以下、本発明の駆動力制御装置の一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1から図4を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、運転者の手動の操作によって変速が行われる手動変速モードと、自動で変速が行われる自動変速モードのモード選択が可能に構成された自動変速機を制御する駆動力制御装置に関する。
手動変速モードと、自動変速モードのモード選択が可能に構成された自動変速機(図1の符号2参照)のシフトレバー(図2の符号7A参照)において、自動変速モード(ドライブポジション「D」)から手動変速モード(手動変速ポジション「M」)への切り換えがなされた場合に、従来の制御では、ブレーキペダル操作によるドライバ減速意図が考慮されておらず、運転者が希望する車輌減速度を得られない場合があった。走行時に、運転者がブレーキペダルによる減速操作を伴いながら、シフトレンジをドライブポジション「D」から手動変速ポジション「M」へ操作した場合に、従来の目標減速度設定手段では、運転者のブレーキ操作のパラメータが考慮されていなかった。よって、従来の制御で設定された目標減速度では、運転者のブレーキ操作による実現速度にも満たないことがあった。これは、従来の制御で選択される変速段(変速比)が運転者の期待に対して適切でないことが原因である。この場合、運転者はさらにシフトレンジ操作をして変速段を低ギヤ側へシフトダウンしなければならない。
本実施形態では、運転者がブレーキペダルによる減速操作を行いながら自動変速モードから手動変速モードへの切り換え操作を行った場合、ブレーキ操作の踏力(操作量)に基づいて運転者の要求する減速度(後述するドライバ要求減速度)を算出する。次に、算出されたドライバ要求減速度を加味して運転者の目標減速度(後述するドライバ目標前後加速度)を算出し、ドライバ目標前後加速度を実現するために適切な変速段が目標変速段として設定される。これにより、従来のブレーキペダル操作によるドライバ減速意図が考慮されない場合に比べて、運転者の感覚に沿った変速比を設定することができる。
本実施形態の構成としては、以下の(1)および(2)の構成を備えていることが前提となる。
(1)自動変速機を伴うパワートレーンとその制御装置
(2)ドライバ要求加減速度をベースとした車輌前後加速度制御の構成
図1は、本実施形態のブロック図である。
本実施形態の駆動力制御装置1は、ドライバ要求量演算装置11、パワートレーン制御装置13、制動制御装置14、エンジン制御装置15、および変速機制御装置16を含んで構成されている。駆動力制御装置1には、変速操作装置7が接続されており、変速操作装置7に対する運転者の操作(変速操作)を示す信号が変速操作装置7から駆動力制御装置1に出力される。
図2は、変速操作装置7の一例を示す図である。図2には、いわゆるシーケンシャルシフト機構付きのストレート式シフトレバー7Aが示されている。本実施形態の自動変速機2は、運転者の手動の操作によって変速が行われる手動変速モードと、自動で変速が行われる自動変速モードのモード選択が可能に構成された有段(6速)の自動変速機である。後述するように、シフトレバー7Aには、自動変速モードを選択するポジションと手動変速モードを選択するポジションが設けられており、運転者は上記の2つのポジションの切り換え操作により、自動変速モードと手動変速モードとの間のモード切り換えを行うことができる。
シフトレバー7Aには、シフト位置としてパーキングポジション「P」,リバースポジション「R」,ニュートラルポジション「N」,ドライブポジション「D」,手動変速ポジション「M」,アップシフト「+」及びダウンシフト「−」が設けられている。ドライブポジション「D」は、自動変速モードを選択するポジションである。手動変速ポジション「M」は、手動変速モードを選択するポジションである。運転者によりシフトレバー7Aが手動変速ポジション「M」からドライブポジション「D」に操作されることによって手動変速モードから自動変速モードへと切り換わり、ドライブポジション「D」から手動変速ポジション「M」に操作されることによって自動変速モードから手動変速モードへと切り換わる。
手動変速モードが選択されている場合、シフトレバー7Aを手動変速ポジション「M」からアップシフト「+」へ操作する度に変速段が1段ずつアップシフトし、手動変速ポジション「M」からダウンシフト「−」へ操作する度に変速段が1段ずつダウンシフトする。
