しかしながら、特許文献1に提案された電動パワーステアリング装置は、運転者の操作に関係なく、アシスト指令値に乗じるゲインを漸減していく構成であるため、運転者が操舵操作していないときにおいてもゲインが低下する。このため、運転者が実際に操舵操作を行ったときには、直前回の操舵操作時に比べて大きくゲインが減っているケースが生じる。こうしたケースにおいては、操舵フィーリングが急変して運転者に違和感を与えてしまう。
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、運転者に違和感を与えることなく操舵アシスト力が低減していることを確実に伝えて異常を知らせることを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、操舵ハンドルの操舵操作により車輪を操舵する操舵機構と、電源装置から電源供給され操舵ハンドルの操舵操作をアシストするアシスト力を発生する電動モータと、運転者が操舵ハンドルに入力した操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、少なくとも前記操舵トルクに対応したモータ制御値を設定するアシスト特性を記憶し、前記アシスト特性に基づいてモータ制御値を演算する制御値演算手段と、前記演算されたモータ制御値に基づいて、前記モータ制御値が大きいほど大きなアシスト力が発生するように前記電動モータを駆動制御するモータ制御手段とを備えた車両のステアリング装置において、前記電源装置の電源供給能力の異常を検出する電源異常検出手段と、前記電源異常検出手段により前記電源装置の電源供給能力の異常が検出されている場合、予め設定した操舵操作判定条件を満たす操舵操作が行われたか否かを判定する異常時操舵操作判定手段と、前記異常時操舵操作判定手段により前記操舵操作判定条件を満たす操舵操作が行われたと判定されるたびに、前記操舵トルクに対応したモータ制御値を低減する制御値低減手段とを備えたことにある。
この場合、前記異常時操舵操作判定手段は、前記操舵トルク検出手段により検出された操舵トルクが予め設定した基準値を超えた場合に、前記操舵操作判定条件を満たす操舵操作が行われたと判定するとよい。
この発明においては、操舵トルク検出手段が操舵ハンドルに入力された操舵トルクを検出し、制御値演算手段がアシスト特性に基づいて操舵トルク検出手段により検出した操舵トルクに対応したモータ制御値を演算する。アシスト特性は、例えば、操舵トルクの増加にしたがってアシスト力が増加する特性を有するように操舵トルクとモータ制御値との関係を設定してもよく、参照マップや関数として記憶しておくことができる。このモータ制御値は、少なくとも操舵トルクに対応して設定されるもので、例えば、車速、操舵速度、操舵角等の他の要素を加味して演算されても良い。モータ制御手段は、演算されたモータ制御値に基づいてモータ制御値が大きいほど大きなアシスト力が発生するように電動モータを駆動制御することにより運転者の操舵操作をアシストする。電動モータは、電源装置から電源供給される。電源異常検出手段は、電源装置の電源供給能力の異常を検出する。電源装置の電源供給能力の異常が検出されている場合、異常時操舵操作判定手段は、予め設定した操舵操作判定条件を満たす操舵操作が行われたか否かを判定する。例えば、操舵ハンドルに入力された操舵トルクが予め設定した基準値を超えた場合に、操舵操作判定条件を満たす操舵操作が行われたと判定する。
そして、制御値低減手段は、異常時操舵操作判定手段により操舵操作判定条件を満たす操舵操作が行われたと判定されるたびに、操舵トルクに対応したモータ制御値を低減する。例えば、操舵操作が行われたと判定されるたびに、アシスト特性を変更して操舵トルクに対応するモータ制御値を低減する、あるいは、アシスト特性から得られるモータ制御値を低減する。これにより、運転者が実際に操舵操作したときにだけ電動モータの発生するアシスト力が低下する。つまり、運転者の操舵操作にあわせてアシスト力を低下させることができる。このため、運転者が操舵操作しないあいだに急激にアシスト特性が変化してしまい運転者に違和感を与えるといった不具合が無く、しかも、アシスト力の低下を運転者に確実に感じさせて異常を知らせることができる。
尚、モータ制御値とは、電動モータを駆動制御するための電流値あるいは電圧値を意味するが、最終的に電動モータに通電する電流の値、あるいは、印加する電圧の値だけを意味するのではなく、それらを導き出すための基となる電流値あるいは電圧値であってもよい。また、操舵トルクに対応したモータ制御値を低減するにあたっては、必ずしも、操舵トルクの全域においてモータ制御値を低減する必要はなく、少なくとも操舵トルクの一部の領域(操舵トルクの一部の範囲)において操舵トルクに対応したモータ制御値を低減するものであればよい。
本発明の他の特徴は、前記モータ制御値は、前記電動モータの目標電流値であり、前記アシスト特性は、前記操舵トルクの増加にしたがって前記目標電流値が増加する特性を有するように前記操舵トルクと前記目標電流値との関係を設定するものであり、前記制御値低減手段は、前記アシスト特性における前記目標電流値に対する前記操舵トルクの値を増大側にシフトさせることにより前記操舵トルクに対応したモータ制御値を低減することにある。
この発明においては、制御値演算手段が、操舵トルクと目標電流値との関係を設定したアシスト特性に基づいて目標電流値を演算する。このアシスト特性は、操舵トルクの増加にしたがって目標電流値が増加する特性を有するように操舵トルクと目標電流値との関係を設定するもので、例えば、参照マップや関数として記憶しておくことができる。モータ制御手段は、演算された目標電流値に基づいて電動モータを駆動制御する。電源装置の電源供給能力の異常が検出されている場合、運転者が操舵操作判定条件を満たす操舵操作を行うと(例えば、基準値を超える操舵トルクを操舵ハンドルに入力すると)、そのたびに、制御値低減手段は、アシスト特性における操舵トルクと目標電流値との対応関係を変更し、目標電流値に対する操舵トルクの値を増大側にシフトさせる。従って、運転者が操舵ハンドルに入力した操舵トルクに対応して設定される目標電流値が電源正常時に比べて小さくなる。逆に言えば、アシスト力を得るために必要となる運転者の入力する操舵トルクが増大する。このため、ハンドル操作が重くなる。これにより、運転者は、ハンドル操作をするたびにアシスト力の低下を適切に感じて異常を認識することができる。
本発明の他の特徴は、前記制御値低減手段は、前記アシスト特性における前記目標電流値に対する前記操舵トルクの値を増大側に1段階ずつシフトさせることにある。
この発明においては、運転者が操舵操作判定条件を満たす操舵操作を行うたびに、アシスト特性における目標電流値に対する操舵トルクの値が増大側に1段階ずつシフトする。例えば、運転者が基準値を超える操舵トルクが検出される操舵操作を1回行うたびに、目標電流値に対する操舵トルクの値が増大側に1段階シフトする。従って、運転者は、ハンドル操作をするたびにアシスト力の低下を適切に感じて異常を認識することができる。
本発明の他の特徴は、前記アシスト特性における前記目標電流値に対する前記操舵トルクの値を増大側に1段階シフトさせるシフト量は、予め設定した設定量であって、運転者が前記アシスト力の減少を感じることのできる量であることにある。
この発明によれば、アシスト特性における目標電流値に対する操舵トルクの値を1段階シフトさせたときに、運転者に対して確実にアシスト力が減少したことを感じさせることができる。
本発明の他の特徴は、1回の操舵操作の終了を判定する操舵操作終了判定手段を備え、前記制御値低減手段は、前記操舵操作判定条件を満たす操舵操作が行われたと判定されるたびに、前記操舵操作が行われたと判定された時から前記操舵操作の終了が判定されるまでのあいだ、前記アシスト特性における前記目標電流値に対する前記操舵トルクの値を漸増させることにある。
この発明においては、運転者が操舵操作を行っているあいだ、例えば、運転者が操舵ハンドルに基準値を超える操舵トルクを入力しているあいだ、アシスト特性における目標電流値に対する操舵トルクの値が増大していく。従って、運転者は、ハンドル操作中にアシスト力が徐々に低下していくのを感じて異常を認識することができる。
本発明の他の特徴は、前記モータ制御値は、前記電動モータの目標電流値であり、前記アシスト特性は、前記操舵トルクの増加にしたがって前記目標電流値が増加するとともに、前記目標電流値が上限電流値以下に制限されるように前記操舵トルクと前記目標電流値との関係を設定するものであり、前記制御値低減手段は、前記上限電流値を低減することにより前記操舵トルクに対応したモータ制御値を低減することにある。この場合、制御値低減手段は、前記上限電流値を1段階ずつ低減するとよい。
この発明においては、制御値演算手段が、操舵トルクと目標電流値との関係を設定したアシスト特性に基づいて目標電流値を演算する。このアシスト特性は、操舵トルクの増加にしたがって目標電流値が増加するとともに、目標電流値が上限電流値以下に制限されるように操舵トルクと目標電流値との関係を設定するもので、例えば、参照マップや関数として記憶しておくことができる。モータ制御手段は、演算された目標電流値に基づいて電動モータを駆動制御する。電源装置の電源供給能力の異常が検出されている場合、操舵操作判定条件を満たす操舵操作が行われるたびに、制御値低減手段が目標電流値の上限である上限電流値を低減する。一般に電動モータを駆動制御する場合には、電動モータあるいはモータ駆動回路を保護するために、電動モータに流す電流の上限値である上限電流値が設定されている。このため、制御値演算手段は、モータ制御値を演算するにあたって、目標電流値が上限電流値に達した場合には、それ以上操舵トルクが増大しても目標電流値が上限電流値を超えないように制限する。
運転者が強く操舵操作した場合、目標電流値は制限されて上限電流値となるが、電源装置の電源供給能力の異常が検出されている場合には、操舵操作が行われるたびに上限電流値が低減される。従って、高トルク領域において操舵トルクに対応して設定される目標電流値が低減される。こうして、運転者の操舵操作にあわせて次第に電動モータの上限電流値制限が加わるようになりアシスト力が低下していく。これにより、運転者は、ハンドル操作をするたびにアシスト力の低下を適切に感じて異常を認識することができる。
