JP2009074572A - 流体軸受装置およびそれを備えた情報記録再生処理装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】スリーブの表面の気孔率を一定の範囲内に設定し、動圧溝のリッジ幅を一定値以上に保つことで、動圧発生圧力が漏れることを防止し無くすことでラジアル軸受剛性の低下を防止し、従来のカバー廃止が可能になり、また、軸とスリーブの線膨張係数を軸の方を大きくなるように焼結金属からなるスリーブの原料となる金属粒子の成分を鉄系にすることで、軸受の低温での性能が良好な流体軸受装置を得ることができる。
【選択図】図1
Description
焼結部材からなるスリーブと、前記スリーブに設けられた軸受穴に相対的に回転自在に挿入される軸と、前記軸の外周面または前記スリーブの内周面の少なくとも一方に形成された動圧発生溝とを有する動圧流体軸受であって、前記スリーブは、表面気孔率が1.5%以下で、リッジ幅が0.10mm以上であることを特徴としたものである。
さらに、本発明は前記スリーブにおいて、その材料の80%以上が鉄であり、表面に四酸化三鉄または三酸化二鉄を主体とする酸化鉄皮膜を2μm以上形成したことを特徴としたものである。
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における流体軸受装置の断面図であり、まず本発明の構成について説明する。スリーブ1の軸受穴1Aに軸2が回転自在に挿入され、軸2の外周面またはスリーブ1の内周面の少なくともいずれか一方にパターン状の浅溝からなる動圧発生溝3A、3Bを有するラジアル軸受面を有し、軸2の上部側にはロータ磁石4を有するロータハブ5が取り付けられ、軸2の他端(図1においては、下部側)には軸2に対して直角にスラストフランジ6が一体的に取り付けられ、スラストフランジ6の下端側の軸受面はスラスト板7に対向し、スラスト板7はスリーブ1に固定され、スラストフランジ6またはスラスト板7のいずれか一方の面には螺旋状または魚骨状パターンの動圧発生溝8Aを有し、また必要に応じてスラストフランジ6の上部平面部とスリーブ1の下端面部が対向する面のいずれか一方の面には動圧発生溝8Bが設けられ、スリーブ1はモータステータ9と共にベース10に固定され、軸2とスリーブ1の間の隙間及びスラストフランジ6とスラスト板7の間の隙間はオイル等の潤滑剤11で充満されている。潤滑剤11としては、オイルの他にイオン性液体や超流動性グリスも使用することが可能である。(図1は、ラジアル動圧発生溝3A、3Bがシャフト2に形成されている図になっているが、図2のようにスリーブ1に形成されても良い。)
図2はスリーブ1にラジアル動圧発生溝3A、3Bが形成されている場合の拡大図であり、図3は図2の記号A部をさらに拡大した焼結材料の一般的説明図である。スリーブ1は多数の金属微粒子1Eが焼結されて構成されているが、スリーブ1が図示しないプレス機械で十分に加圧して成型されるために金属粒子1E間の空間はほとんど存在しない。とくにスリーブ1の表面はプレス機械による加圧が充分大きいため、その表面における残留気孔は、表面気孔率が1.5%以下になるように成型されている。3Aは動圧発生溝である。
図3、図4は本発明のスリーブ1及び従来例のスリーブ30の動圧発生面を説明する断面拡大図である。図中Bgは溝幅、Brはリッジ幅(溝間の最短距離)を示している。焼結部材からなる動圧発生面は図3のように焼結金属粒子が焼結成形されている。動圧発生溝の加工はたとえば日本特許第1703590号に示されるように硬質なボールを用いた転造加工が行われる。図4に示すように、動圧発生面は溝部(Bg)とリッジ部(Br:溝の無い平滑部)からなり、対向する軸2の表面の平滑面との間で相対速度が与えられると、動圧発生溝3Aにより隙間が変化しているため、流体力学的な絞り効果によりリッジ部(Br)に図4のグラフで示すような高い圧力が発生し、軸2が浮上し非接触で回転する。図3に示すように、スリーブの体積密度が低いと、動圧発生面の溝部とリッジ部を連通するような貫通気孔が存在し、ここでリッジ部に発生した高い圧力が溝部に漏れてしまうことがある。
