ34は、前後車体速度Uの推定値及び横車体速度Vの推定値に基づいて、車体スリップ角βを推定する。
次に、前後車体速度及び横車体速度の推定について説明する。
従来、動特性を無視していた上記(1)式には、横車体速度Vの項が含まれており、この横車体速度を利用することによってオブザーバが構成できる。ここでは、ヨー角速度を独立したパラメータとみなして、上記(1)式及び(2)式を以下のように整理する。なお、上下車体速度Wに関しては、第1の実施の形態と同様に0と仮定している。
また、システムの出力を前後車体速度U、すなわち以下の(27)式で表わされると考えると、(26)式及び(27)式は可観測なシステムとなる。
なお、前後車体速度Uは、上記で説明したように、各輪の車輪速に基づいて推定される。例えば、オブザーバゲインKは、ヨー角速度の絶対値から得られる値を含む以下の(28)式で表わされる。
オブザーバゲインを上記の(28)式のように表わすと、オブザーバは以下の(29−1)式〜(29−5)式で表される運動方程式で記述される。
ただし、xのチルダは、オブザーバの状態量であり、以下の(30)式で表される。
上記(29−5)式のように、前後車体速度の演算値Uと前後車体速度の推定値Uのチルダとの偏差と、ヨー角速度Rの絶対値から得られるオブザーバゲインとを乗算した積をフィードバック量とする安定なオブザーバ(ω=|R−Rdr|rad/sの2次バタワス極を有する)を構成することができる。
本実施の形態のスリップ角オブザーバ34は、上記(29−5)式を用いて前後車体速度及び横車体速度を推定する。本実施の形態では、車体の姿勢角、すなわち鉛直軸に対する車体のロール角φ及びピッチ角θは既知という仮定の下で(例えば、ロール角、ピッチ角を0とする)、前後車体速度Uのチルダ及び横車体速度Vのチルダをオブザーバの状態量とし、前後車体速度の演算値Uから前後車体速度の推定値Uのチルダ(オブザーバ出力)を減算した偏差、既知のロール角φ及びピッチ角θ、並びにドリフト量補正手段32で補正された前後加速度Gx−Gxdr、横加速度Gy−Gydr、及びヨー角速度R−Rdrを用いて、前後車体速度Uのチルダの微分量dUのチルダ及び横車体速度Vのチルダの微分量dVのチルダを算出している。また、スリップ角オブザーバ34は、前後車体速度及び横車体速度の微分量を積分して、前後車体速度及び横車体速度を推定している。
また、スリップ角オブザーバ34は、前後車体速度U及び横車体速度Vの関係から次の(31)式に基づいて車体スリップ角βを推定する。
次に、車両運動の運動方程式により得られるロール角φの微分量dφm及びピッチ角θの微分量dθmの各々の算出方法について説明する。
上記(1)式〜(5)式に対して、上下車体速度を0と仮定し、上記(6)式を代入すると、以下の(32)式〜(35)式が得られる。
ただし、ロール角φ及びピッチ角θには、姿勢角オブザーバ24によって推定されたロール角φ及びピッチ角θの推定値を用いる。また、前後加速度Gx−Gxdr、横加速度Gy−Gydr、及び上下加速度Gz−Gzdrの3軸速度、並びにロール角速度P−Pdr及びヨー角速度R−Rdrの2軸角速度の各々は、前後加速度センサ12、横加速度センサ14、上下加速度センサ16、ロール角速度センサ18、及びヨー角速度センサ20によって検出されたセンサ信号がドリフト量補正手段22、32において補正された信号である。また、横車体速度Vは、カルマンフィルタ等を用いて推定したり、横加速度センサの検出値から推定したりすることができ、前後車体速度Uは各輪の車輪速に基づいて推定することができる。
車両運動の運動方程式により得られるロール角φの微分量dφmおよびピッチ角θの微分量dθmは、上記(34)式、(35)式のドリフト量を無視した以下の(36)式、(37)式で算出される。
また、上記(34)式のφのドット、上記(35)式のθのドットと、上記(36)式のdφm、上記(37)式のdθmとの間には、以下の(38)式、(39)式で表される関係が存在する。
運動方程式微分量算出手段26は、上記(36)式、(37)式に従って、車両運動の運動方程式より得られるロール角φ及びピッチ角θの微分量を算出する。
次に、車両運動の運動方程式により得られる前後車体速度Uの微分量dUm及び横車体速度Vの微分量dVmの各々の算出方法について説明する。
車両運動の運動方程式により得られるロール角φの微分量dφmおよびピッチ角θの微分量dθmは、上記(32)式、(33)式のドリフト量を無視した以下の(40)式、(41)式で算出される。
また、上記(32)式のUのドット、上記(33)式のVのドットと、上記(40)式のdUm、上記(41)式のdVmとの間には、以下の(42)式、(43)式で表される関係が存在する。
運動方程式微分量算出手段36は、上記(40)式、(41)式に従って、車両運動の運動方程式より得られる前後車体速度U及び横車体速度Vの微分量を算出する。
次に、本実施の形態の原理について説明する。車両の運動状態量から姿勢角を推定するオブザーバは、センサ信号のドリフト誤差の影響を少なくする効果がある。従って、姿勢角オブザーバ24より得られる姿勢角の推定値は、運動方程式より得られる運動状態量を単純に積分することによって求められる姿勢角の演算値に比較して、車両の運動状態量を検出するセンサの出力に含まれるドリフト誤差の影響を受け難いという性質を有している。これは、姿勢角の推定値と演算値とを比較することによって、ドリフト誤差を推定できるということを意味している。
そこで、本実施の形態では、この性質に着目し、ドリフト量推定手段28によって、姿勢角オブザーバ24で算出された姿勢角の微分量と運動方程式微分量算出手段26で算出された姿勢角の微分量との比較から、センサドリフト量を推定する。これらの姿勢角の微分量の比較は、直進状態に限らず常に有効であることから、非直進状態でもセンサドリフト量を推定できるという特徴を有する。これにより、直進走行状態が少ない走行パターンでも常にセンサドリフト量を逐次推定することが可能となる。
次に、センサドリフト量の推定方法について説明する。
センサ信号Gx、Gy、Gz、P、Rに、所定のドリフト誤差Gxdr、Gydr、Gzdr、Pdr、Rdrが重畳していると仮定するとともに、上記(32)式〜(35)式の右辺が表わす微分量について、姿勢角オブザーバ24によって真値が既知であると仮定すると、以下の(44)式〜(47)式で表される関係が成立する。
ただし、dU、dVは、上記(29−1)式〜(29−5)式により得られるオブザーバ内部演算値としての前後車体速度の微分量、横車体速度の微分量であり、dφ、dθは、上記(24)式により得られるオブザーバ内部演算値としてのロール角の微分量、ピッチ角の微分量である。
上記(46)式、(47)式は、センサ信号のセンサドリフト量を考慮したときに、姿勢角オブザーバ24により算出されたロール角及びピッチ角の微分量と、運動方程式により得られるロール角及びピッチ角の微分量にセンサドリフト量を考慮した値とが等しくなる関係を表わしている。また、上記(44)式、(45)式は、スリップ角オブザーバ34により算出された前後車体速度及び横車体速度の微分量と、運動方程式により得られる前後車体速度及び横車体速度の微分量にセンサドリフト量を考慮した値とが等しくなる関係を表わしている。
ここで、上記(44)式、(45)式にGz、Pが含まれていないこと、及び上記(46)式、(47)式にGx、Gyが含まれておらず、かつ、Rの係数も比較的小さい(姿勢角が小さいことを仮定)ことから、上下加速度Gz及びロール角速度Pに関するセンサドリフト量の推定と、前後加速度Gx、横加速度Gy、及びヨー角速度Rに関するセンサドリフト量の推定とは、分離して行うことが可能である。
ところで、横加速度に関しては、「スリップ角は長時間、非線形領域に留まらない」という条件から、以下の(48)式で表される関係を利用することができる。
ただし、τyは、長時間の運動のみを考慮するためのフィルタ時定数であり、cf、crは、前後輪のコーナリングパワーであり、lf、lrは、前後軸−重心間距離である。また、lはホイールベースであり、mは車両質量であり、δfは前輪実舵角である。
また、上下加速度に関して、「鉛直方向の加速度は重力加速度」という条件から、以下の(49)式で表される関係を利用することができる。
ただし、Dgf、Egfは、以下の式で表される。また、τ
fは、長時間の運動のみを考慮するためのフィルタ時定数である。
ここでは、上記(46)式、(47)式、(49)式から、以下の(50)式で記述することができる。
ただし、dD1、dE1、dE2、dE3は、以下の(51)式〜(54)式で表される。
そして、上記(50)式の左辺の係数行列と右辺のベクトルとを一定時間積分すると、以下の(55)式が得られる。
ただし、D1、E1、E2、E3は、以下の(56)式〜(59)式で表される。
上記(55)式を解くことによって、以下の(60)式を導出することができる。
ドリフト量推定手段28は、上記(60)式に従って、姿勢角オブザーバ24で算出されるロール角及びピッチ角の各々の微分量と、運動方程式微分量算出手段26で算出されたロール角及びピッチ角の各々の微分量とに基づいて、上下加速度センサ16のセンサドリフト量及びロール角速度センサ18のセンサドリフト量を推定することができる。
また、本実施の形態に係るドリフト量推定手段28では、演算の安定化を図るため、前回の推定値を用いて、以下の(61)式、(62)式に従って、上記(60)式の演算結果により得られるセンサドリフト量の推定値を平滑化する。
ただし、Gzdrのチルダ、Pdrのチルダは、平滑化後のセンサドリフト量の推定値であり、λ1は、忘却係数である。
また、上記(30)式、(31)式、(34)式から、以下の(63)式が得られる。
ただし、dD2、dE4、dE5、dE6は、以下の(64)式〜(67)式で表される。
上記(63)式の左辺の係数行列と右辺のベクトルとを一定時間積分すると、以下の(68)式が得られる。
ただし、D2、E4、E5、E6は、以下の(69)式〜(72)式で表される。
上記(68)式を解くことによって、以下の(73)式が導出される。
ドリフト量推定手段38は、上記(73)式に従って、スリップ角オブザーバ34で算出される前後車体速度及び横車体速度の各々の微分量と、運動方程式微分量算出手段36で算出された前後車体速度及び横車体速度の各々の微分量とに基づいて、前後加速度センサ12のセンサドリフト量、横加速度センサ14のセンサドリフト量、及びヨー角速度センサ20のセンサドリフト量を推定することができる。
また、本実施の形態に係るドリフト量推定手段38では、演算の安定化を図るため、前回の推定値を用いて、以下の(74)式〜(76)式に従って、上記(73)式の演算結果により得られるセンサドリフト量の推定値を平滑化する。
ただし、Gxdrのチルダ、Gydrのチルダ、Rdrのチルダは、平滑化後のセンサドリフト量の推定値であり、λ2は、忘却係数である。
上記の第1の実施の形態において、コンピュータを、ドリフト量補正手段22、姿勢角オブザーバ24、運動方程式微分量算出手段26、及びドリフト量推定手段28の各手段として機能させるプログラムによる情報処理は、図3のフローチャートに示す姿勢角推定処理ルーチンで実現することができる。コンピュータは、相互にバスによって接続されたCPU、ROM、及びRAM、並びに必要に応じて接続されたHDDで構成され、これらのプログラムは、コンピュータのCPUに接続されているROMまたはHDD等の記録媒体に記録される。
この姿勢角推定処理ルーチンを説明すると、ステップ100で、前後加速度センサ12、横加速度センサ14、上下加速度センサ16、ロール角速度センサ18、及びヨー角速度センサ20から、各検出値に応じたセンサ信号を取得する。
そして、ステップ102において、後述のステップ108で1演算周期前に得られた上下加速度センサ16のセンサドリフト量及びロール角速度センサ18のセンサドリフト量を用いて、上記ステップ100で取得された上下加速度センサ16及びロール角速度センサ18から出力されたセンサ信号を補正する。
そして、ステップ104で、後述のステップ110で1演算周期前に得られた姿勢角推定値と後述のステップ160で1演算周期前に得られた車体速度推定値とを用いて、上記で説明したように、姿勢角オブザーバ24によってロール角及びピッチ角を推定するために算出されるロール角及びピッチ角の各々の微分量を算出する。
そして、ステップ106において、後述のステップ110で1演算周期前に得られた姿勢角推定値と後述のステップ160で1演算周期前に得られた車体速度推定値とを用いて、上記で説明したように、上記ステップ104で算出されたロール角及びピッチ角の各々の微分量と、車両運動の運動方程式から得られるロール角及びピッチ角の各々の微分量にセンサドリフト量を考慮した値とが等しくなる関係を用いて、上下加速度センサ16のセンサドリフト量及びロール角速度センサ18のセンサドリフト量を推定する。
次のステップ108では、上記ステップ106で推定された上下加速度センサ16のセンサドリフト量及びロール角速度センサ18のセンサドリフト量を、前回のセンサドリフト量の推定値を用いて平滑化する。
次のステップ110では、上記ステップ104で算出されたロール角及びピッチ角の各々の微分量を積分することで、ロール角及びピッチ角を推定して出力し、上記ステップ100へ戻る。
また、コンピュータを、ドリフト量補正手段32、スリップ角オブザーバ34、運動方程式微分量算出手段36、及びドリフト量推定手段38の各手段として機能させるプログラムによる情報処理は、図4のフローチャートに示すスリップ角推定処理ルーチンで実現することができる。
このスリップ角推定処理ルーチンを説明すると、ステップ150で、前後加速度センサ12、横加速度センサ14、及びヨー角速度センサ20から、各検出値に応じたセンサ信号を取得する。
そして、ステップ152において、後述のステップ158で1演算周期前に得られた前後加速度センサ12のセンサドリフト量、横加速度センサ14のセンサドリフト量、及びヨー角速度センサ20のセンサドリフト量を用いて、上記ステップ150で取得された前後加速度センサ12、横加速度センサ14、及びヨー角速度センサ20の各々から出力されたセンサ信号を補正する。
そして、ステップ154で、上記ステップ110で1演算周期前に得られた姿勢角推定値と後述のステップ160で1演算周期前に得られた車体速度推定値とを用いて、上記で説明したように、前後車体速度及び横車体速度を推定するために算出される前後車体速度及び横車体速度の各々の微分量を算出する。
そして、ステップ156において、上記ステップ110で1演算周期前に得られた姿勢角推定値と後述のステップ160で1演算周期前に得られた車体速度推定値とを用いて、上記で説明したように、上記ステップ154で算出された前後車体速度及び横車体速度の各々の微分量と、車両運動の運動方程式から得られる前後車体速度及び横車体速度の各々の微分量にセンサドリフト量を考慮した値とが等しくなる関係を用いて、前後加速度センサ12のセンサドリフト量、横加速度センサ14のセンサドリフト量、及びヨー角速度センサ20のセンサドリフト量を推定する。
次のステップ158では、上記ステップ156で推定された前後加速度センサ12のセンサドリフト量、横加速度センサ14のセンサドリフト量、及びヨー角速度センサ20のセンサドリフト量を、前回の推定値を用いて平滑化する。
