しかしながら、特許文献1の装置では、電波を受信可能な(観測可能な)衛星の数が増減した場合の高速なアンビギュイティ推定法が示されているものの、トンネル内や高架下などのほとんど衛星からの電波を受信できなくなった状態からの高速なアンビギュイティ決定は困難であり、都市部での高精度測位の利用率拡大のためには新たな手法の開発が必要であった。特に、ビルなどの遮蔽物が多い都市部においては、サイクルスリップが高い頻度で発生するので、その都度アンビギュイティの算出に長時間を要し、RTK(リアルタイムキネマティック)のサービスを受けることができる時間が短くなるという問題があった。
また、特許文献2の装置では、計算位相差の小数部の±0.5サイクルの範囲に限定して計算位相差を修正するため、例えば、車両のように比較的高速で移動する測位対象のように、非測位中にキャリア位相差の1サイクルを距離換算した距離の略2分の1を越えて移動するような場合には整数バイアスを決定することができず、測位が可能な時間を増加させることができなかった。
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、アンビギュイティの算出を高速化し、都市部などにおけるRTKの測位が可能な時間を大幅に増加させることができる測位装置、該測位装置を備える測位システム、該測位装置を実現するためのコンピュータプログラム及び測位方法を提供することを目的とする。
第1発明に係る測位装置は、複数の測位用衛星が送信した各搬送波を受信する受信部を備え、該受信部で受信した各搬送波の位相に基づいて測位を行う測位装置において、位相に含まれるアンビギュイティの候補を推定する候補推定手段と、該候補推定手段で推定した候補及び地表の高度情報に基づいてアンビギュイティを決定するアンビギュイティ決定手段と、該アンビギュイティ決定手段で決定したアンビギュイティに基づいて自身の位置を測位する測位手段とを備えることを特徴とする。
第2発明に係る測位装置は、第1発明において、自身の水平位置を推測する位置推測手段と、該位置推測手段で推測した水平位置における地表の高度情報を取得する高度情報取得手段と、前記位置推測手段で推測した水平位置及び前記高度情報に基づいて、前記受信部の高さ位置の範囲を設定する範囲設定手段とを備え、前記アンビギュイティ決定手段は、前記範囲設定手段で設定した高さ位置の範囲を用いてアンビギュイティを決定するように構成してあることを特徴とする。
第3発明に係る測位装置は、第2発明において、前記高度情報取得手段は、RTK−GPS受信機を用いて測定された地表の高度情報を取得するように構成してあることを特徴とする。
第4発明に係る測位装置は、第2発明又は第3発明において、前記範囲設定手段は、前記高度情報又は前記受信部の設置高さに対応付けられ、前記高度情報又は設置高さの精度を示す精度情報に応じて前記受信部の高さ位置の範囲を設定するように構成してあることを特徴とする。
第5発明に係る測位装置は、第4発明において、前記精度情報を設定する精度情報設定手段を備え、前記範囲設定手段は、前記精度情報設定手段で設定した精度情報に応じて前記受信部の高さ位置の範囲を設定するように構成してあることを特徴とする。
第6発明に係る測位装置は、第5発明において、前記精度情報設定手段は、地表の高度情報を含む道路地図データの測定精度に基づいて精度情報を設定するように構成してあることを特徴とする。
第7発明に係る測位装置は、第5発明において、前記精度情報設定手段は、前記受信部の設置高さの精度に基づいて精度情報を設定するように構成してあることを特徴とする。
第8発明に係る測位装置は、第2発明乃至第7発明のいずれか1つにおいて、前記位置推測手段は、各測位用衛星と前記受信部との距離を用いて水平位置を推測するように構成してあることを特徴とする。
第9発明に係る測位装置は、第8発明において、各搬送波の伝播時間を算出する伝播時間算出手段と、該伝播時間算出手段で算出した伝播時間に基づいて、各測位用衛星と前記受信部との擬似距離を算出する擬似距離算出手段とを備え、前記位置推測手段は、前記擬似距離算出手段で算出した擬似距離を用いて水平位置を推測するように構成してあることを特徴とする。
第10発明に係る測位装置は、第2発明乃至第7発明のいずれか1つにおいて、自身の移動距離及び/又は移動方向を示す移動履歴を取得する移動履歴取得手段を備え、前記位置推測手段は、前記測位手段で先に測位した位置からの移動履歴に基づいて水平位置を推測するように構成してあることを特徴とする。
第11発明に係る測位装置は、第2発明乃至第7発明のいずれか1つにおいて、路側装置との通信位置を取得する通信位置取得手段を備え、前記位置推測手段は、前記通信位置取得手段で取得した通信位置に基づいて水平位置を推測するように構成してあることを特徴とする。
第12発明に係る測位装置は、第2発明乃至第7発明のいずれか1つにおいて、自身の移動距離及び/又は移動方向を示す移動履歴を取得する移動履歴取得手段と、路側装置との通信位置を取得する通信位置取得手段とを備え、前記位置推測手段は、前記通信位置取得手段で取得した通信位置からの移動履歴に基づいて水平位置を推測するように構成してあることを特徴とする。
第13発明に係る測位装置は、第2発明乃至第12発明のいずれか1つにおいて、前記測位手段で測位した水平位置と前記位置推測手段で推測した水平位置に基づいて、前記アンビギュイティ決定手段で決定したアンビギュイティの確かさを検定する第1アンビギュイティ検定手段を備えることを特徴とする。
第14発明に係る測位装置は、第13発明において、前記位置推測手段で推測した水平位置の信頼度を設定する位置信頼度設定手段を備え、前記第1アンビギュイティ検定手段は、前記位置信頼度設定手段で設定した信頼度に基づいて前記アンビギュイティ決定手段で決定したアンビギュイティの確かさを検定するように構成してあることを特徴とする。
第15発明に係る測位装置は、第1発明乃至第14発明のいずれか1つにおいて、前記測位用衛星のうち複数の主衛星が送信した搬送波に基づいて前記測位手段で測位した位置を用いて、前記主衛星を除く従衛星と前記受信部との距離を算出する従衛星距離算出手段と、前記従衛星が送信した搬送波の位相を測定する位相測定手段と、前記従衛星距離算出手段で算出した距離及び前記位相測定手段で測定した位相に基づいて、前記アンビギュイティ決定手段で決定したアンビギュイティの確かさを検定する第2アンビギュイティ検定手段とを備えることを特徴とする。
第16発明に係る測位装置は、第1発明において、前記候補推定手段は、各測位用衛星と前記受信部との距離を用いてアンビギュイティの候補を推定するように構成してあることを特徴とする。
第17発明に係る測位装置は、第16発明において、各搬送波の伝播時間を算出する伝播時間算出手段と、該伝播時間算出手段で算出した伝播時間に基づいて、各測位用衛星と前記受信部との擬似距離を算出する擬似距離算出手段とを備え、前記候補推定手段は、前記擬似距離算出手段で算出した擬似距離を用いてアンビギュイティの候補を推定するように構成してあることを特徴とする。
第18発明に係る測位装置は、第1発明において、前記候補推定手段は、前記受信部の高さ位置の範囲を用いてアンビギュイティの候補を推定するように構成してあることを特徴とする。
第19発明に係る測位装置は、第18発明において、路側装置との通信位置を取得する通信位置取得手段を備え、前記候補推定手段は、前記通信位置取得手段で取得した通信位置及び前記受信部の高さ位置の範囲に基づいて、アンビギュイティの候補を推定するように構成してあることを特徴とする。
第20発明に係る測位装置は、第18発明において、自身の移動距離及び/又は移動方向を示す移動履歴を取得する移動履歴取得手段と、路側装置との通信位置を取得する通信位置取得手段を備え、前記候補推定手段は、前記通信位置取得手段で取得した通信位置からの移動履歴及び前記受信部の高さ位置の範囲に基づいて、アンビギュイティの候補を推定するように構成してあることを特徴とする。
第21発明に係る測位装置は、第18発明において、自身の移動距離及び/又は移動方向を示す移動履歴を取得する移動履歴取得手段を備え、前記候補推定手段は、前記測位手段で先に測位した位置からの移動履歴に基づいて、アンビギュイティの候補を推定するように構成してあることを特徴とする。
第22発明に係る測位装置は、第16発明乃至第21発明のいずれか1つにおいて、アンビギュイティの初期値を算出する初期値算出手段と、該初期値算出手段で算出した初期値の信頼度を設定する信頼度設定手段と、該信頼度設定手段で設定した信頼度に基づいて、アンビギュイティの候補範囲を算出する候補範囲算出手段を備え、前記候補推定手段は、前記候補範囲算出手段で算出した候補範囲内でアンビギュイティの候補を推定するように構成してあることを特徴とする。
第23発明に係る測位装置は、第22発明において、自身の移動距離若しくは移動方向又は前記測位手段で先に測位した時点からの時間経過の少なくとも1つを示す経過情報を取得する経過情報取得手段を備え、前記信頼度設定手段は、前記測位手段で先に測位した位置及び前記経過情報に基づいて信頼度を設定するように構成してあることを特徴とする。
