JP2009205971A - イオン照射装置 - Google Patents

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Abstract


【課題】イオン照射対象物品のイオン照射対象部分に全体的に均一に、効率よくイオン照射処理を施すことができる寿命の長いイオン照射装置を提供する。
【解決手段】電子源20A を物品Wのイオン照射対象部分の全体に臨むように設け、電子源20A におけるフィラメント2a、2a’、2a”は、電子源20A の全体にわたり不連続に複数段に分散並列配置する。フィラメントは、互いに逆向きの電流が流れるように平行又は略平行に接近する対部分をフィラメントの各端部寄りに含むように屈曲配置し、或いは、少なくとも一組の互いに隣り合うフィラメントについて、互いに逆向きの電流が流れるように相互に平行又は略平行に接近して対向する部分からなる対部分をフィラメントの両端部寄りに含ませる。かかる電子源から放出させた電子をチャンバ1内へ導入したガスに衝突させてプラズマを生成し、該プラズマ中のイオンを物品Wに照射する。
【選択図】図1

Description

本発明はイオン照射対象物品にイオンを照射するイオン照射装置、特に、真空チャンバ内において、通電による抵抗加熱により熱電子を放出するフィラメントを用いた電子源から放出させた電子を真空チャンバへ導入したガスに衝突させてプラズマ化し、該プラズマ中のイオンをイオン照射対象物品に照射するイオン照射装置に関する。
機械部品、工具、自動車部品などの物品への膜形成、イオン注入、表面改質などの処理は、一般的には、真空チャンバ内で行われることが多い。かかる処理のための一連のプロセスでは、物品の表面をクリーニングしたり、物品の表面を適度に荒らしたり、或いは物品の表面温度を上昇させる処理を伴うことが多々ある。
例えば、成膜プロセスにおいては、膜形成を行う前に、物品とそれに形成される膜との密着性をよくするために、物品表面に付着している汚れやゴミなどを除去したり、物品の表面を適度な粗さにすることによって物品と膜の接触面積を大きくしたり、或いは物品の表面温度を上昇させて膜を物品側に拡散させるようなことが行われている。
これらは、例えば、真空チャンバ内において、フィラメント電源からの通電による抵抗加熱により熱電子を放出するフィラメントを用いた電子源から放出させた電子を真空チャンバへ導入したガス(例えばアルゴンガスのような不活性ガス)に衝突させてプラズマを生成させ、該プラズマ中のイオンをイオン照射対象物品に照射するイオン照射装置を用いて行われる。
このタイプの従来のイオン照射装置では、電子源を構成するフィラメントが真空チャンバの片隅に配置されたり、或いは、物品のイオン照射対象部分から外れすぎたようなところに配置され、そのため物品のイオン照射対象部分全体への均一なイオン照射ができないことが多かった。その結果、例えば、その後の物品への膜形成において形成される膜の密着性が不十分になるなどの不具合がでることが多かった。
そこでこのような問題を解決するために、特許第3930662号公報は、真空チャンバ内の長い範囲にわたる電子源を採用したり、イオン照射対象物品に対向するように該物品の長手方向に長い電子源を採用した、改良されたイオン照射装置を開示している。
かかる改良されたイオン照射装置例を図12(A)に示す。図12(B)は、このあと記すイオン照射対象物品Wとフィラメント2との配置関係を図12(A)において右側から見て示す図である。
図12(A)に示すイオン照射装置は真空チャンバ1、チャンバ内に配置された電子源を構成するフィラメント2、チャンバ内に設置された物品ホルダ3等を備えている。
真空チャンバ1は、図示省略の排気装置により排気ポート11から排気することでチャンバ内を所定のイオン照射圧に減圧維持することができ、また、ガス導入ポート12から照射イオンを生成させるためのガス、例えばアルゴンガスのような不活性ガスをチャンバ内へ導入できる。
イオン照射対象物品Wは本例では円柱形状のものでホルダ3に縦長に支持される。ホルダ3は図示省略の回転駆動装置により回転駆動可能であり、これによりイオン照射中、物品Wを回転させることができる。フィラメント2は上下の端子台21、22に支持され、両端子台間に上下方向に直線的に張設され、物品Wの長手方向(回転中心線方向)に長くのび、物品Wの全体に対向している。
イオン照射にあたっては、真空チャンバ1内を所定圧へ減圧維持しつつガス導入ポート12からガス(例えばアルゴンガス)を導入するとともに、電源PW1からフィラメント2に電流を流し、これによりフィラメントを抵抗加熱して熱電子を放出させる一方、チャンバ1にフィラメント2より高電位になるように放電用電源PW2から電圧を印加し、これによりフィラメント2から熱電子を引き出し、直流放電を発生させるとともに熱電子を導入ガスに衝突させてガスプラズマを発生させ、該ガスプラズマ中のイオンをバイアス電源PW3から負のバイアス電圧が印加された物品Wへ照射する。
以上のほか図13の装置も例示できる。図13のイオン照射装置は、図12(A)に示すイオン照射装置において、一本の長いフィラメント2に代えて、複数本のフィラメント2’を物品Wの長手方向にそって複数段に不連続に並列配置し、各フィラメント2’にフィラメント電源PW1’を接続したものである。各フィラメント2’は端子台21’、22’間に直線的に張設され、物品Wの長手方向に対し垂直な方向に延在している。その他の点は図12(A)のイオン照射装置と同構成である。
図12(A)、図13に示すいずれのイオン照射装置も、電子源を構成するフィラメントが真空チャンバの片隅に配置されたり、或いは、物品のイオン照射対象部分から外れすぎたようなところに配置されたイオン照射装置と比べると、物品のイオン照射対象部分全体へ均一にイオンを照射できる。
しかしながら、特許第3930662号公報に開示されているイオン照射装置や、図12(A)に示すイオン照射装置のように、電子源におけるフィラメントが連続的に長いイオン照射装置では、図12(A)に示すようにフィラメントを抵抗加熱する電源(フィラメント電源)として直流電源を採用すると、フィラメントが長くなりすぎることによって、抵抗加熱すべく該フィラメントへ印加する電圧が大きくなりすぎ、それによりフィラメントの負電位側と真空チャンバとの間の電位差が大きくなりすぎ、該フィラメントが真空チャンバ内に生成したプラズマからのスパッタリングを激しく受け、フィラメントの消耗が激しくなり、短時間で切れてしまう。
この問題を解消しようとして放電用電源の出力電圧を下げたり、或いはフィラメント電源の極性を反転させると、フィラメントの正電位側と真空チャンバとの間の電位差が小さくなりすぎ、熱電子を十分引き出せなくなる。その結果、フィラメントの正電位側近傍で生成したプラズマの密度が極端に低くなり、イオン照射対象物品に全体的に均一なイオン照射を行うことが困難になる。ひいては、例えばその後の成膜プロセスではイオン照射量の小さい領域で形成された膜部分は物品本体への十分な密着力が得られないなどの問題が生じる。
この点、図13に示すイオン照射装置では、フィラメント2’群が物品Wに全体的に臨むように複数段に並列配置されているので、それだけ物品W全体に均一にイオン照射することができ、また、図12(A)の装置の場合に比べれば、各フィラメント2’の長さが短いので、長い一本のフィラメントを採用する場合に比べると低電圧印加で加熱して電子を放出させ得るので、フィラメントの消耗が少ない。
しかし、図12(A)に示すイオン照射装置の場合は勿論であるが、図13に示すイオン照射装置においても、フィラメントから引き出される電子はフィラメント自身によって誘起される磁場によってトラップされるので、密度の高いプラズマを生成することは困難である。この間題を解決するために、フィラメントに流す電流を大きくして多数の熱電子を引き出そうとすると、フィラメントの動作温度が高くなりすぎ、フィラメントの蒸発が激しくなったり、また、スパッタリングを受ける場合のスパッタリング率が高くなって、結果としてフィラメントが短時間で切れてしまうという問題がある。
そこで特開平2006−147269号公報は、この問題を解決するためのイオン照射装置として次のものを開示している。
すなわち、電子源に用いている個々のフィラメントを互いに平行又は略平行な部分を含むものとし、そのフィラメントに電流が流れることで発生する磁界については、該互いに平行又は略平行な部分では互いにうち消しあい、そこから放出される熱電子が磁界にトラップされ難くし、それにより該フィラメントの動作電圧/電流が小さくても効率的に熱電子を引き出すことができるようにしたイオン照射装置である。また、低い電圧/電流で動作させることにより、プラズマからのスパッタリングを受けに難くし、フィラメントの長寿命化を実現している。
このイオン照射装置の例について図面を参照してさらに説明しておく。
図14(A)はこのタイプのイオン照射装置の1例を示している。図14(A)のイオン照射装置は、図12(A)に示すイオン照射装置において、フィラメント2に代え、3本のフィラメント2α、2α’、2α”を採用したものである。これら3本のフィラメントは上下方向3段に不連続に並列配置されており、各フィラメントはイオン照射対象物品Wの上下長手方向に対し水平方向に配置された端子台21α、22α間に張設されている。各フィラメントとイオン照射物品Wとの位置関係は平面から見ると、図14(B)に示すようになっている。
各フィラメントには、それぞれのフィラメントに対して設けたフィラメント電源PWαから通電されるようになっており、これらフィラメント等が電子源20αを構成している。
上段のフィラメント2αは、図14(C)にも示すように、その途中に、互いに接近して平行に上下方向に延びる部分a1、a1を含むように屈曲配置されている。下段のフィラメント2α”は、フィラメント2αと上下対称に屈曲配置されている。中段のフィラメント2α’は、図14(D)にも示すように、その途中に、互いに接近して平行となる上下方向に延びる部分a1’、a1’及びa2’、a2’を含むように屈曲配置されている。中間の部分a1’、a2’は上下に一直線になっている。各フィラメントは互いに平行となる上下方向に延びる部分を含む屈曲部分が物品Wに対向している。
上記以外の点は図12(A)に示すイオン照射装置と実質上同構成であり、図12(A)の装置におけるものと実質上同じ部品、部分等には該装置と同じ参照符号を付してある。
