以下、図示実施形態に基づき本発明を説明する。本実施形態のズームレンズ鏡筒5はデジタルカメラに搭載されるもので、その撮影光学系は、図2および図3に示す撮影状態において、物体側から順に、第1レンズ群LG1、第2レンズ群LG2、第3レンズ群LG3、第4レンズ群LG4、ローパスフィルタ(フィルタ類)LFおよび固体撮像素子センサ(以下、撮像センサ)60を有している。撮影光学系の光軸はZ1である。ズーミングは、第1レンズ群LG1と、第2レンズ群LG2と、第3レンズ群LG3を撮影光軸Z1に沿って所定の軌跡で進退させることによって行い、フォーカシングは同方向への第4レンズ群LG4の移動で行う。なお、以下の説明中で「光軸方向」という記載は、特に断りがなければ撮影光軸Z1と平行な方向を意味している。また、「周方向」や「回転方向」は、ズームレンズ鏡筒5を構成する環状部材の軸線(撮影光軸Z1と実質的に一致する)を中心とした方向を意味する。
ズームレンズ鏡筒5の最も外径側には、該ズームレンズ鏡筒5を搭載するカメラのカメラボディに対して固定される固定環22が設けられ、この固定環22の後部に撮像センサ保持ユニット21が固定されている。撮像センサ保持ユニット21には、撮影光軸Z1上に位置させて撮像センサ60が保持されている。撮像センサ保持ユニット21は、撮像センサ60を撮影光軸Z1と直交する平面に沿って移動させることで像振れ補正を行う機能を有するが、像振れ補正機能については本発明と関係がないため、説明を省略する。
固定環22内には、第4レンズ群LG4を保持するAFレンズ枠51が、AFガイド軸52を介して光軸方向に直進移動可能に支持されている。図13に示すように、AFレンズ枠51は、撮像センサ保持ユニット21との間に圧縮状態で挿入された圧縮コイルばねからなる4群付勢ばね33によって光軸方向前方に付勢され、AFナット32に当て付いている。AFナット32は回転規制された状態でリードスクリュー31に螺合しており、リードスクリュー31は、固定環22に支持されたAFモータ160によって回転駆動される。したがって、AFモータ160によりリードスクリュー31が正逆に回転されると、AFナット32がリードスクリュー31に沿って前後に移動され、これに応じてAFレンズ枠51の光軸方向位置が変化する。
固定環22には、ズームギヤ28を回転させるズームモータ150が支持されている。ズームギヤ28は、ヘリコイド環(補完カム機構、回転伝達環)18の外周面に形成された外面ギヤ部18cに噛合している。図7に示すように、固定環22の内周面には、撮影光軸Z1に対して所定の傾斜角を有する内面ヘリコイド22aと、撮影光軸Z1と直交する環状をなし軸方向成分を含まない周方向溝22bが形成されている。内面ヘリコイド22aに対して、ヘリコイド環18の外面ヘリコイド18aが螺合しており、このヘリコイドによる案内を受けて、ヘリコイド環18は回転しながら光軸方向に移動することができる。ヘリコイド環18が所定の前方位置まで繰り出されると、ヘリコイド環18の外周面に設けたガイド突起18bが周方向溝22bに対して係合し、ヘリコイド環18が固定環22に対して光軸方向には移動せず、回転のみ行うようになる。固定環22の内周面にはさらに、周方向溝22bに連通させて、内面ヘリコイド22aと平行なリード溝22cが形成されている。内面ヘリコイド22aと外面ヘリコイド18aが螺合している間は、このリード溝22c内にヘリコイド環18のガイド突起18bが位置する。ガイド突起18bの周方向端部は、リード溝22cと平行な傾斜面になっており、この傾斜面を、リード溝22cを構成する一対の対向壁面に摺接させることで、ガイド突起18bはリード溝22cに沿って移動することが可能である。一方、ガイド突起18bにおける光軸方向の前面部と後面部はそれぞれ、撮影光軸Z1と直交する周方向平面となっており、ガイド突起18bが周方向溝22b内に位置するときには、この前後の周方向平面部が、周方向溝22bを構成する前後の対向壁面に対向して、光軸方向の移動が規制される。
ヘリコイド環18の内側には、図9に展開形状を示す第1直進案内環(補完カム機構)14が支持される。第1直進案内環14は、後端部に外径方向に突出する環状フランジ14aを有し、該環状フランジ14aから突出する直進案内突起14bを、固定環22の内周面に形成した直進案内溝22dに係合させることによって光軸方向へ直進案内されている。図7に示すように、直進案内溝22dの前端部は、後方に向けて開放された規制壁部(後方規制面)22eとなっている。また、第1直進案内環14の外周面に設けられた回動許容突起14cが、ヘリコイド環18の内周面に形成した周方向溝18d(図8参照)に係合し、かつ環状フランジ14aがヘリコイド環18の後端面に摺接可能に接しており、第1直進案内環14とヘリコイド環18は、相対回転可能で光軸方向には一体に移動するように結合されている。
第1直進案内環14は、撮影光軸Z1と平行な直進案内スリット14dを有し、この直進案内スリット14dに対して環状フランジ部15aの外縁部に設けた直進案内キー15bを係合させることによって、3群移動環15が光軸方向へ直進案内されている。直進案内スリット14dは第1直進案内環14を径方向に貫通しており、直進案内キー15b上には、直進案内スリット14dから外径方向へ突出する3群用カムフォロア15cが設けられている。3群用カムフォロア15cは、ヘリコイド環18の内周面に形成した3群案内カム溝18eに係合している。図8に展開形状を示すように、3群案内カム溝18eは、撮影光軸Zと直交する平面に対して所定の傾斜を有して、ヘリコイド環18の軸線方向への成分(軸方向成分)を含む移動制御溝部18e1と、この移動制御溝部18e1の後端に連通する、撮影光軸Zと直交する平面内に形成され軸方向成分を含まない周方向溝部18e2とを有する。移動制御溝部18e1内に3群用カムフォロア15cが位置しているときには、ヘリコイド環18が回転すると、直進案内された3群移動環15は、該移動制御溝部18e1の軌跡に従って、ヘリコイド環18および第1直進案内環14に対して光軸方向に相対移動する。一方、周方向溝部18e2内に3群用カムフォロア15cが位置しているときは、ヘリコイド環18が回転しても3群移動環15の光軸方向移動は生じない。3群案内カム溝18eは、周方向位置を異ならせて3箇所設けられており、各箇所の3群案内カム溝18eは、光軸方向位置を異ならせた前後一対のペアから構成されている。この前後ペアのうち、後方の3群案内カム溝18eは、周方向溝部18e2がヘリコイド環18の後端部に開放されている。3群案内カム溝18eに対応して、3群用カムフォロア15cも、周方向に位置を異ならせて3箇所設けられ、各箇所では光軸方向に位置を異ならせた前後一対のペアとして構成されている。
3群移動環15内には、撮影光軸Z1と平行な揺動中心軸17を介して、3群レンズ枠16が軸支されている。3群レンズ枠16は、揺動中心軸17と偏心した位置に、該揺動中心軸17と光軸を平行とさせて第3レンズ群LG3を保持しており、第3レンズ群LG3の光軸を撮影光軸Z1と一致させる軸上位置(図2、図3、図17、図19、図20)と、該撮影光軸Z1上から偏心された軸外位置(図1、図15、図18、図22)とに揺動することができる。3群レンズ枠16は、トーションばね39によって軸上位置側に回動付勢されており、後述するストッパ構造によって軸上位置に保持される。一方、3群移動環15が光軸方向後方に後退移動されると、撮像センサ保持ユニット21に突設したカム突起21aに3群レンズ枠16が当接して、該3群レンズ枠16はトーションばね39に抗して軸外位置へと回動される。具体的には、図14に示すように、カム突起21aの先端には撮影光軸Z1に対して所定の傾斜を持つカム面21bが形成されており、3群レンズ枠16には、軸上位置にあるときに該カム面21bに対向するカム面16aが形成されている。そして、3群移動環15が後退して撮像センサ保持ユニット21に接近すると、カム面21b、16aが当接して、光軸方向の後退移動力から3群レンズ枠16を回動させる分力が生じ、3群レンズ枠16が軸外位置へ退避される。図15に示すように、軸外位置まで回動された3群レンズ枠16(第3レンズ群LG3)は、第4レンズ群LG4や撮像センサ60と干渉しない下方位置に収納される。また、3群移動環15内には、3群レンズ枠16の前方に位置させてシャッタユニット20が固定されている。図1ないし図3の断面図には現れていないが、シャッタユニット20はシャッタと絞を内蔵している。
