以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る自動変速機の制御装置を適用した車両駆動装置の構成を示す骨子図である。
図1に示すように、車両駆動装置は、自動車などの車両に搭載され、エンジン11および自動変速機1によって構成されている。エンジン11は、内燃機関で構成される走行用の動力源であり、このエンジン11の出力は、流体式動力伝達装置としてのトルクコンバータ12を経て自動変速機1に入力され、図示しない差動歯車装置および車軸を介して駆動輪へ伝達されるようになっている。
トルクコンバータ12は、エンジン11の出力軸に連結されたポンプ翼車21と、自動変速機1の入力軸22に連結されたタービン翼車23と、一方向クラッチ24によって一方向の回転が阻止されているステータ翼車25とを備えており、ポンプ翼車21とタービン翼車23との間で流体を介して動力伝達を行うようになっている。
さらに、トルクコンバータ12は、ポンプ翼車21とタービン翼車23との間を直結するためのロックアップクラッチ26を備えている。また、ポンプ翼車21には、自動変速機1を変速制御するための油圧や、各部に潤滑油を供給したりするための油圧を発生する機械式のオイルポンプ27が設けられている。
自動変速機1は、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置28、およびシングルピニオン型の第2遊星歯車装置29、第3遊星歯車装置30を備えている遊星歯車式の変速機構である。
第1遊星歯車装置28のサンギヤS1は、クラッチC3を介して入力軸22に選択的に連結されるとともに、一方向クラッチF2およびブレーキB3を介してハウジング31に選択的に連結され、逆方向(入力軸22の回転方向と反対方向)へ回転することが阻止されるようになっている。
第1遊星歯車装置28のキャリアCA1は、ブレーキB1を介してハウジング31に選択的に連結されるとともに、そのブレーキB1と並列に設けられた一方向クラッチF1により、常に逆方向の回転が阻止されるようになっている。
第1遊星歯車装置28のリングギヤR1は、第2遊星歯車装置29のリングギヤR2と一体的に連結されており、ブレーキB2を介してハウジング31に選択的に連結されるようになっている。
第2遊星歯車装置29のサンギヤS2は、第3遊星歯車装置30のサンギヤS3と一体的に連結されており、クラッチC4を介して入力軸22に選択的に連結されるとともに、一方向クラッチF4およびクラッチC1を介して入力軸22に選択的に連結され、逆方向へ回転することが阻止されるようになっている。
第2遊星歯車装置29のキャリアCA2は、第3遊星歯車装置30のリングギヤR3と一体的に連結されており、クラッチC2を介して入力軸22に選択的に連結されるとともに、ブレーキB4を介してハウジング31に選択的に連結されるようになっており、さらにブレーキB4と並列に設けられた一方向クラッチF3により、逆方向へ回転することが阻止されるようになっている。そして、第3遊星歯車装置30のキャリアCA3は、出力軸32に一体的に連結されている。
クラッチC1〜C4およびブレーキB1〜B4(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置である。
また、クラッチCおよびブレーキBは、油圧制御回路56(図3参照)のソレノイドバルブSol1〜Sol5、およびリニアソレノイドバルブSL1、SL2の励磁、非励磁や図示しないマニュアルバルブによって油圧回路が切り換えられることにより、例えば図2に示すように係合、解放状態が切り換えられ、シフトレバー54(図3参照)の操作位置(ポジション)に応じて6つの前進変速段(1st〜6th)および1つの後進変速段(Rev)が成立させられる。
図2は、本発明の実施の形態に係る自動変速機における複数の油圧式摩擦係合装置の作動の組み合せとそれにより成立する変速段との関係を示す図である。
