以下、本発明の実施の形態によるスクロール式流体機械を、無給油式の空気圧縮機に適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
ここで、図1および図2は本発明の第1の実施の形態を示している。図中、1は空気圧縮機(スクロール式流体機械)の外殻を構成するケーシングで、該ケーシング1は、図1に示す如く軸方向一側が開口した有底筒状体として形成されている。また、ケーシング1の軸方向他側には、軸線O1−O1上に後述の出力軸8Aを有した電動モータ8が着脱可能に取付けられている。
この場合、ケーシング1は、軸方向一側(後述の固定スクロール2側)が開口した筒部1Aと、該筒部1Aの軸方向他側に一体形成され径方向内向きに延びた環状の底部1Bと、該底部1Bの内周側から軸方向一側に向けて突出した筒状の軸受取付部1Cとから大略構成されている。そして、ケーシング1の筒部1A内には、後述の旋回スクロール4、偏心ブッシュ12、バランスウェイト13、ボールカップリング機構15等が収容されている。
また、ケーシング1の底部1B側には、後述の旋回スクロール4に付加される軸方向のスラスト荷重をボールカップリング機構15を介して受承する複数の台座部1D(図1、図2中に1個のみ図示)が設けられ、これらの台座部1Dは、ケーシング1の周方向に所定の間隔をもって配設されている。そして、各台座部1Dには、後述するボールカップリング機構15のボール18を収容するグリス収容部21が設けられると共に、該グリス収容部21の底面には、ボールカップリング機構15の支持部材16が取付けられる取付凹部1Eが形成されている。
2はケーシング1(筒部1A)の開口端側に固定して設けられた固定スクロールで、該固定スクロール2は、図1に示す如く軸線O1−O1を中心として円板状に形成された鏡板2Aと、該鏡板2Aの表面に立設された渦巻状のラップ部2Bと、該ラップ部2Bを取囲む位置で鏡板2Aの外周側に設けられ、複数のボルト3等によりケーシング1(筒部1A)の開口端側に締結された筒状の支持部2Cとにより大略構成されている。
4は固定スクロール2と軸方向に対向する位置でケーシング1内に旋回可能に設けられた旋回スクロールを示している。そして、該旋回スクロール4は、図1中に示すように軸線O2−O2を中心とする円板状の鏡板4Aと、該鏡板4Aの表面に立設された渦巻状のラップ部4Bと、鏡板4Aの背面(ラップ部4Bと反対側の面)側に突設され、後述の偏心ブッシュ12に旋回軸受14を介して取付けられる筒状のボス部4Cとにより大略構成されている。
また、旋回スクロール4の背面部の外径側には、後述するボールカップリング機構15の支持部材17が取付けられる複数の取付凹部4D(図1、図2中に1個のみ図示)が、旋回スクロール4の周方向に間隔をもって設けられ、これらの取付凹部4Dは、ケーシング1の各台座部1D(取付凹部1E)と軸方向で対向する位置に配設されるものである。
ここで、旋回スクロール4のボス部4Cは、その中心となる軸線O2−O2が固定スクロール2の中心となる軸線O1−O1に対して、後述の偏心ブッシュ12により予め決められた所定の寸法δ分だけ径方向に偏心して配置されている。この状態で、旋回スクロール4のラップ部4Bは、固定スクロール2のラップ部2Bと重なり合うように配置され、これらのラップ部2B,4Bの間には、複数の圧縮室5,5,…が画成されている。
そして、旋回スクロール4は、電動モータ8により後述の回転軸9と偏心ブッシュ12とを介して駆動され、後述のボールカップリング機構15によって自転を規制された状態で固定スクロール2に対し旋回運動を行う。即ち、旋回スクロール4は、固定スクロール2の軸線O1−O1に対して前記寸法δ分の旋回半径をもって旋回動作するものである。
これにより、複数の圧縮室5のうち外径側の圧縮室5は、固定スクロール2の外周側に設けられた吸込口6から空気を吸込み、この空気は各圧縮室5内で旋回スクロール4の旋回動作に伴って連続的に圧縮される。そして、内径側の圧縮室5は、固定スクロール2の中心側に設けられた吐出口7から圧縮空気を外部に向けて吐出するものである。
8はケーシング1の底部1B側に設けられた駆動源としての電動モータで、該電動モータ8は、その出力軸8Aが後述の回転軸9に一体的に連結されている。そして、電動モータ8の出力軸8Aは、図1に示す軸線O1−O1を中心として回転することにより、旋回スクロール4を後述の回転軸9、偏心ブッシュ12等を介して旋回駆動するものである。
9はケーシング1の軸受取付部1C内に軸受10等を介して回転可能に設けられた回転軸で、該回転軸9は、図1に示す如く基端側(軸方向の他側)が電動モータ8の出力軸8Aに着脱可能に固着され、電動モータ8によって回転駆動される。また、回転軸9の先端側(軸方向の一側)には、偏心ブッシュ12と旋回軸受14とを介して旋回スクロール4のボス部4Cが旋回可能に連結されている。
また、回転軸9の基端側には、図1に示すように径方向外向きに延びるサブウェイト11が一体形成され、このサブウェイト11は、後述のバランスウェイト13と旋回スクロール4とが回転するときにそれぞれ生じる遠心力が回転軸9等を傾ける方向の外力(モーメント力)となって作用するのを打消す機能を有するものである。
12は回転軸9の先端側に設けられた段付筒状の偏心ブッシュで、該偏心ブッシュ12は、旋回スクロール4のボス部4C側を回転軸9に後述の旋回軸受14を介して偏心状態で連結している。そして、偏心ブッシュ12は、回転軸9と一体に回転し、その回転を旋回スクロール4の旋回動作に変換するものである。また、偏心ブッシュ12の外周側には、旋回スクロール4の旋回動作を安定させるためにバランスウェイト13が一体に形成されている。
14は旋回スクロール4のボス部4Cと偏心ブッシュ12との間に配設された旋回軸受を示し、該旋回軸受14は、旋回スクロール4のボス部4Cを偏心ブッシュ12に対して旋回可能に支持し、旋回スクロール4が回転軸9の軸線O1−O1に対し前述の旋回半径(寸法δ)をもって旋回動作するのを補償するものである。
15はケーシング1の底部1Bと旋回スクロール4の背面側との間に設けられた複数(例えば3個)のボールカップリング機構で、該各ボールカップリング機構15は、ケーシング1の各台座部1Dと旋回スクロール4の各取付凹部4Dとの間にそれぞれ配設され、後述の支持部材16,17とボール18等とを介して旋回スクロール4の自転を防止するものである。
そして、ボールカップリング機構15は、図2に示すようにケーシング1の取付凹部1E内に設けられた第1の支持部材16と、該第1の支持部材16と軸方向で対向して旋回スクロール4の取付凹部4D内に設けられた第2の支持部材17と、第1,第2の支持部材16,17のボール支持面16A,17A間に転動可能に設けられたボール18(図5参照)と、支持部材16,17のボール支持面16A,17A側に設けられ該ボール18が転動するボール18をガイドするボールガイド手段としてのガイド溝19,20により構成されている。