図9に示すように、第1直進案内環14には、内周面と外周面を貫通するローラ案内カム溝(補完カム機構、補完カム溝)14eが形成されている。ローラ案内カム溝14eに対して、図10に展開形状を示すカム環(回転環)11に設けたガイドローラ(補完カム機構、回転環のフォロア)26が摺動可能に係合している。ガイドローラ26はさらに、ローラ案内カム溝14eを貫通して、ヘリコイド環18の内周面に形成したローラ係合溝18fに係合している。なお、ヘリコイド環18を外周面側から平面視している図8では、内周面側のローラ係合溝18fは見えない位置にあるが、識別しやすくするためにローラ係合溝18fを実線で表している。同図から分かるように、ローラ係合溝18fは、撮影光軸Z1と平行な(軸方向成分を含む)回転伝達溝部(軸方向溝)18f1と、この回転伝達溝部18f1の後端に連通する、撮影光軸Z1と直交する平面内に形成され軸方向成分を含まない周方向溝部18f2とを有している。ガイドローラ26が回転伝達溝部18f1内に位置しているときには、回転伝達溝部18f1の壁面からガイドローラ26に回転方向の力が伝達され、カム環11はヘリコイド環18と一体的に回転される。そして、カム環11が回転すると、ガイドローラ26が係合するローラ案内カム溝14eの軌跡に従って、ヘリコイド環18および第1直進案内環14に対してカム環11が回転しながら光軸方向へ移動する。一方、ガイドローラ26が周方向溝部18f2内に位置しているときには、ヘリコイド環18が回転しても、ガイドローラ26が周方向溝部18f2内を周方向に移動するため、カム環11には回転力が伝達されない。
以上の構造から、固定環22からカム環11までの動作態様が理解される。すなわち、ズームモータ150によってズームギヤ28を鏡筒繰出方向に回転駆動すると、内面ヘリコイド22aと外面ヘリコイド18aの関係によってヘリコイド環18が回転しながら前方に繰り出される。ヘリコイド環18が回転繰出されると、第1直進案内環14がヘリコイド環18と共に前方へ直進移動する。ヘリコイド環18と第1直進案内環14が所定量前方に繰り出されると、外面ヘリコイド18aと内面ヘリコイド22aの螺合が解除され、固定環22の周方向溝22bに対してヘリコイド環18のガイド突起18bが係合し、ヘリコイド環18が、固定環22に対して光軸方向には移動せず、光軸方向の一定位置で回転のみ行うようになる。これに伴い、第1直進案内環14も光軸方向前方に繰り出された定位置で停止される。
第1直進案内環14によって直進案内された3群移動環15は、ヘリコイド環18の3群案内カム溝18eによって、光軸方向の位置が制御される。つまり、3群用カムフォロア15cが3群案内カム溝18eの周方向溝部18e2内に位置しているときには、ヘリコイド環18と3群移動環15の光軸方向の相対位置は変化しないが、撮像センサ保持ユニット21に対する3群移動環15の光軸方向の絶対位置は、ヘリコイド18a、22aの関係によって繰り出されるヘリコイド環18と共に変化する。また、3群用カムフォロア15cが3群案内カム溝18eの移動制御溝部18e1に入ると、ヘリコイド環18の回転に応じて、該移動制御溝部18e1の形状に従って、3群移動環15がヘリコイド環18に対して光軸方向に相対移動する。
また、カム環11は、第1直進案内環14のローラ案内カム溝14eと、ヘリコイド環18の内周面に形成したローラ係合溝18fの関係によって、光軸方向の位置が制御される。つまり、ガイドローラ26がローラ係合溝18fの周方向溝部18f2に位置しているときには、ガイドローラ26が該周方向溝部18f2内を移動するため、カム環11はヘリコイド環18と連れ回りせず、ヘリコイド環18との光軸方向の相対位置は変わらない。但し、撮像センサ保持ユニット21に対するカム環11の光軸方向の絶対位置は、ヘリコイド18a、22aによって繰り出されるヘリコイド環18と共に変化する。また、ガイドローラ26が回転伝達溝部18f1に入ると、カム環11がヘリコイド環18と共に回転し、第1直進案内環14に対してカム環11は、ローラ案内カム溝14eの形状に従って回転しながら光軸方向に移動される。
ズームレンズ鏡筒5の残る部分を説明する。図4に示すように、第1直進案内環14の内周面には、3群移動環15を直進案内する直進案内スリット14dとは別に、撮影光軸Z1と平行な有底の直進案内溝14fが形成されている。第1直進案内環14の内側には、この直進案内溝14fによって光軸方向に直進案内される、第2直進案内環10と中間外筒13が設けられている。
第2直進案内環10は、撮影光軸Z1と略直交する平面内に形成された後端フランジ部10aと、該後端フランジ部10aの前部に離間して位置する小径フランジ部10bと、小径フランジ部10bよりも前方に突出する撮影光軸Z1と平行なキー突起10cとを有し、後端フランジ部10aから外径方向に突出された複数の直進案内突起10dを、第1直進案内環14の直進案内溝14fに対して光軸方向に摺動可能に係合させることによって、光軸方向に直進案内されている。後端フランジ部10aと小径フランジ部10bの間に、カム環11の後端部付近に形成した回転ガイド突起11a(図17、図18など参照)が、光軸方向移動を規制されかつ回転方向移動を許容された状態で係合しており、これによりカム環11と第2直進案内環10は、相対回転可能で光軸方向には一体に移動するように結合されている。第2直進案内環10のキー突起10cは、第2レンズ群LG2を保持する2群レンズ保持環8に形成した、撮影光軸Z1と平行な直線溝8aに係合し、このキー突起10cと直線溝8aの関係によって2群レンズ保持環8が光軸方向に直進案内されている。2群レンズ保持環8の外周面には、カム環11の内周面に形成した2群案内カム溝11bに係合する2群用カムフォロア8bが設けられ、カム環11が回転すると、該2群案内カム溝11bと2群用カムフォロア8bの関係によって、2群レンズ保持環8が光軸方向に進退移動される。
中間外筒13は、後端部の外周面上に設けた環状フランジ部13aと、該環状フランジ13a上に突設された直進案内突起13bを有し、この直進案内突起13bを、第1直進案内環14の直進案内溝14fに対して摺動可能に係合させることによって、光軸方向に直進案内されている。中間外筒13の内周面には、撮影光軸Z1と平行な直進案内溝13cと、内径方向へ突出する回転ガイド突起13dが形成されている。カム環11の外周面上には、ガイドローラ26の基端部が埋設固定される後端フランジ部11cと、該後端フランジ部11cの前部に位置する小径フランジ部11dが設けられ、この後端フランジ部11cと小径フランジ部11dの間に、回転ガイド突起13dが、光軸方向移動を規制されかつ回転方向移動を許容された状態で係合している。これによりカム環11と中間外筒13は、相対回転可能で光軸方向には一体に移動するように結合されている。また、中間外筒13の直進案内溝13cに対して、図11に展開形状を示す先端外筒(第2の移動部材、外筒部材)12の外周面上に設けた直進案内突起12aが係合しており、この直進案内溝13cと直進案内突起12aの関係によって先端外筒12が光軸方向に直進案内されている。
先端外筒12の内周面には、撮影光軸Z1と平行な直線ガイド溝12bが形成され、この直線ガイド溝12bに対し、図12に展開形状を示す1群レンズ保持環(第1の移動部材、レンズ群保持環)19の外周面に形成したガイド突起19aが、光軸方向に移動可能に係合している。この直線溝12bとガイド突起19aの係合関係により、先端外筒12と1群レンズ保持環19は、相対回転が規制され、かつ光軸方向の相対移動は許容された状態で結合される。すなわち、先端外筒12を経由して、1群レンズ保持環19も光軸方向に直進案内されている。1群レンズ保持環19の外周面には、ガイド突起19aから後方に向けて直線溝19bが形成され、この直線溝19bと直線ガイド溝12bによって、ばね収納空間27が形成されている。ばね収納空間27には、1群付勢ばね23が挿入されている。1群ばね23は圧縮コイルばねからなり、その前端部がガイド突起19aに当接し、後端部が直線ガイド溝12bの後端面に当接する。
先端外筒12の後端付近の内周面にはリード突起12cが設けられ、1群レンズ保持環19の内周面には、1群用カムフォロア19cが設けられている。リード突起12cは、カム環11の外周面に形成された第1リードカム溝(第2の移動ガイド溝、外筒用ガイド溝)11eに対して摺動可能に係合し、1群用カムフォロア19cは、同じくカム環11の外周面に形成された第2リードカム溝(第1の移動ガイド溝、レンズ群用ガイド溝)11fに対して摺動可能に係合している。カム環11が回転すると、先端外筒12は、リード突起12cが第1リードカム溝11eに案内されて、該カム環11に対して光軸方向に移動される。また、カム環11が回転すると、1群レンズ保持環19は、1群用カムフォロア19cが第2リードカム溝11fに案内されて、該カム環11に対して光軸方向に移動される。
