本発明を具体的に説明する前に、概要を述べる。本発明の実施例は、ディジタルテレビジョン放送システムでの中継装置に関する。また、ディジタルテレビジョン放送システムにおける中継装置は、SFNに対応しているものとする。中継装置は、放送局等から受信した信号を受信機等へ送信するが、受信した信号は、放送局との間の無線伝送路におけるマルチパスと、送信した信号による回り込みの影響を受けている。そのため、中継装置には、マルチパスと回り込みに対するキャンセル機能が備えられている。なお、受信した信号には複数のチャンネルが含まれており、複数のチャンネルには周波数分割多重がなされている。ここで、複数の放送局から互いに異なったチャンネルが送信される場合がある。
一般的に、複数の放送局のそれぞれと中継装置との距離は異なるので、受信した信号に含まれた複数のチャンネルのそれぞれに対する信号レベルは異なっている。回り込み成分をキャンセルするためには、回り込み成分あるいは回り込み成分の逆位相成分を推定する必要がある。しかしながら、チャンネル間の信号レベルが異なっていれば、回り込み成分による周波数特性と、チャンネル間の信号レベルの差異による周波数特性とが分離できなくなる。その結果、回り込み成分等の推定が高精度になされなくなり、回り込みが正確にキャンセルされなくなる。このような課題に対応するために、本実施例に係る中継装置は、次の処理を実行する。
中継装置は、信号を受信すると、推定した回り込み成分を除去したのちに、スペクトル(以下、「受信スペクトル」ともいう)を算出する。中継装置は、受信スペクトルをもとに、各チャンネルに対する信号レベルを導出し、信号レベルの逆数をもとに、各チャンネルに対する重み係数を導出する。また、中継装置は、受信スペクトルの逆数に、ユーザが設定した再送信チャンネルの信号に対応した理想の形状をした送信スペクトルを参照スペクトルとして乗算する。ただし、参照スペクトルとしては、予め測定しておいた送信スペクトルの平均値でもよいし、理論的に算出される送信スペクトルの平均値でもよい。なお、乗算結果は、回り込みの周波数特性の逆数に相当するので、逆特性スペクトルと呼ぶこととする。中継装置は、逆特性スペクトルに重み係数の逆数をチャンネル毎に乗算することによって、逆特性スペクトルにおけるチャンネル間の信号レベル差を小さくする。なお、重み係数は、信号レベルの逆数に対応するので、自動利得制御での増幅率に相当する。そのため、重み係数の逆数を乗算した結果、チャンネル間の回り込み成分の大きさが異なる。これに対応するために、中継装置は、逆特性スペクトルから平均電力を減算してから、重み係数の逆数をチャンネル毎に乗算した後、平均電力を加算する。中継装置は、このように調節した逆特性スペクトルをもとに、回り込み成分を生成するためのFIRフィルタのタップ係数を導出する。
図1は、本発明の実施例に係る中継装置100の構成を示す。中継装置100は、受信用アンテナ10、第1帯域通過フィルタ部12、LNA(Low−Noise Amplifier)部14、第1ミキサ部16、A/D変換部18、直交復調部20、加算部22、FIRフィルタ部24、キャンセル用FIRフィルタ部26、直交変調部28、D/A変換部30、第2ミキサ部32、第2帯域通過フィルタ部34、PA部36、送信用アンテナ38、制御部40、局部発振器42、使用帯域設定部44、周波数設定部46、タップ係数設定部48を含む。
受信用アンテナ10は、無線信号を受信する。また、無線信号は複数のチャンネルによって形成されており、複数のチャンネルに対して周波数分割多重がなされている。ここで、実施例に係る放送システムは、ISDB−T(Terrestrial Integrated Services Digital Broadcasting)方式に対応しているとする。そのため、ひとつのチャンネルは、13セグメントに周波数分割されている。また、13セグメントがひとつの番組に割り当てられている場合もあれば、1セグメントと残りの12セグメントが別の番組に割り当てられている場合もある。ここで、無線信号は、図示しない放送局あるいは別の中継装置によって送信されている。なお、チャンネル毎に異なった放送局から送信されている場合もある。一般的に、放送局が異なれば、中継装置100と放送局との距離も異なるので、チャンネル毎に信号レベルは異なる。
