JP6569650B2 - 肌焼鋼 - Google Patents
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〔1〕質量%で、C:0.15%以上0.30%以下、Si:0.50%以上2.00%以下、Mn:0.30%以上1.20%以下、P:0.003%以上0.030%以下、S:0.005%以上0.050%以下、Cr:0.30%以上2.00%以下、Mo:0.03%以上0.30%以下、Al:0.020%以上0.060%以下、Sb:0.003%以上0.035%以下およびN:0.0040%以上0.0200%以下を、下記(1)式および(2)式を満足する範囲の下で含み、残部はFeおよび不可避不純物からなる化学組成を有し、前記不可避不純物中のVの含有量は0.010%以下であることを特徴とする肌焼鋼。
記
〔%Si〕+(〔%Mn〕+〔%Cr〕)/3.1+〔%Mo〕/5.5≧1.3 ・・・(1)
〔%Sb〕≧(〔%Si〕+〔%Cr〕+〔%Mn〕/3)/280 ・・・(2)
ただし、〔%M〕はM元素の含有量(質量%)を示す。
浸炭処理後の焼入れにより中心部の硬度を高めるためには、0.15%以上のCを必要とするが、含有量が0.30%を超えると芯部の靭性が低下するため、C量は0.15%以上0.30%以下の範囲に限定した。好ましくは0.15%以上0.25%以下の範囲である。
Siは、歯車等が転動中に到達すると予想される200〜300℃の温度域における焼戻し軟化抵抗を高めると共に、浸炭表層部の硬さ低下を引き起こす残留オーステナイトの生成を抑制しつつ、焼入れ性を向上させる元素である。また、浸炭時に粗大な炭化物の生成を抑制する効果も有しており、これらの鋼を得るには、少なくとも0.50%以上の添加が不可欠である。しかしながら、一方でSiはフェライト安定化元素であり、過剰な添加はAc3変態点を上昇させ、通常の焼入れ温度範囲で炭素の含有量の低い芯部でフェライトが出現し易くなり強度の低下を招く。また、過剰な添加は浸炭前の鋼材を硬化させ、被削性を劣化させる不利もある。この点、Si量が2.00%以下であれば、上記のような弊害は生じないので、Si量は0.50%以上2.00%以下の範囲に限定した。好ましくは0.80%以上1.50%以下の範囲である。
Mnは、焼入れ性の向上に有効な元素であり、少なくとも0.30%以上の添加を必要とする。しかしながら、Mnは、浸炭異常層を形成し易いため、回転曲げ疲労強度の低下を招き、また過剰な添加は残留オーステナイト量が過多となって硬さの低下を招くため、上限を1.20%とした。好ましくは0.40%以上0.80%以下の範囲である。
Pは、粒界に偏析し、浸炭層及び内部の靭性を低下させる原因となるため、P量は、低いほど望ましい。具体的には、0.030%を超えると、上記弊害が現れるため、P量は0.030%以下とした。一方、製造コストの観点から、0.003%を下限とした。
Sは、Mnと硫化物を形成し、被削性を向上させる作用を有するので、少なくとも0.005%以上含有させる。一方、過剰な添加は、部品の疲労強度および靭性を低下させるため、上限を0.050%とした。
Crは、焼入れ性のみならず、焼戻し軟化抵抗の向上にも有効な元素であるが、含有量が0.30%に満たないとその添加効果に乏しく、一方、2.00%を超えると焼戻し軟化抵抗を高める効果は飽和し、むしろ浸炭異常層を形成し易くなり、回転曲げ疲労強度の低下を招くため、Cr量は0.30%以上2.00%以下の範囲に限定した。好ましくは1.00%以上1.80%以下の範囲である。
Moは、焼入れ性、焼戻し軟化抵抗および靭性を向上させると共に、浸炭処理後の結晶粒径を微細化する効果を有する元素であり、添加量が0.03%に満たないとその添加効果に乏しいので、0.03%以上で添加する。一方、多量に添加すると、製造コストを上昇させるため、0.30%を上限とした。なお、製造コストをより低くする観点から、上限値は0.20%とすることが好ましい。
Alは、Nと結合してAlNを形成し、オーステナイト結晶粒の微細化に寄与する元素であり、この効果を得るためには0.020%以上の添加を必要とするが、含有量が0.060%を超えると疲労強度に対して有害なAl203介在物の生成を助長するため、Al量は0.020%以上0.060%以下の範囲に限定した。好ましくは0.020%以上0.040%以下の範囲である。