以上の構造のズームレンズ鏡筒5の全体的な繰出および収納動作は次のように行われる。図1の鏡筒収納状態からズームモータ150によりズームギヤ28を繰出方向に回転駆動させると、ヘリコイド環18が固定環22に対してヘリコイド18a、22aにより回転繰出される。第1直進案内環14は、ヘリコイド環18と共に前方に直進移動する。ヘリコイド環18と第1直進案内環14は、所定の前方位置まで繰り出されると、光軸方向への移動を停止して、ガイド突起18bと周方向溝22bの係合関係によってヘリコイド環18は定位置で回転するようになる。
鏡筒収納状態では、3群移動環15の3群用カムフォロア15cは、3群案内カム溝18eの周方向溝部18e2内に位置しており、ヘリコイド環18が収納位置から回転繰出を開始してからしばらくの間は、3群用カムフォロア15cが周方向溝部18e2内を移動する。そのため、ヘリコイド環18と3群移動環15の光軸方向の相対位置は変わらず、ヘリコイド18a、22aによるヘリコイド環18の繰出分だけ、3群移動環15が光軸方向前方に移動される。やがて、ヘリコイド環18が繰出方向へ所定角度回転されると、3群用カムフォロア15cが3群案内カム溝18eの周方向溝部18e2から移動制御溝部18e1に入る。すると、ヘリコイド環18の回転に応じて、移動制御溝部18e1の案内を受けて、3群移動環15がヘリコイド環18に対して所定の軌跡で光軸方向に移動されるようになる。図2のワイド端から図3のテレ端に至るズーム域では、3群用カムフォロア15cは移動制御溝部18e1の案内を受ける。
図1の鏡筒収納状態では、3群移動環15内の3群レンズ枠16は、撮像センサ保持ユニット21に突設したカム突起21aの作用によって撮影光軸Z1から下方へ偏心した軸外位置に保持されている(図15参照)。そして、3群移動環15がヘリコイド環18と共に収納位置からズーム域(ワイド端)まで前方に繰り出される途中で、3群レンズ枠16が撮像センサ保持ユニット21のカム突起21aから離れて、トーションばね39の付勢力によって、第3レンズ群LG3の光軸を撮影光軸Z1と一致させる軸上位置に回動する。以後、ズームレンズ鏡筒5を再び収納位置に移動させるまでは、3群レンズ枠16は軸上位置に保持される。
また、鏡筒収納状態では、カム環11に設けたガイドローラ26は、ローラ係合溝18fの周方向溝部18f2内に位置しており、ヘリコイド環18が収納位置から回転繰出を開始してからしばらくの間は、ガイドローラ26が周方向溝部18f2内を移動する。そのため、ヘリコイド環18とカム環11の光軸方向の相対位置は変わらず、ヘリコイド18a、22aによるヘリコイド環18の繰出分だけ、カム環11が光軸方向前方に移動される。このとき、カム環11は、ガイドローラ26がローラ案内カム溝14eの端部に係合して回転方向の位置規制を受けているため、角度位置を変化させずに直線的に移動される。やがて、ヘリコイド環18が繰出方向へ所定角度回転されると、ガイドローラ26がローラ係合溝18fの周方向溝部18f2から回転伝達溝部18f1に入る。すると、カム環11がヘリコイド間18と共に回転するようになり、回転するカム環11は、第1直進案内環14のローラ案内カム溝14eの案内を受けて、ヘリコイド環18および第1直進案内環14に対して光軸方向に所定の軌跡で移動されるようになる。図2のワイド端から図3のテレ端に至るズーム域では、ガイドローラ26が回転伝達溝部18f1内に位置しており、カム環11は常にヘリコイド環18と連動して回転される。
すなわち、鏡筒収納状態からの繰出動作においては、ヘリコイド環18は、光軸方向前方への移動を伴う回転繰出状態から始まり、やがて光軸方向位置を変化させない定位置回転状態に切り替わる。また、3群移動環15は、ヘリコイド環18との一体的な光軸方向前方への直進移動状態(第1の直進移動状態)から始まり、やがて、ヘリコイド環18との相対位置を変化させる(3群案内カム溝18eの移動制御溝部18e1に制御される)光軸方向への直進移動状態(第2の直進移動状態)に切り替わる。また、カム環11は、ヘリコイド環18との一体的な光軸方向前方への直進移動状態から始まり、やがて、ヘリコイド環18と共に回転しながら該ヘリコイド環18に対して光軸方向に相対移動する(第1直進案内環14のローラ案内カム溝14eに制御される)回転進退状態に切り替わる。ズームレンズ鏡筒5における撮影状態(図2のワイド端から図3のテレ端までのズーム域)では、ヘリコイド環18は上記の定位置回転状態になっており、3群移動環15は上記の第2の直進移動状態になっており、カム環11は上記の回転進退状態になっている。
カム環11が回転すると、その内側では、第2直進案内環10を介して直進案内された2群レンズ保持環8が、2群用カムフォロア8bと2群案内カム溝11bの関係によって光軸方向に所定の軌跡で移動される。また、カム環11が回転すると、中間外筒13を介して直進案内された先端外筒12が、リード突起12cと第1リードカム溝11eの関係によって光軸方向に所定の軌跡で移動され、先端外筒12を介して直進案内された1群レンズ保持環19が、1群用カムフォロア19cと第2リードカム溝11fの関係によって光軸方向に所定の軌跡で移動される。
以上から、撮像センサ60の撮像面(受光面)に対する第1レンズ群LG1と第2レンズ群LG2の繰出位置はそれぞれ、前者が、固定環22に対するカム環11の繰出量と、該カム環11に対する1群レンズ保持環19のカム繰出量との合算値として決まり、後者が、固定環22に対するカム環11の繰出量と、該カム環11に対する2群レンズ保持環8のカム繰出量との合算値として決まる。また、撮像センサ60の撮像面(受光面)に対する第3レンズ群LG3の繰出位置は、固定環22に対するヘリコイド環18の繰出量と、該ヘリコイド環18に対するカム繰出量との合算値として決まる。ズーミングは、これら3つのレンズ群LG1、LG2およびLG3が互いの空気間隔を変化させながら撮影光軸Z1上を移動することにより行われる。図1の収納位置から鏡筒繰出を行うと、まず図2に示すワイド端の繰出状態になり、さらにズームモータ150を鏡筒繰出方向に駆動させると、図3に示すテレ端の繰出状態となる。
ズーム域(撮影状態)では、被写体距離に応じてAFモータ160を駆動することにより、第4レンズ群LG4を保持したAFレンズ枠51が撮影光軸Z1に沿って移動してフォーカシングがなされる。
ズームモータ150を鏡筒収納方向に駆動させると、ズームレンズ鏡筒5は、繰り出し時とは逆の収納動作を行い、鏡筒を構成する各環状部材が光軸方向後方に移動される。この鏡筒収納動作の途中で、3群レンズ枠16が、3群移動環15と共に後退しながら、カム突起21aによって軸外位置に回動される。3群移動環15が図1の収納位置まで移動されると、第3レンズ群LG3は、光軸方向において第4レンズ群LG4やローパスフィルタLFと同位置に格納される(鏡筒の径方向に重なる)。この収納時の第3レンズ群LG3の軸外退避構造によって、ズームレンズ鏡筒5の収納長短縮が達成されている。
ズームレンズ鏡筒5の先端部には、撮影を行わない鏡筒収納状態で第1レンズ群LG1の前方を閉じるレンズバリヤ機構を備えている。このレンズバリヤ機構は、先端外筒12の前端に設けられ撮影開口41aを有するバリヤ台枠41と、撮影開口41aを開閉するようにバリヤ台枠41上に支持した一対の内側バリヤ羽根(バリヤ部材)45および一対の外側バリヤ羽根(バリヤ部材)46と、これらバリヤ羽根45、46を撮影開口41aを閉じる方向に付勢する一対のトーションばね47と、バリヤ台枠41との間にこれら要素を保持するバリヤ押え板42と、バリヤ押え板42の後部に撮影光軸Z1を中心として回動可能に支持されたバリヤ駆動環43とを有している。内側バリヤ羽根45と外側バリヤ羽根46は、バリヤ台枠41に設けた一対の共通軸41b(図29、図30)により同軸に回動自在に支持され、内側バリヤ羽根45がトーションばね47により閉方向に回動付勢されている。また、内側バリヤ羽根45と外側バリヤ羽根46は、連動突起49によって開閉いずれの方向にも連動するようになっている。
バリヤ駆動環43には、一対の共通軸41bの近傍に位置させて一対のバリヤ駆動ピン44が突設されている。図29の矢印方向にバリヤ駆動環43が回転されると、一対のバリヤ駆動ピン44がそれぞれ内側バリヤ羽根45に当接し、図30のようにバリヤ開き方向への力を与えることができる。図29に矢印F1で示すように、バリヤ駆動環43は、そのばね掛け部43aと1群レンズ保持環19のばね掛け部19eの間に張設した、トーションばね47より強い引張ばね48によって、バリヤ開き方向に回動付勢されている。バリヤ駆動環43が引張ばね28の付勢力による回動端に位置するときには、バリヤ駆動ピン44cが内側バリヤ羽根45を押圧して、トーションばね47の力に抗して該内側バリヤ羽根45を開き、連動突起29を介して外側バリヤ羽根46も開く(図30)。