第24発明に係る測位装置は、第22発明において、路側装置との通信位置を取得する通信位置取得手段と、自身の移動距離若しくは移動方向又は前記取得手段で通信位置を取得した時点からの時間経過の少なくとも1つを示す経過情報を取得する経過情報取得手段とを備え、前記信頼度設定手段は、前記通信位置取得手段で取得した通信位置及び前記経過情報に基づいて信頼度を設定するように構成してあることを特徴とする。
第25発明に係る測位装置は、第1発明乃至第24発明のいずれか1つにおいて、前記受信部で受信した各搬送波の位相を算出する位相算出手段と、各測位用衛星が送信した各搬送波を受信する基準局から、該基準局が算出した前記各搬送波の位相を取得する位相取得手段と、前記位相算出手段で算出した位相と前記位相取得手段で取得した位相との位相差に含まれるアンビギュイティを決定する第2のアンビギュイティ決定手段とを備え、前記測位手段は、前記第2のアンビギュイティ決定手段で決定したアンビギュイティに基づいて自身の位置を測位するように構成してあることを特徴とする。
第26発明に係る測位装置は、第1発明乃至第25発明のいずれか1つにおいて、前記測位手段で測位した位置を用いて、走行距離を測定するセンサ、速度を測定するセンサ、加速度を測定するセンサ、角度を測定するセンサ、角速度を測定するセンサのうち少なくとも1つを含む自律センサのスケール及び/又はオフセットを補正する補正手段を備えることを特徴とする。
第27発明に係る測位システムは、上述の発明のいずれか1つに係る測位装置と、地表の高度情報を該測位装置へ送信する送信装置とを備えることを特徴とする。
第28発明に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、複数の測位用衛星が送信した各搬送波の位相に含まれるアンビギュイティを決定させるためのコンピュータプログラムにおいて、コンピュータを、位相に含まれるアンビギュイティの候補を推定する候補推定手段と、推定した候補及び地表の高度情報に基づいてアンビギュイティを決定するアンビギュイティ決定手段として機能させることを特徴とする。
第29発明に係る測位方法は、複数の測位用衛星が送信した各搬送波を受信部で受信し、受信した各搬送波の位相に基づいて測位を行う測位方法において、位相に含まれるアンビギュイティの候補を推定し、推定した候補及び地表の高度情報に基づいてアンビギュイティを決定し、決定したアンビギュイティに基づいて自身の位置を測位することを特徴とする。
第1発明、第28発明及び第29発明にあっては、搬送波の位相に含まれるアンビギュイティの候補を推定する。アンビギュイティの候補は、真の解が存在する可能性のある範囲内に存在するアンビギュイティを候補(解の候補)とすることができる。ここで、可能性のある範囲の大小は、例えば、受信部での衛星までの距離の測定精度に応じて決定することができ、これにより推定するアンビギュイティの候補数を増減することができる。
推定した候補及び地表の高度情報に基づいてアンビギュイティを決定する。例えば、車両又は人などの測位対象(測位装置)の道路上の概略の位置(水平位置)が判れば、その位置での地表の高度情報を用いて受信部の概略の高さ位置(例えば、高さ位置の範囲)を求めることができる。ここで、高度情報は、例えば、地表(地面)の標高(ジオイド面からの高さ)、又は楕円体高(地球回転楕円体からの高さ)とすることができる。推定した候補のうち、受信部の高さ位置の範囲に存在する候補を真の解(真のアンビギュイティ)として決定することができる。決定したアンビギュイティに基づいて測位対象の位置を精度良く測位する。これにより、例えば、決定すべきアンビギュイティの候補を推定した上で、高度情報によりさらにアンビギュイティの候補を高速に絞り込むことができ、従来の方法に比べてアンビギュイティの算出を高速化し、都市部などにおけるRTKの測位が可能な時間を大幅に増加させることができる。
第2発明にあっては、測位装置は、自身の水平位置を推測し、推測した水平位置における地表の高度情報を取得する。水平位置の推測には、いくつかの方法がある。例えば、各測位用衛星と受信部との距離を求めることにより、測位対象(測位装置)の概略の位置(水平位置)を推測することができる。また、光ビーコン又は電波ビーコン等の路側装置との通信位置を測位対象の水平位置と推測することができる。さらに、車輪速センサ、加速度センサ、ジャイロセンサ、車載カメラ等の自律センサにより、移動距離、移動方向などの移動履歴を記録しておき、路側装置との通信位置からの移動履歴、あるいは、先に測位した測位位置からの移動履歴に基づいて、測位対象の水平位置を推測することもできる。地表の高度情報は、予め測定されたものを記憶しておくこともでき、あるいは、路側装置、送信装置などの外部から受信することもできる。
測位装置は、推測した水平位置及びその水平位置での高度情報に基づいて、受信部の高さ位置の範囲を設定する。受信部の高さ位置の範囲は、受信部を車両に取り付ける場合における取り付け位置(高さ)、あるいは、人が携帯する場合における所持する位置(高さ)などに応じて、地表の高度情報に加味することができる。設定した高さ位置の範囲を用いて真のアンビギュイティを決定する。すなわち、受信部の高さ位置の範囲に存在するアンビギュイティの候補の中から真の解(真のアンビギュイティ)を決定することができる。言い換えれば、高度情報を用いて真の解を検定することができる。受信部の高さ範囲によりさらにアンビギュイティの候補を高速に絞り込むことができ、真のアンビギュイティの算出を高速化し、都市部などにおけるRTKの測位が可能な時間を大幅に増加させることができる。また、偽の解(偽のアンビギュイティ)を選択してしまう確率が下がるため、信頼性も大幅に向上する。
第3発明にあっては、測位装置は、RTK−GPS受信機を用いて測定された地表の高度情報を取得する。なお、RTK−GPS受信機を用いて道路等の高度情報を測定する場合、RTK−GPS受信機で測定した海抜高度から、路面からのRTK−GPS受信機の高さを差し引いた値を地表の高度情報とすることができる。観測可能な測位用衛星数が多い場合や測位用衛星の配置が良いときにRTK−GPS受信機を用いて所望の各地点(道路など)での高度を予め測定しておく。これにより、正確な高度情報を取得することができる。
第4発明にあっては、測位装置は、高度情報又は受信部の設置高さの精度を示す精度情報に応じて、受信部の高さ位置の範囲を特定する。例えば、高度情報又は受信部の設置高さの精度が高い場合には、受信部の高さ位置の範囲を小さくして、解の候補を少なくして一層の高速化を図ることができる。また、高度情報又は受信部の設置高さの精度が低い場合には、受信部の高さ位置の範囲を大きくして、真の解が候補範囲から外れることを防ぐことができる。
第5発明にあっては、測位装置は、地表の高度情報の精度を示す精度情報を設定し、設定した精度情報に応じて、受信部の高さ位置の範囲を特定する。これにより、地表の高度情報にその高度情報の精度(例えば、測定値に含まれる誤差の度合いなどの測定精度、信頼度等)を対応付けることができる。
第6発明にあっては、測位装置は、地表の高度情報を含む道路地図データの測定精度に基づいて精度情報を設定する。これにより、道路地図データに含まれる地表の高度情報を用いる場合には、その精度に応じて受信部の高さ位置の範囲を特定することができる。
第7発明にあっては、測位装置は、受信部の設置高さの精度に基づいて精度情報を設定する。これにより、受信部を車両に取り付ける場合において取り付け位置の誤差、あるいは、人が受信部を携帯する場合において携帯位置の誤差に応じて受信部の高さ位置の範囲を特定することができる。
第8発明にあっては、測位装置は、各測位用衛星と受信部との距離を用いて水平位置を推測する。例えば、4つの測位用衛星からの信号の伝達時間を測定することで、受信部内の時計の誤差の補正と、受信部の水平位置の推測とを行うことができる。推測した水平位置に対応する高度情報を用いることにより、多数のアンビギュイティの候補の中から候補の数を絞り込むことができる。
第9発明にあっては、測位装置は、各搬送波の伝播時間を算出し、算出した伝播時間に基づいて、各測位用衛星と受信部との擬似距離を算出する。測位装置は、算出した擬似距離を用いて受信部の水平位置を推測する。推測した水平位置に対応する高度情報を用いることにより、多数のアンビギュイティの候補の中から候補の数を絞り込むことができる。
第10発明にあっては、測位装置は、自身の移動距離及び/又は移動方向を示す移動履歴を取得し、先に測位した位置からの移動履歴に基づいて受信部の水平位置を推測する。推測した水平位置に対応する高度情報を用いることにより、多数のアンビギュイティの候補の中から候補の数を絞り込むことができる。
第11発明にあっては、測位装置は、路側装置(例えば、光ビーコン、電波ビーコンなど)との通信位置を取得する。測位装置は、取得した通信位置に基づいて水平位置を推測する。推測した水平位置に対応する高度情報を用いることにより、多数のアンビギュイティの候補の中から候補の数を絞り込むことができる。
第12発明にあっては、測位装置は、自身の移動距離及び/又は移動方向を示す移動履歴を取得し、路側装置(例えば、光ビーコン、電波ビーコンなど)との通信位置を取得する。測位装置は、取得した通信位置からの移動履歴に基づいて水平位置を推測する。推測した水平位置に対応する高度情報を用いることにより、多数のアンビギュイティの候補の中から候補の数を絞り込むことができる。
