JP2009039074A - 連続発酵によるタンパク質の製造方法 - Google Patents

連続発酵によるタンパク質の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】
簡便な操作条件で、長時間にわたり安定して高生産性を維持する連続発酵法によるタンパク質の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明は、タンパク質を分泌生産する能力を有する微生物の発酵培養液を分離膜によって濾液と未濾過液に分離し、濾液から所望の発酵生産物であるタンパク質を回収するとともに、未濾過液を発酵培養液に保持または還流する連続発酵方法によるタンパク質の製造方法であって、分離膜に高い透過性と高い細胞阻止率を持ち閉塞しにくい特定の多孔性膜を用い、特定の低い膜間差圧で濾過処理することにより、安定に低コストで発酵によるタンパク質の生産効率を著しく向上させることが可能となる。
【選択図】 図1

Description

本発明は、連続発酵によるタンパク質の生産に関するものである。具体的に本発明は、タンパク質の生産能力のある微生物の発酵培養液から、目詰まりが生じにくい多孔性分離膜を通して発酵液濾過し、未濾過液を前記の発酵培養液に戻すことにより発酵に関与する微生物濃度を向上させ、高い生産性を得ることができる連続発酵によるタンパク質の製造方法に関するものである。
微生物や培養細胞の培養を伴う物質生産方法である発酵法は、大きく(1)回分発酵法(Batch発酵法)および流加発酵法(Fed−Batch発酵法)と、(2)連続発酵法とに分類することができる。
上記(1)のバッチ発酵法および流加発酵法は、設備的には簡素であり短時間で培養が終了し、雑菌汚染による被害が少ないという利点がある。しかしながら、時間経過と共に培養液中の生産物濃度が高くなるとともに、生産物阻害等の影響により生産性が低下してくる。そのため、長時間にわたり安定して高生産性を維持することが困難である。一方、上記(2)の連続発酵法は、長時間にわたって高生産性を維持することができるという利点がある。
次に、タンパク質とその製造方法に関する技術背景について説明する。微生物由来のタンパク質が、工業的に生産されている。工業的に生産されているタンパク質として、酵素を挙げることができる。大量生産の例としては、洗剤用の酵素としてアルカリプロテアーゼやリパーゼなどがあり、デンプンからグルコースを製造するα−アミラーゼ、グルコアミラーゼおよびグルコースイソメラーゼなどが挙げられる。また、木材等に含まれるセルロースからグルコースを製造するための酵素であるセルラーゼを生産する技術開発も進んでいる。更に、インターフェロンやインターロイキンといった医薬用タンパク質や、臨床検査・研究用試薬として用いられるタンパク質の生産も行われている(非特許文献1参照。)。これらタンパク質は、元来、所望のタンパク質の生産能力のある微生物、あるいは所望のタンパク質をコードする遺伝子を導入した組換え微生物を培養する発酵法により生産されている。その発酵法としては、回分式発酵法が用いられている。そして、効率的な生産性が必要であるα−アミラーゼの生産(特許文献1参照。)、グルコアミラーゼの生産(特許文献2参照。)の生産においても回分式発酵法が用いられており、このような回分式発酵法では生産効率の向上が困難である。
このように、タンパク質の生産において、効率的なタンパク質の製造を目的とした生産性能の向上に向けた様々な検討が行われているが、更なるタンパク質生産技術革新が望まれていた。
財団法人バイオインダストリー協会 発酵と代謝研究会編、「発酵ハンドブック」、64−65、共立出版(2001) 特開平8−56662号 公報 特開平5−268953 公報
そこで本発明の目的は、簡便な操作方法で、長時間にわたり安定して高生産性を維持することができる連続発酵法によるタンパク質の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、鋭意研究の結果、微生物の分離膜内への侵入が少なく、微生物を膜間差圧が低い条件で培養液を濾過した場合に、分離膜の目詰まりが著しく抑制されることを見出し、分離膜を用いた連続発酵を行うことにより、課題であったタンパク質の生産性能が飛躍的に向上することを発見し、本発明を完成するに至った。
本発明のタンパク質の製造方法は、タンパク質を分泌生産する能力を有する微生物の発酵培養液を分離膜で濾過し、濾液から生産物であるタンパク質を回収するとともに未濾過液を前記の発酵培養液に保持または還流し、かつ、その微生物の発酵原料を前記の発酵培養液に追加する連続発酵によりタンパク質を製造する方法であって、前記の分離膜として平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の細孔を有する多孔性膜を用い、その膜間差圧を0.1から20kPaの範囲にして濾過処理することを特徴とする連続発酵によるタンパク質の製造方法である。
具体的に本発明は、発酵培養液を分離膜によって濾液と未濾過液に分離し、その濾液から所望の発酵生産物であるタンパク質を回収するとともに、その未濾過液を発酵培養液に保持または還流させる連続発酵方法によるタンパク質の製造方法であって、高い透過性と高い細胞阻止率を持ち閉塞しにくい上記特定の多孔性分離膜を利用すると共に上記特定の低い膜間差圧で濾過処理することにより、安定に低コストで、生産効率を著しく向上させるタンパク質の製造方法を提供するものである。
本発明の連続発酵によるタンパク質の製造方法の好ましい態様によれば、前記の多孔性膜の純水透過係数は、2×10−9/m/s/pa以上6×10−7/m/s/pa以下である。
本発明の連続発酵によるタンパク質の製造方法の好ましい態様によれば、前記の多孔性膜の平均細孔径は0.01μm以上0.2μm未満であり、その平均細孔径の標準偏差は0.1μm以下であり、その膜表面粗さは0.1μm以下である。
本発明の連続発酵によるタンパク質の製造方法の好ましい態様によれば、前記の多孔性膜は多孔性樹脂層を含む多孔性膜であり、多孔性樹脂層は有機高分子膜からなるものである。
本発明の連続発酵によるタンパク質の製造方法の好ましい態様によれば、前記の多孔性膜の素材にポリフッ化ビニリデン系樹脂が用いられることである。
本発明の連続発酵によるタンパク質の製造方法の好ましい態様によれば、前記の微生物の培養液および発酵原料は糖類を含むことである。
本発明の連続発酵によるタンパク質の製造方法の好ましい態様によれば、前記のタンパク質は酵素であり、その酵素は好ましくはα−アミラーゼあるいはグルコアミラーゼである。
本発明によれば、簡便な操作条件で、長時間にわたり安定して所望の発酵生産物の高生産性を維持する連続発酵が可能となり、広く発酵工業において、発酵生産物であるタンパク質を低コストで安定に生産することが可能となる。
本発明は、タンパク質を分泌生産する能力のある微生物の発酵培養液を、分離膜で濾過して濾液と未濾過液に分離し濾液から生産物を回収すると共に未濾過液を前記発酵培養液に保持または還流し、かつ、その微生物の発酵原料を前記の発酵培養液に追加する連続発酵であって、前記の分離膜として平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の細孔を有する多孔性膜を用い、その膜間差圧を0.1以上20kPa未満にして濾過処理することを特徴とする連続発酵によるタンパク質の製造方法である。
本発明において分離膜として用いられる多孔性膜は、発酵に使用される微生物による目詰まりが起こりにくく、かつ、濾過性能が長期間安定に継続する性能を有するものであることが望ましい。そのため、本発明で使用される多孔性膜は、その平均細孔径が0.01μm以上1μm未満であることが重要である。
次に、本発明で分離膜として用いられる多孔性膜の構成について説明する。本発明における多孔性膜は、被処理水の水質や用途に応じた分離性能と透水性能を有するものであり、阻止性能および透水性能や耐汚れ性という分離性能の点からは、多孔質樹脂層を含む多孔性膜であることが好ましい。このような多孔性膜は、多孔質基材の表面に、分離機能層として作用とする多孔質樹脂層を有している。多孔質基材は、多孔質樹脂層を支持して分離膜としての多孔性膜に強度を与えるものである。
多孔質基材の材質は、有機材料および/または無機材料等からなり、中でも有機繊維が望ましく用いられる。好ましい多孔質基材は、セルロース繊維、セルローストリアセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維およびポリエチレン繊維などの有機繊維を用いてなる織布や不織布であり、中でも、密度の制御が比較的容易であり製造も容易で安価な不織布が好ましく用いられる。