第1帯域通過フィルタ部12は、BPF(Band−Pass Filter)に相当し、受信した無線信号に対して、複数のチャンネル全体の帯域外の部分を減衰させる。LNA部14は、BPFからの無線信号を増幅する。第1ミキサ部16には、LNA部14からの放送周波数帯域の無線信号の他、局部発振器42からの局部発振信号も入力される。第1ミキサ部16は、放送周波数帯域の無線信号に局部発振信号を乗じて放送周波数帯域の信号を中間周波数帯域の信号(以下、「中間信号」という)に変換する。A/D変換部18は、中間信号をディジタル信号に変換し、直交復調部20に出力する。直交復調部20は、ディジタル信号に変換された中間信号を直交復調することによって、中間信号をベースバンドの信号(以下、「ベースバンド信号」という)に変換する。
加算部22は、直交復調部20からベースバンド信号を入力し、キャンセル用FIRフィルタ部26から回り込み信号の逆位相信号を入力し、両者を加算する。つまり、加算部22での加算は、ベースバンド信号から回り込み信号の削除、つまり回り込み成分の低減に相当する。また、加算部22は、ベースバンド信号から回り込み信号を削除した信号を処理信号として出力する。処理信号は、FIRフィルタ部24へ出力されるとともに、制御部40にも出力される。
FIRフィルタ部24は、加算部22からの処理信号に対してユーザが設定した再送信チャンネルの信号のみを電力調整して通過させるフィルタ処理を実行する。ユーザが設定した再送信チャンネルの信号のみを電力調整して通過させるフィルタ処理には、特開2007−124147号公報に開示された技術を使用すればよいが、FIRフィルタ部24は、ユーザが設定した再送信チャンネルのうち図示しない上位局(放送局あるいは中継局)の送信装置から受信用アンテナ10が受信する無線信号と、図示しない別の上位局の送信装置から受信用アンテナ10が受信する無線信号との間の電力差を軽減し、再送信チャンネル以外のチャンネル、および予め定めた電力を下回る電力のチャンネルを除去する。例えば、FIRフィルタ部24は、有限インパルス応答(Finite Inpulse Response:FIR)フィルタによって構成されており、入力した処理信号を遅延させるための遅延器が直列に並べられる。また、遅延器の出力は、次段の遅延器に入力されるとともにタップ(乗算器)にも入力される。FIRフィルタ部24は、遅延器の出力とタップ係数との間において畳み込み積分を実行する。最終的に、FIRフィルタ部24は、畳み込み積分の結果(以下、「出力信号」という)を出力する。なお、タップ係数は、後述の制御部40から入力される。
キャンセル用FIRフィルタ部26は、FIRフィルタ部24から出力信号を入力し、出力信号に対して、複数のタップによるフィルタ処理を実行することによって回り込み信号の逆位相成分を導出する。キャンセル用FIRフィルタ部26も、FIRフィルタ部24と同様に、FIRフィルタによって構成されている。つまり、キャンセル用FIRフィルタ部26は、FIRフィルタ部24の出力信号からキャンセル用FIRフィルタ部26にて回り込み信号の逆位相信号を生成しながら、新たに受信した信号のベースバンド信号から回り込み信号を削除させるために、回り込み信号の逆位相信号を加算部22へフィードバックする。なお、回り込み信号の逆位相信号と回り込み信号とを区別せずに、「回り込み信号」と呼ぶことがある。
制御部40は、加算部22からの処理信号をもとに、FIRフィルタ部24に設定すべき複数のタップ係数とキャンセル用FIRフィルタ部26に設定すべき複数のタップ係数とをそれぞれ生成する。タップ係数の生成に関しては、後述する。直交変調部28は、FIRフィルタ部24の出力信号に対して直交変調を実行することによって、中間周波数の信号(以下、当該信号も「中間信号」という)を生成する。D/A変換部30は、直交変調部28からの中間信号をアナログ信号に変換し、第2ミキサ部32に入力する。
