JP2009263749A - 酸素富化雰囲気切削加工用の機械構造用鋼 - Google Patents

酸素富化雰囲気切削加工用の機械構造用鋼 Download PDF

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Abstract

【課題】酸素富化雰囲気での連続切削および断続切削における被削性に優れた機械構造用鋼を提供する。
【解決手段】C:0.05〜1.2質量%、Si:0.03〜2.0質量%、Mn:0.2〜1.8質量%、Cr:0.1〜3.0質量%、Al:0.06〜0.5質量%、N:0.002〜0.02質量%、O:0.003質量%以下を含有し、さらに、Ca:0.0005〜0.01質量%、Mg:0.0001〜0.005質量%のうち1種以上を含有し、PおよびSを各0.03質量%以下に規制し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、前記Cr,Al,Oの各含有量(質量%)を、[Cr]、[Al]、[O]として表したとき、(0.1×[Cr]+[Al])/[O]≧150を満足することを特徴とする機械構造用鋼であり、酸素濃度が21〜40%の雰囲気で切削加工される。
【選択図】なし

Description

本発明は、機械構造用鋼材に関するものであり、特に、断続切削加工と連続切削加工の両方が施される冷間加工用鋼に関する。
自動車用変速機や差動装置等の各種歯車伝達装置に利用される歯車、シャフト、プーリ、等速ジョイント、クランクシャフト、コンロッド等の機械構造用部品は、一般に、鋼材に鍛造等の加工を施した後、切削加工を施すことによって最終形状に仕上げられる。そして、最終形状に仕上げられた機械構造用部品は、浸炭や浸炭窒化処理(大気圧、低圧、真空、プラズマ雰囲気を含む)等の表面硬化処理を施され、さらに、必要に応じて焼入れ−焼戻しや高周波焼入れ等が施されて所定の強度が確保される。このような機械構造用部品の製造において、切削加工に要するコストは占める割合が大きいことから、機械構造部品を構成する鋼材(機械構造用鋼)は被削性が良好であることが要求される。
機械構造用部品の一つである歯車の切削加工では、部品数削減の観点から、機械構造用鋼に、断続切削であるホブ加工による歯切りと、連続切削による軸加工とが施されることが多い。工具が被削材に連続的に接触している切削様式を連続切削、工具が被削材に連続的には接触していない切削様式を断続切削という。いずれの切削加工においても被削性が劣ると、切削工具は摩耗が促進されてその寿命が短くなって、コスト増となる。したがって、機械構造用鋼の切削加工では、断続切削と連続切削のいずれの切削においても良好な被削性が求められる。特に、ホブ加工に用いられる工具は高価であるため、ホブ加工等の断続切削に供される機械構造用鋼には、被削性、特に工具寿命を向上させることが求められている。
被削性の劣化要因の一つとして、例えば、被削材中の硬質の介在物によるアブレシブ摩耗があり、特に連続切削において顕著である。アブレシブ摩耗の対策としては、被削材に含まれる硬質の介在物の低減が挙げられる。一方、断続切削においては、前記の通り、工具の空転時すなわち工具に被削材が接触していない瞬間があり、このとき工具に付着した鋼材の新生面が空気に曝され、さらに切削で発熱しているので急速に酸化する。その結果、断続切削に用いられる工具は酸化摩耗し易い。このように、断続切削と連続切削とでは、切削機構の違いにより被削性の低下の要因が異なるため、それぞれの切削様式に対応した被削性向上対策が求められる。
そこで、例えば、特許文献1は、Al,Nの各含有量と両者の比を制御することでAlNを析出させ、AlNの潤滑効果により断続切削と連続切削の両方における被削性を向上させた鋼材を開示している。一方、特許文献2は、切削における加工雰囲気の酸素濃度を大気の酸素濃度を超える濃度(酸素富化雰囲気)に制御することにより、被削材の新生面を積極的に酸化させて保護膜としての酸化膜を形成させ、工具への凝着を抑制することにより工具摩耗を低減する切削方法を開示している。
特許第3922691号公報(段落0018〜0023) 特開2005−66786号公報(段落0019)
しかしながら、特許文献1に開示された鋼材の被削性が有効に作用するのは、工具がコーティングされたものである場合であり、長時間の切削によりコーティングが剥がれた後の切削や、ノンコートの工具による切削においては、硬質なAlNによるアブレシブ摩耗や凝着の促進、さらに硬質なAl酸化物(アルミナ)によるアブレシブ摩耗により、工具摩耗が生じることになる。一方、特許文献2に開示された切削方法は、非活性な酸化膜を安定して形成する被削材を対象とするもので、鋼材の成分によっては、逆に酸化摩耗が促進される。