また、多孔質樹脂層は、上述したように分離機能層として作用するものであり、有機高分子膜を好適に使用することができる。有機高分子膜の材質としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、セルロース系樹脂およびセルローストリアセテート系樹脂などが挙げられる。有機高分子膜は、これらの樹脂を主成分とする樹脂の混合物からなるものであってもよい。ここで主成分とは、その成分が50重量%以上、好ましくは60重量%以上含有することをいう。中でも、多孔性膜を構成する多孔質樹脂層の素材としては、溶液による製膜が容易で物理的耐久性や耐薬品性にも優れているポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂およびポリアクリロニトリル系樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂またはそれを主成分とする樹脂が最も好ましく用いられる。
ここで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体が好ましく用いられるが、その他、フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体との共重合体も好ましく用いられる。フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよび三塩化フッ化エチレンなどが例示される。
本発明で用いられる多孔性膜の作成法の概要を説明する。まず、上述した多孔質基材の表面に、上述した樹脂と溶媒とを含む原液の被膜を形成するとともに、その原液を多孔質基材に含浸させる。しかる後、被膜を有する多孔質基材の被膜側表面のみを、非溶媒を含む凝固浴と接触させて樹脂を凝固させると共に多孔質基材の表面に多孔質樹脂層を形成する。原液にさらに非溶媒を含ませることもできる。原液の温度は、製膜性の観点から、通常、15〜120℃の範囲内で選定することが好ましい。
ここで、原液には、開孔剤を添加することもできる。開孔剤は、凝固浴に浸漬された際に抽出されて、樹脂層を多孔質にする作用を持つものである。開孔剤を添加することにより、平均細孔径の大きさを制御することができる。開孔剤は、凝固浴に浸漬された際に抽出されて、樹脂層を多孔質にする作用を持つものである。開孔剤は、凝固浴への溶解性の高いものであることが好ましい。開孔剤としては、例えば、塩化カルシウムや炭酸カルシウムなどの無機塩を用いることができる。また、開孔剤として、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレン類や、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールおよびポリアクリル酸などの水溶性高分子化合物や、グリセリンを用いることができる。
また、溶媒は、樹脂を溶解するものである。溶媒は、樹脂および開孔剤に作用してそれらが多孔質樹脂層を形成するのを促す。このような溶媒としては、N−メチルピロリジノン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトンおよびメチルエチルケトンなどを用いることができる。中でも、樹脂の溶解性の高いNMP、DMAc、DMFおよびDMSOが好ましく用いられる。
さらに、原液には、非溶媒を添加することもできる。非溶媒は、樹脂を溶解しない液体である。非溶媒は、樹脂の凝固の速度を制御して細孔の大きさを制御するように作用する。非溶媒としては、水やメタノールおよびエタノールなどのアルコール類を用いることができる。中でも、価格の点から水やメタノールが好ましい。非溶媒は、これらの混合物であってもよい。
本発明で用いられる多孔性膜は、平膜であっても中空糸膜であっても良い。平膜の場合、その平均厚みは用途に応じて選択されるが、好ましくは20μm以上5000μm以下であり、より好ましくは50μm以上2000μm以下の範囲で選択される。
上述のように、本発明で分離膜として用いられる多孔性膜は、多孔質基材と多孔質樹脂層とから形成されている多孔性膜であることが望ましい。その際、多孔質基材に多孔質樹脂層が浸透していても、多孔質基材に多孔質樹脂層が浸透していなくてもどちらでも良く、用途に応じて選択される。多孔質基材の平均厚みは、好ましくは50μm以上3000μm以下の範囲で選択される。また、多孔性膜が中空糸膜の場合、中空糸の内径は好ましくは200μm以上5000μm以下の範囲で選択され、膜厚は好ましくは20μm以上2000μm以下の範囲で選択される。また、有機繊維または無機繊維を筒状にした織物や編物を中空糸膜の内部に含んでいても良い。
本発明で用いられる多孔性膜は、支持体と組み合わせることによって分離膜エレメントとすることができる。支持体として支持板を用い、その支持板の少なくとも片面に、本発明で用いられる多孔性膜を配した分離膜エレメントは、本発明で用いられる多孔性膜を有する分離膜エレメントの好適な形態の一つである。この形態で、膜面積を大きくすることが困難な場合には、透水量を大きくするために、支持板の両面に多孔性膜を配することも好ましい態様である。
分離膜としての多孔性膜の平均細孔径が上記のように0.01μm以上1μm未満の範囲内にあると、菌体がリークすることのない高い排除率と、高い透水性を両立させることができ、さらに目詰まりをしにくく、透水性を長時間保持することが、より高い精度と再現性を持って実施することができる。微生物として細菌類を用いた場合、多孔性膜の平均細孔径は好ましくは0.4μm以下であり、平均細孔径は0.2μm未満であればなお好適に実施することが可能である。平均細孔径は、小さすぎると透水量が低下することがあるので、本発明では、平均細孔径は0.01μm以上であり、好ましくは0.02μm以上であり、さらに好ましくは0.04μm以上である。
ここで、平均細孔径は、倍率10,000倍の走査型電子顕微鏡観察における、9.2μm×10.4μmの範囲内で観察できる細孔すべての直径を測定し、平均することにより求めることができる。
また、上記の平均細孔径の標準偏差σは、0.1μm以下であることが好ましい。更に、平均細孔径の標準偏差が小さい、すなわち細孔径の大きさが揃っている方が均一な透過液を得ることができ、発酵運転管理が容易になることから、平均細孔径の標準偏差は小さければ小さい方が望ましい。
平均細孔径の標準偏差σは、上述の9.2μm×10.4μmの範囲内で観察できる細孔数をNとして、測定した各々の直径をXkとし、細孔直径の平均をX(ave)とした下記の(式1)により算出される。
Figure 2009039074
本発明で用いられる多孔性膜においては、発酵培養液の透過性が重要点の一つであり、透過性の指標として、使用前の多孔性膜の純水透過係数を用いることができる。本発明において、多孔性膜の純水透過係数は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで透水量を測定し算出したとき、2×10−9/m/s/pa以上であることが好ましい。純水透過係数が2×10−9/m/s/pa以上6×10−7/m/s/pa以下であれば、実用的に十分な透過水量が得られる。より好ましい純水透過係数は、2×10−9/m/s/pa以上1×10−7/m/s/pa以下である。
本発明で用いられる多孔性膜の膜表面粗さは、分離膜の目詰まりに影響を与える因子である。好ましくは膜表面粗さが0.1μm以下のときに分離膜の剥離係数や膜抵抗を好適に低下させることができ、より低い膜間差圧で連続発酵が実施可能である。従って、目詰まりを抑えることにより安定した連続発酵が可能になることから、表面粗さは小さければ小さいほど好ましい。
また、多孔性膜の膜表面粗さを低くすることにより、微生物の濾過において、膜表面で発生する剪断力を低下させることが期待でき、微生物の破壊が抑制され、多孔性膜の目詰まりも抑制されることにより、長期間安定な濾過が可能になると考えられる。
ここで、膜表面粗さは、下記の原子間力顕微鏡装置(AFM)を使用して、下記の装置と条件で測定することができる。
・装置:原子間力顕微鏡装置(Digital Instruments(株)製Nanoscope IIIa)
・条件:探針 SiNカンチレバー(Digital Instruments(株)製)
:走査モード コンタクトモード(気中測定)
水中タッピングモード(水中測定)
:走査範囲 10μm、25μm 四方(気中測定)
5μm、10μm 四方(水中測定)
:走査解像度 512×512
・試料調製 測定に際し膜サンプルは、常温でエタノールに15分浸漬後、RO水中に24時間浸漬し洗浄した後、風乾し用いた。RO水とは、ろ過膜の一種である逆浸透膜(RO膜)を用いてろ過し、イオンや塩類などの不純物を排除した水を指す。RO膜の孔の大きさは、概ね2nm以下である。
膜表面粗さdroughは、上記AFMにより各ポイントのZ軸方向の高さから、下記の(式2)により算出する。
Figure 2009039074