本発明の他の特徴は、1回の操舵操作の終了を判定する操舵操作終了判定手段を備え、前記制御値低減手段は、前記操舵操作判定条件を満たす操舵操作が行われたと判定されるたびに、前記操舵操作が行われたと判定された時から前記操舵操作の終了が判定されるまでのあいだ、前記上限電流値を漸減することにある。
この発明においては、運転者が操舵操作を行っているあいだ、例えば、運転者が操舵ハンドルに基準値を超える操舵トルクを入力しているあいだ、上限電流値が減少していく。従って、運転者は、ハンドル操作中にアシスト力が徐々に低下していくのを感じて異常を認識することができる。
本発明の他の特徴は、前記制御値低減手段は、前記電動モータの消費電力の上限を設定する上限電力値を低減することにより前記操舵トルクに対応したモータ制御値を低減することにある。この場合、制御値低減手段は、前記上限電力値を1段階ずつ低減するとよい。
この発明においては、電源装置の電源供給能力の異常が検出されている場合、操舵操作判定条件を満たす操舵操作が行われるたびに、制御値低減手段が電動モータの消費電力の上限を設定する上限電力値を低減する。制御値演算手段は、モータ制御値を演算するにあたって、電動モータの消費電力が上限電力値を超えないように演算する。電動モータの出力は、操舵アシストトルクと操舵速度との積に比例する。また、電動モータの出力は、その消費電力を制限することにより制限される。従って、電動モータの消費電力を制限していくと、操舵トルクに対応したモータ制御値が低減され、特に、操舵ハンドルを速く回したときの粘り感が増大する。このため、電源装置の異常時においては、運転者の操舵操作にあわせて、操舵フィーリングにおける粘り感が徐々に増大していき、運転者は、異常を認識することができる。
本発明の他の特徴は、1回の操舵操作の終了を判定する操舵操作終了判定手段を備え、前記制御値低減手段は、前記操舵操作判定条件を満たす操舵操作が行われたと判定されるたびに、前記操舵操作が行われたと判定された時から前記操舵操作の終了が判定されるまでのあいだ、前記上限電力値を漸減することにある。
この発明においては、運転者が操舵操作を行っているあいだ、例えば、運転者が操舵ハンドルに基準値を超える操舵トルクを入力しているあいだ、上限電力値が減少していく。従って、運転者は、ハンドル操作中に粘り感が徐々に増大していくのを感じて異常を認識することができる。
本発明の他の特徴は、操舵速度を検出する操舵速度検出手段と、前記操舵速度検出手段により検出された操舵速度が予め設定した基準操舵速度を超える場合には、前記制御値低減手段の前記モータ制御値を低減する低減量を減少させる低減量制限手段とを備えたことにある。
上述した発明においては、電源装置の電源供給能力の異常時において、ハンドル操作にあわせてアシスト力が減少するように制御するものであるが、本発明においては、運転者が操舵アシストを特に必要としている状況にあるときには、上述したアシスト力の低減を抑制し、運転者への操舵アシストを優先する。つまり、本発明は、操舵速度が予め設定した基準操舵速度を超える場合に、運転者が操舵アシストを特に必要としている状況にあると推定し、低減量制限手段が、制御値低減手段のモータ制御値を低減する低減量を減少させる。従って、本発明によれば、運転者が操舵アシストを特に必要としている状況にある場合には、適切な操舵アシストが得られ、例えば、車両の接触回避等のために緊急な操舵操作が必要となるケースにおいて有効であり安全性が向上する。尚、低減量を減少させるとは、低減量をゼロにすること、つまり、モータ制御値を低減させないことも含むものである。
本発明の他の特徴は、前記操舵トルク検出手段により検出された操舵トルクが予め設定した低減量制限判定トルクを超える場合には、前記制御値低減手段の前記モータ制御値を低減する低減量を減少させる低減量制限手段を備えたことにある。
この発明においても、運転者が操舵アシストを特に必要としている状況にあるときには、上述したアシスト力の低減を抑制し、運転者への操舵アシストを優先する。本発明では、操舵トルク検出手段により検出された操舵トルクが予め設定した低減量制限判定トルクを超える場合に、運転者が操舵アシストを特に必要としている状況にあると推定し、低減量制限手段が、制御値低減手段のモータ制御値を低減する低減量を減少させる。低減量制限判定トルクは、例えば、運転者の操舵操作の判定を操舵トルクを用いて行う場合、その操舵操作判定用の基準値より大きなトルク値に設定する。従って、本発明によれば、運転者が操舵アシストを特に必要としている状況にある場合には、適切な操舵アシストが得られ、例えば、車両の接触回避等のために緊急な操舵操作が必要となるケースにおいて有効であり安全性が向上する。尚、低減量を減少させるとは、低減量をゼロにすること、つまり、モータ制御値を低減させないことも含むものである。
本発明の他の特徴は、前記電源装置は、前記電動モータを含めた車両内の複数の電気負荷に電源供給する主電源と、前記主電源と前記電動モータとの間に並列に接続され、主電源の出力する電力を充電し、充電した電力を使って前記電動モータへの電源供給を補助する副電源とを備えており、前記電源異常検出手段は、前記主電源から前記電動モータへの電源供給の不能状態を検出することにある。
この発明においては、電動モータへの電源供給する電源として主電源と副電源とを備えており、断線等により主電源の電動モータへの電源供給能力が失われた場合であっても、副電源から電動モータに電源供給できる。しかし、副電源を使ってそのままアシスト制御(電動モータの制御)を変更せずに継続させてしまうと、運転者に対して主電源の異常を認識させにくい。この場合、副電源の電源供給能力が失われた状況になって急に操舵アシストが得られなくなってしまい、運転者に対して大きな違和感を与えてしまう可能性がある。
そこで、本発明においては、電源異常検出手段が、主電源から電動モータへの電源供給の不能状態を検出するようにしている。従って、副電源が正常であっても主電源の電源供給能力の異常を検出した時点から操舵操作にあわせてアシスト力が低減されるような制御に切り替わるため、運転者に異常を早期に認識させることができる。この結果、故障修理への対応が良好となる。
以下、本発明の一実施形態に係る車両のステアリング装置について図面を用いて説明する。図1は、第1実施形態として車両の電動パワーステアリング装置の概略構成を表している。
この電動パワーステアリング装置は、操舵ハンドル11の操舵操作により転舵輪を操舵するステアリング機構10と、ステアリング機構10に組み付けられ操舵アシストトルクを発生する電動モータ20と、電動モータ20を駆動するためのモータ駆動回路30と、主電源100の出力電圧を昇圧してモータ駆動回路30に電源供給する昇圧回路40と、昇圧回路40とモータ駆動回路30との間の電源供給回路に並列接続される副電源50と、電動モータ20および昇圧回路40の作動を制御する電子制御装置60とを主要部として備えている。尚、本明細書においては、複数の実施形態を説明するが、それらは、電子制御装置60の制御処理が異なるだけであって、ハードウエアの構成については同一である。
ステアリング機構10は、操舵ハンドル11の回転操作により左右前輪FWL,FWRを転舵するための機構で、操舵ハンドル11を上端に一体回転するように接続したステアリングシャフト12を備える。このステアリングシャフト12の下端には、ピニオンギヤ13が一体回転するように接続されている。ピニオンギヤ13は、ラックバー14に形成されたラック歯と噛み合って、ラックバー14とともにラックアンドピニオン機構を構成する。ラックバー14の両端には、タイロッド15L,15Rを介して左右前輪FWL,FWRのナックル(図示略)が操舵可能に接続されている。左右前輪FWL,FWRは、ステアリングシャフト12の軸線回りの回転に伴うラックバー14の軸線方向の変位に応じて左右に操舵される。
ラックバー14には、操舵アシスト用の電動モータ20が組み付けられている。電動モータ20の回転軸は、ボールねじ機構16を介してラックバー14に動力伝達可能に接続されていて、その回転により左右前輪FWL,FWRに転舵力を付与して運転者の操舵操作をアシストする。ボールねじ機構16は、減速機および回転−直線変換器として機能するもので、電動モータ20の回転を減速するとともに直線運動に変換してラックバー14に伝達する。
ステアリングシャフト12には、操舵トルクセンサ21が設けられる。操舵トルクセンサ21は、操舵ハンドル11の回動操作によってステアリングシャフト12に作用する操舵トルクに応じた信号を出力する。この操舵トルクセンサ21から出力される信号により検出される操舵トルクの値を、以下、操舵トルクTxと呼ぶ。操舵トルクTxは、正負の値により操舵ハンドル11の操作方向が識別される。本実施形態においては、操舵ハンドル11の右方向への操舵時における操舵トルクTxを正の値で、操舵ハンドル11の左方向への操舵時における操舵トルクTxを負の値で示す。従って、以下、操舵トルクTxの大きさを論じる場合は、その絶対値の大きさを用いる。
電動モータ20には、回転角センサ22が設けられる。この回転角センサ22は、電動モータ20内に組み込まれ、電動モータ20の回転子の回転角度位置に応じた検出信号を出力する。この回転角センサ22の検出信号は、電動モータ20の回転角および回転角速度の計算に利用される。一方、この電動モータ20の回転角は、操舵ハンドル11の操舵角に比例するものであるので、操舵ハンドル11の操舵角としても共通に用いられる。また、電動モータ20の回転角を時間微分した回転角速度は、操舵ハンドル11の操舵角速度に比例するものであるため、操舵ハンドル11の操舵速度としても共通に用いられる。以下、回転角センサ22の出力信号により検出される操舵ハンドル11の操舵角の値を操舵角θxと呼び、その操舵角θxを時間微分して得られる操舵角速度の値を操舵速度ωxと呼ぶ。操舵角θxは、正負の値により操舵ハンドル11の中立位置に対する右方向および左方向の舵角をそれぞれ表す。本実施形態においては、操舵ハンドル11の中立位置を「0」とし、中立位置に対する右方向への舵角を正の値で示し、中立位置に対する左方向への舵角を負の値で示す。
モータ駆動回路30は、MOSFETからなる6個のスイッチング素子31〜36により3相インバータ回路を構成したものである。具体的には、第1スイッチング素子31と第2スイッチング素子32とを直列接続した回路と、第3スイッチング素子33と第4スイッチング素子34とを直列接続した回路と、第5スイッチング素子35と第6スイッチング素子36とを直列接続した回路とを並列接続し、各直列回路における2つのスイッチング素子間(31−32,33−34,35−36)から電動モータ20への電源供給ライン37を引き出した構成を採用している。