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、靭性等の機械的特性を劣化させることなく、断続切削と連続切削の両方における被削性を両立させるため、断続切削における酸化摩耗を抑制しつつ、酸素富化雰囲気の連続切削において工具の保護膜を形成する機械構造用鋼を提供することを目的とする。
本発明者らは、Feより酸化傾向の大きい、すなわちFeと比較してO(酸素)が結合し易いAlを機械構造用鋼に添加して固溶させることにより、断続切削における機械構造用鋼の新生面の急速な酸化を防止して、工具の酸化摩耗を抑制することにした。そして、連続切削においては、酸素富化雰囲気にすることによる雰囲気温度の上昇で、工具の表面にAl,N,Ca,Sを主とする保護膜を形成させることを促進できた。一方、Alの添加により形成されるアルミナが硬質介在物としてアブレシブ摩耗を生じさせることを防止するため、O含有量をAl含有量に対応させて規制することによりアルミナの粗大化を防止し、Ca,Mgを機械構造用鋼に添加することによりアルミナを軟質化させて、工具の摩耗を抑制できることを見出した。
すなわち、請求項1に係る酸素富化雰囲気切削加工用の機械構造用鋼は、酸素濃度が21〜40%の雰囲気で切削加工される酸素富化雰囲気切削加工用の機械構造用鋼であって、C:0.05〜1.2質量%、Si:0.03〜2.0質量%、Mn:0.2〜1.8質量%、Cr:0.1〜3.0質量%、Al:0.06〜0.5質量%、N:0.002〜0.02質量%、O:0.003質量%以下を含有し、さらに、Ca:0.0005〜0.01質量%、Mg:0.0001〜0.005質量%のうち1種以上を含有し、PおよびSを各0.03質量%以下に規制し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、前記Cr,Al,Oの各含有量(質量%)を、[Cr]、[Al]、[O]として表したとき、(0.1×[Cr]+[Al])/[O]≧150を満足することを特徴とする。
このように、Feより酸化傾向の大きいAlを添加することにより、断続切削において、機械構造用鋼の新生面が急速に酸化することを防止できる。そして、連続切削においては、酸素富化雰囲気として、それによる雰囲気温度の上昇で、工具の表面に保護膜を積極的に形成して工具摩耗を抑制できる。さらに、Ca,Mgの少なくとも1種を添加することで、Al酸化物が硬質介在物としてアブレシブ摩耗を生じさせることを防止できる。また、Cr,Alに対するO(酸素)の含有量を一定以下に制限することで、粗大な酸化物系介在物の生成を抑制することができる。
また、請求項2に係る酸素富化雰囲気切削加工用の機械構造用鋼は、請求項1に記載の酸素富化雰囲気切削加工用の機械構造用鋼が、さらに、Mo:1.0質量%以下を含有することを特徴とする。Moを添加することにより、機械構造用鋼の焼入れ性を向上させて、焼入れ後の硬さを向上させることができる。
請求項3に係る酸素富化雰囲気切削加工用の機械構造用鋼は、請求項1または請求項2に記載の酸素富化雰囲気切削加工用の機械構造用鋼が、さらに、Ti:0.2質量%以下、Nb:0.2質量%以下、およびV:0.5質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする。また、請求項4に係る酸素富化雰囲気切削加工用の機械構造用鋼は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の酸素富化雰囲気切削加工用の機械構造用鋼が、さらに、B:0.005質量%以下を含有することを特徴とする。
これらの元素を添加することにより、機械構造用鋼の浸炭処理における異常粒成長の発生をより効果的に防止することができる。
また、請求項5に係る酸素富化雰囲気切削加工用の機械構造用鋼は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の酸素富化雰囲気切削加工用の機械構造用鋼が、さらに、Cu:5.0質量%以下、およびNi:5.0質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする。
これらの元素を添加することにより、機械構造用鋼の焼入れ性をいっそう向上させて、焼入れ後の硬さをさらに向上させることができる。