第13発明にあっては、測位装置は、測位した水平位置と推測した水平位置に基づいて、決定したアンビギュイティの確かさ(アンビギュイティの候補)を検定する。測位対象の概略の水平位置の推測は、例えば、各測位用衛星と受信部との擬似距離により求めること、光ビーコン又は電波ビーコン等の路側装置との通信位置を測位対象の水平位置と推測すること、あるいは、車輪速センサ、加速度センサ、ジャイロセンサ又は車載カメラ等の自律センサにより、移動距離、移動方向などの移動履歴を記録しておき、路側装置との通信位置からの移動履歴、あるいは、先に測位した測位位置からの移動履歴に基づいて求めることができる。測位装置は、測位した水平位置と推測した水平位置との差が所定の閾値より大きい場合、測位した水平位置は真の解に基づくものではないとして解の候補から破棄する。また、測位した水平位置と推測した水平位置との差が所定の閾値より小さい場合、測位した水平位置を解の候補として残す。測位した水平位置と推測した水平位置に基づいてアンビギュイティの確かさを検定することにより、アンビギュイティの候補をふるいにかけて高速かつ精度良く解の候補を絞り込むことが可能となる。
第14発明にあっては、測位装置は、推測した水平位置の信頼度を設定し、設定した信頼度に基づいて決定したアンビギュイティの確かさを検定する。例えば、解の候補であるか否かを判定する際の閾値を信頼度に応じて変化させる。推測した水平位置の精度が高い場合には閾値を小さくし、推測した水平位置の精度が低い場合には閾値を大きくする。これにより、測位対象の概略の水平位置を推測した際の精度(例えば、測定精度)に関わらず精度良くアンビギュイティの確かさを検定することができる。
第15発明にあっては、測位装置は、各主衛星が送信した搬送波に基づいてアンビギュイティを決定し、決定したアンビギュイティを用いて自身の位置を測位する。測位装置は、測位した自身の位置を用いて、従衛星と受信部との距離を算出するとともに、従衛星が送信した搬送波の位相を測定する。測位装置は、算出した距離及び測定した位相に基づいて、先に決定したアンビギュイティの確かさを検定する。例えば、測位装置は、各主衛星を用いて求めた受信部の位置と従衛星の距離を波長で割った値(実数)と、測定した従衛星からの搬送波の位相との差がほぼ整数である場合、決定したアンビギュイティを解の候補として残し、ほぼ整数でない場合には、決定したアンビギュイティは真の解ではないとして解の候補から破棄する。解の候補であるか否かを従衛星のデータに基づいて検定することにより、高速かつ精度良く解の候補を絞り込むことが可能となる。
第16発明にあっては、測位装置は、各測位用衛星と受信部との距離を用いてアンビギュイティの候補を推定する。例えば、受信部で測定した各搬送波の位相差(小数部)と、測位用衛星と受信部との間の距離を搬送波の波長で除算した値との差を四捨五入した整数値、すなわち、測位用衛星と受信部との距離内に存在する搬送波の推定波数に基づいて、真のアンビギュイティが存在する可能性の範囲を求めてアンビギュイティの候補を推定することができる。これにより、多数のアンビギュイティの候補の中から候補の数を高速に絞り込むことができる。
第17発明にあっては、測位装置は、各搬送波の伝播時間を算出し、算出した伝播時間に基づいて、各測位用衛星と受信部との擬似距離を算出する。測位装置は、算出した擬似距離を用いてアンビギュイティの候補を推定する。これにより、コード同期式の通常のGPS受信機能を備えるだけで、多数のアンビギュイティの候補の中から候補の数を高速に絞り込むことができる。
第18発明にあっては、測位装置は、受信部の高さ位置の範囲を用いてアンビギュイティの候補を推定する。例えば、光ビーコンとの通信により、受信機のアンテナの位置が光ビーコンと通信可能な比較的狭い範囲内にあると推定可能な場合、その推定値と各測位用衛星との絶対距離を用いてアンビギュイティの候補を推定する。これにより、多数のアンビギュイティの候補の中から候補の数を高速に絞り込むことができる。
第19発明にあっては、測位装置は、路側装置(例えば、光ビーコン、電波ビーコンなど)との通信位置を取得し、取得した通信位置及び受信部の高さ位置の範囲に基づいて、アンビギュイティの候補を推定する。路側装置との通信位置を受信部(測位装置)の位置とすることで、各測位用衛星と受信部との絶対距離を推測することができ、精度高くアンビギュイティの候補を算出することができる。
第20発明にあっては、測位装置は、自身の移動距離及び/又は移動方向を示す移動履歴を取得し、路側装置(例えば、光ビーコン、電波ビーコンなど)との通信位置を取得する。測位装置は、取得した通信位置からの移動履歴及び受信部の高さ位置の範囲に基づいて、アンビギュイティの候補を推定する。路側装置との通信位置からの移動地点を受信部(測位装置)の位置とすることで、各測位用衛星と受信部との絶対距離を推測することができ、精度高くアンビギュイティの候補を算出することができる。
第21発明にあっては、測位装置は、自身の移動距離及び/又は移動方向を示す移動履歴を取得し、先に測位した位置からの移動履歴に基づいて、アンビギュイティの候補を推定する。先に測位した位置からの移動地点を受信部(測位装置)の位置とすることで、各測位用衛星と受信部との絶対距離を推測することができ、精度高くアンビギュイティの候補を算出することができる。
第22発明にあっては、測位装置は、アンビギュイティの初期値の信頼度を設定し、設定した信頼度に基づいてアンビギュイティの候補範囲を算出する。初期値の信頼度は、例えば、アンビギュイティの初期値を算出する際に用いた各測位用衛星と受信部との距離の測定精度(例えば、測定値に含まれる誤差の度合いなど)に基づいて設定することができ、測定精度が高い場合には、アンビギュイティの候補範囲を小さくし、測定精度が低い場合には、アンビギュイティの候補範囲を大きくする。測位装置は、算出した候補範囲内でアンビギュイティの候補を推定する。これにより、測定精度が高い場合には、解の候補を少なくして一層の高速化を図ることができる。また、測定精度が低い場合には、候補範囲を広げることで、真の解(真のアンビギュイティ)が候補範囲から外れることを防止することができる。
第23発明にあっては、測位装置は、自身の移動距離若しくは移動方向又は先に測位した時点からの時間経過の少なくとも1つを示す経過情報を取得し、先に測位した位置及びその位置からの経過情報に基づいてアンビギュイティの初期値の信頼度を設定する。測位対象の位置を測位した前又は後においては、測位した位置からの移動距離、経過時間など
が長くなるに応じて受信部(測位装置)の位置の誤差が累積するため、先に測位した位置からの経過情報に応じて信頼度を減少させる。これにより、測位対象が移動することで生じる位置の誤差に応じて、アンビギュイティの候補範囲を変えることができ、解の決定(アンビギュイティの決定)を一層の高速化することができるとともに、真の解(真のアンビギュイティ)が候補範囲から外れることを防止することができる。
第24発明にあっては、測位装置は、路側装置との通信位置を取得し、自身の移動距離若しくは移動方向又は通信位置を取得した時点からの時間経過の少なくとも1つを示す経過情報を取得する。測位装置は、取得した通信位置及びその通信位置からの経過情報に基づいてアンビギュイティの初期値の信頼度を設定する。路側装置との通信により通信位置を取得した前又は後においては、その通信位置からの移動距離、経過時間などが長くなるに応じて受信部(測位装置)の位置の誤差が累積するため、その通信位置からの経過情報に応じて信頼度を減少させる。これにより、測位対象が移動することで生じる位置の誤差に応じて、アンビギュイティの候補範囲を変えることができ、解の決定(アンビギュイティの決定)を一層の高速化することができるとともに、真の解(真のアンビギュイティ)が候補範囲から外れることを防止することができる。
第25発明にあっては、測位装置は、受信部で受信した各搬送波の位相を算出し、位置が既知の基準局から基準局で測定された各搬送波の位相を取得する。測位装置は、算出した位相と取得した位相との位相差に含まれるアンビギュイティを決定し、決定したアンビギュイティに基づいて自身の位置を測位する。これにより、電離圏や対流圏での電波の遅延時間を相殺することができ、測位対象の位置を精度良く測位することが可能となる。
第26発明にあっては、測位装置は、測位した位置を用いて、走行距離を測定するセンサ、速度を測定するセンサ、加速度を測定するセンサ、角度を測定するセンサ、角速度を測定するセンサのうち少なくとも1つを含む自律センサのスケール及び/又はオフセットを補正する。オフセットの補正は、例えば、測位結果により測位対象が静止していると判断される場合に補正することができる。また、スケールの補正は、複数の地点で測位した結果(地点間の長さ、距離、向きの変化など)と、その地点間でのセンサの出力との比を補正係数として算出し、センサの出力値に補正係数を乗算することで補正することができる。これにより、例えば、車両に搭載された自律センサを精度良く補正することができる。