図2に示す「1st」〜「6th」は、前進の第1変速段〜第6変速段を意味しており、第1変速段「1st」から第6変速段「6th」へ向かうに従って変速比(入力軸22の回転速度Nin/出力軸32の回転速度NOUT)は小さくなり、第4変速段「4th」の変速比は1.0に設定している。また、図2において「○」は係合、空欄は解放を表し、「(○)」はエンジンブレーキ時の係合を表し、「△」は動力伝達に関与しない係合を表している。
図3は、本発明の実施の形態に係る自動変速機を制御する制御系統の要部を示すブロック図である。
電子制御装置41は、本発明に係る自動変速機の制御装置を構成し、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、入出力インターフェースなどを備えたマイクロコンピュータによって構成されている。
CPUは、RAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン11の出力制御や自動変速機1の変速制御などを実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用、およびブレーキ制御用に分けて構成される。
電子制御装置41は、自動変速機1に変速指令信号を出力するようになっている。このように、電子制御装置41は、本発明の出力手段を構成する。また、電子制御装置41は、アップシフトを表す変速指令信号を自動変速機1に出力してからイナーシャ相が開始するまでの予想経過時間を算出するようになっている。このように、電子制御装置41は、本発明の予想経過時間算出手段を構成する。
また、電子制御装置41は、スロットルアクチュエータ42によりスロットルバルブ43を開閉制御するようになっている。例えば、電子制御装置41は、後述するアクセル操作量Accに基づいて後述するスロットル開度θTHが増減するようにスロットルアクチュエータ42を制御し、エンジン11に流入する空気の量(以下、「吸入空気量」という。)Qを変更するようになっている。このように、電子制御装置41は、本発明のトルクダウン作動手段および吸入空気量変更手段(トルクダウン手段)を構成する。
また、電子制御装置41は、燃料噴射量制御のために燃料噴射装置44を制御し、点火時期制御のためにイグナイタなどの点火装置45の点火時期を制御するようになっている。このように、電子制御装置41は、本発明のトルクダウン作動手段および点火時期変更手段(トルクダウン手段)を構成する。
電子制御装置41には、アクセル操作量センサ46、出力軸回転速度センサ47、スロットル開度センサ48、車速センサ49、レバーポジションセンサ50、タービン回転速度センサ51、エンジン回転速度センサ52およびエアフローセンサ53などがハーネスなどを介して接続されている。
アクセル操作量センサ46は、車両の運転席に設けられたアクセルペダル54の操作量(以下、「アクセルペダル操作量」という。)Accを検出し、検出したアクセルペダル操作量Accを表す信号を電子制御装置41に出力するようになっている。
出力軸回転速度センサ47は、自動変速機1の出力軸32の回転速度(以下、「出力軸回転速度」という。)NOUTを検出し、検出した出力軸回転速度NOUTを表す信号を電子制御装置41に出力するようになっている。
スロットル開度センサ48は、エンジン11の吸気配管内に設けられ、アクセルペダル54の操作量に応じて開閉されるスロットルバルブ43の開度(以下、「スロットル開度」という。)θTHを検出し、検出したスロットル開度θTHを表す信号を電子制御装置41に出力するようになっている。
車速センサ49は、出力軸回転速度NOUTから車両の車速Vを検出し、検出した車速Vを表す信号を電子制御装置41に出力するようになっている。
レバーポジションセンサ50は、シフトレバー55のレバーポジション(操作位置)PSHを検出し、検出したレバーポジションPSHを表す信号を電子制御装置41に出力するようになっている。
タービン回転速度センサ51は、自動変速機1の入力軸22の回転速度(以下、「タービン回転速度」という。)NTを検出し、検出したタービン回転速度NTを表す信号を電子制御装置41に出力するようになっている。