本発明に係る酸素富化雰囲気切削加工用の機械構造用鋼は、靭性等の機械的特性を十分有し、さらに、断続切削と連続切削の両方における被削性を向上させたものであり、特に、酸素富化雰囲気での切削における被削性を向上させたものである。これにより、断続切削と連続切削のいずれの切削様式においても、工具の摩耗を抑制して工具寿命を延ばすことができる。
以下、本発明に係る酸素富化雰囲気切削加工用の機械構造用鋼(以下、機械構造用鋼という)を実施するための最良の形態について説明する。
本発明に係る機械構造用鋼は、C:0.05〜1.2質量%、Si:0.03〜2.0質量%、Mn:0.2〜1.8質量%、Cr:0.1〜3.0質量%、Al:0.06〜0.5質量%、N:0.002〜0.02質量%、O:0.003質量%以下を含有し、さらに、Ca:0.0005〜0.01質量%、Mg:0.0001〜0.005質量%のうち1種以上を含有し、PおよびSを各0.03質量%以下に規制し、残部がFeおよび不可避的不純物で構成されるものである。
そして、本発明に係る機械構造用鋼は、前記各成分のうち、酸化物系介在物を形成し易いCr,Alの各含有量の、O含有量に対する比を所定値以上に限定するものである。すなわち、Cr,Al,Oの含有量(質量%)それぞれを、[Cr]、[Al]、[O]で表したとき、下式を満足するように、これらの成分の含有量が調整されるものである。
(0.1×[Cr]+[Al])/[O]≧150
以下に、本発明に係る機械構造用鋼を構成する各成分の含有量の数値範囲およびその数値範囲の限定理由について説明する。
(C:0.05〜1.2質量%)
Cは、機械構造用鋼の強度を向上させる効果を有し、機械構造用部品に必要な芯部の硬さを確保するために有効な元素である。機械構造用鋼の硬さを十分なものとするため、C含有量は0.05質量%以上とされ、0.10質量%以上が好ましく、0.15質量%以上がさらに好ましい。一方、Cが過剰に添加されると、硬さが過剰となって被削性や靭性が低下する。したがって、C含有量は1.2質量%以下とされ、1.0質量%以下が好ましく、0.8質量%以下がさらに好ましい。
(Si:0.03〜2.0質量%)
Siは、脱酸効果を有し、機械構造用鋼の酸化物系介在物を低減させて内部品質を向上させる。この効果を十分なものとするため、Si含有量は0.03質量%以上とされ、0.04質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がさらに好ましい。また、FeよりもSiにOが結合し易いため、Siは断続切削時の工具の酸化摩耗を抑制する効果を有する。一方、Siが過剰に添加されると、浸炭時に異常組織が生成したり、熱処理(焼入れ)後の残留オーステナイト(残留γ相)の量が増大して浸炭相に十分な硬さが得られない。したがって、Si含有量は2.0質量%以下とされ、1.8質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がさらに好ましい。
(Mn:0.2〜1.8質量%)
Mnは、焼入れ性を向上させる効果を有し、焼入れ後の機械構造用鋼の硬さを向上させる。この効果を十分なものとするため、Mn含有量は0.2質量%以上とされ、0.4質量%以上が好ましく、0.6質量%以上がさらに好ましい。また、FeよりもMnにOが結合し易いため、Mnは断続切削時の工具の酸化摩耗を抑制する効果を有する。一方、Mnが過剰に添加されると、焼入れ性が過剰となって、焼ならし後でも過冷組織が生成して被削性を低下させる。したがって、Mn含有量は1.8質量%以下とされ、1.6質量%以下が好ましく、1.4質量%以下がさらに好ましい。
(Cr:0.1〜3.0質量%)
Crは、焼入れ性を向上させる効果を有し、焼入れ後の機械構造用鋼の硬さを向上させる。この効果を十分なものとするため、Cr含有量は0.1質量%以上とされ、0.3質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましい。また、FeよりもCrにOが結合し易いため、Crは断続切削時の工具の酸化摩耗を抑制する効果を有する。一方、Crが過剰に添加されると、焼入れ性が過剰となって過冷組織が発達するとともに、粒界に粗大な炭化物が生成して被削性が劣化し、また、焼入れ後の硬さが過剰となって靭性が低下する。したがって、Cr含有量は3.0質量%以下とされ、2.5質量%以下が好ましく、2.0質量%以下がさらに好ましい。
(Al:0.06〜0.5質量%)