このイオン照射装置によると、真空チャンバ1内を所定圧へ減圧維持しつつガス導入ポート12からガス(例えばアルゴンガス)を導入するとともに、各電源PWαからフィラメント2α、2α’、2α”のそれぞれに電流を流し、これにより各フィラメントを抵抗加熱して熱電子を放出させる一方、チャンバ1に各フィラメントより高電位になるように放電用電源PW2から電圧を印加し、これによりフィラメント2α、2α’、2α”からそれぞれ熱電子を引き出し、直流放電を発生させるとともに該熱電子を導入ガスに衝突させてプラズマを発生させ、該プラズマ中のイオンをバイアス電源PW3から負のバイアス電圧を印加した物品Wへ照射して、物品Wの表面をクリーニングしたり、適度に荒らしたり、物品の表面温度を上昇させる等の処理を実施できる。
図14(A)のイオン照射装置によると、電子源20αにおけるフィラメント2α、2α’、2α”は、電子源20αの全体にわたり不連続に複数段に分散配列されているから、それだけ電子源20αの全体又ほぼ全体から均一状に電子を放出させることができ、しかも、電子源20αは物品Wのイオン照射対象部分の全体に臨むように設けられている。従って、該電子源から放出させた電子を真空チャンバ内導入ガスに衝突させてプラズマを形成するとき、該プラズマは物品Wのイオン照射対象部分の全体に均一状に臨むように生成し、かくして、該プラズマからイオン照射対象部分全体的に均一にイオンを照射することができる。
また、複数段に並列配置された複数本のフィラメント2α、2α’、2α”の一本一本は、図12(A)のように物品のイオン照射対象部分の全体に臨むように連続的に長く張設されている一本のフィラメントと比べると短くすることができ、それだけ個々のフィラメントに対する、抵抗加熱による熱電子放出のための(換言すれば、フィラメント動作温度を得るための)印加電圧は低く済み、それだけフィラメントの蒸発や、プラズマからのスパッタリング等によるフィラメントの消耗を抑制して、イオン照射装置を長寿命化できる。
さらに、電子源20αにおける各フィラメントは、既述のとおり相互に接近して平行な部分、すなわち、フィラメント2α、2α”ではa1とa1、フィラメント2α’ではa1’とa1’、a2’とa2’を含むように屈曲配置されている。従って、フィラメント電源PWαから電流をながすと、該相互に平行な部分のうち一方に流れる電流と他方に流れる電流とは互いに逆向きの流れとなり、それにより、それらの部分から生じる
熱電子は磁場にトラップされることが抑制される状態で十分に引き出される。
かくして、各フィラメントに印加する電圧をフィラメント消耗が抑制されるように低くしても、照射イオンを得るためのプラズマを高密度に形成することができ、ひいては、徒に長時間を要することなく、所定のイオン照射量で効率よく物品Wにイオン照射処理を施せる。
実際にイオン照射装置を用いる際には、何らかの都合で、例えば各部品の配置上、フィラメント支持端子台の間隔を大きくしなければならないという事態が生じることがあり得る。その場合、フィラメントはある程度長くしなければならなくなる。その場合でも各フィラメントは互いに平行又は略平行な部分からなる対部分を含むように屈曲配置すればよいが、その場合は、図15のイオン照射装置で例示されるように、複数段フィラメン2β、2β’、2β”の負極性側に該対部分を近づけるようにすればよい。
こうすることで、各フィラメントの互いに平行又は略平行な部分からなる対部分は図14(A)のイオン照射装置の場合と同等の放電電圧が印加され、効率的に熱電子を引き出すことができ、図14(A)のイオン照射装置の場合と同等の効果が得られる。
また、特開平2006−147269号公報には別の形態として、図16に示すイオン照射装置も開示されている。このイオン照射装置は、図14(A)のイオン照射装置において、フィラメント2α、2α’、2α”に代えて、フィラメント2γ、2γ’、2γ、2γ’を採用したものである。これら4本のフィラメントは上下方向4段に並列配置されており、各フィラメントはイオン照射装置対象物品Wの上下長手方向に対し水平方向に配置された端子台21γ、22γに張設されている。
各フィラメントには、それぞれのフィラメントに対して設けたフィラメント電源PWγから通電されるようになっており、これらのフィラメント等が電子源20γを構成している。
上側の互いに隣り合うフィラメント2γ、2γ’、下側の互いに隣り合うフィラメント2γ、2γ’はいずれも、互いに接近する相互に平行な部分を含むように屈曲配置されている。互いに接近する相互に平行な部分からなる各組が物品Wに対向している。
上側の互いに隣り合うフィラメント2γ、2γ’にはそれらに接続されたフィラメント電源PWγから互いに逆向きの電流が流されるようになっており、同様に、下側の互いに隣り合うフィラメント2γ、2γ’にはそれらに接続されたフィラメント電源PWγから互いに逆向きの電流が流されるようになっている。
上記以外の点は図14(A)に示すイオン照射装置と実質上同構成であり、図14(A)の装置と実質上同じ部品、部分等には同じ参照符号を付してある。
図16のイオン照射装置によると、上側及び下側それぞれの互いに隣り合うフィラメント2γ、2γ’における互いに接近した平行部分に互いに逆向きの電流が流されるので、フィラメント電流によって誘起される磁場は互いに打ち消しあい、従って、図14(A)のイオン照射装置の場合と同様にフィラメントから引き出される熱電子は磁場にトラップされ難くなり、フィラメント動作温度を得るためにフィラメントに印加する電圧を低くしても、効率的なプラズマ生成を行なうことができる。
また、フィラメント印加電圧を低くできることで、フィラメント、ひいてはイオン照射装置を長寿命化できる。さらに、図14(A)のイオン照射装置と同様、物品Wのイオン照射対象部分の全体にわたり均−にイオン照射できる。
この様に、複数のフィラメントにより相互に平行又は略平行な部分からなる対部分を作る場合にも、何らかの理由で端子台の間隔を大きくしなければならず、フィラメントをある程度長くしなければならないという事態が生じることがあり得る。
その場合でも、図17に示すように、相互に平行又は略平行な部分からなる対部分を、該対部分を提供している各フィラメントから見て、該フィラメントの負極側に近づけるように配置すれば、その対部分には、図16のイオン照射装置の場合と同等の放電電圧が印加され、効率的に熱電子を引き出すことができ、図16のイオン照射装置と同等の効果が得られる。
特許第3930662号公報 特開平2006−147269号公報
しかしながら、図15や図17に示すイオン照射装置のように、フィラメント中に、或いは隣り合うフィラメントにおいて、互いに接近する相互に平行又は略平行な部分からなり、それらに互いに逆向きの電流を流すことで発生する磁場が打ち消し合い、それにより効率よく熱電子を放出させ得る対部分が形成され、且つ、該対部分をフィラメントの負極性側端部寄りに位置させることで放電電圧を有効に作用させて効率良く熱電子を引き出せるようにしたイオン照射装置によると、フィラメントの負極性側部位は正極性側部位に比べて実質的な放電電圧が高くなるため、フィラメントの負極性側部位は正極性側部位に比べてプラズマからのスパッタリングを受けやすく、負極性側部位が正極性側部位よりも早く消耗してしまう。
そのため、図15や図17のように、各段のフィラメントが長いイオン照射装置の場合には、フィラメントの正極性側部位はあまり消耗していないのに、フィラメントの負極性側部位が消耗し、遂には断線して、該フィラメントが使えなくなってしまうことがある。
このような問題は、電子源がフィラメント自身の場合だけではなく、フィラメントに電流を流すことによって熱電子を引き出し、この熱電子を別途熱電子放出部材及び(又は)二次電子放出部材に衝突させて、それから熱電子及び(又は)二次電子を引き出すような方式の電子源や、フィラメントに電流を流すことによって熱電子を引き出し、この熱電子を真空チャンバとは仕切られた予備プラズマ室に導入したガスに衝突させて予備プラズマを生成し、予備プラズマから電子を引き出すような方式の電子源の場合にも同様に生じる。
そこで本発明は、真空チャンバ内において、通電による抵抗加熱により熱電子を放出するフィラメントを用いた電子源から放出させた電子を真空チャンバ内導入ガスに衝突させてプラズマを生成させ、該プラズマ中のイオンをイオン照射対象物品に照射するイオン照射装置であって、イオン照射対象物品のイオン照射対象部分に全体的に均一に、効率よくイオン照射処理を施すことができ、しかも、フィラメントの端部寄りの部分のプラズマからのスパッタリングによる消耗を抑制することができ、それだけ寿命の長いイオン照射装置を提供することを課題とする。
前記課題を解決するため本発明は次の第1、第2のイオン照射装置を提供する。
(1)第1のイオン照射装置
真空チャンバ内において、通電による抵抗加熱により熱電子を放出するフィラメントを用いた電子源から放出させた電子を真空チャンバ内導入ガスに衝突させてプラズマを生成させ、該プラズマ中のイオンをイオン照射対象物品に照射するイオン照射装置であり、該真空チャンバ内に、該イオン照射対象物品を支持して予め定めた回転中心線のまわりに回転可能の物品ホルダが設けられており、該電子源は、該物品ホルダに支持されるイオン照射対象物品のイオン照射対象部分に臨むことができるように該物品ホルダの回転中心線方向に延在して設けられており、該電子源における前記フィラメントは、該電子源の物品ホルダ回転中心線方向の全体にわたり該物品ホルダ回転中心線方向において複数段に不連続に分散並列配置され、該複数段のフィラメントのそれぞれは、互いに逆向きの電流が流れるように相互に平行又は略平行に対向する部分からなる対部分を少なくとも該フィラメントの両端部間中央より各フィラメント端部寄りに含むように屈曲配置されており、該対部分の相互に平行又は略平行に対向する部分は、該部分に互いに逆向きに流される電流に誘起されて発生する磁場が打ち消しあうように互いに接近しており、該電子源は前記の互いに接近する相互に平行又は略平行に対向する部分からなる対部分を少なくとも各フィラメント端部寄りに含むように屈曲配置されたフィラメントに通電するためのフィラメント電源を含むフィラメント電源装置を備えており、該フィラメント電源装置は、該フィラメントに流す電流の方向を変更できる電源装置であるイオン照射装置。
(2)第2のイオン照射装置