図3と共に、図5も同様に焼結材料からなるスリーブ1の動圧発生溝面の断面図である。図5は焼結材の体積密度が約88%の場合の従来例(図16、図17)におけるスリーブ30の断面図であり、図3および図5の記号Uに示す気孔は、高圧が発生するリッジ部(Br)と低圧になる溝部(Bg)を気孔Uが連通してしまっているもので貫通気孔と称しており、流体軸受装置は軸2、32が回転中に圧力が漏れて高まらないため浮上できずに接触を起こして損傷するものである。また貫通気孔Uからは圧力が漏れるだけでなく、潤滑剤11、41がスリーブ1、30の外部に漏れ出す危険性がある。この貫通気孔Uは貫通気孔率(体積%)でその量を定量的に表わしている。
図6は鉄系材料からなるスリーブの体積密度(%)と各種気孔率(体積%)の関係を示している。グラフG1は貫通気孔率(体積%)の実測値、グラフG2は表面気孔率を体積%で(表面気孔率は面積%と、体積%の両方で評価される)表わした実測値、グラフ3は全気孔率(体積%)である。ここで、全気孔率とは貫通気孔、非貫通内部気孔、表面気孔の3種類に分類される気孔の体積合計をスリーブ1の体積で除した値(体積%)であるが、
これは、スリーブ1の体積密度からか以下の式によって一義的に求まるものである。
図6からわかるように、体積密度が92%以上であれば、図示しないプレス加工により表面がしごき加工、または表面流動加工される効果によって、表面気孔率は1.5%以下(ほぼ0%から1.5%の間)になることが実験的にわかっており、本発明では体積密度を92%以上にする事で図3に説明したような圧力の漏れを防止している。
図7は表面気孔率(面積%)と流体軸受装置のラジアル剛性の性能変化を示したものである。図7において、従来のように表面気孔が2%以上20%近くの多くの気孔が存在していた場合に比べて、本発明によれば、軸受表面の貫通気孔や表面気孔などの空孔は封孔され、表面気孔率(体積%)は充分低く1.5%以下であるため、剛性の低下率はほぼ0%に近く、図16に示した従来例に比較して約20%軸受剛性が高くなり、動圧流体軸受の軸振れが少なく回転精度が高い。この現象はスリーブ1の動圧発生面表面からの圧力漏れがなくなることにより、軸受隙間において充分高い圧力が得られ、剛性が低下しないからであると推定される。図7において表面気孔率が1.5%付近に臨界点が見られるが、これは表面気孔率が1.5%以下では、圧力の低下量があまりにも微少であり性能に影響を与えない範囲内のものと考察される。流体力学的にはこの表面気孔の深さが、図4に示す動圧発生溝より充分浅くて、動圧発生溝の溝幅(Bg)より圧倒的に小さい表面気孔(所謂、凹み)は圧力低下の原因にはならないものと考えられる。このことを以下に説明する。
図8はスリーブ1の軸受摺動面の拡大図、図9はその部分断面図である。図8及び図9は体積密度が92%以上100%未満の場合を示している。摺動面にはほぼ表面気孔が存在しないが、図中記号Vで示すような焼結材料の粒子間隙間による表面粒子間凹み(へこみ)、またはスジ状の1μm以下の浅い凹部が存在している、この凹みが一定深さ以上になると動圧溝の発生圧力を漏らして性能に影響する場合がある。本発明においては、このような微少な表面気孔率(面積%)の数値と流体軸受装置の性能とも関係を明らかにし、圧力漏れによる性能劣化がなく、かつ大量生産性が良好な、動圧発生溝の設計範囲とスリーブ表面の仕上がり状態を有する、流体軸受装置を以下に示すように提供している。
ここで気孔率の評価方法について説明しておく。表面気孔率(面積%)は、顕微鏡観察または写真やビデオカメラ等の撮影により単位面積当たりの気孔が占める面積比率が測定される。全気孔率(体積%)は、まず外径から計算できる見かけ上の体積V1に材質の比重ρ1を乗じると気孔等がない場合の重量W1が得られ、実際の重量W2と比較する。その重量差Δw1(=W1−W2)を材質の比重ρ1で除すると全気孔に相当する体積Δv1=(Δw1/ρ1)が得られるので、これの見かけ上の体積に占める割合(Δv1/V1)で表す、いわゆる比重法で測定される。また、表面気孔率(体積%)と貫通気孔率(体積%)の和(体積%)は、何も含まれていない軸受部材の実際の重量W2と潤滑剤を真空注油した後の重量W3の差Δw2(=W3−W2)を求め、これを潤滑剤の比重ρ2で除すると表面気孔と貫通気孔に相当する体積Δv2が得られるので、これの見かけ上の体積V1に対する割合(Δv2/V1)として求められる。また、表面気孔率(体積%)は、貫通気孔と表面気孔を硬化していない樹脂で埋めた後に、表面気孔の樹脂のみを洗い流して貫通気孔のみを樹脂で含浸固化して重量W4を測定し、これに潤滑剤を真空注油した後の重量W5との差Δw3(=W5−W4)を求め、これを潤滑剤の比重ρ2で除すると表面気孔に相当する体積Δv3が得られるので、これの見かけ上の体積V1に対する割合(Δv3/V1)として求められる。これらの測定と計算により、全気孔率(体積%)、表面気孔率(体積%)、貫通気孔率(体積%)、表面気孔率(面積%)をすべて求めることができる。なお、上記の真空注油は、特許文献の特許第3206191号等を参照のこと。