Alは、強い脱酸効果を有し、機械構造用鋼の内部品質を向上させる。また、AlはNと結合してAlNを形成し、このAlNが浸炭処理において結晶粒の異常成長を抑制する効果を有する。また、FeよりもAlにOが結合し易いため、Alは断続切削時の工具の酸化摩耗を抑制する効果を有する。そして、連続切削においては、酸素富化雰囲気とすることで、Alを含む保護膜を工具の表面に形成して工具摩耗を抑制できる。これらの効果を十分なものとするため、Al含有量は0.06質量%以上とされ、0.08質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がさらに好ましい。一方、Alが過剰に添加されると、アルミナ(Al)が過剰に形成されて硬質介在物となる割合が増加して被削性が低下したり、浸炭における熱処理(焼入れ)後の残留オーステナイト(残留γ相)の量が増大して浸炭相に十分な硬さが得られない。したがって、Al含有量は0.5質量%以下とされ、0.45質量%以下が好ましく、0.4質量%以下がさらに好ましい。
(N:0.002〜0.02質量%)
N(窒素)は鋼の溶融工程で不可避的に混入する元素である。Nは、断続切削における機械構造用鋼の新生面の酸化反応を抑制する効果を有し、断続切削における工具の寿命を延ばす。また、NはAlに結合してAlNを形成し、このAlNが浸炭処理において結晶粒の異常成長を抑制する効果を有する。これらの効果を十分なものとするため、N含有量は0.002質量%以上とされ、0.003質量%以上が好ましく、0.004質量%以上がさらに好ましい。一方、Nが過剰に添加されると、時効硬化によって延性および靭性が低下する。したがって、N含有量は0.02質量%以下とされ、0.015質量%以下が好ましい。
(Ca:0.0005〜0.01質量%、Mg:0.0001〜0.005質量%のうち1種以上)
Ca,Mgは、それぞれがアルミナ等の硬質介在物を軟質化させる作用があるので、硬質介在物による工具摩耗を抑制する。また、Ca,Mgは、それぞれがMnS介在物を球状化する作用があるので、このMnS介在物による靭性の劣化を抑制する。これらの効果を十分なものとするため、Ca含有量は0.0005質量%以上とされ、0.0007質量%以上が好ましく、0.001質量%以上がさらに好ましい。同様に、Mg含有量は0.0001質量%以上とされ、0.0002質量%以上が好ましい。Ca,Mgは、いずれか1種のみ前記それぞれの量を含有していれば前記工具摩耗を抑制する効果を得られ、また、2種共に含有していてもよい。さらに、Ca,Mgは、どちらもOと結合し易いため、断続切削時の酸化摩耗を抑制する効果を有する。一方、Ca,Mgは、どちらも過剰に添加されると、CaO,MgO等の介在物が増大して、これらの介在物により延性および靭性が低下する。したがって、Ca含有量は0.01質量%以下とされ、0.009質量%以下が好ましく、0.008質量%以下がさらに好ましい。同様に、Mg含有量は0.005質量%以下とされ、0.004質量%以下が好ましく、0.003質量%以下がさらに好ましい。
(P:0.03質量%以下)
Pは鋼に不可避的に含まれる元素(不純物)である。Pは、熱間加工時の割れを助長するので可能な限り低減されることが好ましい。したがって、P含有量は0.03質量%以下とされ、0.025質量%以下が好ましく、0.02質量%以下がさらに好ましい。
(S:0.03質量%以下)
Sは鋼に不可避的に含まれる元素(不純物)である。Sは、被削性を向上させる効果を有するが、一方で、延性および靭性を低下させる。さらに、SはMnと反応してMnS介在物を形成する。この介在物が圧延時に圧延方向に伸展することにより、靭性が劣化する。したがって、S含有量は0.03質量%以下とされ、0.025質量%以下が好ましく、0.02質量%以下がさらに好ましい。
(O:0.003質量%以下)
O(酸素)は鋼の溶融工程で不可避的に混入する元素である。O含有量が過剰になると、粗大な酸化物系介在物が生成して、この酸化物系介在物により被削性や延性、靭性、鋼の熱間加工性が低下する。したがって、O含有量は0.003質量%以下とされ、0.002質量%以下がさらに好ましい。
前記の本発明に係る機械構造用鋼の各成分のうち、Cr,Alは、Feより酸化傾向が大きい、すなわちFeと比較してOに結合し易いため、断続切削時の工具の酸化摩耗を抑制する効果を有するが、一方で、硬質な酸化物系介在物Cr,Al等を形成する。Cr含有量の1/10と、CrよりさらにOが結合し易いAl含有量との和が、O含有量の150倍未満では、前記の酸化摩耗の抑制効果が十分に得られず、断続切削時の被削性が劣化すると共に、硬質な酸化物系介在物を過剰に形成して、アブレシブ摩耗が顕著になって連続切削時の被削性も劣化する。したがって、Cr,Al,Oの含有量(質量%)それぞれを、[Cr]、[Al]、[O]で表したとき、下式を満足するように、これらの成分の含有量は調整される。