真空チャンバ内において、通電による抵抗加熱により熱電子を放出するフィラメントを用いた電子源から放出させた電子を真空チャンバ内導入ガスに衝突させてプラズマを生成させ、該プラズマ中のイオンをイオン照射対象物品に照射するイオン照射装置であり、該真空チャンバ内に、該イオン照射対象物品を支持して予め定めた回転中心線のまわりに回転可能の物品ホルダが設けられており、該電子源は、該物品ホルダに支持されるイオン照射対象物品のイオン照射対象部分に臨むことができるように該物品ホルダの回転中心線方向に延在して設けられており、該電子源における前記フィラメントは、該電子源の物品ホルダ回転中心線方向の全体にわたり該物品ホルダ回転中心線方向において複数段に不連続に分散並列配置され、該複数段のフィラメントのうち少なくとも一組の互いに隣り合うフィラメントは、互いに逆向きの電流が流される相互に平行又は略平行な部分からなる対部分が少なくとも該組をなす互いに隣り合うフィラメントの両端部間中央より各フィラメント端部寄りに含まれるように配置されており、該対部分の相互に平行又は略平行に対向する部分は、該部分に互いに逆向きに流される電流に誘起されて発生する磁場が打ち消しあうように互いに接近しており、該電子源は該互いに接近する相互に平行又は略平行な部分からなる対部分を含む、組をなす互いに隣り合うフィラメントに通電するためのフィラメント電源を含むフィラメント電源装置を備えており、該フィラメント電源装置は、該互いに接近する相互に平行又は略平行な部分に互いに逆向きの電流を流し、且つ、該電流の方向を変更できる電源装置であるイオン照射装置。
かかる第1、第2のイオン照射装置において、「真空チャンバ内導入ガス」とは、真空チャンバ内へ導入され、電子源から放出される電子の衝突によりプラズマ化され、それによりイオン照射対象物品へ照射するイオンを生成するガスである。
また、「磁場が打ち消しあう」には、磁場が完全に打ち消しあう場合は勿論のこと、完全ではないが、磁場が打ち消しあっているとみて差し支えない場合も含まれる。
第1、第2のイオン照射装置のいずれにおいても、電子源におけるフィラメントは、該電子源の物品ホルダ回転中心線方向の全体(ほぼ全体である場合も含む)にわたり該物品ホルダ回転中心線方向において複数段に不連続に分散並列配置されているから、それだけ電子源の全体又はほぼ全体から均一状に電子を放出させることができ、しかも、電子源は、物品ホルダに支持されるイオン照射対象物品のイオン照射対象部分に臨むことができるように該物品ホルダの回転中心線方向に延在して設けられているから、該電子源から放出させた電子を真空チャンバ内導入ガスに衝突させてプラズマを形成するとき、該プラズマは物品のイオン照射対象部分に全体的に均一状に臨むように生成し、かくして、該プラズマからイオン照射対象部分に全体的に均一にイオンを照射することができる。
第1のイオン照射装置では、電子源における複数段のフィラメントのそれぞれは、互いに逆向きの電流が流れるように相互に平行又は略平行に対向する部分からなる対部分を少なくとも該フィラメントの両端部間中央より各フィラメント端部寄りに含んでおり、該対部分の相互に平行又は略平行に対向する部分は、該部分に互いに逆向きに流される電流に誘起されて発生する磁場が打ち消しあうように互いに接近している。
従って、該フィラメンに通電した際に、該相互に平行又は略平行な部分のうち一方に流れる電流と他方に流れる電流とは互いに逆向きの流れとなり、それにより、それら部分に電流の流れにより形成される磁場は互いに打ち消しあい、それら部分から生じる熱電子は磁場にトラップされることが抑制される状態で引き出すことができる。
かくして、該フィラメントに印加する電圧をフィラメント消耗を抑制するように低くしても、照射イオンを得るためのプラズマを高密度に形成することができ、ひいては、徒に長時間を要することなく、所定のイオン照射量で効率よく物品にイオン照射処理を施せる。
第2のイオン照射装置においても、電子源における複数段のフィラメントのうち少なくとも一組の互いに隣り合うフィラメントには、互いに逆向きの電流が流される相互に平行又は略平行な部分からなる対部分が少なくとも該組をなす互いに隣り合うフィラメントの両端部間中央より各フィラメント端部寄りに含まれており、該対部分の相互に平行又は略平行に対向する部分は、該部分に互いに逆向きに流される電流に誘起されて発生する磁場が打ち消しあうように互いに接近している。
従って、該互いに接近する相互に平行又は略平行な部分からなる対部分を含む、組をなす互いに隣り合うフィラメントに通電した際に、該相互に平行又は略平行な部分の一方に流れる電流と他方に流れる電流とは互いに逆向きの流れとなり、それにより、それら部分に電流の流れにより形成される磁場は互いに打ち消しあい、それら部分から生じる熱電子は磁場にトラップされることが抑制される状態で引き出すことができる。
かくして、該フィラメントに印加する電圧をフィラメント消耗を抑制するように低くしても、照射イオンを得るためのプラズマを高密度に形成することができ、ひいては、徒に長時間を要することなく、所定のイオン照射量で効率よく物品にイオン照射処理を施せる。
しかも、それだけでなく、第1及び第2のイオン照射装置においては、フィラメントの両端部間中央よりフィラメント両端部寄りに(各端部寄りに)、該フィラメントに流れる電流に誘起されて発生する磁場を打ち消し合う部分を含んでいるため、該フィラメントのいずれの端部をフィラメント電源の負極性側に接続しても、十分に熱電子を引き出すことができる状態とされている。
そして、第1のイオン照射装置では、前記の互いに接近する相互に平行又は略平行に対向する部分からなる対部分を少なくとも各フィラメント端部寄りに含むように屈曲配置されたフィラメントに通電するためのフィラメント電源を含むフィラメント電源装置が設けられており、該フィラメント電源装置は、該フィラメントに流す電流の方向を変更できる電源装置とされている。これにより、フィラメントのいずれの端部寄り部分からも十分に熱電子を引き出すことができる。
第2のイオン照射装置では、前記の互いに接近する相互に平行又は略平行な部分からなる対部分を含む、組をなす互いに隣り合うフィラメントに通電するためのフィラメント電源を含むフィラメント電源装置が設けられており、該フィラメント電源装置は、該互いに接近する相互に平行又は略平行な部分に互いに逆向きの電流を流し、且つ、該電流の方向を変更できる電源装置とされている。これにより、フィラメントのいずれの端部寄り部分からも十分に熱電子を引き出すことができる。
フィラメントに電流を流すための電源装置についてさらに説明すると、第1のイオン照射装置については、
(1-1) 前記の互いに接近する相互に平行又は略平行に対向する部分からなる対部分を少なくとも各フィラメント端部寄りに含むように屈曲配置されたフィラメントに通電するための前記フィラメント電源装置におけるフィラメント電源は該フィラメントに接続されており、該フィラメントに流す電流の方向が時間的に( 例えば周期的に) 変わるフィラメント電源である場合、
(1-2) 前記の互いに接近する相互に平行又は略平行に対向する部分からなる対部分を少なくとも各フィラメント端部寄りに含むように屈曲配置されたフィラメントに通電するための前記フィラメント電源装置におけるフィラメント電源は電源電流( 電源の出力電流) の方向が一定のフィラメント電源であり、該フィラメント電源装置は該フィラメントに流す電流の方向を変更するために該フィラメント電源とフィラメントとの接続関係を変更できるものである場合を例示できる。
第2のイオン照射装置については、
(2-1) 前記の互いに接近する相互に平行又は略平行な部分からなる対部分を含む、組をなす互いに隣り合うフィラメントに通電するための前記フィラメント電源装置おけるフィラメント電源は、該フィラメントに接続されており、該フィラメントに流す電流の方向が時間的に( 例えば周期的に) 変わるフィラメント電源である場合、
(2-2) 前記の互いに接近する相互に平行又は略平行な部分からなる対部分を含む、組をなす互いに隣り合うフィラメントに通電するための前記フィラメント電源装置おけるフィラメント電源は、電源電流( 電源の出力電流) の方向が一定のフィラメント電源であり、該フィラメント電源装置は該フィラメントに流す電流の方向を変更するために該フィラメント電源とフィラメントとの接続関係を変更できるものである場合を例示できる。
第1のイオン照射装置についての上記(1-1) の場合及び第2のイオン照射装置についての上記(2-1) の場合、フィラメントに流す電流の向きが時間的に変わる電源をフィラメント電源として用いることで、フィラメントの両端部が交互にフィラメント電源の負極側と接続される状態となり、該フィラメントの片側部分のみがプラズマからのスパッタリングにより早く消耗することが抑制され、該フィラメントの両側部分の消耗がそれだけ均等になり、かくして片側部分のみに消耗が集中する場合よりもフィラメント、ひいてはイオン照射装置を長寿命化できる。
第1のイオン照射装置についての上記(1-2) の場合及び第2のイオン照射装置についての上記(2-2) の場合、フィラントに流す電流の向きが時間的に変わらない電源をフィラメント電源として用いているが、使用時の予め定めた時間ごとに、又は予め定めたイオン照射装置使用回数ごとに、フィラメント、フィラメント電源等のうち1又は2以上の接続位置や方向を変えることで、フィラメントの両側端部が交互にフィラメント電源の負極側と接続される状態となり、該フィラメントの片側部分のみがプラズマからのスパッタリングにより早く消耗することが抑制され、該フィラメントの両側部分の消耗がそれだけ均等になり、かくして、片側部分のみに消耗が集中する場合よりもフィラメント、ひいてはイオン照射装置を長寿命化できる。
なお、第1のイオン照射装置においては、複数段のフィラメントのうち少なくとも一組の互いに隣り合うフィラメントは、互いに逆向きの電流が流される、相互に平行又は略平行な部分を少なくとも一組含んでいてもよい。かかる相互に平行又は略平行な部分は、該部分に互いに逆向きに流される電流に誘起されて発生する磁場が打ち消しあうように接近させる。すなわち、そのように互いに隣り合うフィラメンと、フィラメント中において相互に平行又は略平行な部分からなる対部分を含むように屈曲配置されたフィラメントとが混じっていてもよい。
また、第2のイオン照射装置においては、複数段のフィラメントのうち少なくとも一組の互いに隣り合うフィラメントについて、互いに逆向きの電流が流される相互に平行又は略平行な部分からなる対部分が、該組をなす隣り合うフィラメントの両端部寄りに(各端部寄りに)含まれ、そして、該相互に平行又は略平行な部分は、該部分に互いに逆向きに流される電流に誘起されて発生する磁場が打ち消しあうように接近していればよいが、そのような組のフィラメントが2組以上あってもよく、そのような組のフィラメントばかりでもよい。