本発明において、微生物を分離膜で濾過処理する際の膜間差圧は、微生物および培地成分が容易に目詰まりしない条件であればよいが、膜間差圧を0.1kPa以上20kPa以下の範囲にして濾過処理することが重要である。膜間差圧は好ましくは0.1kPa以上10kPa以下の範囲であり、さらに好ましくは0.1kPa以上5kPa以下の範囲である。上記の膜間差圧0.1kPa以上20kPa以下の範囲を外れた場合、微生物および培地成分の目詰まりが急速に発生し、透過水量の低下を招き、連続発酵運転に不具合を生じることがある。
濾過の駆動力としては、発酵培養液と多孔性膜処理水の液位差(水頭差)を利用したサイホンにより多孔性膜に膜間差圧を発生させることが可能である。また、濾過の駆動力として多孔性膜処理水側に吸引ポンプを設置してもよいし、多孔性膜の発酵培養液側に加圧ポンプを設置することも可能である。膜間差圧は、発酵培養液と多孔性膜処理水の液位差を変化させることにより制御することができる、また、膜間差圧を発生させるためにポンプを使用する場合には、吸引圧力により膜間差圧を制御することができ、更に発酵培養液側の圧力を導入する気体または液体の圧力によっても膜間差圧を制御することができる。これら圧力制御を行う場合には、発酵培養液側の圧力と多孔性膜処理水側の圧力差をもって膜間差圧とし、膜間差圧の制御に用いることができる。
また、本発明において使用される多孔性膜は、濾過処理する膜間差圧として、0.1kPa以上20kPa以下の範囲で濾過処理することができる性能を有するものであることが好ましい。また、本発明で使用される多孔性膜は、上述のように、使用前の純水透過係数が、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで透水量を測定し算出したとき、2×10−9/m/s/pa以上の範囲であることが好ましく、さらに2×10−9/m/s/pa以上6×10−7/m/s/pa以下の範囲にあることが好ましい。
本発明で使用される微生物の発酵原料としては、発酵培養する微生物の生育を促し、目的とする発酵生産物であるタンパク質を良好に生産させ得るものである。発酵原料としては、例えば、炭素源、窒素源、無機塩類、および必要に応じてアミノ酸、およびビタミンなどの有機微量栄養素を適宜含有する液体培地等が好ましく用いられる。
上記の炭素源としては、例えば、グルコース、シュークロース、フラクトース、ガラクトース、ラクトース、マルトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉糖化液、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ハイテストモラセス、サトウキビ搾汁、更には酢酸、フマル酸等の有機酸、エタノールなどのアルコール類、およびグリセリン等が使用される。ここで糖類とは、多価アルコールの最初の酸化生成物であり、アルデヒド基またはケトン基をひとつ持ち、アルデヒド基を持つ糖をアルドース、ケトン基を持つ糖をケトースと分類される炭水化物のことを指す。
また、上記の窒素源としては、例えば、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば、油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、カザミノ酸、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用される。
また、上記の無機塩類としては、例えば、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩およびマンガン塩等を適宜添加使用することができる。
本発明で使用される微生物が生育のために特定の栄養素を必要とする場合には、その栄養物を標品もしくはそれを含有する天然物として添加することができる。また、消泡剤も必要に応じて添加使用することができる。
本発明において、発酵培養液とは、発酵原料に微生物が増殖した結果得られる液のことを言い、追加する発酵原料の組成は、培養開始時の発酵原料組成から適宜変更しても良い。発酵原料組成から追加する発酵原料の組成に変更する場合、目的とするタンパク質の生産性が高くなるような変更が好ましい。例えば、上記炭素源に対する窒素源、無機塩類、アミノ酸およびビタミンなどの有機微量栄養素の重量比率を低下させることにより、タンパク質の生産コストの低減、すなわち広義でタンパク質の生産性の向上が実現できる場合もある。一方、上記炭素源に対する窒素源、無機塩類、アミノ酸およびビタミンなどの有機微量栄養素の重量比率を増加させることにより、タンパク質の生産性を向上させることができる場合もある。
タンパク質の分泌生産能力を有する微生物の発酵培養は、通常、pHが3〜9で温度が20〜70℃の範囲で行われることが多い。発酵培養液のpHは、無機の酸または有機の酸、アルカリ性物質、さらには尿素、炭酸カルシウムおよびアンモニアガスなどによって、上記範囲内のあらかじめ定められた値に調節される。
微生物の培養において、酸素の供給速度を上げる必要があれば、空気に酸素を加えて酸素濃度を例えば21%以上に保つ、発酵培養液を加圧する、攪拌速度を上げる、あるいは通気量を上げるなどの手段を用いることができる。逆に、酸素の供給速度を下げる必要があれば、炭酸ガス、窒素およびアルゴンなど酸素を含まないガスを空気に混合して供給することも可能である。
本発明においては、培養初期にBatch培養またはFed−Batch培養を行って微生物濃度を高くした後に連続培養(引き抜き)を開始しても良いし、高濃度の菌体をシードし、培養開始とともに連続培養を行っても良い。適当な時期から、発酵原料液の供給および培養物の引き抜きを行うことが可能である。発酵原料液供給と培養物の引き抜きの開始時期は、必ずしも同じである必要はない。また、発酵原料液の供給と培養物の引き抜きは連続的であってもよいし、間欠的であってもよい。発酵原料液には、上記に示したような菌体増殖に必要な栄養素を添加し、菌体増殖が連続的に行われるようにすればよい。
発酵培養液中の微生物の濃度は、効率よい生産性を得る上で、発酵培養液の環境が微生物の増殖にとって不適切となって死滅する比率が高くならない範囲で、高い状態で維持することが好ましい。一例として、濃度を乾燥重量として5g/L以上に維持することにより、より良好な生産効率が得られる。また、連続発酵装置の運転上の不具合や生産効率の低下を招かなければ、微生物の濃度の上限値は特に限定されない。
発酵生産能力のあるフレッシュな菌体を増殖させつつ行う連続培養操作は、培養管理上、通常、単一の発酵反応槽で行うことが好ましい。しかしながら、菌体を増殖しつつ生産物を生成する連続培養法であれば、発酵反応槽の数は問わない。発酵反応槽の容量が小さい等の理由から、複数の発酵反応槽を用いることもあり得る。この場合、複数の発酵反応槽を配管で並列または直列に接続して連続培養を行っても、発酵生産物の高生産性は得られる。
本発明においては、微生物を発酵反応槽に維持したままで、発酵反応槽からの発酵培養液の連続的かつ効率的な抜き出しが可能となることから、微生物を連続的に培養し、十分な増殖を確保した後に発酵原料液組成を変更し、目的とするタンパク質を効率よく製造することが可能である。
本発明により得られるタンパク質とは、微生物の細胞内でL−アミノ酸が酸アミド結合を介して多数連結してできた高分子化合物のことであり、タンパク質の分泌生産能力を有する微生物の発酵培養液の濾液から回収できるタンパク質である。本発明によって得られるタンパク質には、代謝などの化学反応を起こさせる触媒として働く酵素、コラーゲン、ケラチンなど生体構造を形成するタンパク質、タンパク質ホルモンや、受容体や細胞内あるいは細胞間シグナル伝達に関わる生体内の情報のやりとりに関与するタンパク質、抗原に対し特異的に結合することで免疫に重要な役割を果たす抗体タンパク質などが例示される。
また、分子量が小さいポリペプチドも、本発明のタンパク質の製造法で製造できるタンパク質に含まれる。中でも、本発明のタンパク質の製造法により、酵素、医薬用タンパク質および臨床検査・研究用試薬として用いられるタンパク質を好ましく製造することができる。更に好ましくは、デンプンやセルロースの糖化酵素、プロテアーゼやリパーゼを製造することができる。例えば、アミラーゼとは、膵液や唾液にも含まれる消化酵素のことであり、グリコシド結合を加水分解することによりデンプン中のアミロースやアミロペクチンを、グルコース、マルトースおよびオリゴ糖に変換する。アミラーゼには、α−アミラーゼ(EC3.2.1.1)、β−アミラーゼ(EC3.2.1.2)およびグルコアミラーゼ(EC3.2.1.3)がある。