第27発明にあっては、送信装置(例えば、無線機、光ビーコン等)は、地表の高度情報を測位装置へ送信する。これにより、測位装置は、地表の高度情報を予め記憶しておく必要がなく、測位対象が任意の地点へ移動した場合であっても、その付近の最新の情報を取得することができる。
本発明にあっては、アンビギュイティの算出を高速化し、都市部などにおけるRTKの測位が可能な時間を大幅に増加させることができる。
以下、本発明を実施の形態を示す図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る測位システムの一例の概要を示す模式図であり、図2は測位対象100の構成の一例を示すブロック図である。本発明に係る測位システムは、測位対象100及び送信機200などを備え、測位用の衛星(GPS、ガリレオ、準天頂衛星などのGNSS)G1〜GN、基準局300などを利用して測位対象100の位置を測位する。測位対象100は、例えば、車両又は人などであり、測位対象100が車両である場合には本発明に係る測位装置である測位装置10及び自律センサ部20などを備え、測位対象100が人である場合には測位装置10を備える。
各衛星G1〜GNは、原子時計、10.23MHzの基準発信器などを搭載し、基準周波数の154倍のL1=1575.42MHz及び120倍のL2=1227.60MHzの2周波の信号を送信する。送信される信号には、原子時計により正確なタイミングで発信される測位用の所定のコード(符号)が含まれ、そのコードが受信機に到達するまでにどれだけの時間(伝播時間)を要したかを測定することにより、各衛星G1〜GNとの擬似距離(伝播時間×光速)を測定することができる。なお、2周波の信号に限定されず、1周波のみでの測位や3周波以上を用いた測位も可能である。
各衛星G1〜GNのうち、観測可能な衛星を4機の主衛星G1〜G4と残りの従衛星(G5〜GN)とに区分する。例えば、観測可能な衛星が6機存在する場合、従衛星の数は2機となる。また、主衛星G1〜G4の中で基準となる衛星(例えば、衛星G1)を決定しておく。基準の主衛星G1を決定することにより、主衛星G1の搬送波の位相を基準とし、他の主衛星G2〜G4の搬送波の位相の差分を測定して、測位装置10(受信機)の時計の誤差をキャンセルすることができる。測位対象100の位置は、主衛星G1〜G4のデータを用いて測位し、測位結果を従衛星G5〜GNのデータを用いて検定する。なお、いずれの衛星を主衛星又は従衛星にするかは、衛星から送信される衛星軌道情報に基づいて測位装置10で決定してもよく、あるいは予め決定した情報を測位装置10で取得する構成であってもよい。
測位装置10は、測位処理を行う処理部11、各衛星G1〜GNからの信号(電波)を受信する受信アンテナを備える衛星用通信部12、基準局300、送信装置200及び不図示の路側装置(例えば、光ビーコン、電波ビーコンなど)との通信機能(例えば、狭域通信機能、無線LANのような中域通信機能、広域通信機能など)を有する通信部13、所定のデータを記憶するための記憶部14、地図データベース15などを備えている。また、衛星用通信部12は、各衛星G1〜GNとの擬似距離を測定するコード位相測定部121、各衛星G1〜GNの搬送波の位相を測定する搬送波位相測定部122などを備えている。
自律センサ部20は、車輪速センサ201、加速度センサ202、ジャイロセンサ203、車載カメラ204などを備えている。なお、自律センサ部20は、走行距離を測定するセンサ、速度を測定するセンサ、加速度を測定するセンサ、角度を測定するセンサ、角速度を測定するセンサなどの少なくとも1つを含めることができる。自律センサ部20は、各センサで測定したデータに基づいて車両の移動距離、移動方向(方位)などを示す移動履歴を処理部11へ出力するとともに、処理部11から出力される補正用データ(補正係数)に基づいて、測定データの補正を行う。補正方法の詳細は後述する。
基準局300は、衛星用通信部12と同様の機能を有し、各衛星G1〜GNとの擬似距離、各衛星G1〜GNの搬送波の位相を測定し、測定結果を測位対象100へ送信する。基準局300での測定結果を用いることにより、電離圏や対流圏での電波(信号)の遅延時間をキャンセルすることができる。なお、電離圏や対流圏での電波の遅延時間に関する情報を主衛星G1〜G4、あるいは外部から取得することにより、基準局300を設置することなく測位を行うこともできる。
次に一般的な二重位相差に基づく測位方法の一例の概要について数値例を用いて説明する。なお、ここで用いる数値は一例であり、これに限定されるものではない。測位装置10と基準局300とで受信した搬送波について、主衛星G2からの搬送波の位相差と主衛星G1(基準の衛星)からの搬送波の位相差との差(二重位相差)をφ21(t)とし、主衛星G3からの搬送波の位相差と主衛星G1からの搬送波の位相差との差(二重位相差)をφ31(t)とし、主衛星G4からの搬送波の位相差と主衛星G1からの搬送波の位相差との差(二重位相差)をφ41(t)とする。
主衛星G1〜G4の搬送波の波長をλ、主衛星G1〜G4と基準局300との間の時刻tでの擬似距離をそれぞれR1r(t)、R2r(t)、R3r(t)、R4r(t)とし、主衛星G1〜G4と測位装置10との間の時刻tでの擬似距離をそれぞれR1u(t)、R2u(t)、R3u(t)、R4u(t)とすると、式(1)〜式(3)が成り立つ。ここで、N1、N2、N3は未知の整数である。測位装置10で測定することができる各搬送波の位相は、2π(0〜360deg)の範囲内にとどまるため、例えば、搬送波の位相が450deg、810deg、−270degの場合と区別をすることができない。そこで、その不確実性をN1〜N3の未知の整数(アンビギュイティ、整数バイアスと称される)で表している。
仮に主衛星G1〜G4からの電波を補足し続けることができれば(サイクルスリップがなければ)、未知の整数N1〜N3が不変のまま搬送波の位相がどの程度(仮に360degを超えた場合でも)変化したかを測定し続けることができる。すなわち、一旦アンビギュイティを算出することができれば(解を決定することができれば)、連続的に正確な搬送波位相を得ることができる。例えば、次の観測時(次のエポック時、例えば、時刻t+Δt)に式(4)〜式(6)を得ることができる。式(1)〜式(6)により、測位装置10の位置(例えば、緯度:座標X、経度:座標Y、高さ:座標Z)及び未知の整数N1〜N3を求めることができる。
衛星からの電波が遮蔽され、サイクルスリップが生じた場合には、連続観測が中断し、これによりアンビギュイティは変化するため、測位対象100の位置を測位するためには再度アンビギュイティを算出しなければならない。
アンビギュイティを算出するとは、上述のとおり未知の整数N1〜N3を求めることであり、各衛星からの搬送波位相が等しい等位相の多数の交点(位相の等しい多数の点)、すなわち多数の解の候補の中から正しい解(真の解)を求めることである。別言すれば、アンビギュイティを解くこと、あるいは、整数バイアスを決定することである。本発明の1つの特徴は、測位対象100の概略の水平位置とその水平位置での道路の高度情報により測位装置10の高さ位置(より正確には衛星信号の受信用アンテナの高さ位置)の範囲を特定し、多数の解の候補の中から、特定した範囲内にある解の候補に限定した上で真の解であるか否かの検定を行うことで、アンビギュイティの算出を高速化し、都市部などにおけるRTKの測位(搬送波位相を用いる測位)が可能な時間を大幅に増加させることができる技術を提供するものである。ここで、水平位置は、緯度及び経度で表すことができる絶対位置でもよく、あるいは、交差点又は目的地などの所定の地点を基準とした相対位置であってもよい。
送信装置200は、狭域通信機能を備える光ビーコン又は電波ビーコン等、あるいは無線LAN等の中域通信機能又は広域通信機能を備える無線機などで実現することができる。送信装置200は、測位対象100の測位領域内の道路の高度情報を含む道路形状情報を記憶してあり、記憶した道路形状情報を測位装置10へ送信する。測位装置10への送信タイミングは、例えば、測位対象100が送信装置200との通信地点を通過した場合、あるいは通信領域内に進入した場合とすることができる。
道路形状情報を送信装置200から測位装置10へ送信する構成とすることにより、測位装置10は、道路の高度情報を予め記憶しておく必要がなく、測位対象100が任意の地点へ移動した場合であっても、その付近の最新の情報を取得することができる。なお、道路形状情報を予め測位装置10に記憶しておくこともできる。この場合、送信装置200は不要となり、システム構成を簡略化することができる。
また、本実施の形態で道路とは、地表又は地面などを含み、車両が走行する道路、交差点付近、人が通行する歩道、道路外の空き地、駐車場など車両又は人が移動できる場所を含むものとする。
図3は道路形状情報の概要の一例を示す説明図である。道路形状情報は、例えば、道路を所定の間隔で区分し、各区分内にノードを設け、そのノードの水平位置(X、Y)と高度情報Zとを対応付けてある。図3に示すように、道路の方向に沿って所定間隔でノードを設定することにより、道路の水平位置に対応して直線状又は曲線状に高度情報を持たせることができる。道路の高度情報は、例えば、地表(地面)の標高(ジオイド面からの高さ)、又は楕円体高(地球回転楕円体からの高さ)である。ジオイド面は、重力の大小に応じて凹凸が生じた海面レベルを陸地まで延長して等重力面として仮想的に定めた面をいう。