さらに、第2のイオン照射装置においては、少なくとも1段のフィラメントは、互いに逆向きの電流が流れるように相互に平行又は略平行に対向する部分からなる対部分を少なくとも一つ含むように屈曲配置され、該相互に平行又は略平行に対向する部分は、該部分に互いに逆向きに流される電流に誘起されて発生する磁場が打ち消しあうように接近していてもよい。すなわち、そのように屈曲配置されたフィラメントと、互いに接近する相互に平行又は略平行な部分を含むように組をなす互いに隣り合うフィラメントとが混じっていてもよい。
また、複数段のフィラメントのうち、全てのフィラメントについてのフィラメント電源を、電流を流す方向が時間的に変わる電源或いは電流を流す方向が時間的に変わらない電源で統−する必要はなく、情況によっては、該複数段のフィラメントのうち、いくつかのフィラメントでは電源を流す方向が時間的に変わる電源をフィラメント電源として用い、他のフィラメントでは電流を流す方向が時間的に変わらない電源をフィラメント電源として用いることもできる。
第1、第2のイオン照射装置のいずれにおいても、電子源の態様として次の(a) 〜(c) のものを例示できる。
(a) 前記真空チャンバ内導入ガスに衝突させて前記プラズマを生成するために電子源から放出させる電子として、前記フィラメントへの通電による抵抗加熱により該フィラメントから放出される熱電子を用いる電子源。
(b) 前記フィラメントへの通電による抵抗加熱により該フィラメントから放出される熱電子の衝突により熱電子を放出する熱電子放出部材及び前記フィラメントへの通電による抵抗加熱により該フィラメントから放出される熱電子の衝突により2次電子を放出する2次電子放出部材のうち少なくとも一方を含んでおり、前記真空チャンバ内導入ガスに衝突させて前記プラズマを生成するために該電子源から放出させる電子として、該熱電子放出部材及び(又は)2次電子放出部材から放出される電子を用いる電子源。
この電子源の場合、熱電子放出部材や2次電子放出部材は、複数段のフィラメントのそれぞれに対して設けられていてもよいし、複数段のフィラントに対し共通の一つのものが設けられていてもよく、或いは複数段のフィラメントのうち所定本数グループ毎に共通のものが設けられていてもよく、要するに電子源の全体又は略全体から均一状に電子を放出させ得るように設けられていればよい。
熱電子放出部材は2次電子放出部材の機能を有していてもよい。或いは、2次電子放出部材は熱電子放出部材の機能を有していてもよい。
(c) 予備プラズマ室を含んでおり、前記フィラメントへの通電による抵抗加熱により該フィラメントから放出される熱電子を該予備プラズマ室に導入されるガスに衝突させて予備プラズマを生成させ、前記真空チャンバ内導入ガスに衝突させて前記プラズマを生成するために該電子源から放出させる電子として、該予備プラズマ室に生成するプラズマから放出される電子を用いる電子源。
この電子源の場合、予備プラズマ室は、複数段のフィラメントのそれぞれに対して設けられていてもよいし、複数段のフィラントに対し共通の一つのものが設けられていてもよく、或いは複数段のフィラメントのうち所定本数グループ毎に共通のものが設けられていてもよく、要するに電子源の全体又は略全体から均一状に電子を放出させ得るように設けられていればよい。
既述のいずれのイオン照射装置の場合でも、照射イオンを得るためのプラズマを一層高密度で形成してイオン照射をより能率よく行えるようにするために、前記複数段のフィラメントのうち少なくとも1段のフィラメントに対し、該フィラメントに流れる電流により誘起される磁場の少なくとも一部を打ち消す磁場形成手段(永久磁石、電磁石、これらの組み合わせ等)を設けてもよい。
また、いずれのイオン照射装置の場合でも、プラズマの空間分布やイオン電流量の空間分布を計測できるようにし、電子源から引き出す電子量やエネルギー、或いはフィラメントから引き出す電子量やエネルギーを個々に制御したり、熱電子放出部材、二次電子放出部材、予備プラズマなどから引き出す電子の量やエネルギーを個々に制御することにより、プラズマの均一性や物品へ照射するイオンの均一性を制御できるようにしてもよい。
例えば、前記イオン照射対象物品に照射されるイオンに基づくイオン電流の空間分布を計測するイオン電流分布計測装置及び該イオン電流分布計測装置により計測されるイオン電流分布に基づいて、イオン電流分布を該物品のイオン照射対象部分全体に対し均一化するように前記フィラメントの電源出力を制御する制御装置を備えていてもよい。
また、例えば、前記電子源から放出させた電子の前記真空チャンバ内導入ガスへの衝突により形成されるプラズマの空間分布を計測するプラズマ分布計測装置及び該プラズマ分布計測装置により計測されるプラズマ分布に基づいて、プラズマ分布を該物品のイオン照射対象部分全体に対し均一化するように前記フィラメントの電源出力を制御する制御装置を備えていてもよい。
かかるプラズマ分布計測装置としては、例えば、前記各フィラメントが分担する放電電流をモニターすることでプラズマ分布を計測するものを挙げることができる。これは、通常プラズマの密度は放電電流とともに高くなり、放電電流をモニターすることで、実質上プラズマ密度をモニターできることに基づいている。このように放電電流をモニターする場合、プラズマ分布計測装置は、各フィラメントが分担する放電電流をモニターする放電電流計測器を含むことができる。そして、フィラメント電源出力を制御する制御装置は、該放電電流計測器でモニターされる放電電流に基づいて各フイラメント電源出力を制御する。
以上説明したように本発明によると、真空チャンバ内において、通電による抵抗加熱により熱電子を放出するフィラメントを用いた電子源から放出させた電子を真空チャンバ内導入ガスに衝突させてプラズマを生成させ、該プラズマ中のイオンをイオン照射対象物品に照射するイオン照射装置であって、イオン照射対象物品のイオン照射対象部分に全体的に均一に、効率よくイオン照射処理を施すことができ、しかも、フィラメントの端部寄りの部分のプラズマからのスパッタリングによる消耗を抑制することができ、それだけ寿命の長いイオン照射装置を提供することができる。
以下本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
以下の説明においても、「磁場が打ち消しあう」には、磁場が完全に打ち消しあう場合は勿論のこと、完全ではないが、磁場が打ち消しあっているとみて差し支えない場合も含まれる。
図1(A)は本発明に係るイオン照射装置の1例を示している。図1(A)のイオン照射装置Aは、図14(A)や図15に示すイオン照射装置と同様に、図12(A)のイオン照射装置において、フィラメント2に代え、3本のフィラメント2a、2a’、2a”を採用したものである。これら3本のフィラメントは上下方向3段に不連続に並列配置されており、各フィラメントはイオン照射対象物品Wの上下長手方向に対し水平方向に配置された端子台21a、22a間に張設されている。各フィラメントとイオン照射対象物品Wとの位置関係は平面からみると、図1(B)に示すようになっている。
各フィラメントには、それぞれのフィラメントに対して設けたフィラメント電源装置PWaから通電されるようになっており、これらフィラメント等が電子源20Aを構成している。
上段のフィラメント2aは、図1(C)にも示すように、フィラメントの両端間の中央よりフィラメントの両端部寄りの部分に互いに接近して平行に上下方向に延びる部分a1、a1を含むように屈曲配置されている。下段のフィラメント2a”はフィラメント2aと上下対称に屈曲配置されている。中段のフィラメント2a’は、図1(D)にも示すように、フィラメントの両端間の中央よりフィラメントの両端部寄りの部分に互いに接近して平行となる上下方向に延びる部分a1’、a1’及びa2’、a2’を含むように屈曲配置されている。中間の部分a1’、a2’は上下に一直線となっている。各フィラメントは互いに平行となる上下方向に延びる部分を有する屈曲部分(対部分)が物品Wに対向している。
フィラメントに電流を流すための各フィラメントに対応するフィラメント電源装置PWaは、フィラメントに接続された二つの交流電源PWa1及びPWa2を含んでいる。これらフィラメント電源PWa1及びPWa2は、電源それぞれの出力電圧がV1とV2であったときに、フィラメント両端の電位差が(|V1|+|V2|)となるように対応するフィラメントに接続されている。さらに言えば、これらフィラメント電源PWa1及びPWa2は、電源PWa1がフィラメントの一端に電圧印加する一方、電源PW2が該フィラメントの他端に、図1(E)に示すように、電源PWa1とピークツーピーク電圧は等しいが、180度の位相差を有する電圧を印加するように該フィラメントに接続されている。
フィラメント及びフィラメント電源以外の点は図12(A)や図14(A)に示すイオン照射装置と実質上同構成であり、図14(A)の装置におけるものと実質上同じ部品、部分等には該装置と同じ参照符号を付してある。
このイオン照射装置Aによると、真空チャンバ1内を所定圧へ減圧維持しつつガス導入ポート12からガス(例えばアルゴンガス)を導入するとともに、フィラメント電源PWa1、PWa2を含む電源装置PWaからフィラメント2a、2a’、2a”のそれぞれに電流を流し、これにより各フィラメントを抵抗加熱して熱電子を放出させる一方、チャンバ1に各フィラメントより高電位になるように放電用電源PW2から電圧を印加し、これによりフィラメント2a、2a’、2a”からそれぞれ熱電子を引き出し、直流放電を発生させるとともに該熱電子を導入ガスに衝突させてプラズマを発生させ、該プラズマ中のイオンをバイアス電源PW3から負のバイアス電圧を印加した物品Wへ照射して、物品Wの表面をクリーニングしたり、適度に荒らしたり、物品の表面温度を上昇させる等の処理を実施できる。
イオン照射装置Aによると、電子源20Aにおけるフィラメント2a、2a’、2a”は、電子源20Aの全体にわたり不連続に複数段に分散並列配置されているから、それだけ電子源20Aの全体又はほぼ全体から均一状に電子を放出させることができ、しかも、電子源20Aは物品Wのイオン照射対象部分の全体に臨むように設けられている。従って、該電子源から放出させた電子を真空チャンバ内導入ガスに衝突させてプラズマを形成するとき、該プラズマは物品Wのイオン照射対象部分の全体に均一状に臨むように生成し、かくして、該プラズマからイオン照射対象部分に全体的に均一にイオンを照射することができる。