一方、バリヤ駆動環43は、図28に示すように、後方に突出する回転伝達突起43bを有しており、この回転伝達突起43bは、カム環11の先端部に形成した回転付与段部50と係脱する。バリヤ駆動環43は、先端外筒12に対して光軸方向の定位置で回転可能に支持されているから、先端外筒12がカム環11の回転に応じて第1リードカム溝11eに従って光軸方向に直進進退すると、回転伝達突起43bと回転付与段部50の光軸方向の位置関係が変化する。回転伝達突起43bと回転付与段部50は、ワイド端からテレ端までのズーム域では互いに係合することがなく、ワイド端位置から収納位置に移動する間に係合して、回転付与段部50から回転伝達突起43bに対して、引張ばね48の付勢力と反対方向への強制回転力が与えられる。バリヤ駆動環43が引張ばね48に抗する移動端に回動されると、バリヤ駆動ピン44が内側バリヤ羽根45から離れ、トーションばね47の力により内側バリヤ羽根45が閉じ、連動突起29を介して外側バリヤ羽根46も閉じ、その結果、撮影開口41aが閉じられる(図1、図29、図32)。逆に、収納位置からズーム域に移行するときには、回転伝達突起43bが回転付与段部50から離れ、引張ばね48によりバリヤ駆動環43がバリヤ開き方向に回動する結果、バリヤ駆動ピン44が内側バリヤ羽根45を押して開かせ、連動突起29を介して外側バリヤ羽根46も開かれる。つまり、バリヤ羽根45、46の開閉は、バリヤ駆動環43の回転によって行われ、バリヤ駆動環43のバリヤ閉じ方向の回転は、カム環11によって与えられる。なお、図10に示すように、カム環11の回転付与段部50は、回転方向に約120度等配で3箇所設けられており、実際にバリヤ駆動環43の回転制御に用いる回転付与段部50は、組み付け時に3箇所のうちから任意に選択することができる。
以上のズームレンズ鏡筒5では、第2レンズ群LG2と第3レンズ群LG3の間に群間付勢ばね34が設けられている。2群レンズ保持環8は、その前端部付近に環状の内径フランジ部8cを有し、3群移動環15には、この内径フランジ部8cに対向するばね受け環35が固定されている。ばね受け環35は、3群移動環15の前端部付近に取り付けられ、該3群移動環15に対してシャッタユニット20を保持させる。群間付勢ばね34は、光軸方向前方から後方に進むにつれて徐々に径を小さくする円錐状の圧縮コイルばねからなり、その前端部が2群レンズ保持環8の内径フランジ部8cに当接し、後端部がばね受け環35に当接し、第2レンズ群LG2と第3レンズ群LG3の間隔を広げるように挿入されている。
群間付勢ばね34による付勢力の伝達構造を図13に示す。図13は、ワイド端撮影状態での群間付勢ばね34の作用状態を示している。群間付勢ばね34によって2群レンズ保持環8は前方に押圧されていて、2群用カムフォロア8bが、カム環11の2群案内カム溝11bの前側の壁面に押し付けられている。これによりカム環11も前方に押圧され、カム環11から突出するガイドローラ26が、第1直進案内環14に形成されたローラ案内カム溝14eの前側の壁面に押し付けられている。そして、ガイドローラ26を介して第1直進案内環14が前方に押圧され、この第1直進案内環14の後端部付近に設けられた直進案内突起14bが、固定環22における直進案内溝22dの前端部の規制壁部22eに押し付けられている。すなわち、群間付勢ばね34の付勢力が、第2レンズ群LG2の光軸方向位置を制御するカム構造(位置制御機構)を構成する部材である2群レンズ保持環8、カム環11、第1直進案内環14の順で伝達され、これらの各環状部材間に設けたカム構造におけるバックラッシュが除去されると共に、最終的に固定部材である固定環22の規制壁部22eによって付勢力を受ける構造となっている。
また、群間付勢ばね34によって3群移動環15は後方に押圧されており、3群用カムフォロア15cが、ヘリコイド環18の3群案内カム溝18eの後側の壁面に押し付けられている。これによりヘリコイド環18も後方に押圧され、ヘリコイド環18から突出するガイド突起18bが、固定環22の周方向溝22bの後側壁面である規制壁部22fに押し付けられている。すなわち、群間付勢ばね34の付勢力が、第3レンズ群LG3の光軸方向位置を制御するカム構造を構成する部材である3群移動環15、ヘリコイド環18の順で伝達され、これらの環状部材間に設けたカム構造(位置制御機構)におけるバックラッシュが除去されると共に、最終的に固定部材である固定環22の規制壁部22fによって付勢力を受ける構造となっている。
図7に、鏡筒収納状態、ワイド端およびテレ端における、ヘリコイド環18のガイド突起18bの位置を「R1」、「W1」および「T1」として示す。また、鏡筒収納状態とズーム域(撮影状態)における、第1直進案内環14の直進案内突起14bの位置を14b-R、14b-Zとして示す。同図から分かるように、収納状態では、直進案内突起14bは直進案内溝22dの後端部付近に位置し、ガイド突起18bがリード溝22c内に位置しており、それぞれ固定環22上の規制壁部22e、22fには接触していない。そして、収納状態からズーム域に移行すると、直進案内突起14bが直進案内溝22dの前端部まで移動され、ガイド突起18bは周方向溝22b内に進入し、群間付勢ばね34の付勢力によって、直進案内突起14bが規制壁部22eに押し付けられ、ガイド突起18bが規制壁部22fに押し付けられる。つまり、鏡筒収納状態から撮影状態になると、規制壁部22e、22fを付勢力の受け部としたバックラッシュ除去構造が機能するようになる。なお、撮影を行わない鏡筒収納状態では、撮影状態ほどの厳密な光軸方向の精度管理が要求されないため、規制壁部22e、22fによって群間付勢ばね34の付勢力を受けない構造になっていても問題はない。
このように、第2レンズ群LG2の光軸方向の位置制御を行うカム構造と、第3レンズ群LG3の光軸方向の位置制御を行うカム構造のそれぞれに関して、ひとつの群間付勢ばね34で、全ての部材間のバックラッシュを除去する構成としたので、多数のばね部材を必要とせず、部品点数が少なく構成の簡略化を達成することができる。
なお、固定環22上では、前方の第2レンズ群LG2に作用する前方への押圧力を最終的に受ける規制壁部22eよりも、後方の第3レンズ群LG3に作用する後方への押圧力を最終的に受ける規制壁部22fの方が、光軸方向における前方位置に形成されている。言い換えれば、群間付勢ばね34の前方押圧力を受ける規制壁部22eと、後方押圧力を受ける規制壁部22fが、固定環22上では互いの前後位置関係を逆にして配置されている。その結果、2群レンズ保持環8と3群移動環15に対して離間方向へ作用する群間付勢ばね34の付勢力が、固定環22上では、直進案内突起14bとガイド突起18bを接近させる方向に作用しており、群間付勢ばね34の付勢力の作用方向が、最終的に逆転して固定環22に入力される態様となっている。このような構造にすることで、固定環22の規制壁部22e、22fの間には圧縮方向の荷重が作用する。レンズ鏡筒の構成部材の材料として多用される合成樹脂は、圧縮方向荷重には比較的高い強度を有するため、このように圧縮方向の荷重が作用する構成にすることで、規制壁部22e、22fを接近させて小型化を図りやすくなる。
続いて、第3レンズ群LG3の収納構造の詳細を説明する。図16に示すように、3群移動環15は、環状フランジ部15aの前部に筒状部15dを有し、筒状部15dの内側には環状フランジ部15aと略平行をなす中間フランジ部15eが設けられており、該中間フランジ部15eに前後方向への貫通開口15fが形成されている。中間フランジ部15eの前面側にシャッタユニット20が固定されている。中間フランジ部15eの後面側には、回動規制ピン15gが突設されており、3群移動環15の軸線を挟んで該回動規制ピン15gと反対側の径方向位置には、収納空間15hが形成されている。収納空間15hは、中間フランジ部15eの貫通開口15fに連通して筒状部15dを径方向に貫通する貫通穴部15h1と、貫通穴部15h1に連通し、環状フランジ15aの内径側の一部を切り欠いて形成された半円状凹部15h2とからなっている。3群レンズ枠16を軸支する揺動中心軸17は、その一端部(前端部)が3群移動環15に形成した軸孔15i(図16)に支持され、他端部(後端部)が軸支持部材24(図5)に支持されている。軸支持部材24は、固定ビス25によって3群移動環15に固定されている。
図14に示すように、3群レンズ枠16は、第3レンズ群LG3を保持するレンズ保持筒16b、該レンズ保持筒16bの径方向に延びる揺動アーム16c、揺動アーム16cの先端に設けた筒状の揺動軸受部16d、レンズ保持筒16bから揺動アーム16cとは異なる径方向へ延出されたストッパ係合突起16eを有している。揺動軸受部16dには、第3レンズ群LG3の光軸と平行な方向に貫通する軸孔が形成されていて、この軸孔に対して揺動中心軸17が挿入されている。また、揺動軸受部16dの近傍に、揺動中心軸17の軸中心から偏心させてカム係合突部16fが設けられ、このカム係合突部16fの後端に前述のカム面16aが形成されている。3群レンズ枠16は、レンズ保持筒16bの大部分が中間フランジ15eの後方空間に位置するような態様で3群移動環15内に支持されており、レンズ保持筒16bの前端部のみが貫通開口15fに進入している(図2、図3)。