第2ミキサ部32は、前述の第1ミキサ部16と逆の処理を実行することによって、中間信号を放送周波数帯域の信号(以下、当該信号も「無線信号」という)へ周波数変換する。なお、第1ミキサ部16と同様に第2ミキサ部32にも局部発振器42からの局部発振信号が入力されているので、SFNに対応する。第2帯域通過フィルタ部34は、第1帯域通過フィルタ部12と同様に、BPFに相当し、無線信号に対して、複数のチャンネル全体の帯域外の部分を減衰させる。PA部36は、第2帯域通過フィルタ部34からの無線信号を増幅し、送信用アンテナ38から送信する。
使用帯域設定部44は、図示しないインターフェイスを介して、ユーザから中継すべきチャンネルに関する指示を受けつける。使用帯域設定部44は、受けつけた指示を制御部40に出力する。局部発振器42は、図示しないインターフェイスを介して、ユーザから局部発振信号の周波数に関する指示を受けつける。局部発振器42は、受けつけた指示をもとに、局部発振器42に対して、局部発振信号の周波数を制御する。タップ係数設定部48は、FIRフィルタ部24またはキャンセル用FIRフィルタ部26のタップ係数を固定する場合の値を受けつける。タップ係数設定部48は、受けつけた値を制御部40に出力する。
この構成は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIで実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされた通信機能のあるプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
以下、制御部40の説明を行うが、その前に、制御部40においてなされる処理の動作原理を説明する。ここでは、図1において、加算部22に入力されるベースバンド信号のスペクトルをW(ω)と示し、加算部22から出力されるベースバンド信号のスペクトルをZ(ω)と示し、FIRフィルタ部24の周波数特性をG(ω)と示す。また、キャンセル用FIRフィルタ部26の周波数特性をF(ω)と示し、PA部36での周波数特性をA(ω)と示し、送信用アンテナ38から受信用アンテナ10へ至る回り込み伝送路の周波数特性をC(ω)と示す。また、上位局(放送局あるいは中継局)から送信された複数チャンネル信号のベースバンド信号のスペクトルをX(ω)、送信用アンテナ38から送出される再送信信号のベースバンド信号のスペクトルをY(ω)と示す。
式(1)から(3)を整理すると、次のように示される。
その結果、回り込み波が消去され、正常な中継が実現できる条件は、次のように示される。
その際、各スペクトルは、次のように示される。
また、制御部40においてZ(ω)を観測すると、次の関係が得られる。
したがって、次の関係をもとに、伝達関数を求め、逆フーリエ変換により遅延プロファイルを求めることによって、FIRフィルタ部24のタップ係数が導出される。
ただしG(ω)ではある特定のチャンネルを削除、または電力制御している場合があるので、X(ω)/Z(ω)−1を逆フーリエ変換しても回り込み波消し残り分の遅延プロファイルは得られない。そこで、G(ω)が既知なので、次の関係により伝達関数を算出し、求めた伝達関数の逆フーリエ変換により回り込み波消し残り分の遅延プロファイルe(t)が導出される。
さらに、導出した遅延プロファイルe(t)を用いてタップ係数値が以下のように更新される。
ただし、μは0<μ≦1.0となる更新係数であり、固定値としても、e(t)による関数μ(e(t))としてもよい。ここで、回り込み特性の推定の開始時は、F(ω)=0なので、E(ω)=−A(ω)C(ω)となり、式(7)の回り込み波が消去され、正常な中継が実現できる条件に一致する。つまり、μ=1.0ときは1回の更新で回り込みが完全にキャンセルされる。また、ここで重要なのは、回り込み特性の推定には、FIRフィルタ部24の入力信号Z(ω)を使用し、回り込み信号の逆位相信号の生成にはFIRフィルタ部24の出力信号を使用している点である。
図2は、制御部40の構成を示す。制御部40は、時間データ抽出部60、窓関数乗算部62、離散フーリエ変換部64、エネルギースペクトル算出部66、スペクトル平均化部68、チャンネル設定部70、チャンネル毎電力測定部72、チャンネル毎重み算出部74、FIRフィルタタップ係数算出部76、スペクトル補正・逆数化部78、チャンネル毎レベル補正部80、チャンネル毎回り込み量補正部82、平方根算出部84、離散フーリエ変換ポイント数増加部86、信号帯域外電力調節部88、逆離散フーリエ変換部90、遅延プロファイル正規化部92、逆コンボリューション部94、雑音除去部96、タップ係数更新部98を含む。なお、図2の説明を明瞭するために、図3(a)−(d)、図4(a)−(e)を合わせて使用する。図3(a)−(d)は、制御部40における信号を示し、図4(a)−(e)は、制御部40における別の信号を示す。