また、ボールカップリング機構15のボール18は、例えば鋼球等の高い剛性をもった材料により球体によって形成され、旋回スクロール4の鏡板4A等に付加されるスラスト荷重を、支持部材16,17と共にケーシング1の台座部1D側で受承するものである。
ここで、円板状の板体からなる第1の支持部材16には、旋回スクロール4の旋回動作に従ってボール18を予め決められた円軌跡に沿ってガイドする第1のガイド溝19が設けられている。そして、該ガイド溝19は、例えば0.4〜0.8mm程度の溝深さをもった円弧状溝として形成されている。
また、円板状の板体からなる第2の支持部材17にも、第1のガイド溝19と共にボール18を予め決められた円軌跡に沿ってガイドする第2のガイド溝20が設けられ、このガイド溝20も図6に示すように溝深さをもって同様に形成されている。そして、第1,第2のガイド溝19,20は、前述の如く浅底の円弧状溝からなり、その溝深さは、グリス収容部21の軸方向深さ寸法よりも十分に小さい寸法となっている。
一方、ガイド溝19,20の溝深さは、図2に示すようにラップ部2B,4Bの歯先と鏡板4A,2Aとの間に予め形成される隙間Δよりも大きな寸法に設定されている。なお、この場合の隙間Δは、圧縮運転を続けるうちにラップ部2B,4Bの熱膨張等により漸次小さい隙間となり、圧縮運転の開始前が最も大きい隙間となるものである。
21はケーシング1の台座部1Dに設けられたグリス収容部で、該グリス収容部21は、図2および図4に示すように台座部1Dに凹設された有底穴によって形成されている。また、グリス収容部21の底面には、取付凹部1Eが形成されると共に、取付凹部1Eには第1の支持部材16が取付けられている。そして、グリス収容部21の内部には、ボール18が収容されると共に、潤滑剤としてのグリスGが収容されている。これにより、グリス収容部21は、ボール18の周囲に位置してボール18を取囲むと共に、その内部にグリスGを収容するためのグリス収容空間22を画成している。
また、グリス収容部21の先端面21A(開口端面)は、旋回スクロール4の鏡板4Aの背面近傍まで延び、支持部材17のボール支持面17Aの周囲に配置されている。これにより、グリス収容部21の先端面21Aは、ボール18の中心位置を基準としたときに、ケーシング1と旋回スクロール4とのうち軸方向に対して相手方となる旋回スクロール4側に片寄った位置まで延びている。
そして、グリス収容部21と旋回スクロール4の背面とは、図2に示す如く互いに軸方向で対向配置され、両者の間には微小隙間S(例えば、0.1〜0.5mm程度)が形成されている。そして、この微小隙間Sは、旋回スクロール4の旋回動作に伴って、旋回スクロール4がグリス収容部21に対し相対変位するのを許すと共に、後述のグリス収容空間22内からグリスGが漏出するのを抑える機能を有しているものである。
22はグリス収容部21内に形成されるグリス収容空間で、該グリス収容空間22は、図2に示すようにグリス収容部21とボール18との間に形成され、例えば粘度が高いグリス等の潤滑剤を内部に保持するものである。
本実施の形態によるスクロール式の空気圧縮機は、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
まず、電動モータ8に外部から給電して出力軸8Aにより、軸線O1−O1を中心として回転軸9と偏心ブッシュ12とを回転駆動すると、例えば3組のボールカップリング機構15によって自転を規制された状態で、旋回スクロール4は所定の旋回半径(図1中の寸法δ)をもった旋回動作を行う。
これにより、固定スクロール2のラップ部2Bと旋回スクロール4のラップ部4Bとの間に画成された各圧縮室5は、外径側から内径側に向けて連続的に縮小される。そして、これらの圧縮室5のうち外径側の圧縮室5は、固定スクロール2の外周側に設けた吸込口6から空気を吸込み、この空気を各圧縮室5内で連続的に圧縮しつつ、内径側の圧縮室5から吐出口7を介して圧縮空気が外部に向けて吐出される。
また、このような圧縮運転時には、各圧縮室5内で圧縮された空気の圧力が旋回スクロール4の鏡板4Aにスラスト荷重となって作用する。しかし、ケーシング1の台座部1Dと旋回スクロール4の背面側との間には、例えば3組のボールカップリング機構15が配置され、これらのボールカップリング機構15を、第1,第2の支持部材16,17、ボール18および第1,第2のガイド溝19,20等により構成している。
このため、旋回スクロール4の鏡板4Aに付加されるスラスト荷重を、ボールカップリング機構15の第1,第2の支持部材16,17とボール18との間で受承することができ、旋回スクロール4がケーシング1の軸方向に変位したり、固定スクロール2に対して斜めに傾いたりするのを防ぎ、旋回スクロール4の旋回動作を安定させることができる。
ここで、従来技術のように、例えば一対の支持部材にそれぞれ設けられたガイド溝がボールの半径の半分程度の深さ寸法をもって形成された場合には、一対の支持部材間の隙間は、軸方向に対してボールの中心位置(一対の支持部材の中間位置)付近に配置される。この場合、ボールに付着したグリスGが遠心力によってボールカップリング機構の外に弾き出されてしまい、早期にグリス不足が生じて潤滑不良が生じ易いという問題がある。
これに対し、本実施の形態で採用したボールカップリング機構15にあっては、ケーシング1には、ボール18の周囲を取囲んでグリスGを収容するグリス収容部21を設け、該グリス収容部21の先端面21Aは、相手方となる旋回スクロール4に片寄った位置まで延びる構成とした。
このため、ボール18のうち軸方向の中心位置付近を、グリス収容部21によって取囲むことができる。特に、本実施の形態では、グリス収容部21の先端面21Aは、旋回スクロール4側の支持部材17の周囲に配置されているから、ボール18の遠心力が殆ど作用しない。このように、グリス収容部21と相手方(旋回スクロール4)との間の隙間を最もグリスGが漏れ難い位置に配置したから、ボール18に付着したグリスに遠心力が作用するときでも、グリスGがグリス収容部21の外側に弾き出されることがなくなり、グリスGをグリス収容部21内に確実に保持することができる。これにより、グリスGの漏洩を防止して、ボールカップリング機構15の耐久性、信頼性を向上することができる。そして、長時間にわたる無給油運転を可能とすることができ、機械の信頼性を向上することができる。
また、グリス収容部21はケーシング1側にのみ設けたから、旋回スクロール4に設けた場合に比べて、旋回スクロール4を小型化することができる。また、グリス収容部21とケーシング1等を一体化することができ、部品点数、組立工数を削減して生産性の向上および製造コストの低減を図ることができる。さらに、例えば旋回スクロール4とケーシング1との間に回転軸9(駆動軸)の重量バランスをとるためのバランスウエイト13を配置した場合には、旋回スクロール4にグリス収容部を設けたときに、旋回スクロール4の旋回動作と一緒にグリス収容部が変位してバランスウエイト13に干渉してしまい、バランスウエイト13用の空間を確保し難い傾向がある。これに対し、本実施の形態では、グリス収容部21はケーシング1側にのみ設けたから、バランスウエイト13が通過する空間を確実に確保することができる。