α−アミラーゼは、別名を1,4−α−D−グルカングルカノヒドラーゼあるいはグリコゲナーゼといい、デンプンやグリコーゲンの1,4−α−結合を不規則に切断し、多糖ないしオリゴ糖を生み出す酵素である。また、β-アミラーゼは、別名を1,4−α−D−グルカングルカノマルトヒドラーゼ、グリコゲナーゼあるいはサッカロゲンアミラーゼといい、デンプンやグリコーゲンを麦芽糖に分解する。グルコアミラーゼは、正式名称をグルカン1,4−α−グルコシダーゼといい、1,4−α−D−グルカングルコヒドラーゼ、エキソ1,4−α−グルコシダーゼ、γ−アミラーゼ、リソソーマルα−グルコシダーゼあるいはアミログルコシダーゼを別名とする。糖鎖の非還元末端の1,4−α結合を分解してブドウ糖を産生する。例えば、セルラーゼとは、β−1,4−グルカン(例えば、セルロース)のグリコシド結合を加水分解する酵素のことであり、主に細菌や植物において作られ、生物界に広く存在する。植物細胞の細胞壁のみを分解し、植物細胞のプロトプラスト化する場合や、繊維の間の汚れを取るために、市販の洗剤に配合されたり、ジーンズ繊維の材質の改善などに使われている。分子内部から切断するエンドグルカナーゼ EC 3.2.1.4と、糖鎖の還元末端と非還元末端のいずれから分解し、セロビオースを遊離するエキソグルカナーゼ(セロビオヒドロラーゼ) EC 3.2.1.91にわけられる。
また、酵素タンパク質の構造から、ファミリーに分けられている。例えば、プロテアーゼは、ペプチド結合加水分解酵素の総称であり、広義のペプチダーゼのことで、タンパク質・ペプチド加水分解酵素のことである。例えば、リパーゼは、脂質を基質としてそのエステル結合を加水分解する酵素のことである。普通はそのうちで特にトリグリセリド(グリセロールの脂肪酸エステル)を分解して、脂肪酸を遊離するトリアシルグリセリドリパーゼ(EC.3.1.1.3)を指す。これは、消化液(胃液や膵液)に含まれ脂質の消化を行う消化酵素であり、多くの生物の細胞で脂質の代謝に関与する。これらのデンプンやセルロースの糖化酵素、プロテアーゼおよびリパーゼは、工業的に多量に使用されている。
本発明で使用される微生物は、タンパク質の分泌生産能力を有する微生物であり、このような微生物としては、発酵工業においてよく使用される大腸菌、コリネ型細菌および枯草菌などの原核微生物、またカビや酵母などの真核微生物などが挙げられる。使用される微生物は、自然環境から単離されたものでもよく、人為的に一部性質が改変されたものであってもよい。また、本発明で使用される微生物は、所望のタンパク質をコードする遺伝子が導入された遺伝子組換え微生物であってもよい。
本発明で使用される微生物は、タンパク質の分泌生産能力が高いものが好ましい。元来タンパク質の生産能力が高いものを自然界から分離してもよいし、人為的に分泌生産能力を高めた微生物であってもよい。分泌生産能力が高いと、発酵培養液の濾液に含まれる所望のタンパク質濃度を高めることができ、タンパク質の生産性が高くなることから、好ましく用いることができる。
本発明で使用される微生物に、外来の所望のタンパク質をコードする遺伝子を導入して発現させ分泌生産させても良い。ここで外来の所望のタンパク質をコードする遺伝子とは、本発明で使用される微生物が元来有していない遺伝子のことを指す。
また、タンパク質の生産効率を向上させるために、所望のタンパク質をコードする遺伝子を複数組導入した微生物も、本発明で使用される微生物に含まれる。更に、分泌生産効率を向上させるために、所望のタンパク質をコードする遺伝子を修飾することも可能である。具体的に修飾とは、分泌シグナルペプチドが所望のタンパク質に機能的に付加されるように遺伝子を修飾することである。分泌シグナルペプチドは、所望のタンパク質のアミノ末端に付加されることが望ましい。分泌シグナルペプチドが付加されることにより、分泌生産能力を向上させることができる。また、本発明においては、本発明で用いられる微生物のタンパク質分泌生産能力が高くなるような分泌シグナルペプチドを付加することが望ましい。また、本発明で使用される微生物細胞内で高発現するプロモータの支配下に所望のタンパク質をコードする遺伝子を連結することにより、タンパク質の生産性能を向上させることも可能である。
本発明のタンパク質の製造法で好ましく製造されるタンパク質は、デンプンやセルロースの糖化酵素、プロテアーゼならびにリパーゼである。本発明では、デンプンやセルロースの糖化酵素、プロテアーゼならびにリパーゼの生産能力が高い微生物を好ましく用いることができる。
次に、これらの内、デンプンの糖化酵素であるα−アミラーゼならびにグルコアミラーゼを生産するのに好ましく用いられる微生物について具体的に説明する。
デンプンの糖化酵素であるα−アミラーゼを分泌生産する微生物としては、原核微生物であればバチルス属(Genus Bacillus)に属する細菌を用いることができる。バチルス属に属する細菌は、好ましくは、バチルス・サチルス(Bacillus subtilis)、バチルス・アミロライケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・ライケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・ステアロサーモフィリス(Bacillus stearothermophilus)、バチルス・アシドカルダリウス(Bacillus acidocaldarius)である。
また、真核微生物であれば、カビと酵母を用いることができる。好ましくは、アスペルギルス属(Genus Aspergillus)、リゾパス属(Genus Rhizopus)およびムコール属(Genus Mucor)に属するカビである。
本発明のタンパク質の製造法で好ましく製造されるデンプンの糖化酵素であるグルコアミラーゼを分泌生産する微生物としては、原核微生物であればクロストリジウム属(Genus Clostridium)に属する細菌を用いることができる。また、真核微生物であれば、カビと酵母を用いることができる。好ましくは、アスペルギルス属(Genus Aspergillus)、リゾパス属(Genus Rhizopus)およびムコール属(Genus Mucor)に属するカビや、サッカロミセス属(Genus Saccharomyces)およびエンドムコプシス属(Genus Endomucopsis)に属する酵母を用いることができる。カビとして更に好ましくは、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、リゾパス・デレマ(Rhizopus delemar)およびリゾパス・ニヴェオス(Rhizopus niveous)が好ましく用いられる。
これらの微生物を選択して、タンパク質の生産に用いることが可能である。生産するタンパク質に関して、所望のタンパク質をコードする遺伝子を変異させて得られる変異型タンパク質も、本発明のタンパク質の製造法で製造できるタンパク質に含まれる。
また、発酵培養液の濾液からタンパク質を採取する方法は、公知の方法に従って行えばよく、例えば、エバポレーションや限外濾過膜などを用いてタンパク質を濃縮することができる。タンパク質の純度を高めたい場合には、硫酸アンモニウム等を用いた塩析によって、タンパク質純度を高めることができる。更に、採取するタンパク質の純度を高めたい場合には、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーおよびイオン交換クロマトグラフィーなどにより精製することができる。
本発明の連続発酵によるタンパク質の製造方法は、分離膜として平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の多孔性膜を使用し、濾過圧力である膜間差圧が0.1から20kPaの範囲で濾過処理することを特徴としている。そのため、特別に発酵反応槽内を加圧状態に保つ必要がないことから、濾過分離装置と発酵反応槽間で発酵培養液を循環させる動力手段が不要となる。分離膜エレメントは、発酵反応槽の外側に設置しても良いし、発酵反応槽内部に設置して発酵装置をコンパクト化することもできる。
まず、本発明の連続発酵によるタンパク質の製造方法で用いられる連続発酵装置のうち、分離膜エレメントが、発酵反応槽の外部に設置された代表的な一例を図1の概要図に示す。図1は、本発明で用いられる連続発酵装置の一つの実施の形態を説明するための概略側面図である。
図1において、連続発酵装置は、微生物を発酵培養させるための発酵反応槽1と、その発酵反応槽1に発酵培養液循環ポンプ11を介して接続され内部に分離膜エレメント2を備えた膜分離槽12と、発酵反応槽1の内の発酵培養液の量を制御するための水頭差制御装置3で基本的に構成されている。ここで、分離膜エレメント2には、多孔性膜が組み込まれている。この多孔性膜としては、例えば、国際公開第2002/064240号パンフレットに開示されている分離膜および分離膜エレメントを使用することが好適である。分離膜エレメントに関しては、追って詳述する。