以上の支持構造により、3群レンズ枠16は、揺動中心軸17を中心として、3群移動環15に対して所定の範囲で回動することができる。具体的には、ストッパ係合突起16eが回動規制ピン15gに当接する上方への回動端(図17、図19、図20)と、これと反対の下方への回動端(図18、図21、図22)の間が3群レンズ枠16の可動範囲となる。揺動中心軸17は撮影光軸Z1と平行な軸であるから、3群レンズ枠16の回動に伴って第3レンズ群LG3は、その光軸を撮影光軸Z1と平行とした状態を維持しつつ、中間フランジ15eの後方空間内を移動される。
図15に示すように、カム突起21aは、AFレンズ枠51と重ならない位置に突設されており、AFレンズ枠51が後方移動端まで移動すると、カム突起21aの先端部がAFレンズ枠51よりも前方に突出する。前述の通り、カム突起21aの先端部には撮影光軸Z1に対して傾斜するカム面21bが形成され、該カム面21bに連続するカム突起21a一方の側面には、撮影光軸Z1と平行な軸外位置保持面21cが形成されている。
以上の構造により、第3レンズ群LG3は次のような態様で動作する。前述の通り、撮像センサ保持ユニット21に対する3群移動環15の光軸方向位置は、ヘリコイド環18の3群案内カム溝18eの軌跡による前後移動と、該ヘリコイド環18自身の前後移動とによって制御される。但し、鏡筒収納状態では、3群用カムフォロア15cは、3群案内カム溝18eのうち周方向溝部18e2に位置しており、ヘリコイド環18が繰出方向に回転しても該ヘリコイド環18に対して光軸方向へ相対移動はせず、ヘリコイド環18と一体的に前方へ移動される。そして、ヘリコイド環18が定位置回転する状態になると、3群案内カム溝18eの移動制御溝部18eに案内されて、さらに前方へ移動される。端的に言えば、3群移動環15は、図3に示すテレ端付近では撮像センサ保持ユニット21から離間した前方位置にあり、図2のワイド端では、テレ端よりも後退するがまだ撮像センサ保持ユニット21から離間しており、図1の鏡筒収納状態で撮像センサ保持ユニット21に最も接近する。そして、以下に述べるように、このズーム域(ワイド端)から収納位置までの3群移動環15の後退動作を利用して、第3レンズ群LG3を撮影光軸Z1上から退避させる。
ワイド端からテレ端までのズーム領域では、トーションばね39の付勢力でストッパ係合突起16eを回動規制ピン15gに当接させることによって3群レンズ枠16の位置が一定に保たれており(図19、図20)、このとき第3レンズ群LG3の光軸は、図2および図3のように撮影光軸Z1と一致している。
撮影状態からカメラのメインスイッチをオフすると、AFモータ160が駆動され、AFレンズ枠51が後退されて撮像センサ保持ユニット21に接近し、図15に示す後方移動端に収納される。このとき、撮像センサ保持ユニット21に支持されたローパスフィルタLFおよび撮像センサ60と、AFレンズ枠51に支持された第4レンズ群LG4との間隔が狭まる。また、AFレンズ枠51が後方移動端に達すると、カム突起21aの先端部がAFレンズ枠51よりも前方に突出した状態となる。
続いて、ズームモータ150が鏡筒収納方向に駆動され、前述した鏡筒収納動作が行われる。図2に示すワイド端では、3群用カムフォロア15cは、3群案内カム溝18eの移動制御溝部18eから出て周方向溝部18e2内に入っており、ズームレンズ鏡筒5がワイド端を超えて収納方向に駆動されると、3群移動環15は、ヘリコイド環18と共に光軸方向後方へ移動し、撮像センサ保持ユニット21に接近する。3群レンズ枠16は3群移動環15共に後退し、やがてカム面16aがカム突起21aのカム面21bに当接する。カム面16a、21bは、光軸方向に接近するにつれて、揺動中心軸17を中心として3群レンズ枠16を図19および図20中の反時計方向へ回動させる分力を生じさせる形状のリード面である。したがって、カム面16a、21bが互いに当接した状態で3群レンズ枠16(3群移動環15)が後退すると、図21のように、3群レンズ枠16が、トーションばね39の付勢力に抗して、ストッパ係合突起16eを回動規制ピン15gから離間させる方向(レンズ保持筒16bが下降する方向)へ回動する。
そして、図22のように、第3レンズ群LG3の軸外位置に対応する位置まで3群レンズ枠16が回動すると、カム係合突部16fが、カム突起21aのカム面21bを乗り越えて軸外位置保持面21cに係合する。軸外位置保持面21cは撮影光軸Z1と平行な面であるから、カム係合突部16fが軸外位置保持面21cに係合する状態では、3群レンズ枠16に対して、さらなる軸外位置方向(退避方向)への移動分力が作用しなくなる。軸外位置保持面21cは同時に、トーションばね39の付勢力によって3群レンズ枠16が軸上位置へ向けて復帰回動するのを阻止し、3群レンズ枠16を軸外位置に保持させる。
図1に示すように、軸外位置に移動された3群レンズ枠16は、そのレンズ保持筒16bが、3群移動環15の収納空間15hに進入し(貫通穴部15h1を貫通し、かつ半円状凹部15h2内に入り込み)、3群移動環15の筒状部15dよりも外径方向に突出する。3群移動環15の外側には、撮影光軸Z1に近い側から順に、2群レンズ保持環8と第2直進案内環10、カム環11、1群レンズ保持環19、先端外筒12などが設けられている。軸外位置における3群レンズ枠16のレンズ保持筒16bの外縁部は、先端外筒12と重なる位置まで達しており、これらの各鏡筒部材と3群レンズ枠16の干渉が生じないように、以下のような構造がとられている。
まず、2群レンズ保持環8には、その後端部側の一部に、径方向に貫通する切欠部8d(図5に一部を示す)が形成されていて、第2直進案内環10の後端フランジ部10aの内周部には半円状凹部10e(図5)が形成されている。また、1群レンズ保持環19の後端部には、1群用カムフォロア15cの形成領域を避ける態様で、切欠部19d(図6、図12)が形成されている。さらに、先端外筒12の後端部付近の内周部には、半円状凹部12d(図6)が形成されている。切欠部8d、19dは、鏡筒収納状態で3群移動環15の貫通穴部15h1と重なる(径方向に連通する)位置関係にあり、3群レンズ枠16のレンズ保持筒16bの貫通(外径方向への突出)を許す大きさおよび形状とされている。半円状凹部10e、12dは、正面視した状態で3群移動環15の半円状凹部15h2と重なる位置関係にあり、半円状凹部15h2と同様に、3群レンズ枠16のレンズ保持筒16bの進入を許す大きさおよび形状とされている。
図17や図18に示すように、カム環11は、後端フランジ部11cと小径フランジ部11dの前部に筒状部11gを有し、この筒状部11gの内周面に2群案内カム溝11bが形成され、外周面に第1リードカム溝11eと第2リードカム溝11fが形成されている。そしてカム環11には、これらカム溝と重ならない領域で筒状部11gを径方向に貫通する貫通穴部11h1と、該貫通穴部11h1に連通し、各フランジ部11c、11dの内径側の一部を切り欠いて形成された半円状凹部11h2とからなる収納空間11hが形成されている。貫通穴部11h1は、鏡筒収納状態で3群移動環15の貫通穴部15h1と重なる(径方向に連通する)位置関係にあり、かつ半円状凹部11h2は、正面視した状態で3群移動環15の半円状凹部15h2と重なる位置関係にある。貫通穴部11h1と半円状凹部11h2は、3群レンズ枠16のレンズ保持筒16bの進入を許す大きさおよび形状とされている。
これにより、鏡筒収納状態では、カム環11と3群移動環15においては、収納空間11h、15hに対して3群レンズ枠16のレンズ保持筒16bが進入し(カム環11の収納空間11hへの進入については図18、図22を参照)、2群レンズ保持環8、第2直進案内環10、1群レンズ保持環19、カム環11および先端外筒12においては、それぞれの切欠部(8e、19d)や半円状凹部(10e、12d)に対して3群レンズ枠16のレンズ保持筒16bが進入し(図1参照)、これらの干渉防止用の逃げ構造を備えない場合に比して、鏡筒の径サイズを小さくすることが可能となっている。図1から分かる通り、鏡筒収納状態では、レンズ保持筒16bが、第4レンズ群LG4や撮像センサ60の保持枠のすぐ外側に位置しており、レンズ保持筒16bの位置をこれ以上撮影光軸Z1に近づけることができない。そのため、3群移動環15やその外側の各鏡筒部材に、上記のような収納空間や切欠や半円状凹部を備えないものと仮定すると、軸外位置に退避された状態のレンズ保持筒16bとの干渉を回避するべく、それぞれの鏡筒部材の内径サイズを大きくする必要がある。これに対し、本実施形態では、鏡筒部材の大径化を伴わずに、先端外筒12と重なる径方向位置までレンズ鏡筒16bを退避させることができる。よって、スペース効率に優れた収納状態が得られ、鏡筒全体の小径化を図ることができる。