次に、図3は本発明の第2の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、グリス収容部の先端には相手方との間をシールするためのシール部材を設ける構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
図中、31は本実施の形態によるボールカップリング機構を示し、該ボールカップリング機構31は、第1の実施の形態で述べたボールカップリング機構15と同様に、第1,第2の支持部材16,17、ボール18、第1,第2のガイド溝19,20等によって構成されている。
32は本実施の形態によるグリス収容部で、該グリス収容部32は、第1の実施の形態によるグリス収容部21とほぼ同様に構成され、台座部1Dに凹設された有底穴によって形成されている。また、グリス収容部21の底面には、取付凹部1Eが形成されると共に、取付凹部1Eには第1の支持部材16が取付けられている。そして、グリス収容部32は、ボール18の周囲に位置してボール18を取囲むと共に、その内部にグリスGを収容するためのグリス収容空間33を画成している。
また、グリス収容部32の先端面32A(開口端面)は、旋回スクロール4の鏡板4Aの背面近傍まで延び、支持部材17のボール支持面17Aの周囲に配置されている。これにより、グリス収容部32の先端面32Aは、ボール18の中心位置を基準としたときに、ケーシング1と旋回スクロール4とのうち軸方向に対して相手方となる旋回スクロール4側に片寄った位置まで延びている。また、グリス収容部32の先端面32A側には、開口内部に位置して円環状の取付段部32Bが形成されている。そして、取付段部32Bには、後述するシール部材34が取付けられている。
34はグリス収容部32の先端面32A側に取付けられたシール部材で、該シール部材34は、例えば樹脂材料等を用いて円環状に形成され、外径側に位置して取付段部32Bに取付けられる取付部34Aと、該取付部34Aから内径側に向けて突出した断面三角形状のリップ部34Bとによって構成されている。そして、リップ部34Bの先端は、支持部材17のボール支持面17Aの中心側に向けて延び、相手方となる旋回スクロール4の背面側や支持部材17のボール支持面17Aに弾性的に摺接する。これにより、シール部材34は、グリス収容部32の開口端をシールし、グリス収容部32の内部(グリス収容空間33)からグリスGが漏洩するのを防止している。
かくして、このように構成される本実施の形態でも、前記第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、本実施の形態では、グリス収容部32の先端面32Aにはシール部材34を設けたから、シール部材34によってグリス収容部32の先端面32AからグリスGが漏洩するのを防止することができ、ボールカップリング機構31の耐久性、信頼性をさらに向上することができる。
また、シール部材34には内径側に向けて突出したリップ部34Bを設けたから、旋回スクロール4が旋回運動することによって、シール部材34のリップ部34Bに付着したグリスは支持部材17に設けられたガイド溝20の中心付近に押しやられる。このため、ボール18とガイド溝20が接する位置付近にグリスGを供給することが可能となる。
次に、図4は本発明の第3の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、グリス収容部の先端にはシール部材を設けると共に、グリス収容部には該シール部材を相手方に向けて付勢する付勢手段を設ける構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
図中、41は本実施の形態によるボールカップリング機構を示し、該ボールカップリング機構41は、第1の実施の形態で述べたボールカップリング機構15と同様に、第1,第2の支持部材16,17、ボール18、第1,第2のガイド溝19,20等によって構成されている。
42は本実施の形態によるグリス収容部で、該グリス収容部42は、第1の実施の形態によるグリス収容部21とほぼ同様に構成され、台座部1Dに凹設された有底穴によって形成されている。また、グリス収容部42の底面には、取付凹部1Eが形成されると共に、取付凹部1Eには第1の支持部材16が取付けられている。そして、グリス収容部42は、ボール18の周囲に位置してボール18を取囲むと共に、その内部にグリスGを収容するためのグリス収容空間43を画成している。
また、グリス収容部42の先端面42A(開口端面)は、旋回スクロール4の鏡板4Aの背面近傍まで延び、支持部材17のボール支持面17Aの周囲に配置されている。これにより、グリス収容部42の先端面42Aは、ボール18の中心位置を基準としたときに、ケーシング1と旋回スクロール4とのうち軸方向に対して相手方となる旋回スクロール4側に片寄った位置まで延びている。また、グリス収容部42の先端面42A側には、開口内部に位置して円環状の取付段部42Bが形成されている。そして、取付段部42Bには、後述するシール部材44が取付けられている。
44はグリス収容部42の先端面42A側に取付けられたシール部材で、該シール部材44は、例えば樹脂材料等を用いて円筒状に形成され、グリス収容部42の取付段部42B内に位置して軸方向に変位可能に取付けられている。そして、シール部材44の先端(端面)は、相手方となる旋回スクロール4の背面側に弾性的に摺接する。これにより、シール部材44は、グリス収容部42の開口端をシールし、グリス収容部42の内部(グリス収容空間43)からグリスGが漏洩するのを防止している。
45はグリス収容部42の取付段部42Bの奥所に設けられた付勢手段としての弾性リングで、該弾性リング45は、例えば弾性樹脂材料等を用いたOリングによって形成されている。そして、弾性リング45は、シール部材44の両端面のうち旋回スクロール4とは反対側の端面と取付段部42Bとの間に配置され、シール部材44を旋回スクロール4側に向けて付勢している。なお、付勢手段としては、樹脂製の弾性リング45に限らず、例えば金属製の皿バネ等を用いる構成としてもよい。
かくして、このように構成される本実施の形態でも、前記第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、本実施の形態では、グリス収容部42には弾性リング45を設けたから、該弾性リング45を用いてシール部材44を相手方となる旋回スクロール4に向けて付勢することができる。このため、シール部材44を常に旋回スクロール4に接触させることができるから、グリス収容部42の先端面42Aと旋回スクロール4との間の隙間をなくすことができ、この隙間からのグリスGの漏洩を防止して、信頼性、耐久性を向上することができる。