Sbは、本発明において最も重要な元素である。Sbは粒界への偏析傾向が強く、浸炭処理時に焼入れ性向上に寄与するSi、Mn、Cr等の粒界酸化を抑制することで、鋼の極表層における浸炭異常層の発生を低減させ、回転曲げ疲労強度を向上させる効果がある。ここで、粒界酸化とは、浸炭処理等の熱処理において鋼材の表層部の結晶粒界が内部酸化する現象であり、鋼中に選択酸化され易いSi、Mn、Cr等が存在していると、その生成を助長する。粒界酸化部では上記の元素が酸化により消費されてしまうため、周辺部での焼入れ性低下に伴い、疲労破壊の起点となる低硬度の浸炭異常層を形成し、回転曲げ疲労強度の低下を招いてしまう。その抑制効果を得るには、少なくとも0.003%の添加が不可欠である。しかしながら、過剰な添加はコスト増につながるだけでなく、靭性を低下させるため、上限を0.035%とした。好ましくは0.005%以上0.025%以下の範囲である。
Nは、Alと結合してAlNを形成し、オーステナイト結晶粒の微細化に寄与する元素である。従って、適正添加量はAlとの量的バランスで決まるが、その効果を発揮するためには0.0040%以上の添加が必要である。しかし、過剰に添加すると凝固時の鋼塊に気泡が発生したり、鍛造性の劣化を招くため、上限を0.0200%とする。好ましくは0.0090%以上0.0150%以下の範囲である。
〔%Si〕+(〔%Mn〕+〔%Cr〕)/3.1+〔%Mo〕/5.5≧1.3 ・・・(1)
〔%Sb〕≧(〔%Si〕+〔%Cr〕+〔%Mn〕/3)/280 ・・・(2)
上記(1)式は、焼戻し軟化抵抗性に影響を与える因子を示し、左辺の値が1.3未満では焼戻し軟化抵抗性の改善効果に乏しく、その結果、面圧疲労強度の低下を招く。一方、上記(2)式は、浸炭異常層深さに影響を与える因子を示していて、Sb含有量がSi、MnおよびCr含有量から決まる右辺の値未満の場合、浸炭異常層の抑制効果に乏しく、その結果、回転曲げ疲労強度の低下を招く。本発明では、上記(1)式を満たすことによって、歯車等が転動中に到達すると予想される200〜300℃の温度域での焼戻し軟化抵抗を高め、かつ、粒界酸化の抑制作用を有するSbの添加量の下限を、Si、Mn、Crの含有量に応じ、上記(2)式の右辺の値以上とすることによって、表層での焼入れ性を確保でき、疲労強度の低下を抑制できる。
Vは、鋼中において炭窒化物として存在する。そのため、浸炭時のオーステナイト粒径を微細化して、結晶粒成長の駆動力を高めるだけでなく、1000℃以上の浸炭加熱中にそれらが容易に固溶してピン止め力が消失してしまうため、異常粒成長を助長し、疲労強度を低下させる原因となる。具体的にはV含有量が0.010%を超えると上記の弊害が現れる。そのため、V含有量は0.010%以下に限定する。
Nbは、炭窒化物形成元素であり、浸炭時のオーステナイト粒径を微細化して疲労強度向上に寄与する。このような作用を有効に発揮させるため、添加する場合は、少なくとも0.010%以上とすることが好ましい。一方、その効果は0.050%で飽和し、かつ多量の添加はコスト増になるため、上限は0.050%とすることが好ましい。
Tiは、Nbと同じく炭窒化物形成元素であり、浸炭時のオーステナイト粒径を微細化して疲労強度向上に寄与する。このような作用を有効に発揮させるため、添加する場合は、少なくとも0.005%以上とすることが好ましい。一方、その効果は0.050%未満で飽和し、かつ過剰に添加すると、粗大な炭窒化物が生成し、逆に疲労強度の低下を招くため、上限は0.050%未満とすることが好ましい。
Bは、微量の添加により焼入れ性を確保するのに有効な元素であり、添加する場合は、少なくとも0.0005%以上とすることが好ましい。一方、0.0040%を超えると、その効果が飽和するため、上限は0.0040%とすることが好ましい。
Cuは炭化物の生成を抑制することで、過剰浸炭による疲労強度低下の抑制に効果がある。このような作用を有効に発揮させるため、添加する場合は、少なくとも0.05%以上とすることが好ましい。また、焼入れ性及び耐食性の向上にも寄与するが、0.50%を超えて添加した場合、素材硬さの上昇を招いて冷間加工性が劣化してしまうため、Cu含有量は0.50%以下とする必要がある。好ましくは0.30%以下である。
Niは耐食性および靱性向上作用を有している。このような作用を有効に発揮させるため、添加する場合は、少なくとも0.05%以上とすることが好ましい。ただし、0.50%を超えると、残留オーステナイト量が過剰に増加して焼入れによる硬さ低下を招くため、Ni含有量は0.50%以下とする必要がある。好ましくは0.30%以下である。
前記した成分組成からなる鋼素材を溶解鋳造してビレットとし、熱間圧延後、歯車としての予備成形を行う。次に、機械加工、あるいは鍛造後に機械加工を行い歯車形状とした後、浸炭焼入れ処理を施し、必要に応じて更に歯面に研磨加工を施して最終製品とする。更には、ショットピーニング等を付加しても良い。浸炭焼入れ処理は、浸炭温度900〜1050℃で60〜600分、焼入れ温度800〜900℃で10〜120分とし、焼戻しは120〜250℃で30〜180分の範囲とすることが好ましい。