時間データ抽出部60は、加算部22の出力信号を入力し、加算部22の出力信号をNポイント抽出する。ここでは、処理信号を離散時間データという。実際には、Nを4096または8192程度とする。窓関数乗算部62では、時間データ抽出部60において抽出したNポイントの離散時間データに窓関数を乗じる。窓関数として、例えば、ハニング窓が使用される。
離散フーリエ変換部64は、窓関数を乗じたNポイントの離散時間データに対して、離散フーリエ変換を実行する。その結果、時間領域の離散時間データが周波数領域に変換される。その結果、Nポイントにて形成される処理信号のスペクトルが導出される。エネルギースペクトル算出部66は、離散フーリエ変換部64において得られたNポイントのスペクトルからエネルギースペクトルを算出する。エネルギースペクトルは、周波数軸上のポイント毎に処理信号のスペクトルの絶対値の2乗を計算することによって、生成される。なお、エネルギースペクトルは、受信スペクトルとも呼ばれる。
スペクトル平均化部68は、エネルギースペクトル算出部66において算出したエネルギースペクトルをM回分保持した後に平均化する。例えば、Mは、「64」と設定される。図3(a)は、スペクトル平均化部68において平均化したエネルギースペクトルを示す。図示のごとく、横軸が周波数を示し、縦軸が電力を示す。また、8つのチャンネルが周波数分割多重されているが、チャンネル間の電力は、最大で10dB以上異なっている。図2に戻る。
チャンネル毎電力測定部72は、スペクトル平均化部68において平均化したエネルギースペクトルに対して、チャンネル設定部70が指定した各チャンネル内の平均電力を測定する。図3(b)は、チャンネル毎電力測定部72において測定する平均電力に代えることが可能な各チャンネルの合計電力値を示す。平均電力の演算には除算が必要となるので、演算量を低減するために各チャンネルの平均電力の代わりに合計電力を使用してもよい。チャンネル毎電力測定部72において測定した平均電力は、チャンネル間の信号レベルの相違を示す。図2に戻る。チャンネル設定部70は、図1の使用帯域設定部44から、中継すべきチャンネルに関する指示を受けつける。チャンネル設定部70は、受けつけた指示をもとに、指定されたチャンネル番号を設定する。つまり、指定されたチャンネル番号は、中継装置100が中継するチャンネル番号に相当する。
チャンネル毎重み算出部74は、チャンネル毎電力測定部72において測定した各チャンネルの信号帯域内の平均電力の逆数を定格電力に乗じて、重み係数をチャンネル単位に導出する。つまり、チャンネル毎重み算出部74は、処理信号から導出した受信スペクトルでの各チャンネルに対する信号レベルをもとに、各チャンネルに対する重み係数を導出する。ここで、あるチャンネルの信号帯域内の平均電力が定格電力に比べて小さく、かつ予め定めたしきい値を下回る場合、チャンネル毎重み算出部74は、重み係数の値を「0」に設定する。図3(c)は、チャンネル毎重み算出部74において設定された重み係数を示す。図2に戻る。
FIRフィルタタップ係数算出部76は、チャンネル設定部70において設定された通過すべきチャンネルに対応したバンドパスフィルタのタップ係数に、チャンネル毎重み算出部74において導出した各チャンネルの重み係数をそれぞれ乗じる。その後、FIRフィルタタップ係数算出部76は、すべてのチャンネルのタップ係数値を時間ポイント毎に加算する。なお、チャンネル設定部70において設定された通過すべきチャンネルに対応したバンドパスフィルタのタップ係数とは、チャンネル設定部70において設定されたチャンネル番号を通過すべきバンドパスフィルタのタップ係数に相当する。例えば、中継すべきでないチャンネル番号に対して、タップ係数は、すべて「0」の値になる。このような処理によって、FIRフィルタタップ係数算出部76は、チャンネル毎重み算出部74において導出した重み係数をもとに、図1のFIRフィルタ部24でのタップ係数を導出する。図3(d)は、FIRフィルタタップ係数算出部76において導出されたタップ係数を示す。図3(d)において、横軸は、時間を示す。図2に戻る。