一方、運転初期はシール部材44と旋回スクロール4の背面との間の摺動抵抗によって機械損失が増大する。しかし、運転が進むことでシール部材44が摩耗して弾性リング45の変形量が小さくなるから、弾性リング45の押付け力も減少する。このため、最小の隙間を維持したまま、摺動抵抗は小さくなる。
なお、本実施の形態によるボールカップリング機構41では、円筒状のシール部材44を用いる構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば図5に示す第1の変形例によるボールカップリング機構41′のように、シール部材44に代えて例えば第2の実施の形態によるシール部材34とほぼ同様に、取付部44A′およびリップ部44B′を備えたシール部材44′を用いる構成としてもよい。
次に、図6は本発明の第4の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、グリス収容部をケーシングとは別部材によって形成したことにある。なお、本実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
図中、51は本実施の形態によるボールカップリング機構を示し、該ボールカップリング機構51は、第1の実施の形態で述べたボールカップリング機構15と同様に、第1,第2の支持部材16,17、ボール18、第1,第2のガイド溝19,20等によって構成されている。
52は本実施の形態によるグリス収容部で、該グリス収容部52は、例えば樹脂材料、金属材料等を用いて略円筒状に形成されている。そして、グリス収容部52は、ケーシング1の台座部1Dと旋回スクロール4の背面との間に位置して、ボール18の周囲を取囲むように配置されている。また、グリス収容部52の軸方向寸法は、ケーシング1の台座部1Dと旋回スクロール4の背面との間の離間寸法よりも僅かに小さい値に設定されている。このため、グリス収容部52の軸方向両端側には、先端面52Aとケーシング1および旋回スクロール4との間にそれぞれ微小な隙間が形成される。これにより、グリス収容部52の先端面52Aは、ボール18の中心位置を基準としたときに、軸方向に対してケーシング1側および旋回スクロール4側に片寄った位置まで延びている。
また、グリス収容部52の軸方向両端側には、内周側に向けて突出した断面三角形状のテーパ部52Bが形成されている。これにより、旋回スクロール4が旋回運動することによって、グリス収容部52のテーパ部52Bに付着したグリスは支持部材17に設けられたガイド溝20の中心付近に押しやられる。このため、ボール18とガイド溝20が接する位置付近にグリスGを供給することが可能となる。
かくして、このように構成される本実施の形態でも、前記第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、本実施の形態では、グリス収容部52をケーシング1とは別部材によって形成したから、ケーシング1の材質、形状等に関係なくグリス収容部52を設けることができ、設計自由度が高まると共に、ケーシング1の軽量化を図ることができる。
次に、図7および図8は本発明の第5の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、複数のグリス収容部をリング部材に設けたボール収容穴によって形成したことにある。なお、本実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
図中、61は本実施の形態によるボールカップリング機構を示し、該ボールカップリング機構61は、第1の実施の形態で述べたボールカップリング機構15と同様に、第1,第2の支持部材16,17、ボール18、第1,第2のガイド溝19,20等によって構成されている。
62は本実施の形態によるグリス収容部で、該グリス収容部62は、回転軸9を取囲むドーナツ状に形成されたリング部材63に設けられたボール収容孔64によって形成されている。ここで、ケーシング1の台座部1Dには、軸受取付部1Cを取囲んで有底の円環状の取付凹部65が凹設されている。そして、リング部材63は、該取付凹部65内に取付けられている。また、リング部材63には、ボールカップリング機構61と対応した位置に軸方向に貫通したボール収容孔63Aが形成されている。このとき、ボール収容孔64は、ボール18の周囲に位置してボール18を取囲むと共に、内部に収容したボール18の旋回運動を阻害しないように、例えば円形状に形成されている。
また、リング部材63の軸方向寸法は、取付凹部65の深さ寸法よりも僅かに小さい値に設定されている。また、取付凹部65の深さ寸法は、ボール18の直径寸法よりも僅かに小さい値に設定されている。これにより、リング部材63と旋回スクロール4の背面との間、およびリング部材63と取付凹部65の底部との間には微小な隙間が形成されている。そして、グリス収容部62の先端面62A(リング部材63の端面)は、ボール18の中心位置を基準としたときに、軸方向に対して旋回スクロール4側に片寄った位置まで延びている。
なお、リング部材63は、1部材である必要はなく、ボール収容孔64によって円弧状をなす3部材に分離する構成としてもよい。この場合、円弧状部材の両端に半円形状の窪みが形成され、2つの窪みによってボール収容孔64が画成されるものである。
かくして、このように構成される本実施の形態でも、前記第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。
なお、第5の実施の形態によるボールカップリング機構61では、グリス収容部62は円柱状に延びるボール収容孔64を用いる構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば図10に示す第2の変形例によるボールカップリング機構61′のように、グリス収容部62′のリング部材63′を弾性材料を用いて形成し、ボール収容孔64′の軸方向両端側の開口部分に内径側に向けて突出したシールリップ63A′を設ける構成としてもよい。この場合、シールリップ64A′を取付凹部65の底面および旋回スクロール4の背面に摺接させる。これにより、リング部材63′の弾性力によってリング部材63′と取付凹部65の底面および旋回スクロール4の背面との間の隙間をなくすことができ、この隙間からグリスGが漏洩するのを防止することができる。
次に、図11ないし図14は本発明の第6の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、ボールカップリング機構の一対の支持部材の間には複数のボールを設ける構成としたことにある。