次のステップ160では、上記ステップ154で算出された前後車体速度及び横車体速度の各々の微分量を積分することで、前後車体速度及び横車体速度を推定し、推定された前後車体速度及び横車体速度に基づいて車体スリップ角を推定して出力し、上記ステップ150へ戻る。
次に、本実施の形態のセンサドリフト量の推定方法による推定結果について説明する。なお、センサドリフト量の推定方法の効果を確認するため、長時間の限界走行データのセンサ信号に、時間とともに増加するドリフト外乱を印加して、センサドリフト量の推定、及びこの推定値を利用した姿勢角の推定を行った。
まず、アルゴリズムの動作確認のため、ドリフトを印加しない状態でセンサドリフト量の推定を行った。この場合には、図5(A)〜(E)に示すような推定結果が得られた。センサドリフト量のない状態では、各センサドリフト量の推定結果も0付近の値を示していることがわかった。
また、ドリフトを印加しない状態で、ドリフト推定を適応させた姿勢角の推定、すなわち、このセンサドリフト量の推定結果を利用した姿勢角の推定を行った。この場合には、図6(A)、(B)に示すような推定結果が得られた。ドリフト推定を適応させない結果(真値)と比較すると、両者の値はほぼ一致しており、センサドリフトがない状態であっても、本実施の形態に係るアルゴリズムが、推定値に悪影響を与えていないことが確認できた。
また、ロール角推定に影響が大きいロール角速度センサにドリフトを印加した状態でセンサドリフト量の推定を行った。この場合には、図7(A)〜(E)に示すような推定結果が得られた。推定されたセンサドリフト量が、時間に比例して増加するドリフト量の真値に適切に追従していることがわかった。
また、ロール角速度センサにドリフトを印加した状態で、ドリフト推定を適応させた姿勢角の推定、すなわち、このセンサドリフト量の推定結果を利用した姿勢角の推定を行った。この場合には、図8(A)、(B)に示すような推定結果が得られた。ドリフト推定を適応させない場合の推定結果と比較すると、ドリフト推定を適応させない場合には、ロール角速度センサのセンサドリフト量に応じて、推定値の誤差(ドリフトを加えない場合の姿勢角の推定値との差)が増大するのに対し、ドリフト推定を適応させることによって真値に近い推定ができることがわかった。
以上説明したように、第1の実施の形態に係る姿勢角推定装置によれば、ロール角及びピッチ角を推定するために算出されたロール角及びピッチ角の各々の微分量と車両運動の運動方程式より得られるロール角及びピッチ角の各々の微分量にセンサドリフト量を考慮した値とが等しくなる関係を用いて、上下加速度及びロール角速度の各々を検出するセンサのセンサドリフト量を推定することにより、車両運動の状態に関わらず、安定して、上下加速度及びロール角速度の各々を検出するセンサのセンサドリフト量を推定することができる。
また、スリップ角オブザーバによって算出された前後車体速度及び横車体速度の各々の微分量と車両運動の運動方程式より得られる前後車体速度及び横車体速度の各々の微分量にセンサドリフト量を考慮した値とが等しくなる関係を用いて、前後加速度、横加速度、及びヨー角速度の各々を検出するセンサのセンサドリフト量を推定することにより、車両運動の状態に関わらず、安定して、前後加速度、横加速度、及びヨー角速度の各々を検出するセンサのセンサドリフト量を推定することができる。
また、推定されたセンサドリフト量によって補正されたセンサ信号に基づいて、姿勢角としてのロール角及びピッチ角を精度よく推定することができる。
また、推定されたセンサドリフト量によって補正されたセンサ信号に基づいて、前後車体速度及び横車体速度を精度よく推定することができ、また、車体スリップ角を精度よく推定することができる。
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成の部分については、同一符号を付して説明を省略する。本実施の形態は、鉛直軸に対する車両の姿勢角であるピッチ角及びロール角を推定する姿勢角推定装置に本発明を適用したものである。
図9に示すように、第2の実施の形態に係る姿勢角推定装置210は、前後加速度センサ12、横加速度センサ14と、上下加速度センサ16と、ロール角速度センサ18と、ヨー角速度センサ20とを備えている。
上下加速度センサ16、ロール角速度センサ18、及びヨー角速度センサ20は、ドリフト量推定手段28によって推定されたセンサドリフト量に基づいて、各センサからのセンサ信号を補正するドリフト量補正手段222に接続されている。ドリフト量補正手段222は、ドリフト量推定手段28に接続されている。
ドリフト量補正手段222は、車体の鉛直軸に対する姿勢角であるロール角φ及びピッチ角θを推定する姿勢角オブザーバ224に接続されている。
上下加速度センサ16、ロール角速度センサ18、ヨー角速度センサ20、及び姿勢角オブザーバ224は、車両運動の運動方程式により得られるロール角及びピッチ角の各々の微分量を算出する運動方程式微分量算出手段226に接続されている。
姿勢角オブザーバ224及び運動方程式微分量算出手段226は、ドリフト量推定手段28に接続されている。
ドリフト量補正手段222、姿勢角オブザーバ224、運動方程式微分量算出手段226、及びドリフト量推定手段28は、各手段の機能を実現する1つまたは複数のコンピュータ、または1つまたは複数の電子回路で構成することができる。
姿勢角オブザーバ224は、車両横方向の車両速度である横車体速度Vを推定すると共に、各輪の車輪速度に基づいて車両前後方向の車両速度である前後車体速度Uを推定し、また、横車体速度Vの推定値、前後車体速度Uの推定値、ドリフト量補正手段222において補正された上下加速度Gzの検出値に応じた補正信号Gz−Gzdr、及びロール角速度Pの検出値に応じた補正信号P−Pdrに基づいて、上記(6)式に従って、ピッチ角速度Qを推定する。なお、横車体速度Vは、カルマンフィルタ等を用いて推定したり、横加速度センサの検出値から推定したりすることができる。
また、姿勢角オブザーバ224は、車両運動の上下加速度Gz、ヨー角速度R、及びロール角速度Pの各検出値に応じた補正信号Gz−Gzdr、R−Rdr、P−Pdrと、ヨー角速度R、前後加速度Gx、及び横加速度Gyの各検出値に応じたセンサ信号と、前後車体速度Uの推定値Vsoと、ピッチ角速度Qの推定値とに基づいて、上記(24)式と同様の式を用いることにより、車体の鉛直軸に対する姿勢角であるロール角φ及びピッチ角θの各々の微分量dφのチルダ、dθのチルダを推定する。
また、姿勢角オブザーバ224は、算出したロール角φのチルダの微分量dφのチルダ及びピッチ角θのチルダの微分量dθのチルダの各々を積分することにより、ロール角φのチルダ及びピッチ角θのチルダを算出することができる。
運動方程式微分量算出手段226は、上記(36)式、(37)式に従って、車両運動の運動方程式より得られるロール角φ及びピッチ角θの微分量を算出する。このとき、ロール角φ及びピッチ角θには、姿勢角オブザーバ224によって推定されたロール角φ及びピッチ角θの推定値を用いる。また、上下加速度Gz、ロール角速度P、及びヨー角速度Rの各々は、上下加速度センサ16、ロール角速度センサ18、及びヨー角速度センサ20によって検出された値を用いる。また、横車体速度Vは、カルマンフィルタ等を用いて推定したり、横加速度センサの検出値から推定したりすることができ、前後車体速度Uは各輪の車輪速に基づいて推定することができる。
なお、姿勢角推定装置210の他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
以上説明したように、第2の実施の形態に係る姿勢角推定装置によれば、ロール角及びピッチ角を推定するために算出されたロール角及びピッチ角の各々の微分量と車両運動の運動方程式より得られるロール角及びピッチ角の各々の微分量にセンサドリフト量を考慮した値とが等しくなる関係を用いて、車両運動の状態に関わらず、安定して、上下加速度及びロール角速度の各々を検出するセンサのセンサドリフト量を推定することができる。
次に、第3の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成の部分については、同一符号を付して説明を省略する。本実施の形態は、車体スリップ角を推定するスリップ角推定装置に本発明を適用したものである。
第3の実施の形態では、車体スリップ角のみを推定している点と、前後加速度センサ、横加速度センサ、及びヨー角速度センサのみのセンサドリフト量を推定している点とが、第1の実施の形態と主に異なっている。
図10に示すように、第3の実施の形態に係るスリップ角推定装置310は、前後加速度センサ12、横加速度センサ14、及びヨー角速度センサ20を備えている。
前後加速度センサ12、横加速度センサ14、及びヨー角速度センサ20は、ドリフト量補正手段32に接続されている。ドリフト量補正手段32は、ドリフト量推定手段338に接続されている。
ドリフト量補正手段32は、スリップ角オブザーバ34に接続されている。前後加速度センサ12、横加速度センサ14、ヨー角速度センサ20、及びスリップ角オブザーバ34は、運動方程式微分量算出手段336に接続されている。
スリップ角オブザーバ34及び運動方程式微分量算出手段336は、ドリフト量推定手段338に接続されている。
ドリフト量補正手段32、スリップ角オブザーバ34、運動方程式微分量算出手段336、及びドリフト量推定手段338は、各手段の機能を実現する1つまたは複数のコンピュータ、または1つまたは複数の電子回路で構成することができる。
次に、車両運動の運動方程式により得られる前後車体速度Uの微分量Uのドット及び横車体速度Vの微分量Vのドットの各々の算出方法について説明する。
上記(32)式、(33)式に対して、ロール角φ及びピッチ角θを0と仮定すると、以下の(77)式、(78)式が得られる。
ただし、前後加速度Gx−Gxdr、及び横加速度Gy−Gydrの2軸速度、並びヨー角速度R−Rdrは、前後加速度センサ12、横加速度センサ14、及びヨー角速度センサ20によって検出されたセンサ信号がドリフト量補正手段32において補正された信号である。また、横車体速度V及び前後車体速度Uは、スリップ角オブザーバ34によって推定することができる。
運動方程式微分量算出手段336は、上記(77)式、(78)式においてドリフト量を無視した式に従って、車両運動の運動方程式より得られる前後車体速度U及び横車体速度Vの微分量を算出する。
次に、本実施の形態の原理について説明する。車両の運動状態量から車体スリップ角を推定するオブザーバは、センサ信号のドリフト誤差の影響を少なくする効果がある。従って、スリップ角オブザーバ34より得られる前後車体速度及び横車体速度の推定値は、運動方程式より得られる運動状態量を単純に積分することによって求められる前後車体速度及び横車体速度の演算値に比較して、車両の運動状態量を検出するセンサの出力に含まれるドリフト誤差の影響を受け難いという性質を有している。これは、前後車体速度及び横車体速度の推定値と演算値とを比較することによって、ドリフト誤差を推定できるということを意味している。
そこで、本実施の形態では、この性質に着目し、ドリフト量推定手段338によって、スリップ角オブザーバ34で算出された前後車体速度及び横車体速度の各々の微分量と運動方程式微分量算出手段336で算出された前後車体速度及び横車体速度の各々の微分量との比較から、センサドリフト量を推定する。これらの前後車体速度及び横車体速度の微分量の比較は、直進状態に限らず常に有効であることから、非直進状態でもセンサドリフト量を推定できるという特徴を有する。これにより、直進走行状態が少ない走行パターンでも常にセンサドリフト量を逐次推定することが可能となる。
次に、センサドリフト量の推定方法について説明する。センサ信号Gx、Gy、Gz、P、Rに、所定のドリフト誤差Gxdr、Gydr、Rdrが重畳していると仮定するとともに、上記(77)式、(78)式の右辺が表わす微分量について、スリップ角オブザーバ234によって真値が既知であると仮定すると、以下の(79)式、(80)式で表される関係が成立する。
ただし、dU、dVは、上記(29−1)式により得られるオブザーバ内部演算値としての前後車体速度の微分量、横車体速度の微分量である。上記(79)式、(80)式は、センサ信号のセンサドリフト量を考慮したときに、スリップ角オブザーバ34により算出された前後車体速度及び横車体速度の微分量と、運動方程式微分量算出手段336により算出された前後車体速度及び横車体速度の微分量にセンサドリフト量を考慮した値とが等しくなる関係を表わしている。
ところで、横加速度に関しては、「スリップ角は長時間、非線形領域に留まらない」という条件から、以下の(81)式で表される関係を利用することができる。
ただし、τyは、長時間の運動のみを考慮するためのフィルタ時定数であり、cf、crは、前後輪のコーナリングパワーであり、lf、lrは、前後軸−重心間距離である。また、lはホイールベースであり、mは車両質量であり、δfは前輪実舵角である。
上記(79)式〜(81)式から、以下の(82)式で記述することができる。
ただし、dD2、dE4、dE5、dE6は、以下の(83)式〜(86)式で表される。
また、上記(82)式の左辺の係数行列と右辺のベクトルとを一定時間積分すると、以下の(87)式が得られる。
ただし、D2、E4、E5、E6は、以下の(88)式〜(91)式で表される。
上記(87)式を解くことによって、以下の(92)式を導出することができる。
上記のように、ドリフト量推定手段338は、上記(92)式に従って、スリップ角オブザーバ34で算出される前後車体速度及び横車体速度の各々の微分量と、運動方程式微分量算出手段336で算出される前後車体速度及び横車体速度の各々の微分量とに基づいて、前後加速度センサ12のセンサドリフト量、横加速度センサ14のセンサドリフト量、及びヨー角速度センサ20のセンサドリフト量を推定することができる。
また、本実施の形態に係るドリフト量推定手段338では、演算の安定化を図るため、前回の推定値を用いて、以下の(93)式〜(95)式に従って、上記(92)式の演算結果により得られるセンサドリフト量の推定値を平滑化する。
ただし、Gxdrのチルダ、Gydrのチルダ、Rdrのチルダは、平滑化後のセンサドリフト量の推定値であり、λ2は、忘却係数である。
上記の第3の実施の形態において、コンピュータを、ドリフト量補正手段32、スリップ角オブザーバ34、運動方程式微分量算出手段336、及びドリフト量推定手段338の各手段として機能させるプログラムによる情報処理は、上記図4のフローチャートに示すスリップ角推定処理ルーチンと同様の手順で実現することができる。
以上説明したように、第3の実施の形態に係るスリップ角推定装置によれば、車体スリップ角を推定するために算出された前後車体速度及び横車体速度の各々の微分量と、車両運動の運動方程式より得られる前後車体速度及び横車体速度の各々の微分量にセンサドリフト量を考慮した値とが等しくなる関係を用いて、車両運動の状態に関わらず、安定して、前後加速度、横加速度、及びヨー角速度の各々を検出するセンサのセンサドリフト量を推定することができる。
また、推定されたセンサドリフト量によって補正されたセンサ信号に基づいて、車体スリップ角を精度よく推定することができる。