エンジン回転速度センサ52は、エンジン11の出力軸の回転速度(以下、「エンジン回転速度」という。)NEを検出し、検出したエンジン回転速度NEを表す信号を電子制御装置41に出力するようになっている。
エアフローセンサ53は、エンジン11の吸気配管内に設けられ、エンジン11に流入する吸入空気量Qを検出し、検出した吸入空気量Qを表す信号を電子制御装置41に出力するようになっている。
油圧制御回路56は、電子制御装置41からの変速指令信号により制御される変速用のソレノイドバルブSol1〜Sol5、リニアソレノイドバルブSL1、SL2、主にロックアップ油圧を制御するリニアソレノイドバルブSLU、および主にライン油圧を制御するリニアソレノイドバルブSLTを備えている。なお、油圧制御回路56内の作動油は、ロックアップクラッチ26などに供給されるようになっている。
図4は、本発明の実施の形態に係る電子制御装置のトルクダウン動作を説明するためのフロー図である。以下、図5および図6を適宜参照しつつ、図4に基づいて、本発明の実施の形態に係る電子制御装置のトルクダウン動作について説明する。
以下に説明するトルクダウン動作は、電子制御装置41が、自動変速機1によってアップシフトされると判断した場合に実行される。例えば、電子制御装置41が、ROMに予め記憶されている変速線図を参照して、スロットル開度センサ48によって検出されたスロットル開度θTHおよび車速センサ49によって検出された車速Vに基づいて、変速線(アップシフト線)を越えたと判断した場合にトルクダウン動作は実行される。
また、以下の説明において、トルクダウン動作が始まる前に、電子制御装置41によって(N−1)回の学習値の学習(補正)が行われているものとする。ここで、学習値は、電子制御装置41から変速指令信号が出力されてからイナーシャ相が開始するまでの予想経過時間を表している。なお、学習値(N−1)は、前回の変速時までに補正された学習値を表している。
図5は、本発明の実施の形態に係る電子制御装置に格納される学習値を説明するための概念図である。学習値は、変速前後の変速段および車両状態毎に電子制御装置41のフラッシュメモリに格納されている。なお、各学習値の初期値である学習値(0)は、予め設定されていたものとする。
ここで、車両状態とは、エンジン回転速度センサ52によって検出されたエンジン回転速度NEおよびエアフローセンサ53によって検出された吸入空気量Qから得られるエンジン11のトルクTE、タービン回転速度センサ51によって検出されたタービン回転速度NT、ならびに、アクセル操作量センサ46によって検出されたアクセル操作量Accの何れか、または、これらの組み合せのことをいう。なお、図5においては、タービン回転速度NTとアクセル操作量Accとの組み合せ毎に学習値を格納する例が示されている。
また、変速前後の変速段に応じて自動変速機1の出力軸トルクの引き込みが発生する時点が異なり、結果として、変速指令信号が出力されてからイナーシャ相が開始するまでの時間が異なってくるため、学習値は、変速前後の変速段毎に格納される。仮に、変速前後の変速段に関らずに同じ学習値を使用した場合には、適切なタイミングでトルクダウンを開始させることができなくなってしまう。
図4において、まず、電子制御装置41は、変速指令信号を出力すると共にタイマをスタートさせる(ステップS1)。例えば、電子制御装置41は、各変速段などに応じて油圧制御回路56のソレノイドバルブSol1〜Sol5、リニアソレノイドバルブSL1、SL2、リニアソレノイドバルブSLU、リニアソレノイドバルブSLTに変速指令信号を出力する(図6参照)。
なお、本実施の形態においては、電子制御装置41が、変速前後の変速段と、ステップS1を実行したときの車両状態とに対応する学習値(N−1)を取得するものとして説明するが、電子制御装置41が学習値(N−1)を取得するタイミングは、ステップS1を実行したときから、トルクアップを要求するタイミング(図6参照)までの間であればよい。
ここで、電子制御装置41が学習値(N−1)を取得するタイミングは、トルクアップを要求するタイミングに近い方が最新の車両状態に対応する学習値(N−1)が取得できるため好ましい。