図中、71はスクロール式空気圧縮機の外枠を形成するケーシングで、該ケーシング71は、軸方向の一側がほぼ閉塞され、他側が開口した段付筒状体として形成されている。また、ケーシング71は、大径筒部71Aと、該大径筒部71Aよりも小径な筒状に形成され該大径筒部71Aの軸方向の一側から外側に向けて突出した小径な軸受筒部71Bと、該軸受筒部71Bと前記大径筒部71Aとの間に形成された環状部71Cとにより大略構成されている。さらに、ケーシング71の外周側には、後述のグリス収容部88が3箇所に設けられている。
72はケーシング71の他側に設けられた固定スクロールである。この固定スクロール72は、ケーシング71の大径筒部71Aを軸方向他側から閉塞するように該大径筒部71Aの開口端に固定されている。また、固定スクロール72は、軸線O−Oを中心としてほぼ円板状に形成された鏡板72Aと、該鏡板72Aの表面に軸方向に立設された渦巻状のラップ部72Bと、該ラップ部72Bを取囲んで鏡板72Aの外周側に設けられた筒部72Cと、鏡板72Aの背面に突設された複数の冷却フィン72Dとによって大略構成されている。
73は固定スクロール72に設けられた例えば2個の吸込口で、該各吸込口73は、鏡板72Aの外周側から筒部72Cにかけて開口し、後述する外周側の圧縮室76に連通している。そして、吸込口73は、吸込フィルタ73Aを通じて外周側の圧縮室76内に空気を流通させるものである。
74は固定スクロール72の鏡板72Aの中心側に設けられた吐出口で、該吐出口74は、最中心側の圧縮室76に連通し、この圧縮室76内の圧縮空気を吐出パイプ74Aから外部に吐出させるものである。
75は固定スクロール72と対向してケーシング71の大径筒部71A内に旋回可能に設けられた旋回スクロールを示している。この旋回スクロール75は、固定スクロール72の鏡板72Aと対向して配置されたほぼ円板状の鏡板75Aと、該鏡板75Aの表面に立設された渦巻状のラップ部75Bと、鏡板75Aの背面に突設された複数の冷却フィン75Cと、該冷却フィン75Cの先端側に位置して固定された背面プレート75Dとによって大略構成されている。
また、背面プレート75Dの中央側には、後述する駆動軸77のクランク77Aと回転可能に連結される筒状のボス部75Eが一体形成されている。さらに、背面プレート75Dの外周側には、後述のスクロール側収容凹部81が周方向の3箇所に設けられている。
76は固定スクロール72と旋回スクロール75との間に設けられた流体室としての複数の圧縮室である。これらの圧縮室76は、旋回スクロール75が旋回運動するときに、ラップ部72B,75Bの外周側から中心側に向けて移動しつつ、これらの間で連続的に縮小される。これにより、各圧縮室76のうち外周側の圧縮室76には、吸込口73から空気が吸込まれ、この空気を中心側の圧縮室76に達するまでに圧縮する。そして、この圧縮空気を吐出口74から吐出し、吐出パイプ74Aを介して外部の空気タンク(図示せず)等に貯える。
77はケーシング71の軸受筒部71Bに軸受78,79を介して回転可能に設けられた駆動軸である。この駆動軸77は、モータ(図示せず)によって駆動されることにより、軸線O−Oを中心として回転し、旋回スクロール75を旋回動作させるものである。
ここで、駆動軸77の他端側には、軸線O−Oに対して一定の寸法だけ径方向に偏心したクランク77Aが設けられ、このクランク77Aは、旋回軸受80を介して旋回スクロール75の背面プレート75Dに設けられたボス部75Eに回転可能に連結されている。また、駆動軸77の一端側は、ケーシング71の外部に突出し、モータの出力側にベルト(図示せず)等を介して接続される。
ここで、旋回軸受80は、駆動軸77のクランク77Aに旋回スクロール75を回転可能に支持するもので、常に回転による負荷や摩擦力が作用している。このために、旋回軸受80は、運転時に温度が上昇するから、冷却風によって冷却する必要がある。特に、無給油式のスクロール式圧縮機の場合、潤滑油による油冷効果を得ることができないから、旋回軸受80には積極的に冷却風を供給しなくてはならない。
次に、ケーシング71と旋回スクロール75との間にボールカップリング機構82を周方向に間隔をもって3箇所以上、例えば3箇所に独立して配設するための構成と、このボールカップリング機構82の構成について説明する。この場合の3箇所とは、旋回スクロール75をがたつくことなく安定して支持するために最低限必要な数で、冷却風の流れも考慮して選択されている。従って、ボールカップリング機構82を周方向に4箇所以上配置する構成としてもよい。
81は旋回スクロール75の外周側に設けられた3個のスクロール側収容凹部である。これら3個のスクロール側収容凹部81は、図2に示すように、駆動軸77を中心とした周方向にほぼ等間隔(約120度間隔)で、背面プレート75Dの外周側に配設されている。
また、3個のスクロール側収容凹部81は、旋回スクロール側支持部材84の取付部84A側を収容するものである。そして、各スクロール側収容凹部81は、一側が開口した有底穴として形成され、その内径寸法は、旋回スクロール側支持部材84が回転不能に嵌合(圧入)する寸法に設定されている。また、各スクロール側収容凹部81の深さ寸法は、旋回スクロール側支持部材84の取付部84Aをほぼ半分収容できる程度に設定されている。さらに、スクロール側収容凹部81内は、ボールカップリング機構82の摺動部を潤滑するためのグリスGを収容している。
82はケーシング71と旋回スクロール75との間に設けられた3個のボールカップリング機構を示している。これら3個のボールカップリング機構82は、旋回スクロール75の自転を防止すると共に、各圧縮室76の圧力によって旋回スクロール75に作用するスラスト荷重を支持するものである。
そして、各ボールカップリング機構82は、図3、図4に示す如く、後述のケーシング側支持部材83、旋回スクロール側支持部材84、ボール85、ガイド溝86,87等により大略構成されている。
83は後述するグリス収容部88内に設けられたケーシング側支持部材である。このケーシング側支持部材83は、例えば圧入等の手段を用いてグリス収容部88の奥部に回転不能に嵌合されている。また、ケーシング側支持部材83は、短尺な段付円筒状に形成され、小径側のボール支持面83Aは、後述のボール85に当接している。
また、ケーシング側支持部材83には、ボール支持面83Aの中心側に開口する中心側潤滑剤貯留部83Bと、後述のガイド溝86よりも外径側に位置する外周側潤滑剤貯留部83Cとが設けられている。そして、各グリス貯留部83B,83Cは、各ボール85を円滑に転動するためのグリスGを貯えるものである。
一方、84はスクロール側収容凹部81内に設けられた旋回スクロール側支持部材である。この旋回スクロール側支持部材84は、例えば旋回スクロール側収容凹部81に半分程度まで圧入等の手段を用いて回転不能に嵌合されている。また、旋回スクロール側支持部材84は、スクロール側収容凹部81内に挿嵌する中空な円筒状の取付部84Aと、該取付部84Aの一端側を閉塞した蓋部84Bとにより有蓋円筒状に形成されている。さらに、蓋部84Bの一端面は、ケーシング側支持部材83のボール支持面83Aとの間でボール85を挟持するボール支持面84Cとなっている。