ドライバ要求量演算装置11(図1)は、アクセルペダル5に接続されたドライバ要求前後加速度演算装置11aと、ブレーキペダル6に接続されたドライバ要求減速度演算装置(検出推定手段)11bを有する。
ドライバ要求前後加速度演算装置11aには、運転者によるアクセルペダル5に対する操作状態を示す信号が入力される。ドライバ要求前後加速度演算装置11aは、アクセルペダル5から入力される信号に基づいて運転者の要求する前後加速度であるドライバ要求前後加速度を演算し、算出されたドライバ要求前後加速度を示す信号をパワートレーン制御装置13に出力する。運転者によるアクセルペダル5に対する操作状態とは、例えば、アクセルペダル5のONとOFF、踏力、踏み込み量、踏み込み速度、戻し量、戻し速度等であることができる。
ドライバ要求減速度演算装置11bには、運転者によるブレーキペダル6に対する操作状態(制動操作)を示す信号が入力される。ドライバ要求減速度演算装置11bは、ブレーキペダル6に対する操作状態を示す信号に基づいて運転者の要求する減速度であるドライバ要求減速度を演算し、算出されたドライバ要求減速度を示す信号を制動制御装置14に出力する。運転者によるブレーキペダル6に対する操作状態とは、例えば、ブレーキペダル6のONとOFF、踏力、踏み込み量、踏み込み速度等であることができる。
パワートレーン制御装置13は、変速操作装置7から入力される運転者の変速操作を示す信号とドライバ要求前後加速度演算装置11aから入力されるドライバ要求前後加速度とに基づいてエンジン制御装置15および変速機制御装置16にそれぞれ指令値を出力する。
パワートレーン制御装置13は、変速操作装置7から入力される信号に基づいて、選択されているそれぞれの変速モードに応じて実現すべき変速段(以下、目標変速段とする)を選択する。自動変速モードが選択されている場合、パワートレーン制御装置13は、運転状態(エンジン回転数や車速等)とドライバ要求前後加速度に基づいて最適な変速段を選択し、その変速段を目標変速段として変速機制御装置16に出力する。
一方、手動変速モードが選択されている場合、パワートレーン制御装置13は、運転者による変速操作装置7に対する変速操作(手動アップシフト操作又は手動ダウンシフト操作)を契機に、その変速操作に応じた最適な変速段を選択し、その変速段を目標変速段として変速機制御装置16に出力する。
変速機制御装置16は、目標変速段を実現するように自動変速機2の変速制御を実行する。また、変速機制御装置16は、自動変速機2の変速を行う際に必要とされる出力トルクを算出し、算出された出力トルクをエンジン3で出力するようにエンジン制御装置15に信号を出力する。
パワートレーン制御装置13は、ドライバ要求前後加速度等に基づいてエンジン3で出力すべきトルクである目標トルクを算出し、算出された目標トルクをエンジン制御装置15に出力する。エンジン制御装置15は、目標トルクを出力するようにエンジン3を制御する。
制動制御装置14は、ドライバ要求減速度演算装置11bから出力されるドライバ要求減速度に基づいて、ブレーキ装置4を制御する。ブレーキ装置4は、駆動力制御装置1が搭載された車輌に発生させる制動力(減速度)を制御するものである。ブレーキ装置4は、車輌の車輪に設けられ、作動油の油圧により制動力を発生させるブレーキ(図示せず)と、ブレーキに供給される作動油の油圧を制御するアクチュエータ(図示せず)を有する。制動制御装置14は、ドライバ要求減速度に基づいてブレーキで発生させるべき制動力(以下、ブレーキ制動力とする)を決定し、ブレーキ制動力を実現するようにブレーキ装置4のアクチュエータを制御する。
本実施形態のパワートレーン制御装置13と制動制御装置14は、協調して車輌に発生させる制動力(減速度)を制御する協調制御を行う。協調制御が行われる場合、パワートレーン制御装置13と制動制御装置14とは相互に通信を行い、自動変速機2およびエンジン3を含むパワートレーンで発生させる減速度とブレーキで発生させるブレーキ制動力とを合わせた制動力が所望の制動力となるように、自動変速機2、エンジン3、およびブレーキ装置4をそれぞれ制御する。
運転者により変速操作装置7が操作されて自動変速モードから手動変速モードへの切り換え操作がなされたときには、パワートレーン制御装置13により、手動変速モードにおいて実現すべき変速段(目標変速段)が算出される。
本実施形態では、手動変速モードへの切り換え操作がなされた場合に選択される変速段がより運転者の感覚に沿ったものとなるように、運転者のブレーキ操作に基づいてドライバ要求減速度が算出され、算出されたドライバ要求減速度に基づいて目標変速段が決定される。以下に、図3に示すタイムチャートを参照して従来の制御と本実施形態の制御との違いについて説明する。