図1において、培地供給ポンプ7によって培地を発酵反応槽1に投入し、必要に応じて、攪拌機5で発酵反応槽1内の発酵培養液を攪拌することができる。また必要に応じて、気体供給装置4によって必要とする気体を供給することができる。このとき、供給した気体を回収リサイクルして再び気体供給装置4で供給することができる。また、必要に応じて、pHセンサ・制御装置9およびよびpH調整溶液供給ポンプ8によって発酵培養液のpHを調整することができる。また必要に応じて、温度調節器10によって発酵培養液の温度を調節することにより、生産性の高い発酵生産を行うことができる。さらに、装置内の発酵培養液は、発酵培養液循環ポンプ11によって発酵反応槽1と膜分離槽12の間を循環する。発酵生産物を含む発酵培養液は、分離膜エレメント2によって微生物と発酵生産物に濾過・分離され、発酵生産物は装置系から取り出される。
ここでは、計装・制御装置による発酵培養液の物理化学的条件の調節に、pHおよび温度の調節を例示したが、必要に応じて、発酵培養液の溶存酸素や酸化還元電位(ORP)の制御を行うことができ、更には、オンラインケミカルセンサーなどの分析装置により発酵培養液中のタンパク質の濃度を測定し、それを指標とした物理化学的条件の制御を行うことができる。また、培地の連続的もしくは断続的投入の形態に関しては、上記計装装置による発酵培養液の物理化学的環境の測定値を指標として、培地投入量および速度を適宜調節することができる。
また、濾過・分離された微生物は、装置系内に留まることにより装置系内の微生物濃度を高く維持することができ、生産性の高い発酵生産を可能としている。ここで、分離膜エレメント2による濾過・分離は、膜分離槽12の水面との水頭差圧によって行なうことができ、特別な動力を必要としない。また、必要に応じて、レベルセンサ6および水頭差圧制御装置3によって、分離膜エレメント2の濾過・分離速度および装置系内の発酵培養液量を適当に調節することができる。また、必要に応じて、気体供給装置4によって必要とする気体を膜分離槽12内に供給することができる。
上記のように、分離膜エレメント2による濾過・分離は、水頭差圧によって行うことができるが、必要に応じて、ポンプや、液体や気体等による吸引濾過あるいは装置系内を加圧することにより濾過・分離することもできる。このような手段により、膜間差圧を調整制御することができる。
次に、本発明の連続発酵によるタンパク質の製造方法で用いられる連続発酵装置のうち、分離膜エレメントが発酵反応槽の内部に設置された代表的な一例を図2に示す。図2は、本発明で用いられる他の連続発酵装置の一つの実施の形態を説明するための概略側面図である。
図2において、連続発酵装置は、微生物を発酵培養させるための発酵反応槽1と、その発酵反応槽1の内の発酵培養液の量を制御するための水頭差制御装置3で基本的に構成されている。発酵反応槽1内には分離膜エレメント2が配設されており、その分離膜エレメント2には、多孔性膜が組み込まれている。この多孔性膜としては、例えば、国際公開第2002/064240号パンフレットに開示されている分離膜および分離膜エレメントを使用することができる。分離膜エレメントに関しては、追って詳述する。
次に、図2の連続発酵装置による連続発酵の形態について説明する。培地供給ポンプ7によって、培地を発酵反応槽1に連続的もしくは断続的に投入する。培地については、発酵反応槽1に投入する前に、必要に応じて加熱殺菌、加熱滅菌あるいはフィルターを用いた滅菌処理を行うことができる。発酵生産時には、必要に応じて、発酵反応槽1内の攪拌機5で発酵反応槽1内の発酵培養液を攪拌することができる。また必要に応じて、気体供給装置4によって必要とする気体を発酵反応槽1内に供給することができる。このとき、供給した気体を回収リサイクルして再び気体供給装置4によって供給することができる。また必要に応じて、pHセンサ・制御装置9およびpH調整溶液供給ポンプ8によって発酵反応槽1内の発酵培養液のpHを調整することができる。また必要に応じて、温度調節器10によって発酵反応槽1内の発酵培養液の温度を調節することにより生産性の高い発酵生産を行うことができる。
計装・制御装置による発酵培養液の物理化学的条件の調節には、図1の連続発酵装置と同様の調節を行うことができる。
発酵培養液は、発酵反応槽1内に設置された分離膜エレメント2によって、微生物と発酵生産物に濾過・分離され装置系から取り出される。また、濾過・分離された微生物は、装置系内に留まることにより装置系内の微生物濃度を高く維持することができ、生産性の高い発酵生産を可能としている。ここで、分離膜エレメント2による濾過・分離は発酵反応槽1の水面との水頭差圧によって行い、特別な動力を必要としない。また、必要に応じて、レベルセンサ6および水頭差圧制御装置3によって、分離膜エレメント2の濾過・分離速度およびよび発酵反応槽1内の発酵培養液量を適当に調節することができる。上記の分離膜エレメント2による濾過・分離は水頭差圧によって行うことができるが、必要に応じて、ポンプや、液体や気体等による吸引濾過あるいは装置系内を加圧することにより、濾過・分離することもできる。
本発明で用いられる分離膜エレメントの好適な形態の例である国際公開第2002/064240号パンフレットに開示されている分離膜および分離膜エレメントについて、次に図面を用いてその概略を説明する。図3は、本発明で用いられる分離膜エレメントの一つの実施の形態を説明するための概略斜視図である。
分離膜エレメントは、図3に示すように、剛性を有する支持板13の両面に、流路材14と前記の分離膜15をこの順序で配し構成されている。支持板13は、両面に凹部16を有している。分離膜15は、発酵培養液を濾過する。流路材14は、分離膜15で濾過された濾液を効率よく支持板13に流すためのものである。支持板13に流れた濾液は、支持板13の凹部16を通り、排出手段である集水パイプ17を介して連続発酵装置外部に取り出される。
図4は、本発明で用いられる別の分離膜エレメントの他の実施の形態を説明するための概略斜視図である。分離膜エレメントは、図4に示すように、中空糸膜(多孔性膜)で構成された分離膜束18と上部樹脂封止層19と下部樹脂封止層20によって主に構成されている。分離膜束18は、上部樹脂封止層19および下部樹脂封止層20よって束状に接着・固定化されている。下部樹脂封止層20による接着・固定化は、分離膜束18の中空糸膜(多孔性膜)の中空部を封止しており、培養液の漏出を防ぐ構造になっている。一方、上部樹脂封止層19は、分離膜束18の中空糸膜(多孔性膜)の内孔を封止しておらず、集水パイプ22に濾液が流れる構造となっている。この分離膜エレメントは、支持フレーム21を介して連続発酵装置内に設置することが可能である。分離膜束18によって濾過された発酵生産物を含む濾液は、中空糸膜の中空部を通り、集水パイプ22を介して連続発酵装置外部に取り出される。濾液を取り出すための動力として、水頭差圧、ポンプ、液体や気体等による吸引濾過、あるいは装置系内を加圧するなどの方法を用いることができる。
本発明のタンパク質の製造方法で用いられる連続発酵装置の分離膜エレメントを構成する部材は、高圧蒸気滅菌操作に耐性の部材であることが好ましい。連続発酵装置内が滅菌可能であれば、連続発酵時に好ましくない微生物による汚染の危険を回避することができ、より安定した連続発酵が可能となる。分離膜エレメントを構成する部材は、高圧蒸気滅菌操作の条件である、121℃で15分間に耐性であることが好ましい。分離膜エレメント部材には、例えば、ステンレスやアルミニウムなどの金属、ポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、PVDF、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂およびポリサルホン系樹脂等の樹脂を好ましく選定することができる。
本発明のタンパク質の製造方法で用いられる連続発酵装置では、分離膜エレメントは、図1のように発酵反応槽外に設置しても良いし、図2のように発酵反応槽内に設置しても良い。分離膜エレメントを発酵反応槽外に設置する場合には、別途、膜分離槽を設けてその内部に分離膜エレメントを設置することができ、発酵反応槽と膜分離槽の間を発酵培養液を循環させながら、分離膜エレメントにより発酵培養液を連続的に濾過することができる。
本発明のタンパク質の製造方法で用いられる連続発酵装置では、膜分離槽は、高圧蒸気滅菌可能であることが望ましい。膜分離槽が高圧蒸気滅菌可能であると、雑菌による汚染回避が容易である。
本発明の連続発酵によるタンパク質の製造方法に従って連続発酵を行った場合、従来のバッチ式の発酵と比較して、高い体積生産速度が得られ、極めて効率のよい発酵生産が可能となる。ここで、連続培養における発酵生産速度は、次の(式3)で計算される。
・発酵生産速度(g/L/hr)
=抜き取り液中の生産物濃度(g/L)×発酵培養液抜き取り速度(L/hr)
÷装置の運転液量(L) ・・・・(式3)
また、バッチ式培養による発酵生産速度は、原料炭素源をすべて消費した時点の生産物量(g)を、炭素源の消費に要した時間(h)とその時点の培養液量(L)で除して求められる。