また、取付部84Aは、ボール支持面84Cと軸方向の反対側に位置する反対側部位をなすもので、スクロール側収容凹部81に収容されている。さらに、取付部84A内の空所は、多くのグリスGを貯えることができるグリス貯留部84Dとなり、このグリス貯留部84Dは、蓋部84B中央の連通穴84Eを介してグリス収容部88内(グリス貯留部83B,83C)と連通している。
85はケーシング側支持部材83のボール支持面83Aと旋回スクロール側支持部材84のボール支持面84Cとの間に設けられた複数のボールである。これらのボール85は、鋼球等を用いて形成され、例えば6個設けられている。また、各ボール85は、後述のガイド溝86,87に沿って転動することにより、該各ガイド溝86,87によって転動する範囲が規制された状態となっている。
ここで、ボール85は、その個数を増やすことにより、1個あたりが支持する荷重が小さくなり、これに応じて直径寸法を小さくすることができる。これにより、ボール85の質量が小さくなり、ボール85に作用する慣性モーメントが小さくなるから、該ボール85がガイド溝86,87に対して滑るのを防止できる。
86はケーシング側支持部材83のボール支持面83Aに設けられたボールガイド手段としての第1のガイド溝である。このガイド溝86は、ボール85が転動する範囲を規制するもので、該ボール85の数に対応するように6個設けられている。具体的には、ガイド溝86は、図4に示すように、例えば円形をしたボール支持面83Aに周方向に等間隔で6個(約60度間隔)配置されている。また、各ガイド溝86は、旋回スクロール75の旋回動作だけを許可するようにボール85を案内する円環状の溝として凹設されている。
87は旋回スクロール側支持部材84のボール支持面84Cに設けられたボールガイド手段としての第2のガイド溝である。このガイド溝87は、前述したガイド溝86と同様に、円環状の溝として形成され、ボール支持面84Cに周方向に等間隔で6個配置されている。
88は3個のスクロール側収容凹部81とそれぞれ対向してケーシング71の外周側に設けられた3個のグリス収容部である。これら3個のグリス収容部88は、図2中に二点鎖線で示すように、駆動軸77を中心とした周方向にほぼ等間隔(約120度間隔)で、ケーシング71の環状部71Cに配設されている。
また、3個のグリス収容部88は、ボールカップリング機構82のケーシング側支持部材83、旋回スクロール側支持部材84のボール支持面84C側および6個のボール85を収容するものである。そこで、各グリス収容部88は、旋回スクロール75側となる他側が開口したケーシング側収容凹部をなす有底穴として形成され、その内径寸法は、ケーシング側支持部材83が回転不能に嵌合(圧入)する寸法に設定されている。また、各グリス収容部88の深さ寸法は、ケーシング側支持部材83と各ボール85と旋回スクロール側支持部材84の蓋部84Bとを収容できる程度に設定されている。さらに、グリス収容部88内は、ボールカップリング機構82の摺動部を潤滑するための潤滑剤としてのグリスG(図1中に図示)を収容している。
また、グリス収容部88の先端面88A(開口端面)は、旋回スクロール75の背面プレート75D近傍まで延び、グリス収容部88の内部に支持部材83,84およびボール85を収容している。これにより、グリス収容部88の先端面88Aは、ボール85の中心位置を基準としたときに、ケーシング71と旋回スクロール75とのうち軸方向に対して相手方となる旋回スクロール75側に片寄った位置まで延びている。
89は旋回スクロール側支持部材84の外周側に設けられたシール部材である。このシール部材89は、内部のグリスGが漏れ出さないように、グリス収容部88の開口部と旋回スクロール側支持部材84の外周との間をシールするものである。このシール部材89は、グリス収容部88に対して旋回スクロール側支持部材84が旋回動作した場合でも、該グリス収容部88を閉塞できるように径寸法が設定されている。
そして、このように構成された3個のボールカップリング機構82は、6個のボール85を各支持部材83,84のガイド溝86,87に沿って転動することにより、旋回スクロール75が自転するのを防止しつつ、この旋回スクロール75を旋回動作させることができる。また、圧縮運転時に旋回スクロール75に作用するスラスト荷重は、6個(合計18個)のボール85を介して支持することができる。
本実施の形態によるスクロール式圧縮機は上述の如き構成を有するもので、次に、その動作について説明する。
まず、電動モータにより駆動軸77を回転し、旋回軸受80を介して旋回スクロール75を旋回動作させると、固定スクロール72のラップ部72Bと旋回スクロール75のラップ部75Bとの間に画成された圧縮室76が連続的に縮小する。これにより、吸込口73から吸込んだ外気は、各圧縮室76で順次圧縮することにより、圧縮空気として吐出口74から吐出し、外部の空気タンク等に貯留することができる。
この圧縮運転時に、各ボールカップリング機構82は、旋回スクロール75の自転を防止しつつ、この旋回スクロール75を固定スクロール72に対して旋回動作させている。また、圧縮運転時には、各圧縮室76の圧力がスラスト荷重となって旋回スクロール75に作用するが、このスラスト荷重は、6個のボール85に分散しつつ、3箇所のボールカップリング機構82で安定して支持することができる。
一方、圧縮運転時には、各部が摩擦熱、圧縮熱等によって温度上昇する。特に、旋回軸受80は、常に回転して負荷や摩擦力も作用するから、冷却風によって冷却する必要がある。そこで、3箇所のボールカップリング機構82は、合計で18個のボール85で旋回スクロール75を支持しているが、周方向に間隔をもって3箇所に独立した状態で配置している。
これにより、冷却ファン(図示せず)からの冷却風は、各ボールカップリング機構82の間を通じ、ケーシング71と旋回スクロール75との間で流通することができ、この冷却風により旋回軸受80を積極的に冷却することができる。
かくして、このように構成される本実施の形態でも、前記第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、本実施の形態によれば、ボールカップリング機構82の6個のボール85は、各支持部材83,84のボール支持面83A,84Cに設けたガイド溝86,87で転動することにより、旋回スクロール75の自転を防止しつつ、該旋回スクロール75を固定スクロール72に対して旋回動作させることができる。また、各圧縮室76による圧力が旋回スクロール75にスラスト荷重として作用するが、このときの荷重は複数のボール85を介して安定的に支持することができる。