また、複数段に並列配置された複数本のフィラメント2a、2a’、2a”の一本一本は、物品のイオン照射対象部分に全体的に臨むように連続的に長く張設される一本のフィラメントと比べると短くすることができ、それだけ個々のフィラメントに対する、抵抗加熱による熱電子放出のための(換言すれば、フィラメント動作温度を得るための)印加電圧は低く済み、それだけフィラメントの蒸発や、プラズマからのスパッタリング等によるフィラメントの消耗を抑制して、イオン照射装置Aを長寿命化できる。
また、電子源20Aにおける各フィラメントは、既述のとおり相互に接近して平行な部分、すなわち、フィラメント2a、2a”ではa1とa1、フィラメン2a’ではa1’とa1’、a2’とa2’を含むように屈曲配置されている。従って、フィラメント電源PWa1、PWa2から電流を流すと、該相互に平行な部分のうち一方に流れる電流と他方に流れる電流とは互いに逆向きの流れとなり、それにより、それら部分に電流の流れにより形成される磁場は互いに打ち消しあい、それら部分から生じる熱電子は磁場にトラップされることが抑制される状態で十分に引き出される。かくして、各フィラメントに印加する電圧をフィラメント消耗を抑制するように低くしても、照射イオンを得るためのプラズマを高密度に形成することができ、ひいては、徒に長時間を要することなく、所定のイオン照射量で効率よく物品Wにイオン照射処理を施せる。
さらに、電子源20Aにおける各フィラメントは、どちらの端をフィラメント電源の負極性側に接続しても、上記の効果が得られるため、図示しているようにフィラメント電源PWa1、PWa2として交流電源を用いることができ、フィラメントの片側部分のみが他方部分よりも常に電圧が低い状態ではない。そのため、プラズマからのスパッタが該フィラメントの片側部分に集中せず、両側部分に分散されるため、物品Wに対するイオン照射処理の効率を落とすことなく、イオン照射装置Aを長寿命化できる。
図2は本発明に係るイオン照射装置の他の例を示している。図2のイオン照射装置A’は、図1(A)のイオン照射装置Aにおいて、各フィラメントに通電する電源装置を変更したものである。それ以外の点は装置Aと実質上同構成であり、装置Aにおける部分、部品と実質上同じものには装置Aと同じ参照符号を付してある。
イオン照射装置A’におけるフィラメント2a、2a’、2a”のそれぞれに対するフィラメント電源装置PWa’は、交流電源PWa1’と、変圧器Ta’とを含むものである。変圧器Ta’の2次巻線がフィラメント端子台21a、22aへ延ばされ、そこでフィラメント両端に接続されている。また、放電電源PW2の負極性側が変圧器Ta’の2次巻線の途中に接続されている。
この電源装置Pwa’によっても、各フィラメントには交流が流れるので、フィラメントの片側部分のみが他方部分よりも常に電圧が低い状態とはならない。そのため、プラズマからのスパッタが該フィラメントの片側部分に集中せず、両側部分に分散されるため、物品Wに対するイオン照射処理の効率を落とすことなく、イオン照射装置A’を長寿命化できる。
図3は本発明に係るイオン照射装置のさらに他の例を示している。図3のイオン照射装置A”は、図1(A)のイオン照射装置Aにおいて、各フィラメントに通電する電源装置を変更したものである。それ以外の点は装置Aと実質上同構成であり、装置Aにおける部分、部品と実質上同じものには装置Aと同じ参照符号を付してある。
イオン照射装置A”においては、フィラメント2a、2a’、2a”に共通のフィラメント電源装置PWa”が設けられている。電源装置PWa”は、交流電源PWa1”と、変圧器Ta”とを含むものである。変圧器Ta”の2次巻線が各フィラメントの端子台21a、22aへ延ばされ、そこでフィラメント両端に接続されている。また、放電電源PW2の負極性側が変圧器Ta”の2次巻線の途中に接続されている。
この電源装置Pwa”によっても、各フィラメントには交流が流れるので、フィラメントの片側部分のみが他方部分よりも常に電圧が低い状態とはならない。そのため、プラズマからのスパッタが該フィラメントの片側部分に集中せず、両側部分に分散されるため、物品Wに対するイオン照射処理の効率を落とすことなく、イオン照射装置A”を長寿命化できる。
図4(A)は本発明に係るイオン照射装置のさらに他の例を示している。このイオン照射装置Bは、図1(A)のイオン照射装置Aにおいて、フィラメント電源装置PWaに代えてフィラメント電源装置PWbを採用したものである。フィラメント電源装置PWbは二つのフィラメント電源PWb1、PWb2及びそれら電源をフィラメントに交互に切り替え接続するためのスイッチSbを含んでいる。フィラメント電源PWb1、PWb2は直流電源である。スイッチSbはスイッチ制御部SWbにより予め定めた時間間隔で切り替えられる。これらフィラメント等が電子源20Bを構成している。
上記以外の点は図1(A)に示すイオン照射装置Aと実質上同構成であり、図1(A)の装置Aと実質上同じ部品、部分等には装置Aと同じ参照符号を付してある。
このイオン照射装置Bの場合、イオン照射装置Aと違って、フィラメント電源PWb1、PWb2は極性が時間的に変わらない。そのため、もし図4に示されている状態がそのまま維持されるならば、すなわち、直流電源PWb1がフィラメントに接続され、該フィラメントの端子台22a側の端部が直流電源PWb1の負極性側に接続された状態が維持されるならば、該フィラメントは使用中常にフィラメント電源の負極性側に接続された片側部分が、正極性側に接続された部分よりもプラズマからのスパッタが激しく、早く消耗してしまう。
しかし、イオン照射装置Bでは、各フィラメントは、そのどちらの端をフィラメント電源の負極性側に接続しても十分に熱電子を引き出すことができるため、例えば予め定めた時間経過毎に、或いはイオン照射装置の予め定めた使用回数毎に、スイッチ制御部SWbの指示のもとに、スイッチSbの切り替えにより、電源PWb1と電源PWb2とを交互にフィラメントへ接続し、それにより、該フィラメントの一方の端部がフィラメント電源の負極性側に接続されるとともに他方の端が同フィラメント電源の正極性側に接続される状態と、該フィラメントの一方の端部がフィラメント電源の正極性側に接続されるとともに他方の端が同フィラメント電源の負極性側に接続される状態とが交互に現出するようにして、フィラメントの両側部分を均等に消耗させることができる。そのため、イオン照射装置Bをそれだけ長寿命化できる。
なお、イオン照射装置Bでは、フィラメント電源装置PWbにおいて、スイッチ制御部SWbにより自動的に切り替えを行えるようにしたが、フィラメント電源装置は、適当なタイミングで、手作業により、或いは自動的作業と手作業を組み合わせて、各フィラメントの各端部を直流フィラメント電源の負極性側から正極性側へ切り替え接続したり、逆に正極性側から負極性側へ切り替えて、フィラメントの両側部分を均等に消耗させ得るものでもよい。
例えば図4(B)に示すように、予め定めた時間毎に、或いはイオン照射装置(又はフィラメント)の予め定めた使用回数ごと等の所定のタイミングで、フィラメント2a、2a’、2a”のそれぞれに接続された直流フィラメント電源PWbxを図示の位置Xに、また、位置Xから図示の位置へ位置替え接続し、該電源の負極性側が接続されるフィラメント端部を切り替えるようにしてもよい。
図5は本発明に係るイオン照射装置のさらに他の例を示している。このイオン照射装置Cは、装置Aにおいて、フィラメント2a、2a’、2a”に代えてフィラメント2c、2c’、2c、2c’を採用したものである。これら4本のフィラメントは上下方向4段に並列配置されており、各フィラメントはイオン照射対象物品Wの上下長手方向に対し水平方向に配置された端子台21c、22c間に張設されている。
各フィラメントには、それぞれのフィラメントに対して設けたフィラメント電源装置PWcの交流フィラメント電源PWc1、PWc2から通電されるようになっており、これらフィラメント等が電子源20Cを構成している。
フィラメント電源装置PWcのフィラメント電源PWc1及びPWc2は、電源それぞれの出力電圧がV1とV2であったときに、フィラメント両端の電位差が(|V1|+|V2|)となるように対応するフィラメントに接続されている。さらに言えば、これらフィラメント電源PWc1及びPWc2は、電源PWc1がフィラメントの一端に電圧印加する一方、電源PWc2が該フィラメントの他端に、図1(E)に示すように、電源PWc1とピークツーピーク電圧は等しいが、180度の位相差を有する電圧を印加するように該フィラメントに接続されている。
上側の互いに隣り合うフィラメント2c、2c’及び下側の互いに隣り合うフィラメント2c、2c’はいずれも、互いに接近する相互に平行な部分を含むように屈曲配置されている。互いに接近する相互に平行な部分c1、c1’からなる各組が物品Wに対向している。
上側の互いに隣り合うフィラメント2c、2c’にはそれらに接続されたフィラメント電源PWc1、PWc2から互いに逆向きの電流が流されるようになっており、同様に、下側の互いに隣り合うフィラメント2c、2c’についても、それらに接続されたフィラメント電源PWc1、PWc2から互いに逆向きの電流が流されるようになっている。
上記以外の点は図1(A)に示すイオン照射装置Aと実質上同構成であり、図1(A)の装置Aと実質上同じ部品、部分当には装置Aと同じ参照符号を付してある。
このイオン照射装置Cによると、上側及び下側それぞれの互いに隣り合うフィラメント2c、2c’における互いに接近した平行部分c1、c1’に互いに逆向きの電流が流されるので、フィラメント電流によって誘起される磁場は互いに打ち消しあい、従って、イオン照射装置Aの場合と同様にフィラメントから引き出される熱電子は磁場にトラップされ難くなり、フィラメント動作温度を得るためにフィラメントに印加する電圧を低くしても、効率的にプラズを生成させることができる。また、フィラメント印加電圧を低くできることで、フィラメント、ひいてはイオン照射装置Cを長寿命化できる。さらに、装置Aと同様、物品Wのイオン照射対象部分の全体にわたり均−にイオン照射できる。
さらに、電子源20Cにおける各フィラメントは、どちらの端をフィラメント電源の負極性側に接続しても、上記の効果が得られるため、図示しているように、フィラメント電源PWc1、PWc2として交流電源を用いることができ、フィラメントの片側部分のみが他方部分よりも常に電圧が低い状態ではない。そのため、プラズマからのスパッタが該フィラメントの片側部分に集中せず、両側部分に分散されるため、物品Wに対するイオン照射処理の効率を落とすことなく、イオン照射装置Cを長寿命化できる。