モータ駆動回路30から電動モータ20への電源供給ライン37には、電流センサ38が設けられる。この電流センサ38は、各相ごとに流れる電流をそれぞれ検出(測定)し、その検出した電流値に対応した検出信号を電子制御装置60に出力する。以下、この測定された電流値を、モータ電流iuvwと呼ぶ。また、この電流センサ38をモータ電流センサ38と呼ぶ。
各スイッチング素子31〜36は、それぞれゲートが電子制御装置60のアシスト制御部61(後述する)に接続され、アシスト制御部61からのPWM制御信号によりデューティ比が制御される。これにより電動モータ20の駆動電圧が目標電圧に調整される。尚、図中に回路記号で示すように、スイッチング素子31〜36を構成するMOSFETには、構造上ダイオードが寄生している。
次に、電動パワーステアリング装置の電源供給系統について説明する。
電動パワーステアリング装置の電源装置は、主電源100と、主電源100の出力電圧を昇圧する昇圧回路40と、昇圧回路40とモータ駆動回路30とのあいだに並列に接続される副電源50と、電子制御装置60に設けられ昇圧回路40の昇圧電圧を制御する電源制御部62とを備える。
主電源100は、定格出力電圧12Vの一般的な車載バッテリである主バッテリ101と、エンジンの回転により発電する定格出力電圧14Vのオルタネータ102とを並列接続して構成される。従って、主電源100は、14V系の車載電源を構成している。
主電源100は、電動パワーステアリング装置だけでなく、ヘッドライト等の他の車載電気負荷への電源供給も共通して行う。主バッテリ101の電源端子(+端子)には、電源供給元ライン103が接続され、グランド端子には接地ライン111が接続される。
電源供給元ライン103は、制御系電源ライン104と駆動系電源ライン105とに分岐する。制御系電源ライン104は、電子制御装置60のみに電源供給するための電源ラインとして機能する。駆動系電源ライン105は、モータ駆動回路30と電子制御装置60との両方に電源供給する電源ラインとして機能する。
制御系電源ライン104には、イグニッションスイッチ106が接続される。駆動系電源ライン105には、電源リレー107が接続される。この電源リレー107は、電子制御装置60のアシスト制御部61からの制御信号によりオンして電動モータ20への電力供給回路を形成するものである。制御系電源ライン104は、電子制御装置60の電源+端子に接続されるが、その途中で、イグニッションスイッチ106よりも負荷側(電子制御装置60側)においてダイオード108を備えている。このダイオード108は、カソードを電子制御装置60側、アノードを主電源100側に向けて設けられ、電源供給方向にのみ通電可能とする逆流防止素子である。
駆動系電源ライン105には、電源リレー107よりも負荷側において制御系電源ライン104と接続する連結ライン109が分岐して設けられる。この連結ライン109は、制御系電源ライン104のダイオード108接続位置よりも電子制御装置60側に接続される。また、連結ライン109には、ダイオード110が接続される。このダイオード110は、カソードを制御系電源ライン104側に向け、アノードを駆動系電源ライン105側に向けて設けられる。従って、連結ライン109を介して駆動系電源ライン105から制御系電源ライン104には電源供給できるが、制御系電源ライン104から駆動系電源ライン105には電源供給できないような回路構成となっている。駆動系電源ライン105および接地ライン111は昇圧回路40に接続される。また、接地ライン111は、電子制御装置60の接地端子にも接続される。
駆動系電源ライン105には、昇圧回路40と電源リレー107との間に電圧センサ51が設けられる。この電圧センサ51は、主電源100から電動モータ20への電源供給不能状態を検出するもので、駆動系電源ライン105と接地ライン111との間の電圧を検出(測定)し、その検出信号を電源制御部62、および、電源制御部62を介してアシスト制御部61に出力する。以下、この電圧センサ51を第1電圧センサ51と呼び、その検出電圧値を主電源電圧v1と呼ぶ。
昇圧回路40は、駆動系電源ライン105と接地ライン111との間に設けられるコンデンサ41と、コンデンサ41の接続点より負荷側の駆動系電源ライン105に直列に設けられる昇圧用コイル42と、昇圧用コイル42の負荷側の駆動系電源ライン105と接地ライン111との間に設けられる第1昇圧用スイッチング素子43と、第1昇圧用スイッチング素子43の接続点より負荷側の駆動系電源ライン105に直列に設けられる第2昇圧用スイッチング素子44と、第2昇圧用スイッチング素子44の負荷側の駆動系電源ライン105と接地ライン111との間に設けられるコンデンサ45とから構成される。昇圧回路40の二次側には、昇圧電源ライン112が接続される。
本実施形態においては、この昇圧用スイッチング素子43,44としてMOSFETを用いるが,他のスイッチング素子を用いることも可能である。また、図中に回路記号で示すように、昇圧用スイッチング素子43,44を構成するMOSFETには、構造上ダイオードが寄生している。
昇圧回路40は、電子制御装置60の電源制御部62により昇圧制御される。電源制御部62は、第1,第2昇圧用スイッチング素子43,44のゲートに所定周期のパルス信号を出力して両スイッチング素子43,44をオン・オフし、主電源100から供給された電源を昇圧して昇圧電源ライン112に所定の出力電圧を発生させる。この場合、第1,第2昇圧用スイッチング素子43,44は、互いにオン・オフ動作が逆になるように制御される。昇圧回路40は、第1昇圧用スイッチング素子43をオン、第2昇圧用スイッチング素子44をオフにして昇圧用コイル42に短時間だけ電流を流して昇圧用コイル42に電力をため、その直後に、第1昇圧用スイッチング素子43をオフ、第2昇圧用スイッチング素子44をオンにして昇圧用コイル42にたまった電力を出力するように動作する。
第2昇圧用スイッチング素子44の出力電圧は、コンデンサ45により平滑される。従って、安定した昇圧電源が昇圧電源ライン112から出力される。この場合、周波数特性の異なる複数のコンデンサを並列に接続して平滑特性を向上させるようにしてもよい。また、昇圧回路40の入力側に設けたコンデンサ41により、主電源100側へのノイズが除去される。
昇圧回路40の昇圧電圧(出力電圧)は、第1、第2昇圧用スイッチング素子43,44のデューティ比の制御(PWM制御)により、例えば、20V〜50Vの範囲で昇圧電圧を調整できるように構成される。尚、昇圧回路40として、汎用のDC−DCコンバータを使用することもできる。
昇圧電源ライン112は、昇圧駆動ライン113と充放電ライン114とに分岐する。昇圧駆動ライン113は、モータ駆動回路30の電源入力部に接続される。充放電ライン114は、副電源50のプラス端子に接続される。
副電源50は、昇圧回路40から出力される電力を充電し、モータ駆動回路30で大電力を必要としたときに、主電源100を補助してモータ駆動回路30に電源供給する蓄電装置である。また、副電源50は、主電源100が失陥(電源供給能力の喪失)したときに、単独でモータ駆動回路30に電源供給するように使用される。従って、副電源50は、昇圧回路40の昇圧電圧相当の電圧を維持できるように複数の蓄電セルを直列に接続して構成される。副電源50の接地端子は、接地ライン111に接続される。この副電源として、例えば、キャパシタ(電気二重層コンデンサ)を用いることができる。
副電源50は、電子制御装置60に対しても電源供給できるように構成されており、主電源100から電子制御装置60に電源供給を良好に行えなくなったときに、主電源100に代わって電子制御装置60に電源供給するように構成されている。尚、電子制御装置60は、副電源50から供給される電源の電圧を降圧する図示しない降圧回路(DC/DCコンバータ)を受電部に内蔵しており、この降圧回路により適正電圧に調整する。
昇圧回路40の出力側には、電圧センサ52が設けられる。電圧センサ52は、昇圧電源ライン112と接地ライン111との間の電圧を検出し、その検出値に応じた信号を電源制御部62に出力する。この回路構成においては、昇圧電源ライン112と充放電ライン114とが接続されるため、電圧センサ52により測定される測定値は、昇圧回路40の出力電圧(昇圧電圧)と副電源50の出力電圧(電源電圧)との高い方の電圧値となる。以下、この電圧センサ52を第2電圧センサ52と呼び、その検出電圧値を出力電源電圧v2と呼ぶ。
また、昇圧駆動ライン113には、モータ駆動回路30に流れる電流を検出する電流センサ54が設けられる。電流センサ54は、電子制御装置60の電源制御部62に接続され、電源制御部62に対して測定値である出力電流i2を表す信号を出力する。以下、この電流センサ54を出力電流センサ54と呼ぶ。
また、充放電ライン114には、副電源50に流れる電流を検出する電流センサ53が設けられる。電流センサ53は、電子制御装置60の電源制御部62に接続され、電源制御部62に対して測定値である充放電電流isubを表す信号を出力する。電流センサ53は、電流の向き、つまり、昇圧回路40から副電源50に流れる充電電流と、副電源50からモータ駆動回路30に流れる放電電流とを区別して、それらの大きさを測定する。充放電電流isubは、充電電流として流れるときには正の値により、放電電流として流れるときには負の値により表される。以下、この電流センサ53を充放電電流センサ53と呼び、その検出電流値を実充放電電流isubと呼ぶ。
電子制御装置60は、メモリ等を内蔵したマイクロコンピュータを主要部として構成され、その機能に着目すると、アシスト制御部61と電源制御部62とに大別される。アシスト制御部61は、操舵トルクセンサ21、回転角センサ22、モータ電流センサ38、車速センサ23を接続し、操舵トルクTx、操舵角θx、モータ電流iuvw、車速Vxを表すセンサ信号を入力する。アシスト制御部61は、これらのセンサ信号に基づいて、モータ駆動回路30にPWM制御信号を出力して電動モータ20を駆動制御し、運転者の操舵操作をアシストする。