しかも、ケーシング側支持部材83のボール支持面83Aと旋回スクロール側支持部材84のボール支持面84Cとの間には、6個のボール85を設けている。また、このボールカップリング機構82は、旋回スクロール75の外周側に位置して周方向に間隔をもって3箇所に独立して配置している。従って、各ボールカップリング機構82は、大きなスラスト荷重が作用した場合でも、このときの荷重を多く(18個)のボール85を介して支持することができる。
この結果、1個のボール85に作用する荷重を軽減することができるから、各ボールカップリング機構82の耐久性を向上することができる。また、各ボール85を小径化して質量を小さくできるから、ボール85の慣性モーメントを小さくでき、ガイド溝86,87との滑りを防止して動作性能、信頼性等を向上することができる。
しかも、旋回スクロール75の周方向に間隔をもって独立して配置した3箇所のボールカップリング機構82は、それぞれの間で冷却風を流通させることができる。従って、旋回スクロール75の背面側に設けた旋回軸受80に向け、各ボールカップリング機構82の間を通じて冷却風を供給することができる。これにより、上述した作用効果に付加して、無給油式のスクロール式圧縮機では温度上昇し易い旋回軸受80を効果的に冷却でき、その寿命を延ばすことができる。
一方、3箇所以上に設けたボールカップリング機構82は、それぞれのボールカップリング機構82でガイド溝86,87等の寸法を合せるだけでよいから、容易に加工精度を高めることができる。これにより、複数個のボール85に対してスラスト荷重を均等に作用させることができるから、大きなスラスト荷重が作用するスクロール式空気圧縮機にも好適に用いることができる。
また、グリス収容部88内には、ケーシング側支持部材83、旋回スクロール側支持部材84の蓋部84Bおよび各ボール85を収容することができる。また、ボール85等の摺動部を潤滑するグリスGも収容することができる。この上で、グリス収容部88の開口部とケーシング側支持部材83の外周との間は、シール部材89によりシールする構成とした。従って、ケーシング側支持部材83の各潤滑剤貯留部83B,83C等に安定的にグリスGを保持することができ、また、シール部材89によって異物の侵入を防止でき、ボールカップリング機構82の寿命を延ばすことができる。
さらに、中空状に形成した旋回スクロール側支持部材84の取付部84A内にも、その空所を利用してグリスGを収容するグリス貯留部84Dを設けているから、このグリス貯留部84Dに貯えたグリスGを連通穴84Eを介して各ボール85側に供給することができる。
次に、図15は本発明の第7の実施の形態を示している。本実施の形態の特徴は、2段圧縮ツインラップ型のスクロール式空気圧縮機の固定スクロールと旋回スクロールとの間にボールカップリング機構を設ける構成としたことにある。
図中、91は略筒状のケーシングで、該ケーシング91は、中間ケース91Aと、該中間ケース91Aの軸方向一側(右側)に設けられた低圧側ケース91Bと、中間ケース91Aの軸方向他側(左側)に設けられた高圧側ケース91Cとによって構成されている。
92はケーシング91の低圧側ケース91Bに取付けられた低圧側の固定スクロールである。この固定スクロール92は、略円板状の鏡板92Aと、該鏡板92Aの表面に立設された渦巻状のラップ部92Bと、鏡板92Aの外周側から軸方向に突出し、ラップ部92Bを取囲む位置で径方向外向きに延びた略筒状のフランジ部92Cとにより大略構成されている。また、鏡板92Aには、外周側に位置して空気の吸込口(図示せず)と、中央に位置して圧縮空気を吐出する吐出口93とが設けられている。さらに、フランジ部92Cには、後述のボールカップリング機構111の固定スクロール側支持部材113を収容する固定スクロール側収容凹部110が周方向に間隔をもって例えば3箇所に設けられている。
一方、94はケーシング91の高圧側ケース91Cに取付けられた高圧側の固定スクロールである。この固定スクロール94は、低圧側の固定スクロール92とほぼ同様に、鏡板94A、ラップ部94B、フランジ部94C等によって構成され、吸込口(図示せず)、吐出口95を有している。
そして、低圧側の固定スクロール92の吐出口93は、例えば配管、冷却器等を経由して高圧側の固定スクロール94の吸込口に接続され、その吐出口95は、空気タンク(図示せず)等に接続されている。これにより、2段式の圧縮機として構成されている。
96は低圧側の固定スクロール92と対面してケーシング91内に旋回可能に設けられた低圧側の旋回スクロールである。この旋回スクロール96は、固定スクロール92と所定寸法偏心して配置された略円板状の鏡板96Aと、該鏡板96Aの表面に立設された渦巻状のラップ部96Bと、前記鏡板96Aの背面中央に設けられたボス部96C等とによって構成されている。ここで、旋回スクロール96のラップ部96Bは、固定スクロール92のラップ部92Bと重なり合った状態で配置され、これらのラップ部92B,96B間には複数の圧縮室97が画成されている。
また、鏡板96Aの外周側には、後述のボールカップリング機構111の旋回スクロール側支持部材112等を収容するグリス収容部117が周方向に間隔をもって例えば3箇所に設けられている。
一方、98はケーシング91内に設けられた高圧側の旋回スクロールである。この旋回スクロール98は、低圧側の旋回スクロール96とほぼ同様に形成された鏡板98A、ラップ部98B、ボス部98Cからなり、前記ラップ部98Bは、固定スクロール94のラップ部94Bとの間に複数の圧縮室99を画成している。
100はケーシング91の中間ケース91A内に設けられたモータで、該モータ100は、筒状のステータ、ロータ等により構成されている。また、101はモータ100のロータに取付けられた回転軸で、該回転軸101は、例えば段付円筒状の中空ロッドからなり、軸受102,103を介してケーシング91に回転可能に支持されている。
104は回転軸101の高圧側の端部に固着して取付けられた略円筒状の偏心ブッシュで、該偏心ブッシュ104の内周側には、偏心軸受105が偏心した状態で嵌合されている。一方、106は回転軸101の低圧側の端部に固着して取付けられた偏心ブッシュで、該偏心ブッシュ106の内周側には、偏心軸受107が偏心した状態で嵌合されている。
108は旋回スクロール96,98を旋回駆動する駆動軸で、該駆動軸108は、偏心軸受105,107を介して回転軸101内に回転可能に支持されている。また、駆動軸108の低圧側の突出端は、例えば圧入等の手段によって低圧側の旋回スクロール96のボス部96Cに挿嵌されている。一方、駆動軸108の高圧側の突出端は、例えば圧入等の手段によって高圧側の旋回スクロール98のボス部98Cに挿嵌されている。これにより、駆動軸108は、回転軸101が回転するときに、一定の旋回半径をもって旋回スクロール96,98を旋回運動させる。
次に、旋回スクロール96,98の自転を防止するための機構およびその取付構造について説明する。