図4は道路形状情報の概要の他の例を示す説明図である。この場合、道路形状情報は、道路を矩形状の小領域でマトリクス状に区分けし、各小領域内にノードを設け、そのノードの水平位置(X、Y)と高度情報Zとを対応付けてある。図4に示すように、道路の水平位置に対応して平面状に高度情報を持たせることができる。
道路の高度情報は、観測可能な衛星数や衛星配置の良い時間帯にRTK−GPS受信機を用いて、測位領域内の各地点(ノード)で予め測定することができる。なお、RTK−GPS受信機を用いて道路等の高度情報を測定する場合、RTK−GPS受信機で測定した海抜高度から、路面からのRTK−GPS受信機の高さを差し引いた値を地表の高度情報とする。これにより、道路の高度情報を精度良く取得することができる。ノード間の間隔は適宜設定することが可能であるが、例えば、5m間隔で測定することができる。また、道路の高度情報は、地図データに含まれる標高データなどを用いることもでき、この場合には比較的簡便に取得することができる。
図5は道路形状情報のデータ構造の一例を示す説明図である。図5に示すように、道路形状情報は、ノードID、そのノードの水平位置(緯度、経度)及び高度情報並びに高度情報の測定方法などの欄で構成されている。例えば、ノードIDがa1の地点の水平位置は(X1、Y1)であり、その地点の高度情報はZ1、その高度情報はRTK−GPS受信機で測定されたものであることを示す。なお、道路形状情報のデータ構造は一例であって、これに限定されるものではない。
送信装置200が道路形状情報を測位装置10へ送信する場合、目的又は用途に応じて、どの程度の領域内の道路形状情報を送信するかを決定することができる。例えば、送信装置200を光ビーコンで構成し、交差点の上流から交差点に向かって移動する車両を測位対象100とする場合において、交差点までの車両の位置を精度良く測位するときには、光ビーコンとの通信位置から交差点付近までの領域内の道路形状情報を送信することができる。
また、測位装置10で比較的広範囲の領域で測位を行う場合には、その領域内の道路形状情報を送信すればよい。また、測位装置10と送信装置200との間で繰り返し通信を行うことができる場合には、後述するように測位装置10が自身の概略の水平位置を推測した場合、推測した水平位置のデータを送信装置200へ送信し、送信装置200は、受信した水平位置の近傍(例えば、数m以内)の道路形状情報を受信の都度測位装置10へ送信することもできる。これにより通信量を低減することができる。
次に測位対象100の概略の水平位置を推測する方法について説明する。図6は衛星と測位装置10との間の擬似距離を用いて水平位置(X、Y)を推測する例を示す説明図である。各衛星G1〜G4に搭載された原子時計に比べて測位装置10に搭載した受信機時計の精度は一般に低く、各衛星に搭載された時計とは同期していない。このため、測位装置10で測定した各衛星G1〜G4との距離r1〜r4は真の距離ではなく、真の距離に時間誤差を含めた擬似距離である。各衛星G1〜G4の位置は、予め既知であるので、第4の衛星を用いて受信機の時計誤差を補正し、3つの衛星と受信機間の真の距離を求め、3つの衛星を中心とする、半径が真の距離の3つの球面を描き、3つの球面の交点を測位対象100の概略の水平位置(緯度、経度)として求めることができる。
各衛星G1〜G4との距離を用いる場合、その測定精度は、概略1m〜10m程度であり、概略の水平位置は、例えば、直径1m〜10mの円状の領域として求めることができる。なお、領域の形状は円状に限定されず矩形状であってもよい。
図7は前回測位した位置を用いて水平位置(X、Y)を推測する例を示す説明図である。前回測位した位置とは、直近に測位した位置であってもよく、また、過去複数回測位した位置のうちの1地点又は複数地点の位置であってもよい。また、測位の方法は、本発明によるRTK−GPSによる測位方法であって、その詳細は後述する。
図7に示すように前回RTK−GPSで決定した解(測位位置)により求められた水平位置(X0、Y0)から、自律センサ部20から取得した移動履歴に応じた位置変動を加味することにより、概略の水平位置(X、Y)を求めることができる。なお、自律センサ部20で測定したデータを用いる場合、移動距離及び経過時間に応じた測定誤差が累積されるため、推測する水平位置の精度は、移動距離が増加するに応じて低下する。移動距離に応じて測定誤差が累積するのは、測位した位置に到達する前、あるいは到達後であっても同様である。
図8は光ビーコン400との通信位置を用いて水平位置(X、Y)を推測する例を示す説明図である。図8に示すように光ビーコン400との通信位置(X0、Y0)から、自律センサ部20から取得した移動履歴に応じた位置変動を加味することにより、概略の水平位置(X、Y)を求めることができる。なお、自律センサ部20で測定したデータを用いる場合、移動距離及び経過時間に応じた測定誤差が累積されるため、推測する水平位置の精度は、移動距離が増加するに応じて低下するのは、図7の例の場合と同様である。なお、図8の例の場合、光ビーコン400との通信位置を測位対象100の概略の水平位置(緯度、経度)とすることもできる。この場合、光ビーコン400との通信範囲が、例えば、1辺又は直径1m程度の領域内であれば、水平位置も略1mの範囲内にあるものと考えられ、精度が高い水平位置を推測することができる。
図9は道路の高度情報により解の候補を限定する例を示す概念図である。測位装置10は、上述の図6乃至図8の例の方法により概略の水平位置(緯度、経度)を推測したものとする。測位装置10は、推測した水平位置(図9に示すようにある程度の領域として特定することができる)に対応する道路形状情報から、道路の高度情報を取得する。図9では、一例として、4つの地点の高度情報Z11、Z12、Z13、Z14を取得することができたものとする。なお、推測した水平位置に対応する高度情報が存在しない場合には、水平位置に直近の高度情報を用いて補間処理を行い、高度情報を算出してもよい。
測位装置10は、取得した高度情報Z11〜Z14に対して、高度情報Z11〜Z14の誤差をそれぞれe11〜e14とすると、Z11−e11、Z11+e11、Z12−e12、Z12+e12、Z13−e13、Z13+e13、Z14−e14、Z14+e14のうちで最小の高さと最大の高さの間の領域を解(アンビギュイティ)の候補領域Sとして特定する。なお、図9の例は、このようにして求めた解の候補領域Sを模式的に示したものである。これにより、測位装置10は、多数の解の候補のうち候補領域S内に存在する解の候補に限定することができ、候補領域S外に存在する解の候補は正しい解(アンビギュイティ)ではないとして除外することができる。これにより、アンビギュイティを高速に解くことができる。
測位装置10を車両に搭載する場合、あるいは、携帯可能にして人が携帯する場合、衛星用通信部12(より正確には受信アンテナ)の高さ位置は、道路の高度情報に受信アンテナの高さ(路面からの高さ)を加えたものになる。このため、より精度高く測位を行うためには、受信アンテナの高さ位置を特定する必要がある。また、受信アンテナの高さ位置は、車両のどの箇所に取り付けるか、あるいは、人がどのように保持するかで異なり、受信アンテナの高さ位置の誤差を考慮することが好ましい。従って、道路の高度情報に対応付けて、その高度情報の精度情報(信頼性)を設定することで、より精度良く受信アンテナの高さ範囲を決定することができる。
図10は道路の高度情報に対応付けた精度情報の一例を示す説明図である。精度情報としては、道路の高度情報の測定精度、受信アンテナの設置精度(受信機を車両に搭載した場合の搭載高さのバラツキ、あるいは、受信機を人が携帯する際のバラツキ等)などがある。測位装置10は、送信装置200から取得した高度情報に対して精度情報(信頼性)を設定し、設定した精度情報に基づいて測位装置10(受信アンテナ)の高さ位置範囲を設定する。なお、測位装置10で精度情報を設定する構成に代えて、予め高度情報と精度情報とを対応付けた情報を送信装置200から受信する構成であってもよい。
図10(a)は、受信機が車両に搭載された場合の例を示す。この場合には、受信機(受信アンテナ)の設置精度を±10cmと設定する。図5に示すように、ノードIDがa1での高度情報Z1は、RTK−GPS受信機を用いて精度良く測定されたものであり、測定精度を±50cmと設定する。この場合、受信アンテナの高さ位置の範囲は、最大値Zmaxが、Zmax=Z1+h+60、最小値Zminが、Zmin=Z1+h−60により設定することができる。ここで、hは、受信アンテナの路面からの高さであり、測位装置10を車両のどこに搭載するかに応じて設定すればよい。
同様に、ノードIDがa2での高度情報Z2は、気圧計で測定された地図データを用いたものであり、RTK−GPS受信機を用いた場合に比べて精度が低いため、測定精度を±200cmと設定する。これにより、受信アンテナの高さ位置の範囲は、最大値Zmaxが、Zmax=Z2+h+210、最小値Zminが、Zmin=Z2+h−210により設定することができる。