なお、図5の装置Cの場合、隣り合うフィラメント2c、2c’はそれぞれ直線に張設して互いに接近させることで、それらに互いに反対向きに流される電流により誘起される磁場が互いに打ち消しあうようにしてもよい。例えば、フィラメント2c、2c’は直線のままとし、上側2本のフィラメント2c、2c’を支持している端子台21c同士、22c同士を互いに近づけることで該フィラメント2c、2c’を互いに接近させてもよい。また、下側2本のフィラメント2c、2c’を支持している端子台21c同士、22c同士を互いに近づけることで該下側フィラメント2c、2c’を互いに接近させてもよい。
図5に示す装置Cにおいても、フィラメント電源装置の部分を、図2や図3に示すと同様の電源装置に代えることは可能である。
図6は本発明に係るイオン照射装置のさらに他の例を示している。
図6のイオン照射装置Dは、図5の装置Cにおいて、フィラメント電源装置PWcに代えてフィラメント電源装置PWdを採用したものである。フィラメント電源装置PWdは二つの直流フィラメント電源PWd1、PWd2及びそれら電源をフィラメントに交互に切り替え接続するためのスイッチSdを含んでいる。スイッチSdはスイッチ制御部SWdにより予め定めた時間間隔で切り替えられる。これらフィラメント等が電子源20Dを構成している。
上記以外の点は図5に示すイオン照射装置Cと実質上同構成であり、図5の装置Cと実質上同じ部品、部分等には装置Cと同じ参照符号を付してある。
このイオン照射装置Dの場合、イオン照射装置Cと違って、フィラメント電源PWd1、PWd2の極性が時間的に変わらない。そのため、もし図6に示されている状態がそのまま維持されるならば、すなわち、フィラメント2cについては端子台21c側の端が直流電源PWd1の負極性側に接続されるとともにフィラメント2c’については端子台22c側の端がもう一つの直流電源PWd1の負極性側に接続された状態が維持されるならば、それらフィラメントは使用中常にフィラメント電源の負極性側に接続された片側部分が、正極性側に接続された部分よりもプラズマからのスパッタが激しく、早く消耗してしまう。
そのため、そのまま使い続けると従来どおり、該フィラメントの片側部分のみが早く消耗して、ついには断線し使えなくなってしまう。
しかし、イオン照射装置Dでは、各フィラメントは、そのどちらの端をフィラメント電源の負極性側に接続しても十分に熱電子を引き出すことができるため、例えば予め定めた時間経過毎に、或いはイオン照射装置の予め定めた使用回数毎に、スイッチ制御部SWdの指示のもとに、スイッチSdの切り替えにより、電源PWd1と電源PWd2とを交互にフィラメントへ接続し、それにより、該フィラメントの一方の端部がフィラメント電源の負極性側に接続されるとともに他方の端が同フィラメント電源の正極性側に接続される状態と、該フィラメントの一方の端部がフィラメント電源の正極性側に接続されるとともに他方の端が同フィラメント電源の負極性側に接続される状態とが交互に現出するようにして、フィラメントの両側部分を均等に消耗させることができる。そのため、イオン照射装置Dをそれだけ長寿命化できる。
なお、イオン照射装置Dでは、フィラメント電源装置PWdにおいて、スイッチ制御部SWdにより自動的に切り替えを行えるようにしたが、図4(B)を参照して説明したと同様に、フィラメント電源装置は、適当なタイミングで、手作業により、或いは自動的作業と手作業を組み合わせて、各フィラメントの各端部を直流フィラメント電源の負極性側から正極性側へ切り替え接続したり、逆に正極性側から負極性側へ切り替えて、フィラメントの両側部分を均等に消耗させ得るものでもよい。
図7は本発明に係るイオン照射装置のさらに他の例を示している。このイオン照射装置Eは、図1(A)のイオン照射装置Aにおいて、フィラメント2a、2a’、2a”の前方にこれらフィラメントに対し共通の熱電子放出部材或いは2次電子放出部材4を配置し、該部材4も電子源20Eの構成部材としたものである。部材4はイオン照射対象物品Wのイオン照射対象部分に全体的に臨んでいる。部材4には、衝撃電源PW4から各フィラメントに対し高電位になるように電圧が印加され、チャンバ1には、放電電源PW2’から部材4に対し高電位になるように放電電圧が印加される。それ以外の点は装置Aと実質上同構成であり、装置Aにおける部品、部分等と実質上同じ部品、部分等には装置Aと同じ参照符号を付してある。但し、ガス排気ポートやガス導入ポート等の図示は省略している。
このイオン照射装置Eでは、各フィラメントにフィラメント電源PWa1、PWa2から電圧を印加して熱電子を放出させる一方、部材4に衝撃電源PW4からフィラメントに対して高電位となるように電圧を印加することでフィラメントから生じた熱電子を部材4に衝突させ、部材4から熱電子(或いは2次電子、又は熱電子と2次電子の両方)を放出させることができる。さらに、部材4に対して高電位となるように放電電源PW2’からチャンバ1に電圧を印加することで、部材4から放出された電子を加速してチャンバ内導入ガスに衝突させて直流放電させ、プラズマを生成させることができる。さらに、該プラズマ中のイオンをバイアス電源PW3から物品Wに負のバイアス電圧を印加して該物品に照射することができる。
電子源20Eは物品Wのイオン照射対象部分の全体に臨んでおり、該電子源における熱電子放出部材(或いは2次電子放出部材)4やフィラメント2a、2a’、2a”は電子源の全体にわたって設けられているので、物品Wのイオン照射対象部分の全体にわたり均一に、効率的にイオン照射できる。また、フィラメント寿命は装置Aの場合と同様に長く、ひいてはイオン照射装置Eの寿命も長い。
なお、熱電子放出部材としては金属、金属酸化物、セラミック材料からなる部材を、2次電子放出部材についても、金属、金属酸化物、セラミック材料からなる部材を例示できる。
図8は本発明にかかるイオン照射装置のさらに他の例を示している。このイオン照射装置Fは、図1(A)のイオン照射装置Aにおいて、フィラメント2a、2a’、2a”の前方にこれらフィラメントに対し共通の予備プラズマ室5を設け、これも電子源20Fの構成要素としたものである。
予備プラズマ室5にはガス導入ポート51からガス(例えばアルゴンガス等の不活性ガス)が導入される。予備プラズマ室5の電子引出し開口52はイオン照射対象物品Wのイオン照射対象部分に全体的に臨んでいる。予備プラズマ室5には、予備放電電源PW5から各フィラメントに対し高電位になるように電圧が印加され、チャンバ1には、放電電源PW2”から予備プラズマ室5に対し高電位になるように放電電圧が印加される。それ以外の点は装置Aと実質上同構成であり、装置Aにおける部品、部分等と実質上同じ部品、部分等には装置Aと同じ参照符号を付してある。但し、チャンバ1のガス排気ポートやガス導入ポート等の図示は省略している。
このイオン照射装置Fでは、各フィラメントにフィラメント電源PWa1、PWa2から電圧を印加して熱電子を放出させる一方、予備プラズマ室5内にガス導入ポート51からガスを導入するとともに電源PW5からフィラメントに対して高電位となるように電圧を印加することでフィラメントから生じた熱電子を導入ガスに衝突させ、予備プラズマを形成することができる。
さらに、予備プラズマ室5に対して高電位となるように放電電源PW2”からチャンバ1に電圧を印加することで、室5内に生成した予備プラズマ中の電子を引出し、加速してチャンバ内導入ガスに衝突させて直流放電させ、プラズマを生成させることができる。さらに、該プラズマ中のイオンをバイアス電源PW3から物品Wに負のバイアス電圧を印加して該物品に照射することができる。
電子源20Fはその予備プラズマ室5の開口52が物品Wのイオン照射対象部分の全体に臨んでおり、該電子源における予備プラズマ室5やフィラメント2a、2a’、2a”は電子源の全体にわたって設けられているので、物品Wのイオン照射対象部分の全体にわたり均一に、効率的にイオン照射できる。また、フィラメント寿命は装置Aの場合と同様に長く、ひいてはイオン照射装置Fの寿命も長い。
このイオン照射装置Fでは、予備プラズマ室5に導入するガスとチャンバ1に導入するガスを別のものとすることが可能である。例えば、物品Wに酸素イオンを照射したい場合は、チャンバ1に酸素ガスを導入すればよいが、この酸素ガスがフィラメント周囲雰囲気を形成するとフィラメントが酸化してその寿命が極端に短くなる。しかし、この装置Fでは、予備プラズマ室5にアルゴンガスなどの不活性ガスを導入すれば、チャンバ1からの酸素ガスの混入はある程度防止することができるので、それだけフィラメントの、ひいては装置Fの長寿命化が可能となる。そしてガス流量比などを調節すれば、最終的にはチャンバ1内では酸素ガスプラズマが主に生成するようにできるので、物品Wには主として酸素イオンを照射することができる。
図9は本発明にかかるイオン照射装置のさらに他の例を示している。このイオン照射装置Gは、図1(A)のイオン照射装置Aにおいて、フィラメント2a、2a’、2a”の背後且つチャンバ壁外側に磁場形成用のマグネット(コイル)6を4段に設け、これらも電子源20Gの構成要素としたものである。
これらマグネットコイルには、フィラメント2a、2a’、2a”のそれぞれにおける水平直線部分に流れる電流により形成される磁場を打ち消す、或いは弱める磁場を提供するようにコイル電源PW6から電流が流される。
これ以外の点は装置Aと実質上同構成であり、装置Aにおける部品、部分等と実質上同じ部品、部分等には装置Aと同じ参照符号を付してある。但し、各フィラメントは簡略化して図示してあり、電源等の図示は省略している。
この装置Gでは、各フィラメントの水平直線部分からも十分な熱電子を引き出すことができ、それによりプラズマ密度を一層高くすることができ、物品Wへ均一に、より多量のイオン照射量でイオン照射でき、それだけイオン処理時間を短くすることができる。
磁場形成用のマグネットについては、図4(A)や図6のイオン照射装置のようにフィラメント電源として直流電源を採用する場合には、フィラメントが形成する磁場の向きは変わらないので、永久磁石を用いてもよい。永久磁石を採用する場合、フィラメントに印加する電圧の向きを変える際に永久磁石の向きも変える必要があるが、コイル電源PW6を用いる必要がないので、それだけコストを押さえることができる。
なお、かかる磁場形成手段は、イオン照射装置A、A’、A”〜Fや次に説明するイオン照射装置H、Jにも適用できる。また、イオン照射装置E〜Gや次に説明するイオン照射装置H、Jではイオン照射装置AやCと同様にフィラメント電源として交流電源を採用しているがこれに代えてイオン照射装置BやDと同様に直流電源を採用してもよい。但し、その際にはイオン照射装置BやDと同様に、例えば使用中の一定時間毎或いは予め定めた使用回数毎等のタイミングで、フィラメントやフィラメント電源の接続を切り替え、フィラメントに印加される電圧の向きを適宜切り替える。