2群レンズ保持環8、第2直進案内環10、1群レンズ保持環19、カム環11および先端外筒12はそれぞれ、3群移動環15と同じく、光軸方向に直進案内された直進部材である。よって、鏡筒収納状態で3群移動環15の収納空間15hと重なるように、切欠部8d、19dや半円状凹部10e、12dの形成位置を設定しておけばよい。一方、これら直進部材とは違い、カム環11は回転部材であるので、3群レンズ枠16との干渉を避けるために、レンズ保持筒16bが収納空間11hに進入していくとき、およびレンズ保持筒16bが収納空間11hから出ていくときには、カム環11側の収納空間11hと、3群移動環15側の収納空間15hとの回転方向位置が確実に対応していることが必要となる。本実施形態のズームレンズ鏡筒5では、収納状態から鏡筒繰出動作を行う際、その最初の一定期間は、ヘリコイド環18が回転してもカム環11を回転させない空転機構を設けてある。この空転機構の概略は前述したが、繰り返すと、鏡筒収納状態では、カム環11に設けたガイドローラ26が、ローラ係合溝18fの周方向溝部18f2内に位置していて、ヘリコイド環18の回転がガイドローラ26を経由してカム環11に伝わらないようになっている。
図23から図27は、カム環11に対する空転機構の動作態様を示している。これらの図におけるローラ案内カム溝14e内の「R2」、「W2」、「T2」は、鏡筒収納時、ワイド端、テレ端におけるガイドローラ26の位置を表している。図23は鏡筒収納状態を表しており、ガイドローラ26は、ヘリコイド環18に形成したローラ係合溝18fの周方向溝部18f2のうち、回転伝達溝部18f1との接続箇所から遠い側の周方向端部付近に位置している。また、ガイドローラ26は、第1直進案内環14のローラ案内カム溝14eのうち、光軸方向後方の端部付近の収納用位置R2に位置している。この収納用位置R2を含むローラ案内カム溝14eの収納用領域は全て、第1直進案内環14の軸線方向と周方向のいずれに対しても傾斜する、軸方向成分を有する傾斜溝であって、ガイドローラ26の光軸方向の前後位置は、ローラ係合溝18fの周方向溝部18f2における光軸方向前後の対向壁面によって規定される。より詳細には、前述した群間付勢ばね34による付勢構造によって、ガイドローラ26は周方向溝部18f2の前側の壁面に押し付けられていて、この前側壁面を基準面として、カム環11の光軸方向位置が定まっている。そして、周方向溝部18f2には、前側壁面に対向する後側壁面も全域に亘って形成されているから、ガイドローラ26は前方のみならず後方にも移動規制される。この鏡筒収納状態では、図18および図22に示すように、第3レンズ群LG3が軸外位置に保持されており、カム環11の収納空間11h内に3群レンズ枠16のレンズ保持筒16bが進入している。
図23の収納状態から繰出方向にヘリコイド環18が回転すると、周方向溝部18f2内におけるガイドローラ26の位置が変化し、やがて図24のように、回転伝達溝部18f1との接続箇所近傍に達する。一方、ローラ案内カム溝14eに対するガイドローラ26の位置は変化しておらず、該ローラ案内カム溝14eの収納用位置R2にガイドローラ26が保持され続ける。この図23から図24に示す区間では、ガイドローラ26に対してヘリコイド環18の回転力が伝達されず、カム環11は、ヘリコイド18a、22aによって回転繰出されるヘリコイド環18と共に、回転せずに光軸方向前方へ移動される。また、図23から図24に示す区間では、3群移動環15の3群用カムフォロア15cは、ヘリコイド環18に形成した3群案内カム溝18eのうち周方向溝部18e2に係合しており、3群移動環15は、ヘリコイド環18およびカム環11と共に光軸方向前方へ移動される。そして、3群移動環15がある程度前方へ移動されると、3群レンズ枠16のカム係合突部16fが撮像センサ保持ユニット21のカム突起21aから離れ、図21に示すように、トーションばね39の付勢力によって、第3レンズ群LG3の軸上位置へ向けて3群レンズ枠16が回動を開始する。図21と図22の比較から分かる通り、3群レンズ枠16のレンズ保持筒16bが収納空間11hから離脱するまで、カム環11は回転されておらず、よってレンズ保持筒16bとの干渉が起こらない。
ヘリコイド環18がさらに繰出方向に回転され、図25のように、ローラ係合溝18fの回転伝達溝部18f1と周方向溝部18f2の境界部までガイドローラ26が達すると、回転伝達溝部18f1の壁面(図25中の右側の壁面)によって、ヘリコイド環18の繰出方向回転がガイドローラ26に伝えられるようになる。すると、カム環11が回転を開始し、図26に示すように、ガイドローラ26がローラ案内カム溝14eの収納用位置R2から離れて前方へ移動される。このローラ案内カム溝14eの傾斜軌跡によって、ガイドローラ26がローラ係合溝18fの回転伝達溝部18f1に引き込まれる(前方に移動される)。これ以降は、ガイドローラ26が回転伝達溝部18f1に係合した状態が維持され、再び鏡筒収納動作を行うまで、カム環11は常にヘリコイド環18と共に回転される。図20に示すように、カム環11が回転を開始したときには、3群レンズ枠16は既に収納空間11hから離れて軸上位置側へ移動されているので、カム環11と3群レンズ枠16が干渉することはない。
図27はワイド端まで繰り出された状態を示している。このときカム環11は、図19に示すように、収納用の回転制限された角度位置(図21、図22)から所定角度回転されていて、また図2に示すように、ローラ案内カム溝14eに案内されることによって、ヘリコイド環18に対して前方へ繰り出されてもいる。ヘリコイド環18をさらに繰出方向に回転させることにより、ローラ案内カム溝14eのワイド端位置W2からテレ端位置T2までのズーム域でガイドローラ26が案内され、カム環11は回転しながら光軸方向にも前後移動される。
鏡筒収納動作時には、カム環11は以上と逆に動作される。ヘリコイド環18と共にカム環11が収納方向(図19の矢印方向)に回転され、ガイドローラ26がローラ案内カム溝14e内を収納用位置R2付近まで案内されると、該ガイドローラ26が、ローラ係合溝18fにおける回転伝達溝部18f1の後端に達する(図25)。すると、ヘリコイド環18のさらなる収納方向回転に応じて、ガイドローラ26がローラ係合溝18fの周方向溝部18f2に入り(図24)、これ以降は、カム環11は回転されずに、周方向溝部18f2による光軸方向位置制御を受けつつ、ヘリコイド環18と共に後退する(図23)。3群レンズ枠16は、カム環11が回転を停止する直前のタイミング(図20)で、カム突起21aによって軸上位置から軸外位置への回動を開始され、カム環11が回転を停止したとき(図21)には、まだ軸外位置に達していない。このカム環11の回転停止状態で、カム環側の収納空間11hと、3群移動環15の収納空間15hの周方向位置が一致するように、カム環11の取付角度が設定されている。したがって、図22のようにレンズ保持筒16bが収納空間11hに進入していくときには、該収納空間11hと3群移動環15の収納空間15hが連通した状態が維持され、レンズ保持筒16bとカム環11との間で干渉が生じるおそれがない。
なお、少なくともレンズ保持筒16bが収納空間11h内に進入していくときにカム環11の回転が停止しているという条件を満たしていれば、鏡筒収納状態においてカム環11が回転を停止するタイミングと、3群レンズ枠16の軸外位置への退避動作開始のタイミングは、任意に設定することができる。
このように、鏡筒収納動作の最終段階(3群レンズ枠16が軸外位置への退避動作を行う段階)でカム環11を回転させないようにする空転機構を設けたため、退避動作する3群レンズ枠16の一部がカム環11の収納空間11h内に進入するときに、3群レンズ枠16とカム環11の間で干渉が起こらず、故障のおそれがない。特に、本実施形態では、カム環11が回転停止状態になるタイミングや位置のばらつきが生じにくくなっており、高精度な動作が達成されている。
