JP2009081055A - 表面プラズモンによるイオン化を利用した質量分析 - Google Patents
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Abstract
【課題】従来の金ナノ微粒子分散基板においては、ミクロな立場で基板表面を観察すると、表面プラズモン励起効率が非常に不均一になってしまう。例えば、金ナノ微粒子が存在する場所、存在しない場所、共鳴的に高まった場所、そうでない場所が存在する。このような不均一性は、質量分析測定において再現性を損なわせるものである。
【解決手段】上記課題を解決するためには、均一な表面プラズモン励起が基板表面上で展開する必要がある。本願発明においては、粒子径の揃った金属ナノ微粒子の分散溶液を用いて、金属ナノ微粒子を2次元最密充填させることにより上記課題を解決した。
【選択図】 図3
【解決手段】上記課題を解決するためには、均一な表面プラズモン励起が基板表面上で展開する必要がある。本願発明においては、粒子径の揃った金属ナノ微粒子の分散溶液を用いて、金属ナノ微粒子を2次元最密充填させることにより上記課題を解決した。
【選択図】 図3
Description
本願発明は、MALDI−MS(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization−Mass Spectrometry:マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法)などに代表されるレーザー脱離イオン化質量分析法に関し、特に、イオン化手段として、表面プラズモンによる表面増強効果を利用するものである。
質量分析法は、分析化学において利用されるだけではなく、医学、生物学、生化学など多岐の分野において利用されている。その中でも、レーザー脱離−質量分析法(Laser Desorption Mass Spectrometry:LD−MS)は、1980年代に注目され、主に金属や半導体などの表面分析に用いられてきた。レーザーを用いているため、レンズを用いて容易に集光することが可能であり、微小領域の分析が可能である。また、試料を容易にイオン化することが可能であり、広範囲の試料種に対応することが可能である。
そのため、照射するレーザーエネルギーを試料分子に効率的に与え、従来のLDI−MS法の性能を向上させる研究が盛んになってきた。その代表的なものとしてマトリックス支援LDI−MS法(MALDI−MS法)が非常に有用な手法として挙げられるが、マトリックス分子を大過剰に添加するためマトリックス分子の弊害を無視することができない。
例えば、再現性(定量性)が得られない、あるいはマトリックス分子が検出されてしまうために解析を困難にさせてしまう等の欠点が挙げられる。
一方で、マトリックス分子ではなくイオン化基板表面を用いて効率的なエネルギー供給を目指した表面支援LDI−MS法(SALDI−MS法)が開発され、様々なイオン化基板が提案されている。
例えば、表面プラズモン共鳴法を質量分析に利用したものがある(下記特許文献1参照)。この文献に記載された発明においては、金属基板に裏側から全反射条件を満たしつつ表面プラズモンを励起し、表面に吸着した分析物などの影響により変化する反射光強度をモニタリングするものである。その強度変化と励起光の入射角度との間に一定の相関関係を得ることができる。この場合、用いる基板は平滑な基板を用いる必要がある。その理由は、平滑でない基板を用いると角度依存性が得られないからである。この手法においては、表面に捕捉した分析物により表面プラズモンの励起条件が変化するため入射角度の依存性が現れる。その変化が分析物の種類に依存するため、分析手法として用いられている。この手法は、高感度であるため、注目されている。
しかし、上記方法は、あくまでも分析手法であり、イオン化を目的とするものではない。
本願発明者も表面プラズモン(SP)励起による金ナノ微粒子表面を用いたSALDI−MS法(SP−SALDI−MS法)を開発した(特許文献2参照)。このSP−SALDI−MS法は、シリコン基板などの平滑基板上に孤立した金ナノ微粒子を分散させて固着させ、金の表面に励起される表面プラズモンを利用するものである(図1参照)。