図10は本発明に係るイオン照射装置のさらに他の例を示している。このイオン照射装置Hは、図1(A)のイオン照射装置Aにおいて、物品Wの近傍にイオン電流分布計測器7を設け、計測器7で計測されたイオン電流分布情報に基づいて制御部8が各フィラメント電源PWa1 、PWa2の出力を制御し(この場合、電源PWa1 、PWa2は出力可変電源とする)、物品Wへのイオン照射を一層均一化できるようにしたものである。
これ以外の点は装置Aと実質上同じである。装置Aにおける部品、部分等と実質上同じ部品、部分等には装置Bと同じ参照符号を付してある。
この装置Hにおけるイオン電流分布計測器7は物品Wに照射されるイオンに基づくイオン電流の量、換言すればイオン電流密度の空間分布を計測するものである。この計測器7は一時的に、つまり計測時のみ物品Wの前に移動させてもよいし、図示例のように常時物品Wの近傍に配置しておいてもよい。図示例の配置の場合は、実際に物品Wに照射されるイオンに基づくイオン電流量或いはイオン電流密度とは少し違った値が計測される場合があり得るが、そのような場合には、予め実際の値と計測値との相関関係を求めておき、制御部8において計測後に実際の値に換算すればよい。
制御部8についてもう少し詳しく説明すると、イオン電流分布計測器7によって計測されるイオン電流量或いはイオン電流密度の空間分布情報は制御部8に伝達され、制御部8において該情報に基づき均一性の算出等のデーター処理が行われる。そこで均一性の条件に合わない場合は、図示例ではフィラメント電源PWa1、PWa2の制御を行い、均一性が条件に合うように、該フィラメント電源からフィラメントに流れる電流を調整する。
具体例を挙げると、例えば上下のフィラメント2a、2a”に対応する領域に比べてその間の中央部領域でのイオン電流量或いはイオン電流密度が大きい場合は、真ん中のフィラメント電源PWa1、PWa2の制御を行い、真ん中のフィラメント2a’の電流を下げ、それからの熱電子放出量を少なくし、中央領域のプラズマ密度を小さくし、それにより全体に均一性のよいイオン照射を行えるようにする。
イオン電流分布計測器7はファラデーカップ型のものであれば、より正確なイオン電流密度を計測することができるが、これに限る必要はなく、単なるイオンコレクターのようなものでもよい。後者の場合は正確なイオン電流密度を算出することは困難であるが、相対的なイオン電流分布を算出することは可能であり、それでも十分実用に供し得る場合がある。
さらにイオン電流分布計測器7に代えて、プラズマ分布計測器のようなものでも代用ができる。例えばプラズマからの発光を分光器などで検出し、その検出情報からプラズマ密度の空間分布を求めるものを採用できる。この場合、そのように求められるプラズマ密度の空間分布と実際のイオン電流分布との相関関係を予め算出しておき、計測値を実際の値に換算し、それに基づいて制御するようにすればよい。
図12(A)に示したような、フィラメントを連続的に長い範囲に配置するような例では、このような制御をすることは不可能である。しかし、本発明に係る装置ではフィラメントを不連続に複数段に分散並列配置しているのでかかる制御が可能である。
なお、かかる計測器や制御部は、既述のイオン照射装置A〜Gにも適用できる。
また、通常プラズマの密度は放電電流とともに高くなるので、各フィラメントが分担する放電電流をモニターすることでも、プラズマの空間分布を知ることができる。図11は、図10の装置Hにおいて、イオン電流分布計測器7に代えて、フィラメント2a、2a’、2a”のそれぞれが分担する放電電流を計測する放電電流計測器AM1、AM2、AM3を設けたイオン照射装置Jを示している。
装置Jにおいては、計測器AM1、AM2、AM3で検出される放電電流が制御部9に入力される。制御部9には、物品Wに全体的に均一にイオン照射するために個々のフィラメントが分担すべき放電電流(予め実験等により求めたもの)が設定されている。制御部9は、各計測器からの電流情報とその設定電流とを比較し、該電流情報が設定電流になるように、フィラメント電源PWa1、PWa2の出力を制御する。
制御部9における、各フィラメントに対応する放電電流設定値は、各フィラメントについて同じであってもよいが、例えば、装置構成等によりプラズマが生じ難い領域があるような場合は、その領域に対する放電電流が大きくなるように、フィラメントごとに設定値が異なってもよい。
ここでフィラメントについてさらに説明しておく。
フィラメント中の接近した平行又は略平行な部分の間隔、或いは互いに隣り合うフィラメントにおいて接近した平行又は略平行な部分の間隔は、小さければ小さいほど、その部分に発生する磁場の相互打ち消しあいのためにはよいが、実際にはあまり短すぎると、フィラメントの熱膨張などが原因で短絡してしまうことがある。
また逆に、該間隔が広すぎると、磁場の相殺が起きにくくなり、熱電子がトラップされてしまう。フィラメントの直径や長さ、流す電流の大きさ、そして使用環境条件等によっても変わってくるが、例えば直径0.8mm〜1.5mm程度のフィラメントであれば、平行部或いは概ね平行な部分の間隔は、必ずしもそれに限定されるわけではないが、概ね3mm〜50mm程度が好ましく、より好ましくは6mm〜30mm程度である。該間隔が3mmより小さくなってくると、ショートしやすくなり、50mmより大きくなってくると、磁場の相殺が困難になってくる。
ここで「平行部或いは概ね平行な部分の間隔が、例えば6mm〜30mm」とは、長さ50mm程度にわたって間隔が6mm〜30mm程度の範囲におさまることを言うが、要はそれらの部分に流す電流によって形成される磁場が実質上互いに打ち消されるように、平行又は略平行な状態であればよい。
さらに、平行部或いは概ね平行な部分は、1本のフィラメントの両側部分だけでなく、それらを含めて3ケ所以上あってもよいし、それらの配置は、該フィラメントに印加する電圧の方向を変えても同じような熱電子放出が起こる配置であれば、基本的に自由である。
フィラメントに電流を流す直流又は交流の電源は、定電圧を出力する直流電源や正弦波電圧を出力する交流電源に限らず、パルス波や矩形波、正弦波等の電圧を出力する直流又は交流の電源などでもよい。
放電電源については、一台とは限らず、必要に応じて複数台採用してもよい。またフィラメント電源については、個々のフィラメントに対して個別に用意してもよいが、複数フィラメントでフィラメント電源を共用してもよい。
また、直流電源を用いる場合、放電電源の負側はフィラメント電源の正側(或いは負側)に接続されるが、放電電流の負側はフィラメント電源の正側、負側のいずれに接続されてもよい。但し、放電電流の負側をフィラメント電源の正側に接続する場合は、フィラメント負側の放電電圧が高くなりすぎないように放電電源の電圧を調整するとよい。
フィラメントの材質はタングステンが一般的であるが、他のものでもよい。
イオン照射装置A〜Jを含め本発明に係るイオン照射装置によるイオン照射は、既述のとおり、物品表面のクリーニング、物品表面を適度に荒らす、物品表面温度を上昇させる等に利用できるが次のようにも利用できる。
すなわち、例えば成膜プロセスにおいては、成膜中に使用することもできる。成膜中に物品へイオン照射することによって、膜質のコントロールをすることが可能であるし、或いは、生成したプラズマによって膜の成分として寄与する原子、分子、クラスターなどを励起、イオン化するなどして、これらを活性化することによって、膜質をコントロールすることも可能である。
また、物品の温度を上げすぎないようにする等々のために、定常運転ではなく、パルス運転などの非定常運転をすることも可能である。例えば放電電源を入り切りすることによってプラズマを生成させたり消滅させたりし、それによって非定常運転を行うことができるし、フィラメントの電源を入り切りすることによっても、非定常運転が可能である。バイアス電源を入り切りすることによってもできる。
なお、バイアス電源の極性を負極性から正極性に変更することで、物品に電子を照射することもできる。高速両極性パルス運転と組み合わせれば、物品が絶縁物の場合において、イオン照射によるチャージアップを抑制して、効率的にイオン照射をすることができる。
イオン照射装置A、A’、A”、B〜Jでは、上下方向に長い物品Wに全体的に均一状にイオン照射する例を示しているが、図においてイオン照射対象物品Wとして示されている部分を物品ホルダ3の一部とし、その部分にイオン照射対象物品を取り付けて、それら物品に均一状にイオン照射を施すことも可能である。
本発明は、例えば機械部品、工具、自動車部品などの物品への膜形成、イオン注入、表面改質などの処理の一環として、物品にイオン照射することで物品の表面をクリーニングしたり、物品の表面を適度に荒らしたり、或いは物品の表面温度を上昇させる等に利用できる。
図1(A)は本発明に係るイオン照射装置の1例を示す図であり、図1(B)は該装置における電子源のフィラメントとイオン照射対象物品との配置関係を上方から見た様子を示す図である。図1(C)は電子源における上段フィラメントを示す図であり、図1(D)は中段フィラメントを示す図である。図1(E)は一つのフィラメントに接続された二つの交流フィラメント電源の位相差を示す図である。 図1(A)に示すイオン照射装置の変形例を示す図である。 図1(A)に示すイオン照射装置のもう一つの変形例を示す図である。 図4(A)は本発明に係るイオン照射装置のさらに他の例を示す図であり、図4(B)は図4(A)に示すイオン照射装置の変形例を示す図である。 本発明に係るイオン照射装置のさらに他の例を示す図である。 本発明に係るイオン照射装置のさらに他の例を示す図である。 本発明に係るイオン照射装置のさらに他の例を示す図である。 本発明に係るイオン照射装置のさらに他の例を示す図である。 本発明に係るイオン照射装置のさらに他の例を示す図である。 本発明に係るイオン照射装置のさらに他の例を示す図である。 本発明に係るイオン照射装置のさらに他の例を示す図である。 図12(A)はイオン照射装置の従来例を示す図であり、図12(B)は該装置におけるフィラメントとイオン照射対象物品との位置関係を図12(A)の右方から見て示す図である。 図12(A)の装置の改良例装置を示す図である。 図14(A)はイオン照射装置の他の従来例を示す図であり、図14(B)は該装置における電子源のフィラメントとイオン照射対象物品との配置関係を上方から見た様子を示す図である。図14(C)は該電子源における上段フィラメントを示す図であり、図14(D)は中段フィラメントを示す図である。 イオン照射装置のさらに他の従来例を示す図である。 イオン照射装置のさらに他の従来例を示す図である。 イオン照射装置のさらに他の従来例を示す図である。