次に、電子制御装置41は、イナーシャ相が開始していないか否かを判定する(ステップS2)。例えば、電子制御装置41は、出力軸回転速度センサ47によって検出された出力軸回転速度NOUTと所定の変速段のギヤ比とに基づいて、タービン回転速度に相当する値を算出する。
そして、電子制御装置41は、算出した値とタービン回転速度センサ51によって検出されたタービン回転速度NTとを比較し、比較した結果が所定範囲内である場合、イナーシャ相が開始していないと判定し、比較した結果が所定範囲内でない場合には、イナーシャ相が開始していると判定する(図6参照)。ここで、イナーシャ相が開始していると判定された場合(ステップS2でNO)、トルクダウン動作は終了する。
一方、イナーシャ相が開始していないと判定された場合(ステップS2でYES)には、電子制御装置41は、変速指令信号が出力されてからの時間Tが、学習値(N−1)と吸入空気量変更応答時間Tr1との差より大きいか否か判定する(ステップS3)。
すなわち、電子制御装置41は、ステップS1においてスタートさせたタイマのカウンタ値が、学習値(N−1)と吸入空気量変更応答時間Tr1との差より大きくなっているか否かを判定する。
ここで、吸入空気量変更応答時間Tr1は、電子制御装置41がスロットルアクチュエータ42を介してスロットルバルブ43にスロットル開度θTHの変更を要求したときから、このスロットル開度θTHの変更によってトルクダウンが開始されるまでの応答時間を表している。
例えば、吸入空気量変更応答時間Tr1は、電子制御装置41のROMなどに予め記憶された吸入空気量変更応答時間マップによって、車両状態に対応付けられている。電子制御装置41は、吸入空気量変更応答時間マップにおいて現在の車両状態に対応する吸入空気量変更応答時間Tr1を決定した上で、ステップS3を実行する。
ここで、車両状態とは、エンジン回転速度センサ52によって検出されたエンジン回転速度NEおよびエアフローセンサ53によって検出された吸入空気量Qから得られるエンジン11のトルクTE、タービン回転速度センサ51によって検出されたタービン回転速度NT、ならびに、アクセル操作量センサ46によって検出されたアクセル操作量Accの何れか、または、これらの組み合せのことをいう。
なお、学習値が対応付けられる車両状態と、吸入空気量変更応答時間マップにおいて吸入空気量変更応答時間Tr1が対応付けられる車両状態とは、同一内容でなくてもよい。例えば、学習値が対応付けられる車両状態が、タービン回転速度NTとアクセル操作量Accとの組み合せであり、吸入空気量変更応答時間Tr1が対応付けられる車両状態が、エンジン11のトルクTEであってもよい。
ここで、変速指令信号が出力されてからの時間Tが、学習値(N−1)と吸入空気量変更応答時間Tr1との差より大きくないと判定された場合(ステップS3でNOの場合)、トルクダウン動作はステップS3を繰り返す。
一方、変速指令信号が出力されてからの時間Tが、学習値(N−1)と吸入空気量変更応答時間Tr1との差より大きいと判定された場合(ステップS3でYESの場合)には、電子制御装置41は、エンジン11のトルクダウンを開始させるように、スロットルアクチュエータ42を介してスロットルバルブ43に吸入空気量の変更を要求する(ステップS4)。
例えば、電子制御装置41は、スロットルバルブ43のスロットル開度θTHを小さくして吸入空気量が減少するようスロットルアクチュエータ42を制御する。
次に、電子制御装置41は、変速指令信号が出力されてからの時間Tが、学習値(N−1)と点火時期変更応答時間Tr2との差より大きいか否か判定する(ステップS5)。すなわち、電子制御装置41は、ステップS1においてスタートさせたタイマのカウンタ値が、学習値(N−1)と点火時期変更応答時間Tr2との差より大きくなっているか否かを判定する。
なお、点火時期変更応答時間Tr2は、電子制御装置41が点火装置45に点火時期の変更を要求したときから、この点火時期の変更によってトルクダウンが開始されるまでの応答時間を表している。