図3には、自動変速モードにおいて6速変速段が選択されている状態から時刻t4において運転者により手動変速モードへの切り換え操作がなされた場合のそれぞれの値の推移が示されている。図3において、符号101はアクセルペダル5の操作量(踏み込み量)、符号102はブレーキペダル6の操作量(踏力)をそれぞれ示す。符号103は、本実施形態において算出されるドライバ目標前後加速度を示す。ドライバ目標前後加速度103は、運転者が目標とする車輌の前後方向の加速度であり、ドライバ要求前後加速度とドライバ要求減速度に基づいて算出される。なお、従来の制御では、ドライバ目標前後加速度103の算出において、ドライバ要求減速度は考慮されていなかった。
符号104は、パワトレアベイラビリティ前後加速度を示す。パワトレアベイラビリティ前後加速度104とは、エンジン3および自動変速機2を含むパワートレーンにおいて発生させることができる車輌の前後方向の加速度であり、自動変速機2の変速段により異なる値となる。図3には、パワトレアベイラビリティ前後加速度104として、各変速段において減速時にパワートレーンで発生させることができるマイナスの(後方への)加速度が示されている。符号105は自動変速機2の変速段、符号106は車速をそれぞれ示す。
従来の制御においては、自動変速モードから手動変速モードへのモード切り換えの操作がなされたときに、手動変速モードにおいて実現すべき変速段を算出するにあたり、運転者が減速を望んで制動操作を行っていたとしても、その減速要求が考慮されていなかった。図3に示す例では、時刻t2から時刻t3にかけて運転者がブレーキペダル6を踏み込んでいく。これに伴い、ドライバ目標前後加速度103は、符号103aに示すように、マイナス側のより大きな値(大きな減速度)へ変化していく。すなわち、運転者が目標とする減速度がより大きな値へ変化していく。しかしながら、従来の制御においては、符号103aに示すようなブレーキ操作に対応する目標減速度の変化は考慮されておらず、時刻t2以降のドライバ目標前後加速度103には、運転者のブレーキ操作が反映されなかった。
このため、手動変速モードへの切り換え操作がなされる時刻t4において、運転者が期待するよりも高速側の変速段へ変速されてしまっていた。図3に示す例では、従来の制御の場合、符号105bに示すように、時刻t4において4速変速段に変速されていた。4速変速段のパワトレアベイラビリティ前後加速度104は、符号104bで示されている。4速変速段のパワトレアベイラビリティ前後加速度104bは、実際に運転者が望むドライバ目標前後加速度(減速度)103に対して不十分である。この場合、運転者が希望する車輌減速度が得られないため、運転者はさらに、シフトレンジ操作をして低ギヤ側へシフトダウンしなければならない。
本実施形態では、自動変速モードから手動変速モードへのモード切り換えの操作がなされる時刻t4において、運転者のブレーキ操作に基づいてドライバ目標前後加速度103が算出され、算出されたドライバ目標前後加速度103により近い減速度が得られるように自動変速機2の目標変速段が設定される。図3に示す例では、ドライバ目標前後加速度103よりも小さな減速度を発生させる変速段のうちで最も低速側の変速段である3速変速段が目標変速段に設定される。3速変速段のパワトレアベイラビリティ前後加速度は、符号104aで示されている。3速変速段のパワトレアベイラビリティ前後加速度104aは、ドライバ目標前後加速度103により近い減速度である。これにより、運転者の感覚に沿った変速段(変速比)を設定することができる。
ここで、図4に示すフローチャートを参照して本実施形態の動作について説明する。
まず、ステップS10において、パワートレーン制御装置13により、パワトレアベイラビリティ前後加速度(加減速度)Gavil_i(i=1−6)が算出される。パワトレアベイラビリティ前後加速度Gavil_iにおける末尾のiは、自動変速機2の変速段を示す。パワートレーン制御装置13は、現在の車速でパワートレーンにおいて機械的に発生可能な正負の加速度(加減速度)としてのパワトレアベイラビリティ前後加速度Gavil_iを各変速段(1速変速段から6速変速段)についてそれぞれ算出する。