図11はリッジ部の幅が0.1mmの場合と、0.05mmの場合の2種類の流体軸受装置について、ラジアル軸受にアンバランス荷重(回転しているディスクの1点に軸方向からエアを当てて、定常回転時からのRROの変化を測定するエアプッシュ試験等であり、静荷重ではなく、動荷重を加える)を加えた場合の回転軸心の偏心量を測定し剛性を求め、表面気孔率(面積%)による流体軸受装置のラジアル軸受剛性の劣化比率を測定したものである。測定結果によれば、リッジ幅が0.1mmの場合は表面気孔率が1.5%までは剛性低下が認められないが、リッジ幅が0.05mmと短い場合は表面気孔率が0.75%からラジアル剛性が低下を始めた。またいずれの場合も表面気孔率が3%になると剛性が約20%低下することが確認できた。この結果から、図6に示す体積密度が約90%以上の高密度な焼結材料のスリーブを用いた流体軸受は、図9に示す表面粒子間凹みが深くなると圧力低下を始めるものと考えられ、リッジ幅が十分長い場合は圧力漏れと剛性低下は無く、リッジ幅が短い場合は圧力漏れが起こりやすいことを示している。流体力学的にはこの表面気孔の深さが、図4に示す動圧発生溝よりも深かったり、動圧発生溝の溝幅(Bg)にある程度近い長さになると表面気孔や表面粒子間凹みは動圧発生による圧力を低下させるものと考察される。
上記のように、動圧発生溝部のリッジ幅の影響を考慮した関数F(式1)とラジアル剛性比率の関係を図12に示している。
表面気孔率:軸受摺動面の撮影による測定値(面積%)
リッジ幅:動圧発生溝間の最短距離(mm)
表面気孔率は、前述したように面積%で表す場合と、体積%で表す場合があり、ここでは表面気孔率は軸受摺動面を顕微鏡、写真機、ビデオカメラ等で撮影した画像から、単位面積当たりの気孔部分の割合を示す面積%で表したものとする。また、リッジ幅は、グルーブ(動圧溝)とリッジの境界線から法線方向に測定した隣接した境界線までの距離を表しており、動圧溝間の最短距離である。図3、4、8のBrがこれに相当する。
実施の形態1において、図6で体積密度と気孔率の関係を示した。実施の形態1では、図6、図7、図10および図11を用いて述べたように、表面気孔率とリッジ幅を所定の値にすることでラジアル剛性の低下の少ない流体軸受装置を得ることができたが、焼結金属からなるスリーブ1の密度を体積密度の観点から管理しても同様の結果が得られる。具体的には、体積密度を92%以上で、動圧発生溝のリッジ幅を0.10mm以上にすることで、高性能で信頼性が高い流体軸受装置を得ることができる。これは体積密度を92%以上にすれば、全気孔率(体積%)が8%以下になると共に、表面気孔率(面積%)はほぼゼロか、少なくとも1.5%以下になるからである。
図13は、図2の本発明の実施の形態のスリーブ1を、図示しない一般の油圧式プレス機械で加工する場合のプレス圧力と、式1に示した関数Fの関係を実験的に求めたものである。関数Fが15以上では表面気孔率をあまり小さくしていなかったのでプレス機械による加工圧力は10トン程度で充分加工が行えた。しかし関数Fが3程度になる様にスリーブ1を加工するためにはプレス圧を3倍以上に高めなければならず、その結果図示しない金型が短期間に応力破壊する危険性が生じた。