(0.1×[Cr]+[Al])/[O]≧150
本発明に係る機械構造用鋼は、さらに、以下の(a)〜(d)の元素または元素群の1つ以上を含有してもよい。すなわち、(a)Mo:1.0質量%以下、(b)Ti:0.2質量%以下、Nb:0.2質量%以下、V:0.5質量%以下のうち1種以上、(c)B:0.005質量%以下、(d)Cu:5.0質量%以下、Ni:5.0質量%以下のうち1種以上、である。
(Mo:1.0質量%以下)
Moは、鋼に固溶して焼入れ性を確保し、不完全焼入れ組織の生成を抑制する効果を有し、Mo含有量増加に伴いこの効果が大きくなる。この効果を得るために、Mo含有量は0.005質量%以上が好ましく、0.008質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上がさらに好ましい。一方、Moが過剰に添加されると、焼入れ性が過剰となって、焼ならし後でも過冷組織が生成して被削性が低下する。したがって、Mo含有量は1.0質量%以下とされ、0.9質量%以下が好ましく、0.8質量%以下がさらに好ましい。
(Ti:0.2質量%以下、Nb:0.2質量%以下、V:0.5質量%以下)
機械構造用鋼の中でも特に肌焼鋼は、通常、表面硬化のために浸炭処理が施される。この浸炭処理時に、処理温度および処理時間、加熱速度等によっては異常粒成長が発生する場合がある。Ti,Nb,Vは、この異常粒成長を防止する効果を有するので、これらの元素を添加することが有効である。この効果を得るために、Ti,Nb,Vの各含有量は0.001質量%以上が好ましく、0.002質量%以上がさらに好ましい。一方、これらの元素が過剰に添加されると、硬質炭化物が生成して被削性が劣化する。したがって、Ti,Nbの各含有量は0.2質量%以下とされ、0.15質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がさらに好ましい。同様に、V含有量は0.5質量%以下とされ、0.4質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がさらに好ましい。
(B:0.005質量%以下)
Bは、前記Ti,Nb,Vと同様に、浸炭処理時の異常粒成長を防止する効果を有する。この効果を得るために、B含有量は0.0001質量%以上が好ましく、0.0003質量%以上がより好ましく、0.0005質量%以上がさらに好ましい。一方、Bが過剰に添加されると、硬質炭化物が生成して被削性が劣化する。したがって、B含有量は0.005質量%以下とされ、0.003質量%以下が好ましく、0.001質量%以下がさらに好ましい。
(Cu:5.0質量%以下、Ni:5.0質量%以下)
CuおよびNiは、焼入れ性を向上させる効果を有し、焼入れ後の機械構造用鋼の硬さを向上させる。さらに、CuおよびNiの含有量増加に伴いこの効果が大きくなる。この効果を得るために、Cu,Niの各含有量は0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましい。一方、これらの元素が過剰に添加されると、焼入れ性が増大して過冷組織が生成し、延性および靭性が低下する。したがって、Cu,Niの各含有量は5.0質量%以下とされ、4.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下がさらに好ましい。
(切削雰囲気:酸素濃度21〜40%)
本発明に係る機械構造用鋼は、酸素濃度21%以上の雰囲気、すなわち、大気またはそれを超える酸素濃度の雰囲気(酸素富化雰囲気)で切削されるものとする。切削雰囲気中の酸素が高濃度にされることで、機械構造用鋼中のAl,N,Ca,Sが工具の表面に付着、結合して工具の保護膜となり、工具を構成する材料である主要合金中の元素が切屑中に拡散することによる工具の磨耗が抑制される。また、前記酸化反応により切削温度が上昇するので、機械構造用鋼の表面が工具に凝着し難くなって、工具の凝着磨耗が抑制される効果も付与される。切削雰囲気の酸素濃度は、その増加に伴って前記の効果が顕著になるため、23%以上が好ましく、25%以上がさらに好ましい。一方、切削雰囲気中の酸素が過剰に高濃度であることは安全面の問題を生じるため、切削雰囲気の酸素濃度は40%以下とされ、38%以下が好ましく、36%以下がさらに好ましい。