スペクトル補正・逆数化部78は、スペクトル平均化部68において平均化したエネルギースペクトルの逆数を算出し、予め保持しておいた参照エネルギースペクトルと乗算する。ここで、参照エネルギースペクトルは、図示しない放送局、中継局などから送信される信号の平均エネルギースペクトルに相当するので、エネルギースペクトルに対応すべき送信スペクトルともいえる。一般的に、受信した信号から回り込み成分を削除するためには、回り込み特性を推定し、回り込み信号と逆位相の信号を生成し、これを受信した信号に加算する。受信用アンテナ10から送信用アンテナ38へ向かう中継装置100内の経路と、送信用アンテナ38から受信用アンテナ10へ向かう回り込み波の経路とによって、無限ループが形成される。
ループを伝送する回数が、遅延波成分の個数に相当するので、無限ループによって、無限数の遅延波成分が回り込み成分に含まれる。そのような回り込み成分の推定は困難であるので、ここでは、回り込み成分の逆数を推定する。なぜなら、無限ループの回り込み波成分に対して、逆数を導出すると、無限数の遅延波成分が、直接波成分とひとつの遅延波成分に変換されるからである。このような回り込み成分の逆数を導出するために、スペクトル補正・逆数化部78は、エネルギースペクトルの逆数と参照エネルギースペクトルとを乗算する。ここでは、乗算結果を逆特性スペクトルと呼ぶ。図4(a)は、参照エネルギースペクトルを示し、図4(b)は、逆特性スペクトルを示す。図2に戻る。
チャンネル毎レベル補正部80は、スペクトル補正・逆数化部78において導出した逆特性スペクトルに、チャンネル毎重み算出部74において導出した各チャンネルの重み係数の逆数を乗算する。当該乗算によって、逆特性スペクトルにおける各チャンネルの平均電力がほぼ等しくなる。つまり、チャンネル毎レベル補正部80は、重み係数をもとに、逆特性スペクトルにおけるチャンネル間の信号レベルが近くなるように、逆特性スペクトルを補正する。図4(c)は、重み係数を乗算することによって、各チャンネルの信号レベルを補正した逆特性スペクトルを示す。図2に戻る。
チャンネル毎回り込み量補正部82は、チャンネル毎レベル補正部80において補正した逆特性スペクトルから、平均電力、例えば、逆特性スペクトルの平均電力を減算する。また、チャンネル毎回り込み量補正部82は、チャンネル毎重み算出部74において導出した重み係数の逆数を減算結果に乗算する。さらに、チャンネル毎回り込み量補正部82は、平均電力を乗算結果に加算する。以上の処理によって、チャンネル毎回り込み量補正部82は、逆特性スペクトルをさらに補正する。チャンネル毎レベル補正部80は、各チャンネルに対して重み係数の逆数を乗算するが、一般的に、重み係数の値は、チャンネル毎に異なる。重み係数の差異は、チャンネル間の増幅率の差異といえる。そのため、チャンネル毎レベル補正部80において補正した逆特性スペクトルにおける回り込み量(すなわち、希望波に対する回り込み波の電力比)は、チャンネル毎に異なる。このような回り込み量を近くするために、チャンネル毎回り込み量補正部82は、前述の処理を実行する。ただし、チャンネル毎の重み係数が「0」のチャンネル帯域ではすべての正規化周波数に対応する電力を平均電力とする。図4(d)は、回り込み成分の量を調節した逆特性スペクトルを示す。図2に戻る。
平方根算出部84は、チャンネル毎回り込み量補正部82において補正した逆特性スペクトルの平方根を算出し、振幅スペクトルを得る。ここでは、平方根算出部84において導出した振幅スペクトルも逆特性スペクトルという。離散フーリエ変換ポイント数増加部86は、増加ポイント数をNとした場合、Nポイントの逆特性スペクトルの低い周波数領域および高い周波数領域に対応する両端にN/2ポイントずつ「0」を付加し、全部で2Nポイントとする。当該処理は、時間領域の遅延プロファイルに対する時間分解能を詳細にすることに相当する。