次に、ステップS20において、ドライバ要求減速度演算装置11bにより、運転者のブレーキ踏力ForceBrkが予め定められたブレーキ踏力しきい値KBCNTよりも大きな値であるか否かが判定される。ブレーキ踏力しきい値KBCNTは、制御実行前提条件となる値であり、本実施形態のドライバ目標前後加速度103に基づく変速制御を行うか否かを判定するためのしきい値である。ステップS20の判定の結果、運転者のブレーキ踏力ForceBrkがブレーキ踏力しきい値KBCNTよりも大きな値であると判定された場合(ステップS20−Y)にはステップS30に進み、そうでない場合(ステップS20−N)には本制御フローはリターンされる。
ステップS30では、変速機制御装置16によりドライバ目標前後加速度Gbtが算出される。変速機制御装置16は、パワートレーン制御装置13を経由して取得するドライバ要求前後加速度と、制動制御装置14を経由して取得するドライバ要求減速度とに基づいてドライバ目標前後加速度Gbtを算出する。なお、ドライバ目標前後加速度Gbtは、パワートレーン制御装置13において算出されてもよい。この場合、パワートレーン制御装置13は、制動制御装置14からドライバ要求減速度を取得し、取得したドライバ要求減速度とドライバ要求前後加速度とに基づいてドライバ目標前後加速度Gbtを算出する。
次に、ステップS40では、パワートレーン制御装置13により、ドライブポジション「D」から手動変速ポジション「M」への切り換え操作がなされたか否かが判定される。ステップS40では、自動変速モードから手動変速モードへのモード切り換え操作がなされたか否かが判定される。その判定の結果、ドライブポジション「D」から手動変速ポジション「M」への切り換え操作がなされたと判定された場合(ステップS40−Y)には、ステップS50に進み、そうでない場合(ステップS40−N)には、本制御フローはリターンされる。
ステップS50では、パワートレーン制御装置13により、目標変速段が選択される。パワートレーン制御装置13は、ステップS10で算出された変速段別のパワトレアベイラビリティ前後加速度Gavil_iを検索し、パワトレアベイラビリティ前後加速度Gavil_iがドライバ目標前後加速度Gbtよりも小さい(減速度が小さい)変速段のうちで、パワトレアベイラビリティ前後加速度Gavil_iがドライバ目標前後加速度Gbtに最も近い変速段を、目標変速段として設定する。
次に、ステップS60では、パワートレーン制御装置13によりステップS50で設定された目標変速段が変速機制御装置16に指令値として出力される。変速機制御装置16は、自動変速機2の変速段を目標変速段とするように自動変速機2を制御する。
次に、ステップS70では、制動制御装置14による制動制御が実行される。制動制御装置14は、ステップS50で設定された目標変速段におけるパワトレアベイラビリティ前後加速度Gavil_iをパワートレーン制御装置13から取得し、そのパワトレアベイラビリティ前後加速度Gavil_iとブレーキ装置4において発生させるブレーキ制動力との和がドライバ目標前後加速度Gbtとなるようにブレーキ装置4を制御する。あるいは、パワトレアベイラビリティ前後加速度Gavil_iに代えて、パワートレーンにおいて実際に発生している前後加速度を検出し、検出された実際の前後加速度とブレーキ装置4において発生させるブレーキ制動力との和がドライバ目標前後加速度Gbtとなるようにブレーキ装置4が制御されてもよい。ステップS70において制動制御が実行されると、本制御フローはリターンされる。
本実施形態によれば、自動変速モードから手動変速モードへの変速モードの切り換えがなされたとき(ステップSS40−Y)に、ドライバのブレーキ踏力に基づいて算出されるドライバ目標前後加速度Gbtにより近い減速度が得られる変速段が目標変速段として設定される(ステップS50)。これにより、従来のようにドライバのブレーキ踏力(運転者の要求する減速度)が反映されずに目標変速段が設定される場合に比べて、より運転者の感覚に沿った変速段(変速比)を目標変速段として設定することができる。
手動変速モードと自動変速モードのモード選択が可能に構成された自動変速機2において、自動変速モードから手動変速モードへの切り換え操作がなされたときに、切り換え操作のみからでは運転者がダウンシフトを実行しようとしているかアップシフトを実行しようとしているかが検出できないことがある。例えば、図2に示すシフトレバー7Aにおいて、運転者がドライブポジション「D」から手動変速ポジション「M」に操作した場合に、その操作にはダウンシフトおよびアップシフトの操作は含まれていないため、運転者がダウンシフトあるいはアップシフトのいずれを望んでいるかは検出できない。ここで、運転者がブレーキを踏み込んだ状態で自動変速モードから手動変速モードへの切り換え操作を行う場合には、運転者が減速を望んでおり、シフトダウン操作によりパワートレーンで制動力(減速度)を発生させようとしていると推定することができる。