また、従来、快削鋼の棒材や銅合金棒から旋盤による旋削加工でスリーブ1を削り出し、表面に防錆と耐摩耗性向上のためにニッケルメッキを施すことがあったが、焼結材料からなるスリーブ1にニッケルメッキを施す場合には腐食性を有するメッキ液が焼結材料の内部に残り、この液があとで焼結材料に悪作用をおこす危険性があった。図1、図2に示す本発明においては、スリーブ1の材料成分は鉄80%以上であって、この焼結材料の表面に高温でのスチーム処理を施すことで表面に四酸化三鉄(Fe3O4)(通称、四三酸化鉄)または、三酸化二鉄(Fe2O3)(通称、三二酸化鉄)を主体とする皮膜を2μm以上形成している。これにより、高マンガンクロム鋼やステンレス鋼からなる軸2とスリーブ1の間の摺動面において良好なスベリと耐摩耗性を発揮し、長寿命な流体軸受装置を構成することができる。スチーム処理は、酸素量を制御しながら500℃〜600℃程度の温度で水蒸気に接触させるもので、気孔が存在する焼結材料の表面を酸化鉄皮膜で覆うことができ、表面を封孔することができる。スチーム処理による封孔効果を実現するためには、体積密度を上げることによって、封孔すべき気泡をある程度小さく少なくしておくことが重要で、本発明の気孔率や体積密度であれば、十分効果を引出すことができる。また、封孔に必要な酸化反応を行うにはある程度以上の鉄成分も必要で、鉄成分が80%以上であることが望ましい。
図1に示す本発明において、軸2が高マンガンクロム鋼またはステンレス鋼のいずれか一方から構成され、また、スリーブ1は90体積%以上を鉄系微粒子からなる焼結金属に構成することで、軸の線膨張係数が16.0E-6〜17.3E-6(/℃)で、スリーブの線膨張係数が11.0E-6(/℃)になるため、スリーブが銅合金である場合と比較して、低温における軸受穴22Aと軸1の間の半径隙間が広くなり、ロストルクが減少して回転が軽くなるので、潤滑剤11であるオイルの粘度が低温で増加しても、流体軸受装置の回転摩擦トルクはさほど大きくならず、モータの消費電流を少なく抑えることが可能になる。
図15は本発明の流体軸受を組み込んだ情報記録再生処理装置である。代表的なものとしては、ハードディスク装置や光ディスク装置、光磁気ディスク装置があり、また図15のようにディスクは搭載していないが、CPUを冷却するファンを搭載したパソコンも挙げられる。12はディスク、13はクランパ部材,14は上蓋、15はヘッドアクチェータユニットを示している。本発明においては、流体軸受から潤滑剤が漏れてディスクを汚染したり、漏れた潤滑剤が蒸発したガスが装置内を汚染したりしないので、性能と信頼性に優れた情報記録再生処理装置が得られる。
1A 軸受穴
2 軸
3A,3B ラジアル動圧発生溝
4 ロータ磁石
5 ロータハブ
6 スラストフランジ
7 スラスト板
8A,8B スラスト動圧発生溝
9 モータステータ
10 ベース
11 潤滑剤
12 ディスク
13 クランパ部材
14 上蓋
15 ヘッドアクチェータユニット
Claims (7)
- 焼結部材からなるスリーブと、前記スリーブに設けられた軸受穴に相対的に回転自在に挿入される軸と、前記軸の外周面または前記スリーブの内周面の少なくとも一方に形成された動圧発生溝とを有する動圧流体軸受であって、
前記スリーブは、表面気孔率が1.5%以下で、動圧発生溝のリッジ幅が0.10mm以上であることを特徴とする流体軸受装置。 - 焼結部材からなるスリーブと、前記スリーブに設けられた軸受穴に相対的に回転自在に挿入される軸と、前記軸の外周面または前記スリーブの内周面の少なくとも一方に形成された動圧発生溝とを有する動圧流体軸受であって、
前記スリーブは、体積密度が92%以上で、動圧発生溝のリッジ幅が0.10mm以上であることを特徴とする流体軸受装置。 - 焼結部材からなるスリーブと、前記スリーブに設けられた軸受穴に相対的に回転自在に挿入される軸と、前記軸の外周面または前記スリーブの内周面の少なくとも一方に形成された動圧発生溝とを有する動圧流体軸受であって、
前記スリーブは、次の関数Fの値が15以下であることを特徴とする流体軸受装置。
関数F=表面空孔率(面積%)/リッジ幅(mm)
表面空孔率:動圧軸受摺動面の撮影による測定値で、気孔部面積の
割合(面積%)
リッジ幅:動圧発生溝間の最短距離(mm) - 前記関数Fの値が3以上、15以下であることを特徴とする請求項3に記載の流体軸受装置。
- 前記スリーブは成分の80%以上が鉄であり、表面に四酸化三鉄(Fe3O4)または、三酸化二鉄(Fe2O3)を主体とする酸化皮膜を2μm以上形成したことを特徴とする請求項1から請求項3の流体軸受装置。
- 前記スリーブはベースに直接固定されることを特徴とする請求項1から請求項5の流体軸受装置。
- 請求項1から請求項6のいずれかに記載の流体軸受装置を備えた情報記録再生処理装置。
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