信号帯域外電力調節部88は、離散フーリエ変換ポイント数増加部86で得た2Nポイントの逆特性スペクトルにおいて、信号帯域外の電力を調節する。ここで、調節には「0」とする場合も含まれる。また、信号帯域外電力調節部88は、後述の逆コンボリューション部94で使用される逆コンボリューション用の参照スペクトルの信号帯域外の電力も同時に調節する。ただし、信号帯域外の電力を常に一定とする場合には、逆コンボリューション部94で使用される逆コンボリューション用の参照スペクトルは固定値なので、信号帯域外電力調節部88から逆コンボリューション部94との接続は不要になる。
逆離散フーリエ変換部90は、信号帯域外電力調節部88において調節された2Nポイントの逆特性スペクトルに対して、2Nポイントの逆離散フーリエ変換を実行する。その結果、逆離散フーリエ変換部90は、遅延プロファイルを導出する。遅延プロファイル正規化部92は、逆離散フーリエ変換部90において導出した遅延プロファイルの希望波成分を基準にインパルス応答値を正規化する。図4(e)は、遅延プロファイル正規化部92において正規化された遅延プロファイルを示す。横軸が正規化遅延時間を示す。図2に戻る。
逆コンボリューション部94は、遅延プロファイル正規化部92から正規化された遅延プロファイルを受けつけ、正規化された遅延プロファイルから、希望波のみが存在する際の遅延プロファイルを用いて逆コンボリューション処理を実行する。逆コンボリューション処理とは、遅延プロファイル上に現れるサイドローブの影響を低減する処理に相当する。具体的には、遅延プロファイルにおける電力のピーク値|Pi|2を探索し、ピーク値に対応した遅延時間niに対して、希望波のみが存在する際の遅延プロファイル値のすべての時間に対応するインパルス応答値に逆位相成分−Piを乗じる。ここで、Piは複素数値である。また、乗算結果をniだけ巡回シフトしてni以外で加算し、得られた遅延プロファイルから既に処理したPi以外のピーク値を探索し、同様の処理を10回程度繰り返す。ここで、希望波のみが存在する際の遅延プロファイルも2Nポイントすべて用意する必要はなく、最大値の前後10ポイント程度まで用意すればよい。この処理により、離散フーリエ変換ポイント数増加部86の増加ポイント数がNの場合、時間分解能が1/2になった遅延プロファイルが取得される。以上の逆コンボリューション部94には、特開2004−23405号公報に開示された手法が使用されてもよい。
雑音除去部96は、遅延プロファイル正規化部92から、分解能が詳細(例えば、分解能1/2)にされた遅延プロファイルを受けつけ、当該遅延プロファイルから、予め定めたしきい値以下の雑音成分を除去する。タップ係数更新部98は、雑音除去部96において雑音成分が除去された遅延プロファイルに更新係数μ(0.0<μ≦1.0)を乗じてから更新前のタップ係数に加算することによって、タップ係数を更新する。ここで、更新係数μとしては、遅延プロファイルの値に応じた値μ(e(t))としてもよい。このことは、タップ係数更新部98が、チャンネル毎レベル補正部80やチャンネル毎回り込み量補正部82において補正した逆特性スペクトルをもとにタップ係数を導出することに相当する。
なお、FIRフィルタタップ係数算出部76において導出されたタップ係数をFIRフィルタ部24に設定する時間間隔、つまりタップ係数の更新周期は、タップ係数更新部98において導出されたタップ係数をキャンセル用FIRフィルタ部26に設定する更新周期と異なっていてもよい。具体的には、FIRフィルタ部24のタップ係数の更新周期をキャンセル用FIRフィルタ部26のタップ係数の更新周期の1以上の整数倍Iとしてよい。ただし、この場合には、チャンネル毎重み算出部74からチャンネル毎レベル補正部80およびチャンネル毎回り込み量補正部82へチャンネル毎の重みを入力する間隔をFIRフィルタタップ係数算出部76がタップ係数を更新する更新周期と同一とする。また、チャンネル毎重み算出部74がチャンネル毎の重みを算出する更新周期と、チャンネル毎電力測定部72がチャンネル毎の電力を測定する更新周期とは同一にされる。すなわち、FIRフィルタ部24のタップ係数の更新周期をキャンセル用FIRフィルタ部26のタップ係数の更新周期の1以上の整数倍とすることによって、チャンネル毎電力測定部72、チャンネル毎重み算出部74、FIRフィルタタップ係数算出部76の時間当たりの計算量が1/Iになる。