電源制御部62は、昇圧回路40の昇圧制御を行うことにより副電源50の充電と放電とを制御する。電源制御部62は、第1電圧センサ51,第2電圧センサ52,充放電電流センサ53,出力電流センサ54を接続し、主電源電圧v1,出力電源電圧v2,実充放電電流isub,出力電流i2を表すセンサ信号を入力する。電源制御部62は、これらセンサ信号に基づいて、副電源50の充電容量が目標充電容量となるように昇圧回路40にPWM制御信号を出力する。昇圧回路40は、入力したPWM制御信号にしたがって第1,第2昇圧用スイッチング素子43,44のデューティ比を制御することにより、その出力電圧である昇圧電圧を変化させる。尚、電源制御部62は、主電源100の失陥が検知されているときには、昇圧回路40の昇圧動作を停止する。
アシスト制御部61と電源制御部62とは、互いに情報の授受が可能となっており、例えば、電源制御部62で取得した情報(主電源電圧v1,出力電源電圧v2,実充放電電流isub,出力電流i2)をアシスト制御部61に供給できるようになっている。
次に、電子制御装置60のアシスト制御部61が行う操舵アシスト制御処理について説明する。図2は、アシスト制御部61により実施される操舵アシスト制御ルーチンを表す。操舵アシスト制御ルーチンは、電子制御装置60のROM内に制御プログラムとして記憶されており、イグニッションスイッチ106の投入(オン)により起動し、所定の短い周期で繰り返し実行される。
本制御ルーチンが起動すると、アシスト制御部61は、まず、ステップS11において、車速センサ23によって検出された車速Vxと、操舵トルクセンサ21によって検出した操舵トルクTxとを読み込む。
続いて、アシスト制御部61は、ステップS12において、アシストマップ設定処理を行う。アシストマップは、車速Vxと操舵トルクTxとに基づいて電動モータの目標電流値ias*を設定するための参照マップであり電子制御装置60のメモリ内に記憶されている。アシストマップは、図3に示すように、操舵トルクTxの増加にしたがってアシスト力が増加するように操舵トルクTxと目標電流値ias*との関係を設定したものである。この例では、操舵トルクTxと目標電流値ias*との関係を、車速Vxに応じても変化させ、車速Vxが低くなるほど目標電流値ias*を大きな値に設定する。このアシストマップでは、操舵トルクTxがゼロとなるときに目標電流値ias*をゼロに設定し、操舵トルクTxの増加にしたがって目標電流値ias*がゼロから増加するように設定する。また、目標電流値ias*は、操舵トルクTxの増加にかかわらず上限電流値以下に制限される。このアシストマップは、本発明における操舵トルクとモータ制御値(目標電流値)との関係を設定したアシスト特性に相当する。尚、図3のアシストマップは、右方向の操舵トルクTxに対する目標電流値ias*の特性を表すが、左方向の特性については方向が反対になるだけで絶対値でみれば同じである。以下、目標電流値ias*を目標電流ias*と呼ぶ。
ステップS12のアシストマップ設定処理とは、主電源100が失陥した場合(電動モータ20への電源供給能力の喪失時)に、図3に示すアシストマップ(以下、オリジナルマップと呼ぶ場合もある)を変更する処理である。このアシストマップ設定処理については後述する。
アシスト制御部61は、ステップS12のアシストマップ設定処理を行った後、ステップS13において、アシストマップに基づいて車速Vxと操舵トルクTxとに対応した電動モータ20の目標電流ias*を計算する。この目標電流ias*が、本発明のモータ制御値、あるいは、目標電流値に相当する。尚、この場合、操舵角θxや操舵速度ωx等に基づく補償トルクを加味するために、その分だけ目標電流ias*を補正するようにしてもよい。例えば、操舵角θxに比例して大きくなるステアリングシャフト12の基本位置への復帰力と、操舵速度ωxに比例して大きくなるステアリングシャフト12の回転に対向する抵抗力に対応した戻しトルクとの和を補償トルクとして、この補償トルク分を考慮した目標電流ias*に補正してもよい。この計算に当たっては、回転角センサ22にて検出した電動モータ20の回転角(操舵ハンドル11の操舵角θxに相当)を入力して行う。また、操舵速度ωxについては、操舵ハンドル11の操舵角θxを時間で微分して求める。
次に、アシスト制御部61は、ステップS14において、電動モータ20に流れるモータ電流iuvwをモータ電流センサ38から読み込む。続いて、ステップS15において、このモータ電流iuvwと先に計算した目標電流ias*との偏差Δiを計算し、この偏差Δiに基づくPI制御(比例積分制御)により指令電圧v*を計算する。
そして、アシスト制御部61は、ステップS16において、指令電圧v*に応じたPWM制御信号をモータ駆動回路30に出力して本制御ルーチンを一旦終了する。本制御ルーチンは、所定の短い周期で繰り返し実行される。従って、本制御ルーチンの実行により、モータ駆動回路30のスイッチング素子31〜36のデューティ比が制御されて、運転者の操舵操作に応じた所望の操舵アシスト力が得られる。
尚、こうした電動モータ20のフィードバック制御は、電動モータ20の回転方向をq軸とするとともに回転方向と直交する方向をd軸とする2相のd−q軸座標系で表されるベクトル制御によって行われる。そのため、アシスト制御部61は、モータ電流センサ38で検出される3相のモータ電流iuvwをd−q軸座標系に変換する3相/2相座標変換部(図示略)を備え、この3相/2相座標変換部によりモータ電流iuvwをd軸電流idとq軸電流iqとに変換する。また、目標電流ias*の設定においても、d−q軸座標系における目標電流(Id*,Iq*)を算出する。この場合、電動モータ20にトルクを発生させるq軸電流がアシストマップから目標電流ias*として設定されることになる。また、アシスト制御部61は、偏差(Id*−Id,Iq*−Iq)に対応した3相の電圧指令値(指令電圧v*)を算出するために、2相/3相座標変換部(図示略)を備え、この2相/3相座標変換部により3相の指令電圧v*を演算する。
本願明細書においては、本発明がこうしたd−q軸座標系を使った制御に特徴を有するものではないため、目標電流を単にias*として表現し、モータ電流センサ38で検出されるモータ電流をiuvwと表現して説明する。
尚、本操舵アシスト制御ルーチンにおいて、アシスト制御部61がアシストマップに基づいて目標電流ias*を計算する処理(S11〜S13)が本発明の制御値演算手段に相当し、アシスト制御部61が目標電流ias*に基づいて電動モータ20を駆動制御する処理(S14〜S16)およびモータ駆動回路30が本発明のモータ制御手段に相当する。
こうした操舵アシスト制御の実行中においては、特に、据え切り操作時や、低速走行でのハンドル操作時において大きな電力が必要とされる。しかし、一時的な大電力消費に備えて主電源100の大容量化を図ることは好ましくない。そこで、本実施形態の電動パワーステアリング装置においては、主電源100の大容量化を図らずに、一時的な大電力消費時に電源供給を補助する副電源50を備える。また、電動モータ20を効率的に駆動するために昇圧回路40を備え、昇圧した電力をモータ駆動回路30および副電源50に供給するシステムを構成している。
ところで、主電源100から電動モータ20への電源供給が不能になる可能性がある。例えば、電源リレー107の故障、駆動系電源ライン105の断線、電源ラインのコネクタ接続不良等がその原因として挙げられる。こうした場合、本実施形態の電動パワーステアリング装置においては、副電源50のみで操舵アシスト制御を継続することができる。しかし、電源装置(主電源100と副電源50とを有する電源装置)としては異常状態といえる。従って、運転者に電源異常を認識させる必要がある。
一般に、電源異常時においては、ウォーニングランプ等の報知器が作動するが、それだけでは運転者が気がつかない場合もある。そうした場合には、副電源50の充電容量が消耗していきシステムが停止したときになって急に操舵アシストがなくなるため、運転者に大きな違和感を与えてしまう。そこで本実施形態の電動パワーステアリング装置においては、運転者に大きな違和感を与えることなく確実に電源異常を早期に知らせるために、ステップS12のアシストマップ設定処理を行うようにしている。
図4は、アシストマップ設定ルーチンを表すフローチャートである。このアシストマップ設定ルーチンは、図2のステップS12の処理を具体的に表すものである。このアシストマップ設定ルーチンが起動すると、まず、アシスト制御部61は、ステップS21において、第1電圧センサ51により検出される主電源電圧v1を読み込む。続いて、ステップS22において、主電源電圧v1が主電源失陥判定電圧vref1以下であるか否かを判定する。主電源失陥判定電圧vref1は、主電源100の失陥を判定するための設定電圧であって予め電子制御装置60のROM等に記憶されている。このアシスト制御部61の行うステップS22の処理が本発明の電源異常検出手段に相当する。
アシスト制御部61は、ステップS22において「No」、つまり、主電源100が失陥していないと判断した場合は、ステップS23において、変数nを値0(ゼロ)に設定する(n=0)。この変数nは、後述する処理からわかるように、アシストマップの特性を図3のオリジナルアシストマップに対してシフトさせる段数を表す数値である。また、本アシストマップ設定ルーチンの起動時においては、変数nは値0に設定されている。
アシストマップは、主電源100の失陥時においては、図5に示すように、オリジナルアシストマップに対して操舵トルクTxが増大する方向にシフトするように調整される。つまり、図3の特性波形を、矢印にて示すように操舵トルクTxの増大側(グラフの右側)にシフトした特性に調整される。尚、この図5に示すマップは、特定の車速Vxにおけるオリジナルアシストマップと、段階的にシフトされた各アシストマップとを重ねて表している。
アシスト制御部61は、ステップS23において変数nを値0に設定すると、次に、ステップS24において、車速Vxに対応したオリジナルアシストマップから操舵トルクTxを増大側にn段階シフトしたアシストマップを設定する。アシストマップの特性変更は、1段階あたり操舵トルクTxを一定の単位シフト量ΔT0だけシフトさせるものである。従って、ステップS24においては、オリジナルアシストマップに対して操舵トルクTxをn×ΔT0分だけシフトさせてアシストマップを設定する。主電源100が正常の場合には、n=0であるため、オリジナルアシストマップが選択されることになる。