本実施形態との比較として、特開2006-53444号公報で採用されているカム環の空転構造の概略を、図35と図36を参照して説明する。この比較例では、直進案内環14′に形成したローラ案内カム溝14e′のうち、収納用位置付近が、直進案内環14′の軸線と直交する周方向溝部R2′となっている点と、ヘリコイド環18′に形成したローラ係合溝18f′のうち、回転伝達溝部18f1′に続く周方向溝部18f2′の後部が開放されている点が異なっている。撮影状態から鏡筒収納動作を行っていくと、ヘリコイド環18′の回転に伴い、ローラ案内カム溝14e′に案内されて、ガイドローラ26′が回転伝達溝部18f1′内を後方に移動していく。図35のようにガイドローラ26′が回転伝達溝部18f1′の後端部から出た時点で、ヘリコイド環18′の収納方向回転がガイドローラ26′に伝達されなくなり、ガイドローラ26′を備えたカム環(不図示)は回転を停止する。そして、ヘリコイド環18′の収納方向回転に伴い、周方向溝部18f2′内でのガイドローラ26′の位置が相対的に変化し、図36のようにガイドローラ26′が周方向溝部18f2′の周方向端部に当て付いた状態となる。鏡筒収納動作が完了するときには、この周方向溝部18f2′の周方向端部がガイドローラ26′を図36の左方向に若干押し込むことで、ガイドローラ26′、すなわちカム環の最終的な収納用の角度位置が定まる。
この比較例の構造では、ヘリコイド環18′からガイドローラ26′に対して収納方向の回転力伝達が解除された図35の状態から、収納動作が完了する図36の状態に至るまでの間、ヘリコイド環18′(ローラ係合溝18f′の周方向溝部18f2′)と直進案内環14′(ローラ案内カム溝14e′の周方向溝部R2′)のいずれによっても、ガイドローラ26′を備えたカム環の回転方向の積極的な位置制御が行われていない。ヘリコイド環18′による回転力伝達は解除されているから、カム環は回転されないが、回転方向の位置が変位する余地は残されており、最終的に周方向溝部18f2′の周方向端部がガイドローラ26′に当て付くまでは、カム環の回転方向の厳密な位置決めがなされていない。そのため、このカム環に、先の実施形態と同様の退避光学要素の収納空間を設けようとした場合、カム環の停止位置のばらつきを見込んで、大きめの収納空間を形成する必要がある。レンズ鏡筒の小型化のためには、このような収納空間をできるだけ小さくすることが望まれる。また、先の実施形態のように、カム環の回転動作によってレンズバリヤ機構の開閉を制御しようとした場合、カム環の停止位置のばらつきによってバリヤの動作不良が起きないように、ある程度のマージンをとった構成としなけばならなかった。レンズ鏡筒の小型化や、動作の精度やレスポンスを追求した場合、このような安全マージンも、できるだけ小さい方が好ましい。すなわち、鏡筒収納位置付近でカム環に対して回転伝達をさせない空転機構を構成するにあたり、比較例のように単に回転伝達を遮断するのみならず、回転伝達が遮断されたときのカム環の回転方向位置も厳密に定める構成が望まれていた。
先に説明したように、本実施形態では、ガイドローラ26がローラ係合溝18fの周方向溝部18f2内に位置してカム環11への回転伝達が遮断されている間(図23、図24)は、ガイドローラ26は、第1直進案内環14のローラ案内カム溝14eの収納用位置R2に係合している。このローラ案内カム溝14eの収納用位置R2は、比較例のローラ案内カム溝14e′の周方向溝部R2′と異なり、周方向溝部の軸線方向と周方向のいずれに対しても傾斜した傾斜溝であるため、該ローラ案内カム溝14eの側面(対向壁面)によって、ガイドローラ26の回転方向位置を厳密に定めることができる。そして、ガイドローラ26は同時に周方向溝部18f2に係合して光軸方向移動が規制されているから、ローラ案内カム溝14e内でのガイドローラ26の位置が変化することもない。よって、回転伝達溝部18f1からガイドローラ26への回転伝達が解除されたときには、カム環11の回転方向位置および光軸方向位置が必ず厳密に制御され、収納位置付近でカム環11が不安定な状態になることがない。その結果、収納空間11hを最小限の大きさとすることができ、また、カム環11とレンズバリヤ機構の間に確保する安全マージンを最小にするこができ、レンズ鏡筒の小型化や、動作精度の向上を図ることが可能となった。
また、ズームレンズ鏡筒5は、第1レンズ群LG1とレンズバリヤ機構の関係において、次のような特徴を備えている。この種のレンズバリヤ機構の前提として、バリヤ羽根が閉じるときには、最も前方のレンズ群(本実施形態では第1レンズ群LG1)と干渉しない光軸方向位置に位置されていなければならない。実際に、本実施形態のズームレンズ鏡筒5では、図1や図32に示すように、鏡筒収納状態において、内側バリヤ羽根45と外側バリヤ羽根46のいずれも第1レンズ群LG1の前方空間に進出しており、第1レンズ群LG1との干渉は生じていない。一方、特に広角寄りの焦点距離をもつズームレンズにおいては、バリヤの開口部によって光線がけられないように、撮影状態において最も前方のレンズ群をバリヤ側に繰り出すようにしたものがある。本実施形態のズームレンズ鏡筒5がこのタイプであり、図2、図3および図33に示すように、第1レンズ群LG1が、その一部をバリヤ台枠41の撮影開口41aと重なる位置まで進入させるように、レンズバリヤ機構に対して相対的に前方へ繰り出されている。このような第1レンズ群LG1とレンズバリヤの相対移動は、レンズバリヤ機構を保持する先端外筒12と、第1レンズ群LG1を保持する1群レンズ保持環19との位置制御によって行われている。
図31は、先端外筒12と1群レンズ保持環19の相対位置を制御する、カム環11の外周面上に形成される第1リードカム溝11eと第2リードカム溝11fを拡大して示したものである。同図における「R3」と「R4」はそれぞれ、鏡筒収納時における第1リードカム溝11e内でのリード突起12cの位置と、第2リードカム溝11f内での1群用カムフォロア19cの位置を示している。同様に、「W3」、「W4」はズーム域のうちのワイド端でのリード突起12cと1群用カムフォロア19cの位置、「T3」、「T4」はテレ端でのリード突起12cと1群用カムフォロア19cの位置を示している。
図31から分かるように、第2リードカム溝11fは、光軸方向位置の異なる一対がペアをなしており、該ペアのうち、後方の第2リードカム溝(ズーム域用リード溝)11f-Bには、収納用位置R4を含む後方一部領域が存在せず、前方の第2リードカム溝(レンズ群収納用リード溝)11f-Aには、テレ端位置T4を含む前方一部領域が存在していない。しかし、一方の第2リードカム溝11fについて存在していないカム溝領域については、ペアをなす他方の第2リードカム溝11fが補完していて、常にいずれかの第2リードカム溝11fに1群用カムフォロア19cが係合しているので、第2リードカム溝11fによる位置制御はいずれの状態でも維持される。また、ワイド端位置W4付近では、一対の第2リードカム溝11f-A、11f-Bの両方に1群用カムフォロア19cが係合しているが、当該領域では前側の第2リードカム溝11f-Aの溝幅が広くなっており、1群用カムフォロア19cに対する位置制御は、通常の溝幅である後方の第2リードカム溝11f-Bによって行われる。すなわち、ワイド端からテレ端までのズーム域では、後方の第2リードカム溝11f-Bが、1群用カムフォロア19cに精密に係合して位置制御を行い、収納位置では逆に、前方の第2リードカム溝11f-Aが1群用カムフォロア19cの位置を制御する。換言すれば、後方の第2リードカム溝11f-Bが、ズーム域用のリードカム溝を構成し、前方の第2リードカム溝11f-Aが、収納位置用のリードカム溝を構成している。
以上のように前後一対でペアをなす第2リードカム溝11fは、図10や図31のようにカム環11を展開した状態で直線状となる、いわゆるリード溝として形成されている。この前後ペアの第2リードカム溝11fの間の光軸方向位置に位置する第1リードカム溝11eは、第2リードカム溝11fと平行をなす直線状の前後のリード溝部(第1のリード溝部、ズーム域用リード溝部)K1とリード溝部(第2のリード溝部、外筒収納用リード溝部)K2を差動区間(差動溝部)K3で接続した、クランク状の軌跡となっている。差動区間K3は、カム環11の回転方向(軸線と直交する周方向)へ延び、軸方向成分を含まない溝部である。第1リードカム溝11eに係合するリード突起12cは、リード溝部K1、K2の形成方向と平行な一対のリード面12c1と、差動区間K3の形成方向と平行な一対の周方向平面12c2とを有する多角柱状の突起である。第1リードカム溝11eのうち前方のリード溝部K1は、リード突起12cの一対のリード面12c1に対応する通常の溝幅であり、後方のリード溝部K2は、これより広い溝幅である。後方のリード溝部K2の後端部は、カム環11の後端面に開放されており、この後端開放部の溝幅はさらに広くなっている。後述するように、前方のリード溝部K1は、ワイド端からテレ端までのズーム域において、リード突起12cに精密に係合して位置制御するズーム域用リード溝部として機能し、後方のリード溝部K2は、リード突起12cの収納用位置を管理する収納用リード溝部として機能する。