以下、変形例を説明する。変形例の動作原理は、実施例と同様である。変形例は、実施例と比較して、FIRフィルタ部24を配置する位置が異なる。図5は、本発明の変形例に係る中継装置100の構成を示す。中継装置100の構成要素は、図1に示された中継装置100の構成要素と同様であるが、FIRフィルタ部24の配置およびそれに伴う信号線の配置が、図1と異なる。
実施例においては、加算部22、FIRフィルタ部24、キャンセル用FIRフィルタ部26によって、ループが形成されていたが、変形例においては、加算部22、キャンセル用FIRフィルタ部26によって、ループが形成される。つまり、FIRフィルタ部24は、ループの外部に配置される。加算部22は、前述のごとく、直交復調部20からベースバンド信号を入力し、キャンセル用FIRフィルタ部26から回り込み信号の逆位相信号を入力し、処理信号を生成する。加算部22は、実施例と異なり、処理信号をキャンセル用FIRフィルタ部26にも出力する。
FIRフィルタ部24は、加算部22からユーザが設定した再送信チャンネルの信号のみを電力調整して通過させるフィルタ処理を実行し、フィルタ処理を実行した出力信号を生成する。しかしながら、実施例と異なり、FIRフィルタ部24は、出力信号をキャンセル用FIRフィルタ部26へ出力しない。キャンセル用FIRフィルタ部26は、実施例と異なり、加算部22から処理信号を入力し、処理信号に対して、複数のタップによるフィルタ処理を実行することによって回り込み成分を導出する。
図6は、制御部40の構成を示す。制御部40は、図2の制御部40に対して、タップ係数畳み込み部102をさらに含む。タップ係数畳み込み部102は、タップ係数更新部98において導出されたタップ係数値と、FIRフィルタタップ係数算出部76において導出されたタップ係数値とに対して、畳み込み積分を実行することによって、図5のキャンセル用FIRフィルタ部26に使用すべきタップ係数を導出する。
以下、別の変形例を説明する。別の変形例は実施例と比較して、FIRフィルタ部24を配置する位置、および制御部40をふたつに分割する点が異なる。図9は、本発明の別の変形例に係る中継装置100の構成を示す。中継装置100の構成は、図1に示された中継装置100の構成と比較して、FIRフィルタ部24の配置およびそれに伴う信号線の配置が異なる。また、制御部40が第1制御部50および第2制御部52に分割されている点も異なる。また、図9の別の変形例の構成とした場合、第1制御部50は、図2に示された制御部40の構成要素のうち、時間データ抽出部60、窓関数乗算部62、離散フーリエ変換部64、エネルギースペクトル算出部66、スペクトル平均化部68、チャンネル設定部70、チャンネル毎電力測定部72、チャンネル毎重み算出部74、FIRフィルタタップ係数算出部76から構成される。
また、第2制御部52は、図2に示された制御部40の構成要素と同様、もしくは制御部40の要素のうち、時間データ抽出部60、窓関数乗算部62、離散フーリエ変換部64、エネルギースペクトル算出部66、スペクトル平均化部68、スペクトル補正・逆数化部78、平方根算出部84、離散フーリエ変換ポイント数増加部86、信号帯域外電力調節部88、逆離散フーリエ変換部90、遅延プロファイル正規化部92、逆コンボリューション部94、雑音除去部96、タップ係数更新部98から構成される。このような構成によって、FIRフィルタ部24は、回り込み信号を削除する前の無線信号に対して、ユーザが設定した再送信チャンネルの信号を電力調整して通過させるフィルタ処理を実行する。また、FIRフィルタ部24は、フィルタ処理を実行した無線信号を加算部22に出力する。
以下、さらに別の変形例を説明する。さらに別の変形例は別の変形例と比較して、FIRフィルタ部24を選択調整部54に変更し、第1制御部50を削除した点が異なる。図10は、さらに別の変形例に係る中継装置100の構成を示す。中継装置100の構成要素は、図9に示された中継装置100におけるFIRフィルタ部24および第1制御部50を選択調整部54に変更した点が異なる。選択調整部54は、チャンネル選択およびチャンネル毎電力調整を実現する。つまり、選択調整部54は、回り込み信号を削除する前の無線信号に対して、ユーザが設定した再送信チャンネルの信号を電力調整して通過させる処理を実行し、処理を実行した無線信号を加算部22に出力する。