図10(b)は、受信機を人が携帯している場合の例を示す。この場合には、受信機(受信アンテナ)の設置精度を±60cmと設定する。図5に示すように、ノードIDがa1での高度情報Z1は、RTK−GPS受信機を用いて精度良く測定されたものであり、測定精度を±50cmと設定する。この場合、受信アンテナの高さ位置の範囲は、最大値Zmaxが、Zmax=Z1+h+110、最小値Zminが、Zmin=Z1+h−110により設定することができる。ここで、hは、受信アンテナの路面からの高さであり、測位装置10を車両のどこに搭載するかに応じて設定すればよい。
同様に、ノードIDがa2での高度情報Z2は、気圧計で測定された地図データを用いたものであり、RTK−GPS受信機を用いた場合に比べて精度が低いため、測定精度を±200cmと設定する。これにより、受信アンテナの高さ位置の範囲は、最大値Zmaxが、Zmax=Z2+h+260、最小値Zminが、Zmin=Z2+h−260により設定することができる。
図11は解の候補を限定する様子を模式的に示す説明図である。上述のとおり、各主衛星G1〜G4からの搬送波の位相が等しい点(解の候補)は多数存在する。図11の例では、主衛星G1、G2からの搬送波の等位相面を模式的に表している。等位相面が交差する点(図中、丸印で示す)が解の候補である。道路の高度情報を用いることにより、多数の解の候補のうち、解の候補領域Sで示される領域内に存在するものに限定することができる。なお、他の主衛星G3、G4についても同様である。
次に測位装置10の動作について説明する。図12及び図13は測位装置10の測位処理の手順を示すフローチャートである。処理部11、衛星用通信部12、通信部13などは、専用のハードウエア、半導体モジュール(チップ)で構成してもよく、あるいは、所定の測位処理を示すコンピュータプログラムにより構成することもできる。コンピュータプログラムで構成する場合には、そのコンピュータプログラムをRAMにロードしてCPUで実行することにより、コンピュータプログラムで示された処理手順に従って処理を行うことができ、本発明に係る測位装置を実現することができる。
ここでは、自律センサを用いず、アンビギュイティの候補設定の際にコード位相を用いる場合を示す。また、ここでは、二重位相差を用いることで電離圏、対流圏での伝搬時間をキャンセルする方法を用いているが、これらの伝搬時間の情報を別途入手することで、受信機単体での測位も可能である。
処理部11は、主衛星G1〜G4からの信号の搬送波位相、擬似距離を測定し(S11)、基準局300で測定された主衛星G1〜G4からの信号の搬送波位相、擬似距離を受信する(S12)。処理部11は、搬送波位相の各二重位相差を算出する(S13)。
測位装置10で測定した主衛星G1〜G4からの搬送波位相をそれぞれΦ1u〜Φ4uとし、基準局300で測定した主衛星G1〜G4からの搬送波位相をそれぞれΦ1r〜Φ4rとすると、主衛星G1(基準衛星)の搬送波位相を基準とした各主衛星G2〜G4の搬送波位相の差(二重位相差)は、式(7)〜式(9)で表すことができる。ここで、▽△は二重位相差を算出するための演算子(オペレータ)である。二重位相差を用いることにより、電離圏や対流圏での電波の遅延時間及び測位装置10の受信機の時計の誤差をキャンセルすることができる。
演算子▽△を用いることにより、式(7)〜式(9)は、式(10)のように表すことができる。ここで、i=2、3、4である。以降、二重位相差を算出する演算子を式(10)のように定義する。
本実施の形態では、二重位相差の演算を各主衛星G1〜G4のL1信号(1575.42MHz)とL2信号(1227.60MHz)の位相差(これをワイドレーンと称する)に関して行う。すなわち、ワイドレーンΦ(wide)は式(11)のようにL1とL2の位相差で定義され、式(12)が成り立つ。
このワイドレーンの二重位相差において、式(13)が成り立つ。ここで、i=2、3、4である。
式(13)において、Riは測位装置10の受信機又は基準局300と各主衛星G1〜G4とのコード位相を用いて求めた擬似距離であり式(14)で表すことができる。また、N(wide)はアンビギュイティであって整数値であり、式(15)で表すことができる。また、λ(wide)はワイドレーンの周波数であり式(16)で表すことができ、L1信号が1575.42MHz、L2信号が1227.60MHzであるので、λ(wide)は0.863mとなる。
式(13)は、ワイドレーンの二重位相差が等しくなる地点は位相2πごとに多数あるので、これらを表す点をアンビギュイティ(解の候補)を含んだ式として表現したものである。測位装置10は、受信機で受信した各搬送波の位相差を算出し、基準局300から基準局300で測定された各搬送波の位相差を取得する。測位装置10は、算出した位相差及び取得した位相差に基づいて、アンビギュイティを決定し、既知である基準局300の位置情報と、衛星の位置情報、衛星との距離を用いて、受信部の位置を決定することができる。このように、アンビギュイティが求まると受信機の位置が求まることがわかる。
処理部11は、解の候補が残存しているか否かを判定し(S14)、解の候補が残存していない場合(S14でNO)、アンビギュイティの初期値を算出し(S15)、算出した初期値の信頼度を算出する(S16)。解の候補が残存しているか否かを判定するのは、直近の処理で解の候補が複数求められたものの1つの解(真の解)に決定できなかった場合に真の解を決定するための処理を繰り返すためのものである。従って、解の候補を最初に求める処理では、解の候補は残存していない。
アンビギュイティの初期値は、例えば、式(17)で算出することができる。
式(17)において、Φ(wide)、Riは測定することができ、λ(wide)は式(16)により算出することができる。式(17)は、▽△Riと二重位相差を取った値に存在する搬送波の端数(整数部と小数部とを含む)と測定した搬送波位相差(0〜2π内)との差であって、一番近い整数値をアンビギュイティの初期値として求める。これにより、算出すべき解(アンビギュイティ)に近い値を初期値として求めることができ、解の決定率を向上させることができる。
4つの測位用衛星からの信号伝達時間を測定することで、受信部内の時計の誤差Δdtと、経度、緯度、高さ、つまり水平位置だけでなく、高さの推測を行うことは可能である。しかしながら、GPSを用いて求めた高さ情報は、一般に誤差やばらつきが大きいため、アンビギュイティの候補設定や後の検定において実用的ではない。本発明のように、高さ方向を道路(地表)の高度情報によって狭い範囲に限定することでより効果的にアンビギュイティを求めることができる。
上述のアンビギュイティの初期値の算出では、擬似距離を用いたが、他の測定値を用いることもできる。例えば、測位対象100が車両の場合、光ビーコンとの通信により、受信機のアンテナの位置が光ビーコンと通信可能な1m程度の範囲内にあると推定可能な場合、その推定値と各主衛星G1〜G4との絶対距離を擬似距離に代えて用いることができる。これにより、精度の高い初期値を算出することが可能となる。
また、光ビーコン等との通信、あるいはGPS信号による測位(コード同期による方式、及び本発明を含めた搬送波同期による方式)により、ある時刻における測位装置10の絶対位置を推定し、車輪速センサ201、加速度センサ202、ジャイロセンサ203、車載カメラ204などの自律センサで移動距離、移動方向(方位)などを含む移動履歴を求め、推定した位置からの移動履歴により各主衛星G1〜G4との絶対距離を擬似距離に代えて用いることができる。このように、アンビギュイティの初期値を算出する際に用いる測定値の測定精度に応じて、アンビギュイティの初期値の信頼度を算出することができる。
図14はアンビギュイティの初期値の信頼度の一例を示す説明図である。図14に示すように、測位方法と信頼性の評価値を関連付けた評価値テーブルを記憶部14に記憶しておくことができる。例えば、光ビーコンとの通信時には、測位装置10の推定位置を光ビーコンとの通信領域に限定することができ、高精度に位置を測定することができることから、評価値を90に設定する。
また、RTK−GPS(搬送波同期式)で解が求められた時、マルチパスの影響が小さく、位置を高精度に測位することができることから、評価値を90に設定する。また、GPS(コード同期式)で解が求められた時は、例えば、受信状況に応じて50〜70の範囲で評価値を設定する。例えば、受信できた衛星の数が4、DOP(dilution of precision)値が大きく、信号強度、SN比が小さい場合、評価値を50に設定し、受信できた衛星の数が8、信号強度、SN比が大きい場合、評価値を70に設定する。受信状況として、受信した信号の相関関数の歪みの程度を考慮して、歪みが大きい場合には、小さい評価値を設定し、歪みが小さい場合には、大きい評価値を設定することもできる。
また、路面に埋められた磁気ネイル又は送信地点が予め定まっている無線機との通信時は、評価値を85に設定し、DSRC(例えば、ETC料金所など)との通信時には、通信領域に広がりがあるものの、その範囲内で推定位置が大きく誤ることはないので、評価値を75に設定する。なお、上述の評価値は、あくまで一例であって、これに限定されるものではない。