鏡筒収納状態では、リード突起12cは、第1リードカム溝11eの後方のリード溝部K2の後端開口部付近に位置している。この収納用位置R3にあるリード突起12cと、収納用位置R4にある1群用カムフォロア19c(後側の第2リードカム溝11f-Bに係合する後側の1群用カムフォロア19c)との光軸方向間隔を図31においてD1で表す。このとき、1群レンズ保持環19に保持された第1レンズ群LG1と、先端外筒12に保持されたレンズバリヤ機構のバリヤ羽根45、46は、図32のように、光軸方向にオーバーラップしない位置関係にある。
鏡筒の繰り出しに伴ってカム環11が前述の無回転(空転)状態からヘリコイド環18との連動回転状態に切り替わると、リード突起12cと1群用カムフォロア19cは、それぞれのリードカム溝11e、11f内を前方に移動される。リード突起12cについては、両側のリード面12c1が後方のリード溝部K2の案内を受けてしばらく進むと、差動区間K3に入り、前後の周方向平面12c2が該差動区間K3の壁面に当接するようになる。すると、カム環11の繰出方向回転に応じて、リード突起12cが差動区間K3内を周方向に移動され、該カム環11に対する先端外筒12の光軸方向移動が生じない状態になる。一方、1群用カムフォロア19cは、第2リードカム溝11fに沿う線形の軌跡で移動され続けるため、先端外筒12に対して1群レンズ保持環19が光軸方向前方へ相対的に繰り出される差動が生じる。カム環11の繰出方向回転が続くと、リード突起12cが差動区間K3から出て前方のリード溝部K1に入り、再び両側のリード面12c1によって案内を受ける状態となる。リード溝部K1の溝幅は、後方のリード溝部K2の溝幅よりも狭く、収納状態のときよりもリード突起12cを精密に案内する。そして、リード突起12cと1群用カムフォロア19cがそれぞれのワイド端位置W3、W4に達したときには、互いの光軸方向間隔D2が、鏡筒収納状態での間隔D1から変化している。つまり、このD1とD2の差分だけ、1群レンズ保持環19が先端外筒12に対して前方に相対移動されており、その結果、図32に示すように、第1レンズ群LG1がバリヤ羽根45、46やバリヤ台枠41と重なる位置まで進出し、レンズバリヤによって光線がけられるおそれがなくなる。なお、第1リードカム溝11eの差動区間K3によって先端外筒12と1群レンズ保持環19の相対移動が生じる段階では、レンズバリヤ機構におけるバリヤ羽根45、46の開き動作は既に完了しているため、第1レンズ群LG1が前方に繰り出されても、バリヤ羽根45、46と干渉することはない。そして、ワイド端位置W3、W4からテレ端位置T3、T4の間のズーム域では、カム環11の回転に応じて先端外筒12と1群レンズ保持環19がリニアに移動され、第1レンズ群LG1とレンズバリヤ機構の位置関係は変化しない。このズーム域では、1群付勢ばね23の付勢力によって、リード突起12cと第1リードカム溝11e(前方リード溝部K1)の間と、1群用カムフォロア19cと第2リードカム溝11fの間のバックラッシュがそれぞれ除去される。
鏡筒収納動作時には、以上の繰出時と逆に、リード突起12cが差動区間K3を通る間に、レンズバリヤ機構に対して第1レンズ群LG1を光軸方向後方に引き込ませる方向の相対移動が、先端外筒12と1群レンズ保持環19の間に生じる。よって、鏡筒収納状態では、図32のように、レンズ羽根45、46が第1レンズ群LG1の前方を閉じて保護することが可能となる。
以上のように、カム環11の外周面上に形成した第1リードカム溝11eと第2リードカム溝11fの軌跡を異ならせることによって、レンズバリヤ機構と第1レンズ群LG1の相対移動を実現している。但し、光学設計上は、第1レンズ群LG1の移動軌跡は、第2リードカム溝11fのような線形軌跡とはなっておらず、図34にM1で示す非線形の軌跡となっている。なお、図34では、横軸がズーム域におけるカム環11の回転角、縦軸が、ワイド端時の位置を基準とした第1レンズ群LG1の光軸方向の移動距離を示している。前述の通り、第2リードカム溝11fの軌跡M2は、回転角あたりの移動量が一定の線形の軌跡である。そして、この線形の第2リードカム溝11fを用いつつ、第1レンズ群LG1に非線形の移動軌跡M1を与えるべく、カム環11自体が光軸方向に非線形の軌跡で移動されるように制御されている。具体的には、カム環11のガイドローラ26が係合する第1直進案内環14のローラ案内カム溝14eの軌跡M3と、第2リードカム溝11fの線形軌跡M2との合成軌跡によって、第1レンズ群LG1の移動軌跡M1を実現するように構成されている。図9に示すように、ローラ案内カム溝14eは、収納用位置R2からワイド端位置W2に至るまでの領域では、直線状のリード形状を含んでいるが、ワイド端位置W2からからテレ端位置T2までのズーム域は、図34のM3に対応する非線形軌跡となっている。
このように、第1レンズ群LG1を非線形の移動軌跡M1で移動制御するに際して、カム環11上には線形軌跡の第2リードカム溝11fを形成し、非線形成分を、カム環11とは別部材である第1直進案内環14のローラ案内カム溝14eに担当(補完)させることによって、スペース効率や動作精度において優れた効果が得られる。例えば、カム環11の外周面上に形成されるカム溝を、第2リードカム溝11fに代えて、実際の移動軌跡M1をそのままトレースした形状に構成したとする。この仮想のカム溝(M1)は、ワイド端から一旦光軸方向後方に変位して光軸方向に戻るJ字状をなしており、かつ単独で全ズーム域用の移動量を与えなくてはならないので、仮想のカム溝を形成するのに必要な光軸方向スペースが大きくなり、カム環の光軸方向長さが長くなってしまう。また、この仮想のカム溝(M1)は、カム環の回転方向に対する倒れ角が大きいため、カムフォロアをガイドするときのカム環の回転抵抗が大きくなってしまう。加えて、本実施形態のカム環11のように、ひとつの周面上に異なる機能を有する複数のカム溝を形成しようとした場合には、仮想のカム溝(M1)のような非線形カム溝であると、同一周面上の他のカム溝と干渉しやすく、カム環の小型化を図りつつ効率的に複数種のカム溝を配置することが難しい。
これに対し、実施形態のカム構造によれば、以上のような問題を解決することができる。すなわち、第1レンズ群LG1に所定の移動量を与えるカム溝が、カム環11と第1直進案内環14に分けて配置されているので、個々の部材が請け負う移動量を小さくすることができる。カム環11について言えば、第1レンズ群LG1の必要な移動軌跡を単独で実現するカム溝(M1)を形成するよりも、光軸方向のサイズを小さくすることが可能になる。また、第1レンズ群LG1の制御用としてカム環11に形成される第2リードカム溝11fと第1直進案内環14に形成されるローラ案内カム溝14eはそれぞれ、単独で実現したカム溝(M1)に比べてカム環回転方向における傾斜が小さく、摺動抵抗を軽減することができると共に、精度の高い位置制御が可能となる。さらに、カム環11の外周面上に形成する2種類のカム溝を、線形を基本形状とする第1リードカム溝11eと第2リードカム溝11fとしたため、互いのリードカム溝11e、11fを極限まで接近させることが可能となっており、カム環11上でのスペース効率の向上(カム溝占有面積の低減)も達成されている。より詳細には、第1リードカム溝11eと第2リードカム溝11fにおいては、先に述べたように、前方のリード溝部K1と後側の第2リードカム溝11f-Bがそれぞれ、ワイド端からテレ端のズーム域でリード突起12c、1群用カムフォロア19cを精密に位置制御するズーム域用のリード溝を構成している。そして、第1リードカム溝11eにおいては、このズーム域用のリード溝部である前方のリード溝部K1が、収納位置用の後方リード溝部K2よりも長く、同じく第2リードカム溝11fにおいては、ズーム域用のリード溝部である後側の第2リードカム溝11f-Bが、収納位置用の前側の第2リードカム溝11f-Aよりも長くなっている。カム環11の外周面上では、これらの長いリード溝部であるリード溝部K1と第2リードカム溝11f-Bとが、互いに近接して配置されている。換言すれば、第1リードカム溝11eのリード溝部K1が、第2リードカム溝11f-Aよりも第2リードカム溝11f-Bに接近させて配置されている。これにより、各リードカム溝11e、11fを、互いに干渉させずに、限られたカム環11の周面スペースに効率よく配置することができた。
加えて、リード突起12cにおいては、一対の平行平面であるリード面12c1や周方向平面12c2を第1リードカム溝11eに対する当接面としたため、接触面積が大きく外力に対する強度を増すことができる。特に、リード突起12cを有する先端外筒12は、レンズ鏡筒の外観を構成する部材であるので、このように強度的に優れた構成であることが好ましい。