110は低圧側の固定スクロール92を構成するフランジ部92Cに設けられた3個の固定スクロール側収容凹部である(1個のみ図示)。これら3個の固定スクロール側収容凹部110は、後述するボールカップリング機構111を構成する固定スクロール側支持部材113の大部分を収容できる程度の深さ寸法をもった有底穴として形成されている。
111は低圧側の固定スクロール92と旋回スクロール96との間に設けられた第7の実施の形態による3個のボールカップリング機構を示している(1個のみ図示)。これら3個のボールカップリング機構111は、例えば第6の実施の形態によるボールカップリング機構82とほぼ同様に、旋回スクロール側支持部材112、固定スクロール側支持部材113、ボール114、第1,第2のガイド溝115,116等によって大略構成されている。
117は低圧側の旋回スクロール96を構成する鏡板96Aの外周側に設けられた3個のグリス収容部である(1個のみ図示)。これら3個のグリス収容部117は、旋回スクロール側支持部材112、固定スクロール側支持部材113のボール支持面側および各ボール114を収容する有底穴として形成されている。
また、グリス収容部117の先端面117A(開口端面)は、旋回スクロール96の背面近傍まで延び、グリス収容部117の内部に支持部材112,113およびボール114を収容している。これにより、グリス収容部117の先端面117Aは、ボール114の中心位置を基準としたときに、固定スクロール92と旋回スクロール96とのうち軸方向に対して相手方となる固定スクロール92側に片寄った位置まで延びている。
118は固定スクロール側支持部材113の外周側に設けられたシール部材である。このシール部材118は、内部のグリスGが漏れ出さないように、グリス収容部117の開口部と固定スクロール側支持部材113の外周との間をシールする。
かくして、このように構成された第7の実施の形態においても、前述した第1,第7の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、本実施の形態では、固定スクロール92と旋回スクロール96との間に設けた各ボールカップリング機構111により、各旋回スクロール96,98の自転を防止することができる。また、ツインラップ型のスクロール式空気圧縮機は、高圧側の圧縮室99側の圧力による荷重が駆動軸108を介して低圧側の旋回スクロール96に伝達され、低圧側の圧縮室97側の圧力による荷重を差し引いた分がスラスト荷重となって作用する。しかし、固定スクロール92と旋回スクロール96との間に設けた各ボールカップリング機構111は、高圧側からのスラスト荷重を確実に支持することができる。
なお、前記第1ないし第5の実施の形態では、ボールカップリング機構15,31,41,41′,51,61,61′は一対の支持部材16,17間に1個のボール18を設ける構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば第6,第7の実施の形態のように、一対の支持部材の間に複数のボールを設ける構成としてもよい。
また、前記各実施の形態では、ボールカップリング機構15,31,41,41′,51,61,61′,82,111を周方向に間隔をもって3箇所に独立して配置した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばボールカップリング機構を周方向に間隔をもって4箇所、または5箇所以上に独立して配置する構成としてもよい。
また、第6,第7の実施の形態では、ボールカップリング機構82,111には、支持部材83,112と支持部材84,113間に6個のボール85,114を設ける構成としている。しかし、本発明はこれに限るものではなく、一対の支持部材間に2個、3個、4個、5個または7個以上のボールを設ける構成としてもよい。
また、前記各実施の形態では、支持部材16,17,83,84,112,113は取付対象となるケーシング1,71、旋回スクロール4,75,96、固定スクロール92とは別部材によって形成するものとした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば支持部材を取付対象となるケーシング、旋回スクロール、固定スクロール等と一体に形成する構成としてもよい。
さらに、前記各実施の形態では、ボールカップリング機構15,31,41,41′,51,61,61′,82,111は、支持部材16,17,83,84,112,113に設けたガイド溝18,19,86,87,115,116によってボールガイド手段を構成するものとした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば支持部材と別個の別部材を用いてボールをガイドするボールガイド手段を構成してもよい。
また、前記第1ないし第6の実施の形態では、グリス収容部21,32,42,52,62,88はケーシング1に設ける構成としたが、旋回スクロール4に設ける構成としてもよい。また、前記第7の実施の形態では、グリス収容部117は旋回スクロール96に設ける構成としたが、固定スクロール92に設ける構成としてよい。
また、前記第1ないし第6の実施の形態では、ケーシング1,71に固定された固定スクロール2,72に対して旋回スクロール4を旋回動作させるスクロール式空気圧縮機を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば特開平9−133087号公報に示すように、互いに対向して配置された2つのスクロールをそれぞれ回転駆動する全系回転式スクロール流体機械等に適用してもよい。この場合、ボールカップリング機構は、相対的に旋回動作する2つのスクロール間に配置される。また、グリス収容部は、ボールの周囲に位置してボールを取囲んで設けられ、その先端面が2つのスクロールのうち相手方となる一方に片寄った位置まで延びるものである。この構成は、他の実施の形態にも同様に適用することができるものである。
また、前記各実施の形態では、スクロール式の空気圧縮機を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば真空ポンプ、冷媒圧縮機等にもスクロール式流体機械として広く適用できるものである。
さらに、前記各実施の形態では、ボールカップリング機構15,31,41,41′,51,61,61′,82,111を自転防止機構およびスラスト荷重を受ける機構のいずれにも利用するものとして説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば自転防止機構を別個に設けることによって、ボールカップリング機構をスラスト荷重を受ける機構としてのみ利用する構成としてもよい。また、スラスト荷重受けを別個に設けることによって、ボールカップリング機構を自転防止機構としてのみ利用する構成としてもよい。