例えば、点火時期変更応答時間Tr2は、電子制御装置41のROMなどに予め記憶された点火時期変更応答時間マップによって、車両状態に対応付けられている。電子制御装置41は、点火時期変更応答時間マップにおいて現在の車両状態に対応する点火時期変更応答時間Tr2を決定した上で、ステップS5を実行する。
ここで、車両状態は、吸入空気量変更応答時間マップと同様に、エンジン回転速度センサ52によって検出されたエンジン回転速度NEおよびエアフローセンサ53によって検出された吸入空気量Qから得られるエンジン11のトルクTE、タービン回転速度センサ51によって検出されたタービン回転速度NT、ならびに、アクセル操作量センサ46によって検出されたアクセル操作量Accの何れか、または、これらの組み合せのことをいう。
なお、学習値が対応付けられる車両状態と、吸入空気量変更応答時間マップにおいて吸入空気量変更応答時間Tr1が対応付けられる車両状態と、点火時期変更応答時間マップにおいて点火時期変更応答時間Tr2が対応付けられる車両状態とは、同一内容でなくてもよい。
例えば、学習値が対応付けられる車両状態が、タービン回転速度NTとアクセル操作量Accとの組み合せであり、吸入空気量変更応答時間Tr1が対応付けられる車両状態が、エンジン11のトルクTEであり、点火時期変更応答時間Tr2が対応付けられる車両状態が、アクセル操作量Accとエンジン11のトルクTEとの組み合せであってもよい。
ここで、変速指令信号が出力されてからの時間Tが、学習値(N−1)と点火時期変更応答時間Tr2との差より大きくないと判定された場合(ステップS5でNOの場合)、トルクダウン動作はステップS5を繰り返す。
一方、変速指令信号が出力されてからの時間Tが、学習値(N−1)と点火時期変更応答時間Tr2との差より大きいと判定された場合(ステップS5でYESの場合)には、電子制御装置41は、エンジン11のトルクダウンを開始させるように、点火装置45に点火時期の変更を要求する(ステップS6)。例えば、電子制御装置41は、点火時期の遅角率を上げるよう点火装置45を制御する。
次に、電子制御装置41は、イナーシャ相が開始したか否かを判定する(ステップS7)。例えば、電子制御装置41は、出力軸回転速度センサ47によって検出された出力軸回転速度NOUTと所定の変速段のギヤ比とに基づいて、タービン回転速度に相当する値を算出する。
そして、電子制御装置41は、算出した値とタービン回転速度センサ51によって検出されたタービン回転速度NTとを比較し、比較した結果が所定範囲内である場合、イナーシャ相が開始していないと判定し、比較した結果が所定範囲内でない場合には、イナーシャ相が開始したと判定する(図6参照)。ここで、イナーシャ相が開始していないと判定された場合(ステップS7でNOの場合)、トルクダウン動作は、ステップS7を繰り返す。
一方、イナーシャ相が開始したと判定された場合(ステップS5でYESの場合)には、電子制御装置41は、このときの時間T(タイマのカウンタ値)、すなわち、変速指令信号が出力されてからイナーシャ相が開始するまでの実際に要した実経過時間を、イナーシャ相開始判定時間TRとしてRAMに記憶する(ステップS8)。ここで、電子制御装置41は、タイマのカウンタ値をクリアする。
次に、電子制御装置41は、イナーシャ相開始判定時間TRと学習値(N−1)との差が、予め設定された値AとBの範囲内にあるか否かを判定する(ステップS9)。すなわち、電子制御装置41は、イナーシャ相開始判定時間TRと学習値(N−1)との差を算出し、算出して得られた差が予め設定された値AとBの範囲内にあるか否かを判定する。
ここで、イナーシャ相開始判定時間TRと学習値(N−1)との差が、予め設定された値AとBの範囲内にあると判定された場合(ステップS9でYES)、トルクダウン動作は終了する。
一方、イナーシャ相開始判定時間TRと学習値(N−1)との差が、予め設定された値AとBの範囲内にないと判定された場合(ステップS9でNO)には、電子制御装置41は、学習値(N−1)を補正し(ステップS10)、トルクダウン動作は終了する。例えば、電子制御装置41は、以下の式(1)を用いて学習値(N−1)を学習値(N)に更新する。なお、sはサンプル数を表す。