この先願発明においては、表面プラズモンの励起効率は、その分散状況により共鳴的に高まり、単一の金ナノ微粒子が励起する表面プラズモン励起よりも大きくなる。SP−SALDI−MS法では、そのイオン化効率が表面プラズモン励起効率に依存するため、非常にイオン化効率の高いイオン化基板となり、その検出限界も数100ゼプトモルに到達する。
特表平11−512518
特願2006−129604号
しかし一方で、感度を優先させるがゆえに生じる欠点も存在する。金ナノ微粒子を分散させて固着させるため、ミクロな立場で基板表面を観察すると、表面プラズモン励起効率が非常に不均一になってしまう。例えば、金ナノ微粒子が存在する場所、存在しない場所、共鳴的に高まった場所、そうでない場所が存在する。このような不均一性は、質量分析測定において再現性を損なわせるものである。
図1を参照すると、金ナノ微粒子が不均一に分散しているので、レーザーの照射視野内に、いくつの金ナノ微粒子が収まるのか不確定である。すなわち、金ナノ微粒子に付着している試料がどの程度イオン化するのかが定まらない。
また、共鳴的に表面プラズモン励起された場所においては、非常に高密度にエネルギーを集約させてしまうため、試料分子にとって過剰なエネルギー供給となってしまい、わずかではあるが試料分子の解離を招いてしまう。
したがって、このような問題を解決するためには、均一な表面プラズモン励起が基板表面上で展開する必要がある。表面プラズモン励起は、金属のナノ構造に大きく依存するため、均一な表面プラズモン励起を達成するためには非常に精密な均一周期構造が要求される。平滑な金属基板においては、表面プラズモン励起は不可能なため、表面を荒らした金属薄膜も候補に挙げられるが、その凹凸を上記の要求を満たすほどに制御することは不可能である。また、電子線描画などのリソグラフィ技術を用いても、その精度が要求に達しない。
本願発明は、粒子径の揃った金属ナノ微粒子の分散溶液を用いて、金属ナノ微粒子を2次元最密充填させ、新規なSP−SALDI−MS基板を形成し、質量分析を行うものである。
図2に、シリコン基板上に微粒子が均一に配置されている状況の断面図を示す。該微粒子としては、金ナノ微粒子の外、表面プラズモンを励起できる金属種であれば、銀や銅のナノ微粒子などでも可能である。
図3には、シリコン基板上に金ナノ微粒子が均一に配置されている状況の平面図を示す。この図から明らかなように、レーザー光の照射視野は、位置に依存せずほぼ均一に金ナノ微粒子を収めている。このため、レーザー光がどの位置に照射されても一定の試料のイオン化が再現性よく行われ、定量的評価を可能とするものである。
本願発明に係る最密充填基板においては、分散基板に比べて表面プラズモン励起効率は劣るが、金ナノ微粒子が一様に配列しているため、測定結果がレーザー照射位置に左右されない。このため、測定結果の安定性、再現性、定量性に非常に優れているという効果を有している。
以下に、本願発明を実施するための最良の形態を示す。
<最密充填基板の作製>
60nm金ナノ微粒子水溶液(BBI社製、2.6×1010個/ml)をサンプル管等の容器に入れ、水と相分離する有機溶媒(1)を加える。次に、水及び該有機溶媒のいずれにも混和する有機溶媒(2)を加える。その後、静置させると、水溶液と有機溶媒に相分離し、その界面に金ナノ微粒子により形成された薄膜が生成する。なお、有機溶媒(1)にシクロヘキサン、有機溶媒(2)にエタノールという組み合わせが望ましい。
60nm金ナノ微粒子水溶液(BBI社製、2.6×1010個/ml)をサンプル管等の容器に入れ、水と相分離する有機溶媒(1)を加える。次に、水及び該有機溶媒のいずれにも混和する有機溶媒(2)を加える。その後、静置させると、水溶液と有機溶媒に相分離し、その界面に金ナノ微粒子により形成された薄膜が生成する。なお、有機溶媒(1)にシクロヘキサン、有機溶媒(2)にエタノールという組み合わせが望ましい。
そこに、シリコン基板を管底に静かに沈め、上記水相及び有機相を静かに抜き取ることで、金ナノ微粒子薄膜がシリコン基板上に移し取られ,最密充填基板が作製される。
図4に、上記の方法で作成された基板のSEM像を示す。この写真から明らかなように金ナノ微粒子が最密充填されていることが確認できる。また、表面プラズモン励起を誘起しうるどの粒子径の金属ナノ微粒子でも作製することが可能であった。
この後、低濃度試料溶液に作製したイオン化基板を浸漬することにより、基板に試料を付着させた。しかし、付着方法としては、試料溶液の液滴を滴下しても行うことができる。