本実施形態によれば、運転者のブレーキ踏力に基づいて、運転者の望む値に近い減速度が得られるように手動変速モードに切り換えられたときの目標変速度が設定される。変速モードの切り換え操作が行われた時点で運転者の望む減速度に近い減速度をパワートレーンで発生させることができるため、運転者のダウンシフト操作に伴う負担を軽減させることができる。
なお、本実施形態では、ドライバ要求減速度が反映されて目標変速比が設定されたが、これに代えて、運転者の減速意図の有無が反映されて目標変速比が設定されてもよい。この場合、ドライバ要求減速度演算装置11bは、ブレーキ踏力(ブレーキペダル6に対する操作状態)に基づいて運転者の減速意図の有無を判定する。運転者に減速意図ありと判定された場合には、例えば、ドライバ要求減速度として、予め定められた所定値(減速度)が設定される。これにより、運転者の減速意図が目標変速比に反映され、運転者の感覚に沿った変速比が設定されることができる。
(第1実施形態の第1変形例)
第1実施形態の第1変形例について説明する。
上記第1実施形態(図1)では、運転者のブレーキ操作に基づいてドライバ要求減速度が算出されたが、これに代えて、あるいはこれに加えて、本変形例では、運転者のアクセル操作に基づいてドライバ要求減速度が算出(推定)される。
この場合、ドライバ要求減速度演算装置11bは、アクセルペダル5に接続され、アクセルペダル5に対する運転者の操作状態を示す信号に基づいて、ドライバ要求減速度を算出する。アクセルペダル5に対する操作状態とは、例えば、アクセルペダル5の戻し速度や戻し量であることができる。アクセルペダル5の戻し速度や戻し量が大きな値である場合には、運転者が大きな減速度を要求していると判定する(ドライバ要求減速度が大きな値として算出される)ことができる。ドライバ要求減速度演算装置11bは、自動変速モードから手動変速モードへのモード切り換えがなされる前(例えば、直前)に行われたアクセル操作に基づいて、ドライバ要求減速度を算出することができる。
(第1実施形態の第2変形例)
第1実施形態の第2変形例について説明する。
上記第1実施形態(図1)では、運転者のブレーキ操作に基づいてドライバ要求減速度が算出されたが、これに代えて、本変形例では、車輌の走行環境に基づいてドライバ要求減速度が算出(推定)される。より具体的には、車輌が走行する道路の路面勾配に基づいて、ドライバ要求減速度が算出される。
この場合、車輌には路面勾配を検出する路面勾配検出手段が設けられ、ドライバ要求減速度演算装置11bには、路面勾配検出手段の検出結果が出力される。路面勾配検出手段は、従来公知の方法により路面勾配を検出するものであることができる。例えば、従来公知のナビゲーションシステム装置から取得される現在位置情報と予め記憶されている勾配情報とに基づいて、現在位置あるいは前方の路面勾配が検出されることができる。
ドライバ要求減速度演算装置11bは、路面勾配検出手段から出力される現在位置あるいは前方の路面勾配に基づいてドライバ要求減速度を算出することができる。例えば、検出された路面勾配が下り勾配(降坂路)である場合に、運転者が減速を望んでいると判定することができる。この場合、検出された路面勾配が急勾配であるほどドライバ要求減速度が大きな減速度として算出されることができる。
(第2実施形態)
図5を参照して第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
上記第1実施形態では、手動変速モードへの切り換え時にドライバ要求減速度に基づいて変速比を設定する変速制御が有段の自動変速機2に適用されたが、本実施形態では、上記変速制御が無段式の自動変速機に適用される。自動変速機2が無段式の変速機である場合、運転者の要求する減速度により近い減速度をパワートレーンで発生させることが可能となる。
図5を参照して本実施形態の動作について説明する。
まず、ステップS110において、パワートレーン制御装置13により、パワトレアベイラビリティ前後加速度が算出される。本実施形態のパワトレアベイラビリティ前後加速度は、上記第1実施形態とは異なり、自動変速機2の変速比に対して算出される。例えば、予め定められた複数の変速比について、それぞれの変速比において、現在の車速でパワートレーンにおいて機械的に発生可能な加減速度としてのパワトレアベイラビリティ前後加速度が算出される。