符号の説明
A、A’、A” イオン照射装置
1 真空チャンバ
11 排気ポート
12 ガス導入ポート
3 物品ホルダ
W イオン照射対象物品
20A 電子源
2a、2a’、2a” フィラメント
21a、22a 端子台
a1とa1、a1’とa1’、a2’とa2’ 平行部分
PWa フィラメント電源装置
PWa1、PWa2 フィラメント電源
PW2 放電電源
PW3 バイアス電源
PWa’、PWa” フィラメント電源装置
PWa1’、PWa1” フィラメント電源
Ta’、Ta” 変圧器

B イオン照射装置
20B 電子源
PWb フィラメント電源装置
PWb1、PWb2 フィラメント電源
Sb スイッチ
SWb スイッチ制御部

C イオン照射装置
20C 電子源
2c、2c’ フィラメント
21c、22c 端子台
c1とc1’ 平行部分
PWc フィラメント電源装置
PWc1、PWc2 フィラメント電源

D イオン照射装置
20D 電子源
PWd フィラメント電源装置
PWd1、PWd2 フィラメント電源
Sd スイッチ
SWd スイッチ制御部

E、F、G、H、J イオン照射装置
20E 電子源
4 電子放出部材(又は2次電子放出部材)
PW4 衝撃電源
PW2’ 放電電源
20F 電子源
5 予備プラズマ室
51 ガス導入ポート
52 電子引出し開口
PW5 予備プラズマ室用電源
PW2” 放電電源
20G 電子源
6 マグネットコイル
PW6 コイル電源
7 イオン電流分布計測器
8 制御部
AM1、AM2、AM3 放電電流計測器
9 制御部

Claims (15)

  1. 真空チャンバ内において、通電による抵抗加熱により熱電子を放出するフィラメントを用いた電子源から放出させた電子を真空チャンバ内導入ガスに衝突させてプラズマを生成させ、該プラズマ中のイオンをイオン照射対象物品に照射するイオン照射装置であり、該真空チャンバ内に、該イオン照射対象物品を支持して予め定めた回転中心線のまわりに回転可能の物品ホルダが設けられており、該電子源は、該物品ホルダに支持されるイオン照射対象物品のイオン照射対象部分に臨むことができるように該物品ホルダの回転中心線方向に延在して設けられており、該電子源における前記フィラメントは、該電子源の物品ホルダ回転中心線方向の全体にわたり該物品ホルダ回転中心線方向において複数段に不連続に分散並列配置され、該複数段のフィラメントのそれぞれは、互いに逆向きの電流が流れるように相互に平行又は略平行に対向する部分からなる対部分を少なくとも該フィラメントの両端部間中央より各フィラメント端部寄りに含むように屈曲配置されており、該対部分の相互に平行又は略平行に対向する部分は、該部分に互いに逆向きに流される電流に誘起されて発生する磁場が打ち消しあうように互いに接近しており、該電子源は前記の互いに接近する相互に平行又は略平行に対向する部分からなる対部分を少なくとも各フィラメント端部寄りに含むように屈曲配置されたフィラメントに通電するためのフィラメント電源を含むフィラメント電源装置を備えており、該フィラメント電源装置は、該フィラメントに流す電流の方向を変更できる電源装置であることを特徴とするイオン照射装置。
  2. 前記の互いに接近する相互に平行又は略平行に対向する部分からなる対部分を少なくとも各フィラメント端部寄りに含むように屈曲配置されたフィラメントに通電するための前記フィラメント電源装置におけるフィラメント電源は該フィラメントに接続されており、該フィラメントに流す電流の方向が時間的に変わるフィラメント電源である請求項1記載のイオン照射装置。
  3. 前記の互いに接近する相互に平行又は略平行に対向する部分からなる対部分を少なくとも各フィラメント端部寄りに含むように屈曲配置されたフィラメントに通電するための前記フィラメント電源装置におけるフィラメント電源は電源電流の方向が一定のフィラメント電源であり、該フィラメント電源装置は該フィラメントに流す電流の方向を変更するために該フィラメント電源とフィラメントとの接続関係を変更できるものである請求項1記載のイオン照射装置。
  4. 前記の互いに逆向きの電流が流れるように相互に平行又は略平行に対向する部分からなる対部分を含むフィラメントにおける該対部分は、前記物品ホルダの回転中心線方向に突出している請求項1、2又は3記載のイオン照射装置。
  5. 真空チャンバ内において、通電による抵抗加熱により熱電子を放出するフィラメントを用いた電子源から放出させた電子を真空チャンバ内導入ガスに衝突させてプラズマを生成させ、該プラズマ中のイオンをイオン照射対象物品に照射するイオン照射装置であり、該真空チャンバ内に、該イオン照射対象物品を支持して予め定めた回転中心線のまわりに回転可能の物品ホルダが設けられており、該電子源は、該物品ホルダに支持されるイオン照射対象物品のイオン照射対象部分に臨むことができるように該物品ホルダの回転中心線方向に延在して設けられており、該電子源における前記フィラメントは、該電子源の物品ホルダ回転中心線方向の全体にわたり該物品ホルダ回転中心線方向において複数段に不連続に分散並列配置され、該複数段のフィラメントのうち少なくとも一組の互いに隣り合うフィラメントは、互いに逆向きの電流が流される相互に平行又は略平行な部分からなる対部分が少なくとも該組をなす互いに隣り合うフィラメントの両端部間中央より各フィラメント端部寄りに含まれるように配置されており、該対部分の相互に平行又は略平行に対向する部分は、該部分に互いに逆向きに流される電流に誘起されて発生する磁場が打ち消しあうように互いに接近しており、該電子源は該互いに接近する相互に平行又は略平行な部分からなる対部分を含む、組をなす互いに隣り合うフィラメントに通電するためのフィラメント電源を含むフィラメント電源装置を備えており、該フィラメント電源装置は、該互いに接近する相互に平行又は略平行な部分に互いに逆向きの電流を流し、且つ、該電流の方向を変更できる電源装置であることを特徴とするイオン照射装置。
  6. 前記の互いに接近する相互に平行又は略平行な部分からなる対部分を含む、組をなす互いに隣り合うフィラメントに通電するための前記フィラメント電源装置おけるフィラメント電源は、該フィラメントに接続されており、該フィラメントに流す電流の方向が時間的に変わるフィラメント電源である請求項5記載のイオン照射装置。
  7. 前記の互いに接近する相互に平行又は略平行な部分からなる対部分を含む、組をなす互いに隣り合うフィラメントに通電するための前記フィラメント電源装置おけるフィラメント電源は、電源電流の方向が一定のフィラメント電源であり、該フィラメント電源装置は該フィラメントに流す電流の方向を変更するために該フィラメント電源とフィラメントとの接続関係を変更できるものである請求項5記載のイオン照射装置。
  8. 前記の互いに接近する相互に平行又は略平行な部分からなる対部分を含む、組をなす互いに隣り合うフィラメントのうち少なくとも一方が、該互いに接近する相互に平行又は略平行な部分からなる対部分を提供するように、少なくとも、両端部間中央より端部寄りの部位が屈曲配置されている請求項5、6又は7記載のイオン照射装置。
  9. 前記電子源は、前記真空チャンバ内導入ガスに衝突させて前記プラズマを生成するために該電子源から放出させる電子として、前記フィラメントへの通電による抵抗加熱により該フィラメントから放出される熱電子を用いる請求項1から8のいずれか一項に記載のイオン照射装置。
  10. 前記電子源は、前記フィラメントへの通電による抵抗加熱により該フィラメントから放出される熱電子の衝突により熱電子を放出する熱電子放出部材及び前記フィラメントへの通電による抵抗加熱により該フィラメントから放出される熱電子の衝突により2次電子を放出する2次電子放出部材のうち少なくとも一方を含んでおり、前記真空チャンバ内導入ガスに衝突させて前記プラズマを生成するために該電子源から放出させる電子として、該熱電子放出部材及び(又は)2次電子放出部材から放出される電子を用いる請求項1から8のいずれか一項に記載のイオン照射装置。
  11. 前記電子源は、予備プラズマ室を含んでおり、前記フィラメントへの通電による抵抗加熱により該フィラメントから放出される熱電子を該予備プラズマ室に導入されるガスに衝突させて予備プラズマを生成させ、前記真空チャンバ内導入ガスに衝突させて前記プラズマを生成するために該電子源から放出させる電子として、該予備プラズマ室に生成するプラズマから放出される電子を用いる請求項1から8のいずれかに記載のイオン照射装置。
  12. 前記複数段のフィラメントのうち少なくとも1段のフィラメントに対し、該フィラメントに流れる電流により誘起される磁場の少なくとも一部を打ち消す磁場形成手段が設けられている請求項1から11のいずれか一項に記載のイオン照射装置。
  13. 前記イオン照射対象物品に照射されるイオンに基づくイオン電流の空間分布を計測するイオン電流分布計測装置及び該イオン電流分布計測装置により計測されるイオン電流分布に基づいて、イオン電流分布を該物品のイオン照射対象部分全体に対し均一化するように前記フィラメント電源出力を制御する制御装置を備えている請求項1から12のいずれか一項に記載のイオン照射装置。
  14. 前記電子源から放出させた電子の前記真空チャンバ内導入ガスへの衝突により形成されるプラズマの空間分布を計測するプラズマ分布計測装置及び該プラズマ分布計測装置により計測されるプラズマ分布に基づいて、プラズマ分布を該物品のイオン照射対象部分全体に対し均一化するように前記フィラメント電源出力を制御する制御装置を備えている請求項1から12のいずれか一項に記載のイオン照射装置。
  15. 前記プラズマの空間分布を計測するプラズマ分布計測装置は、前記各フィラメントが分担する放電電流をモニターすることでプラズマ分布を計測するものであり、該各フィラメントが分担する放電電流をモニターする放電電流計測器を含んでおり、前記フィラメント電源出力を制御する制御装置は、該放電電流計測器でモニターされる放電電流に基づいて各フイラメント電源出力を制御する請求項14記載のイオン照射装置。
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