但し、生産物であるタンパク質が酵素である場合には、生産物量を酵素単位(U)で表して評価することができる。尚、酵素単位は、それぞれのタンパク質の酵素活性を定義して用いることができる。
以下、本発明の連続発酵によるタンパク質の製造方法をさらに詳細に説明するために、図1および図2の概略図に示す装置を用いることによる、連続的なタンパク質の発酵生産について、実施例を挙げて説明する。本発明は、これらの実施例に限定されない。
下記の核酸の製造方法に関する実施例においては、タンパク質の例として、α−アミラーゼの発酵生産と、グルコアミラーゼの発酵生産の検討を行った。また、タンパク質を生産させる微生物の一例として、バチスル・サチルス(Bacillus subtilis)のうち、バチスル・サチルス(Bacillus subtilis)ATCC19221株(実施例1〜4、比較例1)、およびアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)のうちアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)NRRL330株(実施例5〜8、比較例2)を用いた。また、発酵原料である炭素源、窒素源および無機塩類など栄養源に関しては、下記の実施例で説明する培地を用いて実施した。
(参考例1)多孔性膜の作製
樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂を、また溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)をそれぞれ用い、これらを90℃の温度下に十分に攪拌し、次の組成を有する原液を得た。
[原液]
・PVDF:13.0重量%
・DMAc:87.0重量%
次に、上記の原液を25℃の温度に冷却した後、あらかじめガラス板上に貼り付けて置いた、密度が0.48g/cm3で、厚みが220μmのポリエステル繊維製不織布(多孔質基材)に塗布し、直ちに次の組成を有する25℃の温度の凝固浴中に5分間浸漬して、多孔質基材に多孔質樹脂層が形成された多孔性膜を得た。
[凝固浴]
・水 :30.0重量%
・DMAc:70.0重量%
この多孔性膜をガラス板から剥がした後、80℃の温度の熱水に3回浸漬してDMAcを洗い出し、分離膜を得た。得られた分離膜の多孔質樹脂層表面の9.2μm×10.4μmの範囲内を、倍率10,000倍で走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、観察できる細孔すべての直径の平均は0.1μmであった。次に、上記の分離膜について純水透水透過係数を評価したところ、50×10-93/m2/s/Paであった。純水透水量の測定は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで行った。また、平均細孔径の標準偏差は0.035μmで、膜表面粗さは0.06μmであった。
(参考例2)多孔性膜の作製(その2)
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマーとγ-ブチロラクトンとを、それぞれ38重量%と62重量%の割合で170℃の温度で溶解し、原液を作製した。この原液を、γ-ブチロラクトンを中空部形成液体として随拌させながら口金から吐出し、温度20℃のγ-ブチロラクトン80重量%水溶液からなる冷却浴中で固化して中空糸膜を作製した。
次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを14重量%、セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社、CAP482−0.5)を1重量%、N−メチル−2−ピロリドンを77重量%、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸ソルビタン(三洋化成株式会社製、商品名“イオネットT−20C”(登録商標))を5重量%、および水を3重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して、原液を調整した。この原液を、上記で得られた中空糸膜の表面に均一に塗布し、すぐに水浴中で凝固させて本発明で用いる中空糸膜(多孔性膜)を製作した。得られた中空糸膜(分離膜)の被処理水側表面の平均細孔径は、0.05μmであった。次に、上記の分離膜である中空糸膜について純水透水量を評価したところ、5.5×10-93/m2・s・Paであった。透水量の測定は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで行った。また、平均細孔径の標準偏差 は0.006μmであった。
(実施例1)α−アミラーゼの製造(その1)
図1に示す連続発酵装置を稼働させることにより、本発明によるところのタンパク質の一例であるα−アミラーゼが連続発酵で得られるかどうかを調べるため、同装置を用いた連続発酵試験を行った。タンパク質の分泌生産能力を有する微生物としてバチスル・サチルス(Bacillus subtilis)ATCC19221株を用いた。培地には表1に示す培地を用い、121℃の温度で15分間高圧蒸気滅菌処理して用いた。分離膜エレメント部材として、ステンレスおよびポリサルホン樹脂の成形品を用いた。分離膜には、参考例1で作成したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を主成分とする多孔性膜を用いた。該多孔性膜の平均細孔径は上記のとおり0.1μmであり、純水透過係数は50×10-9/m/s/paである。この実施例1における運転条件は、特に断らない限り下記のとおりである。
・ 発酵反応槽容量:1.5(L)
・ 膜分離槽容量:0.5(L)
・ 使用分離膜:PVDF濾過膜
・ 膜分離エレメント有効濾過面積:120平方cm
・ 温度調整:37(℃)
・ 発酵反応槽通気量:1.5(L/min)
・ 発酵反応槽攪拌速度:600(rpm)
・ 膜分離槽通気量:1.5(L/min)
・滅菌:分離膜エレメントを含む培養槽、および使用培地は総て121℃、20minの
オートクレーブにより高圧蒸気滅菌。
・pH調整:4N NaOHによりpH6.8に調整
・ 膜透過水量制御:膜分離槽水頭差により流量を制御(水頭差は2m以内で制御した。)。
Figure 2009039074
生産物であるα−アミラーゼ濃度の評価は、次のように行った。0.1mlの濾液に0.5%可溶性デンプンを含む0.05Mリン酸緩衝液(pH6.0)を0.2ml加え、40℃の温度で30分間保温した。この保温液から20ulを分取して、それに0.5mlの0.2Mヨウ素カリウム溶液に加え、700nmにおける吸光度を測定した。α−アミラーゼの酵素活性を1分間に0.1mgの可溶性デンプンを加水分解する活性を1酵素単位(U)として算出して、α−アミラーゼの生産量として評価した。
まず、ATCC19221株を、試験管で表1に示す5mlの前培養培地で一晩振とう培養した(前々々培養)。得られた培養液を新鮮な前培養培地100mlに植菌し、500ml容坂口フラスコで24時間、37℃の温度で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、図1に示す連続発酵装置の1.5Lの培地に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって600rpmで攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整と温度調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、培地の連続供給を行い、発酵培養液循環ポンプ11によって発酵反応槽1と膜分離槽12の間を発酵培養液の循環を行い、連続発酵装置の発酵培養液量が2Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵による生産されたα−アミラーゼの製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により、発酵反応槽水頭を最大2m以内、すなわち膜間差圧が20kPa以内となるように適宜水頭差を変化させることにより行った。適宜、濾液中の生産されたα−アミラーゼの生産量を測定した。生産されたα−アミラーゼ生産速度を、表2に示した。300時間の発酵試験を行った結果、図1に示した連続発酵装置を用いることにより、安定した生産されたα−アミラーゼの連続発酵による製造が可能であることを確認することができた。
(実施例2)α−アミラーゼの製造(その2)
実施例1と同様、図1に示す連続発酵装置を用いてα−アミラーゼの製造を行った。この実施例2では、分離膜に参考例2で作成した分離膜(中空糸膜)を用い、その他は実施例1と同様の条件でα−アミラーゼの製造を行った。生産されたα−アミラーゼ生産速度を、表2に示した。300時間の発酵試験を行った結果、図1に示した連続発酵装置を用いることにより、安定した生産されたα−アミラーゼの連続発酵による製造が可能であることを確認することができた。