(式1)
学習値(N)={(s−1)×学習値(N−1)+TR}/s (1)
ただし、s≧2。
そして、次回のアップシフト時において、電子制御装置41は、変速前後の変速段および車両状態に基づいて新たに得られた学習値(N)を、変速指令信号が出力されてからイナーシャ相が開始するまでの予想経過時間としてトルクダウン動作を実行する。
図6は、本発明の実施の形態に係る各要素のタイミングチャートである。
図6に示すように、実線101は、アップシフト時において電子制御装置41が出力する変速指令信号の変化を示す。実線102は、タービン回転速度センサ51によって検出されるタービン回転数を示す。実線103は、電子制御装置41がエンジン11にトルクアップさせるためのトルクアップ要求量を示す。
また、実線104は、電子制御装置41がスロットルアクチュエータ42を介してスロットルバルブ43に吸入空気量を変更させて、エンジン11にトルクダウンさせるためのトルクダウン要求量を示す。
また、実線105は、電子制御装置41が点火装置45に点火時期の遅角率を指定して、エンジン11にトルクダウンさせるためのトルクダウン要求量を示す。実線106は、エンジン11の出力軸に実際に現れる実エンジントルクを示す。実線107は、自動変速機1の出力軸32に現れる出力軸トルクを示す。
前述したように、電子制御装置41は、変速指令信号が出力されて(点a)からイナーシャ相が開始するまでの予想経過時間を表す学習値の補正を繰り返す。これにより、学習値と、変速指令信号が出力されて(点a)からイナーシャ相が開始する(点b)までの実際に要した実経過時間とを一致させることができる。
この場合、変速指令信号が出力されてからの時間が、学習値とトルクアップ時間TUPとの差分時間に到達した時点(点c)で、電子制御装置41がエンジン11のトルクアップを開始させる(トルクアップ要求)。
例えば、電子制御装置41は、スロットルバルブ43のスロットル開度θTHを大きくして吸入空気量が増加するようスロットルアクチュエータ42を制御し、さらに、増加した吸入空気量に応じて燃料噴射量が増加するよう燃料噴射装置44を制御する。これにより、エンジン11のトルクアップが行われる。
ここで、増加させる吸入空気量は、トルクアップ要求量の上限値TEmaxに基づいて算出することができる。なお、上限値TEmaxは、以下の式(2)を用いて算出することができる。
(式2)
TEmax=(iLO/iHI)×TE0 (2)
iLO:変速前の低速段ギヤ比
iHI:変速後の高速段ギヤ比
TE0:変速前のエンジントルク
なお、トルクアップ時間TUPは、予め定められたトルクアップに必要な時間であり、電子制御装置41がエンジン11のトルクアップを開始させるようにエンジン11の制御を開始した時点(点c)から、実際にエンジン11が行ったトルクアップの量が要求された量になった時点(点h)までの時間である。
トルクアップ時間TUPは、例えば、クラッチの枚数、ピストンやアキュムレータのストローク量などの諸元値、およびクラッチやブレーキの油圧の設定値に基づいて算出される。なお、電子制御装置41は、アクセル操作量Accと変速段に応じてトルクアップ時間TUPが決定されるトルクアップマップをROMに記憶しており、アクセル操作量センサ46によって検出されたアクセル操作量Accと変速段とに基づき、トルクアップマップを参照して、使用するトルクアップ時間TUPを決定する。
エンジン11にトルクアップを開始させてから一定時間経過した時点(点d)で、実際にエンジン11がトルクアップを開始する。