処理部11は、算出した信頼度に基づいて、アンビギュイティの探索範囲を定める(S17)。解の候補が残存している場合(S14でYES)、処理部11は、ステップS17の処理を行う。処理部11は、推定した各候補に対して主衛星のデータを用いて解を算出する(S18)。アンビギュイティの候補の推定は、式(18)で行うことができる。すなわち、真のアンビギュイティ(真の解)は、式(18)で表される範囲内にあるとすることができる。
ここで、σ1はアンビギュイティの初期値の信頼度に対応する値であり、信頼度が高かいほど小さくし、信頼度が低いほど大きくすることができる。すなわち、アンビギュイティの初期値を高い精度で推定可能な場合には、σ1をより小さい値とすることができる。また、σ1は、アンビギュイティの初期値(推定値)の標準偏差に相当する値を用いることができ、例えば、60cmとすることができる。また、kはk=2、3等の値とすることができ、それぞれ有意水準95%、99%に相当する。
一例として、k=3、σ1=60cmとした場合、ワイドレーンの波長λ(wide)は約86cmであるので、アンビギュイティの初期値±2サイクルの間に真の解が存在すると考えることができる。すなわち、基準の主衛星G1を除く主衛星G2〜G4のそれぞれについて、解の候補が5個存在することになり、解の候補は全体として5の3乗=125個となる。
アンビギュイティの候補は、測位対象100の移動状況に応じて変動させることもできる。すなわち、測位装置10は、測位対象100の移動距離及び/又は移動方向を示す移動履歴を取得し、先に測位した位置(例えば、本実施の形態のRTK−GPSで決定した解)及びその位置からの移動履歴に基づいて、アンビギュイティの初期値の信頼度を算出してアンビギュイティの候補を決定することができる。あるいは、測位装置10は、光ビーコン等の路側装置との通信位置を取得するとともに、測位対象100の移動距離及び/又は移動方向を示す移動履歴を取得し、取得した通信位置及びその通信位置からの移動履歴に基づいて、アンビギュイティの初期値の信頼度を算出してアンビギュイティの候補を決定することができる。また、先に測位した時点(例えば、本実施の形態のRTK−GPSで決定した解)からの移動時間又は経過時間、あるいは、光ビーコン等の路側装置との通信時点からの移動時間又は経過時間に基づいて、アンビギュイティの初期値の信頼度を算出してアンビギュイティの候補を決定することができる。
図15は移動履歴に応じたアンビギュイティの信頼度の変化の一例を示す説明図である。図15(a)は、RTK−GPSで位置を測位(解を決定)した後の移動履歴(時間の経過)に応じたアンビギュイティの信頼度の変動の様子を示す。図15(a)に示すように、RTK−GPSで解を決定した時点(地点A1)で、初期値の信頼度は90に設定され、その後測位対象100が移動するにつれて移動に伴う測位装置10の位置誤差が累積するため、初期値は徐々に低下する。
図15(b)に示すように、地点A1でRTK−GPSで解を決定し、位置を測位した後、地点A2で位置を測位する際のアンビギュイティの候補の範囲(探索範囲)は、その時点の信頼度(例えば、60)により決定される。仮に、地点A2で再び解を決定することができた場合、アンビギュイティの初期値の信頼度は90に設定される。その後地点A3で位置を測位する際のアンビギュイティの候補の範囲(探索範囲)は、その時点の信頼度(例えば、60)により決定される。なお、アンビギュイティの候補の範囲(探索範囲)は、初期値の信頼度の大小に応じて変化する様子を模式的に示したものである。
図16は移動履歴に応じたアンビギュイティの信頼度の変化の他の例を示す説明図である。図16(a)は、RTK−GPSで位置を測位(解を決定)した後の移動履歴(時間の経過)に応じたアンビギュイティの信頼度の変動の様子を示す。図16(a)に示すように、RTK−GPSで解を決定した時点(地点A1)で、初期値の信頼度は90に設定され、その後測位対象100が移動するにつれて移動に伴う測位装置10の位置誤差が累積するため、初期値は徐々に低下する。
図16(b)に示すように、地点A1でRTK−GPSで解を決定し、位置を測位した後、地点A2で位置を測位する際のアンビギュイティの候補の範囲(探索範囲)は、その時点の信頼度(例えば、60)により決定される。仮に、地点A2で解を決定することができない場合、アンビギュイティの初期値の信頼度はさらに低下する。その後地点A3で位置を測位する際のアンビギュイティの候補の範囲は、その時点の信頼度(例えば、30)により決定され、図15の例の地点A3の場合に比べて、初期値の信頼度が低下しているので、アンビギュイティの候補の範囲(探索範囲)は大きくなっている。
このように、測位対象100が移動することで生じる位置の誤差に応じて、アンビギュイティの候補の範囲を変えることができる。すなわち、測定精度が高い場合には、解の候補を少なくして一層の高速化を図ることができる。また、測定精度が低い場合には、候補範囲を広げることで、真の解(真のアンビギュイティ)が候補範囲から外れることを防止することができる。
測位装置10は、解の候補の中から真の解を決定するため検定を行う。処理部11は、従衛星G5〜GNのデータを用いて各解(解の候補)を検定する(S19)。
従衛星G5〜GNのデータを用いた検定処理は、以下のように行うことができる。すなわち、各主衛星G1〜G4が送信した搬送波に基づいてアンビギュイティを決定し、決定したアンビギュイティを用いて測位装置10(自身)の位置を測位する。測位装置10は、測位した自身の位置を用いて、従衛星G5〜GNと受信部との距離を算出するとともに、従衛星G5〜GNが送信した搬送波の位相を測定する。測位装置10は、算出した距離及び測定した位相に基づいて、式(19)で表される値を算出して先に決定したアンビギュイティの確かさを検定する。ここで、i=5〜Nである。これは、主衛星G1〜G4のデータより求めた解のうち、真の解は、従衛星G5〜GNのデータにより式(19)で算出される値の整数値に近い値となると考えられるからである。
各候補に対して求めた解(アンビギュイティ)、すなわち整数値と式(19)で算出される値に最も近い整数値との差が所定の閾値(例えば、0.1、0.2など)より大きい場合には、その解(アンビギュイティ)を破棄し、所定の閾値より小さい場合には、真の解の候補として残し、次の検定処理を行う。
次に、処理部11は、推測した水平位置を用いて各解を検定する(S20)。推測した水平位置は、例えば、GPS(コード同期式)受信機で求めた擬似距離を用いた位置ベクトル(緯度、経度、あるいは基準局300からの基線ベクトルなど)と、各候補に対して求めた解(アンビギュイティ)に基づいて算出される位置ベクトルを比較して位置ベクトルがかけ離れているものを破棄する。例えば、式(20)を用いて検定することができる。
ここで、X(r)は、擬似距離を用いて求めた位置ベクトル、X(w)は、上述の測位処理手順でワイドレーンを用いて求めた位置ベクトルである。絶対値の記号||は、水平方向のノルムを示し、σ2は、擬似距離で求めた位置とワイドレーンを用いて求めた位置の差の水平方向の標準偏差に相当する値である。また、k=2、3は、それぞれ有意水準95%、99%に相当する。
σ2は、例えば、式(21)で表すことができ、測定時の衛星配置などを考慮して決定することができる。式(21)において、RHDOPは、測定時の水平方向に関するRDOP(relative dilution of precision)とする。すなわち、衛星配置が良くない(衛星配置のバラツキが小さい)場合、RHDOPの値が大きくなり、X(r)の精度が低くなるため、X(r)とX(w)の測定結果の差の許容範囲を広くする。処理部11は、式(20)を満たす場合、解を破棄し、式(20)を満たさない場合、真の解の候補として残し、次の検定処理を行う。
このように、推測した水平位置の精度が高い場合には閾値を小さくし、推測した水平位置の精度が低い場合には閾値を大きくする。これにより、測位対象100の概略の水平位置を推測した際の精度(例えば、測定精度)に関わらず精度良く測位結果を検定することができる。
次に、処理部11は、高度情報を用いて各解を検定する(S21)。具体的には、ワイドレーンを用いて求めた高度をZ(w)とすると、式(22)又は式(23)を満たす場合、解を破棄し、式(22)及び式(23)を満たさない場合、真の解の候補として残す。式(22)、式(23)において、Zmax、Zminは、例えば、図10の例に示す高さ位置範囲を特定する上限値及び下限値である。
上述のように、検定処理を行うことにより、多数の解の候補の中から候補の数を絞り込むことができ、解(アンビギュイティ)の決定を高速化かつ高い精度で行うことが可能となる。
処理部11は、解の候補があるか否かを判定し(S22)、解の候補がある場合(S22でYES)、解の候補が1つであるか否かを判定する(S23)。解の候補が1つである場合(S23でYES)、処理部11は、残った1つの候補を真の解と決定し(S24)、決定した解に基づいて、測位対象100の位置を測位し(S25)、処理を終了する。なお、上述の処理は、必要に応じて繰り返すことができる。