ステップS120からステップS140までは、上記第1実施形態(図4)と同様である。ステップS120において、運転者のブレーキ踏力ForceBrkがブレーキ踏力しきい値KBCNTよりも大きな値であると判定された場合(ステップS120−Y)、ステップS130でドライバ目標前後加速度Gbtが算出される。次にステップS140において、ドライブポジション「D」から手動変速ポジション「M」への切り換え操作がなされたと判定された場合(ステップS140−Y)には、ステップS150に進む。
ステップS150では、パワートレーン制御装置13により、ステップS130で算出されたドライバ目標前後加速度Gbtを達成するために最適な変速比Ratiobが算出される。パワートレーン制御装置13は、ステップS110で算出された各変速比におけるパワトレアベイラビリティ前後加速度を検索し、ドライバ目標前後加速度Gbtを達成するために最適な変速比Ratiobを決定する。
次に、ステップS160では、パワートレーン制御装置13から変速機制御装置16にステップS150で設定された目標変速比Ratiobおよび後述する制動補正量dGbfbが出力される。上記第1実施形態(図4)と同様に、パワートレーンで発生する制動力がドライバ目標前後加速度Gbtに不足した場合には、協調制御によりブレーキ装置4で不足する制動力を発生させる(後述するステップS170)。制動補正量dGbfbは、ブレーキ装置4で補う制動力に見合う変速比の補正量である。つまり、本実施形態では、本制御フローが前回実行されたときにパワートレーンで発生させた制動力がドライバ目標前後加速度Gbtに不足すると、次に本制御フローが実行されるときにその不足分に対応してパワートレーンで発生させる制動力を増加させるように変速比が補正される。
変速機制御装置16は、自動変速機2の変速比が目標変速比Ratiobおよび制動補正量dGbfgから決定される変速比となるように自動変速機2を制御する。ステップS160が実行されると、ステップS170へ進む。また、ステップS170およびステップS180の実行と並行してステップS190およびステップS200が実行される。
ステップS170では、制動制御装置14による制動制御が実行される。制動制御装置14は、ステップS160で変速が実行された後に実際にパワートレーンで発生した制動力をパワートレーン制御装置13から取得し、そのパワートレーンで発生した制動力とブレーキ装置4において発生させるブレーキ制動力との和がドライバ目標前後加速度Gbtとなるようにブレーキ装置4を制御する。
次に、ステップS180では、制動制御装置14により、制動補正量dGbfbが算出され、算出された制動補正量dGbfbが保存される。ステップS180が実行されると、本制御フローはリターンされる。
一方、ステップS190では、パワートレーン制御装置13により、自動変速機2の状態を示すインジケータの表示指令が出力される。通常、無段式の自動変速機2におけるマニュアルシフトダウンでは、インジケータに「数字」を表示させるが、本実施形態でドライバ要求減速度に基づいて変速比を設定する変速制御が行われている場合に通常のマニュアルシフトダウンと同様に「数字」を表示すると、運転者に違和感を与える可能性がある。このため、変速段に相当する「n速」という数字ではなく、「B」などの特別な文字(またはマーク等)を表示する。「n速」という数字での表示への復帰は、例えば、運転者によりアップシフト「+」またはダウンシフト「−」操作が行われた場合など、ドライバ要求減速度に基づいて変速比を設定する変速制御から復帰するタイミングで行われる。
ステップS200では、パワートレーン制御装置13から指令された内容でインジケータのランプが点灯される。ステップS200が実行されると、本制御フローはリターンされる。
(第3実施形態)
図6を参照して第3実施形態について説明する。第3実施形態については、上記各実施形態と異なる点についてのみ説明する。
上記各実施形態では、手動変速モードへの切り換え時にドライバ要求減速度に基づいて変速比を設定する変速制御の適用対象が、自動変速モードから手動変速モードへの切り換え操作に変速段(変速比)の指定を伴わない自動変速機2である場合について説明した。図2に示すシフトレバー7Aでは、ドライブポジション「D」(自動変速モード)から手動変速ポジション「M」(手動変速モード)への切り換え操作は、変速モードの切り換え指示のみで具体的な変速段の指定は含まない。本実施形態では、これに代えて、変速モードの切り換えに変速段(変速比)の指定を伴う自動変速機2において手動変速モードへの切り換え時にドライバ要求減速度に基づいて変速比を設定する変速制御が適用される。