なお、上記の実施の形態では、ロール角及びピッチ角を0と仮定した場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、ヨー角速度、車速、及び横加速度を用いてロール角を推定してもよく、また、車速と前後加速度とからピッチ角を推定するようにしてもよい。
次に、第4の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成の部分については、同一符号を付して説明を省略する。本実施の形態は、車両の姿勢角であるピッチ角及びロール角を推定すると共に、車体スリップ角を推定する姿勢角スリップ角推定装置に本発明を適用したものである。
第4の実施の形態では、姿勢角オブザーバにおいて、補正された姿勢角の微分量を算出している点と、スリップ角オブザーバにおいて、補正された車体速度の微分量を算出している点とが、第1の実施の形態と主に異なっている。
図11に示すように、第4の実施の形態に係る姿勢角スリップ角推定装置410のドリフト量推定手段28は、上下加速度センサ16及びロール角速度センサ18の各々のセンサドリフト量の学習速度を補償するための補正量を演算する学習速度補償量演算手段425と、ドリフト量補正手段22とに接続されている。
ドリフト量補正手段22及び学習速度補償量演算手段425は、車体の鉛直軸に対する姿勢角であるロール角φ及びピッチ角θを推定する姿勢角オブザーバ424に接続されている。
上下加速度センサ16、ロール角速度センサ18、ドリフト量補正手段32、及び姿勢角オブザーバ424は、運動方程式微分量算出手段26に接続されている。
姿勢角オブザーバ424及び運動方程式微分量算出手段26は、ドリフト量推定手段28に接続されている。
ドリフト量推定手段38は、前後加速度センサ12、横加速度センサ14、及びヨー角速度センサ20の各々のセンサドリフト量の学習速度を補償するための補正量を演算する学習速度補償量演算手段435と、ドリフト量補正手段32とに接続されている。
ドリフト量補正手段32及び学習速度補償量演算手段435は、車体スリップ角を推定するスリップ角オブザーバ434に接続されている。
前後加速度センサ12、横加速度センサ14、ヨー角速度センサ20、姿勢角オブザーバ424、及びスリップ角オブザーバ434は、運動方程式微分量算出手段36に接続されている。
スリップ角オブザーバ434及び運動方程式微分量算出手段36は、ドリフト量推定手段38に接続されている。
ドリフト量補正手段22、姿勢角オブザーバ424、学習速度補償量演算手段425、運動方程式微分量算出手段26、ドリフト量推定手段28、ドリフト量補正手段32、スリップ角オブザーバ434、学習速度補償量演算手段435と、運動方程式微分量算出手段36、及びドリフト量推定手段38は、各手段の機能を実現する1つまたは複数のコンピュータ、または1つまたは複数の電子回路で構成することができる。
次に、本実施の形態の原理について説明する。
センサドリフト誤差学習によりセンサドリフト量が推定されてドリフト誤差が補正され、正しい姿勢角推定が期待できる。しかし、センサドリフト誤差学習の遅れによる姿勢角推定への影響が懸念される。
例えば、ロール角速度に正のセンサドリフト誤差が印加された場合には、センサドリフト誤差学習が完了するまで、ロール角の推定値は、ロール角速度に印加されている正のセンサドリフト誤差の影響を受けて正の方向に誤差を生じる。
本実施の形態では、センサドリフト誤差学習の遅れによる影響を、学習の速度、すなわちドリフト誤差学習により推定されたセンサドリフト量がどちらの方向に変化しているのかに応じて、推測できる点に着眼し、推定されたセンサドリフト量の変化量に応じて、オブザーバの微分状態量を補正する。
学習速度補償量演算手段425は、ロール角速度の検出値に応じたセンサ信号についてドリフト量推定手段28によって推定されたセンサドリフト量Pdrの前回推定値Pdr0からの偏差に基づいて、ロール角速度センサ18のセンサドリフト量の学習速度の遅れを補償するようにロール角の微分量を補正するための補正量Pcを、以下の(96)式に従って、演算する。
ただし、Pslは、予め求められたロール角速度センサ18のセンサドリフト量の変化量に関する閾値であり、Pc0は、予め定められた補正量である。また、Psl、Pc0は、正の値である。
上記(96)式によって、ロール角速度センサ18のセンサドリフト量の前回推定値からの変化量に応じて、変化量が負であって、変化量の絶対値が閾値以上である場合には、推定されるセンサドリフト量が負の方向に変化しているため、負のセンサドリフト量の学習速度の遅れを補償するように、ロール角の微分量を増加させるように補正する。一方、ロール角速度センサ18のセンサドリフト量の前回推定値からの変化量に応じて、変化量が正であって、変化量の絶対値が閾値以上である場合には、推定されるセンサドリフト量が正の方向に変化しているため、正のセンサドリフト量の学習速度の遅れを補償するように、ロール角の微分量を減少させるように補正する。また、ロール角速度センサ18のセンサドリフト量の前回推定値からの変化量の絶対値が閾値未満である場合には、推定されるセンサドリフト量が収束しており、センサドリフト量の学習速度の遅れを補償する必要がないため、ロール角の微分量を補正しない。
また、学習速度補償量演算手段425は、上下加速度の検出値に応じたセンサ信号についてドリフト量推定手段28によって推定されたセンサドリフト量Gzdrの前回推定値Gzdr0からの偏差に基づいて、上下加速度センサ16のセンサドリフト量の学習速度の遅れを補償するようにピッチ角の微分量を補正するための補正量Qcを、以下の(97)式に従って、演算する。
ただし、Qslは、予め求められた、上下加速度センサ16のセンサドリフト量の変化量を前後車体速度で割った値に関する閾値であり、Qc0は、補正量である。また、Qsl、Qc0は、正の値である。
上記(97)式によって、上下加速度センサ16のセンサドリフト量の前回推定値からの変化量に応じて、変化量が負であって、変化量を前後車体速度で割った値の絶対値が閾値以上である場合には、推定されるセンサドリフト量が負の方向に変化しているため、上記(6)式から得られるピッチ角速度と上下加速度との関係より、負のセンサドリフト量の学習速度の遅れを補償するように、ピッチ角の微分量を減少させるように補正する。一方、上下加速度センサ16のセンサドリフト量の前回推定値からの変化量に応じて、変化量が正であって、変化量を前後車体速度で割った値の絶対値が閾値以上である場合には、推定されるセンサドリフト量が正の方向に変化しているため、正のセンサドリフト量の学習速度の遅れを補償するように、ピッチ角の微分量を増加させるように補正する。また、上下加速度センサ16のセンサドリフト量の前回推定値からの変化量の絶対値が閾値未満である場合には、推定されるセンサドリフト量が収束しており、センサドリフト量の学習速度の遅れを補償する必要がないため、ピッチ角の微分量を補正しない。
学習速度補償量演算手段435は、前後加速度の検出値に応じたセンサ信号についてドリフト量推定手段38によって推定されたセンサドリフト量Gxdrの前回推定値Gxdr0からの偏差に基づいて、前後加速度センサ12のセンサドリフト量の学習速度の遅れを補償するように前後車体速度の微分量を補正するための補正量Gxcを、以下の(98)式に従って、演算する。
ただし、Gxslは、予め求められた、前後加速度センサ12のセンサドリフト量の変化量に関する閾値であり、Gxc0は、予め定められた補正量である。また、Gxsl、Gxc0は、正の値である。
上記(98)式によって、前後加速度センサ12のセンサドリフト量の前回推定値からの変化量に応じて、変化量が負であって、変化量の絶対値が閾値以上である場合には、推定されるセンサドリフト量が負の方向に変化しているため、負のセンサドリフト量の学習速度の遅れを補償するように、前後車体速度の微分量を増加させるように補正する。一方、前後加速度センサ12のセンサドリフト量の前回推定値からの変化量に応じて、変化量が正であって、変化量の絶対値が閾値以上である場合には、推定されるセンサドリフト量が正の方向に変化しているため、正のセンサドリフト量の学習速度の遅れを補償するように、前後車体速度の微分量を減少させるように補正する。また、前後加速度センサ12のセンサドリフト量の前回推定値からの変化量の絶対値が閾値未満である場合には、推定されるセンサドリフト量が収束しており、センサドリフト量の学習速度の遅れを補償する必要がないため、前後車体速度の微分量を補正しない。
また、学習速度補償量演算手段435は、横加速度の検出値に応じたセンサ信号についてドリフト量推定手段38によって推定されたセンサドリフト量Gydrの前回推定値Gydr0からの偏差に基づいて、横加速度センサ14のセンサドリフト量の学習速度の遅れを補償するように横車体速度の微分量を補正するための補正量Gycを、以下の(99)式に従って、演算する。
ただし、Gyslは、予め求められた、横加速度センサ14のセンサドリフト量の変化量に関する閾値であり、Gyc0は、予め定められた補正量である。また、Gysl、Gyc0は、正の値である。
上記(99)式によって、横加速度センサ14のセンサドリフト量の前回推定値からの変化量に応じて、変化量が負であって、変化量の絶対値が閾値以上である場合には、推定されるセンサドリフト量が負の方向に変化しているため、負のセンサドリフト量の学習速度の遅れを補償するように、横車体速度の微分量を増加させるように補正する。一方、横加速度センサ14のセンサドリフト量の前回推定値からの変化量に応じて、変化量が正であって、変化量の絶対値が閾値以上である場合には、推定されるセンサドリフト量が正の方向に変化しているため、正のセンサドリフト量の学習速度の遅れを補償するように、横車体速度の微分量を減少させるように補正する。また、横加速度センサ14のセンサドリフト量の前回推定値からの変化量の絶対値が閾値未満である場合には、推定されるセンサドリフト量が収束しており、センサドリフト量の学習速度の遅れを補償する必要がないため、横車体速度の微分量を補正しない。
姿勢角オブザーバ424は、スリップ角オブザーバ434で推定された横車体速度Vの推定値、前後車体速度Uの推定値、ドリフト量補正手段22で補正された上下加速度Gzの検出値に応じた補正信号、及びロール角速度Pの検出値に応じた補正信号に基づいて、ピッチ角速度Qのチルダを推定する。姿勢角オブザーバ424は、ドリフト量補正手段22及びドリフト量補正手段32で補正された、車両運動の前後加速度Gx、横加速度Gy、上下加速度Gz、ヨー角速度R、及びロール角速度Pの各検出値に応じた補正信号と、前後車体速度Uの推定値Vsoと、ピッチ角速度の推定値Qのチルダと、学習速度補償量演算手段425によって演算された補正量Pc、Qcとに基づいて、上記(24)式を置き換えた以下の(100)式に従って、センサドリフト量の学習速度の遅れを補償するように補正されたロール角の微分量dφのチルダ及びピッチ角の微分量dθのチルダを算出する。
また、姿勢角オブザーバ424は、上記(100)式に従って算出されたロール角の微分量及びピッチ角の微分量を積分して、姿勢角であるロール角φのチルダ及びピッチ角θのチルダを推定する。
スリップ角オブザーバ434は、車両横方向の車体速度である横車体速度Vのチルダを推定すると共に、各輪の車輪速度に基づいて車両前後方向の車体速度である前後車体速度Uのチルダを推定する。また、スリップ角オブザーバ434は、横車体速度の推定値Vのチルダ、前後車体速度の推定値Uのチルダ、ドリフト量補正手段32で補正された、車両運動の前後加速度Gx、横加速度Gy、及びヨー角速度Rの各検出値に応じた補正信号と、学習速度補償量演算手段435によって演算された補正量Gxc、Gycとに基づいて、上記(29−1)式〜(29−5)式を置き換えた以下の(101−1)式〜(101−5)式に従って、センサドリフト量の学習速度の遅れを補償するように補正された前後車体速度の微分量dUのチルダ及び横車体速度の微分量dVのチルダを算出する。
また、スリップ角オブザーバ434は、上記(101−5)式に従って算出された前後車体速度の微分量及び横車体速度の微分量を積分して、前後車体速度Uのチルダ及び横車体速度Vのチルダを推定する。また、スリップ角オブザーバ434は、前後車体速度の推定値Uのチルダ及び横車体速度の推定値Vのチルダに基づいて、上記(31)に従って、車体スリップ角βのチルダを推定する。
上記の第4の実施の形態において、コンピュータを、ドリフト量補正手段22、姿勢角オブザーバ424、学習速度補償量演算手段425、運動方程式微分量算出手段26、及びドリフト量推定手段28の各手段として機能させるプログラムによる情報処理は、図12のフローチャートに示す姿勢角推定処理ルーチンで実現することができる。以下に、この姿勢角推定処理ルーチンについて説明する。なお、第1の実施の形態と同様の処理については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
まず、ステップ100で、前後加速度センサ12、横加速度センサ14、上下加速度センサ16、ロール角速度センサ18、及びヨー角速度センサ20から、各検出値に応じたセンサ信号を取得する。
そして、ステップ102において、後述のステップ108で1演算周期前に得られたセンサドリフト量を用いて、上記ステップ100で取得された上下加速度センサ16及びロール角速度センサ18から出力されたセンサ信号を補正する。
次のステップ450では、後述のステップ108で1演算周期前に得られた上下加速度センサ16のセンサドリフト量と、2演算周期前に得られた上下加速度センサ16のセンサドリフト量との変化量に基づいて、ロール角の微分量を補正するための補正量を演算する。また、後述のステップ108で1演算周期前に得られたロール角速度センサ18のセンサドリフト量と、2演算周期前に得られたロール角速度センサ18のセンサドリフト量との変化量に基づいて、ピッチ角の微分量を補正するための補正量を演算する。
そして、ステップ452で、後述のステップ110で1演算周期前に得られた姿勢角推定値と、後述のステップ160で1演算周期前に得られた車体速度推定値と、上記ステップ450で得られた補正量とを用いて、上記で説明したように、学習速度の遅れを補償するように補正されたロール角及びピッチ角の各々の微分量を算出する。
そして、ステップ106において、上下加速度センサ16のセンサドリフト量及びロール角速度センサ18のセンサドリフト量を推定する。
次のステップ108では、上記ステップ106で推定された上下加速度センサ16のセンサドリフト量及びロール角速度センサ18のセンサドリフト量を平滑化する。
次のステップ110では、上記ステップ452で算出されたロール角及びピッチ角の各々の微分量を積分することで、ロール角及びピッチ角を推定して出力し、上記ステップ100へ戻る。
また、コンピュータを、ドリフト量補正手段32、スリップ角オブザーバ434、学習速度補償量演算手段435と、運動方程式微分量算出手段36、及びドリフト量推定手段38の各手段として機能させるプログラムによる情報処理は、図13のフローチャートに示すスリップ角推定処理ルーチンで実現することができる。以下に、このスリップ角推定処理ルーチンについて説明する。なお、第1の実施の形態と同様の処理については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