本アシストマップ設定ルーチンは、ステップS24の処理が完了すると一旦終了し、操舵アシスト制御ルーチン(図2)のステップS13の処理に移行する。本アシストマップ設定ルーチンは、操舵アシスト制御ルーチン内に組み込まれており、所定の短い周期で繰り返される。従って、主電源100の失陥の有無が所定周期で繰り返し判断されることになる。尚、アシスト制御部61は、アシストマップ設定ルーチンを抜けるときに、変数nの値をメモリ内に記憶する。
アシスト制御部61は、ステップS22において、「Yes」、つまり、主電源100が失陥していると判断した場合は、ステップS25において、フラグF1が「0」(ゼロ)に設定されているか否かを判断する。このフラグF1は、操舵アシスト制御ルーチンの起動時においては「0」に設定されており、後述の操舵操作判定条件を満たす操舵操作が行われるたびに「1」に設定されるものである。
アシスト制御部61は、ステップS25において、フラグF1が「0」であると判定すると、続いて、ステップS26において、操舵トルクセンサ21にて検出された操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が予め設定した基準値Tref1を超えているか否かを判定する。この判定は、運転者が操舵操作判定条件を満たす操舵操作を行ったか否かを判定する処理である。従って、アシスト制御部61の行うステップS26の処理が本発明の異常時操舵操作判定手段に相当する。ステップS26において「No」、つまり、運転者が操舵操作判定条件を満たす操舵操作を行っていない場合には、その処理をステップS24に進める。この場合、n=0に設定されているため、オリジナルアシストマップが選択されることになる。
こうして、主電源100が失陥している間は、操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が基準値Tref1を超えているか否かの判定が所定周期で繰り返される。そして、操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が基準値Tref1を超えたことを検出すると(S26:Yes)、ステップS27においてフラグF1を「1」に設定する。続いて、アシスト制御部61は、ステップS28において、変数nの値が上限値nmaxに達しているか否かを判断する。この上限値nmaxは、アシストマップの特性をシフトする段数を制限するものである。例えば、図5に示す例では、nmax=6に設定されており、アシストマップの特性をオリジナルアシストマップに対して最大6段階までシフトできるようになっている。
ステップS28において、変数nの値が上限値nmaxに達していない場合(S28:No)は、ステップS29において、変数nの値を1だけインクリメントする。また、変数nの値が上限値nmaxに達している場合(S28:Yes)は、ステップS29の処理をスキップする。主電源100の失陥が検知された後の最初の操舵操作時には、変数nは値0に設定されているため、ステップS29において値1に変更される。こうして、変数nが設定されると、ステップS24において、車速Vxに応じたオリジナルアシストマップに対して操舵トルクがn段階シフトした特性のアシストマップが設定される。この場合、アシストマップの原点から操舵トルクTxをシフトさせた分だけ目標電流ias*がゼロに設定されるトルク領域が広がる。
運転者の操舵操作が検出されて(S26:Yes)フラグF1が「1」に設定されると、次回(次の制御タイミング)からはステップS25の判断が「No」となり、ステップS30の判断処理が繰り返されることとなる。アシスト制御部61は、ステップS30において、操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が基準値Tref1以下にまで低下したか否かを判定する。操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が基準値Tref1以下にまで低下していない間(S30:No)は、そのまま、ステップS24に処理を進める。従って、変数nの値は変更されないため、前回のものと同じ特性のアシストマップが設定されることになる。
こうした処理が繰り返され、操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が基準値Tref1以下にまで低下すると(S30:Yes)、アシスト制御部61は、ステップS31において、フラグF1を「0」にリセットしてステップS24の処理に移行する。この場合もアシストマップの特性は変更されないが、次回からは、操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)の判定(S26)が再開されることになる。
つまり、本実施形態においては、操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が基準値Tref1を超えたときに、運転者の操舵操作が行われたと判定し、その後、操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が基準値Tref1以下にまで低下したときに、1回の操舵操作が終了したものと判定する。従って、こうした処理が繰り返されることにより、運転者の操舵操作が検出されるたびに、変数nの値が1ずつインクリメントされ、それに伴ってアシストマップの特性が1段階ずつシフトされていく。つまり、アシストマップにおける目標電流ias*に対する操舵トルクTxの値が増大側に1段階ずつシフトされていく。これにより、操舵トルクTxに対応する目標電流ias*が、操舵操作のたびに1段階ずつ低減されていく。
尚、1回の操舵操作が完了したことを判定する基準値(ステップS30におけるTref1)は、操舵操作の開始を判定する基準値Tref1と同じ値にする必要はなく、Tref1以下の値であればよい。このステップS30の判定処理は、本発明の操舵操作終了判定手段に相当する。操舵操作終了判定手段は、例えば、操舵トルク検出手段により検出された操舵トルクが予め設定した基準値以下になったときに操舵操作が終了したと判定すればよい。
本実施形態においては、図5に示すように、単位シフト量ΔT0は、変数nにかかわらず毎回同じ量であり、運転者が1回の特性変更により操舵アシスト力の変更を感じることのできる量に設定されている。本実施形態においては、単位シフト量ΔT0を0.3(N・m)以上に設定する。
図6は、操舵トルクTxの推移を表したグラフである。このグラフにおいては、操舵トルクTxの大きさ|Tx|が基準値Tref1を上回る方向にクロスするたびにインクリメントされる変数nの値を、そのクロスポイント上に示している。この例では、変数nの上限値nmaxが6に設定されているが、変数nの上限値nmaxを設けずに、アシストマップの特性をシフトさせる段数を制限しないようにしてもよい。
本実施形態におけるアシストマップ設定処理によれば、主電源100の失陥が検知された場合、運転者の操舵操作を監視し、運転者が所定の操舵操作を行うたびに、アシストマップの特性を、オリジナルの特性に対して操舵トルクTxを増大側に1段階ずつシフトさせる。これにより、操舵操作のたびに、操舵トルクTxに対応して設定される目標電流ias*(モータ制御値)が逐次低減される。このことは、操舵アシスト力を得るために必要となる運転者の操舵ハンドル11に入力する操舵トルクが増大していくことを意味する。このため、運転者がハンドル操作を行うたびに段階的にハンドル操作が重くなる。これにより、運転者は、ハンドル操作したときに毎回アシスト力の低下を適切に感じて異常を認識することができる。従って、運転者は、主電源100の失陥が検知された後の早い段階で修理等の故障対応を行うことができる。また、操舵アシスト力が急激に低下することがないため、大きな違和感を覚えない。
尚、このアシスト制御部61の行うアシストマップ設定ルーチンが本発明の制御値低減手段に相当する。
次に、第1実施形態に係る2つの変形例について説明する。この変形例は、運転者が特に操舵アシストを必要としている状況にあると推定した場合には、上述したアシストマップの特性のシフト量(目標電流ias*の低減量となる)を少なくして、操舵アシスト力の低減を抑制するものである。
図7は、第1実施形態の第1変形例に係るアシストマップ設定ルーチンを表すフローチャートである。この第1変形例のアシストマップ設定ルーチンは、第1実施形態のアシストマップ設定ルーチンにおけるステップS26とステップS27との間に、ステップS41〜ステップS44の処理を追加し、ステップS24の処理内容をステップS45に変更したものである。従って、第1実施形態と共通する処理については、図面に第1実施形態と同一のステップ番号を付して説明を省略する。
アシスト制御部61は、主電源100が失陥した状態で、操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が基準値Tref1を超えたことを検出すると(S26:Yes)、ステップS41において、そのときの操舵速度ωxを算出する。操舵速度ωxは、回転角センサ22の出力信号により得られる操舵角θxを時間微分することにより求めることができる。続いて、ステップS42において、操舵速度ωxの大きさ|ωx|が予め設定した基準操舵速度ωrefを超えているか否かを判断する。
操舵速度ωxの大きさ|ωx|が基準操舵速度ωrefを超えている場合には(S42:Yes)、運転者が速い操舵操作を行った場合である。この場合には、運転者が特に操舵アシストを必要としている状況にあると推定して、ステップS43において、低減係数Kをαに設定する。この低減係数Kは、アシストマップをオリジナルアシストマップに対して単位シフト量ΔT0を減少させるための係数である。また、αは、1未満の数値に予め設定されており、ゼロであってもよい。つまり、αは、0≦α<1の範囲の数値に設定される。一方、操舵速度ωxの大きさ|ωx|が基準操舵速度ωref以下である場合には(S42:No)、運転者があまり操舵アシストを必要としていない状況にあると推定して、低減係数Kを1に設定する。