より具体的には、図6に示すシフトレバー7Bのように特定の変速段に対応するシフト位置(「2」や「L」)を有する変速操作装置7による変速操作が行われる自動変速機2に対して、手動変速モードへの切り換え時にドライバ要求減速度に基づいて変速比を設定する変速制御が適用される。
図6に示すように、シフトレバー7Bには、ドライブポジション「D」の他に、2速ポジション「2」と1速ポジション「L」が設けられている。2速ポジション「2」にシフトレバー7Bを操作すると、1速変速段と2速変速段のうちで最適な変速段が選択され、1速ポジション「L」にシフトレバー7Bを操作すると、1速変速段が選択される。なお、2速ポジション「2」は、2速変速段のみに固定するよう設定される場合もある。
シフトレバー7Bにおいては、2速ポジション「2」や1速ポジション「L」が手動変速モードを選択するポジションである。運転者により、シフトレバー7Bがドライブポジション「D」から2速ポジション「2」や1速ポジション「L」へ操作されることによって自動変速モードから手動変速モードへと切り換わる。ここで、手動変速モードへの切り換え操作がなされたときに、ドライバ要求減速度が反映されずに変速段が設定されると、運転者の感覚に沿わない場合がある。
例えば、ドライブポジション「D」から2速ポジション「2」へ操作された場合に、2速変速段へ変速されたのではパワートレーンで発生する減速度がドライバ要求減速度よりも大きくなりすぎてしまう場合がある。この場合、3速変速段や4速変速段の方が2速変速段よりもドライバ要求減速度を実現するためにより適切な変速段であることがある。これとは逆に、ドライブポジション「D」から2速ポジション「2」へ操作された場合に、2速変速段ではパワートレーンで発生する減速度がドライバ要求減速度に対して十分でない場合が考えられる。このような場合に、本実施形態では、ドライバ要求減速度が反映されて目標変速段が設定されることにより、運転者の感覚に沿った変速段が設定されることができる。
本実施形態の制御フローは、上記各実施形態(図4、図5)と同様であることができる。例えば、自動変速機2が有段式である場合には、上記第1実施形態(図4)と同様であることができる。また、自動変速機2が無段式である場合には、上記第2実施形態(図5)と同様であることができる。この場合、ステップS40あるいはステップS140において自動変速モードから手動変速モードへのモード切り換え操作がなされたか否かは、ドライブポジション「D」から2速ポジション「2」あるいは1速ポジション「L」への切り換え操作がなされたか否かに基づいて判定される。その他の動作については、上記各実施形態と同様であることができる。
(第4実施形態)
図7および図8を参照して第4実施形態について説明する。第4実施形態については、上記各実施形態と異なる点についてのみ説明する。
上記各実施形態では、手動変速モードへ切り換えられたときの目標変速比が運転者の要求する減速度であるドライバ要求減速度に基づいて設定された。これに代えて、本実施形態では、運転者の要求する加速度の推定値に基づいて手動変速モードへ切り換えられたときの目標変速比が設定される。運転者の要求する加速度は、車輌の走行環境に基づいて推定される。より具体的には、自車の前方を走行する車輌(前車)との車間距離に基づいて運転者の要求する加速度が推定される。前車との車間距離が大きく開いていく状況において、運転者が自動変速モードから手動変速モードへの切り換え操作を行った場合には、運転者はダウンシフトを行って大きな加速度を得ることを望んでいると推定することができる。この場合に、本実施形態では、より適切な加速度を実現できる変速段が目標変速段として設定される。
図7は、本実施形態のブロック図である。
図7に示すように、車輌(図示せず)には、前車との車間距離を検出する車間距離検出装置8が設けられている。車間距離検出装置8は、車両前部に搭載されたレーザーレーダーセンサ又はミリ波レーダーセンサなどのセンサを有する。車間距離検出装置8は、レーダーから出力される信号に基づいて、先行車両との相対車速及び車間距離を検出する。車間距離検出装置8の検出結果を示す信号は、ドライバ要求前後加速度演算装置(加速推定手段)11aに出力される。