ここで、電子制御装置41がエンジン11のトルクアップを開始させるようにエンジン11の制御を開始した時点(点c)から、実際にエンジン11が行ったトルクアップの量が要求された量になった時点(点h)までの時間と、トルクアップ時間TUPとが一致し、かつ、学習値と、変速指令信号が出力された時点(点a)からイナーシャ相が開始する時点(点b)までの実際に要した実経過時間とが一致していれば、電子制御装置41がエンジン11のトルクアップを開始させるようにエンジン11の制御を開始した時点(点c)から実際にエンジン11がトルクアップを開始する時点(点d)までの時間が一定であるため、自動変速機1の出力軸トルクの引き込みが発生する時点(点e)と実際にエンジン11がトルクアップを開始する時点(点d)とが一致する。この結果、トルクアップを開始させるタイミングを適切なものにすることができ、自動変速機1の出力軸トルクの引き込みを十分に低減することができる。
また、イナーシャ相が開始される直前には、変速ショックを軽減するために2度のトルクダウンが電子制御装置41によって要求される(トルクダウン要求)。1度目のトルクダウンの要求では、イナーシャ相が開始されると予想された時刻より吸入空気量変更応答時間だけ前の時点(点f)で、電子制御装置41がエンジン11のトルクダウンを開始させるためにスロットルアクチュエータ42を介してスロットルバルブ43に吸入空気量の減少を要求する。
なお、1度目のトルクダウンの要求において、電子制御装置41がスロットルバルブ43に要求する吸入空気量は、目標とするイナーシャ相の長さに応じて定められ、例えば、ROMに予め記憶されたマップに基づいて定められる。
また、電子制御装置41がトルクダウンを要求した時点(点f)を過ぎてもトルクアップが要求されているが、トルクアップの要求よりトルクダウンの要求の方が優先されるため、トルクアップの要求は、トルクダウンを要求した時点(点f)で実質的に終了する。
2度目のトルクダウンの要求では、イナーシャ相が開始されると予想された時刻より点火時期変更応答時間だけ前の時点(点g)で、電子制御装置41がエンジン11のトルクダウンを開始させるために点火装置45に点火時期の遅角率を指定する。
なお、2度目のトルクダウンの要求において、電子制御装置41が点火装置45に要求する点火時期の遅角率は、目標とするイナーシャ相の長さに応じて定められ、例えば、ROMに予め記憶されたマップに基づいて定められる。
ここで、学習値と、変速指令信号が出力されて(点a)からイナーシャ相が開始する(点b)までの実際に要した実経過時間とが一致すれば、イナーシャ相が開始する時点(点b)と、エンジン11がトルクダウンを開始する時点(点h)とを一致させることができる。
したがって、実線106に示すように、アップシフト時にエンジンの出力トルクを減少させ、速度変化を起こすトルクを大きくし、短時間で変速を終了させることにより、シフトクオリティの向上ならびに自動変速機を構成する摩擦材の耐久性および信頼性の向上を図ることができる。
以上のように、本発明の実施の形態に係る電子制御装置41によれば、変速指令信号が出力されてからイナーシャ相が開始するまでの予想経過時間を補正し、補正した予想経過時間に基づいて、次回のアップシフト時における各トルクダウン作動手段を作動させるタイミングをそれぞれ決定するため、自動変速機1のアップシフト時にエンジン11の出力トルクを低下させるために複数のトルクダウン手段を併用する場合であっても、適切なタイミングでエンジン11の出力トルクを低下させることができる。
また、電子制御装置41によれば、変速指令信号が出力されてからイナーシャ相が開始するまでの予想経過時間を実経過時間に基づいて算出することができ、変速指令信号が出力されてからイナーシャ相が開始するまでの予想経過時間と実経過時間とを比較した結果に基づいて新たな予想経過時間を算出することもできる。
また、電子制御装置41によれば、車両状態毎に予想経過時間(学習値)を算出するため、車両状態に応じたタイミングで動力源の出力トルクを低下させることができる。
また、電子制御装置41によれば、動力源の点火時期を変更する手段と、動力源の吸入空気量を変更する手段との2つのトルクダウン手段の各応答時間を考慮した各タイミングで、エンジン11の点火時期の変更と、エンジン11の吸入空気量の変更とを要求するため、エンジン11の点火時期を変更する手段と、エンジン11の吸入空気量を変更する手段との2つのトルクダウン手段を併用する場合であっても、適切なタイミングで動力源の出力トルクを低下させることができる。