まず、ステップ150で、前後加速度センサ12、横加速度センサ14、及びヨー角速度センサ20から、各検出値に応じたセンサ信号を取得する。
そして、ステップ152において、後述のステップ158で1演算周期前に得られたセンサドリフト量を用いて、上記ステップ150で取得された前後加速度センサ12、横加速度センサ14、及びヨー角速度センサ20の各々から出力されたセンサ信号を補正する。
次のステップ460では、後述のステップ158で1演算周期前に得られた前後加速度センサ12のセンサドリフト量と、2演算周期前に得られた前後加速度センサ12のセンサドリフト量との変化量に基づいて、前後車体速度の微分量を補正するための補正量を演算する。また、後述のステップ158で1演算周期前に得られた横加速度センサ14のセンサドリフト量と、2演算周期前に得られた横加速度センサ14のセンサドリフト量との変化量に基づいて、横車体速度の微分量を補正するための補正量を演算する。
そして、ステップ462で、上記ステップ110で1演算周期前に得られた姿勢角推定値と、後述のステップ160で1演算周期前に得られた車体速度推定値と、上記ステップ460で得られた補正量とを用いて、学習速度の遅れを補償するように補正された前後車体速度及び横車体速度の各々の微分量を算出する。
そして、ステップ156において、前後加速度センサ12のセンサドリフト量、横加速度センサ14のセンサドリフト量、及びヨー角速度センサ20のセンサドリフト量を推定する。
次のステップ158では、上記ステップ156で推定された前後加速度センサ12のセンサドリフト量、横加速度センサ14のセンサドリフト量、及びヨー角速度センサ20のセンサドリフト量を平滑化する。
次のステップ160では、上記ステップ462で算出された前後車体速度及び横車体速度の各々の微分量を積分することで、前後車体速度及び横車体速度を推定し、推定された前後車体速度及び横車体速度に基づいて車体スリップ角を推定して出力し、上記ステップ150へ戻る。
次に、本実施の形態のセンサドリフト量の学習速度の遅れを補償する方法による姿勢角の推定結果について説明する。なお、本手法の効果を確認するため、0.3G程度の定常円旋回データにドリフト誤差を印加して姿勢角の推定を行った。また、ロール角速度センサ18と上下加速度センサ16とのドリフト誤差推定を行うとともに、両センサのセンサドリフト量の学習速度の遅れを補償する補正を行う場合と、学習速度の遅れを補償する補正を行わない場合とにおいて、姿勢角の推定を行った。
まず、ロール角速度センサからのセンサ信号に3deg/sのドリフト誤差を印加した状態で、姿勢角の推定を行った。図14(A)、(B)に示すように、センサドリフト量の学習速度の遅れを補償する補正を行うことにより、姿勢角推定の精度が向上していることがわかる。
また、図15(B)に示すように、ロール角速度センサからのセンサ信号に3deg/sのドリフト誤差を印加した場合には、ロール角速度のセンサドリフト量の学習速度の遅れが発生していることがわかる。
また、ロール角速度センサからのセンサ信号に−3deg/sのドリフト誤差を印加した状態で、姿勢角の推定を行った。図16(A)、(B)に示すように、センサドリフト量の学習速度の遅れを補償する補正を行うことにより、姿勢角推定の精度が向上していることがわかる。
また、図17(B)に示すように、ロール角速度センサからのセンサ信号に−3deg/sのドリフト誤差を印加した場合には、ロール角速度のセンサドリフト量の学習速度の遅れが発生していることがわかる。
また、上下加速度センサからのセンサ信号に0.07Gのドリフト誤差を印加した状態で、姿勢角の推定を行った。図18(A)、(B)に示すように、センサドリフト量の学習速度の遅れを補償する補正を行うことにより、姿勢角推定の精度が向上していることがわかる。
また、図19(A)に示すように、上下加速度センサからのセンサ信号に0.07Gのドリフト誤差を印加した場合には、上下加速度のセンサドリフト量の学習速度の遅れが発生していることがわかる。また、センサドリフト量の学習速度の遅れを補償する補正を行うことにより、ドリフト推定の精度も向上している。
また、上下加速度センサからのセンサ信号に−0.07Gのドリフト誤差を印加した状態で、姿勢角の推定を行った。図20(A)、(B)に示すように、センサドリフト量の学習速度の遅れを補償する補正を行うことにより、姿勢角推定の精度が向上していることがわかる。
また、図21(A)に示すように、上下加速度センサからのセンサ信号に−0.07Gのドリフト誤差を印加した場合には、上下加速度のセンサドリフト量の学習速度の遅れが発生していることがわかる。また、センサドリフト量の学習速度の遅れを補償する補正を行うことにより、ドリフト推定の精度も向上している。
以上説明したように、第4の実施の形態に係る姿勢角スリップ角推定装置によれば、ロール角速度及び上下加速度のセンサドリフト量の学習速度が遅い場合であっても、推定されたセンサドリフト量の変化量に応じてロール角及びピッチ角の各々の微分量を補正することにより、精度よくロール角及びピッチ角を推定することができる。また、前後加速度及び横加速度のセンサドリフト量の学習速度が遅い場合であっても、推定されたセンサドリフト量の変化量に応じて前後速度及び横速度の各々の微分量を補正することにより、精度よく前後速度及び横速度を推定することができる。
次に、第5の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態及び第4の実施の形態と同様の構成の部分については、同一符号を付して説明を省略する。
第5の実施の形態では、ピッチ角速度センサを備えている点と、ピッチ角速度センサのセンサドリフト量を推定している点と、姿勢角オブザーバにおいて、ピッチ角速度センサのセンサドリフト量の学習速度の遅れを補償するように補正されたピッチ角の微分量を算出している点とが、第4の実施の形態と主に異なっている。
図22に示すように、第5の実施の形態に係る姿勢角スリップ角推定装置510は、前後加速度センサ12、横加速度センサ14、上下加速度センサ16、ロール角速度センサ18、ヨー角速度センサ20、及びピッチ角速度Qを検出し、検出値に応じたセンサ信号を出力するピッチ角速度センサ520を備えている。
ピッチ角速度センサ520及びロール角速度センサ18は、後述するドリフト量推定手段528によって推定されたセンサドリフト量に基づいて、各センサからのセンサ信号を補正するドリフト量補正手段522に接続されている。
ドリフト量推定手段528は、センサドリフト量の学習速度を補償するための補正量を演算する学習速度補償量演算手段525、及びドリフト量補正手段522に接続されている。
ドリフト量補正手段522及び学習速度補償量演算手段525は、車体の鉛直軸に対する姿勢角であるロール角φ及びピッチ角θを推定する姿勢角オブザーバ524に接続されている。
ロール角速度センサ18、ピッチ角速度センサ520、ドリフト量補正手段32、及び姿勢角オブザーバ524は、車両運動の運動方程式により得られるロール角及びピッチ角の各々の微分量を算出する運動方程式微分量算出手段526に接続されている。なお、ドリフト量補正手段32からは、ドリフト量を補正されたヨー角速度が運動方程式微分量算出手段526に入力される。
姿勢角オブザーバ524及び運動方程式微分量算出手段526は、ピッチ角速度センサ520及びロール角速度センサ18の各々のセンサドリフト量を推定するドリフト量推定手段528に接続されている。
学習速度補償量演算手段525は、ロール角速度の検出値に応じたセンサ信号についてドリフト量推定手段528によって推定されたセンサドリフト量Pdrの前回推定値Pdr0からの偏差に基づいて、学習速度を補償するようにロール角の微分量を補正するための補正量Pcを、上記(96)式に従って、演算する。
また、学習速度補償量演算手段525は、ピッチ角速度の検出値に応じたセンサ信号についてドリフト量推定手段528によって推定されたセンサドリフト量Qdrの前回推定値Qdr0からの偏差に基づいて、ピッチ角速度センサ520のセンサドリフト量の学習速度の遅れを補償するようにピッチ角の微分量を補正するための補正量Qcを、以下の(102)式に従って、演算する。
ただし、Qslは、予め求められたピッチ角速度センサ520のセンサドリフト量の変化量に関する閾値であり、Qc0は、予め定められた補正量である。また、Qsl、Qc0は、正の値である。
上記(102)式によって、ピッチ角速度センサ520のセンサドリフト量の前回推定値からの変化量に応じて、変化量が負であって、変化量の絶対値が閾値以上である場合には、推定されるセンサドリフト量が負の方向に変化しているため、負のセンサドリフト量の学習速度の遅れを補償するように、ピッチ角の微分量を増加させるように補正する。一方、ピッチ角速度センサ520のセンサドリフト量の前回推定値からの変化量に応じて、変化量が正であって、変化量の絶対値が閾値以上である場合には、推定されるセンサドリフト量が正の方向に変化しているため、正のセンサドリフト量の学習速度の遅れを補償するように、ピッチ角の微分量を減少させるように補正する。また、ピッチ角速度センサ520のセンサドリフト量の前回推定値からの変化量の絶対値が閾値未満である場合には、推定されるセンサドリフト量が収束しており、センサドリフト量の学習速度の遅れを補償する必要がないため、ピッチ角の微分量を補正しない。
姿勢角オブザーバ524は、スリップ角オブザーバ434で推定された前後車体速度Uの推定値Vsoと、ドリフト量補正手段522及びドリフト量補正手段32で補正された、前後加速度Gx、横加速度Gy、ヨー角速度R、ロール角速度P、及びピッチ角速度Qの各検出値に応じた補正信号Gx−Gxdr、Gy−Gydr、R−Rdr、P−Pdr、Q−Qdrと、上下加速度Gzの検出値に応じたセンサ信号と、学習速度補償量演算手段525によって演算された補正量Pc、Qcとに基づいて、上記(24)式を置き換えた以下の(103)式に従って、学習速度の遅れを補償するように補正されたロール角の微分量dφのチルダ及びピッチ角の微分量dθのチルダを算出する。
また、姿勢角オブザーバ524は、上記(103)式に従って算出されたロール角の微分量及びピッチ角の微分量を積分して、姿勢角であるロール角φのチルダ及びピッチ角θのチルダを推定する。
上記(4)式、(5)式で記述されるロール角φ及びピッチ角θの運動方程式は、センサドリフト量を考慮すると、以下の(105)式、(106)式で記述される。
ただし、ロール角φ及びピッチ角θには、姿勢角オブザーバ524によって推定されたロール角φ及びピッチ角θの推定値を用いる。また、ロール角速度P−Pdr、ヨー角速度R−Rdr、及びピッチ角速度Q−Qdrの3軸角速度の各々は、ロール角速度センサ18、ヨー角速度センサ20、及びピッチ角速度センサ520によって検出されたセンサ信号がドリフト量補正手段32、522において補正された信号である。
運動方程式微分量算出手段526は、上記(105)式、(106)式のドリフト量を無視した以下の(107)式、(108)式に基づき、φの微分量dφmおよびピッチ角θの微分量dθmを算出する。
また、(105)式のφのドット、(106)式のθのドットと、(107)式のdφm、(108)式のdθmの間には、以下の(109)式、(110)式で表される関係が存在する。
ドリフト量推定手段528は、姿勢角オブザーバ524で算出された姿勢角の微分量と運動方程式微分量算出手段526で算出された姿勢角の微分量との比較から、センサドリフト量を推定する。
次に、センサドリフト量の推定方法について説明する。
センサ信号Gx、Gy、P、Q、Rに、所定のドリフト誤差Gxdr、Gydr、Pdr、Qdr、Rdrが重畳していると仮定するとともに、上記(109)式、(110)式の右辺が表わす微分量について、姿勢角オブザーバ524によって真値が既知であると仮定すると、以下の(111)式、(112)式で表される関係が成立する。
ただし、dφ、dθは、上記(103)式により得られるオブザーバ内部演算値としてのロール角の微分量、ピッチ角の微分量である。
上記(111)式、(112)式は、センサ信号のセンサドリフト量を考慮したときに、姿勢角オブザーバ524により算出されたロール角及びピッチ角の微分量と、運動方程式により得られるロール角及びピッチ角の微分量にセンサドリフト量を考慮した値とが等しくなる関係を表わしている。
ここでは、(109)式、(110)式におけるヨー角速度ドリフトの係数が比較的小さく(姿勢角が小さいことを仮定)、影響が無視できることから、ヨー角速度ドリフトの項を無視して以下の(113)式のように整理する。
ロール角速度ドリフトとピッチ角速度ドリフトについては、(113)式左辺の係数行列と右辺のベクトルとを一定時間積分した以下の(114)式を解くことによって導出された以下の(115)式によって求めることができる。
ドリフト量推定手段528は、上記(115)式に従って、姿勢角オブザーバ524で算出されるロール角及びピッチ角の各々の微分量と、運動方程式微分量算出手段526で算出されたロール角及びピッチ角の各々の微分量とに基づいて、ピッチ角速度センサ520のセンサドリフト量及びロール角速度センサ18のセンサドリフト量を推定することができる。
また、本実施の形態に係るドリフト量推定手段528では、演算の安定化を図るため、前回の推定値を用いて、以下の(116)式、(117)式に従って、上記(115)式の演算結果により得られるセンサドリフト量の推定値を平滑化する。
ただし、Qdrのチルダ、Pdrのチルダは、平滑化後のセンサドリフト量の推定値であり、λ1は、忘却係数である。
なお、第5の実施の形態に係る姿勢角スリップ角推定装置510の他の構成及び作用については、第4の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
以上説明したように、第5の実施の形態に係る姿勢角スリップ角推定装置によれば、ロール角速度及びピッチ角速度のセンサドリフト量の学習速度が遅い場合であっても、推定されたセンサドリフト量の変化量に応じてロール角及びピッチ角の各々の微分量を補正することにより、精度よくロール角及びピッチ角を推定することができる。
次に、第6の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態、第2の実施の形態、及び第4の実施の形態と同様の構成の部分については、同一符号を付して説明を省略する。本実施の形態は、ピッチ角及びロール角を推定する姿勢角推定装置に本発明を適用したものである。
図23に示すように、第6の実施の形態に係る姿勢角推定装置610のドリフト量推定手段28は、ドリフト量補正手段222及び学習速度補償量演算手段425に接続されている。
ドリフト量補正手段222及び学習速度補償量演算手段425は、車体の鉛直軸に対する姿勢角であるロール角φ及びピッチ角θを推定する姿勢角オブザーバ624に接続されている。
上下加速度センサ16、ロール角速度センサ18、ヨー角速度センサ20、及び姿勢角オブザーバ624は、運動方程式微分量算出手段226に接続されている。
姿勢角オブザーバ624及び運動方程式微分量算出手段226は、ドリフト量推定手段28に接続されている。
ドリフト量補正手段222、姿勢角オブザーバ624、学習速度補償量演算手段425、運動方程式微分量算出手段226、及びドリフト量推定手段28は、各手段の機能を実現する1つまたは複数のコンピュータ、または1つまたは複数の電子回路で構成することができる。