アシスト制御部61は、このような低減計数Kの設定を行った後、第1実施形態と同様に、変数nの値を設定し(S28〜S29)、ステップS45においてアシストマップを設定する。この場合、オリジナルアシストマップに対する操舵トルクTxのシフト量が、n×ΔT0×Kに設定される。従って、運転者が速い操舵操作を行った場合(K=α)には、そうでない場合(K=1)に比べてシフト量が低減され、目標電流ias*の低減量が少なくなる。この結果、主電源100の失陥時であっても、特に操舵アシストを必要としている状況にある場合には、良好な操舵アシストが得られる。従って、例えば、車両の接触回避等のために緊急な操舵操作が必要となるケースにおいて安全性が向上する。
尚、この第1変形例においては、運転者が速い操舵操作を行った場合(K=α)でも、変数nが大きくなるほど得られる操舵アシスト力が少なくなるが、常に大きな操舵アシスト力を得たい場合には、αの値を0に設定すればよい。また、この第1変形例においては、全体のシフト量(n×ΔT0)に低減係数Kを乗じているが、速い操舵操作が検出されたときの1回のシフト量分だけに低減係数Kを乗じるようにしても良い。
アシスト制御部61の行うステップS41〜S45の処理が、本発明の低減量制限手段に相当する。
次に、第1実施形態の第2変形例について説明する。図8は、第1実施形態の第2変形例に係るアシストマップ設定ルーチンを表すフローチャートである。この第2変形例においては、操舵ハンドル11に強い操舵トルクが入力されたときに、運転者が特に操舵アシストを必要としている状況にあると推定し、操舵アシスト力の低減を抑制する。そのため、第1実施形態で用いた基準値Tref1よりも大きな基準値Tref2(>Tref1)を用い、操舵トルクTxが基準値Tref2を超えた場合に、運転者が特に操舵アシストを必要としている状況にあると推定する。以下、基準値Tref1を第1基準値Tref1と呼び、基準値Tref2を第2基準値Tref2と呼ぶ。
第2変形例は、操舵トルクTxの大きさの判断に基づいて低減係数Kを設定するが、操舵トルクTxが第2基準値Tref2を超えたか否かの判断は、操舵トルクTxが第1基準値Tref1を超えたことの検出より後になる。従って、アシストマップの特性変更のタイミングが第1実施形態とは異なる。以下、第1実施形態、および、その第1変形例と共通する処理については、図面にそれらと同一のステップ番号を付して説明を省略する。
アシスト制御部61は、第1実施形態と同様に、主電源100の失陥が検出されていない間は、変数nの値を0に設定してオリジナルアシストマップを選択する(S22〜S23,S45)。主電源100の失陥が検出された場合には、フラグF1の状態を確認し(S25)、フラグF1=0との判断により(S25:Yes)、操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が第1基準値Tref1を超えているか否かの判断をする。操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が第1基準値Tref1を超えていない間は、そのままオリジナルアシストマップを選択する(S45)。そして、操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が第1基準値Tref1を超えたと判断すると(S26:Yes)、フラグF1を「1」に設定する。
アシスト制御部61は、フラグF1を「1」に設定した後は、ステップS30において、操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が第1基準値Tref1にまで低下したか否かを判断する。操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が第1基準値Tref1にまで低下していない間は(S30:No)、ステップS51において、操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が予め設定した第2基準値Tref2を上回るまで上昇したか否かを判断する。つまり、このステップS51は、操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が第1基準値Tref1よりも更に上昇して2基準値Tref2を超える状態になったか否かを判断することにより、運転者が特に操舵アシストを必要としている状況にあるか否かを推定する処理である。
操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が第2基準値Tref2を上回っていない場合は、そのままステップS45の処理を行って本ルーチンを一旦終了する。本ルーチンは、所定の短い周期で繰り返されるため、それ以降、主電源100が失陥しているかぎり、ステップS30とステップS51との判断が繰り返されることになる。
アシスト制御部61は、こうした判断を繰り返し、操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が第2基準値Tref2を上回った場合には、ステップS52において、フラグF2を「1」に設定する。そして、操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が第1基準値Tref1にまで低下すると(S30:Yes)、その処理をステップS31に進める。一方、操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が第2基準値Tref2を上回ることなく第1基準値Tref1にまで低下した場合には、フラグF2を「1」に設定することなく、その処理をステップS31に進める。このフラグF2は、本ルーチンの起動時においては「0」に設定されており、1回の操舵操作において、その操舵トルクTxが第2基準値Tref2を上回るたび、つまり、運転者が特に操舵アシストを必要としている状況にあると推定されるたびに「1」に設定されるものである。
アシスト制御部61は、ステップS31において、フラグF1を「0」にリセットする。続いて、ステップS53において、フラグF2が「1」に設定されているか否かを判断する。フラグF2=1である場合には、ステップS43において、低減係数Kをα(0≦α<1)に設定し、ステップS54において、フラグF2を「0」にリセットする。一方、フラグF2=0である場合には、ステップS44において、低減係数Kを1に設定する。
アシスト制御部61は、このような低減計数Kの設定を行った後、第1実施形態と同様に、変数nの値を設定し(S28〜S29)、ステップS45においてアシストマップを設定する。この場合、オリジナルアシストマップに対して操舵トルクTxのシフト量が、n×ΔT0×Kに設定される。従って、運転者が強く操舵操作を行った場合(K=α)には、そうでない場合(K=1)に比べてシフト量が低減され、目標電流ias*の低減量が少なくなる。この結果、主電源100の失陥時であっても、特に操舵アシストを必要としている状況にある場合には、良好な操舵アシストが得られる。従って、例えば、車両の接触回避等のために緊急な操舵操作が必要となるケースにおいて安全性が向上する。
尚、この第2変形例においては、運転者が強く操舵操作を行った場合(K=α)でも、変数nが大きくなるほど得られる操舵アシスト力が少なくなるが、常に大きな操舵アシスト力を得たい場合には、αの値を0に設定すればよい。また、この第2変形例においては、全体のシフト量(n×ΔT0)に低減係数Kを乗じているが、速い操舵操作が検出されたときの1回のシフト量分だけに低減係数Kを乗じるようにしても良い。
アシスト制御部61の行うステップS51〜53,S43〜S45の処理が、本発明の低減量制限手段に相当する。
次に、第2実施形態について説明する。上述した第1実施形態およびその変形例においては、操舵アシストを行うための制御値を低減させるために、アシストマップの特性を操舵トルクTxが増大する側にシフトさせる構成であったが、この第2実施形態においては、アシストマップにおける目標電流ias*の上限値を段階的に低減する構成を備えている。
図9は、第2実施形態に係るアシストマップ設定ルーチンを表すフローチャートである。この第2実施形態のアシストマップ設定ルーチンは、第1実施形態のアシストマップ設定ルーチンにおけるステップS24の処理をステップS61に変更したものである。従って、第1実施形態と共通する処理については、図面に第1実施形態と同一のステップ番号を付して説明を省略する。
アシスト制御部61は、主電源100の失陥が検出された場合(S22:Yes)、操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が基準値Tref1を超えたか否かを判断し(S26)、操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が基準値Tref1を超えるたびに(S26:Yes)、変数nを値1ずつインクリメントする(S28〜S29)。そして、変数nが設定されると、ステップS61において、その変数nに応じたアシストマップを設定する。
上述したアシストマップは、操舵トルク|Tx|の増大に対して目標電流ias*が増大しない領域、つまり、目標電流ias*の上限値imax(本発明の上限電流値に相当する)が設定されている。この第2実施形態におけるステップS61では、図10に示すように、オリジナルアシストマップの上限値imax0に対して、変数nに単位低減量Δi0を乗じた値(n×Δi0)だけ低減した上限値imaxを設定する(imax=imax0−n×Δi0)。尚、この例では、上限値imaxの単位低減量Δi0を一定値に設定しているが、必ずしも一定値にする必要はなく変数nに応じて増減させるようにしても良い。
従って、主電源100の失陥時においては、運転者が操舵操作判定条件を満たす操舵操作を行うたびに、目標電流ias*の上限値imaxが1段階ずつ低減される。このため、高トルク領域において操舵トルクTxに対応して設定される目標電流ias*が1段階ずつ低減される。また、目標電流ias*が上限値imaxにより制限される操舵トルクTxの領域(高トルク領域)も低トルク側に広がっていく。これにより、目標電流ias*が上限値imaxにより制限される頻度が増大し、運転者に対してアシスト力が徐々に減少していることを認識させることができる。この結果、運転者は、主電源100の失陥が検知された後の早い段階で修理等の故障対応を行うことができる。また、アシスト力が急激に低下することがないため、大きな違和感を覚えない。