なお、本実施の形態では、電子制御装置41は、式(1)を用いて学習値(N−1)を学習値(N)に更新するようにしたが、これに限らない。例えば、電子制御装置41は、以下の式(3)〜(5)を用いて学習値(N−1)を学習値(N)に更新するようにしてもよい。
(式3)
学習値(N)=TR (3)
(式4)
学習値(N)=学習値(N−1)+C (4)
(式5)
学習値(N)=学習値(N−1)+{TR−学習値(N−1)}×D (5)
なお、式(4)において、Cは、学習値(N−1)>学習値(N−2)のとき、予め定められた正の補正値であり、学習値(N−1)=学習値(N−2)のとき、0であり、学習値(N−1)<学習値(N−2)のとき、予め定められた負の補正値C<0である。また、式(5)において、Dは、予め定められたゲインである。
また、本実施の形態では、電子制御装置41をトルクダウン手段として機能させるために、電子制御装置41が、吸入空気量の変更を要求することによってエンジン11にトルクダウンを開始させる吸入空気量変更手段と、点火装置45の点火時期の変更を要求することによってエンジン11にトルクダウンを開始させる点火時期変更手段とを構成する例について説明した。
しかしながら、電子制御装置41をトルクダウン手段として機能させるために、電子制御装置41は、エンジン11がディーゼルエンジンによって構成される場合には、エンジン11に対する燃料噴射量を変更することによってエンジン11にトルクダウンを開始させるようにしてもよい。
この場合には、電子制御装置41がディーゼルエンジンに対する燃料噴射量の変更を要求したときから、この燃料噴射量の変更によってトルクダウンが開始されるまでの応答時間と、車両状態とを対応付けるマップを電子制御装置41のROMなどに予め記憶しておき、電子制御装置41は、このマップに基づいて、当該応答時間を決定し、イナーシャ相が開始されると予想された時刻より当該応答時間だけ前に、エンジン11の燃料噴射装置に燃料噴射量の変更を要求するよう構成する。
このように、電子制御装置41が各部にトルクダウンを要求したときから、トルクダウンが開始されるまでの応答時間と、車両状態とを対応付けるマップを電子制御装置41のROMなどに予め記憶しておき、電子制御装置41は、このマップに基づいて、当該応答時間を決定し、イナーシャ相が開始されると予想された時刻より当該応答時間だけ前に、エンジン11のトルクダウンを要求するように構成することにより、電子制御装置41が複数のトルクダウン手段を構成する場合であっても、適切なタイミングで動力源の出力トルクを低下させることができる。
例えば、電子制御装置41をトルクダウン手段として機能させるために、電子制御装置41は、エンジン11がハイブリッドエンジンによって構成される場合には、ハイブリッドエンジンのモータトルクを変更することによってエンジン11にトルクダウンを開始させるようにしてもよい。
また、電子制御装置41をトルクダウン手段として機能させるために、電子制御装置41は、車両に設けられた補機用に発電するためにエンジン11が発生する補機トルクを変更することによってエンジン11にトルクダウンを開始させるようにしてもよい。
また、本実施の形態において、学習値、吸入空気量変更応答時間Tr1および点火時期変更応答時間Tr2が対応付けられる各車両状態は、エンジン11のトルクTE、タービン回転速度NT、および、アクセル操作量Accの何れか、または、これらの組み合せとして説明したが、エンジン11のトルクTE、タービン回転速度NT、アクセル操作量Acc、電子制御装置41が油圧制御回路56に対して制御するライン油圧の制御量、および、締結クラッチの指示油圧の何れか、または、これらの組み合せとしてもよい。
以上、説明したように、本発明は、自動変速機のアップシフト時に動力源の出力トルクを低下させるために複数のトルクダウン手段を併用する場合であっても、適切なタイミングで動力源の出力トルクを低下させることができるという効果を有するものであり、車両に搭載される自動変速機の制御装置に有用である。