また、図10に示した中継装置100の構成とした場合、別の変形例と同様に第2制御部52は、図2に示された制御部40の構成要素と同様、もしくは構成要素のうち、時間データ抽出部60、窓関数乗算部62、離散フーリエ変換部64、エネルギースペクトル算出部66、スペクトル平均化部68、スペクトル補正・逆数化部78、平方根算出部84、離散フーリエ変換ポイント数増加部86、信号帯域外電力調節部88、逆離散フーリエ変換部90、遅延プロファイル正規化部92、逆コンボリューション部94、雑音除去部96、タップ係数更新部98を含む。なお、別の変形例およびさらに別の変形例において、キャンセル用FIRフィルタ部26のタップ係数の更新周期は、FIRフィルタ部24、および選択調整部54のタップ係数の更新周期と同一でもよく、異なっていてもよい。
以下、本実施例による動作例を説明する。図7(a)−(c)は、中継装置100による動作例を示す。図7(a)は、中継装置100における受信スペクトルを示す。図7(b)は、中継装置100において回り込みキャンセルがなされる前の送信スペクトルを示す。図7(c)は、中継装置100から送信される再送信スペクトルを示す。このように、再送信時に所定のチャンネルを削除する場合であっても、回り込みが正常にキャンセルされている。また、受信スペクトルにおいてチャンネルが連続していない場合も同様に、中継装置100は、回り込みを正常にキャンセルできる。
図8(a)−(c)は、中継装置100による別の動作例を示す。図8(a)は、中継装置100における受信スペクトルを示す。図8(b)は、中継装置100において回り込みキャンセルがなされる前の送信スペクトルを示す。図8(c)は、中継装置100から送信される再送信スペクトルを示す。このように、チャンネル間の電力差を補正せずに再送信する場合であっても、回り込みが正常にキャンセルされている。
本発明の実施例によれば、各チャンネルの信号レベルをもとにした重み係数によって、逆特性スペクトルを補正するので、チャンネル間の信号レベルが異なっていても、回り込み成分のキャンセルを実行できる。また、受信した信号をもとに重み係数を導出するので、チャンネル間の信号レベル差が変動する場合であっても、回り込み成分のキャンセルを実行できる。また、回り込み成分のキャンセルを実行するので、中継すべき信号の品質を向上できる。また、信号レベルを補正した逆特性スペクトルから平均電力を減算した後に、重み係数の逆数を乗算するので、チャンネル毎の回り込み成分の量の違いを補正できる。また、チャンネル毎の回り込み成分の量の違いを補正するので、回り込み成分の推定精度を向上できる。また、回り込み信号が削除された無線信号を制御部に入力するので、キャンセラ部でのFIRフィルタとフィルタ部によってループを形成していても、制御部にてタップ係数を推定できる。
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
本発明の実施例において、加算部22の前段に直交復調部20が配置され、FIRフィルタ部24の後段であって、かつFIRフィルタ部24とキャンセル用FIRフィルタ部26によるループの外側に直交変調部28が配置される。しかしながらこれに限らず例えば、キャンセル用FIRフィルタ部26を挟むように直交復調部20と直交変調部28とが配置されてもよい。つまり、キャンセル用FIRフィルタ部26においてベースバンド信号に対する処理が実行され、FIRフィルタ部24において中間周波数の信号に対する処理が実行されてもよい。本変形例によれば、FIRフィルタ部24の回路規模を低減できる。
10 受信用アンテナ、 12 第1帯域通過フィルタ部、 14 LNA部、 16 第1ミキサ部、 18 A/D変換部、 20 直交復調部、 22 加算部、 24 FIRフィルタ部、 26 キャンセル用FIRフィルタ部、 28 直交変調部、 30 D/A変換部、 32 第2ミキサ部、 34 第2帯域通過フィルタ部、 36 PA部、 38 送信用アンテナ、 40 制御部、 42 局部発振器、 44 使用帯域設定部、 46 周波数設定部、 48 タップ係数設定部、 100 中継装置。