姿勢角オブザーバ624は、車両横方向の車両速度である横車体速度Vを推定すると共に、各輪の車輪速度に基づいて車両前後方向の車両速度である前後車体速度Uを推定し、また、横車体速度の推定値Vのチルダ、前後車体速度の推定値Uのチルダ、ドリフト量補正手段222において補正された上下加速度Gzの検出値に応じた補正信号Gz−Gzdr、及びロール角速度Pの検出値に応じた補正信号P−Pdrに基づいて、上記(6)式に従って、ピッチ角速度Qのチルダを推定する。
また、姿勢角オブザーバ624は、車両運動の上下加速度Gz及びロール角速度Pの各検出値に応じた補正信号Gz−Gzdr、Pz−Pdrと、ヨー角速度R、前後加速度Gx、及び横加速度Gyの各検出値に応じたセンサ信号と、前後車体速度Uの推定値Vsoと、ピッチ角速度の推定値Qのチルダと、学習速度補償量演算手段425によって演算された補正量Pc、Qcとに基づいて、上記(100)式と同様の式を用いることにより、車体の鉛直軸に対する姿勢角であるロール角φ及びピッチ角θを推定する。
また、姿勢角オブザーバ624は、算出したロール角φのチルダの微分量dφのチルダ及びピッチ角θのチルダの微分量dθのチルダの各々を積分することにより、ロール角φのチルダ及びピッチ角θのチルダを算出することができる。
運動方程式微分量算出手段226は、姿勢角オブザーバ624によって推定されたロール角φ及びピッチ角θの推定値を用いて、上記(36)式、(37)式に従って、車両運動の運動方程式より得られるロール角φ及びピッチ角θの微分量を算出する。
なお、姿勢角推定装置610の他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
以上説明したように、第6の実施の形態に係る姿勢角推定装置によれば、ロール角速度及び上下加速度のセンサドリフト量の学習速度が遅い場合であっても、推定されたセンサドリフト量の変化量に応じてロール角及びピッチ角の各々の微分量を補正することにより、精度よくロール角及びピッチ角を推定することができる。
次に、第7の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態、第3の実施の形態、及び第4の実施の形態と同様の構成の部分については、同一符号を付して説明を省略する。本実施の形態は、車体スリップ角を推定するスリップ角推定装置に本発明を適用したものである。
第7の実施の形態では、車体スリップ角のみを推定している点と、前後加速度センサ、横加速度センサ、及びヨー角速度センサのみのセンサドリフト量を推定している点とが、第4の実施の形態と主に異なっている。
図24に示すように、第7の実施の形態に係るスリップ角推定装置710は、前後加速度センサ12、横加速度センサ14、及びヨー角速度センサ20を備えている。
前後加速度センサ12、横加速度センサ14、及びヨー角速度センサ20は、ドリフト量補正手段32に接続されている。ドリフト量補正手段32は、ドリフト量推定手段338に接続されている。
ドリフト量推定手段338は、ドリフト量補正手段32及び学習速度補償量演算手段435に接続されている。
ドリフト量補正手段32及び学習速度補償量演算手段435は、スリップ角オブザーバ434に接続されている。前後加速度センサ12、横加速度センサ14、ヨー角速度センサ20、及びスリップ角オブザーバ434は、運動方程式微分量算出手段336に接続されている。
スリップ角オブザーバ434及び運動方程式微分量算出手段336は、ドリフト量推定手段338に接続されている。
ドリフト量補正手段32、スリップ角オブザーバ434、学習速度補償量演算手段435、運動方程式微分量算出手段336、及びドリフト量推定手段338は、各手段の機能を実現する1つまたは複数のコンピュータ、または1つまたは複数の電子回路で構成することができる。
学習速度補償量演算手段435は、前後加速度センサ12のセンサドリフト量の学習速度の遅れを補償するように前後車体速度の微分量を補正するための補正量Gxcを、上記(98)式に従って、演算する。また、学習速度補償量演算手段435は、横加速度センサ14のセンサドリフト量の学習速度の遅れを補償するように横車体速度の微分量を補正するための補正量Gycを、上記(99)式に従って、演算する。
スリップ角オブザーバ434は、車両横方向の車体速度である横車体速度Vのチルダを推定すると共に、各輪の車輪速度に基づいて車両前後方向の車体速度である前後車体速度Uのチルダを推定する。また、スリップ角オブザーバ434は、横車体速度Vの推定値、前後車体速度Uの推定値、ドリフト量補正手段32で補正された、車両運動の前後加速度Gx、横加速度Gy、及びヨー角速度Rの各検出値に応じた補正信号Gx−Gxdr、Gy−Gydr、R−Rdrと、学習速度補償量演算手段435によって演算された補正量Gxc、Gycとに基づいて、ロール角及びピッチ角を0と仮定して、上記の(101−5)式に従って、学習速度の遅れを補償するように補正された前後車体速度の微分量dUのチルダ及び横車体速度の微分量dVのチルダを算出する。
また、スリップ角オブザーバ434は、算出した前後車体速度の微分量dUのチルダ及び横車体速度の微分量dVのチルダを積分して、前後車体速度Uのチルダ及び横車体速度Vのチルダを推定する。また、スリップ角オブザーバ434は、推定した前後車体速度Uのチルダ及び横車体速度Vのチルダに基づいて、スリップ角βのチルダを推定する。
運動方程式微分量算出手段336は、上記(77)式、(78)式においてドリフト量を無視した式に従って、車両運動の運動方程式より得られる前後車体速度U及び横車体速度Vの微分量を算出する。
ドリフト量推定手段338は、上記(92)式に従って、スリップ角オブザーバ434で算出される前後車体速度及び横車体速度の各々の微分量と、運動方程式微分量算出手段336で算出される前後車体速度及び横車体速度の各々の微分量とに基づいて、前後加速度センサ12のセンサドリフト量、横加速度センサ14のセンサドリフト量、及びヨー角速度センサ20のセンサドリフト量を推定する。
また、本実施の形態に係るドリフト量推定手段338では、演算の安定化を図るため、前回の推定値を用いて、上記(93)式〜(95)式に従って、上記(92)式の演算結果により得られるセンサドリフト量の推定値を平滑化する。
以上説明したように、第7の実施の形態に係るスリップ角推定装置によれば、前後加速度及び横加速度のセンサドリフト量の学習速度が遅い場合であっても、推定されたセンサドリフト量の変化量に応じて前後速度及び横速度の各々の微分量を補正することにより、精度よく前後速度及び横速度を推定することができる。
次に、第8の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態及び第5の実施の形態と同様の構成の部分については、同一符号を付して説明を省略する。
第8の実施の形態では、ピッチ角速度センサを備えている点と、ピッチ角速度センサのセンサドリフト量を推定している点と、姿勢角オブザーバにおいて、ピッチ角速度センサのセンサドリフト量の学習速度の遅れを補償するように補正されたピッチ角の微分量を算出している点とが、第6の実施の形態と主に異なっている。
図25に示すように、第8の実施の形態に係る姿勢角推定装置810は、前後加速度センサ12、横加速度センサ14、上下加速度センサ16、ロール角速度センサ18、ヨー角速度センサ20、及びピッチ角速度センサ520を備えている。
ピッチ角速度センサ520及びロール角速度センサ18は、ドリフト量補正手段522に接続されている。ドリフト量補正手段522は、ドリフト量推定手段528に接続されている。
ドリフト量推定手段528は、学習速度補償量演算手段525、及びドリフト量補正手段522に接続されている。
ドリフト量補正手段522及び学習速度補償量演算手段525は、車体の鉛直軸に対する姿勢角であるロール角φ及びピッチ角θを推定する姿勢角オブザーバ824に接続されている。
ロール角速度センサ18、ピッチ角速度センサ520、ヨー角速度センサ20、及び姿勢角オブザーバ824は、車両運動の運動方程式により得られるロール角及びピッチ角の各々の微分量を算出する運動方程式微分量算出手段826に接続されている。
姿勢角オブザーバ824及び運動方程式微分量算出手段826は、ドリフト量推定手段528に接続されている。
学習速度補償量演算手段525は、ロール角速度センサ18のセンサドリフト量の学習速度の遅れを補償するようにロール角の微分量を補正するための補正量Pcを、上記(96)式に従って、演算する。学習速度補償量演算手段525は、ピッチ角速度センサ520のセンサドリフト量の学習速度の遅れを補償するようにピッチ角の微分量を補正するための補正量Qcを、上記(102)式に従って、演算する。
姿勢角オブザーバ824は、ドリフト量補正手段522で補正された、ロール角速度P、及びピッチ角速度Qの各検出値に応じた補正信号P−Pdr、Q−Qdrと、ヨー角速度R、前後加速度Gx、横加速度Gy、及び上下加速度Gzの各検出値に応じたセンサ信号と、前後車体速度Uの推定値Vsoと、学習速度補償量演算手段525によって演算された補正量Pc,Qcとに基づいて、上記(103)式と同様の式に従って、学習速度の遅れを補償するように補正されたロール角の微分量dφのチルダ及びピッチ角の微分量dθのチルダを算出する。
また、姿勢角オブザーバ824は、算出したロール角の微分量dφのチルダ及びピッチ角の微分量dθのチルダの各々を積分することにより、ロール角φのチルダ及びピッチ角θのチルダを算出する。
運動方程式微分量算出手段826は、姿勢角オブザーバ824によって推定されたロール角φ及びピッチ角θの推定値を用いて、上記(107)式、(108)式に従って、車両運動の運動方程式より得られるロール角φ及びピッチ角θの微分量を算出する。このとき、ロール角φ及びピッチ角θには、姿勢角オブザーバ824によって推定されたロール角の推定値φのチルダ及びピッチ角の推定値θのチルダを用いる。また、ロール角速度P、ヨー角速度R、及びピッチ角速度Qの3軸角速度の各々は、ロール角速度センサ18、ヨー角速度センサ20、及びピッチ角速度センサ520によって検出されたセンサ信号を用いる。
ドリフト量推定手段528は、姿勢角オブザーバ824で算出された姿勢角の微分量と運動方程式微分量算出手段826で算出された姿勢角の微分量との比較から、ピッチ角速度センサ520のセンサドリフト量及びロール角速度センサ18のセンサドリフト量を推定する。
以上説明したように、第8の実施の形態に係る姿勢角推定装置によれば、ロール角速度及びピッチ角速度のセンサドリフト量の学習速度が遅い場合であっても、推定されたセンサドリフト量の変化量に応じてロール角及びピッチ角の各々の微分量を補正することにより、精度よくロール角及びピッチ角を推定することができる。
次に、第9の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成の部分については、同一符号を付して説明を省略する。
第9の実施の形態では、推定されるロール角及びピッチ角の絶対値が小さくなる方向に、センサドリフト量を更新している点が、第1の実施の形態と主に異なっている。
図26に示すように、第9の実施の形態に係る姿勢角スリップ角推定装置910では、姿勢角オブザーバ24、スリップ角オブザーバ34、及び運動方程式微分量算出手段34が、ドリフト量推定手段938に接続されている。また、ドリフト量推定手段938は、ドリフト量補正手段32に接続されている。
次に、センサドリフト量を推定する原理について説明する。
横加速度のセンサ信号Gy及びヨー角速度のセンサ信号Rに、一定のセンサドリフト誤差Gydr、Rdrが重畳していると仮定すると、横方向の運動方程式は、上記(33)式で表される。また、運動方程式より得られる横速度の微分量は、上記(41)式で表される。
上記(33)式の左辺の横速度の微分量は、オブザーバの内部演算値であるdVと一致すると仮定すると、以下の(118)式が得られる。
上記の実施の形態では、センサドリフトの影響の少ないオブザーバの微分量とセンサドリフトの影響を含む運動方程式の微分量との差から、センサドリフト量を演算している。すなわち、上記(118)式に基づいて、センサ信号Gy、Rに重畳している一定のドリフト誤差Gydr、Rdrを、推定演算することができる。
ところで、ロール角の推定値に誤差Δφを含む場合、上記(41)式は、以下の(119)式で表される。
上記(119)式に従って、上記(118)は、以下の(120)式で表される近似式によって記述できる。
上記(120)式は、ロール角の推定誤差がドリフト誤差推定に影響することを意味している。
また、前後加速度のセンサ信号Gx及びヨー角速度のセンサ信号Rに、一定のセンサドリフト誤差Gxdr、Rdrが重畳していると仮定すると、前後方向の運動方程式は、上記(32)式で表される。ここで、運動方程式より得られる前後速度の微分量を、以下の(121)式で定義する。
なお、上記(121)式において、ヨー角速度のドリフト誤差は、上記(118)式に基づいて既に推定されていると仮定している。このとき、上記(32)式の左辺の前後速度の微分量は、オブザーバの内部演算値であるdUと一致すると仮定すると、以下の(122)式が得られる。
上記(122)式に基づいて、センサ信号Gxに重畳している一定のドリフト誤差Gxdrを、推定演算することができる。ところで、ピッチ角推定値にΔθを含む場合、上記(121)式は、以下の(123)式で表される。
上記(123)式に従って、上記(122)は、以下の(124)式で表される近似式によって記述できる。
上記(124)式は、ピッチ角の推定誤差がドリフト誤差推定に影響することを意味している。
また、姿勢角の推定値の増大は、オブザーバの安定性に影響を及ぼすことから、どちらかといえば小さく推定されることが望まれる。このため、本実施の形態では、並進加速度と姿勢角の釣り合い状態での姿勢角推定値の増加を抑制するため、並進加速度(前後加速度及び横加速度)とヨー角速度のドリフト誤差学習値の更新時に、姿勢角の推定値の絶対値を低下させる方向にドリフト誤差学習値が変更される場合に限って、ドリフト誤差の学習値を更新する。
すなわち、横加速度のドリフト誤差の推定値Gydr(i+1)のチルダは、姿勢角オブザーバ24によるロール角の推定値φとドリフト誤差学習値の前回値Gydr(i)のチルダと新たに演算された値Gydrとから、以下の(125)式に従って演算される。
ここで、λは、推定値の平滑化のために導入された忘却係数である。上記(125)式に示すように、ロール角の推定値φが正の場合には、新たに演算されたドリフト誤差の推定値Gydrが前回値Gydr(i)のチルダより大きければ、ドリフト誤差の更新によりロール角の推定値の絶対値を小さくすることができるため、ドリフト誤差学習値を更新する。また、ロール角の推定値φが負の場合には、新たに演算されたドリフト誤差の推定値Gydrが前回値Gydr(i)のチルダより小さければ、ドリフト誤差の更新によりロール角の推定値の絶対値を小さくすることができるため、ドリフト誤差学習値を更新する。
同様に、ヨー角速度のドリフト誤差推定値Rdr(i+1)のチルダは、姿勢角オブザーバ24によるロール角推定値φとドリフト誤差学習値の前回値Rdr(i)のチルダと新たに演算された値Rdrとから、以下の(126)式に従って演算される。