ドライバ要求前後加速度演算装置11aは、車間距離検出装置8から入力される情報に基づいて、運転者の要求する加速度を算出する。例えば、前車との車間距離の増加度合いに基づいて、運転者の要求する加速度が算出される。この場合、車間距離の時間的な変化に基づいて前車の加速度を算出し、前車が一定以上の加速度で離れていく場合に運転者が加速操作を行うと判定することができる。更に、前車が加速して離れ始める前の車間距離が予め定められた所定距離以内であることを運転者の加速意図ありと判定する条件に加えてもよい。また、車間距離の増加度合いが大きな値であるほど運転者の要求する加速度が大きな値として算出されることができる。
車間距離検出装置8からの情報に基づいて算出された運転者の要求する加速度と、アクセルペダル5に対する操作状態に基づいて算出されるドライバ要求前後加速度は、パワートレーン制御装置13に出力される。パワートレーン制御装置13は、ドライバ要求前後加速度演算装置11aからの情報に基づいて、目標変速段を決定する。
次に、図8を参照して本実施形態の動作について説明する。
まず、ステップS210において、パワートレーン制御装置13により、パワトレアベイラビリティ前後加速度Gavil_i(i=1−6)が算出される。ステップS210では、現在の車速でパワートレーンにおいて機械的に発生可能な加速度が算出される。
次に、ステップS220において、パワートレーン制御装置13により、ドライバ目標前後加速度Gbtが算出される。パワートレーン制御装置13は、車間距離検出装置8からの情報に基づいて算出された運転者の要求する加速度と、アクセルペダル5に対する操作状態に基づいて算出されたドライバ要求前後加速度とに基づいてドライバ目標前後加速度Gbtを算出する。
次に、ステップS230では、ドライブポジション「D」から手動変速ポジション「M」への切り換え操作がなされたか否かが判定される。その判定の結果、ドライブポジション「D」から手動変速ポジション「M」への切り換え操作がなされたと判定された場合(ステップS230−Y)には、ステップS240に進み、そうでない場合(ステップS230−N)には、本制御フローはリターンされる。
ステップS240では、パワートレーン制御装置13により、目標変速段が選択される。パワートレーン制御装置13は、ステップS210で算出された変速段別のパワトレアベイラビリティ前後加速度Gavil_iを検索し、パワトレアベイラビリティ前後加速度Gavil_iがドライバ目標前後加速度Gbtよりも小さい(加速度が小さい)変速段のうちで、パワトレアベイラビリティ前後加速度Gavil_iがドライバ目標前後加速度Gbtに最も近い変速段を、目標変速段として設定する。
次に、ステップS250では、ステップS240で設定された目標変速段がパワートレーン制御装置13から変速機制御装置16に指令値として出力される。変速機制御装置16は、自動変速機2の変速段を目標変速段とするように自動変速機2を制御する。ステップS250が実行されると、本制御フローはリターンされる。
なお、本実施形態では、自動変速機2が有段式である場合を例に説明したが、自動変速機2が無段式の場合にも本実施形態の制御が適用されることができる。
本実施形態では、運転者の要求する加速度の推定値が反映されて目標変速比が設定されたが、これに代えて、運転者の加速意図の有無が反映されて目標変速比が設定されてもよい。この場合、ドライバ要求前後加速度演算装置11aは、車間距離検出装置8から入力される情報に基づいて運転者の加速意図の有無を判定する。運転者に加速意図ありと判定された場合には、例えば、ドライバ目標前後加速度に予め定められた所定値(加速度)が加算される。これにより、運転者の加速意図が目標変速比に反映され、運転者の感覚に沿った変速比が設定されることができる。
(第4実施形態の変形例)
第4実施形態の変形例について説明する。
上記第4実施形態(図7)では、車間距離検出装置8の検出結果に基づいて運転者の要求する加速度が推定されたが、これに代えて、本変形例では、路面勾配に基づいて運転者の要求する加速度が推定される。
この場合、上記第4実施形態の車間距離検出装置8に代えて、路面勾配検出手段が設けられる。ドライバ要求前後加速度演算装置11aは、路面勾配検出手段の検出結果に基づいて、運転者の要求する加速度を推定する。例えば、検出された路面勾配が上り勾配(登坂路)である場合に、運転者が加速を望んでいると判定することができる。この場合、検出された路面勾配が急勾配であるほど運転者の要求する加速度が大きな値として算出されることができる。