(実施例3)α−アミラーゼの製造(その3)
図2に示す連続発酵装置を稼働させることにより、本発明によるところのタンパク質の一例であるα−アミラーゼが連続発酵で得られるかどうかを調べるため、同装置を用いた連続発酵試験を行った。タンパク質の分泌生産能力を有する微生物としてバチスル・サチルス(Bacillus subtilis)ATCC19221株を用いた。培地には表1に示す培地を用い、121℃の温度で15分間高圧蒸気滅菌処理して用いた。分離膜エレメント部材として、ステンレスおよびポリサルホン樹脂の成形品を用いた。分離膜には、参考例1で作成したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を主成分とする多孔性膜を用いた。該多孔質膜の平均細孔径は上記のとおり0.1μmであり、純水透過係数は50×10-9/m/s/paである。この実施例1における運転条件は、特に断らない限り下記のとおりである。
・ 発酵反応槽容量:1.5(L)
・ 使用分離膜:PVDF濾過膜
・ 膜分離エレメント有効濾過面積:120平方cm
・ 温度調整:37(℃)
・ 発酵反応槽通気量:1.5(L/min)
・ 発酵反応槽攪拌速度:600(rpm)
・ 滅菌:分離膜エレメントを含む培養槽、および使用培地は総て121℃、20minのオートクレーブにより高圧蒸気滅菌。
・pH調整:4N NaOHによりpH6.8に調整
・ 膜透過水量制御:膜分離槽水頭差により流量を制御(水頭差は2m以内で制御した。)。
生産物であるα−アミラーゼ濃度の評価は、実施例1に示した方法で評価した。
まず、ATCC19221株を、試験管で表1に示す5mlの前培養培地で一晩振とう培養した(前々々培養)。得られた培養液を新鮮な前培養培地100mlに植菌し、500ml容坂口フラスコで24時間、37℃の温度で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、図1に示す連続発酵装置の1.5Lの培地に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって600rpmで攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整と温度調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、培地の連続供給を行い、連続発酵装置の発酵培養液量が1.5Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵による生産されたα−アミラーゼの製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により、発酵反応槽水頭を最大2m以内、すなわち膜間差圧が20kPa以内となるように適宜水頭差を変化させることにより行った。適宜、濾液中の生産されたα−アミラーゼの生産量を測定した。生産されたα−アミラーゼ生産速度を、表2に示した。300時間の発酵試験を行った結果、図1に示した連続発酵装置を用いることにより、安定した生産されたα−アミラーゼの連続発酵による製造が可能であることを確認することができた。
(実施例4)α−アミラーゼの製造(その4)
実施例3と同様、図2に示す連続発酵装置を用いてα−アミラーゼの製造を行った。この実施例4では、分離膜に参考例2で作成した分離膜(中空糸膜)を用い、その他は実施例3と同様の条件でα−アミラーゼの製造を行った。生産されたα−アミラーゼ生産速度を、表2に示した。300時間の発酵試験を行った結果、図2に示した連続発酵装置を用いることにより、安定した生産されたα−アミラーゼの連続発酵による製造が可能であることを確認することができた。
(比較例1)α−アミラーゼの製造
微生物を用いた発酵形態として最も典型的なバッチ発酵を2L容のジャーファーメンターを用いて行い、α−アミラーゼの生産性を評価した。培地には表1に示す培地を用い、121℃の温度で15分間高圧蒸気滅菌処理して用いた。この比較例1では、微生物としてバチスル・サチルス(Bacillus subtilis)ATCC19221株を用い、生産物であるα−アミラーゼの評価は、実施例1に示した方法を用いて評価した。比較例1の運転条件は、次のとおりである。
・発酵反応槽容量(発酵培養液量):1.5(L)
・温度調整:37(℃)
・発酵反応槽通気量:1.5(L/min)
・発酵反応槽攪拌速度:600(rpm)
・pH調整:4N NaOHによりpH6.8に調整
まず、ATCC19221株を、試験管で表1に示す5mlの前培養培地で一晩振とう培養した(前々培養)。前々培養液を新鮮な前培養培地50mlに植菌し500ml容坂口フラスコで48時間振とう培養した(前培養)。前培養液をジャーファーメンターの1.5Lの表1に示す連続・バッチ発酵培地に植菌し、バッチ発酵を行った。バッチ発酵の結果を、上記実施例1〜4の連続発酵試験で得られたα−アミラーゼ生産性と比較して表2に示す。これらの結果から、本発明であるタンパク質の製造法を用いることで、高い容積生産性を維持しながら長時間連続安定してタンパク質を製造できることが明らかになった。
Figure 2009039074
(実施例5)グルコアミラーゼの製造(その1)
図1に示す連続発酵装置を稼働させることにより、本発明によるところのタンパク質の一例であるグルコアミラーゼが連続発酵で得られるかどうかを調べるため、同装置を用いた連続発酵試験を行った。タンパク質の分泌生産能力を有する微生物として、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)NRRL330株を用いた。培地には表3に示す培地を用い、121℃の温度で15分間高圧蒸気滅菌処理して用いた。分離膜エレメント部材として、ステンレスおよびポリサルホン樹脂の成形品を用いた。分離膜には、参考例1で作成したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を主成分とする多孔性膜を用いた。該多孔質膜の平均細孔径は上記のとおり0.1μmであり、純水透過係数は50×10-9/m/s/paでる。この実施例1における運転条件は、特に断らない限り下記のとおりである。
・ 発酵反応槽容量:1.5(L)
・ 膜分離槽容量:0.5(L)
・ 使用分離膜:PVDF濾過膜
・ 膜分離エレメント有効濾過面積:120平方cm
・ 温度調整:28(℃)
・ 発酵反応槽通気量:1(L/min)
・ 発酵反応槽攪拌速度:30(rpm)
・ 膜分離槽通気量:1(L/min)
・滅菌:分離膜エレメントを含む培養槽、および使用培地は総て121℃、20minの
オートクレーブにより高圧蒸気滅菌。
・pH調整:4N NaOHによりpH3に調整
・ 膜透過水量制御:膜分離槽水頭差により流量を制御(水頭差は2m以内で制御した。)。
Figure 2009039074
生産物であるグルコアミラーゼ濃度の評価は、バートンらの方法(ジャーナル・オブ・バクテリオロジー、第111巻、771−777頁、1972年発刊に記載)によって評価した。グルコアミラーゼの酵素活性を、可溶性デンプンを加水分解して1分間に1マイクロMのグルコースを生成する活性を1酵素単位(U)として算出して、グルコアミラーゼの生産量として評価した。
まず、ATCC21479株を、試験管で表3に示す5mlの前培養培地で一晩振とう培養した(前々々培養)。得られた培養液を新鮮な前培養培地100mlに植菌し、500ml容エーレンマイヤーフラスコで48時間、28℃の温度で旋回培養した(前々培養)。前々培養液を、図1に示す連続発酵装置の1.5Lの培地に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって30rpmで攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整と温度調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、培地の連続供給を行い、発酵培養液循環ポンプ11によって発酵反応槽1と膜分離槽12の間を発酵培養液の循環を行い、連続発酵装置の培養液量が2Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵による生産されたグルコアミラーゼの製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により、発酵反応槽水頭を最大2m以内、すなわち膜間差圧が20kPa以内となるように適宜水頭差を変化させることにより行った。適宜、濾液中の生産されたグルコアミラーゼの生産量を測定した。生産されたグルコアミラーゼ生産速度を、表4に示した。300時間の発酵試験を行った結果、図1に示した連続発酵装置を用いることにより、安定した生産されたグルコアミラーゼの連続発酵による製造が可能であることを確認することができた。