上記(126)式に示すように、ロール角の推定値φが正の場合には、新たに演算されたドリフト誤差の推定値Rdrが前回値Rdr(i)のチルダより小さければ、ドリフト誤差の更新によりロール角の推定値の絶対値を小さくすることができるため、ドリフト誤差学習値を更新する。また、ロール角の推定値φが負の場合には、新たに演算されたドリフト誤差の推定値Rdrが前回値Rdr(i)のチルダより大きければ、ドリフト誤差の更新によりロール角の推定値の絶対値を小さくすることができるため、ドリフト誤差学習値を更新する。
また、前後加速度のドリフト誤差推定値Gxdr(i+1)のチルダは、姿勢角オブザーバ24によるピッチ角推定値θとドリフト誤差学習値の前回値Gxdr(i)のチルダと新たに演算された値Gxdrとから、以下の(127)式に従って演算される。
上記(127)式に示すように、ピッチ角の推定値θが正の場合には、新たに演算されたドリフト誤差の推定値Gxdrが前回値Gxdr(i)のチルダより小さければ、ドリフト誤差の更新によりピッチ角の推定値の絶対値を小さくすることができるため、ドリフト誤差学習値を更新する。また、ピッチ角の推定値θが負の場合には、新たに演算されたドリフト誤差の推定値Gxdrが前回値Gxdr(i)のチルダより大きければ、ドリフト誤差の更新によりピッチ角の推定値の絶対値を小さくすることができるため、ドリフト誤差学習値を更新する。
ドリフト量推定手段938は、上記(73)式に従って、スリップ角オブザーバ34で算出される前後車体速度及び横車体速度の各々の微分量と、運動方程式微分量算出手段36で算出された前後車体速度及び横車体速度の各々の微分量とに基づいて、前後加速度センサ12のセンサドリフト量、横加速度センサ14のセンサドリフト量、及びヨー角速度センサ20のセンサドリフト量を推定する。
また、ドリフト量推定手段938では、上記(73)式の演算結果により得られるセンサドリフト量の推定値を用いて、上記(125)式〜(127)式に従って、前後加速度センサ12のセンサドリフト量、横加速度センサ14のセンサドリフト量、及びヨー角速度センサ20のセンサドリフト量を更新する。
上記の第9の実施の形態において、コンピュータを、ドリフト量補正手段22、姿勢角オブザーバ24、運動方程式微分量算出手段26、及びドリフト量推定手段28の各手段として機能させるプログラムによる情報処理は、上記図3のフローチャートに示す姿勢角推定処理ルーチンで実現することができる。
また、コンピュータを、ドリフト量補正手段32、スリップ角オブザーバ34、運動方程式微分量算出手段36、及びドリフト量推定手段938の各手段として機能させるプログラムによる情報処理は、図27のフローチャートに示すスリップ角推定処理ルーチンで実現することができる。
このスリップ角推定処理ルーチンについて以下に説明する。なお、第1の実施の形態と同様の処理については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
まず、ステップ150で、前後加速度センサ12、横加速度センサ14、及びヨー角速度センサ20から、各検出値に応じたセンサ信号を取得する。そして、ステップ152において、後述のステップ950で1演算周期前に得られた前後加速度センサ12のセンサドリフト量、横加速度センサ14のセンサドリフト量、及びヨー角速度センサ20のセンサドリフト量を用いて、上記ステップ150で取得された前後加速度センサ12、横加速度センサ14、及びヨー角速度センサ20の各々から出力されたセンサ信号を補正する。
そして、ステップ154で、上記ステップ110で1演算周期前に得られた姿勢角推定値と後述のステップ160で1演算周期前に得られた車体速度推定値とを用いて、上記で説明したように、前後車体速度及び横車体速度を推定するために算出される前後車体速度及び横車体速度の各々の微分量を算出する。
そして、ステップ156において、上記ステップ110で1演算周期前に得られた姿勢角推定値と後述のステップ160で1演算周期前に得られた車体速度推定値とを用いて、前後加速度センサ12のセンサドリフト量、横加速度センサ14のセンサドリフト量、及びヨー角速度センサ20のセンサドリフト量を推定する。
次のステップ950では、上記ステップ110で1演算周期前に得られた姿勢角推定値と、上記ステップ156で推定された前後加速度センサ12のセンサドリフト量、横加速度センサ14のセンサドリフト量、及びヨー角速度センサ20のセンサドリフト量とを用いて、前後加速度センサ12、横加速度センサ14、及びヨー角速度センサ20の各々のセンサドリフト量について、更新することにより姿勢角推定値の絶対値が小さくなる場合のみ、当該センサドリフト量の推定値を更新する。
次のステップ160では、上記ステップ154で算出された前後車体速度及び横車体速度の各々の微分量を積分することで、前後車体速度及び横車体速度を推定し、推定された前後車体速度及び横車体速度に基づいて車体スリップ角を推定して出力し、上記ステップ150へ戻る。
次に、本実施の形態のセンサドリフト量の推定方法を用いた姿勢角の推定結果について説明する。なお、センサドリフト量の推定方法の効果を確認するため、横加速度のセンサ信号に正のドリフト誤差を印加して、センサドリフト量の推定値を利用した姿勢角の推定を行った。この場合には、図28(A)、(B)に示すような推定結果が得られた。ロール角推定値の増加が抑制され、結果的に真値(ドリフトなし)に漸近する推定を実現できていることがわかった。
以上説明したように、第9の実施の形態に係る姿勢角スリップ角推定装置によれば、ロール角やピッチ角の推定値の絶対値が小さくなるように、前後加速度、横加速度、及びヨー角速度のセンサドリフト量を更新することにより、ロール角やピッチ角の推定値の絶対値の増加を抑制することができ、より精度良く姿勢角を推定することができる。
なお、上記の実施の形態では、前後加速度、横加速度、及びヨー角速度の各々のセンサドリフト量について、更新により姿勢角推定値の絶対値が小さくなるときのみ更新する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、前後加速度、横加速度、及びヨー角速度の少なくとも1つのセンサドリフト量について、更新により姿勢角推定値の絶対値が小さくなるときのみ更新し、その他のセンサドリフト量については、無条件に更新するようにしてもよい。
次に、第10の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成の部分については、同一符号を付して説明を省略する。本実施の形態は、車体横速度を推定する横速度推定装置に本発明を適用したものである。
第10の実施の形態では、車体横速度を推定している点と、横加速度センサ及びヨー角速度センサのセンサドリフト量を推定している点とが、第1の実施の形態と主に異なっている。
図29に示すように、第10の実施の形態に係る横速度推定装置1010は、横加速度センサ14、ヨー角速度センサ20、及び各輪の車輪速度に基づいて車両前後方向の車体速度である車速を推定する車速推定手段1022を備えている。
横加速度センサ14及びヨー角速度センサ20は、後述するドリフト量推定手段1038によって推定された横加速度センサ14及びヨー角速度センサ20の各々のセンサドリフト量に基づいて、横加速度センサ14及びヨー角速度センサ20の各々からのセンサ信号を補正するドリフト量補正手段1032に接続されている。ドリフト量補正手段1032は、ドリフト量推定手段1038に接続されている。
ドリフト量補正手段1032及び車速推定手段1022は、車体横速度を推定する横速度オブザーバ1034に接続されている。横加速度センサ14、ヨー角速度センサ20、車速推定手段1022、及び横速度オブザーバ1034は、車両運動の運動方程式により得られる車体横速度の微分量を算出する運動方程式微分量算出手段1036に接続されている。
車速推定手段1022、横速度オブザーバ1034、及び運動方程式微分量算出手段1036は、横加速度センサ14及びヨー角速度センサ20の各々のセンサドリフト量を推定するドリフト量推定手段1038に接続されている。
車速推定手段1022、ドリフト量補正手段1032、横速度オブザーバ1034、運動方程式微分量算出手段1036、及びドリフト量推定手段1038は、各手段の機能を実現する1つまたは複数のコンピュータ、または1つまたは複数の電子回路で構成することができる。
横速度オブザーバ1034は、ドリフト量補正手段1032によって補正された横加速度センサ14のセンサ信号(Gy−Gydr)及びヨー角速度センサ20のセンサ信号(R−Rdr)と、車速推定手段1022によって推定された車速Vsoとに基づいて、上記(29−5)式における車体横速度を求めるための式と同様の式に従って、車体横速度の微分量を算出する。横速度オブザーバ1034は、算出した車体横速度の微分量を積分して、車体横速度の推定値を算出する。
次に、横加速度センサ14及びヨー角速度センサ20のセンサドリフト量を推定する方法について説明する。
まず、山岳サーキット路走行時のヨー角速度のデータにゼロ点ドリフト誤差を印加したときの、横速度オブザーバにより算出される車体横速度の微分量と運動方程式により算出される車体横速度の微分量との偏差Eと車速Uとの関係を図30(A)に示す。なお、横速度オブザーバでは、ヨー角速度のゼロ点ドリフト誤差を既知として推定演算を行っている。また、横速度オブザーバの車体横速度の微分量と運動方程式の車体横速度の微分量との偏差Eは、以下の(128)式によって演算される。
また、dVは、横速度オブザーバ1034により算出される車体横速度の微分量(推定アルゴリズムの内部演算値)、dVmは、運動方程式により算出される車体横速度の微分量、Gyは横加速度センサ14によって検出された値、Rはヨー角速度センサ20によって検出された値、Uは推定された車速、gは重力加速度、θはピッチ角の推定値、φはロール角の推定値である。
印加したヨー角速度のドリフトセンサ量Rdrに対する、横速度オブザーバの車体横速度の微分量と運動方程式により算出される車体横速度の微分量との偏差ERdrの特性は、以下の(129)式で表される。
上記図30(A)に、上記(129)式で表される特性を、黒い実線で示している。上記図30(A)から、偏差Eの値にはノイズが乗っているものの、偏差Eが車速Uに比例することを表わす上記(129)式に沿った特性となっていることがわかる。
また、山岳サーキット路走行時の横加速度にゼロ点ドリフト誤差を印加したときの、横速度オブザーバの車体横速度の微分量と運動方程式より算出される車体横速度の微分量との偏差Eと車速Uとの関係を図30(B)に示す。
印加した横加速度のセンサドリフト量Gydrに対する、横速度オブザーバの車体横速度の微分量と運動方程式の車体横速度の微分量との偏差EGydrの特性は、以下の(130)式で表される。
上記図30(B)に、上記(130)式で表される特性を、黒い実線で示している。上記図30(B)から、偏差Eにはノイズが乗っているものの、偏差Eが車速Uに依存しないことを表わす上記(130)式に沿った特性となっていることがわかる。
偏差Eへの影響が車速Uに依存しない横加速度センサのドリフト誤差と、偏差Eへの影響が車速Uに比例するヨー角速度センサのドリフト誤差とは、偏差Eのノイズ成分を除去することにより、車速Uとノイズ除去後の偏差Eとの関係から、切り分けが可能(車速0の切片が−Gydr、傾きがRdrに相当する)と考えられる。
そこで、本実施の形態では、以下に説明するように、センサドリフト量を推定する。
まず、横加速度センサ14及びヨー角速度センサ20のセンサ信号Gy、Rに一定のドリフト誤差Gydr、Rdrが重畳していると仮定すると、横方向の運動方程式は、上記(33)式で表される。また、運動方程式より得られる車体横速度の微分量は、上記(41)式で表される。
上記(33)式の左辺の車体横速度の微分量は、オブザーバの内部演算値であるdVと一致すると仮定すると、以下の(131)式が得られる。
また、上記(131)式から、以下の(132)式と記述する。
なお、Gydrmax、Rdrmaxは、それぞれ横加速度センサ14とヨー角速度センサ20のセンサドリフト量の上限値を表している。ここでは、ノイズ除去を図るため、上記(132)式における各値(センサ値、推定値)は、一定時間区間の平均値を利用する。
上記(132)式を解くことによって、以下の(135)式を導出することができ、以下の(135)式に従って、ドリフト誤差が推定される。
なお、D+は、行列Dの擬似逆行列である。ここでは、演算の安定化を図るとともに、姿勢角推定値の増加を抑制するため、上記(135)式の演算結果に対し、前回値及び姿勢角推定値を用いて、以下の(136)式、(137)式に示すように、センサドリフト量を平滑化する。
ただし、Gydrのチルダ、Rdrのチルダは、平滑化後のセンサドリフト量の推定値であり、λは忘却係数である。また、ロール角の推定値φについて、上記第1の実施の形態と同様の方法により推定すればよい。
上記(136)式、(137)式に示すように、横加速度とヨー角速度のセンサドリフト量の学習値の更新時に、姿勢角の推定値の絶対値を低下させる方向にセンサドリフト量が更新される場合に限って、センサドリフト量の学習値を更新する。
運動方程式微分量算出手段1036は、横加速度センサ14によって検出された横加速度Gy、ヨー角速度センサ20によって検出されたヨー角速度R、及び車速推定手段1022によって推定された車速Vsoを用いて、上記(41)式に従って、横速度の微分量を算出する。なお、上記(41)式におけるロール角の推定値φ及びピッチ角の推定値θについては、上記第1の実施の形態と同様の方法により推定すればよい。
ドリフト量推定手段1038は、上記(135)式に従って、横速度オブザーバ1034で算出される横速度の微分量と、運動方程式微分量算出手段1036で算出された横速度の微分量と、車速推定手段1022によって推定された車速とに基づいて、横加速度センサ14のセンサドリフト量、及びヨー角速度センサ20のセンサドリフト量を推定する。
また、ドリフト量推定手段1038では、上記(135)式の演算結果により得られるセンサドリフト量の推定値を用いて、上記(136)式〜(137)式に従って、横加速度センサ14のセンサドリフト量、及びヨー角速度センサ20のセンサドリフト量を更新する。
上記の第10の実施の形態において、コンピュータを、車速推定手段1022、ドリフト量補正手段1032、横速度オブザーバ1034、運動方程式微分量算出手段1036、及びドリフト量推定手段1038の各手段として機能させるプログラムによる情報処理は、図31のフローチャートに示す横速度推定処理ルーチンで実現することができる。
この横速度推定処理ルーチンでは、まず、ステップ1050で、横加速度センサ14、及びヨー角速度センサ20から、各検出値に応じたセンサ信号を取得する。そして、ステップ1052において、後述のステップ1058で1演算周期前に得られた横加速度センサ14のセンサドリフト量、及びヨー角速度センサ20のセンサドリフト量を用いて、上記ステップ1050で取得された横加速度センサ14及びヨー角速度センサ20の各々から出力されたセンサ信号を補正する。
そして、ステップ1054で、各輪の車輪速度に基づいて、車速を推定し、ステップ1056において、上記ステップ1052で補正された横加速度センサ14及びヨー角速度センサ20の各々から出力されたセンサ信号と上記ステップ1054で推定された車速とを用いて、上記で説明したように、車体横速度を推定するために算出される車体横速度の微分量を算出する。