尚、この第2実施形態においても、第1実施形態の変形例1,2と同様に、運転者が特に操舵アシストを必要としている状況にあると推定した場合に、目標電流ias*の上限値imaxの低減量を減らすようにしてもよい。例えば、図7(変形例1)あるいは図8(変形例2)に示すアシストマップ設定ルーチンにおいて、ステップS45の処理に代えて、目標電流ias*の上限値imaxを、オリジナルアシストマップの上限値imax0に対して(n×Δi0×K)だけ低減するように設定する。これによれば、主電源100の失陥時であっても、特に操舵アシストを必要としている状況にある場合には、上限電流制限が弱まり、良好な操舵アシストが得られる。従って、例えば、車両の接触回避等のために緊急な操舵操作が必要となるケースにおいて安全性が向上する。
次に、第3実施形態について説明する。上述した第1実施形態およびその変形例においては、操舵アシストを行うためのモータ制御値を低減させるために、アシストマップの特性を操舵トルクTxの増大する側にシフトさせる構成であったが、この第3実施形態においては、電動モータ20の消費電力を制限する上限電力Pmaxを段階的に低減する構成を備えている。
電動モータ20の出力は、操舵アシストトルクと操舵速度との積に比例する。また、電動モータ20の出力は、その消費電力を制限することにより制限される。このため、電動モータ20の消費電力を制限していくと、操舵速度が速くなるほど、それに反比例して操舵アシストトルクが低下する。これにより、運転者が速い速度で操舵ハンドル11を回したときの粘り感が増大する。このことを利用して、第3実施形態では、主電源100の失陥時に、電動モータ20の上限電力Pmaxを操舵操作のたびに低減して粘り感を増大させ、運転者に異常を認識させるものである。
図11は、第3実施形態における、上限電力設定ルーチンを表すフローチャートである。この上限電力設定ルーチンは、後述する操舵アシスト制御ルーチン(図13)にステップS102として組み込まれるものである。まず、上限電力設定ルーチンから説明する。この上限電力設定ルーチンは、第1実施形態のアシストマップ設定ルーチンにおけるステップS24の処理をステップS62に変更したものである。従って、第1実施形態と共通する処理については、図面に第1実施形態と同一のステップ番号を付して説明を省略する。
アシスト制御部61は、主電源100の失陥が検出された場合(S22:Yes)、操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が基準値Tref1を超えたか否かを判断し(S26)、操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が基準値Tref1を超えるたびに(S26:Yes)、変数nを値1ずつインクリメントする(S28〜S29)。そして、変数nが設定されると、ステップS62において、その変数nに応じた電動モータ20の上限電力Pmaxを設定する。電動モータ20の上限電力Pmaxとは、電動モータ20の消費電力の上限値を表す。
ステップS62においては、主電源100の失陥が検出されていないときに設定されている上限電力Pmax0(以下、オリジナル上限電力Pmax0と呼ぶ)に対して、変数nに単位低減量ΔP0を乗じた値(n×ΔP0)だけ低減した上限電力Pmaxを設定する(Pmax=Pmax0−n×ΔP0)。従って、主電源100の失陥時には、図12に示すように、変数nが増加するたびに、上限電力Pmaxが単位低減量ΔP0だけ低減されていく。尚、この例では、上限値Pmaxの単位低減量ΔP0を一定値に設定しているが、必ずしも一定値にする必要はなく変数nに応じて増減させるようにしても良い。
この上限電力設定ルーチンは、図13に示す操舵アシスト制御ルーチンのステップS102として組み込まれている。以下、第3実施形態に係る操舵アシスト制御ルーチンについて説明する。操舵アシスト制御ルーチンは、電子制御装置60のROM内に制御プログラムとして記憶されており、イグニッションスイッチ106の投入(オン)により起動し、所定の短い周期で繰り返し実行される。
本制御ルーチンが起動すると、アシスト制御部61は、まず、ステップS101において、車速センサ23によって検出された車速Vxと、操舵トルクセンサ21によって検出した操舵トルクTxとを読み込む。続いてステップS102において、上述した上限電力設定処理を行う。
次に、アシスト制御部61は、ステップS103において、アシストマップに基づいて車速Vxと操舵トルクTxとに対応した電動モータ20の目標電流ias*を計算する。この場合、アシストマップは、図3に示すオリジナルアシストマップを使用する。尚、操舵角θxや操舵速度ωx等に基づく補償トルクを加味するために、アシストマップから得られた目標電流ias*をその分だけ補正するようにしてもよい。
次に、アシスト制御部61は、ステップS104において、電動モータ20に流れるモータ電流iuvwをモータ電流センサ38から読み込む。続いて、ステップS105において、このモータ電流iuvwと先に計算した目標電流ias*との偏差Δiを計算し、この偏差Δiに基づくPI制御(比例積分制御)により中間指令電圧v*’を計算する。
続いて、アシスト制御部61は、ステップS106において、電動モータ20で消費されている電力(実電力Pxと呼ぶ)を計算する。この場合、第2電圧センサ52により検出される出力電源電圧v2と、出力電流センサ54により検出される出力電流i2とを読み込み、出力電源電圧v2と出力電流i2との積(v2×i2)から実電力Pxを計算する。
続いて、アシスト制御部61は、その処理をステップS107に進め、実電力Pxが上限電力Pmaxを上回っているか否かを判断する。この上限電力Pmaxは、ステップS102で設定された値が用いられる。そして、実電力Pxが上限電力Pmaxを上回っていない場合(S107:No)には、ステップS108において、先にステップS105で計算した中間指令電圧v*’を指令電圧v*として設定する。一方、実電力Pxが上限電力Pmaxを上回っている場合(S107:Yes)には、ステップS109において、実電力Pxと上限電力Pmaxとの偏差ΔPを計算し、この偏差ΔPに基づくPI制御(比例積分制御)により指令電圧v*を計算する。つまり、偏差ΔPがゼロになるように指令電圧v*をフィードバック制御する。この場合、指令電圧v*が中間指令電圧v*’よりも低下し、実電力Pxが上限電力Pmaxを超えないように制限される。
こうして指令電圧v*が計算されると、次に、ステップS110において、指令電圧v*に応じたPWM制御信号をモータ駆動回路30に出力して本制御ルーチンを一旦終了する。本制御ルーチンは、所定の短い周期で繰り返し実行される。従って、本制御ルーチンの実行により、モータ駆動回路30のスイッチング素子31〜36のデューティ比が制御されて、運転者の操舵操作に応じた操舵アシスト力が得られる。また、電動モータ20の消費電力が上限電力Pmaxを超えないようにフィードバック制御される。
この第3実施形態によれば、主電源100の失陥時においては、運転者が操舵操作判定条件を満たす操舵操作を行うたびに、電動モータ20の消費電力の上限値Pmaxが単位低減量ΔPだけ低減され、これにあわせて操舵ハンドル11を回したときの粘り感が徐々に増大する。この結果、運転者に異常を認識させることができる。また、操舵アシスト力が急激に低下することがないため、運転者に大きな違和感を与えない。この第3実施形態においても、操舵操作判定条件を満たす操舵操作が行われるたびに、アシストマップにて設定される操舵トルクTxに対応した目標電流ias*が低減されることとなる。
尚、この第3実施形態においても、第1実施形態の変形例1,2と同様に、運転者が特に操舵アシストを必要としている状況にあると推定した場合に、電動モータ20の消費電力の上限値Pmaxの低減量を減らすようにしてもよい。例えば、図7(変形例1)あるいは図8(変形例2)に示すアシストマップ設定ルーチンにおいて、ステップS45の処理に代えて、電動モータ20の消費電力の上限値Pmaxを、オリジナル上限電力Pmax0に対して(n×ΔP0×K)だけ低減するように設定する。これによれば、主電源100の失陥時であっても、特に操舵アシストを必要としている状況にある場合には、電動モータ20の出力制限が弱まり、良好な操舵アシストが得られる。従って、例えば、車両の接触回避等のために緊急な操舵操作が必要となるケースにおいて安全性が向上する。
次に、第4実施形態について説明する。上述した第1〜第3実施形態においては、運転者が操舵操作判定条件を満たす1回の操舵操作を行うたびに、段階的にモータ制御値を低減する構成であったが、この第4実施形態においては、運転者が操舵操作判定条件を満たす操舵操作を行っているあいだ中、アシストマップの特性を連続的に変更する構成を備えている。
図14は、第4実施形態に係るアシストマップ設定ルーチンを表すフローチャートである。このアシストマップ設定ルーチンは、第1実施形態と同様に、図2の操舵アシスト制御ルーチンにおけるステップS12の処理を表すものである。以下、この第4実施形態のアシストマップ設定ルーチンにおいて、第1実施形態のアシストマップ設定ルーチンと共通する処理については、図面に第1実施形態と同一のステップ番号を付して簡単な説明にとどめる。
本アシストマップ設定ルーチンが起動すると、アシスト制御部61は、主電源電圧v1を読み込み(S21)、主電源電圧v1が主電源失陥判定電圧vref1以下であるか否かを判定する(S22)。主電源電圧v1が主電源失陥判定電圧vref1を超えていれば(S22:No)、ステップS71において、アシストマップの特性を図3のオリジナルアシストマップに対して、操舵トルクTxを増大方向にシフトさせるシフト量Tshを値0(ゼロ)に設定する。
アシスト制御部61は、ステップS71においてシフト量Tshを値0に設定すると、次に、ステップS72において、車速Vxに対応したオリジナルアシストマップからシフト量Tshだけ操舵トルクTxを増大側にシフトしたアシストマップを設定し、本ルーチンを一旦終了する。この場合、シフト量Tsh=0であるため、オリジナルアシストマップが選択されることになる。つまり、主電源100が正常の場合には、オリジナルアシストマップが選択される。
本アシストマップ設定ルーチンは、操舵アシスト制御ルーチン内に組み込まれており、所定の短い周期で繰り返される。アシスト制御部61は、アシストマップ設定ルーチンを一旦終了するときに、シフト量Tshの値をメモリ内に記憶する。