以上、本発明を実施するための最良の形態について述べてきたが、以下に、本発明の効果を確認した実施例を、本発明の要件を満たさない比較例と対比して具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例によって制限を受けるものではなく、請求項に示した範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
〔供試材作製〕
表1に示される化学成分組成の鋼150kgが、真空誘導炉で溶解され、上面:φ245mm、下面:φ210mm×高さ480mmのインゴットに鋳造された。このインゴットは、1200℃×3hr程度でソーキングされた後、1100℃×1hr程度で、150mm角×長さ680mmの四角材に鍛造されて、長さ100mm程度に切断された。この切断された四角材は、1100℃×1hr程度で、厚さ30mm×幅155mmの板材およびφ80mmの丸棒材に、それぞれ熱間鍛造された。そして、板材は長さ100mmに、丸棒材は長さ300mmに、それぞれ切断された。これらの板材および丸棒材は、焼ならし(900℃×2hrの熱処理後、放冷)されて、供試材(実施例1〜17、比較例18〜35)に作製された。作製された供試材で、以下の測定および評価が行われた。Cr含有量の1/10とAl含有量との和の、O含有量に対する比[A]=(0.1×[Cr]+[Al])/[O]は、前記化学成分組成から算出されて表1に併記されている。
〔測定、評価〕
(被削性:断続切削)
断続切削時の被削性を評価するために、エンドミル工具を用いた断続切削試験が行われた後、工具摩耗量が測定された。供試材(板材)は、スケールを除去されて、その表面を厚さ方向に2mm研削されて、厚さ25mm×幅150mm×長さ100mmの切削試験片に作製された。マニシングセンタ主軸にエンドミル工具(三菱マテリアル製ハイスエンドミル、型番K−2SL、外径φ10mm、TiAlNコーティング厚さ2.6μm)が取り付けられ、バイスにより固定された切削試験片に対して、大気(酸素濃度21%)中で、乾式の切削雰囲気下で断続切削が行われた。断続切削条件は下記に示される。200カット(切削距離:約3000m)の断続切削の後、使用されたエンドミル工具が光学顕微鏡にて観察され、平均逃げ面摩耗幅(工具摩耗量)が測定された。断続切削時の被削性の合格基準は、工具摩耗量が70μm以下とされた。なお、同じ切削試験片の表面のビッカース硬さが測定された。工具摩耗量およびビッカース硬さは表1に示される。
(断続切削条件)
軸方向切り込み量:1.0mm
径方向切り込み量:1.0mm
送り量 :0.117mm/rev
送り速度 :558.9mm/min
切削速度 :150m/min
回転速度 :4777rpm
(被削性:連続切削)
連続切削時の被削性、さらに切削雰囲気の酸素富化による効果を評価するために、超硬工具(P10)を用いた長手方向旋削による切削試験が行われた後、工具摩耗量が測定された。供試材(丸棒材)に対して、大気(酸素濃度21%)中と表1に示す酸素濃度の酸素富化雰囲気(酸素付与)中とで、乾式の切削雰囲気下で連続切削が行われた。連続切削条件は下記に示される。15分間の切削(切削距離:約3000m)の後、使用された超硬工具が光学顕微鏡にて観察され、平均逃げ面摩耗幅(工具摩耗量)が測定された。連続切削時の被削性の合格基準は、大気中での切削による工具摩耗量より、酸素富化雰囲気中での切削による工具摩耗量の方が少ないこととされた。それぞれの切削雰囲気での工具摩耗量は表1に示される。
(連続切削条件)
切り込み量:1.5mm
送り量 :0.25mm/rev
切削速度 :200m/min
(横目の靭性)
機械的特性として、浸炭処理後の供試材の横目の靭性が評価された。供試材(丸棒材)は、圧延(鍛伸)方向に垂直な方向(横目)に沿ったノッチ(R:10mm、深さ:2mm)を形成され、10mm×10mm×55mmのサイズに削り出されて、シャルピー衝撃試験片に作製された。この試験片は、下記の条件で浸炭処理され、次に60℃のコールド油を用いて油焼入れされた後、焼戻しされた(170℃×120minの熱処理後、空冷)。以上の処理後の試験片でシャルピー衝撃値(シャルピー吸収エネルギー)が測定された。測定したシャルピー吸収エネルギーは表1に示される。横目の靭性の合格基準は、シャルピー吸収エネルギーが10.0J以上とされた。
(浸炭処理条件)
900℃×90min(CO濃度:0.11%、カーボンポテンシャル(以下、CP):1.0%狙い)→900℃×90min(CO濃度:0.17%、CP:0.8%狙い)→840℃×60min(CO濃度:0.39%、CP:0.8%狙い)