得られた20mmφあるいは36mmφの丸棒鋼に対して、以下の(1)〜(4)の方法に従い、回転曲げ疲労特性、ローラーピッチング疲労特性、浸炭異常層深さ、表層硬度および被削性の評価を行った。
発明鋼、比較鋼及びSCM420の36mmφの丸棒鋼各々から、図2に示す寸法および形状の平行部直径9.6mmの試験片を採取し、平行部にこれと直角方向の深さ0.8mmの切欠き(切欠き係数α:1.56)を全周に付与した回転曲げ疲労試験片を作製した。得られた試験片に対して、図1に示す条件に従って浸炭焼入れ・焼戻し処理を行った後、小野式回転曲げ疲労試験機を用いて、回転数:3000rpmで回転曲げ疲労試験を実施し、107回を疲労限度として、回転曲げ疲労強度を測定して評価した。評価結果を表2に示す。
発明鋼、比較鋼及びSCM420の36mmφの丸棒鋼各々から、図3に示す26mmφの試験片を採取し、ローラーピッチング疲労試験片(小ローラー)とした。得られた試験片に対して、図1に示す前記浸炭焼入れ・焼戻し処理を行った後、ローラーピッチング疲労試験機を使用して、80℃のミッションオイルを潤滑に用い、すべり率:40%、回転数:1500rpmにてローラーピッチング疲労試験を行った。なお、大ローラー(クラウニングR150mm)にはJIS SUJ2の焼入れ焼戻し品を使用した。その際、107回を疲労限度として面圧疲労強度を測定して評価した。評価結果を表2に示す。
発明鋼、比較鋼及びSCM420の20mmφの丸棒を用いて、図1に示す前記浸炭焼入れ・焼戻し処理後に切断し、ナイタールで軽くエッチングした後、最大となる浸炭異常層深さを光学顕微鏡で400倍の倍率にて測定した。また、表面から50μm深さ位置のビッカース硬さ(MHV300gf)7点の平均値を、表層硬度とし、焼戻し軟化抵抗性の評価のため、300℃で3時間の焼戻しを行った後に、同位置での硬さを測定して評価した。評価結果を表2に示す。
切削試験は、発明鋼、比較鋼及びSCM420の36mmφの丸棒鋼に対し、最初に外周を1mm切削して表面のスケール、脱炭層を除去後に評価を行った。該試験にはP20種工具を用いて、切込み:1mm、切削速度:200mm/min、送り:0.20mm/revおよび潤滑無の条件にて切削を行い、切削時間:300sの段階での工具逃げ面磨耗量を実体顕微鏡にて測定して評価した。評価結果を表2に示す。
表2に上記した各項目の調査結果を示す。比較鋼No.13〜34のように、いずれかの成分組成が本発明成分範囲を外れると、回転曲げ疲労強度、ローラーピッチング疲労強度、浸炭異常層の抑制効果、焼戻し軟化抵抗、被削性のいずれかに劣る。また、比較鋼No.35および36は、本発明成分範囲内であるが、上記(1)式の値が1.3未満のため、耐焼戻し軟化抵抗が低下し、ローラーピッチング疲労強度が低下した。さらに、比較鋼No.37および38は、本発明成分範囲内であるが、Sb量が上記(2)式を満たしていないため、浸炭異常層の抑制効果に乏しく、回転曲げ疲労強度が低下した。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.15%以上0.30%以下、Si:1.15%以上2.00%以下、Mn:0.30%以上1.20%以下、P:0.003%以上0.030%以下、S:0.005%以上0.050%以下、Cr:0.30%以上2.00%以下、Mo:0.03%以上0.30%以下、Al:0.020%以上0.060%以下、Sb:0.003%以上0.035%以下およびN:0.0040%以上0.0200%以下を、下記(1)式および(2)式を満足する範囲の下で含み、残部はFeおよび不可避不純物からなる化学組成を有し、前記不可避不純物中のVの含有量は0.010%以下であることを特徴とする肌焼鋼。
記
〔%Si〕+(〔%Mn〕+〔%Cr〕)/3.1+〔%Mo〕/5.5≧1.3 ・・・(1)
〔%Sb〕≧(〔%Si〕+〔%Cr〕+〔%Mn〕/3)/280 ・・・(2)
ただし、〔%M〕はM元素の含有量(質量%)を示す。 - 前記化学組成が、質量%でさらに、Nb:0.050%以下、Ti:0.050%未満およびB:0.0040%以下のうちから選んだ1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の肌焼鋼。
- 前記化学組成が、質量%でさらに、Cu:0.50%以下およびNi:0.50%以下のうちから選んだ1種または2種を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の肌焼鋼。
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