(実施例6)グルコアミラーゼの製造(その2)
実施例5と同様、図1に示す連続発酵装置を用いてグルコアミラーゼの製造を行った。この実施例6では、分離膜に参考例2で作成した分離膜(中空糸膜)を用い、その他は実施例5と同様の条件でグルコアミラーゼの製造を行った。生産されたグルコアミラーゼ生産速度を、表4に示した。300時間の発酵試験を行った結果、図2に示した連続発酵装置を用いることにより、安定した生産されたグルコアミラーゼの連続発酵による製造が可能であることを確認することができた。
(実施例7)グルコアミラーゼの製造(その3)
図2に示す連続発酵装置を稼働させることにより、本発明によるところのタンパク質の一例であるグルコアミラーゼが連続発酵で得られるかどうかを調べるため、同装置を用いた連続発酵試験を行った。タンパク質の分泌生産能力を有する微生物として、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)NRRL330株を用いた。培地には表3に示す培地を用い、121℃の温度で15分間高圧蒸気滅菌処理して用いた。分離膜エレメント部材として、ステンレスおよびポリサルホン樹脂の成形品を用いた。分離膜には、参考例1で作成したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を主成分とする多孔性膜を用いた。該多孔質膜の平均細孔径は上記のとおり0.1μmであり、純水透過係数は50×10-9/m/s/paでる。この実施例7における運転条件は、特に断らない限り下記のとおりである。
・ 発酵反応槽容量:1.5(L)
・ 使用分離膜:PVDF濾過膜
・ 膜分離エレメント有効濾過面積:120平方cm
・ 温度調整:28(℃)
・ 発酵反応槽通気量:1(L/min)
・ 発酵反応槽攪拌速度:30(rpm)
・ 滅菌:分離膜エレメントを含む培養槽、および使用培地は総て121℃、20minのオートクレーブにより高圧蒸気滅菌。
・pH調整:4N NaOHによりpH3に調整
・ 膜透過水量制御:膜分離槽水頭差により流量を制御(水頭差は2m以内で制御した。)。
生産物であるグルコアミラーゼ濃度の評価は、実施例5に示した方法で評価した。
まず、NRRL330株を、試験管で表3に示す5mlの前培養培地で一晩振とう培養した(前々々培養)。得られた培養液を新鮮な前培養培地100mlに植菌し、500ml容エーレンマイヤーフラスコで48時間、28℃の温度で旋回培養した(前々培養)。前々培養液を、図1に示す連続発酵装置の1.5Lの培地に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって50rpmで攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整と温度調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、培地の連続供給を行い、連続発酵装置の発酵培養液量が1.5Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵による生産されたグルコアミラーゼの製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により、発酵反応槽水頭を最大2m以内、すなわち膜間差圧が20kPa以内となるように適宜水頭差を変化させることにより行った。適宜、濾液中の生産されたグルコアミラーゼの生産量を測定した。生産されたグルコアミラーゼ生産速度を、表4に示した。300時間の発酵試験を行った結果、図2に示した連続発酵装置を用いることにより、安定した生産されたグルコアミラーゼの連続発酵による製造が可能であることを確認することができた。
(実施例8)グルコアミラーゼの製造(その4)
実施例7と同様、図2に示す連続発酵装置を用いてグルコアミラーゼの製造を行った。この実施例6では、分離膜に参考例2で作成した分離膜(中空糸膜)を用い、その他は実施例7と同様の条件でグルコアミラーゼの製造を行った。生産されたグルコアミラーゼ生産速度を、表4に示した。300時間の発酵試験を行った結果、図2に示した連続発酵装置を用いることにより、安定した生産されたグルコアミラーゼの連続発酵による製造が可能であることを確認することができた。
(比較例2)グルコアミラーゼの製造
微生物を用いた発酵形態として最も典型的なバッチ発酵を2L容のジャーファーメンターを用いて行い、グルコアミラーゼの生産性を評価した。培地には表3に示す培地を用い、121℃の温度で15分間高圧蒸気滅菌処理して用いた。この比較例2では、微生物としてアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)NRRL330株を用い、生産物であるグルコアミラーゼの評価は、実施例5に示した方法を用いて評価した。この比較例2の運転条件は、次のとおりである。
・発酵反応槽容量(発酵培養液量):1.5(L)
・温度調整:28(℃)
・発酵反応槽通気量:1(L/min)
・発酵反応槽攪拌速度:30(rpm)
・pH調整:4N NaOHによりpH3に調整
まず、NRRL330株を、試験管で表3に示す5mlの前培養培地で一晩振とう培養した(前々培養)。前々培養液を新鮮な前培養培地50mlに植菌し500ml容エーレンマイヤーフラスコで48時間振とう培養した(前培養)。前培養液をジャーファーメンターの1.5Lの表3に示す培地に植菌し、バッチ発酵を行った。バッチ発酵の結果を、上記実施例5〜8の連続発酵試験で得られたグルコアミラーゼ生産性と比較して表4に示す。
Figure 2009039074
これらの結果から、本発明の連続発酵によるタンパク質の製造法を用いることにより、高い容積生産性を維持しながら長時間連続安定してタンパク質を製造できることが明らかになった。
図1は、本発明で用いられる膜分離型の連続発酵装置の一つの実施の形態を説明するための概略側面図である。 図2は、本発明で用いられる他の膜分離型の連続発酵装置の一つの実施の形態を説明するための概略側面図である。 図3は、本発明で用いられる分離膜エレメントの一つの実施の形態を説明するための概略斜視図である。 図4は、本発明で用いられる他の分離膜エレメントの一つの実施の形態を説明するための概略斜視図である。
符号の説明
1 発酵反応槽
2 分離膜エレメント
3 水頭差制御装置
4 気体供給装置
5 攪拌機
6 レベルセンサ
7 培地供給ポンプ
8 pH調整溶液供給ポンプ
9 pHセンサ・制御装置
10 温度調節器
11 発酵培養液循環ポンプ
12 膜分離槽
13 支持板
14 流路材
15 分離膜
16 凹部
17 集水パイプ
18 分離膜束
19 上部樹脂封止層
20 下部樹脂封止層
21 支持フレーム
22 集水パイプ

Claims (9)

  1. タンパク質の分泌生産能力を有する微生物の発酵培養液を分離膜で濾過し、濾液から生産物であるタンパク質を回収するとともに未濾過液を前記の発酵培養液に保持または還流し、かつ、その微生物の発酵原料を前記の発酵培養液に追加する連続発酵によりタンパク質の製造方法であって、前記の分離膜として平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の細孔を有する多孔性膜を用い、その膜間差圧を0.1から20kPaの範囲にして濾過処理することを特徴とする連続発酵によるタンパク質の製造方法。
  2. 多孔性膜の純水透過係数が、2×10−9/m/s/pa以上6×10−7/m/s/pa以下である請求項1記載の連続発酵によるタンパク質の製造方法。
  3. 多孔性膜の平均細孔径が0.01μm以上0.2μm未満であり、かつ、該平均細孔径の標準偏差が0.1μm以下である請求項1または2記載の連続発酵によるタンパク質の製造方法。
  4. 多孔性膜の膜表面粗さが0.1μm以下である請求項1から3のいずれかに記載の連続発酵によるタンパク質の製造方法。
  5. 多孔性膜が多孔性樹脂層を含む多孔性膜である請求項1から4のいずれかに記載の連続発酵によるタンパク質の製造方法。
  6. 多孔性膜の素材がポリフッ化ビニリデン系樹脂である請求項1から5のいずれかに記載の連続発酵によるタンパク質の製造方法。
  7. 微生物の発酵原料が糖類を含む請求項1から6のいずれかに記載の連続発酵によるタンパク質の製造方法。
  8. タンパク質が酵素である請求項1から7のいずれかに記載の連続発酵によるタンパク質の製造方法。
  9. 酵素がα−アミラーゼ、またはグルコアミラーゼである請求項8記載の連続発酵によるタンパク質の製造方法。
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