<質量分析測定>
該試料を測定装置(図5参照)にセットし、マススペクトルを測定した。励起光は、Nd/YAGレーザーであり、図5の測定装置の左下から、斜めに照射し、プリズムで反射させ中央部の試料台を照射する。その後、試料台から反射された光を、プリズムを通し外へ導く。試料は、励起光により励起され、イオン化され、リニア飛行時間型質量分析計により測定された。
該試料を測定装置(図5参照)にセットし、マススペクトルを測定した。励起光は、Nd/YAGレーザーであり、図5の測定装置の左下から、斜めに照射し、プリズムで反射させ中央部の試料台を照射する。その後、試料台から反射された光を、プリズムを通し外へ導く。試料は、励起光により励起され、イオン化され、リニア飛行時間型質量分析計により測定された。
<測定条件>測定条件は、以下のとおりである。
Nd:YAG 532 nm/10 Hz
300μJ/pulse
加速電圧: 4.0 kV(1段目)
3.0 kV(2段目)
MCP電圧: 1.90 kV
飛行距離: 450 mm
検出器: MCP
真空度 1×10−4 Pa order
delay 0.4 μs
パルス幅 3 μs
データ積算 64 回平均
Nd:YAG 532 nm/10 Hz
300μJ/pulse
加速電圧: 4.0 kV(1段目)
3.0 kV(2段目)
MCP電圧: 1.90 kV
飛行距離: 450 mm
検出器: MCP
真空度 1×10−4 Pa order
delay 0.4 μs
パルス幅 3 μs
データ積算 64 回平均
<測定結果>
図6には、従来の金コロイド微粒子(粒径50nm)4.5×107個を添加した場合のクリスタルバイオレット(CV)のLDIマススペクトルを示す。この図から明らかなことは、比較的低パワーにおいても親イオン(CV+)が検出できているが、同時にフラグメントイオンも高強度に検出されている。すなわち、従来の分散基板においては、超高感度ではあるが、解離の割合が高く、定量には不向きであることが明らかである。
図6には、従来の金コロイド微粒子(粒径50nm)4.5×107個を添加した場合のクリスタルバイオレット(CV)のLDIマススペクトルを示す。この図から明らかなことは、比較的低パワーにおいても親イオン(CV+)が検出できているが、同時にフラグメントイオンも高強度に検出されている。すなわち、従来の分散基板においては、超高感度ではあるが、解離の割合が高く、定量には不向きであることが明らかである。
図7には、本願発明に係る最密充填基板におけるLDIマススペクトルを示す。
従来の分散基板と比較すると、信号強度は小さくなるが、親イオンに比べてフラグメントイオンの信号強度も低いことが見て取れる。したがって、本願発明に係る最密充填基板においては、イオンの検出感度は低くなるが、試料の解離を抑制することが可能であり、定量的な議論が可能である。
従来の分散基板と比較すると、信号強度は小さくなるが、親イオンに比べてフラグメントイオンの信号強度も低いことが見て取れる。したがって、本願発明に係る最密充填基板においては、イオンの検出感度は低くなるが、試料の解離を抑制することが可能であり、定量的な議論が可能である。
以上述べたように、従来の分散基板においては、レーザーの照射位置やレーザーパルスごとに大きく信号強度やスペクトルパターンに差異が見られたが、本願発明に係る最密充填基板においては、照射位置やパルスごとの差異は、非常に小さかった。また、過剰なエネルギーが集約されることなく近接する金属ナノ微粒子に拡散するため、過剰なエネルギーの試料分子への供給が抑制されるため、試料分子の解離が従来法の孤立した分散イオン化基板に比べて、抑制されている。
Claims (3)
- レーザー脱離質量分析法において、金属微粒子を均一に分散配置した基板上に試料を付着し、該試料の付着した基板にレーザー光を照射することにより該試料をイオン化し、質量分析することを特徴とするレーザー脱離質量分析法。
- 上記金属は、金であることを特徴とする請求項1に記載のレーザー脱離質量分析法。
- 上記微粒子の分散配置方法は、2次元最密充填であることを特徴とする請求項1に記載のレーザー脱離質量分析法。
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