一方、主電源電圧v1が主電源失陥判定電圧vref1以下である場合(S22:Yes)、つまり主電源100が失陥している場合には、ステップS26において、操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が基準値Tref1を超えているか否かを判定する。操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が基準値Tref1を超えていない場合は、そのままステップS72の処理に移行する。ステップS72においては、直前回の本ルーチン終了時に記憶されたシフト量Tshを使ってアシストマップの設定が行われる。従って、主電源100が失陥した直後で、運転者が操舵操作判定条件を満たす操舵操作を行っていない状況においては、シフト量Tsh=0であるためオリジナルアシストマップが選択される。
主電源100が失陥している間は、操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が基準値Tref1を超えているか否かの判定が所定周期で繰り返される。そして、操舵トルクTxの大きさ(|Tx|)が基準値Tref1を超えた場合には(S26:Yes)、ステップS73において、シフト量Tshが最大シフト量Tshmax未満であるか否かを判断し、シフト量Tshが最大シフト量Tshmax未満であれば(S73:Yes)、ステップS74において、シフト量Tshを単位シフト量ΔTshだけ増加する。シフト量Tshが最大シフト量Tshmax以上であれば(S73:No)、シフト量Tshを増加しない。この単位シフト量ΔTshは、本アシストマップ設定ルーチンが非常に短い周期で繰り返されることから、微細な量に設定されている。
そして、ステップS72において、車速Vxに対応したオリジナルアシストマップからシフト量Tshだけ操舵トルクTxを増大側にシフトしたアシストマップを設定し、本ルーチンを一旦終了する。
従って、このアシストマップ設定ルーチンが繰り返されることで、主電源100が失陥している期間においては、運転者が基準値Tref1を超える操舵トルクを操舵ハンドル11に入力しているあいだ中、アシストマップの特性が連続的に変更され、目標電流ias*に対する操舵トルクTxが漸増する。また、運転者が基準値Tref1を超える操舵トルクを操舵ハンドルに入力していないあいだは、アシストマップの特性は変更されない。尚、本第4実施形態のアシストマップ設定ルーチンにおけるステップS26の判定処理は、本発明の異常時操舵操作判定手段および操舵操作終了判定手段に相当する。
図15は、主電源100の失陥時における操舵トルクTxの推移と、それに応じて増大するシフト量Tshの推移とを表したグラフである。また、図16は、そのシフト量Tshに応じて特性が変更されたアシストマップを表す。図15中において、tn(n=1〜6)は、運転者が操舵操作判定条件を満たす操舵操作を行っている期間を表し、nは主電源100が失陥してからの操舵操作回数を表す。また、図16中においては、1回の操舵操作が終了したときのアシストマップを重ねて表している。
このように、主電源100が失陥している期間においては、運転者が操舵操作判定条件を満たす操舵操作を行っているあいだ中、アシストマップの特性が変更されて、操舵トルクTxに対して算出される目標電流ias*が減少していく。このため、運転者は、ハンドル操作を行うたびに、そのハンドル操作中において操舵アシスト力が低減されていくことを確実に感じて異常を認識することができる。従って、運転者は、主電源100の失陥が検知された後の早い段階で修理等の故障対応を行うことができる。また、操舵アシスト力が急激に低下することがないため、大きな違和感を覚えない。
以上、本発明の実施形態としての電動パワーステアリング装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、第2実施形態においては、目標電流ias*の上限値を段階的に低減する構成を備えているが、運転者が操舵操作判定条件を満たす操舵操作を行っているあいだ中、目標電流ias*の上限値を連続的に低減する構成であってもよい。ここで、第2実施形態の変形例について、図17に示すフローチャートを使って説明する。この第2実施形態の変形例のアシストマップ設定ルーチンは、第4実施形態のアシストマップ設定ルーチンにおけるステップS71〜S74を、ステップS81〜S84に代えたもので、他の処理については第4実施形態と同一である。従って、第4実施形態と共通する処理については、図面に第4実施形態と同一のステップ番号を付して説明を省略する。
この変形例においては、主電源100が失陥していない場合には、ステップS81において、オリジナルアシストマップに対して目標電流ias*の上限値imax0を低減させる低減量ishを値0に設定する。一方、主電源100が失陥している場合には、運転者が操舵操作判定条件を満たす操舵操作を行っている場合には(S26:Yes)、ステップS83において、低減量ishが最大低減量ishmax未満であるか否かを判断し、低減量ishが最大低減量ishmax未満であれば(S83:Yes)、ステップS84において、低減量ishを単位低減量Δish(微少量)だけ増加させる。低減量ishが最大低減量ishmax以上であれば(S83:No)、低減量ishを増加させない。そして、ステップS82において、車速Vxに対応したオリジナルアシストマップから目標電流ias*の上限値imax0を低減量ishだけ減少させたアシストマップを設定する。
従って、この変形例においては、主電源100が失陥している期間においては、運転者が操舵操作判定条件を満たす操舵操作を行っているあいだ中、目標電流ias*の上限値imaxが漸減する。この結果、運転者に対して操舵アシスト力が徐々に減少していることを認識させることができ、第2実施形態と同様な効果を得ることができる。
同様に、第3実施形態においても、運転者が操舵操作判定条件を満たす操舵操作を行っているあいだ中、電動モータ20の上限電力Pmaxを連続的に低減する構成を採用することができる。ここで、第2実施形態の変形例について、図18に示すフローチャートを使って説明する。この第3実施形態の変形例の上限電力設定ルーチンは、第4実施形態のアシストマップ設定ルーチンにおけるステップS71〜S74を、ステップS91〜S94に代えたもので、他の処理については第4実施形態と同一である。従って、第4実施形態と共通する処理については、図面に第4実施形態と同一のステップ番号を付して説明を省略する。
この変形例においては、主電源100が失陥していない場合には、ステップS91において、オリジナル上限電力Pmax0に対して低減する低減量Pshを値0に設定する。一方、主電源100が失陥している場合には、運転者が操舵操作判定条件を満たす操舵操作を行っている場合には(S26:Yes)、ステップS93において、低減量Pshが最大低減量Pshmax未満であるか否かを判断し、低減量Pshが最大低減量Pshmax未満であれば(S93:Yes)、ステップS94において、低減量Pshを単位低減量ΔPsh(微少量)だけ増加させる。低減量Pshが最大低減量Pshmax以上であれば(S93:No)、低減量Pshを増加させない。そして、ステップS92において、電動モータ20の上限電力Pmaxを、オリジナル上限電力Pmax0から低減量Pshだけ低減した上限値Pmaxに設定する。
従って、この変形例においては、主電源100が失陥している期間においては、運転者が操舵操作判定条件を満たす操舵操作を行っているあいだ中、電動モータ20の上限電力Pmaxが漸減する。この結果、操舵ハンドル11を回したときの粘り感が徐々に増大していき、運転者に対して異常を認識させることができ、第3実施形態と同様な効果を得ることができる。
また、第1実施形態、第4実施形態においては、アシストマップの特性の変更を操舵トルクTxを増大側にシフトすることにより行っているが、例えば、オリジナルアシストマップの目標電流iasに低減係数A(0≦A<1)を乗じて、操舵アシスト力の発生を低減するようにしてもよい。
また、本実施形態は、電源装置として主電源100と副電源50とを備えているが、副電源50を備えない構成であってもよい。この場合、主電源100の異常、例えば、電源電圧の低下等を検出して、上述した操舵アシスト制御を行うようにすればよい。
また、本実施形態においては、操舵トルクTxと目標電流ias*との関係を設定したアシストマップをアシスト特性として記憶しているが、操舵トルクTxから目標電流ias*を導く関数などをアシスト特性として記憶するようにしてもよい。
また、例えば、第4実施形態においては、単位シフト量ΔTshが一定値に設定されているが、操舵速度ωxに基づいて、単位シフト量ΔTshを可変にしてもよい。つまり、操舵速度ωxの大きさ|ωx|が基準操舵速度ωrefを上回る場合には、運転者が特に操舵アシストを必要としている状況にあると判断して、単位シフト量ΔTshに低減係数K(0≦K<1)を乗じるようにして、アシストマップの特性変更量を低減するようにしてもよい。また、単位シフト量ΔTshに代えて、目標電流ias*の上限値imaxの単位低減量Δishに適用することもできる。また、単位シフト量ΔTshに代えて、上限電力Pmaxの単位低減量ΔPshに適用することもできる。
同様に、第4実施形態において、操舵トルクTxに基づいて、単位シフト量ΔTshを可変にしてもよい。つまり、操舵トルクTxの大きさ|Tx|が第2基準値Tref2を上回る場合には、運転者が特に操舵アシストを必要としている状況にあると判断して、|Tx|が第2基準値Tref2を上回った時点から単位シフト量ΔTshに低減係数K(0≦K<1)を乗じるようにして、アシストマップの特性変更量を低減するようにしてもよい。また、単位シフト量ΔTshに代えて、目標電流ias*の上限値imaxの単位低減量Δishに適用することもできる。また、単位シフト量ΔTshに代えて、上限電力Pmaxの単位低減量ΔPshに適用することもできる。
10…ステアリング機構、11…操舵ハンドル、12…ステアリングシャフト、20…電動モータ、21…操舵トルクセンサ、22…回転角センサ、23…車速センサ、30…モータ駆動回路、38…モータ電流センサ、40…昇圧回路、50…副電源、51…第1電圧センサ、52…第2電圧センサ、53…充放電電流センサ、54…出力電流センサ、60…電子制御装置、61…アシスト制御部、62…電源制御部、100…主電源、101…主バッテリ、102…オルタネータ。