Figure 2009263749
(評価)
表1に示すように、実施例1〜17は、その各成分の含有量、およびCr,Alの各含有量とO含有量との比が本発明の範囲であるので、断続切削試験後の工具摩耗量が小さくて断続切削時の被削性に優れており、連続断続切削試験においては酸素富化により被削性が向上し、さらに横目の靭性も良好であった。
これに対して、比較例18はC含有量が過剰なため、断続切削時の被削性および横目の靱性が低下した。また、比較例19はSi含有量が過剰なため、横目の靱性が低下した。比較例20はMn含有量が不足しているため、焼入れ性が不十分で横目の靱性が低下し、また、ビッカース硬さが低下した。一方、比較例21は、Mn含有量が過剰なため断続切削時の被削性が低下し、さらにP含有量が過剰なため横目の靱性が低下した。
比較例22はCr含有量が不足しているため、断続切削時の被削性が低下した。一方、比較例23はCr含有量が過剰なため、断続切削時の被削性および横目の靱性が低下した。比較例24はAl含有量が不足しているため、断続切削時の被削性および酸素富化雰囲気での連続切削の被削性が低下した。一方、比較例25はAl含有量が過剰なため、断続切削時の被削性は向上したが横目の靱性が低下した。
比較例26はS含有量が過剰なため、断続切削時の被削性は向上したが横目の靱性は低下した。比較例27はCa,Mgの各含有量がいずれも不足している(無添加である)ため、比較例28は、Ca,Mgの各含有量がいずれも不足している上、O含有量に対してCr,Alの各含有量が不足しているため、それぞれ、硬質な酸化物系介在物により断続切削時の被削性および酸素富化雰囲気での連続切削の被削性が低下し、MnS介在物により横目の靱性が低下した。
比較例29はN含有量が不足しているため、断続切削時の被削性が低下した。一方、比較例30はN含有量が過剰なため、横目の靱性が低下した。
比較例31はMo含有量が過剰なため、比較例32はV含有量が過剰なため、それぞれの断続切削時の被削性が低下した。
比較例33はO含有量が過剰なため、比較例34はO含有量が過剰な上、O含有量に対してCr,Alの各含有量が不足しているため、それぞれ、断続切削時の被削性、酸素富化雰囲気での連続切削の被削性、および横目の靱性が低下した。比較例35は、各成分の含有量は本発明の範囲であるが、O含有量に対してCr,Alの各含有量が不足しているため、断続切削時の被削性および酸素富化雰囲気での連続切削の被削性が低下した。

Claims (5)

  1. 酸素濃度が21〜40%の雰囲気で切削加工される酸素富化雰囲気切削加工用の機械構造用鋼であって、
    C:0.05〜1.2質量%、Si:0.03〜2.0質量%、Mn:0.2〜1.8質量%、Cr:0.1〜3.0質量%、Al:0.06〜0.5質量%、N:0.002〜0.02質量%、O:0.003質量%以下を含有し、さらに、Ca:0.0005〜0.01質量%、Mg:0.0001〜0.005質量%のうち1種以上を含有し、PおよびSを各0.03質量%以下に規制し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
    前記Cr,Al,Oの各含有量(質量%)を、[Cr]、[Al]、[O]として表したとき、(0.1×[Cr]+[Al])/[O]≧150を満足することを特徴とする酸素富化雰囲気切削加工用の機械構造用鋼。
  2. さらに、Mo:1.0質量%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載の酸素富化雰囲気切削加工用の機械構造用鋼。
  3. さらに、Ti:0.2質量%以下、Nb:0.2質量%以下、およびV:0.5質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の酸素富化雰囲気切削加工用の機械構造用鋼。
  4. さらに、B:0.005質量%以下を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の酸素富化雰囲気切削加工用の機械構造用鋼。
  5. さらに、Cu:5.0質量%以下、およびNi:5.0質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の酸素富化雰囲気切削加工用の機械構造用鋼。
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