そして、ステップ1058において、上記ステップ1056で算出された車体横速度の微分量と、運動方程式より算出される車体横速度の微分量と、上記ステップ1054で推定された車速とを用いて、横加速度センサ14のセンサドリフト量、及びヨー角速度センサ20のセンサドリフト量を推定する。
次のステップ1060では、上記ステップ1058で推定された横加速度センサ14のセンサドリフト量、及びヨー角速度センサ20のセンサドリフト量を用いて、更新することにより姿勢角推定値の絶対値が小さくなる場合のみ、各センサドリフト量の推定値を更新する。
次のステップ1062では、上記ステップ1056で算出された車体横速度の微分量を積分することで、車体横速度を推定して、上記ステップ1050へ戻る。
以上説明したように、第10の実施の形態に係る横速度推定装置によれば、車体横速度を推定するために算出された横速度の微分量と車両運動の運動方程式より得られる横速度の微分量との関係を用いて、横加速度及びヨー角速度の各々を検出するセンサのセンサドリフト量を推定することにより、車両運動の状態に関わらず、安定して、横加速度及びヨー角速度の各々を検出するセンサのドリフト量を推定することができる。
また、車体横速度の微分量への横加速度のドリフト誤差の寄与は車速に無関係である一方、車体横速度の微分量へのヨー角速度のドリフト誤差の寄与は車速に比例して大きくなる点に着目し、車速領域ごとに車体横速度の微分量とドリフト誤差との関係を整理することによって、横加速度センサとヨー角速度センサのセンサドリフト量を精度よく推定することができる。
次に、第11の実施の形態について説明する。なお、第11の実施の形態の横速度推定装置の構成は、第10の実施の形態と同様の構成となるため、同一符号を付して説明を省略する。
第11の実施の形態では、重み付けされた車速領域毎の関係式に基づいて、横加速度センサ及びヨー角速度センサのセンサドリフト量を推定している点が、第10の実施の形態と主に異なっている。
第11の実施の形態におけるセンサドリフト量を推定する原理について説明する。
まず、車体横速度の微分量の偏差Eからノイズを除去するとともに、車体横速度の微分量の偏差と車速との関係を示すため、車速域を一定車速U0毎に分割して、複数の車速領域を設定し、横速度の微分量の偏差E及び車速データが得られる毎に、車体横速度の微分量の偏差E及び車速データを用いて、以下の処理を行う。
まず、各車速領域について、車速領域内に車速が含まれた一定時間T0分の車体横速度の微分量の偏差E及び車速データの平均値を、初期値に設定する。
そして、得られた車速を含む車速領域について、初期値が設定されている場合には、サンプル時間τ毎に以下の(138)式、(139)式に従って平滑化演算を行う。
ただし、λmは忘却係数である。
また、車速が変化して、得られた車速が他の車速領域に含まれる場合には、得られた車速が含まれない車速領域について、上記(138)式、(139)式の平滑化演算を行わない。
ここで、上記の初期値設定及び平滑化演算の結果を、図32(A)、(B)に示す。走行データから得られた横速度の微分量の偏差E及び車速データでは、U0以下の車速領域と3U0以上の車速領域のデータ数がT0/τ点(一定時間T0分のデータ点数)を満たしていないため、表示されていない。それ以外の車速領域のデータは、印加したドリフト値の特性上(黒い実線)に位置しており、平滑化演算後のデータから、ヨー角速度センサと横加速度センサのセンサドリフト量を精度良く推定することが期待できる。
また、上記の初期値設定及び平滑化演算を行うアルゴリズムに、上記第10の実施の形態で説明した車速と平滑化後の車体横速度の微分量の偏差Eとの関係を反映させて、横加速度センサとヨー角速度センサのセンサドリフト量を推定する方法について説明する。
車速と平滑化後の車体横速度の微分量の偏差Eとの関係は、データ点数に応じた精度の向上が期待できる一方、センサドリフト量の時間変化を考慮すると、時間とともに精度劣化が懸念される。このため、まず、各車速領域に対して、車速領域に車速が含まれるデータ数に応じて増加し、得られる車速が車速領域から外れてから経過した経過時間に応じて減少する、以下の(140)式〜(143)式で表される重み関数を定義する。なお、0〜4U0の車速域を、4つの車速領域に分割した場合について説明する。
上記(140)式〜(143)式の各重み関数により、推定される車速が、対応する車速領域に含まれる回数が多いほど重み付けが大きくなり、推定される車速が、対応する車速領域に含まれない回数が多いほど重み付けが小さくなる。
なお、上記(140)式〜(143)式で演算される重み関数は、[0,1]で制約する(0以下の場合0に制約し、1を超える場合1に制約する)。また、上記(138)式、(139)式の平滑化演算は、データ点数の少ない状態も含め、以下の(144)式〜(152)式によって記述できる。
ただし、k=1,2,3,4である。
次に、上記(140)式〜(143)式で演算された重み関数を考慮した、Uk(i)とEk(i)との関係を、上記第10の実施の形態で説明した(132)式の関係と並べて、以下の(153)式のように行列表現する。なお、以下の(153)式は、車速領域毎に重み付けされた、車速、センサドリフト量、車体横速度の微分量の偏差の関係を表す関係式を行列表現したものである。
なお、Wkのチルダは、データ点数が十分にない場合など、精度劣化が懸念される条件のデータを選別するために修正された重み関数であり、以下の(156)式で表される。
上記(153)式を解くことによって、以下の(157)式を導出することができ、角センサドリフト量は、以下の(157)式に従って推定される。
なお、ここでは、演算の安定化を図るとともに、姿勢角推定値の増加を抑制するため、上記(157)式の演算結果に対し、姿勢角推定値と前回値とを用いて以下の(158)式、(159)式に従って、センサドリフト量を平滑化する。
ただし、Gydrのチルダ、Rdrのチルダは、平滑化後のセンサドリフト量の推定値であり、λは忘却係数である。また、ロール角の推定値φについては、上記第1の実施の形態と同様の方法により推定すればよい。
ドリフト量推定手段1038は、車速推定手段1022によって推定された車速に基づいて、上記(140)式〜(143)式に従って、各車速領域に対する重み関数を演算する。
また、ドリフト量推定手段1038は、横速度オブザーバ1034によって算出された車体横速度の微分量と運動方程式微分量算出手段1036によって演算された車体横速度の微分量との偏差を算出し、上記(144)式〜(152)式に従って、車速領域毎に、車体横速度の微分量の偏差及び車速の各々に対する平滑化演算を行う。
また、ドリフト量推定手段1038は、上記(156)式に示すように、各車速領域の重み関数を修正し、上記(157)式に示すような、車速領域毎に重み付けされた、車体横速度の微分量の偏差と車速とセンサドリフト量との関係を表わす関係式を導出する。ドリフト量推定手段1038は、導出した上記(157)式に従って、横加速度センサ14及びヨー角速度センサ20の各々のセンサドリフト量を推定する。
上記の第11の実施の形態において、コンピュータを、車速推定手段1022、ドリフト量補正手段1032、横速度オブザーバ1034、運動方程式微分量算出手段1036、及びドリフト量推定手段1038の各手段として機能させるプログラムによる情報処理は、図33のフローチャートに示す横速度推定処理ルーチンで実現することができる。
この横速度推定処理ルーチンについて以下に説明する。なお、第10の実施の形態と同様の処理については、同一符号を付して説明を省略する。
まず、ステップ1050で、横加速度センサ14、及びヨー角速度センサ20から、各検出値に応じたセンサ信号を取得する。そして、ステップ1052において、後述のステップ1156で1演算周期前に得られた横加速度センサ14のセンサドリフト量、及びヨー角速度センサ20のセンサドリフト量を用いて、上記ステップ1050で取得された横加速度センサ14及びヨー角速度センサ20の各々から出力されたセンサ信号を補正する。
そして、ステップ1054で、各輪の車輪速度に基づいて、車速を推定し、ステップ1056において、上記ステップ1052で補正された横加速度センサ14及びヨー角速度センサ20の各々から出力されたセンサ信号と上記ステップ1054で推定された車速とを用いて、車体横速度を推定するために算出される車体横速度の微分量を算出する。
次のステップ1150では、上記ステップ1054で推定された車速に基づいて、車速領域毎に重み関数を算出し、ステップ1152において、車速領域毎に、車速と車体横速度の微分量の偏差との各々を平滑化する。
そして、ステップ1154において、上記ステップ1150で算出された車速領域毎の重み関数、及び上記ステップ1152で平滑化された車速領域毎の車速及び車体横速度の微分量の偏差を用いて、車速領域毎の重み付けされた関係式を導出する。
次のステップ1156では、上記ステップ1154で導出された関係式に従って、横加速度センサ14のセンサドリフト量、及びヨー角速度センサ20のセンサドリフト量を推定する。
次のステップ1060では、上記ステップ1058で推定された横加速度センサ14のセンサドリフト量、及びヨー角速度センサ20のセンサドリフト量を用いて、横加速度センサ14及びヨー角速度センサ20の各々のセンサドリフト量について、更新することにより姿勢角推定値の絶対値が小さくなる場合のみ、センサドリフト量の推定値を更新する。
次のステップ1062では、上記ステップ1056で算出された横速度の微分量を積分することで、横速度を推定して、上記ステップ1050へ戻る。
次に、本実施の形態のセンサドリフト量の推定方法を用いた場合の姿勢角の推定結果について説明する。まず、横加速度センサのセンサ信号にドリフト誤差を印加した場合には、図34(A)、(B)に示すような姿勢角推定結果が得られ、このとき、図35に示すようなセンサドリフト量の推定結果が得られる。ここでは、上下加速度センサ、前後加速度センサ、及びロール角速度センサの各々のセンサドリフト量に関しては、上記の第1の実施の形態の手法を利用している。本実施の形態のセンサドリフト量の推定方法によれば、横加速度センサのセンサドリフト量を正確に推定できていることがわかった。
また、ヨー角速度センサのセンサ信号にドリフト誤差を印加した場合には、図36(A)、(B)に示すような姿勢角推定結果が得られ、このとき、図37に示すようなセンサドリフト量の推定結果が得られる。本実施の形態のセンサドリフト量の推定方法を用いた場合、ヨー角速度センサのセンサドリフト量に対しても適切な推定が行われていることがわかった。
以上説明したように、第11の実施の形態に係る横速度推定装置によれば、複数の車速領域毎に重み付けされた、車体横速度の微分量の偏差、車速、及びセンサドリフト量の関係を表わす関係式を用いることにより、横加速度及びヨー角速度の各々を検出するセンサのセンサドリフト量を精度良く推定することができる。
また、得られる車速が含まれるか否かに応じて、車速領域毎の重み関数を演算することにより、センサドリフト量の推定精度を向上させることができる。
なお、上記の第10の実施の形態及び第11の実施の形態では、横速度の微分量として、横速度オブザーバの内部演算値を用いた場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、スリップ角推定アルゴリズム内で演算されるスリップ角の微分量に車速を乗じて演算した値や、スリップ角推定値を微分した値に車速を乗じて演算した値を、横速度の微分量として用いてもよい。
次に、第12の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態及び第10の実施の形態と同様の構成の部分については、同一符号を付して説明を省略する。本実施の形態は、車体スリップ角を推定するスリップ角推定装置に本発明を適用したものである。
第12の実施の形態では、車体スリップ角を推定している点が、第11の実施の形態と主に異なっている。
図38に示すように、第12の実施の形態に係るスリップ角推定装置1210は、横加速度センサ14、ヨー角速度センサ20、及び車速推定手段1022を備えている。
横加速度センサ14及びヨー角速度センサ20は、ドリフト量補正手段1032に接続されている。ドリフト量補正手段1032は、ドリフト量推定手段1238に接続されている。
ドリフト量補正手段32及び車速推定手段1022は、車体スリップ角を推定するスリップ角オブザーバ1234に接続されている。横加速度センサ14、ヨー角速度センサ20、車速推定手段1022、及びスリップ角オブザーバ1234は、車両運動の運動方程式により得られる車体スリップ角の微分量を算出する運動方程式微分量算出手段1236に接続されている。
車速推定手段1022、スリップ角オブザーバ1234、及び運動方程式微分量算出手段1236は、横加速度センサ14及びヨー角速度センサ20の各々のセンサドリフト量を推定するドリフト量推定手段1238に接続されている。
車速推定手段1022、ドリフト量補正手段1032、スリップ角オブザーバ1234、運動方程式微分量算出手段1236、及びドリフト量推定手段1238は、各手段の機能を実現する1つまたは複数のコンピュータ、または1つまたは複数の電子回路で構成することができる。
スリップ角オブザーバ1234は、ドリフト量補正手段1032によって補正された横加速度センサ14のセンサ信号(Gy−Gydr)及びヨー角速度センサ20のセンサ信号(R−Rdr)と、車速推定手段1022によって推定された車速Vsoとに基づいて、上記(29−5)式における横車体速度を求めるための式と同様の式に従って、車体横速度の微分量を算出し、算出した車体横速度の微分量を、推定された車速で除算して、車体スリップ角の微分量を算出する。スリップ角オブザーバ1234は、算出した車体スリップ角の微分量を積分して、車体スリップ角の推定値を算出する。
次に、横加速度センサ14及びヨー角速度センサ20のセンサドリフト量を推定する原理について説明する。
まず、スリップ角オブザーバの車体スリップ角の微分量と運動方程式の車体スリップ角の微分量との偏差Eは、以下の(160)式によって演算される。
また、dβは、スリップ角オブザーバ1234により算出される車体スリップ角の微分量(スリップ角推定アルゴリズムの内部演算値)、dβmは、運動方程式により算出される車体スリップ角の微分量、Gyは横加速度センサ14によって検出された値、Rはヨー角速度センサ20によって検出された値、Uは推定された車速、gは重力加速度、θはピッチ角の推定値、φはロール角の推定値である。
印加したヨー角速度のドリフトRdrに対する、スリップ角オブザーバにより算出される車体スリップ角の微分量と運動方程式により算出される車体スリップ角の微分量との偏差ERdrの特性は、上記(129)式から、以下の(161)式で表される。
また、印加した横加速度のドリフトGydrに対する、スリップ角オブザーバにより算出される車体スリップ角の微分量と運動方程式により算出される車体スリップ角の微分量との偏差EGydrの特性は、以下の(162)式で表される。