一方、解の候補がない場合(S22でNO)、あるいは、解の候補が1つでない場合(S23でNO)、処理部11は、次のエポックでステップS11以降の処理を続ける。解の候補が2つ以上残った場合には、ステップS15、S16をスキップすることでアンビギュイティの初期値を再度算出しない。これは、解の候補が2つ以上残った場合には、先に算出した初期値付近に真の解が存在する可能性が高いので、先に算出した初期値を再度用いて解の候補を求めることで効率良く真の解を求めることができるからである。
また、解が残存しなかった場合には、ステップS15、S16の処理を再度繰り返すことにより、アンビギュイティの初期値を算出して、解の候補を求める。解が全く残らなかった場合は、擬似距離がマルチパスによる誤差を含んでいることなどが考えられるため、再度初期値を算出する方が好ましいからである。
次に本発明を適用して行った実験結果について説明する。図17は本発明による測位結果の一例を示す説明図である。測位実験は、道路の両側を中層ビルで囲まれた道路で、試験車両に本実施の形態の測位装置10を搭載し、衛星からの搬送波位相、擬似距離を測定して行った。測位条件は、観測可能な衛星数が一旦減少し、再度アンビギュイティの計算を行う必要が生じた場合のうち、5個以上の衛星が観測可能な場合について40回測定を行い、解の決定率と解を決定することができるまでのエポック数を算出した。
図17に示すように、本発明にあっては、解を決定できた率は90.0%であり、そのうち1エポックで解を決定することができた率は100%であった。比較のため、道路の高度情報を用いずに行った結果、解を決定できた率は47.5%であり、そのうち1エポックで解を決定することができた率は63.2%であった。
このように、本発明の測位においては、解の決定率、1エポックで解を決定できた率とも従来の方法に比べて大幅に改善していることが分かる。また、決定した解により測位した位置は、予め測定した位置とほぼ正確に一致しており、極めて高い精度で測位することができることを確認することができた。
上述のように求められた解の信頼性は極めて高く、この解を用いて、例えば、車両に搭載された自律センサ(車輪速センサ201、加速度センサ202、ジャイロセンサ203等)を補正することができる。例えば、車両が走行した際に、2箇所以上で解を決定することができれば、自律センサの補正を行うことができる。以下、車輪速センサ201、加速度センサ202、ジャイロセンサ203の補正について説明する。
車輪速センサ201は、タイヤの凹凸を検知する。凹凸の周期はタイヤに応じて1周当たり50程度である。車輪速センサ201は(タイヤの回転数)×(1周当たりの凹凸)に応じたパルスを出力する。タイヤのスリップやロックがなければ、この出力によって走行距離を測定することができる。急ブレーキをかけたときなど特殊な状況を除いて、タイヤと路面との間の摩擦係数が大きいときには、ほぼスリップやロックは生じない。測定する走行距離の誤差の原因としては、タイヤの空気抜けなどによるスケール誤差が考えられる。また、オフセットが生じる可能性は低い。
RTK−GPS(本実施の形態)で解が決定した(測位した)各地点のうち、直線を走行したと考えられる区間(AB間とする)を抽出する。直線を走行したか否かを判断する方法としては、例えば、ヨー方向のジャイロセンサ203の出力が常に0であることを確認すればよい。また、本発明の測位方法により得られた解が直線上に乗っていることから判断してもよい。地点A、B間の距離として、RTK−GPSで決定した解に基づいて算出した距離Lr、車輪速センサ201からの出力パルスにより求めた距離Loを算出する。より詳細には、道路の高さ情報を利用して、地点A、B間の道路の曲線の長さを求め、この長さをLrとしてもよい。
上述のとおり、RTK−GPSで決定した解の信頼性は極めて高いので、距離Lrを真の値として、Lr/Loを補正係数として算出する。以降、車輪速センサ201で距離を測定する場合、出力されるパルス数に補正係数を乗じることで、車輪速センサ201の補正を行うことができる。なお、実際には、多数の区間を抽出して最小二乗法により真値を判定することが望ましい。
加速度センサ202は、物体の加速度に比例した電圧を出力し、出力を1回積分すると速度を求めることができ、2回積分すると走行距離を求めることができる。誤差として、物体が静止しているのにゼロでない値を出力するオフセットと、真値の加速度に比例したスケール誤差がある。
加速度センサ202のオフセットは、車輪速センサ201やRTK−GPSを用いて車両が静止していると判断したときに補正することができる。
RTK−GPS(本実施の形態)で解が決定した(測位した)各地点のうち、車両が平坦な道路を直進したと考えられる区間(AB間とする)を抽出する。地点A、B間の距離として、RTK−GPSで決定した解に基づいて算出した距離Lr、加速度センサ202の出力を2回積分して求めた距離Loを算出する。なお、車両が平坦な道路を直進したか否かを判断する方法としては、ピッチ方向の向きを検出するジャイロセンサ203の出力が常にゼロ(高さの変化がない)であることを確認する、車輪速センサ201において、左右輪の出力がほぼ常に等しい(直線を走行)ことを確認する、該当する道路の高さデータを参照し、ほぼ平坦、直線であることを確認する、などを用いればよい。
上述のとおり、RTK−GPSで決定した解の信頼性は極めて高いので、距離Lrを真の値として、Lr/Loを補正係数として算出する。以降、加速度センサ202で距離を測定する場合、出力される値に補正係数を乗じることで、加速度センサ202の補正を行うことができる。なお、実際には、多数の区間を抽出して最小二乗法により真値を判定することが望ましい。
ジャイロセンサ203は、物体の角速度に比例した電圧を出力し、出力を積分すれば車両などの向きの変化を測定することができる。誤差として、物体が静止しているのにゼロでない値を出力するオフセットと、真値の角速度に比例したスケール誤差がある。
ジャイロセンサ203のオフセットについては、車輪速センサ201やRTK−GPSを用いて車両が静止していると判断したときに補正することができ、信頼性も高い、車両が走行しているときに補正することも可能であるが、静止時、直進時、カーブ時の順で補正難度が高くなり、補正にはより多くのデータが必要となる。
RTK−GPS(本実施の形態)で解が決定した(測位した)各地点のうち、車両が直進したと考えられる区間を2区間抽出する。地点A、B間と、地点C、D間で車両が直進したと判断した場合、直線ABと直線CDの角度として、RTK−GPSで決定した解に基づいて算出した角度θr、ジャイロセンサ203の出力を積分して求めた角度θoを算出する。なお、車両が直進したか否かを判断する方法としては、オフセットを補正したジャイロセンサ203において、出力が常にゼロであることを確認する、車輪速センサ201において、左右輪の出力がほぼ常に等しい(直線を走行)ことを確認する、などを用いればよい。
上述のとおり、RTK−GPSで決定した解の信頼性は極めて高いので、角度θrを真の値として、θr/θoを補正係数として算出する。以降、角度の算出の際には、ジャイロセンサ203の出力に補正係数を乗じることで、ジャイロセンサ203の補正を行うことができる。なお、実際には、多数の区間を抽出して最小二乗法により真値を判定することが望ましい。
以上のようにして、車輪速センサ201、加速度センサ202、ジャイロセンサ203など自律センサを補正することにより、走行履歴による位置の測定精度が上がり、次回の測位時に初期値の信頼度を上げることができるので、結果としてアンビギュイティの決定が容易になる。このような、RTK−GPSと自律センサの相乗効果により、継続的に高精度で測位を行うことができる。
上述の実施の形態では、図12の例で示すように、搬送波の二重位相差を算出して、アンビギュイティの初期値(最も確からしい中心点)を求め、そこからの誤差許容範囲によりアンビギュイティの候補を推定(探索範囲を決定)する構成であったが、これに限定されるものではなく、例えば、アンビギュイティの初期値((最も確からしい中心点)を求めることなく、真のアンビギュイティの可能性のある範囲のみを求める構成とすることもできる。
以上説明したように、本発明にあっては、道路又は道路からの受信アンテナの高さの情報を活用することで、ビルなどにより衛星電波の遮蔽を頻繁に受ける都市部においても、アンビギュイティの算出を高速化し、RTKの測位(搬送波位相を用いる測位)が可能な時間を大幅に増加させることができ、RTK−GPS受信機を活用できる可能性を大幅に向上させることができる。
上述の実施の形態では、解の候補を検定する際に道路の高度情報、従衛星のデータ及び推測した水平位置を用いる構成であったが、検定方法はこれに限定されるものではなく、道路の高度情報のみで解の候補の検定を行うこともできる。あるいは、道路の高度情報と従衛星のデータとを用いて検定することもでき、又は道路の高度情報と推測した水平位置とを用いて検定する構成であってもよい。また、他の検定方法を加えることもできる。
開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。