上記(161)式、(162)式より、偏差Eへの影響が車速Uに依存しないヨー角速度センサのドリフト誤差と、偏差Eへの影響が車速Uに反比例する横加速度センサのドリフト誤差とは、偏差Eのノイズ成分を除去することにより、車速Uとノイズ除去後の偏差Eとの関係から、切り分けが可能と考えられる。
そこで、本実施の形態では、以下に説明するように、センサドリフト量を推定する。
まず、横加速度センサ14及びヨー角速度センサ20のセンサ信号Gy、Rに、一定のドリフト誤差Gydr、Rdrが重畳していると仮定すると、横方向の運動方程式は、上記(33)式で表される。また、運動方程式より得られる横速度の微分量は、上記(41)式で表される。
上記(33)式の左辺の横速度の微分量を車速で除算した値は、オブザーバの内部演算値であるdβと一致すると仮定すると、以下の(163)式が得られる。
また、上記(163)式から、以下の(164)式と記述される。
なお、Gydrmax、Rdrmaxは、それぞれ横加速度センサ14とヨー角速度センサ20のセンサドリフト量の上限値を表している。ここでは、ノイズ除去を図るため、上記(164)式における各値(センサ値、推定値)は、一定時間区間の平均値を利用する。
また、本実施の形態では、以下に説明する初期値設定及び平滑化演算を行うアルゴリズムに、上記で説明した車速と平滑化後の車体スリップ角の微分量の偏差Eとの関係を反映させて、横加速度センサとヨー角速度センサのセンサドリフト量を推定する。
車体スリップ角の微分量の偏差Eからノイズを除去するとともに、車体スリップ角の微分量の偏差と車速との関係を示すため、車速域を一定車速U0毎に分割して、複数の車速領域を設定し、スリップ角の微分量の偏差E及び車速データが得られる毎に、車体スリップ角の微分量の偏差E及び車速データに対して、以下の処理を行う。
まず、各車速領域について、車速領域内に車速が含まれた一定時間T0分の車体スリップ角の微分量の偏差E及び車速データの平均値を、初期値に設定する。
そして、得られた車速を含む車速領域について、初期値が設定されている場合には、サンプル時間τ毎に上記(138)式、(139)式と同様の式に従って平滑化演算を行う。
また、車速が変化して得られた車速が他の車速領域に含まれる場合には、得られた車速が含まれない車速領域について、上記(138)式、(139)式と同様の式による平滑化演算は行わない。
また、各車速領域に対して、車速領域に車速が含まれるデータ数に応じて増加し、得られる車速が車速領域から外れてから経過した経過時間に応じて減少する、上記(140)式〜(143)式で表される重み関数を定義する。
また、上記(138)式、(139)式と同様の式による平滑化演算は、データ点数の少ない状態も含め、上記(144)式〜(152)式と同様の式によって記述できる。
次に、上記(140)式〜(143)式で演算された重み関数を考慮した、Uk(i)とEk(i)との関係を、上記で説明した(164)式の関係と並べて、以下の(167)式のように行列表現する。なお、以下の(167)式は、車速領域毎に重み付けされた、車速、センサドリフト量、及び車体スリップ角の微分量の偏差の関係を表す関係式を行列表現したものである。
なお、Wkのチルダは、上記(156)式で表される。
上記(167)式を解くことによって、以下の(170)式を導出することができ、センサドリフト量は、以下の(170)式に従って推定される。
なお、ここでは、演算の安定化を図るとともに、姿勢角推定値の増加を抑制するため、上記(170)式の演算結果に対し、姿勢角推定値及び前回値を用いて上記(158)式、(159)式に従って平滑化する。なお、ロール角の推定値φについては、上記第1の実施の形態と同様の方法により推定すればよい。
運動方程式微分量算出手段1236は、横加速度センサ14によって検出された横加速度Gy、ヨー角速度センサ20によって検出されたヨー角速度R、及び車速推定手段1022によって推定された車速Vsoを用いて、上記(41)式に従って、車体横速度の微分量を算出し、車体横速度の微分量を車速Vsoで除算して、車体スリップ角の微分量を算出する。なお、上記(41)式におけるロール角の推定値φ及びピッチ角の推定値θについては、上記第1の実施の形態と同様の方法により推定すればよい。
ドリフト量推定手段1238は、車速推定手段1022によって推定された車速に基づいて、上記(140)式〜(143)式に従って、各車速領域に対する重み関数を演算する。
また、ドリフト量推定手段1238は、スリップ角オブザーバ1234によって算出された車体スリップ角の微分量と運動方程式微分量算出手段1236によって算出された車体スリップ角の微分量との偏差を算出し、上記(144)式〜(152)式と同様の式に従って、車速領域毎に、車体スリップ角の微分量の偏差と車速とに対する平滑化演算を行う。
また、ドリフト量推定手段1238は、上記(156)式に示すように、各車速領域の重み関数を修正し、上記(170)式に示すような、車速領域毎に重み付けされた、車体スリップ角の微分量の偏差と車速とセンサドリフト量との関係を表わした関係式を導出する。ドリフト量推定手段1238は、導出した上記(170)式に従って、横加速度センサ14及びヨー角速度センサ20の各々のセンサドリフト量を推定する。
上記の第12の実施の形態において、コンピュータを、車速推定手段1022、ドリフト量補正手段1032、スリップ角オブザーバ1234、運動方程式微分量算出手段1236、及びドリフト量推定手段1238の各手段として機能させるプログラムによる情報処理は、上記図33のフローチャートに示す横速度推定処理ルーチンと同様の手順で実現することができる。
以上説明したように、第12の実施の形態に係るスリップ角推定装置によれば、車体スリップ角を推定するために算出された車体スリップ角の微分量と車両運動の運動方程式より得られる車体スリップ角の微分量との関係を用いて、横加速度及びヨー角速度の各々を検出するセンサのセンサドリフト量を推定することにより、車両運動の状態に関わらず、安定して、横加速度及びヨー角速度の各々を検出するセンサのドリフト量を推定することができる。
また、複数の車速領域毎に重み付けされた、車体スリップ角の微分量の偏差、車速、及びセンサドリフト量の関係を表わす関係式を用いることにより、横加速度及びヨー角速度の各々を検出するセンサのセンサドリフト量を精度良く推定することができる。
また、車体スリップ角の微分量へのヨー角速度のドリフト誤差の寄与は車速に無関係である一方、車体スリップ角の微分量への横加速度のドリフト誤差の寄与は車速に反比例する点に着目し、車速領域ごとに車体スリップ角の微分量とドリフト誤差との関係を整理することによって、横加速度センサとヨー角速度センサのセンサドリフト量を精度よく推定することができる。
なお、上記の第10の実施の形態〜第12の実施の形態では、各輪速度から車速を推定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、車速センサを用いて、車速を検出するようにしてもよい。
次に、第13の実施の形態について説明する。なお、第13の実施の形態に係る姿勢角スリップ角推定装置の構成は、第9の実施の形態と同様の構成であるため、同一符号を付して説明を省略する。
第13の実施の形態では、推定されるロール角及びピッチ角の絶対値が小さくなる方向にセンサドリフト量を更新する場合と、大きくなる方向にセンサドリフト量を更新する場合とにおいて、学習速度を切り替えてセンサドリフト量を更新している点が、第9の実施の形態と主に異なっている。
センサドリフト量を推定する原理について説明する。
カント路など長時間姿勢角が出力される走行条件では、姿勢角推定値の出力を0に漸近させるまでの適応時間を長くすることが望まれる。このため、本実施の形態では、ドリフト推定の学習速度を、ドリフト量の更新における忘却係数の設定によって制御できるという点に着目し、姿勢角適応のアルゴリズムを提案する。具体的には、姿勢角の絶対値を増加させる方向にセンサドリフト量の推定値が変更される場合には、学習を中止するのではなく、大きく設定された忘却係数を用いる。
すなわち、ドリフト量推定手段938は、上記(125)式を、以下の(171)式に置き換えて、姿勢角オブザーバ24によるロール角の推定値φとドリフト誤差学習値の前回値Gydr(i)のチルダと新たに演算された値Gydrとから、横加速度のドリフト誤差の推定値Gydr(i+1)のチルダを演算する。
ここで、λ2、λ3は、推定値の平滑化のために導入された忘却係数であり、λ2<λ3である。上記(171)式に示すように、ロール角の推定値φが正の場合には、新たに演算されたドリフト誤差の推定値Gydrが前回値Gydr(i)のチルダより大きければ、ドリフト誤差の更新によりロール角の推定値の絶対値を小さくすることができるため、忘却係数λ2を用いてドリフト誤差学習値を更新する。また、ロール角の推定値φが負の場合には、新たに演算されたドリフト誤差の推定値Gydrが前回値Gydr(i)のチルダより小さければ、ドリフト誤差の更新によりロール角の推定値の絶対値を小さくすることができるため、忘却係数λ2を用いてドリフト誤差学習値を更新する。また、ロール角の推定値φが正の場合には、新たに演算されたドリフト誤差の推定値Gydrが前回値Gydr(i)のチルダより小さければ、ドリフト誤差の更新によりロール角の推定値の絶対値が大きくなるため、大きい忘却係数λ3を用いてドリフト誤差学習値を更新する。また、ロール角の推定値φが負の場合には、新たに演算されたドリフト誤差の推定値Gydrが前回値Gydr(i)のチルダより大きければ、ドリフト誤差の更新によりロール角の推定値の絶対値が大きくなるため、大きい忘却係数λ3を用いてドリフト誤差学習値を更新する。なお、大きい忘却係数を用いて更新することは、ドリフト誤差の更新における新たに演算されたドリフト誤差の推定値の影響度合いを小さくすることに対応している。
また、ドリフト量推定手段938は、上記(126)式を、以下の(172)式に置き換えて、姿勢角オブザーバ24によるロール角推定値φとドリフト誤差学習値の前回値Rdr(i)のチルダと新たに演算された値Rdrとから、ヨー角速度のドリフト誤差推定値Rdr(i+1)のチルダを演算する。
上記(172)式に示すように、ロール角の推定値φが正の場合には、新たに演算されたドリフト誤差の推定値Rdrが前回値Rdr(i)のチルダより小さければ、ドリフト誤差の更新によりロール角の推定値の絶対値を小さくすることができるため、忘却係数λ2を用いてドリフト誤差学習値を更新する。また、ロール角の推定値φが負の場合には、新たに演算されたドリフト誤差の推定値Rdrが前回値Rdr(i)のチルダより大きければ、ドリフト誤差の更新によりロール角の推定値の絶対値を小さくすることができるため、忘却係数λ2を用いてドリフト誤差学習値を更新する。また、ロール角の推定値φが正の場合には、新たに演算されたドリフト誤差の推定値Rdrが前回値Rdr(i)のチルダより大きければ、ドリフト誤差の更新によりロール角の推定値の絶対値が大きくなるため、大きい忘却係数λ3を用いてドリフト誤差学習値を更新する。また、ロール角の推定値φが負の場合には、新たに演算されたドリフト誤差の推定値Rdrが前回値Rdr(i)のチルダより小さければ、ドリフト誤差の更新によりロール角の推定値の絶対値が大きくなるため、大きい忘却係数λ3を用いてドリフト誤差学習値を更新する。
また、ドリフト量推定手段938は、上記(127)式を、以下の(173)式に置き換えて、姿勢角オブザーバ24によるピッチ角推定値θとドリフト誤差学習値の前回値Gxdr(i)のチルダと新たに演算された値Gxdrとから、前後加速度のドリフト誤差推定値Gxdr(i+1)のチルダを演算する。
上記(173)式に示すように、ピッチ角の推定値θが正の場合には、新たに演算されたドリフト誤差の推定値Gxdrが前回値Gxdr(i)のチルダより小さければ、ドリフト誤差の更新によりピッチ角の推定値の絶対値を小さくすることができるため、忘却係数λ2を用いてドリフト誤差学習値を更新する。また、ピッチ角の推定値θが負の場合には、新たに演算されたドリフト誤差の推定値Gxdrが前回値Gxdr(i)のチルダより大きければ、ドリフト誤差の更新によりピッチ角の推定値の絶対値を小さくすることができるため、忘却係数λ2を用いてドリフト誤差学習値を更新する。また、ピッチ角の推定値θが正の場合には、新たに演算されたドリフト誤差の推定値Gxdrが前回値Gxdr(i)のチルダより大きければ、ドリフト誤差の更新によりピッチ角の推定値の絶対値が大きくなるため、大きい忘却係数λ3を用いてドリフト誤差学習値を更新する。また、ピッチ角の推定値θが負の場合には、新たに演算されたドリフト誤差の推定値Gxdrが前回値Gxdr(i)のチルダより小さければ、ドリフト誤差の更新によりピッチ角の推定値の絶対値が小さくなるため、大きい忘却係数λ3を用いてドリフト誤差学習値を更新する。
ドリフト量推定手段938では、上記(73)式の演算結果により得られるセンサドリフト量の推定値を用いて、上記(125)式〜(127)式に従って、前後加速度センサ12のセンサドリフト量、横加速度センサ14のセンサドリフト量、及びヨー角速度センサ20のセンサドリフト量を更新する。
なお、第13の実施の形態に係る姿勢角スリップ角推定装置の他の構成及び作用については、第9の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
次に、本実施の形態のセンサドリフト量の推定方法を用いたセンサドリフト量の推定結果及び姿勢角の推定結果について説明する。なお、センサドリフト量の推定方法の効果を確認するため、ドリフト誤差を印加しない状態でカント路を走行したときのロール角及びセンサドリフト量を推定した。この場合には、図39(A)、(B)に示すような推定結果が得られた。ロール角の推定値及びセンサドリフト量の双方が、真値に近くなり、姿勢角出力の安定化のための適応が緩やかに働いていることがわかった。
また、ヨー角速度に4deg/sのドリフト誤差を印加した状態でカント路を走行したときの、ロール角及びセンサドリフト量を推定した。この場合には、図40(A)、(B)に示すような推定結果が得られた。真値に近いロール角推定値が得られた。一方、ヨー角速度のセンサドリフト量の推定値は真値に比べて小さく、代わりに横加速度のセンサドリフト量の推定値が負の方向に出力されている。これは、実験条件の車速領域のデータのみからでは、ヨー角速度と横加速度のドリフト推定が正確に配分されず、横加速度主体に出力されるためと考えられる。
以上説明したように、第13の実施の形態に係る姿勢角スリップ角推定装置によれば、センサドリフト量の更新によりロール角やピッチ角の推定値の絶対値が小さくなる場合と大きくなる場合とで、センサドリフト量の更新における忘却係数を切り替えることにより、ロール角やピッチ角の推定値の絶対値の増加を抑制すると共に、センサドリフト量の学習速度を調整することができ、より精度良く姿勢角を推定することができる。
なお、上記の実施の形態では、前後加速度、横加速度、及びヨー角速度の各々のセンサドリフト量について、センサドリフト量の更新における忘却係数を切り替える場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、前後加速度、横加速度、及びヨー角速度の少なくとも1つのセンサドリフト量について、更新における忘却係数を切り替えて更新し、その他のセンサドリフト量については、忘却係数を切り替えずに更新するようにしてもよい。